(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998654
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】真空処理装置、真空処理方法及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20160915BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20160915BHJP
H01L 21/8246 20060101ALI20160915BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20160915BHJP
H01L 43/12 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
C23C14/34 T
C23C14/58 Z
H01L27/10 447
H01L43/12
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-125531(P2012-125531)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-249517(P2013-249517A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 真司
(72)【発明者】
【氏名】五味 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】北田 亨
(72)【発明者】
【氏名】中村 貫人
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−099271(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/074076(WO,A1)
【文献】
特開2007−173843(JP,A)
【文献】
特開2009−084622(JP,A)
【文献】
特開2007−266584(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0042930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 43/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理装置において、
酸素を吸着する性質を有する物質からなる第1のターゲットと、
金属からなる第2のターゲットと、
前記第1のターゲット及び第2のターゲットに電圧を印加する電源部と、
前記第1及び第2のターゲットの一方をスパッタしているときに当該一方のターゲットからの粒子が他方のターゲットに付着するのを防止するためのシャッターと、
前記第1のターゲットからの粒子が基板に付着するのを防止するために基板を覆う遮蔽位置と基板を覆う位置から退避した退避位置との間で移動自在な遮蔽部材と、
前記基板の上方位置と当該上方位置から退避した退避位置との間で移動自在に構成され、前記載置部上の基板に対して酸素を含むガスを供給するための酸素供給部と、
前記真空容器内に第1のターゲットの粒子を付着させるために、前記遮蔽部材を遮蔽位置に設定した状態で第1のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して第1のターゲットをスパッタするステップと、次いで第1のターゲットに対する電圧供給を停止し、前記遮蔽部材及び酸素供給部の各々を退避位置に設定した状態で、基板に金属膜を成膜するために、第2のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して第2のターゲットをスパッタするステップと、続いて前記酸素供給部を前記退避位置から前記上方位置へ移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記基板に供給するステップと、を実行するための制御部と、を備えたことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理装置において、
酸素を吸着する性質を有する金属からなるターゲットと、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
前記ターゲットからの粒子が基板に付着するのを防止するために基板を覆う遮蔽位置と基板を覆う位置から退避した退避位置との間で移動自在な遮蔽部材と、
前記基板の上方位置と当該上方位置から退避した退避位置との間で移動自在に構成され、前記載置部上の基板に対して酸素を含むガスを供給するための酸素供給部と、
前記真空容器内にターゲットの粒子を付着させるために、前記遮蔽部材を遮蔽位置に設定した状態でターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタするステップと、次いでターゲットに対する電圧供給を停止し、前記遮蔽部材及び酸素供給部の各々を退避位置に設定した状態で、基板に金属膜を成膜するために、前記ターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタするステップと、続いて前記酸素供給部を前記退避位置から前記上方位置へ移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記基板に供給するステップと、を実行するための制御部と、を備えたことを特徴とする真空処理装置。
【請求項3】
前記酸素供給部は、前記遮蔽部材に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記酸素供給部から真空容器内に酸素を含むガスが吐出される前に当該ガスを加熱するための加熱部を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記第1のターゲットは、チタン、クロム、タンタル、ジルコニウム、マグネシウム、またはハフニウムから選ばれる金属、あるいはこれらのうち1種以上を含む合金であることを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記第2のターゲットは、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、ガリウム、マンガン、銅、銀、亜鉛、またはハフニウムから選ばれる金属であることを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項7】
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理方法において、
酸素を吸着する性質を有する物質からなる第1のターゲットと、金属からなる第2のターゲットと、を用い、
前記第1のターゲットからの粒子が前記基板に付着するのを防止するために遮蔽部材により前記載置部上の前記基板を覆うと共に第1のターゲットからの粒子が第2のターゲットに付着するのを防止するために第2のターゲットに臨む位置にシャッターを配置する工程と、
次に、前記第1のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して前記第1のターゲットをスパッタし、これにより第1のターゲットの粒子を真空容器内に付着させる工程と、
次いで前記第1のターゲットに対する電圧供給を停止すると共に第2のターゲットからの粒子が第1のターゲットに付着するのを防止するために第1のターゲットに臨む位置にシャッターを配置し、かつ遮蔽部材を前記基板を覆う位置から退避させる工程と、
その後、前記第2のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該第2のターゲットをスパッタし、前記基板に対して金属膜を成膜する工程と、
続いて酸素供給部を退避位置から前記基板の上方位置に移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記載置部上の前記基板に供給する工程と、を含むことを特徴とする真空処理方法。
【請求項8】
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理方法において、
酸素を吸着する性質を有する金属からなるターゲットを用い、
前記ターゲットからの粒子が前記基板に付着するのを防止するために遮蔽部材により前記載置部上の基板を覆う工程と、
次に前記ターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタし、これによりターゲットの粒子を真空容器内に付着させる工程と、
その後、前記遮蔽部材を前記基板を覆う位置から退避させた状態で、前記ターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタし、前記基板に対して金属膜を成膜する工程と、
続いて酸素供給部を退避位置から前記基板の上方位置に移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記載置部上の前記基板に供給する工程と、を含むことを特徴とする真空処理方法。
【請求項9】
前記酸素供給部は、前記遮蔽部材に設けられていることを特徴とする請求項7または8記載の真空処理方法。
【請求項10】
酸素を吸着するために用いる前記ターゲットの粒子を前記真空容器内に付着させる工程は、前記基板に金属酸化膜を形成した後、当該基板が真空容器内から搬出される前と、次の基板が入れ替わって前記真空容器内に搬入された後と、に行われることを特徴とする請求項7または8記載の真空処理方法。
【請求項11】
酸素を吸着するために用いる前記ターゲットの粒子を前記真空容器内に付着させる前記工程と、前記基板にスパッタにて前記金属膜を形成する前記工程と、酸素を含むガスを前記載置部上の前記基板に供給する前記工程とを順次複数回繰り返し、互いに積層された金属酸化膜を成膜することを特徴とする、請求項7ないし10のいずれか一項に記載の真空処理方法。
【請求項12】
互いに積層された複数の金属酸化膜の少なくとも2つの金属酸化膜については、酸素を含むガスを基板に供給するときの酸素の流量が互いに異なることを特徴とする請求項11記載の真空処理方法。
【請求項13】
前記酸素供給部から真空容器内に酸素を含むガスが吐出される前に当該ガスを加熱することを特徴とする請求項7ないし12のいずれか一項に記載の真空処理方法。
【請求項14】
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理に用いられるコンピュータプログラムが記録された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項7ないし13のいずれか一項に記載の真空処理方法を実施するためのものであることを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属からなるターゲットをスパッタすることにより基板上に金属膜を成膜し、次いで金属膜を酸化して金属酸化膜を得る真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近において、従来のDRAM等のメモリに比べて優れた特性を有することで期待されているメモリの一つとしてMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)が注目されている。MRAM記憶素子の基本的なメカニズムを
図12に示す。MRAM記憶素子は、絶縁膜91を挟んで両側に強磁性層92a及び92bを有し、強磁性層92aの磁化方向は可変であり、強磁性層92bの磁化方向は固定されている。
図12(a)に示すように両側の強磁性層92a及び92bの磁化が逆方向のとき絶縁膜92の抵抗値は上昇し、強磁性層92aから92bに電流が流れにくくなる。この状態を記憶素子の「1」の状態として用いている。反対に
図12(b)に示すように両側の強磁性層92a及び92bの磁化が同方向のとき絶縁膜92の抵抗値は低下し、強磁性層92aから92bに電流が流れやすくなる。この状態を記憶素子の「0」の状態として用いている。
【0003】
絶縁膜としては金属酸化膜が用いられるが、金属酸化膜の抵抗値が変動すると、MRAMとしての特性が変化し、上述した「0」または「1」の書き込みの際に必要な電流の大きさが変動する。このためMRAMの金属酸化膜の抵抗値については厳しい許容範囲が設定されている。
【0004】
この金属酸化膜の成膜工程として、特許文献1には金属酸化物から成るターゲットをスパッタする手法(リアクティブスパッタ法)が記載されているが、この手法は金属ターゲット表面がスパッタ中に徐々に酸化するという問題がある。また特許文献2には酸素ガスをスパッタ装置内に導入しながら、金属から成るターゲットをスパッタして基板上に金属酸化膜を得る手法が記載されているが、残留酸素によりターゲットの表面が酸化され、成膜された金属酸化膜の抵抗値が不安定になる問題がある。さらに特許文献3には、金属膜を一の処理チャンバ内で成膜した後に、別の酸素供給チャンバ内で酸素を供給して金属膜を酸化させる手法が記載されているが、二つ以上のチャンバを用いるため装置全体としてスループットが低下する。また、酸素供給チャンバ内に導入した酸素が残留し、この残留酸素によって金属酸化膜の抵抗値が基板間でばらついてしまう懸念がある。
【0005】
上述した特許文献1ないし特許文献3の手法で成膜した金属酸化膜は、基板間における抵抗値の安定性に欠けることから、高い歩留まりが得られない課題がある。
【0006】
また、特許文献4には、2つのターゲットを有した処理チャンバを用い、金属酸化膜形成前にゲッタリングを行う旨のMRAM製造方法が記載されているが、金属酸化膜の材質そのもの(当該発明ではMgO)を直接ターゲットとして用いているため、本発明の動機付けとなるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−172989号公報
【特許文献2】特開2008−13829号公報
【特許文献3】特開平6−49633号公報
【特許文献4】特開2009−65181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情においてなされたものであり、その目的は、基板間において抵抗値の安定した金属酸化膜を成膜する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の真空処理装置は、
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理装置において、
酸素を吸着する性質を有する物質からなる第1のターゲットと、
金属からなる第2のターゲットと、
前記第1のターゲット及び第2のターゲットに電圧を印加する電源部と、
前記第1及び第2のターゲットの一方をスパッタしているときに当該一方のターゲットからの粒子が他方のターゲットに付着するのを防止するためのシャッターと、
前記第1のターゲットからの粒子が基板に付着するのを防止するために基板を覆う遮蔽位置と基板を覆う位置から退避した退避位置との間で移動自在な遮蔽部材と、
前記基板の上方位置と当該上方位置から退避した退避位置との間で移動自在に構成され、前記載置部上の基板に対して酸素を含むガスを供給するための酸素供給部と、
前記真空容器内に第1のターゲットの粒子を付着させるために、前記遮蔽部材を遮蔽位置に設定した状態で第1のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して第1のターゲットをスパッタするステップと、次いで第1のターゲットに対する電圧供給を停止し、前記遮蔽部材
及び酸素供給部の各々を退避位置に設定した状態で、基板に金属膜を成膜するために、第2のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して第2のターゲットをスパッタするステップと、続いて
前記酸素供給部を前記退避位置から前記上方位置へ移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記基板に供給するステップと、を実行するための制御部と、を備えたことを特徴とする。
また、本発明の別の真空処理装置は、
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理装置において、
酸素を吸着する性質を有する金属からなるターゲットと、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
前記ターゲットからの粒子が基板に付着するのを防止するために基板を覆う遮蔽位置と基板を覆う位置から退避した退避位置との間で移動自在な遮蔽部材と、
前記基板の上方位置と当該上方位置から退避した退避位置との間で移動自在に構成され、前記載置部上の基板に対して酸素を含むガスを供給するための酸素供給部と、
前記真空容器内にターゲットの粒子を付着させるために、前記遮蔽部材を遮蔽位置に設定した状態でターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタするステップと、次いでターゲットに対する電圧供給を停止し、前記遮蔽部材
及び酸素供給部の各々を退避位置に設定した状態で、基板に金属膜を成膜するために、前記ターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタするステップと、続いて
前記酸素供給部を前記退避位置から前記上方位置へ移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記基板に供給するステップと、を実行するための制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の真空処理方法は、
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理方法において、
酸素を吸着する性質を有する物質からなる第1のターゲットと、金属からなる第2のターゲットと、を用い、
前記第1のターゲットからの粒子が前記基板に付着するのを防止するために遮蔽部材により前記載置部上の前記基板を覆うと共に第1のターゲットからの粒子が第2のターゲットに付着するのを防止するために第2のターゲットに臨む位置にシャッターを配置する工程と、
次に、前記第1のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して前記第1のターゲットをスパッタし、これにより第1のターゲットの粒子を真空容器内に付着させる工程と、
次いで前記第1のターゲットに対する電圧供給を停止すると共に第2のターゲットからの粒子が第1のターゲットに付着するのを防止するために第1のターゲットに臨む位置にシャッターを配置し、かつ遮蔽部材を前記基板を覆う位置から退避させる工程と、
その後、前記第2のターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該第2のターゲットをスパッタし、前記基板に対して金属膜を成膜する工程と、
続いて
酸素供給部を退避位置から前記基板の上方位置に移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記載置部上の前記基板に供給する工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明の別の真空処理方法は、
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理方法において、
酸素を吸着する性質を有する金属からなるターゲットを用い、
前記ターゲットからの粒子が前記基板に付着するのを防止するために遮蔽部材により前記載置部上の基板を覆う工程と、
次に前記ターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタし、これによりターゲットの粒子を真空容器内に付着させる工程と、
その後、前記遮蔽部材を前記基板を覆う位置から退避させた状態で、前記ターゲットにプラズマ発生用の電圧を供給して当該ターゲットをスパッタし、前記基板に対して金属膜を成膜する工程と、
続いて
酸素供給部を退避位置から前記基板の上方位置に移動させ、当該酸素供給部から酸素を含むガスを前記載置部上の前記基板に供給する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の記憶媒体は、
真空容器内の載置部上の基板に向くように配置されたターゲットを、プラズマ発生用のガスをプラズマ化して得たプラズマ中のイオンによりスパッタして基板上に金属膜を形成し、次いでこの金属膜を酸化する真空処理に用いられるコンピュータプログラムが記録された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、上述の真空処理方法を実施するためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、酸素を吸着する性質を有する酸素ゲッタリング材である第1のターゲットと成膜用の金属からなる第2のターゲットとを用いている。そして基板を遮蔽部材にて覆った状態で第1のターゲットをスパッタして真空容器内にゲッタリング材を付着させ、その後遮蔽部材を開放した状態で第2のターゲットをスパッタして第2ターゲット由来の金属を基板上に成膜し、続いて遮蔽部材を閉じた後、当該真空容器内にて基板に酸素を供給し、金属膜を酸化している。従って真空容器内の残留酸素が低減された状態で金属膜が成膜されるので、金属酸化膜に含まれる酸素量を高い精度でコントロールすることができ、このため基板間で金属酸化膜の抵抗値が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態にかかる真空処理装置を示す縦断側面図である。
【
図2】第1の実施形態にかかる真空処理装置を上面から見た平面図である。
【
図3】第1の実施形態に用いられるシャッターを下面から見た平面図である。
【
図4】第1の実施形態に用いられるマグネット配列体の一例を示す平面図である。
【
図5】第1の実施形態に用いられるカバープレートを上面及び下面から見た平面図である。
【
図6】第1の実施形態に用いられるカバープレート及び周辺部位の詳細を示す断面図である。
【
図9】前記真空処理装置の各部位のステップ毎の動作を示した説明図である。
【
図10】第2の実施形態にかかる真空処理装置の縦断側面図である。
【
図11】実施例と比較例において成膜された酸化膜の抵抗値についての分布図である。
【
図12】MRAM記憶素子の基本的なメカニズムの略解図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る真空処理装置の構成は、
図1に示すように、導電性の素材、例えばステンレスから成り、接地された真空容器2を備え、真空容器2は円筒部分2aと突出部分2bとからなる。
図2に真空容器2を上面から見た図を示す。円筒部2aの天井部には共に円形かつ大きさも略同一である第1のターゲット電極32a及び第2のターゲット電極32bが、左右に並んで(x軸方向に並んで)水平に設けられている。これらターゲット電極32a及び32bはリング状の保持体34a及び34bを介して夫々リング状の絶縁体25a及び25bに接合され、絶縁体25a及び25bは真空容器2の天井部に接合している。従ってターゲット電極32a及び32bは、真空容器2とは電気的に絶縁された状態で、円筒部2aの上面より低く落とし込まれた位置に配置されている。
【0015】
第1のターゲット電極32aの下面には第1のターゲット31aが、第2のターゲット電極32bの下面には第2のターゲット31bがそれぞれ接合されている。ターゲット31a及び31bの形状は例えば共に正方形などの矩形であり、大きさも略同一である。
【0016】
ターゲット31a及び31bの直下には、シャッター61が備え付けられている。
図3にシャッター61を下面から見た平面図を示す。シャッター61は、ターゲット31a及び31bの両方の投影領域をカバーする大きさを持つ円形の板であり、円筒部2aの上面中心部に回転軸63を介して回転自在に取り付けられている。またシャッター61は、回転方向の位置を合わせたときにターゲット31aまたは31bの全体が下方側から見通せる位置にターゲット31a(31b)よりも少し大きいサイズの矩形の開口部62が形成されている。従ってターゲット31a及び31bの一方に臨む領域に開口部62が位置するときには、ターゲット31a及び31bの他方がシャッター61により覆われることとなり、前記一方のターゲットがスパッタされているときには叩き出された粒子が前記他方のターゲットに付着することを防止している。真空容器2の天井部上方における回転軸63と対応する位置にはマグネット64aを有する回転駆動部64が設けられ、このマグネット64aと回転軸63側に設けられたマグネットとの間の磁気結合により、回転軸63が回転するようになっている。
【0017】
一方、ターゲット電極32a及び32bは夫々電源部33a及び33bと接続されており、例えば負の直流電圧が印加されるようになっている。ターゲット電極32aと電源部33aとの間、及びターゲット電極32bと電源部33bの間には、夫々スイッチ38a及び38bが介在している。
【0018】
第1のターゲット31aの材料としては、酸素や水分を吸収する部材(以下「ゲッタリング部材」という)からなり、例えばチタン(Ti)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)またはハフニウム(Hf)、あるいはこれらの合金などが用いられる。一方ターゲット31bの材料は基板Sに対する成膜材である、例えばMg、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)ガリウム(Ga)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、及びHfなどの金属が挙げられる。本実施形態ではゲッタリング部材としてTiを、成膜材としてMgを用いることとする。
【0019】
また、真空容器2内には前記ターゲット31a、31bと対向するように、基板Sを水平に載置する載置部4が設けられている。載置部4は、軸部材4aを介して真空容器2の下方側に配置された駆動機構41に接続されている。駆動機構41は、載置部4を回転させる役割と、例えば半導体のシリコンウエハである基板Sを外部の図示しない搬送機構との間で昇降ピン41aを介して受け渡しする位置と、スパッタ時における処理位置との間で昇降させる役割を果たしている。42はシール部である。またこの載置部4内には図示しない加熱機構が組み込まれており、スパッタ時に基板Sを加熱できるように構成されている。昇降ピン41aは、基板Sの下面から3ヶ所で支持するように3本設けられ、昇降部41bにより支持部材41cを介して昇降する。
【0020】
ターゲット電極32a及び32bの上部には、夫々ターゲット電極32a及び32bと近接するようにマグネット配列体51a及び51bが設けられている。マグネット配列体51a及び51bは、透磁性の高い素材、例えば鉄(Fe)のベース体71にN極マグネット群72a〜72e及びS極マグネット群73a〜73dを、例えばN極とS極がマトリクス状となるように配列することで構成されている。
図4は、ターゲット31a、31b側からN極マグネット群72a〜72e及びS極マグネット群73a〜73dを見たときの平面図である。
【0021】
マグネット配列体51a及び51bは、ターゲット31a及び31bのエロージョンの均一性を高めるために中心から偏芯した位置に配置され、回転機構53a及び53bによりターゲット31a及び31bの中心を回転中心として回転するようになっている。
【0022】
また真空容器2内部には、第1のターゲット31aからの粒子が基板Sに付着するのを防止するために、基板Sよりもサイズの大きい遮蔽部材である円形状のカバープレート43が設けられている。
図5(a)はカバープレート43の上面図である。カバープレート43は、端部に設けられた支柱43aを中心に水平方向に旋回可能に構成され、基板Sを覆う遮蔽位置と基板Sを覆う位置から退避した退避位置との間で旋回する。支柱43aは真空容器2の底部を貫通し、回転駆動部47を介して回転支持部48により回転自在に支持されている。44はシール機構である。カバープレート43は、この例では上述の遮蔽機能に加えて酸素(O
2)を基板Sに供給する機能を有し、具体的には
図5(b)に示すようにカバープレート43の下面側に直径に沿って酸素ガスを吐出するガス吐出口45が等間隔に配列されている。
【0023】
図6にカバープレート43及び支柱43aの詳細な機構を示す。カバープレート43及び支柱43aの内部には、酸素ガス供給路46が設けられており、酸素ガス供給路46の上流端には、ガス供給路をなすフレキシブルチューブ46aが接続され、このフレキシブルチューブ46aは、バルブやフローメーター等のガス制御機器群49aが介設されたガス供給管49bを介して酸素ガス供給源49に接続されている。酸素ガス供給源49からの酸素ガスは、支柱43a及びカバープレート43内のガス供給路46を通って既述のガス吐出口45から吐出されることになる。回転駆動部47の一例としてモータ47a及びベルト47bを挙げているが、これに限られるものではない。支持部48にはスリップリング48bが設けられると共に支柱43a内には給電路48cが設けられ、給電路48cと外部の電源部48aとがスリップリング48bを介して電気的に接続されている。
【0024】
カバープレート43内には給電路48cに接続された温調機構である加熱部をなすヒータ40が設けられ、このヒータ40によりガス供給路46内の酸素ガスが予備加熱される。ヒータ40の配置領域としてはカバープレート43内に限らず支柱43a内に設けられていてもよいし、両方に設けてもよい。なお、カバープレート43及び支柱43aは、内部を空洞とし、空洞部内にガス供給路46、給電路48c及びヒータ40を設けるようにしてもよい。
【0025】
さらに、真空容器2は底部に排気路21が接続され、排気路21は圧力調整部21aを介して真空排気装置22に接続されている。また真空容器2の側面部には基板Sの搬入出口23を開閉するゲートバルブ24が設けられている。さらに真空容器2の上部側壁には、プラズマ発生用のガスである不活性ガス、例えばArガスを真空容器2内に供給するためのArガス供給路28が設けられている。このArガス供給路28は、バルブやフローメータ等のガス制御機器群27を介してArガス供給源26に接続されている。
【0026】
真空処理装置は、電源部33a及び33bからの電源供給動作、Arガス供給源26からのArガスの供給動作、昇降装置41による載置部4の昇降動作及び回転動作、カバープレート43の回転動作及び酸素ガス供給動作、マグネット配列体51a及び51bの回転動作、シャッター61の回転動作、真空排気装置22による真空容器2内部の排気動作、その他真空容器2に関する動作を制御するコンピュータからなる制御部100を備えている。そして制御部100は、基板S上に金属酸化膜の成膜を行うために必要な制御について命令群が組まれたプログラムが、外部記憶媒体、例えばハードディスク、テープストレージ、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリーカードなどを介して読み込まれ、当該真空処理装置全体の制御を行う。
【0027】
続いてこの装置の作用について
図1、
図7、
図8及び
図9を参照して説明する。
先ず図示しない外部の真空搬送室に設けられた搬送機構により基板Sを搬入出口23を介して搬入し、載置部4上に載置すると共に、ゲートバルブ24を閉じる。次いで圧力調整部21aを全開にして真空容器2内の引き切りを行う。
【0028】
図9は各部の動作を時系列に並べたシーケンスを示す説明図であり、基板Sの搬入時においては、シャッター61が全クローズ(ターゲット31a、31bの両方に対して閉じた位置にある)、カバープレート43が遮蔽位置に置かれている(ステップ1)。そしてArガス供給源26からArガスを導入し、真空容器2内の圧力を例えば100mPa(0.8mTorr)に設定する。更に第1のターゲット31a側であるTiターゲット側の電源部33aをオンにして、ターゲット電極32aに例えば380Vの直流電圧を印加する(ステップ2)。また、マグネット配列体51aを回転させると共に、シャッター61を第1のターゲット31a側が開口するように回転させる(ステップ3)。するとArガスが第1のターゲット31aに印加された電界及びマグネット配列体51aによる磁界により高密度にプラズマ化し、このプラズマにより第1のターゲット31aがスパッタされてTi粒子が叩き出され、真空容器2の壁面やカバープレート43の上面などにTi粒子が付着し、成膜される。
図7(a)はこの様子を表している。Ti粒子の真空容器2内部へのスパッタは例えば10秒間行う。そしてターゲット31aへの電圧印加とArガスの供給を停止し、マグネット配列体51aを停止させ、シャッター61を閉じる(ステップ4)。上述のスパッタにより真空容器2内部に付着したTi粒子は、真空容器2内に存在する酸素分子や水分子を吸収し、チタン酸化物などになる。このため、真空容器2内部の圧力は9×10
−8Paまで低下する。なお、第1のターゲット31aをスパッタする前における真空容器2内の圧力は4×10
−7Paであることから、Tiによるゲッタリング効果が大きいことが裏付けられる。
【0029】
Tiのスパッタリングが完了した後、Mgを基板Sにスパッタする。具体的には、再びArガスの供給を開始し、真空容器2内の圧力を例えば100mPa(0.8mTorr)に設定する。マグネット配列体51bを回転させ、ターゲット電極32b(第2のターゲット31b)に、例えば300Vの直流電圧を印加する(ステップ5)。カバープレート43を載置部4上から退避させ(ステップ6)、載置部4を回転させながら、シャッター61を第2のターゲット31b側が開口するように回転させる(ステップ7)。これによりArガスがプラズマ化し、第2のターゲット31bがスパッタされ、Mg粒子が基板S上へ付着し、基板S上に例えば膜厚3Å(0.3nm)のMg膜が成膜される。Mg粒子の基板Sへのスパッタは約10秒間行う。
図7(b)はこの様子を表している。そして第2のターゲット31bへの電圧印加とArガスの供給を停止し(ステップ8)、マグネット配列体51bを停止させ、シャッター61を閉じる(ステップ9)。
【0030】
そして
図7(c)に示すように酸素ガス供給源27からの酸素ガスをヒータ40により予備加熱した状態でカバープレート43のガス吐出口45内部から吐出させて、基板Sの表面に供給する。例えば純酸素ガスを1sccmの流量で20秒間吐出する(ステップ10)。この酸素ガス供給によりMg膜が酸化されてMgO膜となる。純酸素ガスの流量は、例えば0.1〜100sccmの範囲で設定される。
【0031】
そして、Mg粒子スパッタと酸素ガスのMg膜への供給を、例えば引き続き2回繰り返す。このようにMg粒子スパッタステップと酸素ガスのMg膜への供給ステップを全体で3回連続して行う工程により、3ÅのMgO膜が3層形成されて、全体で約9Å(0.9nm)のMgO膜が基板S上に形成される。
【0032】
この工程で、Mg膜へと供給する酸素の量は、ステップ毎に変化させることが可能であり、酸素流量をステップ毎に調整することにより、形成されるMgO膜の抵抗値の制御が可能である。例として、Mg膜へ供給する酸素流量を、最初のステップにおいて0.1sccm、2回目のステップにおいて1sccm、3回目のステップにおいて10sccmなどと設定する。この酸素流量の条件としては、ターゲット31bがMgの場合は0.1sccm〜40sccm、ターゲット31bがNiの場合は10sccm〜100sccmの条件が適している。また前記ステップを連続して複数回繰り返して積層膜を成膜するにあたり、積層膜を構成するいわば各分割膜の抵抗値を調整するために、各ステップ毎に酸素ガスの流量を調整し、例えば少なくとも2層の分割膜の間で酸素ガスの流量を異ならせるようにしてもよい。
【0033】
ここで、Mg膜に酸素ガスを供給する際に
図6のようなカバープレート43を用いる理由について説明する。酸素は反応性に富むため、酸素分子近傍の物質と反応、吸着しやすい性質を持つ。そのため、基板Sから遠い位置から基板Sに酸素ガスを供給すると、基板Sに酸素ガスが到達する前に近傍の物質と反応、吸着してしまい、結果としてMg膜に酸素が供給されにくくなる。従って酸素の消費量が多く、基板上に安定供給できなくなる。このためカバープレート43を用い、基板S上に近傍から酸素ガスを供給している。また、酸素導入時には、ターゲットに対する酸化防止の観点から、シャッター61はターゲット31a及び31b両方に対して遮蔽位置に移動する。
【0034】
図1及び
図8に戻って説明を続ける。3回目の酸素ガス供給ステップが終了した後、カバープレート43は載置部4上方の遮蔽位置に置いたまま、再びArガスを供給し、マグネット配列体51aを回転させ、ターゲット電極32aに直流電圧を印加し、シャッター61のターゲット31a側を開口させると、Ti粒子が再び真空容器2内部へとスパッタされる(ステップ11)。そしてターゲット31aへの電圧印加とArガスの供給を停止し、マグネット配列体51aを停止させ、シャッター61を閉じる。上述のTi粒子のスパッタは例えば約10秒間行う。
図8(d)はこの様子を表している。このTiのスパッタリングのステップにより、次工程へ搬出される基板SのMgO膜上及び真空容器2内から、余剰の酸素ガスが除去される。
【0035】
しかる後、シャッター61を両方のターゲット31a及び31bに対して閉じた状態にし、カバープレート43を載置部4上から退避させ、ゲートバルブ24を開成し、搬入出口23から基板Sを搬出する(ステップ12)。
図8(e)はこの様子を表している。
【0036】
上述の実施形態では、1枚の基板に対するMgO膜形成工程を
図1に示した一個の真空容器で行うことにより、外部からの酸素の流入を抑えることができる。また基板SへのMgO膜形成工程の前後にカバープレート43により基板Sを覆った状態でTiのスパッタリングを行い、真空容器2内の酸素を除去することにより、真空容器2内の残留酸素が低減された状態でMg膜を形成することができる。従ってMgの酸化程度を酸素ガスの供給量によりコントロールできるので、基板S間の抵抗値が安定する。よってMRAM記憶素子等のMgO膜を絶縁膜として用いる記憶素子等の製造において品質向上の面で有効である。
【0037】
なお、上述の実施形態において、基板S上へのMgO膜成膜工程において、Mg膜成膜ステップとMg膜を酸化しMgO膜とするステップは必ずしも繰り返しを要さない。また、前述したように成膜材としてはMgに限るものではなく、Al、Ni、Hf、Ga、Znなどの金属及びその合金などを使用することができる。
【0038】
ここで酸素ガス供給部が基板Sの上方位置に置かれているときは、上述した実施例では、第1のターゲット31aをスパッタするときのカバープレート43の上面から基板Sとの距離については、ターゲット31aと基板Sとの間の距離である260mmに対して例えば1/2以下である130mm以下が望ましい。遮蔽効果を得るためのカバープレート43の大きさについては、基板Sにカバープレート43を近づけることにより遮蔽効果が増大するため、カバープレート43の直径を小さくすることができる。
【0039】
さらに、例えば3Åの極薄のMgO膜を一回のMgスパッタ処理及び酸化処理にて成膜する場合、カバープレート43の下面と基板Sとの距離については、例えばカバープレート43の厚みが10mmである場合、10mm〜120mmとすることが好ましく、例えば30mmに設定される。この吐出口45と基板Sとの距離は、例えば載置部4を上昇操作すること等により調節する。これらの距離の設定の理由については、ターゲットやチャンバ壁に酸素分子が付着することを防止する観点と、酸素の消費量を少なくする観点から、吐出する酸素の量をできるだけ少なくするためである。
【0040】
[変形例]
酸素ガスの吐出口45は、上述実施形態のようにライン上に配置される代わりに、基板の投影領域内にて縦横にあるいは同心円状に配置されていてもよい。またガス吐出口45及び酸素ガス供給路46を含む酸素ガス供給部はカバープレート43と一体になっていることに限られるものではなく、別体であってもよい。この場合酸素ガス供給部は、カバープレート43の駆動とは独立して、基板Sの上方位置と当該上方位置から退避した位置との間で移動機構により移動できるように構成してもよい。
【0041】
また酸素ガス供給部は、例えば真空容器2の側壁を貫通するガス供給管により構成し、移動せずに酸素ガスの吐出口の位置が固定された態様であってもよい。更にまた排気口と酸素ガス供給部のレイアウトなどによっては、酸素ガス供給部から酸素ガスを基板Sに供給する吐出口は、基板の下方側に位置してもよい。上述の実施形態では酸素ガスを予備加熱するようにしているが、予備加熱しなくてもよい。そして、カバープレート43は、旋回する代わりに横方向に直線的に移動するように構成してもよい。また、装置構成、排気流の流れ及び排気口の配置などによっては、酸素ガス供給部から基板Sに酸素ガスを供給するときに、ターゲット31a、31bをシャッター61により閉じていなくてもよい。
【0042】
さらに、上述の実施形態では、第1及び第2のターゲット31a及び31bを載置部4上の基板Sと平行になるように配置しているが、第1及び第2のターゲット31a及び31bにおける基板Sの中心軸上の各端部が当該中心軸とは反対側の端部よりも高くなるように、第1及び第2のターゲット31a及び31bを傾ける構成であってもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、ターゲット31(31a、31b)に印加する電力は直流電力の代替として交流電力を用いてもよく、プラズマを発生させるための不活性ガスはArガスに限るものではない。またマグネット配列体51を用いることに限られず、例えばターゲット31に高周波電力を印加すると共に、載置台に高周波バイアスを印加する手法であってもよい。
【0044】
[第2の実施形態]
以下に詳述する第2の実施形態において、上述の第1の実施形態と説明が同一である部分については、同一の符号を付し説明を省略する。第2の実施形態は、
図10に示すように、第1の実施形態における第1のターゲット31aと第2のターゲット31bとが共通化されている構成である。この場合、ターゲットの材料は、基板Sに成膜する金属であって、酸素を吸収しかつ酸化物となる金属、例としてはHfやMgなど、並びにこれらの合金などが挙げられる。
【0045】
先ず真空容器2内へ基板Sを搬入した後、シャッター61を開放すると共にカバープレート43を載置部4上に位置させた状態で、ターゲット31をスパッタしてターゲット31の粒子を真空容器2内に付着させ、酸素や水分のゲッタリングを行う。次にカバープレート43を載置部4上から退避させ、再びターゲット31をスパッタし、ターゲット粒子を基板S上に付着させて金属膜を成膜する。成膜後にカバープレート43を再び載置部4上に位置させ、シャッター61を閉じ、カバープレート43のガス吐出口45から基板S上に酸素ガスを供給し、基板S上の金属膜を酸化して金属酸化膜を形成する。そしてカバープレート43を載置部4上に位置させたまま、シャッター61を開放し、ターゲット31をスパッタして再度ゲッタリングを行った後、基板Sを真空容器2内から搬出する。
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。この第2の実施形態においても、第1の実施形態で上述した変形例を適用することができる。
【実施例】
【0046】
(実施例)
上述実施形態の装置を用い、25枚のシリコンウエハに対して順次金属酸化膜の成膜処理を行い、得られた基板について夫々、酸化膜の抵抗値を測定し、その変動を調べた。具体的には3ÅのMgO膜を実施形態に記載した条件で3層積層した。
【0047】
また他の条件としては以下の通りである。
・ターゲット31a(ゲッタリング部材)の素材:Ti
・ターゲット31b(成膜材)の素材:Mg
・基板S直径:300mm
・カバープレート43直径:450mm
・ターゲット電極32aへの印加電圧:380V
・ターゲット電極32bへの印加電圧:300V
・スパッタ時の基板Sとターゲット31a、31bとの距離:260mm
(比較例)
スパッタを行うチャンバ(スパッタ室)と酸化を行うチャンバ(酸化室)が分離している真空処理装置を用いた。そしてスパッタ室にてMg膜を基板S上に成膜し、その後真空状態にて酸化室に基板Sを搬入し、酸化室にてMg膜をMgO膜へと酸化する手法で成膜した25枚のシリコンウエハについて、夫々酸化膜の抵抗値を測定し、その変動を調べた。
【0048】
具体的には先ずスパッタ室にてMgをスパッタし、3Å(0.3nm)のMg膜を成膜したうえで基板Sを酸化室へ真空中搬送し、酸化室でこのMg膜に酸素を供給しMgO膜を形成した。この基板Sを真空中搬送しスパッタ室に戻し、再びMgをスパッタし、3Å(0.3nm)のMg膜を成膜したうえで基板Sを酸化室へ真空中搬送し、酸化室でこのMg膜に酸素を供給しMgO膜を形成した。さらにこの基板Sを再び真空中搬送しスパッタ室に戻し、再びMgをスパッタし、という具合にプロセスを繰り返し、基板S上に9Å(0.9nm)のMgO膜を成膜した。以上の方法でMgO膜成膜を25枚の基板Sに対して行った。
【0049】
これらの結果を
図11に示す。
図11は、横軸に基板の番号、縦軸に抵抗値(単位:Ω/μm
2)をとり、基板間の抵抗値の変動を示したものである。
図11から、比較例では金属酸化膜の抵抗値が上昇していくのに対し、実施例では、抵抗値が1.50〜1.55Ω/μm
2前後と、基板間で安定した数値を示した。この結果については以下のように分析している。即ち、比較例においては、スパッタ室と酸化室を分離している。しかしながら、基板Sをチャンバ間で搬送する際に、十分真空度が保たれていても酸化室からスパッタ室に酸素が流入してしまうことと、酸化室内の残留酸素によって成膜されたMgO膜が酸化されてしまうことにより、抵抗値が実施例と比して上昇する結果となったものと考えられる。
【0050】
また、上記第1の実施形態の装置からターゲット31aを省いた装置を用い、ターゲット31aからTiをスパッタする手順を行わない以外は同様の条件下でMgO膜の成膜を行った結果、1枚目の抵抗値は1.5Ω/μm
2であったが、基板処理を継続していくと共に抵抗値は上昇し、25枚目では3Ω/μm
2を上回るという結果が確認できている。
【0051】
これらの結果により、本実施形態の酸化膜成膜方法は、MRAMなどに用いられる金属酸化膜における抵抗値の安定化に大きく寄与することが示唆される。
【符号の説明】
【0052】
S 基板
2 真空容器
4 載置部
22 真空排気装置
26 Ar供給源
27 酸素ガス供給源
31a、31b ターゲット
32a、32b ターゲット電極
33a、33b 直流電源
43 カバープレート
45 ガス吐出口
51a、51b マグネット配列体
61 シャッター