(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996977
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】ポリチオウレタン化合物、該化合物を含有するエポキシ樹脂用硬化剤、及び、該エポキシ樹脂用硬化剤を含有してなる一液型硬化性エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20160908BHJP
C07C 333/08 20060101ALI20160908BHJP
C07D 251/32 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
C08G59/40
C07C333/08CSP
C07D251/32 D
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-197075(P2012-197075)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-51598(P2014-51598A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100087631
【弁理士】
【氏名又は名称】滝田 清暉
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】森野 一英
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮
【審査官】
岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/023603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/40
C07C 333/08
C07D 251/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I
−1)、(I−2)又は(I−3)で表されるポリチオウレタン化合物;
但し、(I
−1)〜(I−3)式中
のR’は水素原子
、非置換のアルキル基
、又は、非置換若しくは置換されたフェニル基、ナフチル基、アントリル基若しくはフェナントリル基からなる群の中から選択される非置換又は置換アリール基であり、R
’’は
、非置換のアルキル基
、又は
、フェニル基、4-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、2-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-ブロモフェニル基、3-ブロモフェニル基、2-ブロモフェニル基、4-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、2-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、4-クロロ-3-ニトロフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3-トリフルオロメチルフェニル基、2-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロ)フェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基、4-ニトロフェニル基、3-ニトロフェニル基、2-ニトロフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基からなる群より選択される非置換又は置換アリール基
であり、(I−2)式中のR’’’は、水素原子、非置換のアルキル基、又は、非置換若しくは置換されたフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基からなる群より選択される非置換又は置換アリール基である。
【請求項2】
請求項1に記載されたポリチオウレタン化合物からなる群の中から選択された少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項3】
ポリエポキシ化合物及び請求項2に記載されたエポキシ樹脂用硬化剤を含有してなることを特徴とする、一液型硬化性エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリチオウレタン化合物に関し、詳しくは、ポリエポキシ化合物と組み合わせることにより、貯蔵安定性及び硬化性に優れた硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することができるポリチオウレタン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、各種基材への接着性に優れている上、その硬化物は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械特性等に比較的優れているため、塗料、接着剤、各種成型材料等の幅広い用途がある。
【0003】
従来、エポキシ樹脂組成物は、使用直前に硬化剤や硬化促進剤を添加する二液系が主流であった。二液系は、常温あるいは低温において硬化させることができるという利点を有する反面、使用直前に計量、混合しなければならない上、使用可能な時間が短いために、自動機械への適用が困難である等、使用条件が制限されるという問題がある。
【0004】
このような問題を解消するために一液型硬化性エポキシ樹脂組成物が望まれているが、一液型硬化性エポキシ樹脂組成物を得るためには、室温では硬化反応を開始させず、加熱することにより硬化反応を開始させる性質を有する、潜在性硬化剤が必要である。
【0005】
潜在性硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、二塩基酸ジヒドラジド、三フッ化ホウ素アミン錯塩、グアナミン類、メラミン、イミダゾール類等が提案されている。
しかしながら、ジシアンジアミド、メラミン、グアナミン類等とエポキシ樹脂を組み合わせた一液型硬化性エポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定性には優れているものの、150℃以上の高温を長時間加えなければ硬化しないという欠点を有する。また、これらと硬化促進剤を併用して硬化時間を短縮する方法も広く使用されているが、この場合には貯蔵安定性が著しく損なわれるという問題がある。
【0006】
一方、二塩基酸ジヒドラジドやイミダゾール類を潜在性硬化剤として使用した場合には、比較的低温で硬化はするものの、貯蔵安定性に乏しい。また、潜在性硬化剤として三フッ化ホウ素アミン錯塩を含有する一液型硬化性エポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れ、硬化時間が短いという長所がある一方、耐水性に劣る上、金属に対する腐食性を有する等の短所を有する。
更に、硬化物の物性の低下が抑制された熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、ポリチオウレタン結合含有化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物が提案されているが(特許文献1)、未だ満足できる性能のものは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−20622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の第1の目的は、一液型硬化性エポキシ樹脂用硬化剤として好適な新規化合物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、貯蔵安定性及び硬化性に優れた一液型硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することができるエポキシ樹脂用硬化剤を提供することにある。
更に、本発明の第3の目的は、貯蔵安定性及び硬化性に優れた一液型硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の諸目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のポリチオウレタン化合物をエポキシ化合物と組み合わせることにより、貯蔵安定性及び硬化性に優れた一液型硬化性エポキシ樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、下記一般式(I
−1)、(I−2)又は(I―3)で表されるポリチオウレタン化合物、該ポリチオウレタン化合物
からなる群の中から選択された少なくとも1種の化合物を含有するエポキシ樹脂用硬化剤、及び、該エポキシ樹脂用硬化剤を含有してなる
、一液型硬化性エポキシ樹脂組成物である。
但し、(I
−1)〜(I−3)式中
のR’は、水素原子、
非置換のアルキル基
、又は
、非置換若しくは置換されたフェニル基、ナフチル基、アントリル基若しくはフェナントリル基からなる群の中から選択される非置換又は置換アリール基であり、R’’は
、非置換のアルキル基
、又は
、フェニル基、4-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、2-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-ブロモフェニル基、3-ブロモフェニル基、2-ブロモフェニル基、4-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、2-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、4-クロロ-3-ニトロフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3-トリフルオロメチルフェニル基、2-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロ)フェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基、4-ニトロフェニル基、3-ニトロフェニル基、2-ニトロフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基からなる群より選択される非置換又は置換アリール基
であり、(I−2)式中のR’’’は、水素原子、非置換のアルキル基、又は、非置換若しくは置換されたフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基からなる群より選択される非置換又は置換アリール基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた硬化特性と保存安定性を有する一液型硬化性エポキシ樹脂組成物が得られる。特に、本発明の一液型硬化性エポキシ樹脂組成物は、常温で固体の成分を含まないため、作業性に優れている上、狭所における接着や含浸接着にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の化合物であるNR-1-PhTU(NR-1-フェニルチオウレタン)の
1H NMRスペクトルである。 但し、NR-1はカレンズMT NR-1(昭和電工(株)製の商品名)である。構造については、後述の式(A)を参照。以下同様。
【
図2】本発明の化合物であるNR-1-CyTU(NR-1-シクロヘキシルチオウレタン)の
1H NMRスペクトルである。
【
図3】本発明の化合物であるTMTP-PhTU(トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート−フェニルチオウレタン)の
1H NMRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリチオウレタン化合物
は、下記式(I−1)、(I−2)
又は(I−3)で表される化合物
である。
【0014】
【0015】
【0016】
前記一般式(I−1)、(I−2)及び(I−3)中のR’は、
水素原子、非置換のアルキル基、又は、非置換又は置換されたフェニル基、ナフチル基、アントリル基若しくはフェナントリルからなる群の中から選択される非置換又は置換アリール基である。
前記アルキル基としては、例えば、炭素数1〜12の直鎖型、分岐型又は脂環式のアルキル基等が挙げられ、
具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基等が挙げられ
る。
【0017】
また、
前記一般式(I−1)、(I−2)及び(I−3)中のR’’は、非置換のアルキル基、又は、フェニル基、4-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、2-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-ブロモフェニル基、3-ブロモフェニル基、2-ブロモフェニル基、4-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、2-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、4-クロロ-3-ニトロフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3-トリフルオロメチルフェニル基、2-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロ)フェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基、4-ニトロフェニル基、3-ニトロフェニル基、2-ニトロフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基からなる群より選択される非置換又は置換アリール基である。
前記アルキル基としては、例えば、炭素数1〜12の直鎖型、分岐型又は脂環式のアルキル基が挙げられ
、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基、アミル基、イソアミル基、第三アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、第三オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられ
る。
【0018】
また、一般式(I−2)中のR’’’
は、水素原子、非置換のアルキル基、又は、非置換若しくは置換されたフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基からなる群より選択される非置換又は置換アリール基である。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基、アミル基、イソアミル基、第三アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、第三オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられ
る。
【0019】
本発明のポリチオウレタン化合物は、下記式に示される通り、ポリチオール化合物とイソシアネート化合物とを反応させることにより得られる。
上記の反応におけるチオール化合物とイソシアネート化合物の使用量は、イソシアネート基とメルカプト基の比([NCO]/[SH]比)として、0.5〜1であることが好ましく、1であることが最も好ましい。
但し、上記反応式中の一般式(I)は、前記一般式(I−1)〜(I−3)を上位概念化した化学式である。
【0020】
前記反応に使用される触媒としては、例えば、ジブチル錫ラウレート、ジ(2-エチルヘキサン酸))錫等のスズ化合物;テトラアルキルチタネート等のチタン化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のホスフィン類;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン;ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン等のピリジン類;及び、1-メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
【0021】
また、前記反応に使用される溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、アセトン、メチルイソプロピルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、イソ-又はn-ブタノール、イソ-又はn-プロパノール、アミルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;テレピン油、D-リモネン、ピネン等のテルペン系炭化水素油;ミネラルスピリット、スワゾール#310(コスモ松山石油(株))、ソルベッソ#100(エクソン化学(株))等のパラフィン系溶剤;四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエチレン、塩化メチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;アニリン、トリエチルアミン、ピリジン、ジオキサン、酢酸、アセトニトリル、二硫化炭素、ジメチルスルホキシド、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。
【0022】
前記反応は、通常、−80〜200℃の温度下で、0.5時間〜72時間かけて行われるが、反応温度は室温〜80℃であることが好ましく、反応時間は1時間〜8時間であることが好ましい。
【0023】
本発明のポリチオウレタン化合物は、単独で本発明のエポキシ樹脂用硬化剤として機能するが、必要に応じて、他のエポキシ樹脂硬化剤を併用してもよい。本明細書においては、これらを総称して、以後、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤とする。
【0024】
併用することができるエポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-(2-メチルイミダゾール-1-イルメチル)ナフタレン-2-オール等のイミダゾール類;ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキルポリアミン類;1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン類;m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン類等が挙げられる。
【0025】
また、前記ポリアミン類と、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類若しくはカルボン酸のグリシジルエステル類等の各種エポキシ樹脂とを、常法によって反応させることによって製造されるポリエポキシ付加変性物;前記有機ポリアミン類と、フタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸等のカルボン酸類とを常法によって反応させることによって製造されるアミド化変性物;又は、前記ポリアミン類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類、及び、フェノール、クレゾール、キシレノール、第三ブチルフェノール、レゾルシン等の、核に少なくとも一個のアルデヒド化反応性場所を有するフェノール類とを、常法によって反応させることによって製造されるマンニッヒ化変性物を使用することもできる。
更に、ジシアンジアミド、酸無水物、イミダゾール類等の潜在性硬化剤を併用してもよい。
【0026】
本発明の一液型硬化性エポキシ樹脂組成物は、ポリエポキシ化合物及び本発明のエポキシ樹脂用硬化剤を含有する。
本発明の一液型硬化性エポキシ樹脂組成物に使用されるポリエポキシ化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルシノール等の単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2-テトラ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホニルビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、テルペンフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリグリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA-エチレンオキシド付加物等の多価アルコール類のポリグリシジルエーテル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸のグリシジルエステル類;及びグリシジルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;N,N-ジグリシジルアニリン、ビス(4-(N-メチル-N-グリシジルアミノ)フェニル)メタン、ジグリシジルオルトトルイジン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物が挙げられる。
また、これらのポリエポキシ化合物は、末端にイソシアネートを有するプレポリマーによって内部架橋されたもの、又は、多価フェノール、ポリアミン、カルボニル基含有化合物、ポリリン酸エステル等の、多価の活性水素化合物によって高分子量化されたものでもよい。
【0027】
また、ポリエポキシ化合物のエポキシ当量は、70〜3000であることが必要であり、特に、90〜2000であることが好ましい。
ポリエポキシ化合物のエポキシ当量が70未満では、硬化物の物性が低下するおそれがあり、3000よりも大きい場合には、十分な硬化性が得られなくなるおそれがある。
【0028】
更に、本発明の一液型硬化性エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、硬化触媒;モノグリシジルエーテル類、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ベンジルアルコール、コールタール等の反応性又は非反応性の希釈剤又は可塑剤;ガラス繊維、炭素繊維、セルロース、ケイ砂、セメント、カオリン、クレー、水酸化アルミニウム、ベントナイト、タルク、シリカ、微粉末シリカ、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、瀝青物質等の充填剤又は顔料;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-N’-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、イボタロウ、みつろう、ラノリン、鯨ろう、モンタンワックス、石油ワックス、脂肪酸ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族エステル、芳香族エーテル等の潤滑剤;増粘剤;チキソトロピック剤;酸化防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;消泡剤;防錆剤;コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等の常用の添加物を含有してもよく、更に、キシレン樹脂、石油樹脂等の粘着性の樹脂類を併用することもできる。
【0029】
本発明の一液型硬化性エポキシ樹脂組成物は、例えば、コンクリート、セメントモルタル、各種金属、皮革、ガラス、ゴム、プラスチック、木、布、紙等に対する塗料あるいは接着剤;包装用粘着テープ、粘着ラベル、冷凍食品ラベル、リムーバルラベル、POSラベル、粘着壁紙、粘着床材の粘着剤;アート紙、軽量コート紙、キャストコート紙、塗工板紙、カーボンレス複写機、含浸紙等の加工紙;天然繊維、合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の収束剤、ほつれ防止剤、加工剤等の繊維処理剤;シーリング材、セメント混和剤、防水材等の建築材料;電子・電気機器用封止剤等の、広範な用途に使用することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
[NR-1-PhTU(NR-1-フェニルチオウレタン)の合成]
三官能チオールとしてカレンズMT NR-1(昭和電工(株)製の商品名)34.03gを、500mLの二つ口丸底フラスコに仕込み、減圧乾燥及び窒素置換を行った後、無水DMF(関東化学(株)製)42mL及びトリエチルアミン0.83mLを加え、0℃に冷却した。
【0032】
次いで、フェニルイソシアナート(関東化学(株)製)19.5mLを撹拌しながら添加し、30分間撹拌した後、室温に戻した。更に、3時間撹拌した後、酢酸エチル600mLを加えた。有機相を、蒸留水300mLを用いて洗浄した。上記洗浄を4回行なった後、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過して、溶媒を減圧除去した。
このようにして得られた反応生成物を60℃で2時間減圧乾燥して、白色結晶状の目的化合物NR-1-PhTUを56.0g得た。NR-1-PhTUは定量的に得られた。
【実施例2】
【0033】
[NR-1-CyTU(NR-1-シクロヘキシルチオウレタン)の合成]
三官能チオール化合物としてカレンズMT NR-1(昭和電工(株)製の商品名)34.03g、及び、ジラウリン酸ジブチルスズ(Bu
2SnLau
2)(東京化成工業(株)製)0.025gを、300mLの二つ口丸底フラスコに仕込み、減圧乾燥及び窒素置換を行った後、無水DMF(関東化学(株)製)14mLを加えた。
【0034】
次いで、シクロヘキシルイソシアナート(東京化成工業(株)製)7.6mLを撹拌しながら添加し、室温下で23時間撹拌した後、更にシクロヘキシルイソシアナート(東京化成工業(株)製)7.6mLを添加した。
室温で23時間撹拌した後、トリエチルアミン0.83mLを添加した。3時間後、蒸留水100mLを添加して1時間撹拌した。酢酸エチル100mLを加え、1時間撹拌した後に、更に酢酸エチル100mLを加えた。水相を分離した後、有機相を飽和食塩水100mLを用いて洗浄した。上記洗浄を3回繰り返した後、水相を分離し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過して、溶媒を減圧除去した。
このようにして得られた生成物を60℃で2時間減圧乾燥して、白色結晶状の目的化合物NR-1-CyTUを16.6g得た。
NR-1-CyTUの収率は88%であった。
【0035】
実施例1及び2における反応は下記式(A)により表される。
【実施例3】
【0036】
[TMTP-PhTU(TMTP-フェニルチオウレタン)の合成]
三官能チオールであるTMTP(トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)(淀化学(株)製)15.94gを300mLの二つ口丸底フラスコに仕込み、減圧乾燥した。その後窒素置換し、無水DMF(関東化学(株)製)28mL、トリエチルアミン0.55mLを加え、0℃に冷却した。フェニルイソシアナート(関東化学(株)製)13.0mLを撹拌しながら添加し、30分間撹拌した後、室温に戻した。
【0037】
3時間撹拌した後、酢酸エチル200mLを加え、有機相を蒸留水200mLを用いて洗浄した。上記洗浄を4回繰り返した後水相を分離し、有機相を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、ろ過して、溶媒を減圧除去した。
このようにして得られた生成物を60℃で2時間減圧乾燥して、無色粘調物の目的化合物TMTP-PhTU29.8gを得た。TMTP-PhTUの収率は99%であった。
【0038】
実施例3における反応は下記式(B)により表される。
【0039】
[構造解析]
合成したポリチオウレタンの構造を、
1H NMR測定(JNM EX-400、日本電子(株)製)により確認した。
各化合物の重クロロホルム中におけるNMRスペクトルは、
図1〜3に示された通りである。尚、図中のxは酢酸エチルのピークを示す。
【実施例4】
【0040】
[硬化物の作製]
アデカレジンEP-4100E((株)ADEKA製の商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:190)、実施例1で得られたNR-1-PhTU、Bu
2SnLau
2(ジブチル錫ジラウレート)、PPh
3(トリフェニルホスフフィン)、及びBnOH(ベンジルアルコール)を下記表1の比率で混合し、一液型硬化性エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0041】
得られた樹脂組成物を、180℃で1時間加熱することにより、柔軟な硬化物が得られた。
また、前記一液型硬化性エポキシ樹脂組成物の粘度を、粘度計(東京計器(株)製)を用いて測定した結果、初期粘度は26.3Pa・sであり、25℃で1日保管した後の粘度は、67.7Pa・sであった。
【0042】
[比較例1]
表1に示された量のEP-4100E、NR-1及びPPh
3を混合して、一液型硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
【0043】
得られた樹脂組成物について、実施例4の場合と同様に粘度を測定した結果、初期粘度は15.7Pa・sであったが、25℃で保管したところ、1日後には樹脂組成物が硬化し、測定不可能になった。
【0044】
実施例4及び比較例1の一液型硬化性エポキシ樹脂組成物の組成及び保存安定性の評価結果を表1に示す。
この結果から明らかなように、本発明のポリチオウレタン化合物を硬化剤として含有する、一液型熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、保存安定性に優れていることが確認された。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のポリチオウレタン化合物は、保存安定性及び硬化性に優れた一液型硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することができるため、塗料、接着剤、粘着剤、加工紙、繊維処理剤、建築材料及び電子・電気機器用封止剤等の広範な用途があり、産業上極めて有用である。