特許第6003323号(P6003323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6003323レーザ媒質ユニット、レーザ増幅器及びレーザ発振器並びに冷却方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6003323
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】レーザ媒質ユニット、レーザ増幅器及びレーザ発振器並びに冷却方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/042 20060101AFI20160923BHJP
【FI】
   H01S3/042
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-159875(P2012-159875)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-22568(P2014-22568A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年3月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代素材等レーザー加工技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊山 功一
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 利幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義則
(72)【発明者】
【氏名】玉置 善紀
(72)【発明者】
【氏名】宮永 憲明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 尚徳
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−114162(JP,A)
【文献】 特開昭63−244692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0094689(US,A1)
【文献】 特開平10−041565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性元素が添加されており励起光が照射されることにより放出光を発生するレーザ利得媒質が、活性元素が添加されておらず、前記励起光及び前記放出光の双方を透過させる光学媒質の第1面と、前記第1面と反対側に位置する第2面とに、それぞれ複数接合されてなる、レーザ媒質体と、
前記レーザ媒質体を収容する容器であって、前記第1面に接合される複数の前記レーザ利得媒質及び前記第2面に接合される複数の前記レーザ利得媒質を冷却する冷却媒質を流す冷却媒質流路を有する前記容器と、
を備え、
前記冷却媒質流路は、複数の前記レーザ利得媒質のそれぞれに対して設けられており前記容器内の前記レーザ媒質体の配置空間に前記冷却媒質を供給する複数の供給流路部と、前記配置空間から前記冷却媒質を排出する排出流路部とを有し、
前記供給流路部の前記配置空間側の媒質流出口は、対応する前記レーザ利得媒質に対して設けられており、
前記媒質流出口は、対応する前記レーザ利得媒質に対する励起光の照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に向けて前記冷却媒質が流れるように配置されている、
レーザ媒質ユニット。
【請求項2】
前記媒質流出口は、対応する前記レーザ利得媒質に対する前記照射領域内の前記強度分布のうち強度の高い領域に対向して配置されている、請求項1記載のレーザ媒質ユニット。
【請求項3】
前記第1面に接合された複数の前記レーザ利得媒質と、対応する前記媒質流出口との間、及び、前記第2面に接合された複数の前記レーザ利得媒質と、対応する前記媒質流出口との間にそれぞれ配置されるヒートシンクを更に有する、
請求項1又は2記載のレーザ媒質ユニット。
【請求項4】
前記第2面に接合される複数の前記レーザ利得媒質の各々は、前記第1面に接合される複数の前記レーザ利得媒質の各々に対向している、
請求項1〜3の何れか一項記載のレーザ媒質ユニット。
【請求項5】
各前記レーザ利得媒質における前記照射領域に対向して複数の媒質流出口が設けられており、
前記媒質流出口の数は、前記照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に向けて少なくなっている、
請求項1〜4の何れか一項記載のレーザ媒質ユニット。
【請求項6】
前記容器は、隣接する前記供給流路部の前記媒質流出口を仕切るための仕切り壁を有する、
請求項1〜5の何れか一項記載のレーザ媒質ユニット。
【請求項7】
請求項1〜の何れか一項記載のレーザ媒質ユニットと、
光増幅されるべきレーザ光を前記光学媒質に前記励起光と同軸の光路で入射させる入射光学系と、
前記レーザ利得媒質によって増幅され前記励起光と同軸の光路で前記レーザ媒質体から出射された前記レーザ光を前記励起光の光路とは異なる方向に出力する出力光学系と、
を備える、
レーザ増幅器。
【請求項8】
請求項1〜の何れか一項記載のレーザ媒質ユニットと、
前記レーザ媒質ユニットが有する前記レーザ媒質体を、共振光路上に有する光共振器と、
を備えるレーザ発振器。
【請求項9】
活性元素が添加されており励起光が照射されることにより放出光を発生するレーザ利得媒質が、活性元素が添加されておらず、前記励起光及び前記放出光の双方を透過させる光学媒質の第1面と、前記第1面と反対側に位置する第2面とに、それぞれ複数接合されてなる、レーザ媒質体を冷却する方法であって、
前記第1面及び前記第2面それぞれに接合された複数の前記レーザ利得媒質のそれぞれに対応しており冷却媒質を供給する供給流路部を介して、各前記レーザ利得媒質に対する励起光の照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に前記冷却媒質を流して、複数の前記レーザ利得媒質を冷却する、
冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ媒質ユニット、レーザ増幅器及びレーザ発振器並びに冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ増幅器及びレーザ発振器等に使用されるレーザ媒質として、光学媒質の互いに対向する一対の側面それぞれにレーザ利得媒質が接合されたレーザ媒質体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011―114162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ媒質体内の温度勾配はレーザ品質の低下を招く傾向にある。そこで、例えば、特許文献1記載の技術では、各レーザ利得媒質における発熱の影響の違いを低減するために、レーザ利得媒質の厚さ又は活性元素のドープ量が調整されている。
【0005】
しかしながら、各レーザ利得媒質の厚さ又は活性元素のドープ量を調整しても、レーザ利得媒質による発熱の影響を低減できずに、レーザ品質の低下が生じる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、レーザ利得媒質の発熱の影響をより低減可能なレーザ媒質ユニット、それを含むレーザ増幅器及びレーザ発振器並びに冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るレーザ媒質ユニットは、活性元素が添加されており励起光が照射されることにより放出光を発生する少なくとも一つのレーザ利得媒質が、活性元素が添加されておらず、励起光及び放出光の双方を透過させる光学媒質の第1面と、第1面と反対側に位置する第2面とに、それぞれ接合されてなる、レーザ媒質体と、レーザ媒質体を収容する容器であって、第1面及び第2面それぞれに接続される少なくとも一つのレーザ利得媒質を冷却する冷却媒質を流す冷却媒質流路を有する容器と、を備える。冷却媒質流路は、容器内のレーザ媒質体の配置空間に冷却媒質を供給する供給流路部と、配置空間から冷却媒質を排出する排出流路部とを有する。供給流路部の配置空間側の媒質流出口は、各レーザ利得媒質に対して設けられている。媒質流出口は、対応するレーザ利得媒質に対する励起光の照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に向けて冷却媒質が流れるように配置されている。
【0008】
レーザ利得媒質に励起光が照射されると、励起光の吸収により発熱が生じる。この場合、上記照射領域において励起光の強度が高い方が、温度が高くなる傾向にある。上記構成では、媒質流出口からの冷却媒質が、励起光の照射領域内の強度の高い領域から低い領域に向けて流れる。すなわち、照射領域における高温部から低温部に向けて冷却媒質が流れる。従って、強度分布によって生じる照射領域内の温度の不均一性を、冷却媒質によって低減できる。その結果、照射領域内の温度均一性が向上するので、レーザ利得媒質の発熱の影響がより低減され得る。
【0009】
上記媒質流出口は、対応するレーザ利得媒質に対する照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域に対向して配置されていてもよい。
【0010】
この場合、媒質流出口からの冷却媒質は、上記強度の高い領域(高温部)にほぼ垂直に当たったのち、その周囲の領域、すなわち、より強度の低い領域(低温部)に向けて流れる。
【0011】
上記レーザ媒質ユニットは、第1面に接合された少なくとも一つのレーザ利得媒質と、対応する媒質流出口との間、及び、第2面に接合された少なくとも一つのレーザ利得媒質と、対応する媒質流出口との間にそれぞれ配置されるヒートシンクを更に有してもよい。
【0012】
この構成では、媒質流出口からの冷却媒質が直接レーザ利得媒質に当たらないので、レーザ利得媒質の劣化が防止され得る。
【0013】
第1面及び第2面それぞれに複数のレーザ利得媒質が接合されていてもよい。この形態では、第2面に接合される複数のレーザ利得媒質の各々は、第1面に接合される複数のレーザ利得媒質の各々に対向していてもよい。
【0014】
上記構成では、レーザ利得媒質の発熱による光学媒質の第1面側への影響が第2面側への影響と同じになりやすい。そのため、レーザ利得媒質の熱に起因して光学媒質に熱膨張などが生じても光学媒質にねじれが生じにくい。
【0015】
各レーザ利得媒質における照射領域に対向して複数の媒質流出口が設けられていてもよい。この形態では、媒質流出口の数は、照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に向けて少なくなっていてもよい。
【0016】
この場合、照射領域に対して複数の媒質流出口が配置されているので、レーザ利得媒質をより確実に冷却可能である。更に、媒質流出口の数が、照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に向けて少なくなっていれば、照射領域内の高温部が低温部より冷却され、照射領域内の温度分布の均一化を図り得る。
【0017】
本発明の他の側面に係るレーザ増幅器は、上記レーザ媒質ユニットと、光増幅されるべきレーザ光を光学媒質に励起光と同軸の光路で入射させる入射光学系と、レーザ利得媒質によって増幅され励起光と同軸の光路でレーザ媒質体から出射されたレーザ光を励起光の光路とは異なる方向に出力する出力光学系と、を備える。
【0018】
レーザ増幅器は、上記レーザ媒質ユニットを備えているので、レーザ光へのレーザ利得媒質の発熱の影響がより低減され得る。その結果、レーザ媒質ユニットで光増幅されたレーザ光の品質が向上する。
【0019】
本発明の更に他の側面に係るレーザ発振器は、上記レーザ媒質ユニットと、レーザ媒質ユニットが有するレーザ媒質体を、共振光路上に有する光共振器と、を備える。
【0020】
このレーザ発振器は、上記レーザ媒質ユニットを備えているので、レーザ発振器から出力されるレーザ光へのレーザ利得媒質の発熱の影響がより低減され得る。その結果、品質のよいレーザ光を出力可能である。
【0021】
本発明の更に他の側面に係る冷却方法は、活性元素が添加されており励起光が照射されることにより放出光を発生する少なくとも一つのレーザ利得媒質が、活性元素が添加されておらず、励起光及び放出光の双方を透過させる光学媒質の第1面と、第1面と反対側に位置する第2面とに、それぞれ接合されてなる、レーザ媒質体を冷却する方法である。この冷却方法では、第1面及び第2面それぞれに接合された少なくとも一つのレーザ利得媒質に対する励起光の照射領域内の強度分布のうち強度の高い領域から低い領域に冷却媒質を流して、少なくとも一つのレーザ利得媒質を冷却する。
【0022】
上記冷却方法では、媒質流出口からの冷却媒質が、励起光の照射領域内の強度の高い領域から低い領域に向けて流れる。すなわち、照射領域における高温部から低温部に向けて冷却媒質が流れる。従って、強度分布によって生じる照射領域内の温度の不均一性を、冷却媒質によって低減できる。その結果、照射領域内の温度均一性が向上するので、レーザ利得媒質の発熱の影響がより低減され得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レーザ利得媒質の発熱の影響をより低減可能なレーザ媒質ユニット、それを含むレーザ増幅器及びレーザ発振器並びに冷却方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】、一実施形態に係るレーザ媒質ユニットを備えたレーザ増幅器の構成を概略的に示す図面である。
図2図1に示したレーザ媒質ユニットが有するレーザ媒質体の斜視図である。
図3図1に示したレーザ媒質ユニット10Aの斜視図である。
図4図3のIV−IV線に沿った断面図である。
図5】容器が有する第1本体部及び第2本体部の構成を概略的に示す斜視図である。
図6】レーザ利得媒質に対する励起光の照射領域を模式的に示す図面である。
図7】供給流路部の噴出口の位置を説明するための図面である。
図8】レーザ媒質ユニットの変形例を示す断面図である。
図9】レーザ増幅器の変形例を示す模式図である。
図10】一実施形態に係るレーザ媒質ユニットを備えたレーザ発振器の構成を概略的に示す図面である。
図11】媒質流出口の配置の他の例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図面の説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0026】
図1は、一実施形態に係るレーザ媒質ユニットを備えたレーザ増幅器の構成を概略的に示す図面である。図1は、図3のI−I線に沿った断面図に対応する。図2は、図1に示したレーザ媒質ユニット10Aが有するレーザ媒質体16の斜視図である。
【0027】
レーザ増幅器1Aは、レーザ媒質ユニット10Aと、励起光L1を供給する励起光源部12a,12b,12c,12dと、増幅されるべき光(種光)としてのレーザ光L2を反射するミラー部14a,14b,14c,14dと、を有する。
【0028】
レーザ媒質ユニット10Aは、スラブ型のレーザ媒質体16が容器18に収容されて構成されている。容器18は、レーザ媒質体16を冷却するための冷却媒質をレーザ媒質体16に供給することによって、レーザ媒質体16を冷却する冷却装置でもある。冷却媒質の例は水であるが、液体窒素及びフッ素系不活性液体等も使用され得る。
【0029】
レーザ媒質体16は、光学媒質20に6枚のレーザ利得媒質22a,22b,22c,22d,22e,22fが貼り合わされた固体レーザ媒質体である。
【0030】
光学媒質20は、六角柱状を呈する薄い平板である。光学媒質20は、6枚の側面20a,20b,20c,20d,20e,20fを有する。側面20a〜20fは平坦面である。側面20a,20bの形状は同じであり、側面20c〜20fの形状が同じである。
【0031】
側面20bは側面20aに平行であって側面20aの反対側に位置する。側面20eは、側面20cと平行であって側面20cに対して反対側に位置している。同様に、側面20fは、側面20dと平行であって側面20dに対して反対側に位置している。
【0032】
側面20c,20fはそれぞれ側面20a,20bと交差する。側面20c,20fは、更に、互いに交差している。同様に、側面20d,20eはそれぞれ側面20a,20bと交差する。側面20d,20eは、更に、互いに交差している。
【0033】
図1に例示するように、側面20a(又は側面20b)に平行な仮想平面であって、側面20aの法線方向において、側面20aと側面20bとの間の中央に位置する上記仮想平面に対して、光学媒質20は対称であり得る。
【0034】
以下の説明では、図1及び図2に示した状態において、光学媒質20の高さ方向(光学媒質20の端面20gの法線方向)をz方向と称し、z方向に直交する方向をx方向及びy方向と称する。図1及び図2に示したように、x方向は、光学媒質20の長手方向に対応する。
【0035】
光学媒質20は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)からなる透明部材であり、光学媒質20は、励起光L1とレーザ光L2とを透過する。光学媒質20の大きさの一例は、x方向の長さが100mm、y方向の長さが15mm、及び、z方向の長さが30mmである。光学媒質20の大きさは、例示した大きさ(x,y及びz方向の長さ)に限定されない。レーザ利得媒質22a〜22fは、YAGに活性元素としてNdがドープされたものである。レーザ利得媒質22a〜22fは、励起光L1により励起されて放出光を出力する。放出光の一例は、誘導放出光である。この誘導放出光が、レーザ光L2の光増幅に寄与する。
【0036】
レーザ媒質体16は、レーザ利得媒質22a〜22cが、光学媒質20の側面(第1の面)20aに接合されると共に、レーザ利得媒質22d〜22fが、側面20aと反対側に位置する側面20bに接合されて構成されている。レーザ利得媒質22a〜22fは、例えば、セラミックコンポジット技術によって、光学媒質20に接合され得る。
【0037】
レーザ利得媒質22a〜22fの大きさ及び平面視形状(y方向から見た形状)は、側面20a,20bの形状及び大きさ並びにレーザ利得媒質22a〜22fに入射される励起光L1の径などに応じて設定され得る。レーザ利得媒質22a〜22fは、そこに入射される励起光L1の照射領域より大きければよい。レーザ利得媒質22a〜22fの大きさ及び平面視形状の例は、矩形及び正方形を含む。
【0038】
光学媒質20の側面20a〜20fのうちレーザ利得媒質22a〜22fが接合されていない側面20c,20d,20e,20fは、励起光L1及びレーザ光L2のうちの少なくとも一方が入射及び出射される入出射面である。
【0039】
励起光源部12a〜12dそれぞれは、側面20c,20d,20e,20fから入射される励起光L1を出力する。励起光源部12a〜12dは、レーザ利得媒質22a〜22fを励起し得る波長の光を出力する半導体レーザといった励起光源を含む。励起光源部12a〜12dは、励起光源から出力された励起光L1を集光する集光光学系を有していてもよい。
【0040】
ミラー部14a〜14dは、側面20c〜20fと、側面20c〜20fに対応する励起光源部12a〜12dとの間において、励起光源部12a〜12dからの励起光L1の光路上に配置されている。ミラー部14a〜14dは、励起光L1を透過すると共に、レーザ光L2を全反射する。
【0041】
ミラー部14aは、レーザ光L2を反射して、レーザ光L2を側面20cからレーザ媒質体16に入射させる。レーザ光L2は、例えば、ファイバーレーザといったレーザ光源から出力された光であり得る。レーザ光L2は、励起光源部12aからの励起光L1の光路の軸方向と異なる方向からミラー部14aに入射される。ミラー部14aは、励起光源部12aから出力された励起光L1の光路と同軸でレーザ媒質体16内をレーザ光L2が伝搬するように、レーザ光L2を反射するように配置されている。ミラー部14aは、レーザ光L2の入射光学系として機能する。図1では、ミラー部14aで反射されたレーザ光L2は、励起光L1に対して並列に示されているが、これは、レーザ光L2を明示するための便宜的なものである。同様に、図1において、励起光L1とレーザ光L2と並列されていることは、それらが同軸であることを示している。
【0042】
ミラー部14b,14cは、レーザ媒質体16の側面20dから出射されたレーザ光L2を、励起光源部12cからの励起光L1の光路と同軸でレーザ媒質体16に再入射させるように配置されている。ミラー部14b,14cは、レーザ光L2をレーザ媒質体16に再入射させるための再入射光学系として機能する。
【0043】
ミラー部14dは、側面20fから出射されたレーザ光L2を、励起光源部12dからの励起光L1の光路の軸方向と異なる方向に反射するように配置されている。ミラー部14dは、レーザ光L2の出力光学系として機能する。
【0044】
各励起光源部12a〜12dから出力された励起光L1は、ミラー部14a〜14dを透過した後、対応する側面20c〜20fからレーザ媒質体16に入射する。励起光L1のレーザ利得媒質22a〜22fへの入射角度は、レーザ利得媒質22a〜22fにおいて光学媒質20と反対側の面(以下、背面と称す)で励起光L1が全反射する角度である。
【0045】
背面に冷却媒質として水が供給される場合、水の屈折率1.33と、NdドープのYAGからなるレーザ利得媒質22a〜22fの屈折率1.82とから算出される臨界角は約47度である。従って、励起光L1のレーザ利得媒質22a〜22fへの入射角度は47度以上であり、例えば、約60度でもよい。
【0046】
レーザ媒質体16内に入射した励起光L1は、レーザ利得媒質22a〜22fの背面での全反射を利用してレーザ媒質体16内をジグザグに伝搬して、側面20c〜20fから出射される。
【0047】
具体的には、側面20cから入射した励起光L1は、レーザ利得媒質22f、レーザ利得媒質22b及びレーザ利得媒質22dの順にレーザ利得媒質22f,22b,22dを経て、側面20dから出射される。逆に、側面20dから入射した励起光L1は、レーザ利得媒質22d、レーザ利得媒質22b及びレーザ利得媒質22fの順に、レーザ利得媒質22d,22b,22fを経て、側面20cから出射される。側面20c,20dそれぞれから入力された励起光L1のパスは、互いに反対方向であり得る。
【0048】
側面20eから入射した励起光L1は、レーザ利得媒質22c、レーザ利得媒質22e及びレーザ利得媒質22aの順にレーザ利得媒質22c,22e,22aを経て、側面20fから出射される。逆に、側面20fから入射された励起光L1は、レーザ利得媒質22a、レーザ利得媒質22e及びレーザ利得媒質22cの順にレーザ利得媒質22a,22e,22cを経て、側面20eから出射される。側面20e,20fそれぞれから入力された励起光L1のパスは、互いに反対方向であり得る。
【0049】
励起光L1の一部は、レーザ媒質体16内における伝搬過程において、レーザ利得媒質22a〜22fに吸収され、レーザ利得媒質22a〜22fを励起する。
【0050】
側面20c〜20fへの励起光源部12a〜12dからの入射は、垂直入射が例示され得る。しかしながら、側面20c〜20fへの励起光源部12a〜12dからの励起光L1は、斜め入射でもよい。
【0051】
励起光源部12a〜12dからの励起光L1が、対応する側面20c〜20fに斜め入射する場合、励起光L1の側面20c〜20fへの入射角度は、上述した互いに反対方向に伝搬する励起光L1の光路の軸がレーザ媒質体16内で僅かにずれる程度が好ましい。これにより、レーザ媒質体16内においては、ある励起光(基準励起光と称す)の光路と、その励起光に対する対向励起光の光路が少しずれている一方、側面20c〜20fから出射する際に、基準励起光の入射方向と、対向励起光の出射方向は大きくずれる。その結果、励起光源部12a〜12dのうち基準励起光を出力した励起光源に対向励起光が入射することが防止され得る。
【0052】
レーザ光源部から供給されるレーザ光L2は、ミラー部14aによって反射され、励起光源部12aからの励起光L1と同軸で側面20cからレーザ媒質体16内に入射される。側面20cから入射された種光としてのレーザ光L2は、励起光L1と同じ光路を経て、側面20dから出射される。側面20dから出射された光は、ミラー部14b,14cで順に反射され、励起光源部12cからの励起光L1と同軸で側面20eからレーザ媒質体16内に再度入射される。側面20eからレーザ媒質体16に入射されたレーザ光L2は、励起光源部12cからの励起光L1と同様の光路を経て、側面20fから出射される。
【0053】
励起光L1により励起されたレーザ利得媒質22a〜22fにレーザ光L2が入射されると、誘導放出現象による放出光によってレーザ光L2が増幅される。そのため、レーザ媒質体16内を、レーザ利得媒質22a〜22fを順に入射しながらジグザグにレーザ光L2が伝搬することで、側面20fからは増幅されたレーザ光L2が出射される。
【0054】
側面20fから出射されるレーザ光L2は、ミラー部14dで反射されてレーザ増幅器1Aからの出力光として取り出される。
【0055】
なお、図1のレーザ光L2のレーザ増幅器1Aへの入射位置及びレーザ増幅器1Aからの出力位置は模式的なものである。励起光源部12a〜12d及びミラー部14a〜14dは、後述する容器18でレーザ光L2を遮らないように、配置されていればよい。
【0056】
次に、図3図5を利用して冷却装置として機能する容器18の構成について説明する。図3は、図1に示したレーザ媒質ユニット10Aの斜視図である。図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。図4では、冷却媒質Cの流れを白抜き矢印で示している。図5は、容器が有する第1本体部及び第2本体部の構成を概略的に示す斜視図である。
【0057】
容器18は、図3及び図4に示すように、第1本体部24と第2本体部24とが接合されて構成されている。
【0058】
図5に示すように、第1本体部24は、第2本体部24と対向する側の面(以下、対向面と称す)26aに、凹部28が形成されたベース部材26を有する。凹部28は、容器18内にレーザ媒質体16を配置するための配置空間28の一部を構成する。ベース部材26は、z方向に延在した板状体である。
【0059】
凹部28は、x方向に延在している。凹部28のx方向の幅は、側面20a(又は側面20b)のx方向の幅とほぼ同じであり、凹部28のz方向の幅は、側面20aのz方向の幅より広い。
【0060】
ベース部材26の対向面26aには、凹部28より深さの浅い凹部30が形成されている。凹部30のx方向の幅は、x方向における側面20aの幅より狭く、x方向に配置された3枚のレーザ利得媒質22a〜22cが凹部30内に配置される幅である。
【0061】
凹部28と凹部30とが交差する領域では、凹部30より深い凹部28の底部と凹部30の底部とを繋ぐ段差面が生じている。一実施形態において、段差面は、図5に例示したように、傾斜していても良い。
【0062】
ベース部材26には、冷却媒質Cをレーザ媒質体16に供給するための媒質供給部材32が、一体的に連結されている。媒質供給部材32は、y方向に延在しており3枚のレーザ利得媒質22a〜22c各々に対応する、冷却媒質Cの供給流路部34a〜34cを有する。
【0063】
同様に、第2本体部24は、第1本体部24と対向する側の面(以下、対向面と称す)26aに、凹部28と共に、配置空間28を構成する凹部28が形成されたベース部材26を有する。ベース部材26は、z方向に延在した板状体である。ベース部材26の対向面26aには、凹部28より深さが浅く、凹部30と対をなす凹部30が形成されている。凹部28,30の構造及び凹部30と凹部28との交差領域の構造は、第1本体部24の凹部28,30の構造及び凹部30と凹部28との交差領域の構造と同様であるため、説明を省略する。
【0064】
ベース部材26には、冷却媒質Cをレーザ利得媒質22d〜22fに供給するための媒質供給部材32が一体的に連結されている。媒質供給部材32は、y方向に延在しており3枚のレーザ利得媒質22d〜22f各々に対応する、冷却媒質Cの供給流路部34a〜34cを有する。
【0065】
図3及び図4に示すように、容器18において、第1本体部24と第2本体部24とは、対向面26a,26aが接するように接合されている。第1本体部24と第2本体部24との接合方法の例は、ネジ止めである。
【0066】
第1本体部24と第2本体部24とが接合されることによって、凹部28と凹部28とにより配置空間28が形成されると共に、凹部30と凹部30とにより冷却媒質Cの排出流路部30が形成される。この排出流路部30と、供給流路部34a〜34c及び供給流路部34a〜34cとは、冷却媒質流路を構成している。
【0067】
レーザ媒質体16は、配置空間28内に配置されている。レーザ媒質体16の側面20c及び側面20f及び側面20d及び側面20eは、励起光L1が入射され得るように、容器18から外側に突出している。x方向における配置空間28の両側、すなわち、x方向において互いに反対側に位置する容器18の側面に形成された開口部は、そこから冷却媒質Cが洩れないようにOリング36により封止されている。一実施形態において、Oリング36は、レーザ媒質体16が、配置空間28に保持する機能も有してもよい。Oリング36の代わりにパッキンが採用されてもよい。
【0068】
一実施形態において、レーザ媒質体16の端面20g及び端面20h上にはそれぞれ断熱材38が配置されてもよい。断熱材38の材料の例は、テフロン(登録商標)である。更に、断熱材38上には、冷却媒質Cを、供給流路部34a〜34c,34a〜34cの配置空間28側の端部である噴出口(媒質流出口)40a〜40c,40a〜40cから排出流路部30に流す流路を形成するための、テーパ板42が設けられてもよい。テーパ板42は、x方向に延びており、x方向に直交する断面の形状が三角形状の板であり得る。断熱材38及びテーパ板42のx方向の長さは、凹部30(又は凹部30)のx方向の長さと実質的に同じである。
【0069】
上記構成では、供給流路部34a〜34c,34a〜34cにそれぞれ冷却媒質Cが流れる配管を接続することによって、配置空間28に冷却媒質Cが供給され得る。配置空間28に供給された冷却媒質Cは、排出流路部30から排出される。排出流路部30には、冷却媒質Cを排出するための配管が接続され得る。このように、供給流路部34a〜34c,34a〜34c及び排出流路部30とで構成される冷却媒質流路に冷却媒質Cを流すことによって、レーザ利得媒質22a〜22fが冷却される。
【0070】
レーザ媒質ユニット10Aにおいて、供給流路部34a〜34c,34a〜34cの噴出口40a〜40c,40a〜40cと、レーザ利得媒質22a〜22fとの配置関係が重要である。この配置関係について説明する。
【0071】
供給流路部34a〜34c,34a〜34cの噴出口40a〜40c,40a〜40cと、対応するレーザ利得媒質22a〜22fとの配置関係は同じであるため、供給流路部34a〜34c,34a〜34c、噴出口40a〜40c,40a〜40c、及びレーザ利得媒質22a〜22fを、それぞれ供給流路部34、噴出口40及びレーザ利得媒質22とも称す。
【0072】
図6は、レーザ利得媒質に対する励起光の照射領域を模式的に示す図面である。励起光L1は、その進行方向に直交する断面において、通常、強度分布が生じている。強度分布の一例は、上記断面において、中央部分の強度が高く、周縁部に向けて強度が低下した強度分布である。ここでは、このような中央部分の強度がより高い強度分布を例にして供給流路部34の噴出口40と、レーザ利得媒質22との配置関係について説明する。
【0073】
レーザ利得媒質22に励起光L1は斜めに入射されるので、励起光L1の照射領域44は、図6に示すように楕円形状になる。励起光L1の中心部分の強度が高い場合、照射領域44において、中央部分の強度が高くなる。図6では、レーザ利得媒質22における励起光L1の照射領域44において、高強度部44aを破線で示している。高強度部分は、例えば、励起光L1の断面の強度分布において、最大強度の80%以上であり得るが、50%以上の領域であればよい。
【0074】
供給流路部34の噴出口40は、図7に示すように、高強度部44aに対向する位置に形成されている。図7は、供給流路部の噴出口の位置を説明するための図面である。図7においても、冷却媒質Cの流れ状態を白抜き矢印で示している。
【0075】
高強度部44aでは、レーザ利得媒質22による吸収がより多くなるので、高強度部44aは、その周囲を囲む低強度部44bに比べて高温になる傾向にある。そのため、例えば、レーザ利得媒質22の背面を、背面に平行に冷却媒質を流して背面を一様に冷却しても、励起光L1の照射領域44内で温度分布が生じる。このような温度分布は、屈折率を変化させるので熱レンズ効果及び波面歪み等により、ミラー部14dで反射されて取り出される出力光(出力ビーム)の品質の低下を生じさせる場合がある。
【0076】
図7に示したように、供給流路部34の噴出口40を高強度部44aに対向配置していることから、供給流路部34を流れてきた冷却媒質Cが噴出口40から噴出すると、冷却媒質Cは、レーザ利得媒質22の高強度部44aに対してほぼ垂直に当たる。冷却媒質Cは、高強度部44aに当たった後、その周囲の低強度部44bに向けて流れる。換言すれば、照射領域44の中央部分に冷却媒質Cが当たり、中央部分から照射領域44の周縁部に向けて冷却媒質Cが流れる。従って、供給流路部34の噴出口40が高強度部44aに対向配置した構成では、照射領域44のうち高温部を中心にしてレーザ利得媒質22が冷却され得る。その結果、照射領域44内の温度が均一になり易い。照射領域44における温度が均一になることで、上述した熱レンズ効果等によるビーム品質の低下が生じない。
【0077】
更に、供給流路部34に流れる冷却媒質Cの量を調整することによって、レーザ利得媒質22の冷却状態が調整され得る。よって、例えば、ミラー部14dで反射された出力光としてのレーザ光L2の状態をモニターしながら、冷却媒質Cの量を調整することで、より品質のよい出力光を得ることができる。更にまた、供給流路部34がレーザ利得媒質22に一対一に対応して設けられているので、異なるレーザ利得媒質22毎にそのレーザ利得媒質22の温度を調整し得る。異なるレーザ利得媒質22毎に、それに対応する供給流路部34からの冷却媒質Cで冷却するために、例えば、図1に示したように、凹部28,28の底面に、隣接する噴出口40を仕切るための仕切り壁が設けられてもよい。
【0078】
更に、図1及び図2に例示したような、側面20bに接合されたレーザ利得媒質22d〜22fが、側面20aに接合されたレーザ利得媒質22a〜22cに対向している形態では、レーザ利得媒質22a〜22fの上記配置状態によっても、出力光としてのレーザ光L2の品質が向上され得る。この点について説明する。
【0079】
レーザ利得媒質22d〜22f各々が、対応するレーザ利得媒質22a〜22cに対向していると、y方向における側面20a,20b間の中心位置における仮想平面であって、レーザ媒質体16を二等分する仮想平面に対して、レーザ利得媒質22a〜22fの発熱による温度分布が対称になりやすい。通常、励起光L1でレーザ利得媒質22a〜22fが励起されて生じた熱によりレーザ媒質体16に熱膨張が生じる。上記のように、側面20a側の温度分布と側面20b側の温度分布が対称になっていると、上記熱膨張によるレーザ媒質体16のねじれが抑制され易い。そのため、ねじれに起因するレーザ光L2への影響が低減され得る。その結果、出力光としてのレーザ光L2の品質が向上される。
【0080】
上記レーザ利得媒質22a〜22fの発熱によるレーザ媒質体16のねじれは、光学媒質20が、上記仮想平面に対して対称である場合に、更に低減され得る。また、光学媒質20が、例示したように、六角柱状であれば、側面20c,20d,20e,20fからそれぞれ励起光L1が入射され得る。この場合、各レーザ利得媒質22a〜22fの励起状態、すなわち、発熱状態が均一化しやすいので、レーザ利得媒質22a〜22fの発熱によるレーザ媒質体16のねじれの影響が更に低減され易い。
【0081】
図8は、図1に示したレーザ媒質ユニットの変形例を示す断面図である。図8に示したレーザ媒質ユニット10Bは、レーザ利得媒質22a〜22cに隣接してヒートシンク46が設けられており、レーザ利得媒質22d〜22fに隣接してヒートシンク46が設けられている点で、図1に示したレーザ媒質ユニット10Aと相違する。
【0082】
ヒートシンク46及びヒートシンク46の構成は同じであり得る。ヒートシンク46は、x方向に延在しており、レーザ利得媒質22a〜22cに対して一つ設けられている。同様に、ヒートシンク46は、x方向に延在しており、レーザ利得媒質22d〜22fに対して一つ設けられている。ただし、レーザ利得媒質22a〜22fそれぞれに対して、一つのヒートシンクが設けられていてもよい。
【0083】
ヒートシンク46,46の材料の例は、銅及びアルミニウムを含む。ヒートシンク46,46の厚みは、噴出口40a〜40c,40a〜40cから噴出される冷却媒質Cによって、高強度部44aを中心にレーザ利得媒質22a〜22fが冷却されるような厚みであればよい。ヒートシンク46,46の厚みの一例は、図6に示したように、照射領域44が楕円形の場合、高強度部44aの短辺の長さの半分程度であり得る。
【0084】
図8に示したように、ヒートシンク46,46を備える場合には、レーザ利得媒質22a〜22fのヒートシンク46,46側の面、すなわち、背面は、高反射コーティングが施されていてもよい。これにより、レーザ利得媒質22a〜22fの背面で励起光L1及びレーザ光L2が確実に反射され、レーザ媒質体16内を、励起光L1及びレーザ光L2がジグザグに伝搬可能である。
【0085】
レーザ媒質ユニット10Bは、レーザ媒質ユニット10Aと、少なくとも同様の作用効果を奏する。レーザ媒質ユニット10Bは、ヒートシンク46,46を備えているので、レーザ媒質ユニット10Bでは、冷却媒質Cがレーザ利得媒質22a〜22fに直接当たることによるレーザ利得媒質22a〜22fの劣化が防止できる。
【0086】
図9は、図1に示したレーザ増幅器の変形例を示す模式図である。図9に示したレーザ増幅器1Bは、ミラー部14aの前段に偏光ビームスプリッタ48を設けると共に、ミラー部14dと側面20fとの間に偏光回転素子50を設けている点で、レーザ増幅器1Aと相違する。この相違点以外のレーザ増幅器1Bの構成は、レーザ増幅器1Aの構成と同様である。従って、図9では、容器18の記載は省略している。レーザ媒質体16と容器18とを含むレーザ媒質ユニットとしては、図1に示したレーザ媒質ユニット10Aの構成でもよいし、図8に示したレーザ媒質ユニット10Bの構成でもよい。
【0087】
レーザ増幅器1Bでは、レーザ光L2は、偏光ビームスプリッタ48を通過した後、ミラー部14aで励起光L1と同軸の光路に導かれる。その後、レーザ利得媒質22f,22b,22dの順にレーザ利得媒質22f,22b,22dを経た後、側面20dから出射される。側面20dから出射されたレーザ光L2は、ミラー部14b及びミラー部14cでの反射を経た後、側面20eから再びレーザ媒質体16に入射される。
【0088】
側面20eから入射したレーザ光L2は、レーザ利得媒質22c,22e,22aの順にレーザ利得媒質22c,22e,22aを経た後、側面20fから出射される。側面20fから出射されたレーザ光L2は、偏光回転素子50を通過した後、ミラー部14dで反射される。その後、側面20cからレーザ光L2が入射された後のレーザ光L2の光路と同様の光路を逆方向に伝搬して、側面20cから出射される。レーザ増幅器1Bでは、ミラー部14dは、レーザ光L2をレーザ媒質体16に再入射させるための再入射光学系の一部として機能する。側面20cから出射されたレーザ光L2は、偏光ビームスプリッタ48に入射される。
【0089】
側面20cから出射された後、偏光ビームスプリッタ48に入射されたレーザ光L2は、偏光回転素子50を通過しているので、偏光方向の角度が変わっている。そのため、偏光ビームスプリッタ48によって反射され、出力光として取り出される。
【0090】
レーザ増幅器1Bは、レーザ増幅器1Aの場合と同様のレーザ媒質ユニット10Aを備えるので、少なくとも、レーザ増幅器1Aと同様の作用効果を有する。
【0091】
(第2の実施形態)
図10は、一実施形態に係るレーザ媒質ユニットを備えたレーザ発振器の構成を概略的に示す図面である。
【0092】
図10に示したレーザ発振器2は、レーザ媒質ユニット10Aと、励起光源部12a〜12dと、ミラー部14a〜14eとを有する。レーザ発振器2の構成は、ミラー部14dと、側面20fとの間にミラー部14eが配置されている点で、主に図1に示したレーザ増幅器1Aの構成と相違する。
【0093】
レーザ発振器2は、レーザ媒質ユニット10Aが有するレーザ媒質体16に励起光L1を供給することによって、レーザ光L3を生成する。
【0094】
ミラー部14eは、励起光L1を透過し、レーザ光L3を部分反射する。ミラー部14eは、ミラー部14a〜14cと共に、光共振器を構成する。換言すれば、ミラー部14a〜14c,14e間で、レーザ光L3が繰り返し反射するように、ミラー部14a〜14c,14eは配置されており、ミラー部14a〜14c,14e間のレーザ光L3の共振光路内にレーザ媒質体16が配置されている。
【0095】
上記構成では、励起光源部12a〜12dから出力された励起光L1は、レーザ増幅器1Aの場合と同様にして、レーザ利得媒質22a〜22fを励起する。励起されたレーザ利得媒質22a〜22fからの放出光としてのレーザ光L3は、ミラー部14a〜14c,14e間で反射し、光増幅される。ミラー部14eを部分的に透過したレーザ光L3は、ミラー部14dによって、励起光源部12dからの励起光L1の光路の軸と異なる方向に反射される。ミラー部14dで反射されたレーザ光L3が、レーザ発振器2からの出力光である。
【0096】
レーザ発振器2においても、レーザ媒質ユニット10Aを備えているので、レーザ利得媒質22a〜22fの発熱の影響を低減できる。その結果、ビーム品質の良いレーザ光L3を出力可能である。
【0097】
レーザ発振器2において、レーザ媒質ユニット10Aの代わりにレーザ媒質ユニット10Bを採用してもよい。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されずに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0099】
例えば、一つのレーザ利得媒質22に対応して、図11に示すように、複数の噴出口40が設けられていてもよい。図11は、媒質流出口の配置の他の例を示す図面である。
【0100】
複数の噴出口40は、照射領域44の大きさ又は強度分布に応じて、照射領域44内の温度をより均一にし得るように配置されていればよい。例えば、図6では、照射領域44における強度分布を2つの領域に分けているが、強度分布は強度に応じて複数の領域に分けられてもよい。この場合、複数の噴出口40が形成される面(すなわち、凹部28,28の底面)のうち複数の強度領域に対応する領域に、それぞれの強度領域の強度に応じて噴出口40が配置され得る。具体的には、強度のより高い領域に対向する部分には、より多くの噴出口40を配置し、強度が低くなる領域に対向する部分に向けて噴出口40の数が減少するような配置が例示され得る。
【0101】
なお、図11に示した複数の噴出口40の群の形成領域は、図5に示した一つの噴出口40の形成領域と同じ大きさであってもよい。この場合、図11に示した複数の噴出口40の径は、図5に示した噴出口40より小さい。
【0102】
レーザ増幅器1A,1Bは、図1及び図9に示した構成において、励起光源部12b,12cを備えない構成でもよい。同様に、図10に示したレーザ発振器2では、励起光源部12b,12cを備えなくてもよい。
【0103】
レーザ利得媒質22a〜22fの厚さ及び活性元素のドープ量は、レーザ利得媒質22a〜22fの温度が互いにほぼ等しくなるように異なっていても良い。
【0104】
レーザ媒質体16において、側面20bに接合されたレーザ利得媒質22d〜22fは、側面20aに接合されたレーザ利得媒質22a〜22cと対向配置されていなくてもよい。側面20a,20bそれぞれには少なくとも一つのレーザ利得媒質が接合されていればよい。レーザ媒質体16が有する光学媒質20は六角柱状に限定されず、他の多角柱状でもよい。例えば、光学媒質20の形状は、五角柱状でもよい。この場合、図1に示したz方向から光学媒質20を見た場合、光学媒質20の形状は台形形状であり得る。励起光源部の数及びその配置並びにミラー部の数及びその配置は、光学媒質の形状及びレーザ利得媒質の配置位置に応じて、レーザ増幅器又はレーザ発振器に適用され得るように適宜配置されていればよい。
【0105】
容器18は、第1本体部24及び第2本体部24が接合された構成に限定されず、第1本体部24及び第2本体部24の構成も図4を用いて説明した構成に限定されない。容器18は、レーザ媒質体16が配置される配置空間28が確保されていると共に、これまで説明したように、照射領域44の強度の高い領域から低い領域に向けて冷却媒質Cが流れるように噴出口40を配置できる構成であればよい。
【0106】
光学媒質20の材料は、YAGに限定されないと共に、レーザ利得媒質22a〜22fに添加する活性元素はNdに限定されない。レーザ増幅器やレーザ発振器といった固体レーザ装置に使用される光学材料及び活性元素であればよい。光学媒質の材料の他の例は、(GGG:ガドリニウム ガリウム ガーネット(GdGa12))が例示され得る。また、活性元素の他の例は、Ybが例示され得る。また、レーザ増幅器及びレーザ発振器は、励起光源部を備えた構成としたが、レーザ媒質体に励起光が入射され得る構成であればよい。
【符号の説明】
【0107】
1A,1B…レーザ増幅器、2…レーザ発振器、10A,10B…レーザ媒質ユニット、14a〜14d…ミラー部、14e…ミラー部(光共振器の一部)、16…レーザ媒質体、18…容器、20…光学媒質、20a…側面(第1面)、20b…側面(第2面)、22a,22b,22c…レーザ利得媒質(第1面に接合されたレーザ利得媒質)、22d,22e,22f…レーザ利得媒質(第2面に接合されたレーザ利得媒質)、28…配置空間、30…排出流路部、34,34a〜34c,34a〜34c…供給流路部、40,40a〜40c,40a〜40c…噴出口(媒質流出口)、44…照射領域、44a…高強度部(照射領域のうち強度の高い領域)、44b…低強度部(照射領域のうち強度の低い領域)、46,46…ヒートシンク、C…冷却媒質。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11