(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000235
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】ワークの切断方法及びワーク保持治具
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20160915BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20160915BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
H01L21/304 611B
B24B27/06 D
B28D5/04 C
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-265726(P2013-265726)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-122424(P2015-122424A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年11月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591037498
【氏名又は名称】長野電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】内山 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】高野 久和
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】神頭 宏俊
【審査官】
鈴木 和樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−50912(JP,A)
【文献】
特開平9−314547(JP,A)
【文献】
特開平9−325124(JP,A)
【文献】
特開平3−10760(JP,A)
【文献】
特開2000−171417(JP,A)
【文献】
特表2003−534939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 27/06
B28D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のワークをワーク保持治具で保持して結晶軸方位を測定した後、前記ワーク保持治具で前記ワークを前記測定した結晶軸方位を崩さないように保持したまま前記ワーク保持治具をワイヤソーにセットしてから切断面方位を調整し、前記ワーク保持治具で保持した前記ワークを複数の溝付きローラに軸方向に往復走行するワイヤを巻掛けて形成されたワイヤ列に押し当てることで、前記ワークを切断するワークの切断方法であって、
前記ワーク保持治具は前記ワークを保持したままスライドできるスライド部と該スライド部を固定する固定部とから成るものを用い、前記結晶軸方位を測定した後、前記スライド部をスライドさせて、前記ワークを前記測定した結晶軸方位を崩さないように前記ワーク保持治具の中央部に移動させ、前記スライド部を前記固定部により固定し、前記ワークを保持した前記ワーク保持治具を前記ワイヤソーにセットしてから切断面方位を調整し、前記ワークを前記ワイヤ列に押し当てることで切断することを特徴とするワークの切断方法。
【請求項2】
前記ワークを、前記ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さのものとし、前記ワークを保持した前記スライド部をスライドさせて前記ワークの端面を前記ワーク保持治具の一方に寄せてから前記結晶軸方位を測定することを特徴とする請求項1に記載のワークの切断方法。
【請求項3】
前記ワークを、シリコン単結晶インゴットとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワークの切断方法。
【請求項4】
円柱状のワークの結晶軸方位を測定する際と、その後ワイヤソーによって前記ワークを切断する際に前記ワークを保持するために用いられるワーク保持治具であって、
前記ワーク保持治具は前記ワークを保持したままスライドできるスライド部と該スライド部を固定する固定部とから成り、前記ワークの結晶軸方位の測定後、前記スライド部をスライドさせて、前記ワークを前記測定した結晶軸方位を崩さないように前記ワーク保持治具の中央部に移動させ、前記スライド部を前記固定部により固定し、前記ワークを保持することができるものであることを特徴とするワーク保持治具。
【請求項5】
前記固定部は、前記ワークの両端面の中心を結ぶ線分と平行になるよう設けられた蟻溝を有し、該蟻溝に前記スライド部を係合させることにより、前記スライド部が前記ワークの前記測定した結晶軸方位を崩さずスライドできるものであることを特徴とする請求項4に記載のワーク保持治具。
【請求項6】
前記保持するワークは、前記ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さのものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のワーク保持治具。
【請求項7】
前記保持するワークは、シリコン単結晶インゴットであることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のワーク保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーによるワークの切断方法及びその際使用されるワークの保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤソーでワークをウェーハ状に切断する場合、切断面を所定の方位に設定して切断する。その切断方法としては、まず、ワークをワーク保持治具で保持し固定した状態でワークの軸方位を測定する。そして、測定した軸方位のデータを元にワイヤソーに、ワークの保持治具を固定してワークの結晶軸の方位と切断後に要求されるウェーハの面方位に合うように、ワークの位置を調整してから切断する。ワークの切断面の面方位の調整は、ワイヤ列に並行な面内で円柱状ワークの底面間の中心軸と垂直な軸を回転軸とした回転動作、ワイヤ列平面と底面間の中心軸のあおり動作を組み合わせて調整する。このような、ワークの結晶面方位の調整方法は内段取り方式と呼ばれている。
【0003】
ワークを切断する際、ノッチやOF(Orientation Flat)等の晶癖線に最も離れた角度でワイヤを走行させて切断を行うことが、ウェーハのワレ等の発生の抑制に有効であることは知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、内段取り方式の他には、ワークをワーク保持治具に固定する際、ワークの底面の中点を通る中心軸を回転軸としたワークの回転、及びワイヤ列面に並行な面内で旋回を行うことにより方位の調整を行う外段取り方式が有る。この外段取り方式では、ワイヤソーにおいて、ワークの面方位の調整は行わない。
【0005】
それに対して内段取り方式は、ワークの固定位置をワークの結晶学的に常に等価な位置に配置することが可能であり、ワークより切り出された製品が最も破損しにくい配置で加工することが可能である。特にシリコン単結晶においては結晶軸方位毎に劈開面の配置が知られておりOFあるいはノッチと底面の中点を通る中心軸との相対位置から知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−90466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、一部の方位測定器では、方位測定器の測定部とワーク底面との距離に制約があり、特にワークの長さが加工可能な最大長(ワーク保持治具の長さ)に対し3/4以下のものは、ワーク保持治具の片側にワークをよせて固定しなければ方位測定ができなかった。その結果、ワイヤソーのワイヤ列の片側にワークを偏らせたまま切断せざるを得なかった。この方法では、切断開始からワイヤ列に必ずしも対称にワークが当たらず加工圧力の偏りが生じ、ワークに偏った変位が生じ、ソリの悪化を引き起こすという問題があった。
【0008】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、方位測定装置の測定部とワークの測定面の距離の制約に関わらず方位測定をすることができる上に、ワークを切断した際のソリの悪化とワークの破損を抑制できるワークの切断方法及び保持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、円柱状のワークをワーク保持治具で保持して結晶軸方位を測定した後、前記ワーク保持治具で前記ワークを前記測定した結晶軸方位を崩さないように保持したまま前記ワーク保持治具をワイヤソーにセットしてから切断面方位を調整し、前記ワーク保持治具で保持した前記ワークを複数の溝付きローラに軸方向に往復走行するワイヤを巻掛けて形成されたワイヤ列に押し当てることで、前記ワークを切断するワークの切断方法であって、前記ワーク保持治具は前記ワークを保持したままスライドできるスライド部と該スライド部を固定する固定部とから成るものを用い、前記結晶軸方位を測定した後、前記スライド部をスライドさせて、前記ワークを前記測定した結晶軸方位を崩さないように前記ワーク保持治具の中央部に移動させ、前記スライド部を前記固定部により固定し、前記ワークを保持した前記ワーク保持治具を前記ワイヤソーにセットしてから切断面方位を調整し、前記ワークを前記ワイヤ列に押し当てることで切断することを特徴とするワークの切断方法を提供する。
【0010】
このようにすれば、ワークの結晶軸方位の測定において、ワークの長さに制限されずにワークの結晶軸方位を測定することができる。そして、ワークの結晶軸方位を崩さないようにワーク保持治具の中央部に移動させることで、ワイヤソーのワイヤ列の中央部でワークを切断できる。その結果、加工圧力がワークに均一にかかるため、加工圧力の偏りが原因のウェーハのソリの悪化や破損を抑制しつつ、切断面に所望の面方位を持つウェーハを切り出すことができる。
【0011】
このとき、前記ワークを、前記ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さのものとし、前記ワークを保持した前記スライド部をスライドさせて前記ワークの端面を前記ワーク保持治具の一方に寄せてから前記結晶軸方位を測定することができる。
【0012】
ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さの短尺ワークの軸方位を測定する際には、方位測定装置の構造上、短尺ワークをワーク保持治具の一方に寄せて固定しなければ、方位を測定することができなかった。そのため、短尺ワークをワーク保持治具の一方に寄せて固定したまま、切断を実施せざるを得なかった。しかし、このような本発明のワークの切断方法ではスライド部を移動させて短尺ワークを移動させることで、内段取り方式であっても、ウェーハの長さによる制限のない方位の測定と加工圧力の偏りのないワークの切断を両立することができる。
【0013】
またこのとき、前記ワークを、シリコン単結晶インゴットとすることができる。
このように、シリコン単結晶においては、大直径で短尺のインゴットを、本発明のワークの切断方法であれば、ソリや破損がより少ない大直径のシリコンウェーハを得ることができる。
【0014】
また、本発明によれば、円柱状のワークの結晶軸方位を測定する際と、その後ワイヤソーによって前記ワークを切断する際に前記ワークを保持するために用いられるワーク保持治具であって、前記ワーク保持治具は前記ワークを保持したままスライドできるスライド部と該スライド部を固定する固定部とから成り、前記ワークの結晶軸方位の測定後、前記スライド部をスライドさせて、前記ワークを前記測定した結晶軸方位を崩さないように前記ワーク保持治具の中央部に移動させ、前記スライド部を前記固定部により固定し、前記ワークを保持することができるものであることを特徴とするワーク保持治具が提供される。
【0015】
このようなものであれば、ワークの結晶軸方位の測定において、ワークの長さに制限されずにワークの結晶軸方位を測定することができるとともに、ワークの結晶軸方位を崩さないようにワーク保持治具の中央部に移動させることで、ワイヤソーのワイヤ列の中央部でワークを切断できる。その結果、加工圧力がワークに均一にかかるため、加工圧力の偏りが原因のウェーハのソリの悪化や破損を抑制しつつ、切断面に所望の方位を持つウェーハを切り出すことができるものとなる。
【0016】
このとき、前記固定部は、前記ワークの両端面の中心を結ぶ線分と平行になるよう設けられた蟻溝を有し、該蟻溝に前記スライド部を係合させることにより、前記スライド部が前記ワークの前記測定した結晶軸方位を崩さずスライドできるものとする。
このようなものであれば、簡易な構造でスライド部が測定した結晶軸方位を崩さず容易にスライドできるものとなる。
【0017】
またこのとき、前記保持するワークは、前記ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さのものとすることができる。
本発明のワークの保持治具は、保持対象のワークがワーク保持治具の長さの3/4以下の長さしかない短尺ワークであっても、ワークの長さによる制限のない方位の測定と加工圧力の偏りのないワークの切断を両立することができるため、ワークへの加工圧力の偏りが原因のウェーハのソリの悪化や破損を抑制しつつ、切断面に所望の方位を持つウェーハを切り出すことができるものとなる。
【0018】
このとき、前記保持するワークは、シリコン単結晶インゴットとすることができる。
ワークがシリコン単結晶インゴットであれば、近年大直径化しており、例え短尺であっても、本発明のようなワーク保持治具を用いれば、ソリや破損がより少ない大直径のシリコンウェーハを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のワークの切断方法及びワーク保持治具であれば、ワークの結晶軸方位の測定において、ワークの長さに制限されずにワークの結晶軸方位を測定することができる。そして、結晶軸方位を崩さないようにワークをワーク保持治具の中央部に移動させることで、ワイヤソーのワイヤ列の中央部でワークを切断できる。その結果、ウェーハのソリの悪化や破損を抑制しつつ、切断面に所望の面方位を持つウェーハを切り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のワーク保持治具の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明のワーク保持治具の固定部の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明のワーク保持治具において、ワークを一方に寄せた場合の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明のワーク保持治具において、ワークを中央部に移動させた場合の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明のワーク保持治具を結晶方位測定機にセットする場合の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明のワーク保持治具でワークを保持して結晶方位軸を測定する場合の一例を示す概略図である。
【
図7】本発明のワーク保持治具でワークを保持して切断する場合の一例を示す概略図である。
【
図8】実施例、比較例のWarpの相対値を示す図である。
【
図9】実施例、比較例のWarpの相対値と長さ比率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記したように、方位測定器の測定部とワーク底面との距離に制限があり、特にワークの長さがワーク保持治具の長さに対し3/4以下のものは、ワーク保持治具の片側にワークをよせて固定しなければ測定することができなかった。その結果、内段取り方式の切断面調整を行う場合、ワイヤ列の片側に偏ったままワークを切断せざるを得ず、ワークに偏った変位が生じ、ソリの悪化を引き起こすという問題があった。
【0022】
そこで、本発明者等はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ワークを保持し、結晶軸方位を維持したままスライドするスライド部を持つことで、ワークの保持中でもワークを移動させることができるワーク保持治具であれば、例え結晶軸方位測定時にワークをワーク保持治具の片側に寄せても、切断時にワークをワーク保持治具の中央に移動させることができるので、ワイヤ列の中央部でワークを切断でき、ウェーハのソリの悪化や破損を抑制しつつ、切断面に所望の面方位を持つウェーハを切り出すことができることに想到し、本発明を完成させた。
【0023】
以下、本発明のワーク保持治具及びこの保持治具を使用したワークの切断方法について
図1−7を参照して説明する。
まず、本発明のワークの切断方法で使用する本発明のワーク保持治具について説明する。
【0024】
本発明のワーク保持治具は、ワークの結晶軸方位の測定時にワークの保持に用いられ、その後、ワークを保持したままの状態でワイヤソーにセットされ、ワークの切断時にもワークの保持に用いられるものである。
そして、
図1に示すように、本発明のワーク保持治具1は、スライド部2と固定部3から構成されている。
【0025】
スライド部2は、
図3、4に示すように、ワークWに接着されたビーム4を介して保持することができ、ワークWを保持したまま固定部3上をスライドできるようになっている。
【0026】
また、固定部3は、保持したワークWの両端面の中心を結ぶ線分と平行になるよう設けられた蟻溝5を有しており、該蟻溝5にスライド部2を係合させることにより、スライド部2がワークWの測定した結晶軸方位を崩さずスライドできるものであることが好ましい。
このようなものであれば、簡易な構造でスライド部が測定した結晶軸方位を崩さず容易にスライドできるものとなる。
【0027】
そして、
図2に示すように、固定部3の側面から蟻溝5まで貫通するように固定ネジ6が設置されており、この固定ネジ6により蟻溝5に係合されたスライド部2を固定部3に固定できるものとなっている。
【0028】
また、特に、このワーク保持治具1は、ワーク保持治具1の長さの3/4以下の長さの短尺ワークWを保持する場合に好適なものとなる。
本発明のワーク保持治具1であれば、短尺ワークであっても、結晶軸方位を測定する際には、
図3に示すように、短尺ワークWを保持したスライド部2をスライドさせて短尺ワークWの端面をワーク保持治具1の一方に寄せてから結晶軸方位を測定することができる。そしてその後、ワイヤソーによるワークWの切断を行う際には、
図4に示すように、短尺ワークWをワーク保持治具1の中央部に移動させて固定し保持することができる。
【0029】
このとき、
図3、4のように固定部3の長さの中点にセンターマークM
1を、スライド部2にワークの中点を示すセンターマークM
2を予めつけておく。そして、
図4のように、センターマークM
1、M
2の位置が一致するようにスライド部2をスライドさせれば、短尺ワークWをワーク保持治具1の中央部に正確に移動させることができるものとなる。
【0030】
またこのとき、ワーク保持治具1で保持するワークは、シリコン単結晶インゴットとすることができる。
シリコン単結晶インゴットは大直径化が進んでおり、大直径で短尺のインゴットの切断がしばしば要求される。この場合に、本発明のようなワークの保持治具1を用いれば、ソリや破損がより少ない大直径のシリコンウェーハを得ることができるものとなる。もちろん、切断するワークはシリコン単結晶に限定されず、化合物半導体、酸化物単結晶、石英等いずれであっても良い。
【0031】
次に、本発明のワーク保持治具1を使用した場合の本発明のワークの切断方法について説明する。
まず、ワークを精度よく切断する為に、ワーク保持治具1のスライド部2にビーム4を介してワークを貼り付けて、ワークWを保持する。この際、ワークWは、スライド部2の下面に対してワークの晶癖線が最も離れる角度となるように貼りつける、すなわち劈開方向とワイヤの走行方向が十分に離れる角度になるようにビーム4にワークWを接着することが好ましい。このようにすれば、切断の際にワイヤの走行方向と劈開方向を十分に離せるため、ウェーハのワレがより一層起きにくくなる。この場合、すでにワークは円筒研削などにより晶癖線は削り取られているので、ノッチdやOFを基準に位置合わせをすることができる。
【0032】
そして、
図5に示すような方位測定装置7にワークWを保持したワーク保持治具1をセットする。
この際、
図6に示すように、ワークWを一定距離内に接近させてその結晶軸方位を測定する方位測定部8に、ワークWの一方の端面を近づけて結晶軸方位の測定を行う。
【0033】
結晶軸方位の測定後、ワーク保持治具1のスライド部2をスライドさせて、ワークWを測定した結晶軸方位を崩さないようにワーク保持治具の中央部に移動させる。このとき、
図4に示すように、上記したセンターマークM
1、M
2を予め目印としてつけておき、両者が一致する位置にスライド部を移動させれば、ワークWを測定した結晶軸方位を崩さないように維持したままワーク保持治具の中央部に容易に移動させることができる。そして、固定部3の固定ネジ6により、スライド部2を固定した後、
図7に示すように、ワーク保持治具1をワイヤソー9にセットする。このワイヤソー9には、複数の溝付きローラ(不図示)に軸方向に往復走行するワイヤを巻掛けて形成されたワイヤ列10が設けられており、このワイヤ列10の上方にワーク保持治具1を配置する。
【0034】
そして、ワイヤ列10に並行な面内でワークWの底面間(両端面間)の中心軸と垂直な軸を回転軸とした回転動作、ワイヤ列10と垂直な平面内で底面間の中心軸を回転させるあおり動作を組み合わせて、ワークWの結晶軸方位と切断後に要求されるウェーハの面方位が合うように、ワークWの位置を調整する。また、このワークの切断面方位の調整は、例えばチルト機構等が備え付けられたワイヤソーを使用すれば、ワイヤソー9にワーク保持治具1を固定した後であっても実施することができる。
その後、ワークWを押し下げてワイヤ列10に押し当てることでワークWを切断する。
【0035】
以上のような、本発明のワークの切断方法であれば、結晶軸方位の測定において、ワークWの長さに制限されずにワークWの結晶軸方位を測定することができる。そして、ワークWの結晶軸方位を崩さないようにワーク保持治具1の中央部に移動させることで、ワイヤソー9のワイヤ列10の中央部でワークを切断できる。その結果、加工圧力がワークWに均一にかかるため、加工圧力の偏りが原因のウェーハのソリの悪化や破損を抑制しつつ、切断面に所望の面方位を持つウェーハを切り出すことができる。
【0036】
さらに、結晶軸方位を測定する際には、ワークWを、ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さのものとし、ワークを保持したスライド部をスライドさせてワークの端面をワーク保持治具の一方に寄せてから結晶軸方位を測定することができる。
【0037】
このように、内段取り方式において、ワーク保持治具の長さの3/4以下の長さの短尺ワークの軸方位を測定する際には、方位測定装置の構造上、短尺ワークをワーク保持治具の一方に寄せて固定しなければ、方位を測定することができなかった。そのため、短尺ワークをワーク保持治具の一方に寄せて固定したまま、切断を実施せざるを得なかった。それに対して、このような本発明のワークの切断方法ではスライド部を移動させて短尺ワークを移動させることで、ウェーハの長さによる制限のない方位の測定と加工圧力の偏りのないワークの切断を両立することができる。
【0038】
またこのとき、ワークWを、シリコン単結晶インゴットとすることができる。
シリコン単結晶は、近年特に大直径化が進行しており、大直径で短尺のインゴットの切断が要求される。この場合であっても、劈開面の配置を晶癖線から容易に知ることができるため、本発明のような内段取り方式のワークの切断方法であれば、ソリや破損がより少ないシリコンウェーハを得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1−5)
図1に示すような、ワーク保持治具1を使用して、
図6に示すようにワークをワーク保持治具の一方に寄せて、結晶軸方位の測定を行った。その後、スライド部をスライドさせて、測定した結晶軸方位を崩さないようにワーク保持治具の中央部に移動させ、スライド部を固定部により固定した。次に、ワーク保持治具を
図7のように、ワイヤソーにセットしてから切断面方位を調整し、ワークをワイヤ列に押し当て切断した。切断対象のワークは、直径200mm、ワーク保持治具の長さ(
図1のL
xで示す長さ)に対する長さ比率(%)が3/4(=0.75)以下となる長さのシリコン単結晶インゴットとした。そして、上記長さ比率(ワークの長さ/ワーク保持治具の長さ)が、それぞれ0.60(実施例1)、0.51(実施例2)、0.45(実施例3)、0.30(実施例4)、0.24(実施例5)である長さのシリコン単結晶インゴットを繰り返しウェーハ状に切断した。
切断終了後、ウェーハのソリの指標となるWarpを、ウェーハ形状測定器であるE&H社のMX204−8−37で測定した。
【0041】
その結果を表1、
図8、
図9に示す。尚、実施例、比較例では、Warpの評価指標として、(ワーク別の切り出したウェーハのWarpの平均値)÷(比較例のWarpの最大値)×100で表されるWarpの相対値(%)を使用した。
表1、
図8、
図9に示すように、実施例1−5のWarpの相対値は、後述する比較例のほぼ1/2以下の値に減少し、平坦度が改善されていることが確認された。従って、通常の長さのワークはもちろん、ワーク保持治具の長さに対して3/4以下となる長さの短尺ワークであっても、従来の切断方法と比べ、ウェーハのソリの悪化を抑制して切断を行えることが確認された。
【0042】
(比較例1−5)
本発明のワーク保持治具を用いなかったこと、すなわち短尺ワークであっても結晶軸方位を測定可能にするために、ワーク保持治具の一方に寄せてワークを保持し、ワークを一方に寄せたままの状態で切断を行ったこと以外、実施例と同様な条件で
ワークを切断した。そしてその後、実施例と同様な方法でウェーハのWarpを評価した。
ただし比較例1−5では、上記長さ比率が、それぞれ0.51(比較例1)、0.45(比較例2)、0.51(比較例3)、0.21(比較例4)、0.34(比較例5)である長さのシリコン単結晶インゴットを繰り返しウェーハ状に切断した。
その結果を表1、
図8、
図9に示す。比較例1−5の場合、ワークをワイヤ列中央で切断できずワークに均等に加工圧がかからなかったため、Warpの相対値は、実施例のほぼ2倍以上の値に増加し、実施例に比べて平坦度が悪化していることが確認された。
【0043】
表1に、実施例、比較例における実施結果をまとめたもの示す。
【0044】
【表1】
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0046】
1…ワーク保持治具、 2…スライド部、 3…固定部、
4…ビーム、 5…蟻溝、 6…固定ネジ、
7…方位測定装置、 8…方位測定部、 9…ワイヤソー、 10…ワイヤ列、
W…ワーク、 M
1、M
2…センターマーク。