(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体及び/又は前記板状体中には、3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに連通してなる肺胞状の空孔が形成されたことを特徴とする、炭素ナノ構造体。
前記空孔は、表皮付近の存在する空孔径が1nm以上20nm以下の第1の空孔と、内部に存在する空孔径が10nm以上80nm以下の第2の空孔とを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
炭素を含む棒状体または板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体又は前記板状体中には、3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに連通してなる肺胞状の空孔が形成されてなる炭素ナノ構造体と、
前記肺胞状の空孔内に担持した金属体と、
を具えることを特徴とする、金属担持炭素ナノ構造体。
前記金属体は、Si,Ge,Sn,In,Sb,及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含むことを特徴とする、請求項7又は8に記載の金属担持炭素ナノ構造体。
前記炭素ナノ構造体は、3次元網状構造の一体型構造物であって、前記金属担持炭素ナノ構造体は、3次元網状構造の一体型構造物であることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一に記載の金属担持炭素ナノ構造体。
前記空孔は、表皮付近の存在する空孔径が1nm以上20nm以下の第1の空孔と、内部に存在する空孔径が10nm以上80nm以下の第2の空孔とを含むことを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一に記載の金属担持炭素ナノ構造体。
前記金属体は、第一の空孔または、第二の空孔内に空孔サイズよりも小さい大きさで担持されている部分を少なくとも含んでいることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか一に金属担持炭素ナノ構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、リチウムイオン2次電池の負極材などとして使用することのできる、新規な構造の炭素ナノ構造体及び金属担持炭素ナノ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明は、
炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体及び/又は前記板状体中には、3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに連通してなる肺胞状の空孔が形成されたことを特徴とする、炭素ナノ構造体に関する。
【0012】
また、本発明は、
炭素を含む棒状体または板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体又は前記板状体中には、3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに連通してなる肺胞状の空孔が形成されてなる炭素ナノ構造体と、
前記肺胞状の空孔内に担持した金属体と、
を具えることを特徴とする、金属担持炭素ナノ構造体に関する。
【0013】
本発明の炭素ナノ構造体は、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合して構造体をなすとともに、棒状体及び/又は板状体中には、肺胞状の空孔が形成されている。したがって、肺胞状の空孔中に、目的に応じて種々の物質を担持させることによって、上記炭素ナノ構造体を種々の用途に供することができる。
【0014】
また、本発明の金属担持炭素ナノ構造体は、上記炭素ナノ構造体の肺胞状の空孔内に金属体を担持するようにしている。したがって、金属体の種類を適宜に変化させることによって、上記金属担持炭素ナノ構造体を種々の用途に供することができる。
【0015】
これらのことより、上記炭素ナノ構造体及び金属担持炭素ナノ構造体は、リチウムイオン2次電池の負極材として用いることができる。
【0016】
特に、金属体をリチウム金属を可逆的に吸蔵放出可能な金属体から構成することにより、上記金属担持炭素ナノ構造体は、リチウムイオン2次電池の負極材として用いることができる。
【0017】
なお、本発明における“ナノ構造体”とは、以下に詳述するように、この構造体を特徴づける構成要素が、nmオーダから数百nmオーダのスケールのものを含むことに由来して名付けられたものである。
【0018】
また、本発明における“肺胞状の空孔”とは、空孔を画定するグラフェン多層膜壁の、任意の層が枝分かれを繰り返し、隣接する空孔同士が互いに連通しているような状態をいう。
【0019】
上記炭素ナノ構造体は任意の形状とすることができるが、以下に説明する製造方法を用いた場合は、一般には3次元網状構造の一体型構造物(モノリス)として形成される。この場合、上記金属担持炭素ナノ構造体も同じく3次元網状構造の一体型構造物(モノリス)として形成される。
【0020】
上述した炭素ナノ構造物及び金属担持炭素ナノ構造体は、以下のような製造方法によって得ることができる。
【0021】
すなわち、炭素ナノ構造物の製造方法は、
金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体を作製する工程と、
前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製する工程と、
前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させて、前記金属内包炭素ナノ構造体中の前記金属の少なくとも一部を溶出させる工程と、
前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させる工程と、
を具えることを特徴とする。
【0022】
また、金属担持炭素ナノ構造体の製造方法は、
金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体を作製する工程と、
前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製する工程と、
前記金属内包炭素ナノ構造物を硝酸と接触させて、前記金属内包炭素ナノ構造体中の前記金属の少なくとも一部を溶出させるとともに、第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させて、炭素を含む前記棒状体及び/又は前記板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体又は前記板状体中にグラフェン多層膜壁で画定される肺胞状の空孔が形成されてなる炭素ナノ構造体を得る工程と、
金属塩化物を溶媒中に溶解させて前記金属塩化物を含む溶液を得、この溶液と前記炭素ナノ構造体とを混合し、脱溶媒処理によって前記炭素ナノ構造体中の前記肺胞状の空孔内に前記金属塩化物を封入する工程と、
前記金属塩化物に対して脱塩素反応を生ぜしめ、前記空孔内に前記金属塩化物中の金属を析出させて担持させる工程と、
を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、リチウムイオン2次電池の負極材などとして使用することのできる、新規な構造の金属担持炭素ナノ構造体、及びその基本構造となる炭素ナノ構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0026】
(炭素ナノ構造体)
本発明の金属担持炭素ナノ構造体の基本構造である炭素ナノ構造体は、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体及び/又は前記板状体中には、グラフェン多層膜壁で画定される肺胞状の空孔が形成されている。
【0027】
図1は、本発明の炭素ナノ構造体の一例を示す外観SEM写真であり、
図2及び
図3は、
図1に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【0028】
図1に示す炭素ナノ構造体は、厚紙の束を燃やして炭化させた燃えかすのような形状をしており、多数のミクロンオーダーの孔がランダムに形成され、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)となっている。また、
図2及び
図3に示すように、その表面は瘤状の隆起物で覆われている。このような特徴は、以下に説明する製造方法に由来するものである。
【0029】
但し、
図1〜
図3に示す炭素ナノ構造体はあくまで一例であって、製造方法を適宜変更あるいは変形させることによって任意の形状の炭素ナノ構造体を製造することができる。
【0030】
図4及び
図5は、
図1に示す炭素ナノ構造体の銅メチルアセチリドの棒状結晶体及び/または板状結晶体のSEM写真である。なお、炭素ナノ構造体を構成する棒状体の直径及び前記板状体の幅は約100nm以上10μm以下である。
【0031】
図6は、
図1に示す炭素ナノ構造体の一部におけるTEM写真である。
図6から明らかなように、本例における炭素ナノ構造体は、その内部において3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに連通してなる肺胞状の空孔を有することが分かる。また、肺胞状の空孔は、空孔を画定するグラフェン多層膜壁の、任意の層が枝分かれを繰り返し、ある1つの空孔を画定する層がその空孔と隣接する空孔をも画定し、これによって隣接する空孔同士が互いに連通していることが分かる。
【0032】
また、
図6からも明らかなように、上記空孔は、一般には表皮付近の比較的小さな、例えば空孔径が1nm以上20nm以下の空孔(第1の空孔)と、内部の比較的大きな、例えば空孔径が10nm以上80nm以下の空孔(第2の空孔)とを含む。なお、以下に説明するように、金属を担持させる場合は、主として表皮付近の比較的小さな第1の空孔内に担持させる。
【0033】
本例における炭素ナノ構造体は、例えば80m
2/g以上のBET比表面積を有し、場合によっては300m
2/g以上のBET比表面積を有する。BET比表面積の大小は、例えば炭素ナノ構造体を構成する棒状体及び板状体の直径や、炭素ナノ構造体中に含まれる空孔径に依存する。例えば、棒状体及び板状体の直径が小さいほど、さらには空孔径が小さいほど上記BET比表面積は増大する。
【0034】
炭素ナノ構造体の空孔および網状構造によって生じるメソ空間の分布は、例えば小角X線散乱スペクトルによって知ることができる。
【0035】
次に、炭素ナノ構造体の製造方法について説明する。
最初に、炭素ナノ構造体の前駆体に相当する金属内包炭素ナノ構造体を製造する。金属内包炭素ナノ構造体は、例えば以下の製造工程に基づいて製造することができる。
【0036】
塩化第一銅のアンモニア水溶液にメチルアセチレンガスまたはメチルアセチレンを含む混合ガスを吹き込む。この際、前記溶液の攪拌を激しく行う。これによって、前記溶液中に黄色の銅メチルアセチリドの棒状結晶体及び/または板状結晶体(
図4及び
図5参照)の沈殿物が生成する。
【0037】
次いで、前記沈殿物を大きめのステンレス製耐圧反応管に移し、真空電気炉又は真空高温槽中に入れ、例えば90〜120℃の温度で例えば12時間以上脱溶媒処理を行う。これに、例えば水素ガスを0.01kPa以下、好ましくは0.001kPa以上となるようにして導入し、さらに210〜250℃に加熱(第1の加熱処理)すると、暫くしてガスが発生し、メタンとエチレンの気体、炭素と銅ナノ粒子の固体への偏析反応が起こる。
【0038】
また、上記加熱処理によって、偏析反応によって生成した炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体が得られ、その後、偏析反応によって生成した銅ナノ粒子が炭素ナノ構造中間体中に内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を得る。
【0039】
なお、水素ガスの導入は反応直後に生じた炭素の末端の酸化を防ぐためである。また、上述のように水素ガス中で加熱処理を行うことによって、比較的低い温度で偏析反応を生ぜしめることができるとともに、金属内包炭素ナノ構造体を得ることができる。また、偏析反応に伴うガスの発生は、金属内包炭素ナノ構造体中に無数の空洞を形成する。したがって、金属内包炭素ナノ構造体は、
図1に示すような、多数のミクロンオーダーの空隙がランダムに形成され、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)となる。
【0040】
本例では、金属内包炭素ナノ構造体を製造するに際し、塩化第一銅のアンモニア水溶液を用い、金属内包炭素ナノ構造体に内包する金属を銅としているが、これは原料である塩化第一銅の準備及び調整を容易に行うことができることに由来するものである。
【0041】
なお、金属内包炭素ナノ構造体自体も金属体を内包しているので高い電気伝導性を呈する。したがって、高い気孔性と高い電気伝導性とを十分に満足した炭素構造体(炭素材料)として機能させることができる。したがって、電極や触媒担持電極等として好適に用いることができる。この場合、上述のように、内包させる金属を銅とすることにより、電気伝導性をより向上させることができる。
【0042】
次に、上述のようにして得た金属内包炭素ナノ構造物に対して硝酸を接触させる。これは、金属内包炭素ナノ構造体内に内包されている上記金属が、これを囲む炭素壁によって強固に保持されているため、上記硝酸によって上記金属を取り囲む炭素壁を溶かし、以下に説明する第2の加熱処理によって上記金属の噴出を容易かつ完全に行うようにし、上記金属除去後の金属内包炭素ナノ構造体に形成される、後の炭素ナノ構造体の空孔に相当する空洞中に上記金属が残留するのを防止するためのものである。
【0043】
なお、金属内包炭素ナノ構造物を硝酸に接触させた際には、この金属内包炭素ナノ構造物中に内包された上記金属の少なくとも一部が溶出する。
【0044】
また、硝酸は、適宜水で薄めて硝酸水溶液として使用することができる。硝酸との接触時間は、用いる硝酸水溶液の濃度などにも依存するが、好ましくは数十時間である。
【0045】
次に、第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される金属を噴出(昇華離脱)させ、上述した炭素ナノ構造体を得る。この場合、金属の噴出後の空洞が炭素ナノ構造体の空孔を形成する。第2の加熱処理は、例えば真空中、900℃〜1400℃の温度において数時間、具体的には5時間〜10時間行う。
【0046】
なお、この第2の加熱処理は、上述の金属を囲む炭素をグラフェン化して、グラフェン多層膜壁の形成に寄与し、さらにはグラフェン多層膜壁の任意の層を枝分かれさせて、肺胞状の空孔の形成に寄与する。
【0047】
第2の加熱処理は、マイクロ波を用いて行うこともできる。この場合、上記のような真空加熱に比較して、コストを抑えることができる。
【0048】
以上の工程を経ることにより、上述した炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなり、前記棒状体及び/又は前記板状体中に、グラフェン多層膜壁で画定される肺胞状の空孔が形成されてなる炭素ナノ構造体が得られる。
【0049】
また、上述した内容から明らかなように、炭素ナノ構造体の、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)を呈するという構造上の特徴は、上述した製造方法、すなわち、炭素ナノ構造体の前駆体に相当する金属内包炭素ナノ構造体が当該構造上の特徴を有することに起因していることが分かる。
【0050】
なお、金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、残存した前記金属を除去することができる。上述したように、炭素ナノ構造体の肺胞状の空孔は、金属内包炭素ナノ構造体が内包する金属を噴出させた後の空洞から構成されるので、当該空洞、すなわち空孔内に噴出させるべき金属が残存していると、上記炭素ナノ構造体の用途によっては、残存した金属がその用途特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0051】
しかしながら、上述のように、金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、空洞内、すなわち形成すべき空孔内に残存する金属を除去することによって、上述した不利益を除去することができる。
【0052】
上記溶解洗浄は、例えば金属内包炭素ナノ構造体を4〜8時間熱硝酸に浸漬させることによって行うことができる。
【0053】
また、金属内包炭素ナノ構造体に残存する金属を除去するに際しては、金属内包炭素ナノ構造体に対して第3の加熱処理を施して行うこともできる。この場合、第3の加熱処理を例えば500℃〜1400℃の範囲で行うことによって、残留した金属を炭素から分離して除去することができる。
【0054】
なお、金属内包炭素ナノ構造体に残存する金属を除去するに際しての溶解洗浄と第3の加熱処理とは、それぞれ単独で用いることもできるし、両者を併合させて用いることもできる。
【0055】
(金属担持炭素ナノ構造体)
本発明の金属担持炭素ナノ構造体は、上述のようにして得た炭素ナノ構造体の肺胞状の空孔、主として空孔径の小さい第1の空孔に所定の金属体を担持させてなる。
【0056】
金属体は目的に応じて任意の金属体とすることができるが、金属担持炭素ナノ構造体をリチウムイオン2次電池の負極材として用いる場合、Si,Ge,Sn,In,Sb,及びZnなどの、リチウム金属を可逆的に吸蔵放出可能な金属体から構成する。なお、シリコンは厳密には半導体に属するものであるが半金属的な性質をも示すので、本願では金属として扱うこととする。
【0057】
なお、金属体の代わりにリチウム遷移金属リン酸化物や、硫化リチウムなどを担持させれば、上記金属担持炭素ナノ構造体は、リチウムイオン2次電池の正極材として使用することができる。
【0058】
また、上記金属体は、炭素ナノ構造体の空孔総てに担持されることなく、空孔の少なくとも一部は上記金属体が担持されずに、空孔として残存していることが好ましい。これは、金属担持炭素ナノ構造体が、例えばリチウムイオン2次電池の負極材として使用された場合において、担持した金属はリチウムを吸蔵することによって体積が3〜4倍に膨れてしまい、ある割合以上になるとリチウムの浸入が阻害され、負極材として十分に機能することができない場合がある。一方、金属体が担持せずに空孔がそのまま残存することによって、これら空孔が金属体の膨張に対するクッションとしての役割をし、負極材は破壊されることなく、また、リチウムイオンの浸入経路も確保され十分にその機能を発揮することができるようになる。
【0059】
次に金属担持炭素ナノ構造体の製造方法について説明する。
最初に、上述のようにして炭素ナノ構造体を製造した後、金属塩化物を溶媒中に溶解させて前記金属塩化物を含む溶液を得、この溶液と前記炭素ナノ構造体とを混合し、空孔からの脱溶媒処理によって前記炭素ナノ構造体中の前記空孔内に前記金属塩化物を封入する。その後、前記金属塩化物に対して脱塩素反応を生ぜしめ、前記空孔内に前記金属塩化物中の金属を析出させて担持させる。
【0060】
例えば、炭素ナノ構造体に対して錫を担持させる場合は、炭素ナノ構造体の肺胞状の空孔の体積に相当するような量の塩化第一錫をテトラヒドロフランに溶解させ、この溶液と炭素ナノ構造体とを混合して沸騰処理を行い、煮沸脱溶媒によって炭素ナノ構造体の空孔中に塩化第一錫(の結晶)を閉じ込める。なお、必要に応じて、塩化第一錫を閉じ込めた後の炭素ナノ構造体を、極めて少量のテトラヒドロフランによって洗浄し、炭素ナノ構造体の外部に付着した塩化第一錫を溶解除去する。
【0061】
次いで、例えば、リチウム芳香族錯体、ナトリウム芳香族錯体などの強力な還元剤によって還元すると、脱塩素反応を生じ、炭素ナノ構造体の肺胞状の空孔内には錫のみが担持されるようになる。
【0062】
なお、錫を担持させる場合、担持の仕方が不適当な場合、錫結晶が大きくなって電気容量が小さくなることがあるため、錫結晶の粒界を空孔の大きさ以下に保つことが望ましい。このためには、前記操作において第一塩化銅を、例えば第一塩化錫の1/10グラム当量程度のアセトニトリルに溶解した溶液を、上記第一塩化錫を含むテトラヒドロフラン溶液に加えて共沈させる。その後、上記煮沸脱溶媒及び脱塩素反応を生ぜしめることにより、大部分の銅は錫銅合金として粒界を形成し、錫結晶の成長が阻止される。この時の反応温度は摂氏零度以下にすることが重要である。これによって、より良好な電気容量とサイクル特性を得ることができる。
【0063】
なお、炭素ナノ構造体にケイ素を担持するには、SiCl
4などの塩化ケイ素液体と炭素ナノ構造体とを混合、すなわち塩化ケイ素液体を炭素ナノ構造体の空孔中に含浸させ、その後、リチウム芳香族錯体、ナトリウム芳香族錯体などの強力な還元剤によって還元すると、脱塩素反応を生じ、炭素ナノ構造体の肺胞状の空孔内にはケイ素のみが担持されるようになる。
【0064】
(リチウムイオン2次電池)
次に、本発明のリチウムイオン2次電池について具体的に説明する。本発明のリチウムイオン2次電池は、いわゆる非水電解液型のリチウムイオン2次電池であって、上述した炭素ナノ構造体及び金属担持炭素ナノ構造体を負極活物質に用いること以外は従来公知の非水電解液型のリチウムイオン2次電池と同様の構成とすることができる。すなわち、上記の非水電解液電池用負極と、正極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、両極の間に介在するセパレータと、を有する。
【0065】
正極は、正極活物質、導電剤及び結着剤からなる正極合材を適用な溶媒に懸濁させて混合し、スラリーとしたものを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥することで作製することができる。
【0066】
正極活物質としては、種々の酸化物、硫化物、リチウム含有酸化物、導電性高分子などを用いることができる。例えば、MnO
2、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2、Li
1−xMnO
2、Li
1−xMn
2O
4、Li
1−xCoO
2、Li
1−xNiO
2、Li
1−xNiPO
4、Li
1−xMnPO
4、Li
1−xFePO
4、Li
1−xNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiV
2O
3、V
2O
5、S、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリチオフェン、ポリピロール、及びそれらの誘導体、安定ラジカル化合物、が挙げられる。なお、これらの正極活物質におけるxは0〜1の数を示す。
【0067】
また、これらのリチウム−金属複合酸化物を単独で用いるばかりでなくこれらを複数種類混合して用いることもできる。このなかでもリチウム−金属複合酸化物としては、層状構造またはスピネル構造のリチウムマンガン含有複合酸化物、リチウムニッケル含有複合酸化物及びリチウムコバルト含有複合酸化物、オリビン型のLiFePO
4材料のうちの1種以上であることが好ましい。
【0068】
正極の導電材としては、黒鉛の微粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバーなどのカーボンブラック、ニードルコークスなどの無定形炭素の微粒子などが使用されるが、これらに限定されない。また、前記炭素ナノ構造体を用いることもできる。
【0069】
結着剤としては、例えば、PVDF、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、SBR、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
正極活物質などが分散する溶媒としては、通常は結着剤を溶解する有機溶剤が使用される。例えば、NMP、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどを挙げることができるが、これらに限定されない。また、水に分散剤、増粘剤などを加えてPTFEなどで活物質をスラリー化する場合もある。
【0071】
非水電解液は、リチウムイオンを含有すること以外は、従来公知の非水電解液と同様の構成とすることができる。すなわち、従来公知のリチウムイオン電池の非水電解液を用いることができる。この非水電解液としては、有機溶媒に非水電解質を溶解して構成することができる。
【0072】
有機溶媒は、通常リチウム二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えばカーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート等及びそれらの混合溶媒が適当である。例に挙げたこれらの有機溶媒のうち、特にカーボネート類、エーテル類からなる群より選ばれた1種以上の非水溶媒を用いることにより、電解質の溶解性、誘電率及び粘度において優れ、電池の充放電効率が高いので、好ましい。
【0073】
非水電解質は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4及びLiAsF
6から選ばれる無機塩、これらの無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
3及びLiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、から選ばれる有機塩、並びにこれらの有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが望ましい。これらの非水電解質は、電池性能をさらに優れたものとすることができ、かつその電池性能を室温以外の温度域においてもさらに高く維持することができる。電解質の濃度についても特に限定されるものではなく、用途に応じ、電解質及び有機溶媒の種類を考慮して適切に選択することが好ましい。
【0074】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。例えば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。なおセパレータは、正極と負極との絶縁を担保するため、正極及び負極よりもさらに大きいものとするのが好ましい。
【0075】
本発明の非水電解液電池は、上記の要素以外に、その他必要に応じた要素とからなる。本発明の非水電解液電池は、その形状には特に制限を受けず、コイン型、円筒型、角型等、種々の形状の電池として使用できる。
【実施例】
【0076】
[炭素ナノ構造体]
(実施例1)
最初に、第一塩化銅を0.1モル/L(リッター)の濃度で含むアンモニア水溶液(5.5%)をフラスコに用意し、これを激しく攪拌しながら窒素ガスで10%に希釈したメチルアセチレンガスを1L の溶液に対し200mL/min の流速で約120分間、回転する溶液の底部から吹き込んだ。これによって、溶液中に銅メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体が生じ沈殿を始めた。
【0077】
次いで、前記沈殿物をメンブレンフィルターで濾過し、ろ過の際に、前記棒状結晶体及び/又は板状結晶体の沈殿物をメタノールで洗浄した。反応時間を長くすると、数百ミクロンの長さにまですることができる。この操作を6回繰り返し、黄色のワイヤー結晶水和沈殿物約50gを得た。
【0078】
次いで、前記沈殿物50gを300mLの肉厚ビーカーに入れ、これを更に3Lの肉厚ビーカーに入れてこれにテフロン(登録商標)の板を置いて蓋とした。テフロン(登録商標)の板は4枚で、それぞれ厚さ10mmで空気抜けの小さな穴が重ならないように開けてある。これを内径155mm、高さ300mm、肉厚5mmのステンレス製真空容器に入れ、一度、100Pa以下に減圧する。この状態で水素ガスを1L導入し、0.3気圧程度の圧力で、反応容器の温度を250℃に30分かけて昇温させた。
【0079】
この際、圧力は徐々に上がって来るが、2〜3時間後に急に圧力が1気圧強まで上昇した。これを冷却することによって真空容器内部に約20gの金属内包炭素ナノ構造体を得た。
【0080】
次いで、1Lの三角フラスコに、得られた金属内包炭素ナノ構造体の20gを入れ、30〜40質量%の硝酸水溶液400mLを加えると、炭素ナノ構造体は萎むと同時に赤褐色の二酸化窒素ガスを発生し、さらに炭素ナノ構造体中に残留した銅が溶解した。60℃程度に約30‐48時間加熱し、銅の溶解と不安定な炭素を酸化させた。
【0081】
これを濾過し、十分に洗浄乾燥させ、石英管に入れて1100℃で12時間程度真空加熱を行った。すると石英管の末端の低温部の壁にまず有機物薄膜が、次いで銅が昇華沈着した。炭素部分のみを取り出し、再度、熱硝酸で残留銅を溶解し、これを乾燥の後、アルミナ製タンマン管に入れて1400℃で10時間加熱した。
【0082】
この段階で得られた炭素ナノ構造体にTGA(熱重量測定)を実施した結果、
図7に示すようなグラフが得られた。これは、燃焼温度が680℃とグラファイトに近く、残留金属も2重量%以下であった。このもののTEM像を
図8に、電子エネルギー損失スペクトルを
図9に、小角X線散乱スペクトルから得られた空孔分布(体積)を
図10に、窒素の吸脱着等温線を
図11に示した。
図10に示すグラフから、炭素ナノ構造体の表面近傍では約6nmの小さい空孔が多く(Comp. 1 and 3)、炭素ナノ構造体の内部では約40nmの大きな空孔が多い(Comp. 2)ことがわかる。また、吸脱着等温線から求めたBrunauer,Emmett,Teller(BET)比表面積は、300m
2/gであった。
【0083】
(実施例2)
実施例1においては、銅ナノ粒子を内包した炭素ナノ構造体を硝酸処理によって銅の除去と空孔どうしの空間結合部の拡大を図っている。本実施例では、1100℃の真空加熱の代わりに、マイクロ波による加熱を実施した。なお、加熱時間は2時間弱で十分であった。硝酸処理では、空孔同士が結合して、平均径が40nmという大きな空孔が生じた。
【0084】
[金属担持炭素ナノ構造体]
(実施例3:空孔内への錫の担持1)
次いで、実施例1及び2で得た炭素ナノ構造体それぞれの1gを5gの塩化第一錫を含むテトラヒドロフラン50mLに溶解し、さらに球管冷却器を装着したセパラブル丸底フラスコ中で90℃、4時間沸騰乾留を続け、炭素ナノ構造体の空孔内の空気を溶液と置換した。続いて、冷却器を横配置に変えて溶媒蒸留を行った。溶媒がほぼ蒸発しきったところで、フラスコ内の固形物をろ過し、さらに固形物の容積の半分程度のテトラヒドロフランを滴下して、炭素ナノ構造体の外壁に付着した塩化第一錫を洗浄除去した。
【0085】
次いで、前記塩化第一錫を内包した炭素ナノ構造体を、リチウム
+・ビフェニル
−の2Mの濃度のテトラヒドロフラン溶液中で、摂氏零度で還元した。次いで、炭素ナノ構造体を含む溶液を、テトラヒドロフランで室温で洗浄した後、90℃のN,N’-ジメチルホルムアミド溶液で2時間洗浄し、溶液中に含まれる塩化リチウムとビフェニルとを除去した。結果として、60質量%以上の錫担持率が得られた。
【0086】
図12は、本実施例で得た錫担持炭素ナノ構造体のX線回折スペクトルである。
図12から明らかなように、Snに帰属されるピークを明確に確認することが出来る。したがって、空孔内に担持されたSnはSn化合物を形成しておらずSn金属単体として担持出来ていることが分かる。
【0087】
図13は、本実施例で得た錫担持炭素ナノ構造体のTEM写真である。
図13から明らかなように、錫は空孔全部に入っている訳ではなく、しかも、空孔内の単結晶の濃淡も伴っていることから、結晶の入った空孔内には空間が存在することが判る。これによって、錫担持炭素ナノ構造体をリチウムイオン2次電池の負極材として用いた場合においても、金属体を担持しない空孔及び空間がそのまま残存することによって、これら空孔及び空間が金属体の膨張に対するクッションとしての役割をし、負極材は破壊されることなく、また、リチウムイオンの流動性も確保されるため十分にその機能を発揮することができるようになる。
【0088】
(実施例4:空孔内への錫の担持2)
塩化第一錫を内包した炭素ナノ構造体を作る過程は前記実施例と同じであるが、還元剤として、水素化トリエチルホウ素リチウムのテトラヒドロフラン1M溶液(商品名:Superhydride)を用いた。この還元反応はアルゴン雰囲気中室温で行った。激しくガスを発生するが効率よく還元反応が起こった。結果として、実施例3と同様に60質量%以上の錫担持率が比較的容易に得られた。
【0089】
(実施例5:錫担持体負極の充放電特性)
実施例4で得た錫担持炭素ナノ構造体(負極活物質)の85質量部、ケッチェンブラック(導電材)の5質量部、PVDF(バインダ)のを10質量部を準備し、NMPに分散させてスラリー状とした。製造されたスラリーを、厚さ18μmの電解銅箔上に5.0mg/φ14mmになるよう塗布した後、乾燥、プレス成型して、負極板とした。次に、この負極板をφ14mmの円形ポンチで抜き取り、120℃で6時間真空乾燥させ負極とした。
【0090】
次いで、このように製造された負極と、正極(対極)としての金属リチウムと、エチレンカーボネート(EC)30vol%及びジエチルカーボネート(DEC)70vol%の混合溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルとなるように溶解させて調製された電解液とを用い、ドライボックス中で組立を行うことにより、コイン型の非水電解液型のリチウムイオン2次電池(CR2025タイプ)を作製した。なお、本実施例の電池の組立は、正極及び負極を、ポリプロピレン製セパレータを介して積層させ、電解液とともにケースを密閉、封止することで行われた。
【0091】
電池の評価として、電池の初回充放電容量及び充放電を繰り返した際の放電容量を測定した。
【0092】
初回放電容量の測定は、まず、0.01Vまで定電流充電した後、電流値が10μA以下になるまで定電圧充電し、3.0Vまで定電流放電を行った。この時の放電容量を初回放電容量とした。また、充放電を繰り返した際の放電容量も各サイクルにおいて同様に算出した。
【0093】
図14は、錫ナノ粒子を64.5質量%担持した肺胞状炭素ナノ構造体を負極に、リチウムディスクを対極に用いたリチウムイオン電池の充放電曲線である。
図15は、錫ナノ粒子を69.5質量%、銅を5.0質量%担持した肺胞状炭素ナノ構造体を負極に、リチウムディスクを対極に用いたリチウムイオン電池の充放電曲線である。
【0094】
図14より算出される初回放電容量は654mAh/g、
図15より算出される初回放電容量は722mAh /gであり、上記炭素ナノ構造体からなる炭素負極(372mAh/g)に比べ高容量維持率を示した。
【0095】
図16は、錫ナノ粒子を64.5質量%担持した肺胞状炭素ナノ構造体を負極に、リチウムディスクを対極に用いたリチウムイオン電池のサイクル特性である。
図17は、錫を69.5質量%、銅を5.0質量%担持した肺胞状炭素ナノ構造体を負極に、リチウムディスクを対極に用いたリチウムイオン電池のサイクル特性である。
【0096】
一般に、Sn粒子をそのまま負極活物質として用いると初期充放電時の体積変化による割れや滑落により負極活物質の電気的な孤立が生じ、低い容量しか得ることができない。さらに、充放電を繰り返すと、さらに電気的な孤立が生じるため数サイクルで、大きく容量が低下する。
【0097】
一方、
図16、
図17より炭素ナノ構造体の空孔中にSnを担持させることで良好なサイクル特性を得ることが出来ている。これは、炭素ナノ構造体を構成する炭素が、金属材料との広い接触面積を持つことで、活物質である錫に対して炭素ナノ構造体の内部まで導電経路を確保でき、かつ、錫自体は空孔中に閉じ込められているため、滑落や割れの影響を受けにくいためであると考えられる。
【0098】
なお、
図16及び
図17の比較から、錫を69.5質量%、銅を5.0質量%担持させた場合は、錫単体を担持させるよりもサイクル特性が良好であることが分かる。これは、体積膨張率が小さい錫銅合金が担持されていることで、活物質である銅錫合金自体の体積膨張がさらに緩和されたためと考えられる。
【0099】
(実施例6:空孔内へのシリコンの担持)
実施例3において、塩化第一錫を用いる代わりに四塩化シランを用い、さらに還元剤として、水素化トリエチルホウ素リチウムのテトラヒドロフラン1M溶液(商品名:Superhydride)を用いた。結果として、50質量%程度のSi担持率が得られた。
【0100】
図18は、本実施例で得たSi担持炭素ナノ構造体のX線回折スペクトルである。
図18から明らかなように、Siに帰属されるピークを明確に確認することができる。したがって、担持されたSiはSi化合物を形成しておらずSi金属単体として担持出来ていることが分かる。
【0101】
(実施例7:シリコン担持体負極の充放電特性)
実施例6で得たSi担持炭素ナノ構造体(負極活物質)の85質量部、ケッチェンブラック(導電材)の5質量部、PVDF(バインダ)の10質量部を準備し、NMPに分散させてスラリー状とした。製造されたスラリーを、厚さ18μmの電解銅箔上に4.0mg/φ14mmになるよう塗布した後、乾燥、プレス成型して、負極板とした。次に、この負極板をφ14mmの円形ポンチで抜き取り、120℃で6時間真空乾燥させ負極とした。
【0102】
次いで、このように製造された負極と、正極(対極)としての金属リチウムと、エチレンカーボネート(EC)30vol%及びジエチルカーボネート(DEC)70vol%の混合溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルとなるように溶解させて調製された電解液とを用い、ドライボックス中で組立を行うことにより、コイン型の非水電解液型のリチウムイオン2次電池(CR2025タイプ)を作製した。なお、本実施例の電池の組立は、正極及び負極を、ポリプロピレン製セパレータを介して積層させ、電解液とともにケースを密閉、封止することで行われた。
【0103】
電池の評価として、電池の初回充放電容量及び充放電を繰り返した際の放電容量を測定した。
【0104】
初回放電容量の測定は、まず、0.01Vまで定電流充電した後、電流値が10μA以下になるまで定電圧充電し、3.0Vまで定電流放電を行った。この時の放電容量を初回放電容量とした。また、充放電を繰り返した際の放電容量も各サイクルにおいて同様に算出した。
【0105】
図19は、シリコンナノ粒子を48.0質量%担持した肺胞状炭素ナノ構造体を負極に、リチウムディスクを対極に用いたリチウムイオン電池の充放電曲線である。
図19より算出される初回放電容量は714mAh/gであり、上記炭素ナノ構造体からなる炭素負極(346mAh/g)に比べ高容量を示した。
【0106】
図20は、Siナノ粒子を48.0質量%担持した肺胞状炭素ナノ構造体を負極に、リチウムディスクを対極に用いたリチウムイオン電池のサイクル特性である。
【0107】
一般に、Si粒子をそのまま負極活物質として用いると初期充放電時の体積変化による割れや滑落により負極活物質の電気的な孤立が生じ、低い容量しか得ることができない。さらに、充放電を繰り返すと、さらに電気的な孤立が生じるため数サイクルで、大きく容量が低下する。
【0108】
一方、
図20より炭素ナノ構造体にシリコンを担持させることで良好なサイクル特性を得ることが出来ている。これは、金属材料を小さくすることで充放電時の体積変化による割れが抑制でき、金属材料と炭素材料が三次元的に接触しているため、接触面積が増加し、金属への導電経路が増す効果と滑落を抑制する効果があるためと考えられる。
【0109】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。