(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について
図1乃至
図4を参照して説明する。
【0023】
図1に示すように、第1の実施形態に係る荷電粒子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビームによる描画を行う描画部2と、その描画部2を制御する制御部3とを備えている。この荷電粒子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビームとして例えば電子ビームを用いた可変成形型の描画装置の一例である。なお、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームであっても良い。
【0024】
描画部2は、描画対象となる試料Wを収容する描画室2aと、その描画室2aに連通する光学鏡筒2bとを有している。この光学鏡筒2bは、描画室2aの上面に設けられており、電子ビームを成形及び偏向し、描画室2a内の試料Wに対して照射するものである。
【0025】
描画室2a内には、試料Wを支持するステージ11や、そのステージ11を平面方向に移動させるステージ移動部12と、ステージ11に対して試料Wを位置決めするアライメント用の撮像部13が設けられている。この撮像部13としては、例えば、CCD(電荷結合素子)カメラなどを用いることが可能である。ステージ11は水平面内で互いに直交するX方向とY方向に移動可能に形成されており、そのステージ11の載置面上には、例えばマスクやブランクなどの試料Wが載置される。ステージ移動部12は、ステージ11を水平面内でX方向及びY方向に移動させる移動機構である。また、描画室2aの外周面には、振動を検知する振動センサ14が設けられている。この振動センサ14としては、例えば、加速度センサなどを用いることが可能であり、その設置個数は特に限定されない。
【0026】
光学鏡筒2b内には、電子ビームBを出射する電子銃21と、その電子ビームBを集光する照明レンズ22と、ビーム成形用の第1の成形アパーチャ23と、投影用の投影レンズ24と、ビーム成形用の成形偏向器25と、ビーム成形用の第2の成形アパーチャ26と、試料W上にビーム焦点を結ぶ対物レンズ27と、試料Wに対するビームショット位置を制御するための副偏向器28及び主偏向器29とが配置されている。
【0027】
このような描画部2では、電子ビームBが電子銃21から出射され、照明レンズ22により第1の成形アパーチャ23に照射される。この第1の成形アパーチャ23は例えば矩形状の開口を有している。これにより、電子ビームBが第1の成形アパーチャ23を通過すると、その電子ビームの断面形状は矩形状に成形され、投影レンズ24により第2の成形アパーチャ26に投影される。なお、この投影位置は成形偏向器25により偏向可能であり、投影位置の変更により電子ビームBの形状と寸法を制御することが可能である。その後、第2の成形アパーチャ26を通過した電子ビームBは、その焦点が対物レンズ27によりステージ11上の試料Wに合わされて照射される。なお、副偏向器28及び主偏向器29により、ステージ11上の試料Wに対する電子ビームBのショット位置を制御することが可能である。
【0028】
制御部3は、描画データを記憶する描画データ記憶部31と、その描画データを処理してショットデータを生成するショットデータ生成部32と、描画部2を制御する描画制御部33と、地震の震度情報を受信する震度受信部34と、ステージ11上の試料Wの位置ずれ量を検出する位置ずれ量検出部35と、電子ビームBのドリフト量を検出するドリフト量検出部36とを備えている。なお、前述の各部はハードウエアやソフトウエアあるいはそれらの両方により構成されている。
【0029】
描画データ記憶部31は、試料Wにパターンを描画するための描画データを記憶する記憶部である。この描画データは、半導体集積回路の設計者などによって作成された設計データ(レイアウトデータ)が荷電粒子ビーム描画装置1に入力可能に、すなわち荷電粒子ビーム描画装置1用のフォーマットに変換されたデータであり、外部装置から描画データ記憶部31に入力されて保存されている。描画データ記憶部31としては、例えば、磁気ディスク装置や半導体ディスク装置(フラッシュメモリ)などを用いることが可能である。
【0030】
なお、前述の設計データは、通常、多数の微小なパターンを含んでおり、そのデータ量はかなりの大容量になっている。この設計データがそのまま他のフォーマットに変換されると、変換後のデータ量はさらに増大してしまう。このため、描画データでは、データの階層化やパターンのアレイ表示などの方法により、データ量の圧縮化が図られている。このような描画データが、チップ領域の描画パターン、または、同一描画条件である複数のチップ領域を仮想的にマージして一つのチップに見立てた仮想チップ領域の描画パターンなどを規定するデータとなる。
【0031】
ショットデータ生成部32は、
図2に示すように、描画データにより規定される描画パターンPをストライプ状(短冊状)の複数のストライプ領域R1に分割し、さらに、各ストライプ領域R1を行列状の多数のサブ領域R2に分割する。加えて、ショットデータ生成部32は、各サブ領域R2内の図形Zの形状や大きさ、位置などを決定し、さらに、図形Zを一回のショットで描画不可能である場合には、描画可能な複数の部分領域に分割し、ショットデータを生成する。なお、ストライプ領域R1の短手方向(Y方向)の長さは電子ビームBを主偏向で偏向可能な長さに設定されている。
【0032】
描画制御部33は、前述の描画パターンPを描画する際、ステージ11をストライプ領域R1の長手方向(X方向)に移動させつつ、電子ビームBを主偏向器29により各サブ領域R2に位置決めし、副偏向器28によりサブ領域R2の所定位置にショットして図形Zを描画する。その後、一つのストライプ領域R1の描画が完了すると、ステージ11をY方向にステップ移動させてから次のストライプ領域R1の描画を行い、これを繰り返して試料Wの描画領域の全体に電子ビームBによる描画を行う。なお、描画中には、ステージ11が一方向に連続的に移動しているため、描画原点がステージ11の移動に追従するように、主偏向器29によってサブ領域R2の描画原点をトラッキングさせている。
【0033】
このように電子ビームBは、副偏向器28と主偏向器29によって偏向され、連続的に移動するステージ11に追従しながら、その照射位置が決められる。ステージ11のX方向の移動を連続的に行うとともに、そのステージ11の移動に電子ビームBのショット位置を追従させることで、描画時間を短縮することができる。ただし、第1の実施形態では、ステージ11のX方向の移動を連続して行っているが、これに限るものではなく、例えば、ステージ11を停止させた状態で一つのサブ領域R2の描画を行い、次のサブ領域R2に移動するときは描画を行わないステップアンドリピート方式の描画方法を用いても良い。
【0034】
前述の描画制御部33は、描画精度レベル情報を記憶する描画精度レベル情報記憶部33aと、中断位置情報を記憶する中断位置情報記憶部33bとを有している。これらの描画精度レベル情報記憶部33aや中断位置情報記憶部33bとしては、例えば、磁気ディスク装置や半導体ディスク装置(フラッシュメモリ)などを用いることが可能である。
【0035】
描画精度レベル情報は、描画パターンPの描画精度レベル毎に震度の許容値及び停止値が設定されている情報である。この震度の許容値とは、震度がその許容値より大きい場合に描画を完全に中止するための値であり、震度の停止値とは、震度がその停止値以上であった場合に描画を中断するための値である。また、中断位置情報は、描画が中断した場合にその中断する際のストライプ領域R1及びサブ領域R2を特定する情報、例えば、ストライプ番号及びサブ番号などの位置情報である。この中断位置情報は、描画の中断が解除される際に用いられ、その中断位置から描画が再開されることになる。
【0036】
ここで、例えば、
図3に示すように、描画パターンPの描画精度レベルがレベル1である場合には、震度の許容値が5であり、停止値が4であり、描画パターンPの描画精度レベルがレベル2である場合には、震度の許容値が4であり、停止値が3であり、描画パターンPの描画精度レベルがレベル3である場合には、震度の許容値が3であり、停止値が2である。このように描画精度レベルが高くなるほど、描画精度は高くなるため、その逆に震度の許容値及び停止値は小さくなっていく。
【0037】
このような描画精度レベル情報が描画精度レベル情報記憶部33aにあらかじめ保存されており、その描画精度レベル情報が用いられて震度の許容値及び停止値が設定される。例えば、描画する描画パターンPの描画精度レベルがレベル1である場合には、震度の許容値が5に設定され、さらに、震度の停止値が4に設定される。他の描画精度レベルの場合も同様に、描画精度レベルに応じて震度の許容値及び停止値が設定される。その後、設定された震度の許容値及び停止値が用いられ、描画処理が実行されることになる。このように、震度の許容値及び停止値は、描画パターンPの描画精度レベルに応じて設定されることになる。なお、震度の許容値や停止は、キーボードやマウスなどの入力部(図示せず)に対する操作者の入力操作により変更可能である。
【0038】
震度受信部34は、緊急地震速報あるいは振動センサ14からの地震情報を受信する。例えば、緊急地震速報の地震情報には、地震の震度に関する震度情報や到達時刻に関する到達時刻情報などの各種情報が含まれている。また、振動センサ14からの地震情報は、地震の震度に関する震度情報であり、例えば、加速度情報である。したがって、震度受信部34は、緊急地震速報の震度情報から地震の震度を取得したり、あるいは、振動センサ14の震度情報(例えば、加速度情報)に基づいて地震の震度を求めたりする。なお、震度と加速度との相関関係はあらかじめグラフや表などの情報として震度受信部34により記憶されており、その相関情報と加速度情報から加速度が震度に換算される。
【0039】
位置ずれ量検出部35は、ステージ11上の試料Wの位置ずれ量を検出するものである。この位置ずれ量検出部35は、撮像部13により撮像された画像を受信し、受信した画像(例えば、試料エッジ像)に基づいて試料Wの位置ずれ量を検出する。撮像部13は、ステージ11に対して試料Wを位置決めするアライメント用に設けられており、試料Wのエッジを撮像する。このため、描画前に撮像したエッジ像と描画再開直前に撮像したエッジ像とを比較することにより、それらのエッジ像のずれ量に基づいて、描画途中での地震による試料Wの位置ずれ量を検出することが可能である。
【0040】
ドリフト量検出部36は、ステージ11上の基準マーク(図示せず)を走査して検出することで、今回のマーク位置と前回のマーク位置との差分から電子ビームBのドリフト量を求め、求めたドリフト量をドリフト検出結果データとして描画制御部33に送信する。このドリフト検出結果データは必要に応じて描画制御部33により保存される。描画制御部33は、受信したドリフト検出結果データに基づいてドリフト補正量を算出し、その算出したドリフト補正量に基づいて電子ビームBの偏向量を制御し、その電子ビームBのドリフトを補正する。
【0041】
ここで、基準マークはドリフト量を求めるためのマークであり、ステージ11の表面に形成されている。例えば、この基準マークは十字形状に形成されており、また、表面と異なる反射率を有する材料により形成されている。なお、ドリフト量を検出する検出手段としては、ドリフト量を求めることが可能な手段であれば良く、その手段は特に限定されるものではない。
【0042】
次に、前述の荷電粒子ビーム描画装置1が行う描画処理(描画動作)について説明する。
【0043】
図4に示すように、まず、描画データが描画データ記憶部31から読み出され、描画が開始される(ステップS1)。次いで、読み出した描画データに基づいてその描画データの描画精度レベルが描画制御部33により定義される(ステップS2)。
【0044】
ここで、描画データ内には、その描画データの描画精度レベルが含まれており、この描画精度レベルから、描画する描画データの描画精度レベルが描画制御部33により定義され、さらに、その定義された描画精度レベルに基づいて、描画精度レベル情報記憶部33aにより記憶された描画精度レベル情報から震度の許容値及び停止値が設定される。
【0045】
例えば、描画データに含まれる描画精度レベルがレベル1である場合には、これから描画する描画パターンの描画精度レベルはレベル1に定義され、さらに、
図3に示すように、そのレベル1に対応する震度の許容値が5に、震度の停止値が4に設定される。なお、描画パターンの描画精度は、例えば、回路パターンの線幅に依存するため、線幅が狭い回路パターンは、振動によるずれ量が大きくなると、そのパターンのずれ量によっては切断状態になるため、より高い描画精度となる傾向にある。
【0046】
次いで、ステップS2の処理後、描画が完了したか否かが判断され(ステップS3)、描画が完了していないと判断されると(ステップS3のNO)、地震(振動)が発生したか否かが判断され(ステップS4)、地震が発生していないと判断されると(ステップS4のNO)、描画が実行され(ステップS5)、処理がステップS3に戻される。これにより、描画が完了するまで、あるいは、地震が発生するまで描画が継続される。なお、地震の発生は、例えば、震度受信部34により地震情報、特に、震度情報が受信されたか否かによって判断される。
【0047】
その後、ステップS3において、描画が完了したと判断されると(ステップS3のYES)、描画が中止され(ステップS6)、処理が終了する。また、ステップS4において、地震が発生したと判断されると(ステップS4のYES)、地震の震度が前述で設定された許容値より大きいか否かが判断される(ステップS7)。なお、地震の震度は、震度受信部34により受信された震度情報から取得される。
【0048】
地震の震度が許容値より大きいと判断されると(ステップS7のYES)、処理はステップS6に進められる。一方、地震の震度が許容値より大きくない、すなわち許容値以下であると判断されると(ステップS7のNO)、地震の震度が前述で設定された停止値以上であるか否かが判断される(ステップS8)。
【0049】
地震の震度が停止値以上でないと判断されると(ステップS8のNO)、処理はステップS5に進められる。一方、地震の震度が停止値以上であると判断されると(ステップS8のYES)、描画が一時停止される(ステップS9)。
【0050】
この描画の中断時には、描画制御部33は、描画途中のサブ領域R2の描画を完了させてから描画部2による描画を中止し、さらに、その描画部2による描画が中止されたストライプ領域R1及びサブ領域R2を特定する情報、例えば、ストライプ番号及びサブ番号などの位置情報を中断位置情報として中断位置情報記憶部33bに記憶する。
【0051】
その後、描画が再開可能であるか否かが判断され(ステップS10)、描画が再開可能でないと判断されると(ステップS10のNO)、処理がステップS6に進められる。
一方、描画が再開可能であると判断されると(ステップS10のYES)、キャリブレーションが行われ(ステップS11)、処理がステップS5に進められる。
【0052】
ここで、ステップS10における描画が再開可能であるか否かの判断では、振動センサ14からの地震情報により地震が収束したか否かが判断される。このとき、振動が所定の許容値以下であることが確認され、地震の収束が特定される。また、位置ずれ量検出部35により検出された試料Wの位置ずれ量が所定の許容値以下であるか否かが確認され、その位置ずれ量が許容値以下であれば描画を再開し、許容値より大きければ描画を中止する。さらに、振動センサ14からの地震情報により検知した最大の震度、すなわち最大の加速度が所定の許容値より大きい場合にも、描画を中止する。なお、各許容値は描画制御部33にあらかじめ設定されているが、キーボードやマウスなどの入力部(図示せず)に対する操作者の入力操作により変更可能である。
【0053】
また、ステップS11におけるキャリブレーションでは、ドリフト量検出部36によりドリフト量の検出、すなわち測定が行われ、そのドリフト検出結果データが描画制御部33に送信される。描画制御部33は、受信したドリフト検出結果データに基づいてドリフト補正量を求め、さらに、中断位置情報に基づいて、再開するストライプ領域及びサブ領域からショットデータの再生成を行い、求めたドリフト補正量に基づいて電子ビームBのドリフトを補正しながら描画を行う。
【0054】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、震度受信部34により震度情報が受信された場合、描画部2による描画中の描画パターンの描画精度と、震度受信部34により受信された震度情報の震度とに応じて、描画部2による描画を中止する。これにより、地震の震度に加え、描画パターンPの要求される描画精度に応じて描画が中止されることになる。したがって、地震の震度が高くても、描画パターンの要求される描画精度が低いため、描画を中止しなくともパターンエラーを生ぜず、描画効率の低下を抑止することができる。一方、地震の震度が低くても、描画パターンの要求される描画精度が高いため、描画を中止してパターンエラーの発生を防止するので、描画精度の低下を防止することができる。
【0055】
また、描画パターンPを複数のストライプ領域R1に分割し、ストライプ領域R1を複数のサブ領域R2に分割し、ストライプ領域R1毎に描画部2による描画を行うとき、震度受信部34により震度情報が受信された場合、描画途中のサブ領域R2の描画を完了させてから描画部2による描画を中止することによって、描画再開時に、描画中断のサブ領域R2内で描画中断前後の描画位置を合わせるような処理を行う必要がなくなり、描画再開時に容易に描画を開始することが可能となるので、描画効率を向上させることができる。
【0056】
また、描画部2による描画が中止されたストライプ領域R1及びサブ領域R2を特定する情報を記憶することによって、描画再開時に描画を中断した位置を容易に把握することが可能となる。これにより、描画を中断した位置から正確に描画を再開することができ、結果として、精度が高い描画を行うことができる。さらに、描画再開時に描画の再開位置を容易に把握することが可能であるため、すぐに描画を再開することができ、結果として、描画効率を向上させることができる。
【0057】
また、位置ずれ量検出部35により検出された試料Wの位置ずれ量に応じて、描画部2による描画を再開することによって、地震の振動により試料Wが所定の許容値より大きくずれていた場合には、その試料Wに対して描画が再開されない。これにより、描画を再開してもパターンエラーなどの描画不良となる場合には、描画が再開されないため、無駄な描画を行うことを防止することが可能となる。したがって、無駄な描画時間の発生を抑え、描画効率を向上させることができる。
【0058】
また、ドリフト量検出部36により検出された電子ビームBのドリフト量を補正するドリフト補正量を求め、描画部2による描画を再開することによって、描画再開後にドリフト補正量に基づいて電子ビームBのドリフトを補正することが可能になるので、描画再開後も精度良く描画を行うことができる。
【0059】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について
図5乃至
図7を参照して説明する。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態との相違点について説明し、第1の実施形態で説明した部分と同一部分は同一符号で示し、その説明も省略する。
【0060】
図5に示すように、第2の実施形態に係る荷電粒子ビーム描画装置1は、第1の実施形態に係る撮像部13や位置ずれ量検出部35、ドリフト量検出部36を備えていない(
図1参照)。また、描画制御部33は、第1の実施形態に係る描画精度レベル情報記憶部33a及び中断位置情報記憶部33bを備えていない(
図1参照)。震度受信部34は、緊急地震速報(気象庁などの機関から主要動到達前に発信される速報)を受信する速報受信部として機能する。
【0061】
描画制御部33は、震度受信部34による緊急地震速報の受信に応じて、ステージ移動部12によるステージ11の移動を停止する。具体的には、描画制御部33は、震度受信部34により緊急地震速報が受信されると、ステージ移動部12によるステージ11の移動を停止し、その停止したステージ11上の試料Wにおける電子ビームBが偏向照射される偏向領域、すなわち主偏向領域内の全描画を完了させ、その後、描画を行う場合の移動方向と逆方向にステージ11を退避させる。
【0062】
ここで、
図6に示すように、描画はストライプ領域R1に対して描画進行方向D1(描画中のステージ11の移動方向と逆方向)に順次行われていく(
図6中の上図参照)。なお、
図6では、ストライプ領域R1において、斜線でハッチングされている領域が描画済領域R1aであり、ハッチングされていない領域が未描画領域R1bである。描画は、窓枠と呼ばれる主偏向領域A1内のストライプ領域R1に対してサブ領域R2毎に行われる。具体的には、ステージ11の移動に応じて主偏向領域A1内に入ってきたストライプ領域R1の一部に対し、例えば、
図6中の下から上に順次サブ領域R2の描画が行われていく。なお、主偏向領域A1は、主偏向器29により電子ビームBが偏向されて照射されるステージ11上の試料Wの領域である。
【0063】
このような描画中、震度受信部34により緊急地震速報が受信されると、ステージ移動部12によるステージ11の移動が停止され、その停止位置でのステージ11上の試料Wの主偏向領域A1内の全描画、すなわち主偏向領域A1内の全サブ領域R2のすべての描画が完了させられる(
図6中の中央図参照)。つまり、ステージ11が止まると、その停止位置で描画できるだけのパターン(主偏向領域A1内の全パターン)を十分に描画した後で、描画は窓枠待ちの状態となる。
【0064】
前述のサブ領域R2の縦一列(
図6中の上下方向の一列)を描画する描画時間は、例えば250ms(ミリセコンド)であり、通常数百msであって1秒以下となる。ステージ11の停止後、描画対象となる主偏向領域A1内の全サブ領域R2としては、最大でもサブ領域R2の縦一列となり、最小はサブ領域R2の一つとなる。したがって、ステージ11の停止から主偏向領域A1内の全サブ領域R2の描画完了に要する時間は、最大でも数百msであって1秒以下となる。このため、震源と荷電粒子ビーム描画装置1の設置場所との距離の問題はあるが、その設置場所が震源から数十キロ程度離れていれば地震到達まで少なくとも数秒を要するため、地震到達前に主偏向領域A1内の全サブ領域R2のすべての描画を完了させることは十分に可能である。なお、一例として、ストライプ領域R1の縦幅(
図6中の上下方向の長さ)は512μmであり、サブ領域R2の横幅(
図6中の左右方向の長さ)は25.6μmである。
【0065】
前述のステージ11停止後の描画が完了すると、窓枠待ちの状態が維持されたまま、ステージ11は描画を行う場合の移動方向と逆方向に退避させられ、すなわち主偏向領域A1は描画進行方向D1の逆方向D2に移動する(
図6中の下図参照)。なお、このとき、ステージ11が描画を行う場合の移動方向と同じ方向に退避すると、描画が再開してしまう。これを防ぐため、描画を行う場合の移動方向と逆方向にステージ11を退避させる必要がある。
【0066】
ここで、ステージ11の退避距離は、あらかじめ所定距離として描画制御部33に設定されているが、これに限るものではなく、例えば、描画制御部33が地震の震度に応じてステージ11の退避距離を変更するようにしても良い。この場合には、緊急地震速報内の震度情報を用いて地震の震度を把握することが可能である。
【0067】
前述のように、描画は主偏向領域A1内に入ってきたストライプ領域R1の一部に対して実行されていく。このため、ステージ11が停止状態となっても地震がある程度大きく、地震到達後にステージ11が振動し、ストライプ領域R1の一部が主偏向領域A1内に入ってくると、描画が再開されてしまう。この場合には、地震到達後にも描画が実行されることになるため、描画精度が低下することになる。ところが、前述のようにステージ11の退避を行うことによって、地震到達後、ステージ11の振動によりストライプ領域R1の一部が主偏向領域A1内に入ってくるようなことが防止される。これにより、地震到達後の描画実行、すなわち振動中の描画実行を抑えることが可能となるので、描画精度の低下を抑止することができる。
【0068】
なお、描画制御部33は、前述のステージ11の退避を行う以外にも、例えば、試料Wに対する電子ビームBの照射を停止するようにしても良い。一例として、描画制御部33は、電子銃21から出射された電子ビームBが第2の成形アパーチャ26を通過しないように成形偏向器25を制御する。これにより、電子ビームBは第2の成形アパーチャ26により遮られ、試料Wに対する電子ビームBの照射が停止されることになる。なお、振動中の描画実行をより確実に防止するため、電子銃21からの電子ビームBの出射自体が停止されても良いが、電子ビームBの出射が停止されることによる不具合(例えば、描画再開時の電子ビームBの安定待ち時間の発生など)を考慮すると、前述のステージ11の退避や第2の成形アパーチャ26による遮断を行う方が望ましい。
【0069】
次に、前述の荷電粒子ビーム描画装置1が行う描画処理(描画動作)について説明する。
【0070】
図7に示すように、描画データが描画データ記憶部31から読み出され、描画が開始される(ステップS21)。次いで、描画が完了したか否かが判断される(ステップS22)。ここで、描画が完了したと判断されると(ステップS22のYES)、処理が終了する。一方、描画が完了していないと判断されると(ステップS22のNO)、地震(振動)が発生したか否かが判断され(ステップS23)、その判断は地震が発生するまで繰り返される(ステップS23のNO)。
【0071】
このように、地震発生は描画中絶えず検出されていることになる。この地震発生の判断は、例えば、震度受信部34により緊急地震速報が受信されたか否かの判定によって行われ、震度受信部34により緊急地震速報が受信されたと判定されると、地震が発生したと判断される。
【0072】
その後、地震が発生したと判断されると(ステップS23のYES)、ステージ11が停止され(ステップS24)、その停止したステージ11上の試料Wにおける主偏向領域A1内の全描画が完了させられ(ステップS25)、その完了に応じてステージ11は描画用の移動方向(描画移動方向)と逆方向に所定の退避距離だけ移動する(ステップS26)。
【0073】
次に、描画再開が指示されたか否かが判断され(ステップS27)、その判断は描画再開が指示されるまで繰り返される(ステップS27のNO)。ここで、描画再開が指示されたと判断されると(ステップS27のYES)、ステージ11が描画用の移動方向に移動し(ステップS28)、描画が再開され、処理はステップS22に戻る。
【0074】
ここで、前述の描画再開の指示は、例えば、地震がおさまった後、操作者が入力部の再開ボタンなどを押下することで行われても良く、また、振動センサ14からの地震情報、すなわち震度情報を震度受信部34により受信し、その震度情報から地震がおさまった(例えば、振動が所定値以下になった)ことを判断することで行われても良い。いずれにしても、描画制御部33は、再開ボタンの押下や震度情報に基づいて地震がおさまったか否かを判断し、地震がおさまったと判断した場合に、ステージ11を描画用の移動方向に移動させて描画を再開する。
【0075】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、震度受信部34により緊急地震速報が受信されると、ステージ移動部12によるステージ11の移動を停止し、その停止したステージ11上の試料Wにおいて電子ビームBが偏向照射される偏向領域、すなわち主偏向領域A1内の全描画を完了させる。これにより、地震到達前に主偏向領域A1内の全描画が完了し、迅速に描画が中止されることになるので、描画精度の低下を抑止することができる。また、ステージ11の移動を停止するだけで、描画が中止されるので、電子ビームBの出射停止による不具合(例えば、描画再開時の電子ビームBの安定待ち時間など)の発生を防止することが可能となるので、描画効率の低下を抑止することができる。さらに、描画途中に描画が停止された試料を廃棄する必要がなく、最初から描画をやり直すことがなくなり、数十時間を要した描画作業を無駄とすることがないため、描画効率の低下を抑止することができる。
【0076】
また、描画を行う場合のステージ11の移動方向と逆方向にステージ移動部12によりステージ11を退避させることによって、前述のように地震到達後のステージ11の振動による描画再開を防止し、地震到達後の描画実行、すなわち振動中の描画実行を抑えることが可能となるので、描画精度の低下を確実に抑止することができる。なお、ステージ移動部12によるステージ11の退避距離を地震の震度に応じて変更する場合には、振動中の描画実行を確実に抑えることが可能となるので、描画精度の低下をより確実に抑止することができる。また、描画部2による試料Wに対する電子ビームBの照射を停止する場合にも、振動中の描画実行を抑えることが可能となるので、描画精度の低下を確実に抑止することができる。
【0077】
ここで、地震の震度に応じてステージ11の退避距離を変更する場合について
図8及び
図9を参照して詳述する。
【0078】
図8に示すように、描画制御部33は、退避距離レベル情報を記憶する退避距離レベル情報記憶部33cを有している。この退避距離レベル情報記憶部33cとしては、例えば、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、半導体ディスク装置(フラッシュメモリ)、磁気ディスク装置などを用いることが可能である。
【0079】
図9に示すように、退避距離レベル情報は、地震の震度ごとに退避距離が設定されている情報である。
図9では、一例として、震度が1である場合には退避距離が5cmであり、震度が2である場合には退避距離が10cmであり、震度が3である場合には退避距離が15cmであり、震度が4である場合には退避距離が20cmであり、震度が5である場合には退避距離が30cmであり、震度が6である場合には退避距離が40cmであり、震度が7である場合には退避距離が50cmである。このように震度が大きくなるほど、ステージ11の退避距離は大きくなる。この退避距離レベル情報が退避距離レベル情報記憶部33cにあらかじめ保存されている。
【0080】
描画制御部33は、震度情報から把握した地震の震度に対応する退避距離を退避距離レベル情報記憶部33c内の退避距離レベル情報から選択して決定する。例えば、震度が1である場合には、その震度1に対応する退避距離5cmが選択され、退避距離は5cmと決定される。同様に、震度が5である場合には、その震度5に対応する退避距離30cmが選択され、退避距離は30cmと決定される。
【0081】
なお、退避距離レベル情報としては、地震の震度ごとに退避距離が設定されている情報を用いているが、これに限るものではなく、例えば、所定の震度範囲ごとに退避距離が設定されている情報を用いるようにしても良い。この場合、描画制御部33は、震度情報から把握した地震の震度が含まれる所定の震度範囲に対応する退避距離を退避距離レベル情報から選択して決定する。
【0082】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0083】
前述の第1又は第2の実施形態においては、振動センサ14を描画室2aの外周面に設けているが、これに限るものではなく、例えば、荷電粒子ビーム描画装置1を設置した工場の敷地内の四隅にそれぞれ設けるようにしても良い。その振動センサ14の個数や敷地内の四隅という数も限定されるものではなく、もちろん振動センサ14の設置場所も限定されるものではない。