(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現代社会は様々な機能を保持した設備群によって維持されている。特にインフラストラクチャ設備は全国に設置されており、その種類や数は膨大である。
これらの設備が所定の機能を維持するよう、メンテナンス計画が策定され、実施されている。しかし、インフラストラクチャ設備の多くは高度成長期に集中的に整備されており、老朽化に伴うメンテナンスコストの増大が問題となっている。
【0003】
インフラストラクチャ設備のような面的に大量に設置されている設備において、メンテナンスの効率性を上げ、コストをできるだけ小さくするために、設備が地理的に集中して設置され、かつ必要な補修方法等が比較的多様ではないエリアを把握し、順位付け等が行える情報は有益である。なぜならば、このようなエリアは、点検や補修等を行う際に設備から設備への移動距離が小さくなることから、単位時間当たりの実質的なメンテナンス時間の割合を上げることができ、かつ補修等に必要な機材や対応する専門作業員・専門委託業者等の種類が少ないため、準備やコスト面で比較的負担が少ないからである。
【0004】
このような、空間的関係性を考慮した分散配置型設備の評価に資する情報を得る場合、まず一般的に考えられるのは、設備の設置数等の空間的な密度情報を活用することである。例えば、ある一定の広さおよび形状の算出単位エリアごとに、設置されている対象設備の数を算出し、これを比較することでメンテナンスの重要度や負担を把握する手法がある。
しかし、こうした密度情報は、実際にひとつひとつの設備を人がチェックしてまわるような場合には、効率を上げるのに必ずしも貢献しない。なぜならば、同じ密度であっても、各算出単位エリア内における実際の設備の分布状態には差があるからである。
【0005】
図6は、設備の分布例を示す説明図である。
図6において、図中の点が設備を表すとすると、
図6(a)、
図6(b)とも同じ密度(10設備/算出単位エリア)であるが、実際にはbの方が密集しており、算出単位エリア内のすべての設備を一度にチェックしてまわる場合、総移動距離は明らかに
図6(b)の方が小さい。また、このような移動距離を計測する既往の手法として、道路データ等を活用したネットワーク解析がある。
【0006】
通常、このような手法は道路のようなネットワークデータがあることが前提となるが、実際にはデータが容易かつ安価に入手できるのは都市圏とその周辺に限られている。また、インフラストラクチャ設備のような都市圏とその周辺以外の地域にも大量に設置されているものの場合、ネットワークデータの不備や入手性の悪さが問題となる。さらに、道路のような明確なアクセス経路がない場所に設置されている設備に対しても不適である。
【0007】
従来、上記のような密度ではなく、ある一定空間内における分布の粗密(集塊・集密の程度)を表す指標である最近隣測度を活用した技術がある(例えば、非特許文献1など参照)。この最近隣測度は、ある範囲に存在する点(例えば設備を意味する)の分布状態について、理想的なランダム分布(ポワソン分布)からどの程度乖離しているかを、0から2.149の間の数値Rで表すものである。R<1のときに集密型、R≒1のときにランダム型、R>1のときに拡散型となる。これにより、各算出単位エリア内における設備の分布特性を類型的に把握することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような従来技術によれば、分散設置された、種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価できず、結果として、予算や日程など限られたリソースの範囲内で、より多くのエリアのより多くの設備をメンテナンスするための優先順位付けを、正確に行うことができないという問題点があった。
【0010】
前述した最近隣測度は、通常、都道府県や市区町村等の行政界や、JISX0410で定められ、地理的統計でよく用いられる地域メッシュ、例えば一辺の長さが約1kmの第3次メッシュで定められるエリアを算出単位エリアとしている。このため、設備が集密しているエリアが複数の算出単位エリアにまたがると、算出されたRの数値では、集密している真のエリアを把握できない場合がある。
【0011】
図7は、設備分布と算出単位エリアとの関係を示す説明図である。
図7の例では、全体が4つのメッシュに区分され、それぞれのメッシュにおいて最近隣測度Rが算出されている。このうちメッシュ1AはR=2.03で拡散分布、メッシュ2AはR=0.91でランダム分布、メッシュ1Bとメッシュ2BがR=0.25でともに集密分布となる。したがって、Rの算出結果だけで判断すると、4つのメッシュのうち、メッシュ1Bとメッシュ2Bの2つが集密分布となり、点の分布に偏りがあると判断される。
【0012】
しかし、実際には、
図7からわかるように、4つのメッシュが接する中心付近(図中の破線部分)のエリアを最も集密度が高い部分とする評価が望ましい。また、真の集密エリアを構成するメッシュとして、最近隣測度Rの算出結果からはランダム分布と判断されるメッシュ2Aも寄与していることがわかる。また、最近隣測度Rは算出単位エリアごとの集密度を表すものであることから、その算出単位エリア内のどこで点が集密しているかは示さない。
したがって、従来技術によれば、算出単位エリアと設備との位置関係によって、最近隣測度が大きく変化するため、実際の設備の分布状態を正確に評価することができない。
【0013】
また、インフラストラクチャ設備のような大量の設備を維持管理する場合、その状態(劣化程度等)に対して、ある基準に従って決定される離散的な「ランク」を付与し、ランクに応じて必要な対処が規定されていることが多い。すなわち、過去あるいは最新点検時のランクに応じて、その設備に必要な補修や人員等を決定することができる。この特徴を活用すれば、点検データ等を用いて、算出単位エリアごとの補修等に必要な機材種別数等の判断が可能となる。
【0014】
例えば、劣化程度に関して5段階のランクが設定されている設備で、なおかつ各ランクで必要な補修方法や専門職人の種類等が異なる場合、5つのランクがまんべんなく存在する算出単位エリアはメンテナンス上「手がかかる」エリアとなる。こうした情報を得ることは設備メンテナンスの効率向上の面で有益である。こうした設備に対する点検・管理業務等は、多くの人員の活動に支えられており、その中には必ずしも数理的分析や表現に慣れていない人々が存在する。こうした人々にとっても、直観的に理解できるような指標が必要である。
しかし、従来技術によれば、設備の集密分布状態をある程度評価できるものの、各設備の種類や状態については考慮されていない。
【0015】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価できる設備メンテナンス負担評価技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明にかかる設備メンテナンス負担評価方法は、分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価するための設備メンテナンス負担評価方法であって、記憶部が、設備ごとに、当該設備が設置されている位置を示す位置情報と、メンテナンスに要する負担の大きさと対応関係を有する当該設備のランク情報とが登録された設備情報とを記憶する記憶ステップと、最近隣測度算出部が、前記位置情報に基づいて、前記設備を中心または重心とした一定の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備の集密度合いを示す最近隣測度を算出する最近隣測度算出ステップと、多様度算出部が、前記ランク情報と情報エントロピーの概念とに基づいて、前記算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備のランクに関するばらつき度合いを示す多様度を算出する多様度算出ステップと、集密多様度算出部が、前記算出単位エリアごとに、当該算出単位エリアの最近隣測度および多様度をそれぞれ直交成分とするベクトルの長さに基づき当該算出単位エリアの集密多様度を算出する集密多様度算出ステップとを備えている。
【0017】
また、本発明にかかる上記設備メンテナンス負担評価方法の一構成例は、スクリーニング部が、前記算出単位エリアのうち、当該算出単位エリア内に、設備数の下限を示すしきい値以上の設備が配置されている算出単位エリアを有効エリアとして選択し、当該有効エリアに関する集密多様度を有効な評価結果として選択するスクリーニングステップをさらに備えている。
【0018】
また、本発明にかかる上記設備メンテナンス負担評価方法の一構成例は、スクリーニング部が、前記算出単位エリアのうち、当該算出単位エリアの最近隣測度と多様度との乖離度が、当該乖離度の上限を示すしきい値以下である算出単位エリアを有効エリアとして選択し、当該有効エリアに関する集密多様度を有効な評価結果として選択するスクリーニングステップをさらに備えている。
【0019】
また、本発明にかかる上記設備メンテナンス負担評価方法の一構成例は、スクリーニングステップが、前記算出単位エリアの全数に対する前記有効エリアの数の割合を示す有効エリア率が、予め設定されている下限有効エリア率を下回る場合、前記有効エリア率が大きくなる方向に前記しきい値を調整するステップを含むものである。
【0020】
また、本発明にかかる上記設備メンテナンス負担評価方法の一構成例は、前記集密多様度算出ステップが、前記最近隣測度の最大値および最小値をRmaxおよびRminとし、前記多様度の最大値および最小値をHmaxおよびHminとした場合、任意の算出単位エリアjの集密多様度をENjを、前述の式を用いて算出するようにしたものである。
【0021】
また、本発明にかかる設備メンテナンス負担評価装置は、分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価するためのメンテナンス負担評価装置であって、設備ごとに、当該設備が設置されている位置を示す位置情報と、メンテナンスに要する負担の大きさと対応関係を有する当該設備のランク情報とが登録された設備情報とを記憶する記憶部と、前記位置情報に基づいて、前記設備を中心または重心とした一定の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備の集密度合いを示す最近隣測度を算出する最近隣測度算出部と、前記ランク情報と情報エントロピーの概念とに基づいて、前記算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備のランクに関するばらつき度合いを示す多様度を算出する多様度算出部と、前記算出単位エリアごとに、当該算出単位エリアの最近隣測度および多様度をそれぞれ直交成分とするベクトルの長さに基づき当該算出単位エリアの集密多様度を算出する集密多様度算出部とを備えている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来の画一的に設定したメッシュを算出単位エリアとして用いる場合と比較して、設備が地理的に集中して設置されている真の集密エリアを含む各算出単位エリアについて、その設備の集密度合いを示す最近隣測度が得られる。また、設備の種別や過去の点検データや予測等から得られた劣化状態に対応した補修方法など、メンテナンスに要する負担の大きさのばらつきに関する指標である多様度が、算出単位エリアごとに得られる。そして、これら最近隣測度と多様度とが1つに統合されて、メンテナンスに要する負担に影響を及ぼす、各設備の集密度合いおよび劣化状態を、一義的かつ定量的に評価できる評価指標として集密多様度が得られる。
【0023】
したがって、分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価でき、集密多様度という1つの指標の大小に基づいて、高効率でメンテナンスが可能なエリアを正確に特定することが可能となる。
これにより、予算や日程など限られたリソースの範囲内で、より多くのエリアのより多くの設備をメンテナンスするための優先順位付けを、正確に行うことができる。このため、通信サービスを提供するための電柱、通信ケーブル、通信装置などの通信設備に限らず、老朽化に伴い早期のメンテナンスが必要とされている一般的なインフラストラクチャ設備に関するメンテナンス方針の決定に、極めて有用な評価指標を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[本発明の原理]
まず、本発明の原理について説明する。
分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスを行う場合、設備間の移動や補修内容により、メンテナンス負担が左右される。例えば、点検や補修等を行う際に設備から設備への移動距離が長い場合、移動時間が長くなり実質的なメンテナンス時間が短くなるため、メンテナンスの効率が低下し、コスト負担が増大する。また、補修内容が異なる場合、これらの補修内容に対応するための機材やスキルを持つ作業員が必要となるため、準備のための負担やコスト負担が増大する。
【0026】
したがって、メンテナンスの効率性を上げ、負担をできるだけ小さくするためには、次のような特徴を持つエリアを高効率エリアとして把握することが重要となる。
特徴1:設備が地理的に集中して設置されていること
特徴2:必要となる補修内容が比較的限定されること
【0027】
この際、このような高効率エリアを特定するための課題点は次のように整理される。
課題1.従来の地域メッシュ等を活用した最近隣測度では把握できない可能性のある真の集密エリアを、確実に抽出する方法が必要である。
課題2.種類の異なる設備や異なる劣化状態に対応するための補修方法や専門人員等の数(種類)を、算出単位エリアごとに定量的に把握できる方法が必要である。
【0028】
本発明は、前述した特徴1および課題1に着目し、一般的な最近隣測度のように、設備の設置位置に関係なく、画一的にメッシュ状に区切ったエリアを算出単位エリアとするのではなく、各設備を中心とする半径rの円、あるいは各設備を重心とする多角形を算出単位エリアとして最近隣測度Rを算出し、各設備に自身が中心あるいは重心となるエリアの集密度情報を保持させるようにしたものである。これにより、算出単位エリアの中心あるは重心に位置する設備から周辺の設備への移動に関する効率を指標として得ることができ、高効率エリアを正確に特定することが可能となる。
【0029】
また、本発明は、前述した特徴2および課題2に着目し、算出単位エリア内に含まれる設備群に関するランクのばらつき度合いを、情報エントロピーの概念により定量化するようにしたものである。情報エントロピーとは、物理学のエントロピーの概念を、情報量の定義指標として情報理論に導入したもので、情報を受け取る前後の不確かさの相対値、すなわち情報量を表す指標である。本発明では、設備の種別や、過去の点検データや予測等から得られた劣化状態に対応した補修方法など、メンテナンスに要する負担の大きさと対応関係を有する基準を用いて、各設備を分類しランク付けしたものをランク情報として用いる。これにより、算出単位エリア内に位置する各設備の補修に関する効率を指標として得ることができ、高効率エリアを正確に特定することが可能となる。
【0030】
また、これら2つの指標はいずれも下限値および上限値を数学的に導くことができ、かつそれぞれの数値が導かれる条件が明確で設備の状態と対応付けることが可能である。本発明は、このような特徴を基にして、これら2つの指標を集密多様度として1つに統合するようにしたものである。これにより、各算出単位エリアに関するメンテナンス負担を、集密多様度という1つの指標の大小で評価することが可能となる。
【0031】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
[設備メンテナンス負担評価装置]
まず、
図1を参照して、本実施の形態にかかる設備メンテナンス負担評価装置10について説明する。
図1は、設備メンテナンス負担評価装置の構成を示すブロック図である。
【0032】
この設備メンテナンス負担評価装置10は、全体としてサーバ装置やパーソナルコンピュータなどの情報演算処理装置からなり、分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価する機能を有している。
【0033】
図1に示すように、設備メンテナンス負担評価装置10には、主な機能部として、通信I/F部11、操作入力部12,画面表示部13,記憶部14、および演算処理部15が設けられている。
【0034】
通信I/F部11は、一般的なデータ通信回路からなり、通信回線を介して外部装置(図示せず)とデータ通信を行うことにより、設備メンテナンス負担評価処理に関する設備情報や評価結果などの各種処理情報をやりとりする機能を有している。
操作入力部12は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの操作入力装置からなり、作業者の操作を検出して演算処理部15へ出力する機能を有している。
画面表示部13は、LCDなどの画面表示装置からなり、演算処理部15からの指示に基づいて、操作メニュー、パラメータ設定、評価結果などの各種情報画面を表示する機能を有している。
【0035】
記憶部14は、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置からなり、演算処理部15での設備メンテナンス負担評価処理に関する各種処理情報やプログラム14Pを記憶する機能を有している。
プログラム14Pは、演算処理部15のCPUに読み込まれて実行されることにより、設備メンテナンス負担評価処理で用いる各種処理部を実現する機能を有している。このプログラム14Pは、通信I/F部11を介して外部装置や記録媒体から読み出されて記憶部14に予め格納される。
【0036】
記憶部14で記憶する主な処理情報として、設備情報14A、最近隣測度14B、多様度14C、集密多様度14D、基本統計量14E、および評価結果14Fがある。
設備情報14Aは、設備ごとに、当該設備が設置されている設置を示す位置情報と、メンテナンスに要する負担の大きさと対応関係を有する当該設備のランク情報とが登録された情報である。
【0037】
図2は、設備情報の構成例である。ここでは、各設備に固有の設備番号ごとに、経緯座標からなる位置情報と、劣化ランクからなるランク情報とが組として登録されている。
ランク情報としては、メンテナンスに先立つ各設備の点検・調査により得られたランク付けの結果を用いてもよいが、メンテナンスに要する負担の大きさと対応関係を有していれば、各設備に予め割り当てられている既存の設備種別や設備規模などの情報を用いてもよい。
【0038】
最近隣測度14Bは、算出単位エリア内に位置する各設備の集密度合いを示す指標であり、演算処理部15により、算出単位エリアごとに算出されて記憶部14に保存される。なお、最近隣測度14Bでは、必要に応じて後述する最近隣測度Rのほか正規化最近隣測度NRも記憶されるものとする。
多様度14Cは、算出単位エリア内に位置する各設備のランクに関するばらつき度合いを示す指標であり、算出単位エリアごとに算出されて記憶部14に保存される。なお、多様度14Cでは、必要に応じて後述する多様度Hのほか正規化多様度NHも記憶されるものとする。
【0039】
集密多様度14Dは、算出単位エリアの最近隣測度14Bおよび多様度14Cをそれぞれ直交成分とするベクトルの長さに相当する値を有し、各算出単位エリアに位置するすべての設備のメンテナンスに要する負担の大小を示す指標である。この集密多様度14Dは、演算処理部15により、算出単位エリアごとに算出されて記憶部14に保存される。
【0040】
基本統計量14Eは、各算出単位エリア全体に関するメンテナンス負担を評価するための指標であり、演算処理部15により、集密多様度14Dに基づいて算出されて記憶部14に保存される。基本統計量14Eの具体例としては、各集密多様度14Dの値に対する発生数を示す分布、算出単位エリア全体における集密多様度14Dの平均値、最大値、最小値、中央値などの統計値がある。また、これら基本統計量14Eは、都道府県や市区町村等の行政界や、メンテナンスの担当エリアなど、規定の範囲ごとに算出してもよい。
【0041】
評価結果14Fは、これら集密多様度14Dや基本統計量14Eに対して、並び替えや代表値選択などの編集を実施して、リスト、マップやグラフで表現したデータであり、設備メンテナンス負担評価の利用形態に応じたフォーマットで作成されている。
【0042】
演算処理部15は、CPUおよびその周辺回路を有し、記憶部14からプログラム14Pを読み込んで実行することにより、設備メンテナンス負担評価処理で用いる各種処理部を実現する機能を有している。
演算処理部15で実現される主な処理部として、パラメータ設定部15A、最近隣測度算出部15B、多様度算出部15C、集密多様度算出部15D、スクリーニング部15E、基本統計量算出部15F、および評価結果出力部15Gがある。
【0043】
パラメータ設定部15Aは、操作入力部12で検出した作業者の操作に応じて、設備メンテナンス負担評価処理で用いる各種パラメータを設定し、記憶部14に保存する機能を有している。パラメータ設定部15Aで設定される主なパラメータとしては、算出単位エリアの大きさおよび形状、算出単位エリア内の設備数の下限を示すしきい値、最近隣測度14Bと多様度14Cとの乖離度の上限を示すしきい値、算出単位エリアの全数に占める有効エリアの割合の下限を示す下限有効エリア率がある。
【0044】
最近隣測度算出部15Bは、記憶部14の設備情報14Aに格納されている各設備の位置情報に基づいて、設備を中心または重心とした一定の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備の集密度合いを示す最近隣測度14Bを算出する機能を有している。最近隣測度14Bの算出過程の詳細については後述する。
【0045】
多様度算出部15Cは、記憶部14の設備情報14Aに格納されている各設備のランク情報と情報エントロピーの概念とに基づいて、各設備の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備のランクに関するばらつき度合いを示す多様度14Cを算出する機能を有している。多様度14Cの算出過程の詳細については後述する。
【0046】
集密多様度算出部15Dは、各設備の算出単位エリアごとに、最近隣測度算出部15Bで算出して当該算出単位エリアの最近隣測度14B、および、多様度算出部15Cで算出した当該算出単位エリアの多様度14Cをそれぞれ直交成分とするベクトルの長さに基づいて、当該算出単位エリアの集密多様度14Dを算出する機能と、これら集密多様度14Dを記憶部14へ保存する機能とを有している。集密多様度14Dの算出過程の詳細については後述する。
【0047】
スクリーニング部15Eは、各設備の算出単位エリアのうち、統計的に有効な有効エリアのみをクリーニングする機能を有している。スクリーニング処理の詳細の詳細については後述する。
【0048】
基本統計量算出部15Fは、集密多様度算出部15Dで算出された各算出単位エリアの集密多様度14Dや、スクリーニング部15Eでスクリーニングされた有効エリアに基づいて、基本統計量14Eを算出する機能と、これら基本統計量14Eを記憶部14に保存する機能とを有している。
【0049】
評価結果出力部15Gは、集密多様度算出部15Dで算出された各算出単位エリアの集密多様度14Dや、スクリーニング部15Eでスクリーニングされた有効エリア、さらには、基本統計量算出部15Fで算出された基本統計量14Eに基づいて、設備メンテナンス負担に関する評価結果14Fを生成し、記憶部14に保存する機能と、画面表示部13で評価結果14Fを表示出力する機能と、通信I/F部11を介して外部装置へ評価結果14Fを出力する機能とを有している。
【0050】
[本実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかる設備メンテナンス負担評価装置10の動作について説明する。ここでは、インフラストラクチャ設備に代表されるような、面的に多数設置されている設備を想定する。
【0051】
[最近隣測度の算出過程]
まず、最近隣測度算出部15Bにおける最近隣測度Rの算出過程について説明する。
算出単位エリア内に配置されている各設備の設備数をNとし、当該算出単位エリアにおける単位面積あたりの設備数(配置密度)をPとし、これら設備から最も近い設備までの最短距離をdとした場合、最近隣測度Rは、次の式(1)で定義される。
【数1】
【0052】
式(1)のうち、daはN個の設備の最短距離dの平均値を示し、deは、無限に広がるランダム分布を想定した場合の最短処理の平均値を示している。
また、算出単位エリアとして設備を中心とする半径rの円を用いた場合、算出単位エリアの面積UAは、次の式(2)で定義される。
【数2】
【0053】
この式(2)で定義される算出単位エリアにおいて、式(1)により算出された最近隣測度Rは、最小値Rmin=0から最大値Rmax=2.149までの間の値をとり、R≒1のときランダム分布、R<1のとき集密分布、R>1のとき拡散分布と判断される。また、R=1から離れるほど、集密あるいは拡散の度合いが強いとみなされる。
したがって、前述の
図7で示したように、従来の画一的に設定したメッシュからなる算出単位エリアを用いる場合と比較して、設備を中心または重心として柔軟に算出単位エリアを設定することができ、真の集密エリアを確実に抽出することが可能となる。
【0054】
[多様度の算出過程]
次に、多様度算出部15Cにおける多様度Hの算出過程について説明する。
算出単位エリア内に位置する各設備は、メンテナンスに要する負担の大きさにばらつきを有している。多様度算出部15Cで算出される多様度Hは、情報エントロピーの概念を活用して、このようなばらつきを定量化したものである。
【0055】
情報エントロピーは、用いられる分野や目的によってさまざまな解釈(対応付け)が与えられるが、その1つとして「乱雑さ」を表す指標であるという解釈がある。ここで、乱雑さを対象の多様性と読み替えると、多様性が増すほど情報エントロピーが大きくなり、情報量が大きくなることとなる。本発明では、設備の種別や設備の劣化状態をランク分けした劣化ランクなど、メンテナンスに要する負担の大きさと対応関係を有するランク情報(分類情報)を設備ごとに設定し、算出単位エリア内に位置する各設備における、これらランク情報のランク数(分類数)を情報エントロピーで表現している。
【0056】
任意の算出単位エリアにおける設備の全数に対するランクiの発生率をPiとした場合、当該算出単位エリアにおける多様度Hは、次の式(3)で定義される。
【数3】
【0057】
式(3)において、算出単位エリアの各設備が有する全ランク数をMとし、これらランクの発生率が等しい場合、すなわちPi=1/Mのとき、多様度Hは最大値をとる。また、いずれか1つのランクの発生率が1のとき、すなわち算出単位エリアのすべての設備のランクが同じときに最小値0をとる。
つまり、式(3)で定義された多様度Hが小さいほど、特定のランクの割合が大きいことを表し、これは算出単位エリアごとの補修等に必要な機材種別等の負担、すなわちメンテナンスに要する負担が少ないことを意味する。
【0058】
設備の状態がランクで記録されていない場合でも、状態を表す何らかの記録データから、状態に対応する必要な補修や人員等を参考にしつつ、何段階かのランク分けを行って、そのランクを用いて同様に算出すればよい。また、劣化ランクではなく設備種類数を対象とした場合、式(3)のiは設備種類を表すものとなり、同様の算出過程で多様度Hを算出できる。
【0059】
[集密多様度の算出過程]
次に、集密多様度算出部15Dにおける集密多様度14Dの算出過程について説明する。
集密多様度ENは、最近隣測度Rと多様度Hを活用した統合指標である。算出単位エリアjにおける最近隣測度をRjとし、最近隣測度Rの最大値および最小値をRmax(=2.149)およびRmin(=0)とし、算出単位エリアjにおける多様度をHjとし、多様度Hの最大値および最小値をHmax(at Pi=1/M)およびHmin(=0)とした場合、算出単位エリアjの集密多様度ENjは、式(4)により定義される。
【数4】
【0060】
集密多様度ENは、最近隣測度Rと多様度Hのそれぞれ直行成分とする2次元空間におけるベクトルの長さに相当する。この際、最近隣測度Rを正規化して得られた正規化最近隣測度NR、同じく多様度Hを正規化して得られた正規化多様度NHを用いることで、最近隣測度Rと多様度Hの重みを等しくすることができる。
【0061】
図3は、集密多様度の概念を示す説明図である。ここでは、横軸が正規化最近隣測度NRを示し、縦軸が正規化多様度NHを示してあり、それぞれ最近隣測度Rと多様度Hを0〜1に正規化したものである。また、
図3は、3つの設備E1,E2,E3がプロットされており、原点からこれら設備E1,E2,E3までのベクトルの長さEN1,EN2,EN3が各設備E1,E2,E3の集密多様度に相当する。
【0062】
したがって、原点に近いほどベクトルが短くなるためメンテナンスにかかる負荷が小さくなり、NR,NHがともに最大値「1」となる点Qに近いほど負荷等が大きくなる。
図3の例では、EN2およびEN3よりも、EN1の方がメンテナンス上の負荷等が大きいと云える。
【0063】
また、原点から点Qまでのベクトルの長さからわかるように集密多様度ENは0から√2までの値をとるが、集密多様度ENの値をさらに直観的に比較しやすいよう、次の式(5)により、「0」から「1」までの間の値を取るよう正規化した正規化集密多様度NENを用いてもよい。さらに、式(5)に「100」を乗じて小数点第1位を四捨五入等することで「0」から「100」までの間の値を取るようにすることも可能である。
【数5】
【0064】
このように、算出単位エリアごと、すなわち設備ごとに算出された集密多様度(あるいは正規化集密多様度)14Dは、記憶部14メモリに記憶され、各種の統計量の算出や結果表示および出力が行われる。場合によっては設備が設置されている場所を表す地理情報(緯度経度等)を活用して、地図上にプロットされた地理的表示・出力が行われる。
【0065】
また、以上では、複合指標を算出するために用いる指標として最近隣測度Rと多様度Hを用いて説明したが、用いる指標は、評価すべき内容に応じた適切なものであれば他の指標でもよい。例えば、ある故障事象の発生状況を表す指標と、その故障事象によって引き起こされる様々な影響を表す指標を用いれば、対象である故障事象のリスクを評価することも可能となる。
【0066】
[集密多様度算出動作]
次に、
図4を参照して、本実施の形態にかかる設備メンテナンス負担評価装置10における集密多様度算出動作について説明する。
図4は、集密多様度算出処理を示すフローチャートである。ここでは、正規化最近隣測度NRおよび正規化多様度NHを用いて集密多様度ENまたは正規化集密多様度NENを算出する場合を例として説明する。
【0067】
まず、最近隣測度算出部15Bは、記憶部14の設備情報14Aに格納されている各設備の位置情報に基づいて、設備を中心または重心とした一定の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備の集密度合いを示す最近隣測度Rを算出し(ステップ100)、得られた最近隣測度Rを正規化した正規化最近隣測度NRを求める(ステップ101)。
【0068】
一方、多様度算出部15Cは、記憶部14の設備情報14Aに格納されている各設備のランク情報と情報エントロピーの概念とに基づいて、各設備の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備のランクに関するばらつき度合いを示す多様度Hを算出し(ステップ102)、得られた多様度を正規化した正規化多様度NHを求める(ステップ103)。
【0069】
次に、集密多様度算出部15Dは、各設備の算出単位エリアごとに、最近隣測度算出部15Bで算出して当該算出単位エリアの正規化最近隣測度NR、および、多様度算出部15Cで算出した正規化多様度NHを、それぞれ直交成分とするベクトルの長さに基づいて、当該算出単位エリアの集密多様度ENを算出する(ステップ104)。
【0070】
この後、集密多様度算出部15Dは、記憶部14に設定されているパラメータに基づき、集密多様度の正規化が必要かどうか確認し(ステップ105)、必要な場合には(ステップ105:YES)、集密多様度ENを正規化した正規化集密多様度NENを求め(ステップ106)、これら集密多様度ENまたは正規化集密多様度NENを、集密多様度14Dとして記憶部14に保存し(ステップ107)、一連の集密多様度算出処理を終了する。
【0071】
[設備メンテナンス負担評価動作]
次に、
図5を参照して、本実施の形態にかかる設備メンテナンス負担評価装置10における設備メンテナンス負担評価動作について説明する。
図5は、設備メンテナンス負担評価処理を示すフローチャートである。
設備メンテナンス負担評価装置10の演算処理部15は、操作入力部12で検出された作業者操作に応じて
図5の設備メンテナンス負担評価処理を実行する。ここでは、集密多様度ENを算出する場合を例として説明するが、正規化集密多様度NENでも同様である。
【0072】
まず、パラメータ設定部15Aは、操作入力部12で検出した作業者の操作に応じて、設備メンテナンス負担評価処理で用いる各種パラメータを設定し、記憶部14に保存する(ステップ110)。
次に、演算処理部15は、各設備の算出単位エリアごとに処理を繰り返す算出単位エリアループを開始する(ステップ111)。
【0073】
この算出単位エリアループにおいて、まず、集密多様度算出部15Dは、前述した
図4の集密多様度算出処理に基づき、各算出単位エリアの集密多様度ENを算出する(ステップ112)。
【0074】
次に、スクリーニング部15Eは、各設備の算出単位エリアのうち、統計的に有効な有効エリアのみをクリーニングする。
まず、スクリーニング部15Eは、第1のスクリーニング処理として、当該算出単位エリア内に配置されている設備の設備数と、パラメータ設定部15Aで設定された、算出単位エリア内の設備数の下限を示すしきい値とを比較し(ステップ113)、設備数がそのしきい値未満である場合(ステップ113:NO)、スクリーニング部15Eは、当該算出単位エリアを有効エリアではない参考エリアに設定し(ステップ115)、ループENDへ移行する。
【0075】
一方、設備数がしきい値以上である場合(ステップ113:YES)、スクリーニング部15Eは、第2のスクリーニング処理として、当該算出単位エリアの正規化最近隣測度NRおよび正規化多様度NHの乖離度と、パラメータ設定部15Aで設定された、最近隣測度と多様度との乖離度の上限を示すしきい値とを比較し(ステップ114)、乖離度がそのしきい値より大きい場合(ステップ114:NO)、スクリーニング部15Eは、当該算出単位エリアを有効エリアではない参考エリアに設定し(ステップ115)、ループENDへ移行する。
【0076】
正規化最近隣測度NRと正規化多様度NHのいずれか一方が極端に大きく片寄があるエリア、すなわち、集密度は高いものの多様度が低いエリアや、多様度は低いものの集密度が高いエリアについては、得られる集密多様度が一方の値に大きく影響を受けていることになり、集密多様度としてある程度の値が得られても、結果として統計的に有効な算出単位エリアとは云えない。
乖離度は、正規化最近隣測度NRと正規化多様度NHの大きさのバランスを評価する指標であり、例えば、正規化最近隣測度NRと正規化多様度NHのうち、値の小さいほうを分母、値の大きい方を分子とする比率で求められる。したがって、乖離度の上限を示すしきい値として、例えば「9」を設定した場合、正規化最近隣測度NRと正規化多様度NHの一方が他方よりよ9倍以上大きい場合には、上記のような片寄のある算出単位エリアを、参考エリアとして除外することができる。
【0077】
このようにして、算出単位エリアループにおいて、各算出単位エリア関する処理が終了した後、スクリーニング部15Eは、第3のスクリーニング処理として、算出単位エリアの全数に対する有効エリア数の割合を示す有効エリア率を算出し(ステップ116)、この有効エリア率と、パラメータ設定部15Aで設定された、算出単位エリアの全数に占める有効エリアの割合の下限を示す下限有効エリア率とを比較する(ステップ117)。
【0078】
ここで、有効エリア率が下限有効エリア率を下回る場合(ステップ117:NO)、スクリーニング部15Eは、有効エリア率が大きくなる方向に、算出単位エリア内の設備数の下限を示すしきい値や、最近隣測度と多様度との乖離度の上限を示すしきい値などの設定パラメータを調整するため(ステップ118)、ステップ110へ戻る。設定パラメータの調整については、予め指定された調整内容に基づき特定のパラメータを自動調整してもよく、パラメータの設定画面を画面表示部13に表示して作業者による調整を促すようにしてもよい。
【0079】
一方、有効エリア率が下限有効エリア率以上である場合(ステップ117:YES)、基本統計量算出部15Fは、集密多様度算出部15Dで算出された各算出単位エリアの集密多様度や、スクリーニング部15Eでスクリーニングされた有効エリアに基づいて、基本統計量14Eを算出し、記憶部14に保存する(ステップ119)。
【0080】
この後、評価結果出力部15Gは、集密多様度算出部15Dで算出された各算出単位エリアの集密多様度や、スクリーニング部15Eでスクリーニングされた有効エリア、さらには、基本統計量算出部15Fで算出された基本統計量14Eに基づき、設備メンテナンス負担に関する評価結果14Fを生成して記憶部14に保存し、また、画面表示部13で評価結果14Fを表示出力し、さらには必要に応じて、通信I/F部11を介して外部装置へ評価結果14Fを出力し(ステップ120)、一連の設備メンテナンス負担評価処理を終了する。
【0081】
なお、スクリーニング部15Eでは、有効エリアに関する有効エリア率とその下限有効エリア率とに基づきパラメータの調整要否を判定する場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、有効エリアとして設定されなかった参考エリアに関する参考エリア率(=1−有効エリア率)とその上限参考エリア率とに基づきパラメータの調整要否を判定するようにしてもよい。
【0082】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、最近隣測度算出部15Bが、位置情報に基づいて、設備を中心または重心とした一定の算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備の集密度合いを示す最近隣測度Rを算出し、多様度算出部15Cが、ランク情報と情報エントロピーの概念とに基づいて、算出単位エリアごとに、当該算出単位エリア内に位置する各設備のランクに関するばらつき度合いを示す多様度Hを算出し、集密多様度算出部15Dが、算出単位エリアごとに、当該算出単位エリアの最近隣測度および多様度をそれぞれ直交成分とするベクトルの長さに基づき当該算出単位エリアの集密多様度ENを算出するようにしたものである。
【0083】
これにより、従来の画一的に設定したメッシュを算出単位エリアとして用いる場合と比較して、設備が地理的に集中して設置されている真の集密エリアを含む各算出単位エリアについて、その設備の集密度合いを示す最近隣測度Rが得られる。また、設備の種別や過去の点検データや予測等から得られた劣化状態に対応した補修方法など、メンテナンスに要する負担の大きさのばらつきに関する指標である多様度Hが、算出単位エリアごとに得られる。そして、これら最近隣測度Rと多様度Hとが1つに統合されて、メンテナンスに要する負担に影響を及ぼす、各設備の集密度合いおよび劣化状態を、一義的かつ定量的に評価できる評価指標として集密多様度が得られる。
【0084】
したがって、分散設置された種類や状態の異なる各設備のメンテナンスに要する負担を、算出単位エリアごとに総合的に評価でき、集密多様度という1つの指標の大小に基づいて、高効率でメンテナンスが可能なエリアを正確に特定することが可能となる。
これにより、予算や日程など限られたリソースの範囲内で、より多くのエリアのより多くの設備をメンテナンスするための優先順位付けを、正確に行うことができる。このため、通信サービスを提供するための電柱、通信ケーブル、通信装置などの通信設備に限らず、老朽化に伴い早期のメンテナンスが必要とされている一般的なインフラストラクチャ設備に関するメンテナンス方針の決定に、極めて有用な評価指標を提供することが可能となる。
【0085】
なお、本発明にかかる集密多様度の算出手法は、メンテナンスに関する地域的な優先順位を特定することができるため、例えば、故障リスク等の相対比較(ランク分け)を公知の手法で行った後、集密多様度を算出するという活用も考えられる。もし、過去のメンテナンスに関するデータベースから、メンテナンスに必要となるリソースの原単位を導出できる場合、前述のようにして算出された集密多様度に、この原単位を乗算することで、エリアごとの具体的な保守リソースが算定される。これにより、メンテナンスに必要なリソースや所要時間を正確に算出でき、より効果的なメンテナンス方針を策定することが可能となる。
【0086】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各構成については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。