特許第5996412号(P5996412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5996412ビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996412
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】ビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/54 20060101AFI20160908BHJP
   C07C 67/10 20060101ALI20160908BHJP
   C08G 65/32 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C07C69/54 ZCSP
   C07C67/10
   C08G65/32
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-274474(P2012-274474)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-118382(P2014-118382A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(72)【発明者】
【氏名】川辺 正直
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−237755(JP,A)
【文献】 Lee, Kyung Min; Wycisk, Ryszard; Litt, Morton; Pintauro, Peter N.,Alkaline fuel cell membranes from xylylene block ionenes,Journal of Membrane Science,2011年,383(1-2),254-261
【文献】 Supramolecular Chemistry,2001年,13(2),313-323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/10
C07C 69/54
C08G 65/32
C07C 43/225
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で表されることを特徴とするビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物。
【化1】

(式中、Ar1は炭素数6〜50の芳香族炭化水素基を表し、Yは水素またはメチル基を表し、nは1〜10の数を表し、R1及びR2は独立に炭素数1〜50の炭化水素基を表す。p、qは独立に0〜2の整数を表す。)
【請求項2】
下記式(1)で表される芳香族ビスハロメチル化合物と、下記式(4)で表される(メタ)アクリル系化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載のビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物の製造方法。
【化2】

(式中、Ar1は炭素数6〜50の芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン元素を表し、nは1〜10の数を表し、R1及びR2は独立に炭素数1〜50の炭化水素基を表す。p、qは独立に0〜2の整数を表す。)
【化3】

(式中、Yは水素またはメチル基を表し、Zは水素、アルカリ金属、または(メタ)アクリロイル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物、及びその製造方法とその中間体としての芳香族ビスハロメチル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化が進むにつれ、電子素子の高集積化を行うためにプリント配線の多層化が進み、絶縁層と導体層を交互に形成、積層する所謂ビルドアップ工法が多く採用されるようになった。そして、ここで使用される樹脂絶縁材料には、情報の高速処理化、信号の高周波化による熱損失の低減のため、低誘電率であることが要求されるようになってきている。
【0003】
光又は熱硬化性樹脂組成物としては、特開平6−1938号公報等で知られているが、これらは誘電率が満足できる程度には低くならない。一方、低誘電率を達成する手法として、特開2000−208889号公報や特開2001−126534号公報のように、フィラーを充填する方法や、空孔を持たせるといった技術が知られているが、いずれもパッケージの層間絶縁膜といった用途には、信頼性に劣るといった欠点がある。さらに、特開2004−300326号公報には、特定の不飽和化合物(A)に対して、光重合性の(メタ)アクリレート類(B)、エポキシ基を有する化合物(C)、及び光重合開始剤又は増感剤(D)を含有する光又は熱硬化性樹脂組成物において、硬化後において樹脂として存在することとなる樹脂分100g当たり、メタクリロイル基を50mmol以上含む光又は熱硬化性樹脂組成物が開示されており、低誘電性と高信頼性を両立できるとしている。しかし、最近、求められるようになって来ている低誘電特性には到達することはできなかった。
【0004】
一方、携帯電話などに用いられる撮像ユニットは、一般に、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの固体撮像素子と、固体撮像素子の受光面に結像するレンズユニットとで構成される。レンズユニットに含まれるレンズは、近年、安価で成形性に優れる熱又は光硬化性の樹脂で形成されたレンズも用いられている。そして、撮像用のレンズを中心に硬化性樹脂組成物を使用した光学物品及び光学レンズに於いては、種々の光学特性の向上が求められている。光学特性向上で要求されている特性の例を挙げると、例えば、低比重、高透明性、低黄色度、高屈折率、高アッベ数、強靭性などの特性の向上が要求されている。特に、近年、携帯電話などに用いられる撮像ユニットでは、筐体の薄型化及びバッテリーの大容量化からの要求で、薄型化が強く求められている。レンズユニットを構成するレンズの薄肉化を可能にするためには、光学レンズ材料の高屈折率化が必要であった。
【0005】
特開2008−94987号公報には、ビスフェノールフルオレン骨格を有する二官能(メタ)アクリレート化合物およびビフェニル骨格を有する単官能(メタ)アクリレート化合物を有する光学材料用高屈折率樹脂組成物およびその硬化物が開示されている。しかし、これから得られる光学レンズは、近年、レンズユニットの薄型化で求められる高屈折率を満たすものではなく、また、寸法安定性についても不足したものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−1938号公報
【特許文献2】特開2000−208889号公報
【特許文献3】特開2001−126534号公報
【特許文献4】特開2004−300326号公報
【特許文献5】特開2008−94987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高度の誘電特性(低誘電率・低誘電正接)を有し、かつ高いガラス転移温度と難燃性を有する硬化物を与えるビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物を提供することにある。また、本発明はビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物の中間体として有用な芳香族ビスハロメチル化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、大きな平面構造と屈曲部位を持つビスフェノールフルオレン骨格を有するビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物が上記課題を解決するために有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
下記式(1)で表される芳香族ビスハロメチル化合物は、ビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物の中間体として有用である。
【化1】

(式中、Ar1は炭素数6〜50の芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン元素を表し、nは1〜10の数を表し、R1及びR2は独立に炭素数1〜50の炭化水素基を表し、p及びqは独立に0〜2の整数を表す。)
【0010】
発明は、下記式(2)で表されるビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物である。
【化2】

(式(2)中、Ar1は炭素数6〜50の芳香族炭化水素基を表し、Yは水素またはメチル基を表し、nは1〜10の数を表し、R1及びR2は独立に炭素数1〜50の炭化水素基を表し、p及びqは独立に0〜2の整数を表す。)
【0011】
更に、本発明は、上記の芳香族ビスハロメチル化合物と、下記式(4)で表される(メタ)アクリル系化合物とを反応させることを特徴とする上記のビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物の製造方法である。
【化3】

(式中、Yは水素またはメチル基を表し、Zは水素、アルカリ金属、または(メタ)アクリロイル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の大きな平面構造と屈曲部位を持つビスフェノールフルオレン骨格を有するビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物は、これを硬化性化合物として使用することにより、分子内に分子サイズの大きな自由体積を有し、極性基が少ないことに起因して、高度の低誘電率特性の硬化物が得られる。そして、高度の難燃性・耐熱性で誘電率及び誘電正接の小さな材料を実現できるばかりではなく、高屈折率性をはじめとする光学特性に優れ、高い耐熱性と寸法安定性を有している光学材料も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の芳香族ビスクロロメチル化合物AのGPCチャート
図2】本発明の芳香族ビスクロロメチル化合物BのGPCチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を更に説明する。
本発明の式(1)で表される芳香族ビスハロメチル化合物は、その製法は特に限定されるものではないが、芳香族架橋剤とビスフェノールフルオレン系化合物とを反応させて合成することが望ましい。芳香族架橋剤としては、-CH2-Ar1-CH2-で表わされる架橋基を与える化合物が使用でき、ビスハロメチル化合物、ビスヒドロキシメチル化合物等があるが、ビスハロメチル化合物が好ましい。以下、芳香族架橋剤をビスハロメチル化合物で代表して説明するが、式(1)の芳香族ビスハロメチル化合物と区別する必要があるときは、これをビスハロメチル類又は芳香族ビスハロメチル類という。
なお、本明細書中で、同一の記号は特に断りがない限り、同一の意味を有する。
【0015】
式(1)中のArは炭素数6〜50の芳香族炭化水素基であり、芳香族架橋剤から誘導される構造単位である。芳香族架橋剤が芳香族ビスハロメチル類である場合、好適なものとしては、例えば下記式(3)で表される芳香族ビスハロメチル類を挙げることができるが、これらに限定される訳ではない。
【0016】
【化4】

(式中、Ar及びXは、式(1)と同意である。)
【0017】
Arの具体例としては、−Ph−、−Ph−Ph−、−Np−、−Np−CH−Np−、−Ph−CH−Ph−、−Ph−C(CH−Ph−、−Ph−CH(CH)−Ph−、−Ph−CH(C)−Ph−、−Ph−Flu−Ph−、及び−Flu(CH−からなる群れから選ばれる炭素数6〜50の芳香族炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは、炭素数が6〜20である芳香族炭化水素基である。ここで、Phはフェニレン基(-C-)を表し、Npはナフチレン基(-C10−)を表し、Fluはフルオレニル基を表す。ここで、Ph、NpおよびFluは、置換基を有しても良く、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基である。好ましくは炭素数が1〜6のアルキル基である。特に好ましくは、無置換、メチル置換及びジメチル置換の−Ph−Ph−及び−Ph−である。Xはハロゲン元素を表すが、塩素、臭素、及びヨウ素から選ばれるハロゲン元素が工業的実施に於ける入手の容易さより、好んで使用され、より好ましくは塩素である。
【0018】
式(1)中、nは1〜10の数を表すが、分子量分布を有するときは、平均値(数平均)である。
【0019】
上記式(3)で表される芳香族ビスハロメチル類をさらに具体的に例示すると、p−ビスクロロメチルベンゼン、m−ビスクロロメチルベンゼン、p−ビスブロモメチルベンゼン、m−ビスブロモメチルベンゼン、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、4,3’−ビスクロロメチルビフェニル、3,3’−ビスクロロメチルビフェニル、2,2’−ビスクロロメチルビフェニル、4,4’−ビスブロモメチルビフェニル、4,3’−ビスブロモメチルビフェニル、3,3’−ビスブロモメチルビフェニル、2,2’−ビスブロモメチルビフェニル、1,4−ビスクロロメチルナフタレン、1,5−ビスクロロメチルナフタレン、1,6−ビスクロロメチルナフタレン、2,3−ビスクロロメチルナフタレン、2,4−ビスクロロメチルナフタレン、2,5−ビスクロロメチルナフタレン、2,6−ビスクロロメチルナフタレン、2,7−ビスクロロメチルナフタレン、1,4−ビスブロモメチルナフタレン、1,5−ビスブロモメチルナフタレン、1,6−ビスブロモメチルナフタレン、2,3−ビスブロモメチルナフタレン、2,4−ビスブロモメチルナフタレン、2,5−ビスブロモメチルナフタレン、2,6−ビスブロモメチルナフタレン、2,7−ビスブロモメチルナフタレン、9,9−ビスクロロメチルフルオレン、9,9−ビスブロモメチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジメチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジエチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジ−n−プロピルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジイソプロピルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジ−n−ブチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジイソブチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジ−sec−ブチルフルオレン、2,7−ビスクロロメチル−9,9−ジ−tert−ブチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジメチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジエチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジ−n−プロピルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジイソプロピルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジ−n−ブチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジイソブチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジ−sec−ブチルフルオレン、2,7−ビスブロモメチル−9,9−ジ−tert−ブチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジメチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジエチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジ−n−プロピルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジイソプロピルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジ−n−ブチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジイソブチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジ−sec−ブチルフルオレン、2,7−ビスヨードメチル−9,9−ジ−tert−ブチルフルオレン、9,9−ビス(4−クロロメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−クロロメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−クロロメチルフェニル)フルオレンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましくは、p−ビスクロロメチルベンゼン、m−ビスクロロメチルベンゼン、p−ビスブロモメチルベンゼン、m−ビスブロモメチルベンゼン、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、4,3’−ビスクロロメチルビフェニル、3,3’−ビスクロロメチルビフェニル、2,2’−ビスクロロメチルビフェニル、4,4’−ビスブロモメチルビフェニル、4,3’−ビスブロモメチルビフェニル、3,3’−ビスブロモメチルビフェニル及び2,2’−ビスブロモメチルビフェニルならびにそれらのメチル置換体及びジメチル置換体である。
【0020】
式(1)中、p、qは各々独立に0〜2の整数を表す。R1、R2は各々独立に、炭素数1〜50の炭化水素基を表すが、好ましくは炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜12の芳香族炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基である。
【0021】
芳香族架橋剤と反応させるビスフェノールフルオレン系化合物としては、下記式(5)で表される化合物が好適である。
【化5】

(式中、R、R、p及びqは式(1)と同じ意味を有する。)
【0022】
式(5)で表されるビスフェノールフルオレン系化合物をさらに具体的に例示すると、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンである。
【0023】
本発明の式(1)の芳香族ビスハロメチル化合物は、好適には芳香族ビスハロメチル類と式(5)のビスフェノールフルオレン系化合物とを反応させて合成される(工程A)。
【0024】
この工程Aでは、式(3)の芳香族ビスハロメチル類と式(5)のビスフェノールフルオレン系化合物との使用割合は、当量比(ハロメチル:OHのモル比)で100:20〜100:99であることが好ましい。この範囲内であると、ビスフェノールフルオレン系化合物の全量に近い量が芳香族ビスハロメチル類と反応し、両末端に芳香族ビスハロメチル類中のハロメチル基が残ったモノマー又はオリゴマーとなる。そして、上記当量比を制御することでnの数を制御することができる。このnの値は、1〜10であり更に好ましくは、1.2〜10、更に好ましくは1.2〜8、特に好ましくは1.2〜5である。なお、nは通常、平均値である。本明細書において、平均値の場合は数平均を意味する。
【0025】
この工程Aでは、ビスフェノールフルオレン系化合物と芳香族ビスハロメチル化合物との反応を促進させるため、アルカリ金属水酸化物の存在下で反応させることがよい。
【0026】
次に、本発明の式(2)で表されるビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物(以下、式(2)のベンジルエーテル化合物又は本発明のベンジルエーテル化合物ともいう。)について説明する。このビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物の製法は特に限定されるものではないが、式(1)で表される芳香族ビスハロメチル化合物と式(4)で表される(メタ)アクリル系化合物とから合成することが望ましい。式(4)において、Zは水素、アルカリ金属または(メタ)アクリロイル基(CH2=C(Y)-C(O)-)を表し、Yは式(2)と同意である。
【0027】
本発明のベンジルエーテル化合物の製造において、工程Aで得られた式(1)で表される芳香族ビスハロメチル化合物と(メタ)アクリレート基部分を与える化合物を反応させるのが工業的に有利である。この反応工程を工程Bという。なお、式(1)で表される芳香族ビスハロメチル化合物は、本発明のベンジルエーテル化合物の中間体として有用であるので、中間体ともいう。
【0028】
式(4)で表される(メタ)アクリル系化合物としては、メタクリル酸、アクリル酸、無水メタクリル酸、無水アクリル酸及びこれらの塩又はこれらの混合物が使用できる。また、アルカリ金属(メタ)アクリレートであれば、反応がより容易に進行する。この場合は、(メタ)アクリル酸リチウム、(メタ)アクリル酸カリウム、又は(メタ)アクリル酸ナトリウムであってよい。
【0029】
式(4)において、ZがKである(メタ)アクリル系化合物、例えば(メタ)アクリル酸カリウムを使用するときには、(メタ)アクリル酸エステル類のけん化によって、又は、炭酸カリウムによる(メタ)アクリル酸の中和によって、(メタ)アクリル酸カリウムを調製することが可能であり、前記中和の場合には、炭酸カリウムが(メタ)アクリル酸類に対して過剰であることが好ましい。この場合には、芳香族ビスハロメチル化合物と、(メタ)アクリル酸カリウムとの反応の前に、(メタ)アクリル酸カリウムを単離しなくてもよい。過剰のアルカリは反応を促進する。
【0030】
工程Bでの式(1)の芳香族ビスハロメチル化合物と式(4)の(メタ)アクリル系化合物との反応は、特に制限されるものではないが、例えばZがHである(メタ)アクリル酸類を極性溶剤中で炭酸カリウムで中和してカリウム塩を調製し、このカリウム塩と芳香族ビスハロメチル化合物を反応させ、形成された副生物のアルカリ金属塩化物を濾過によって分離し、目的のビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物を得る方法が挙げられる。
【0031】
芳香族ビスハロメチル化合物と(メタ)アクリル系化合物との配合割合は、当量比(ハロメチル:(メタ)アクリロイル基類のモル比)で100:95〜100:120であることが好ましく、より好ましくは、100:100〜100:110である。当量比が該範囲内であると、仕込んだ芳香族ビスハロメチル化合物の全量に近い量がアクリル系化合物と反応し、芳香族ビスハロメチル化合物中のハロメチル基が(メタ)アクリレート化され、反応物中にほとんど残存しなくなることにより、これを硬化性樹脂組成物とした場合、硬化反応が十分に進行し、また、良好な誘電特性を示し、熱安定性も良好になるので好ましい。
【0032】
工程Bの反応を行う際には、極性溶剤を使用することがよく、好ましい極性溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジメトキシプロパン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶剤類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルあるいはその混合溶剤が挙げられる。
【0033】
工程Bの反応を行う際には、式(4)のアクリル系化合物のMをけん化又は中和によってアルカリ金属の塩とし、反応を促進する方法が好んで用いられる。好ましいアルカリ金属の塩としては、(メタ)アクリル酸リチウム、(メタ)アクリル酸カリウム、又は(メタ)アクリル酸ナトリウム、およびこれらの混合物が挙げられる。アルカリ金属の塩を形成する際のアクリル酸エステル類又はアクリル酸類とアルカリ金属化合物の配合割合は、当量比で1.05〜2.0倍の範囲であることが好ましい。
【0034】
工程Bの反応温度および反応時間は、反応に応じ適宜選択すればよいが、それぞれ30〜100℃、0.5〜20時間の範囲であれば十分に反応が進行する。
【0035】
上記反応により式(3)で表されるビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物を得ることができる。この反応により得られたビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物は、さらに再沈精製あるいは再結晶により精製することにより不純物の含有量を低減できる。
【0036】
本発明のビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物は、(メタ)アクリロイル基を2つ有するので樹脂原料として有用であり、特に熱硬化性樹脂用の樹脂組成物に配合されるモノマーとして有用である。
【0037】
この樹脂組成物は、ビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物と重合開始剤を必須成分として含むことが望ましい。重合開始剤としては、ビニル化合物の重合開始剤として公知の重合開始剤で良く、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射またはラジカル重合開始剤を適用できるが、ラジカル重合開始剤(ラジカル重合触媒ともいう。)が好ましい。
【0038】
本発明のビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物を含む樹脂組成物は、硬化性を有するので、硬化性樹脂組成物ともいう。この硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は成型物、積層物、注型物、接着剤、塗膜、フィルムとして使用できる。例えば、半導体封止材料の硬化物は注型物又は成型物であり、かかる用途の硬化物を得る方法としては、該化合物を注型、或いはトランスファ−成形機、射出成形機、圧縮成形機などを用いて成形し、さらに80〜230℃で0.5〜10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。また、この硬化性樹脂組成物は活性エネルギー線照射装置を使用して、活性エネルギー線を照射することにより硬化物を得ることができる。
【0039】
本発明のビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物を含む硬化性樹脂組成物は、上述する硬化方法によって硬化させることにより光学物品として適した硬化物を得ることができる。このような光学物品として適した硬化物は、種々の光学特性に優れた光学物品、例えば光学レンズとなる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。また、実施例中の測定結果は以下に示す方法により試料調製及び測定を行ったものである。
【0041】
1)芳香族ビスハロメチル化合物、及びビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物のGPC純度
分子量及び分子量分布測定はGPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃で行った。UV検出器(波長:254nm)で検出された各ピークの面積比により算出した。分子量は単分散ポリスチレンによる検量線を用い、ポリスチレン換算分子量として測定を行った。
【0042】
2)芳香族ビスハロメチル化合物、及びビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物の構造
日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及びH−NMR分析により決定した。溶媒としてクロロホルム−dを使用した。NMR測定溶媒であるテトラクロロエタン−dの共鳴線を内部標準として使用した。
【0043】
3)粘度
ビス(メタ)アクリロイル末端ベンジルエーテル化合物を含む硬化性樹脂組成物の粘度は、E型粘度計を使用して、25℃の温度で測定を行った。
【0044】
4)誘電率及び誘電正接
硬化性樹脂組成物ワニスを0.2mm厚のスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、高圧水銀ランプを備えたUV照射装置で、照射強度:30mW/cm、UV照射量:6,000mJ/cmでUV硬化を行った。UV硬化を行って得られた平板サンプルをさらに200℃のオーブンで30分間ポストキュアを行い、得られた硬化物平板について諸特性を測定した。また、この厚み0.2mmの平板硬化物を0.3cm×10cmに切り出して試験片を作成し、JIS C2565規格に準拠し、株式会社エーイーティー製、空洞共振器法誘電率測定装置により、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。
【0045】
5)線膨張係数(CTE)及びガラス転移温度(Tg)測定用試験片の調製及び測定
硬化性樹脂組成物をシリコンゴム製の200μm厚のスペーサーを介した2枚のガラス基板からなる型の間に流し込むことによって、注型サンプルを作成し、減圧下、気泡を取り除いた。その後、熱硬化型サンプルについては、窒素気流下のイナートオーブンに注型サンプルをセットし、段階的に15分かけて昇温操作を行った後、200℃で60分間熱硬化させた。一方、UV硬化型サンプルについては、高圧水銀ランプを光源とするコンベア式UV照射装置を使用して、UV照射量:6,000mJ/cmでUV硬化を行った。熱硬化サンプル及びUV硬化サンプルのいずれについても、空気気流下、イナートオーブンを使用して、200℃で30分間、ポストキュアを行った。得られた200μm厚の平板から3mm幅の平板サンプルを作成し、CTE測定(TMA法)及びTg測定(DMA法)用の試験片として使用した。
CTE測定(TMA法)は、上記の方法で作成した試験片をTMA(熱機械分析装置)測定装置の分析用プローブにセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から360℃までスキャンさせることにより測定を行い、0〜40℃の温度範囲に於ける平均線膨張係数を求めた。
一方、上記の方法で作成した硬化試験片のTgの測定は動的粘弾性測定装置を使用し、昇温速度2℃/minで測定を行い、損失弾性率のピークより決定した。
【0046】
6)難燃性の測定
線膨張係数(CTE)及びガラス転移温度(Tg)測定用試験片を作成する際に、作成した平板からサンプリングをおこなった硬化サンプルを用いて、TGA(熱天秤)測定装置を使用して、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から600℃までスキャンさせることにより測定を行い、550℃に於けるチャー(炭化物)生成量により下記の通り、難燃性を求めた。
難燃性A:チャー生成量>40wt%
難燃性B:25wt%<チャー生成量≦40wt%
難燃性C:18wt%<チャー生成量≦25wt%
難燃性D:10wt%<チャー生成量≦18wt%
難燃性E:チャー生成量≦10wt%
【0047】
7)YI、Haze及び全光線透過率の測定
YI、Haze及び全光線透過率の測定は、調製した硬化性樹脂組成物ワニスを1.0mm厚のスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、高圧水銀ランプを備えたUV照射装置で、照射強度:30mW/cm、UV照射量:6,000mJ/cmでUV硬化を行った。UV硬化を行って得られた平板サンプルをさらに200℃のオーブンで30分間ポストキュアを行い、得られた硬化物平板について、濁度計及び色差計を使用して測定した。
【0048】
8)屈折率及びアッベ数の測定
屈折率及びアッベ数の測定は、調製した硬化性樹脂組成物ワニスを1.0mm厚のスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、高圧水銀ランプを備えたUV照射装置で、照射強度:30mW/cm、UV照射量:6,000mJ/cmでUV硬化を行った。UV硬化を行って得られた平板サンプルをさらに200℃のオーブンで30分間ポストキュアを行い、硬化物平板を得た。得られた硬化物平板の端面をプリズム加工し、真空乾燥器で、60℃で5時間乾燥させた後、20℃、60%RHの恒温恒湿器の槽内に2日間以上置き、状態調節を行った。カルニュー屈折率計KPR-2000(島津デバイス製造社製)を用いて、25℃にて、屈折率を測定し、得られた屈折率データよりアッベ数を算出した。
【0049】
9)成形性
銅箔光沢面に黒化処理を行った銅張り積層板(銅箔層/コア層=35μm/300μm)の黒化処理を行った銅箔面の上に、硬化性樹脂組成物の未硬化フィルムを積層し、真空ラミネーターを用いて、温度:110℃、プレス圧:0.1MPaで真空ラミネートを行い、黒化処理銅箔とフィルムの接着状態により評価を行った。評価は黒化処理銅箔とフィルムの接着状態が良好であったものを「○」、黒化処理銅箔とフィルムとが容易に剥離することができる接着状態のものを「×」として評価した。
【0050】
実施例1
反応容器に9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン140.16g(0.40モル)、4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル141.40g(0.88モル)、及び、アセトン1200mlを加え攪拌しながら78℃に昇温した。次いで、78℃に保った反応容器にKOH−MeOH(KOH:0.88モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに78℃で4h攪拌を継続した。4h後、室温まで冷却し、トルエン900mlを加え、さらに10%HClを加えて中和した。その後、水相を分液することにより分離し、さらに水300mlで3回分液洗浄した。
【0051】
得られた有機相を蒸留することにより濃縮し、メタノールを加えて生成物を再沈殿した。沈殿を濾過・乾燥し、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンと4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニルとの反応生成物である芳香族ビスクロロメチル化合物A(2CM−DMBP−BPFZ)169.33gを得た。得られた2CM−DMBP−BPFZは白色紛体であった。
【0052】
生成物の確認をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、赤外線スペクトル(IR)、H核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)で行った。その結果、1)GPC測定の結果より、回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、2)IR測定結果より、フェノール性水酸基に由来するピークが減少していること、3)H−NMR測定結果に於いて、4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニルのクロロメチル基に由来するプロトンの共鳴線が減少し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線が生成していることが確認され、芳香族ビスクロロメチル化合物A(2CM−DMBP−BPFZ)が得られていることを確認した。
【0053】
図1に2CM−DMBP−BPFZ及び原料である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのGPCチャートのGPCチャートを示す。2CM−DMBP−BPFZは実線で示し、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンは点線で示す。
図1の2CM−DMBP−BPFZのGPC溶出曲線から原料である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのピークは消失し、高分子量側にシフトしているのがわかる。
【0054】
そして、2CM−DMBP−BPFZのn=1以上の成分のGPC純度(面積比)は、下記の通りであった。
n=1成分:7.8%
n=2成分:27.2%
n=3成分:30.6%
n=4成分:18.2%
n=5以上の成分:15.1%
その他の成分(低分子量成分):1.2%
【0055】
また、2CM−DMBP−BPFZのTGA測定を行ったところ、TGA測定結果に於ける示差熱分析(DTA)曲線には、220℃と271℃に発熱ピークが観察された。そして、220℃の発熱ピークでは0.75wt%、271℃の発熱ピークでは、4.88wt%の重量減少が観察された。また、600℃に於ける、炭化物生成量は、62.2wt%であった。
【0056】
実施例2
反応容器に9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン140.16g(0.40モル)、α,α’−ジクロロ−p−キシレン157.20g(0.88モル)、及び、MEK1200mlを加え攪拌しながら78℃に昇温した。次いで、78℃に保った反応容器にKOH−MeOH(KOH:0.88モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに78℃で4h攪拌を継続した。4h後、室温まで冷却し、トルエン900mlを加え、さらに10%HClを加えて中和した。その後、水相を分液することにより分離し、さらに水300mlで3回分液洗浄した。
【0057】
得られた有機相を蒸留することにより濃縮し、メタノールを加えて生成物を再沈殿した。沈殿を濾過・乾燥し、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンとα,α’−ジクロロ−p−キシレンとの反応生成物である芳香族ビスクロロメチル化合物B(2CM−Xy−BPFZ)123.57gを得た。
【0058】
生成物の確認をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、赤外線スペクトル(IR)、1H核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)で行った。その結果、1)GPC測定の結果より、回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、2)IR測定結果より、フェノール性水酸基に由来するピークが減少していること、3)H−NMRで、α,α’−ジクロロ−p−キシレンのクロロメチル基に由来するプロトンの共鳴線が減少し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線が生成していることが確認され、芳香族ビスクロロメチル化合物B(2CM−Xy−BPFZ)が得られていることを確認した。
【0059】
図2に2CM−Xy−BPFZ及び原料である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのGPCチャートのGPCチャートを示す。2CM−Xy−BPFZは実線で示し、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンは点線で示す。
図2のGPC溶出曲線から、原料である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのピークは消失し、高分子量側にシフトしているのが確認された。そして、2CM−Xy−BPFZのn=1以上の成分のGPC純度は、下記の通りであった。
n=1成分:36.3%
n=2成分:28.5%
n=3成分:19.6%
n=4成分:10.6%
n=5以上の成分:4.1%
その他の成分(低分子量成分):0.9%
【0060】
2CM−Xy−BPFZのTGA測定を行ったところ、TGA測定結果に於ける、示差熱分析(DTA)曲線には、219℃と268℃に発熱ピークが観察された。そして、219℃の発熱ピークでは0.81wt%、271℃の発熱ピークでは、5.21wt%の重量減少が観察された。また、600℃に於ける、炭化物生成量は、57.8wt%であった。
【0061】
実施例3
反応容器に、炭酸カリウム15.28g(0.11モル)とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)500mlを入れ、加熱・撹拌を行う。反応容器の内温が80℃に達したら、メタクリル酸19.13g(0.22モル)をDMF50mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下する。そのままの温度を維持して、1時間反応させる。次に、実施例1で得た2CM−DMBP−BPFZ58.27gをDMF500mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに80℃で3h攪拌を継続した。3h後、室温まで冷却し、固体の析出物を濾別した。そして、反応溶液にトルエン2000mlを加えた。その後、反応溶液を水で4回洗浄し、油相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過を行った。得られた有機相を水/メタノールの混合溶媒により、生成物を再沈殿した。
沈殿を濾過・乾燥し、2CM−DMBP−BPFZとメタクリル酸との反応生成物である2MA−DMBP−BPFZ52.64gを得た。
【0062】
生成物の確認をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、赤外線スペクトル(IR)、H核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)で行った。その結果、1)GPC測定の結果より、回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、2)IR測定結果より、カルボニル基が生成していること、H−NMRで、メタクリル基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、2MA−DMBP−BPFZが得られていることを確認した。
【0063】
実施例4
反応容器に、炭酸カリウム14.59g(0.105モル)とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)500mlを入れ、加熱・撹拌を行う。反応容器の内温が80℃に達したら、メタクリル酸18.26g(0.21モル)をDMF50mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下する。そのままの温度を維持して、1時間反応させる。次に、実施例2で得た2CM−Xy−BPFZ 62.76gをDMF500mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに80℃で3h攪拌を継続した。3h後、室温まで冷却し、固体の析出物を濾別した。そして、反応溶液にトルエン2000mlを加えた。その後、反応溶液を水で4回洗浄し、油相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過を行った。得られた有機相を水/メタノールの混合溶媒により、生成物を再沈殿した。
沈殿を濾過・乾燥し、2CM−Xy−BPFZとメタクリル酸との反応生成物である2MA−Xy−BPFZ69.53gを得た。
【0064】
生成物の確認をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、赤外線スペクトル(IR)、H核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)で行った。その結果、1)GPC測定の結果より、回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、2)IR測定結果より、カルボニル基が生成していること、H−NMRで、メタクリル基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、2MA−Xy−BPFZが得られていることを確認した。
【0065】
合成例1
500ml四つ口フラスコ中にビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂231g(エポキシ当量231)と、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド450mgと、2,6−ジ−イソブチルフェノール100mgと、アクリル酸72.0gを仕込んで混合し、空気を毎分25mlの速度で吹き込みながら90〜100℃で加熱して溶解させた。この溶液は白濁していたがそのまま徐々に昇温し、120℃に加熱して完全に溶解させた。溶液は次第に透明粘稠になったがそのまま攪拌し続け、この間に酸価を測定して酸価が2.0mgKOH/g未満になるまでこの加熱攪拌を継続した。酸価が目標(酸価0.8)に達するまで8時間を要した。その後、室温まで冷却し、無色透明な固体のビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート樹脂243.6gを得た。
【0066】
実施例5
実施例3で得られた2MA−DMBP−BPFZ 8gと反応性希釈剤としてo−フェニル−フェノキシエチルアクリレート(新中村化学(株)製、商品名:NKエステル A−LEN−10)12g、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)(チバ・スペシャリティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)0.40gを混合・溶解し硬化性組成物(ワニスA)を得た。
【0067】
調製したワニスAを0.2mm厚のスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、高圧水銀ランプを備えたUV照射装置で、照射強度:30mW/cm、UV照射量:6,000mJ/cmでUV硬化を行った。UV硬化を行って得られた平板サンプルをさらに200℃のオーブンで30分間ポストキュアを行い、得られた硬化物平板について諸特性を測定した。また、この厚み0.2mmの平板硬化物を0.3cm×10cmに切り出して試験片を作成し、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表1に示した。
【0068】
比較例1
合成例1で得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート樹脂8gと反応性希釈剤としてo−フェニル−フェノキシエチルアクリレート(新中村化学(株)製、商品名:NKエステル A−LEN−10)12g、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)(チバ・スペシャリティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)0.40gを混合・溶解し硬化性組成物(ワニスB)を得た。
【0069】
調製したワニスBを0.2mm厚のスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、高圧水銀ランプを備えたUV照射装置で、照射強度:30mW/cm、UV照射量:6,000mJ/cmでUV硬化を行った。UV硬化を行って得られた平板サンプルをさらに200℃のオーブンで30分間ポストキュアを行い、得られた硬化物平板について諸特性を測定した。また、この厚み0.2mmの平板硬化物を0.3cm×10cmに切り出して試験片を作成し、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表1に示した。
表中、BPF樹脂は、ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート樹脂である。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例6
反応容器に、炭酸カリウム15.28g(0.11モル)とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)500mlを入れ、加熱・撹拌を行う。反応容器の内温が80℃に達したら、アクリル酸15.85g(0.22モル)をDMF50mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下する。そのままの温度を維持して、1時間反応させる。次に、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンと4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニルとの反応生成物である芳香族ビスクロロメチル化合物(実施例1の2CM−DMBP−BPFZ)58.27gをDMF500mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに80℃で3h攪拌を継続した。3h後、室温まで冷却し、固体の析出物を濾別した。そして、反応溶液にトルエン2000mlを加えた。その後、反応溶液を水で4回洗浄し、油相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過を行った。得られた有機相を水/メタノールの混合溶媒により、生成物を再沈殿した。
沈殿を濾過・乾燥し、2CM−DMBP−BPFZとアクリル酸との反応生成物である2A−DMBP−BPFZ49.87gを得た。
【0072】
生成物の確認をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、赤外線スペクトル(IR)、H核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)で行ったところ、GPCより回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、IRよりカルボニル基が生成していること、H−NMRで、アクリル基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、2A−DMBP−BPFZが得られていることを確認した。
【0073】
実施例7
反応容器に、炭酸カリウム14.59g(0.105モル)とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)500mlを入れ、加熱・撹拌を行う。反応容器の内温が80℃に達したら、アクリル酸15.13g(0.21モル)をDMF50mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下する。そのままの温度を維持して、1時間反応させる。次に、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンとα,α’−ジクロロ−p−キシレンとの反応生成物である芳香族ビスクロロメチル化合物(実施例2の2CM−Xy−BPFZ)62.76gをDMF500mlに溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに80℃で3h攪拌を継続した。3h後、室温まで冷却し、固体の析出物を濾別した。そして、反応溶液にトルエン2000mlを加えた。その後、反応溶液を水で4回洗浄し、油相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過を行った。得られた有機相を水/メタノールの混合溶媒により、生成物を再沈殿した。
沈殿を濾過・乾燥し、2CM−Xy−BPFZとメタクリル酸との反応生成物である2A−Xy−BPFZ54.3gを得た。
【0074】
生成物の確認をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、赤外線スペクトル(IR)、H核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)で行ったところ、GPCより回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、IRよりカルボニル基が生成していること、H−NMRで、アクリル基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、2A−Xy−BPFZが得られていることを確認した。
【0075】
実施例8
実施例6で得られた2A−DMBP−BPFZ 8gと反応性希釈剤としてo−フェニル−フェノキシエチルアクリレート(新中村化学(株)製、商品名:NKエステル A−LEN−10)12g、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)(チバ・スペシャリティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)0.40gを混合・溶解し硬化性組成物(ワニスC)を得た。
【0076】
調製したワニスCを実施例5と同様の手順により、硬化物平板を作成し、諸特性を測定した。また、厚み0.2mmの平板硬化物から0.3cm×10cmの試験片を作成し、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表2に示した。
【0077】
実施例9
実施例7で得られた2A−Xy−BPFZ 8gと反応性希釈剤としてo−フェニル−フェノキシエチルアクリレート(新中村化学(株)製、商品名:NKエステル A−LEN−10)12g、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)(チバ・スペシャリティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)0.40gを混合・溶解し硬化性組成物(ワニスD)を得た。
【0078】
調製したワニスDを実施例5と同様の手順により、硬化物平板を作成し、諸特性を測定した。また、厚み0.2mmの平板硬化物から0.3cm×10cmの試験片を作成し、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表2に示した。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例10
実施例3で得られた2MA−DMBP−BPFZ 11gと反応性希釈剤としてジビニルベンゼン(新日鐵化学(株)製、商品名:DVB960)2g、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:オグソールEA−0200)1g及び、フェニルチオエチルアクリレート(BIMAX社製、商品名:BX−PTEA)6g、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)0.40g、及び、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油(株)製、商品名:パーブチルO)0.04gを混合・溶解し硬化性組成物(ワニスE)を得た。
【0081】
調製したワニスEを実施例5と同様の手順により、硬化物平板を作成し、諸特性を測定した。また、厚み0.2mmの平板硬化物から0.3cm×10cmの試験片を作成し、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表3に示した。
【0082】
実施例11
実施例4で得られた2MA−Xy−BPFZ 11gと反応性希釈剤としてジビニルベンゼン(新日鐵化学(株)製、商品名:DVB960)2g、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:オグソールEA−0200)1g及び、フェニルチオエチルアクリレート(BIMAX社製、商品名:BX−PTEA)6g、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)0.40g、及び、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油(株)製、商品名:パーブチルO)0.04gを混合・溶解し硬化性組成物(ワニスF)を得た。
【0083】
調製したワニスFを実施例5と同様の手順により、硬化物平板を作成し、諸特性を測定した。また、厚み0.2mmの平板硬化物から0.3cm×10cmの試験片を作成し、2.0GHzの誘電率と誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表3に示した。
【0084】
【表3】
図1
図2