特許第5998038号(P5998038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5998038積層フィルム、透明導電フィルム、タッチパネルおよび積層フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998038
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】積層フィルム、透明導電フィルム、タッチパネルおよび積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20160915BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20160915BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   B32B27/36
   B32B27/18 Z
   G06F3/041 495
【請求項の数】16
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-275618(P2012-275618)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-117904(P2014-117904A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 一樹
(72)【発明者】
【氏名】塚本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】勝田 健司
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 悠樹
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5051328(JP,B2)
【文献】 特公昭60−016614(JP,B1)
【文献】 国際公開第2012/036084(WO,A1)
【文献】 特開2012−116184(JP,A)
【文献】 特開2014−047271(JP,A)
【文献】 特開2000−080183(JP,A)
【文献】 特開2008−170490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04− 7/06
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、ポリマー層と、ハードコート層を順に積層した積層フィルムであって、
前記ポリエステルフィルムは、前記ポリマー層を積層した面側に非晶度(非結晶度/結晶度)が5%以上の表面改質層を有し、前記表面改質層は、前記ポリエステルフィルムの表面から40〜330nmの範囲内のいずれかの深さまでの厚みを有しており、
前記ポリマー層は、粒子を含み、
前記ハードコート層は、アルコキシシランの加水分解縮合物を含む積層フィルム。
【請求項2】
前記ポリマー層の厚さは200nm以下であり、前記粒子の平均粒子径は前記ポリマー層の厚さの0.65倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記粒子の平均粒子径が5〜130nmである請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記粒子の屈折率が1.60〜3.00である請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記粒子が金属酸化物粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記粒子が酸化錫または酸化ジルコニウムである請求項1〜5のいずれか1項に記事の積層フィルム。
【請求項7】
前記粒子が、前記ポリマー層に含まれる固形分に対し、40〜80質量%含まれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記アルコキシシランの加水分解縮合物は、エポキシ基含有アルコキシシランとエポキシ基非含有アルコキシシランの加水分解縮合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記積層フィルムのb*値が−2.0〜2.0である請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層フィルムここでb*値はCIE1976のL*a*b*表色系におけるb*値を表す。
【請求項10】
前記積層フィルムのヘイズが2%以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項11】
前記ポリエステルフィルムの屈折率が1.60〜1.75であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項12】
前記ポリマー層の屈折率が1.52〜1.69であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法であって、
Tg以上に加熱されたポリエステルフィルムの表面にグロー放電処理を施す工程と、
前記ポリエステルフィルムのグロー放電処理を施した面上に粒子を含有したポリマー層を形成する工程と、
前記ポリマー層の上にアルコキシシランの加水分解縮合物を含むハードコート層を形成する工程を有することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ハードコート層を形成する工程は、アルコキシシランを加水分解する工程と、加水分解したアルコキシシランを縮合する工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層フィルムを有する透明導電フィルム。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層フィルムを有するタッチパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、透明導電フィルム、タッチパネルおよび積層フィルムの製造方法に関する。具体的には、Tg以上でグロー放電処理をしたポリエステルフィルムと、粒子を含有したポリマー層と、アルコキシシランの縮重合体を含んだハードコート層を順に積層した積層フィルムに関する。さらに、本発明は、該積層フィルムを有する透明導電フィルムおよびタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ等の表示装置を備えた電子デバイスが急速に普及している。これらの表示装置は、電子デバイスの表層に設けられることが多く、耐スクラッチ性や耐衝撃性を有することが要求される。このため、これらの表示装置の表層には、ハードコート層を有する積層フィルムが設けられている。表示装置の表層にハードコート層を平滑に設けるために、ハードコート層はポリエステルフィルムの上に設けられており、積層フィルムはハードコート層とポリエステルフィルムを有する構成となる。
【0003】
一般的に、ポリエステルフィルムとハードコート層は、異なる成分から構成されているため、両者を直接接着することは難しい。このため、ポリエステルフィルム上に易接着層として機能するポリマー層を設け、その上にハードコート層を積層し積層フィルムとしている。
例えば、特許文献1には、ポリエステルフィルムの上に形成された下塗り層(ポリマー層)と、アルコキシシラン等を含む塗布液を塗布し硬化させることによって得られるハードコート層を有する積層フィルムが開示されている。ここでは、ポリマー層の屈折率を調整する目的で、金属酸化物を添加することが提案されている。
【0004】
また、ポリエステルフィルムの上に積層するフィルムとの密着性を高めるために、ポリエステルフィルムにコロナ処理やグロー放電処理といった表面処理を施すことが知られている。例えば、特許文献2には、ポリエステルフィルムの表面にグロー放電処理を施すことが記載されており、グロー放電処理によって、ポリエステルフィルムの表面の平面性を高め、積層フィルムの密着性を高めることが提案されている。なお、特許文献2では、グロー放電処理はガラス転移温度(Tg)未満で行っており、積層フィルムをロール状に巻き取る際に巻癖やきしみ等が発生しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−116184号公報
【特許文献2】特開平9−230538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようなハードコート層を有する積層フィルムでは、各層の屈折率の違いや、ハードコート層の厚みムラによって干渉ムラが生じるという問題があり、このような屈折率の違いを解消するために、ポリマー層に微粒子を添加することが行われていた。しかし、ポリマー層に微粒子を添加した場合、ポリマー層とポリエステルフィルムの密着性が悪化するという問題があった。
【0007】
ポリエステルフィルムの表面にコロナ処理やグロー放電処理を施すことで、ポリマー層とポリエステルフィルムの密着性をある程度高めることはできる。しかし、特許文献2の条件でポリエステルフィルムの表面をグロー放電処理し、微粒子を含有したポリマー層を積層した場合、層間の密着性が十分に改善されないということが本発明者らの検討により明らかとなった。また、ポリエステルフィルムの表面をコロナ処理した場合には、湿熱経時後の密着性が著しく低下するということも本発明者らの検討により明らかとなった。
【0008】
すなわち、従来のハードコート層を有する積層フィルムにおいては、干渉ムラの発生と積層フィルムの層間の密着性の低下という2つの課題を同時に解決することができないという問題があった。
そこで本願発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、ハードコート層を有する積層フィルムであって、干渉ムラが解消され、層間の密着性が良好な積層フィルムを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、ポリエステルフィルムの表面をTg以上でグロー放電処理をすることにより、粒子を含有したポリマー層を積層した場合であっても、優れた密着性を発揮できることを見出した。これにより、本発明者らは、ハードコート層を有する積層フィルムにおいて、干渉ムラの解消と密着性の向上を両立することに成功し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1]ポリエステルフィルムと、ポリマー層と、ハードコート層を順に積層した積層フィルムであって、前記ポリエステルフィルムは、前記ポリマー層を積層した面側に非晶度(非結晶度/結晶度)が5%以上の表面改質層を有し、前記表面改質層は、前記ポリエステルフィルムの表面から40〜330nmの範囲内のいずれかの深さまでの厚みを有しており、前記ポリマー層は、粒子を含み、前記ハードコート層は、アルコキシシランの加水分解縮合物を含む積層フィルム。
[2]前記ポリマー層の厚さは200nm以下であり、前記粒子の平均粒子径は前記ポリマー層の厚さの0.65倍以下であることを特徴とする[1]に記載の積層フィルム。
[3]前記粒子の平均粒子径が5〜130nm以下である[1]または[2]に記載の積層フィルム。
[4]前記粒子の屈折率が1.60〜3.00である[1]〜[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5]前記粒子が金属酸化物粒子であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の積層フィルム。
[6]前記粒子が酸化錫または酸化ジルコニウムである[1]〜[5]のいずれかに記事の積層フィルム。
[7]前記粒子が、前記ポリマー層に含まれる固形分に対し、40〜80質量%含まれることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の積層フィルム。
[8]前記アルコキシシランの加水分解縮合物は、エポキシ基含有アルコキシシランとエポキシ基非含有アルコキシシランの加水分解縮合物であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の積層フィルム。
[9]前記積層フィルムのb*値が−2.0〜2.0である[1]〜[8]のいずれかに記載の積層フィルム。
(ここでb*値はCIE1976のL***表色系におけるb*値を表す。)
[10]前記積層フィルムのヘイズが2%以下である[1]〜[9]のいずれかに記載の積層フィルム。
[11]前記ポリエステルフィルムの屈折率が1.60〜1.75であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の積層フィルム。
[12]前記ポリマー層の屈折率が1.52〜1.69であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれかに記載の積層フィルム。
[13]Tg以上に加熱されたポリエステルフィルムの表面にグロー放電処理を施す工程と、前記ポリエステルフィルムのグロー放電処理を施した面上に粒子を含有したポリマー層を形成する工程と、前記ポリマー層の上にアルコキシシランの加水分解縮合物を含むハードコート層を形成する工程を有することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
[14]前記ハードコート層を形成する工程は、アルコキシシランを加水分解する工程と、加水分解したアルコキシシランを縮合する工程を含むことを特徴とする[13]に記載の積層フィルムの製造方法。
[15][13]または[14]に記載の製造方法により製造した積層フィルム。
[16][1]〜[12]および[15]のいずれかに記載の積層フィルムを有する透明導電フィルム。
[17][1]〜[12]および[15]のいずれかに記載の積層フィルムを有するタッチパネル。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハードコート層を有する積層フィルムにおいて、干渉ムラの発生を抑制することができ、かつ、積層フィルムの層間の密着性を高めることができる。本発明の積層フィルムは、干渉ムラが解消され、層間の密着性が良好であるため、透明導電フィルムやタッチパネル等の用途として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の積層フィルムの一例を示す断面図である。
図2図2は、ポリエステルフィルムの表面のTEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(積層フィルム)
本発明は、ポリエステルフィルムとポリマー層とハードコート層を順に積層した積層フィルムに関する。ポリエステルフィルムは、ポリマー層を積層した面側に非晶度(非結晶度/結晶度)が5%以上の表面改質層を有し、この表面改質層は、ポリエステルフィルムの表面から40〜330nmの範囲内のいずれかの深さまでの厚みを有している。また、ポリマー層は、ポリマー層を構成するバインダーに加えて粒子を含み、ハードコート層は、アルコキシシランの加水分解縮合物を含む。
【0015】
図1は、本発明の積層フィルム10の一例を示す断面図である。図1に示されているように、積層フィルム10は、ポリエステルフィルム1と、ポリマー層2と、ハードコート層4を順に積層した構成を有する。ポリエステルフィルム1は、ポリマー層2が積層された面側に表面改質層5を有する。表面改質層5は、ポリエステルフィルム1の表面から一定の厚みを有するように形成され、ポリマー層2に面して形成される。
また、ポリマー層2は、粒子3を有する。図1に示されているように、粒子3は、ポリマー層2の厚さに対して一定以下の平均粒径を有することが好ましく、粒子3がポリマー層2の表面に突出することによって形成される凹凸は少ないことが好ましい。すなわち、本発明では、ポリマー層2の表面の形状は平坦であることが好ましい。これにより、光の散乱を低減することができ、積層フィルムの色味を良好なものとすることができる。
【0016】
本発明では、ポリマー層が粒子を含有しているため、ポリエステルフィルムとハードコート層の屈折率の違いから生じる干渉ムラの発生を抑制することができる。さらに、本発明では、ポリエステルフィルムの表面をTg以上でグロー放電処理をし、表面改質層を形成することにより、ポリマー層とポリエステルフィルムの密着性を高めるとともに、ポリマー層とハードコート層の間の密着性も高めることができる。すなわち、本発明の積層フィルムにおいては、干渉ムラの発生がなく、積層フィルムを長期間に亘り使用した場合であっても層間剥離等の不具合が生じることがない。
【0017】
さらに、本発明では、ポリマー層の厚さを200nm以下とし、粒子の平均粒子径をポリマー層の厚さの0.65倍以下とすることが好ましい。本発明に用いる粒子の平均粒子径を一定範囲以下とすることにより、ポリマー層のb*値およびヘイズ値を小さくすることができる。これにより、積層フィルム全体の着色を抑えることができ、色味を改善することができる。また、透明性に優れた積層フィルムを得ることができる。
なお、平均粒子径の小さな粒子を用いた場合、層間の密着性はより悪化する傾向にある。しかし、本発明では、ポリエステルフィルムの表面をTg以上でグロー放電処理することにより、粒子径が小さな粒子を用いた場合であっても、層間の密着性を良好に保つことができる。これにより、密着性を保ちつつも、干渉ムラが解消され、b*値およびヘイズ値が小さい積層フィルムを得ることができる。
【0018】
本発明の積層フィルムのb*値は、−2.0〜2.0であることが好ましく、−1.5〜1.5であることがより好ましく、−1.2〜1.2 あることがさらに好ましい。なお、本発明では黄色味の着色度合をCIE1976のL***表色系におけるb*値で表す。
また、本発明の積層フィルムのヘイズ値は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
積層フィルムのb*値およびヘイズ値を、上記範囲内とすることにより、本発明の積層フィルムをタッチパネル等の表示装置に組み込んだ場合に、画像の色づきを少なくすることができ、視認性を良好なものとすることができる。
【0019】
(ポリエステルフィルム)
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムを含む。本発明に用いられるポリエステルフィルムは、ポリマー層およびハードコート層を支持する支持体として機能する。
【0020】
本発明におけるポリエステルフィルムとは、主成分がポリエステルであるフィルムをいい、通常、樹脂成分の98質量%以上がポリエステルであるフィルムをいい、好ましくは、ポリエステルフィルムを構成する成分の90質量%がポリエステルであるフィルムをいう。ポリエステルの種類は特に制限されるものではなく、ポリエステルとして公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。中でも、コストや機械的強度の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることが特に好ましい。
【0021】
本発明に係るポリエステルフィルムは、表面改質層を有する。表面改質層とは、ポリエステルフィルムの表層に形成される層であって、非晶度(非結晶度/結晶度)が5%以上の層のことをいう。表面改質層は、ポリエステルフィルムの表面から40〜330nmの範囲内のいずれかの深さまでの厚みを有している。表面改質層は、330nmの範囲内のいずれかの深さまでの厚みを有していることが好ましく、50〜220nmの範囲内であることがより好ましく、50〜200nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0022】
非晶度は、非結晶部と結晶部の合計に占める非結晶部の割合(非結晶部の含有率)を示したものである。非結晶部はゴーシュ型の結晶分子を、結晶部はトランス型の結晶分子を多く含む。このため、非結晶部と結晶部の含有率は、結晶分子の含有率によって算出することができる。具体的には、ATR−IR法によって表面改質層のスペクトル得ることによって、非結晶部と結晶部の含有率を算出することができる。非晶度(1175cm-1)を結晶度のスペクトル(1341cm-1)のスペクトルで割った値を非晶度(非結晶度/結晶度)とした。
【0023】
ポリエステルフィルムの表面改質層の非晶度(非結晶度/結晶度)は5%以上であることが好ましく、5〜8.3%であることがより好ましく、5〜8%であることがさらに好ましい。表面改質層の非晶度を上記範囲内とすることにより、ポリエステルフィルムの黄変を防ぎながら、オリゴマーブロック性と密着性等を上げることができる。
【0024】
図2は、発明に係るポリエステルフィルムの表面状態を表すTEM観察像を示している。図2(a)はグロー放電処理を施していないポリエステルフィルムの表面のTEM観察像を示している。図2(b)はグロー放電処理を施したポリエステルフィルムの表面のTEM観察像を示している。図2(a)および(b)において矢印で示した部分はポリエステルフィルムの表面である。図2(b)では、Aで示した範囲が黒く変色しているのが分かる。これが、表面改質層を表す。図2(a)からわかるように、グロー放電処理を施していないポリエステルフィルムは表面改質層を有していない。表面改質層の厚さは、図2(b)のAで示した距離とであり、矢印とAで示した距離の平均値を、表面改質層の厚さという。
表面改質層の厚さは、PET表面にオスミウム染色を施し、断面TEM観察することで求めることができる。色度がL=30以下の部分を黒く染まっているといい、改質されている部分である。未処理の場合(図2(a))では、ほとんど何も見えないが、グロー放電処理を行うと表面が黒く染まっているのがわかる(図2(b))。
【0025】
ポリエステルフィルムをTg以上に加熱し、グロー放電処理することによって、ポリエステルフィルムの表面に上記のような表面改質層を形成することができる。
グロー放電処理は、真空プラズマ処理またはグロー放電処理とも呼ばれる方法で、低圧雰囲気の気体(プラズマガス)中での放電によりプラズマを発生させ、基材表面を処理する方法である。本発明の処理で用いる低圧プラズマはプラズマガスの圧力が低い条件で生成する非平衡プラズマである。本発明の処理は、この低圧プラズマ雰囲気内に被処理フィルムを置くことにより行われる。
本発明のグロー放電処理において、プラズマを発生させる方法としては、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電等の方法を利用することができる。放電に用いる電源は直流でも交流でもよい。交流を用いる場合は30Hz〜20MHz程度の範囲が好ましい。交流を用いる場合には50又は60Hzの商用の周波数を用いてもよいし、10〜50kHz程度の高周波を用いてもよい。また、13.56MHzの高周波を用いる方法も好ましい。
【0026】
本発明のグロー放電処理で用いるプラズマガスとして、酸素ガス、窒素ガス、水蒸気ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の無機ガスを使用することができ、特に、酸素ガス、または、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスが好ましい。具体的には、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを使用することが望ましい。酸素ガスとアルゴンガスを用いる場合、両者の比率としては、分圧比で酸素ガス:アルゴンガス=100:0〜30:70、より好ましくは、90:10〜70:30が好ましい。また、特に気体を処理容器に導入せず、リークにより処理容器に入る大気や被処理物から出る水蒸気などの気体をプラズマガスとして用いる方法も好ましい。
【0027】
プラズマガスの圧力としては、非平衡プラズマ条件が達成される低圧が必要である。具体的なプラズマガスの圧力としては、0.005〜10Torr、より好ましくは0.008〜3Torr程度の範囲が好ましい。プラズマガスの圧力が0.005Torr未満の場合は接着性改良効果が不充分な場合があり、逆に10Torrを超えると電流が増大して放電が不安定になる場合がある。
プラズマ出力としては、処理容器の形状や大きさ、電極の形状などにより一概には言えないが、100〜10000W程度、より好ましくは、2000〜10000W程度が好ましい。
【0028】
本発明のグロー放電処理の処理時間は0.05〜100秒、より好ましくは0.5〜30秒程度が好ましい。処理時間が0.05未満の場合には接着性改良効果が不充分な場合があり、逆に100秒を超えると被処理フィルムの変形や着色等の問題が生じる場合がある。
【0029】
本発明のグロー放電処理の放電処理強度はプラズマ出力と処理時間によるが、0.01〜10kV・A・分/m2の範囲が好ましく、0.1〜7kV・A・分/m2がより好ましい。放電処理強度を0.01kV・A・分/m2以上とすることで充分な接着性改良効果が得られ、10kV・A・分/m2以下とすることで被処理フィルムの変形や着色といった問題を避けることができる。
【0030】
本発明のグロー放電処理では、あらかじめ被処理フィルムであるポリエステルフィルムを加熱しておくことが好ましい。ポリエステルフィルムの表面は、Tg以上の温度に加熱され、その後にグロー放電処理が施されることが好ましい。すなわち、グロー放電処理時において、ポリエステルフィルムの表面はTg(69℃)以上に加熱されていることが好ましい。ポリエステルフィルムの表面はTg〜200℃の温度範囲内に加熱されていることがより好ましく、Tg〜150℃の温度範囲内に加熱されていることがさらに好ましい。上記温度範囲内に加熱してからグロー放電処理を施すことにより、ポリエステルフィルムの上に粒子を含有したポリマー層を積層した場合であっても、優れた密着性を発揮することができる。また、上記温度範囲内に加熱してからグロー放電処理を施すことにより、ポリエステルフィルムにオリゴマーが析出することを防ぐことができ、ポリエステルフィルムが白化することを防止できる。さらに、上記温度範囲内に加熱してからグロー放電処理を施すことにより、ポリエステルフィルムが黄変することを抑制することができる。
【0031】
真空中で被処理フィルムの温度を上げる具体的方法としては、赤外線ヒーターによる加熱、熱ロールに接触させることによる加熱方法などが挙げられる。
【0032】
本発明におけるポリエステルフィルムは2軸延伸されていることが好ましい。2軸延伸とは、フィルムの幅方向および長手方向をそれぞれ1軸とみなして両方向に延伸させることである。このように2軸延伸されたポリエステルフィルムは、2軸での分子配向が十分に制御されているため非常に優れた機械強度を有する。延伸倍率は特に制限されるものではないが、一方向に対する延伸倍率が1.5〜7倍であることが好ましく、より好ましくは2〜5倍である。特に、1軸方向あたりの延伸倍率を2〜5倍として2軸延伸させたポリエステルフィルムは、分子配向がより効率良くかつ効果的に制御されているので、非常に優れた機械強度を備え、ポリエステルフィルムとして好適である。ポリエステルフィルムの延伸倍率を1.5倍以上にすることにより、1.5倍未満の場合に比べて充分な機械的強度が得られる。また、延伸倍率を7倍以下とすることにより、7倍を超える場合に比べて均一な厚さを得ることができる。
【0033】
ポリエステルフィルムの厚さは、30〜400μmであるのが好ましく、100〜250μmであるのがより好ましい。本発明におけるポリエステルフィルムは1層のみからなっていてもよいし、2層以上のポリエステルフィルムの積層体(例えば、共流涎フィルム、共押出しフィルムなど)であってもよい。本発明におけるポリエステルフィルムが2層以上からなる場合、その合計厚さが上記範囲となる。
【0034】
本発明に係るポリエステルフィルムはポリエステルフィルムのb*値は、b*=0.006t+0.55以下であることが好ましい。b*値はb*=0.006t+0.38以下であることが好ましく、更にb*=0.006t+0.25以下であることが更に好ましい。尚、上記式において、tはポリエステルフィルムの厚さ(μm)を示す。b*値を上記式以下にすることにより、ポリエステルフィルムの黄変を防ぐことができ、ポリエステルフィルムの透明性を高めることができる。
【0035】
本発明では、ポリエステルフィルムはポリエステルフィルムのb*値は1.75以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.45以下であることがさらに好ましい。本発明で用いられるポリエステルフィルムの膜厚は特に限定されるものではないが、ポリエステルフィルムの膜厚が10〜100μmの場合、b*値は1.2以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.9以下であることがさらに好ましい。また、ポリエステルフィルムの膜厚が100〜150μmの場合、b*値は1.45以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましく、1.15以下であることがさらに好ましい。さらに、ポリエステルフィルムの膜厚が150〜200μmの場合、b*値は1.75以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.45以下であることがさらに好ましい。
【0036】
さらに、本発明ではグロー放電処理が施される前のb*値とグロー放電処理が施された後のb*値の変化量(Δb)が0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。グロー放電処理の前後でb*値の変化が少ないことは、グロー放電処理において黄変が起きていないことを示す。本発明では、グロー放電処理の前後におけるb*値の変化量を上記上限値以下とすることにより、黄変が抑制されたポリエステルフィルムを得ることができる。
【0037】
ポリエステルフィルムの屈折率は、使用する材料により値は異なるが、1.60〜1.75であることが好ましく、1.62〜1.68であることがより好ましい。屈折率が上記範囲内であれば、積層フィルムの支持体としての優れた剛性を示すとともに、透明性に優れた積層フィルムを得ることができる。なお、本発明において屈折率とは波長660nmにおける測定値を表す。
【0038】
ポリエステルフィルムは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の添加剤を含んでいてもよく、酸化防止剤や紫外線防止剤が例示される。
【0039】
(ポリマー層)
本発明の積層フィルムはポリマー層を含む。本発明に用いられるポリマー層は、ポリエステルフィルムと、ハードコート層とを接着する易接着層として機能する。なお、ポリマー層は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面上に形成されることが好ましいが、ポリエステルフィルムの両側の面に形成されてもよい。また、ポリマー層は1層構造であってもよく、2層以上の積層構造であってもよい。
【0040】
本発明で用いるポリマー層の厚さは200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。また、ポリマー層の厚さは、50nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましい。ポリマー層の厚さを上記上限値以下とすることでポリマー層の面状をより良好な状態とすることができ、また、干渉ムラを抑制できる。さらには、ポリマー層を塗布工程によって形成する場合には、塗布液の使用量の増加を抑えて乾燥時間の長時間化を防止し、コストの増加を抑止することができる。また、ポリマー層の厚さを上記下限値以上とすることで、ポリマー層が易接着層として機能する際の接着性を高めることができる。なお、ポリマー層を2層以上の積層構造とした場合、積層構造の厚みの合計が上記の厚み範囲内であることが好ましい。
【0041】
本発明に用いられるポリマー層の屈折率は、ポリエステルフィルムおよびハードコート層の屈折率に応じて調整することが好ましい。例えば、ポリエステルフィルムの屈折率が1.60〜1.75であって、ハードコート層の屈折率が1.40〜1.49である場合、ポリマー層の屈折率は1.50〜1.61であることが好ましく、1.52〜1.59であることがより好ましい。上記範囲とすることで、積層フィルムに干渉ムラが生じることを抑制することができる。
【0042】
<粒子>
本発明で用いるポリマー層は粒子を含む。ポリマー層に含まれる粒子は、ポリマー層の屈折率を調整する目的で添加される。本発明に用いられる粒子は1種類のみでもよく、2種類以上であってもよい。
【0043】
本発明に用いられる粒子の平均粒子径は、ポリマー層の厚みに対して0.65倍以下である。粒子の平均粒子径は、0.50倍以下であることがより好ましく、0.40倍以下であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、ポリマー層の表面に凹凸が形成されにくくなり、光の散乱を低減することができ、積層フィルムの色味を良好なものとすることができる。平均粒子径の下限については特に限定されないが、0.05倍以上であることが好ましい。
【0044】
粒子の平均粒子径は、具体的には5〜130nmであることが好ましい。また、粒子の平均粒子径は、5〜80nmであることがより好ましく、5〜50nmであることがさらに好ましい。粒子の平均粒子径を上記上限値以下とすることで、光が粒子で散乱される影響が小さくなり、上記下限値以上とすることで、粒子同士が凝集して巨大化することを防ぐことができる。
【0045】
ここで、本発明における粒子の平均粒子径は、粒子の水分散物を用いて、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置 LA910(株式会社 堀場製作所製)を用いて測定し、メジアン径で表記した。
また、本発明の積層フィルムを製造した後に、本発明の積層フィルムのポリマー層に含まれる粒子の平均粒子径は、ポリマー層のみを溶媒に溶解させたのち、ポリマー層に含まれていた粒子の水分散物を調製してから、上記装置を用いて測定することができる。
【0046】
本発明に用いられる粒子の屈折率は1.60〜3.00であることが好ましく、1.80〜2.80であることがより好ましく、1.90〜2.60であることがさらに好ましい。粒子の屈折率を上記範囲内とすることで、ポリマー層の屈折率を調整しやすくすることができる。なお、粒子の屈折率は、ハードコート層およびポリエステルフィルムの屈折率に応じて適宜調節することが好ましい。なお、粒子の屈折率は波長660nmにおける測定値を表す。
【0047】
本発明における粒子は、ポリマー層の固形分に対して、40〜80質量%含まれることが好ましい。45〜75質量%であることが好ましく、50〜70質量%であることがより好ましい。上記範囲とすることで、ポリマー層の屈折率を調整しやすくするとともに、ポリマー層から粒子があふれ出さず、ポリマー層の表面の凹凸を形成しにくくできる。
【0048】
本発明に用いられる粒子としては、例えば、導電性の金属粒子や金属酸化物粒子等が挙げられ、金属酸化物粒子が好ましい。
【0049】
導電性の金属粒子としては、アンチモン、セレン、チタン、タングステン、スズ、亜鉛、インジウム等の粒子が挙げられる。
【0050】
本発明に用いられる粒子としては、酸化錫、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンのいずれかを主成分として含む粒子を挙げることができる。ここで本発明における粒子は、酸化錫、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンのいずれかを主成分として含む。この中でも、酸化錫または酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。なお、本発明では、酸化錫、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンのいずれかの配合量が80質量%以上であることが好ましい。
【0051】
酸化錫としては、SnO2の組成を持つ酸化錫(IV)が好ましく用いられる。酸化錫を用いる場合には、酸化錫にアンチモン等をドープしたものを使用すると、導電性を有するために積層フィルムの表面抵抗率を低下させてゴミ等の不純物が付着するのを防止する効果が得られるので好ましい。このようなアンチモンをドープした酸化錫は市販されているものも用いることができ、FS−10D、SN−38F、SN−88F、SN−100F、TDL−S、TDL−1(いずれも、石原産業(株)製)等が挙げられる。
【0052】
一方、タッチパネルの誤動作を防ぐために、導電性を有さない無機酸化物微粒子が好ましく用いられる場合がある。たとえば、酸化錫にアンチモン等をドープせず、表面抵抗を低下させないように作製した酸化錫は好適に用いることができる
また、リンをドープした酸化錫(例えば、三菱マテリアル電子化成株式会社製、EP SPDL−2、粒径130nmのPドープSnO2の水分散液)等が挙げられる。
これらの中でも、本発明では酸化錫として、アンチモンをドープしていない酸化錫を用いることが特に好ましい。
【0053】
酸化ジルコニウムは、ZrO2の組成を持ち、例えば、NZS−20A、NZS−30A、OZ−S30K、ZR−30BF、ZR−30BS、ZR−40BL(いずれも、日産化学工業(株)製)やSZR−CW(堺化学工業(株)製)が挙げられ、これらも本発明に好適に用いることができる。
【0054】
酸化チタンとしては、TiO2の組成を持つ酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタンは、結晶構造の違いによりルチル型(正方晶高温型)やアナターゼ型(正方晶低温型)等が存在するが、特に限定されるものではない。また、表面処理が施された酸化チタンであっても良い。本発明に用いられる酸化チタンとしては、例えば、IT−S、IT−O、IT−W(いずれも、出光興産(株)製)、TTO−W−5(石原産業(株)製)等が挙げられ、本発明でも好適に用いることができる。
【0055】
本発明に用いられる粒子の形状は、針状でも球状でもよいが、球状であることが好ましい。なお、本発明に用いられる粒子の形状が完全な球状ではない場合にも上述の方法で粒子の平均粒子径を測定することができるが、粒子の形状が完全な球状ではない場合であって上記測定方法で測定することが難しい場合は、本発明ではそのような形状の粒子に外接する円の直径をもって粒子径と判断することができる。
【0056】
<バインダー>
ポリマー層は、ポリエステルフィルムおよびハードコート層との密着力を高めるために、それに適したバインダーを含む。ポリマー層に用いられるバインダーは、ポリエステルフィルムおよびハードコート層との密着力を高めるものであれば特に限定されることはないが、ポリオレフィン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、またはゴム系樹脂の少なくともひとつであることが好ましい。中でも、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましく、ポリマー層に含まれる全バインダーに対して、30質量%以上がポリオレフィンであることが好ましく、50質量%以上がポリオレフィンであることが好ましく、90質量%以上がポリオレフィンであることがさらに好ましい。ポリマー層の弾性率は、50MPa〜5GPaが好ましく、100MPa〜1GPaがより好ましい。また、バインダーは、水溶性又は水分散性を持つものが環境への負荷が少ない点で特に好ましい。
【0057】
ポリオレフィンは、極性基を有するポリオレフィンのアイオノマーとして、カルボキシル基等の極性基を有するものが好ましい。有機溶剤に溶解して用いても良いし、水分散物を用いてもよい。ただし、環境負荷が小さいことから、水分散物を用いて水系と付することが好ましい。水分散物としては市販のものを用いればよく、特に限定されるものではないが、本発明に好ましく用いることができるものとしては、例えば、ケミパールS75N(三井化学(株)製)、アローベースSE1200、アローベースSB1200(以上、ユニチカ(株)製)、ハイテックS3111、S3121(以上、東邦化学(株)製)等が挙げられる。ポリオレフィンは1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
【0058】
アクリルとしては、メタクリレートおよびエチルアクリレートおよびその他の共重合成分を含むアクリルが好ましく、特開2012−101449号公報の段落[0145]〜[0146]に記載のものなどを利用することができる。また、市販品を用いてもよく、具体的には、ダイセルファインケム(株)製AS−563A等が挙げられる。
アクリルは、ガラス転移温度が−50〜120℃であることが好ましく、−30〜100℃であることがより好ましい。アクリルの重量平均分子量は3000〜1000000のものが好ましい。
【0059】
ポリウレタンとしては、ポリオール、ポリイソシアネート、鎖長延長剤、架橋剤等で構成されるものが好ましく、特開2012−056220号公報の段落[0035]に記載のものなどを利用することができる。
【0060】
ポリエステルとして、下記の多塩基酸成分とジオール成分から得られるポリエステルを用いることができる。すなわち、多価塩基成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を例示することができる。高分子バインダーを構成するポリエステルとしては、2種以上のジカルボン酸成分を用いた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。ポリエステルには、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分が、或いはp−ヒドロキシ安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸成分が含まれていてもよい。
【0061】
ポリエステルのジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン等や、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを例示することができる。
【0062】
<架橋剤>
本発明に用いられるポリマー層は、架橋剤を含有していてもよい。架橋剤の例としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。これらの中でも、カルボジイミド系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤が好ましく用いられる。
【0063】
カルボジイミド系架橋剤としては、分子内にカルボジイミド構造を複数個有する化合物が好ましい。このような化合物を含むことにより、ハードコート層を設けたときの、ハードコート層とポリマー層の密着性が向上する傾向にある。分子内に複数のカルボジイミド基を有する化合物は、特に制限なく使用することができる。ポリカルボジイミドは、通常、有機ジイソシアネートの縮合反応により合成されるが、この合成に用いられる有機ジイソシアネートの有機基は特に限定されず、芳香族系、脂肪族系のいずれか、あるいはそれらの混合系も使用可能である。反応性の観点からは脂肪族系が特に好ましい。合成原料としては、有機イソシアネート、有機ジイソシアネート、有機トリイソシアネート等が使用される。有機イソシアネートの例としては、特開2009−220316号公報の段落[0024]に記載のものなどを利用することができる。
また、本発明に用いられるカルボジイミド系架橋剤は市販品を用いてもよく、具体的には、日清紡(株)製のカルボジライトV−02−L2等があげられる。
【0064】
オキサゾリン系架橋剤としては、特開2012−231029号公報の段落[0078]等に記載のものを用いることができる。また、市販品を用いてもよく、日本触媒化学工業(株)製のエポクロスK2010E、同K2020E、同K2030E、同WS500、同WS700等が挙げられる。
【0065】
本発明に用いられる架橋剤は、ポリマー層の固形分の合計量に対して1〜200質量%の範囲で添加することが好ましく、より好ましくは5〜100質量%の範囲で添加することである。添加量を1質量%以上とすることにより、ポリマー層に含まれる粒子の剥落を効果的に防止ができる。一方で、添加量を200質量%以下とすると、面状がより向上する傾向にある。架橋剤は2種類以上を含んでいてもよく、2種類以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0066】
<界面活性剤>
本発明に用いられるポリマー層は、ポリマー層の表面にハードコート層等の機能層を塗布等した際の、ハジキ等を軽減するために界面活性剤を有していてもよい。
界面活性剤としては、公知のアニオン系、ノニオン系、カチオン系のものが挙げられ、アニオン系、ノニオン系が好ましく用いられる。界面活性剤については、例えば、「界面活性剤便覧」(西 一郎、今井 怡知一郎、笠井 正蔵編 産業図書(株)1960年発行)に記載されているものを用いることができる。
【0067】
市販のアニオン系界面活性剤としては、例えば、ラピゾールA−90、ラピゾールA−80、ラピゾールBW−30、ラピゾールB−90、ラピゾールC−70(日本油脂(株)製)、NIKKOL OTP−100(日光ケミカル(株)製)、コハクールON、コハクールL−40、フォスファノール702(東邦化学工業(株)製)、ビューライトA−5000、ビューライトSSS(三洋化成工業(株)製)等を挙げることができる。
【0068】
市販のノニオン系界面活性剤としては、例えば、ナロアクティーCL−95(三洋化成工業(株)製)、リソレックス BW400(高級アルコール工業(株)製)、EMALEX ET−2020(日本エマルジョン(株)製)、ユニルーブ 50MB−26、ノニオン IS−4(日油(株)製)等を挙げることができる。
【0069】
<帯電防止剤>
本発明に用いられるポリマー層は、ポリマー層が静電気等により帯電すること防ぐために帯電防止剤を有していてもよい。
帯電防止剤の種類等は特に限定されるものではないが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール等の電子伝導系のポリマー、分子鎖中にカルボキシル基やスルホン酸基を有するイオン伝導系ポリマー、導電性微粒子等が挙げられる。これらのうち、特に特開昭61−20033号公報に記載されている導電性酸化錫微粒子は、導電性と透明性の観点から好ましく用いることができる。
【0070】
帯電防止剤の添加量は、25℃、相対湿度30%雰囲気で測定したポリマー層の表面抵抗率が、1×105Ω以上1×1013Ω以下となるように添加することが好ましい。表面抵抗率を1×105Ω以上とすると帯電防止剤の添加量を低く抑えることができ、積層フィルムの透明性が向上する傾向にあり、1×1013Ω以下とすることにより、ゴミがより付着しにくくなる傾向にある。
【0071】
(ハードコート層)
本発明の積層フィルムはハードコート層を含む。本発明に用いられるハードコート層は、ポリマー層の上に積層され、ポリマー層を介してポリエステルフィルムの反対側の面に積層される。本発明の積層フィルムは、ハードコート層を有する積層フィルムであり、ハードコートフィルムとして機能する。本発明の積層フィルムは、ハードコート層をポリエステルフィルムの片面側にのみ有していてもよく、両面ともに有していてもよい。また、ハードコート層を両面に有する場合、ハードコート層は同一構成のものであってもよく、互いに異なる構成であってもよい。
【0072】
本発明に用いられるハードコート層としては、耐薬品性、耐傷性に強い硬化性樹脂から主として構成されるものであることが好ましい。ハードコート層は、紫外線や電子線を照射することによって硬化性樹脂を硬化させて形成してもよいが、アルコキシシランの加水分解物を縮合させ硬化させて形成することが好ましい。ハードコート層をアルコキシシランの加水分解物を縮合させることにより形成する場合、アルコキシシランの加水分解物を含む水性組成物を塗布して乾燥させることにより形成することができる。このため、有機溶剤等を用いることなくハードコート層を形成することができ、環境への負荷を大幅に低減することができる。
【0073】
ハードコート層をアルコキシシランの加水分解物を縮合させることにより形成する場合、ハードコート層の厚みは、水性組成物の塗布量を調整することにより制御することができる。得られるハードコート層の硬度の観点からは、厚みは、0.3〜12μmの範囲で一定あることがより好ましい。厚みが0.3μm未満であると十分な硬度が発現せずにハードコート層としての機能が得られないことがあり、12μmよりも大きいとハードコート層の内部応力が大きくなってカール等の変形が生じてしまう場合がある。より好ましい厚みの範囲は、0.5〜10μmである。
【0074】
また、本発明におけるハードコート層の屈折率は、ハードコート層の屈折率をnHCとし、ポリマー層の屈折率をn1としたとき、n1≦nHC±1.0を満たすことが好ましい。
【0075】
<アルコキシシラン>
本発明に用いられるハードコート層は、アルコキシシランの加水分解物を縮合させることにより形成される。アルコキシシランは加水分解性基を有し、この加水分解性基が酸性の水溶液中で加水分解されることにより、シラノールが生成され、シラノール同士が縮合することによって、アルコキシシランの加水分解縮合物(オリゴマー)が生成される。すなわち、ハードコート層には、アルコキシシランの加水分解縮合物が含まれる。
なお、ハードコート層には、アルコキシシランの加水分解縮合物の他に、アルコキシシラン、またはその加水分解物が一部含まれていてもよい。
本発明に用いられるハードコート層は、アルコキシシランを含む水性組成物を塗布して乾燥させることにより形成することができる。水性組成を使用することは、VOC(volatile organic compounds)による環境汚染を低減する観点からも好ましい。
【0076】
また、アルコキシシランとして、エポキシ基含有アルコキシシランおよびエポキシ基非含有アルコキシシランを用いることが好ましい。エポキシ基含有アルコキシシランおよびエポキシ基非含有アルコキシシランは各々、加水分解性基を有するため、この加水分解性基が酸性の水溶液中で加水分解され、生成されるシラノールが縮合することによってエポキシ基含有アルコキシシランとエポキシ基非含有アルコキシシランの加水分解縮合物が生成される。すなわち、本発明に用いられるハードコート層には、エポキシ基含有アルコキシシランとエポキシ基非含有アルコキシシランの加水分解縮合物が含まれる。
【0077】
ハードコート層を形成するための水性組成物中において、全アルコキシシランに対して、エポキシ基含有アルコキシシランが占める割合は20〜85質量%であることが好ましい。エポキシ基含有アルコキシシランが占める割合は、20質量%以上であればよく、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、エポキシ基含有アルコキシシランが占める割合は、85質量%以下であればよく、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。全アルコキシシランに対してエポキシ基含有アルコキシシランが占める割合を上記範囲内とすることにより、水性組成物の安定性を高めることができ、さらに、アルカリ耐性の強いハードコート層を形成することができる。
【0078】
エポキシ基含有アルコキシシランは、エポキシ基を有するアルコキシシランである。エポキシ基含有アルコキシシランとしては、1分子中に1つ以上エポキシ基を有するものであればよく、エポキシ基の数は特に限定されない。エポキシ基含有アルコキシシランは、エポキシ基の他に、さらに、アルキル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、エステル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基など基を有していても良い。
【0079】
本発明で用いるエポキシ基含有アルコキシシランとしては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。市販品としては、KBE−403(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0080】
エポキシ基非含有アルコキシシランは、エポキシ基を有さないアルコキシシランである。エポキシ基非含有アルコキシシランは、エポキシ基を有さないアルコキシシランであればよく、アルキル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、エステル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基などの基を有していても良い。
【0081】
エポキシ基非含有アルコキシシランは、テトラアルコキシシランまたはトリアルコキシシランであるか、これらの混合物であることが好ましい。テトラアルコキシシランまたはトリアルコキシシランの混合物であることが好ましく、テトラアルコキシシランとトリアルコキシシランを混合して含有することにより、ハードコート層を形成した際に、適度な柔軟性を有しつつも、十分な硬度を得ることができる。
【0082】
エポキシ基非含有アルコキシシランが、テトラアルコキシシランとトリアルコキシシランの混合物である場合、テトラアルコキシシランとトリアルコキシシランのモル比は、25:75〜85:15であることが好ましく、30:70〜80:20であることがより好ましく、30:70〜65:35であることがさらに好ましい。モル比を上記範囲内とすることにより、アルコキシシランの重合度を所望の範囲内に制御することや加水分解速度及びアルミキレートの溶解性の制御が容易となる。
【0083】
テトラアルコキシシランは、4官能のアルコキシシランであり、各アルコキシ基の炭素数が1〜4のものがより好ましい。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが特に好ましく用いられる。炭素数を4以下とすることにより、酸性水と混ぜたときのテトラアルコキシシランの加水分解速度が遅くなりすぎることがなく、均一な水溶液にするまでの溶解に要する時間がより短くなる。これにより、ハードコート層を製造する際の製造効率を高めることができる。市販品としては、KBE−04(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0084】
トリアルコキシシランは、下記一般式(1)で表される3官能のアルコキシシランである。
RSi(OR13 …(1)
ここで、Rはアミノ基を含まない炭素数が1〜15の有機基、R1はメチル、エチル基等の炭素数4以下のアルキル基である。
【0085】
一般式(1)で表される3官能のアルコキシシランは、アミノ基を官能基として含まない。つまり、この3官能のアルコキシシランは、アミノ基を持たない有機基Rを有している。Rがアミノ基を有する場合は、4官能のアルコキシシランと混合して加水分解すると、生成するシラノール同士で脱水縮合が促進されてしまう。このため、水性組成物が不安定となり好ましくない。
【0086】
一般式(1)のRは、炭素数が1〜15の範囲であるような分子鎖長を持つ有機基であれば良い。炭素数を15以下とすることにより、ハードコート層を形成した際の柔軟性が過度に大きくならず、十分な硬度を得ることができる。Rの炭素数を上記範囲内とすることにより、脆性がより改善されたハードコート層を得ることができる。また、支持体等の他のフィルムとハードコート層の密着性を高めることができる。
【0087】
さらに、Rで示す有機基は、酸素、窒素、硫黄などのヘテロ原子を有しても良い。有機基がヘテロ原子を持つことにより、他のフィルムとの密着性をより向上させることができる。
【0088】
トリアルコキシシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランを挙げることができる。中でも、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシランは特に好ましく用いられる。市販品としては、KBE−13(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0089】
<金属錯体>
本発明に用いるハードコート層は、硬化剤として金属錯体を含んでいてもよい。金属錯体としては、Al、Mg、Mn、Ti、Cu、Co、Zn、Hf及びZrよりなる金属錯体が好ましく、これらを併用することもできる。
【0090】
これらの金属錯体は、金属アルコキシドにキレート化剤を反応させることにより容易に得ることができる。キレート化剤の例としては、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどのβ−ジケトン、アセト酢酸エチル、ベンゾイル酢酸エチルなどのβ−ケト酸エステルなどを用いることができる。
【0091】
金属錯体の好ましい具体的な例としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等のアルミニウムキレート化合物、エチルアセトアセテートマグネシウムモノイソプロピレート、マグネシウムビス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートマグネシウムモノイソプロピレート、マグネシウムビス(アセチルアセトネート)等のマグネシウムキレート化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビス(エチルアセトアセテート)、マンガンアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、チタンオキシアセチルアセトナートが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、マグネシウムビス(アセチルアセトネート)、マグネシウムビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートであり、保存安定性、入手容易さを考慮すると、アルミニウムキレート錯体であるアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)が特に好ましい。市販品としては、アルミキレートA(W)、アルミキレートD、アルミキレートM(川研ファインケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0092】
金属錯体が占める割合は、エポキシ基含有アルコキシシランに対して、17〜70モル%であることが好ましい。金属錯体が占める割合は、17%以上であれば良く、20%以上であることがより好ましい。また、金属錯体の含有率は、70%以下であれば良く、65%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
本発明では、金属錯体を上記下限値以上含むことにより、ハードコート層を形成した際に優れたアルカリ耐性を得ることができる。また、上記上限値以下とすることにより、水性水溶液中の分散性を良好とし、かつ、製造コストを抑えることができる。
【0093】
<無機微粒子>
また、本発明に用いるハードコート層は、無機微粒子を含有していてもよい。無機微粒子は、ハードコート層の屈折率を好ましい範囲に調節する目的と、ハードコート層のアルカリ耐性を高める目的で添加される。
無機微粒子としては、透明で絶縁性の金属酸化物が好ましい例として挙げられる。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタンからなる微粒子を用いることが好ましく、特に、アルコキシシランとの架橋の観点からシリカ微粒子を用いることが好ましい。
【0094】
シリカ微粒子としては、四塩化ケイ素の燃焼によって製造される乾燥粉末状のシリカを用いることもできるが、二酸化ケイ素又はその水和物が水に分散したコロイダルシリカを用いることがより好ましい。特に限定されないが、具体的にはスノーテックスO−33などの日産化学工業(株)製のスノーテックスシリーズなどが上げられる。コロイダルシリカの平均粒子径は3nm〜50nmであり、4nm〜50nmの範囲にあることが好ましく、4nm〜40nmの範囲にあることがより好ましく、5nm〜35nmの範囲にあることが特に好ましい。
なお、ここでの平均粒子径は、分散した無機微粒子を透過型電子顕微鏡により観察し、得られた写真から求めることができる。粒子の投影面積を求め、そこから円相当径を求め平均粒子径(平均一次粒子径)とする。無機微粒子の平均粒子径は、300個以上の粒子について投影面積を測定して、円相当径を求めて算出することができる。
【0095】
なお、コロイダルシリカは、水性組成物中に添加される時点でのpHが2〜7の範囲に調整されていることがより好ましい。このpHが2〜7であると、2よりも小さいあるいは7よりも大きい場合に比べて、アルコキシシランの加水分解物であるシラノールの安定性がより良好で、このシラノールの脱水縮合反応が速く進行することによる塗布液の粘度上昇を抑制することができる。
【0096】
無機微粒子を含む場合、水性組成物中に含まれる全固形分に対して無機微粒子が占める割合(単位:質量%)をxとすると、0<x≦80である。xは1以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。また、xは、80以下であれば良く、70以下であることが好ましく、65以下であることがより好ましい。水性組成物中において無機微粒子が占める割合を上記範囲とすることにより、ハードコート層を形成した際により高いアルカリ耐性を得ることができる。
【0097】
水性組成物中に含まれる全固形分に対して、無機微粒子が占める割合(単位:質量%)をxとして、全アルコキシシランに対してエポキシ基含有アルコキシシランが占める割合(単位:質量%)をyすると、y≧x−5であることが好ましい。さらに、y≧xであることがより好ましい。yとxの関係を上記範囲とすることにより、より高い耐アルカリ耐性を得ることができ、アルカリ溶液に浸漬させた際のヘイズ値の変化を抑えることができる。さらに、水性組成物の安定性を高めることができる。
【0098】
<その他の添加剤>
さらにハードコート層には、塗膜表面の摩擦を軽減したり、塗布性をより向上する目的で界面活性剤、すべり剤、マット剤を添加しても良い。
また、顔料や染料、その他微粒子等を分散させることによってハードコート層を着色しても良い。さらに、耐候性を向上させる目的で紫外線吸収剤や酸化防止剤等を添加しても良い。
【0099】
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などの各種界面活性剤を使用できる。
【0100】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF171、同F172、同F173、同F176、同F177、同F141、同F142、同F143、同F144、同R30、同F437、同F475、同F479、同F482、同F554、同F780、同F781(以上、DIC(株)製)、フロラードFC430、同FC431、同FC171(以上、住友スリーエム(株)製)、サーフロンS−382、同SC−101、同SC−103、同SC−104、同SC−105、同SC1068、同SC−381、同SC−383、同S393、同KH−40(以上、旭硝子(株)製)、PF636、PF656、PF6320、PF6520、PF7002(OMNOVA社製)等が挙げられる。
【0101】
ノニオン系界面活性剤として具体的には、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン並びにそれらのエトキシレート及びプロポキシレート(例えば、グリセロールプロポキシレート、グリセリンエトキシレート等)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル(BASF社製のプルロニックL10、L31、L61、L62、10R5、17R2、25R2、テトロニック304、701、704、901、904、150R1、パイオニンD−6512、D−6414、D−6112、D−6115、D−6120、D−6131、D−6108−W、D−6112−W、D−6115−W、D−6115−X、D−6120−X(竹本油脂(株)製)、ソルスパース20000(日本ルーブリゾール(株)製)、ナロアクティーCL−95、HN−100(三洋化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0102】
カチオン系界面活性剤として具体的には、フタロシアニン誘導体(商品名:EFKA−745、森下産業(株)製)、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)、(メタ)アクリル酸系(共)重合体ポリフローNo.75、No.90、No.95(共栄社化学(株)製)、W001(裕商(株)製)等が挙げられる。
【0103】
アニオン系界面活性剤として具体的には、W004、W005、W017(裕商(株)社製)、サンデッドBL(三洋化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0104】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製「トーレシリコーンDC3PA」、「トーレシリコーンSH7PA」、「トーレシリコーンDC11PA」,「トーレシリコーンSH21PA」,「トーレシリコーンSH28PA」、「トーレシリコーンSH29PA」、「トーレシリコーンSH30PA」、「トーレシリコーンSH8400」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「TSF−4440」、「TSF−4300」、「TSF−4445」、「TSF−4460」、「TSF−4452」、信越シリコーン株式会社製「KP341」、「KF6001」、「KF6002」、ビックケミー社製「BYK307」、「BYK323」、「BYK330」等が挙げられる。
界面活性剤は、1種のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
界面活性剤の添加量は、ハードコート層の全質量に対して、0.001質量%〜2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.005質量%〜1.0質量%である。
【0105】
すべり剤としては、脂肪族ワックスを含有させることができる。脂肪族ワックスの具体例としては、カルバナワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、パームワックス、ロジン変性ワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス等の植物系ワックス、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウ、セラックワックス等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックスを挙げることができる。この中でも、ハードコート層や粘着剤等に対する易接着性と滑性が良好なことから、カルバナワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが特に好ましい。これらは環境負荷の低減が可能であることおよび取扱いのし易さから水分散体として用いることも好ましい。市販品としては例えばセロゾール524(中京油脂(株)製)などが挙げられる。
【0106】
マット剤としては、有機または無機微粒子のいずれも使用することができる。例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のポリマー微粒子や、シリカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の無機微粒子を用いることができる。これらの中でも、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカは、すべり性改良効果やコストの観点から好ましく用いられる。
これらの粒子は、粒子単体で用いてもよく、コロイダルシリカのように、水等の分散媒に分散したコロイドとして用いてもよい。市販品としては、例えばスノーテックスXL(日産化学工業(株)製)、シーホスターKE−P250(日本触媒(株)製)などが挙げられる。また、マット剤は2種類以上含んでいてもよい。
【0107】
(透明導電フィルム/タッチパネル)
本発明の積層フィルムに透明電極層を積層することで、透明導電フィルムまたはタッチパネルとすることができる。また、透明導電フィルムまたはタッチパネルには、必要に応じて、光学調整層、ガスバリア層、ITO電極等の透明電極層、プリズム層、反射防止層等他の層を設けてもよい。
【0108】
透明電極層には、一般的にITO(インジウム・錫酸化物)が用いられており、その電極パターンはITO導電膜をパターニングすることにより作製される。ハードコート層と透明電極層は接するように積層されても良く、ハードコート層と透明電極の間に光学調整層等の調整層を積層しても良い。光学調整層は、各層間の屈折率の差を調整するために設けられる。
ITOの屈折率は約2.1程度であり、支持基板であるポリエステルフィルムの屈折率1.6程度と比べると大きい。したがって、ITOが有るところと無いところとでは、外光による反射強度が異なるため、ITOのパターンが見えてしまい、表示品位を著しく劣化させることになる。この現象をITO骨見えという。しかし、光学調整層を設けることにより、透明電極層との屈折率の差を調整し、ITO骨見えを低減することができる。
光学調整層の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる製膜方法でもよく、例えば特開2012−206307号公報に記載の方法を用いることができる。光学調整層の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる製膜方法でもよく、例えば特開2012−206307号公報に記載の方法を用いることができる。
【0109】
本発明の透明導電フィルムまたはタッチパネルに用いることができる透明電極層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのいずれか、または、それらの2種類もしくは3種類の混合酸化物、さらには、その他添加物が加えられた物などが挙げられるが、目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。現在のところ、最も信頼性が高く、多くの実績のある材料は酸化インジウムスズ(ITO)である。
透明電極層の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる成膜方法でもよく、例えば特開2012−206307号公報に記載の方法を用いることができる。
【0110】
本発明のタッチパネルは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRTディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置等に組み込むことで、入力デバイスとして利用することができる。本発明のタッチパネルを利用することで、干渉ムラの発生が抑制され、かつ、良好な色味のタッチパネルとすることができる。
タッチパネルの構成については、抵抗膜型、静電容量型などがあり、静電容量型の入力装置は、単に一枚の基板に透光性導電膜を形成すればよいという利点があるため、静電容量型であることが好ましい。かかる静電容量型の入力装置では、例えば、透明電極層として互いに交差する方向に電極パターンを延在させて、指などが接触した際、電極間の静電容量が変化することを検知して入力位置を検出するタイプのものを好ましく用いることができる。このようなタッチパネルの構成については、例えば、特開2010−86684号公報、特開2010−152809号公報、特開2010−257492号公報等の記載を参酌できる。
タッチパネルを構成要素として備えた画像表示装置の構成については、『最新タッチパネル技術』(2009年7月6日発行(株)テクノタイムズ)、三谷雄二監修、“タッチパネルの技術と開発”、シーエムシー出版(2004,12)、FPD International 2009 Forum T−11講演テキストブック、Cypress Semiconductor Corporation アプリケーションノートAN2292等に開示されている構成を適用することができる。
また、タッチパネルを組み込むことができる液晶ディスプレイの構成については、特開2002−48913号公報等の記載も参酌できる。
【0111】
(積層フィルムの製造方法)
積層フィルムは、グロー放電処理を施したポリエステルフィルムの上にポリマー層を形成し、さらにポリマー層の上にハードコート層を形成することによって得られる。
具体的には、積層フィルムの製造方法は、Tg以上に加熱されたポリエステルフィルムの表面にグロー放電処理を施す工程と、ポリエステルフィルムのグロー放電処理を施した面上に粒子を含有したポリマー層を形成する工程と、ポリマー層の上にアルコキシシランの加水分解縮合物を含むハードコート層を形成する工程を有する。
【0112】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明に用いられるポリエステルフィルムは、溶液流延法、溶融押し出し法等、各種公知の方法を用いて作製することができる。また、市販されているポリエステルフィルムも用いることができる。
【0113】
得られたポリエステルフィルムの表面にはグロー放電処理が施される。グロー放電処理時のポリエステルフィルムの表面温度は、ポリエステルフィルムのTg〜200℃であることがより好ましく、Tg〜180℃であることがより好ましい。
なお、グロー放電処理工程は、ポリエステルフィルムを一軸方向に延伸した後に行ってもよいし、2軸延伸した後に行ってもよいし、全く延伸しない状態で適用してもよい。
【0114】
ポリエステルフィルムの加熱の詳細については、上述したポリエステルフィルムのグロー放電処理に関する対応する記載を参照することができる。真空中で被処理フィルムの温度を上げる具体的方法としては、赤外線ヒーターによる加熱、熱ロールに接触させることによる加熱などが挙げられる。
【0115】
Tg以上に加熱されたポリエステルフィルムの表面にグロー放電処理を施す工程は、Tg以上に加熱されたポリエステルフィルムの表面にグロー放電を発生させる工程である。Tg以上に加熱されたポリエステルフィルムの表面をグロー放電処理することにより、ポリエステルフィルムにオリゴマーが析出することを防ぐことができ、ポリエステルフィルムが白化することを防止できる。さらに、ポリエステルフィルムが黄変することを抑制することができる。
【0116】
グロー放電処理は、ポリエステルフィルムを加熱した直後に行われることが好ましい。本発明では、ポリエステルフィルムの表面温度がTg以上である時にグロー放電処理が施されることが好ましい。ポリエステルフィルムの表面がTg以上の状態でグロー放電処理を行うことにより、ポリマー層とポリエステルフィルムの密着性を高めることができる。また、グロー放電処理前後のb*値の変化量を少なくすることができ、ポリエステルフィルムからオリゴマーが析出することも防ぐことができる。したがって、本発明で得られる積層フィルムは、密着性および透明性が高く、タッチパネル等に好適に用いられる。
【0117】
<ポリマー層の製造方法>
本発明におけるポリマー層を形成する工程は、ポリエステルフィルムのグロー放電処理を施した面上に粒子を含有したポリマー層を形成する工程である。ポリマー層の形成方法としては、易接着性を有するポリマーシートをポリエステルフィルムに貼合する方法や塗布による方法があるが、塗布による方法は、簡便でかつ均一性の高い薄膜での形成が可能である点で好ましい。塗布方法としては、特に制限はなく、バーコーター塗布、スライドコーター塗布等の公知の方法を用いることができる。
【0118】
ポリマー層を塗布する際には溶媒(塗布溶媒)を用いることができる。塗布溶媒としては、水、トルエン、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン等、およびこれらの混合系等の水系、有機溶剤系の塗布溶剤を用いることができる。これらのうちで水を塗布溶媒として用いる方法はコスト、製造の簡便さを考えると好ましい。これらの溶媒に、粒子とポリマー層を構成するバインダーを混合し、ポリマー層形成用塗布液を得ることができる。
【0119】
ポリマー層は、ポリエステルフィルム上にポリマー層形成用塗布液を層状に適用した後、乾燥させることによって硬化させる。ポリマー層を2層構造とする場合は、第2層目を塗布した後に乾燥させて硬化させることが好ましい。
【0120】
ポリマー層を積層したポリエステルフィルムは延伸工程において、延伸処理を施すことができる。延伸工程においては、積層フィルムを1軸方向または2軸方向に延伸することが好ましく、2軸方向に延伸することがより好ましい。2軸方向への延伸(2軸延伸)は、長手方向(MD:Machine Direction)の延伸(以下「縦延伸」ともいう)及び幅方向(TD:Transverse Direction)の延伸(以下、「横延伸」ともいう)であることが好ましい。当該縦延伸、横延伸は各々1回で行っても良く、複数回に亘って実施しても良く、同時に縦、横に延伸してもよい。
延伸処理は、フィルムのガラス温度(Tg)℃〜(Tg+60)℃で行うのが好ましく、より好ましくはTg+3℃〜Tg+40℃、さらに好ましくはTg+5℃〜Tg+30℃である。
【0121】
延伸工程においては、延伸処理の前又はその後、好ましくは延伸処理後に、フィルムに熱処理を施すことができる。熱処理を施すことによって、微結晶を生成し、力学特性や耐久性を向上させることができる。180℃〜210℃程度(更に好ましく185℃
〜210℃)で1秒間〜60秒間(更に好ましくは2秒間〜30秒間)の熱処理をフィルムに施してもよい。
【0122】
延伸工程においては、熱処理後、熱緩和処理を施すことができる。熱緩和処理とは、フィルムに対して応力緩和のために熱を加えて、フィルムを収縮させる処理である。熱緩和処理は、フィルムのMD及びTDの両方向に施すことが好ましい。熱緩和処理における諸条件は、熱処理温度より低い温度で処理することが好ましく、130℃〜205℃が好ましい。また、熱緩和処理は、フィルムの熱収縮率(150℃)がMD及びTDがいずれも1〜12%であることが好ましく、1〜10%が更に好ましい。
【0123】
<ハードコート層の製造方法>
ハードコート層を形成する工程は、ポリマー層の表面であって、ポリエステルフィルムが積層された面とは反対の面にハードコート層を積層する工程である。ハードコート層とポリエステルフィルムはポリマー層を介して対向するように配置される。なお、ハードコート層を形成する工程は、アルコキシシランを加水分解する工程と、加水分解したアルコキシシランを縮合する工程を含んでもよい。
ハードコート層は、本発明の水性組成物をポリマー層の表面にアルコキシシランを添加した水性組成物を塗布することにより形成される。水性組成物の調液手順は特に限定されないが、アルコキシシランを加水分解し、その加水分解液にコロイダルシリカ分散液、アルミキレート錯体の順に添加する方法が最も溶解性及び保存安定性が高い。
【0124】
水性組成物が塗布される前に、水性組成物にpH調整剤を添加し、pHを所望の範囲となるように調節することが好ましい。pH調整剤としてはpHを変更させるものであれば特に制限がなく、具体的には、酸(有機酸、無機酸)としては、例えば硝酸、シュウ酸、酢酸、蟻酸、塩酸など、アルカリとしては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、エチレンジアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。pH調整剤は、直接添加しても、水溶液などの溶液として添加してもよい。pH調整剤は、pHが所望の範囲を満たす限り、使用する量は特に限定されない。
本発明では、水性組成物のpHが2〜6となるように調整されることが好ましい。pH調整剤としては硝酸、シュウ酸、酢酸、蟻酸、塩酸が好ましく、酢酸が特に好ましい。
【0125】
水性組成物の塗布工程は、ポリマー層を積層したポリエステルフィルムの延伸工程の途中に設けられても良いが、延伸工程の後に設けられることが好ましい。水性組成物の塗布は公知の塗布機を適宜用いることができる。例えば、スピンコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーター等を挙げることができる。
塗布工程の後には、塗布液を乾燥させる工程が設けられる。乾燥工程では、加熱乾燥を行うことが好ましい。加熱乾燥では、塗布膜の温度が160℃以上となるように加熱することが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがより好ましい。また、塗布膜の温度は、220℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましい。加熱乾燥温度を上記範囲内とすることにより、塗布膜を十分に硬化することができ、かつ、ハードコート層に変形が起こることを防ぐことができる。なお、加熱時間は、10秒〜5分であることが好ましい。
【0126】
乾燥工程の後に得られた積層フィルムは、その後ロール状に巻き取られても良く、シート状にカットされても良い。
【実施例】
【0127】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0128】
(実施例1)
<ポリエステルフィルムの作成>
Ti化合物を触媒として重縮合した固有粘度0.64(dl/g)であり、Tg温度が69℃のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)樹脂を含水率50ppm以下に乾燥させ、ヒーター温度を280〜300℃に設定し、押し出し機内で溶融させた。溶融させたPET樹脂をダイ部より静電印加されたチルロール上に吐出させ、非結晶ベースを得た。得られた非結晶ベースをベース進行方向に3.3倍に延伸した後、幅方向に対して3.8倍に延伸し、厚さ125μmのPETフィルムを得た。屈折率は、1.66であった。
【0129】
上記により形成したPETフィルムを搬送速度80m/分で搬送しながら、両面に対して真空条件でグロー放電処理を行った。グロー放電処理の条件は4.0KJ/m2、グロー放電処理前のPETフィルムの表面温度は、150℃であった。
【0130】
<ポリマー層の作成>
ポリマー層塗布液は、以下の処方を用いた。
酸化スズ微粒子分散液 固形分として8質量部
(平均粒径60nm)
ポリウレタン 2.8質量部
(三井化学(株)製、タケラックWS−5100)
架橋剤 4.2質量部
(日清紡ケミカル(株)製、カルボジライトV−02−L2の10%希釈液)
界面活性剤A 0.2質量部
(三洋化成工業(株)製、サンデッドBLの10%水溶液、アニオン性)
界面活性剤B 0.2質量部
(三洋化成工業(株)製、ナロアクティーCL−95の10%希釈液、ノニオン性)
水 84.6質量部
【0131】
上記処方は塗布乾燥後のポリマー層の屈折率が1.58となるように調整したものである。グロー放電処理を行ったPETフィルムの表面に、ポリマー層塗布液をバーコート法により塗布した。そして、これを150℃で2分乾燥させた。PETフィルムの両面にポリマー層が塗布された積層フィルムを得た。なお、積層フィルムを、透過型電子顕微鏡(JEM2010(日本電子化(株))製)を用いて倍率200000倍で観察することにより、ポリマー層の膜厚を測定した。膜厚は、100nmであった。
【0132】
<ハードコートフィルムの作成>
上記のようにして得られたポリマー層にコロナ処理を施した後、ハードコート層形成用水性組成物を塗布した。そしてこれを150℃で2分乾燥させ、ハードコート層を形成した。ハードコート層の膜厚は1μmであった。
【0133】
水性組成物は、以下の処方を用いた。
酢酸水溶液 100質量部
(ダイセル化学工業(株)製、工業用酢酸の1%水溶液)
3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン 80質量部
(信越化学工業(株)製、KBE−403)
テトラエトキシシラン 20質量部
(信越化学工業(株)製、KBE−04)
アルミニウムキレート錯体 22.1質量部
(川研ファインケミカル製、アルミキレートD)
無機微粒子 200質量部
(日産化学工業(株)製、スノーテックスO−33)
界面活性剤A 0.2質量部
(三洋化成工業(株)製、サンデッドBLの10%水溶液、アニオン性)
界面活性剤B 0.2質量部
(三洋化成工業(株)製、ナロアクティーCL−95の10%希釈液、ノニオン性)
マット剤 0.02質量部
(日本触媒(株)製、シーホスターKE−P250)
【0134】
調液は以下の手順で行った。100質量部の1%酢酸に3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(KBE−403)を添加して十分に加水分解した後、テトラアルコキシシラン(KBE−04)を添加した。アルミニウムキレート錯体をエポキシ基含有アルコキシシランに対して必要な質量部添加し、ここに無機微粒子(スノーテックスO−33)を添加した。界面活性剤A(サンデットBL)の10%希釈液と界面活性剤B(ナロアクティーCL−95)の10%希釈液を0.2質量部ずつ添加し、マット剤(シーホスターKE−P250)を添加し、固形分濃度が15%になるように水を添加し水性組成物とした。
【0135】
以上のようにして、積層フィルムを得た。
【0136】
(実施例2)
ポリマー層に含まれる粒子の平均粒子径を130nm(三菱マテリアル電子化成(株)製、EP SPDL−2)とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0137】
(実施例3)
ポリマー層に含まれる粒子の平均粒子径を40nmとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0138】
(実施例4)
ハードコート層中に含まれる3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとテトラエトキシシランの量を表1に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0139】
(実施例5)
ポリマー層に含まれる粒子を、平均粒子径55nmの酸化ジルコニウム(日産化学工業(株)製、ZR−30BS)に変えた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0140】
(実施例6)
グロー放電処理前のPETフィルムの表面温度を110℃とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0141】
(実施例7、8)
グロー放電処理の条件をそれぞれ、7.0KJ/m2、30KJ/m2とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0142】
(比較例1)
ポリエステルフィルムの表面にグロー放電処理を施す際の温度を室温(25℃)とした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0143】
(比較例2)
ポリエステルフィルムの表面処理をコロナ処理とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。
【0144】
(比較例3)
ポリマー層に含まれる粒子の平均粒子径を130nmとした以外は比較例2と同様にして積層フィルムを作成した。
【0145】
(比較例4)
ポリマー層に粒子を含有しないこととした以外は比較例2と同様にして積層フィルムを作成した。
【0146】
(評価)
実施例1〜8および比較例1〜4で得られた積層フィルムについて、下記の手法を用いて評価を行った。
【0147】
<密着評価試験(通常条件)>
サンプルの表面に片刃カミソリを用いて縦、横それぞれ11本のキズをつけて100個の桝目を形成した。次いで、この上にセロハンテープ(ニチバン(株)製405番、24mm幅)を貼り付けて、その上からケシゴムでこすって完全に付着させた後、90度方向に剥離させて、剥離した桝目の数を求めることにより、下記のランク付けを行って密着性を評価した。なお、上記のキズの幅は、縦、横とも1mmとした。
Aランク: 剥れなしの場合
Bランク: 剥離した桝目数が5未満の場合
Cランク: 剥離した桝目数が5以上10未満の場合
Dランク: 剥離した桝目数が10以上30未満の場合
Eランク: 剥離した桝目数が30以上の場合
【0148】
<密着評価試験(強制条件)>
湿熱経時後の接着性の評価を下記のようにして行った。
各ポリマーシートを65℃、相対湿度95%の環境条件下で500時間保持した後、25℃、相対湿度60%の環境下において1時間調湿した後、上述した密着性の評価と同様の方法で、密着性を評価した。
Aランク: 剥れなしの場合
Bランク: 剥離した桝目数が5未満の場合
Cランク: 剥離した桝目数が5以上10未満の場合
Dランク: 剥離した桝目数が10以上30未満の場合
Eランク: 剥離した桝目数が30以上の場合
【0149】
<b*値の評価 >
*値は、分光色差計(SE−2000、日本電色工業(株))を用いて、透過法にて測定した。
Aランク:0〜1.0
Bランク:1.0〜1.2
Cランク:1.2〜
【0150】
<透明性の評価>
透明性は、全光線透過率とヘイズの加熱処理前後での変化量とを測定し、この測定結果により評価した。全光線透過率とヘイズとは、ヘイズメーター(NDH−2000、日本電色工業(株))を用いて、JIS−K−7105に準じて測定した。
ヘイズの加熱処理前後での変化量(単位;%)については、所定条件での加熱処理の前(つまり、加熱処理無し)と後との両方につきヘイズをそれぞれ測定し、加熱処理前のヘイズをH1、加熱処理後のヘイズをH2とするときに|H2−H1|/H1×100の式で求めた。
ヘイズ測定における前記加熱処理は、導電性フィルム10からサンプリングしたサンプルを、内部の温度を150℃に設定したオーブンの中に入れて、10分間保持することにより行った。なお、加熱処理後のヘイズ測定は、オーブンから取り出したサンプルを冷却してから実施した。
Aランク: 0.5%以下
Bランク: 0.5〜1%
Cランク: 1%以上
【0151】
<干渉ムラの評価>
ハードコート層を塗布したサンプルを、黒色ドスキン布を張り合わせた机上においてから、乳白色のアクリル板を通した蛍光灯の拡散光を塗布層に照射し、発生する反射光を目視により観察した。そして、このとき観察される虹状の干渉ムラを下記基準により判断して、これを塗布面状として評価した。また、目視判断にあたり、強制条件評価として試料に対して黒化処理を行い、500nm光の透過率を1%以下となるように調整した。なお、黒化処理としては、試料のうち観察する面とは反対面に、マジックインキ(artline 油性マーカー補充インキ KR‐20クロ、shachihata(株)製)を塗工した後、これを乾燥させた。
Aランク:黒化処理後の試料および未処理の試料の双方において、虹状干渉ムラが目視で確認されない。
Bランク:黒化処理後の試料では虹状干渉ムラが目視で確認されるが、未処理の試料では確認されない。
Cランク:黒化処理後の試料および未処理の試料の双方において、虹状干渉ムラが目視で確認される。
【0152】
<非結晶度/結晶度>
ピーク比率は、ATR−IR法で測定し、算出した。
【0153】
<表面改質深さ>
表面からの改質深さは、断面TEMで評価を行った。
【0154】
実施例1〜8および比較例1〜4で得られた積層フィルムの各項目の評価結果を表1にまとめた。
【0155】
【表1】
【0156】
実施例1〜8で得られた積層フィルムは、ポリマー層に粒子を含み、ポリエステルフィルムの表面から40〜330nmの範囲内に非晶度(非結晶度/結晶度)が5%以上の表面改質層を有しているため、通常条件および強制条件における密着性に優れ、干渉ムラが解消されている。特に、実施例1、3〜8では、粒子の粒径が一定以下であるため、b*値とヘイズ値の両方が低く抑えられており、色味および透明性が良好であることがわかる。
一方、比較例1は、グロー放電理処理をTg以上で行っていないため、所定の表面改質層が形成されておらず、通常条件および強制条件における密着性が著しく悪いことがわかる。また、比較例2は、グロー放電処理を行っていないため、所定の表面改質層が形成されておらず、通常条件および強制条件における密着性が著しく悪いことがわかる。比較例3は、グロー放電処理を行っていないが比較的粒径の大きい粒子を用いているため、通常条件時の密着性はある程度発揮されている。しかし、強制条件における密着性は低下している。比較例4は、粒子が含有されていないため、密着性は低下していないが、干渉ムラが解消されていないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明によれば、ハードコート層を有する積層フィルムにおいて、干渉ムラの発生を抑制することができ、かつ、積層フィルムの層間の密着性を高めることができる。また、本発明の積層フィルムは、干渉ムラが解消され、層間の密着性が良好であるため、透明導電フィルムやタッチパネル等の用途として好適であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0158】
1 ポリエステルフィルム
2 ポリマー層
3 粒子
4 ハードコート層
5 表面改質層
10 積層フィルム
図1
図2