【文献】
CRUZ, A.G. et al.,"Processing optimization of probiotic yogurt containing glucose oxidase using response surface methodology.",J. DAIRY SCI.,2010年11月,Vol.93, No.11,P.5059-5068
【文献】
HILLER, B. et al.,"Properties of set-style skim milk yoghurt as affected by an enzymatic or Maillard reaction induced milk protein oligomerisation.",LWT FOOD SCI. TECHNOL.,2011年 5月,Vol.44, No.4,pp. 811-819,Available online 16 December 2010
【文献】
OZER, B. et al.,"Effects of lactoperoxidase and hydrogen peroxide on rheological properties of yoghurt.",J. DAIRY RES.,2003年,Vol.70, No.2,P.227-232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スターターとして、ブルガリア菌(Lactobacillus blugaricus)とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)を併用することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
グルコースオキシダーゼを用いないで製造される発酵乳と比べて、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が抑制された発酵乳の製造方法である、請求項1又は2に記載する製造方法。
乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が離水発生、乳タンパク質及び/又は脂肪の粒子径の増大、及び発酵乳の組織のザラツキ発生からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3に記載する製造方法。
スターターとして、ブルガリア菌(Lactobacillus blugaricus)とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)を併用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が、離水発生、乳タンパク質及び/又は脂肪の粒子径の増大、及び発酵乳の組織のザラツキ発生からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、冷蔵保存中や流通中に生じる、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が抑制されてなる発酵乳、具体的には、離水の発生、乳タンパク質の粒子径の増大、又はそれに伴うザラツキの発生が抑制されてなる発酵乳の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、発酵乳について、乳タンパク質の凝集に伴う上記物性変化を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、発酵乳の製造工程において、グルコースオキシダーゼを添加し、その基質の存在下で作用させることにより、グルコースオキシダーゼを添加しない場合に比して、乳タンパク質の凝集に伴って生じる離水や乳タンパク質の粒子径の増大が有意に抑制されることを見出した。かかる方法は、現状の発酵乳の製造工程をそのまま利用しながら実施できる簡便な方法であり、しかも、発酵乳本来の風味を損なわず、発酵乳に求められる適度な物性と良好な風味を、より長く安定に維持できる方法であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明に関する。
【0009】
(I)物性が改良された発酵乳の製造方法
(I-1)(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程、
(2)発酵乳ミックスを加熱殺菌する工程、及び
(3)加熱殺菌した発酵乳ミックスにスターターを添加して発酵させる工程
を有する発酵乳の製造方法であって、
上記(1)〜(3)の工程において、下記の(A)〜(C)のいずれか少なくとも1の処理が行われることを特徴とする発酵乳の製造方法:
(A)(1)工程において、グルコースオキシダーゼの基質になり得る物質を含有する乳原料にグルコースオキシダーゼを添加して発酵乳ミックスを調製する処理、
(B)(3)工程の前に、加熱殺菌した発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理、
(C)(3)工程の後に、発酵乳にグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理。
【0010】
(I-2)スターターとして、ブルガリア菌(Lactobacillus blugaricus)とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)を併用することを特徴とする(I-1)記載の製造方法。
【0011】
(I-3)グルコースオキシダーゼを用いないで製造される発酵乳と比べて、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が抑制された発酵乳の製造方法である、(I-1)又は(I-2)に記載する製造方法。
【0012】
(I-4)乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が離水(水分の分離)発生、乳タンパク質(及び/又は脂肪)の粒子径の増大、及び発酵乳の組織のザラツキ発生からなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する製造方法。
【0013】
(I-5)発酵乳がヨーグルトである(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する製造方法。
【0014】
(I-6)(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する製造方法で得られる、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が抑制された発酵乳。
【0015】
(II)発酵乳の物性改良方法
(II-1)(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程、
(2)発酵乳ミックスを加熱殺菌する工程、及び
(3)加熱殺菌した発酵乳ミックスにスターターを添加して発酵させる工程
を有する方法で製造される発酵乳について、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化を抑制する方法であって、
上記(1)〜(3)の工程において、下記の(A)〜(C)のいずれか少なくとも1の処理を行うことを特徴とする上記方法:
(A)(1)工程において、グルコースオキシダーゼの基質になり得る物質を含有する乳原料にグルコースオキシダーゼを添加して発酵乳ミックスを調製する処理、
(B)(3)工程の前に、加熱殺菌した発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理、
(C)(3)工程の後に、発酵乳にグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理。
【0016】
(II-2)スターターとして、ブルガリア菌(Lactobacillus blugaricus)とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)を併用することを特徴とする(II-1)記載の方法。
【0017】
(II-3)グルコースオキシダーゼを用いないで製造される発酵乳と比べて、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化を抑制する方法である、(II-1)又は(II-2)に記載する方法。
【0018】
(II-4)乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が離水(水分の分離)発生、乳タンパク質(及び/又は脂肪)の粒子径の増大、及び発酵乳の組織のザラツキ発生からなる群から選択される少なくとも1つである、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する方法。
【0019】
(II-5)発酵乳がヨーグルトである(II-1)乃至(II-4)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、グルコースオキシダーゼを添加しない場合に比して、冷蔵保存中や流通中に生じる、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化、具体的には、離水の発生、乳タンパク質の粒子径の増大、又はそれに伴う組織のザラツキの発生が有意に抑制されてなる発酵乳を製造することができる。
【0021】
本発明の方法は、現状の発酵乳の製造工程をそのまま利用しながら実施できる簡便な方法であり、しかも、発酵乳本来の風味を損なわず、発酵乳に求められる適度な物性と良好な風味を、より長く安定に維持することができる方法である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
I.物性が改良された発酵乳の製造方法
本発明の発酵乳の製造方法は、少なくとも下記の(1)〜(3)の3工程:
(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程、
(2)発酵乳ミックスを加熱殺菌する工程、及び
(3)加熱殺菌した発酵乳ミックスにスターターを添加して発酵させる工程
を有する発酵乳の製造方法であって、
上記(1)〜(3)の工程において、下記の(A)〜(C):
(A)(1)工程において、グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を含有する乳原料にグルコースオキシダーゼを添加して発酵乳ミックスを調製する処理、
(B)(3)工程の前に、加熱殺菌した発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理、
(C)(3)工程の後に、発酵乳にグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理、
のいずれか少なくとも1つの処理が行われることを特徴とする製造方法である。
【0023】
本発明において「発酵乳」とは、乳等省令で定義されているように「乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む、乳酸菌または酵母で発酵させて、糊状または液状にしたものまたはこれを連結したもの」を意味し、ヨーグルト(無脂乳固形分が8%以上で、乳酸菌数または酵母数が1mlあたり1,000万以上含まれているもの:日本国厚生労働省令)、乳製品乳酸菌飲料(無脂乳固形分が8%未満で、乳酸菌数または酵母数が1mlあたり1,000万以上含まれているもの:日本国厚生労働省令)、及び乳酸菌飲料(無脂乳固形分が3%未満で、乳酸菌数または酵母数が1mlあたり1,000万以上含まれているもの:日本国厚生労働省令)が含まれるが、好ましくはヨーグルトである。
【0024】
ヨーグルトは、調製方法に応じて「前発酵タイプ」と「後発酵タイプ」の2つのタイプに分類される。前者の前発酵タイプのヨーグルトは、原料乳に発酵乳スターターを配合して調製した発酵ミックスをタンク内で発酵させた後、生成したカードを破砕して、必要に応じてゲル化剤ととともに個食容器に充填する方法で製造される。一方、後者の後発酵タイプのヨーグルトは、原料乳に発酵乳スターターを配合して発酵ミックスを調製し、この発酵ミックスを個別容器に充填して当該容器内で発酵させて製造される。本発明が対象とするヨーグルトには、これら「前発酵タイプ」と「後発酵タイプ」の2つのタイプのヨーグルトが含まれる。なお、個別容器内で発酵させて製造される「後発酵タイプ」の場合、(C)の操作、すなわち、(3)の発酵工程後に発酵乳にグルコースオキシダーゼなどを添加することができない。このため、「後発酵タイプ」のヨーグルトを製造する場合、本発明の製造方法は、上記(1)の工程において(A)の操作を行うか、又は(3)工程の前に(B)の操作を行って実施される。ただし、発酵後に個食容器に充填して製造される「前発酵タイプ」では、このような制限はなく、上記(1)の工程において(A)の操作を行うか、(3)工程の前に(B)の操作を行うか、または(3)工程の後に(C)の操作を行うか、いずれか少なくとも1の操作を行うことができる。
【0025】
以下、本発明の製造工程(1)〜(3)を順に説明する:
(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程
「乳原料」は、発酵乳の原料として使用される乳製品を意味し、例えば、生乳、殺菌処理した乳(殺菌乳)、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バター、バターミルク、クリーム、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)、及びホエー蛋白質単離物(WPI)などから、製造する発酵乳の種類に応じて、適宜選択することができる。これらは2種以上を組み合わせて用いることができ、例えば、ヨーグルトの場合、カロリーを低く抑えた状態で、無脂乳固形分を8%以上にするために、生乳及び/又は殺菌処理した乳(殺菌乳)や、脱脂乳及び/又は脱脂粉乳を組み合わせることもできる。
【0026】
「発酵乳ミックス」は、発酵乳の原料を混合した原料調製物であり、上記乳原料に、必要に応じて、水、砂糖を始めとする糖類や甘味料などの甘味付与剤、及び香料などを添加・配合し、必要に応じて、加温しながら溶解して調製される。また、必要に応じて、ゼラチン、寒天、カラギーナン、グアガム、低メトキシペクチン及び高メトキシペクチンなどの安定化剤(ゲル化剤)を配合することもできる。なお、発酵乳ミックスに配合する各原料の割合は、発酵乳の種類に応じて定められている無脂乳固形分の割合(ヨーグルト:8%以上、乳製品乳酸菌飲料:8%未満、乳酸菌飲料:3%未満)を満たしていればよく、その限りにおいて、特に制限されるものではない。例えば、乳原料として生乳(及び/又は殺菌乳など)と脱脂粉乳を用いる場合、生乳(及び/又は殺菌乳など)の配合割合として0重量%より多く100重量%以下、好ましくは0重量%より多く90重量%以下、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは40〜80重量%;脱脂粉乳の配合割合として0重量%より多く12重量%以下、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜8重量%、さらに好ましくは2〜6重量%を挙げることができる。
本発明の1態様である(1)工程において(A)処理を行う製造方法は、上記発酵乳ミックスの調製に際して、発酵乳の原料の一つとして、発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼを添加・配合することを特徴とする。
【0027】
このとき、発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質が含まれていない場合、グルコースオキシダーゼとともに、グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加・配合する。なお、発酵乳ミックスを加熱して調製した場合、これにグルコースオキシダーゼを添加すると、酵素が失活する恐れがある。このため、グルコースオキシダーゼを添加する際には、あらかじめ発酵乳ミックスを酵素が失活しない温度以下、好ましくは室温(25±5℃)以下、より好ましくは15℃以下まで冷ましておくことが好ましい。
【0028】
ここで、「グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質」とは、グルコースオキシダーゼの基質(グルコース)だけでなく、当該基質(グルコース)を生成するものをも意味する。グルコースを生成するものとして、特に制限されないが、具体的には、ラクターゼと乳糖の組み合わせなどのように、グルコースを生成する酵素とその基質の組み合わせを挙げることができる。
【0029】
グルコースオキシダーゼには、市販のグルコースオキシダーゼ製剤を用いることができる。市販のグルコースオキシダーゼ製剤として、例えば、新日本化学工業(株)、DKSHジャパン(株)、湘南和光純薬(株)、(株)ナガセ生化学工業、(株)協和エンザイム、ダニスコカルタージャパン(株)(いずれも日本国)などから販売されている酵素製剤を挙げることができる。
【0030】
例えば、乳原料の一部としてグルコースオキシダーゼとグルコースを用いる場合、発酵乳ミックスのグルコースオキシダーゼ(2000〜4000units/kg程度)の配合割合として0.1〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%、より好ましくは0.15〜0.3重量%、さらに好ましくは0.15〜0.2重量%;また、グルコースの配合割合として1〜5重量%、好ましくは1〜4重量%、より好ましくは1.5〜3重量%、さらに好ましくは1.5〜2.5重量%を挙げることができる。
【0031】
また、ラクターゼとして、市販のラクターゼ製剤を用いることができる。市販のラクターゼ製剤として、上記と同様に、例えば、新日本化学工業(株)、天野エンザイム(株)、大和化成(株)、ナガセケムテックス(株)、合同酒精(株)(いずれも日本国)などから販売されている酵素製剤を挙げることができる。
【0032】
例えば、乳原料の一部としてラクターゼと乳糖(ラクトース)を用いる場合、発酵乳ミックスのラクターゼ(4000〜6000units/kg程度)の配合割合として0.01〜0.1重量%、好ましくは0.02〜0.1重量%、より好ましくは0.03〜0.08重量%、さらに好ましくは0.03〜0.05重量%;また、乳糖の配合割合として2〜10重量%、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%、さらに好ましくは3〜5重量%を挙げることができる。
【0033】
ラクターゼが添加・配合された発酵乳ミックスは、温度として0〜40℃、好ましくは1〜30℃、より好ましくは3〜15℃、さらに好ましくは5〜10℃の条件で、予め静置(予備静置)してもよい。この静置時間は、特に制限されないが、通常では1.5時間以上、好ましくは1.5〜24時間、より好ましくは2〜16時間、さらに好ましくは2〜6時間、とくに好ましくは2〜4時間である。
【0034】
斯くして、グルコースオキシダーゼの基質となるグルコース、または当該グルコースを生成する酵素とその基質(例えば、ラクターゼとその基質である乳糖)のもと、グルコースオキシダーゼが添加・配合された発酵乳ミックスは、温度として0〜40℃、好ましくは1〜30℃、より好ましくは3〜15℃、さらに好ましくは5〜10℃の条件で静置される。この静置時間は、特に制限されないが、通常では1.5時間以上、好ましくは1.5〜24時間、より好ましくは2〜16時間、さらに好ましくは2〜6時間、とくに好ましくは2〜4時間である。なお、発酵乳ミックスに、グルコースを生成する酵素及びその基質とグルコースオキシダーゼとを略同時に添加する場合、かかる発酵乳ミックスは、前段落に記載する予備静置することなく、直ちに上記条件で静置することができる。
【0035】
(2)発酵乳ミックスを加熱殺菌する工程
(1)の工程で調製された発酵乳ミックス(なお、このミックスには(A)操作を経て調製されたもの、及び(A)操作を経ないで調製されたものの両方が含まれる)は、次いで加熱による殺菌処理に供される。
【0036】
加熱温度と加熱時間は、目的の殺菌ができる条件であれば特に制限されない。少なくとも、発酵乳ミックスそのものの温度が90℃以上、好ましくは95℃程度になる条件であればよく、例えば、発酵乳ミックスを90〜100℃にて1〜5分間で処理する方法や、90〜95℃にて1〜3分間で処理する方法などを、制限なく挙げることができる。
【0037】
本発明の別の1態様である(3)工程の前において(B)処理をする製造方法は、(2)工程において上記方法により加熱殺菌された発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼを添加・配合することを特徴とする。
【0038】
ここで対象とする発酵乳ミックスは、好ましくは(1)工程で(A)操作を経ないで調製されたものである。このとき、発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質が含まれていない場合、グルコースオキシダーゼとともに、グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加・配合する。なお、この場合、発酵乳ミックスが高温の状態で、グルコースオキシダーゼを添加すると、酵素が失活する恐れがある。このため、グルコースオキシダーゼを添加する際には、あらかじめ発酵乳ミックスを酵素が失活しない温度以下まで、好ましくは室温(25±5℃)以下、より好ましくは15℃以下まで冷ましておくことが好ましい。
【0039】
ここで「グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質」とは、前述する通りであり、グルコースオキシダーゼやラクターゼの使用量及び入手先、並びにグルコース(ブドウ糖)やラクトース(乳糖)の使用量なども前述する通りである。
【0040】
(3)加熱殺菌した発酵乳ミックスに発酵乳スターターを添加して発酵させる工程
(2)の工程で加熱殺菌された発酵乳ミックス(なお、このミックスには(A)操作を経て調製されたもの、(B)操作を経て調製されたもの、(A)と(B)のいずれの操作も経ないで調製されたものが含まれる)は、次いで発酵処理に供される。
【0041】
「スターター」は、発酵乳ミックスを発酵させるために接種する、乳酸菌や酵母などの種菌を意味する。本発明において「スターター」には、公知のスターターを適宜用いることができるが、好ましくは乳酸菌スターターである。乳酸菌スターターには、ラクトバルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)、ラクトバチルス・ラクティス(L.lactis)、ラクトバチルス・ガッセリ(L.gasseri)又はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の他、発酵乳の製造に一般的に用いられる乳酸菌の中から1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)の混合スターターをベースとする乳酸菌スターターを好適に用いることができる。この乳酸菌スターターをベースとして、目的とする発酵乳の発酵温度や発酵条件を勘案した上で、さらにラクトバチルス・ガッセリ(L.gasseri)やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)などの他の乳酸菌を加えてもよい。
【0042】
スターターの添加量は、公知の発酵乳の製造方法において採用されている添加量に従って、適宜設定することができる。また、スターターの接種方法も、特に制限されることなく、発酵乳の製造で慣用されている方法を適宜用いることができる。
【0043】
発酵処理の条件は、発酵乳の種類や所望の風味、使用するスターターの種類などを考慮して、適宜設定することができる。例えば、発酵室内の温度(発酵温度)を30〜50℃の範囲に維持し、その発酵室内で静置しながら発酵させる方法を挙げることができる。かかる温度条件であれば、一般に乳酸菌が活動しやすいため、効果的に発酵を進めることができる。発酵温度は、通常では30〜50℃程度、好ましくは35〜45℃の範囲、より好ましくは37〜43℃の範囲を挙げることができる。
【0044】
発酵時間は、発酵乳ミックスの乳酸酸度が所定の割合に到達することを目安に、適宜設定調整することができる。かかる乳酸酸度は、例えば「前発酵タイプ」のヨーグルトの場合、1.5〜2%程度であり、「後発酵タイプ」のヨーグルトの場合、0.7〜0.8%程度である。発酵時間は、通常では1時間以上12時間以内程度、好ましくは2時間以上5時間以内程度、より好ましくは3時間以上4時間以内程度である。
【0045】
「前発酵タイプ」のヨーグルトの場合、乳酸酸度が1.5〜2%程度、また「後発酵タイプ」のヨーグルトの場合、乳酸酸度が0.7〜0.8%程度に達した時点で、例えば15℃以下、好ましくは0〜10℃、より好ましくは3〜7℃に冷却し、発酵を停止する。
【0046】
なお、「前発酵タイプ」のヨーグルトの場合、当該(3)工程の後において(C)操作をすることが可能である。すなわち、あらかじめ調製された発酵乳にグルコースオキシダーゼを添加・配合することができる。当該(C)操作を含有する製造方法は、本発明の製造方法の1態様である。なお、ここで対象とする発酵乳ミックスは、好ましくは(1)工程に(A)操作を経ず、また、(3)工程前にも(B)操作を経ないで調製されたものである。
【0047】
このとき、あらかじめ調製された発酵乳にグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質が含まれていない場合、グルコースオキシダーゼとともに、グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加・配合する。ここで、「グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質」とは、前述する通りであり、グルコースオキシダーゼやラクターゼの使用量及び入手先、並びにグルコースや乳糖の使用量なども前述する通りである。
【0048】
以上で説明した(1)〜(3)工程を経て、本発明が対象とする発酵乳を製造することができる。なお、発酵乳が「前発酵タイプ」のヨーグルトである場合、(3)の培養工程は、タンクを用いて行われる(タンク培養)。タンク培養の後には、発酵して凝固したカードを撹拌して砕き、必要に応じて、殺菌、冷却、乳化、及びエージングした後、小売容器に充填されて、発酵乳の製品として調製される。一方、発酵乳が「後発酵タイプ」のヨーグルトである場合、(3)の培養工程の前に、発酵乳ミックスは小売容器に充填されて、(3)の培養工程は、当該容器内で行われる(容器内培養)。容器内培養の後には、冷却(冷蔵)されて、発酵乳の製品として調製される。
【0049】
II.発酵乳の物性改良方法
本発明の発酵乳の物性改良方法は、少なくとも下記の(1)〜(3)の3工程:
(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程、
(2)発酵乳ミックスを加熱殺菌する工程、及び
(3)加熱殺菌した発酵乳ミックスにスターターを添加して発酵させる工程
を有する方法で製造される発酵乳製品について、乳タンパク質凝集に伴う物性変化を抑制する方法であって、
上記(1)〜(3)の工程において、下記の(A)〜(C)のいずれか少なくとも1つの処理を行うことを特徴とする方法である:
(A)(1)工程において、グルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を含有する乳原料にグルコースオキシダーゼを添加して発酵乳ミックスを調製する処理、
(B)(3)工程の前に、加熱殺菌した発酵乳ミックスにグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理、
(C)(3)工程の後に、発酵乳にグルコースオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼの基質となり得る物質を添加する処理。
【0050】
上記本発明の方法において、各工程及び各操作で行う処理やその条件、並びに各工程及び各操作で用いる材料は、いずれも「I.物性が改良された発酵乳製品の製造方法」で説明したものを同様に用いることができる。
【0051】
このようにして製造乃至処理された発酵乳は、後述する実施例で示すように(A)〜(C)操作をいずれも経ないで製造された発酵乳、すなわち、グルコースオキシダーゼを用いないで製造された発酵乳(以下「対照の発酵乳」という)と比べて、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化が有意に抑制されている。ここで、乳タンパク質の凝集に伴う物性変化として、離水の発生、乳タンパク質の粒子径の増大、及び発酵乳の組織のザラツキの発生から選択される少なくとも1つを挙げることができる。なお、発酵乳の組織のザラツキは、特に拘束されないが、乳タンパク質の粒子径の増大によって生じる現象であると考えられる。当該物性変化は、いずれの発酵乳とも、その保存により経時的に増大(増悪)するが、本発明の発酵乳は、対照の発酵乳に比して、当該経時的な増大(物性変化)もまた有意に抑制されている。このため、本発明の方法は、発酵乳の品質(外観と食感)を良好な状態に、できるだけ長く、少なくとも賞味期限中、維持する上で有用である。ヨーグルトの賞味期限を勘案すると、発酵乳の品質を良好な状態に維持する期間として、製造から10日程度、好ましくは12日以上、より好ましくは14日以上を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実験例及び実施例を用いて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、これらによって限定されるものではなく、公知の手法に基づく様々な改良を加えることができるものである。
【0053】
実験例1
(1−1)発酵乳の製造
表1に記載する処方に従って、4種類の発酵乳1〜4を調製した。
【0054】
【表1】
【0055】
具体的には、表1に記載する乳原料(脂肪分:3.0重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)、原料水、発酵乳3及び4については、さらにグルコースを配合し、60℃に加温しながら撹拌して溶解した。これを5℃まで冷却した後、発酵乳2及び4については表1に記載する処方に従って、ラクターゼ及び/又はグルコースオキシダーゼを添加・配合した。斯くして調製した発酵乳ミックスを、約5℃の条件下に14時間程度で静置し、その後、発酵乳ミックスが95℃に達するまで加熱殺菌した。これを約40℃前後(43℃程度)まで冷却し、乳酸菌スターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059の混合スターター)を2重量%で接種した。これを小売容器に充填し、これを約40℃前後(43℃程度)に設定した培養室にて静置培養し、乳酸酸度が0.72%になった時点で、約5℃の冷蔵庫に入れ、冷却して発酵を停止させた。
【0056】
なお、本発明において、ブルガリア菌 OLL1073R-1(Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1073R-1)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受領番号:FERM P-17227(識別のための表示: Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1073R-1、寄託日(受領日):平成 11年 2月19日)で寄託されているものである。
【0057】
また、本発明において、サーモフィルス菌 OLS3059(Streptococcus thermophilus OLS3059)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受領番号:FERM P-15487(識別のための表示: Streptococcus thermophilus OLS3059、寄託日(受領日):平成8年 2月 29日)で寄託されているものである。
【0058】
(1−2)各発酵乳の評価
斯くして製造した発酵乳1〜4について、それぞれ約5℃の条件下に16日間で静置保存し、下記の方法に従って、離水率(%)、乳タンパク質の粒子径(μm)、酸度(%)、pH(20℃)、カードテンション(g)、粘度(Pa・s)を経時的(製造の当初(1日目)、製造から8日目及び16日目)に測定した。
(a)発酵乳の離水率の測定
発酵乳(10℃)の40gを、遠心沈降管(内径:20mm)に充填し、遠心分離機に供した(約180G [回転半径:160mm、回転数:1000rpm]、処理時間:10分間)。次いで、上清の重量を測定し、発酵乳の全量(40g)に対する上清の重量の割合(%)を離水率とした。
(b)発酵乳の粒子径の測定
発酵乳に混在する凝固粒子の粒子径(μm)を、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所:SALD−2000)を用いて測定した。
(c)発酵乳の酸度(乳酸酸度)の測定
発酵乳にフェノールフタレインを指示薬として添加してから、水酸化ナトリウム(0.1規定)を滴定剤として用いて測定した。
(d)発酵乳の硬度(カードテンション、CT)の測定
発酵乳の硬度(g)を、ネオカードメーターM302(アイテクノエンジニアリング:旧・飯尾電機)を用いて測定した。このカードメーターでは、例えば、発酵乳(10℃)の100gを小型容器に充填し、ヨーグルトナイフ(直径が約20mmの円盤)を侵入させることで、硬度(カードテンション)や滑らかさなどを評価できる。
(e)発酵乳の粘度の測定
発酵乳の粘度を、回転式B型粘度計(東機産業:TV−10M)を用いて測定した。この粘度計では、例えば、発酵乳(10℃)の100gを小型容器に充填し、No.4ローター(コードM23)を侵入・回転(30rpm、30秒間)させることで、粘度を評価できる。
【0059】
この測定結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
そして、専門パネラーの5名で官能検査(風味評価)を実施した。この検査結果(評価結果)を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
この結果から分かるように、発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼとその基質であるグルコースを添加して製造した「発酵乳4」、及び発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼと、乳原料に含まれる乳糖に作用して、グルコースを生成するラクターゼを添加して製造した「発酵乳2」は、いずれもグルコースオキダーゼを添加しないで製造した「発酵乳1」及び「発酵乳3」と比べて、製造の当初の離水率が低く、粒子径が小さいとともに、その経時的な増大(離水増加率、粒子径増加率)も有意に低く抑制されることが確認された。
【0064】
このことから、発酵乳の製造工程において、グルコースの存在下でグルコースオキダーゼを作用させることで、乳タンパク質の凝集によって生じる物性変化、具体的には、離水の発生・進行、及び乳タンパク質の凝集の発生・進行が有意に抑制されることが確認された。
【0065】
なお、乳タンパク質が凝集すると、口腔内でのザラツキの原因となる。従って、本発明の方法によれば、乳タンパク質の凝集の発生・進行が有意に抑制されることから、同時に、口腔内でのザラツキをもたらす発酵乳の組織のザラツキの発生・進行をも抑制することができる。
【0066】
実験例2
(2−1)発酵乳の製造
表4に記載する処方に従って、3種類の発酵乳5〜7を調製した。
【0067】
【表4】
【0068】
具体的には、表4に記載する乳原料(脂肪分:4.0重量%、無脂乳固形分:8.8重量%)、原料水、発酵乳6については、さらにラクターゼを添加・配合し、発酵乳7については、ラクターゼ及びグルコースオキシダーゼを添加・配合した。乳酸菌スターターに「明治ヨーグルトR−1」(明治乳業(株)製)から分離した混合スターターを使用した以外は、実施例1と同様にして発酵乳を調製した。このとき、発酵工程において、約3時間後の酸度は、発酵乳5で0.62%、発酵乳6で0.59%、発酵乳7で0.59%であり、約3.5時間後の酸度は、発酵乳5で0.74%、発酵乳6で0.74%、発酵乳7で0.74%であった。すなわち、ラクターゼやグルコースオキシダーゼなどを添加・配合しても、発酵工程(発酵時間など)への影響は見られなかった。
【0069】
(2−2)各発酵乳の評価
斯くして製造した発酵乳5〜7について、実験例1と同様にして、離水率(%)、乳タンパク質の粒子径(μm)、酸度(%)、pH(20℃)、硬度(カードテンション)(g)、粘度(Pa・s)を経時的に測定した。この測定結果を表5に示す。そして、実験例1と同様にして官能検査を実施した。この検査結果を表6に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
この結果から分かるように、発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼと、乳原料に含まれる乳糖に作用してグルコースを生成するラクターゼを添加して製造した「発酵乳7」は、グルコースオキダーゼを添加しないで製造した「発酵乳5」及び「発酵乳6」よりも、製造の当初の離水率が低く、粒子径が小さいとともに、その経時的な増大(離水増加率、粒子径増加率)も有意に低く抑制されることが確認された。
【0073】
実験例3
(3−1)発酵乳の製造
表7に記載する処方に従って、4種類の発酵乳8〜11を調製した。
【0074】
【表7】
【0075】
具体的には、表7に記載する乳原料(脂肪分:3.0重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)、原料水、発酵乳9及び11については、さらにグルコースオキシダーゼ及びラクターゼを添加・配合した。乳酸菌スターターに「明治ブルガリアヨーグルト」(明治乳業(株)製)のプレーンタイプ又はソフトタイプからそれぞれ分離した混合スターターを使用した以外は、実験例1と同様にして発酵乳を調製した。このとき、発酵工程において、約3時間後の酸度は、発酵乳8で0.62%、発酵乳9で0.64%、発酵乳10で0.62%、発酵乳11で0.57%であり、約3.5時間後の酸度は、発酵乳8で0.71%、発酵乳9で0.72%、発酵乳10で0.69%、約3.75時間後の酸度は、発酵乳11で0.66%であった。
【0076】
(3−2)各発酵乳の評価
斯くして製造した発酵乳8〜11について、実験例1と同様にして、離水率(%)、乳タンパク質の粒子径(μm)、酸度(%)、pH(20℃)、硬度(カードテンション)(g)、粘度(Pa・s)を経時的に測定した。この測定結果を表8に示す。そして、実験例1と同様にして官能検査を実施した。この検査結果を表9に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
この結果から分かるように、発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼと、乳原料に含まれる乳糖に作用してグルコースを生成するラクターゼを添加して製造した「発酵乳9」及び「発酵乳11」は、グルコースオキダーゼを添加しないで製造した「発酵乳8」及び「発酵乳10」と比べて、製造の当初の離水率が低く、粒子径が小さいとともに、その経時的な増大(離水増加率、粒子径増加率)も有意に低く抑制されることが確認された。
【0080】
実験例4
(4−1)発酵乳の製造
表10に記載する処方に従って、2種類の発酵乳12〜13を調製した。
【0081】
【表10】
【0082】
具体的には、表10に記載する乳原料(脂肪分:4.0重量%、無脂乳固形分:8.8重量%)、原料水、発酵乳12については、さらにラクターゼを添加・配合し、発酵乳13については、ラクターゼに加えて、さらにグルコースオキシダーゼを添加・配合した。斯くして調製した発酵乳ミックスを、約5℃の条件下に15時間程度で静置し、その後、発酵乳ミックスが95℃に達するまで加熱殺菌した。これを約40℃前後(43℃程度)まで冷却し、乳酸菌スターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059の混合スターター)を2重量%で接種した。これを小売容器に充填し、これを約40℃前後(43℃程度)に設定した培養室にて静置培養し、乳酸酸度が0.72%になった時点で、薬サジでヨーグルトカードを破壊してから、約5℃の冷蔵庫に入れ、冷却して発酵を停止させた。
【0083】
(4−2)各発酵乳の評価
斯くして製造した発酵乳12〜13について、実験例1と同様にして、離水率(%)、乳タンパク質の粒子径(μm)、酸度(%)、pH(20℃)、粘度(Pa・s)を経時的に測定した。なお、ここでは、ソフトタイプを想定し、ヨーグルトカードを破壊しているため、硬度を測定していない。この測定結果を表11に示す。そして、実験例1と同様にして官能検査を実施した。この検査結果を表12に示す。
【0084】
【表11】
【0085】
【表12】
【0086】
この結果から分かるように、発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼと、乳原料に含まれる乳糖に作用してグルコースを生成するラクターゼを添加して製造した「発酵乳13」は、いずれもグルコースオキダーゼを添加しないで製造した「発酵乳12」と比べて、粒子径が小さく、また製造当初の離水率も低いことが確認された。
【0087】
実験例5
(5−1)発酵乳の製造
表13に記載する処方に従って、3種類の発酵乳14〜16を調製した。
【0088】
【表13】
【0089】
具体的には、表13に記載する乳原料(脂肪分:4.0重量%、無脂乳固形分:8.8重量%)、原料水、発酵乳14については、さらにラクターゼを添加・配合し、発酵乳15及び16については、さらにラクターゼ及びグルコースオキシダーゼを添加・配合した。斯くして調製した発酵乳ミックスを、約5℃の条件下に15時間程度で静置し、その後、発酵乳ミックスが95℃に達するまで加熱殺菌した。これを約40℃前後(43℃程度)まで冷却し、乳酸菌スターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059の混合スターター)を2重量%で接種した。これを小売容器に充填し、これを約40℃前後(43℃程度)に設定した培養室にて静置培養し、乳酸酸度が0.72%になった時点で、約5℃の冷蔵庫に入れ、冷却して発酵を停止させた。
【0090】
一方、これを5℃まで冷却した後、発酵乳16については表13に記載する処方に従って、最初の時点において、ラクターゼのみを添加・配合した。斯くして調製した発酵乳ミックスを、約5℃の条件下に15時間程度で静置し、その後、発酵乳ミックスが95℃に達するまで加熱殺菌した。これを約40℃前後(43℃程度)まで冷却し、表13に記載する処方に従って、グルコースオキシダーゼを添加・配合すると共に、乳酸菌スターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059の混合スターター)を2重量%で接種した。これを小売容器に充填し、これを約40℃前後(43℃程度)に設定した培養室にて静置培養し、乳酸酸度が0.72%になった時点で、約5℃の冷蔵庫に入れ、冷却して発酵を停止させた。
【0091】
(5−2)各発酵乳の評価
斯くして製造した発酵乳14〜16について、実験例1と同様にして、離水率(%)、乳タンパク質の粒子径(μm)、酸度(%)、pH(20℃)、硬度(カードテンション)(g)、粘度(Pa・s)を経時的に測定した。この測定結果を表14に示す。そして、実験例1と同様にして官能検査を実施した。この検査結果を表15に示す。
【0092】
【表14】
【0093】
【表15】
【0094】
この結果から分かるように、発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼと、乳原料に含まれる乳糖に作用してグルコースを生成するラクターゼを添加して製造した「発酵乳15」及び「発酵乳16」は、グルコースオキダーゼを添加しないで製造した「発酵乳14」と比べて、製造の当初の離水率が低く、粒子径が小さいとともに、その経時的な増大(離水増加率、粒子径増加率)も有意に低く抑制されることが確認された。
【0095】
実験例6
(6−1)発酵乳の製造
表16に記載する処方に従って、3種類の発酵乳17〜19を調製した。
【0096】
【表16】
【0097】
具体的には、表16に記載する乳原料(脂肪分:4.0重量%、無脂乳固形分:8.8重量%)、原料水、さらにラクターゼ及びグルコースオキシダーゼを添加・配合した。斯くして調製した発酵乳ミックスを、約5℃の条件下に所定時間(2時間、6時間、16時間程度)で静置し、その後、発酵乳ミックスが95℃に達するまで加熱殺菌した。これを約40℃前後(43℃程度)まで冷却し、乳酸菌スターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059の混合スターター)を2重量%で接種した。これを小売容器に充填し、これを約40℃前後(43℃程度)に設定した培養室にて静置培養し、乳酸酸度が0.72%になった時点で、約5℃の冷蔵庫に入れ、冷却して発酵を停止させた。このとき、発酵工程において、約4時間後の酸度は、発酵乳17で0.72%、発酵乳18で0.70%、発酵乳19で0.71%であった。すなわち、ラクターゼやグルコースオキシダーゼなどを添加・配合しても、これらの酵素反応時間を所定時間内で変化させても、発酵工程(発酵時間など)への影響は見られなかった。
【0098】
(6−2)各発酵乳の評価
斯くして製造した発酵乳17〜19について、実験例1と同様にして、離水率(%)、乳タンパク質の粒子径(μm)、酸度(%)、pH(20℃)、硬度(カードテンション)(g)、粘度(Pa・s)を経時的に測定した。この測定結果を表14に示す。そして、実験例1と同様にして官能検査を実施した。この検査結果を表15に示す。
【0099】
【表17】
【0100】
【表18】
【0101】
この結果から分かるように、発酵乳ミックスにグルコースオキダーゼと、乳原料に含まれる乳糖に作用してグルコースを生成するラクターゼを添加して製造した「発酵乳17」乃至「発酵乳19」は、いずれの酵素反応時間(2時間、6時間、16時間程度)を設定した場合でも、製造の当初の離水率が低く、粒子径が小さいとともに、その経時的な増大(離水増加率、粒子径増加率)も有意に低く抑制されることが確認された。