【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0037】
(1)オニク抽出物の調製
良く乾燥したオニク(学名:Boschniakia rossica)を細かく刻み、その粉砕物に8倍量の75%エタノールを加えて、2時間沸騰状態を保ちながらエタノール抽出液を得た。そのエタノール抽出液をろ過し、エタノール抽出液中の残渣をろ別した。その残渣に対して、上記抽出操作を繰り返した。
【0038】
この様にして得られた2回分のエタノール抽出液を合わせて減圧濃縮した後、70℃にて減圧乾燥し、オニク抽出物を得た。
【0039】
(2)マウスを用いた強制遊泳試験法
本試験は、前述のPorsolt等抗うつ病動物モデル試験法に基づき行った。
(2−1)使用動物
早期老化マウスとして知られるSAM系統のマウスのうち、老化過程において抑うつ傾向を示すことを特徴とするSAMP10を用いた。6ヶ月齢SAMP10の雄を使用した。
【0040】
ここで、SAM系統のマウスは、老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mouse:SAM)と呼ばれる一群の関連近交系マウスであり、促進老化を具体的に示したモデル動物である(Takeda, T. et al. Mech. Ageing Dev., 17 183-194, 1981)。そして、SAMP10が加齢するに従い示す病態としては、学習・記憶能障害、抑うつ状態、嗅球・前頭部萎縮がある(細川昌則 「SAM系統マウスの老化の特性」 実験医学 Vol.16 No.18(増刊) 1998 p.86-90)。
【0041】
(2−2)動物飼育
購入した動物を7日間馴化した。馴化期間中の体重及び一般状態の観察により異常のないことを確認し、健康な動物を用いた。飼育条件は、温度(24±2℃)と湿度(50±20%)とを保ち、1ケージ中に1個体の条件で、照明は12時間周期で点灯と消灯を繰り返した(明期:6:00〜18:00)。また、飼料(マウス繁殖用飼料1035、北京華阜康生物科技有限公司)と飲用水はともに自由摂取とした。
【0042】
(2−3)試験例I
試験例Iでは、オニク抽出物の投与量の違いによる投与効果を確認した。
【0043】
SAMP10の雄8匹を1群として、対照(0mg/kg)群、オニク抽出物100mg/kg群、同200mg/kg群及び同400mg/kg群の4群に群分けした。
【0044】
次に、オニク抽出物の投与用量を、夫々0mg/kg(対照群)、100mg/kg、200mg/kg及び400mg/kgとし、オニク抽出物を5%(W/W)アラビアゴム末水溶液に懸濁させ、固定時間(朝9時)に、一日1回10mL/kgの液量で強制経口投与した。薬物投与は連続で4週間行った。
【0045】
次に、薬物投与開始から4週間後、25℃の水を深さ15cmまで入れた円筒中で、7分間の強制遊泳試験を行い、上記各群のマウスを強制遊泳させた。上記各群のマウスに対して、初めの2分間強制遊泳した後、続く5分間に観察される不動時間の累積時間(累積不動時間)を測定した。
【0046】
数値(累積不動時間)は平均値±標準誤差で表し、対照群と被験物群の平均値の差の検定には、一元配置の分散分析後、ANOVAの統計学的処理方法を用いた。累積不動時間については有意差検定を行った。いずれの場合も危険率が5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0047】
また、上記試験期間中、各群のマウスの体重は正常に推移した。
【0048】
図1に、試験例Iにおける薬物投与4週間後の各群の累積不動時間(秒)の結果を示した。*はp<0.05を、**はp<0.01を示す。
【0049】
(2−4)試験例II
試験例IIでは、オニク抽出物の投与効果の経時変化を確認した。
【0050】
SAMP10の雄8匹を1群として、対照(0mg/kg)群及びオニク抽出物200mg/kgに群分けした。
【0051】
次に、オニク抽出物の投与用量を、夫々0mg/kg(対照群)及び200mg/kgとし、オニク抽出物を5%(W/W)アラビアゴム末水溶液に懸濁させ、固定時間(朝9時)に、一日1回10mL/kgの液量で強制経口投与した。薬物投与は連続で4週間行った。
【0052】
次に、薬物投与(対照群は非投与)開始から毎週1回、25℃の水を深さ15cmまで入れた円筒中で、7分間の強制遊泳試験を行い、上記各群のマウスを強制遊泳させた。上記各群のマウスに対して、初めの2分間強制遊泳した後、続く5分間に観察される不動時間の累積時間(累積不動時間)を測定した。薬物投与(対照群は非投与)開始から、1、2、3及び4週目の各時点での累積不動時間を測定した。
【0053】
数値(累積不動時間)は、試験例Iと同様に、ANOVAの統計学的処理方法を用いた。累積不動時間については有意差検定を行った。いずれの場合も危険率が5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0054】
また、上記試験期間中、各群のマウスの体重は正常に推移した。
【0055】
図2に、試験例IIにおける毎週の各群の累積不動時間(秒)の結果を示した。*はp<0.05を示す。
【0056】
(2−5)試験例III
試験例IIIでは、オニク抽出物と人参抽出物との投与効果の違いを確認した。
【0057】
SAMP10の雄8匹を1群として、A:対照(0mg/kg)群、B:人参抽出物200mg/kg群及びC:オニク抽出物200mg/kg群に群分けした。人参抽出物は白参軟エキス(天津中一製薬社製)を用いた。
【0058】
次に、対照群Aは抽出物の投与無し、人参抽出物(B群)及びオニク抽出物(C群)の投与用量を、夫々200mg/kgとし、各抽出物を5%(W/W)アラビアゴム末水溶液に懸濁させ、固定時間(朝9時)に、一日1回10mL/kgの液量で強制経口投与した。薬物投与は連続で3週間行った。
【0059】
次に、薬物投与開始から3週間後、25℃の水を深さ15cmまで入れた円筒中で、7分間の強制遊泳試験を行い、上記各群のマウスを強制遊泳させた。上記各群のマウスに対して、初めの2分間強制遊泳した後、続く5分間に観察される不動時間の累積時間(累積不動時間)を測定した。
【0060】
数値(累積不動時間)は、試験例Iと同様に、ANOVAの統計学的処理方法を用いた。累積不動時間については有意差検定を行った。いずれの場合も危険率が5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0061】
また、上記試験期間中、各群のマウスの体重は正常に推移した。
【0062】
図3に、試験例IIIにおける薬物投与3週間後の各群の累積不動時間(秒)の結果を示した。*はp<0.05を示す。
【0063】
4週間連続投与した結果の説明をする。
【0064】
試験例Iの結果から、オニク抽出物の投与用量100、200及び400mg/Kgの全てにおいて投与効果が確認され、オニク抽出物の至適投与用量は200mg/kgであることが明らかになった。また、試験例IIの結果において、投与開始1週目は対照群とオニク抽出物群に累積不動時間の有意差は見られず、2週目から投与効果が確認された。更に、3週目からオニク抽出物群の累積不動時間が、対照群のそれと比べて有意に短縮され、4週目も有意差がみられた。これらの結果から、オニク抽出物投与により老化マウスの気分障害(うつ状態)を改善することが明らかになった。
【0065】
この3週目からオニク抽出物投与効果が発現した効果を考察する。
【0066】
この効果は、抗うつ作用の発現には1〜2週間の連続的な薬物投与が必要であるところ、殆どの抗うつ薬は、服薬を開始してから2週間程度は経たなければ本来の効果が発現しないとされている、ことに一致するものである(新田淳美 「うつ病の病態生理と抗うつ薬の薬理の理解を深めるキーワード」 薬局 2007, Vol.58, No.3 p.41-42)。これは、抗うつ薬の抗うつ作用は、神経間隙におけるモノアミン量を単純に増やすことによるものではなく、モノアミン量の変化によるシナプス後レセプターの密度や感受性の変化など、二次的なものが大きく関わっているからとも推測されている。
【0067】
試験例IIIの結果から、オニク抽出物投与により、対照群と比較して有意に累積不動時間を短縮し、人参抽出物投与群よりも不動時間が短くなることが確認された。このことから、肉体疲労の改善や滋養強壮を目的に広く使用されている人参抽出物は、累積不動時間短縮に有意な効果を示さないことが明らかになった。