特許第5996523号(P5996523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5996523-光劣化耐性飲料 図000012
  • 特許5996523-光劣化耐性飲料 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996523
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】光劣化耐性飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20060101AFI20160908BHJP
【FI】
   A23L2/38 P
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-504699(P2013-504699)
(86)(22)【出願日】2012年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2012056053
(87)【国際公開番号】WO2012124615
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-54278(P2011-54278)
(32)【優先日】2011年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】小 川 一 平
(72)【発明者】
【氏名】今 澤 武 司
(72)【発明者】
【氏名】吉 村 弓 子
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−037713(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/153158(WO,A1)
【文献】 特開2002−262769(JP,A)
【文献】 特開2006−020600(JP,A)
【文献】 特開2007−166917(JP,A)
【文献】 特開2009−284824(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/017984(WO,A1)
【文献】 特開2001−149006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無脂乳固形分および脂肪分を含んでなる、透明容器に充填した光劣化耐性飲料であって、
前記脂肪分が70質量%以上の植物油脂を含んでなり、かつ
該植物油脂が、ヤシ油、ヤシ油とヒマワリ油との混合物、および構成脂肪酸中のオレイン酸の量が60質量%以上であるヒマワリ油からなる群から選択されるものである、飲料。
【請求項2】
前記脂肪分の量が、前記飲料の1.5〜5質量%である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記脂肪分が乳脂を含んでなる、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
前記無脂乳固形分の量が、前記飲料の4〜10質量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
前記無脂乳固形分が、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイ、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バター、クリーム、無塩バターおよびカゼインからなる群から選択される少なくとも一つの原料に由来するものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
前記ヤシ油の構成脂肪酸中、ラウリン酸およびミリスチン酸の合計量が50質量%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
前記ヒマワリ油の構成脂肪酸中、オレイン酸の量が80質量%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項8】
コーヒーまたは果汁をさらに含んでなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
酸化防止剤を実質的に含まない、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項10】
異味または異臭の発生が抑制されてなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項11】
透明容器に充填した光劣化耐性飲料の製造方法であって、
飲料が、無脂乳固形分および脂肪分を含み、かつ該飲料中の植物油脂の含量が脂肪分の70質量%以上となるように調整することを含んでなり、かつ
前記植物油脂が、ヤシ油、ヤシ油とヒマワリ油との混合物、および構成脂肪酸中のオレイン酸の量が60質量%以上であるヒマワリ油からなる群から選択される、方法。
【請求項12】
透明容器に充填した飲料に光劣化耐性を付与する方法であって、
飲料が、無脂乳固形分および脂肪分を含み、かつ該飲料中の植物油脂の含量が脂肪分の70質量%以上となるように調整することを含んでなり、かつ
前記植物油脂が、ヤシ油、ヤシ油とヒマワリ油との混合物、および構成脂肪酸中のオレイン酸の量が60質量%以上であるヒマワリ油からなる群から選択される、方法。
【請求項13】
透明容器に充填した飲料の光劣化耐性付与剤としての、ヤシ油、ヤシ油とヒマワリ油との混合物、および構成脂肪酸中のオレイン酸の量が60質量%以上であるヒマワリ油からなる群から選択される植物油脂の使用であって、
飲料が、無脂乳固形分および脂肪分を含み、かつ該飲料中の植物油脂の含量が脂肪分の70質量%以上となるように調整する、使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本特許出願は、2011年3月11日に出願された日本国特許出願である特願2011−054278号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、優れた光劣化耐性を有する飲料、その製造方法、および飲料への光耐性付与方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、消費者の食生活の多様化にともない飲料についても多種多様性が求められており、多くの商品群が開発されている。その中でも乳性飲料は元来牛乳等が有する種々の栄養素の観点から、健康志向の飲料として今後も特に有望視されている。
【0004】
一般的に宅配用の牛乳は、流通経路において長時間光に暴露されることが無いため透明壜に封入して提供することができるが、店頭に陳列され販売される飲用牛乳等及び乳製品などは遮光性の紙容器あるいはプラスチック容器に封入されて提供されることが多い。このような飲用牛乳等及び乳製品では、それに含まれる乳脂肪などの乳成分が店頭陳列時に太陽光、蛍光灯等の光に暴露されることにより酸化などを受け、オフフレーバーと称される本来の臭いとは異なる異臭を発生してしまうことがある。これを防止するために遮光性を備えた容器に入れ陳列販売されている。
【0005】
この飲用牛乳等及び乳製品から発生するオフフレーバーは、乳脂肪分などの乳成分の光酸化が主な原因と考えられる。したがって、乳成分が多く含まれるほど、オフフレーバーが発生しやすい。オフフレーバーの主たる成分としてはある種のアルデヒド等であり、商品の品質としては問題の無いものである。しかしながら、風味については本来の物とは大きく異なってしまうことがあり、その商品価値を著しく下げてしまう。
【0006】
一方、近年、飲用牛乳等及び乳製品の消費量向上のための様々な方策の1つとして、容器の多様化が検討されている。この中でも、ポリエチレンテレフタレート製容器、いわゆるペットボトル(あるいはPETボトル)はリサイクルが可能なこと、リキャップが可能なこと、バリア性が高いことなど有益な点が多いことから飲料市場で多く用いられている。さらに透明ペットボトルは、内容物を目視できるために消費者が安心感を得られることは、特に有利な点である。このため、飲用牛乳等及び乳製品にこれらの透明ペットボトルを使用することが有望視されているが、先述のオフフレーバーの問題点を必須課題として解決しなければならない。
【0007】
とくに、乳成分を多く含む製品は栄養面でも嗜好面でも消費者のニーズが高く、とりわけ乳脂肪分は飲料にマイルドな風味を付与するために重要な成分であるが、乳成分、とりわけ乳脂肪分が多いと光照射によるオフフレーバーが発生しやすい。そこで、乳成分、とりわけ乳脂肪分を多く含む飲料をペットボトルで販売することは敬遠せざるを得ないのが現状である。
【0008】
この解決方法としては種々の対策が検討されている。例えば、牛乳などの製品の包装にある特定の顔料組成物を添加あるいは積層して容器を成形し、遮光性を高めることにより製品の品質低下を防いでいる(特許文献1、特許文献2、特許文献3など参照)。
【0009】
また別の解決方法としては、乳製品にある種の添加剤を加えることで解決する方法も提案されている。例えば、総トコフェロール中、45重量%以上がd−δ−トコフェロールである抽出トコフェロールとフェルラ酸を含有し、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリン組成中、グリセリンの縮合度がトリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ、ヘプタ、オクタ、ノナ、デカから選ばれる1種のポリグリセリンの含量が35重量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用い水及び/または多価アルコール中油型とした乳化物を含有することを特徴とする香味成分の劣化防止剤を飲食品に添加する方法が報告されている(特許文献4)。
【0010】
しかしながら、追加の添加剤を使用する従来技術は、添加剤を使用することが禁じられている飲用牛乳に適用できず、また乳飲料等及び乳製品に適用した場合にはその風味を損なう可能性があり、さらに製造過程や製品コストにも影響を与えてしまう。
【0011】
また、別の解決方法としては、乳製品にある種の処理を加えることで解決する方法も提案されている。例えば、牛乳又は乳成分を含む飲料又は食品を、140℃で30秒以上120秒以下又はこれと同等の加熱処理条件で加熱処理することを特徴とした光誘導によるオフフレーバーの発生のない牛乳又は乳成分を含有する飲料又は食品が報告されている(特許文献5)。
【0012】
しかしながら、上記のような方法では、市場に出回っているチルド飲料の殺菌条件に多く見られる130℃で2秒間程度、あるいは消費期限を通常のチルド飲料より長くしたロングライフ飲料の殺菌条件に多く見られる140℃で2秒程度よりも多くの加熱を行うことになり、過剰な加熱による風味の低下が起こりうる。また、上記のような方法は、相応の加熱用設備がないと実施できず、製品コストにも影響を与えてしまう。このような技術状況下、工業的生産上適用可能であり、優れた光劣化耐性を有する新規乳性飲料を創出することが求められているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−283495号
【特許文献2】特表2005−523845号
【特許文献3】特開2005−178850号
【特許文献4】特許第3683880号
【特許文献5】特許第3460063号
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、今般、乳脂をはじめとする脂肪分に代えて、特定の種類および割合の植物油脂を含有させることにより、顕著な光劣化耐性を有する飲料が得られるとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づくものである。
したがって、本発明は、特定の種類および割合の植物油脂を含有する、顕著な光劣化耐性を有する飲料、その製造方法、および飲料への光耐性付与方法の提供をその目的としている。
【0015】
そして、本発明によれば、無脂乳固形分および脂肪分を含んでなる、光劣化耐性飲料であって、その飲料中の脂肪分の70質量%以上が植物油脂であり、かつ植物油脂が、ヤシ油、ヒマワリ油およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである飲料が提供される。
【0016】
また、本発明の別の態様によれば、光劣化耐性飲料の製造方法であって、無脂乳固形分および脂肪分を含んでなる飲料に、その飲料中の脂肪分の70質量%以上となるように植物油脂を添加することを含んでなり、かつ植物油脂が、ヤシ油、ヒマワリ油およびそれらの混合物からなる群から選択される方法が提供される。
【0017】
また、本発明のさらに別の態様によれば、飲料に光劣化耐性を付与する方法であって、無脂乳固形分および脂肪分を含んでなる飲料に、その飲料中の脂肪分の70質量%以上となるように植物油脂を添加することを含んでなり、かつ植物油脂が、ヤシ油、ヒマワリ油およびそれらの混合物からなる群から選択される方法が提供される。
【0018】
また、本発明のさらに別の態様によれば、飲料の光劣化耐性付与剤としての、ヤシ油、ヒマワリ油およびそれらの混合物からなる群から選択される植物油脂の使用であって、無脂乳固形分および脂肪分を含んでなる飲料に、該飲料中の脂肪分の70質量%以上となるように植物油脂を添加する使用が提供される。
【0019】
本発明によれば、乳性飲料に特定の割合のヤシ油またはヒマワリ油を含有させることにより、顕著な光劣化耐性を有する飲料を提供することができる。とりわけ、本発明によれば、光劣化しやすい乳脂を含有していても、光劣化による飲料のオフフレーバーを抑制することができ、透明容器に充填される乳性飲料の製造において有利に利用することができる。また、ヤシ油およびヒマワリ油は乳脂よりも一般的に安価であり、本発明の飲料は、乳性飲料の製造コストを勘案しても有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例6の飲料中のヘキサナール量を測定した結果を示すグラフである。
図2】実施例6の飲料中の2−ヘプテナール量を測定した結果を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0021】
本発明の光劣化耐性飲料は、無脂乳固形分および脂肪分を含み、その脂肪分のうち70質量%以上が、ヤシ油および/またはヒマワリ油により構成されることを一つの特徴としている。かかる特定の種類および割合の植物油脂を添加した飲料が、顕著な光劣化耐性を有することは意外な事実である。
【0022】
本発明の植物油脂の割合は、飲料中の脂肪分の70質量%以上であればよいが、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%である。
【0023】
また、本発明のヤシ油は、その構成脂肪酸として、C8〜C18の飽和または不飽和脂肪酸を含んでいることが好ましい。かかる脂肪酸の好適な例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸またはリノール酸等が挙げられる。
【0024】
また、ヤシ油の構成脂肪酸中、ラウリン酸とミリスチン酸の合計量は、好ましくは50質量%以上である。
【0025】
また、本発明のヒマワリ油は、その構成脂肪酸として、C4〜C22の飽和または不飽和脂肪酸を含んでいることが好ましい。かかる脂肪酸の好適な例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸またはベヘン酸等が挙げられる。
【0026】
ヒマワリ油にはリノール酸を多く含むハイリノールタイプ、オレイン酸を多く含むハイオレインタイプなどが知られている。本発明のヒマワリ油は、特にいずれかのタイプに限定されるものではないが、好ましくはハイオレインタイプである。また、ヒマワリ油の構成脂肪酸中、オレイン酸の量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0027】
本発明のヤシ油またはヒマワリ油は、光劣化耐性を付与しうる限り、油脂にタンパク質や糖,乳化剤などを加えて乾燥して粉末にした粉末油脂を用いてもよい。
【0028】
また、本発明のヤシ油またはヒマワリ油は、光劣化耐性を付与しうる限り、硬化処理をしたものを用いてもよい。
【0029】
また、本発明の脂肪分は、上記植物油脂を含有する限り、飲食品に適用可能な他の脂肪分を含有していてよい。ここで、「脂肪分」とは、栄養表示に関して用いられるのと同義であって、中性脂肪や脂肪酸のみならずコレステロール分なども含む概念である。このうち中性脂肪は、主としてグリセリン脂肪酸エステルを意味し、脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の双方を含む概念である。
【0030】
そして、本発明の好ましい態様によれば、植物油脂以外の脂肪分は、乳脂である。食品分野において、乳脂と植物油脂とは、異なる風味を有する食品材料として一般的に知られている。一方で、このような技術状況下、本発明によれば、乳脂の代替えとして、ヤシ油またはヒマワリ油を飲料に添加し、顕著な光劣化耐性を有し、マイルドな風味を有する飲料を提供することが可能である。
【0031】
上述のような脂肪分を提供する原料としては、特に限定されないが、好ましくは、バター、生乳、牛乳、特別牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、脱脂練乳、クリーム、バターオイル、バターミルクまたはバターミルクパウダーである。
【0032】
また、本発明の脂肪分の量は、特に限定されないが、好ましくは飲料の1.5質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上4質量%以下である。
【0033】
また、本発明の「無脂乳固形分」とは、乳脂肪を除いた乳固形分をいう。より具体的には、本発明の無脂乳固形分を提供する原料としては、乳原料で通常食品に使用されているものであれば、特に限定されず、生乳、牛乳、特別牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、脱脂練乳、バター、クリーム、バターオイル、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエイまたはカゼイン等が挙げられ、好ましくは、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイ、脱脂乳、脱脂濃縮乳、濃縮乳、カゼイン、バター、クリームまたはそれらの混合物であり、さらに好ましくは脱脂粉乳、バター、またはホエイである。なおここで、「ホエイ」とは、牛乳または脱脂乳に、レンネットまたは酸を加えて生ずるカードを除去した後に排出される水性成分を意味する。一般的には、ホエイは、牛乳等から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分であり、具体的な例としては、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に、副産物として得られるチーズホエイやレンネットホエイ(または「スイート(甘性)ホエイ」ともいう)、脱脂乳から酸カゼインやクワルクを製造した際に得られるカゼインホエイ、クワルクホエイ(またはアシッド(酸)ホエイともいう)が挙げられる。ホエイの主成分は、タンパク質(β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンなど)、乳糖、水溶性ビタミン、塩類(ミネラル成分)である。
【0034】
また、本発明の無脂乳固形分の量は、特に限定されないが、好ましくは飲料の4質量%以上12質量%以下であり、より好ましくは4質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0035】
また、本発明の光劣化耐性飲料には、上記成分の他、一般的に用いられているその他の食品構成成分、例えば、水等の水性媒体、タンパク質、各種糖質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、果汁、コーヒー、ココア、紅茶、茶等を適宜配合することができる。とりわけ、本発明の光劣化耐性飲料に、コーヒー、果汁、ココア、茶のような風味の強い原料を配合する場合、乳脂のみを使用したものと風味の非常に近い飲料を提供することが可能である。したがって、一つの態様によれば、本発明の飲料は、コーヒーまたは果汁をさらに含んでなる。
【0036】
また、本発明の光劣化耐性飲料は、酸化防止剤等を含まなくても、それ自体顕著な光劣化耐性を奏しうる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、光劣化耐性飲料は、酸化防止剤を実質的に含まないで構成される。かかる光劣化耐性飲料は、酸化防止剤の添加による風味の劣化や製造コストの上昇を抑える上で有利である。ここで、「実質的に含まない」とは、光劣化耐性飲料の製造工程および使用工程に際して混入した植物油脂とは異なる酸化防止成分または酸化防止剤以外の原料に含まれる不可避的な酸化防止成分が含まれてもよいことを意味する。具体的には、酸化防止剤の添加量が、飲料全体の好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0質量%を意味する。
【0037】
上記酸化防止剤としては、例えば、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、カテキン、ルチン、チャ抽出物、各種(α−、β−、γ−、δ−)トコフェロール(ビタミンE)が挙げられる。
【0038】
また、本発明の光劣化耐性飲料のpHは、特に限定されないが、好ましくは3.0以上8.0以下である。pHの調整は、各成分の種類、添加量の調整等の公知手法により適宜行うことができる。
【0039】
また、本発明によれば、上述のように、無脂乳固形分および脂肪分を含んでなる飲料に、飲料中の脂肪分の70質量%以上となるように上記植物油脂を添加することにより、乳性飲料に光劣化耐性を付与し、またはかかる耐性を有する食品を製造することができる。
【0040】
植物油脂の添加方法としては、一般的な飲料の製造工程で用いられる公知手法を用いてよい。飲料の各構成成分の添加順序は特に限定されず、例えば、各構成成分を同時に添加してもよい。
【0041】
植物油脂の添加温度は、特に限定されないが、植物油脂の融点を考慮して適宜決定することが好ましい。例えば、ヤシ油の添加温度は40℃以上80℃以下、ヒマワリ油の添加温度は0℃以上80℃以下とすることができる。また、粉末油脂の場合であっても、添加温度は特に限定されず、当業者によって適宜決定される。
【0042】
また、植物油脂の添加後、飲料は、混合、均質化および殺菌等の一般的な飲料の製造に用いられる工程に適用してよい。
【0043】
混合条件としては、特に限定されないが、例えば、T.K.HOMOMIXER MARKII (特殊機化工業社製)にて4000rpm以上7000rpm以下で1分以上10分以下が挙げられる。
また、均質化条件としては、例えば、60℃以上85℃以下で5MPa以上35MPa以下が挙げられる。
また、殺菌条件としては、例えば、63℃以上150℃以下で1秒以上120秒以下が挙げられる。
【0044】
また、本発明の光劣化耐性飲料は、とりわけ、異味、異臭の指標となりうるヘキサナールまたは2−ヘプテナール等の香気成分の発生を抑制する上で好ましい。したがって、本発明の好ましい態様によれば、光劣化耐性飲料は、光照射によるヘキサナールまたは2−ヘプテナールの発生を抑制するために用いられる。
【0045】
また、一つの態様によれば、光照射を7500ルクスで4日間行った場合、光劣化耐性飲料におけるヘキサナールの発生量は、光照射しない場合のそれの、好ましくは4倍以下であり、より好ましくは3倍以下であり、さらに好ましくは2倍以下である。また、別の態様によれば、光照射を7500ルクスで4日間行った場合、光劣化耐性飲料は2−ヘプテナールを発生しない。なおここで、ヘキサナールまたは2−ヘプテナールの発生量は、本明細書の実施例6に記載の方法により得られるヘキサナールまたは2−ヘプテナールの検出量を基準として決定することができる。
【0046】
また、本発明の光劣化耐性飲料は、特に限定されないが、いわゆる乳が配合された飲料(例えば、乳、加工乳、乳飲料、乳酸菌飲料、乳配合飲料)であることが好ましい。かかる光劣化耐性飲料の好適な例としては、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料、果実飲料、炭酸飲料、チョコレートドリンクまたは清涼飲料水が挙げられる。
【0047】
なお、本発明の光劣化耐性飲料の内容物は、液体に加え、固体を含有していてもよく、また固体については粉体、固形体のいずれも含まれる。
【0048】
本発明の風味の評価は、官能試験などによって測定される。例えば、分析型官能評価として、2点識別法、3点識別法、順位法などの識別型試験を用いることができる。また、スコアリング法、プロフィール法などの記述型試験を用いてもよく、定量的記述分析法(QDA)によっても評価することができる。
例えば、異味・異臭の程度や風味の指標の強弱などの評価を、基準と比較した相対評価として、または絶対評価として、5段階評価、3段階評価などで行うことができる。パネルは、例えば専門パネルを用いる場合、いかなる人数で実施しても良いが、好ましくは3人以上、より好ましくは5人以上、さらに好ましくは6人以上で行うことができる。
【0049】
また、本発明の光劣化耐性飲料は、好ましくは透明容器に充填されてなる。透明容器に充填された本発明の光劣化耐性飲料は、内容物を目視でき、光劣化も抑制されていることから、消費者への安心感を与える上で好ましい。
【0050】
ここで、「透明」とは、容器を介して、直接内容物が看視できることをいい、少なくとも可視光領域である380nm以上750nm以下の光を透過することが好ましい。この波長領域における容器の光透過率としては50%以上であり、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。
【0051】
また、本発明における透明容器はその全体が透明である必要はなく、一部が透明である容器も本発明に含まれる。例えば、内容表示用のラベル・印刷部分は不透明あるいは半透明でそれ以外の部分が透明な容器、意匠性を有する透明部分・不透明部分が複数箇所で異なるように組み合わされている容器、看視窓程度の大きさの透明部分のみを有する不透明容器など、その透明領域については限定されない。
【0052】
また、その容器形状については特に限定されず、一般的な壜形状、カップ形状、グラス形状などが挙げられる。また包装の形態としては各種の流通過程に対応可能とした形態を採用することができ、例えばこれらには限定されないが、無菌充填包装品、要冷蔵保存可能状態の充填包装品、冷凍包装品などの形態も含まれる。
【0053】
本発明における容器を形成する材料としては、一般的な飲料用・食品用容器として用いられる材料を適用することができ、これらに限定されないが、ガラスや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン・1−アルケン共重合体、ナイロン、ポリスチレン、塩化ビニル等の合成樹脂等を用いることができる。本発明では特に、コスト、流通性、成形性、強度等の点から、合成樹脂製が好ましく、特に透明性にも優れるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。
【0054】
本発明の光劣化耐性飲料は、公知手法により透明容器へ充填してよい。また、光劣化のより効果的な抑制を勘案すれば、光劣化耐性飲料に対して公知の溶存酸素濃度低下処理等をさらに行ってもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【実施例】
【0055】
実施例1:植物性油脂の種類の検討
焙煎したコーヒー豆(ドトールコーヒー社製)400gをコーヒーミル(ナイスカットミル:カリタ社製)でダイヤル3の条件(中細挽き)で粉砕し、得られた粉体に95℃の水2400gを添加し、95℃15分間漬け置きした後、布製フィルター(ネル)でろ過することによりコーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液61.6gに対し、脱脂粉乳59g、ホエイパウダー5g、砂糖40g、インスタントコーヒー2.3g、乳化剤製剤としてのホモゲンNo.1733(三栄源エフエフアイ社製)0.8g、炭酸水素ナトリウム1g、無塩バター30gを加え、水を加えて1000gとした。次に、得られた混合液の均質化を70℃にて行い、総脂肪分が乳脂のみからなる、溶液Aを得た(溶液A中の総無脂乳固形分6.0質量%、総脂肪分2.5質量%)。
また、無塩バター30gを、総脂肪分の量が同等になるようにヤシ油(不二製油株式会社製、精製ヤシ油)24.8gに置き換える以外、溶液Aと同様の手法により、溶液B(総脂肪分中ヤシ油98質量%)を得た。
また、溶液Aの無塩バター30gを、総脂肪分の量が同等になるようにパーム油(不二製油株式会社製、パームエース10)24.8gに置き換える以外、溶液Aと同様の手法により、溶液C(総脂肪分中パーム油98質量%)を得た。
また、溶液Aの無塩バター30gを、総脂肪分の量が同等になるようにヒマワリ油(不二製油株式会社製、ハイオール75B)24.8gに置き換える以外、溶液Aと同様の手法により、溶液D(総脂肪分中ヒマワリ油98質量%)を得た。
【0056】
溶液B〜Dに用いられたヤシ油、パーム油およびヒマワリ油の構成脂肪酸は、以下の表1に示される通りであった。
【表1】
【0057】
次に、溶液A〜Dを100℃まで熱して加熱殺菌し、100℃に達した後にペットボトル(350nm以上750nm以下の可視光波長領域の光の80%以上を透過)に充填した。
溶液A〜DのpHは、いずれもpH6.93〜6.96であった。
殺菌後の風味は表2に示すとおりであった。
【0058】
【表2】
【0059】
ヤシ油を使用した溶液Bは、無塩バターを使用した溶液Aと同等の風味を有しており、ヒマワリ油を使用した溶液Dはナッツ様の独特の風味があり、溶液BおよびDはいずれもマイルドな風味であった。パーム油を使用した溶液Cは、香ばしい独特の風味であった。
【0060】
次に、溶液A〜Dを5℃、2000ルクスの光照射条件下で2週間保存した後の風味を新鮮物(製造直後の溶液)と比較して、以下の基準に基づき、専門パネル5名による官能検査(3段階のスコアリング法)に供しスコアの平均値を得た。その結果を表3に示す。
1:異味または異臭がなく良好
2:わずかに異味または異臭がする
3:異味または異臭がする
【0061】
【表3】
【0062】
2000ルクスの光照射条件下で2週間保存後に、無塩バターを使用した溶液A、および精製パーム油を使用した溶液Cは異味、異臭が生じた。
一方、精製ヤシ油を配合した溶液B、および精製ヒマワリ油を使用した溶液Dは異味・異臭が発生せず、風味が良好であった。
【0063】
実施例2:ヤシ硬化油を添加した乳性飲料の光劣化耐性の検討
実施例1と同様の手法により、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液61.6gに対し、脱脂粉乳59g、ホエイパウダー5g、砂糖40g、インスタントコーヒー2.3g、乳化剤製剤としてのホモゲンNo.1733(三栄源エフエフアイ社製)0.8g、炭酸水素ナトリウム1g、無塩バター30gを加え、水を加えて1000gとした。次に、得られた混合液の均質化を70℃にて行い、総脂肪分が乳脂肪のみからなる、溶液Eを得た(溶液A中の総無脂乳固形分6.0質量%、総脂肪分2.5質量%)。
また、無塩バター30gを、総脂肪分の量が同等になるようにヤシ硬化油粉末油脂(理研ビタミン製、エマファットCO−7;ヨウ素価=1以下;構成脂肪酸は、以下の表4に示される通り)31.4gに置き換える以外、溶液Eと同様の手法により、溶液F(総脂肪分中ヤシ硬化油98質量%)を得た。
【0064】
【表4】
【0065】
次に、溶液EおよびFを100℃まで熱して加熱殺菌し、100℃に達した後にペットボトル(350nm以上750nm以下の可視光波長領域の光の80%以上を透過)に充填した。
殺菌後の風味は、溶液Eと溶液Fにほとんど差は認められなかった。
【0066】
次に、溶液EおよびFを5℃、2000ルクスの光照射条件下で2週間保存した後の風味を新鮮物(製造直後の溶液)と比較して、以下の基準に基づき、専門パネル5名による官能検査(3段階のスコアリング法)に供しスコアの平均値を得た。その結果を表5に示す。
1:異味または異臭がなく良好
2:わずかに異味または異臭がする
3:異味または異臭がする
【0067】
【表5】
【0068】
2000ルクスの光照射条件下で2週間保存後に、無塩バターを使用した溶液Eは異味、異臭が生じた。
一方、ヤシ硬化油を配合した溶液Fは異味・異臭が発生せず、風味が良好であった。
【0069】
実施例3:植物性油脂の添加量の検討1
実施例1と同様の手法により、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液61.6gに対し、脱脂粉乳59g、ホエイパウダー5g、砂糖40g、インスタントコーヒー2.3g、乳化剤製剤としてのホモゲンNo.1733(三栄源エフエフアイ社製)0.8g、炭酸水素ナトリウム1g、無塩バター30gを加え、水を加えて1000gとした。
【0070】
次に、得られた混合液を70℃まで加温し、予備乳化(7000rpm、5分)を行い、均質化(20MPa)を行った。次に、得られた溶液を再び70℃まで加温し、再度均質化(20MPa)を行い、混合した。得られた溶液を、100℃まで加熱して殺菌した後、透明なペットボトル(380以上750nm以下の可視光波長領域の光の80%以上を透過)に充填して蓋をした。さらに得られた溶液を、20℃程度まで冷却し、総脂肪分が乳脂のみからなる溶液Gを得た(溶液G中の総無脂乳固形分6.0質量%、総脂肪分2.5質量%となるように各材料を調整)。
【0071】
また、溶液Gにおける無塩バターをヤシ油に置き換え、同じ製法により総脂肪分中の精製ヤシ油の量が10から98質量%の溶液ヤシA〜ヤシJを製造した。この際、溶液Gと溶液ヤシA〜ヤシJにおける総無脂乳固形分および総脂肪分量はコントロール溶液と同等になるように調整した。
溶液Gと溶液ヤシA〜ヤシJにおける総脂肪分における精製ヤシ油および乳脂の割合をまとめると、以下の表6の通りである。
【0072】
【表6】
【0073】
次に、ペットボトルに充填した各溶液については10℃、2000ルクスの光照射条件下で2週間保存し、各溶液に光照射したサンプルを得た(以下、「光照射サンプル」ともいう)。
【0074】
また、ペットボトルに充填した各溶液を冷暗所(10℃)に保管する以外、上記と同様の手法により、各溶液に光照射しないサンプルを得た(以下、「光照射なしサンプル」ともいう)。
【0075】
次に、各溶液に関し、光照射なしサンプルと比較して光照射サンプルの風味を以下に示す基準の基準に基づき、訓練された専門パネル6名による官能検査(5段階のスコアリング法)に供しスコアの平均値を得た。その結果を表7に示す。
【0076】
5:光照射なしサンプルと変わらない
4:光照射なしサンプルとほぼ変わらない
3:光照射なしサンプルより劣る
2:明らかな劣化が認められる
1:著しい劣化が認められる
【0077】
【表7】
【0078】
2000ルクス2週間では、総脂肪分に占めるヤシ油の割合80質量%であれば、風味劣化は全く確認されず、70質量%であれば風味はほとんど変わらなかった。一方、60%以下では、明確な風味の低下が確認された。
【0079】
実施例4:植物性油脂の添加量の検討2
実施例1と同様の手法により、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液60.0gに対し、脱脂粉乳59g、ホエイパウダー5g、砂糖40g、インスタントコーヒー2.3g、乳化剤製剤としてのホモゲンNo.1733(三栄源エフエフアイ(株)製)0.8g、炭酸水素ナトリウム1g、無塩バター30gを加え、水を加えて1000gとした。
【0080】
次に、得られた混合液を70℃まで加温し、予備乳化(7000rpm、5分)を行い、均質化(20MPa)を行った。次に、得られた溶液を再び70℃まで加温し、再度均質化(20MPa)を行い、混合した。得られた溶液を、100℃まで加熱して殺菌した後、透明なペットボトル(380以上750nm以下の可視光波長領域の光の80%以上を透過)に充填して蓋をした。さらに得られた溶液を、20℃程度まで冷却し、総脂肪分が乳脂のみからなる溶液Hを得た(溶液H中の総無脂乳固形分6.0質量%、総脂肪分2.5質量%となるように各材料を調整)。
【0081】
また、溶液Hにおける無塩バターをヒマワリ油(不二製油株式会社製、ハイオール75B)に置き換え、同じ製法により総脂肪分中のヒマワリ油の量が10から98質量%の溶液ヒマワリA〜ヒマワリJを製造した。この際、溶液Hと溶液ヒマワリA〜ヒマワリJにおける総無脂乳固形分および総脂肪分量はコントロール溶液と同等になるように調整した。
溶液Hと溶液ヒマワリA〜ヒマワリJにおける総脂肪分におけるヒマワリ油および乳脂の割合をまとめると、以下の表8の通りである。
【0082】
【表8】
【0083】
次に、ペットボトルに充填した各溶液については10℃、2000ルクスの光照射条件下で2週間保存し、各光照射サンプルを得た。
【0084】
また、ペットボトルに充填した各溶液を冷暗所(10℃)に保管する以外、上記と同様の手法により、各光照射なしサンプルを得た。
【0085】
次に、各溶液に関し、光照射サンプルの風味を実施例3と同様の手法に従って評価した。
【0086】
結果を表9に示す。
【表9】
【0087】
2000ルクス2週間では、総脂肪分に占めるヒマワリ油の割合80質量%であれば、風味劣化は全く確認されず、70質量%であれば風味はほとんど変わらなかった。一方、50%以下では、明確な風味の低下が確認された。
【0088】
実施例5:植物油脂の添加量の検討3
実施例1と同様の手法により、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液61.6gに対し、脱脂粉乳59g、ホエイパウダー5g、砂糖40g、インスタントコーヒー2.3g、乳化剤製剤としてのホモゲンNo.1733(三栄源エフエフアイ社製)0.8g、炭酸水素ナトリウム1g、無塩バター30gを加え、水を加えて1000gとした。
【0089】
次に、得られた混合液を70℃まで加温し、予備乳化(7000rpm、5分)を行い、均質化(20MPa)を行った。次に、得られた溶液を再び70℃まで加温し、再度均質化(20MPa)を行い、混合した。得られた溶液を、100℃まで加熱して殺菌した後、透明なペットボトル(380nm以上750nm以下の可視光波長領域の光の80%以上を透過)に充填して蓋をした。さらに得られた溶液を、10℃程度まで冷却し、総脂肪分が乳脂のみからなるコントロール溶液を得た(コントロール溶液中の総無脂乳固形分6.0質量%、総脂肪分2.5質量%となるように各材料を調整)。
【0090】
また、コントロール溶液における無塩バターをヤシ油に置き換え、総脂肪分中のヤシ油の量が80質量%のヤシ油K溶液を製造した。この際、ヤシ油K溶液における総無脂乳固形分および総脂肪分量はコントロール溶液と同等になるように調整した。
また、コントロール溶液における無塩バターをヒマワリ油に置き換え、総脂肪分中のヒマワリ油の量が80質量%のヒマワリ油K溶液を製造した。この際、ヒマワリ油K溶液における総無脂乳固形分および総脂肪分量はコントロール溶液と同等になるように調整した。
次に、ペットボトルに充填した各溶液については10℃、10000ルクスの光照射条件下で4日間保存し、各光照射サンプルとした。
【0091】
また、ペットボトルに充填した各溶液を冷暗所(10℃)に保管する以外、上記と同様の手法により、各光照射なしサンプルサンプルを得た。
【0092】
次に、各溶液に関し、光照射なしサンプルと光照射サンプルの風味を、実施例3と同様の手法に従い、専門パネル10名により評価した。そして、各光照射サンプル間のスコアの有意差をStudentの片側t検定を用いて測定した。
【0093】
その結果、ヤシ油K溶液およびヒマワリ油K溶液のスコアは、コントロール溶液と比較して有意に高かった(ヤシ油K溶液:P<0.01、ヒマワリ油K溶液:P<0.05)。
【0094】
実施例6:光劣化による異臭の指標となる成分の分析
実施例1と同様の手法により、コーヒー抽出液を得た。次に、得られたコーヒー抽出液59.9gに対し、脱脂粉乳59g、ホエイパウダー5g、砂糖40g、インスタントコーヒー2.3g、乳化剤製剤としてのホモゲンNo.1733(三栄源エフエフアイ(株)製)0.8g、炭酸水素ナトリウム1g、無塩バター30gを加え、水を加えて1000gとした。
次に、得られた混合液を70℃まで加温し、予備乳化(7000rpm、5分)を行い、均質化(20MPa)を行った。次に、得られた溶液を再び70℃まで加温し、再度均質化(20MPa)を行い、100℃まで加熱して殺菌した後、透明なペットボトル(380nm以上750nm以下の可視光波長領域の光の80%以上を透過)に充填して蓋をした。さらに得られた溶液を、10℃程度まで冷却し、総脂肪分が乳脂のみからなるサンプル(サンプル中の総無脂乳固形分6.0質量%、総脂肪分2.5質量%となるように各材料を調整)を得た(以下、「乳脂サンプル」ともいう)。
また、乳脂サンプルにおける無塩バターをヤシ油に置き換える以外、上記乳脂サンプルと同様の手法により、ヤシ油含有サンプルを製造した(以下、「ヤシ油サンプル」ともいう)。
なお、ヤシ油サンプルにおける総無脂乳固形分および総脂肪分量は乳脂サンプルと同等になるように各材料の調整を行った。
【0095】
次に、ペットボトルに充填した各乳脂サンプルおよびヤシ油サンプルを10℃、7500ルクスの光照射条件下で4日間保存して光照射サンプルを得た(以下、「乳脂―光照射サンプル」、「ヤシ油―光照射サンプル」ともいう)。
また、ペットボトルに充填した各乳脂サンプルおよびヤシ油サンプルを冷暗所(10℃)に4日間保管して光照射なしサンプルを得た(以下、「乳脂−光照射なしサンプル」、「ヤシ油−光照射なしサンプル」ともいう)。
【0096】
次に、各サンプルについて、GC/MS(Aglient社製6890GC/5975MS)により、光劣化の指標となる香気成分(ヘキサナール、2−ヘプテナール)の量を測定した。
測定方法は、初めに20mL容バイアル瓶に試料5gおよび飽和食塩水5gを加え密栓後、60℃で40分間保持した。保持する間にヘッドスペースに揮発したにおい成分をSPMEファイバ(Supelco社製;DVB/Carboxen/PDMS, 50/30μm;2cm)により捕集し、GC/MSに導入した。
香気成分の分析に用いた器機・条件は、以下のとおりであった。
【0097】
器機・条件
GC/MS:6890GC/5975MS(AglientTechnologies社製);
カラム:DB-WAX(AglientTechnologies社製); 30m×0.25mm、0.25μm
流速:1mL/min
注入温度:250℃
昇温条件:40℃〜250℃
(40℃で5min保持後15℃/minで昇温し、250℃達温後、10min保持)
イオン化法:EI(電子衝撃イオン化法)、イオン化電圧:70eV
分析モード:スキャン
【0098】
得られたトータルイオンクロマトグラムからヘキサナールおよび2-ヘプテナールを検出し、それぞれ質量電荷比(m/z)44および55のイオンのピーク面積を検出量とした。それぞれの検出量は表10に示した。
【0099】
【表10】
【0100】
また、図1では、ヘキサナールに関する結果をグラフに示す。
乳脂−光照射サンプルにおけるヘキサナール量は、乳脂−光照射なしサンプルにおけるそれの約3.7倍であった。一方、ヤシ油−光照射サンプルにおけるヘキサナール量は、ヤシ油−光照射なしサンプルにおけるそれの約1.2倍程度に抑制されていた。
【0101】
また、図2では、2−ヘプテナールに関する結果をグラフに示す。
乳脂−光照射サンプルでは、2−ヘプテナールが発生した一方、ヤシ油−光照射サンプルでは、2−ヘプテナールは検出されなかった。
【0102】
また、ヘキサナールおよび2−ヘプテナール以外の香気成分のうち、質量電荷比57のイオンで検出されるピーク面積で表される1−オクテン−3−オール量に関し、乳脂−光照射サンプルにおける1−オクテン−3−オール量(487,992)は、乳脂−光照射なしサンプルにおけるそれ(42,190)の約11.6倍に増加していた。一方、ヤシ油−光照射サンプルおよびヤシ油−光照射なしサンプルのいずれにおいても1−オクテン−3−オールは検出されなかった。
図1
図2