(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のデータ処理手段は、前記撮影モード切替手段により、前記動画撮影モードに切り替えた場合に、処理する前記第1の素子データの数を変更する請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記第2の素子データに基づいて表示画像データを生成する画像生成部と、前記表示画像データに基づき、超音波画像の動画を表示する表示部とを有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記第2のデータ処理手段で作成された超音波画像上の1ラインのデータに基づいて表示画像データを生成する画像生成部と、前記表示画像データに基づき、超音波画像の静止画を表示する表示部とを有する請求項10に記載の超音波診断装置。
前記第1のデータ処理手段は、複数の前記第1の素子データから前記第2の素子データを生成する直前に、複数の前記第1の素子データそれぞれの整相加算を行って複数の第1の受信データを生成し、複数の前記第1の受信データから、前記第1の受信データのいずれかに対応する第2の受信データを生成する請求項1〜15のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記第2の受信データに基づいて表示画像データを生成する画像生成部と、前記表示画像データに基づき、超音波画像の動画を表示する表示部とを有する請求項16に記載の超音波診断装置。
超音波ビームを送信し、かつ検査対象物によって反射された超音波エコーを受信して、受信した超音波エコーに応じたアナログ素子信号を出力する、複数の素子が配列された探触子を用い、検査対象物を検査するための超音波画像を取得する超音波画像生成方法であって、
前記超音波ビームを時経列に連続的に発生させて動画撮影を行う動画撮影モードと、前記超音波ビームを一時的に発生させて静止画撮影を行う静止画撮影モードとが切り替え可能であり、前記動画撮影モードに切り替えた場合、
前記探触子によって、複数の素子を用い、所定の送信焦点を形成するように前記超音波ビームを送信させることを、複数回行い、かつ個々の前記超音波ビームの送信に対応して、複数の前記素子が出力したアナログ素子信号を出力し、このアナログ素子信号をA/D変換して、素子位置と深度と強度との関係を示すデジタル素子信号である第1の素子データとし、複数の前記第1の素子データを遅延時間及び受信された前記探触子の素子の位置に基づいて重ね合わせて、前記第1の素子データのいずれかに対応する、素子位置と深度と強度との関係を示すデータである第2の素子データを生成することを、前記検査対象物内に対して少なくとも1つの焦点を形成して行うことを特徴とするデータを処理することを特徴とする超音波画像生成方法。
前記静止画撮影モードに切り替えた場合、前記検査対象物内に対して複数の焦点を形成し、送信焦点に前記超音波ビームを送信させ、前記第1の素子データを得、1つの前記第1の素子データに基づいて、超音波画像上の1ラインのデータを作成する請求項19に記載の超音波画像生成方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の超音波診断装置、超音波画像生成方法およびプログラムを詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の超音波診断装置を示すブロック図である。
【0021】
図1に示す超音波診断装置10は、後に詳細に説明するが、超音波ビームを時経列に連続的に発生させて動画撮影を行う動画撮影モードと、超音波ビームを一時的に発生させて静止画撮影を行う静止画撮影モードとを有し、動画撮影モードと静止画撮影モードとを切り替える撮影モード切替手段を有する。
動画撮影モードの場合、被検体内(検査対象物)に対してシングルフォーカス(1つの焦点)で送受信を行い、受信した素子データ(第1の素子データ)に基づいて、後に詳細に説明するマルチライン処理を行い、超音波画像(動画)を作成して表示させるか、または音速値の算出がなされる。一方、静止画撮影モードの場合には、従来技術と同様に、被検体内に対してマルチフォーカス(多数の焦点)で送受信を行い、超音波画像(静止画)を作成して表示させるか、または音速値の算出がなされる。
【0022】
以下、動画撮影モードと静止画撮影モードとを有する超音波診断装置10について詳細に説明する。
図1に示すように、超音波診断装置10は、超音波プローブ12と、超音波プローブ12に接続される送信部14および受信部16と、A/D変換部18と、素子データ記憶部20と、素子データ処理部22(第1のデータ処理手段)と、音速決定部23と、画像生成部24と、表示制御部26と、表示部28と、制御部30と、操作部32と、格納部34とを有する。
図示例においては、送信部14、受信部16、A/D変換部18、素子データ記憶部20、素子データ処理部22、音速決定部23、画像生成部24、表示制御部26、表示部28、制御部30、操作部32、および格納部34が、超音波診断装置10の装置本体を構成する。
【0023】
超音波プローブ12(以下、プローブ12とする)は、通常の超音波検査装置に用いられる探触子アレイ36を有する。
探触子アレイ36は、1次元または2次元アレイ状に配列された複数の素子、すなわち、超音波トランスデューサを有している。これらの超音波トランスデューサは、被検体(検査対象物)の超音波画像の撮影の際に、それぞれ送信部14から供給される駆動信号に従い超音波ビームを被検体に送信するとともに、被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。本実施形態では、探触子アレイ36の複数の超音波トランスデューサの内の一組を成す所定数の超音波トランスデューサの各々は、1つの超音波ビームの各成分を発生し、一組の所定数の超音波トランスデューサは、被検体に送信する1つの超音波ビームを発生する。
【0024】
各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、またはPMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した、振動子で構成される。
【0025】
このような振動子の電極に、パルス状または連続波状の電圧を印加すると、印加された電圧に応じて圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状または連続波の超音波を発生する。また、各振動子から発生した超音波は、各振動子の駆動の遅延に応じて、設定された焦点に収束して合成されて(すなわち、送信フォーカスされて)、超音波ビームが形成される。
また、振動子は、被検体内で反射された超音波エコーが入射することで伸縮し、この伸縮の大きさ応じた電気信号を発生する。この電気信号が、受信信号として、受信部16に出力される。
【0026】
送信部14は、例えば、複数のパルサを有し、プローブ12の各超音波トランスデューサ(振動子)に、駆動信号を供給する(駆動電圧を印加する)部位である。
送信部14は、例えば、複数のパルサを含んでおり、プローブ12の各超音波トランスデューサ(振動子)に、駆動信号を供給する(駆動電圧を印加する)。
例えば、駆動信号は、制御部30からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、探触子アレイ36の一組の所定数の超音波トランスデューサ(以下、超音波素子という)から送信される超音波ビーム成分が1つの超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して組を成す複数の超音波素子に供給する。
【0027】
さらには、複数の超音波トランスデューサが送信する超音波が、被検体内に対して設定した所定の焦点(送信焦点)に収束する目的とする超音波ビームを形成するように、駆動信号の遅延量(駆動電圧の印加タイミング)を調節する送信フォーカスを行って、駆動信号を超音波トランスデューサに供給する。被検体の深さ方向に、多数の焦点を設定することができる。
なお、この送信遅延パターンは、後述する環境音速値、局所音速値および音速補正値に応じて補正されたものでもよい。このようにして、プローブ12(探触子アレイ36)から被検体に、目的とする超音波ビームが送信される。なお、送信部14と制御部30とで、焦点制御部が構成される。
【0028】
受信部16は、制御部30からの制御信号に応じて、探触子アレイ36の各超音波素子によって超音波ビームと被検体との間の相互作用によって発生された超音波エコーを被検体から受信して、受信信号、すなわち、超音波素子毎のアナログ素子信号を増幅して出力し、増幅されたアナログ素子信号をA/D変換部18に供給する部位である。
【0029】
なお、本発明の超音波診断装置10において、超音波の送受信の方法は、基本的に、公知の超音波診断装置と同様である。
したがって、1回の超音波の送受信(1本の超音波ビームの送信、およびこの送信に対応する超音波エコーの受信)において、超音波を発生する超音波トランスデューサの数(送信開口の数)、および超音波を受信(受信部16が受信信号を受け取る)する超音波トランスデューサの数(受信開口の数)は、ともに、複数であれば、限定はない。また、1回の送受信において、送信と受信とで、開口数は、同じでも異なってもよい。
【0030】
また、少なくとも方位方向(アジマス方向(超音波トランスデューサの配列方向))に隣接する超音波ビームで、送信領域が重複していれば、1つの超音波画像を形成するための超音波の送受信の回数(音線数)および送受信の中心となる超音波トランスデューサ(中心素子)の間隔(すなわち、走査線の密度)にも、限定はない。したがって、超音波で走査する領域に対応する全ての超音波トランスデューサを中心素子として超音波の送受信を行ってもよく、2個置き、または4個置き等の所定間隔の超音波トランスデューサを中心素子として超音波の送受信を行ってもよい。受信部16は、送信部14による超音波ビームの送信に対応して、中心となる素子を変更してもよい。
【0031】
A/D変換部18は、受信部16に接続され、受信部16から供給されたアナログの受信信号を、アナログ/デジタル変換して、デジタルの受信信号である素子データ(第1の素子データ)とする。A/D変換部18は、A/D変換した素子データを素子データ記憶部20に供給する。
【0032】
素子データ記憶部20は、A/D変換部18から供給された素子データを、順次、記憶する。また、素子データ記憶部20は、制御部30から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を、各素子データに関連付けて格納する。
好ましくは、素子データ記憶部20は、少なくとも1つの超音波画像(1フレームの超音波画像)に対応する全ての素子データを記憶し、かつ少なくとも超音波画像の表示を終了するまでは、表示中および表示前の超音波画像の素子データを消去しない。
なお、動画撮影モードのときには、制御部30により、素子データ記憶部20からA/D変換された素子データが素子データ処理部22に出力される。
一方、静止画撮影モードのときには、制御部30により、素子データ記憶部20からA/D変換された素子データが素子データ処理部22に出力されることなく、音速決定部23および画像生成部24(整相加算部38)に出力される。
【0033】
素子データ処理部22は、本発明の特徴とする部位であって、動画撮影モードのときに、素子データを重ね合わせて、各素子データに対応する処理済素子データ(第2の素子データ)を生成する部位である。
具体的には、素子データ処理部22は、制御部30による制御に基づいて、素子データ記憶部20に記憶された素子データのうち、中心となる超音波トランスデューサ(中心となる素子(中心素子))が異なり、かつ超音波ビームの送信領域が重なり合う、所定数(複数)の超音波ビームの送信で得られた素子データを、各超音波トランスデューサが超音波エコーを受信した時間、および超音波トランスデューサの位置に応じて重ね合わせて、素子データ(後述する注目素子の素子データ)に対応する処理済素子データを生成する。素子データ処理部22は、生成した処理済素子データを、音速決定部23および画像生成部24に出力する。
【0034】
音速決定部23は、動画撮影モードのときには、素子データ処理部22が生成した処理済素子データを用いて、被検体内における超音波の音速(環境音速)を決定する部位である。静止画撮影モードのときには、素子データ記憶部20のA/D変換された素子データを用いて、被検体内における超音波の音速(環境音速)を決定する部位である。
素子データ処理部22および処理済素子データ、ならびに音速決定部23および環境音速に関しては、後に詳述する。
【0035】
画像生成部24は、制御部30による制御に基づいて、素子データ記憶部20から供給された素子データ(第1の素子データ)または素子データ処理部22から供給された処理済素子データ(第2の素子データ)から受信データ(音線信号)を生成し、この受信データから超音波画像を生成するものである。
素子データ記憶部20から供給された素子データから静止画の超音波画像が生成され、素子データ処理部22から供給された処理済素子データから動画の超音波画像が生成される。
画像生成部24は、整相加算部38、検波処理部40、DSC42、画像処理部44、および画像メモリ46を有する。
【0036】
整相加算部38は、素子データ記憶部20、素子データ処理部22および音速決定部23に接続されており、動画撮影モードのときには、素子データ処理部22が生成した処理済素子データを整相加算して受信フォーカス処理を行い、受信データを生成する。
被検体内の1つの反射点との間の距離は、各超音波トランスデューサで異なる。そのため、同じ反射点で反射された超音波エコーであっても、各超音波トランスデューサに超音波エコーが到達する時間が異なる。整相加算部38は、制御部30が選択した受信遅延パターンに応じて、各超音波トランスデューサ毎の超音波エコーの到達時刻の差(遅延時間)に相当する分、各受信データを遅延し、遅延時間を与えた受信データを整相加算することによりデジタル的に受信フォーカス処理を行い、受信データを生成する。整相加算部38は、生成した受信データを検波処理部40に供給する。
【0037】
また、静止画撮影モードのときには、被検体内の深さ方向に複数の焦点が設定されており、整相加算部38は、1つの素子の素子データを整相加算して受信フォーカス処理を行い、受信データを生成し、各焦点の超音波画像上の1ラインの受信データを作成する。このとき、整相加算部38は第2のデータ処理手段として機能する。
【0038】
なお、動画撮影モード、静止画撮影モードにかかわらず、整相加算部38は、音速決定部23によって、被検体内における超音波の音速(環境音速)が決定されていて、供給されている場合には、この環境音速を用いて、遅延時間および受信遅延パターン等の補正を行って、受信フォーカス処理を行う。
なお、環境音速が決定されていない場合には、動画撮影モード、静止画撮影モードにかかわらず、上述のように整相加算部38は、受信遅延パターンを用いた公知の方法で、受信フォーカス処理を行う。
【0039】
図2に、環境音速を用いた受信フォーカス処理の一例を示す。
ここで、
図2は、プローブ12が有する複数の超音波トランスデューサが、同図中左右方向に一列に配列されている、リニアプローブの場合である。しかしながら、コンベックスプローブの場合もプローブ形状が違うだけで、考え方は同じでよい。
【0040】
方位方向における各々の超音波トランスデューサの幅をLとすると、方位方向の中心の超音波トランスデューサから端部に向かってn番目の超音波トランスデューサまでの距離はnLとなる。
同図に示すように、超音波の反射点が、中心の超音波トランスデューサから配列方向に対して垂直な距離(深さ)dの位置にあるとすると、n番目の超音波トランスデューサと反射点との間の距離(長さ)d
nは、式(1)により算出される。
d
n=((nL)
2+d
2)
1/2 … (1)
したがって、環境音速Vを用いて、超音波エコーが反射点からn番目の超音波トランスデューサに到達(受信)する時間t
nは、式(2)により算出される。
t
n=d
n/V=((nL)
2+d
2)
1/2/V … (2)
【0041】
前述のように、超音波トランスデューサと反射点との間の距離は、各超音波トランスデューサ毎に異なる。そのため、この例の場合、同図上部のグラフに示すように、超音波エコーの到達時間t
nは、配列方向の端部側の超音波トランスデューサほど、長くなる。
具体的には、n番目の超音波トランスデューサで受信される超音波は、超音波が反射点から中心の超音波トランスデューサで受信されるまでの時間をt
1とすると、中心の超音波トランスデューサで受信される超音波に対して、時間Δt=t
n−t
1だけ遅れる。本例では、この遅延時間Δtが、すなわち、受信遅延パターンである。
整相加算部38は、各々の超音波トランスデューサに対応する受信データについて、上記時間Δtで表される遅延時間を用いて整相加算を行い、受信フォーカス処理を行う。
【0042】
なお、本発明において、環境音速に応じた受信フォーカス処理は、この方法に限定はされず、公知の方法が、各種、利用可能である。
例えば、制御部30が、環境音速に応じた受信遅延パターンを選択して、これに応じた制御信号を整相加算部38に供給してもよい。あるいは、制御部30が環境音速に応じて受信遅延パターンを補正して、補正した受信遅延パターンに応じた制御信号を整相加算部38に供給してもよい。あるいは、整相加算部38が、環境音速に応じて、制御部30から供給された制御信号を補正して、受信フォーカス処理を行ってもよい。
【0043】
検波処理部40は、整相加算部38が生成した受信データに対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内における断層の画像情報(輝度画像情報)であるBモード画像データ(表示画像データ)を生成する。
DSC(digital scan converter)42は、検波処理部40で生成されたBモード画像データを、通常のテレビジョン信号の走査方式に対応する画像データに変換(ラスター変換)する。
【0044】
画像処理部44は、DSC42から入力されるBモード画像データに、階調処理等の各種の必要な画像処理を施して、表示に供するためのBモード画像データとする。画像処理部44は、画像処理済のBモード画像データを、表示のために表示制御部26に出力するとともに、画像メモリ46に格納する。なお、画像メモリ46に画像処理済のBモード画像データを必ずしも格納しなくともよい。
画像メモリ46は、画像処理部44が処理したBモード画像データ(表示画像データ)を格納する公知の記憶手段(記憶媒体)である。画像メモリ46に格納されたBモード画像データは、必要に応じて表示部28で表示するために表示制御部26に読み出される。
【0045】
表示制御部26は、画像処理部44によって所定の画像処理が施されたBモード画像データを用いて、表示部28に動画の超音波画像または静止画の超音波画像を表示させる部位である。表示部28は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部26の制御の下で、動画の超音波画像または静止画の超音波画像を表示する。
【0046】
制御部30は、操作者により操作部32から入力された指令に基づいて超音波診断装置10の各部の制御を行う部位である。
また、制御部30は、操作部32を用いて操作者によって入力された各種の情報を、必要な部位に供給する。例えば、操作部32に、素子データ処理部22および画像生成部24の整相加算部38で用いられる遅延時間算出に必要な情報、ならびに、素子データ処理部22における素子データ処理に必要な情報の入力が行われた場合には、これらの情報を、必要に応じて、送信部14、受信部16、素子データ記憶部20、素子データ処理部22、画像生成部24および表示制御部26等の各部に供給する。
【0047】
操作部32は、操作者が入力操作を行うためのものであり、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
また、操作部32は、操作者が、必要に応じて各種の情報を入力するための、入力機能を備えている。例えば、操作部32は、プローブ12(超音波トランスデューサ)の情報、プローブ12(振動子アレイ)における送信開口および受信開口、重ね合わせる素子データ数および方法等の処理済素子データの生成に関する情報、ならびに超音波ビームの焦点位置等を入力するための入力機能を備えている。
これらは、例えば、撮影部位(診察部位)の選択、画質の選択、撮影する超音波画像の深度の選択等によって、入力される。
【0048】
さらに、操作部32は、超音波診断装置10を動画撮影モードまたは静止画撮影モードに設定するためのフリーズボタンを含み、操作部32が撮影モード切替手段として機能する。フリーズボタンが操作されると動画撮影モードから静止画撮影モードに切り換わる設定信号が制御部30に送信されて動画撮影モードから静止画撮影モードに切り換えられる。一方、フリーズボタンの操作が解除されると、静止画撮影モードから動画撮影モードに切り換えられる。なお、撮影モード切替手段は、フリーズボタンに限定されるものではなく、上述の撮影モードを切り替える撮影モード切替部を設けてもよい。
【0049】
格納部34は、制御部30が超音波診断装置10の各部の制御を実行するための動作プログラム、送信遅延パターンおよび受信遅延パターン、処理済素子データの生成に関する情報、さらには、操作部32から入力されたプローブ12の情報、送信開口および受信開口、焦点位置の情報等、制御部30が超音波診断装置の動作および制御を行うための必要な情報等を格納するものである。
格納部34には、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の公知の記録媒体を用いることができる。
【0050】
なお、超音波診断装置10において、素子データ処理部22、音速決定部23、整相加算部38、検波処理部40、DSC42、画像処理部44、および表示制御部26等は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成される。しかしながら、本発明においては、これらの部位をデジタル回路で構成してもよい。
【0051】
前述のように、素子データ処理部22は、素子データ記憶部20に記憶された素子データ(未処理素子データ)のうち、中心となる超音波トランスデューサ(中心素子)が異なり、かつ超音波ビームの送信領域が重なる、所定数(複数)の超音波ビームの送信で得られた素子データを、各超音波トランスデューサが受信した時間および超音波トランスデューサの位置に応じて重ね合わせて、処理済素子データを生成する部位である。
なお、以下の説明では、超音波トランスデューサのことを、単に『素子』とも言う。
【0052】
図3に、素子データ処理部22の構成を、ブロック図で概念的に示す。
図3に示すように、素子データ処理部22は、遅延時間算出部48と、重ね合わせ処理部49とを有する。
【0053】
遅延時間算出部48は、操作部32から入力された、もしくは、操作部32から入力されて格納部34に格納されているプローブ12(超音波トランスデューサ(素子))、超音波ビームの焦点位置、プローブ12の送信開口および受信開口等に関する情報を事前に取得しておく。
また、遅延時間算出部48は、超音波ビームを送信(生成)するために超音波を発振する送信開口の素子と、被検体からの超音波エコーを受信する受信開口の素子との幾何学的な位置に基づいて、受信開口の素子で受信される超音波エコーすなわち、素子データの遅延時間を算出する。
【0054】
重ね合わせ処理部49は、操作部32から入力された、もしくは、操作部32から入力されて格納部34に格納されている、重ね合わせる素子データの数および重ね合わせ処理方法等の素子データ処理に関する情報に基づいて、素子データ記憶部20に記憶されている素子データから、重ね合わせを行う素子データ(中心素子が異なり、かつ送信領域が重なる超音波ビームで得られた素子データ(2以上の対象領域毎に生成された2以上の素子データ))を読み出す。
さらに、重ね合わせ処理部49は、遅延時間算出部48で算出された、それぞれの素子データに対応する遅延時間に基づいて、2以上の素子データを、受信時間上で、すなわち、時間を合わせて、かつ受信された探触子の素子の絶対的な位置を合わせて、重ね合わせて、処理済素子データを生成する。
【0055】
以下、素子データ処理部22で行う素子データ処理について、詳細に説明する。
初めに、超音波プローブ12において、送信開口すなわち、超音波ビームを送信するために超音波を発信する素子(以下、単に送信素子という)から、被検体に超音波ビームを送信し、被検体との間の相互作用によって発生された超音波エコーを、受信開口すなわち、超音波エコーの受信を行う素子(以下、単に受信素子という)で受信して、素子データを得る場合において、送信素子からの超音波ビームと受信素子で得られる素子データとの関係について説明する。
【0056】
一例として、送信部14により、
図4(a)に示すように、3つの素子52c〜52eを送信素子として超音波ビームを送信し、7つの素子52a〜52gを受信素子として超音波エコーを受信する。次いで、
図4(c)に示すように、1素子分、素子を方位方向に移動(以下、シフトとも言う)して、3つの素子52d〜52fを送信素子として超音波ビームを送信し、7つの素子52b〜52hを受信素子として超音波エコーを受信部16で受信して、それぞれ素子データを取得する。
すなわち、
図4(a)に示す例では、中心素子(中心となる素子)は、素子52dであり、
図4(b)に示す例では、中心素子は素子52eである。
【0057】
この際において、反射点54を含む検査対象領域に送信する超音波ビーム56が、焦点58で収束して、素子間隔以下に絞れている理想的な場合を考える。
図4(a)のように、反射点54の真上(反射点と焦点とを結ぶ直線上)にある素子52dを中心素子として、送信素子である素子52c〜52eから超音波ビーム56を送信し、受信素子である素子52a〜52gで超音波エコーを受信して素子データを取得すると、超音波ビーム56の焦点58は、中心素子である素子52dと反射点54とを結ぶ一直線上にある。この場合、超音波ビーム56は、反射点54まで送信されるので、反射点54から反射される超音波エコーが生成される。
反射点54からの超音波エコーは、所定角度に拡がる受信経路60を通って受信素子である素子52a〜52gに受信され、素子52a〜52gによって、
図4(b)に示すような素子データ62が得られる。なお、
図4(b)において、縦軸は時間で、横軸は
図4(a)に一致する方位方向の位置(素子の位置)である(
図4(d)も同じ)。
【0058】
これに対し、
図4(c)に示すように、中心素子を1素子分、シフトさせた場合には、反射点54の真上にある素子52dの隣の素子52eが、中心素子となる。
素子52eを中心素子として、送信素子である素子52d〜52fから超音波ビーム56を送信し、受信素子である素子52b〜52hで超音波エコーを受信する。この際に、同様に超音波ビーム56が理想的であれば、超音波ビーム56の送信方向、すなわち、中心素子52eと焦点58とを結ぶ直線上に反射点54が存在しない。したがって、この超音波ビーム56は、反射点54に送信されない。
そのため、反射点54から反射される超音波エコーは生成されず、受信素子である素子52b〜52hは、超音波エコーを受信しないので、
図4(d)に示すように、反射点54からの反射信号は得られないことになる(素子データの信号強度が『0』になる)。
【0059】
しかしながら、実際の超音波ビームは、
図5(a)および(c)に示す超音波ビーム64のように、焦点58で収束した後に拡散するので、素子間隔より幅が広い。
ここで、
図4(a)と同様に、
図5(a)のように、反射点54の真上にある素子52dを中心素子として、素子52c〜52eを送信素子として超音波ビーム64を送信した場合には、超音波ビーム64が幅広であっても、その焦点58は、素子54dと反射点54とを結ぶ一直線上にある。したがって、超音波ビーム64は、反射点54で反射され、超音波エコーが生成される。
その結果、
図4(a)の場合と同様に、反射点54からの超音波エコーは、所定角度に拡がる受信経路60を通って受信素子である素子52a〜52gに受信され、同様に、
図5(b)に示すような真の素子データ66が得られる。
【0060】
次いで、
図4と同様、
図5(c)に示すように、中心素子を1素子分、シフトして、隣の素子52eを中心素子として、素子52d〜52fを送信素子として超音波ビーム56を送信し、素子52b〜52hを受信素子として超音波エコーを受信する。この場合でも、超音波ビーム64は幅広であるため、その超音波の送信方向、すなわち、中心素子である素子52eと焦点58とを結ぶ直線上に反射点54が存在していなくても、超音波ビーム64は、反射点54に送信される(到達する)。
そのため、反射点54から、超音波ビームの送信方向には、本来、存在しない超音波エコー、所謂ゴーストの反射エコーが発生する。この反射点54からのゴーストの反射エコーは、
図5(c)に示すように、所定角度に拡がる受信経路60を通って受信素子である素子52b〜52hに受信される。その結果、素子52b〜52hによって、
図5(d)に示すようなゴーストの素子データ68が得られることになる。
【0061】
このようなゴーストの素子データ68は、素子データから生成される超音波画像の精度を低下させる原因となる。
素子データ処理部22は、素子データに対応する遅延時間を遅延時間算出部48で算出し、重ね合わせ処理部49が、2以上の素子データを、この遅延時間および素子の絶対的な位置に応じて重ね合わせることで、真の素子データを強調して、ゴーストの素子データを減衰させた、高精度な素子データである処理済素子データを生成するものである。
【0062】
前述のように、遅延時間算出部48は、受信素子(受信開口)の各素子で受信される素子データの遅延時間を算出する。
すなわち、
図5(c)に示す超音波ビーム64の伝播距離は、超音波ビーム64が中心素子52eから焦点58を経由して反射点54に至る送信経路と、ゴーストの反射エコーが反射点54から受信素子である素子52b〜52hに至る受信経路との和となる。
この
図5(c)に示す超音波ビーム64の伝播距離は、
図5(a)に示す超音波ビーム64の伝播距離、すなわち、超音波ビーム64が中心素子52dから焦点58を経由して反射点54に至る送信経路と、真の超音波エコーが反射点54から受信素子である素子52a〜52gに至る受信経路との和より長くなる。
そのため、
図5(d)に示すようなゴーストの素子データ68は、
図5(b)に示すような真の素子データ66に対して、遅延することになる。
【0063】
素子データ処理部22の遅延時間算出部48において、真の素子データに対するゴーストの素子データの時間差、すなわち、遅延時間は、音速、送信素子、超音波ビームの焦点、被検体の反射点、および受信素子の幾何学的配置から算出される。
したがって、遅延時間の計算には、プローブ12の形状(素子間隔、リニア、コンベックス等)、音速、焦点の位置、送信開口、受信開口等の情報が必要である。遅延時間算出部48では、操作部32によって入力された、若しくは格納部34に格納されたこれらの情報を取得して、遅延時間の計算を行う。なお、音速は、予め設定された固定値(例えば、1540m/sec)を用いてもよく、あるいは、後述する音速決定手段が決定した音速(環境音速)を用いてもよく、あるいは、操作者が入力できるようにしてもよい。
遅延時間は、例えば、送信素子、超音波ビームの焦点、被検体の反射点、および受信素子の幾何学的配置から算出される、送信素子から焦点を経て反射点に至る超音波ビームの送信経路および反射点から受信素子に至る真の反射超音波エコーまたはゴーストの反射信号の受信経路の合計長さ(伝播距離)と、音速によって算出される伝播時間の差から算出することができる。
【0064】
本発明では、例えば、
図6(a)および
図6(b)に示すようにして、真の超音波エコーとゴーストの反射エコーの場合の超音波ビームの送信経路および受信経路の長さを求めることができる。なお、
図6において、x方向は方位方向で、y方向は深度方向である。
また、
図6(a)は、
図5(a)と同様の超音波の送受信を行い、
図6(b)は、
図5(c)と同様の超音波の送受信を行うものである。
【0065】
真の超音波エコーの場合、
図6(a)(
図5(a))に示すように、中心素子である素子52dと、焦点58と、反射点54とは、方位方向の位置が一致している。すなわち、中心素子52dの真下に、焦点58および反射点54が位置している。
したがって、中心素子である素子52dの位置をx−yの2次元座標上の座標(x0、0)とすると、焦点58および反射点54のx座標も『x0』となる。以下、この送信における焦点58の位置を座標(x0、df)、反射点54の位置を座標(x0、z)とし、さらに、素子の間隔をLeとする。
この際において、中心素子である素子52dから焦点58を経て反射点54に至る超音波ビームの送信経路61の長さ(送信経路距離)Lta、および反射点54から素子52dに至る真の反射超音波エコーの受信経路60の長さ(受信経路距離)Lraは、Lta=Lra=zによって算出できる。
したがって、真の超音波エコーの場合、超音波エコーの伝播距離Luaは、Lua=Lta+Lra=2zとなる。
【0066】
次いで、
図6(b)に示すように、送信素子および受信素子をx方向(方位方向)に1素子分ずらして(図中右方向にシフトして)、中心素子を素子52eとして送受信を行う。
図5(c)で示したように、この場合には、反射点54で反射されるのは、ゴーストの反射エコーとなる。
反射点54は、素子52dの方位方向の同位置に位置している。したがって、
図6(b)に示すように、この送受信では、中心素子である素子52eと、反射点54とのx方向の位置は、1素子分すなわち、Leだけ、x方向にずれる。
反射点54とx方向の位置が一致する素子52dの座標が(x0、0)であるので、中心素子である素子52eの座標は(x0+Le、0)、この送信における焦点58の座標は(x0+Le、df)となる。なお、前述のように、反射点54の座標は(x0、z)である。
したがって、中心素子である素子52eから焦点58を経て、反射点54に至る超音波ビームの送信経路61の長さ(送信経路距離)Ltbは、Ltb=df+√{(z−df)
2+Le
2}で算出できる。他方、反射点54から、直下(x方向=方位方向の同位置)の素子52dに至るゴーストの反射信号の受信経路60の長さ(受信経路距離)Lrbは、Lrb=zによって算出できる。
したがって、ゴーストの反射エコーの場合の超音波の伝播距離Lubは、Lub=Ltb+Lrb=df+√{(z−df)
2+Le
2}+zとなる。
【0067】
こうして、
図6(a)に示す幾何学配置で求めた送信経路61の距離Ltaと受信経路60の距離Lraを合計した超音波の伝播距離Luaを、音速で割った値が、真の超音波エコーの伝播時間となる。また、
図6(b)に示す幾何学配置で求めた送信経路61の距離Ltbと受信経路60の距離Lrbを合計した超音波の伝播距離Lubを、音速で割った値がゴーストの反射エコーの伝播時間となる。
遅延時間は、反射点54と中心素子とのx座標が一致している時の真の超音波エコーの伝播時間と、反射点54と中心素子とのx座標を1素子間隔ずつずらしたときのゴーストの反射エコーの伝播時間の差から求められる。
なお、
図6(a)および
図6(b)の幾何学モデルでは、送信経路61が焦点58を経由したモデルになっているが、本発明はこれに限定されず、例えば、焦点58を経由せずに、直接、反射点54に至る経路であっても良い。
【0068】
また、
図6(a)および
図6(b)の幾何学モデルはリニアプローブの場合であるが、これに限らず他のプローブにおいても、プローブの形状から同様の幾何学計算を行うことができる。
例えば、コンベックスプローブの場合、プローブの半径と素子間隔の角度から幾何学モデルを設定して、同じように計算することができる。
【0069】
また、ステア送信の場合には、送信角度等の情報を考慮した幾何学モデルを用い、送信素子と反射点との位置関係から、真の素子データおよびその周辺のゴーストの素子データの遅延時間を算出することができる。
さらに、幾何学モデルよって遅延時間を算出する方法に限らず、あらかじめ装置の計測条件に合わせて高輝度反射点を計測した計測結果から、計測条件毎に遅延時間を求めておき、その遅延時間を装置内に記憶しておくことで、同じ計測条件の遅延時間を読み出すようにしておいてもよい。
【0070】
図6(c)に、真の素子データ66およびゴーストの素子データ68を示す。
図6(c)において、方位方向の中央が、真の素子データ66、すなわち、中心素子と反射点54とでx方向の位置が一致している送受信によって得られた素子データ(図示例では、素子52dを中心素子とした素子データ)である。また、中央の両側が、ゴーストの素子データ、すなわち、中心素子と反射点54とでx方向の位置が一致していない送受信によって得られた素子データ(図示例では、素子52cまたは素子52e等を中心素子とした素子データ)である。
また、
図6(d)に、上述の幾何学計算から得られた真の素子データ66に対する、ゴーストの素子データ68の遅延時間の一例を示す。真の素子データ66を中心に、ゴーストの信号の素子データ68は、x方向すなわち、方位方向に対称的に時間が遅れることが示されている。
なお、こうして、素子データ処理部22の遅延時間算出部48において算出された遅延時間は、整相加算部38における遅延補正に用いることもできる。
【0071】
後に詳述するが、本発明においては、或る注目素子を中心素子とする超音波ビームの送信(注目素子の送受信)で得られた素子データに、中心素子が異なり、かつ超音波ビームの少なくとも一部が重複する超音波ビームの送信で得られた素子データを、超音波エコーの受信時間と素子の位置とを合わせて重ね合わせることで、注目素子の処理済素子データ(第2の素子データ)を生成する(注目素子の素子データを再構築する)。
図6において、反射点54は、注目素子の真下(方位方向の同位置/注目素子と焦点とを結ぶ直線上)に位置する或るサンプリングポイントの位置(素子データの出力位置)を示している。本発明では、注目素子の送受信におけるサンプリングポイントへの送受信経路を真の素子データの送受信経路と見なし、中心素子が異なる超音波の送受信(周辺素子からの送受信)における同じサンプリングポイントへの送受信経路をゴーストの送受信経路と見なして、両送信経路の差から、遅延時間を算出して、この遅延時間を用いて素子データの時間を合わせて、重ね合わせを行う。言い換えれば、注目素子の送受信で得られた素子データを真の素子データ、中心素子が異なる送受信で得られた素子データをゴーストの素子データと仮定して、遅延時間を算出し、素子データの重ね合わせを行う。
本発明では、全てのサンプリングポイント(全ての素子データの出力位置)に対応して、同様の考え方で遅延時間を算出して、素子データの重ね合わせを行い、各素子の処理済素子データを生成する。
【0072】
ここで、実際には、方位方向(x方向)にサンプリングポント(反射点)の位置をズラしても、受信経路の長さ(受信経路距離Lrb)は変わらない。したがって、各注目素子に関しては、深さ方向(y方向)の各サンプリングポイント毎に、中心素子が異なる送受信による素子データとの遅延時間の算出を行えばよい。
また、この重ね合わせ処理においては、真の素子データがどの素子データであるかを知っている必用はない。すなわち、後に
図7を用いて詳述するが、この重ね合わせ処理では、注目素子の素子データが真の素子データであれば、自動的に強調されて素子データが残り、ゴーストであれば素子データは打ち消される。すなわち、注目素子の素子データが真の素子データである場合には、遅延時間による処理が一致して信号が強調され、注目素子の素子データがゴーストの素子データである場合には、遅延時間による処理が一致せずに、信号が打ち消される。
【0073】
次に、本発明の素子データ処理部22の重ね合わせ処理部49においては、こうして遅延時間算出部48において算出された遅延時間を用いて、素子データの重ね合わせ処理を行う。
なお、重ね合わせ処理部49における重ね合わせ処理では、重ね合わせる時の重ね合わせ素子データ数と重ね合わせ処理方法の情報が必要になるが、これらは、予め、操作部32によって入力しておいても良いし、格納部34に格納しておいても良い。
【0074】
図7(a)〜(h)に、重ね合わせ処理部49で行われる、重ね合わせ処理の1例を示す。なお、
図7に示す例は、素子データ数が5つ、重ね合わせ素子データ数が3つの場合である。
図7(a)は、5回の超音波の送受信によって得られた5つの素子データを横に並べて表示している。また、
図7(a)は、素子データ毎に、超音波ビームを送信して、超音波エコーを受信した様子を表している。各素子データの横軸は、受信素子を表しており、それぞれの素子データにおいて超音波ビームの送受信における中心素子を中心にして表示している。縦軸は、受信時間を表す。この例では、例えば、前記素子52b〜52f等、中心素子を、1素子ずつ、ずらして、5回の超音波の送受信を行っている。
図7では、中央の素子データにおける中心素子の真下にのみ、1つの反射点が存在している状態を示す。すなわち、5つの素子データのうち、真中の素子データでは、超音波の送受信において、反射点からの真の超音波エコーが受信されている。つまり、真中の素子データは、真の素子データである。
【0075】
真中の素子データ以外の両側2つの素子データについては、超音波の送受信の中心素子の真下には反射点は存在していない。しかしながら、送信した超音波ビームの広がりによって、真中の素子データの送信素子の真下に存在する反射点に超音波ビームが当たることで生じた反射エコーの素子データ、すなわち、ゴーストの素子データが写り込んでいる。
ゴーストの素子データは、真の素子データから離れるほど、反射点までの超音波の伝播時間が長くなるため、真の素子データよりも受信時間が遅くなる。また、反射点からの超音波エコーが初めに受信される受信素子の位置は、方位方向、この場合にずれている。
ここで、
図7の各素子データの横軸は、超音波ビームの送信時における中心素子を中心にしている。したがって、
図7に示す例では、素子データ毎に、この中心素子を1素子ずつずらして送信していることから、各素子データにおいて方位方向の素子の絶対位置は、1素子ずつずれている。つまり、真中の素子データでは、反射点からの反射信号が初めに受信される受信素子は中心素子であるが、両隣の素子データにおいては、真中の素子データよりも1素子ずれており、右側の素子データでは左に1素子ずれ、左側の素子データでは右に1素子ずれている。さらに、両端の素子データでは、真中の素子データよりも2素子ずれており、右端の素子データでは左に2素子ずれ、左端の素子データでは右に2素子ずれている。このように、ゴーストの信号は、真の信号に対して、受信時間が遅れるだけでなく、受信素子の方向に対してもずれを生じている。
【0076】
図7(b)に、
図7(a)に示す5つの素子データのうちの真中の素子データに対する受信時間の遅延時間の一例を示す。
重ね合わせ処理部49では、
図7(b)に示す遅延時間を用いて、真中の素子データを注目素子の素子データとした場合に、注目素子の素子データを中心に、重ね合わせる素子データ数分、図示例では3素子データ分だけ遅延時間補正を行うとともに、各素子データを注目素子との素子位置の差(中心素子の位置の差)に応じて、図示例では両側に1素子分だけ方位方向にシフトさせて、すなわち、位相を合わせて3素子データ分の未処理素子データを重ね合わせ、注目素子の素子データの1つの重ね合わせ処理済素子データとして求める。
すなわち、本例においては、注目素子を中心素子とする超音波の送受信によって得られた素子データ(以下、注目素子の素子データとも言う)に、注目素子の隣の素子を中心素子とする超音波の送受信によって得られた素子データ(以下、隣の素子の素子データとも言う)を重ね合わせて、注目素子の素子データの処理済素子データを生成している。
【0077】
こうして得られた注目素子の素子データの重ね合わせ処理済素子データを
図7(c)に示す。
前述のように、
図7(a)に示す注目素子の素子データは、中心素子(すなわち、注目素子)の真下に反射点が存在する、真の素子データである。また、注目素子に隣接する素子を中心素子とする送受信によって得られた素子データも、反射点に入射して、反射された超音波エコーのデータである。
したがって、注目素子の両側の隣の素子の素子データに遅延時間補正および方位方向のシフトを行って位相合わせを行うと、
図7(c)に示すように、隣の素子の素子データと、注目素子の素子データとは、位相が合うので高輝度位置で重なり合う。そのため、これらの素子データを、例えば、加算すると素子データ値は大きな値(高輝度値)を示し、例えば、平均して平均値を求めても強調された値(高輝度値)を示す。
【0078】
これに対し、
図7(d)は、
図7(a)と同じ素子データであるが、真中の素子データの左隣の素子データを、注目素子の素子データとした場合の一例を示す。すなわち、この例は、真下に反射点が存在しない素子を中心素子とする超音波の送受信の、中心素子を注目素子とした場合の一例を示す。したがって、この素子を中心素子とする素子データは、ゴーストの素子データである。
図7(e)は、
図7(b)と同じものであり、
図7(a)に示す5つの素子データの注目素子の素子データに対する受信時間の遅延時間の一例を示す。すなわち、
図7(a)と
図7(d)は同じ素子データであるので、
図7(d)に示す5つの素子データの注目素子の素子データに対する受信時間の遅延時間とも同じである。
重ね合わせ処理部49では、
図7(e)(すなわち、
図7(b)と同じ)に示す遅延時間を用いて、注目素子の素子データを中心に、重ね合わせ素子データ数分、図示例では3素子データ分だけ遅延時間補正を行うとともに、各素子データを注目素子との素子位置の差(中心素子の位置の差)に応じて、図示例では両側に1素子分だけ方位方向にシフトさせて、3素子分の未処理素子データを重ね合わせ、注目素子の素子データの1つの重ね合わせ処理済素子データとして求める。
【0079】
こうして得られた注目素子の素子データの重ね合わせ処理済素子データを
図7(f)に示す。
図7(d)に示す注目素子の素子データは、ゴーストの素子データである。そのため、注目素子の素子データの両側の隣接素子データの未処理素子データに遅延時間補正および方位方向のシフトを行って位相合わせを行っても、
図7(f)に示すように、隣接素子データの各素子データと注目素子の素子データとは、互いに位相が合わないので重なり合わない。このため、これらの3つの素子データを、例えば、加算しても、位相が合っていないために、位相が反転している信号等は信号が打ち消しあうため、加算値は大きくならず、例えば、平均して平均値を求めると小さな値を示すことになる。
【0080】
他の素子データに関しても、注目素子の素子データとして同様の遅延時間補正および方位方向のシフトを行った結果、図示例の5素子データそれぞれについての隣接する3つの素子データの重なり状態を
図7(g)に示し、これらに対して、重ね合わせ処理として、例えば、加算処理、若しくは平均処理した結果を
図7(h)に示す。
図7(h)に示すように、
図7(a)に示す直下に反射点が存在している中心素子を注目素子とした素子データの場合には、真の信号の素子データが高輝度値を持つ重ね合わせ処理済素子データとして求められる。これに対して、その両側の各2素子データの全4素子データでは、ゴーストの素子データは互いに位相が合わない素子データを加算し、または平均化する。そのため、素子データ同士が、互いに打ち消し合うことになるため、ゴーストの重ね合わせ処理済素子データは、その値が真の信号の素子データである高輝度値を持つ重ね合わせ処理済素子データに対して小さくなり、真の素子データに対してゴーストの素子データの影響を低減させることができ、または、その影響を無視できる程、小さくすることができる。
【0081】
すなわち、或る素子を注目素子として、この注目素子を中心素子とする超音波ビームの送信によって得られた素子データ(注目素子の素子データ)に、中心素子が異なり、かつ超音波ビームの送信領域が重なり合う超音波の送受信によって得られた素子データを、1以上重ね合わせて、注目素子の素子データに対応する処理済素子データを生成することにより、言い換えれば、中心素子の異なる送受信による素子データを用いた、注目素子の素子データの再構築(補正)を行うことにより、真の素子データを高輝度化して、かつゴーストの素子データを小さくできる。
そのため、後述するように処理済素子データを用いて音速の決定を行う本発明によれば、ゴーストの影響をなくして、送信する音線上の多数の点で焦点を結んだ場合に等しい素子データ、いわば仮想的なマルチ焦点での超音波の送信で得られた素子データ(受信データ(超音波画像データ))を用いることにより、焦点が1つであっても、高精度に被検体内の音速を決定できる。
また、処理済素子データに整相加算および検波処理を行って、受信データを生成して、超音波画像を生成することにより、同様に、ゴーストの影響をなくし、すなわち、音線上の全ての点で焦点を結んだのに等しい素子データで超音波画像生成できるので、高輝度で、鮮鋭性に優れた、高画質な超音波画像を生成することができる。
なお、以下の説明では、この処理済素子データの生成を、マルチライン処理とも言う。
【0082】
前述のように、マルチライン処理で生成した処理済素子データは、ゴーストの影響をなくして、送信する音線上の多数の点で焦点を結んだ場合に等しい素子データ、いわば仮想的なマルチ焦点での超音波の送信で得られた素子データである。
そのため、処理済素子データを用いて音線の決定を行う本発明によれば、1音線1焦点の超音波の送信でも、1音線多焦点の超音波の送信を行った場合と同等以上の高い精度で、音速を決定することができる。また、1音線1焦点の超音波の送信で、高精度に音速を決定できるので、音速の決定(音速の更新)に伴うフレームレートの低下も防止できる。このため、動画撮影モードにおいて有効である。
【0083】
なお、以上のマルチライン処理では、中心素子が異なり、かつ超音波ビームの送信方向が平行(角度が同一)である、複数の超音波ビームの送信によって得られた素子データを重ね合わせることにより、注目素子の素子データの処理済素子データを生成したが、本発明は、これに限定はされない。
例えば、中心素子を同一として、送信方向(角度)が異なる複数の超音波ビームの送信によって得られた素子データを重ね合わせることにより、処理済素子データを生成してもよい。この際において、何れの超音波ビームの送信で得られた素子データの処理済素子データを生成するか(すなわち、どの方向の音線の処理済素子データを生成するか)は、診察部位またはプローブの種類等に応じてデフォルトで設定されていてもよく、また、操作者が選択するようにしてもよい。
なお、中心素子が異なり、平行な超音波ビームの送信で得られた素子データと、中心素子を同一として、送信方向が異なる超音波ビームの送信で得られた素子データとの両方を用いて、処理済素子データを生成してもよい。
【0084】
本発明において、中心素子とは、送信の開口数(超音波の送信を行う素子数)が奇数の場合には、方位方向の中央の素子であり、開口数が偶数の場合には、方位方向の中央の素子のいずれか、または方位方向の中央の素子の真ん中に素子があると仮定して中心素子とする。すなわち、開口数が偶数の場合には、開口の真ん中のライン上に焦点があるもととして、計算を行う。
【0085】
なお、重ね合わせ処理部49における重ね合わせ処理方法としては、単に、加算するだけでなく、平均値または中央値をとってもよいし、係数を掛け合わせた上で加算してもよい。なお、平均値または中央値を取ることは、素子データレベルでの平均化フィルタまたはメディアンフィルタを掛けることに相当すると考えられるが、平均化フィルタおよびメディアンフィルタの代わりに、通常の画像処理で行われる逆フィルタ等も適用してもよい。あるいは、重ね合わせる各素子データ同士を比較し、類似している場合には最大値、類似していない場合には平均値、分布の偏りがある場合には中間値をとる等、これに限らず、重ね合わせる各素子データの特徴量に基づいて重ね合わせ処理を変えてもよい。
【0086】
また、注目素子の素子データに重ね合わせる素子データの数は、図示例の2つに限定はされず、1つでもよく、あるいは、3つ以上でもよい。すなわち、注目素子の素子データに重ね合わせる素子データの数は、要求される処理速度(フレームレート等)または画質等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、注目素子の素子データに重ね合わせる素子データ数は、超音波ビームのビーム幅の広がり程度に合わせた方が望ましい。したがって、深さによってビーム幅が変わる場合には、重ね合わせる素子データ数も深さによって変更してもよい。
また、ビーム幅は送信開口数に依存することから、送信開口数に応じて重ね合わせる素子データの数を変更してもよい。あるいは、画像の輝度値等の特徴量に基づいて重ね合わせ素子データ数を変更してもよいし、重ね合わせ素子データ数を複数パターンを変えて作成した画像から最適な重ね合わせ素子データ数を選択してもよい。
【0087】
前述のように、素子データ処理部22は、生成した処理済素子データを、画像生成部24(整相加算部38)および音速決定部23に出力する。
処理済素子データを供給された画像生成部24では、前述のように、整相加算部38が処理済素子データを整相加算して受信フォーカス処理を行って受信データを生成し、検波処理部40が、受信データに減衰補正および包絡線検波処理を施すことにより、Bモード画像データを生成する。
画像生成部24では、さらに、DSC48が、Bモード画像データを通常のテレビジョン信号の走査方式に対応する画像データにラスター変換し、画像処理部44で階調処理等の所定の処理を施す。
画像処理部44は、生成したBモード画像データを画像メモリ46に格納し、および/または、表示制御部26に送って、被検体のBモード画像を表示部28が表示する。
表示される。
【0088】
他方、音速決定部23は、供給された処理済素子データを用いて、被検体内の超音波の音速を決定(音速を算出)する。
図8に、音速決定部23の構成をブロック図で概念的に示す。
図8に示すように音速決定部23は、着目領域設定部70、送信フォーカス制御部72、設定音速指定部74、フォーカス指標算出部76および環境音速決定部78を有する。
【0089】
着目領域設定部70は、制御部30からの指示に応じて、Bモード画像上(超音波画像上)において着目領域を設定するものである。
音速決定部23において、被検体の音速は、この着目領域毎に決定する。
【0090】
本実施形態において、着目領域設定部70は、Bモード画像の画面全体を格子状に分割して、その個々を着目領域とする。
この分割の数(格子の数)は、予めデフォルトで設定されていても良く、操作者が方位方向および/または深度方向で任意に設定できるようにしてもよい。分割数がデフォルトで設定されている場合には、画像サイズ毎および観察部位毎に、異なる設定を有してもよい。さらに、予め複数の分割数を設定しておき、操作者が選択できるようにしてもよい。
【0091】
なお、本発明において、着目領域は、Bモード画像を格子状に分割した各領域に限定はされない。
例えば、受信データ(Bモード画像データ)生成する全ての画素(全ての画素に対応する位置(領域))を、着目領域としてもよい。言い換えれば、前述の画面を分割する態様において、受信データを生成する全画素に対応して、画面を格子状に分割してもよい。また、画面全体を1つの着目領域としてもよい。
あるいは、画面全体ではなく、予め設定された、もしくは、複数の選択肢から選択された、画面の一部分について格子状に分割して、その個々を着目領域としてもよい。また、画面全体ではなく、操作者が設定したROIに対応して、着目領域を設定してもよい。なお、画面の一部分またはROI内で着目領域を設定する場合にも、分割は、前記画面全体と同様に行えばよい。また、画面全体での着目領域の設定と、ROI内での着目領域の設定とを、操作者が選択できるようにしてもよい。
【0092】
また、分割する形状は格子状に限らず、例えば、コンベックスプローブによる超音波画像のような扇形のBモード画像であれば、分割する形状もこれに合わせて扇形にしても良い。この場合も、上記の各態様は、全て利用可能である。
なお、着目領域は、画像が大きく変動した場合(画像特徴量の変動値が閾値を超えた場合等)、観察倍率の変更または観察深度の変更等の観察条件の変更が行われた場合等に、変更あるいは更新してもよく、着目領域の変更あるいは更新を、操作者が指示できるようにしてもよい。
【0093】
着目領域設定部70は、さらに、設定した着目領域に対して、音速の決定に対応する超音波の送信(送信フォーカス)を行うための焦点(焦点の位置)を設定する。
焦点は、観察部位、音線数、送受信の開口数、プローブ12の種類等に応じて、予めデフォルトで設定されていてもよく、操作者が選択または入力指示してもよく、デフォルトでの設定と操作者による指示都を選択できるようにしてもよい。
前述のように、素子データの重ね合わせを行った処理済素子データを用いて音速の決定を行う本発明は、仮想的なマルチ焦点による送信を行うことができる。そのため、動画撮影モードにおいては、基本的に、1つの音線に対して、焦点の位置を1箇所とする。これにより、動画撮影時でも音速の決定を行うことができる。
【0094】
なお、動画撮影モードでの焦点の位置は、計測画面上で最も深い位置か、それ以上の深さに設定することが望ましい。これにより、表示画面上では広がった送信ビームが送信されるため、マルチライン処理による重ね合わせ処理を行うと、多数の素子データが重ね合わされることで、実際の信号は増強され、ゴーストの信号は抑制されて、擬似的に深さによらず焦点を結んだような素子データが得られる。ただし、重ね合わせの精度が生体内の不均一性の影響等により低下した場合には、実際の焦点よりも信号の質は低下するため、実際の焦点には性能が及ばないこともある。そのため、静止画等でフレームレートが関係しない場合には、従来通りの方法で計測することが望ましい。
また、動画における音速値の算出では、マルチライン処理によって、素子データがどの深さにおいても焦点を結んでいるようなデータになっているため、ROIの設定間隔を自由に設定することができる。例えば、静止画のときよりもROI間隔を細かく設定することで空間分解能を向上させた音速値を得ることが可能である。
【0095】
送信フォーカス制御部72は、着目領域設定部70が設定した着目領域および焦点に応じて送信部14が送信フォーカスを実行するように、制御部30に送信フォーカス指示を行うものである。
【0096】
設定音速指定部74は、制御部30の制御に基づき、環境音速の決定において、受信データに対して受信フォーカスを実行するための設定音速を指定するものである。
【0097】
フォーカス指標算出部76は、素子データ記憶部20の素子データ、または素子データ処理部22が生成した処理済素子データを用いて、設定音速指定部74が指定した複数の設定音速毎に受信データに対して受信フォーカスを行って、受信データのフォーカス指標を算出するものである。
【0098】
環境音速決定部78は、複数の設定音速毎のフォーカス指標に基づき、着目領域の環境音速を決定するものである。
【0099】
以下、動画撮影モードでの音速の決定方法を例にして、
図9に示すフローチャートを参照し、超音波診断装置10における音速の決定方法を詳細に説明する。
【0100】
超音波診断装置10において、環境音速を決定する際には、まず、前述のように、制御部30からの指示に応じて、着目領域設定部70が、着目領域および焦点を設定する(ステップS10)。
なお、本発明において、環境音速を決定するタイミング(環境音速の更新タイミング)には、特に限定はなく、公知の超音波診断装置と同様に行えば良い。例えば、測定開始の指示に応じて1回だけ行ってもよく、画像が大きく変動した場合(画像特徴量の変動値が閾値を超えた場合等)に環境音速の決定を行ってもよく、適宜決定した所定フレーム数毎または所定時間の経過毎に環境音速の決定を行ってもよく、操作者の入力指示に応じて環境音速の決定を行ってもよく、これらの音速決定のタイミングの2以上を、適宜、選択できるようにしてもよい。
【0101】
いずれのタイミングで環境音速を決定する場合でも、マルチライン処理を行う動画撮影モードでは、1つの音線に対して1つの焦点での送信を行えば良いので、動画撮影モードでも環境音速を決定することができる。
【0102】
着目領域の設定に応じて、送信フォーカス制御部72は、設定された着目領域および焦点に対して送信部14が送信フォーカスを実行するように、制御部30に送信フォーカス指示を行う。
【0103】
これに応じて、送信部14が、プローブ12(探触子アレイ36の対応する超音波トランスデューサ(素子))を駆動して被検体に超音波ビームを送信し、被検体で反射された超音波エコーが素子によって受信され、アナログの受信信号が、超音波トランスデューサ(素子)から受信部16に出力される(ステップS12)。
受信部16は、アナログの受信信号に、増幅等の所定の処理を施して、A/D変換部18に供給する。
A/D変換部18は、受信部16から供給されたアナログの受信信号をA/D変換して、デジタルの受信信号である素子データとする。
素子データは、素子データ記憶部20に記憶される(ステップS14)。
【0104】
素子データが素子データ記憶部に記憶されると、素子データ処理部22が、前述のマルチライン処理を行って、処理済素子データを生成する。
すなわち、前述の
図7に示すように、素子データ処理部22は、例えば、注目素子と、その両隣の素子とに対して、注目素子の素子データに対する、両隣の素子の素子データの遅延時間を算出し、隣の素子の素子データの遅延時間補正および方位方向のシフトを行い、注目素子の素子データに、両側の隣の素子の素子データを重ね合わせて、注目素子の処理済素子データを生成する(ステップS16)。
素子データ処理部22は、生成した処理済素子データを、音速決定部23(フォーカス指標算出部76)に供給する。なお、素子データ処理部22は、生成した処理済素子データを、画像生成部24にも供給し、画像生成部24は、この処理済素子データを用いて、超音波画像(Bモード画像データ)を生成するのは、前述のとおりである。
【0105】
音速決定部23は、供給された処理済素子データを用いて、被検体内における超音波の音速を決定する(ステップS18)。
図10に、音速決定部23における音速決定方法の一例のフローチャートを示す。なお、本発明において、音速決定部23での音速決定方法は、この方法に限定はされず、超音波診断装置で行われている各種の音速決定方法(音速の算出方法)が利用可能である。
【0106】
処理済素子データが供給されると、音速決定部23は、必用に応じて処理済素子データを所定の部位に記憶させるとともに、まず、設定音速Vの開始音速Vstと終了音速Vendを設定し(ステップS20)、さらに、設定音速Vに開始音速Vstをセットする(ステップS22)。
開始音速Vstおよび終了音速Vendを含む設定音速は、予めデフォルトで設定されていてもよく、あるいは、開始音速Vstおよび終了音速Vendのみを操作者が任意に入力して、間の刻み幅(所定ステップ音速量ΔV)のみがデフォルトで設定されていてもよく、あるいは、操作者が任意に入力するようにしてもよい。また、設定音速、および設定音速の刻み幅がデフォルトで設定される場合には、観察部位または性別等に応じて、複数種類の設定音速が設定され、操作者が、適宜選択できるようにしてもよい。
本例においては、一例として、開始音速Vstとして1410m/secが、終了音速Vendとして1570m/secが設定され、それに応じて、所定の刻み幅として、40m/secの間隔で設定音速が設定されたとする。
【0107】
次いで、フォーカス指標算出部76が、各着目領域に対応して、設定音速指定部74が指定した複数の設定音速毎に処理済素子データに対して受信フォーカスして、受信データのフォーカス指標を算出する(ステップS24)。
具体的には、フォーカス指標算出部76は、着目領域における受信データ(超音波画像データ/超音波画像)の積分値、2乗積分値、ピーク値、鮮鋭度(シャープネス)、コントラスト、輝度値、半値幅、周波数スペクトル積分、最大値もしくは直流成分で規格化された周波数スペクトル積分値または2乗積分値、および自己相関値等をフォーカス指標として算出する。
【0108】
次いで、音速決定部23は、設定音速指定部74にて、設定音速Vが終了音速Vendに達したかどうか判定し(ステップS26)、設定音速Vが終了音速Vend未満ならば(No)、所定ステップ音速量ΔV、すなわち、本例では40m/secを設定音速Vに加算して(ステップS28)、着目領域のフォーカス指標を算出する。
このルーチンを繰り返し、設定音速Vが終了音速Vendに達したと判定すると(Yes)、環境音速決定部78にて、複数の設定音速毎のフォーカス指標に基づき、最も高いフォーカス指標の設定音速を着目領域の環境音速とする等して、着目領域の環境音速を決定する(ステップS30)。例えば、超音波画像の輝度をフォーカス指標として、着目領域において、最も高輝度な超音波画像が得られた音速を、その着目領域の環境音速とする。
すなわち、本例における環境音速とは、プローブ12(探触子アレイ36(超音波トランスデューサ))から、或る着目領域までの音速が一定であると仮定した際の、超音波プローブ12と着目領域との間の領域の平均的な音速である。
前述のように、音速決定部23は、設定した全ての着目領域において、このような環境音速の決定を行う。音速決定部23で決定された環境音速は、素子データ記憶部20で超音波画像での位置情報に関連付けて記憶される。
また、決定された環境音速は整相加算部38に供給され、受信フォーカス処理に利用される。これにより、環境音速に基づく超音波画像が表示部28に表示される。
【0109】
なお、環境音速の決定には、マルチライン処理で生成した処理済素子データではなく、A/D変換された素子データを用いる場合でも、マルチライン処理で生成した処理済素子データと同様に、上述のように環境音速を決定することができる。このため、その素子データを用いた環境音速の決定方法の詳細な説明は省略する。この場合も、音速決定部23で決定された環境音速は、素子データ記憶部20で超音波画像での位置情報に関連付けて記憶される。
また、素子データを用いて決定した環境音速値を整相加算部38に供給し、受信フォーカス処理に利用される。環境音速に基づく超音波画像が表示部28に表示される。
超音波診断装置10は、基本的には以上の構成を有する。
【0110】
上述のように超音波診断装置10は、動画撮影モードと静止画撮影モードを有する。
動画撮影モードでは、上述のように超音波ビームを時経列に連続的に発生させて動画撮影を行う。このとき、シングルフォーカスで送受信を行い、素子データを得て、素子データに基づいて、上述のマルチライン処理を行い、処理済素子データを得る。この処理済素子データに整相加算処理を施し、Bモード画像データを得て、超音波画像を動画として表示部28に表示させる。例えば、素子データを得る際に、素子の配列方向に、中心となる素子をずらしつつ、すなわち、配列方向にスキャンしつつ繰り返し、素子データを得る。
なお、動画撮影モードでは、必ずしもシングルフォーカスである必要はない。少なくとも動画として使用可能なフレームレートであれば、例えば、5fr/sec以上のフレームレートであれば、フォーカスは複数であってもよい。
【0111】
一方、静止画撮影モードでは、上述のように、従来技術と同様にマルチフォーカスで送受信を行い、素子データを得る。この素子データに整相加算処理を施し、1つの素子データに基づいて超音波画像上の1ラインのデータを作成し、その後、Bモード画像データを得て、超音波画像を静止画として表示部28に表示させる。この場合でも、例えば、素子の配列方向に、中心となる素子をずらしつつ、すなわち、配列方向にスキャンしつつ繰り返し、素子データを得る。
【0112】
なお、動画撮影モードおよび静止画撮影モードのいずれも、超音波画像を得るためのスキャン方向およびスキャン方式については、特に限定されるものではなく、公知の方法および方式を適宜利用することができる。
また、動画撮影モードから静止画撮影モードに切り替わった場合、静止画を作成する際の多数ある焦点のうち、動画の焦点に対応するものについては、動画撮影モードで得られたデータを用いることもできる。これにより、静止画の作成に要する時間を短縮できる。
【0113】
静止画撮影モードでは、動画撮影モードに比してフレームレートを考慮しなくてもよく、1つの音線(超音波画像の1ライン)に対して焦点の位置を複数にし、動画撮影モードよりも超音波画像の画質が良いものとしている。焦点の位置は、全ての音線で同じでもよく、または焦点が異なる音線が混在してもよい。
また、静止画撮影モードでは、マルチフォーカスであるため、動画撮影モードに比して空間分解能を向上させた環境音速値を得ることができる。
【0114】
また、静止画撮影モードでも、動画撮影モードと同じくシングルフォーカスで送受信を行い(第1の)素子データを得て、上述のマルチライン処理を行い処理済素子データを求めて、この処理済素子データから画像データを生成する構成としてもよい。その際、撮影モードの切り替えにより、焦点の数や焦点位置などの計測条件(超音波の送受信の条件)や、マルチライン処理において重ね合わせる素子データの数などのマルチライン処理の処理条件を変更することができる。例えば、撮影モードの切り替えにより静止画モードから動画撮影モードに切り替えた場合に、マルチライン処理において重ね合わせる素子データの数を減らすことで、動画撮影モードにおけるデータ処理の負担を減らして動画性能を確保することができる。
【0115】
次に、超音波診断装置10による超音波画像の撮影方法について説明する。
図11は、本発明の実施形態の第1の超音波診断装置の静止画撮影モード、動画撮影モードを説明するためのフローチャートである。
超音波診断装置10では、
図11に示すように、動画撮影モードか否かが判断される(ステップS40)。動画撮影モードか否かは、フリーズボタンの操作により判断される。
フリーズボタンの操作が解除されている動画撮影モードの場合、シングルフォーカスで送受信を行う(ステップS42)。そして、受信した素子データに基づいてマルチライン処理を行う(ステップS44)。そして、処理済素子データに基づいて、超音波画像の動画を表示させるか、または音速値を算出する(ステップS46)。
【0116】
一方、ステップS40において、動画撮影モードではない場合、すなわち、フリーズボタンの操作されている静止画撮影モードの場合、マルチフォーカスで送受信を行う(ステップS48)。そして、受信した素子データに整相加算処理等を施し、超音波画像の静止画を表示させるか、または音速値を算出する(ステップS46)。
【0117】
このように、従来よりも画質は劣るものの動画撮影モードで被検体を撮影し、詳細に観察する箇所等は静止画撮影モードで従来通りの画質で撮影することができる。また、従来は、静止画撮影モードでしか音速値(環境音速値)の計算ができなかったが、動画撮影モードでも音速値(環境音速値)の計算が可能である。
なお、本発明のプログラムは、超音波診断装置10が有するコンピュータに、上述の
図11に示す動画撮影モード、静止画撮影モードでの各種の撮影方法を実行させるためのプログラムである。また、本発明のプログラムは、上述の各種の処理を超音波診断装置10の各部で実行させるものである。
【0118】
また、超音波画像の生成と音速の決定は、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。すなわち、1フレーム分の1組の超音波の送受信により得られる素子データから、音速の決定を行うとともに、超音波画像の生成を行ってもよいし、別々の送受信により得られる素子データから、超音波画像の生成と音速の決定とをそれぞれ行ってもよい。音速の決定は毎フレーム行ってもよいし、数フレームに一回行うようにしてもよい。
【0119】
超音波診断装置10において、マルチライン処理は、A/D変換された素子データを用いるものを例にして説明したが、整相加算後の受信データを用いて、マルチライン処理をすることもできる。この場合、整相加算の基準となるラインを各素子データで一致させて(整相加算の基準となるラインを各素子データの中心ラインからずらして)、それぞれ整相加算を行って受信データを生成して、この受信データを用いて、上述のマルチライン処理を行う。
あるいは、各第1の素子データに対して、横方向シフト(
図7等参照)のみを行った後に、整相加算をして受信データを生成し、この受信データを用いてマルチライン処理を行ってもよい。
【0120】
整相加算後の受信データを用いたマルチライン処理のとき、環境音速は、例えば、
図12に示すようにして決定される。このとき、音速決定部23は、以下の環境音速決定処理の機能を有する。
まず、整相加算後の受信データに対してマルチライン処理を行った後の素子データ(以下、処理後の素子データという)を用いて画像生成する(ステップS50)。画像生成は、検波処理部40と同様に、処理後の素子データに深度に応じた減衰の補正を施して、包絡線検波処理を施すことにより、Bモード画像データを生成する。
そして、生成した画像の画質を判定する(ステップS52)。ステップS52において、画質が否と判定されると、音速値を探索範囲内で変更して(ステップS54)、整相加算処理、マルチライン処理および画像生成を行い、再度画質を判定する。ステップS52において、画質が良と判定されるまで音速値を探索範囲内で変更しながら(ステップS54)、画質の判定(ステップS52)を繰り返し行い最適な音速値を求める。
ステップS52において、画質が良と判定されれば、環境音速値として音速値が記憶される(ステップS56)。このようにして決定された環境音速値は整相加算処理に用いることができる。また、その環境音速値は、素子データ記憶部20に超音波画像の位置情報と関連付けて記憶される。
【0121】
画質の判定には、例えば、生成した画像の画像データのシャープネス値を用いる。これ以外に、上述のフォーカス指標算出部76でフォーカス指標として挙げたものを用いることもできる。音速値の探索範囲については、上述の音速決定部23の設定音速指定部74での設定音速の設定方法と同様にして設定することができる。
【0122】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図13は、本発明の第2の実施形態の超音波診断装置を示すブロック図である。
図14は、局所音速値の演算処理を説明するための模式図である。
図13に示す超音波診断装置10aは、
図1に示す超音波診断装置10に比して、局所音速決定部25、および音速マップ作成部27が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、
図1に示す超音波診断装置10と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
局所音速決定部25は音速決定部23に接続され、音速マップ作成部27は局所音速決定部25に接続されている。この局所音速決定部25で決定された局所音速値は、音速マップ作成部27および整相加算部38に出力される。なお、局所音速決定部25、および音速マップ作成部27は制御部30に接続されており、制御部30で制御される。
超音波診断装置10aは、局所音速値を算出できるとともに、局所音速に基づいて音速マップを作成することができる。ここで、局所音速とは、被検体内の任意の部位における音速のことである。
【0123】
局所音速決定部25は、環境音速値を用いて局所音速を決定するものである。以下、局所音速値の演算処理について説明する。
図2は、局所音速値の演算処理を模式的に示す図である。
【0124】
局所音速値の決定には、例えば、本願の出願人により出願された特開2010−99452号公報に記載の方法を用いることができる。
この方法は、
図14(a)に示されるように、被検体内に超音波ビームを送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから探触子アレイ36に到達する受信波Wxに着目したとき、
図14(b)に示すように、被検体OBJ内の着目領域ROIを代表する格子点をX
ROI、格子点X
ROIよりも浅い(すなわち、探触子アレイ36に近い)位置にXY方向に等間隔で配置された格子点をA1,A2,…とし、少なくとも格子点X
ROIと各格子点A1,A2,…との間の音速はそれぞれ一定と仮定する。
【0125】
本例では、格子点A1,A2,…からの受信波(それぞれW
A1,W
A2,…)の(Tおよび遅延時間ΔT)が既知として、格子点X
ROIと格子点A1,A2,…の位置関係から格子点X
ROIにおける局所音速値を求める。具体的には、ホイヘンスの原理により、格子点X
ROIからの受信波W
Xと格子点A1,A2,…からの受信波を仮想的に合成した受信波W
SUMが一致することを利用する。受信波W
Xと仮想合成受信波W
SUMとの差が最小になる仮定音速の値を、格子点X
ROIにおける局所音速値とする。
【0126】
ここで、格子点X
ROIにおける局所音速値を求めるときの演算に使用する格子点A1,A2,…の範囲および個数は予め決めておく。ここで、局所音速値演算に使用する格子点の範囲が広いと局所音速値の誤差が大きくなり、狭いと仮想受信波との誤差が大きくなるため、格子点の範囲はこれらの兼ね合いで決める。
【0127】
格子点A1,A2,…のX方向の間隔は、分解能と処理時間の兼ね合いで決定される。格子点A1,A2,…のX方向の間隔は、一例で1mmから1cmである。
【0128】
格子点A1,A2,…のY方向の間隔が狭いと誤差計算における誤差が大きくなり、広いと局所音速値の誤差が大きくなる。格子点A1,A2,…のY方向の間隔は、超音波画像の画像分解能の設定に基づいて決定される。格子点A1,A2,…のY方向の間隔は、一例で1cmである。
【0129】
なお、格子点A1,A2,…の間隔が広い場合、合成波の演算が困難になるため、補間によって細かい格子点を生成するようにすればよい。
【0130】
着目領域全体の環境音速値は、局所音速決定部25に入力される。局所音速決定部25では、局所音速値の算出を開始する開始着目画素が設定され、着目画素の局所音速値の算出が行われる。
【0131】
以下、着目画素の局所音速値の決定方法について、
図15に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、格子点X
ROIにおける環境音速値に基づいて、格子点X
ROIを反射点とした時の仮想的な受信波W
Xの波形が算出される(ステップS60)。
【0132】
次に、格子点X
ROIにおける仮定音速の初期値が設定される(ステップS62)。そして、仮定音速が1ステップ変更されて(ステップS64)、仮想的な合成受信波W
SUMが算出される(ステップS66)。格子点X
ROIにおける局所音速値をVと仮定すると、格子点X
ROIから伝播した超音波が格子点A1,A2,…に到達するまでの時間はX
ROIA1/V,X
ROIA2/V,…となる。ここで、X
ROIA1,X
ROIA2,…は、それぞれ格子点A1,A2,…と格子点X
ROIとの間の距離である。格子点A1,A2,…における環境音速値は音速決定部23で求められており、既知であるため、各格子点A1,A2,…からの受信波は予め求めることができる。したがって、格子点A1,A2,…からそれぞれ遅延X
ROIA1/V,X
ROIA2/V,…で発した反射波(超音波エコー)を合成することにより、仮想合成受信波W
SUMを求めることができる。
【0133】
なお、実際には、素子データ上で上記処理を行うため、格子点X
ROIから格子点A1,A2,…に到達するまでの時間(それぞれT1,T2,…)は下記の式(3)により表される。ここで、X
A1,X
A2,…は、それぞれ格子点A1,A2,…と格子点Xとの間のスキャン方向(X方向)の距離である。また、Δtは格子点のY方向時間間隔である。
【0135】
上記T1,T2,…に、格子点X
ROIと同音線の格子点Anから格子点X
ROIに到達するまでの時間(Δt/2)を足した遅延で各格子点A1,A2,…からの受信波を合成することにより、仮想合成受信波W
SUMを求めることができる。
【0136】
ここで、格子点をY方向に時間軸で等間隔(Δt)に設定する場合、空間上での間隔は必ずしも等間隔にはならない。したがって、各格子点に超音波が到達するまでの時間を計算するときに、式(3)においてΔt/2の代わりに補正したΔt/2を用いてもよい。ここで、補正したΔt/2は、例えば、格子点X
ROIと同音線の格子点Anに比べたA1,A2,…の深さ(Y方向の距離)の差をVで除算した値をΔt/2から加算・減算した値である。各格子点A1,A2,…の深さはそれより浅い格子点において局所音速値が既知であることから求められる。
【0137】
また、仮想合成受信波W
SUMの算出は、実際に格子点A1,A2,…から遅延X
ROIA1/V,X
ROIA2/V,…で発した既定のパルス波(それぞれW
A1,W
A2,…)を重ね合わせることにより行う。
【0138】
次に、仮想受信波W
Xと仮想合成受信波W
SUMの誤差が算出される(ステップS68)。仮想受信波W
Xと仮想合成受信波W
SUMの誤差は、互いの相互相関をとる方法、仮想受信波W
Xに仮想合成受信波W
SUMから得られる遅延を掛けて位相整相加算する方法、または逆に仮想合成受信波W
SUMに仮想受信波W
Xから得られる遅延を掛けて位相整相加算する方法により算出される。ここで、仮想受信波W
Xから遅延を得るには、格子点X
ROIを反射点とし、音速Vで伝播した超音波が各素子に到着する時刻を遅延とすればよい。また、仮想合成受信波W
SUMから遅延を得るには、隣り合う素子間での合成受信波の位相差から等位相線を抽出し、その等位相線を遅延とするか、または単に各素子の合成受信波の最大(ピーク)位置の位相差を遅延としてもよい。また、各素子からの合成受信波の相互相関ピーク位置を遅延としてもよい。位相整相加算時の誤差は、整相加算後の波形のpeak to peakとする方法、または包絡線検波した後の振幅の最大値とする方法により求められる。
【0139】
次に、ステップS64からステップS68が繰り返されて、全ての仮定音速の値での演算が終了すると(ステップS70で“Y”)、格子点X
ROIにおける局所音速値が判定される(ステップS72)。ホイヘンスの原理を厳密に適用した場合、上記ステップS66において求めた仮想合成受信波W
SUMの波形は、格子点X
ROIにおける局所音速値をVと仮定した場合の仮想受信波(反射波)W
Xの波形と等しくなる。ステップS72では、仮想受信波W
Xと仮想合成受信波W
SUMとの差が最小になる仮定音速の値を格子点X
ROIにおける局所音速値と判定する。
【0140】
なお、上記の方法(仮想合成受信波形算出、仮想受信波形との誤差算出、音速判定)の代わりに、格子点X
ROIの環境音速値と格子点A1,A2,…の環境音速値を入力として格子点X
ROIにおける音速値を出力とするテーブルを利用してもよい。
また、異なる間隔、異なる範囲の格子点を用いて、局所音速値の判定を複数回行うようにしてもよい。
【0141】
音速マップ作成部27は、局所音速決定部25で決定された局所音速値を、超音波画像での位置情報に関連付けて記憶し、局所音速値と超音波画像の位置情報との音速マップを作成する。音速マップ作成部27は、音速マップの情報を整相加算部38に供給する。
これにより、素子データに対して整相加算部38で受信フォーカス処理を行う際に、音速マップ作成部27に記憶された音速マップに基づく受信フォーカス処理を行うことができる。これ以外に、送信部14により超音波ビームの送信を行う際、音速マップ作成部27に記憶された音速マップに基づいて駆動信号の遅延量を調整するようにしてもよい。
【0142】
このように画像生成部24では、局所音速決定部25で決定された局所音速値を用いて、整相加算処理がなされて、表示に供するためのBモード画像データ(表示画像データ)が作成される。そして、局所音速値が用いられた超音波画像が動画または静止画として、表示部28に表示される。
【0143】
音速マップ作成部27は、局所音速決定部25から局所音速値が供給される度に、対応する領域の局所音速値を順次、更新する構成としてもよいし、フレーム毎に音速マップを作成するようにしてもよい。また、フレームごとに音速マップを生成するとともに、最新の音速(音速マップ)のみならず、数フレーム前までの音速マップを記憶しておいてもよい。
【0144】
超音波診断装置10aは、第1の実施形態の超音波診断装置10と同じく、動画撮影モードと静止画撮影モードで超音波画像の撮影が可能であり、第1の実施形態の超音波診断装置10と同じ作用効果を有する。
超音波診断装置10aでも第1の実施形態の超音波診断装置10と同じく整相加算後の受信データを用いてマルチライン処理をすることができる。
【0145】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図16は、本発明の実施形態の超音波診断装置の他の例を示すブロック図である。
図16に示す超音波診断装置10bは、
図1に示す超音波診断装置10に比して、音速補正部29が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、
図1に示す超音波診断装置10と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
音速補正部29は、音速決定部23および整相加算部38に接続されている。なお、音速補正部29は制御部30に接続されており、制御部30で制御される。
【0146】
音速補正部29は、環境音速に基づき音速を補正し、音速補正値を得て、記憶保持するものである。具体的には、音速補正部29は、初期設定音速を算出された環境音速に置き換えて記憶保持する。初期設定音速とは、整相加算部38において、受信データの作成に用いられる音速値としてデフォルトで設定されている音速値のことである。
音速補正部29の音速補正値は、整相加算部38に出力される。これにより、素子データに対して整相加算部38で受信フォーカス処理を行う際に、音速補正値に基づく受信フォーカス処理を行うことができる。
【0147】
画像生成部24では、音速補正部29で再設定された初期設定音速値を用いて、整相加算処理がなされ、表示に供するためのBモード画像データ(表示画像データ)が作成される。そして、音速補正値で音速が補正された超音波画像が動画または静止画で表示部28に表示される。
【0148】
超音波診断装置10bは、第1の実施形態の超音波診断装置10と同じく、動画撮影モードと静止画撮影モードで超音波画像の撮影が可能であり、第1の実施形態の超音波診断装置10と同じ作用効果を有する。
超音波診断装置10bでも第1の実施形態の超音波診断装置10と同じく整相加算後の受信データを用いてマルチライン処理をすることができる。
【0149】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の超音波診断装置、超音波画像生成方法およびプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。