(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記重合工程(a)において、非プロトン性極性溶媒の割合がアルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物中の硫黄原子1モルに対し1.0〜6.0モルの範囲である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
前記重合工程(a)において、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合がアルカリ金属硫化物中またはアルカリ金属水硫化物中の硫黄原子1モルに対して0.5〜10ミリモルの範囲である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
前記重合工程(a)において、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液は、下記工程1〜3を経て製造されたものである請求項1〜3の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(1)アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液に非プロトン性極性溶媒を加えて混合し、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を調製する工程1
(2)アルカリ金属含有無機塩、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を蒸留して、水を除去すると伴に、アルカリ金属含有無機塩を析出させる工程2
(3)析出させたアルカリ金属含有無機塩を固液分離することによって除去し、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液を回収する工程3
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、下記一般式(1)
【0017】
【化3】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液と、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを混合し、前記非プロトン性極性溶媒中で、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と非プロトン性極性溶媒を含む粗反応混合物を得る重合工程(a)、
前記粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得る固液分離工程(a)、
固液分離工程で得られた前記反応混合物を水と接触させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別し、該ポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する精製工程(a)、を有する。
【0018】
<重合工程(a)>
重合工程(a)は、まず、下記一般式(1)
【0019】
【化4】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液と、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを混合する工程である。
【0020】
本発明の重合工程(a)において使用するカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液は、例えば、以下の工程1〜3を経て製造することができる。
【0021】
・工程1
工程1は、アルカリ金属含有無機塩および下記一般式(1)
【0022】
【化5】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液に非プロトン性極性溶媒を加えて混合し、アルカリ金属含有無機塩、前記一般式(1)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を調製する工程である。
【0023】
ここで、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液の調製は、少なくとも、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液であって、水溶液中にアルカリ金属含有無機塩を0.1〜26質量%の範囲および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を0.01〜5質量%の範囲で含有するよう行い、かつ、実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂を含まないよう行う。アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液の調整方法は、上記組成を調製できればいかなる方法でも問題ないが、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水にアルカリを加えてpH10.0〜13.0に調整し、40〜90℃の範囲に加熱して溶解させればよい。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂重合の精製工程で得られる、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を用いることもできる。ただし、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液が実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂を含有しないとは、基本的には検出限界以下であることを指すものとするが、下記ポリアリーレンスルフィド樹脂の精製工程で調整される場合には、精製処理の方法やその度合いに応じて極微量のポリアリーレンスルフィド樹脂が含有される場合があり、その濃度は、該水溶液中のポリアリーレンスルフィド樹脂濃度1ppm以下、多い場合でも5ppm以下である。
【0024】
アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液をポリアリーレンスルフィド樹脂重合の精製工程で得る方法としては、非プロトン性極性溶媒と、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを混合し、該非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と非プロトン性極性溶媒を含む粗反応混合物を得る重合工程(b)、該粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得る固液分離工程(b)、該反応混合物を水と接触させてポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別し、該アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を回収する精製工程(b)を経る方法を挙げることができる。
【0025】
・・重合工程(b)
重合工程(b)で用いるポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p−ジクロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp−ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0026】
また、枝分かれ構造とすることによってポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4−トリクロルベンゼン、1,3,5−トリクロルベンゼン、1,4,6−トリクロルナフタレン等が挙げられる。
【0027】
更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6−ジクロルアニリン、2,5−ジクロルアニリン、2,4−ジクロルアニリン、2,3−ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4−トリクロルアニリン、2,3,5−トリクロルアニリン、2,4,6−トリクロルアニリン、3,4,5−トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。
【0028】
また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0029】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0030】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4−ジニトロクロルベンゼン、2,5−ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2−ニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5−ジクロル−3−ニトロピリジン、2−クロル−3,5−ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0031】
また、重合工程(b)で用いるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0032】
また、重合工程(b)で用いるアルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0033】
また、重合工程(b)で用いるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0034】
また、重合工程(b)で用いる非プロトン性極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがさらに好ましい。
【0035】
重合工程(b)におけるポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200〜330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1〜20MPaの範囲、好ましくは0.1〜2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル〜5.0モルの範囲、好ましくは0.8〜1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9〜1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0〜6.0モルの範囲、好ましくは2.5〜4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05〜0.3モル、より好ましくは0.01〜0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0036】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の架橋剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が挙げられる。
【0037】
このうち1)〜4)の重合方法でポリアリーレンスルフィド樹脂を製造すると、副生成物の生成がより多くなるため、精製後の廃水中に含まれるCOD値も高い傾向にある。このため、特に1)〜4)の重合方法でポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する場合に、本発明の方法により、廃水中のCOD原因物質であるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を低減することが好ましい。
【0038】
なお、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造時に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として、例えば、非プロトン性極性溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、ポリハロ芳香族化合物がp−ジクロロベンゼンである場合には前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、下記一般式(3)
【0039】
【化6】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表されるものが得られる(この化合物を“CP−MABA”と略記する)。
【0040】
・・固液分離工程(b)
続いて、前記粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得る固液分離工程(b)を行う。
【0041】
すなわち、固液分離工程(b)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合終了後に得られた、ポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と前記非プロトン性極性溶媒を含む粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂およびアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得る工程である。該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、減圧下に加熱して溶媒を留去することにより行われる。
【0042】
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する方法であり、一般的に、反応釜内で反応スラリーを冷却後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を晶析させた後に固液分離する方法が挙げられる。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。フラッシュ法は、固形物を比較的簡便に回収することができる点で好ましく、クウェンチ法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の粒度を制御しやすい点や晶析時にポリマー粒子にアルカリ金属含有無機塩やその他の不純物を取り込みにくくなるため、高純度のポリマーが得られる点で好ましい。
【0043】
・・精製工程(b)
続いて、前記反応混合物を、水と接触させてポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別することによって、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を調製する精製工程(b)を行う。
【0044】
精製工程(b)において、前記反応混合物を、水と接触(以下、「水洗」ということがある)させた後、固液分離しポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別する方法としては、例えば、前記粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0045】
前記水洗の際に反応スラリーに加える水の量は最終的に得られるポリアリーレンスルフィドの理論収量に対して2倍〜10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2〜10回、好ましくは2〜4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、水温50℃〜100℃の範囲、洗浄効率が良好となる点から、なかでも70℃〜90℃の範囲で行うことが好ましい。前記水洗は、一回または複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0046】
濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂には、微量のアルカリ金属含有無機塩やカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が残留していることがあるため、さらに100〜275℃の範囲の水と接触させた後に固液分離し(以下、「熱水洗」ということがある)、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別し、残留していたアルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を抽出することができ、この水溶液も本発明に用いることができる。
【0047】
熱水洗の温度は、例えば、120〜275℃の範囲であることが、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の抽出効率が良好となる点から好ましい。更に具体的には、反応器内の気相の圧力を0.2〜4.6MPaなる条件下、140〜260℃の熱水で抽出処理を行うことが好ましい。このような熱水処理によりポリアリーレンスルフィド樹脂中に包含されて残留しているアルカリ金属や前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物をより効率よく水中に抽出することができ、続いてポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別することによってアルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を得ることができる。
【0048】
このような熱水洗を行う具体的方法は、前記の水洗後に濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂を圧力容器中において所定の圧力条件及び温度条件下に水で攪拌下に洗浄する方法が挙げられる。熱水洗時の水量はポリアリーレンスルフィドの質量に対して1.5倍〜10倍であることが、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の抽出効率が良好となる点から好ましく、この量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行ってもよい。例えば、熱水洗を2回繰り返す場合、1回目の熱水洗と2回目の熱水洗の間にはろ過を行い、1回目の熱水洗で抽出したカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を除去することが好ましい。また、熱水洗を一回実施した後に濾過を行い、前記した水洗を実施しても良い。この操作によってもカルボキシアルキルアミノ基含有化合物の除去がより促進される。また1回目の熱水洗工程と2回目の熱水洗工程の条件は前記の条件より任意に選ぶことができるものの、1回目の熱水洗工程の温度は例えば120℃〜200℃の範囲にある温度に設定して、まず高アルカリ性の濾液を濾別して除去した後に、2回目の熱水洗工程の温度を1回目の熱水洗工程の温度より高い温度、例えば150℃〜275℃の範囲にある温度に設定して実施することが前記熱水洗で用いられる装置の耐薬品性の観点から好ましい。
【0049】
なお、固液分離(b)前、熱水洗前、熱水洗時あるいは熱水洗後に酸や塩基を添加してpH調整をすることができ、特にカルボキシアルキルアミノ基含有化合物において式中Xがアルカリ金属原子となり水に抽出され易くなることから、熱水洗後のpHが11.0以上13.0未満の範囲になるように制御することが好ましい。その際に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸、酢酸、シュウ酸が好ましい。また、常圧または加圧下で炭酸ガスを導入し接触させても良い。一方、塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0050】
精製工程(b)において行う水洗は、撹拌機を有する水洗槽や、固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うことができる。また、100℃を超える熱水洗でも、撹拌機を有する水洗槽や、固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器内で行うことができる。本発明において、水洗ないし熱水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0051】
なお、濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、その後、そのまま乾燥してポリアリーレンスルフィド樹脂粉末を得ても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のポリアリーレンスルフィド樹脂として調製することができる。
【0052】
上記の1)〜4)の重合方法を経由して調整されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液は、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を多く含む傾向にあり、その量は水洗工程での洗浄の程度にもよるが、工業的な観点から一般的に2000〔mg/L〕以上、より水洗浄を行ったものでも1500〔mg/L〕以上の割合である。また、上記の5)の重合方法を経由して調整されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液では、一般的に1500〔mg/L〕以上、より水洗浄を行ったものでも1100〔mg/L〕以上の割合である。
【0053】
このようにして調製されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液は、次に、非プロトン性極性溶媒を加えて混合し、アルカリ金属含有無機塩、前記一般式(1)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を調製する(工程1)。この際、酸またはアルカリを添加してpH調整してもよい。続く工程2において、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の非プロトン性極性溶媒への溶解度が高くなることから、酸を加えてpHを6.0以下に調整することが好ましい。これにより前記一般式(1)は、主に、式中のXが水素原子であるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(以下、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)という)となる。続く工程2においてその溶解度がさらに向上するため、該pH範囲は2.5〜5.5の範囲、さらには3.5〜4.5の範囲とすることが好ましい。この際に用いる酸としては、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸などが挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。また、酸の添加は0〜60℃の範囲、より好ましくは10〜40℃の範囲で、圧力0〜1.0Paの範囲で行うことができる。
【0054】
ここで工程1において、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液に対して加える、非プロトン性極性溶媒としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジプロピルアセトアミド、N,N−ジメチル安息香酸アミドや、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン、N−イソプロピル−2−ピロリドン、N−イソブチル−2−ピロリドン、N−ノルマルプロピル−2−ピロリドン、N−ノルマルブチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−3−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−3−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−3,4,5−トリメチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピペリドン、N−エチル−2−ピペリドン、N−イソプロピル−2−ピペリドン、N−メチル−6−メチル−2−ピペリドン、N−メチル−3−エチル−2−ピペリドンなどのアミド系溶媒や、カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、N−エチルカプロラクタム、N−イソプロピルカプロラクタム、N−イソブチルカプロラクタム、N−ノルマルプロピルカプロラクタム、N−ノルマルブチルカプロラクタム、N−シクロヘキシルカプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタムをはじめとするラクタム系溶媒や、テトラメチル尿素、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素などの尿素系溶媒や、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、1−メチル−1−オキソスルホラン、1−エチル−1−オキソスルホラン、1−フェニル−1−オキソスルホランなどの有機イオウ系溶媒や、1−メチル−1−オキソホスホラン、1−ノルマルプロピル−1−オキソホスホラン、1−フェニル−1−オキソホスホランなどの環式有機リン系溶媒などを挙げることができ、このうち、アミド系溶媒が好ましいものとして挙げられるが、重合工程(b)で用いたものと同様のものを用いることが好ましい。
【0055】
工程1における非プロトン性極性溶媒の添加量は、前記前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が溶解する量であれば特に限定されるものではない。具体的には、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a)の種類や濃度、溶媒自身の種類等によって異なるものの、前記アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液100質量部に対して、例えば、1〜200質量部の範囲、好ましくは5〜50質量部の範囲である。
【0056】
工程1における前記アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液と非プロトン性極性溶媒との混合は、例えば、水および非プロトン性極性溶媒が凝固せず、かつ、水または非プロトン性極性溶媒が蒸散しない温度範囲であり、好ましくは、0〜90℃の温度範囲より好ましくは10〜60℃の温度範囲を挙げることができる。工程1における前記水溶液及び非プロトン性極性溶媒の混合は、攪拌装置、スタティックミキサー等の混合装置を用いて行ってよい。
【0057】
・工程2
工程2は、前記アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を蒸留して、水を除去すると伴に、アルカリ金属含有無機塩を析出させる工程である。
【0058】
工程2では、工程1で得られた、前記アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を蒸留することによって、水を除去すると伴に、アルカリ金属含有無機塩を析出させる。
【0059】
蒸留操作は、前記アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む水溶液を、通常、300℃以下、好ましくは60℃から280℃の温度範囲で加熱して行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせがある。蒸留操作は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。また、蒸留操作は、大気下、不活性ガス雰囲気下、いずれの雰囲気で行っても良いが、より低温で蒸留操作ができることから減圧状態で行うことが好ましい。
【0060】
当該蒸留操作により、非プロトン性極性溶媒と水とを分離して、水のみとして系外に排出される。工程2で系外に排出された水のCOD値は、工程1に供された前記アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液のCOD値に対し、20%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは70%以上にまで削減することができる。さらに前記工程2を繰り返し行うことによってカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を検出限界以下にまで削減することができる。
一方、蒸留操作で水が系外に排出されることに伴って、系内には水に溶解していたアルカリ金属含有無機塩が析出する。
【0061】
・工程3
工程3は、析出させたアルカリ金属含有無機塩を固液分離することによって除去し、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液を回収する工程である。なお、除去したアルカリ金属含有無機塩の析出物および非プロトン性極性溶媒を含む組成物は固形分として回収することができる(以下、工程3’という)。
【0062】
工程3における固液分離は、公知の手段でよく、濾過装置を用いて濾別する方法や、静置した後、デカンテーションで分離する方法など、公知の分離、回収手段を採用することが可能である。
【0063】
また、工程3の操作は、加圧状態、常圧状態、減圧状態いずれの状態でも行うことができ、また、窒素、希ガスなどの非酸化性雰囲気下で行うこともできるが、装置の簡便さから大気中で行うことが好ましい。
【0064】
なお、工程3’で固液分離により回収された固形分には、工程2で析出させたアルカリ金属含有無機塩と非プロトン性極性溶媒を含むため、さらに蒸留操作等によって非プロトン性極性溶媒を回収することが望ましい。回収された非プロトン性極性溶媒は工程1で再利用することができ、また、重合工程(a)においてポリアリーレンスルフィド樹脂の重合溶媒として再度利用することもできる。
【0065】
一方、工程3を経て得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物はアルカリ金属含有無機塩および水と分離されて、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む組成物として回収される。その際、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の回収率(抽出率)は、工程1に供された前記アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液中に含まれるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物に対して、質量基準で40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上の範囲である。さらに前記工程2および工程3を繰り返し行うことによって、99%以上とすることも可能である。
【0066】
本発明の重合工程(a)は、上記工程3を経て得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液を、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物と、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と混合し、前記非プロトン性極性溶媒中で、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と非プロトン性極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。なお、重合工程(a)において、非プロトン性極性溶媒、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物は、前記重合工程(b)で用いたものと同様のものを同様に用いることができる。
【0067】
重合工程(a)において、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して0.5〜10ミリモルの範囲、好ましくは1.5〜8.0ミリモルの範囲となるよう調整する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0〜6.0モルの範囲、好ましくは2.5〜4.5モルの範囲に調製する。このため、上記の工程3を経て得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液中に含まれる非プロトン性極性溶媒のみで不足する場合には、新たに非プロトン性極性溶媒を加えて当該範囲内となるよう適宜調整することができる。
【0068】
重合工程(a)においてポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、前記非プロトン性極性溶媒と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、前記非プロトン性極性溶媒と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200〜330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1〜20MPaの範囲、好ましくは0.1〜2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル〜5.0モルの範囲、好ましくは0.8〜1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9〜1.1モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における5−1〜5−3の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05〜0.3モル、より好ましくは0.01〜0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0069】
上記した非プロトン性極性溶媒と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の架橋剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、などが挙げられる。
【0070】
さらに、下記5−1)〜5−3)も好ましい方法として挙げられる。
5−1)ポリハロ芳香族化合物と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の存在下、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩と、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【0071】
5−2)ポリハロ芳香族化合物の存在下、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩と、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【0072】
5−3)ポリハロ芳香族化合物の存在下、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリーにカルボキシアルキルアミノ基含有化合物および非プロトン性極性溶媒を含む溶液を加え、その後、該スラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩と、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【0073】
<固液分離工程(a)>
続いて、前記粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得る固液分離工程(a)を行う。本工程は、前記固液分離工程(b)と同様に行うことができる。
【0074】
<精製工程(a)>
本発明は、さらに固液分離工程で得られた該反応混合物を水と接触させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別し回収する精製工程(a)を有する。本工程は、前記精製工程(b)と同様に行うことができる。
【0075】
濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂は回収され、その後、そのまま乾燥してポリアリーレンスルフィド樹脂粉末として用いても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のポリアリーレンスルフィド樹脂として調製することもできる。
【0076】
このように、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物は、従来、産業廃棄物として処理されていたものの、アルカリ金属含有無機塩と分離することにより、原料としてポリアリーレンスルフィド重合工程で再利用できる。このため、本発明により産業廃棄物の低減が可能である。
【0077】
上記のようにカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を原料の一部として重合されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0078】
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形のごとき各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れ、特にエポキシ樹脂との接着性に優れた成形物を製造することができる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0080】
〔参考例1〕 ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造
圧力計、温度計、コンデンサーを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、45%水硫化ソーダ(47.55質量%NaSH)14.148kg、48%苛性ソーダ(48.7重量%NaOH)9.317kgと、N−メチル−2−ピロリドン38.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水11.916kgを留出させた(残存する水分量はNaSH1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン17.129kg及びN−メチル−2−ピロリドン16.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.86MPaであった。反応後、冷却し、温度100℃で底弁を開き、反応スラリーを平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過したのち、N−メチル−2−ピロリドン16.0kgを加え、加圧ろ過した。ろ過後、撹拌翼付き真空乾燥機を用いて、減圧下150℃で2時間撹拌してN−メチル−2−ピロリドンを留去した。次に70℃温水90kgを加え撹拌したのち、濾過し、さらに70℃温水25kgを加え濾過し、濾液を集めて「水溶液(A)」を調製した。水溶液(A)中のCP−MABA濃度は1.84〔g/L〕、ポリアリーレンスルフィド樹脂濃度は0〔質量%〕であった。
【0081】
〔参考例2〕
水溶液(A)5LにN−メチル−2−ピロリドン2.5Lを加え、常温で30分間撹拌した。その後、減圧蒸留装置内で、130℃、−50kPaで減圧蒸留を行い、水を留去した。減圧蒸留後に得られた混合物を濾過し、塩化ナトリウム析出物を除去し、得られた濾過残渣にさらにN−メチル−2−ピロリドンを300ml加え、この操作を2回繰り返して、濾液(A)を回収した。回収した濾液(A)は、N−メチル−2−ピロリドン中にCP−MABAが2.8g/Lの割合で含有されていた。
【0082】
〔CP−MABAの測定方法〕
参考例1、2における水溶液(A)中のCP−MABA濃度および濾液(A)中のCP−MABA濃度は、調整した測定サンプルのHPLC測定を行い、下記の方法で作製した標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから液中の濃度を求め、算出した。
【0083】
(サンプル調製)
水溶液(A)中のCP−MABAは、そのまま移動相を加えて調製した。一方、N−メチル−2−ピロリドン中のCP−MABAはN−メチル−2−ピロリドンをエバポレータで留去したのち、残渣にHPLCの移動相を加え溶解して調製した。
【0084】
(標準サンプル:CP−MABAの合成)
48%NaOH水溶液83.4g(1.0モル)とN‐メチル‐2‐ピロリドン297.4g(3.0モル)を、撹拌機付き耐圧容器に仕込み、230℃で3時間撹拌した。この撹拌が終了した後、温度230℃のままバルブを開き、放圧し、N‐メチル‐2‐ピロリドンの蒸気圧程度である230℃において0.1MPaまで圧力を低下させ、水を留去した。その後、再び密閉し200℃程度まで温度を低下させた。
【0085】
p−ジクロロベンゼン147.0g(1.0モル)を60℃以上の温度条件下で加熱溶解して反応混合物中に投入し、250℃まで昇温後4時間撹拌した。この撹拌が終了した後、室温まで冷却した。p−ジクロロベンゼンの反応率は31モル%であった。冷却後、内容物を取り出し、水を加えて撹拌後、未反応のp−ジクロロベンゼンが不溶物となって残ったものをろ過によって取り除いた。
【0086】
次いで、ろ液である水溶液に塩酸を加えて該水溶液のpHを4に調整した。このとき水溶液中に褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が生じた。そこにクロロホルムを加えて褐色オイル状物質を抽出した。このときの水相には、N−メチル−2−ピロリドン及びその開環物である4−メチルアミノ酪酸(以下「MABA」と略記する。)が含まれるため水相は廃棄した。クロロホルム相は水洗を2回繰り返した。
【0087】
クロロホルム相に水を加えてスラリー化した状態で48%NaOH水溶液を加え、該スラリーのpHを13に調整した。このときCP−MABAはナトリウム塩となって水相に移り、クロロホルム相には副生成物であるp−クロロ−N−メチルアニリン及びN−メチルアニリンが溶解しているためクロロホルム相は廃棄した。水相はクロロホルム洗浄を2回繰り返した。
【0088】
水溶液に希塩酸を加えて該水溶液のpHを1以下に調整した。このときCP−MABAは塩酸塩となって水溶液中にとどまるので、水溶液にクロロホルムを加えて、副生成物であるp−クロロフェノールを抽出した。p−クロロフェノールが溶解したクロロホルム相は廃棄した。
【0089】
残った水溶液に48%NaOH水溶液を加え、該水溶液のpHを4に調整した。これにより、CP−MABAの塩酸塩が中和され、褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が水溶液から析出した。CP−MABA(水素型)をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを減圧除去することによってCP−MABA(水素型)を得た。
【0090】
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂濃度の測定〕
水溶液(A)中におけるポリアリーレンスルフィド樹脂濃度は以下のとおり測定した。
該水溶液(A)100質量部にクロロホルム20質量部を加え、分析ロートで混合抽出し、分液してクロロホルム層と水層に分離した。移動相にクロロホルムを用いた液体クロマトグラフ装置でクロロホルム層を測定し、得られたピークから前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のピークを除いたエリア面積(A)を求めた。但し、事前に所定濃度の前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のクロロホルム溶液を測定し、保持時間を測定しておくことで、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のピークを判別した。また、別途ポリアリーレンスルフォド樹脂濃度0.32wt%のクロロホルム溶液のエリア面積(B)を求め、下記式より、該水溶液(A)中のポリアリーレンスルフィド樹脂濃度を算出した。
【0091】
【数1】
【0092】
〔実施例1〕
圧力計、温度計、コンデンサーを連結したオートクレーブに、45%水硫化ソーダ(47.55質量%NaSH)589.48g、48%苛性ソーダ(48.7質量%NaOH)394.72gと、参考例2で得られたCP−MABAを2.8g/Lの割合で含むN−メチル−2−ピロリドン1583g(CP−MABA4.3g)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水496.48gを留出させた(残存する水分量はNaSH1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン713.09gと参考例2で得られたCP−MABAを2.8g/Lの割合で含むN−メチル−2−ピロリドン667g(CP−MABA1.8g)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.86MPaであった。反応後、冷却し、温度170℃の時点でシュウ酸・2水和物11.83g(93.8ミリモル)をN−メチル−2−ピロリドン27.60g中に含む溶液を加え、30分間攪拌後、室温まで冷却した。反応スラリーを120℃に加熱し、減圧ろ過した後、攪拌翼付き真空乾燥機を用いて、減圧下150℃で3時間乾燥して、N−メチル−2−ピロリドンを留去した。次に70℃温水3780gを加え攪拌した後、ろ過し、さらに70℃温水1080gを加えてろ過した。70℃温水1080gをさらに加え、160℃熱水先した後、ろ過し、さらに70℃温水1080gを加えろ過した。得られた含水ケーキを120℃の熱風循環乾燥機で12時間乾燥して、PPS樹脂(1)を得た。得られたPPS樹脂(1)の溶融粘度(V6)、PPS樹脂中のカルボキシ基含有量、PPS樹脂中のCP−MABA含有量をそれぞれ測定した。その結果を下表1に示す。
【0093】
〔実施例2〕
脱水後の「参考例2で得られたCP−MABAを2.8g/Lの割合で含むN−メチル−2−ピロリドン667g(CP−MABA1.8g)」の代わりに、「N−メチル−2−ピロリドン667g」を仕込んだことを以外は、実施例1と同様にしてPPS樹脂(2)を得た。得られたPPS樹脂(2)の溶融粘度(V6)、PPS樹脂中のカルボキシ基含有量、PPS樹脂中のCP−MABA含有量をそれぞれ測定した。その結果を下表1に示す。
【0094】
〔実施例3〕
脱水前の「参考例2で得られたCP−MABAを2.8g/Lの割合で含むN−メチル−2−ピロリドン1583g(CP−MABA4.3g)」の代わりに、「N−メチル−2−ピロリドン1583g」を仕込んだことを以外は、実施例1と同様にしてPPS樹脂(3)を得た。得られたPPS樹脂(3)の溶融粘度(V6)、PPS樹脂中のカルボキシ基含有量、PPS樹脂中のCP−MABA含有量をそれぞれ測定した。その結果を下表1に示す。
【0095】
〔比較例1〕
圧力計、温度計、コンデンサーを連結したオートクレーブに、45%水硫化ソーダ(47.55質量%NaSH)589.48g、48%苛性ソーダ(48.7質量%NaOH)394.72gと、N−メチル−2−ピロリドン1583gを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水496.48gを留出させた(残存する水分量はNaSH1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン713.09gおよびN−メチル−2−ピロリドン667gを仕込んだ。これ以降の操作は、実施例1と同様に行い、PPS樹脂(4)を得た。得られたPPS樹脂(4)の溶融粘度(V6)、PPS樹脂中のカルボキシ基含有量、PPS樹脂中のCP−MABA含有量をそれぞれ測定した。その結果を下表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
(溶融粘度V6)
フローテスター(島津製作所製高化式フローテスター「CFT−500D型」)を用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持後の溶融粘度を測定した。
【0098】
(PPS樹脂中のCP−MABAの定量)
PPS樹脂50gにイオン交換水140gと0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10gを加えて、良く撹拌して十分にスラリー化した後に、標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから抽出液中の濃度を求め、PPS樹脂中のCP−MABA濃度を算出した。なお、CP−MABA(水素型)はアルカリ条件にするとCP−MABA(Na型)に変化して抽出されるため、この濃度はCP−MABA(水素型)と元々存在するCP−MABA(Na型)の合計のCP−MABA濃度を意味するものとする。
【0099】
(PPS樹脂中のカルボキシ基含有量の定量)
定量方法はポリアリーレンスルフィド樹脂を350℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT−IR装置」と略記する。)で測定した。赤外吸収スペクトルのうち630.6cm
−1の吸収に対する1705cm
−1の吸収の相対強度を求め、別途作成した検量線を用いて測定サンプル中のカルボキシ基の含有量(以下「カルボキシル基含有量」と略記する。)を求めた。カルボキシ基の含有量はPPS樹脂1g中のモル数(μmol/g)で表した。検量線は酸処理を行わずに、カルボン酸塩を分子末端に含有するポリアリーレンスルフィド樹脂3gに所定量の4−クロロフェニル酢酸を加え良く混合した後、前記と同じようにしてフィルムを作成し、FT−IR装置で測定を行い、カルボキシ基含有量に対する、前記吸収の相対強度比をプロットした検量線を作成した。
【0100】
〔実施例4〜6、比較例2〕 試験片の製造
PPS樹脂(1)〜(4)69.7部、ポリエチレンワックス0.3部、ガラス繊維(平均繊維径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド)40部を混合した後、2軸押出機を用いて設定樹脂温度330℃で溶融混練してPPS樹脂組成物ペレットを得た。続いて、該PPS樹脂組成物ペレットをシリンダー温度320℃、金型温度130℃設定で射出成形を行い、ASTM1号ダンベル試験片を得た。得られたASTM1号ダンベル試験片を中央から2等分し、エポキシ接着剤との接着面積が50mm
2となるように作成したスペーサー(厚さ:1.8〜2.2mm、開口部:5mm×10mm)を2等分したASTM1号ダンベル試験片2枚の間に挟み、クリップを用いて固定した後、開口部にエポキシ接着剤(ナガセケムテック株式会社製2液型エポキシ樹脂/主剤:XNR5002、硬化剤:XNH5002、配合割合は主剤:硬化剤=100:90)を注入し、135℃に設定した熱風循環乾燥機中で3時間加熱し、硬化、接着させた。室温で1日放置後スペーサーを外して、試験片(1)〜(4)を得た。
【0101】
〔エポキシ接着強度の測定〕
得られた試験片(1)〜(4)を、歪み速度1mm/min、支点間距離80mmで引張試験機を用いて引張破断強さを測定し、接着面積で除した値をエポキシ接着強度とした。その結果を下表2に示す。
【0102】
【表2】