(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の不快味を有する成分を含む固形製剤の製造方法は、
(1)不快味を有する成分を含む粉末を、結合剤を用いて造粒する工程、
(2)前記工程(1)で得られた造粒物を、アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤でコートする工程
を有する。斯くして、上記不快味を有する成分(以下、「不快味成分」ともいう)に起因する不快味が軽減された固形製剤を製造することができる。
【0016】
本発明において、「軽減」とは、口腔内での不快味成分に起因する不快味の発現を遅延または抑制することにより、不快味を感じないか、若しくは感じる程度を減少することを意味する。なお、本明細書で使用する「改善」、「マスキング」または「抑制」という用語も同意義である。 以下、当該固形製剤の製造方法について説明する。
【0017】
(1)造粒工程
本発明の固形製剤の製造方法では、不快味を有する成分を含む粉末を、結合剤を用いて造粒する工程を有する。造粒工程により、不快味を有する成分を含む粉末と結合剤との造粒物を調製することができる。
【0018】
(1-1) 不快味を有する成分
本発明が対象とする不快味には、特に制限されないが、口腔内で感じられる苦味、酸味、収斂味、臭みなど、摂取者が苦痛に感じる味や風味が含まれる。
【0019】
本発明が対象とする不快味を有する成分とは、前記不快味を有する成分であればよく、特に限定されない。例えば、苦味を有するペプチド、ヘスペリジン、クロロゲン酸等の苦味成分;酸味を有するクエン酸、アスコルビン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸;収斂味を有する茶抽出物、複合的に特有の風味を有するウコン、冬虫夏草等の生薬成分の乾燥粉末及びそのエキス末、酵母の乾燥粉末及びそのエキス末、アセトアミノフェン、無水カフェイン、フマル酸クレマスチン、塩酸プロメタジン、メキタジン、塩酸ジフェンヒドラミン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸エフェドリン、デキストロメトルファン、塩酸ノスカピン、塩酸ブロムヘキシン、サリチルアミド、イブプロフェン、フェナセチン、ジクロフェナクナトリウム、クエン酸モサプリド、キニーネ、ジギタリス、塩化ベルベリン、塩酸メクロフェノキサート、塩酸エチレフリン、塩酸トリヘキシフェニジル等の苦味を有する薬等が挙げられる。
【0020】
本発明の固形製剤は、上記不快味を有する成分を1種含むものであってもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて含むものであってもよい。
【0021】
固形製剤中の不快味を有する成分の含有率は、特に制限されず、通常1〜95質量%の範囲から適宜設定することができるが、有効成分を高含有にするという理由から、30〜95質量%程度であることが好ましく、50〜90質量%程度がより好ましく、70〜90質量%程度が更に好ましい。
【0022】
(1-2) 結合剤
本発明の固形製剤の製造方法で用いる結合剤としては、通常の顆粒剤や錠剤等の固形製剤の製造において結合剤として使用されるものであればよく、特に制限されない。好ましくはデキストリン、セルロース及びその誘導体、デンプン、ポリビニルピロリドン、及びアルギン酸ナトリウムを例示することができる。より好ましくはデキストリン、及びセルロース及びその誘導体であり、特に好ましくはデキストリンである。
【0023】
デキストリンは、直鎖状、分岐鎖状、環状があり、特に限定されない。その分子量としては、制限されないが、通常1万〜100万を挙げることができ、好ましくは10万〜100万である。不快味の改善効果の面から、環状のシクロデキストリン(サイクロデキストリン)が好ましい。当該シクロデキストリンには、グルコースが5個以上結合したものが知られており、例えばグルコースが6個結合しているα-シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、7個結合しているβ-シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、8個結合しているγ-シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)がいずれも使用することができる。また高分子のシクロデキストリンであるクラスターデキストリン(登録商標)を使用することもできる。なお、当該クラスターデキストリンは、日本食品化工株式会社や江崎グリコ株式会社等から商業的に入手することができる。
【0024】
セルロースとしては、結合剤として役割を担うものであれば限定されるものではなく、日本薬局方に記載の種々のセルロースを使用することができる。また食品添加物として使用されるものを用いることも可能である。セルロースの形態も特に問わず、例えば、結晶セルロース(微結晶セルロースを含む)を用いることもできる。また当該セルロースは、例えば結晶セルロース・カルメロースナトリウム(結晶セルロースとカルメロースナトリウムの混合物)等のように他成分との混合物の形態で使用されてもよい。
【0025】
セルロースの誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、またはメチルエチルセルロース等のセルロースのアルキル誘導体;ヒドロキシプロピルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシプロピル誘導体;カルボキシメチルセルロース(CMC、カルメロース)、及びそのカルシウム塩(カルメロースカルシウム)、カリウム塩(カルメロースカリウム)、ナトリウム塩(カルメロースナトリウム)等が挙げられる。
【0026】
これらの結合剤の形態は、特に制限されず、粉末状や粒子状を有するものであってもよい。また、当該結合剤は、水や低級アルコール(好ましくはエタノール)またはこれらの混合物(含水アルコール)に溶解または分散させてなる状態で使用することもできる。
【0027】
結合剤を粉末状や粒子状の状態で使用する場合、その大きさ(粒子径)は特に制限されないが、その平均粒子径として、40〜350μm程度の範囲にあることが好ましい。好ましくは100〜300μm程度、より好ましくは150〜250μm程度である。
【0028】
ここで平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。レーザー回折・散乱法とは、粒子に対してレーザー光を当てたときに粒子サイズによって回折散乱光の光強度分布が異なることを利用して粒子サイズを測定する方法であり、通常、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分析計MT3300EX」)を用いることにより求めることができる。
【0029】
固形製剤中の結合剤の含有率は、造粒工程の効率の面から、1〜20質量%程度が好ましく、2〜15質量%程度がより好ましく、5〜10質量%程度が更に好ましい。また、同様の理由から、結合剤は、前記不快味を有する成分100質量部に対して、1〜20質量部配合することが好ましく、3〜15質量部配合することがより好ましく、5〜10質量部配合することが更に好ましい。
【0030】
(1-3) その他の成分
本発明の固形製剤は、その造粒工程において、少なくとも前述する上記不快味を有する成分(不快味成分)及び結合剤を配合して製造されるものであればよいが、本発明の効果を妨げない範囲で他の成分を配合することもできる。
【0031】
かかる他の成分としては、人体に投与または摂取された後に、体内で意図される生理作用または薬理活性を発揮する機能性物質(但し、不快味成分以外の物質)、並びに錠剤や顆粒剤の製造に際して通常配合される、薬学的に許容される担体や添加剤(例えば、賦形剤、増粘剤、乳化剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、香料、着色料など)などを挙げることができる。
【0032】
他の機能性物質としては、制限されないが、カテキン、コエンザイムQ10、エンゾジノール、プロアントシアニジン類、アントシアニジン、アントシアニン、カロチン類、リコピン、フラボノイド、リザベラトロール、イソフラボン類等の抗酸化剤、ラクトフェリン、β−グルカン、キチン、キトサン等の免疫賦活剤、大豆タンパク質、リン脂質結合大豆ペプチド、植物ステロール、植物ステロールエステル、植物スタノールエステル、サイリウム種皮、ギムネマ等の抗コレステロール剤等を例示することができる。
【0033】
これらの成分は、造粒に際して、予め不快味を有する成分と結合剤と混合して粉末状(粉体混合物)にしておき、その後、造粒工程に供してもよいし、また、予め不快味を有する成分と混合しておき、後述するように、結合剤を有する水溶液(または含水アルコール)で噴霧しながら造粒してもよい。なお、これらの成分は、本発明の固形製剤の製造において、造粒工程に限らず、造粒後若しくは整粒後に配合することもできる。
【0034】
上記成分の混合物(不快味成分と結合剤との混合物、不快味成分とその他の成分と結合剤との混合物、または不快味成分とその他の成分との混合物)は、下記の造粒工程に供する前に、必要に応じて粉砕または篩過等により、所望の粒度を有する粉体混合物として調製することもできる。
【0035】
(1-4) 造粒方法
本発明の固形製剤の製造方法では、(錠剤を調製する場合であれば、打錠する前に、)上記不快味を有する成分を含む粉末と結合剤とを含む混合物を造粒して、造粒物(顆粒)を得る。
【0036】
造粒方法については特に制限されず、一般に顆粒剤の製造に使用される湿式造粒法及び乾式造粒法の方法を用いることができる。好ましくは湿式造粒法である。湿式造粒法としても、特に制限されず、円筒押出造粒装置などを用いる押出し造粒法;流動層造粒装置を用いる流動造粒法;転動造粒装置を用いる転動造粒法;攪拌造粒装置を用いる撹拌造粒法などが例示できる。また流動層造粒装置と転動造粒装置の両機能を有する装置を用いて造粒することもできる。
【0037】
造粒方法は、これら使用する装置に応じて、定法に従って行うことができる。例えば、流動層造粒法を用いる場合、上記不快味を有する成分を含む粉末と結合剤とを混合した混合粉体物に、水、低級アルコール(好ましくはエタノール)またはその混合液を均一に噴霧しながら造粒してもよいし、また上記不快味を有する成分を含む粉末に、上記結合剤を溶解した水、低級アルコール(好ましくはエタノール)またはその混合液を均一に噴霧しながら造粒してもよい。
【0038】
また、造粒に際して、造粒槽中の吸気温度、噴霧液の温度等の造粒時の条件は適宜設定できるが、通常、吸気温度は40〜90℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。また、噴霧液の温度は10〜80℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。
【0039】
この様にして得られた造粒物は、必要に応じて乾燥し、含有する水や有機溶媒を除去する。乾燥温度は、20〜90℃程度が好ましく、30〜85℃がより好ましい。
【0040】
斯くして得られる造粒物の粒度は、特に制限されないが、20メッシュ通過270メッシュ保持の粒度範囲を有するものであることが好ましい。但し、必要に応じて、下記の整粒工程に供することもできるので、この粒度に特に制限されるものではない。
【0041】
造粒工程では、不快味の軽減効果の面から、得られる全造粒物中に、80メッシュ通過の造粒物が、50質量%以上含まれることが好ましく、60質量%以上含まれることがより好ましく、70質量%以上含まれることが更に好ましい。
【0042】
なお、メッシュとは、ふるい網(JIS Z8801)の目の寸法及びこれを通過する粒子の寸法を表す単位であり、本発明において、粉末(粉体混合物)や造粒物などの粒度を示す値として使用される。
【0043】
(2)整粒工程
本発明の固形製剤の製造方法は、前記造粒工程の後、コーティング工程を有する方法であればよいが、コーティング工程に供する前に、前記造粒工程で得られた造粒物を、必要に応じて整粒工程に供することもできる。
【0044】
整粒工程においては、コーティング処理が均一に行えるという理由から、造粒物を分級し、20メッシュ通過270メッシュ保持の整粒物が得られるように整粒することが好ましく、65メッシュ通過250メッシュ保持の整粒物がより好ましく、80メッシュ通過200メッシュ保持の整粒物が更に好ましい。
【0045】
かかる整粒操作は、例えば振動ふるいなどの慣用の装置を用いて実施される。
【0046】
(3)コーティング工程
本発明の固形製剤の製造方法は、前記造粒工程の後又は前記整粒工程の後、得られた造粒物又は整粒物を、アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤でコートする工程を有する。当該コーティング工程により、アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤でコートされたコーティング顆粒物を調製することができる。
【0047】
(3-1) アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤
本発明で用いるアルコール溶解性の非水溶性コーティング剤としては、低級アルコール、特にエタノールに溶解し、且つ水に溶解しない物質であれば、特に限定されるものではなく、通常医薬品や食品の製造において被覆材または皮膜剤として用いられる可食性の物質であればよい。例えば、シェラック、ツェイン(ゼイン)、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヘミロース等が挙げられる。不快味の改善効果の面から、好ましくはツェイン(ゼイン)、アミノアルキルメタクリレートコポリマー及びシェラックであり、特に好ましくはシェラックである。
【0048】
(3-2) コーティング方法
得られた造粒物又は整粒物を、アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤(以下、コーティング剤とも記す)で被覆する。被覆は、コーティング剤をアルコールに溶解し、アルコール溶液としたものを、上記造粒物又は整粒物の表面に噴霧することにより行うことが好ましい。
【0049】
アルコールとしては、エタノールを好ましく用いることができる。アルコール溶液中のコーティング剤の濃度としては、作業効率の面から、10〜200g/Lが好ましく、20〜150g/Lがより好ましく、50〜100g/Lが更に好ましい。
【0050】
被覆は、通常医薬品や食品の製造の際に顆粒や錠剤等のコーティングに用いられる装置を用いて行うことができる。例えば、装置として糖衣パンを用いる場合、造粒物又は整粒物を糖衣パン中へ投入し、ここへコーティング剤のアルコール溶液を噴霧してコーティング処理することが好ましい。
【0051】
なお、上記コーティング剤の被覆後に、得られたコーティング顆粒物の表面をさらに不快味を有しない物質で被覆してもよい(またはコーティング顆粒物の表面に付着させる)。
【0052】
かかる物質としては、不快味を有しない物質であればよく、タルク、牡蠣殻を含むボレイ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、沈降炭酸カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム等の粉末状物質が挙げられる。
【0053】
上記コーティング剤のアルコール溶液による被覆で粒子がべたつく場合、その表面に上記粉末状物質を付着させることによって、コーティング顆粒物をべたつかなくさせることができ、またこれにより不快味を有する成分の不快味及び不快臭のマスキング効果を更に向上させることもできる。
【0054】
コーティング剤による被覆が終了した後、乾燥することが好ましい。乾燥は、べたつきの防止という理由から、20〜60℃程度で行うことが好ましく、20〜40℃程度がより好ましい。
【0055】
尚、上記コーティング剤による被覆は、1回のみ行ってもよいし、また複数回行ってもよい。複数回行う場合は、コーティング剤のアルコール溶液による被覆と乾燥を交互に行うことが好ましい。被覆工程を2回以上繰り返すことで、複数の被覆層が形成できるため、不快味及び不快臭のマスキング効果を高めることができる。
【0056】
本発明のアルコール溶解性の非水溶性コーティング剤の噴霧量は、使用するコーティング剤の種類により適宜選択することができるが、不快味を有する成分100質量部に対して、5〜20質量部となるように噴霧することが好ましく、5〜15質量部となるように噴霧することがより好ましい。5〜10質量部となるように噴霧することが更に好ましい。5質量部未満になると不快味をマスクする効果が不十分になり、20質量部を超えるとコーティング剤自身の味が感じられるようになり好ましくない。
【0057】
得られたコーティング顆粒物は、必要に応じて、整粒または調粒することができる。かかる粒度は、制限されないが、10メッシュ通過270メッシュ保持の粒度を有するように整粒または調粒されることが好ましい。好ましくは、12メッシュ通過250メッシュ保持の粒度であり、より好ましくは16メッシュ通過200メッシュ保持の粒度である。
【0058】
上記方法で得られる本発明のコーティング顆粒物(被覆粒子)は、そのままの状態で顆粒剤として用いることができる。当該顆粒剤は、不快味を有する成分の不快味及び不快臭が軽減(マスキング)されており、そのまま口に入れた場合でも不快味を有する成分に起因する不快味や不快臭を感じにくい特徴を有する。
【0059】
このため、当該顆粒剤は、医薬品または食品(栄養補助食品や特定保健用食品等の機能食品を含む)としてそのまま経口投与(経口摂取)に供することができる。また、また他の成分を含む経口投与用製剤、特に後述するように、錠剤を製造するための顆粒剤として使用することもできる。
【0060】
(4)打錠工程
本発明の固形製剤が錠剤である場合、本発明の固形製剤の製造方法は、上記(1)造粒工程、及び(3)コーティング工程、または(1)造粒工程、(2)整粒工程及び(3)コーティング工程に加えて、(3)コーティング工程で得られたコーティング顆粒物を打錠する工程を有する。打錠工程により、コーティング顆粒物から錠剤を調製することができる。
【0061】
当該打錠工程は、慣用の顆粒圧縮法(間接圧縮法)に従って行うことができる。顆粒圧縮法として、乾式顆粒圧縮法および湿式顆粒圧縮法のいずれをも使用することができるが好ましくは湿式顆粒圧縮法である。
【0062】
具体的には、上記コーティング工程で得られたコーティング顆粒物を乾燥し、好ましくは更に整粒を行い、必要に応じて、錠剤を製造するために必要な打錠用基剤(例えば、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤等)を加えて、これを圧縮成形して錠剤とすることができる。
【0063】
ここで滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また崩壊剤として、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプン、グアーガム、アラビアガム等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0064】
これらの基材は、一つまたは二つ以上組み合わせて使用される。また、上記打錠に際して、香料、甘味料、着色料等の成分を配合してもよい。
【0065】
圧縮成形は、慣用の打錠機を用いて行うことができ、例えば高速回転式錠剤機等が用いられる。
【0066】
打錠工程における打錠圧は、打錠するコーティング顆粒物の組成等によって変化し得るものであり、得られる錠剤が流通に十分耐えうる硬度を備えるように、適宜調整して設定される。かかる錠剤の硬度としては、通常1〜20kgf程度、好ましくは2〜18kgf程度、より好ましくは3〜15kgf程度である。錠剤の硬度が1kgfより大きく下回ると、錠剤の成形が不完全なために輸送時に割れや欠け等の不具合が発生する傾向がある。また、錠剤の硬度が20kgfを大きく超えると、打錠圧が高くなることにより、打錠工程でコーティング顆粒物が破壊され、錠剤を摂取した時に不快味が感じられるようになるため好ましくない。
【0067】
逆に、錠剤硬度が上記範囲内であれば、製造中、輸送中、服用摂取時等に錠剤の剤形が崩れることなく、十分な剤形維持性を有し、PTP包装にも対応可能である。錠剤の硬度は、ロードセル式硬度計を用いて、複数個(例えば10個)の錠剤の硬度を測定し、その平均値を求めることで決定することができる。
【0068】
このように、打錠工程における打錠圧は、前記錠剤の硬度を得られる条件であれば良い。制限されないが、通常500〜3000kgf/cm
2程度の範囲から適宜設定することができる。
【0069】
本発明によれば、不快味を有する成分の不快味や不快臭をマスクし、不快味を有する成分を、口中で溶解させて服用することを可能とした固形製剤を製造することができる。特に、固形製剤が不快味を有する成分を含む場合であっても、口中で徐々に溶解または崩壊させて、舌下で吸収されるトローチ錠やチュアブル錠の提供が可能である。口中で溶解させて服用することのできる固形製剤は、服用後、舌下から吸収されるため迅速に作用し、特にアルコールの多量摂取による障害等、急速な作用が望まれる場合に好適に用いられる。
【0070】
上記方法で得られる本発明の固形製剤は、そのままの状態で錠剤として用いることができる。当該錠剤は、不快味を有する成分の不快味及び不快臭が軽減(マスキング)されており、そのまま口に入れた場合でも不快味を有する成分に起因する不快味や不快臭を感じにくいという特徴を有する。このため、当該錠剤は、医薬品または食品(栄養補助食品や特定保健用食品等の機能食品を含む)としてそのまま経口投与(経口摂取)に供することができる。なお、当該錠剤には、通常の経口投与剤としての錠剤のほか、口腔内で咀嚼して摂取されるチュアブル錠、口腔内で徐々に溶解または崩壊させて摂取されるトローチ錠や口腔内崩壊錠、舌下で吸収される舌下錠、歯と歯茎の間に挟み吸収させるバッカル錠等の口腔用錠剤の態様も含まれる。
【0071】
本発明が対象とする錠剤は、好ましくは上記方法によって製造される裸錠(素錠)であるが、更にフィルムコーティングまたは糖衣コーティングが施されたコーティング錠剤であることもでき、この場合、上記工程に加えて、さらにコーティング工程を設けることができる。
【0072】
(5)固形製剤
本発明の製造方法で製造する固形製剤の剤形としては、口腔内で咀嚼したり溶解したりするのに適した剤形であることが好ましく、造粒方法で造粒した顆粒や、造粒した顆粒を圧縮成形した錠剤などが挙げられる。錠剤としては、前述するように、通常の経口投与用の錠剤の他、口腔内で咀嚼して摂取するチュアブル錠、舐めて口腔内で溶解させるトローチ錠、その他バッカル錠、舌下錠、口腔内崩壊錠等の口腔用錠剤を挙げることができる。
【0073】
(5-1) 固形製剤中の各成分の含有量
本発明の固形製剤は、上記不快味を有する成分の含有量が、30〜95質量%程度であることが好ましく、50〜90質量%程度がより好ましく、70〜90質量%程度が更に好ましい。
【0074】
本発明の固形製剤は、造粒工程で不快味を有する成分と混合する結合剤の含有量が1〜20質量%程度であることが好ましく、2〜15質量%程度がより好ましく、5〜10質量%程度が更に好ましい。結合剤を有する成分の含有量がこの範囲にあれば、不快味を有する成分どうしを十分に結合させることができ、コーティング工程による不快味を有する成分をマスキングする効果を向上させることができる。また、打錠性が向上するので、錠剤として最適な硬度に調整することできる。また、同様の理由から、前記不快味を有する成分100質量部に対する上記結合剤の含有量は、1〜20質量部程度が好ましく、3〜15質量部程度がより好ましく、5〜10質量部程度が更に好ましい。
【0075】
本発明の固形製剤は、上記アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤の含有量が、乾燥重量で5〜20質量%程度が好ましく、5〜15質量%程度がより好ましく、5〜10質量%程度が更に好ましい。アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤を有する成分の含有量がこの範囲にあれば、不快味を有する成分をマスキングすることができ、打錠性が向上するので、錠剤として最適な硬度にできる。また、アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤そのものの味を感じることもない。
【0076】
本発明の錠剤中には、前述するように、前記不快味を有する成分以外の他の機能性物質を含んでいてもよい。他の機能性物質としては、カテキン、コエンザイムQ10、エンゾジノール、プロアントシアニジン類、アントシアニジン、アントシアニン、カロチン類、リコピン、フラボノイド、リザベラトロール、イソフラボン類等の抗酸化剤、ラクトフェリン、β−グルカン、キチン、キトサン等の免疫賦活剤、大豆タンパク質、リン脂質結合大豆ペプチド、植物ステロール、植物ステロールエステル、植物スタノールエステル、サイリウム種皮、ギムネマ等の抗コレステロール剤などが挙げられる。
【0077】
(5-2) 固形製剤の用途、形態
本発明の固形製剤(顆粒、錠剤等)は、医薬品、及び食品(錠菓、栄養補助食品、特別用途食品、特定保健用食品等の機能食品を含む)として用いることができる。
【0078】
本発明の顆粒は、その大きさをについて特に制限はされないが、通常8〜150メッシュの範囲を例示することができる。好ましくは10〜100メッシュ、より好ましくは12〜80メッシュである。
【0079】
本発明の錠剤は、その形状、大きさ等について特に制限はされない。形状については、例えば、丸型、楕円型、三角型、四角型等のあらゆる形状を挙げることができる。大きさについては、例えば、直径5〜20mm、好ましくは7〜15mm;重量100mg〜2000mgの剤形とすることができる。
【0080】
本発明により得られる固形製剤は、成分として配合する不快味を有する成分の不快な味や臭いが軽減されており、これにより、これを服用(または摂取)する者が服用時(摂取時)に感じる違和感や苦痛を取り除いたり、緩和することができる。このため本発明によれば、不快味を有する成分を口中で溶解させ、舌下から吸収できる製剤として提供することも可能である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0082】
実施例
不快味を有する成分として、ペプチド粉末を用いて、固形製剤を製造した。
【0083】
(1)固形製剤の調製に用いた成分
・不快味を有する成分:ペプチド粉末(雪印メグミルク(株)製のWhey Peptid HW-3)
・結合剤:サイクロデキストリン(江崎グリコ(株)製のクラスターデキストリン)
・コーティング剤:シェラック(日本シェラック(株)製)
・香料:ヨーグルトフレーバー(小川香料(株)製)
・甘味料:スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)
・滑沢剤:ステアリン酸マグネシウム
なお、結合剤は、上記サイクロデキストリン50gを300gの水に溶解し水溶液(約14w/w%)にして使用した。またコーティング剤は、上記シェラック25〜100gをエタノール500gに溶解しエタノール溶液(約4.7〜17w/w%)にして使用した。
【0084】
(2)固形製剤の製造
(2-1)造粒工程
ペプチド粉末500gを流動層造粒装置((株)パウレック製のFD-MP-01D/SPC)に投入し、サイクロデキストリン水溶液(サイクロデキストリンを50g含む)を均一に噴霧しながら造粒した。このとき、造粒槽の吸気温度を70℃に設定し、造粒時間は45分間とした。
【0085】
(2-2)整粒工程
上記造粒工程で得られた造粒物を、20メッシュの篩にかけて整粒し、当該篩を通過した整粒物550gを得た。
【0086】
得られた整粒物の粒度分布を、表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
(2-3)コーティング工程
上記整粒工程で得られた整粒物550gを流動層造粒装置内に投入し、これにシェラックのエタノール溶液(シェラックを25〜100g含む)を噴霧して、整粒物をコーティングし、コーティング顆粒物を得た。造粒槽の吸気温度を50℃に設定し、コーティング時間は120分間とした。
【0089】
(2-4)打錠工程
上記コーティング工程で得られたコーティング顆粒物に、香料及び甘味料を適量加え、更に滑沢剤を全体の0.5質量%となるように加えて、ロータリー式打錠機(富士薬品機械(株)製のFY-MCU-MSD)を用いて、打錠し、錠剤を得た。
【0090】
打錠条件は以下の通りである。
【0091】
・使用杵:φ20
・錠剤重量:2g
・打錠圧力:750〜3000kgf/cm
2
(3)評価試験
(3-1) 味の評価試験
上記で製造した錠剤(実施例1〜4)を、1錠ずつ10名のパネラーに摂取してもらい、口内で噛み砕いた時に感じられるペプチド由来の苦味について官能評価を行った。なお、比較品として、上記錠剤の製造方法において、コーティング剤として、上記シェラックを含むエタノール溶液に代えて、シェラックを含まないエタノール溶液500gを用いて同様にして製造した錠剤を用いて、また対照品として、上記(2-2)整粒工程で得られた整粒物を使用して、同様に、ペプチド由来の苦味について官能評価を行った。
【0092】
実施例1〜4及び比較品の錠剤の味は、上記対照品(整粒物)をそのまま服用した時と比較して、どの程度ペプチドの苦味が改善されたかを、下記の基準に従って評価した。
【0093】
<評価基準>
◎:ペプチドの苦味を全く感じない。
○:ペプチドの苦味をわずかに感じる。
△:ペプチドの苦味を感じるが対照品より少ない。
×:対照品と同等の苦味を感じる。
【0094】
(3-2) 錠剤の硬度の測定
ロードセル式錠剤硬度計(岡田精工(株)製、ポータブルチェッカーPC-30型)を用いて、得られた錠剤(実施例1〜4、比較品)の硬度(n=3)を測定した。
【0095】
評価基準は下記の通りである。
【0096】
<評価基準>
◎:3kgf以上15kgf未満
○:15kg以上〜20kgf未満
△:1kgf以上3kgf未満、または20kgf以上
×:1kgf未満
−:錠剤として成形できず
【0097】
味の評価及び錠剤の硬度の評価結果を、表2及び3に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
<考察>
試験結果から、口中で溶かして服用するための錠剤にペプチド粉末(不快味を有する成分)が含まれる場合であっても、先ず、ペプチド粉末とシクロデキストリン水溶液(結合剤)とを造粒し、次に、造粒により得られた造粒物をシェラックのエタノール溶液(アルコール溶解性の非水溶性コーティング剤)でコートすることで、ペプチド粉末由来の不快味を感じさせない錠剤(固形製剤)を製造することができた。更に、打錠によって、十分な硬度を有する錠剤を得ることができた。
【0101】
この様に、本発明によれば、不快味を有する成分の不快な味や臭いをマスキングすることができるので、固形製剤を口中で徐々に溶解又は崩壊させて服用するトローチやチュアブル錠、または舌下錠やバッカル錠等の製造に好ましく適用することができる。