特許第6009683号(P6009683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6009683タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6009683
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20161006BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20161006BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20161006BHJP
   B22D 21/06 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   H01L21/285 S
   C22F1/18 G
   B22D21/06
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-537039(P2015-537039)
(86)(22)【出願日】2015年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2015056340
(87)【国際公開番号】WO2015146516
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2015年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-65294(P2014-65294)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小田 国博
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2000/031310(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/045090(WO,A1)
【文献】 特開2004−162117(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/020587(WO,A1)
【文献】 特開2002−363736(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/061897(WO,A1)
【文献】 特開平11−080942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B21B 3/00
B22D 21/06,27/02
C22F 1/18
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面の(100)面の配向率が30〜90%であり、(111)面の配向率が50%以下であることを特徴とするタンタルスパッタリングターゲット。
【請求項2】
タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面に窒化膜を備えることを特徴とする請求項1に記載のタンタルスパッタリングターゲット。
【請求項3】
窒化膜の厚さが200Å以上であることを特徴とする請求項2に記載のタンタルスパッタリングターゲット。
【請求項4】
溶解鋳造したタンタルインゴットを、鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、タンタルスパッタリングターゲットの(100)面の配向率が30〜90%であり、(111)面の配向率が50%以下である結晶組織を形成することを特徴とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
スパッタリングの再使用を予定するターゲットに対し、スパッタリング操作を一時的に停止し、真空容器を大気解放する前に、当該ターゲットの表面に窒素ガスを供給して、窒化膜を形成することを特徴とする請求項4記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
窒化膜の厚さが200Å以上である請求項5に記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。特に、LSIにおける銅配線の拡散バリア層としてのTa膜又はTaN膜の形成に用いられるタンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の配線材料としてアルミニウムが使用されていたが、素子の微細化、高集積化に伴い、配線遅延の問題が表面化し、アルミに替わって電気抵抗の小さい銅が使用されるようになった。銅は、配線材料として非常に有効であるが、銅自体が活発な金属であるため、層間絶縁膜に拡散して汚染するという問題があり、銅配線と層間絶縁膜との間に、Ta膜やTaN膜などの拡散バリア層を形成する必要がある。
【0003】
一般に、Ta膜やTaN膜は、タンタルターゲットをスパッタリングすることにより成膜する。これまでタンタルターゲットについて、スパッタリング時のパフォーマンスに及ぼす影響に関して、ターゲットに含有される各種不純物、ガス成分、結晶の面方位や結晶粒径等が、成膜速度、膜厚の均一性、パーティクル発生等に影響を与えることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ターゲット厚さの30%の位置からターゲットの中心面に向かって(111)配向が優先的である結晶組織にすることより、膜の均一性を向上させることが記載されている。
また、特許文献2は、タンタルターゲットの結晶配向をランダムにする(特定の結晶方位にそろえない)ことにより、成膜速度が大きく、膜の均一性を向上させることが記載されている。
また、特許文献3には、原子密度の高い(110)、(100)、(211)の面方位をスパッタ面に選択的に多くすることにより成膜速度が向上し、かつ面方位のばらつきを抑えることでユニフォーミティの向上が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、X線回折により求められる(110)面の強度比の、スパッタ表面部分の場所によるばらつきを20%以内にすることにより、膜厚均一性を向上させることが記載されている。
また、特許文献5には、スエージング、押し出し、回転鍛造、無潤滑の据え込み鍛造をクロック圧延と組み合わせて用い、非常に強い(111)、(100)などの結晶学集合組織を持つ円形の金属ターゲットを作製できると述べられている。
【0006】
この他、下記特許文献6には、タンタルインゴットを、鍛造、焼鈍、圧延加工を施し、最終組成加工後、さらに1173K以下の温度で焼鈍を行い、未再結晶組織を20%以下、90%以下とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法が記載されている。
また、特許文献7には、鍛造、冷間圧延等の加工と熱処理により、ターゲットのスパッタ面のピークの相対強度を(110)>(211)>(100)とし、スパッタ特性を安定化させる技術が開示されている。一般に、(110)は加工歪によって高くなるので、このように加工された表面はスパッタレートが早くなり、バーンインによる表層除去が早く終了し、安定領域の露出を早める効果があるので、このような(110)を採用する傾向がある。
また、特許文献8には、タンタルインゴットを鍛造し、この鍛造工程で2回以上の熱処理を行い、さらに冷間圧延を施し、再結晶化熱処理を行うことが記載されている。
【0007】
また、特許文献9には、1 m a s s p p m 以上、1 0 0 m a s s p p m 以下のモリブデンを必須成分として含有し、モリブデン及びガス成分を除く純度が9 9 . 9 9 8 % 以上であることを特徴とするタンタルスパッタリングターゲット。上記に、0 〜 1 0 0 m a s s p p m ( 但し0 m a s s pp m を除く) のニオブをさらに含有し、モリブデン、ニオブ及びガス成分を除く純度が99 . 9 98 % 以上であることを特徴とする記載のタンタルスパッタリングターゲット。均一微細な組織を備え、プラズマが安定であり、膜の均一性( ユニフォーミティ) に優れた高純度タンタルスパッタリングターゲットを得ることが記載されている。
【0008】
さらに、特許文献10には、1 m a s s p p m 以上、1 0 0 m a s s p p m 以下のタングステンを必須成分として含有し、タングステン及びガス成分を除く純度が9 9 . 9 9 8 % 以上であることを特徴とするタンタルスパッタリングターゲット。0 〜 1 0 0 m a s s p p m ( 但し0 m a s s p p mを除く) のモリブデン及び/ 又はニオブをさらに含有し、タングステン、モリブデン、ニオブの合計含有量が1 m a s s p p m 以上、1 5 0 m a s s p p m 以下であり、タングステン、モリブデン、ニオブ及びガス成分を除く純度が9 9 . 9 9 8 % 以上であることを特徴とする上記のタンタルスパッタリングターゲット。均一微細な組織を備え、プラズマが安定であり、膜の均一性( ユニフォーミティ) に優れた高純度タンタルスパッタリングターゲットを得ることが記載されている。
【0009】
半導体に使用するタンタルスパッタリングターゲットは、このように多種類のターゲットの開発がなされている。ターゲット材は10mm前後の厚みを採用する場合が主であるが、ターゲット1枚当たりの成膜数(ウエハー数)を増加させることで、コストダウンを図っている。この際、ターゲットの厚さを増加させることは、ターゲットの交換頻度を下げ、装置の停止時間を減少させることができるので、コストダウンには、有効であると言える。
【0010】
ターゲットの使用積算時間を増加させるには、ターゲットの厚みを増加させ、より長く使用することができるようにすれば良いのであるが、タンタルターゲットの場合は、特有の問題がある。一般に、ターゲットのスパッタリング時には、ウエハー周辺機器への被膜の形成、又は逆スパッタリングによるターゲット周囲への被膜の形成がある。
このため、ターゲットの使用の途中で、スパッタリング装置(真空機器)を大気解放し、汚染された機器を交換して、再度スパッタリングを開始するという手法が採られ、これによって、成膜の延長が図られている。
【0011】
しかし、高真空中でスパッタリングを行ったタンタルターゲットは、非常に活性化した表面が露出し、真空機器を解放し、大気にターゲットが暴露されると、急速に強固な酸化膜が形成される。このような酸化膜の形成は、酸素の意図的な導入でなくても、大気中の酸素で起こる現象である。
このような酸化膜が形成されたタンタルターゲットは、再度真空引きをし、スパッタリングを再開しようとしても、表面の酸化膜が、成膜特性を不安定にし、成膜速度が乱れ、かつこの表面酸化膜をスパッタ除去して安定なターゲット新生面を露出させるバーンイン時間も長くなるという問題が発生した。この結果、時間と電力、材料の浪費及び材料(成膜)特性が悪化する原因となった。
しかし、上記に説明した一連の特許文献では、この問題を解決する手法は、開示されておらず、その糸口さえも見出すことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−107758号公報
【特許文献2】国際公開2005/045090号
【特許文献3】特開平11−80942号公報
【特許文献4】特開2002−363736号公報
【特許文献5】特表2008−532765号公報
【特許文献6】特許第4754617号
【特許文献7】国際公開2011/061897号
【特許文献8】特許第4714123号
【特許文献9】国際公開2011/018970号
【特許文献10】国際公開2011/08971号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、タンタルスパッタリングターゲットにおいて、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御して、窒化膜の形成を容易にし、ターゲットの使用の途中で、スパッタリング装置(真空機器)を解放し、汚染された機器を交換して、再度スパッタリングを開始するという手法を採る際に、タンタルターゲットの活性化した表面が直接大気に暴露されると、強固な酸化膜が形成されるという問題がある。
このため、本願発明は、事前に窒化膜を形成する。すなわち、大気に解放する前に、タンタルターゲットの表面に窒化膜を形成するものである。これによって、空気中の酸素との急速な反応による酸化膜の形成を効果的に抑制することができる。そして、成膜特性及び成膜速度を安定化させ、かつバーンイン時間も短縮でき、時間と電力の浪費及び材料(成膜)特性を良好にすることができる。
さらに、ターゲットの使用積算時間を増加させ、ターゲットの厚みを増加させ、かつターゲットを、より長く使用することができ、コスト低減化に有効である。このように、Ta膜又はTaN膜などからなる拡散バリア層の形成に有用な、効率的なタンタルスパッタリングターゲットを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の発明を提供するものである。
1)タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面の(100)面の配向率が30〜90%であり、(111)面の配向率が50%以下であることを特徴とするタンタルスパッタリングターゲット。
2)タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面に窒化膜を備えることを特徴とする上記1)に記載のタンタルスパッタリングターゲット。
3)窒化膜の厚さが200Å以上であることを特徴とする上記2)に記載のタンタルスパッタリングターゲット。
【0015】
また、本発明は、以下の発明を提供するものである。
4)溶解鋳造したタンタルインゴットを、鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、タンタルスパッタリングターゲットの(100)面の配向率が30〜90%であり、(111)面の配向率が50%以下である結晶組織を形成することを特徴とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
5)スパッタリングの再使用を予定するターゲットに対し、スパッタリング操作を一時的に停止し、真空容器を大気解放する前に、当該ターゲットの表面に窒素ガスを供給して、窒化膜を形成することを特徴とする上記4)記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
6)窒化膜の厚さが200Å以上である上記5)に記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。


【発明の効果】
【0016】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御することによって、タンタルターゲット表面への窒化膜の形成を容易にすることができる。これによって、ターゲットの使用の途中で、スパッタリング装置(真空機器)を解放し、汚染された機器を交換して、再度スパッタリングを開始するという手法を採る際に、タンタルターゲットの活性化した表面が大気に暴露された場合でも、強固な酸化膜の形成を抑制し、成膜特性及び成膜速度を安定化させ、かつバーンイン時間も短縮でき、時間と電力の浪費及び材料(成膜)特性を良好にすることが可能となる。
この結果、ターゲットの厚みを増加させることができ、ターゲットの使用積算時間を増加させ、かつターゲットを、より長く使用することができるので、ターゲットの使用コストの低減化に極めて有効である。これによって、Ta膜又はTaN膜などからなる拡散バリア層の形成に有用な、効率的なタンタルスパッタリングターゲットを提供することができる。
なお、バーンイン積算電力量は、バーンイン時の投入パワーkWにスパッタ時間hを掛け合わせたkWhで表記される電力である。通常、スパッタリング装置では、投入パワー、スパッタ時間が管理されているので、スパッタリングは基本的に積算電力により、常に管理されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、通常の工程でスパッタリングを実施するが、ターゲットの使用の途中で、スパッタリング装置(真空機器)を解放し、汚染された機器を交換して、再度スパッタリングを開始する場合に、本願発明の(100)面の配向率が30〜90%であり、かつ(111)面の配向率が50%以下の、結晶の面配向率を持つものは、窒素ガスによる窒化膜の形成が容易である特徴を有する。
そして、事前に形成された窒化膜は、空気中の酸素との急速な反応による酸化膜の形成を効果的に抑制することができるので、従来の問題点を解決することができる。
【0018】
なお、本願発明の(100)面の配向率が30〜90%であり、かつ(111)面の配向率が50%以下の、結晶の面配向率を持つものは、タンタルターゲットとしては、特殊な配向を備えているので、これ自体が、新規性のあるタンタルターゲットということができる。タンタルターゲットは、通常5mm以上の厚みを有する。
【0019】
上記のことから、スパッタリングの再使用を予定するターゲットに対し、スパッタリング操作を一時的に停止し、真空容器を大気解放する前に、当該ターゲットの表面に窒素ガスを供給して、窒化膜を形成し、窒化膜の厚さを200Å以上とする。
窒化膜を形成する際には、スパッタリングの再使用を予定するターゲットに対し、スパッタリング操作を一時的に停止し、真空容器を大気解放する前に、当該ターゲットの表面に窒素ガスを供給して、窒化膜を形成することができる。
スパッタ装置は、NとArの供給ラインを独立してもっているが、この操作は、表面の窒化が目的であり、スパッタリングは行なわず、Ar混合ガスである必要はないので、窒素ガスのみの供給とする。必要に応じて、N(Ar1%)含有気体を使用することもできる。
【0020】
汚染された機器を交換して、再度スパッタリングを開始する場合に、表面に窒化膜を備えたタンタルスパッタリングターゲットの窒化膜は、酸化膜の形成を効果的に抑制することができるが、再使用時のバーンイン時間は、比較的短時間で済むという特徴を有している。したがって、時間と電力の消費およびバーンインにより消失する材料が少なくて済み、かつ成膜特性を良好にする効果を備えている。この結果、タンタルターゲットの厚みを増加させることができ、ターゲットの使用積算時間を増加させ、かつターゲットを、より長く使用することができるので、ターゲットの使用コストの低減化に極めて有効であると言える。
【0021】
このように、再使用時のタンタルスパッタリング膜の抵抗変動を使用中断前の15%以下とすることが可能であり、また100kwh以下の、バーンイン積算電力量とすることが可能となる。このような拡散バリア層用薄膜は、半導体デバイスの作成に有効である。なお、抵抗変動は、スパッタリング装置の大気開放前後の成膜ウエハーのシート抵抗を比較したもので、大気開放後のシート抵抗が解放前のシート抵抗値の85%から115%の範囲に入っていることが望ましい。
【0022】
タンタルスパッタリングターゲットの(100)面の配向率が30〜90%であり、(111)面の配向率が50%以下である結晶組織を形成するためには、溶解鋳造したタンタルインゴットを、鍛造−焼鈍のサイクルを少なくとも2回以上、好ましくは3回以上繰り返すという条件で、鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理して製造することが可能である。なお、前記(100)面又は(111)面は、ターゲット表面から内部にかけて、スパッタ初期からスパッタ終盤までに露出する全ての部位を含む。
【0023】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、銅配線におけるTa膜又はTaN膜などの拡散バリア層を形成するために用いることができる。スパッタ時の雰囲気に窒素を導入してTaN膜を成膜する場合においても、本発明のスパッタリングターゲットは、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御することによって、タンタルターゲットの放電電圧を低くし、プラズマを発生し易くすると共に、プラズマの安定性を向上させることができるという優れた効果を有するので、当該Ta膜又はTaN膜などの拡散バリア層を備えた銅配線形成、さらに、その銅配線を備えた半導体デバイス製造において、製品歩留まりを向上させることができる。
【0024】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、次のような工程によって製造する。その例を示すと、まず、タンタル原料として、通常4N(99.99%)以上の高純度タンタルを使用する。これを電子ビーム溶解等により溶解し、これを鋳造してインゴット又はビレットを作製する。次に、このインゴット又はビレットを、鍛造、再結晶焼鈍、を行う。具体的には、例えば、インゴット又はビレット−締め鍛造−1100〜1400℃の温度での焼鈍−冷間鍛造(一次鍛造)−再結晶温度〜1400℃の温度での焼鈍−冷間鍛造(二次鍛造)−再結晶温度〜1400℃の温度での焼鈍を行う。
【0025】
次に、冷間圧延を行う。この冷間圧延の条件を調整することで、本発明のタンタルスパッタリングターゲットの配向率を制御することができる。具体的には、圧延ロールはロール径が小さいものがよく、500mmφ以下のものが好ましい。また、圧延速度はできるだけ遅い方がよく、10m/min以下が好ましい。さらに、圧延を1回のみ実施する場合は、圧延率は高く80%超であることが好ましく、圧延を2回以上繰り返す場合は、圧延率は60%以上とし、ターゲットの最終厚みを圧延1回の場合と同じにする必要がある。圧延率は総計で80%超とするのが望ましい。また圧延1パスの圧下率は10%を超過しないように設計する。
【0026】
次に、熱処理を行う。冷間圧延の条件と併せて、冷間圧延後に行う熱処理条件を調整することで、本発明のタンタルスパッタリングターゲットの配向率を制御することができる。具体的には熱処理温度は高い方が良く、好ましくは800〜1200℃とする。圧延で導入される歪みの量にもよるが、再結晶組織を得るためには800℃以上の温度で熱処理する必要がある。一方、1200℃超で熱処理することは、粗大粒成長を助長し、かつ経済的に好ましくない。この後、ターゲットの表面を機械加工、研磨加工等の仕上げ加工によって、最終的な製品に仕上げる。
【0027】
上記の製造工程によってタンタルターゲットを製造するが、本発明において特に重要なことは、ターゲットのスパッタ面の結晶配向において、(100)面の配向率を高くし、かつ、(111)面の配向率を低くすることである。
配向の制御に大きくかかわるのは、主として圧延工程である。圧延工程においては、圧延ロールの径、圧延速度、圧延率等のパラメータを制御することにより、圧延時に導入される歪みの量や分布を変えることが可能となり、(100)面の配向率及び(111)面の配向率の制御が可能となる。
面配向率の調整を効果的に行うには、ある程度の繰り返しの条件設定が必要であるが、一旦(100)面の配向率及び(111)面の配向率の調整ができると、その製造条件を設定することにより、恒常的特性の(一定レベルの特性を持つ)ターゲットの製造が可能となる。
【0028】
本発明の配向特性を持つターゲットを製造する場合には、圧延ロール径500mm以下の圧延ロールを使用し、圧延速度を10m/min以下、1パスの圧延率を10%以下とすることが有効である。しかし、本発明の結晶配向が達成できる製造工程であれば、必ずしも、この製造工程のみに限定する必要はない。一連の加工において、鍛造・圧延で鋳造組織を破壊するとともに、再結晶化を十分に行うという条件設定が有効である。
さらに、溶解鋳造したタンタルインゴット又はビレットに鍛造し、圧延等の加工を加えた後は、再結晶焼鈍し、組織を微細かつ均一化するのが望ましい。
【実施例】
【0029】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。以下に示す実施例は、理解を容易にするためのものであり、これらの実施例によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形及び他の実施例は、当然本発明に含まれる。
【0030】
純度99.995%のタンタル原料を電子ビーム溶解し、これを鋳造して直径195mmφのインゴットとした。次に、このインゴットを室温で締め鍛造して直径150mmφとし、これを1100〜1400℃の温度で再結晶焼鈍した。
再度、これを室温で鍛伸−据え込み鍛造を繰り返して厚さ100mm、直径150mmφとし(一次鍛造)、これを再結晶温度〜1400℃の温度で再結晶焼鈍した。さらに、これを室温で鍛伸−据え込み鍛造を繰り返して厚さ70〜100mm、直径150〜185mmφとし(二次鍛造)、これを再結晶温度〜1400℃の温度で再結晶焼鈍して、ターゲット素材を得た。
【0031】
(実施例1)
実施例1では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度10m/min、圧延率86%、1パスの最大圧下率を10%として冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを1000℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が30%、(111)面の配向率が50%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0032】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置(真空容器)内に窒素ガスを60秒間導入した。これによって、ターゲットの表面に、厚みが200Å程度の窒化膜を形成した。
次に、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは75kwhと電力量は少なく、短時間でスパッタリングが可能となり、かつスパッタリング後の膜の抵抗変動は14%となり、膜特性の変化は少なかった。
【0033】
タンタル膜の成膜は、下記の条件で行った(以下の実施例、比較例も同様とした)。
<成膜条件>
電源:直流方式
電力:15kW
到達真空度:5×10-8Torr
雰囲気ガス組成:Ar
スパッタガス圧:5×10-3Torr
スパッタ時間:15秒
【0034】
(実施例2)
実施例2では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度8m/min、圧延率88%、1パスの最大圧下率を10%として冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを900℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が50%、(111)面の配向率が20%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0035】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置(真空容器)内に窒素ガスを60秒間導入した。これによって、ターゲットの表面に、厚みが320Å程度の窒化膜を形成した。
次に、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは50kwhと電力量は少なく、短時間でスパッタリングが可能となり、かつスパッタリング後の膜の抵抗変動は10%となり、膜特性の変化は少なかった。
【0036】
(実施例3)
実施例3では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度5m/min、圧延率85%、1パスの最大圧下率を10%として冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを1100℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が70%、(111)面の配向率が15%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0037】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置(真空容器)内に窒素ガスを60秒間導入した。これによって、ターゲットの表面に、厚みが450Å程度の窒化膜を形成した。
次に、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは35kwhと電力量は少なく、短時間でスパッタリングが可能となり、かつスパッタリング後の膜の抵抗変動は7%となり、膜特性の変化は少なかった。
【0038】
(実施例4)
実施例4では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度5m/min、圧延率90%、1パスの最大圧下率を5%として、冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを800℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が90%、(111)面の配向率が5%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0039】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置(真空容器)内に窒素ガスを60秒間導入した。これによって、ターゲットの表面に、厚みが500Å程度の窒化膜を形成した。
次に、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは25kwhと電力量は少なく、短時間でスパッタリングが可能となり、かつスパッタリング後の膜の抵抗変動は5%となり、膜特性の変化は少なかった。
【0040】
(比較例1)
比較例1では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度5m/min、圧延率85%、1パスの最大圧下率を10%として、冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを1100℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が70%、(111)面の配向率が15%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0041】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは300kwhと電力量は少なく、短時間でスパッタリングが可能となり、かつスパッタリング後の膜の抵抗変動は35%となり、膜特性の変化が最も大きくなった。これは、窒化膜が形成されておらず、酸化が急速に進んだことが原因と考えられた。
【0042】
(比較例2)
比較例2では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度15m/min、圧延率78%、1パスの最大圧下率を15%として、冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを800℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が20%、(111)面の配向率が60%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。なお、この結晶配向は、本願発明から逸脱するものである。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0043】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置(真空容器)内に窒素ガスを60秒間導入した。これによって、ターゲットの表面に、厚みが150Å程度の窒化膜を形成した。
次に、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは275kwhと電力量が増加し、定常のスパッタリングとなるまで長時間を要した。またスパッタリング後の膜の抵抗変動は32%となり、膜特性の変化が大きくなり、好ましくない結果となった。これは、結晶配向率が適切でないことが原因と考えられた。
【0044】
(比較例3)
比較例3では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度5m/min、圧延率85%、1パスの最大圧下率を10%として、冷間圧延して厚さ14mm、直径520mmφとし、これを1100℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。
以上の工程により、(100)面の配向率が70%、(111)面の配向率が15%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施した。
【0045】
次に、ターゲットのエロ―ジョン最深部厚みが8mm程度となった時点で、スパッタリングを一時停止し、スパッタリング装置(真空容器)内に窒素ガスを30秒間導入した。これによって、ターゲットの表面に、厚みが150Å程度の窒化膜を形成した。
次に、スパッタリング装置を大気に解放し、内部の機器の交換又は洗浄を実施した。この後、再度スパッタリング装置を密閉し、スパッタリングを再開した。バーンインは105kwhと電力量が増加した。定常のスパッタリングが可能となるまで長時間を要した。またスパッタリング後の膜の抵抗変動は24%となり、膜特性の変化も大きくなった。これは、窒化膜形成のための窒素フロー時間が不十分であったことが原因と考えられた。
【0046】
以上の実施例及び比較例が示すように、本願発明の条件の範囲にあるものは、タンタルターゲットの成膜特性及び成膜速度を安定化させ、かつバーンイン時間も短縮でき、時間と電力の浪費及び材料(成膜)特性を良好にすることができた。また、放電電圧のバラツキを低く抑えることができ、さらに放電異常発生率を低減できるという優れた効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、タンタルスパッタリングターゲットを提供するものであり、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御することによって、タンタルターゲット表面への窒化膜の形成を容易にすることができる。これによって、ターゲットの使用の途中で、スパッタリング装置(真空機器)を解放し、汚染された機器を交換して、再度スパッタリングを開始するという手法を採る際に、タンタルターゲットの活性化した表面が大気に暴露された場合でも、強固な酸化膜の形成を抑制し、成膜特性及び成膜速度を安定化させ、かつバーンイン時間も短縮でき、時間と電力の浪費及び材料(成膜)特性を良好にすることができる。この結果、ターゲットの厚みを増加させることができ、ターゲットの使用積算時間を増加させ、かつターゲットを、より長く使用することができるので、ターゲットの使用コストの低減化に極めて有効である。これによって、Ta膜又はTaN膜などからなる拡散バリア層の形成に有用な、効率的なタンタルスパッタリングターゲットを提供できる。