(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む正極、負極、及びナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であって、前記負極が、CuFeO2を含むことを特徴とするナトリウム二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ナトリウム二次電池、特に、負極が、CuFeO
2であるものに関する。
【0014】
以下に、本発明のナトリウム二次電池の実施形態について説明する。
【0015】
本発明のナトリウム二次電池は、正極、負極及び電解質を少なくとも含む。正極はナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含むものであり、負極はCuFeO
2を含むものであり、電解質はナトリウムイオン導電性を有するものである。
【0016】
以下に本発明のナトリウム二次電池の構成要素について説明する。
【0017】
(1)負極
本発明では、負極は、上述の通り、CuFeO
2を含むものである。本明細書では、CuFeO
2を負極活性物質とも称する。
【0018】
まず、本発明のナトリウム二次電池に使用されるCuFeO
2の合成方法を説明する。負極活性物質であるCuFeO
2は、湿式法と固相法の双方で調製することができる。本発明では、10〜1000nmの粒径で合成ができる湿式法がより好ましい。
【0019】
以下に、湿式法によるCuFeO
2の合成方法について具体的に説明する。
【0020】
硝酸銅、硝酸鉄などの銅塩及び鉄塩を同等モル量秤量し、これをリンゴ酸水溶液又はエチルグリコールなどの溶媒に溶解する。その後、アンモニア水などでpH調整を行う。得られた溶液を蒸発皿で、100〜300℃程度に加熱し、溶媒を揮発させ、CuFeO
2の前駆体粉末を得る。この前駆体粉末をメノウ乳鉢で粉砕し、アルゴン雰囲気中や窒素雰囲気中などの還元雰囲気において、500〜900℃で3〜90時間焼成し、CuFeO
2粉末を得ることができる。
【0021】
次に、固相法によるCuFeO
2の具体的な合成方法について示す。
【0022】
酸化銅Cu
2O及び酸化鉄Fe
2O
3などの銅酸化物及び鉄酸化物を同等モル量秤量し、メノウ乳鉢で混合する。混合した粉末をプレス器によって所定形状(例えば13φ×1cm)のペレット状に成形し、アルゴン雰囲気中又は窒素雰囲気中などの還元雰囲気において、500〜1000℃で50〜180時間焼成して、CuFeO
2粉末を得ることができる。
【0023】
本発明では、負極活性物質であるCuFeO
2は、10〜1000nmの粒径を有していることが好ましい。これは、粒径が小さければ、活物質比表面積が増し、高容量化が実現するためである。
【0024】
なお、本明細書において、CuFeO
2の粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)による測定で計測したものをいう。具体的には、SEMにより、少なくとも100個のCuFeO
2粒子が存在している19×25μmの視野を任意に10箇所観察し、観察される粒径の90%以上が10〜1000nmの粒径に属しているものである。
【0025】
本発明のナトリウム二次電池の負極は、上記CuFeO
2と、カーボン粉末のようなカーボン材料とを混合したものを含むことが好ましい。
【0026】
このようなカーボン材料を含む負極は、例えば以下のような手段により調製することができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0027】
まず、カーボン粉末(例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック粉末などカーボン類)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)のような結着剤(バインダー)粉末、及び、CuFeO
2を混合し、次いでロールプレス機等の圧延機により圧延し、所定サイズに切り抜いてペレット状に成型することにより、負極を調製することができる。なお、カーボン粉末、結着剤等は、例えば市販試薬として入手可能である。
【0028】
本発明では、負極材料中のカーボン粉末と、CuFeO
2の均一性及び分散性を向上させ、二次電池の性能を改善するために、負極を製造する際に、カーボン粉末とCuFeO
2を混合し、ボールミル等の粉砕機により粉砕混合し、得られたボールミル(BM)処理混合物に、更に結着剤粉末を混合した後、上記のように圧延成形して負極を形成してもよい。
【0029】
或いは、前述のカーボン粉末、結着剤粉末及びCuFeO
2の混合物を有機溶剤(例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP))等の溶媒中に分散してスラリー状にした後、例えば銅箔又はアルミ箔のような金属箔上に塗布し、乾燥することによっても、負極を調製することができる。
【0030】
本発明では、CuFeO
2を含む負極の導電性を向上させるために、負極物質であるCuFeO
2を導電材料であるカーボン粒子と混合し、ボールミルで粉砕及び混合するボールミル処理を行うことが好ましい。このようなボールミル処理により、より優れた電池特性を得ることができる。ボールミル処理の時間は、9時間未満、好ましくは1〜7時間、より好ましくは、1〜5時間である。
【0031】
本発明では、陰極におけるCuFeO
2の含有量は、CuFeO
2、導電性材料及び結着剤の総量に基づいて60〜90重量%であることが好ましい。
【0032】
(2)正極
正極は、ナトリウム二次電池で使用可能な、ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含むものであれば特に限定されない。例えば、ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質として、金属ナトリウム、NaCrO
2、NaFeO
2、NaNi
1/2Mn
1/2O
2などのナトリウム複合酸化物等の化合物を挙げることができる。正極は、このようなナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を、例えばカーボン粉末のような導電性材料と混合したものであることが好ましい。
【0033】
上述の正極は、ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を用いる場合、例えば以下のような手段により調製することができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
まず、カーボン粉末(例えば、アセチレンブラック粉末、ケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)のような結着剤粉末、及び、ナトリウム複合酸化物などのナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質(本明細書において、正極活物質とも称する)を混合し、次いでロールプレス機等の圧延機により圧延し、所定サイズに切り抜いてペレット状に成型することにより、正極を作製することができる。
【0035】
或いは、前述のカーボン粉末、結着剤粉末及び正極活物質の混合物を有機溶剤(例えばNMP)等の溶媒中に分散してスラリー状にした後、例えばアルミ箔のような金属箔上に塗布し、乾燥することによっても、正極を作製できる。
【0036】
上述の正極に含まれる材料は、市販品として入手可能であるか、適宜合成により調製することができる。例えば、NaCrO
2のようなナトリウム複合酸化物は、市販試薬の炭酸ナトリウムNa
2CO
3及び酸化クロムCr
2O
3を、所定の割合で混合し、不活性雰囲気中で焼成することにより得ることができる。また、カーボン粉末、結着剤等は、例えば市販試薬として入手可能である。
【0037】
(3)電解質
上記の負極を含む本発明のナトリウム二次電池は、ナトリウムイオンを含む有機電解液又は水系電解液を電解質として用いることができる。更に、上記の負極を含むナトリウム二次電池は、ナトリウムイオンを通す固体電解質又はポリマー電解質を電解質として用いることもできる。
【0038】
電解質には、ナトリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF
6)などのナトリウムイオンを含む金属塩を、例えば炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)(体積比1:1)の混合溶媒、EC及び炭酸ジエチル(DEC)などのような混合溶媒、又は炭酸プロピレン(PC)のような単独溶媒に溶解した有機電解液を挙げることができる(但し、これらに限定されない)。更に、電解質には、NaOH水溶液、Na
2SO
4水溶液、NaClO
4水溶液などのナトリウムイオンを含む金属塩を水に溶解した水溶液(水系電解液)を挙げることができる(但し、これらに限定されない)。
【0039】
本発明のナトリウム二次電池の他の電解質として、ナトリウムイオン導電性を有する固体電解質[例えば、75Na
2S・25P
2S
5などのガラス状物質、Na
3Zr
2Si
2PO
12などのNASICON(Na
+ Super Ionic Conductor)]、ナトリウムイオン導電性を有するポリマー電解質(例えば、上記有機電解質とポリエチレンオキシド(PEO)をコンポジット化した物質)などを挙げることができるが、これらに限定されない。本発明では、ナトリウム二次電池で使用される公知のナトリウムイオンを通す固体電解質又はナトリウムイオンを通すポリマー電解質であれば使用することができる。
【0040】
本発明のナトリウム二次電池は、セパレータ、電池ケース等の構造材料などの他の要素を含むこともできる。これらの要素についても、従来公知の二次電池に用いられる各種材料が使用でき、特に制限はない。
【0041】
(4)ナトリウム二次電池の構成
上記のような正極、負極、電解液等を使用する電池はコイン形、円筒形、ラミネート形など従来の形状で作製することができる。そして、これらの二次電池の製造方法も従来と同様の方法を用いることができる。
【0042】
例えば、本発明のナトリウム二次電池は、例えば、
図1に示すような、正極及び負極と、これら両極に接する電解質からなる。本発明では、正極及び負極の間にセパレータが含まれていてもよい。有機電解質を電解質として用いる場合には、例えば、セパレータに電解質を含浸させて使用することができる。また、有機電解質は、ポリマー電解質等に含浸させてもよい。また、固体電解質、ポリマー電解質等を用いる場合には、両極がこれらに接するように配置すればよい。
【0043】
さらに、
図1には明記していないが、本発明のナトリウム二次電池は、正極、負極、電解質、セパレータ等を被う電池ケース等を含むことができる。本発明では、CuFeO
2を負極の材料として用いることが特に好ましい。
【0044】
より具体的な一実施形態としてはコインセル型二次電池を利用して本発明を適用することができる。
図3に示されるように、コインセル型二次電池は、正極1及び負極3を含み、これらの電極の間に電解液を含有したセパレータ2をさらに含む。さらに二次電池構造体は正極ケース4、ガスケット5、及び負極ケース6を含むことができる。この二次電池は、例えば、上記の正極1、負極3、及び電解液を含有したセパレータ2を、正極ケース4及び負極ケース6に所望の通りに配置し、各構成要素を配置した両ケースを固定することで調製することができる。
【0045】
本発明では、セパレータに代えて又は加えて、上述したような固体電解質、ポリマー電解質等を使用することができる。
【0046】
[実験例]
以下に図面を参照して、本発明のナトリウム二次電池についての実験例を詳細に説明する。なお、本発明は下記実験例に示したものに限定されるのではなく、本発明の趣旨及び範囲を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0047】
(実験例1)
対極に金属ナトリウムシートを用い、負極単独の性能評価を行った。
【0048】
(i)性能評価用テストセルの作製
性能評価用テストセルは、以下の手順で作製した。
【0049】
性能評価用セルでは、通常の電池とは異なる為に、正極および負極と標記せずに、作用極および対極と標記する。
【0050】
(a)CuFeO
2の合成法
CuFeO
2の合成法を以下に示す。
【0051】
Cu(NO
3)
2・3H
2O(関東化学、FW 241.60、Purity min. 99.9%)を8.0614g、Fe(NO
3)
3・9H
2O(関東化学,FW 404.00、Purity min. 99.0%)を13.6027g秤量し、リンゴ酸水溶液(蒸留水:約300ml、リンゴ酸(関東化学、FW 134.09、Purity min. 99.0%):13.5444g)に入れ、室温で撹拌しながら溶かした。その後、アンモニア水(関東化学)を加え、pH=2.5になるようにpH調整した。その溶液を蒸発皿にて、ドラフト内でホットスターラーを用い、撹拌しながら250〜300℃程度に加熱して溶媒を揮発させて、CuFeO
2のアモルファス前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末をメノウ乳鉢で15分粉砕し、アルゴン雰囲気中、750℃で10時間焼成し、CuFeO
2粉末を得た。得られた粉末をエックス(X)線回折測定した結果を
図2に示す。エックス線回折測定の結果、PDF(Powder Diffraction File:粉末X線回折による化合物の回折パターンをデータベース化したもの)01−075−2146とよく一致していることがわかった。また、このようにして作製したCuFeO
2はSEM観察により、粒径は500nm程度であり、本発明の10〜1000nmの範囲に合致することを確認した。
【0052】
CuFeO
2粉末、アセチレンブラック粉末(電気化学工業社製)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末(ダイキン社製)を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕混合し、次いで、ロール成形して、シートペレット状の電極(厚さ:0.2mm)を作製した。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。対極は、市販の試薬であるナトリウム塊(関東化学製)を、0.8mmの厚さまでプレスし、直径15mmの円形シート状に成型することによって作製した。電解液は、炭酸エチレン(EC)(キシダ化学製)と炭酸ジメチル(DMC)(キシダ化学製)を体積比1:1で混合して調製した混合溶媒に、1mol/Lの濃度でナトリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)(キシダ化学製)を溶解することにより調製した。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード社製)を用いた。
【0053】
性能評価用テストセルは、
図3に示すような2032コイン型のものを製造した。作用極は、上記のペレット電極を作用極ケース4にセットし、チタンメッシュ(ニラコ製)(図示せず)で覆い、その周縁部をスポット溶接により固定した。対極は、対極ケース6にチタンメッシュ(ニラコ製)(図示せず)をスポット溶接で固定し、その上にナトリウムシートを圧着することにより固定した。次に、ペレットを固定した作用極ケースに、セパレータ2をセットし、さらにセパレータ2に上記電解液を注入し、ナトリウムシートを固定した対極ケースを被せ、コインセルかしめ機で作用極ケース4及び対極ケース6をかしめることにより、ポリプロピレン製ガスケット5を含むコインセルを作製した。なお、性能評価用テストセルの作製は、露点が−85℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0054】
(ii)充放電試験
性能評価用テストセルの充放電試験は、市販の充放電測定システム(北斗電工社製)を用いて、作用極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧2.7V、放電終止電圧0.0Vの電圧範囲で行った。本実験例のナトリウム二次電池の充放電試験の測定は、25℃の恒温槽内(雰囲気は通常の大気環境下)で行った。
【0055】
本実験例で作製した性能評価用テストセルの充放電曲線を
図4に示す。図より、CuFeO
2は充放電が可能であり、初回可逆容量322mAh/g(CuFeO
2粉末重量当たりで規格化)、Na脱離時(Na二次電池の負極として利用した場合、放電に相当)の平均電位は1.3Vを示した。このように、CuFeO
2は、金属Na対極に対する電位が低いことから、負極として適用可能である。表1に、30サイクル目、50サイクル目の容量維持率を示す。表より、1サイクル当たり約0.5%程度の容量減少しか見られず、安定したサイクル特性を有していることが分かる。
【0057】
上記のように、本実験例によりCuFeO
2は、電位が低く負極として適用可能であり、サイクル特性に優れていることが分かった。
【0058】
(実験例2〜6)
対極に金属ナトリウムシートを用いて、ボールミル(BM)の効果を検証する為に、負極単独の性能評価を行った。
【0059】
CuFeO
2粉末とアセチレンブラック粉末を、BMで粉砕及び混合すること(ボールミル処理)により、電池性能の改善を試みた。
【0060】
CuFeO
2粉末とアセチレンブラック粉末(重量比70:25)をミキサー中で数分程度混合した。この混合物に、直径7mmのジルコニア製ボールを加え、1時間(実験例2)、3時間(実験例3)、5時間(実験例4)、7時間(実験例5)、9時間(実験例6)のBM処理を行った。なお、いずれのBM処理の場合も、CuFeO
2アセチレンブラック混合物とボールの混合比率は、重量比で1:10、BM処理時の回転速度は300rpmとした。
【0061】
得られたBM処理後のCuFeO
2アセチレンブラック混合物は、PTFE結着剤(バインダー)を更に加え、らいかい機で混合し、実験例1と同様にして作用極ペレットを作製した。このペレットを用いて、実験例1と同様にして、コインセルを作製した。また、充放電試験も、実験例1と同様に行った。
【0062】
充放電試験の結果を、表2に示す。なお、表2には、実験例1の結果を参考として併記した。
【0063】
BM処理時間が、5hまでは特性が著しく改善した。また、5hのBM処理において、50サイクル後の容量維持率も98%の高い値を達成した。これは、BM処理により、CuFeO
2粉末とアセチレンブラック粉末の接触性が向上し、粉末間の界面抵抗が減少したためであると推察される。一方、9hのBM処理(実験例6)では、容量などの電池性能は、実験例4に比較して低下した(但し、ナトリウム二次電池として、実験例1と同程度の特性を有しており、十分な特性を有する)。これは、BM処理時の局所的な熱の発生により、CuFeO
2の変性が起こったためであると考えられる。このように、本発明では、CuFeO
2をBM処理することにより、電池性能が改善することが明らかとなった。
【0065】
(実験例7)
(i)ナトリウム二次電池の作製
負極にCuFeO
2を用い、正極にNaCrO
2を用いて、ナトリウム二次電池を作製した。
【0066】
負極は、実験例4の条件で作製したCuFeO
2/アセチレンブラック混合物を用いた。
【0067】
正極には、クロム酸ナトリウムNaCrO
2を合成し、これを正極活物質として利用した。クロム酸ナトリウムNaCrO
2は以下の手順で合成した。市販試薬の炭酸ナトリウムNa
2CO
3(関東化学製)10.6gと酸化クロムCr
2O
3(関東化学製)15.2gを混合し、1000℃で6時間、アルゴン雰囲気中で焼成することによりクロム酸ナトリウムNaCrO
2を得た。
【0068】
NaCrO
2と、アセチレンブラック粉末(電気化学工業社製)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末(ダイキン社製)を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕及び混合し、次いで、ロール成形して、シートペレット状の電極(厚さ:0.5mm)を作製した。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード社製)を用いた。
【0069】
ナトリウム二次電池は、性能評価用テストセルと同様に
図3に示すような2032コイン型のものを製造した。正極は、上記のペレット電極を正極ケース4にセットし、チタンメッシュ(ニラコ製)(図示せず)で覆い、その周縁部をスポット溶接により固定した。負極は、負極ケース6にチタンメッシュ(ニラコ製)(図示せず)をスポット溶接で固定し、その上にナトリウムシートを圧着することにより固定した。次に、ペレットを固定した正極ケースに、セパレータ2をセットし、さらにセパレータ2に電解液(実験例1と同様のもの)を注入し、ナトリウムシートを固定した負極ケースを被せ、コインセルかしめ機で正極ケース4及び負極ケース6をかしめることにより、ポリプロピレン製ガスケット5を含むコインセルを作製した。なお、ナトリウム二次電池の作製は、露点が−85℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0070】
(ii)充放電試験
ナトリウム二次電池の充放電試験は、市販の充放電測定システム(北斗電工社製)を用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧3.0V、放電終止電圧1.2Vの電圧範囲で充放電試験を行った。電池の充放電試験は、25℃の恒温槽内(雰囲気は通常の大気環境下)で測定を行った。
【0071】
表3に、初回サイクルの平均放電電圧と可逆容量、30サイクル目、50サイクル目の放電容量維持率を示す。本発明によるナトリウム二次電池は充放電が可能であり、初回サイクルの可逆容量390mAh/g(負極活物質重量当たりで規格化)、平均放電電圧2.1Vを示した。表3に、30サイクル目、50サイクル目の放電容量維持率を併せて示す。表より、1サイクル当たり約0.2%程度の容量減少しか見られず、安定したサイクル特性を有していることが分かる。
【0073】
上記のように、本実験例によるナトリウム二次電池は、サイクル特性に優れ充放電可能であることが分かった。
【0074】
(実験例8)
実験例8は、本発明のナトリウム二次電池において固体電解質を用いた場合の例である。
【0075】
固体電解質としてNASICON(Na
3Zr
2Si
2PO
12)を、正極材料として実験例1で用いたNaCrO
2を含むものを、そして負極として実験例4の条件で作製したCuFeO
2アセチレンブラック混合物を、それぞれ用いた。
【0076】
NASICONディスクは、以下の手順で調製した。まず、ZrO(NO
3)
2・8H
2O(関東化学株式会社)、NH
4H
2PO
4(関東化学株式会社)、及びNa
2SiO
3・9H
2O(関東化学株式会社)を、Na:Zr:Si:P=3:2:2:1となるように混合し、850℃で仮焼成を行った。得られた粉末は、ペレット成型機でディスク状に成型し、1100℃で24時間の本焼成を行い作製した。
【0077】
実験例1と同様にして、コインセルを作製した。なお、固体電解質はコインセル内に収まるようにディスク(厚さ:約1mm)状に作製し、図示したセパレータ部分にセットした。また、正極/固体電解質/負極のそれぞれの界面に隙間ができないように、コインセルケースに任意の厚さのコインセルと同材質のディスク状のスペーサを溶接した。
【0078】
電池の充放電試験は、実験例1とほぼ同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.3mA/cm
2を通電し、充電終止電圧2.9V、放電終止電圧1.1Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0079】
充放電試験の結果を、表4に示す。表4には、参考として、実験例1の結果を併せて示した。実験例1と比較して、正極/電解質及び負極/電解質の界面の接触抵抗が増大するために、電圧は0.2Vの減少を示し、若干ではあるが放電容量も減少する。しかしながら、放電容量で示されるサイクル安定性に大きな変化は見られなかった。本実験例により、固体電解質を含む本発明によりナトリウム二次電池が作動可能であることが確認された。
【0080】
(実験例9)
実験例9は、本発明のナトリウム二次電池においてポリマー電解質を用いた場合の例である。
【0081】
電解質としてPEO系高分子電解質膜を、正極材料として実験例1で用いたNaCrO
2を、そして負極として実験例4の条件で作製したCuFeO
2アセチレンブラック混合物を、それぞれ用いた。
【0082】
PEO系高分子電解質膜(厚さ:約2mm)には、以下の通りに作製したものを使用した。PEO(Aldrich、Mw=6×10
5)と溶質であるNaTFSI(キシダ化学)がNa/O=1/18になるように10wt%のBaTiO
3フィラーとともにアセトニトリル溶媒(キシダ化学)に添加した。なお、BaTiO
3は、アルドリッチ製市販試薬(粒子径:<0.2μm)を用いた。一晩、攪拌した後に、得られた混合物をPTFE板上に塗布し、完全にアセトニトリルを揮発させた。その後、真空下で90℃、12時間乾燥することによってPEO系高分子電解質膜を得た。
【0083】
実験例1と同様にして、コインセルを作製した。なお、高分子電解質膜はコインセル内に収まるようにディスク状に切り抜き、図示したセパレータ部分にセットした。また、正極/固体電解質/負極のそれぞれの界面に隙間ができないように、コインセルケースに任意の厚さのコインセルと同材質のディスク状のスペーサを溶接した。
【0084】
電池の充放電試験は、実験例7とほぼ同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.3mA/cm
2を通電し、充電終止電圧2.9V、放電終止電圧1.1Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0085】
充放電試験の結果を、表4に示す。表4には、参考として、実験例1の結果を併せて示した。実験例7と比較して、正極/電解質及び負極/電解質の界面の接触抵抗が増大するために、電圧は0.2Vの減少を示し、若干ではあるが放電容量も減少する。しかしながら、放電容量で示されるサイクル安定性に大きな変化は見られなかった。本実験例により、ポリマー電解質を含む本発明によるナトリウム二次電池が作動可能であることが確認された。
【0086】
(実験例10)
実験例10は、本発明のナトリウム二次電池において水系電解質を用いた場合の例である。
【0087】
水系電解液として、8mol/L NaOH水溶液、正極として実験例7で用いたNaCrO
2を、そして負極として実験例4の条件で作製したCuFeO
2アセチレンブラック混合物を、それぞれ用いた。
【0088】
実験例1と同様にして、コインセルを作製した。
【0089】
電池の充放電試験は、実験例7とほぼ同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧1.5V、放電終止電圧0.5Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0090】
充放電試験の結果を、表4に示す。水系電解液を使用するため、放電電圧は1V級であり、電圧範囲が狭まる為に充放電容量も少なくなるが、50サイクル後の放電容量維持率は85%の高い値を達成した。なお、酸性の1mol/L Na
2SO
4水溶液中でも、同様の結果を示すことを確認した。これらの結果は、本発明によるCuFeO
2アセチレンブラック混合物が、水系電解液中でも負極材料として機能できることを示している。水系電解液は、一般的に、有機電解液よりも低価格であるため、ナトリウム二次電池の低コスト化に有利であると考えられる。
【0092】
(比較例)
比較例として、スズを負極材料に用いたナトリウム二次電池を作製し、評価した。
【0093】
コインセルは、上記実験例7と同様にして作製し、評価した。その結果を、表5に実験例7と比較して示す。
【0094】
本比較例による電池は、実験例7と比較して、初期特性においては、電圧や放電容量について優れた特性を示した。しかしながら、サイクルによる放電容量の減少は著しく、50サイクル後には、初期の約5%の放電容量しか得られなかった。
【0095】
一方、実験例7の場合、比較例よりも電圧や放電容量などの初期性能は劣る(但し、ナトリウム二次電池としては十分な性能を有する。)ものの、50サイクル後でも約89%放電容量が維持されており、安定性が高いことが分かった。このような比較例の放電容量の減少は、スズ単独の負極の場合、放電の際に、スズがナトリウムと合金化することにより負極活性物質が膨張し、電極からの剥離などにより、負極が失活したことが原因ではないかと考えられる。
【0097】
以上のように、本発明によるナトリウム二次電池は、安定した充放電サイクル特性を有した高性能電池あることが分かった。