(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱処理し、さらに常温以下の温度で1〜90日保存することにより組成物の粘度が300〜3000mPa・sとなったものであり、ここで該組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、請求項1〜10のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【背景技術】
【0002】
低粘度の液状流動食は、胃に直接投与する胃瘻経管投与法において、胃食道逆流の原因となることが知られており、その対策として、粘度4000〜20,000mPa・s(12rpm)の半固形状流動食を短時間で投与する方法が良く行われている。このような投与法が試みられ、実際に症状が改善されるケースが増え、液体を直接胃に投与することが生理学的に好ましくないという考えも認知されるようになってきた。
【0003】
一方で、これだけ高粘度の半固形状流動食を用いる場合、従来の手技である自然滴下法を用いることはできず、シリンジを用いて注入する等の煩雑で、力のいる作業で投与することが必要であり、看護士や介護士の負担が大きいことが課題となっていた。
【0004】
経腸栄養法のひとつであるPEG(経皮内視鏡胃瘻増設術)においては、下痢や流動食の逆流を防止する観点から、100〜200ml/hrの投与速度が望ましいとされている。このため、極端に高い粘度の流動食を手動で押し込む手技も用いられているが、ガイドライン等で定められた方法が存在しないため、医療事故等のリスクが生じる可能性が指摘されている。
【0005】
そこで、成熟した手技である自然落下投与で使用可能で、かつ非常に粘度の低い流動食に比べて、より生理学的に好ましい粘性の流動食が求められるようになった。
【0006】
しかし、濃厚な流動食を経管投与を行うにときには、下痢の発生が問題になっている。下痢の発生要因としては、投与速度、浸透圧、細菌汚染、組成等が挙げられている。浸透圧が高い流動食を投与する場合でも、投与速度を調節することにより、下痢の発生を防止できるともいわれている(非特許文献1)。このように、投与速度の管理は流動食を摂取する患者のQOLを維持する上で、重要な役割を担っている。
【0007】
なお、非特許文献1には、標準速度よりも早い400ml/1時間では下痢の発現率が高頻度となるため食物繊維を含んだものを選択する必要があるとの記載があるが、これは標準速度よりも早い経管投与を想定した記載である。また、下痢発現率を低下させることを意図した食物繊維の添加であり、栄養剤の流動特性変化とは無関係の記載である。さらに、非特許文献1の記載はどのような種類の食物繊維を追加すべきか具体的に記載していない。
【0008】
胃瘻患者に用いられる経腸栄養剤用の半固形化剤に関して、特開2010-065013(特許文献1)は、分子の一部がイオタカラギナンで置換されたカッパカラギナンを含有することを特徴とする、胃瘻患者に用いられる経腸栄養剤用の半固形化剤を記載している。同文献には「半固形化」の定義として、「本明細書において、半固形化とは、静置状態ではゲル状であるが、変形あるいは力をかけることにより均一なペースト状に変化する状態をいう」との記載がある。この文献記載の半固形化経腸栄養剤は、内径30mmの50mlシリンジに半固形化経腸栄養剤を25ml充填し、内径4mm、長さ300mmのチューブを接続し、治具を用いて5mm/秒の速度でチューブに35mm押し込んだ際の応力が20000N/m
2以下であることを特徴とするものである旨、記載されている。
【0009】
特開2007-295877(特許文献2)は、ゲル化剤、及び多価金属塩を含有し、加熱殺菌処理されてなることを特徴とする乳たんぱく含有ゲル状栄養組成物を記載している。
【0010】
特開2004-261063(特許文献3)は、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル等のグリセリン有機酸エステルを含有する乳成分含有ゲル状食品用乳化剤を記載している。また、同文献は、加熱殺菌工程前に乳化剤を添加し、加熱殺菌を行い、その後、乳成分含有ゲル状食品を緩慢冷却により固化させる工程を含む、ミルクプリンのような乳成分含有ゲル状食品の製造方法を記載している。
【0011】
特開2007-289164 (特許文献4)は、流動食の製造方法として、増粘剤を均質に分散させた所定の粘度の調合液を製造し、加熱してレトルト殺菌し、所定の粘度を有する流動食の製造方法を記載している。同文献では増粘剤としてタマリンドガムが主に使用されている。
【0012】
特開2000-262239(特許文献5)は、アルファー澱粉、増粘多糖類、不溶性の植物繊維を併用した液体調味料及びその製造方法を記載している。同文献によると、これらとベースを、80〜95℃で3〜90分加熱殺菌して得た液体がニュートン流体に近い粘性を有するとされている(請求項1及び3、段落[0010])。段落[0017]には、粗粒状アルファー澱粉と多孔状で不溶性の植物繊維を併用することにより、通常の化工澱粉と異なり、糊状の粘性が出現することなく、ニュートン流体に近い粘性を有する調味料が得られた、との記載がある。すなわち、この文献記載の調味料はアルファー澱粉が必須の構成要素とされている。実施例には曳糸性の少ない液体が得られたとの記載がある。開示されている調味料のニュートン流体性についての、数値化された物性値や客観的な指標は同文献には記載されていない。
【0013】
しかし、これら特許文献1〜5のいずれにおいても、投与速度の管理に好ましい流動特性については、記載も示唆もない。
【0014】
これまでにニュートン流動性を示す食品として、例えば菜種油(約10
2〜10
3mPa・s)、ガムシロップ(約10
2〜10
3mPa・s)、水あめ(約10
5〜10
6mPa・s)、グルコースシロップ(約10
5〜10
6mPa・s)等の溶液状態の食品や、牛乳(約0〜10mPa・s)等の分散相の濃度が低い分散系液状食品が知られている(なお、前記粘度はいずれもずり速度1〜50s
−1、20℃の条件で測定したものである。)。しかし、多くの液状食品は、非ニュートン流体の挙動を示す。例えば、デザートゲルは擬塑性流動を示すことがわかっている(非特許文献2)。
【0015】
ニュートン流体は、ずり速度に関わりなく粘度が一定となることが知られている。これに対して、非ニュートン流体は、ずり速度が低いうちは粘度が高く、ずり速度が速くなるにつれ粘度は低下する。つまり、非ニュートン流体は粘度が一定ではなく、ずり速度に応じて変化する。この現象を一般にずり流動化という。ずり流動化により、非ニュートン流体の流動食を高速滴下した場合には、粘度は低下し投与量が急激に増加するため下痢が生じやすく、食道に逆流する可能性も高くなるという不都合がある。逆に非ニュートン流体の流動食をPEG(経皮内視鏡胃瘻増設術)に用いる際に、胃内固定のためのバンパーを有するボタン型の取り付け器具を用いる場合、流動食はボタンの逆流防止弁に当たって速度が急激に低下し、粘度はそれに伴って急激に上昇する。そのため器具内部の流動食の流れが悪くなり、不都合が生じる。また、投与残量が少なくなると流速も低下する、滴下されない等の不具合が生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、低いずり流動化特性を有する栄養組成物を提供することである。すなわち、本発明は、ずり速度が上昇しても粘度が低下しにくい、よりニュートン流体に近い流動特性を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、栄養組成物を、濃厚な栄養組成とし、これを乳化状態にし、加えて、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を併用することで、前記課題を解決した。
【0020】
濃厚な栄養組成を有する栄養組成物は、それ自体ある程度の粘度を有するものの、均質化処理等で乳化状態になると、よりニュートン流体に近い特性を有する特性をもつ。しかしながら、栄養組成を濃厚にしただけでは胃瘻患者に用いられる経腸栄養剤用の栄養組成物として十分な粘度は得られない。そこで本発明者は、上記の濃厚な栄養組成物と、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤とを併用すると、ニュートン流体に近い特性を維持したまま、栄養組成物を加熱処理した後の粘度を高めることが可能となり、経腸栄養剤として適した組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
すなわち本発明は、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤で、吸水作用を有するものを用いることにより、組成物中の自由水が減少するため、一定の粘度を付与するのに必要なずり流動化特性を付与する物質(増粘剤等)の量を低減することを可能とした。あるいは、前記補助剤で、水溶液に粘度を付与するものの、よりニュートン流体に近い特性を有するものを用いることで、ニュートン流体に近い特性を維持したまま栄養組成物の粘度を高めることを可能とした。このことにより、組成物に含まれる増粘剤等に起因するずり流動化特性(擬塑性流動性ともいう)を抑えることができるので、低いずり流動化特性を有する栄養組成物を提供することが可能となった。また、均質処理圧を調整することによって前記組成物の加熱処理後の粘度を調整することも可能である。
【0022】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0023】
[1]ずり速度0.1/s〜1000/sのずり速度域の任意の2点、又はそれ以上の測定点でのずり応力とずり速度の測定結果を、以下の粘性式
P=μD
n
(式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(1/s)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す)
で表す場合のnの値が0.3〜1.0であり、かつ、ずり速度10/sにおける粘度(25℃)が150mPa・s以上であるように調製された、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含む、流動化特性を有する栄養組成物。
【0024】
[2]ずり速度0.1/s〜100/sのずり速度域の任意の2点、又はそれ以上の測定点でのずり応力とずり速度の測定結果を、以下の粘性式
P=μD
n
(式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(1/s)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す)
で表す場合のnの値が0.4〜0.8であり、かつ、ずり速度10/sにおける粘度(25℃)が150〜1000mPa・sであるように調製された、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含む、流動化特性を有する栄養組成物。
【0025】
[3]粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤が吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、及び予めα化処理されていない状態のデンプンからなる群より選択される、[1]または[2]に記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0026】
[4]栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%の[1]〜[3]のいずれかに記載の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含み、加熱処理することにより粘度が上昇する性質を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0027】
[5]粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤が吸水性食物繊維である、[1]〜[4]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0028】
[6]吸水性食物繊維が、不溶性食物繊維であることを特徴とする、[3]〜[5]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0029】
[7]吸水性食物繊維が、穀類のふすま食物繊維の不溶性繊維であることを特徴とする、[3]〜[6]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0030】
[8]吸水性食物繊維が、大豆食物繊維の不溶性繊維および/又は大豆ふすまであることを特徴とする、[3]〜[7]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0031】
[9]粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤が、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤である、[1]〜[4]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0032】
[10]水溶液中で網目構造を有しない増粘剤がι−カラギナン、λ−カラギナン、
ローカストビンガム、グアーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガムからなる群より選択される増粘剤である、[9]に記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0033】
[11]粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤が、予めα化処理されていない状態のデンプンである、[1]〜[4]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0034】
[12]タンパク質、脂質、又は糖質からなる群のうち1つ又は複数を含有し、組成物の比重が1.06〜1.5である、[1]〜[11]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0035】
[13]増粘剤および乳化剤およびからなる群のうち1つ又は複数含有するものであることを特徴とする、[1]〜[12]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0036】
[14]組成物の粘度が5〜300mPa・sであり、ここで該組成物の粘度はB型粘度計を用いて45〜85℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、[1]〜[13]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0037】
[15]均質処理圧を10〜100MPaに調整して均質化処理を行った、[1]〜[14]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0038】
[16]加熱処理し、さらに常温以下の温度で1〜90日保存することにより組成物の粘度が300〜3000mPa・sとなったものであり、ここで該組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、[1]〜[15]のいずれかに記載の流動化特性を有する栄養組成物。
【0039】
[17]加熱処理し、さらに常温以下の温度で1〜90日保存した組成物であって、
ずり速度0.1/s〜1000/sのずり速度域の任意の2点、又はそれ以上の測定点でのずり応力とずり速度の測定結果を、以下の粘性式
P=μD
n
(式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(1/s)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す)
で表す場合のnの値が0.3〜1.0であり、かつ、ずり速度10/sにおける粘度(25℃)が150mPa・s以上であるように調製された、[1]〜[16]のいずれかに記載の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含む、流動化特性を有する栄養組成物。
【0040】
[18]加熱処理し、さらに常温以下の温度で1〜90日保存した組成物であって、
ずり速度0.1/s〜100/sのずり速度域の任意の2点、又はそれ以上の測定点でのずり応力とずり速度の測定結果を、以下の粘性式
P=μD
n
(式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(1/s)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す)
で表す場合のnの値が0.4〜0.8であり、かつ、ずり速度10/sにおける粘度(25℃)が150mPa・s以上であるように調製された、[1]〜[16]のいずれかに記載の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含む、流動化特性を有する栄養組成物。
【0041】
[19]
i)栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%の吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、及び予めα化処理されていない状態のデンプンからなる群より選択される粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を用意する工程、
ii)均質化のための圧処理工程、及び
iii)加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が5〜300mPa・sであり、該加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて、45〜85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度が300〜3000mPa・sであり、該加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、粘性を有する栄養組成物の製造方法。
【0042】
[20]
i)栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%の吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、及び予めα化処理されていない状態のデンプンからなる群より選択される粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を用意する工程、
ii)均質化のための圧処理工程、及び
iii)加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が5〜300mPa・sであり、該加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45〜85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、均質化のための圧処理工程における均質処理圧が10〜100MPaであり、加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度が300〜3000mPa・sであり、該加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、粘性を有する栄養組成物の製造方法。
【0043】
[21]
i)栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%の吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、及び予めα化処理されていない状態のデンプンからなる群より選択される粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を用意する工程、
ii)均質化のための圧処理工程、及び
iii)加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が5〜300mPa・sであり、ここで該加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45〜85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、均質化のための圧処理工程における均質処理圧が10〜100MPaであり、加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度が300〜3000mPa・sであり、ここで該加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、
ずり速度0.1/s〜1000/sのずり速度域の任意の2点、又はそれ以上の測定点でのずり応力とずり速度の測定結果を、以下の粘性式
P=μD
n
(式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(1/s)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す)
で表す場合のnの値が0.3〜1.0であり、かつ、ずり速度10/sにおける粘度(25℃)が150mPa・s以上であるように調製された、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含む、流動化特性を有する栄養組成物の製造方法。
【0044】
[22]
i)栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%の吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、及び予めα化処理されていない状態のデンプンからなる群より選択される粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を用意する工程、
ii)均質化のための圧処理工程、及び
iii)加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が5〜300mPa・sであり、ここで該加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45〜85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、均質化のための圧処理工程における均質処理圧が10〜100MPaであり、加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度が300〜3000mPa・sであり、ここで該加熱処理および常温以下の温度による1〜90日の保存の後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、
ずり速度0.1/s〜100/sのずり速度域の任意の2点、又はそれ以上の測定点での粘度測定結果を、以下の粘性式
P=μD
n
(式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(1/s)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す)
で表す場合のnの値が0.4〜0.8であり、かつずり速度10/sにおける粘度(25℃)が150〜1000mPa・sであるように調製された流動化特性を有する栄養組成物の製造方法。
【0045】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011-108857号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0046】
粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を使用することにより、原材料の調合から容器に充填するまでの工程においては製造が容易な粘度を維持し、かつ加熱処理後は自然落下による経管投与に適した粘度である栄養組成物を提供することができた。つまり、本発明の栄養組成物は、製造が容易でかつ、経管投与が容易な栄養組成物である。また、本発明の栄養組成物は、主に増粘剤により粘度を高めた組成物と比べて、加熱処理を行う前の粘度を低く抑えることが可能であり、そのため製造が容易となる。さらに、前記粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤に含まれる、吸水性食物繊維、及び予めα化処理されていない状態のデンプンは、その吸水作用により栄養組成物自由水を減少せしめるため、一定の粘度を付与するのに必要なずり流動化特性を付与する物質(増粘剤等)の含有量を従来のものと比較して低く抑えることが可能である。前記粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤に含まれる、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤及び予めα化処理されていない状態のデンプンは、水溶液中で網目構造を有しないため、水溶液に粘度を付与するものの、よりニュートン流体に近い特性を有する。
【0047】
また、栄養組成物を、濃厚な栄養組成とし、これを均質化処理等で乳化状態にすると、ある程度の粘度を持ちつつ、よりニュートン流体に近い特性をもつようになる。
【0048】
これらのことにより、従来品と同程度の粘度の組成物を製造する場合にも、増粘剤等のずり流動化特性を付与する物質に起因するずり流動化特性を低減することができるので、本発明により、低いずり流動化特性を有する、ニュートン粘性により近い栄養組成物を得ることができる。すなわち、本発明の栄養組成物は、よりニュートン流体に近い特性を有するものであるため、ずり速度が速くなっても粘度はさほど低下せず、したがって滴下速度上昇とともに急激に投与量が増大し下痢や食道逆流が発生するという問題は生じにくい。またずり速度が低速であっても粘度がさほど上昇せず、投与器具内部の流動食の詰まり等を起こしにくい。つまり、滴下投与の方法・滴下器具による滴下所用時間の差異が生じにくい利点、それゆえ投与の操作や管理が簡便となる利点があり、また使用する原材料の一部を節約できるという経済的な利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の栄養組成物は、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を使用することにより、低いずり流動化特性を得ることができるという新しい知見に基づく。さらに本発明は栄養組成物を、濃厚な栄養組成とし、これを均質化処理等で乳化状態にすると共に、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を使用することにより、含有熱量が高く、かつ、ずり流動化特性が低い栄養組成物を得ることができるという新しい知見に基づく。
【0051】
ここでいう低いずり流動化特性とは、粘性式
P=μD
n
(式中、Pは粘度とずり速度の値を互いに乗じた値であるずり応力(Pa)、Dはずり速度、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す。粘度(25℃、Pa・s)は、粘弾性測定装置Physica MCR301(アントンパール社)を使用し、直径25mmコーンプレートを用い、GAP1mm、25℃、ずり速度0.1〜1000/s、例えば1〜100/sの条件で測定する。)
で表す場合の非ニュートン粘性指数nが1に比較的近く、ニュートン流体に似た挙動を示す特性をいう。非ニュートン粘性指数nが1に比較的近いとは、従来の栄養組成物のnと比較して本発明の栄養組成物のnが1に近いことを言い、例えば従来の栄養組成物のnが0.3未満である場合に本発明の栄養組成物のnが0.4〜1.0であればこれは非ニュートン粘性指数nが1に比較的近いと言える。非ニュートン流体の粘度は、ずり流動化現象のため一定ではなく、ずり速度に応じて変化する。したがって本明細書では本発明の栄養組成物の流動化特性を、少なくとも2点のずり速度と、当該ずり速度における粘度から算出できるずり応力との関係から導かれる非ニュートン粘性指数nの範囲により表現した。この表現はあくまで本発明の理解を容易にするための便宜的なものである。例えば、測定を行うずり速度域は用いる装置に応じて0.1〜100/s、1〜100/sといった範囲を挙げることができるが、この範囲はあくまで便宜上のものである。本発明の一実施形態における効果は、ずり速度とずり応力の関係から導かれる非ニュートン粘性指数nにより示されるものであり、例示された上記ずり速度域に限定されるものではない、と当業者であれば理解する。また、ずり応力(Pa)は粘度(Pa・s)にずり速度(1/s)を積算して算出できるが、自動計算機能を搭載した市販の粘弾性測定装置であれば、表示されたずり応力の値を使用しても問題ないが、粘度(Pa・s)にずり速度(1/s)を積算して算出した値を活用することもできる。
【0052】
また、本発明では粘度の測定において、粘弾性測定装置Physica MCR301(アントンパール社)を使用し、直径25mmコーンプレートを用い、GAP1mmでずり速度と粘度を測定しているが、これはあくまでも一例示であり、市販の粘弾性測定装置で所定のずり速度でずり応力、または粘度を測定できるものであれば応用可能であることは言うまでもない。
【0053】
本明細書において、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤とは、添加する組成物に粘性を付与するが、その際、非ニュートン粘性指数nをさほど低下させない物質をいい、例えば栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%の量にて添加したときに、加熱処理及び保存の後に栄養組成物の非ニュートン粘性指数nが0.3未満とならないようにする補助剤をいう。本発明の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤の例としては、吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、及び予めα化処理されていない状態のデンプン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤は、好ましくは加熱処理すると吸水性が高くなるものである。
【0054】
本明細書において、加熱処理とは、後述の加熱殺菌のほか、70℃以上×数分以上、又は80℃以上×数分以上の加熱処理も例示され、これらと同等以上の殺菌や加熱による熱履歴としての効果のある温度や保持時間の条件であれば、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤は、タンパク質、脂質、又は糖質等と共に加熱処理を行ってもよい。あるいは、タンパク質、脂質、又は糖質とは別途加熱処理を行い、加熱殺菌したタンパク質、脂質、又は糖質等に添加して用いてもかまわない。
【0056】
本発明の一の実施形態では、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤として、食物繊維、特に吸水性食物繊維を用いることができる。食物繊維は、ヒトの消化酵素によって水解されない食物中の物質を指し、水に対する親和性から、水溶性食物繊維および不溶性食物繊維に分類される。その起源として、細胞壁の構造物質(セルロース、ヘミセルロース、不溶性ペクチン質、リグニン、キチン等)、非構成物質(水溶性ペクチン質、植物ガム、粘着物、海藻多糖類、化学修飾多糖類等)等が知られている(印南敏ら編、食物繊維、第一出版発行、1982年)。不溶性食物繊維は水に溶けない食物繊維であり、水分を吸収して膨潤する。これに対して水溶性食物繊維は水に溶ける食物繊維であり、水分を抱えてゲル状になる。
【0057】
本発明で使用することのできる吸水性食物繊維は、吸水性のある食物繊維を指し、特に加熱処理により吸水性が高まる性質を有するのが好ましい。本発明の栄養組成物に吸水性食物繊維を用いると、その吸水作用により組成物中の自由水が減少するため、組成物中の溶液部分における増粘剤又は乳化剤等の濃度が相対的に高まることになる。その結果、増粘剤又は乳化剤等に由来する粘度が高まる結果となる。しかも、加熱処理することにより吸水性が高まる食物繊維を使用すると、加熱処理によってその粘度はさらに高まる。加熱処理することにより吸水性が高まる食物繊維の例としては繊維状セルロース、結晶セルロースなどが挙げられる。
【0058】
本発明の吸水性食物繊維として、不溶性食物繊維を好適に使用することができる。前記不溶性食物繊維の例として、セルロース、ヘミセルロース(キシラン、マンナン、ガラクタン、グルカン、グルコマンナン、キシログルカン等)、ホロセルロース、マトリックス多糖、植物(野菜(レタス、セロリ、玉ねぎ、ごぼう、大根、グリーンピース、かんぴょう、トマト等)、果物(リンゴ、バナナ等)、穀類(大麦、小麦、からす麦、とうもろこし、アマランサス等)、芋類(さつまいも、じゃがいも、こんにゃく芋)、豆類(えんどう豆、大豆、小豆、ひよこ豆、いんげん豆、うずら豆、緑豆、等)、きのこ類(きくらげ、しいたけ等)、くり、アーモンド、ピーナツ、ごま等)に由来する食物繊維の不溶性繊維、他の天然物(動物、海藻、微生物等)に由来する食物繊維の不溶性繊維、前記天然物由来の不溶性繊維を化学的に修飾・部分分解又は精製したもの、化学的に合成した喫食可能な不溶性繊維、大豆ふすま、小麦ふすま、大麦ふすま、トウモロコシふすま、オート麦ふすま、ライ麦ふすま、ハトムギふすま、米糠、キビ、アワ、ヒエ、モロコシ等の雑穀ふすま、菽穀(マメ科)ふすま、ソバ等の擬穀ふすま、ゴマふすま、おから等を挙げることができ、好適な例として大豆食物繊維の不溶性繊維、大豆ふすま等を挙げる事ができる。また、前記不溶性食物繊維について、リグニン等の疎水性成分が除去されたもの、多数の側鎖を有するもの、非晶質であるものを好適に用いることができる。
【0059】
前記吸水性食物繊維は1種類あるいは複数種類を組み合わせて用いることができ、また、前記吸水性食物繊維を多く含む食品や、前記吸水性食物繊維を多く含む添加剤を用いてもかまわない。また、本発明において、前記吸水性食物繊維に他の食物繊維を一部併用してもかまわない。例えば、少なくとも大豆食物繊維の不溶性繊維および/又は大豆ふすまを本発明の組成物に使用する吸水性食物繊維に含んでもよい。本発明の実施例に使用した大豆食物繊維の不溶性繊維は、例えば、大豆を脱脂し、さらに水抽出した際に生じる不溶物を乾燥して取得することができる。また、おからを乾燥して得ることもできる。
【0060】
五訂増補日本食品標準成分表(文部科学省:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm)によると、大豆(乾燥)に含まれる食物繊維の総量、水溶性食物繊維量、不溶性食物繊維量は、それぞれ17.1g/100可食部、1.8g/100可食部、15.3g/100可食部である。また、おから(旧製法)に含まれる食物繊維の総量、水溶性食物繊維量、不溶性食物繊維量は、それぞれ9.7g/100可食部、0.3g/100可食部、9.4g/100可食部であり、おから(新製法)に含まれる食物繊維の総量、水溶性食物繊維量、不溶性食物繊維量は、それぞれ11.5g/100可食部、0.4g/100可食部、11.1g/100可食部である。
【0061】
なお、本発明の吸水性食物繊維は、ずり流動化特性を増大させる(すなわち非ニュートン粘性指数を低下させる)大豆増粘多糖類、難消化デキストリンのような水溶性食物繊維は含まない。本発明の栄養組成物において、水溶性食物繊維を一部併用してもかまわない。
【0062】
ふすまとは、穀物を製粉し穀物分を作ったときの残りをいう。例えば大豆ふすまとは、大豆を製粉した際に生ずる残りであり、小麦ふすまとは、小麦フィードとも呼ばれ、小麦を製粉し小麦粉を作ったときの残りである。ふすまのことを、イネ科植物の場合、糠(ぬか)と呼ぶこともある。糠は、穀物を精白した際に生じる果皮、種皮、胚芽などの部分をいう。本明細書ではふすまを糠と同義に用いる。また、ふすまを穀物全般に対して用い、例えば小麦、とうもろこし、オーツ麦等のような特定の穀物に限定されない。本発明に用いることのできるふすまとしては、限定するものではないが、化学的に合成した喫食可能な不溶性繊維、大豆ふすま、小麦ふすま、大麦ふすま、トウモロコシふすま、オート麦ふすま、ライ麦ふすま、ハトムギふすま、米糠、キビ、アワ、ヒエ、モロコシ等の雑穀ふすま、菽穀(マメ科)ふすま、ソバ等の擬穀ふすま、ゴマふすま、おから等を挙げることができる。
【0063】
本発明の栄養組成物に使用する吸水性食物繊維の量は、作製する栄養組成物の粘度、吸水性食物繊維の種類、増粘剤・乳化剤・デンプン等の他成分の種類・含量、均質処理圧等によって適宜調整することができるが、あえて挙げるなら栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜3.00重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜2.50重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜2.20重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜2.00重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜1.50重量%(w/w%)、好ましくは0.20〜1.0重量%、より好ましくは0.20〜0.80重量%を使用することができる。本発明において、前記下限値と前記上限値とを、前記のいずれかの値に設定した場合、使用する吸水性食物繊維の量を「(下限値)〜(上限値)」と記載することができる。
【0064】
また、吸水性食物繊維の粒子は大きい方が吸水性に優れる(印南敏ら編、食物繊維、第一出版発行、1982年)。本発明において、好適に用いることのできる該食物繊維の大きさは、作製する栄養組成物の粘度、吸水性食物繊維の種類・含量、増粘剤・乳化剤・デンプン等の他成分の種類・含量、均質処理圧等によって適宜調整することができる。あえて挙げるなら、吸水させる前の乾燥状態の吸水性食物繊維の大きさについて、20メッシュを篩過し、かつ100メッシュを篩過しない大きさ、より好ましくは60メッシュを篩過し、かつ100メッシュを篩過しない大きさを挙げることができる。
【0065】
大豆食物繊維は、セルロース、ヘミセルロース等を含有し、その重合度や立体構造によって水溶性食物繊維および不溶性食物繊維が存在する。水溶性食物繊維はそれ自体に増粘性があるため増粘安定剤として実用化されている。一方、セルロースおよびヘミセルロースを主成分とする不溶性食物繊維は、それ自体に増粘性がほとんどみられない。大豆食物繊維の不溶性食物繊維のうち、大きな3次構造を有するものは吸水性にすぐれ、さらに加熱するとその吸水性が高まる性質を有する。大豆ふすまは、大豆食物繊維の不溶性食物繊維に富む素材として知られている。
【0066】
本発明の一の実施形態では、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤として、増粘剤、例えば水溶液中で網目構造を有しない増粘剤を用いることができる。本発明で任意に使用することのできる増粘剤(ゲル化剤、安定剤、増粘安定剤、糊料ともいう)、例えば水溶液中で網目構造を有しない増粘剤の例として、ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、ι−カラギナン、λ−カラギナン、κ−カラギナン分子の一部をι−カラギナンに置換したκ−カラギナンや、λ−カラギナンの一部をι−カラギナンに置換したカラギナン、低強度寒天、グアーガム、タマリンドガム、タマリンドシードガム等を挙げることができ、好適な例として多糖類を主成分とする増粘剤を挙げる事ができる。前記増粘剤は1種類あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。また、本発明において、前記増粘剤に他の増粘剤を一部併用してもかまわない。例えば、λ−カラギナンおよび/又は低強度寒天を本発明の組成物に使用する増粘剤に含んでもよい。本発明の栄養組成物に使用する増粘剤の量は、作製する栄養組成物の粘度、増粘剤の種類、吸水性食物繊維、α化処理されていないデンプン、乳化剤等の他成分の種類・含量、均質処理圧等によって適宜調整することができるが、あえて挙げるなら栄養組成物に対して0.01〜5.00重量%(w/w%)、好ましくは0.01〜3.00重量%(w/w%)、好ましくは0.01〜2.0重量%(w/w%)、好ましくは0.02〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.5重量%を使用することができる。本発明において、前記下限値と前記上限値とを、前記のいずれかの値に設定した場合、使用する増粘剤の量を「(下限値)〜(上限値)」と記載することができる。本発明の栄養組成物において、水溶液中で網目構造を有する増粘剤を一部併用してもかまわない。
【0067】
カラギナンは、ガラクトースとアンヒドロガラクトースからなる多糖類の硫酸エステルの塩類で、イバラノリ、キリンサイ、ギンナンソウ、スギノリ、ツノマタの全藻より水またはアルカリ水溶液で抽出・精製して得られる(精製カラギナン)。別名をカラギーナン、カラゲナン、カラゲニン、Carrageenanともいう。キリンサイの全藻を乾燥、またはアルカリ処理の後に中和・乾燥処理して得られる、ユーケマ粉末または加工ユーケマ藻類として使用することもできる。ガラクトースとアンヒドロガラクトースの比率や硫酸エステルの数により主にκ−、ι−、λ−のタイプのカラギナンが存在する。また、κ−カラギナン分子の一部をι−カラギナンに置換したκ−カラギナンや、λ−カラギナンの一部をι−カラギナンに置換したカラギナンのほか、食用以外で使用する分解カラギナンも存在する。κ−およびι−タイプのカラギナンはゲル化する性質を有し、水溶液における粘度はκ−カラギナン<ι−カラギナンである。この水溶液を冷却すると、κ−カラギナンは堅くて脆いゲル、ι−カラギナンは粘弾性のあるゲルを形成する。また、κ−およびι−タイプのカラギナンは、塩や乳タンパク質と反応して強いゲルを形成する(日高徹ら, 食品添加物事典,食品化学新聞社, 1997年発行, p.74、および、天然物便覧 第14版,食品と科学社,1998年発行,p.110−111)。
【0068】
本発明の一の実施形態では、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤として、増粘剤、例えば水溶液中で網目構造を有しない増粘剤を用いることができるが、ここでいう水溶液中で網目構造を有しない増粘剤には低強度寒天が含まれるものとする。すなわち、低強度寒天は分子が一部切断されて、水溶液中で弱い網目構造を有し、少量であれば本発明の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤として使用することができる。低強度寒天とは、寒天を熱処理することによって寒天成分の分子を切断し、ゼリー強度(日寒水式)が1.5%の寒天濃度で10〜250g/cm
2に調整したものであり、寒天に比べてゼリー強度が低い。低強度寒天は、例えば特許第3414954号に記載の方法で製造することができる。なお、ゼリー強度(日寒水式)とは、寒天の1.5%溶液を調製し、20℃で15時間放置して凝固せしめたゲルについて、その表面 1cm
2当たり20秒間耐え得る最大重量(g)をいう。
【0069】
本発明の一の実施形態では、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤として、予めα化処理されていない状態のデンプンを用いることができる。予めα化処理されていない状態のデンプンは、水溶液中で加熱すると、それ自体が水溶液に粘性を付与すること、および吸水性が高まることが知られている。本明細書においては、天然の結晶状態のデンプンをβデンプンといい、デンプンの糖鎖間の水素結合が破壊され糖鎖が自由になった状態のデンプンをαデンプンという。デンプンは加熱により、例えば加熱処理工程により水素結合が破壊されα化されることが知られている。加熱処理前の栄養組成物にα化処理されたデンプンを添加すると加熱処理前の組成物の粘度が上昇し、好ましくない。したがって本発明の粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤にはα化処理されたデンプンは含まないものとする。本発明の栄養組成物に使用する予めα化処理されていない状態のデンプンの量は、作製する栄養組成物の粘度、増粘剤・乳化剤等の他成分の種類・含量、均質処理圧等によって適宜調整することができるが、あえて挙げるなら栄養組成物に対して0.10〜5.00重量%(w/w%)、0.50〜5.00重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜3.00重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜2.50重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜2.20重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜2.00重量%(w/w%)、好ましくは0.10〜1.50重量%(w/w%)、好ましくは0.20〜1.0重量%、より好ましくは0.20〜0.80重量%を使用することができる。本発明において、前記下限値と前記上限値とを、前記のいずれかの値に設定した場合、使用する予めα化処理されていない状態のデンプンの量を「(下限値)〜(上限値)」と記載することができる。
【0070】
本発明で用いられるデンプンの種類としては例えば小麦粉、米粉、ライ麦粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、コーンフラワー、馬鈴薯澱粉、豆類デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、ジャガイモデンプン、サツマイモデンプン等をあげることができる。また必要に応じて先の澱粉類を2種以上組み合わせたり、あるいはα化されていないデンプンであれば加工澱粉類を使用することも可能である。
【0071】
本発明で使用することのできる乳化剤の例として、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、ペンタグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、テトラグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンジステアレート、ジグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノオレート、デカグリセリンエルカ酸エステル等)、有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸等)モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(例えば、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル等)、(アブラナ、卵黄、分別、乳等)レシチン、酵素分解レシチン(例えば、酵素分解アブラナレシチン等)等を挙げることができ、好適な例として有機酸モノグリセリドを挙げることができる。前記乳化剤は1種類あるいは複数種類を組み合わせて用いることができ、親水性の乳化剤と他の乳化剤を組み合わせて用いてもよい。また、本発明において、前記乳化剤に前記乳化剤以外の他の乳化剤が一部、例えば前記乳化剤より少ない量で、含まれていてもよい。例えば、少なくともコハク酸モノグリセリドおよび/またはジアセチル酒石酸モノグリセリドを本発明の組成物に使用する乳化剤に含んでもよく、少なくとも有機酸モノグリセリドを本発明の組成物に使用する乳化剤に含んでもよい。乳化剤の添加量は作製する栄養組成物の粘度、乳化剤の種類、食物繊維、増粘剤等の他原料の含量、均質処理圧等によって適宜調整することができるが、あえて挙げるなら栄養組成物に対して0.02〜2.0重量%(w/w%)、好ましくは0.05〜1.5重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%を挙げることができる。本発明において、前記下限値と前記上限値とを、前記のいずれかの値に設定した場合、使用する乳化剤の量を「(下限値)〜(上限値)」と記載することができる。
【0072】
モノグリセリドは、グリセリンの1つの水酸基に脂肪酸が結合したものである。有機酸モノグリセリドは、有機酸が前記モノグリセリドの水酸基にエステル結合したものをいう。
【0073】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドは、酒石酸の水酸基がアセチル化した化合物が、前記モノグリセリドの水酸基にエステル結合したものである。別名、TMG、DATEM (Diacetyl Tartaric (Acid) ester of monoglyceride)ともいう。O/W型乳化に用いられることがある。
【0074】
コハク酸モノグリセリドは、コハク酸が前記モノグリセリドの水酸基にエステル結合したものである。別名、SMG(Succinic Acid esters of monoglyceride)ともいう。O/W型乳化に用いられることがある。
【0075】
本発明において、有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸の例としてカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸を挙げることができるが、この例に限定されない。
【0076】
本発明において、タンパク質の全部または一部に食品タンパク質を使用することができる。本発明において、使用することのできる食品タンパク質の例として、乳由来タンパク質(カゼイン、カゼインナトリウム、MPC(Milk Protein Concentrate)、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン等、これらの分解物等)、大豆由来タンパク質(グリシニン、βコングリシニン等)、小麦由来タンパク質(グルテン、グルアジン、グルテリン等)、畜肉由来タンパク質(筋肉構造タンパク、ミオシン、アクチン等)、魚肉(筋繊維タンパク、アクトミオシン、ミオシン、アクチン等)、鶏卵由来タンパク質(卵白アルブミン、卵黄リポタンパク等)、豚皮由来タンパク質(ゼラチン等)等を挙げることができ、好適な例としてカゼインナトリウムを挙げる事ができる。本発明において、食品タンパク質は1種類あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。また、本発明において、ゲル化する性質を有するタンパク質に他の食品タンパク質を一部併用してもかまわない。例えば、少なくともカゼインナトリウムを本発明の組成物に使用する食品タンパク質に含んでもよい。本発明の栄養組成物に使用する食品タンパク質の量は、作製する栄養組成物の粘度、食品タンパク質の種類、食物繊維・増粘剤・乳化剤等の他成分の種類・含量、均質処理圧等によって適宜調整することができるが、あえて挙げるなら栄養組成物に対して2.0〜12.0重量%(w/w%)、好ましくは4.0〜10.0重量%、より好ましくは5.0〜8.0重量%を使用することができる。
【0077】
本発明の栄養組成物は糖類を含有することができる。本発明で使用することのできる糖類の例として、でんぷん(好ましくはα化処理されていないもの)、デキストリン、セルロース、グルコマンナン、グルカン等の多糖類や、キチン類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、低分子多糖類、低分子デキストリン、低分子セルロース、低分子グルコマンナン等を挙げることができる。例えば、DE値が12〜50、15〜40、20〜40のものを使用することができる。また、糖類の由来は植物、動物、微生物等のいずれであってもよく、化学的に合成したものであってもよい。例えば、植物(バレイショ、米、サツマイモ、トウモロコシ、小麦、豆類(そらまめ、緑豆、小豆等)、キャッサバ等)、動物(甲殻類、昆虫、貝等)、微生物(キノコ、かび等)などに由来する糖類をそのまま、あるいは、酵素反応、微生物を用いた反応、熱、化学反応等の手段を用いて一部または全部を分解、修飾等の処理をしたものを用いてもよい。本発明の栄養組成物に使用する糖類の量や種類は、作製する栄養組成物の粘度、乳化剤・増粘剤・タンパク質・脂質等の他原料の種類や含量等によって適宜調整・選択することができる。
【0078】
デキストリンは、でんぷんを熱、酸、酵素等によって分解等し、必要であれば精製して得られる生成物をいう。別名ブリティッシュガム、スターチガム、Dextrineともいう。製法や分解の程度等により、種々のデキストリンが存在する。種々のデキストリンの例として、マルトデキストリン、難消化デキストリン(水溶性食物繊維)、シクロデキストリン、可溶化デンプン、分岐コーンシラップ等を挙げることができる。デキストリンはデキストロース当量(DE)により評価されうる。当業者であれば、慣用の方法でDEを決定することができる。例えばマルトデキストリンのデキストロース当量は3から20とされる。本発明に用いるデキストリンは、デキストロース当量(DE)が通常12〜50、好ましくは15〜40、より好ましくは20〜40である。このデキストリンと他のDEをもつデキストリンを併用して用いてもかまわない。
【0079】
本発明の栄養組成物は、前記の吸水性食物繊維、増粘剤、α化処理されていないデンプン、乳化剤、食品タンパク質、糖類の他に、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類、pH調節剤等を使用することができる。タンパク質としては、例えば乳由来タンパク質、タンパク質酵素分解物、全脂粉乳、脱脂粉乳、カゼイン、カゼイン分解物、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、ホエイタンパク質加水分解物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これらの分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。カゼインホスホペプチド、リジン等のペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。これらのうち、好ましく使用できるものの例として、α化処理されていないデンプンを挙げることができる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、エリソルビン酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0080】
本発明の栄養組成物は、適当にタンパク質、脂質、糖質を加えることにより、その熱量を調節することができる。本発明の栄養組成物は、例えばタンパク質を3〜10g/100g、好ましくは4〜8g/100g、より好ましくは5〜7g/100g相当量含むことができる。本発明の栄養組成物は、例えば脂質を2〜10g/100g、好ましくは3〜8g/100g、より好ましくは3〜6g/100g相当量含むことができる。本発明の栄養組成物は、例えば糖質を13〜30g/100g、好ましくは15〜27g/100g、より好ましくは20〜25g/100g相当量含むことができる。本発明の栄養組成物は、上記所定の流動化特性を有しつつ、上記の量のタンパク質、脂質、糖質を含有することができる。
【0081】
本発明の栄養組成物は用途により比重を調整することが可能である。本発明の栄養組成物の比重は、例えば1.06以上、1.07以上、1.08以上、1.09以上、1.1以上、1.5未満、1.4未満、1.3未満、1.2未満とすることができ、例えば1.06〜1.5、1.07〜1.5、1.08〜1.4、1.09〜1.3、1.1〜1.2、1.1〜1.15、1.12〜1.15、1.13〜1.15、好ましくは1.135〜1.145とすることができる。当業者であれば各成分を適宜調整して組成物の比重を設定することができる。比重は温度により異なり得るが、便宜上本明細書にいう比重とは20℃における値をいうものとする。組成物の比重は各成分の重量と容積から算出することができ、又は密度比重計を使用するなど慣用の方法で測定することもできる。
【0082】
本明細書において、濃厚な栄養組成物とは、適当にタンパク質、脂質、糖質等を含有し、組成物の比重が1.06以上、例えば1.06〜1.5、例えば1.07〜1.5、例えば1.08〜1.4、例えば1.09〜1.3、例えば1.1〜1.2、例えば1.1〜1.15、例えば1.12〜1.15、例えば1.13〜1.15、1.135〜1.145である組成物をいう。このような濃厚な栄養組成物は、適当に上記に記載した乳化剤を使用し、乳化物とすることができる。また、濃厚な栄養組成物は、適当に均質化処理を行うことにより乳化物とすることができる。均質化処理は、上記の乳化剤を添加する前又は添加した後に行うことができるが、好ましくは乳化剤の添加後に行う。均質化については下記に詳述する。したがって、本明細書において濃厚な栄養組成物の乳化物とは、適当にタンパク質、脂質、糖質等を含有し、上記所定の比重を有し、かつ、均質化処理により乳化された組成物をいう。本発明の一実施形態において、濃厚な栄養組成物の乳化物と、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤とを併用して、ニュートン流体に近い流動特性を有する濃厚な栄養組成物を得ることができる。
【0083】
組成物にずり流動化特性を付与する物質として、前記原材料や、アラビアゴム、アルギン酸、カゼイン、κ−カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム(ネイティブ型、脱アシル型等)、ゼラチン、タラガカントガム、バクテリアセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ローカストビーンガム、寒天、微結晶性セルロース等が知られている。これらも、本発明の組成物に一部含まれていてもよい。
【0084】
本発明の組成物に粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を使用することにより、目的の粘度を付与するのに必要な増粘剤、乳化剤、又はずり流動化特性を付与する物質等の濃度が低く抑えられるので、これらに由来するずり流動化特性を抑制することができる。その結果、本発明の組成物は高粘度でありながら、低いずり流動化特性を有し、ニュートン粘性に近い粘性をもつことができる。
【0085】
本発明の組成物はニュートン粘性に近い粘性をもつことで、点滴投与における滴下速度の調整が容易となる利点がある。
【0086】
本明細書において用いるずり流動化特性とは、本発明の分野において用いられる通常の意味を有し、ずり流動化流体とは、ずり変形率の増加と同時に見掛けの粘性率あるいは粘稠性が減少する流体をいう。
【0087】
前記原材料を一部または全てを調合した後に、必要に応じて均質化を行う。均質化とは、調合した各成分を十分混合することにより均質にし、また、脂肪球や他成分の粗大粒子を機械的に微細化して脂肪等の浮上・凝集を防止するとともに、栄養組成物を均一な乳化状態にすることをいう。乳化状態の栄養組成物は、濃厚である程度の粘度があっても、ニュートン流体に近い流動特性を持つことが可能となる。均質化を行う際の均質処理圧を高くすると、加熱処理後の粘度を低下させることができ、かつ、セジメント(沈降粒子)の発生を低減せしめることが可能となる。つまり、均質処理圧を調整することで栄養組成物の粘度やセジメントの生成をコントロールすることが可能である。均質処理は通常、調整液を所定の圧力下で慣用の均質機を用いて剪断することにより行う。本発明では、好ましくは均質処理圧10、25、40、60、100MPa等で均質化処理を行うことができるが、処理圧はこれらの例に限定されない。つまり、前記粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤、増粘剤、乳化剤、又はずり流動化特性を付与する物質等の使用に加えて、均質処理圧10〜100MPaの均質化処理により、加熱処理および常温以下の温度による所定期間、例えば7日間の保存の後の組成物の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm )を300〜3000mPa・s、例えば400〜3000mPa・sに調整することもできる。
【0088】
原材料を調合した後の均質化処理は、任意の適当な温度で行うことができる。均質化処理は例えば20℃前後の室温で行うこともでき、また、これより高い温度、一例として20〜85℃、例えば45〜80℃、好ましくは45〜70℃、より好ましくは50℃〜60℃前後の温度で行うこともできる。好ましくは均質化処理は、50℃〜60℃前後の温度で行う。
【0089】
本発明の栄養組成物の製造においては加熱処理又は加熱殺菌を行う。加熱殺菌条件は、一般的な食品の殺菌条件を用いることができ、慣用の装置を用いて加熱殺菌を行うことができる。例えば、62〜65℃×30分、72℃以上×15秒以上、72℃以上×15分以上若しくは120〜150℃×1〜5秒の殺菌、または121〜124℃×5〜20分、105〜140℃の滅菌、レトルト(加圧加熱)殺菌、高圧蒸気滅菌等を使用することができるが、これらの例に限定されない。加熱殺菌は、好ましくは加圧下で行うことができる。さらに加熱するとその吸水性が高まる性質をもつ粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤、例えば吸水性食物繊維や、予めα化処理されていない状態のデンプンを用いると、加熱処理することにより殺菌できるとともに、栄養組成物の粘度を増加させることもできる。本明細書において滅菌および殺菌は同義に用いることができる。また、レトルト殺菌は、加熱殺菌の一態様として用いることができる。
【0090】
本発明の栄養組成物は、加熱処理の後に、さらに常温以下の温度で保存すると徐々に粘度(B型粘度計、20℃、12rpm)が高まり、一定の時間の経過後に粘度はほぼ安定する。組成物を保存する期間は、望まれる粘度に応じて、数時間〜半日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、14日、20日、30日、40日、50日、60日、70日、80日、90日等と適宜選択することができる。すなわち、本発明の組成物の加熱処理後の保存期間は、例えば1〜90日、好ましくは5〜60日、より好ましくは7〜30日、さらに好ましくは7日間とすることができる。本発明の好ましい実施形態の栄養組成物は、加熱処理後、常温以下の温度で保存すると約7日後(約1週間後)には粘度(B型粘度計、20℃、12rpm)がほぼ安定する。当業者であれば、慣用の手法を用いて、加熱処理後の組成物の粘度が一定するまでの時間を適宜決定することができる。
【0091】
また、好ましくは、加熱処理し、さらに常温(15〜25℃)以下の温度で所定期間、例えば7日間保存した後の本発明の栄養組成物の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm )は、300〜6500 mPa・s、好ましくは300〜3000 mPa・s、好ましくは400〜3000 mPa・s、好ましくは400〜2000 mPa・s、より好ましくは500〜1500 mPa・sである。本発明の栄養組成物の、加熱処理した後の保存は、0℃〜常温以下で行うのが好ましい。上記粘度に調整することで、液状の栄養組成物を摂取者に投与する際に、従来から用いられた経管の自然落下投与による方法を用いることが可能となる。その結果、低粘度の栄養組成物を経管投与する際に問題となる胃食道逆流や、高粘度(B型粘度計、20℃、12rpm 、例えば4000〜20000 mPa・s)の半固形状栄養組成物の投与で問題となるシリンジ注入等の煩雑さを解消し、簡便に投与することが可能となる。あるいは、吸水性食物繊維、増粘剤、α化処理されていないデンプンの種類や含量、乳化剤等の他原料の含量や種類、均質処理圧等を適宜調整すれば、4000 mPa・s以上の半固形流動食と同程度の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm)の組成物を得ることも可能である。
【0092】
本明細書において、加熱処理し、さらに常温以下の温度で所定期間保存した後の本発明の栄養組成物の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm )が300〜3000 mPa・sであるという場合、これは下限以上、上限未満までの範囲をいうものとする。すなわち、300〜3000 mPa・sとは、300 mPa・s以上、3000 mPa・s未満を意味するものとする。
【0093】
本発明の栄養組成物の粘度は、慣用の方法により測定することができる。一例として、ずり速度を一定としたまま測定を行う場合にあっては、B型粘度計を用いて粘度を測定することができる(例えばB型粘度計、20〜85℃、12rpmにて測定)。また、ずり速度を変化させながら測定を行う場合には、一例として粘弾性測定装置Physica MCR301(アントンパール社)を使用し、直径25mmコーンプレートを用い、GAP1mm、25℃、ずり速度0.1〜100/sの条件で測定することもできる。当業者であれば、所望の要件に応じて、適当な粘度測定装置を選択し、測定条件を設定することができる。
【0094】
本発明の栄養組成物は、ずり速度10/sの条件で粘度を測定を行った場合に、150〜1000m・Pas、200〜800m・Pas、300〜500m・Pasに調整することができる。前記粘度の測定方法の一例として、粘弾性測定装置Physica MCR301(アントンパール社)を使用し、直径25mmコーンプレートを用い、GAP1mm、25℃の条件で測定する方法を挙げることができる。
【0095】
本発明の栄養組成物の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm )は、例えば「特別用途食品の表示許可基準:高齢者用食品の試験方法 3粘度(「高齢者用食品の表示許可の取扱いについて」(平成6年2月23日衛新第15号厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知))」に準じて行うことができる。具体的には、B型回転粘度計を用いて、12rpmでローターを回転させ、2分後の示度読み、その値に対応する係数を乗じて得た値をmPa・sで表す。測定は20±2℃で行う。
【0096】
また、他の例として、ねじれ振動式粘度計、超音波粘度計、回転式粘度計等のインライン型粘度計を用いて製造工程中の粘度を適宜あるいは連続的に測定してもよい。
【0097】
本発明の栄養組成物は、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤の効果により、組成物に一定の粘度を付与するために必要な増粘剤、乳化剤、ずり流動化特性を付与する物質等の量を低減することができる。増粘剤等のずり流動化特性を付与する物質の使用が抑えられることで、本発明の栄養組成物は加熱処理し、さらに常温以下の温度で所定期間、例えば1〜90日、例えば7日間保存した後の粘度を高める効果を有する。そのため、主に増粘剤により粘度を高めた組成物と比べて、加熱処理を行う前の粘度を低く抑えることが可能である。つまり、本発明は、製造が容易でかつ、経管投与が容易な栄養組成物を提供するものである。一方で、例えば後述の実施例1の比較例1に示すように、粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤を含有せずに乳化剤を添加して製造した栄養組成物は、加熱処理を行う前の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm )と比較して、加熱処理しさらに常温以下の温度で7日間保存しても高まらなかった。
【0098】
ここで粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤の効果とは、加熱処理し、さらに常温以下の温度で所定期間、例えば1〜90日、例えば7日間保存した後の粘度(B型粘度計、20℃、12rpm)が300〜3000 mPa・sの栄養組成物を製造するに際し、主に増粘剤により粘度を高めた栄養組成物の粘度と比べて、加熱処理を行う前の組成物の粘度が格段に低いにもかかわらず、加熱処理し、さらに常温以下の温度で所定期間、例えば1〜90日、例えば7日間保存すると、組成物の粘度を主に増粘剤により粘度を高めた栄養組成と同程度またはそれ以上とすることができることをいう。
【0099】
本発明の栄養組成物は、その含有する粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤、増粘剤及び乳化剤の配合の比率を適宜調整して、加熱処理し、その後常温以下の温度で所定期間、例えば1〜90日、例えば7日間保存した後に所定の粘度を有する栄養組成物を得ることができる。この粘度は栄養組成物に含まれるタンパク質や脂肪の含量や種類、殺菌前の脂肪粒径等の因子によって影響を受けるので、吸水性食物繊維、水溶液中で網目構造を有しない増粘剤、α化処理されていないデンプン及び乳化剤の配合比を適宜調整することができる。
【0100】
また、本発明は、低いずり流動化特性を有する栄養組成物を提供することもできる。本発明で使用する粘性を付与するがずり流動化特性を付与しない補助剤の吸水作用により自由水が減少するため、一定の粘度を付与するのに必要な増粘剤等の量を低減することが可能となった。このことにより、増粘剤等に起因するずり流動化特性が抑えられるので、本発明の栄養組成物は、低いずり流動化特性を有し、ニュートン粘性により近い流動性を有することを特徴とする。
【0101】
本明細書において用いる低いずり流動化特性を有する栄養組成物とは、ずり流動化特性を抑えた栄養組成物をいい、別の表現を用いると上記粘性式の説明において定義した非ニュートン流体指数nが、0.3以上、好ましくは0.35以上、好ましくは0.4以上、好ましくは0.45以上、好ましくは0.5以上、好ましくは0.55以上、好ましくは0.6以上であり、1.0未満、0.9未満、例えば0.85未満、0.8未満、0.75未満、0.7未満の組成物をいう。本発明において、前記下限値と前記上限値を、前記のいずれかの値に設定した場合、nを「(下限値)〜(上限値)」と記載することができる。すなわち、さらなる実施形態において、本発明の低いずり流動化特性を有する栄養組成物は、非ニュートン流体指数nが例えば0.3〜1.0、0.3〜0.9、0.4〜0.8、0.4〜0.7、0.5〜0.8、0.5〜0.7、0.6〜0.8、0.6〜0.7等である組成物をいう。
【0102】
なお、本明細書の実施例では好ましい配合の限定的ではない例示としてnの値が大きいものを記載しているが、nの値を低下させるためには、組成物に添加する増粘剤等、ずり流動化特性を増大させる物質の割合を増加させればよい、と当業者であれば理解する。
【0103】
本発明により、胃瘻、十二指腸瘻等への経管投与において、投与速度の管理に適した栄養組成物を提供することができる。
【0104】
従来の、ずり流動化特性をもつ組成物では、ずり速度の増加に伴って、組成物の粘度が低下する現象が発生するため、滴下速度をコントロールが困難であった。そのため、望ましい滴下速度に合わせて、組成物の組成、粘度、胃瘻チューブの種類、栄養組成物を収納する容器や包装体を適宜調整する必要があった。
【0105】
一方、本発明の栄養組成物は、滴下速度が栄養組成物の粘度に与える影響が少ないので、滴下速度のコントロールが容易である。したがって、本発明の栄養組成物は、胃瘻チューブの種類(チューブ型、ボタン型、バルーン型、バンパー型等)や、栄養組成物を収納する容器や包装体の大きさ、形態、種類を問わず、いずれの場合においても使用することが可能である。また、栄養組成物の浸透圧が高くとも、投与速度を調節することにより下痢等の発生を防止できるので、栄養組成物を摂取する患者のQOLを維持することもできる。
【0106】
(実施例)
実施例1 大豆食物繊維
栄養組成物に、一定量の吸水性食物繊維を添加し、組成物の粘度に与える影響を試験した。表1の上段の配合表に従って原材料を攪拌・混合して、各種栄養組成物(製造例1、製造例2等)を調合し、50〜60℃および均質処理圧20MPaの条件で均質化処理を行い、次いで50〜60℃で30MPaで均質処理を行った。製造例1〜2、及び比較例1の20℃での比重は、密度比重計により、ともに1.14であった。この栄養組成物の粘度を測定し[レトルト殺菌前]、次いで栄養組成物を容器に充填して密封し、121〜123.5℃×5〜20分の条件でレトルト殺菌を行った。レトルト殺菌後の栄養組成物を15℃×1週間保存した後に、再び粘度を測定した[レトルト殺菌後]。なお、粘度の測定はB型粘度計を使用し、12rpm、20℃又は50℃の条件で測定を行った。なお、本実施例に用いた乳由来タンパク質はMPC1.9重量%とカゼインナトリウム3.8重量%と乳たんぱく質分解物1.5%の併用、吸水性食物繊維は大豆食物繊維の不溶性繊維、乳化剤はジアセチル酒石酸モノグリセリド(DATEM)であり、増粘剤は使用しなかった。また、製造例1、製造例2及び比較例1の組成を表1−2に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0107】
加熱処理の前後での粘度測定結果を表1の下欄に示す。製造例1の栄養組成物はレトルト前の粘度が270mPa・s(20℃)であり、レトルト後の粘度は1600mPa・s(20℃)と顕著に上昇した。不溶性大豆食物繊維を含まない比較例1はレトルト前の粘度が65 mPa・s(20℃)であったのに対し、レトルト後も52 mPa・s(20℃)と、ほとんど変化が見られなかった。すなわち増粘剤が存在しなくても(製造例1、2)、所定量の吸水性食物繊維を添加した組成物のレトルト殺菌後の粘度はレトルト殺菌前の約5.9〜7.8倍に高まった。
【0108】
上記の結果から、本発明の栄養組成物に吸水性食物繊維を用いることにより、増粘剤が存在しなくても、あるいは、増粘剤が少量しか存在しなくても、レトルト殺菌後の組成物の粘度を飛躍的に高められることがわかった。
【0109】
実施例2 予めα化処理されていないデンプン
栄養組成物に、所定の量の予めα化処理されていないデンプンを添加し、組成物の粘度に与える影響を試験した。表2―1の配合表に従って原材料を撹拌・混合して、各種栄養組成物(配合3、配合4)を調合し、50〜60℃および均質処理圧20MPaの条件で均質化処理を行い、次いで50〜60℃で30MPaで均質処理を行った。また、配合3、及び配合4の20℃での比重は、密度比重計により測定したところ、ともに1.14であった。この栄養組成物の粘度を測定し[レトルト殺菌前]、次いで栄養組成物を容器に充填して密封し、121〜123.5℃×5〜20分の条件でレトルト殺菌を行った。レトルト殺菌後の栄養組成物を15℃×3日間保存した後に、再び粘度を測定した[レトルト殺菌後]。なお、粘度の測定はB型粘度計を使用し、12rpm、20℃又は50℃の条件で測定を行った。なお、本実施例に用いた予めα化処理されていないデンプンはワキシーコーンスターチ(商品名「すえひろ200」、王子コーンスターチ社製)、乳由来タンパク質はMPC1.9重量%とカゼインナトリウム3.7重量%と乳たんぱく質分解物1.5%の併用、乳化剤はジアセチル酒石酸モノグリセリド(DATEM)であり、増粘剤は使用しなかった。また、配合3及び配合4の組成を表2−2に示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0110】
加熱殺菌の前後での粘度測定結果を表2−1に示す。配合3及び配合4の栄養組成物は加熱殺菌の前後で粘度が顕著に上昇した。特に配合4については加熱殺菌の前後で粘度が約24倍に上昇した。
【0111】
上記の結果から、本発明の栄養組成物に予めα化処理されていないデンプンを用いることにより、増粘剤が存在しなくても、あるいは、増粘剤が少量しか存在しなくても、レトルト殺菌後の組成物の粘度を飛躍的に高められることがわかった。
【0112】
さらに、これらの栄養組成物が、増粘剤が存在しない、あるいは少量しか増粘剤が存在しないにもかかわらず所定の粘度を有していたことから、ニュートン流動性が改善されていると考え、その流動化特性を明らかにするために以下の試験を行った。
【0113】
実施例3
本発明の栄養組成物について、ずり速度依存性の粘度を測定し、また、胃ろうカテーテルを用いた滴下試験を行った。
【0114】
栄養組成物
表2−1(実施例2)および表3−1に従い、配合1〜配合4を調製した。配合1及び配合2の組成を表3−2に示す。配合1〜4の20℃での比重は、密度比重計により、ともに1.14であった。また、比較例として市販流動食(商品名「エフツーライト」、テルモ社製)を使用した。なお、本実施例に用いた乳由来タンパク質は配合3〜4はMPC1.9重量%とカゼインナトリウム3.7重量%と乳たんぱく質分解物1.5%の併用、配合1〜2はMPC1.9重量%とカゼインナトリウム3.8重量%と乳たんぱく質分解物1.5%の併用、乳化剤はジアセチル酒石酸モノグリセリド(DATEM)であり、カラギナンは、λ−カラギナンを使用した。比重は浮秤式比重計による実測値を記載した。
【0115】
市販流動食においては、商品名「エフツーライト」のパンフレットに掲載されている当該市販流動食に関する栄養成分、及び物性値の情報より、表3―3の記載の栄養成分、比重値であることが思料される。
【0116】
配合1〜配合4は、原材料を攪拌・混合し、50〜60℃および均質処理圧20MPaの条件で均質化処理を行い、次いで50〜60℃で30MPaで均質処理を行った。均質処理を行った配合1〜配合4それぞれ容器に充填して密封し、121〜123.5℃×10〜20分の条件でレトルト殺菌し、その後15℃×1週間保存して、粘度測定、滴下試験に使用した。
【0117】
ずり速度依存性粘度測定方法
本発明の栄養組成物(配合1〜4、製造例1および製造例2、ならびに市販流動食)を試験に供した。ずり速度を変化させながら粘度測定を行う場合には、粘度の測定は、粘弾性測定装置Physica MCR301(アントンパール社)を使用し、直径25mmコーンプレートを用い、GAP1mm、25℃、ずり速度1〜100/sの条件で測定を行った。
【0118】
滴下試験方法
本発明の栄養組成物(配合1〜2、および市販流動食)を試験に供した。
実験には次の器材又は試料を用いた:
・チューブ:胃ろうカテーテル(CORFLO-DUAL GT、カタログ番号8144、シャフト径(外径)8mm、シャフト長22.5cm、ボストンサイエンティフィック社)
・ボタン :ボタン型バンパー式胃ろうカテーテル(Button(TM)、カタログ番号6828、シャフト径(外径)6mm、シャフト長2.4cm、ボストンサイエンティフィック社)を先端に取り付けたPEGフィーディングチューブ(ボーラスフィーデングチューブ、シャフト径(外径)4mm、シャフト長30.5cm、ボストンサイエンティフィック社)
・1リットル容量のプラスティックメスシリンダー(胴径Φ70mm×全高420mm)
・パウチに入れる試料:流動食用のソフトパック容器(一口パウチ)に、300ml充填して密封したものを試料とする(用いたソフトパック容器の寸法は、縦25.5cm×横17cm、取り付け口(スパウト部)の先端外径は0.6cmであり、通常、333mlが充填されるものである。また、取り付け口は、
図3に示すように、下側の角一カ所に配置される。)
図3に示す装置を用いて滴下試験を行った。
図3に示すはかり7の上にバット6を置き、その上に水5(25±2℃の飲適水、水道水)を満たした1Lメスシリンダー4を配置した。フィーディングチューブ3又はボタンを先端に取り付けたチューブ3をスパウト部2に接続した試料パウチ1をスタンドに装着し、パウチを吊り下げて、メスシリンダー4中に、前記チューブ又はボタンの先端が水深d=13〜15cmの位置になるように、スタンドの高さを調節する。チューブまたはボタンに、試料内容物が満たされることを確認し、それ以上滴下されないように固定具で固定し、これを測定の初期状態とした。はかりの初期重量を確認し、固定具を取り外して滴下を開始する。100g滴下するまでの時間を計測した。
【0119】
ヒトの胃には10mmHg程度の腹圧があると考えられる。これを考慮して、実験器具はチューブの先が水深14cmとなるように設計した。すなわち、水深14cmで水圧は約10mmHgであり、これを腹圧と想定した。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0120】
ずり速度依存性粘度
横軸にずり速度(1/s)、縦軸に粘度(mPa・s)を対数表示したものを
図1に示す。市販流動食はずり速度が低いと粘度が非常に高く、ずり速度が高くなると粘度が低い。理想的なニュートン流体はずり速度に関係なく粘度が一定であるので水平の直線となる。本発明の栄養組成物である配合1、配合2、配合3、及び配合4をみると、非ニュートン流動性が緩和され、ずり速度が低くても粘度は低く(配合2についてはずり速度1.0で粘度約1000)、ずり速度が高くても粘度はさほど低下しない(配合2についてはずり速度100において粘度は約200)。
【表4】
【0121】
結果を
図4及び表4に示す。ずり速度依存性粘度測定の結果については、市販流動食はずり速度に応じて粘度が大きく変化した。一方、本発明の配合1及び配合2はずり流動化の現象は緩和されている。滴下試験については、フィーディングチューブを用いた場合、市販流動食は100gの滴下に要する時間(分)が3.2分であるのに対して、本発明の配合1は4.0分であり配合2は4.5分であった。また、ボタンを用いた場合、市販流動食は170分であるのに対して、本発明の配合1は14分、配合2は23分であった。実際に、ボタンを用いて市販流動食を滴下したときに、滴下開始から20分後に累計47.5g滴下した以降は滴下がほぼ止まってしまったため、前述の170分は0〜20分の滴下重量(g)−滴下時間(分)のプロットから近似して求めた。このように、特にボタンを用いる場合、市販流動食はずり速度が低下するため粘度が上昇し、流速が大幅に低下する。一方、本発明の栄養組成物の場合、このようなずり流動化の問題は
図2に示されるとおり改善、解消されている。チューブを用いた場合とボタンを用いた場合の滴下速度の比は、従来品が0.019、本発明の配合1では0.286、配合2は0.196であり、ずり流動化の問題は大幅に改善されている。
【0122】
流動性指数の評価
以下の粘性式:
P=μD
n
(式中、Pは粘度とずり速度の値を互いに乗じた値であるずり応力(Pa)、Dはずり速度、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数をそれぞれ表す。粘度(25℃、Pa・s)は、粘弾性測定装置Physica MCR301(アントンパール社)を使用し、直径25mmコーンプレートを用い、GAP1mm、25℃、ずり速度0.1〜1000/s、例えば1〜100/sの条件で測定する。)
において、理想的なニュートン流体はn=1であり、横軸にずり速度(1/s)、縦軸にずり応力(Pa)を対数表示した場合、原点を通る直線となる。一方、非ニュートン流体は傾きがnとなり、ここでnは当該非ニュートン流体の流動性指数である。本発明の配合1〜配合4を従来品と比較したずり速度とずり応力の関係を
図2に示す。なお粘度(Pa・s)は、ずり応力(Pa)をずり速度(1/s)で除算したものである。
図2に示すとおり、市販流動食はnが0.288であるのに対して、本発明の配合1はnが0.679であり、配合2はnが0.677であり、また、表4に示すとおり、配合3はnが0.761であり、配合4はnが0.612であり流動性指数が市販流動食と比較して1に近い。さらに、配合3と配合4と同様にレトルト加熱殺菌後に粘度が増粘する傾向が見られた、不溶性大豆食物繊維を添加し、増粘剤を添加していない製造例1〜2の栄養組成物についても、市販流動食と比較してnの値が1に近くなる傾向が見られた(表4)。