(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6009247
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】クリームチーズ類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 19/076 20060101AFI20161006BHJP
A23C 19/08 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
A23C19/076
A23C19/08
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-149104(P2012-149104)
(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公開番号】特開2014-8049(P2014-8049A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小浜 愛
(72)【発明者】
【氏名】新岡 誠貴
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 朋之
(72)【発明者】
【氏名】武藤 高明
(72)【発明者】
【氏名】塩田 誠
【審査官】
西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−512811(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0045133(US,A1)
【文献】
特開2011−072203(JP,A)
【文献】
特開2003−259804(JP,A)
【文献】
特開2005−046139(JP,A)
【文献】
特開2009−100663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HS−SPME法によって測定されるアセトアルデヒド発現量が7.3ppb以上であり、
前記HS−SPME法が、次の[方法1]であることを特徴とする請求項1記載のクリームチーズ類(ナチュラルチーズ規格のクリームチーズを除く)。
[方法1]
SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を使用し、試料1gと内部標準として純度98%の1−ペンタノール水溶液を37℃まで加温し、ヘッドスペース中の揮発成分をSPME樹脂に60分間吸着させ、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により測定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクリームチーズ類に関する。本発明において、「クリームチーズ類」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)又は公正競争規約で定めるプロセスチーズ、チーズフード、または乳等を主要原料とする食品の規格のうちいずれかに該当するものであって、かつ一般にクリームチーズあるいはクリームチーズ様食品とされるものをいう。なお本明細書中において、ナチュラルチーズ規格のクリームチーズを便宜的に「クリームチーズ」と記載するが、この「クリームチーズ」は本発明の「クリームチーズ類」には包含しないものとする。
【背景技術】
【0002】
近年、国内のナチュラルチーズおよびプロセスチーズの生産量および消費量は、直接消費用、原料用ともに増加傾向にあり、中でも、非熟成チーズであるフレッシュチーズの消費は拡大傾向にある。フレッシュチーズは脂肪含量および水分含量が高く、軟らかな物性であるため、パンやクラッカーにぬってそのまま食されるほか、製菓・製パン原料、加工食品原料、プロセスチーズ原料等にも広く利用されている。
【0003】
フレッシュチーズのひとつであるクリームチーズは、良好な風味・組織を供えているが、非熟成チーズであるため保存中に風味や組織が劣化しやすく、長期間保存することができない。クリームチーズの風味劣化は、残存するスターター乳酸菌の乳酸醗酵により、醗酵臭の発生および酸度上昇による酸味変化が起こることに起因する。また、クリームチーズの組織劣化は、水分値が高い事に起因し、酸度変化や乳成分の形態変化によりクリームチーズの組織構造が壊れ、離水や組織変化が発生するために生じる。
【0004】
クリームチーズの保存性を高める方法としては、一般的に保存料を使用して微生物の繁殖を抑制する方法等が行われているが、効果は十分ではなく、依然として風味・組織劣化はクリームチーズの流通において課題となっている。また、保存中の離水抑制を目的として、安定剤等の添加が行われているが、安定剤の添加はクリームチーズの風味を低下させるという課題がある。
【0005】
また、クリームチーズを加熱乳化処理し、いわゆるクリームチーズ類へ加工することも行われている。クリームチーズ類への加工は、チーズ内に残存していたスターター乳酸菌を失活させ、保存中の発酵臭の発生と酸味変化を防止するとともに、組織の均一な乳化によって、保存中の組織変化および離水を防止することができる。しかしながら、クリームチーズ類への加工の際の加熱乳化工程は、クリームチーズの風味を低下させることがあり、クリームチーズ類への加工において、クリームチーズが有するフレッシュな風味を保持することが困難であった。
【0006】
クリームチーズ類の風味については、例えば特許文献1に、軟質チーズ含有食品のクリームチーズ類の風味の強さについて記載があるが、風味の質、すなわちクリームチーズ様のフレッシュな風味に関する具体的な記載は一切ない。また、特許文献2では、プロセスチーズの耐熱保形性および食感・風味について記載されているが、フレッシュチーズではない水分含量の低いチーズが対象であり、クリームチーズ様のフレッシュな風味についての記載はない。特許文献3では、糊感のない非熟成タイプチーズの爽やかな風味について記載があるが、この方法は長時間の冷蔵保存によって生じる離水に起因する風味劣化を抑制するものであり、原料クリームチーズのフレッシュな風味を保持させるものではない。
【0007】
フレッシュチーズにおいて、製造直後のチーズが有するフレッシュな風味には、乳酸、酢酸、アセトアルデヒドといった物質が関与していることが示唆されている(非特許文献1)。特に、アセトアルデヒドはフレッシュな発酵感に寄与する成分であり、クリームチーズ類において可能な限りアセトアルデヒドの発現量を増やすことが、フレッシュな風味の保持につながると考えられるが、アセトアルデヒドは、沸点が21℃と低く、容易に揮発するため、加熱工程を経てクリームチーズ類を製造する場合、その殆どが失われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-72203号公報
【特許文献2】特再公表2009-107662号公報
【特許文献3】特開2009-100663号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】乳業技術,54,47-55(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アセトアルデヒドの発現量を高めたクリームチーズ類を提供することを課題とする。なお、発現量とは、口中において、風味として感じられる程度にアセトアルデヒドが揮発する量をいう。特に、本発明においては、「発現量」とは口中に近い条件(37℃)でアセトアルデヒドを揮発させ、ヘッドスペース固相マイクロ抽出法(HS−SPME法)によって捕集・測定した値をいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはクリームチーズ類の製造工程と香気成分変化に着目して鋭意研究を行い、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
(1) HS−SPME法によって測定されるアセトアルデヒド発現量が7.3ppb以上であることを特徴とするクリームチーズ類。
(2) 前記HS−SPME法が、次の[方法1]であることを特徴とする(1)記載のクリームチーズ類。
[方法1]
SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を使用し、試料1gと内部標準として純度98%の1−ペンタノール水溶液を37℃まで加温し、ヘッドスペース中の揮発成分をSPME樹脂に60分間吸着させ、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により測定した。
(3) クリームチーズ類中のアセトアルデヒドの発現量が、HS−SPME法において、内部標準物質のピーク面積を1とした時の相対比で0.0073以上であることを特徴とするクリームチーズ類。
(4) 前記HS−SPME法が、次の[方法1]であることを特徴とする(3)記載のクリームチーズ類。
[方法1]
SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を使用し、試料1gと内部標準として純度98%の1−ペンタノール水溶液を37℃まで加温し、ヘッドスペース中の揮発成分をSPME樹脂に60分間吸着させ、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により測定した。
(5) 原料クリームチーズに副原料を適宜配合する配合工程と、前記配合工程を経た原料クリームチーズを加熱乳化する加熱乳化工程と、前記加熱乳化工程を経たクリームチーズ類を充填する充填工程とを有するクリームチーズ類の製造方法であって、前記加熱乳化工程から前記充填工程において、クリームチーズ類と外気とが非接触条件下で行われることを特徴とするクリームチーズ類の製造方法。
(6) 前記加熱乳化工程の後、前記充填工程までの間において、クリームチーズ類を均質化する均質工程を有することを特徴とする(5)記載のクリームチーズ類の製造方法。
(7) 前記非接触条件が、クリームチーズ類が品温80℃以上で60秒間以上外気と接触しないことである(5)又は(6)記載のクリームチーズ類の製造方法。
(8) 前記加熱乳化工程開始時点での原料のアセトアルデヒド発現量が、10ppb以上であることを特徴とする(5)又は(6)記載のクリームチーズ類の製造方法
(9) 原料クリームチーズに副原料を適宜配合する配合工程と、前記配合工程を経た原料クリームチーズを加熱乳化する加熱乳化工程と、加熱乳化工程を経たクリームチーズ類を充填する充填工程とを有するクリームチーズ類の製造方法であって、前記加熱乳化工程開始時点での原料のアセトアルデヒド発現量を50ppb以上に調製することを特徴とするクリームチーズ類の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によればクリームチーズ様のフレッシュな風味を有するクリームチーズ類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】クリームチーズ類のアセトアルデヒド発現量と官能評価平均点との関連を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のクリームチーズ類の特徴は、HS−SPME法によって測定されるアセトアルデヒド発現量が7.3ppb以上であるという点に有る。なお、HS−SPME法は、SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を使用し、試料1gと内部標準として純度が98%の1−ペンタノール水溶液を37℃で加熱した際のヘッドスペース中の揮発成分をSPME樹脂に60分間吸着させ、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により測定する。
【0016】
クリームチーズ類の風味、特にクリームチーズ様のフレッシュな風味とアセトアルデヒド発現量との関係について鋭意研究を行った結果、クリームチーズ様のフレッシュな風味の官能評価平均点とアセトアルデヒド発現量には
図1に示すような関係があり、アセトアルデヒド発現量が7.3ppb以上であると好ましいフレッシュな風味であることを見出した。
【0017】
本発明で用いる原料クリームチーズは、ナチュラルチーズ規格のクリームチーズが好ましいが、ナチュラルチーズ規格のもの以外にも、プロセスチーズ、チーズフード、または乳等を主要原料とする食品の規格のうちいずれかに該当するものも使用可能である。しかし、クリームチーズ類に7.3ppb以上のアセトアルデヒドを発現させるためには、原料全体として、アセトアルデヒドの発現量が10.0ppb以上となるよう調製する。
アセトアルデヒドの発現量が10.0ppb以上となるように調製するには、原料クリームチーズ類の配合量、あるいはアセトアルデヒドの発現量の多いプロセスチーズ類の配合割合を増加させる(アセトアルデヒドの発現量の低いプロセスチーズ類の配合量を減少させる)ほか、香料等のアセトアルデヒドを含有する添加物を配合して調製することも可能である。
【0018】
本発明のクリームチーズ類には、このほか乳化剤や安定剤等を適宜添加することも可能であり、例えば乳化剤としては、一般にプロセスチーズ類製造で使用されている乳化剤であればよく、ジリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。また、添加量についても、通常用いられる範囲で適宜添加すればよい。
【0019】
このほか、本発明のクリームチーズ類においては特に水分値およびpHの制限はなく、それぞれ水分45〜60%、pH4.3〜6.0など、一般的なクリームチーズ類の範囲で適宜設定すればよいが、一般的にpHが高すぎる場合には、静電的相互作用によりタンパク質同士の結合が緩み、組織が柔らかく粘りが生じ、pHが低すぎると、ぼそぼそとした食感になるため、pHの値は4.5〜5.8の範囲とすることが望ましい。なお、pH調整剤を使用する場合は、乳酸、重曹など、一般にプロセスチーズ類製造で使用されているものであればいずれも使用可能である。
【0020】
本発明のクリームチーズ類の製造方法としては、基本的には一般的なクリームチーズ類の製造方法をそのまま適用することができ、原料クリームチーズに副原料を適宜配合する配合工程、前記配合工程を経た原料クリームチーズを加熱乳化する加熱乳化工程、加熱乳化工程を経たクリームチーズ類を充填する充填工程を経る。また、必要に応じて、前記加熱乳化工程の後、前記充填工程までの間において、クリームチーズ類を均質化する均質工程を設けても良い。ただし、原料全体のアセトアルデヒドの発現量が10ppb以上50ppb未満である場合には、製造工程においてアセトアルデヒドの損失を抑制し、クリームチーズ類でのアセトアルデヒドの発現量を高めるため、加熱乳化工程から充填工程を、クリームチーズ類と外気とが非接触条件下で行うことが必要となる。なお、本発明において、クリームチーズ類と外気とが非接触条件とは、クリームチーズ類の品温が80℃以上の状態で60秒間以上外気と接触しないことを示すものとする。
【0021】
原料全体のアセトアルデヒドの発現量が10ppb以上50ppb未満である場合、加熱乳化工程から充填工程をクリームチーズ類と外気とが非接触条件下で行うため、本発明のクリームチーズ類では、ジュール加熱装置、サーモシリンダー等を加熱乳化工程で使用すれば良く、またこれらを併用しても良い。なお、ケトル型乳化機を用いた場合、その構造上、クリームチーズ類は、品温が80℃以上の状態で60秒間以上外気と接触することになる。加熱乳化工程後の均質処理工程についても、乳化物が外気に触れることなく密閉された条件下での処理であれば、その他に限定はなく、例えば、均質機、インラインホモミキサー、スタティックミキサー等を使用すれば良い。
【0022】
原料全体のアセトアルデヒドの発現量が10ppb以上50ppb未満である場合には、いずれの工程においてもクリームチーズ類と外気との接触を避けることで、従来得ることのできなかったアセトアルデヒドの発現量を7.3ppb以上としたクリームチーズ類を得ることができる。このように加熱乳化工程から充填工程をクリームチーズ類と外気とが非接触条件下で行うことにより、原料クリームチーズ様のフレッシュな風味を有するクリームチーズ類を得ることができる。
【0023】
以下に本発明の実施例を示して詳細に説明し、本発明の効果をより明瞭にする。ただし、実施例は本発明の態様の1つであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量10ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で、加熱殺菌した後、配管内で80℃未満まで放冷して充填し、クリームチーズ類約30kgを得た(実施例品1)。
【実施例2】
【0025】
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、アセトアルデヒドを含む香料を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は50ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ステファン釜で750rpmにて、90℃まで加熱し、1分間保持撹拌した後、配管内で80℃未満まで放冷して充填し、約30kgのクリームチーズ類を得た(実施例品2)。
【0026】
[比較例1]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は10ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱し、その後、ステファン釜で750rpmにて、90℃まで加熱し、1分間保持撹拌した後、配管内で80℃未満まで放冷して充填し、約30kgのクリームチーズ類を得た(比較例品1)。
【0027】
[比較例2]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は35ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱し、その後、ステファン釜で750rpmにて、90℃まで加熱し、1分間保持撹拌した後、配管内で80℃未満まで放冷して充填し、約30kgのクリームチーズ類を得た(比較例品2)。
【0028】
[比較例3]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は8.0ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で、加熱殺菌した後、配管内で80℃未満まで放冷して充填し、クリームチーズ類約30kgを得た(比較例品3)。
【0029】
[比較例4]
特開2011−7223と同様の方法によってクリームチーズ類を製造した。製造は、原料クリームチーズ54kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は35ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度50℃で加熱した後、ステファン釜にて1500rpmで1分間撹拌し、均質処理を行った。続いて、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度70℃で加熱した後、ステファン釜にて1500rpmで1分間撹拌し、均質処理を行った。さらに、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で加熱した後、ステファン釜にて1500rpmで1分間撹拌し、均質処理を行った。さらに、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で加熱した後、ステファン釜にて1500rpmで1分間撹拌し、均質処理を行った後、80℃未満で充填して約50kgのクリームチーズ類を得た(比較例品4)。
【0030】
[試験例1]
得られたクリームチーズ類について、以下に示す方法で、(1)アセトアルデヒド発現量の測定及び(2)風味の官能評価を実施した。結果を表1に示す。
(1)HS−SPME法によるアセトアルデヒド発現量の測定
SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を使用し、試料1gと内部標準として純度98%の1−ペンタノール水溶液を37℃まで加温し、ヘッドスペース中の揮発成分をSPME樹脂に60分間吸着させ、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により測定した。
(2)風味の官能評価
官能評価により、直食した時の「クリームチーズ様のフレッシュな風味」について評価した。評価は訓練をつんだ専門パネラー20名によって、絶対評価3点法(−3:悪い、0:普通、+3:良い)で行なった。評価平均点が−3点以上−1点未満を×、−1以上+1未満を△、+1以上+3点以下を○とした。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果より、外気との接触を抑えた実施例品1、乳化工程前のアセトアルデヒド量を50ppbに調整した実施例品2については、アセトアルデヒド量がいずれも7.3ppbであった。これに対し、ステファン型乳化機を使用した比較例品1及び2は、いずれもアセトアルデヒド量が7.2ppb以下であった。また、ジュール加熱機を使用した場合でも、乳化工程時点での原料のアセトアルデヒド発現量が8.0ppbである比較例品3では、最終的にアセトアルデヒド発現量が7.1ppbまで低下した。また、特許文献1の製法で製造した比較例品4では、加熱後のチーズの脂肪球分散処理として、開放系であるステファン釜を使用したことで、アセトアルデヒドが揮発したものと考えられ、最終的に5.7ppbまでアセトアルデヒド発現量が低下した。
アセトアルデヒドは揮発性が高いため、比較例品1、2、4のように加熱乳化工程直後に外気に開放されるステファン釜を使用すると、チーズに含まれるアセトアルデヒドが揮発し、失われてしまうが、実施例品1では、チーズ類を外気に触れずに処理できるジュール加熱装置を用いることにより、アセトアルデヒドの揮発が抑制され、クリームチーズ類に保持されたものと推察される。一方、実施例品2では、ステファン釜を使用するため、チーズに含まれるアセトアルデヒドが揮発し、失われているが、加熱乳化工程時点での発現量を50ppbと高くすることにより、最終的なアセトアルデヒド発現量を7.3ppbを維持することができた。
風味の官能評価については、アセトアルデヒド発現量が7.3ppbである実施例品1及び2では、クリームチーズ様のフレッシュな風味について良好な結果が得られたが、アセトアルデヒド発現量が7.3ppb未満となる比較例品1乃至4では、好ましい結果は得られなかった。このように、クリームチーズにおいてもアセトアルデヒドの発現量がフレッシュな風味に重要であり、特に発現量が7.3ppb以上で好ましいことが示された。
【実施例3】
【0033】
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は10ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で加熱した後、均質機を用いて10MPaの均質圧で均質処理を行い、80℃未満で充填してクリームチーズ類約30kgを得た(実施例品3)。
【0034】
[比較例5]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は10ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ステファン釜で750rpmにて、90℃まで加熱し、1分間保持撹拌して、均質機を用いて10MPaの均質圧で均質処理を行い、80℃未満で充填して約30kgのクリームチーズ類を得た(比較例品5)。
【0035】
[比較例6]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は10ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で加熱した後、ステファン釜にて1500rpmで1分間撹拌し、80℃未満で充填してクリームチーズ類約30kgを得た(比較例品6)。
【0036】
[比較例7]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は8ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で加熱した後、均質機を用いて10MPaの均質圧で均質処理を行い、80℃未満で充填してクリームチーズ類約30kgを得た(比較例品7)。
【0037】
[比較例8]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は35ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ステファン釜で750rpmにて、90℃まで加熱し、1分間保持撹拌し、均質機を用いて10MPaの均質圧で均質処理を行い、80℃未満で充填して約30kgのクリームチーズ類を得た(比較例品8)。
【0038】
[比較例9]
原料クリームチーズ30kgに、シトラスファイバー1%、ポリリン酸ナトリウム2%、食塩0.5%を添加し、最終水分量が53%となるよう加水した。原料全体のアセトアルデヒド発現量は35ppbであった。原料をケトル釜にて150rpmで、30℃まで加熱した。その後、ジュール加熱装置とそれに続くスタティックミキサーを通し、出口温度90℃で、加熱殺菌した。その後、ステファン釜にて1500rpmで1分間撹拌し、均質処理を行い、80℃未満で充填して約30kgのクリームチーズ類を得た(比較例品9)。
【0039】
[試験例2]
試験例1と同様の方法により、(1)アセトアルデヒド発現量の測定、及び(2)風味の官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2の結果より、クリームチーズ類に均質処理を行う場合は、外気との非接触条件下で均質が行える均質機を使用することが好ましい。ステファン型乳化機等により均質することは可能ではあるが、この場合、クリームチーズ類が外気と接触するため、アセトアルデヒドの発現量が大きく低下することが明らかとなった。