特許第6002017号(P6002017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6002017
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】メタクリル系重合体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/18 20060101AFI20160923BHJP
   C08F 2/01 20060101ALI20160923BHJP
   C08F 2/02 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   C08F20/18
   C08F2/01
   C08F2/02
【請求項の数】4
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2012-264021(P2012-264021)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-108988(P2014-108988A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】山森 明弘
(72)【発明者】
【氏名】和氣 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和広
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214618(JP,A)
【文献】 特開平07−206905(JP,A)
【文献】 特開2012−102190(JP,A)
【文献】 特開2012−207203(JP,A)
【文献】 特開2012−153807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/18
C08F 2/01
C08F 2/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルを50重量%以上含有する原料モノマーA、重合開始剤Aおよび連鎖移動剤Aを含む原料組成物Aを第1の完全混合型反応槽の供給口より供給し、第1の完全混合型反応槽において連続塊状重合に付し、これにより得られる中間組成物を第1の完全混合型反応槽の抜き出し口より抜き出す第1の重合工程と、
メタクリル酸メチルを50重量%以上含有する原料モノマーB、重合開始剤Bおよび連鎖移動剤Bを含む原料組成物Bならびに第1の重合工程で抜き出される中間組成物を第2の完全混合型反応槽の供給口より供給し、第2の完全混合型反応槽において更に連続塊状重合に付し、これにより得られるメタクリル系重合体組成物を第2の完全混合型反応槽の抜き出し口より抜き出す第2の重合工程と
を含んで成り、下式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)
120≦T1≦160 (I)
140≦T2≦180 (II)
20≦T2−T1≦60 (III)
1.7≦[S2]/[S1] (IV)
1≦Q1/Q2≦50 (V)
(T1は第1の重合工程における第1の完全混合型反応槽内の温度(℃)、T2は第2の重合工程における第2の完全混合型反応槽内の温度(℃)、[S1]は第1の完全混合型反応槽に供給される原料組成物A中の連鎖移動剤Aの濃度(重量%)、[S2]は第2の完全混合型反応槽に供給される原料組成物Bおよび中間組成物の総量に対する連鎖移動剤Bの濃度(重量%)、Q1は第2の完全混合型反応槽に供給される中間組成物の流量(cm/分)、Q2は第2の完全混合型反応槽に供給される原料組成物Bの流量(cm/分))
を満たすことを特徴とするメタクリル系重合体組成物の製造方法。
【請求項2】
さらに、下式(VI)および(VII)
40≦x≦60 (VI)
θ1+θ2≦180 (VII)
(xは、第2の完全混合型反応槽の抜き出し口より抜き出されるメタクリル系重合体組成物における重合率(重量%)、θ1は第1の重合工程における第1の完全混合型反応槽の平均滞留時間(分)、θ2は第2の重合工程における第2の完全混合型反応槽の平均滞留時間(分))
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のメタクリル系重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2の完全混合型反応槽の抜き出し口は、各反応槽の頂部に位置する請求項1または2に記載のメタクリル系重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
第1の重合工程および第2の重合工程における連続塊状重合が断熱状態で行われる請求項1〜3のいずれかに記載のメタクリル系重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系重合体組成物の製造方法、それによって得られるメタクリル系重合体組成物から得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂組成物は透明性や耐候性に優れ、各種液晶ディスプレイのバックライトユニットの部材等に使用される導光板や、テールランプカバー、ヘッドランプカバー、メーターパネルといった車両用部材の成形材料として利用されている(特許文献1および2)。
【0003】
メタクリル系樹脂組成物として、高分子量体と低分子量体のポリマーを含む組成物が知られている(特許文献3〜7参照)。高分子量体および低分子量体の両方を含むメタクリル系重合体(メタクリル樹脂)は、広い分子量分布を有し、耐溶剤性、成形流動性に優れているという利点を有する。高分子量体と低分子量体のポリマーを含むメタクリル系樹脂組成物の製造方法として、懸濁重合により得られたメタクリル樹脂の存在下に、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルを加えて引き続き懸濁重合を行うことによりメタクリル樹脂組成物を得る方法(例えば、特許文献3参照)、塊状重合後、開始剤と連鎖移動剤を加えて引き続き塊状重合を行うことによりメタクリル樹脂組成物を得る方法(例えば、特許文献4参照)、異なる平均分子量を有するメタクリル樹脂を個別に調製し、ブレンドする方法(例えば、特許文献5〜7参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−240093号公報
【特許文献2】特開2006−298966号公報
【特許文献3】国際公開第2011−049203号
【特許文献4】特開昭54−149788号公報
【特許文献5】特開昭58−101140号公報
【特許文献6】特表2008−538794号公報
【特許文献7】特開2010−059305号公報
【特許文献8】特開2004−211105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の広い分子量分布を有するメタクリル樹脂組成物の製造方法では、透明性、生産性、分子量分布の制御に問題がある。例えば、異なる平均分子量を有するメタクリル樹脂を個別に調製し、ブレンドする方法では、目的の製造物が得られるまで押出工程を3回行わなければならない。その点、多段重合では、1回の押出工程で目的の製造物を得ることができるので効率的である。
【0006】
多段重合を達成する方法としては、懸濁重合、溶液重合および塊状重合法が挙げられる。懸濁重合の多段重合法でメタクリル系重合体組成物を製造する場合、分散安定剤あるいは乳化剤を使用するため、透明性が損なわれる(特許文献7)。また、溶液重合の場合においては一般に、溶媒により重合体の耐熱分解性が低下し、また、溶媒およびモノマー回収の方法が煩雑になるといった問題が生じる。一方、塊状重合の場合、反応混合物の粘度が高くなるため、反応制御が難しい。溶媒を含まない、塊状重合での2段重合において反応制御を可能にした系として、1〜50%まで重合した後、連鎖移動剤を追添加して重合率60%以上重合する方法が公知である(特許文献4)。しかしながら、この手法では2段目において、1段目の130℃2時間と比較して温和な重合条件である60℃10時間で再重合を行っており、所要時間が長く生産性は十分でない。
【0007】
塊状重合において生産性を上げるためには、重合時間を短くし、重合率を上げることが望まれるが、重合率を上げると粘度が高くなるので、適切な重合率を選択する必要がある。重合率が70%以上になると、反応混合物の粘度が高くなり、更に重合発熱量も大きくなるので、反応系の重合反応における温度を一定に保つための除熱の際に、反応系の局所的または急激な冷却が起こりやすくなる。その結果、反応槽の内壁面におけるゲルの付着および成長がより顕著となり、得られる重合体組成物にゲル化物が不純物として混入する等の問題が起こり得る。よって、重合時間が短く、ゲル化物の付着および成長が起こりにくい高重合率の重合条件が求められている。
【0008】
特許文献4の連続溶液重合の実施例では、第2の反応槽に加える連鎖移動剤をモノマーで希釈せず、反応槽に直接加えているが、その結果、反応槽内の連鎖移動剤濃度の制御が難しくなっている。特許文献4では、連鎖移動剤を供給する流量はモノマー流量の1/50倍以下と少量であり、連鎖移動剤供給量が少しでも変化すると、反応槽内の連鎖移動剤濃度が変化し、ポリマーの流動性等の物性が変化する。そのため、この方法では、連続塊状重合において、目的とする物性を有するポリマーを安定して得ることは困難である。
【0009】
特許文献8では2段塊状重合を行っているが、第2の反応槽に添加する連鎖移動剤量が少なく、反応槽内の連鎖移動剤濃度は第1の反応槽と第2の反応槽とでほぼ同等であるため、1段目と2段目とでほぼ同等の分子量のポリマーが生成し、分子量分布は十分に広がってはいない。
【0010】
そこで、本発明は、低分子量体と高分子量体とを含み、その割合を制御し、分子量分布の広いメタクリル系樹脂組成物を得るのに適したメタクリル系重合体組成物の2段塊状重合での効率的な製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上述の方法で得られるメタクリル系重合体組成物から得られる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] メタクリル酸メチルを50重量%以上含有する原料モノマーA、重合開始剤Aおよび連鎖移動剤Aを含む原料組成物Aを第1の完全混合型反応槽の供給口より供給し、第1の完全混合型反応槽において連続塊状重合に付し、これにより得られる中間組成物を第1の完全混合型反応槽の抜き出し口より抜き出す第1の重合工程と、
メタクリル酸メチルを50重量%以上含有する原料モノマーB、重合開始剤Bおよび連鎖移動剤Bを含む原料組成物Bならびに第1の重合工程で抜き出される中間組成物を第2の完全混合型反応槽の供給口より供給し、第2の完全混合型反応槽において更に連続塊状重合に付し、これにより得られるメタクリル系重合体組成物を第2の完全混合型反応槽の抜き出し口より抜き出す第2の重合工程と
を含んで成り、下式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)
120≦T1≦160 (I)
140≦T2≦180 (II)
20≦T2−T1≦60 (III)
1.7≦[S2]/[S1] (IV)
1≦Q1/Q2≦50 (V)
(T1は第1の重合工程における第1の完全混合型反応槽内の温度(℃)、T2は第2の重合工程における第2の完全混合型反応槽内の温度(℃)、[S1]は第1の完全混合型反応槽に供給される原料組成物A中の連鎖移動剤Aの濃度(重量%)、[S2]は第2の完全混合型反応槽に供給される原料組成物Bおよび中間組成物の総量に対する連鎖移動剤Bの濃度(重量%)、Q1は第2の完全混合型反応槽に供給される中間組成物の流量(cm/分)、Q2は第2の完全混合型反応槽に供給される原料組成物Bの流量(cm/分))
を満たすことを特徴とするメタクリル系重合体組成物の製造方法。
[2] さらに、下式(VI)および(VII)
40≦x≦60 (VI)
θ1+θ2≦180 (VII)
(xは、第2の完全混合型反応槽の抜き出し口より抜き出されるメタクリル系重合体組成物における重合率(重量%)、θ1は第1の重合工程における第1の完全混合型反応槽の平均滞留時間(分)、θ2は第2の重合工程における第2の完全混合型反応槽の平均滞留時間(分))
を満たすことを特徴とする前記[1]に記載のメタクリル系重合体組成物の製造方法。
[3] 第1および第2の完全混合型反応槽の抜き出し口は、各反応槽の頂部に位置する前記[1]または[2]に記載のメタクリル系重合体組成物の製造方法。
[4] 第1の重合工程および第2の重合工程における連続塊状重合が断熱状態で行われる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のメタクリル系重合体組成物の製造方法。
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のメタクリル系重合体組成物から得られる成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メタクリル系重合体の低分子量体と高分子量体とを連続的に容易に作製、混合でき、その結果、分子量分布が広く、低分子量体および高分子量体の割合を制御したメタクリル系樹脂組成物を得るのに適したメタクリル系重合体組成物を高い生産性で製造することができる。本発明の方法により得られるメタクリル系重合体組成物は、成形体の材料として好適に利用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一の実施形態におけるメタクリル系重合体組成物の製造方法を説明するための概略図である。
図2図2は、実施例1〜3ならびに比較例1および2のメタクリル系樹脂組成物の分子量分布曲線である。
図3図3は、実施例4および5のメタクリル系樹脂組成物の分子量分布曲線である。
図4図4は、実施例6および7のメタクリル系樹脂組成物の分子量分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のメタクリル系重合体組成物(以下、単に「重合体組成物」とも呼ぶ)の製造方法は、少なくとも2つの完全混合型の反応槽を用いて実施され、各反応槽において連続塊状重合が実施される。
【0016】
以下、本発明の一の実施形態について、図1を参照しながら詳述する。なお、以下に示す実施形態は例示を目的とするものであり、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
まず、本実施形態の重合体組成物の製造方法を実施するのに用いられる装置について説明する。本実施形態の重合体組成物の製造方法は、少なくとも第1の反応槽10および第2の反応槽20を用いて実施される。これら反応槽10および20はいずれも、完全混合型の反応槽であり、本実施形態においては第1の重合工程および第2の重合工程における連続重合として連続塊状重合を実施するために用いられる。
【0018】
より具体的には、第1の反応槽10は、供給口11aと抜き出し口11bとを有し、好ましくは、反応槽の外壁面の温度を調節するための温度調節手段として反応槽の外壁面を取り囲むジャケット13と、内容物を撹拌するための撹拌機14とを更に有する。同様に、第2の反応槽20は、供給口21aと抜き出し口21bとを有し、好ましくは、反応槽の外壁面の温度を調節するための温度調節手段として反応槽の外壁面を取り囲むジャケット23と、内容物を撹拌するための撹拌機24とを更に有する。抜き出し口11bおよび21bは、各反応槽の頂部に位置するように設けられる。他方、供給口11aおよび21aは、本実施形態を限定するものではないが、一般的には各反応槽の下方の適切な位置に設けられ得る。これら反応槽10および20は、反応槽内の温度を検知する温度検知手段として温度センサTを各々備え得る。
【0019】
第1の反応槽10および第2の反応槽20の容積は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。第1の反応槽10の容積と、第2の反応槽20の容積とを異ならせることにより、第1の反応槽10と第2の反応槽20とで平均滞留時間を効果的に異ならせることができる。
【0020】
撹拌機14および24は、反応槽内を実質的に完全混合状態とするためのものである。これら撹拌機は、任意の適切な撹拌翼を備えていてよく、例えば、ミグ(MIG)翼、マックスブレンド翼(登録商標、住友重機械工業株式会社製)、パドル翼、ダブルヘリカルリボン翼、フルゾーン翼(登録商標、株式会社神鋼環境ソリューション製)などを備えていてよい。反応槽内での撹拌効果を増大させるためには、反応槽内にバッフルを取り付けることが望ましい。しかし、本実施形態はこれに限定されず、反応槽内を実質的に完全混合状態とし得る限り、撹拌機14および24に代えて任意の適切な構成を有し得る。
【0021】
反応槽10および20は、通常、撹拌効率が高いほど好ましいものの、撹拌操作によって反応槽に余分な熱量を加えないという観点からは、撹拌動力は必要以上に大きくないほうがよい。撹拌動力は特に限定されるものではないが、好ましくは、0.5〜20kW/mであり、より好ましくは、1〜15kW/mである。撹拌動力は、反応系の粘度が高くなるほど(または反応系内の重合体の含有率が高くなるほど)、大きく設定することが好ましい。
【0022】
図示するように、第1の反応槽10の供給口11aは、原料モノマータンク(原料モノマーおよび場合により連鎖移動剤の供給源)1および重合開始剤タンク(重合開始剤ならびに場合により原料モノマーおよび/または連鎖移動剤の供給源)3にそれぞれポンプ5および7を介して、原料供給ライン9を通じて接続されている。本実施形態において、第1の反応槽10における原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源は、原料モノマータンク1および重合開始剤タンク3であるが、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源の数およびそれらの態様(例えば混合物の場合にはその組成)などは、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を第1の反応槽10に適切に供給し得る限り、特に限定されない。本実施形態に必須ではないが、第1の反応槽10に別の供給口11cが設けられ、この供給口11cが、例えば図1に点線で示すように、重合開始剤タンク3にポンプ7を介して接続されていてもよい。第1の反応槽10の抜き出し口11bは、第2の反応槽20の供給口21aに接続ライン15を通じて接続される。第2の反応槽20の抜き出し口21bは、抜き出しライン25へと繋がっている。これにより、第1の反応槽10と第2の反応槽20とが直列接続される。第1の反応槽10の抜き出し口11bと第2の反応槽20の供給口21aとの間の接続ライン15上にはポンプが存在しないことが好ましい。
【0023】
第2の反応槽20は、重合開始剤タンク(新たな原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源)17にポンプ19を介して接続されている。本実施形態において、新たな原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源は、重合開始剤タンク17であるが、新たな原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源の数ならびにそれらの態様(例えば混合物の場合にはその組成)などは、新たな原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を第2の反応槽20に適切に供給し得る限り、特に限定されない。第2の反応槽20の供給口21aは、図1に示すように、重合開始剤タンク17にポンプ19を介して、接続ライン15を通じて接続されていてよく、あるいは、第2の反応槽20に別の供給口21cが設けられ、この供給口21cが、例えば図1に点線で示すように、重合開始剤タンク17にポンプ19を介して接続されていてよい。
【0024】
ポンプ5、7および19は、特に限定されるものではないが、原料モノマータンク1、重合開始剤タンク3、および重合開始剤タンク17からの流量を一定量に設定可能なポンプであることが好ましい。具体的には、好ましくは多連式往復動ポンプが挙げられ、より好ましくは2連式無脈動定量ポンプ、3連式無脈動定量ポンプなどの無脈動定量ポンプが挙げられる。これにより、第1の反応槽10への原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給量(または供給流量、以下も同様)、ならびに第2の反応槽20への原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の追加の供給量を制御することができる。
【0025】
また、本実施形態に必須ではないが、第1の反応槽10の抜き出し口11bを第2の反応槽20の供給口21aに接続する接続ライン15は、接続ライン15の温度を調節することのできる温度調節手段として、接続ライン15の外壁面を取り囲むジャケット(図示せず)などを備えるのが好ましい。これにより、第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度となるように、接続ライン15の温度(より詳細には、接続ラインの外壁面の温度、ひいては接続ライン内の温度)を調節することができる。本実施形態のように、第1の反応槽10が、第1の反応槽10内の温度を検知する温度検知手段として温度センサTを備える場合、接続ライン15の温度調節手段は、接続ライン15の温度が、この温度センサTによって検知される第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度となるように制御され得る。
【0026】
図1を参照して上述した各部材は適宜、制御装置(図示せず)に接続されて、その動作が制御装置により制御可能であるように全体的に構成されることが好ましい。これにより、ジャケット(温度調節手段)13および23に対して設定される反応槽の外壁面の温度と、温度センサ(温度検知手段)Tによって検知される反応槽内の温度とが、第1の反応槽10および第2の反応槽20のそれぞれについて一致するように、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の第1の反応槽10への供給量をポンプ5および7の動作を調整すること、あるいはジャケット13および23に対して設定される反応槽の外壁面の温度を調節することによって制御可能であり、更に、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の第2の反応槽20への追加の供給量をポンプ19の動作を調整することによって制御可能である。また、接続ライン15内の温度が、温度センサ(温度検知手段)Tによって検知される第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度となるように、接続ライン15を覆うジャケット(温度調節手段、図示せず)に対して設定される接続ラインの外壁面の温度を調整することによって制御可能である。接続ライン15内の温度は、接続ライン15内の温度を検知する温度検知手段によって実際に測定することが好ましいが、第1の反応槽10における重合反応条件によっては、供給した重合開始剤が全て消費される等の要因で、抜き出し口11bから抜き出される中間組成物(後述する)の重合反応が接続ライン15内では進行しない、すなわち、接続ライン15内で重合反応熱が発生しない場合があるので、そのような場合には、接続ライン15を覆うジャケットの温度を第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度に設定する、あるいはジャケットの代わりに保温材で接続ライン15を覆うことにより、接続ライン15内の温度を第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度にすることができ、接続ライン15内の温度は接続ライン15を覆うジャケットの温度と実質的に同じ温度と考えても差し支えない。
【0027】
ジャケット13および23は、反応槽10および20のそれぞれについて略全体を覆っており、熱媒供給路(図示せず)から蒸気、熱水、有機熱媒体などの熱媒を導入することにより、反応槽10および20を、適宜加熱または保温する。ジャケット13および23の温度は、供給される熱媒の温度または圧力によって、適宜調節することができる。ジャケット13および23内に導入された熱媒は、熱媒排出路(図示せず)から除去される。
また、ジャケット13および23の温度や圧力は、熱媒排出路上に設けられた温度センサ(図示せず)などのセンサによって検知される。温度センサなどのセンサの配置箇所については、特に限定されるものではなく、例えば、熱媒供給路上や、ジャケット13および23内であってもよい。なお、接続ライン15にジャケットを備える場合、接続ライン15のジャケットは、これらジャケット13および23と同様の構成を有するものであってよい。
【0028】
反応槽10および20内での重合反応は、生成する重合体(ポリマー)の品質を一定にするという観点から、反応槽10および20内でそれぞれ重合温度を略一定にして実行することが求められる。それゆえ、上記温度調節手段(ジャケット13および23)は、反応槽10および20のそれぞれの内温を略一定に保つことができるように、予め設定された一定温度に制御される。
上記温度調節手段(ジャケット13および23)の設定温度は、後述する供給流量制御手段に伝えられ、原料モノマー供給手段(ポンプ5)や重合開始剤供給手段(ポンプ7および19)による供給流量の制御の要否を判断するためのデータとなる。また、上記温度調節手段(ジャケット13および23)の設定温度は、上記熱媒の温度または圧力を制御することにより、調節可能である。
【0029】
供給流量制御手段としては、例えば、CPU、ROM、RAMなどを備える制御部(図示せず)が挙げられる。制御部のROMは、ポンプ5、7および19などを制御するプログラムを格納するための装置であって、制御部のRAMは、上記プログラムを実行するために、温度センサTで検知された反応槽10および20内の温度データや、ジャケット13および23の設定温度のデータ、および存在する場合には接続ライン15のジャケットの設定温度のデータを一時的に格納する装置である。
【0030】
制御部のCPUは、上記RAMに格納された、反応槽10および20内の温度データや、ジャケット13および23の設定温度のデータに基づいて、上記ROMに格納されたプログラムを実行して、反応槽10および20内への原料モノマー、重合開始剤および/または連鎖移動剤の供給流量を、原料モノマー供給手段(ポンプ5)および/または重合開始剤供給手段(ポンプ7および19)によって制御させる。また、接続ライン15に温度調節手段としてジャケットを備える場合には、制御部のCPUは、上記RAMに格納された、反応槽10および20内の温度データや、接続ライン15のジャケット(図示せず)の設定温度のデータに基づいて、上記ROMに格納されたプログラム(上記プログラムの一部であっても、上記プログラムと別のプログラムであってもよい)を実行して、接続ライン15のジャケットの設定温度を調節し得る。
【0031】
供給流量制御手段(制御部)による制御の一例を、以下に示す。
温度センサTで検知された反応槽10内の温度が、温度調節手段であるジャケット13の設定温度を超えるときには、上記CPUによって上記ROM内のプログラムを実行することにより、例えば、反応槽10内への重合開始剤の供給流量を減少させるように、ポンプ7を制御する。ポンプ19により反応槽20に重合開始剤を供給して重合を実施中、温度センサTで検知された反応槽20内の温度が、温度調節手段であるジャケット23の設定温度を超えるときには、上記CPUによって上記ROM内のプログラムを実行することにより、例えば、反応槽20内への重合開始剤の供給流量を減少させるように、ポンプ19を制御する。かかる制御を実行することにより、反応槽10および/または20内で発生する重合熱を減少させることができ、その結果、反応槽10および/または20内の温度を低下させることができる。
【0032】
一方、反応槽10の温度がジャケット13の設定温度を下回るときには、上記CPUによって上記ROM内のプログラムを実行することにより、例えば、反応槽10内への重合開始剤の供給流量を増加させるように、ポンプ7を制御する。ポンプ19により反応槽20に重合開始剤を供給して重合を実施中、反応槽20の温度がジャケット23の設定温度を下回るときには、上記CPUによって上記ROM内のプログラムを実行することにより、例えば、反応槽20内への重合開始剤の供給流量を増加させるように、ポンプ19を制御する。かかる制御を実行することにより、反応槽10および/または20内で発生する重合熱を増加させることができ、その結果、反応槽10および/または20内の温度を上昇させることができる。
【0033】
また、例えば、反応槽10および20での重合反応において、ポンプ7および19を制御した結果、反応槽10および20内への総供給流量が著しく減少する場合には、ポンプ7および19を制御して重合開始剤の供給流量を減少させることだけでなく、同時に、ポンプ5を制御して原料モノマーの供給流量を増大させることが好ましい。
【0034】
更に、他の制御例として、以下に示す制御が挙げられる。すなわち、温度センサTで検知された反応槽10内の温度が、温度調節手段であるジャケット13の設定温度を超えるときに、ポンプ5を制御して原料モノマーの供給流量を増大させることにより、反応槽10内への重合開始剤の相対的な供給流量を減少させる。このような制御によっても、反応槽10内の温度を低下させることができる。
【0035】
原料モノマーの供給流量と、重合開始剤の供給流量との比は、生成する重合体の種類、使用する重合開始剤の種類などに応じて、適宜設定すればよい。また、原料モノマーの供給流量や、重合開始剤の供給流量を増大または減少させる程度についても、生成する重合体(ポリマー)の種類、使用する重合開始剤の種類などに応じて、適宜設定されるものである。但し、重合開始剤供給手段によって反応槽10内に供給されるものが、重合開始剤単独ではなく、重合開始剤と原料モノマーおよび/または連鎖移動剤との混合物である場合、ならびに反応槽20内に供給される重合開始剤、原料モノマーおよび連鎖移動剤の混合物においては、重合開始剤の供給流量は、混合物中の重合開始剤の含有割合を考慮して制御する必要がある。
【0036】
更に、別の制御例として、接続ライン15に温度調節手段としてジャケットを備える場合には、以下に示す制御が挙げられる。すなわち、温度センサTで検知された反応槽10内の温度が、接続ライン15内の温度(便宜的には接続ライン15のジャケットの設定温度)と異なるとき、例えば±5℃の範囲を超えて異なるときに、接続ライン15内の温度(便宜的には接続ライン15のジャケットの設定温度)が、反応槽10の温度と実質的に同じ温度となるように、接続ライン15のジャケットの設定温度を調節する。
【0037】
また、本実施形態に必須ではないが、第2の反応槽20の抜き出し口21bからの抜き出しライン25の下流には、予熱器31および脱揮押出機33が配置され得る。予熱器31および脱揮押出機33の間には、圧力調整弁(図示せず)が設けられ得る。脱揮後の押出物は、取り出しライン35より取り出される。
【0038】
予熱器31には、粘性流体を加熱し得る限り、任意の適切な加熱器を用い得る。脱揮押出機33には、スクリュー式の単軸または多軸の脱揮押出機を用い得る。
【0039】
更に、脱揮押出機33にて分離される揮発性成分(主に未反応の原料モノマーを含んで成る)から分離回収した原料モノマーを貯蔵する回収タンク37が存在してもよい。
【0040】
次に、かかる装置を用いて実施される重合体組成物の製造方法について説明する。本実施形態では、一例として、メタクリル酸メチルを含むモノマーを連続重合する場合、換言すれば、メタクリル酸メチル系ポリマーを製造する場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0041】
・準備
まず、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤などを準備する。
【0042】
原料モノマーとして、本実施形態では、メタクリル酸メチルを含むモノマーを用いる。
本明細書において、第1の反応槽10に供給される原料モノマーを原料モノマーAとも呼び、第2の反応槽20に新たに供給される原料モノマーを原料モノマーBとも呼ぶ。原料モノマーAおよびBは、同じ組成であってよく、または互いに異なる組成であってよい。
本発明の原料モノマーは、メタクリル酸メチルを50重量%以上含有するものである。メタクリル酸メチルを50重量%以上含有することで、得られるメタクリル系樹脂組成物においてメタクリル樹脂の特徴である透明性、耐候性、耐熱性等を付与することができる。原料モノマー中のメタクリル酸メチルの含有量は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
原料モノマーは、メタクリル酸メチルの他に、以下に示すメタクリル酸メチルと共重合可能な他のモノマーを含み得る。これら他のモノマーは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。原料モノマー中の共重合可能な他のモノマーの含有量は、50重量%以下であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
・メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が2〜8であるもの)。
・メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリール。
・アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル類。
・アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物。
・アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロール等のヒドロキシル基含有モノマー。
・アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー。
・アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体。
・スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体。
・エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート等のグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル。
・アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル。
・フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多塩基酸のポリアルケニルエステル。
・トリメチロールプロパントリアクリレート等の多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル。
【0043】
本明細書において、第1の反応槽10に供給される重合開始剤を重合開始剤Aとも呼び、第2の反応槽20に新たに供給される重合開始剤を重合開始剤Bとも呼ぶ。重合開始剤AおよびBは、同じ組成であってよく、または互いに異なる組成であってよい。
重合開始剤として、本実施形態では、例えばラジカル開始剤を用いる。
ラジカル開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、カプリリルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−エチルヘキサノエート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソノナエート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシ−イソノナエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物が挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
重合開始剤は、生成する重合体(ポリマー)や使用する原料モノマーの種類に応じて選定される。例えば、本発明を特に限定するものではないが、ラジカル重合開始剤は、重合温度での半減期が1分以内であるものが好ましい。重合温度での半減期が1分以内であれば、反応速度が遅くなり過ぎず、連続重合装置での重合反応に適する。
【0045】
重合開始剤(ラジカル開始剤)の供給量は、特に限定されるものではないが、通常、反応槽10および反応槽20に供給される重合開始剤の合計供給量が、最終的に反応槽10に供給される原料モノマーと反応槽20に新たに供給される原料モノマーとの合計量に対して0.001〜1重量%となるようにすればよい。
【0046】
本明細書において、第1の反応槽10に供給される連鎖移動剤を連鎖移動剤Aとも呼び、第2の反応槽20に新たに供給される連鎖移動剤を連鎖移動剤Bとも呼ぶ。連鎖移動剤AおよびBは、同じ組成であってよく、または互いに異なる組成であってよい。連鎖移動剤は、生成する重合体の分子量を調整するために用いられる。
連鎖移動剤は、単官能および多官能のいずれの連鎖移動剤であってもよい。具体的には、例えば、n−プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、2−エチルヘキシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾールなどの芳香族メルカプタン;エチレンチオグリコールなどの炭素数18以下のメルカプタン類;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコール類;水酸基をチオグリコール酸または3−メルカプトプロピオン酸でエステル化したもの、1,4−ジヒドロナフタレン、1,4,5,8−テトラヒドロナフタレン、β−テルピネン、テルピノーレン、1,4−シクロヘキサジエン、硫化水素などが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
上記原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤に加えて任意の適切な他の成分、例えば離型剤、ブタジエンおよびスチレンブタジエンゴム(SBR)などのようなゴム状重合体、熱安定剤、紫外線吸収剤を用いてよい。離型剤は、重合体組成物から得られる樹脂組成物の成形性を向上させるために用いられる。熱安定剤は、生成する重合体の熱分解を抑制するために用いられる。紫外線吸収剤は、生成する重合体の紫外線による劣化を抑制するために用いられる。
【0048】
離型剤としては、特に制限されないが、例えば、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩等が挙げられる。なお、離型剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0049】
高級脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸オクチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、ベヘン酸メチル、ベヘン酸エチル、ベヘン酸プロピル、ベヘン酸ブチル、ベヘン酸オクチルなどの飽和脂肪酸アルキルエステル;オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸オクチル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸プロピル、リノール酸ブチル、リノール酸オクチルなどの不飽和脂肪酸アルキルエステル;ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、パルミチン酸ジグリセリド、パルミチン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、ベヘン酸ジグリセリド、ベヘン酸トリグリセリドなどの飽和脂肪酸グリセリド;オレイン酸モノグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、オレイン酸トリグリセリド、リノール酸モノグリセリド、リノール酸ジグリセリド、リノール酸トリグリセリドなどの不飽和脂肪酸グリセリドが挙げられる。これらのなかでも、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリドなどが好ましい。
【0050】
高級脂肪族アルコールとしては、具体的には、例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールなどの飽和脂肪族アルコール;オレイルアルコール、リノリルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコールが挙げられる。これらのなかでも、ステアリルアルコールが好ましい。
【0051】
高級脂肪酸としては、具体的には、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸などの飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0052】
高級脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドなどの飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、リノール酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド;エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、N−オレイルステアロアミドなどのアミド類が挙げられる。これらのなかでも、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0053】
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、上述した高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などが挙げられる。
【0054】
離型剤の使用量は、得られる重合体組成物に含まれる重合体(ポリマー)100重量部に対して、0.01〜1.0重量部となるように調整することが好ましく、0.01〜0.50重量部となるように調整することがより好ましい。
【0055】
熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、リン系熱安定剤や有機ジスルフィド化合物などが挙げられる。これらのなかでも、有機ジスルフィド化合物が好ましい。なお、熱安定剤は、単独で使用してよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
リン系熱安定剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。これらのなかでも、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトが好ましい。
【0057】
有機ジスルフィド化合物としては、例えば、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジ−n−プロピルジスルフィド、ジ−n−ブチルジスルフィド、ジ−sec−ブチルジスルフィド、ジ−tert−ブチルジスルフィド、ジ−tert−アミルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、ジ−tert−オクチルジスルフィド、ジ−n−ドデシルジスルフィド、ジ−tert−ドデシルジスルフィドなどが挙げられる。これらのなかでも、ジ-tert−アルキルジスルフィドが好ましく、さらに好ましくはジ−tert−ドデシルジスルフィドである。
【0058】
熱安定剤の使用量は、得られる重合体組成物に含まれる重合体(ポリマー)に対して、1〜2000重量ppmであることが好ましい。本発明の重合体組成物から成形体を得るために重合体組成物(より詳細には、脱揮後の樹脂組成物)を成形する際、成形効率を高める目的で成形温度を高めに設定することがあり、そのような場合に熱安定剤を配合するとより効果的である。
【0059】
紫外線吸収剤の種類としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのなかでも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤が好ましい。
【0060】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンジロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0061】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸エチル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0062】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ペンチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0063】
マロン酸エステル系紫外線吸収剤としては、通常、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類が用いられ、例えば、2−(パラメトキシベンジリデン)マロン酸ジメチル等が挙げられる。
【0064】
オキサルアニリド系紫外線吸収剤としては、通常、2−アルコキシ−2’−アルキルオキサルアニリド類が用いられ、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキサルアニリド等が挙げられる。
【0065】
紫外線吸収剤の使用量は、得られる重合体組成物に含まれる重合体(ポリマー)に対して、5〜1000重量ppmであることが好ましい。
【0066】
原料モノマータンク1にて、上述のような原料モノマー(1種または2種以上の混合物)を、必要に応じて連鎖移動剤と(場合により離型剤などの他の成分と)共に適宜調合する。また、重合開始剤タンク3にて、上述のような重合開始剤を、必要に応じて原料モノマーおよび/または連鎖移動剤と(場合により離型剤などの他の成分と)共に適宜調合する。重合開始剤タンク3には、重合開始剤を単独で貯留してもよく、原料モノマーと重合開始剤との混合物(場合により離型剤などの他の成分を更に含み得る)の形態で貯留してもよく、原料モノマーと重合開始剤と連鎖移動剤との混合物(場合により離型剤などの他の成分を更に含み得る)の形態で貯蔵してもよい。第1の反応槽10に供給される連鎖移動剤は、原料モノマータンク1にて調合される原料モノマーを含む混合物および重合開始剤タンク3にて調合される重合開始剤を含む混合物の少なくとも一方に含まれればよい。重合開始剤タンク17にて、上述のような重合開始剤を、原料モノマーおよび連鎖移動剤と(場合により他の成分と)共に適宜調合する。重合開始剤タンク17には、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を含む混合物(場合により他の成分を更に含み得る)の形態で貯留する。但し、重合開始剤タンク3にポンプ7を介して供給口11cが接続される場合または重合開始剤タンク17にポンプ19を介して供給口21cが接続される場合には、重合開始剤タンク3または17に重合開始剤を単独で貯留すると、重合開始剤が単独で反応槽10または反応槽20に供給されるため、反応槽10または反応槽20において局所的に重合反応が進行するおそれがある。これに対し、原料モノマーと重合開始剤との混合物の形態で貯留すると、重合開始剤が原料モノマーの一部と予め混合されているので、かかるおそれが解消され得る。
【0067】
・第1の重合工程
第1の重合工程において、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を含む原料組成物を第1の反応槽に供給する。本明細書において、第1の反応槽に供給される原料組成物を原料組成物Aとも呼ぶ。
原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源である原料モノマータンク1および重合開始剤タンク3から、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を第1の反応槽10に供給口11aより供給する。具体的には、原料モノマータンク1から原料モノマーおよび場合により連鎖移動剤をポンプ5により、ならびに重合開始剤タンク3から重合開始剤(好ましくは原料モノマー、重合開始剤および場合により連鎖移動剤の混合物、本明細書において単に重合開始剤とも言う)をポンプ7により、原料供給ライン9を通じて一緒にして、第1の反応槽10に供給口11aより供給する。また、重合開始剤タンク3から重合開始剤をポンプ7により、図1に点線で示すように、第1の反応槽10に供給口11cより供給してもよい。
【0068】
第1の反応槽10への重合開始剤の供給において、原料モノマーと重合開始剤と場合により連鎖移動剤との混合物を重合開始剤タンク3に調合して供給する場合、原料モノマータンク1からの原料モノマー(原料モノマーおよび場合により連鎖移動剤を含む)の供給流量A(cm/分)と、重合開始剤タンク3からの原料モノマー、重合開始剤および場合により連鎖移動剤を含む混合物(重合開始剤の含有割合が0.002〜10重量%であるもの)の供給流量B(cm/分)との比A:Bは、80:20〜98:2の範囲となるように調整することが好ましい。
【0069】
第1の反応槽10へと供給される原料組成物の温度は、特に限定されるものではないが、反応槽内の熱バランスを崩して、重合温度を変動させる要因となるものであることから、適宜、加熱/冷却器(図示せず)によって反応槽10に供給される前に温度調節することが好ましい。
【0070】
以上のようにして第1の反応槽10に供給された原料組成物は、第1の反応槽10にて連続塊状重合(換言すれば、溶媒なしでの重合)に付される。この第1の重合工程は、重合反応を途中まで進行させるものであればよく、第1の反応槽10の抜き出し口11bより中間組成物が抜き出される。
【0071】
第1の重合工程において、連続塊状重合は、反応槽が反応混合物で満たされて実質的に気相が存在しない状態(以下、「満液状態」と言う)で実施されることが好ましい。この満液状態により、反応槽の内壁面にゲルが付着して成長するといった問題や、このゲルが反応混合物に混入することによって、最終的に得られる樹脂組成物の品質が低下するといった問題が発生することを、未然に防止できる。更に、この満液状態により、反応槽の容積全てを反応空間に有効利用でき、よって、高い生産効率を得ることができる。
【0072】
満液状態は、第1の反応槽10の抜き出し口11bを反応槽頂部に位置させることにより、第1の反応槽10への供給および抜き出しを連続的に行うだけで簡便に実現できる。
【0073】
また第1の重合工程において、連続塊状重合は、断熱状態(実質的に反応槽の外部からの熱の出入りがない状態)で実施されることが好ましい。この断熱状態により、反応槽の内壁面にゲルが付着して成長するといった問題や、このゲルが反応混合物に混入することによって、最終的に得られる樹脂組成物の品質が低下するといった問題が発生することを、未然に防止できる。更に、この断熱状態により、重合反応を安定化させることができ、暴走反応を抑制するための自己制御性をもたらすことができる。
【0074】
断熱状態は、第1の反応槽10の内部の温度と、その外壁面との温度をほぼ等しくすることによって実現できる。具体的には、上述の制御装置(図示せず)を用いて、ジャケット(温度調節手段)13に対して設定される第1の反応槽10の外壁面の温度と、温度センサ(温度検知手段)Tによって検知される第1の反応槽10内の温度とが一致するように、原料モノマーおよび重合開始剤の第1の反応槽10への供給量をポンプ5および7の動作を調整することによって実現できる。なお、反応槽の外壁面の温度を、反応槽内の温度に比べて高く設定しすぎると、反応槽内に余分な熱が加わることから、好ましくない。
反応槽内と反応槽外壁面との温度差は小さいほど好ましく、具体的には±5℃程度の幅で調整することが好ましい。第1の反応槽10内で発生する重合熱や撹拌熱は通常、第1の反応槽10から中間組成物を抜き出す際に持ち去られる。中間組成物が持ち去る熱量は、中間組成物の流量、比熱、重合反応の温度によって定まる。
【0075】
第1の重合工程における連続塊状重合の温度は、第1の反応槽10内の温度(温度センサTにて検知される)として理解される。第1の重合工程は、120〜160℃の温度にて、好ましくは120〜150℃の温度にて実施するものとする。但し、反応槽内の温度は、定常状態に至るまでは諸条件に応じて変動し得ることに留意されたい。断熱状態で連続塊状重合を行う場合、第1の反応槽10内の温度は重合熱に依存し、第1の反応槽10に供給される原料組成物中の重合開始剤濃度を高くするほど重合率は高くなり、その結果、第1の反応槽10内の温度を高くすることができる。
【0076】
第1の重合工程における連続塊状重合の圧力は、第1の反応槽10内の圧力として理解される。この圧力は、反応槽内で原料モノマーの気体が発生しないように、反応槽内の温度における原料モノマーの蒸気圧以上の圧力に設定され、通常、ゲージ圧で1.0〜2.0MPa程度である。
【0077】
第1の重合工程における連続塊状重合に付される時間は、第1の反応槽10の平均滞留時間として理解される。第1の反応槽10における平均滞留時間は、中間組成物における重合体の生産効率などに応じて設定され得るものである。所定の重合率に達するまでの平均滞留時間が短いほど生産効率が高くなることとなるので、平均滞留時間は短い方が好ましいが、15分〜2時間45分の間に設定されることが好ましい。第1の反応槽10における平均滞留時間は、ポンプ5および7を用いて第1の反応槽10への原料モノマー等の供給量(供給流量)を変更することにより調節できる。
【0078】
以上のようにして中間組成物が第1の反応槽10の抜き出し口11bから抜き出される。得られた中間組成物は、生成した重合体および未反応の原料モノマーを含んで成り、更に、未反応の重合開始剤、重合開始剤分解物などを含み得る。
【0079】
中間組成物における重合率は、30〜50重量%が好ましい。なお、中間組成物における重合率は、中間組成物中の重合体(ポリマー)含有率に相当する。
【0080】
・第2の重合工程
第2の重合工程は、第1の重合工程の後に直列的に実施されるものである。
上述のようにして得られた中間組成物は、第1の反応槽10の抜き出し口11bから抜き出された後、接続ライン15を通じて第2の反応槽20に供給口21aより供給される。そして、中間組成物は、第2の反応槽20にて更に連続塊状重合に付される。この第2の重合工程は、重合反応を所望の重合率まで進行させるものであり、第2の反応槽20の抜き出し口21bより重合体組成物(または重合シロップ)が連続的に抜き出される。
【0081】
以下、第2の重合工程について第1の重合工程と異なる点を中心に説明し、特に説明のない限り第1の重合工程と同様の説明が当て嵌まるものとする。
【0082】
第2の重合工程において、上述の中間組成物に加えて、原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を含む原料組成物が第2の反応槽に供給される。本明細書において、第2の反応槽に供給される原料組成物を原料組成物Bとも呼ぶ。
具体的には、重合開始剤タンク17から原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を含む原料組成物をポンプ19により、第2の反応槽20に、接続ライン15を通じて供給口21aより、あるいは別の供給口21cより供給し、これにより、中間組成物に新たな重合開始剤が添加される。
重合開始剤タンク17から第2の反応槽20へと供給される原料組成物Bの温度は、特に限定されるものではないが、反応槽内の熱バランスを崩して、重合温度を変動させる要因となるものであることから、適宜、加熱/冷却器(図示せず)によって反応槽20に供給される前に温度調節することが好ましい。原料組成物Bに含まれる重合開始剤の割合は、0.002〜10重量%であることが好ましい。
【0083】
第2の反応槽20に連鎖移動剤を十分量加えることにより、第2の反応槽20において、第1の反応槽10で得られる重合体と比較してより平均分子量が低い重合体を作製することができる。連鎖移動剤濃度を高くするほど平均分子量の低い重合体を作製できるので、第2の反応槽20への連鎖移動剤の供給量を増加させることにより、第1の反応槽10にて得られる重合体との平均分子量の差が大きくなり、分子量分布を広くすることができる。[S1]を第1の反応槽に供給される原料組成物(原料モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤および場合により他の成分を含む)中の連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、[S2]を第2の反応槽に供給される原料組成物(原料モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤および場合により他の成分を含む)および中間組成物の総量に対する連鎖移動剤の濃度(重量%)とした時、本発明の製造方法においては、下式
1.7≦[S2]/[S1]
を満たすように連鎖移動剤の供給量を調整し、好ましくは、下式
2.0≦[S2]/[S1]
を満たすように連鎖移動剤の供給量を調整する。[S2]/[S1]の上限については特に限定されないが、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。更に、[S2]は下式
0<[S2]≦1
を満たすことが好ましい。
【0084】
また、接続ライン15の温度が、第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度となるように、連続塊状重合を行うことが好ましい。接続ライン15の温度が、第1の反応槽10内の温度に対して低くなり過ぎないようにすることによって、接続ライン15内の中間組成物の粘度が上昇するのを防止し、中間組成物を第2の反応槽20へ安定して供給することができる。接続ライン15の温度が、第1の反応槽10内の温度に対して高くなり過ぎないようにすることによって、第2の反応槽内の温度が上昇するのを防止し、最終的に得られる樹脂組成物の熱安定性等の品質を維持することができる。接続ライン15の温度を、第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度とするには、接続ライン15に温度調節手段としてジャケットを設け、ジャケットの設定温度を調整することにより行うことができる。また、接続ライン内で重合熱が発生しない場合には、ジャケットの代わりに保温材を設けて接続ライン15を保温することにより、接続ライン15の温度を、第1の反応槽10内の温度と実質的に同じ温度とすることができる。
【0085】
また、第2の反応槽20に供給される中間組成物の流量をQ1(cm/分)、第2の反応槽20に供給される原料組成物(原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤を含む)の流量をQ2(cm/分)とすると、Q1およびQ2が下式
1≦Q1/Q2≦50
を満たすように、ポンプ5、7および19を調節する。このように第2の反応槽20に供給される中間組成物および原料組成物の流量を調節し、連鎖移動剤を希釈して第2の反応槽20に供給することにより、連鎖移動剤を希釈せず直接供給するよりも、Q1および/またはQ2の変化に対する影響が緩和されるため、[S2]を安定して制御することができ、目的とする分子量分布のメタクリル系重合体組成物を安定して得ることができる。
【0086】
第2の重合工程においても、連続塊状重合は、満液状態で実施されることが好ましい。この満液状態により、反応槽の内壁面にゲルが付着して成長するといった問題や、このゲルが反応混合物に混入することによって、最終的に得られる樹脂組成物の品質が低下するといった問題が発生することを、未然に防止できる。更に、この満液状態により、反応槽の容積全てを反応空間に有効利用でき、よって、高い生産効率を得ることができる。
【0087】
満液状態は、第2の反応槽20の抜き出し口21bを反応槽頂部に位置させることにより、第2の反応槽20への供給および抜き出しを連続的に行うだけで簡便に実現できる。
【0088】
また、第2の重合工程においても、連続塊状重合は断熱状態で実施されることが好ましい。この断熱状態により、反応槽の内壁面にゲルが付着して成長するといった問題や、このゲルが反応混合物に混入することによって、最終的に得られる樹脂組成物の品質が低下するといった問題が発生することを、未然に防止できる。更に、この断熱状態により、重合反応を安定化させることができ、暴走反応を抑制するための自己制御性をもたらすことができる。
【0089】
断熱状態は、第2の反応槽20の内部の温度と、その外壁面との温度をほぼ等しくすることによって実現できる。具体的には、上述の制御装置(図示せず)を用いて、ジャケット(温度調節手段)23に対して設定される第2の反応槽20の外壁面の温度と、温度センサ(温度検知手段)Tによって検知される第2の反応槽20内の温度とが一致するように、中間組成物および原料組成物Bの第2の反応槽20への供給量をポンプ5、7および19の動作を調整することによって実現できる。なお、反応槽の外壁面の温度を、反応槽内の温度に比べて高く設定しすぎると、反応槽内に余分な熱が加わることから、好ましくない。反応槽内と反応槽外壁面との温度差は小さいほど好ましく、具体的には±5℃程度の幅で調整することが好ましい。
【0090】
第2の重合工程における連続塊状重合の温度は、第2の反応槽20内の温度として理解される。第2の重合工程は、140〜180℃の温度にて実施するものとする。第2の重合工程において、断熱状態で連続塊状重合を実施する場合、第2の反応槽20内の温度は重合熱に依存し、第2の反応槽20に供給される中間組成物および原料組成物Bの総量に対する重合開始剤の濃度を高くするほど重合率は高くなり、その結果、第2の反応槽20内の温度を高くすることができる。
【0091】
第2の重合工程における連続塊状重合に付される時間は、第2の反応槽20の平均滞留時間として理解される。第2の反応槽20における平均滞留時間は、重合体組成物における重合体の生産効率などに応じて設定され得るものである。所定の重合率に達するまでの平均滞留時間が短いほど生産効率が向上するので、平均滞留時間は短い方が好ましいが、15分〜2時間45分の間で設定されることが好ましい。第1の反応槽10における平均滞留時間に対する第2の反応槽20における平均滞留時間の比は、9/1〜1/9であることが好ましく、より好ましくは8/2〜2/8である。第2の重合工程における平均滞留時間は、第1の重合工程における平均滞留時間と同等であってよいが、それと異なることが好ましい。第2の反応槽20における平均滞留時間は、ポンプ5、7および19を用いて第2の反応槽20への中間組成物および原料組成物Bの供給量(供給流量)を変更することにより調節できる。本実施形態によれば、第1の反応槽10における平均滞留時間θ1と第2の反応槽20における平均滞留時間θ2との合計(θ1+θ2)を180分以下とすることが好ましく、これにより、重合体組成物を生産性良く得ることができる。
【0092】
以上のようにして重合体組成物が第2の反応槽20の抜き出し口21bから抜き出される。得られた重合体組成物は、生成した重合体を含んで成り、更に、未反応の原料モノマー、未反応の重合開始剤および重合開始剤分解物などを含み得る。
【0093】
メタクリル系重合体組成物における重合率(x)は、40〜60重量%であることが好ましい。なお、重合体組成物における重合率は、重合体組成物中の重合体(ポリマー)含有率に相当する。この重合率が高いほど、重合体の生産性が高くなるものの、中間組成物および重合体組成物の粘度が高くなって、大きな撹拌動力が必要となる。また、重合率が低いほど、重合体の生産性が低くなり、未反応の原料モノマーを回収するための負担が大きくなってしまう。よって、適切な重合率を目標または目安として設定することが好ましい。
【0094】
また、第2の重合工程における連続塊状重合の温度と第1の重合工程における連続塊状重合の温度との差は、第2の重合工程における重合率に関係し、かかる温度差が大きいほど、第2の重合工程において得られる重合体の量が多くなる。このように、第1の重合工程で得られる重合体と第2の重合工程で得られる重合体の比率は、各重合工程における温度で制御することができる。本実施形態によれば、第1の重合工程を120〜160℃、好ましくは120〜150℃にて実施し、第2の重合工程を140〜180℃にて実施し、かつ第2の重合工程における連続塊状重合の温度T2と第1の重合工程における連続塊状重合の温度T1の差(T2−T1)を20℃以上60℃以下とすることにより、第2の重合工程で得られる重合体の平均分子量は、第1の重合工程で得られる重合体の平均分子量より低くなり、各重合工程の温度によって低分子量体の割合を制御しつつ、重合体組成物を生産性良く得ることができる。
【0095】
第1の重合工程および第2の重合工程とで重合反応条件をそれぞれどのように設定するかは、生成する重合体、使用する原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤、所望される分子量分布、低分子量体割合、耐熱性、熱安定性および生産効率などに応じて異なり得る。
【0096】
・脱揮工程
第2の反応槽20の抜き出し口21bから抜き出される重合体組成物(重合シロップ)は、上述のように、生成した重合体のほか、未反応の原料モノマーおよび重合開始剤などを含み得る。かかる重合体組成物は、本実施形態を限定するものではないが、脱揮等に付して原料モノマーを分離回収することが好ましい。
【0097】
具体的には、重合体組成物を抜き出しライン25を通じて、予熱器31に移送する。重合体組成物は、予熱器31にて、未反応の原料モノマーを主とする揮発性成分の揮発に必要な熱量の一部または全部が付与される。重合体組成物は、その後、圧力調整弁(図示せず)を介して脱揮押出機33に移送され、脱揮押出機にて揮発性成分が少なくとも部分的に除去され、残部の押出物はペレット状に成形されて、取り出しライン35から取り出される。これにより、メタクリル酸エステル系ポリマーを含む樹脂組成物がペレットの形態で製造される。
【0098】
上記重合体組成物の移送方法としては、特公平4−48802号公報に記載の方法が好適である。また、脱揮押出機を用いた方法としては、例えば特開平3−49925号公報、特公昭51−29914号公報、特公昭52−17555号公報、特公平1−53682号公報、特開昭62−89710号公報などに記載の方法が好適である。
【0099】
また、上記の脱揮押出機にて重合体組成物を脱揮押出する際に、またはその後に、必要に応じて、高級アルコール類、高級脂肪酸エステル類等の離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、着色剤、帯電防止剤等を、重合体組成物または押出物に添加して樹脂組成物に含めることができる。
【0100】
脱揮押出機33にて除去された揮発性成分は、未反応の原料モノマーを主成分とし、原料モノマーに元々含まれる不純物、必要に応じて用いられる添加剤、重合過程で生成する揮発性副生成物、ダイマーおよびトリマーなどのオリゴマー、重合開始剤分解物などの不純物などを含んで成る。一般に、不純物の量が増えると、得られる樹脂組成物が着色するので好ましくない。そこで、脱揮押出機33にて除去された揮発性成分(未反応の原料モノマーを主成分とし、上記のような不純物などを含んで成る)をモノマー回収塔(図示せず)に通し、モノマー回収塔にて蒸留や吸着等の手段によって処理し、上記揮発性成分から不純物を除去してよく、これによって、未反応の原料モノマーを高純度で回収することができ、重合用の原料モノマーとして好適に再利用できる。例えば、モノマー回収塔では、連続蒸留によりモノマー回収塔の塔頂からの留出液として未反応の原料モノマーを高純度で回収し、回収タンク37に貯留してから、原料モノマータンク1に移送してリサイクルしてもよいし、回収タンク37に貯留することなく、原料モノマータンク1に移送してリサイクルしてもよい。他方、モノマー回収塔で除去された不純物は、廃棄物として廃棄され得る。
【0101】
なお、回収した原料モノマーは、回収タンク37や原料モノマータンク1にて重合反応が進行しないように、回収タンク37または原料モノマータンク1中にて重合禁止剤を、例えば原料モノマーに対して2〜8重量ppmの割合で存在させることが好ましく、加えて、回収タンク37や原料モノマータンク1の気相部の酸素濃度を2〜8体積%に設定するとより好ましい。また、回収タンク37にて長期間に亘って保存したい場合には、例えば0〜5℃の低温にて貯留することが望ましい。
【0102】
以上、本発明の実施形態を通じて、本発明の重合体組成物の製造方法について詳述した。本発明によれば、少なくとも第1の反応槽および第2の反応槽を用いて重合を少なくとも2段で直列的に実施できるので、第1の重合工程と第2の重合工程とで重合反応条件、具体的には温度、時間(平均滞留時間)、連鎖移動剤(原料組成物に対する連鎖移動剤の割合)の量および重合開始剤(原料モノマーに対する重合開始剤の割合)の量などを個別に設定することができ、第1の重合工程を120〜160℃にて連鎖移動剤を入れて実施し、かつ、第2の重合工程を140〜180℃にて連鎖移動剤を追加して実施することにより、最終的に得られる樹脂組成物に含まれる重合体の分子量分布および低分子量体の割合を制御することができ、十分に広い分子量分布を有する樹脂組成物を得るのに適した重合体組成物をより効率的に製造することができる。特に、本発明では、第1および第2の反応槽に供給する連鎖移動剤の量で分子量分布を制御するだけでなく、第1および第2の反応槽内の重合温度を変化させることにより低分子量体の割合を変化させることができ、分子量分布を制御できる幅を広くすることができる。
【0103】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の改変が可能である。例えば、3つ以上の反応槽を用いて、重合を3段以上で直列的に実施してもよい。また、本発明の重合体組成物の製造方法は連続的に実施されるが、バッチ式で実施してもよい。
【0104】
本発明の製造方法によって得られる重合体組成物は、成形体の材料として好適に利用することができる。本発明の製造方法によって得られる重合体組成物を用いて製造される成形体は、高い耐溶剤性および成形流動性を有するという利点がある。得られる成形体は、テールランプカバー、ヘッドランプカバー、バイザーおよびメーターパネル等の車両用部材として好ましく利用される。
【実施例】
【0105】
以下、本発明の重合体組成物の製造方法の実施例を示すが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0106】
(実施例1)
本実施例においては、概略的には、図1を参照しながら上述した実施形態に従って、連続重合を2段で実施して、重合体組成物をペレット(樹脂組成物)の形態で製造した。より詳細には、以下の通りである。
【0107】
メタクリル酸メチル98.826質量部およびアクリル酸メチル0.935質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.139質量部、および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.840質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.160質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル96.868質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.116質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン3.016質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
【0108】
本実施例において重合体組成物を製造するために、図1に示す装置を用いた。第1の反応槽10として容量13Lの完全混合型反応槽を用い、第2の反応槽20として容量6Lの完全混合型反応槽を用いた。上記で調製した原料モノマー混合液1、重合開始剤混合液1および重合開始剤混合液2を、それぞれ原料モノマータンク1、重合開始剤タンク3および重合開始剤タンク17に入れた。
【0109】
原料モノマー混合液1と重合開始剤混合液1とを、それぞれ原料モノマータンク1および重合開始剤タンク3から、原料供給ライン9に通して第1の反応槽10へ、その下方に位置する供給口11aより連続的に供給した。
【0110】
原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の第1の反応槽10への供給は、これらの流量比が17.10:1.00となり、第1の反応槽10における平均滞留時間(θ1)が63.6分となるように実施した。第1の反応槽10内の温度(T1)は120℃であり、第1の反応槽10の外壁面を取り囲むジャケット13の温度を120℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第1の反応槽10が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0111】
第1の反応槽10内の反応混合物を第1の反応槽10の頂部に位置する抜き出し口11bより、中間組成物として連続的に抜き出した。抜き出した中間組成物を接続ライン15に通して第2の反応槽20へ、その下方に位置する供給口21aより連続的に供給した。接続ライン15には外壁面を取り囲むジャケットが設けられており、このジャケットを用いて、接続ライン15の内部を通る中間組成物が第1の反応槽内の温度と等しい温度(本実施例では120℃)を維持するように調整した。また、重合開始剤混合液2を重合開始剤タンク17から第2の反応槽20へ、別の供給口21cより連続的に供給した。
【0112】
中間組成物および重合開始剤混合液2の第2の反応槽20への供給は、これらの流量比が9.54:1.00となるように実施した。第2の反応槽20における平均滞留時間(θ2)は26.0分であった。第2の反応槽20内の温度(T2)は175℃であり、第2の反応槽20の外壁面を取り囲むジャケット23の温度を175℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第2の反応槽20が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0113】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)、[S2]を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2および中間組成物の総量における、第2の反応槽に新たに供給される連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]および[S2]を計算すると、それぞれ0.131重量%および0.286重量%となった。Q1を第1の反応槽から第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2の流量とすると、Q1=201.85cm/分、Q2=21.15cm/分となった。
【0114】
第2の反応槽20内の反応混合物を第2の反応槽20の頂部に位置する抜き出し口21bより、重合体組成物として連続的に抜き出した。これにより得られた重合体組成物を抜き出しライン25に通し、予熱器31にて200℃に加熱して、ベント付き脱揮押出機33にて、240℃で未反応の原料モノマー等の揮発性成分を除去し、脱揮後の樹脂組成物を溶融状態で押出して、水冷後、裁断してペレットとして取り出しライン35から取り出した。これにより、樹脂組成物がペレットの形態で製造された。
【0115】
重合率(x:重量%)は原料モノマー混合液1、重合開始剤混合液1および重合開始剤混合液2の単位時間当たりの供給重量と、ペレットの単位時間当たりの生産(取り出し)重量から求めた。
【0116】
実施例において、得られた樹脂組成物の分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。GPCの検量線の作成には、分子量分布が狭く分子量が既知の昭和電工(株)製のメタクリル樹脂を標準試薬として使用し、溶出時間と分子量から検量線を作成し、各樹脂組成物の分子量分布を測定した。
具体的には、得られたペレット状の樹脂組成物40mgをテトラヒドロフラン(THF)溶媒20mlに溶解させ、測定試料を作製した。測定装置には、東ソー(株)製のカラムである「TSKgel SuperHM−H」2本と、「SuperH2500」1本とを直列に並べて設置し、検出器にRI検出器を採用したものを用いた。
測定された分子量分布曲線は、横軸の分子量の対数をとることにより、正規分布関数を用いてフィッティングを行った。分子量分布曲線が単峰性である場合には、下記の(式1)の正規分布関数を用いてフィッティングを行った。また、分子量分布曲線が2峰性である、平均分子量の異なる2種類の重合体の混合物については、2つの正規分布関数の和(下記の(式2))で同様にフィッティングを行った。(式2)を用いたフィッティングにより得られた2つの正規分布関数の内、yが最大となるときのxの値が小さい関数を低分子量体成分とし、全体の面積に対する低分子量体の面積(以下、低分子量体面積比とも呼ぶ)を算出することで、樹脂組成物に含まれる重合体における低分子量体成分の割合に相関する値を算出した。フィッティングには、WaveMetrics社製解析ソフトIGOR PRO6.0を用いた。
【0117】
【数1】
ただし、A、BおよびCを定数とし、xを分子量の対数、yを濃度分率を分子量の対数値で微分した値とする。
【0118】
【数2】
ただし、A、B、C、D、EおよびFを定数とし、xを分子量の対数、yを濃度分率を分子量の対数値で微分した値とする。
【0119】
上述の手順により得られた分子量分布曲線を図2(a)および(f)に示す。なお、分子量分布曲線のグラフにおいて、「W」は濃度分率、「M」は分子量を意味する。
また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。ここで、MwおよびMnはそれぞれ、測定した樹脂組成物の重量平均分子量および数平均分子量である。
【0120】
(実施例2)
本実施例においては、以下の点を除いて、実施例1と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
実施例1と同様の組成で、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.823質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.177質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル96.900質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.084質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン3.016質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
第1の反応槽10内の温度(T1)は130℃とし、第1の反応槽10の外壁面を取り囲むジャケット13の温度を130℃とし、接続ライン15の内部を通る中間組成物が130℃の温度を維持するように調整した。
【0121】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、2つの正規分布関数の和でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図2(b)および(f)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0122】
(実施例3)
本実施例においては、以下の点を除いて、実施例1と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
実施例1と同様の組成で、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.838質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.162質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル96.921質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.063質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン3.016質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
第1の反応槽10内の温度(T1)は150℃とし、第1の反応槽10の外壁面を取り囲むジャケット13の温度を150℃とし、接続ライン15の内部を通る中間組成物が150℃の温度を維持するように調整した。
【0123】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、2つの正規分布関数の和でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図2(c)および(f)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0124】
(実施例4)
本実施例においては、以下の点を除いて、実施例1と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
メタクリル酸メチル98.826質量部およびアクリル酸メチル0.935質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.139質量部、および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.840質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.160質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル96.921質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.063質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン3.016質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
【0125】
原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の第1の反応槽10への供給は、これらの流量比が17.10:1.00となり、第1の反応槽10における平均滞留時間(θ1)が63.6分となるように実施した。第1の反応槽10内の温度(T1)は140℃であり、第1の反応槽10の外壁面を取り囲むジャケット13の温度を140℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第1の反応槽10が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0126】
第1の反応槽10内の反応混合物を第1の反応槽10の頂部に位置する抜き出し口11bより、中間組成物として連続的に抜き出した。抜き出した中間組成物を接続ライン15に通して第2の反応槽20へ、その下方に位置する供給口21aより連続的に供給した。
接続ライン15には外壁面を取り囲むジャケットが設けられており、このジャケットを用いて、接続ライン15の内部を通る中間組成物が140℃の温度を維持するように調整した。また、重合開始剤混合液2を重合開始剤タンク17から第2の反応槽20へ、別の供給口21cより連続的に供給した。
【0127】
中間組成物および重合開始剤混合液2の第2の反応槽20への供給は、これらの流量比が9.54:1.00となるように実施した。第2の反応槽20における平均滞留時間(θ2)は26.0分であった。第2の反応槽20内の温度(T2)は175℃であり、第2の反応槽20の外壁面を取り囲むジャケット23の温度を175℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第2の反応槽20が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0128】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)、[S2]を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2および中間組成物の総量における、第2の反応槽に新たに供給される連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]および[S2]を計算すると、それぞれ0.131重量%および0.286重量%となった。
Q1を第1の反応槽から第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2の流量とすると、Q1=201.85cm/分、Q2=21.15cm/分となった。
【0129】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、2つの正規分布関数の和でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図3(a)および(c)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0130】
(実施例5)
本実施例においては、以下の点を除いて、実施例4と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
メタクリル酸メチル98.871質量部およびアクリル酸メチル0.935質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.094質量部、および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.860質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.140質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル96.900質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.084質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン3.016質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
【0131】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)、[S2]を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2および中間組成物の総量における、第2の反応槽に新たに供給される連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]および[S2]を計算すると、それぞれ0.089重量%および0.286重量%となった。
Q1を第1の反応槽から第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2の流量とすると、Q1=201.85cm/分、Q2=21.15cm/分となった。
【0132】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、2つの正規分布関数の和でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図3(b)および(c)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0133】
(実施例6)
本実施例においては、以下の点を除いて、実施例1と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
メタクリル酸メチル98.856質量部およびアクリル酸メチル0.951質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.093質量部、および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.747質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.253質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル95.775質量部、アクリル酸メチル0.915質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.170質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン3.140質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
【0134】
原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の第1の反応槽10への供給は、これらの流量比が17.47:1.00となり、第1の反応槽10における平均滞留時間(θ1)が36.8分となるように実施した。第1の反応槽10内の温度(T1)は140℃であり、第1の反応槽10の外壁面を取り囲むジャケット13の温度を140℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第1の反応槽10が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0135】
第1の反応槽10内の反応混合物を第1の反応槽10の頂部に位置する抜き出し口11bより、中間組成物として連続的に抜き出した。抜き出した中間組成物を接続ライン15に通して第2の反応槽20へ、その下方に位置する供給口21aより連続的に供給した。
接続ライン15には外壁面を取り囲むジャケットが設けられており、このジャケットを用いて、接続ライン15の内部を通る中間組成物が140℃の温度を維持するように調整した。また、重合開始剤混合液2を重合開始剤タンク17から第2の反応槽20へ、別の供給口21cより連続的に供給した。
【0136】
中間組成物および重合開始剤混合液2の第2の反応槽20への供給は、これらの流量比が12.08:1.00となるように実施した。第2の反応槽20における平均滞留時間(θ2)は15.4分であった。第2の反応槽20内の温度(T2)は175℃であり、第2の反応槽20の外壁面を取り囲むジャケット23の温度を175℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第2の反応槽20が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0137】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)、[S2]を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2および中間組成物の総量における、第2の反応槽に新たに供給される連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]および[S2]を計算すると、それぞれ0.088重量%および0.240重量%となった。
Q1を第1の反応槽か第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合開始剤2の流量とすると、Q1=348.96cm/分、Q2=28.89cm/分となった。
【0138】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、2つの正規分布関数でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図4(a)および(c)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0139】
(実施例7)
本実施例においては、以下の点を除いて、実施例6と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
メタクリル酸メチル98.856質量部およびアクリル酸メチル0.951質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.093質量部、および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.747質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.253質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル92.692質量部、アクリル酸メチル0.915質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.183質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン6.210質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
【0140】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)、[S2]を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2および中間組成物の総量における、第2の反応槽に新たに供給される連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]および[S2]を計算すると、それぞれ0.088重量%および0.475重量%となった。
Q1を第1の反応槽から第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2の流量とすると、Q1=348.96cm/分、Q2=28.89cm/分となった。
【0141】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、2つの正規分布関数でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図4(b)および(c)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0142】
(比較例1)
本比較例においては、以下に示す通り、第2の反応槽20に重合禁止剤を供給して重合を停止させることにより、1段で重合を行った場合に相当する樹脂組成物を得て、その分子量分布を確認した。
メタクリル酸メチル98.956質量部およびアクリル酸メチル0.935質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.009質量部および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.816質量部および重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.184質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.99995質量部および重合禁止剤として2,6−ビス(tert−ブチル)−4−メチルフェノール0.00005質量部を混合して、重合禁止剤混合液を調製した。
【0143】
本比較例において樹脂組成物を製造するために、図1に示す装置を用いた。第1の反応槽10として容量13Lの完全混合型反応槽を用い、第2の反応槽20として容量6Lの完全混合型反応槽を用いた。上記で調製した原料モノマー混合液1、重合開始剤混合液1および重合禁止剤混合液を、それぞれ原料モノマータンク1、重合開始剤タンク3および重合開始剤タンク17に入れた。
【0144】
原料モノマー混合液1と重合開始剤混合液1とを、それぞれ原料モノマータンク1および重合開始剤タンク3から、原料供給ライン9に通して第1の反応槽10へ、その下方に位置する供給口11aより連続的に供給した。
【0145】
原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の第1の反応槽10への供給は、これらの流量比が17.10:1.00となり、第1の反応槽10における平均滞留時間(θ1)が63.6分となるように実施した。第1の反応槽10内の温度(T1)は175℃であり、第1の反応槽10の外壁面を取り囲むジャケット13の温度を175℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第1の反応槽10が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0146】
第1の反応槽10内の反応混合物を第1の反応槽10の頂部に位置する抜き出し口11bより、中間組成物として連続的に抜き出した。抜き出した中間組成物を接続ライン15に通して第2の反応槽20へ、その下方に位置する供給口21aより連続的に供給した。
接続ライン15には外壁面を取り囲むジャケットが設けられており、このジャケットを用いて、接続ライン15の内部を通る中間組成物が175℃の温度を維持するように調整した。また、重合禁止剤混合液を重合開始剤タンク17から第2の反応槽20へ、別の供給口21cより連続的に供給した。
【0147】
中間組成物および重合禁止剤混合液の第2の反応槽20への供給は、これらの流量比が9.54:1.00となるように実施した。第2の反応槽20における平均滞留時間(θ2)は26.0分であった。第2の反応槽20内の温度(T2)は175℃であり、第2の反応槽20の外壁面を取り囲むジャケット23の温度を175℃とし、実質的に熱の出入りのない断熱状態で連続重合を行った。この連続重合は、第2の反応槽20が反応混合物(混合液)で満たされて実質的に気相が存在しない状態(満液状態)で実施した。
【0148】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]を計算すると0.0085重量%となった。
Q1を第1の反応槽から第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合禁止剤混合液の流量とすると、Q1=201.85cm/分、Q2=21.15cm/分となった。
【0149】
第2の反応槽20内の反応混合物を第2の反応槽20の頂部に位置する抜き出し口21bより、重合体組成物として連続的に抜き出した。これにより得られた重合体組成物を抜き出しライン25に通し、予熱器31にて200℃に加熱して、ベント付き脱揮押出機33にて、240℃で未反応の原料モノマー等の揮発性成分を除去し、脱揮後の樹脂組成物を溶融状態で押出して、水冷後、裁断してペレットとして取り出しライン35から取り出した。これにより、樹脂組成物がペレットの形態で製造された。
【0150】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、1つの正規分布関数でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図2(d)および(f)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0151】
(比較例2)
本比較例においては、以下の点を除いて、実施例6と同様にして樹脂組成物をペレットの形態で製造した。
メタクリル酸メチル98.817質量部およびアクリル酸メチル0.951質量部を混合し、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.132質量部、および離型剤としてステアリルアルコール0.100質量部を加えて、原料モノマー混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル99.719質量部および重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.281質量部を混合して、重合開始剤混合液1を調製した。
メタクリル酸メチル97.930質量部、アクリル酸メチル0.915質量部、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.105質量部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン1.050質量部を混合して、重合開始剤混合液2を調製した。
【0152】
[S1]を第1の反応槽に供給される原料モノマー混合液1および重合開始剤混合液1の総量における連鎖移動剤の濃度(重量%)、[S2]を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2および中間組成物の総量における、第2の反応槽に新たに供給される連鎖移動剤の濃度(重量%)とし、流量比から[S1]および[S2]を計算すると、それぞれ0.125重量%および0.080重量%となった。
Q1を第1の反応槽から第2の反応槽に流入する中間組成物の流量、Q2を第2の反応槽に供給される重合開始剤混合液2の流量とすると、Q1=348.96cm/分、Q2=28.89cm/分となった。
【0153】
実施例1と同様に、重合率(x:重量%)を求めた。また、実施例1と同様に、得られた樹脂組成物について、GPCを測定し、分子量分布曲線を算出し、1つの正規分布関数でフィッティングした。得られた分子量分布曲線を図2(e)に示す。また、GPC測定結果から、低分子量体面積比および分子量分布Mw/Mnを求めた。
【0154】
実施例1〜7ならびに比較例1および2において、暴走反応や配管内閉塞あるいは反応槽内ゲル付着などの問題はなく、安定的に生産できた。
【0155】
実施例1〜7ならびに比較例1および2の結果を下記の表1に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
図2〜4より、実施例1〜7で得られた樹脂組成物の分子量分布曲線は何れも2峰性分布を示していることがわかる。従って、実施例1〜7における第1の重合工程および第2の重合工程において、平均分子量の異なる重合体(低分子量体および高分子量体)が作製されたことがわかる。これに対し、図2(d)〜(f)より、比較例1および2で得られた樹脂組成物の分子量分布曲線は何れも単峰性分布を示していることがわかる。従って、第2の反応槽20に重合禁止剤を供給し、1段で重合を行った比較例1では、平均分子量の異なる重合体を作製することができなかったことがわかる。また、[S1]/[S2]が1.7より小さい比較例2では、第1の重合工程および第2の重合工程においてほぼ同じ平均分子量の重合体が作製されたことがわかる。
また、表1より、実施例1〜7における分子量分布Mw/Mnは3.3〜5.2であり、分子量分布Mw/Mnが各々2.1および2.3である比較例1および2と比較して、分子量分布が広くなっていることがわかる。
以上より、連続塊状重合を2段で行い、[S2]/[S1]を1.7以上とすることにより、低分子量体および高分子量体を含み、かつ分子量分布の広い樹脂組成物を得ることができることがわかる。比較例2では、第2の反応槽に新たな連鎖移動剤を追加しているが、[S2]/[S1]の値が低いため、分子量分布を大きく広げることはできなかった。
【0158】
表1および図2(a)〜(f)から理解されるように、第2の反応槽内の温度T2を175℃に固定し、第1の反応槽内の温度T1を変えることで、GPCの分子量分布曲線における低分子量体成分の面積比を変えることができ、従って、樹脂組成物中の低分子量体の含有量を変化させることができる。具体的には、T1が高くなるにつれて、低分子量体成分の面積比が小さくなった。
表1および図3(a)〜(c)から理解されるように、[S2]の値を固定し、[S1]の値を下げることによって、高分子量体の分子量を上げることができ、分子量分布を広げることができる。
表1および図4(a)〜(c)から理解されるように、[S1]の値を固定し、[S2]の値を上げることによって、低分子量体の分子量を下げることができ、分子量分布を広げることができる。
これらのことより、分子量分布は、[S1]値、[S2]値のバランスに依存していることがわかる。
【符号の説明】
【0159】
1 原料モノマータンク(原料モノマーおよび場合により連鎖移動剤の供給源)
3 重合開始剤タンク
(重合開始剤ならびに場合により原料モノマーおよび連鎖移動剤の供給源)
5 ポンプ
7 ポンプ
9 原料供給ライン
10 第1の反応槽
11a 供給口
11b 抜き出し口
11c 別の供給口
13 ジャケット(温度調節手段)
14 攪拌機
15 接続ライン
17 重合開始剤タンク
(新たな原料モノマー、重合開始剤および連鎖移動剤の供給源)
19 ポンプ
20 第2の反応槽
21a 供給口
21b 抜き出し口
21c 別の供給口
23 ジャケット(温度調節手段)
24 攪拌機
25 抜き出しライン
31 予熱器
33 脱揮押出機
35 取り出しライン
37 回収タンク
T 温度センサ(温度検知手段)
図1
図2
図3
図4