特許第6004943号(P6004943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6004943水性研磨剤及びグラフトコポリマー並びにそれらをパターン形成された及び構造化されていない金属表面の研磨プロセスに用いる使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6004943
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】水性研磨剤及びグラフトコポリマー並びにそれらをパターン形成された及び構造化されていない金属表面の研磨プロセスに用いる使用
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20160929BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20160929BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   H01L21/304 621D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550C
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】31
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-554449(P2012-554449)
(86)(22)【出願日】2011年1月19日
(65)【公表番号】特表2013-520831(P2013-520831A)
(43)【公表日】2013年6月6日
(86)【国際出願番号】IB2011050237
(87)【国際公開番号】WO2011104640
(87)【国際公開日】20110901
【審査請求日】2014年1月16日
(31)【優先権主張番号】61/307,466
(32)【優先日】2010年2月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジャイ イマヌエル ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】イルシャット グバイドゥリン
(72)【発明者】
【氏名】マリオ ブランツ
(72)【発明者】
【氏名】ユジュオ リー
(72)【発明者】
【氏名】マキシム ペレトルヒン
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−251730(JP,A)
【文献】 特開2008−034864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨材として、水相中に微分散し、且つ(研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる)複数の少なくとも1種の官能基(a1)をその表面上に有する少なくとも1種のポリマー粒子(A)を含む、水性研磨剤であって、前記ポリマー粒子(A)は、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン並びに塩基性α−アミノ酸のポリアミノ酸及びポリペプチドからなる群から選択される、複数の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマー、少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーとが、エマルション重合又は懸濁重合したポリマー粒子である、水性研磨剤。
【請求項2】
ポリマー粒子(A)が、HPPS動的光散乱法によって測定して1〜1000nmの範囲の一次粒子径を有することを特徴とする、請求項1に記載の水性研磨剤。
【請求項3】
アミノトリアジンがメラミン及びベンゾグアナミンからなる群から選択され、且つ塩基性アミノ酸がリジン、アルギニン、オルニチン及びヒスチジンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の水性研磨剤。
【請求項4】
ポリマーのオリゴマーが少なくとも1つの反応性グラフト中心を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の水性研磨剤。
【請求項5】
モノマーが、オリゴマー又はポリマーの少なくとも1つの反応性グラフト中心にグラフトされる請求項1から4までのいずれか1項に記載の水性研磨剤。
【請求項6】
反応性グラフト中心が少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を含有することを特徴とする、請求項4または5に記載の水性研磨剤。
【請求項7】
複数の官能基(a1)を有するオリゴマー又はポリマーが、さらに、グラフト中心の少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を含有する請求項1から6までのいずれか1項に記載の水性研磨剤。
【請求項8】
グラフト中心の二重結合が、反応にて導入された請求項に記載の水性研磨剤。
【請求項9】
ノ官能基(a1)を有するオリゴマー又はポリマーと、エポキシ基とグラフト中心の少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を含有するモノマーとが、アミノ−エポキシ−付加反応した請求項8に記載の水性研磨剤。
【請求項10】
酸化剤、錯化剤、不動態膜形成剤、界面活性剤、多価金属イオン、pH調整剤、並びに固体有機及び無機粒子からなる群から選択される少なくとも1種の更なる機能性添加剤(B)を含有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の水性研磨剤。
【請求項11】
pH値が3〜7であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の水性研磨剤。
【請求項12】
金属が銅であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の水性研磨剤。
【請求項13】
研磨材として、水相中に微分散し、且つ(研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる)複数の少なくとも1種の官能基(a1)をその表面上に有する少なくとも1種のポリマー粒子(A)を含む、水性研磨剤の製造方法であって、前記ポリマー粒子(A)は、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン並びに塩基性α−アミノ酸のポリアミノ酸及びポリペプチドからなる群から選択される、複数の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーの存在下で、少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーのエマルション重合又は懸濁重合によって製造される、水性研磨剤の製造方法。
【請求項14】
ポリマー粒子(A)が、HPPS動的光散乱法によって測定して1〜1000nmの範囲の一次粒子径を有することを特徴とする、請求項13に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項15】
アミノトリアジンがメラミン及びベンゾグアナミンからなる群から選択され、且つ塩基性アミノ酸がリジン、アルギニン、オルニチン及びヒスチジンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項16】
ポリマーのオリゴマーが少なくとも1つの反応性グラフト中心を含有することを特徴とする、請求項13から15までのいずれか1項に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項17】
モノマーが、オリゴマー又はポリマーの少なくとも1つの反応性グラフト中心にグラフトされる請求項13から16までのいずれか1項に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項18】
反応性グラフト中心が少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を含有することを特徴とする、請求項16または17に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項19】
グラフト中心の少なくとも1つのラジカル重合性二重結合が、オリゴマー又はポリマー化合物中に、既に存在でき、または官能基(a1)を反応させることによって、オリゴマー又はポリマー化合物中に導入できる請求項13から18までのいずれか1項に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項20】
グラフト中心の二重結合が、官能基(a1)を少なくとも1つのアミノ反応性官能基を有するモノマーと反応させることによってオリゴマー又はポリマー化合物中に導入される請求項19に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項21】
少なくとも1つのアミノ反応性官能基が、エポキシ基である請求項20に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項22】
酸化剤、錯化剤、不動態膜形成剤、界面活性剤、多価金属イオン、pH調整剤、並びに固体有機及び無機粒子からなる群から選択される少なくとも1種の更なる機能性添加剤(B)を含有することを特徴とする、請求項13から21までのいずれか1項に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項23】
pH値が3〜7であることを特徴とする、請求項13から22までのいずれか1項に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項24】
金属が銅であることを特徴とする、請求項13から23までのいずれか1項に記載の水性研磨剤の製造方法
【請求項25】
少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーのアミノトリアジン−ポリアミン縮合物と、少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1つのモノマーとが、エマルション重合又は懸濁重合した、グラフトコポリマー。
【請求項26】
少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーのアミノトリアジン−ポリアミン縮合物の存在下で少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1つのモノマーのエマルション重合又は懸濁重合によって製造される、グラフトコポリマーの製造方法。
【請求項27】
パターン形成された及び構造化されていない金属表面の化学機械研磨方法であって、
(I)アミノトリアジン−ポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン並びに塩基性α−アミノ酸のポリアミノ酸及びポリペプチドからなる群から選択される、複数の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーの存在下で、少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーを、エマルション重合又は懸濁重合することによって、(研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる)複数の少なくとも1種の官能基(a1)をその表面上に有する少なくとも1種のポリマー粒子(A)を製造する工程;
(II)研磨材として水相中に微分散した少なくとも1種のポリマー粒子(A)を含有する水性研磨剤を製造する工程;及び
(III)前記金属表面を、前記水性研磨剤で化学機械研磨する工程
を含む、化学機械研磨方法。
【請求項28】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の水性研磨剤をプロセス工程(II)において製造することを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
銅ダマシンプロセスで使用されることを特徴とする、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の水性研磨剤、請求項25に記載のグラフトコポリマー及び請求項27から29までのいずれか1項に記載の方法を集積回路を含有するウェハの製造に用いる使用。
【請求項31】
集積回路が銅ダマシンパターンを含むことを特徴とする、請求項30に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する分野
本発明は新規な水性研磨剤及びグラフトコポリマー並びにそれらを新規な研磨プロセス、特にパターン形成された及び構造化されていない金属表面の化学機械研磨(CMP)プロセスに用いる使用に関する。
【0002】
引用文献
本願で引用された文献は、その全体が援用されている。
【0003】
発明の背景
集積回路(IC)は、構造化された半導電、非導電及び導電の薄層から構成されている。これらのパターン形成された層は、慣習的に、層材料を、例えば、蒸着し且つそれをマイクロリソグラフィー法によりパターン形成することによって適用して製造される。種々の半導電、非導電及び導電の層状物を組み合わせることによって、トランジスタ、コンデンサ、抵抗及び配線などの電子回路要素が製造される。
【0004】
IC及びその機能の品質は、特に、種々の層状物が適用されてパターン形成できる精度に依存する。
【0005】
しかしながら、層の数が増加するに従って、層の平面性が著しく低下する。これはICの1つ以上の機能的要素の破損につながり、従って、一定数の層に達した後に完全なICの破損をもたらす。
【0006】
層の平面性の低下は、既にパターン形成された層の上面に新たな層が蓄積されることによって起こる。パターン形成することによって層当たり合計0.6μm以下になり得る高度差が生じる。これらの高度差は層から層までの合計であり、次に続く層はもはや平面の表面上に適用できず、平坦でない表面しか適用できなくなる。最初の結果は、その後に適用された層が不規則な厚さを有することである。極端な場合、電子機能的要素の欠陥、欠損及び電気的接触の欠如が生じる。更に、平坦でない表面はパターン形成の問題を起こす。十分に小さなパターンを形成できるためには、極めて鋭い深さの焦点がマイクロリソグラフィープロセス工程において必要である。しかしながら、これらのパターンは、平面に鋭く描画できるにすぎない。位置が平面性から離れる程、画像は濃くなる。
【0007】
この問題を解決するために、いわゆる化学機械研磨(CMP)が行われる。CMPは、平面層が得られるまで、層の突出する特徴を取り除くことによってパターン形成される表面の全体的な平坦化をもたらす。このため、その後の蓄積は、高度差を示さない平面上に起こり、パターン形成及びIC要素の機能性の精密さが維持される。
【0008】
全体的な平坦化の典型例は、誘電性CMP、燐化ニッケルCMP、及びシリコン又はポリシリコンCMPである。
【0009】
リソグラフィー上の困難を克服するための全体的な平坦化の他に、2つの別の重要なCMPの用途がある。1つは微細構造を組み立てることである。この用途の典型例は、銅CMP、タングステンCMP又は浅トレンチ分離(STI)CMP、特に下記のダマシン法である。他は、例えば、サファイアCMPのような、欠陥修正又は除去である。
【0010】
CMPプロセス工程は、当該技術分野における研磨スラリー又はCMPスラリーをも意味する、特殊なポリッシャ、研磨パッド及び研磨剤を用いて実施される。CMPスラリーは、研磨パッドと組み合わせて研磨されるべき材料を除去する組成物である。
【0011】
半導体層を有するウェハを研磨する場合、このプロセス工程の精密さの要件、そしてCMPスラリーに対して定められた要件は特に厳しい。
【0012】
一連のパラメータは、CMPスラリーの効率を評価するために及びそれらの活性を特徴付けるために使用される。材料の除去速度(MRR)、即ち、研磨されるべき材料が除去される速度、選択性、即ち、研磨されるべき材料の除去速度と存在する他の材料の除去速度との比、ウェハ内の均一性の除去(WIWNU;ウェハ内の不均一性)及びウェハからウェハへの均一性の除去(WTWNU;ウェハ対ウェハの不均一性)並びに単位面積当たりの欠陥数は、これらのパラメータの中に入る。
【0013】
銅ダマシン法は、ますますICの製造に使用されている(例えば、欧州特許出願EP1306415A2号、第2頁、段落[0012]を参照のこと)。銅回路の経路を造るためには、このプロセスにおいてCMPスラリーを用いて銅層を化学機械的に除去する必要があり、このプロセスは当該技術分野において「銅CMPプロセス」とも呼ばれる。完成した銅回路の経路は誘電体に埋設される。慣例的には、バリア層は銅と誘電体との間に位置する。
【0014】
これらのCMPプロセスにおいて慣例的に使用されるCMP試薬又はスラリーは、分散した、コロイド状無機粒子、例えば、研摩材としてのシリカ粒子を含有する(例えば、US4,954,142号、US5,958,288号、US5,980,775号、US6,015,506号、US6,068,787号、US6,083,419号、及びUS6,136,711号を参照のこと)。
【0015】
しかしながら、無機粒子の使用に関して複数の欠点がある。第一に、それらの粒子は複数の分散工程で水相に分散されなければならない。第二に、それらの高密度のために、それらの水性分散液は沈降し易い。その結果、それぞれのCMP試薬又はスラリーは不安定である。第三に、これらのCMP試薬は、ディッシングと腐食、浸食、表面の欠陥、研磨速度及び表面上の異なる材料間の選択性を十分に制御することができない。頻繁に、無機粒子及びそれらのアグリゲートは、研磨された表面にスクラッチをもたらす。しかしながら、明白な理由のため、このようなスクラッチは避けなければならない。スクラッチの問題は、硬い無機研磨粒子によって容易に損傷される、比較的柔軟なスポンジ状の超低k誘電材料に、金属配線又はインターコネクタが埋設される時に、特に深刻であることを付け加えなければならない。
【0016】
これらの問題は、研磨材として有機粒子を用いることによって、ある程度まで改善された。
【0017】
例えば、欧州特許出願EP0919602A1号は、研磨されるべき表面の金属と反応し得る官能基を有していないビニル化合物、例えば、スチレン及びジビニルベンゼンの乳化重合によって製造された架橋したポリマー粒子を含むCMPスラリーを開示している。場合により、アミド基、ヒドロキシル基、メトキシ基又はグリシジル基などの官能基を有するビニル、アクリレート又はメタクリレートモノマーを追加的に使用してよい。重合によって得られる分散液はCMPスラリーに直接使用できる。しかしながら、金属反応性官能基の不在又は低濃度により、高除去速度MRRを得るために錯化剤を使用しなければならない。
【0018】
欧州特許EP1077240B1号は、研磨される表面の金属と反応し得るアミノ、ピリジル又はアクリルアミド基などの反応性官能基を導入する重合開始剤を使用して、好ましくはアリル不飽和コモノマーの懸濁重合によって製造された架橋及び非架橋ポリマー粒子を含むCMPスラリーを開示している。更に、ここで、重合から得られる分散液はCMPスラリーとして直接使用できる。それにもかかわらず、静的エッチング速度SERを増加させずに除去速度MRRを増加させるために、粒子表面での金属反応性官能基の濃度は増加される必要がある。
【0019】
国際特許出願WO2008/148766A1号は、高度に分岐したメラミン−ポリアミン縮合物を開示している。しかしながら、メラミン−ポリアミン縮合物の、ポリウレタン合成のための触媒としての、エポキシ樹脂の硬化剤としての、DNAトランスフェクション剤としての又はポリオールの製造のためのエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドとのアルコキシル化反応のための開始剤としての使用のみが記載されている。メラミン−ポリアミン縮合物を、グラフトコポリマーの製造に、次に、CMPスラリーに使用できることは記載されていない。
【0020】
本発明の課題
本発明の課題は、研磨のための新規な水性研磨剤を提供することであり、特に、その新規な研磨剤が従来技術の欠点を示さない、パターン形成された及び構造化されていない金属表面の、好ましくはパターン形成された金属表面の、更に好ましくは誘電材料に埋設された金属パターンの、特に銅含有パターンのCMPのための新規な水性研磨剤を提供することであった。
【0021】
特に、新規な水性研磨剤は、銅ダマシンプロセスの間の優れた研磨効率と顕著に低減されたディッシングを示す。新規な水性研磨剤は、望ましくない腐蝕作用を示さず且つ研磨されるべき材料、特に金属及び超低k誘電材料において顕著に少ない欠陥、スクラッチ及びピットを実現する。
【0022】
更に、新規な水性研磨剤は、研磨された表面上に顕著なステインを残さず、且つ低静的エッチング速度SERと高材料除去速度MRRを示すので平坦化効率が高い。高材料除去速度MRRは、他の添加剤と望ましくない相互作用を起こすか又は望ましくない高静的エッチング速度SERを生じ得る追加の錯化剤がなくても達成される。
【0023】
更に、新たなグラフトコポリマーが提供され、そのグラフトコポリマーは水性研磨剤の成分として有用である。
【0024】
最後に、本発明の課題は、パターン形成された及び構造化されていない金属表面、好ましくはパターン形成された金属表面、最も好ましくは誘電材料に埋設された金属表面、特に銅含有構造の金属表面の研磨、好ましくは化学機械研磨のための新規な研磨プロセス、好ましくは新規なCMP研磨プロセスを提供することであり、この新規な研磨プロセスは、もはや従来技術の欠点を示さず、研磨されるべき材料において顕著に低減されたディッシングを実現し、研磨されるべき材料において望ましくない腐食、欠陥、スクラッチ及びピットを顕著に低減し、高い平坦化効率を示し且つ研磨された表面にステインをほとんど残さなかった。
【0025】
発明の要約
従って、研磨材として、水相中に微分散し且つ研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる複数の少なくとも1種の官能基(a1)をその表面上に有する少なくとも1種のポリマー粒子(A)を含む、新規な水性研磨剤が発見されており、前記ポリマー粒子(A)は、複数の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーの存在下で少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーのエマルション重合又は懸濁重合によって製造される。
【0026】
以下、新規な水性研磨剤は「本発明のCMP剤」を意味する。
【0027】
更に、少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーのアミノトリアジン−ポリアミン縮合物の存在下で少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーのエマルション重合又は懸濁重合によって製造される、新たなグラフトコポリマーが発見された。
【0028】
以下、新規なグラフトコポリマーは「本発明のグラフトコポリマー」を意味する。
【0029】
従って、パターン形成された及び構造化されていない金属表面の新規な化学機械研磨方法であって、
(I)複数の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーの存在下で、少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーを、エマルション重合又は懸濁重合することによって、研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる複数の少なくとも1種の官能基(a1)をその表面上に有する少なくとも1種のポリマー粒子(A)を製造する工程;
(II)研磨材として水相中に微分散した少なくとも1種のポリマー粒子(A)を含有する水性研磨剤を製造する工程;及び
(III)前記金属表面を、前記水性研磨剤で化学機械研磨する工程
を含む、化学機械研磨方法が発見された。
【0030】
以下、パターン形成された及び構造化されていない表面の新規な化学機械研磨方法は、「本発明のCMPプロセス」を意味する。
【0031】
最後に、本発明のCMP剤及び本発明のCMPプロセスを、集積回路を含むウェハの製造に用いる新規な使用が発見されており、この使用は以下、「本発明の使用」を意味する。
【0032】
本発明の利点
上記の従来技術を鑑みて、本発明の根底にある課題を、CMP剤、CMPプロセス及び本発明の使用によって解決できることは驚くべきことであり且つ当業者が予期できないことであった。
【0033】
特に、驚くべきことは、本発明のCMP剤が、パターン形成された及び構造化されていない金属表面の、好ましくはパターン形成された金属表面の、更に好ましくは誘電材料に埋設された金属パターンの、特に銅含有パターンのCMPに極めて適しており且つ従来技術の欠点を示さないことであった。
【0034】
特に、本発明のCMP剤は、銅ダマシンプロセスの間の優れた研磨効率と共に顕著に低減されたディッシングを有していた。本発明のCMP剤は、望ましくない腐蝕作用をほとんど示さず且つ研磨されるべき材料において顕著に少ない欠陥、スクラッチ及びピットを実現した。
【0035】
更に、本発明のCMP剤は、研磨された表面上にほとんどステインを残さず且つ低静的エッチング速度SERと高材料除去速度MRRを示すので平坦化効率が高かった。
【0036】
驚くことに、本発明のグラフトコポリマーは、CMP剤、特に本発明のCMP剤のための、成分として、特に研磨材として極めて適していた。
【0037】
更に、本発明のCMPプロセスも、パターン形成された及び構造化されていない表面、好ましくはパターン形成された金属表面、最も好ましくは誘電材料に埋設された金属表面、特に銅含有構造の研磨に、好ましくは化学機械研磨に極めて適しており、もはや従来技術の欠点を示さなかった。特に、このプロセスは、研磨されるべき材料において顕著に少ないディッシングを実現し、研磨されるべき材料における望ましくない腐食、欠陥、スクラッチ及びピットを遥かに少なくし、高平坦化効率を示し且つ研磨された表面にほとんどステインを残さなかった。
【0038】
全て本発明の使用に従って、本発明のCMP剤及びCMPプロセスは、銅ダマシンパターンを含有するウェハの製造に極めて適していた。従って、超高密度集積回路(IC)の製造において例外的に高い製造効率が達成され得る。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明のCMP剤は、研磨材として、水相中に微分散した、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、少なくとも1種の、好ましくは1種のポリマー粒子(A)を含む。
【0040】
ポリマー粒子(A)、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)の粒径は、広範に変化し得る。好ましくは、それらはHPPS動的光散乱法によって測定して1〜1000nm、更に好ましくは10〜750nm、最も好ましくは50〜500nm、特に好ましくは100〜400nmの範囲の粒径を有する。
【0041】
粒径分布は単峰性又は多峰性、特に二峰性であってよい。本発明のCMPプロセスの間の容易に再現可能な特性プロファイル及び容易に再現可能な条件を有するためには、単峰性の粒径分布が最も特に好ましい。この粒径分布も広範に変化し得る。本発明のCMPプロセスの間の容易に再現可能な特性プロファイル及び容易に再現可能な条件を有するためには、狭い粒径分布が好ましい。最も好ましくは、平均粒径d50は、HPPS動的光散乱法によって測定して2〜900nm、更に好ましくは15〜700nm、最も好ましくは75〜450nm、特に好ましくは125〜350nmの範囲である。
【0042】
固体ポリマー粒子(A)は、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、保存及び取り扱う間、安定である。
【0043】
好ましくは、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、ポリマー粒子(A)の数平均分子量は、高い、更に好ましくは、10,000ダルトンよりも高い、更に好ましくは100,000ダルトンよりも高い、最も好ましくは1,000,000ダルトンよりも高い。架橋した固体ポリマー粒子(A)の場合、数平均分子量は理論的に無限である。
【0044】
好ましくは、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、ポリマー粒子(A)のガラス転移温度は、示差走査熱量測定DSCで測定される通り、室温より高い、更に好ましくは50℃より高い、最も好ましくは100℃より高い。
【0045】
固体ポリマー粒子(A)は、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる少なくとも1種の、好ましくは1種の官能基(a1)をその表面に有する。「相互作用」又は「相互作用する」とは、ポリマー粒子(A)が、本発明のCMPプロセスの間に生じたものの上で前記金属表面及び/又は金属酸化物に対して強い親和性を有し、且つ前記表面によって物理的及び/又は化学的に吸着されることを意味する。物理的吸着は、例えば、静電気による引力及び/又はファン・デル・ワールス力によって達成される。化学的吸着は、例えば、共有結合の形成によって達成される。「錯体の形成」とは、官能基(a1)が金属原子又は金属カチオンと反応して、本発明のCMP剤の水性媒体中で熱力学的に及び/又は動力学的に安定な配位化合物を形成すること、即ち、錯体が非常に低い解離定数を有するので、化学平衡が錯体側へシフトすることを意味する(Roempp Online 2009, "coordination theory"を参照のこと)。
【0046】
本発明の文脈において、「金属」との用語も金属合金を含む。好ましくは、金属は、半反応の場合、標準還元電位E>−0.1V、好ましくは>0V、最も好ましくは>0.1V、特に>0.2Vを有する。
【0047】
M ←→ Mn++ne(式中、n=1〜4の整数、e=電子)
【0048】
かかる標準還元電位E>−0.1の例は、CRC Handbook of Chemistry and Physics, 79th edition, 1998-1999年, CRC Press LLC, Electrochemical Series, 8-21〜8-31に挙げられている。
【0049】
好ましくは、金属は、Ag、Au、Bi、Cu、Ge、Ir、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Ti及びWからなる群、最も好ましくはAg、Au、Cu、Ir、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru及びWからなる群から選択される。特に、金属は銅である。
【0050】
本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、ポリマー粒子(A)の相互作用は、ポリマー粒子(A)の表面に位置する官能基(a1)によって達成される。
【0051】
相互作用し且つ水性媒体中で安定な金属及び金属カチオンと錯体を形成可能であり且つポリマー粒子(A)の製造の間の重合反応と及び/又は存在し得る任意の成分(B)の官能基と不利益に相互作用しない限り、あらゆる種類の基を官能基(a1)として使用してよい。かかる不利益な相互作用の例は、重合の望ましくない抑制、反応物及び生成物の望ましくない分解又はポリマー粒子(A)の凝塊形成及び凝集である。
【0052】
従って、官能基(a1)は、それらが上記の特性プロフィールを示す限り、非イオン性官能基(a1)、カチオン性官能基(a1)、カチオン性官能基を形成できる官能基(a1)、及びアニオン性官能基(a1)、及びアニオン性官能基(a1)を形成できる官能基(a1)からなる群から選択されてよい。
【0053】
好ましくは、非イオン性官能基(a1)は、公知の且つ慣用のキレート基からなる群から選択される。
【0054】
好ましくは、アニオン性官能基(a1)は、カルボン酸、スルホン酸、及びホスホン酸基及びそれらのアニオンからなる群から選択される。
【0055】
最も好ましくは、カチオン性官能基(a1)又はカチオン性官能基を形成できる官能基(a1)が使用される。更に一層好ましくは、カチオン性官能基(a1)は、第1級、第2級及び第3級のアミノ基及び第4級のアンモニウム基からなる群から選択される。最も好ましくは、第1級アミノ基が使用される。
【0056】
官能基(a1)は、以下に記載される複数の官能基(a1)を有するオリゴマー又はポリマーを介して、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、ポリマー粒子(A)中に導入される。
【0057】
官能基(a1)と金属及び/又は金属酸化物との相互作用特性並びに金属及びそれらのカチオンとの錯体の形成特性は、ポリマー鎖の化学的性質、外側の形状、及びポリマー粒子(A)の構造によっても影響され得る。
【0058】
従って、ポリマー粒子(A)は、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、異なる形状を有してよい。例えば、それらの粒子は立方体、面取りした端を有する立方体、八面体、二十面体、突起又はへこみを有する又は有していない塊又は球体の形状を有してよい。好ましくは、それらの粒子は、突起又はへこみのない球状又はほんのわずかな突起又はへこみを有する球状である。なぜなら、この形状は、粒子が本発明のCMPプロセスの間に曝される機械的応力に対する耐性と、本発明のCMP剤の他の成分に対する化学的安定性との両方を向上させるからである。
【0059】
更に、それらの粒子は、均質な材料又は不均質な材料、例えば、複合材料又はコアシェル構造を有する材料であってよい。それらは中空又は圧縮であってよい。あるいは、それらの粒子は、金属原子又はカチオンを吸着可能な高い比表面積のスポンジ状構造を有してよい。好ましくは、それらの粒子は圧縮物であってよい。なぜなら、圧縮性が、粒子(A)の機械的応力に対する抵抗とそれらの化学安定性との両方を高めるからである。
【0060】
ポリマー粒子(A)は、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、複数の少なくとも1種の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーの存在下で少なくとも1つの、好ましくは1つの、ラジカル重合可能な、好ましくはエチレン性二重結合を含有する少なくとも1種のモノマーのエマルション重合又は懸濁重合によって製造される。
【0061】
好ましくは、複数の少なくとも1種の官能基(a1)を有するオリゴマー又はポリマーは、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン並びに塩基性α−アミノ酸のポリアミノ酸及びポリペプチド、特にアミノトリアジン−ポリアミン縮合物からなる群から選択される。
【0062】
本発明の文脈において、「オリゴマーの」又は「オリゴマー」との用語は、関係する材料が12より高くない平均重合度を有することを意味するが、「ポリマーの」又は「ポリマー」との用語は、関係する材料が12よりも高い平均重合度を有することを意味する。
【0063】
本発明の文脈において、「エマルション重合」及び「懸濁重合」との用語は、Roempp Online 2009において規定された、「エマルション重合」及び「懸濁重合」として使用される。エマルション重合は、水溶性レドックス開始剤を用いて、欧州特許出願EP0919602A1号、第3頁、段落[0023]〜[0030]に記載される通りに実施できる。懸濁重合は、有機媒体に溶解する開始剤を用いて、欧州特許出願EP1077240A1号、第4頁、段落[0031]及び[0032]に記載される通りに実施できる。
【0064】
好適なモノマーは、例えば、欧州特許出願EP0919602A1号、第3頁、段落[0020]及び[0022]並びにEP1077240A1号、第4頁、段落[0032]及び第5頁、段落[0035]〜[0037]又は独国特許出願DE10126652A1号、第14頁、段落[0152]〜第16頁、段落[0170]に記載されている。
【0065】
モノマーが官能基を含む場合、それらの官能基は、それらが凝塊形成、凝集及び/又は分解などのオリゴマー又はポリマーの官能基と望ましくない相互作用を引き起こさないように選択される。好ましくは、モノマーは官能基を含有しないか又は非反応性官能基を含有する。更に好ましくは、酸基から本質的に遊離している(メタ)アクリル酸エステル、分子中に5〜18個の炭素原子を有する分枝鎖状のモノカルボン酸のビニルエステル、環状又は非環状オレフィン、(メタ)アクリル酸アミド、ビニル芳香族炭化水素、ニトリル、ビニル化合物、ポリシロキサンマクロモノマー、及びビニルモノマーを含有するアクリルオキシシラン基が使用される。更に一層好ましくは、(メタ)アクリル酸アミド(メタクリルアミド)及びビニル芳香族炭化水素、特にメタクリル酸アミド及びスチレンが使用される。
【0066】
モノマー又は上記のモノマーの懸濁重合又はエマルション重合は、上記の複数の少なくとも1種の官能基(a1)を含有する、少なくとも1種の、好ましくは1種の、オリゴマー又はポリマーの存在下で実施される。
【0067】
最も好ましくは、複数の少なくとも1種の官能基(a1)を有するオリゴマー又はポリマーは、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン並びに塩基性α−アミノ酸のポリアミノ酸及びポリペプチド、特に、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物からなる群から選択され、これらは本発明のグラフトコポリマーのグラフトベースである。
【0068】
好ましくは、アミノトリアジンは、メラミン及びベンゾグアナミンからなる群から選択され、その際、メラミンが特に好ましく使用される。従って、好ましくは、メラミン−ポリアミン縮合物、特に、国際特許出願WO2008/148766A1号、第2頁、第35行〜第5頁、第25行と共に実施例1〜9、第10頁、第6行〜第15頁、第6行に記載された高度に分岐したメラミン−ポリアミン縮合物が使用される。更に好ましくは、メラミン−テトラエチレンペンタアミン縮合物が使用される。
【0069】
好ましくは、ポリエチレンイミンは、例えば、Roempp Online 2009, "polyethylenimines"に記載されるような、第1級、第2級及び第3級アミノ基を含有し且つ450〜100,000ダルトンの数平均分子量を有する分枝鎖状のポリエチレンイミンからなる群から選択される。
【0070】
好ましくは、ポリアミノ酸は、好ましくはLeuchs無水物(1,3−オキサゾリジン−2,5−ジオン)の反応によって、合成の塩基性α−アミノ酸から製造される。
【0071】
好ましくは、ポリペプチドは、リジン、アルギニン、オルニチン及びヒスチジン、特にリジンからなる群から好ましくは選択される天然の塩基性α−アミノ酸から製造される。従って、ポリリジンがポリペプチドとして最も好ましく使用される。
【0072】
最も好ましくは、高度に分岐したメラミン−ポリアミン縮合物は、オリゴマー又はポリマー化合物として使用され、これらも本発明のグラフトコポリマーのグラフトベースである。
【0073】
好ましくは、オリゴマー又はポリマー化合物は、少なくとも1つの、更に好ましくは少なくとも2つの、更に一層好ましくは少なくとも3つの、最も好ましくは少なくとも4つの、最も特に好ましくは少なくとも5つの反応性グラフト中心を含有し、その中心にモノマーがグラフトされる。
【0074】
これらのグラフト中心は、容易に開裂され且つ遊離基中心をもたらす化学結合によって形成できる。
【0075】
好ましくは、グラフト中心は少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を含有し、該結合は、既にオリゴマー又はポリマー化合物中に存在するか、あるいは官能基(a1)、特にオリゴマー又はポリマーのアミノ基(a1)と、少なくとも1つの、好ましくは1つの官能基(a1)に反応可能な基、特に、例えば、エポキシ基のようなアミノ反応性官能基とを反応させることによって、それらの化合物中に導入してよい。好適なエポキシ基含有モノマーは、例えば、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートであり、その際、グリシジルメタクリレートが最も好ましく使用される。
【0076】
エマルション重合又は懸濁重合によってラジカル重合されるべきモノマー及び官能基(a1)、特に、アミノ反応性官能基と反応可能な少なくとも1つの基を含有するモノマーに対するオリゴマー又はポリマー化合物の質量比は、広範に変化し、従って、特定の実施態様の必要条件に容易に適合できる。好ましくは、オリゴマー又はポリマー化合物対モノマーの質量比は、1:1〜0.05:1、更に好ましくは0.8:1〜0.1:1、最も好ましくは0.5:1〜0.15:1である。
【0077】
エマルション重合又は懸濁重合から得られるポリマー粒子(A)の分散液の固体含量は、広範に変化し、従って、特定の実施態様の必要条件に容易に適合できる。好ましくは、固体含量は、5〜30質量%、更に好ましくは10〜27.5質量%、最も好ましくは15〜25質量%であり、それぞれの質量パーセンテージは分散液の全質量を基準としている。
【0078】
ポリマー粒子(A)の分散液は、本発明のCMP剤の製造に直接使用できる。しかしながら、本発明のグラフトコポリマーを含有する又はそれからなるポリマー粒子(A)を含めて、ポリマー粒子(A)を分離して、更に使用されるまでそれらを固体として貯蔵することも可能である。これは、単離及び再分散のために分離プロセス工程を必要とするが、固体は分散液自体よりも細菌又は真菌類による攻撃に対して安定であるため、固体形態での貯蔵が有利である。
【0079】
本発明のCMP剤は、本発明のグラフトコポリマーを含有する又は該グラフトコポリマーからなるポリマー粒子(A)を含めて、ポリマー粒子(A)を、広範の量で含有してよい。好ましくは、ポリマー粒子(A)の量は、本発明の所与のCMP剤の全質量を基準として、0.1〜20質量%、更に好ましくは0.2〜15質量%、最も好ましくは0.3〜10質量%、特に0.5〜5質量%である。
【0080】
本発明のCMP剤は、更にCMP剤中で慣用される少なくとも1種の機能性添加剤(B)を含有してよい。好ましくは、機能性添加剤(B)は、酸化剤、錯化剤、不動態膜形成剤、界面活性剤、多価金属イオン、pH調整剤、並びに固体無機及び有機粒子からなる群から選択される。
【0081】
好適な酸化剤(B)及びその有効量は、例えば、欧州特許出願EP1036836A1号、第8頁、段落[0074]及び[0075]から公知である。好ましくは、有機及び無機過酸化物、更に好ましくは無機過酸化物が使用される。特に、過酸化水素が使用される。
【0082】
好ましくは、錯化剤(B)は有機非高分子化合物である。錯化剤(B)は、本発明のCMP剤の水相中に溶解できる。これは、上記の意味では、研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用できる。これは更に、前記金属、特に銅との強い水溶性の錯体を形成することができる。これらの強い錯体は、ゼロ価の金属原子及び/又はそれぞれの金属カチオンによって形成できる。「強い」とは、錯体が高い熱力学的及び/又は動力学的安定性のために非常に低い解離定数を有するので、化学平衡が錯体側へシフトすることを意味する。慣例的に、錯化剤(B)は、特に、本発明のCMPプロセスの条件下で、本発明のCMP剤中の錯化剤(B)の濃度が増大するにつれて、研磨されるべき金属表面の材料除去速度MRRを上昇させる。更に、錯化剤(B)は、慣例的に、本発明のCMP剤中の錯化剤(B)の濃度が増大するにつれて、研磨されるべき金属表面の静的エッチング速度SERを上昇させる。
【0083】
原則として、上記の特性プロフィールを有する全ての有機非高分子化合物は、錯化剤(B)として選択できる。
【0084】
好ましくは、錯化剤(B)は、ポリアミン、カルボン酸、ポリアミノカルボン酸及びアミノ酸からなる群から選択される。
【0085】
更に好ましくは、ポリアミン(B)は、エチレンジアミン、プロピレンジアミン及びジエチレントリアミンからなる群から選択される。
【0086】
更に好ましくは、カルボン酸(B)は、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、グルコン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、マロン酸、ギ酸、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸及びフタル酸からなる群から選択される。
【0087】
更に好ましくは、ポリアミノカルボン酸(B)は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸及びジエチレントリアミンペンタ酢酸からなる群から選択される。
【0088】
更に好ましくは、アミノ酸(B)は、グリシン、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群から選択され、最も好ましくはグリシンである。
【0089】
アミノ酸(B)が特に好ましく使用され、その際、グリシンが最も特に好ましく使用される。
【0090】
適した不動態膜形成剤、例えば、キナルジン酸、キノリン酸、ベンゾトリアゾールBTA、ベンゾイミダゾール、7−ヒドロキシ−5−メチル−1,3,4−トリアザインドリジン、ニコチン酸及びピコリン酸、特にBTAがUS特許出願US2006/0243702A1号から公知である。
【0091】
好適な界面活性剤(B)及びその有効量は、例えば、国際特許出願WO2005/014753A1号、第8頁、第23行〜第10頁、第17行から公知である。
【0092】
好適な多価金属イオン(B)及びその有効量は、例えば、欧州特許出願EP1036836A1号、第8頁、段落[0076]〜第9頁、段落[0078]から公知である。
【0093】
好適なpH調整剤(B)は、例えば、欧州特許出願EP1036836A1号、第8頁、段落[0080]、[0085]及び[0086]、又は国際特許出願WO2005/014753A1号、第12頁、第19行〜第24行から公知である。最も好ましくは、本発明のCMP剤のpHは3〜7、特に4〜6に調整される。
【0094】
好適な固体有機粒子(B)は、少なくとも1つの第1級アミノ基を含有するジシアンジアミド及びトリアジンをベースとしてよい。かかる固体有機粒子(B)及びその有効量は、例えば、国際特許出願WO2005/014753A1号及びWO2006/074248A2号から公知である。
【0095】
無機研磨材粒子として使用できる適した固体無機粒子(B)及びその有効量は、例えば、国際特許出願WO2005/014753A1号、第12頁、第1行〜第8行から公知である。しかしながら、本発明のCMP剤が固体無機粒子(B)を全く含有しないことが特に好ましい。
【0096】
本発明のCMP剤は、好ましくは、以下の工程:
(I)好ましくは、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン、並びに塩基性α−アミノ酸のポリアミノ酸及びポリペプチド、特に、アミノトリアジン−ポリアミン縮合物からなる群から選択される複数の官能基(a1)を有する少なくとも1種のオリゴマー又はポリマーの存在下で、少なくとも1つのラジカル重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーを、エマルション重合又は懸濁重合することによって、研磨されるべき表面上で金属及び/又は金属酸化物と相互作用でき且つ前記金属及び金属カチオンと錯体を形成できる複数の少なくとも1種の官能基(a1)をその表面上に有する上記の少なくとも1種のポリマー粒子(A)を製造する工程;
(II)研磨材として水相中に微分散した少なくとも1種のポリマー粒子(A)を含有する水性研磨剤を製造する工程;及び
(III)前記金属表面を、前記水性研磨剤で化学機械研磨する工程
を含む、本発明のCMPプロセスの過程で製造される。
【0097】
本発明のCMP剤の製造は、特殊性を全く示さないが、上記の成分(A)及び任意に(B)を、水性媒体、特に脱イオン水中に溶解又は分散させることによって実施できる。このために、慣用の標準混合プロセス及び混合装置、例えば、撹拌槽、インライン式溶解機、高剪断インペラ、超音波ミキサー、ホモジナイザーノズル又は向流ミキサーが使用できる。好ましくは、こうして得られる本発明のCMP剤は、固体の微分散した研磨材(A)のアグロメレート又はアグリゲートなどの粗粒子状の粒子を除去するために、適切なメッシュ口径のフィルタを通して濾過される。
【0098】
本発明のCMP剤は、大部分の多様にパターン形成された及び構造化されていない金属表面、特にパターン形成された金属表面のCMPのために使用される。
【0099】
好ましくは、パターン形成された金属表面は、金属パターン及び金属誘電体パターンからなる。更に好ましくは、金属パターン及び金属誘電体パターンは、上で定義された金属及びそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1種の、特に1種の金属材料を含有するか又はそれらからなる。特に、銅が金属として使用される。
【0100】
誘電体として、慣用の有機及び無機誘電体が利用できる。好適な誘電体の例は、欧州特許出願EP1306415A2号、第4頁、段落[0031]から公知である。特に、二酸化ケイ素が誘電体として使用される。
【0101】
特に、金属誘電体パターンは、IC、特に超高密度ICを有するウェハを製造するための銅ダマシンプロセスに使用される銅誘電体パターンと関係がある。
【0102】
当該技術分野で公知の通り、金属誘電体パターン、特に銅誘電体パターンは、慣用のバリア層を含有し得る。好適なバリア層の例も、欧州特許出願EP1306415A2号、第4頁、段落[0032]から公知である。
【0103】
本発明の研磨プロセスは、特殊性を示さないが、ICを有するウェハの製造においてCMPのために慣例的に使用されるプロセス及び装置を用いて実施できる。
【0104】
当該技術分野で公知の通り、CMPのための典型的な装置は、研磨パッドで被覆された回転プラテンからなる。ウェハは、その上面が研磨パッドに下向けられて、キャリア又はチャック上に取り付けられる。キャリアは水平位置でウェハを固定する。この特定の研磨の配置及び保持装置は、ハードプラテンデザインとしても知られている。このキャリアは、キャリアの保持表面と研磨されていないウェハの表面との間にあるキャリアパッドを保持し得る。このパッドはウェハのクッションとして働く。
【0105】
キャリアの下には、大きな直径のプラテンも一般に水平に位置し、且つ研磨されるべきウェハの表面に対して平行な表面を与える。その研磨パッドは、平面化プロセスの間、ウェハ表面に接触する。本発明のCMPプロセスの間、本発明の水性CMP剤は、連続流として又は液滴式で研磨パッド上に適用される。
【0106】
キャリアとプラテンの両方が、キャリアとプラテンから垂直に延びている、それぞれのシャフトの周りを回転させられる。回転しているキャリアシャフトは、回転しているプラテンに対して相対的な位置で固定されたままであるか又はプラテンに対して水平方向に振動してよい。キャリアの回転方向は、通常、必ずしもプラテンの回転方向と同じではない。キャリア及びプラテンの回転速度は、一般に、必ずしも異なる値に設定されていない。
【0107】
慣例的に、プラテンの温度は、10℃〜70℃の間の温度に設定されている。
【0108】
更なる詳細については、国際特許出願WO2004/063301A1号、図1と併せて、特に第16頁、段落[0036]〜第18頁、段落[0040]が引用されている。
【0109】
本発明のCMPプロセス及び本発明のCMP剤によって、銅ダマシンパターンを含むICを有するウェハが得られ、これは優れた機能を有する。
【0110】
実施例
実施例1
ポリマー粒子(A)の製造
アンカー攪拌機、還流凝縮器及び室温での供給のための3つの供給ラインを取り付けた2Lの反応フラスコに、窒素下で425gの脱イオン水及び30gのメラミン−テトラエチレンペンタアミン縮合物を装入した。該縮合物は、国際特許出願WO2008/148766A1号に記載された一般的な方法に従って、メラミンとテトラエチレンペンタアミンとを一緒に溶融してアンモニアを分離し、それによって塩化アンモニウムを触媒として用いて調製された。フラスコの内容物を、撹拌を続けて80℃まで加熱した。その後、最初のpH値を、65質量%の硝酸溶液を用いて、5に調整した。80℃で、12gのグリシジルメタクリレートを反応器中に装入し、メラミン−テトラエチレンペンタアミン縮合物と30分間反応させた。その後、2gのラジカル開始剤[2,2’−アゾ−(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド;V−50、和光純薬工業株式会社製のVazo50]及び66.5gの脱イオン水を反応器中に装入した。同時に、2つのモノマー供給が開始され、反応フラスコに90分間連続的に供給された:
供給I:15質量%の水溶液としての26.667gのメタクリルアミド及び243.5gの脱イオン水;
供給II:184gのスチレン。
【0111】
モノマー供給I及びIIの開始から30分後に、2gのV−50及び43.75gの脱イオン水からなる開始剤の供給が開始されて、反応フラスコに70分間連続的に供給された。供給の終了後、反応混合物を80℃で2時間、後重合させ、次いで室温まで冷却させた。22.7質量%の固体含有率を有するポリマー粒子(A)の分散液が得られた。ポリマー粒子(A)は、HPPS−動的光散乱法によって測定して295nmの平均粒径d50を示した。分散液はCMP剤の製造に極めて適していた。
【0112】
実施例2
固体ポリマー粒子(A)を含有するCMP剤の製造
実施例1のポリマー粒子(A)を使用して、以下の組成を有する実施例2のCMP剤を製造した:1質量%のポリマー粒子(A)、1質量%の過酸化水素(B)及び0.2質量%のグリシン(B)。CMP剤のpHは硝酸を用いて5に調整した。
【0113】
本発明のCMP剤の静的エッチング速度SERを以下のように測定した:
【0114】
銅のディスクを最初に状態調整し、洗浄し、乾燥し、次いで各試験の前に計量した。銅ディスクを2%の硝酸中に10〜20秒間浸漬し、次いで脱イオンHOで濯ぎ、その後、圧縮空気で乾燥させた。次にCuディスクを、撹拌したCMP剤(A1)〜(A4)中に、最初のシリーズにおいて20℃で3分間、第2のシリーズにおいて50℃で10分間、それぞれ直接浸漬させた。エッチング後、銅ディスクを脱イオン水で洗浄し、次にイソプロピルアルコールですすいだ。その後、銅ディスクを加圧空気の定常流で乾燥させ、以下の計算を用いて正味重量損及びディスクの表面積をもとにSERを計算した:
SER=重量損/[密度×(周囲面積+2×断面の面積)×時間]、
式中、
重量損=溶解後の銅ディスク中の重量損失;
密度=銅の密度;
断面の面積=ディスクの断面面積;
周囲面積=ディスクの周囲面積;及び
時間=溶解時間。
【0115】
実施例のCMP剤の50℃での静的エッチング速度SERは67nm/分であった。
【0116】
実施例のCMP剤の材料除去速度MRRを以下のように決定した:
【0117】
再び、銅ディスクを状態調整し(前述の通り)、洗浄し、乾燥し、次いで各試験の前に計量した。その後、それらのディスクをステンレス鋼キャリアに取り付けて、次に片面研磨機(CETR(Center for Tribology社、キャンベル、カリフォルニア)のCMPベンチトップ機)に取り付けた。ポリウレタンIC1000研磨パッドをこれらの試験に使用した。銅ディスクを、室温にてパッド上で100ml/分の速度でCMP剤を供給することによって17.24kPa(2.5psi)の圧力下で1分間研磨した。銅ディスクは115rpmの回転速度を有し、且つパッドは112rpm回転速度を有していた。パッドをダイアモンドグリットコンディショナーで状態調整し、化学反応の生成物を除去して、パッドを次の運転のために準備を整えた。研磨後、ディスクを脱イオン水ですすぎ洗いし、次にイソプロピルアルコールですすいだ。その後、銅ディスクを加圧空気の定常流で乾燥させ、以下の計算に従って研磨された表面積の正味質量損に基づいてMRRを計算した:
MRR=重量損/(密度×断面の面積×時間);
式中、
重量損=研磨後の銅ディスク中の重量損失;
密度=銅の密度;
断面の面積=ディスクの断面面積;及び
時間=研磨時間。
【0118】
実施例のCMP剤の材料除去速度MRRは422nm/分であった。