【実施例】
【0033】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
尚、実施例2及び製造例1〜10は参考例である。
【0034】
〔実施例1〜4及び比較例1〜5〕
下記表1の配合でスパイスミックスを製造した。各実施例及び比較例のスパイスミックスの製造に用いたスパイス末の、前記方法に従って算出した「主要5種の香気成分の平均沸点」は下記の通りである。ブラックペッパー末、ホワイトペッパー末及びガーリック末は第1のスパイス末であり、オレガノ末、タイム末、ローズマリー末及びパプリカ末は第2のスパイス末であり、オールスパイス末、クローブ末及びショウガ末は第3のスパイス末である。下記の各スパイス末の平均沸点は、具体的には以下の方法によって算出した。
ブラックペッパー末 :243.7℃
ホワイトペッパー末 :221.7℃
ガーリック末 :226.9℃
オレガノ末 :196.2℃
タイム末 :213.2℃
ローズマリー末 :210.7℃
パプリカ末 :182.7℃
オールスパイス末 :256.8℃
クローブ末 :253.1℃
ショウガ末 :270.7℃
【0035】
(スパイス末の平均沸点の算出方法)
測定対象のスパイス末100mgを20mLのガラス容器に入れ、80℃で60分間加熱し、その際放出された香気成分を固相マイクロ抽出(SPME)ファイバー(SUPELCO社製)に捕集した。SPMEファイバーからガスクロマトグラフィー質量分析装置(ISQ;サーモサイエンティフィック社製)を用いて、香気成分の含有比を分析した。ガスクロマトグラフィー分析の条件は次の通り。カラム:サーモサイエンティフィック社製TR−1MS 0.25mm径×60ml、カラム温度:注入口280℃、カラム流量:1.5mL/min。
得られた香気成分の含有比から、ガスクロマトグラムのピーク面積の大きい上位5種の香気成分(以下、第1成分〜第5成分ともいう)を特定し、その5成分のピーク面積の合計値に対する各成分のピーク面積割合(単位:%)を計算し、この各成分のピーク面積割合と沸点とを用いて、次式により、測定対象のスパイス末の主要5種の香気成分の平均沸点を計算し、その計算値を当該スパイス末の平均沸点とした。
主要5種の香気成分の平均沸点(℃)=(第1成分の沸点×第1成分のピーク面積割合)+(第2成分の沸点×第2成分のピーク面積割合)+(第3成分の沸点×第3成分のピーク面積割合)+(第4成分の沸点×第4成分のピーク面積割合)+(第5成分の沸点×第5成分のピーク面積割合)
【0036】
〔試験例1〕
1枚150gの牛ロースステーキ肉を複数枚用意し、試験対象のスパイスミックス0.5gを、それぞれ2枚ずつ、肉の片面に刷り込んだ。5分後にフライパンに3gの牛脂をのせて加熱し、フライパンが十分に熱せられたところでスパイスミックスを刷り込んだステーキ肉を、そのミックス刷り込み面側を下にして該フライパンにのせ、1分間加熱調理した後、該ステーキ肉を裏返してさらに1分30秒間加熱調理した。焼き上がったステーキ肉の各1枚を切り分け、その調理直後の香りの質とバランスを、10名のパネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。さらに焼き上がったステーキ肉の残りの各1枚を、表面温度が約50℃になるようウォーマーで6時間保管し、その後前記と同様に切り分けて10名のパネラーに下記評価基準により香りの持続性を評価してもらった。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1に示す。
【0037】
〔試験例2〕
100gにカットした鶏もも肉を用意し、試験対象のスパイスミックス3質量部、塩6質量部、小麦粉91質量部及び水100質量部を混合して調製したバッター液を付着させた。バッター液を付着した鶏もも肉を温度175℃の油で4分間油ちょうして、フライドチキンを製造した。調理直後の各フライドチキンの香りの質とバランスを、10名のパネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。さらに残ったフライドチキンを、表面温度が約50℃になるようウォーマーで8時間保管し、同様に10名のパネラーに下記評価基準により香りの持続性を評価してもらった。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表2に示す。
【0038】
<香りの質の評価基準>(試験例1用)
5点:甘くスパイシーで爽やかな香りが強く、肉の臭みも消えており、極めて好ましい。
4点:甘くスパイシーで爽やかな香りがあり、肉の臭みもほぼ消えており、好ましい。
3点:甘くスパイシーで爽やかな香りがあるが、肉の臭みがややある。
2点:甘くスパイシーで爽やかな香りは少なく、雑味のある香気と肉の臭みがあり、やや不良。
1点:甘くスパイシーで爽やかな香りに乏しく、雑味のある香気と肉の臭みが強く、不良。
【0039】
<香りの質の評価基準>(試験例2用)
5点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りが強く引き立ち、極めて好ましい。
4点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りが引き立ち、好ましい。
3点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りがあるが、脂臭さがややある。
2点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りが少なく、雑味のある香気と脂臭さがあり、やや不良。
1点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りに乏しく、雑味のある香気と脂臭さが強く、不良。
【0040】
<香りのバランスの評価基準>(試験例1用)
5点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りがバランスよく、好ましい。
3点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りのバランスがやや崩れている。
2点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0041】
<香りのバランスの評価基準>(試験例2用)
5点:肉と油とスパイスの香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:肉と油とスパイスの香りがバランスよく、好ましい。
3点:肉と油とスパイスの香りのバランスがやや崩れている。
2点:肉と油とスパイスの香りのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:肉と油とスパイスの香りのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0042】
<香りの持続性の評価基準>(全試験例共通)
5点:調理直後とほぼ同等で、ほぼ完全に香りが持続している。
4点:調理直後に比べるとやや劣るが、十分に香りが持続している。
3点:調理直後に比べると劣るが、香りが持続している。
2点:調理直後に比べて香りが低下しており、やや不満がある。
1点:調理直後に比べて香りが大きく低下しており、不満がある。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1及び表2に示す通り、各実施例のスパイスミックスは、第1〜第3のスパイス末を全て含有しているため、これら3種のスパイス末のうちの何れかを含有していない各比較例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に優れる結果となった。以上のことから、スパイスミックスにおいてこれら各評価項目を向上するためには、主要5種の香気成分の平均沸点で区分された第1〜第3のスパイス末が必須であることがわかる。
【0046】
〔実施例5〜11及び比較例6〜8〕
下記表3の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示す通り、各比較例のスパイスミックスは、何れも第1〜第3のスパイス末を全て含有しているものの、その含有量が前記特定範囲から外れているため、各実施例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に劣る結果となった。以上のことから、スパイスミックスにおいてこれら各評価項目を向上するためには、主要5種の香気成分の平均沸点で区分された第1〜第3のスパイス末を単に含有するだけでは足りず、各スパイス末をそれぞれ前記特定範囲で配合することが重要であることがわかる。
【0049】
〔実施例12〜17及び比較例9〜11〕
下記表4の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表4に示す。尚、下記表4には、実施例1の結果を再掲した。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示す通り、各比較例のスパイスミックスは、何れも第2のスパイス末の含有量が前記特定範囲(5〜30質量%)から外れているため、各実施例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に劣る結果となった。
【0052】
〔実施例18〜23及び比較例12〜14〕
下記表5の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表5に示す。尚、下記表5には、実施例1の結果を再掲した。
【0053】
【表5】
【0054】
表5に示す通り、各比較例のスパイスミックスは、何れも第3のスパイス末の含有量が前記特定範囲(5〜30質量%)から外れているため、各実施例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に劣る結果となった。
【0055】
〔実施例24〜33〕
下記表6の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表6に示す。尚、下記表5には、実施例12の結果を再掲した。
【0056】
【表6】
表6に示す通り、実施例25〜29、32及び33のスパイスミックスは、植物性蛋白粉(大豆蛋白粉)及び/又は動物性蛋白粉(卵白粉)を、当該スパイスミックス中の全スパイス末(第1〜第3のスパイス末の混合物)100質量部に対して、20〜200質量部の範囲で含有しているため、表6に示す他の実施例に比して、香りの質、バランス及び持続性に優れる結果となった。実施例24、30及び31は、大豆蛋白粉又は卵白粉を含有しているものの、その含有量が適切でないため、目立った効果は認められなかった。大豆蛋白粉及び卵白粉の両方を含有している実施例33が最も結果が良好であった。
【0057】
〔製造例1〜10〕
下記表7の配合で揚げ物用衣材を製造した。使用したスパイスミックスの組成は、ブラックペッパー末(第1のスパイス末)80質量%、タイム末(第2のスパイス末)10質量%、ショウガ末(第3のスパイス末)10質量%であった。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用い、タピオカ澱粉としては、日本食品化工製の日食ねりこみ澱粉K−1を用いた。各揚げ物用衣材100質量部に対して、水200質量部を混合してバッター液を製造した。打ち粉をした豚ロース肉100gにこのバッター液を絡め、さらにパン粉を付着させ、下記加熱工程A〜Eの何れか1つを行って、とんかつを製造した。
【0058】
・加熱工程A:6分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合0%)
・加熱工程B:2分間油ちょう→8分間スチームコンベクション→2分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合66.7%)
・加熱工程C:1分間油ちょう→10分間スチームコンベクション→1分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合83.3%)
・加熱工程D:0.5分間油ちょう→13分間スチームコンベクション(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合96.3%)
・加熱工程E:3分間油ちょう→3分間スチームコンベクション→3分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合33.3%)
【0059】
〔試験例3〕
調理直後の各とんかつについて10名のパネラーに、香りの質とバランスを下記評価基準により評価してもらうと共に、香りの持続性を前記評価基準により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表7に示す。
【0060】
<香りの質の評価基準>(試験例3用)
5点:とんかつ肉のジューシーな香りが非常に引き立ち、極めて好ましい。
4点:とんかつ肉のジューシーな香りが引き立ち、好ましい。
3点:とんかつ肉のジューシーな香りがあるが、脂臭さがややある。
2点:とんかつ肉のジューシーな香りが少なく、雑味のある香気と脂臭さがあり、やや不良。
1点:とんかつ肉のジューシーな香りに乏しく、雑味のある香気と脂臭さが強く、不良。
<香りのバランスの評価基準>(試験例3用)
5点:肉とソースとスパイスの香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:肉とソースとスパイスの香りがバランスよく、好ましい。
3点:肉とソースとスパイスの香りのバランスがやや崩れている。
2点:肉とソースとスパイスの香りのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:肉とソースとスパイスの香りのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0061】
【表7】
【0062】
表7から明らかなように、(揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間に占める、)油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合が前記特定範囲(50〜95質量%)内にある製造例2、3及び6〜8は、該割合が前記特定範囲外にある他の製造例に比して、香りの質、バランス及び持続性に優れる結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材を食材に付着させ加熱調理する食品の製造方法において、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合の前記特定範囲の臨界意義が明らかである。