(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、大きなトンネル磁気抵抗効果が発現される前提として、2つの磁性層の各々には、所定の結晶配向が必要とされ、また、形成材料によっては、トンネル障壁層にも所定の結晶配向が必要とされる。例えば、磁性層として鉄が用いられ、トンネル障壁層として酸化アルミニウムが用いられる場合には、磁性層である鉄に(001)配向が必要とされる。また、磁性層としてCoFeB合金層が用いられ、且つトンネル障壁層として酸化マグネシウム層が用いられる場合には、CoFeB合金層と酸化マグネシウム層の各々に(001)配向が必要とされる。
【0005】
そこで、トンネル磁気抵抗素子の形成工程では、トンネル障壁層や磁性層に結晶配向を持たせることを目的として、トンネル障壁層が2つの磁性層に挟まれる状態で、これらが室温よりも高い温度に一定時間保持される場合が少なくない。この際、金属酸化物からなるトンネル障壁層が室温よりも高い温度に保持されるとなると、トンネル障壁層に含まれる酸素が磁性層に拡散して、磁性層の一部が結晶配向を失うことになる。特に、磁性層がCoFeB合金層からなる場合には、CoFeB合金層の膜厚が1nm程度にまで薄くなるため、こうした酸素の拡散が深刻な問題となる。
【0006】
なお、トンネル磁気抵抗効果の発現を目的としたアニール処理の他、磁気抵抗デバイスの製造工程では、トンネル磁気抵抗素子の全体を覆う絶縁層の形成等、トンネル磁気抵抗素子が搭載された基板を室温よりも高い温度で一定時間保持する場合もある。そして、トンネル磁気抵抗効果の発現を目的としたアニール処理が行われない場合であっても、2つの磁性層の間でトンネル障壁層が昇温される以上、上述した酸素の拡散によって磁性層の一部が結晶配向を失うこととなる。結局のところ、トンネル磁気抵抗効果の発現を目的とした加熱あれ、それ以外の加熱であれ、2つの磁性層の間でトンネル障壁層が昇温される以上、トンネル磁気抵抗素子の高出力化を妨げる要因となっている。
【0007】
本開示の技術は、金属酸化物からなるトンネル障壁層を有するトンネル磁気抵抗素子においてトンネル磁気抵抗効果を高めることの可能なトンネル磁気抵抗素子の製造方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の一態様は、基板に第1磁性層を形成する工程と、前記第1磁性層上に金属元素の酸化物である第1トンネル障壁層を形成する工程と、前記第1トンネル障壁層上に前記金属元素からなる拡散抑制金属層を形成する工程と、前記拡散抑制金属層上に第2磁性層を形成する工程と、前記第1トンネル障壁層及び前記拡散抑制金属層が前記第1磁性層と前記第2磁性層とに挟まれてなる積層体を加熱する工程とを有し、前記積層体を加熱する工程では、前記第1トンネル障壁層から拡散する酸素によって、前記金属元素の酸化物である第2トンネル障壁層を前記拡散抑制金属層から形成する。
【0009】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の一態様によれば、積層体が加熱される工程にて、第1トンネル障壁層と第2磁性層との間には、第1トンネル障壁層を構成する金属元素と同一の金属元素からなる拡散抑制金属層が挟まれている。そのため、第1トンネル障壁層に含まれる酸素が第2磁性層に向けて拡散する際には、第2磁性層の酸化が進む前に、まず、拡散抑制金属層の酸化が進むことになる。それゆえに、第1トンネル障壁層から酸素が拡散する程度に積層体が加熱されるとしても、第1トンネル障壁層から拡散される酸素は、まず、拡散抑制金属層の酸化に消費される。その結果、第2磁性層の酸化を抑えることが可能であるから、第2磁性層の酸化によってトンネル磁気抵抗効果が低下することを抑えることが可能となる。
【0010】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様は、前記拡散抑制金属層を形成する工程では、前記拡散抑制金属層を前記第1トンネル障壁層よりも薄く形成する。
【0011】
拡散抑制金属層の全体の酸化に必要とされる酸素の量と比べて、第1トンネル障壁層から拡散する酸素の量が少ない場合には、第1トンネル障壁層と第2磁性層との間には、第2トンネル障壁層の他、酸化のされない金属元素が残ることになる。こうした金属元素が残ることになれば、金属層の全てが酸化される場合と比べて、トンネル磁気抵抗効果が低下することになる。
【0012】
この点、本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様によれば、拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層よりも薄く形成される。そのため、拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層と同じ厚さである場合、あるいは拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層よりも厚い場合と比べて、酸化のされない金属元素が第1トンネル障壁層と第2磁性層との間に残ることを抑えることが可能になる。それゆえに、拡散抑制金属層の金属元素が酸化されないことによるトンネル磁気抵抗効果の低下を抑えることが可能になる。
【0013】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様は、前記第1トンネル障壁層を形成する工程が、前記第1磁性層上に前記金属元素からなる障壁用金属層を形成する工程と、前記障壁用金属層を酸化して前記第1トンネル障壁層とする工程とを有する。
【0014】
第1磁性層上に金属酸化物を形成する方法には、金属酸化物そのものを第1磁性層上に堆積させる方法と、金属酸化物を構成する金属元素を第1磁性層上に堆積させた後にその金属元素を酸化させる方法とが挙げられる。ここで、金属酸化物そのものを第1磁性層上に堆積させる方法では、金属酸化物そのものが堆積する際に、金属元素の量と酸素の量、すなわち物理的及び化学的な特性が互いに異なる元素の量が、第1磁性層上にて同時に変わる。一方、金属元素を第1磁性層上に堆積させた後にその金属元素を酸化させる方法であれば、トンネル障壁層の形成される過程で金属元素の量と酸素の量とが第1磁性層上にて格別に変わる。
【0015】
この点、本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様によれば、まず、障壁用金属層が第1磁性層上に形成され、その後、障壁用金属層が酸化されることによって第1トンネル障壁層が形成される。そのため、金属元素の量と酸素の量とが第1磁性層上にて格別に変わることから、金属元素の量と酸素の量とが同時に変わる場合と比べて、第1トンネル障壁層における組成の調整が容易になる。
【0016】
また、障壁用金属層に対する酸化が過剰に行われる場合であっても、過剰な酸素は、拡散抑制金属層で消費されることになる。それゆえに、上述したように、第1トンネル障壁層に拡散抑制金属層が形成される方法であれば、第2磁性層の酸化によってトンネル磁気抵抗効果が低下することを抑えることに加え、障壁用金属層に対する酸化の度合いの誤差に関し、その許容範囲を大きくすることが可能にもなる。
【0017】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様は、前記金属元素が、マグネシウムであり、前記積層体を加熱する工程が、酸化された前記障壁用金属層を加熱によって結晶化する。
【0018】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様によれば、第1トンネル障壁層及び第2トンネル障壁層の形成材料である酸化マグネシウムが、積層体を加熱する工程によって結晶化される。そのため、これら酸化マグネシウムが結晶化される工程と積層体が加熱される工程とが格別に実施される場合と比べて、トンネル磁気抵抗素子の製造方法に必要とされる工程数を低減することが可能にもなる。
【0019】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様では、前記第1磁性層を形成する工程は、前記第1磁性層として、0.6nm以上2.5nm以下の膜厚を有するCoFeB合金層を形成し、前記第2磁性層を形成する工程は、0.6nm以上2.5nm以下の膜厚を有するCoFeB合金層を前記第2磁性層とする。
【0020】
2つの磁性層がCoFeB合金層であり、これらの磁性層に挟まれるトンネル障壁層が酸化マグネシウム層であるトンネル磁気抵抗素子では、磁性層の膜厚が0.6nm以上2.5nm以下である場合に、垂直磁化型の磁気抵抗効果が発現される。この際、0.6nm以上2.5nm以下という非常に薄い磁性層の一部が酸化されることになれば、2.5nmを超える磁性層の一部が酸化される場合と比べて、トンネル磁気抵抗効果の低下の度合いが著しいものとなる。
【0021】
この点、本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の他の態様によれば、2つの磁性層の各々の膜厚が、0.6nm以上2.5nm以下であるため、垂直磁化型のトンネル磁気抵抗素子を製造することが可能になる。そして、このように非常に薄い第2磁性層に対してそれの酸化が抑えられるため、上述したようにトンネル磁気抵抗効果が低下することを抑える効果が顕著なものとなる。
【0022】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造装置の一態様は、基板を搬送する搬送部と、第1磁性層を形成する第1磁性層形成部と、第2磁性層を形成する第2磁性層形成部と、金属元素の酸化物であるトンネル障壁層を形成する障壁層形成部と、前記金属元素からなる拡散抑制金属層を形成する金属層形成部と、前記搬送部の搬送を制御する制御部とを備え、前記第1磁性層、前記第2磁性層、前記トンネル障壁層、及び前記拡散抑制金属層からなる積層体は加熱されるものであり、前記制御部が、前記第1磁性層形成部、前記障壁層形成部、前記金属層形成部、前記第2磁性層形成部の順に前記基板を搬送させて前記積層体を形成する。
【0023】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造装置の一態様によれば、第1トンネル障壁層と第2磁性層との間に、第1トンネル障壁層を構成する金属元素と同一の金属元素からなる拡散抑制金属層が挟まれる。そして、第1トンネル障壁層と第2磁性層との間に拡散抑制金属層が介在する状態にて、積層体が加熱される。そのため、第1トンネル障壁層に含まれる酸素が、第2磁性層に向けて加熱により拡散する際には、第2磁性層の酸化が進む前に、拡散抑制金属層の酸化が進むことになる。それゆえに、第1トンネル障壁層から酸素が拡散する程度に積層体が加熱されるとしても、こうした酸素が拡散抑制金属層の酸化に消費される結果、第2磁性層の酸化を抑えることが可能であるから、第2磁性層の酸化によって磁気抵抗効果が低下することを抑えることが可能となる。
【0024】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造装置の他の態様は、前記金属層形成部を、第1の金属層形成部とし、前記障壁層形成部が、前記金属元素からなる障壁用金属層を形成する第2の金属層形成部と、前記障壁用金属層を酸化する金属層酸化部とを有し、前記第1の金属層形成部と前記第2の金属層形成部とが同一である。
【0025】
金属元素の酸化物を第1磁性層上に形成する障壁層形成部の構成には、金属酸化物そのものを第1磁性層上に堆積させる構成が挙げられる。この他、金属元素の酸化物を第1磁性層上に形成する構成には、金属元素を第1磁性層上に形成する形成部と、その金属元素を酸化させる酸化部とを有する構成が挙げられる。ここで、金属酸化物そのものを第1磁性層上に堆積させる構成では、金属酸化物そのものが堆積する際に、金属元素の量と酸素の量、すなわち物理的及び化学的な特性が互いに異なる元素の量が、第1磁性層上にて同時に変わる。一方、金属元素を第1磁性層上に堆積させた後にその金属元素を酸化させる構成であれば、トンネル障壁層の形成される過程で金属元素の量と酸素の量とが第1磁性層上にて格別に変わる。
【0026】
この点、本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造装置の他の態様によれば、まず、第2の金属層形成部が障壁用金属層を第1磁性層上に形成し、金属層酸化部が障壁用金属層を酸化する。そのため、金属元素の量と酸素の量とが第1磁性層上にて格別に変わることから、金属元素の量と酸素の量とが同時に変わる場合と比べて、第1トンネル障壁層における組成の調整が容易になる。しかも、第1の金属層形成部と第2の金属層形成部とが同一であるから、これら第1の金属層形成部と第2の金属層形成部とが各別の構成と比べて、トンネル磁気抵抗素子の製造装置の構成を簡素化することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法、及びトンネル磁気抵抗素子の製造装置の第1実施形態について、
図1〜5を参照して以下に説明する。まず、本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法を用いて製造されるトンネル磁気抵抗素子の層構造について説明する。
[トンネル磁気抵抗素子]
【0030】
図1に示されるように、トンネル磁気抵抗素子は、基板11の一側面に、バッファ層12、第1磁性層13、トンネル障壁層14、第2磁性層15、及びキャッピング層16がこの順に積層された素子構造を有する。
【0031】
基板11は、各種の能動素子や能動素子とトンネル磁気抵抗素子とを接続する配線等が形成された基板である。基板11の基材としては、シリコン、ガラス等のセラミック等が適用される。
【0032】
バッファ層12は、第1磁性層13における平滑且つ均質な結晶化を促すための層である。バッファ層12には、例えばタンタル層(Ta層12a)、ルテニウム層(Ru層12b)及びタンタル層(Ta層12c)がこの順に積層された積層構造が適用される。ちなみに、例えばTa層12aの膜厚は5nmであり、Ru層12bの膜厚は21nmであり、Ta層12cの膜厚は5nmである。
【0033】
第1磁性層13は、磁化方向が固定された強磁性層である。トンネル磁気抵抗素子が面内磁化型である場合には、第1磁性層13の磁化方向は、基板11の一側面と平行である。一方、トンネル磁気抵抗素子が垂直磁化型である場合には、第1磁性層13の磁化方向は、基板11の一側面に対する法線方向と平行である。第1磁性層13には、例えば(001)配向を有するコバルト鉄ボロン合金結晶(CoFeB合金結晶)が適用される。ちなみに、CoFeB合金結晶の組成は、例えばCo
xFe
yB
(1- x- y)と表記される組成式において、0.2≦x≦0.4、0.4≦y≦0.9を満たす。なお、第1磁性層13には、CoFeB合金結晶の他、CoFeB合金系、すなわちCoFeB合金にリン又は炭素が添加された合金が適用される。また、第1磁性層13には、CoFeB合金系の他、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の少なくとも一つを含む強磁性材料、例えばCoFeやFeNiが適用される。第1磁性層13の膜厚は、例えば垂直磁化を確実なものとするうえで、0.6nm以上2.5nm以下とすることが好ましい。
【0034】
トンネル障壁層14は、第1磁性層13と第2磁性層15とに挟まれる金属酸化物からなる非磁性の絶縁層である。トンネル障壁層14は、第1磁性層13に接触する第1トンネル障壁層141と、第1トンネル障壁層141と第2磁性層15とに挟まれる第2トンネル障壁層142とから構成される。第1トンネル障壁層141及び第2トンネル障壁層142の各々は、同じ金属元素の酸化物から形成され、その形成材料には、例えば(001)配向を有する酸化マグネシウム結晶(MgO結晶)や非晶質の酸化アルミニウムが適用される。なお、高い磁気抵抗比が得られる観点からすれば、第1トンネル障壁層141及び第2トンネル障壁層142の各々がMgO結晶であることが好ましい。
【0035】
第1トンネル障壁層141は、金属ターゲットを用いるスパッタ法によって形成された金属層である障壁用金属層が酸化されることによって得られる金属酸化物層、あるいは金属酸化物ターゲットを用いるスパッタ法によって形成される金属酸化物層である。これに対し、第2トンネル障壁層142は、第2トンネル障壁層142に積層された金属層である拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層141から拡散する酸素によって酸化されてなる金属酸化物層である。
【0036】
第1トンネル障壁層141及び第2トンネル障壁層142の各々にて、金属原子の数量に対する酸素原子の数量を組成比とすると、第2トンネル障壁層142の組成比は、第1トンネル障壁層141の組成比と同じ、あるいは第1トンネル障壁層141の組成比よりも小さい。なお、第1トンネル障壁層141と第2トンネル障壁層142との境界は、第1トンネル障壁層141の形成工程と第2トンネル障壁層142の形成工程との違いに基づき、仮想的に定められるものである。
【0037】
トンネル磁気抵抗素子の製造工程における第1トンネル障壁層141の機能からすれば、第2トンネル障壁層142は、第1トンネル障壁層141よりも薄いことが好ましい。例えば、第1トンネル障壁層141及び第2トンネル障壁層142がMgOからなる場合、第2トンネル障壁層142は、0.2nm〜0.6nmが好ましく、第1トンネル障壁層141は、0.8nmであることが好ましい。
【0038】
第2磁性層15は、その磁化方向を第1磁性層13の磁化方向に対して平行と反平行とに反転させる強磁性層である。第2磁性層15には、例えば(001)配向を有するCoFeB合金結晶が適用される。ちなみに、CoFeB合金結晶の組成は、例えばCo
xFe
yB
(1- x- y)と表記される組成式において、0.2≦x≦0.4、0.4≦y≦0.9を満たす。なお、第2磁性層15には、CoFeB合金結晶の他、CoFeB合金系、すなわちCoFeB合金にリン又は炭素が添加された合金が適用される。また、第1磁性層13には、CoFeB合金系の他、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の少なくとも一つを含む強磁性材料、例えばCoFeやFeNiが適用される。第1磁性層13の膜厚は、例えば垂直磁化を確実なものとするうえで、0.6nm以上2.5nm以下とすることが好ましい。
【0039】
キャッピング層16は、第2磁性層15と配線との電気的接続を安定させ、また第2磁性層15の平滑且つ均質な結晶化を促す層である。キャッピング層16には、例えばTa層16a、Ru層16bが第2磁性層15側からこの順に積層された積層構造が適用される。ちなみに、例えばTa層16aの膜厚は5nmであり、Ru層16bの膜厚は10nmである。
【0040】
そして、第1磁性層13の磁化方向と第2磁性層15の磁化方向とが互いに平行な状態から、トンネル磁気抵抗素子に対して外部磁場が印加されると、第1磁性層13の磁化方向が維持される一方、第2磁性層15の磁化方向が外部磁場に応じて反転する。これによって、第1磁性層13及び第2磁性層15における磁化方向が、平行状態から反平行状態に切り替わる。
【0041】
ここで、第1磁性層13の磁化方向と第2磁性層15の磁化方向とが平行状態である場合には、第1磁性層13の磁化方向と第2磁性層15の磁化方向とが反平行である場合と比べて、トンネル障壁層14におけるトンネル障壁が小さい。そのため、第1磁性層13と第2磁性層15との間における電気抵抗は、平行状態において小さく、反平行状態において大きい。それゆえに、トンネル磁気抵抗素子に流れる電流の大小によって、第1磁性層13の磁化方向と第2磁性層15の磁化方向とが、平行状態であるか、あるいは反平行状態であるかを検出することが可能になる。
[トンネル磁気抵抗素子の製造装置]
【0042】
次に、本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造装置について、
図2及び
図3を参照して説明する。まず、トンネル磁気抵抗素子の製造装置を構成する各形成部の装置構成について、
図2を参照して説明する。
【0043】
トンネル磁気抵抗素子の製造装置は、基板11を搬送する基板搬送ロボット20Rが搭載された搬送部としての搬送チャンバー20を有するクラスター装置である。搬送チャンバー20の周囲には、7つの真空チャンバーが連通可能に連結されている。
【0044】
搬入出チャンバー21には、基板11を搬送する搬入出ロボット21Rが搭載されている。搬入出ロボット21Rは、トンネル磁気抵抗素子が形成される前の基板11を外部から搬送チャンバー20へ搬入し、また、トンネル磁気抵抗素子が形成された基板11を搬送チャンバー20から外部へ搬出する。
【0045】
熱処理チャンバー22には、搬送チャンバー20から搬入される基板11を所定の温度に加熱する熱処理ヒーター22Hが搭載されている。熱処理チャンバー22は、搬送チャンバー20から搬入される基板11を熱処理ヒーター22Hの加熱によって昇温させ、当該基板11の昇温によって、基板11の表面に吸着したガスを基板11から取り除いたり、基板11上の非晶質膜の結晶化を促したりする。
【0046】
洗浄チャンバー23には、不活性ガスのプラズマを生成する洗浄用プラズマ源23Pが搭載されている。洗浄チャンバー23は、搬送チャンバー20から搬入される基板11上に対し、洗浄用プラズマ源23Pの生成するプラズマを照射し、当該プラズマの照射によって、基板11の表層である酸化層を取り除く。
【0047】
第1スパッタチャンバー24には、3つのターゲットTを有する第1カソード24Cが搭載されている。第1スパッタチャンバー24は、3つのターゲットTに対して各別に高周波電圧を印可することにより、搬送チャンバー20から搬入される基板11に対し、各ターゲットTから放出される粒子を堆積させる。第1スパッタチャンバー24に搭載されるターゲットTには、バッファ層12及びキャッピング層16の構成材料からなるターゲット、例えばTaターゲットが適用される。
【0048】
第2スパッタチャンバー25は、第1磁性層形成部及び第2磁性層形成部を構成する成膜チャンバーである。この第2スパッタチャンバー25には、3つのターゲットTを有する第2カソード25Cが搭載されている。第2スパッタチャンバー25は、3つのターゲットTに対して各別に直流電圧を印加することにより、搬送チャンバー20から搬入される基板11に対し、各ターゲットTから放出される粒子を堆積させる。第2スパッタチャンバー25に搭載されるターゲットTには、バッファ層12、第1磁性層13、第2磁性層15、及びキャッピング層16の構成材料からなるターゲット、例えばCoFeB合金ターゲット、及びRuターゲットが適用される。
【0049】
第3スパッタチャンバー26は、障壁層形成部及び金属層形成部を構成する成膜チャンバーである。この第3スパッタチャンバー26には、3つのターゲットTを有する第3カソード26Cが搭載されている。第3スパッタチャンバー26は、3つのターゲットTに対して各別に直流電圧を印加することにより、搬送チャンバー20から搬入される基板11に対し、各ターゲットTから放出される粒子を堆積させる。第3スパッタチャンバー26に搭載されるターゲットTには、トンネル障壁層14の構成材料からなるターゲット、例えばMgターゲットが適用される。
【0050】
酸化チャンバー28は、金属層酸化部を構成するプラズマ処理チャンバーである。この酸化チャンバー28には、酸素プラズマや酸素ラジカル等の活性酸素を生成する酸化プラズマ源28Pと、基板11を加熱する酸化ヒーター28Hとが搭載されている。酸化チャンバー28は、搬送チャンバー20から搬入される基板11に対する酸化ヒーター28Hによる加熱と、基板11に対する酸化プラズマ源28Pによるプラズマ照射とによって、基板11の表面を酸化する。
次に、トンネル磁気抵抗素子の製造装置における電気的構成について製造装置が有する制御装置30を中心に
図3を参照して説明する。
【0051】
制御装置30は、CPU、ROM、及びRAMを有するマイクロコンピューターを中心に構成される制御部30Aと、ハードディスク装置等の大容量記憶装置から構成される記憶部30Bと、外部からの入力信号の入力処理や外部への出力信号の出力処理を行う入出力部30Cとを有する。記憶部30Bは、トンネル磁気抵抗素子の製造装置が有する各真空チャンバーを駆動してトンネル磁気抵抗素子を製造するための製造プログラムを格納する。制御部30Aは、記憶部30Bが格納する製造プログラムを読み出して実行し、各真空チャンバーの駆動の態様を制御する制御信号を製造プログラムに従って生成する。
【0052】
制御装置30には、ヒューマンインターフェースとなる入力装置31が接続されている。入力装置31は、基板11の搬送経路に関するデータ、及び各真空チャンバーでの処理条件に関するデータを制御装置30に出力する。入出力部30Cは、入力装置31から出力された各種のデータの入力処理を行い、制御部30Aは、入出力部30Cの入力処理を通じて、入力処理後の各種のデータを記憶部30Bに格納する。
【0053】
制御装置30には、基板搬送ロボット駆動部20Dと搬入出ロボット駆動部21Dとが接続されている。制御装置30は、基板搬送ロボット20Rの駆動の態様を制御するための制御信号を基板搬送ロボット駆動部20Dに出力し、また、搬入出ロボット21Rの駆動の態様を制御するための制御信号を搬入出ロボット駆動部21Dに出力する。そして、基板搬送ロボット駆動部20Dは、制御装置30からの制御信号に応じて基板搬送ロボット20Rを駆動するための駆動信号を生成して基板搬送ロボット20Rに出力する。また、搬入出ロボット駆動部21Dは、制御装置30からの制御信号に応じて搬入出ロボット21Rを駆動するための駆動信号を生成して搬入出ロボット21Rに出力する。
【0054】
制御装置30には、熱処理ヒーター駆動部22Dと洗浄用プラズマ源駆動部23Dとが接続されている。制御装置30は、熱処理ヒーター22Hの駆動の態様を制御するための制御信号を熱処理ヒーター駆動部22Dに出力し、また、洗浄用プラズマ源駆動部23Dの駆動の態様を制御するための制御信号を洗浄用プラズマ源駆動部23Dに出力する。そして、熱処理ヒーター駆動部22Dは、制御装置30からの制御信号に応じて熱処理ヒーター22Hを駆動するための駆動信号を生成して熱処理ヒーター22Hに出力する。また、洗浄用プラズマ源駆動部23Dは、制御装置30からの制御信号に応じて洗浄用プラズマ源23Pを駆動するための駆動信号を生成して洗浄用プラズマ源23Pに出力する。
【0055】
制御装置30には、第1カソード駆動部24D、第2カソード駆動部25D、及び第3カソード駆動部26Dが接続されている。制御装置30は、第1カソード24Cの駆動の態様を制御するための制御信号を第1カソード駆動部24Dに出力する。また、制御装置30は、第2カソード25Cの駆動の態様を制御するための制御信号を第2カソード駆動部25Dに出力し、また、第3カソード26Cの駆動の態様を制御するための制御信号を第3カソード駆動部26Dに出力する。そして、第1カソード駆動部24D、第2カソード駆動部25D、及び第3カソード駆動部26Dの各々は、制御装置30からの制御信号に応じて、第1カソード24C、第2カソード25C、及び第3カソード26Cを駆動するための駆動信号を生成して出力する。
【0056】
制御装置30には、酸化プラズマ源駆動部28D及び酸化ヒーター駆動部28Gが接続されている。制御装置30は、酸化プラズマ源28Pの駆動の態様を制御するための制御信号を酸化プラズマ源駆動部28Dに出力し、また、酸化ヒーター28Hの駆動の態様を制御するための制御信号を酸化ヒーター駆動部28Gに出力する。そして、酸化プラズマ源駆動部28Dは、制御装置30からの制御信号に応じて、酸化プラズマ源28Pを駆動するための駆動信号を生成して酸化プラズマ源28Pに出力する。また、酸化ヒーター駆動部28Gは、制御装置30からの制御信号に応じて、酸化ヒーター28Hを駆動するための駆動信号を生成して酸化ヒーター28Hに出力する。
[トンネル磁気抵抗素子の製造方法]
【0057】
次に、上述したトンネル磁気抵抗素子の製造装置を用いるトンネル磁気抵抗素子の製造方法について、
図4を参照して説明する。なお、本実施形態では、下記層構造からなるトンネル磁気抵抗素子の製造方法を例示する。
・バッファ層12 :Ta/Ru/Ta
・第1磁性層13 :CoFeB
・トンネル障壁層14 :MgO
・第2磁性層15 :CoFeB
・キャッピング層16 :Ta/Ru/Ta
【0058】
制御装置30が製造プログラムの実行を開始すると、まず、制御装置30は、基板の搬送経路と各真空チャンバーの処理条件とを読み出す。次いで、制御装置30は、搬入出ロボット駆動部21Dによる搬入出ロボット21Rの駆動と、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動とにより、搬入出チャンバー21内の基板11を熱処理チャンバー22に搬送する。続いて、制御装置30は、熱処理ヒーター駆動部22Dによる熱処理ヒーター22Hの駆動により、基板11の表面に吸着したガスを基板11の表面から取り除く。例えば、制御装置30は、基板11を150℃に加熱して基板11の表面から水分を取り除く。
【0059】
基板11の表面からガスが取り除かれると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、熱処理チャンバー22内の基板11を洗浄チャンバー23に搬送する。続いて、制御装置30は、洗浄用プラズマ源駆動部23Dによる洗浄用プラズマ源23Pの駆動により、基板11の表層である酸化層を取り除く。例えば、制御装置30は、アルゴンガスから生成されるプラズマにより基板11の表層をスパッタして基板11の表層である酸化層を取り除く(ステップS11)。
【0060】
基板11の表層である酸化層が取り除かれると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、洗浄チャンバー23内の基板11を第1スパッタチャンバー24、第2スパッタチャンバー25、第1スパッタチャンバー24の順に搬送する。そして、制御装置30は、第1カソード駆動部24Dによる第1カソード24Cの駆動によりTa層12aを形成し、第2カソード駆動部25Dによる第2カソード25Cの駆動によりRu層12bを形成し、第1カソード駆動部24Dによる第1カソード24Cの駆動によりTa層12cを形成する。これにより、制御装置30は、Ta層12a、Ru層12b、Ta層12cからなるバッファ層12を基板11上に形成する(ステップS12)
【0061】
バッファ層が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、第1スパッタチャンバー24内の基板11を第2スパッタチャンバー25に搬送する。そして、制御装置30は、第2カソード駆動部25Dによる第2カソード25Cの駆動により、非晶質のCoFeB合金層を第1磁性層として形成する。例えば、制御装置30は、CoFeB合金からなるターゲットTをスパッタして、膜厚が1nmのCoFeB合金層を形成する(ステップS13)。
【0062】
第1磁性層が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、第1スパッタチャンバー24内の基板11を第3スパッタチャンバー26に搬送する。そして、制御装置30は、第3カソード駆動部26Dによる第3カソード26Cの駆動により、非晶質のMg層を障壁用金属層として形成する。例えば、制御装置30は、MgからなるターゲットTをスパッタして、膜厚が0.8nmのMg層を形成する(ステップS14)。
【0063】
障壁用金属層が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、第3スパッタチャンバー26内の基板11を酸化チャンバー28に搬送する。そして、制御装置30は、酸化ヒーター駆動部28Gによる酸化ヒーター28Hの駆動により基板11を加熱し、また、酸化プラズマ源駆動部28Dによる酸化プラズマ源28Pの駆動によりMg層の酸化を行う。これにより、制御装置30は、非晶質のMgO層を第1トンネル障壁層141として形成する。例えば、制御装置30は、Mg層に対する150℃以下の加熱と、Mg層に対する酸素プラズマの照射とを行い、MgO層を形成する(ステップS15)。
【0064】
第1トンネル障壁層141が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、酸化チャンバー28内の基板11を第3スパッタチャンバー26に搬送する。そして、制御装置30は、第3カソード駆動部26Dによる第3カソード26Cの駆動により、拡散抑制金属層としてのMg層を形成する。例えば、制御装置30は、MgからなるターゲットTをスパッタして、膜厚が0.4nmのMg層を形成する(ステップS16)。
【0065】
拡散抑制金属層が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、第3スパッタチャンバー26内の基板11を第2スパッタチャンバー25に搬送する。そして、制御装置30は、第2カソード駆動部25Dによる第2カソード25Cの駆動により、第2磁性層としてのCoFeB合金層を形成する。例えば、制御装置30は、CoFeB合金からなるターゲットTをスパッタして、膜厚が1nmのCoFeB合金層を形成する(ステップS17)。
【0066】
第2磁性層が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、第2スパッタチャンバー25内の基板11を第1スパッタチャンバー24、第2スパッタチャンバー25、第1スパッタチャンバー24の順に搬送する。そして、制御装置30は、第1カソード駆動部24Dによる第1カソード24Cの駆動によりTa層16aを形成し、第2カソード駆動部25Dによる第2カソード25Cの駆動によりRu層16bを形成する。これにより、制御装置30は、Ta層16aとRu層16bとからなるキャッピング層16を基板11上に形成する(ステップS18)。
【0067】
キャッピング層16が形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、第1スパッタチャンバー24内の基板11を熱処理チャンバー22に搬送する。そして、制御装置30は、熱処理ヒーター駆動部22Dによる熱処理ヒーター22Hの駆動により、基板11上に形成された非晶質膜の結晶化を促す。例えば、有磁場の雰囲気で基板11を360℃に1時間保持する(ステップS19)。これにより、第1トンネル障壁層141が(001)配向を有する結晶となり、これに伴い、第1磁性層13としてのCoFeB合金層、及び第2磁性層15としてのCoFeB合金層も(001)配向を有する結晶となる。
[実施例1]
【0068】
次に、上述した拡散抑制金属層の膜厚とトンネル磁気抵抗素子の素子抵抗値との関係、及び拡散抑制金属層の膜厚とトンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比との関係について、
図5を参照して説明する。
【0069】
上述したトンネル磁気抵抗素子の製造方法を用い、下記層構造からなる実施例1のトンネル磁気抵抗素子を得た。この際、障壁用金属層であるMg層の膜厚を0.8nmに維持し、拡散抑制金属層であるMg層の膜厚を0.2nm、0.4nm、0.6nmに変更した。そして、拡散抑制金属層の膜厚が互いに異なる3種類のトンネル磁気抵抗素子の各々について、素子抵抗値(RA値)と磁気抵抗比(MR比)とを計測した。
・バッファ層12 :Ta(5nm)/Cu(20nm)/Ta(5nm)
・第1磁性層13 :CoFe(2.5nm)/Ru(0.8nm)/CoFeB(2.5nm)
・トンネル障壁層14 :MgO
・障壁用金属層 :Mg
・拡散抑制金属層 :Mg
・第2磁性層15 :CoFeB(3.0nm)
・キャッピング層16 :Ta(5nm)/Ru(12nm)
【0070】
図5に示されるように、トンネル磁気抵抗素子の素子抵抗値は、拡散抑制金属層の膜厚が0.2nmである場合に最も低く、拡散抑制金属層の膜厚が0.4nmである場合に最も高い。また、トンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比は、拡散抑制金属層の膜厚が0.2nmにおいて最も低く、拡散抑制金属層の膜厚が0.4nmにおいて最も高い。こうした素子抵抗値の膜厚依存性、及び磁気抵抗比の膜厚依存性は、下記2つの傾向を示すものである。
・拡散抑制金属層の厚さが厚くなるほど、第2磁性層15の酸化が抑えられる。
・拡散抑制金属層の厚さが薄くなるほど、拡散抑制金属層の酸化の不足が抑えられる。
【0071】
なお、障壁用金属層の酸化が過剰に行われるとしても、第1トンネル障壁層141における酸素が所望の含有量の2倍になることは希である。そのため、上述したように、拡散抑制金属層の厚さが薄くなるほど、拡散抑制金属層の酸化の不足が抑えられることを鑑みれば、拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層141よりも薄いことが好ましい。さらには、上述した実施例における計測結果を鑑みれば、拡散抑制金属層の膜厚が第1トンネル障壁層141の半分であることがより好ましい。
[試験例]
【0072】
次に、上述した障壁用金属層を酸化する際の基板11の温度と障壁用金属層の膜厚との関係、及び障壁用金属層を酸化する際の基板11の温度と素子抵抗値及び磁気抵抗比との関係について、
図6及び
図7を参照して説明する。
【0073】
基板11上に膜厚が3nmのTa層を形成し、該Ta層上に膜厚が50nmのMg層を障壁用金属層として形成し、これにより複数の試験例の積層体を得た。そして、試験例の積層体を、1.33mPaの雰囲気で、75℃、100℃、150℃、250℃の各々の温度で900秒間加熱し、加熱後におけるMg層の膜厚を測定した。
【0074】
図6に示されるように、Mg層の温度が150℃よりも高くなると、Mg層の膜厚が急激に低下することが認められた。これは、障壁用金属層としてMg層が用いられる場合、障壁用金属層の酸化に際し、障壁用金属層の温度が150℃以下であることが好ましいことを示すものである。詳述すると、Mg層の温度が150℃以下であれば、Mgの蒸発が抑えられ、Mg層の温度が150℃以下となる環境でMg層の酸化が進めば、第1トンネル障壁層141の形成に要する時間が短くなることを示すものでもある。
[実施例2]
【0075】
次に、上述した障壁用金属層を酸化する際の基板の温度とトンネル磁気抵抗素子の素子抵抗値との関係、及び障壁用金属層を酸化する際の基板の温度とトンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比との関係について、
図7を参照して説明する。
【0076】
上述したトンネル磁気抵抗素子の製造方法を用い、下記層構造からなる実施例2のトンネル磁気抵抗素子を得た。この際、障壁用金属層を酸化する際の基板の温度を75℃、100℃、125℃、150℃に変更した。そして、障壁用金属層を酸化する際の基板の温度が互いに異なる4種類のトンネル磁気抵抗素子の各々について、素子抵抗値と磁気抵抗比とを計測した。
・バッファ層12 :Ta(5nm)/Cu(20nm)/Ta(5nm)
・第1磁性層13 :CoFe(2.5nm)/Ru(0.9nm)/CoFeB(2.5nm)
・第1トンネル障壁層141 :MgO(0.8nm)
・拡散抑制金属層 :Mg(0.4nm)
・第2磁性層15 :CoFeB(3.0nm)
・キャッピング層16 :Ta(5nm)/Ru(12nm)
【0077】
図7に示されるように、トンネル磁気抵抗素子の素子抵抗値は、障壁用金属層を酸化する際の基板の温度が高くなるほど高くなることが認められた。また、トンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比は、障壁用金属層を酸化する際の基板の温度が100℃〜125℃の範囲で最も高くなることが認められた。これは、障壁用金属層を酸化する際の基板面内における温度が100℃以上125℃以下であれば、トンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比に関し、その面内均一性が確保されることを示すものである。なお、加熱時間は30秒〜100秒であっても、RA値を本デバイスが実質的に動作可能である10Ω・μm
2以上とすることが可能であり、大幅なプロセス時間の短縮が認められた。
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
【0078】
(1)トンネル障壁層14が第1磁性層13と第2磁性層15とに挟まれてなる積層体が加熱される際、第1トンネル障壁層141と第2磁性層15との間には、第1トンネル障壁層を構成する金属元素と同一の金属元素からなる拡散抑制金属層が挟まれている。
【0079】
そのため、第1トンネル障壁層141から酸素が拡散する程度に積層体が加熱されるとしても、第1トンネル障壁層141から拡散される酸素は、まず、拡散抑制金属層の酸化に消費される。その結果、第2磁性層15の酸化を抑えることが可能であるから、第2磁性層15の酸化によってトンネル磁気抵抗効果が低下することを抑えることが可能となる。
【0080】
(2)拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層141よりも薄いため、拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層141と同じ膜厚、あるいは拡散抑制金属層が第1トンネル障壁層141よりも厚い場合と比べて、酸化のされない金属元素が第1トンネル障壁層141と第2磁性層15との間に残ることを抑えることが可能になる。それゆえに、拡散抑制金属層の金属元素が酸化されないことによるトンネル磁気抵抗効果の低下を抑えることが可能になる。
【0081】
(3)障壁用金属層が第1磁性層13上に形成され、その後、障壁用金属層が酸化されることによって第1トンネル障壁層141が形成される。そのため、金属元素の量と酸素の量とが第1磁性層13上にて格別に変わることから、金属元素の量と酸素の量とが同時に変わる場合と比べて、第1トンネル障壁層141における組成の調整が容易になる。
【0082】
(4)しかも、障壁用金属層に対する酸化が過剰に行われる場合であっても、過剰な酸素は、拡散抑制金属層で消費されることになる。それゆえに、上記(1)に記載のように、第1トンネル障壁層141に拡散抑制金属層が形成される方法であれば、第2磁性層15の酸化によってトンネル磁気抵抗効果が低下することを抑えることに加え、障壁用金属層に対する酸化の度合いの誤差に関し、その許容範囲を大きくすることが可能にもなる。
【0083】
(5)第1トンネル障壁層141及び第2トンネル障壁層142の形成材料であるMgOが、積層体を加熱する工程によって結晶化される。そのため、MgOが結晶化される工程と積層体が加熱される工程とが格別に実施される場合と比べて、トンネル磁気抵抗素子の製造方法に必要とされる工程数を低減することが可能にもなる。
【0084】
(6)第1磁性層13及び第2磁性層15の各々の膜厚が、0.6nm以上2.5nm以下であるため、垂直磁化型のトンネル磁気抵抗素子を製造することが可能になる。そして、このように非常に薄い第2磁性層15に対してそれの酸化が抑えられるため、上記(1)に記載の効果が、より顕著なものとなる。
【0085】
(7)第3スパッタチャンバー26が、障壁用金属層と拡散抑制金属層との双方を形成するため、これら障壁用金属層と拡散抑制金属層とが各別の真空チャンバーによって形成される構成と比べて、トンネル磁気抵抗素子の製造装置の構成を簡素化することが可能になる。
(第2実施形態)
【0086】
本開示の技術におけるトンネル磁気抵抗素子の製造方法の第2実施形態について、
図5〜8を参照して以下に説明する。なお、第2実施形態では、拡散抑制金属層が形成される前に、酸化された障壁用金属層が加熱されることが、第1実施形態と異なる。そのため、以下では、第1実施形態との違いを主に説明し、第1実施形態と重複する点の説明を割愛する。
【0087】
図5に示されるように、非晶質のMgO層が第1トンネル障壁層141として形成されると、制御装置30は、基板搬送ロボット駆動部20Dによる基板搬送ロボット20Rの駆動により、酸化チャンバー28内の基板11を熱処理チャンバー22に搬送する。そして、制御装置30は、熱処理ヒーター駆動部22Dによる熱処理ヒーター22Hの駆動により、非晶質のMgO層に対して結晶化を促す。例えば、制御装置30は、有磁場の雰囲気で基板11を360℃に1時間保持する。これにより、第1トンネル障壁層141が(001)配向を有する結晶となり、これに伴い、第1磁性層13としてのCoFeB合金層も(001)配向を有する結晶となる。
【0088】
以後、第1実施形態と同じく、拡散抑制金属層の形成(ステップS16)、第2磁性層15の形成(ステップS17)、キャッピング層16の形成(ステップS18)、及び積層体の加熱工程(ステップS19)がこの順に行われる。
以上説明したように、第2実施形態によれば、上記(1)〜(7)に準じた効果に加えて、以下に列挙する効果が得られる。
【0089】
(8)第1磁性層13及び第1トンネル障壁層141からなる第1積層体に対する熱処理と、第1トンネル障壁層141、拡散抑制金属層、及び第2磁性層15からなる第2積層体に対する熱処理とが各別に行われる。そのため、第1積層体に対して行われる熱処理の条件と第2積層体に対して行われる熱処理の条件とを互いに異なる条件とすることが可能となる。それゆえに、第1積層体における各層の膜厚や組成に応じた熱処理を行うこと、第2積層体における各層の膜厚や組成に応じた熱処理を行うこと、これらが可能になる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
【0090】
・第1磁性層及び第2磁性層には、規則合金系材料、アモルファス合金系材料、多層膜人工格子系材料が適用可能である。規則合金系材料には、例えばCoPt、FePt、CoPd、FePdが適用可能である。アモルファス合金系材料には、例えばTbFeCo、GdFeCoが適用可能である。多層膜人工格子系材料には、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdが適用可能である。
【0091】
・障壁用金属層が酸化される工程には、プラズマ酸化法の他、酸素ラジカルのみによる酸化方法、自然酸化法、これらに加えて紫外線の照射により酸化を促す方法が適用可能である。
【0092】
なお、障壁用金属層として、例えば0.8nmの膜厚からなるMg層が用いられる場合、室温に維持されるMg層を1Pa〜1000Paの酸素雰囲気に600秒〜1000秒間曝す。このような自然酸化法であれば、プラズマ酸化法と比べて酸化の速度が遅いため、障壁用金属層における酸化の状態を高い精度で再現することが可能になる。
また、酸素ラジカルのみによる酸化方法がとられる場合には、RA値が10Ω・μm
2以上になるのにおよそ10秒〜40秒の酸化で十分であるから、各段にプロセス時間を短縮することが可能である。
【0093】
・第1トンネル障壁層141が形成される工程には、第1トンネル障壁層141を構成する金属元素の酸化物そのものを基板に堆積させる方法が適用可能である。このような方法に用いられる製造装置は、障壁用金属層を酸化するための酸化チャンバーを省略して装置構成の簡素化を図ることが可能である。
・また、この際、酸化物そのものの堆積により、第1トンネル障壁層141が所望の配向を有する方法であってもよい。このような方法であれば、第1トンネル障壁層141を結晶化するための加熱を省略することが可能になる。
【0094】
・積層体を加熱する工程がトンネル磁気抵抗素子の製造装置以外で行われる方法であってもよい。このような方法に用いられる製造装置は、積層体を加熱するための熱処理チャンバーを省略して装置構成の簡素化を図ることが可能である。
・障壁用金属層を形成する真空チャンバーを第1の金属層形成部とし、拡散抑制金属層を形成する真空チャンバーを第2の金属層形成部とし、これらが互いに異なる真空チャンバーとしてもよい。このような構成であれば、1つの基板における障壁用金属層の形成と、他の基板における拡散抑制金属層の形成とが、同じタイミングで行われることも可能であるから、トンネル磁気抵抗素子の生産性を高めることが可能にもなる。
【0095】
・第2実施形態において第1トンネル障壁層141が結晶化される工程は、拡散抑制金属層が形成された後であって、且つ第2磁性層15が形成される前であってもよい。
【0096】
・第2磁性層15が形成される前に、拡散抑制金属層上に、第1トンネル障壁層141とは異なる他のトンネル障壁層であって、且つ第1トンネル障壁層141と同じ金属酸化物からなる第3トンネル障壁層が形成されてもよい。すなわち、第2磁性層15と接触する金属酸化物層である第3トンネル障壁層が、拡散抑制金属層と第2磁性層15との間に形成されてもよい。このような方法であっても、第1磁性層13と第2磁性層15との間に必要とされるトンネル障壁層の厚さが同じであるという前提では、拡散抑制金属層が形成される分、第2磁性層に対する酸素の拡散を抑えることは可能である。