(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
ここで、本明細書において“質量%”と“重量%”、“質量ppm”と“重量ppm”とは、それぞれ同義である。また、単に“ppm”と記載した場合は、“重量ppm”のことを示す。
【0016】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明に係る化学強化ガラスを製造する方法の一態様を以下に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0017】
(ガラス組成)
本発明で使用されるガラスはナトリウムを含んでいればよく、成形、化学強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用することができる。具体的には、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。
【0018】
ガラスの製造方法は特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0019】
なお、ガラスの成形には種々の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等)、フロート法、ロールアウト法およびプレス法等の様々な成形方法を採用することができる。
【0020】
ガラスの厚みは、特に制限されるものではないが、化学強化処理を効果的に行うために、通常5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明で使用されるガラスの形状は特に限定されない。例えば、均一な板厚を有する平板形状、表面と裏面のうち少なくとも一方に曲面を有する形状および屈曲部等を有する立体的な形状等の様々な形状のガラスを採用することができる。
【0022】
本発明の化学強化ガラスの組成としては特に限定されないが、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。
(i)モル%で表示した組成で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を2〜25%、Li
2Oを0〜10%、Na
2Oを0〜18%、K
2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO
2を0〜5%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiO
2を50〜74%、Al
2O
3を1〜10%、Na
2Oを6〜14%、K
2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO
2を0〜5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が75%以下、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiO
2を68〜80%、Al
2O
3を4〜10%、Na
2Oを5〜15%、K
2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO
2を0〜1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiO
2を67〜75%、Al
2O
3を0〜4%、Na
2Oを7〜15%、K
2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO
2を0〜1.5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が71〜75%、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0023】
本発明に係る化学強化ガラスは、ガラス表面に、イオン交換された圧縮応力層を有する。イオン交換法では、ガラスの表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成させる。具体的には、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、Liイオン、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0024】
本発明の製造方法において、化学強化は、硝酸カリウム(KNO
3)を含有する無機塩にガラスを接触させることにより行なわれる。これによりガラス表面のNaイオンと無機塩中のKイオンとがイオン交換されることで高密度な圧縮応力層が形成される。無機塩にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩を塗布する方法、無機塩の水溶液をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱した溶融塩の塩浴にガラスを浸漬させる方法などが可能であるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させる方法が望ましい。
【0025】
無機塩としては化学強化を行うガラスの歪点(通常500〜600℃)以下に融点を有するものが好ましく、本発明においては硝酸カリウム(融点330℃)を含有する塩が好ましい。硝酸カリウムを含有することでガラスの歪点以下で溶融状態であり、かつ使用温度領域においてハンドリングが容易となることから好ましい。無機塩における硝酸カリウムの含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0026】
無機塩はさらに、K
2CO
3、Na
2CO
3、KHCO
3、NaHCO
3、K
3PO
4、Na
3PO
4、K
2SO
4、Na
2SO
4、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含有することが好ましく、中でもK
2CO
3、Na
2CO
3、KHCO
3及びNaHCO
3からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含有することがより好ましい。
【0027】
上記塩(以下、「融剤」と称することもある。)は、Si−O−Si結合に代表されるガラスのネットワークを切断する性質を有する。化学強化処理を行う温度は数百℃と高いので、その温度下でガラスのSi−O間の共有結合は適度に切断され、後述する低密度化処理が進行しやすくなる。
【0028】
なお、共有結合を切断する度合いはガラス組成や用いる塩(融剤)の種類、化学強化処理を行う温度、時間等の化学強化処理条件によっても異なるが、Siから伸びている4本の共有結合のうち、1〜2本の結合が切れる程度の条件を選択することが好ましいものと考えられる。
【0029】
例えば融剤としてK
2CO
3を用いる場合には、無機塩における融剤の含有量を0.1mol%以上とし、化学強化処理温度を350〜500℃とすると、化学強化処理時間は1分〜10時間が好ましく、5分〜8時間がより好ましく、10分〜4時間がさらに好ましい。
【0030】
融剤の添加量は表面水素濃度制御の点から0.1mol%以上が好ましく、0.5mol%以上がさらに好ましく、1mol%以上がより好ましく、2mol%以上が特に好ましい。また生産性の観点から各塩の飽和溶解度以下が好ましい。過剰に添加するとガラスの腐食につながるおそれがある。例えば、融剤としてK
2CO
3を用いる場合には、24mol%以下が好ましく、12mol%以下がより好ましく、8mol%以下が特に好ましい。
【0031】
無機塩は、硝酸カリウム及び融剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化学種を含んでいてもよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のアルカリ塩化塩やアルカリホウ酸塩などが挙げられる。これらは単独で添加しても、複数種を組み合わせて添加してもよい。
以下、ガラスを溶融塩に浸漬させる方法により化学強化を行う態様を例に、本発明の製造方法を説明する。
【0032】
(溶融塩の製造1)
溶融塩は下記に示す工程により製造することができる。
工程1a:硝酸カリウム溶融塩の調製
工程2a:硝酸カリウム溶融塩への融剤の添加
【0033】
(工程1a−硝酸カリウム溶融塩の調製−)
工程1aでは、硝酸カリウムを容器に投入し、融点以上の温度に加熱して溶融することで、溶融塩を調製する。溶融は硝酸カリウムの融点(330℃)と沸点(500℃)の範囲内の温度で行う。特に溶融温度を350〜470℃とすることが、ガラスに付与できる表面圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)のバランスおよび強化時間の点からより好ましい。
【0034】
硝酸カリウムを溶融する容器は、金属、石英、セラミックスなどを用いることができる。中でも、耐久性の観点から金属材質が望ましく、耐食性の観点からはステンレススチール(SUS)材質が好ましい。
【0035】
(工程2a−硝酸カリウム溶融塩への融剤の添加−)
工程2aでは、工程1aで調製した硝酸カリウム溶融塩中に、先述した融剤を添加し、温度を一定範囲に保ちながら、攪拌翼などにより、全体が均一になるように混合する。複数の融剤を併用する場合、添加順序は限定されず、同時に添加してもよい。
温度は硝酸カリウムの融点以上、すなわち330℃以上が好ましく、350〜500℃がより好ましい。また、攪拌時間は1分〜10時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0036】
(溶融塩の製造2)
上記の溶融塩の製造1では、硝酸カリウムの溶融塩の調製後に融剤を加える方法を例示したが、溶融塩はまた、下記に示す工程により製造することができる。
工程1b:硝酸カリウムと融剤の混合
工程2b:硝酸カリウムと融剤との混合塩の溶融
【0037】
(工程1b―硝酸カリウムと融剤の混合―)
工程1bでは、硝酸カリウムと融剤とを容器に投入して、攪拌翼などにより混合する。複数の融剤を併用する場合、添加順序は限定されず、同時に添加してもよい。容器は上記工程1aで用いるものと同様のものを用いることができる。
【0038】
(工程2b―硝酸カリウムと融剤との混合塩の溶融―)
工程2bでは、工程1bにより得られる混合塩を加熱して溶融する。溶融は硝酸カリウムの融点(330℃)と沸点(500℃)の範囲内の温度で行う。特に溶融温度を350〜470℃とすることが、ガラスに付与できる表面圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)のバランスおよび強化時間の点からより好ましい。攪拌時間は1分〜10時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0039】
上記工程1a及び工程2a又は工程1b及び工程2bを経て得られる溶融塩において、融剤の添加により析出物が発生する場合には、ガラスの化学強化処理を行う前に、当該析出物が容器の底に沈殿するまで静置する。この析出物には、飽和溶解度を超えた分の融剤や、融剤のカチオンが溶融塩中で交換された塩が含まれる。
【0040】
本願発明の製造方法で用いる溶融塩は、Na濃度が好ましくは500重量ppm以上であり、より好ましくは1000重量ppm以上である。溶融塩におけるNa濃度が500重量ppm以上であることで、後述する酸処理工程により、低密度層が深化しやすくなるため好ましい。Na濃度の上限としては特に制限はなく、所望の表面圧縮応力(CS)が得られるまで許容できる。
なお、化学強化処理を1回以上行なった溶融塩にはガラスから溶出したナトリウムが含まれている。したがって、Na濃度が既に上記範囲内であれば、ガラス由来のナトリウムをそのままNa源として用いてもよいし、Na濃度が満たない場合や、化学強化未使用の溶融塩を用いる場合には、硝酸ナトリウム等の無機ナトリウム塩を添加することにより調整することができる。
以上、上記工程1a及び工程2a又は工程1b及び工程2bにより、溶融塩を調製することができる。
【0041】
(化学強化)
次に、調製した溶融塩を用いて化学強化処理を行う。化学強化処理は、ガラスを溶融塩に浸漬し、ガラス中の金属イオン(Naイオン)を、溶融塩中のイオン半径の大きな金属イオン(Kイオン)と置換することで行われる。このイオン交換によってガラス表面の組成を変化させ、ガラス表面が高密度化した圧縮応力層20を形成することができる[
図1(a)〜(b)]。このガラス表面の高密度化によって圧縮応力が発生することから、ガラスを強化することができる。
【0042】
なお実際には、化学強化ガラスの密度は、ガラスの中心に存在する中間層30(バルク)の外縁から圧縮応力層表面に向かって徐々に高密度化してくるため、中間層30と圧縮応力層20との間には、密度が急激に変化する明確な境界はない。ここで中間層とは、ガラス中心部に存在し、圧縮応力層に挟まれる層を表す。この中間層は圧縮応力層とは異なり、イオン交換がされていない層である。
【0043】
本発明における化学強化処理は、具体的には、下記工程3により行うことができる。
工程3:ガラスの化学強化処理
【0044】
(工程3−ガラスの化学強化処理−)
工程3では、ガラスを予熱し、上記工程1a及び工程2a又は工程1b及び工程2bで調製した溶融塩を、化学強化を行う温度に調整する。次いで予熱したガラスを溶融塩中に所定の時間浸漬したのち、ガラスを溶融塩中から引き上げ、放冷する。なお、ガラスには、化学強化処理の前に、用途に応じた形状加工、例えば、切断、端面加工および穴あけ加工などの機械的加工を行うことが好ましい。
【0045】
ガラスの予熱温度は、溶融塩に浸漬する温度に依存するが、一般に100℃以上であることが好ましい。
【0046】
化学強化温度は、被強化ガラスの歪点(通常500〜600℃)以下が好ましく、より高い圧縮応力層深さを得るためには特に350℃以上が好ましい。
【0047】
ガラスの溶融塩への浸漬時間は1分〜10時間が好ましく、5分〜8時間がより好ましく、10分〜4時間がさらに好ましい。かかる範囲にあれば、強度と圧縮応力層の深さのバランスに優れた化学強化ガラスを得ることができる。
【0048】
本発明の製造方法では続いて、化学強化処理後に下記工程を行う。
工程4:ガラスの洗浄
工程5:工程4を経た後のガラスの酸処理
上記工程5まで経た時点で、ガラス表面には圧縮応力層の表層が変質した、具体的には低密度化された、低密度層10をさらに有することとなる[
図1(b)〜(c)]。低密度層とは、圧縮応力層の最表面からNaやKが抜け(リーチングし)、代わりにHが入り込む(置換する)ことによって形成される。
以下、工程4及び工程5について詳述する。
【0049】
(工程4−ガラスの洗浄−)
工程4では工水、イオン交換水等を用いてガラスの洗浄を行う。中でもイオン交換水が好ましい。洗浄の条件は用いる洗浄液によっても異なるが、イオン交換水を用いる場合には0〜100℃で洗浄することが付着した塩を完全に除去させる点から好ましい。
【0050】
(工程5−酸処理−)
工程5では、工程4で洗浄したガラスに対して、さらに酸処理を行う。
ガラスの酸処理とは、酸性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることによって行い、これにより化学強化ガラス表面のNa及び/又はKをHに置換することができる。
溶液は酸性であれば特に制限されずpH7未満であればよく、用いられる酸が弱酸であっても強酸であってもよい。具体的には塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、炭酸及びクエン酸等の酸が好ましい。これらの酸は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
酸処理を行う温度は、用いる酸の種類や濃度、時間によっても異なるが、100℃以下で行うことが好ましい。
酸処理を行う時間は、用いる酸の種類や濃度、温度によっても異なるものの、10秒〜5時間が生産性の点から好ましく、1分〜2時間がより好ましい。
酸処理を行う溶液の濃度は、用いる酸の種類や時間、温度によって異なるものの、容器腐食の懸念が少ない濃度が好ましく、具体的には0.1wt%〜20wt%が好ましい。
【0052】
低密度層は、後述するアルカリ処理により除去されるため、低密度層が厚いほどガラス表面が除去されやすい。したがって低密度層の厚みはガラス表面除去量の観点から5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。低密度層の厚みは化学強化工程における融剤濃度、ナトリウム濃度、温度、時間等により制御することができる。
【0053】
低密度層の密度はガラス表面除去性の観点から、イオン交換された圧縮応力層よりも深い領域(バルク)の密度に比べて低いことが好ましい。
【0054】
低密度層の厚みはX線反射率法(X−ray−Reflectometry:XRR)によって測定した周期(Δθ)から求めることができる。
低密度層の密度はXRRによって測定した臨界角(θc)により求めることができる。
なお、簡易的には走査型電子顕微鏡(SEM)でガラスの断面を観察することによって、低密度層の形成と層の厚みを確認することも可能である。
【0055】
本発明の製造方法では続いて、酸処理後に下記工程を行う。
工程6:アルカリ処理
上記工程6により、工程5までに形成された低密度層の一部又は全部を除去することができる[
図1(c)〜(d)]。
以下、工程6について詳述する。
【0056】
(工程6−アルカリ処理−)
工程6では、工程5で酸処理したガラスに対して、さらにアルカリ処理を行う。
アルカリ処理とは、塩基性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることによって行い、これにより低密度層の一部又は全部を除去することができる。
溶液は塩基性であれば特に制限されずpH7超過であればよく、弱塩基を用いても強塩基を用いてもよい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基が好ましい。これらの塩基は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
アルカリ処理を行う温度は、用いる塩基の種類や濃度、時間によっても異なるが、0〜100℃が好ましく、10〜80℃がより好ましく、20〜60℃が特に好ましい。かかる温度範囲であればガラスが腐食するおそれがなく好ましい。
アルカリ処理を行う時間は、用いる塩基の種類や濃度、温度によっても異なるものの、10秒間〜5時間が生産性の点から好ましく、1分間〜2時間がより好ましい。
アルカリ処理を行う溶液の濃度は、用いる塩基の種類や時間、温度によって異なるものの、ガラス表面除去性の観点から0.1wt%〜20wt%が好ましい。
【0058】
上記アルカリ処理により、Hが侵入した低密度層の一部又は全部が除去され、水素濃度プロファイルが後述する特定の関係式(I)を満たす表層が露出する。これにより面強度が向上した化学強化ガラスを得ることができる。さらに、低密度層が除去されることでガラス表面に存在していた傷も同時に除去されるので、この点も強度向上に寄与すると考えられる。
【0059】
上記酸処理工程5およびアルカリ処理工程6の間や、アルカリ処理工程6の終了後に、工程4と同様の洗浄工程を有することが好ましい。
【0060】
本発明の製造方法によれば取り扱う薬液の安全性が高いため特別な設備を必要としない。したがって、面強度が格段に向上した化学強化ガラスを安全かつ効率的に得ることができる。
【0061】
なお、除去される低密度層の量は、アルカリ処理の条件による。
図1(d)には、低密度層10が全て除去された態様を示すが、低密度層10の一部が除去され一部が残存していてもよい。強度向上の観点からは、低密度層の全部が取り除かれずとも効果を得ることができるが、ガラスの透過率を安定的に確保する観点から低密度層の全部を取り除くことが好ましい。
【0062】
<化学強化ガラス>
上記本発明の製造方法により得られる化学強化ガラスは、表層にイオン交換法により形成された圧縮応力層を有する化学強化ガラスであって、ガラスの最表面からの一定の深さ領域における水素濃度が後述する関係式(I)を満たし、かつ、ガラス表面に研磨傷を有さないことを特徴とする。
【0063】
圧縮応力層とは、原料であるガラスを硝酸カリウム等の無機融塩と接触させることによって、ガラス表面のNaイオンと溶融塩中のKイオンとがイオン交換されることで形成される高密度層のことである。
【0064】
本発明の化学強化ガラスは、ガラス表層における水素濃度プロファイルが特定の範囲にある。具体的には、ガラスの最表面からの深さXの領域における水素濃度Yが、X=0.1〜0.4(μm)において下記関係式(I)を満たす。
Y=aX+b (I)
〔式(I)における各記号の意味は下記の通りである。
Y:水素濃度(H
2O換算、mol/L)
X:ガラスの最表面からの深さ(μm)
a:−0.255〜−0.005
b:0.020〜0.215〕
【0065】
ガラスの強度に関し、ガラス中の水素(水分)の存在によってガラスの強度が低下することは知られているが、本発明者らは、化学強化処理後に強度が低下することがあり、その主原因は雰囲気中の水分がガラスに侵入することにより化学的欠陥が生成するためであることを見出した。また、この現象は化学強化に限らず、ガラスの製造工程において昇温工程を経ることにより発生することも見出されている。
ガラス中の水素濃度が高いと、ガラスのSi−O−Siの結合ネットワークの中に水素がSi−OHの形で入り、Si−O−Siの結合が切れる。ガラス中の水素濃度が高いとSi−O−Siの結合が切れる部分が多くなり、化学的欠陥が生成され易くなり、強度が低下すると考えられる。
【0066】
上記関係式(I)は、最表面からの深さX=0.1〜0.4μmの領域において成り立つものである。イオン交換により形成される圧縮応力層の厚さは、化学強化の程度によるが、5〜50μmの範囲で形成される。そして、ガラスへの水素の侵入深さは、拡散係数、温度および時間に従い、水素の侵入量はこれらに加えて雰囲気中の水分量が影響する。化学強化後の水素濃度は、最表面が最も高く、圧縮応力層が形成されていない深部(バルク)にかけて徐々に低下する。上記関係式(I)はその低下具合を規定したものであるが、最表面(X=0μm)では、経時変質により水分濃度が変化する可能性があるため、その影響がないと考えられる近表面(X=0.1〜0.4μm)の領域において成り立つものとした。
【0067】
式(I)において、aは水素濃度の低下具合を規定する傾きである。aの範囲は−0.255〜−0.005であり、好ましくは−0.255〜−0.010であり、より好ましくは−0.255〜−0.020である。
式(I)において、bは最表面(X=0μm)における水素濃度に相当する。bの範囲は0.020〜0.215であり、好ましくは0.030〜0.215であり、より好ましくは0.040〜0.215である。
【0068】
一般的に、ガラスの強度低下は、外部からの機械的な圧力によりガラス表面に存在する微小クラックが伸展することが原因と考えられている。非特許文献2によれば、クラックの先端のガラス構造がSi−OHリッチな状態であるほど、クラックが伸展しやすいと考察されている。クラックの先端が雰囲気中に暴露されていると仮定すれば、クラックの先端のSi−OH量は、ガラス最表面の水素濃度と正の相関を示すと推測される。従って、最表面の水素濃度に相当するbは上記に示す程度の低い範囲が好ましい。
図3および
図4に示す通り、化学強化工程を経たガラスについては、水素の侵入深さに顕著な違いが認められなかった。水素の侵入深さは化学強化工程条件に依存して変化する可能性が高いが、仮に変化しないとすれば、最表面の水素濃度に相当するbと水素濃度の低下具合を規定する傾きに相当するaには負の相関が現れる。従って、aは上記に示す程度の高い範囲が好ましい。
【0069】
このように、本発明では、表層の水素濃度そのもののみを規定するのではなく、水素濃度プロファイルに着目し、表層水素濃度とその低下具合を特定の範囲に規定することで、化学強化ガラスの強度を大幅に向上できることを見出したものである。
【0070】
〔水素濃度プロファイル測定方法〕
ここで、ガラスの水素濃度プロファイル(H
2O濃度、mol/L)とは以下の分析条件下で測定したプロファイルである。
ガラス基板の水素濃度プロファイルの測定には二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometory:SIMS)を用いた。SIMSにて定量的な水素濃度プロファイルを得る場合には、水素濃度既知の標準試料が必要である。標準試料の作製方法および水素濃度定量方法を以下に記す。
1)測定対象のガラス基板の一部を切り出す。
2)切り出したガラス基板の表面から50μm以上の領域を研磨あるいはケミカルエッチングによって除去する。除去処理は両面とも行う。すなわち、両面での除去厚みは100μm以上となる。この除去処理済みガラス基板を標準試料とする。
3)標準試料について赤外分光法(Infrared spectroscopy:IR)を実施し、IRスペクトルの3550cm
−1付近のピークトップの吸光度高さA
3550および4000cm
−1の吸光度高さA
4000(ベースライン)を求める。
4)標準試料の板厚d(cm)をマイクロメーターなどの板厚測定器を用いて測定する。
5)文献Aを参考に、ガラスのH
2Oの赤外実用吸光係数ε
pract(L/(mol・cm))を75とし、式IIを用いて標準試料の水素濃度(H
2O換算、mol/L)を求める。
標準試料の水素濃度 = (A
3550−A
4000)/(ε
pract・d)・・・式II
文献A)S. Ilievski et al., Glastech. Ber. Glass Sci. Technol., 73 (2000) 39.
【0071】
測定対象のガラス基板と上記の方法によって得られた水素濃度既知の標準試料を同時にSIMS装置内へ搬送し、順番に測定を行い、
1H
−および
30Si
−の強度の深さ方向プロファイルを取得する。その後、
1H
−プロファイルから
30Si
−プロファイルを除して、
1H
−/
30Si
−強度比の深さ方向プロファイルを得る。標準試料の
1H
−/
30Si
−強度比の深さ方向プロファイルより、深さ1μmから2μmまでの領域における平均
1H
−/
30Si
−強度比を算出し、この値と水素濃度との検量線を、原点を通過するように作成する(1水準の標準試料での検量線)。この検量線を用い、測定対象のガラス基板のプロファイルの縦軸の
1H
−/
30Si
−強度比を水素濃度へ変換する。これにより、測定対象のガラス基板の水素濃度プロファイルを得る。なお、SIMSおよびIRの測定条件は以下の通りである。
【0072】
〔SIMSの測定条件〕
装置:アルバック・ファイ社製 ADEPT1010一次イオン種:Cs
+
一次イオンの加速電圧:5kV一次イオンの電流値:500nA
一次イオンの入射角:試料面の法線に対して60°
一次イオンのラスターサイズ:300×300μm
2
二次イオンの極性:マイナス
二次イオンの検出領域:60×60μm
2(一次イオンのラスターサイズの4%)
ESA Input Lens:0
中和銃の使用:有
横軸をスパッタ時間から深さへ変換する方法:分析クレータの深さを触針式表面形状測定器(Veeco社製Dektak150)によって測定し、一次イオンのスパッタレートを求める。このスパッタレートを用いて、横軸をスパッタ時間から深さへ変換する。
1H
−検出時のField Axis Potential:装置ごとに最適値が変化する可能性がある。バックグラウンドが十分にカットされるように測定者が注意しながら値を設定する。
【0073】
〔IRの測定条件〕
装置:Thermo Fisher Scientific社製Nic−plan/ Nicolet 6700
分解能:4cm
−1
積算:16
検出器:TGS検出器
【0074】
上記分析条件により測定したガラスの水素濃度プロファイル(H
2O濃度、mol/L)から関係式〔I〕を導くには、以下の手順による。
図5及び
図6に示す通り、0.1から0.4μmの深さ領域の水素濃度プロファイルに対して線形近似を行う。得られた近似直線の式を関係式〔I〕とする。
また、a及びbを制御する手段としては、例えば、化学強化工程における融剤濃度、ナトリウム濃度、温度、時間等を変更することが挙げられる。
【0075】
本発明に係る化学強化ガラスは、表面に研磨傷を有さない。ここで、本発明における研磨とは、砥粒を用いてガラス表面を削ることにより平滑化することをいう。また、研磨傷の有無はAFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)による表面観察によって判別することができ、10μm×5μm領域内に長さ5μm以上幅0.1μm以上のスクラッチが2本以上存在しないという場合に、表面に研磨傷がない状態ということができる。
図8に、表面研磨傷を有する状態(後述の参考例1)を、
図9に、表面研磨傷を有さない状態(後述の実施例1)をそれぞれ示す。
【0076】
(ガラス強度)
本発明の化学強化ガラスの強度は、ボールオンリング試験により評価することができる。
【0077】
(ボールオンリング試験)
本発明の化学強化ガラスは、ガラス板を直径30mm、接触部が曲率半径2.5mmの丸みを持つステンレスからなるリング上に配置し、該ガラス板に直径10mmの鋼からなる球体を接触させた状態で、該球体を静的荷重条件下で該リングの中心に荷重するボールオンリング(Ball on Ring;BOR)試験により測定したBOR強度F(N)で評価する。
本発明の化学強化ガラスは、F≧1500×t
2を満たすことが好ましく、F≧2000×t
2であることがより好ましい[式中、Fはボールオンリング試験により測定したBOR強度(N)であり、tはガラス基板の板厚(mm)である。]。BOR強度F(N)がかかる範囲であることにより、薄板化した場合にも優れた強度を示す。
【0078】
図2に、本発明で用いたボールオンリング試験を説明するための概略図を示す。ボールオンリング(Ball on Ring;BOR)試験では、ガラス板1を水平に載置した状態で、SUS304製の加圧治具2(焼入れ鋼、直径10mm、鏡面仕上げ)を用いてガラス板1を加圧し、ガラス板1の強度を測定する。
【0079】
図2において、SUS304製の受け治具3(直径30mm、接触部の曲率R2.5mm、接触部は焼入れ鋼、鏡面仕上げ)の上に、サンプルとなるガラス板1が水平に設置されている。ガラス板1の上方には、ガラス板1を加圧するための、加圧治具2が設置されている。
【0080】
本実施の形態においては、実施例及び比較例後に得られたガラス板1の上方から、ガラス板1の中央領域を加圧する。なお、試験条件は下記の通りである。
加圧治具2の下降速度:1.0(mm/min)
この時、ガラスが破壊された際の、破壊荷重(単位N)をBOR強度とし、20回の測定の平均値をBOR平均強度とする。ただし、ガラス板の破壊起点がボール押しつけ位置より2mm以上離れている場合は、平均値算出のためのデータより除外する。
【0081】
本発明の化学強化ガラスは、さらに、下記物性を有する。
AFM表面観察によって測定される測定範囲10μm×5μmにおける表面粗さが、好ましくは0.2nm以上、0.5nm以下である。なお、従来の研磨していない化学強化ガラス板の表面粗さは0.15nm以上、0.2nm未満である。
【0082】
本発明の化学強化ガラスの製造方法によれば、化学強化後に研磨やフッ酸等を用いたエッチング処理をせずに面強度を向上させた化学強化ガラスを得ることができる。このため表面傷の程度によらずあらゆるガラスに適用可能であり汎用性が高い。そして溶液への浸漬により処理を進めることができるため、様々なガラス形状や大面積のガラスに対応しやすい点、ガラスの両面を同時に処理できる点で効率的である。また、ガラス表面の潜傷の有無にかかわらず、ピットによる外観不良のない化学強化ガラスを得ることができる。さらに、フッ酸等を用いたエッチング処理に比べ、安全性が高くまた低コストである。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0084】
<評価方法>
本実施例における各種評価は以下に示す分析方法により行った。
(ガラスの評価:表面応力)
本発明の化学強化ガラスの圧縮応力層の圧縮応力値および圧縮応力層の深さは、EPMA(electron probe micro analyzer)または表面応力計(例えば、折原製作所製FSM−6000)等を用いて測定することができる。実施例では、表面圧縮応力値(CS、単位はMPa)および圧縮応力層の深さ(DOL、単位はμm)は折原製作所社製表面応力計(FSM−6000)を用いて測定した。
【0085】
(ガラスの評価:除去量)
ガラスの除去量厚みは、薬液処理前後の重量を分析用電子天秤(HR−202i;AND製)により測定し、次の式を用いて厚み換算することにより求めた。
(片面あたりの除去量厚み)=((処理前重量)−(処理後重量))/(ガラス比重)/処理面積/2
このとき、ガラス比重を2.48(g/cm
3)として計算した。
【0086】
(ガラスの評価:面強度)
ガラス面強度はボールオンリング(Ball on Ring;BOR)試験により測定した。
図2に、本発明で用いたボールオンリング試験を説明するための概略図を示す。ガラス板1を水平に載置した状態で、SUS304製の加圧治具2(焼入れ鋼、直径10mm、鏡面仕上げ)を用いてガラス板1を加圧し、ガラス板1の強度を測定した。
【0087】
図2において、SUS304製の受け治具3(直径30mm、接触部の曲率R2.5mm、接触部は焼入れ鋼、鏡面仕上げ)の上に、サンプルとなるガラス板1が水平に設置されている。ガラス板1の上方には、ガラス板1を加圧するための、加圧治具2が設置されている。
【0088】
本実施の形態においては、実施例及び比較例後に得られたガラス板1の上方から、ガラス板1の中央領域を加圧した。なお、試験条件は下記の通りである。
加圧治具2の下降速度:1.0(mm/min)
この時、ガラスが破壊された際の、破壊荷重(単位N)をBOR強度とし、20回の測定の平均値をBOR平均強度とした。ただし、ガラス板の破壊起点がボール押しつけ位置より2mm以上離れていた場合は、平均値算出のためのデータより除外した。
【0089】
(ガラスの評価:水素濃度)
前述の〔水素濃度プロファイル測定方法〕にて記載した方法に従い、水素濃度プロファイルを測定し、関係式〔I〕を導出した。
【0090】
<実施例1>
(化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム5100g、炭酸カリウム270g、硝酸ナトリウム210gを加え、マントルヒーターで450℃まで加熱して炭酸カリウム6mol%、ナトリウム10000重量ppmの溶融塩を調製した。50mm×50mm×0.56mmのアルミノシリケートガラスAを用意し、200〜400℃に予熱した後、450℃の溶融塩に2時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより化学強化処理を行った。得られた化学強化ガラスは水洗いし、次の工程に供した。
アルミノシリケートガラスA組成(モル%表示):SiO
2 64.4%、Al
2O
3 8.0%、Na
2O 12.5%、K
2O 4.0%、MgO 10.5%、CaO 0.1%、SrO 0.1%、BaO 0.1%、ZrO
2 0.5%
【0091】
(酸処理工程)
13.4重量%の塩酸(HCl;関東化学社製)をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて41℃に温度調整を行った。前記化学強化工程で得られたガラスを、調整した塩酸中に180秒間浸漬させ、酸処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。こうして得られたガラスを次の工程に供した。
【0092】
(アルカリ処理工程)
4.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて40℃に温度調整を行った。酸処理工程で得られたガラスを、調整した水酸化カリウム水溶液中に120秒間浸漬させ、アルカリ処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。
以上より、実施例1の化学強化ガラスを得た。
【0093】
<実施例2>
溶融塩温度とイオン交換処理時間をそれぞれ430℃、30分とした以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0094】
<実施例3>
アルミノシリケートガラスAに代えて、50mm×50mm×0.7mmであって下記組成のアルミノシリケートガラスBを用いた点、化学強化におけるK
2CO
3濃度、酸処理におけるHCl濃度、温度、時間、アルカリ処理において水酸化ナトリウムに代えて水酸化カリウムを用いた点以外は、実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
アルミノシリケートガラスB組成(モル%表示):SiO
2 66.8%、Al
2O
3 10.8%、Na
2O 13.2%、K
2O 2.4%、MgO 6.2%、CaO 0.6%
【0095】
<実施例4>
アルミノシリケートガラスBを用いた点以外は実施例2と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0096】
<比較例1>
化学強化工程において溶融塩中のナトリウム量が表1に示す値であり、炭酸カリウム添加量を0gとし、酸処理工程、アルカリ処理工程を実施していないこと以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0097】
<比較例2>
化学強化工程において溶融塩中のナトリウム量が表1に示す値であり、炭酸カリウム添加量を0gとし、酸処理工程、アルカリ処理工程を実施していないこと以外は実施例2と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0098】
<比較例3>
化学強化工程において溶融塩中のナトリウム量が表1に示す値であり、炭酸カリウム添加量を0gとし、酸処理工程、アルカリ処理工程を実施していないこと以外は実施例3と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0099】
こうして得られた化学強化ガラスについて各種評価を行なった。結果を表1に示す。
また、
図3〜
図4に、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた各化学強化ガラスの表層の水素濃度プロファイルをプロットしたグラフを示す。
さらに、
図7に、実施例1及び比較例1で得られた各化学強化ガラスのBOR強度評価のワイブルプロットを示す。
図7は、板厚が0.56mmであるアルミノシリケートガラス板サンプルのBOR強度評価結果のワイブルプロットを示している。グラフの横軸は、破壊荷重σ(N)の対数ln(σ)を示すのに対し、縦軸は、2つの群の各々におけるサンプルに関する累積破壊確率パーセントP(%)を示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の結果から、ガラス組成が同一である実施例1、2と比較例1、2とを対比すると、本発明の製造方法により得られた実施例1、2の化学強化ガラスは、融剤を使用せず、酸処理及びアルカリ処理を行わない比較例1、2の化学強化ガラスよりも面強度が大幅に向上した。同様に、実施例3、4の化学強化ガラスは、比較例3の化学強化ガラスよりも面強度が大幅に向上した。
また
図7の結果から、平均破壊荷重が実施例1では871N、比較例1では599Nであった。10%破壊荷重(B10)は、実施例1では842Nであるのに対し、比較例1では362Nで、1%破壊荷重(B1)は、実施例1では803Nであるのに対し、比較例1では190Nであった。この結果より、実施例1では低強度品が発生せず、面強度に対する信頼性が大幅に向上した製品であることが分かる。
【0102】
(参考例1)
比較例1と同様のアルミノシリケートガラスを、比較例1と同様の溶融塩を用い、化学強化処理温度435℃、化学強化処理時間4時間で化学強化した。その後、平均粒径1.2μmの酸化セリウム(SHOROX.A−10,昭和電工製)を水に分散させて比重1.09のスラリーを作製し、研磨圧10kPa、研磨パッド(スウェードタイプH7000−507(2.0)−ND;フジボウ愛媛社製)の条件で、化学強化後のガラスを片面0.6μm研磨した。このガラス表面をAFMで観察した画像を
図8に示す。なお、AFM測定により測定された表面粗さ(Ra)は0.40であった。
また、実施例1で製造した化学強化ガラスの表面観察画像を
図9に示す。なお、AFM測定により測定された表面粗さ(Ra)は0.31nmであった。
AFM測定条件:Atomic Force Microscope(XE−HDM;Park systems社製)、スキャンサイズ:10×5μm、カラースケール:±1nm、スキャン速度:1Hz。
【0103】
<実施例5>
ガラス板厚、化学強化工程における溶融塩中のナトリウム量、化学強化の温度、化学強化の時間、酸処理の時間、アルカリ処理の時間が表2に示す条件であること以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0104】
<実施例6>
アルミノシリケートガラスAに代えて、下記組成のアルミノシリケートガラスCを用いた点、酸処理の薬液、温度、時間が表2に示す条件であること以外は、実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
アルミノシリケートガラスC組成(モル%表示):SiO
2 68%、Al
2O
3 10%、Na
2O 14%、MgO 8%
【0105】
<実施例7>
化学強化工程における溶融塩中のナトリウム量、化学強化の温度、化学強化の時間が表2に示す条件であること以外は実施例6と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0106】
<実施例8>
アルミノシリケートガラスAに代えて、50mm×50mm×0.7mmであって下記組成のアルミノボロシリケートガラスを用いた点以外は、実施例6と同様に化学強化ガラスを製造した。
アルミノボロシリケートガラス組成(モル%表示):SiO
2 67%、B
2O
3 4%、Al
2O
3 13%、Na
2O 14%、K
2O <1%、MgO 2%、CaO <1%
【0107】
<比較例4>
化学強化工程において溶融塩中のナトリウム量が表2に示す値であり、炭酸カリウム添加量を0gとし、酸処理工程、アルカリ処理工程を実施していないこと以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0108】
<比較例5>
ガラス板厚、化学強化の温度、化学強化の時間が表2に示す条件であること以外は比較例4と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0109】
<比較例6>
アルミノシリケートガラスAに代えてアルミノシリケートガラスCを用いた点、表2に示す化学強化条件としたこと以外は、比較例5と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0110】
<比較例7>
化学強化工程の後、下記条件のフッ酸エッチング処理を行ったこと以外は比較例6と同様に化学強化ガラスを製造した。
フッ酸エッチング:HF0.1重量%、HCl18.5重量%を含む25℃の水溶液に化学強化後のガラス板を120秒間浸漬し、イオン交換水で洗浄した。
【0111】
<比較例8>
フッ酸エッチング処理を、HF1重量%、HCl18.5重量%を含む25℃の水溶液に化学強化後のガラス板を240秒間浸漬し、イオン交換水で洗浄することにより行ったこと以外は比較例7と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0112】
<比較例9>
アルミノボロシリケートガラスを用いた点以外は比較例6と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例1、実施例5と、比較例4、比較例5との対比から、化学強化塩に炭酸カリウムを添加した状態で化学強化し、酸処理およびアルカリ処理を実施することで面強度が大幅に向上することが分かる。
【0115】
また、フッ酸エッチングを行った比較例7や比較例8は、実施例6、7よりも表面除去量が大きいが、CS値または面強度のいずれかが実施例6、7よりも小さい結果となった。すなわち本発明の製造方法によればCS値と面強度のいずれにも優れた化学強化ガラスを得ることができることが分かる。
【0116】
また、実施例8と比較例9との対比から、ガラス種を変更した場合においても本発明の製造方法により面強度が向上した化学強化ガラスが得られることが分かる。
【0117】
<比較例10、実施例9、比較例11>
表面に先端角度が90度のキューブコーナーダイヤモンド圧子を接触させ、10gの垂直荷重をかけたまま、0.1mm/sの速度で水平方向に移動させて人工的に疵を施したガラスを用いた以外は上記比較例4、実施例1、比較例7と同様に、各化学強化ガラスを製造した(比較例10、実施例9、比較例11)。各化学強化ガラスの表面の走査型電子顕微鏡による観察画像を、それぞれ
図10(a)〜
図10(c)に示す。
本発明の製造方法により製造した実施例9(
図10(b))は、通常の化学強化により製造した比較例10(
図10(a))と同様に、疵に変化はない。しかし、通常の化学強化後にフッ酸エッチングを行った比較例11(
図10(c))では、疵が拡大している。これより、ガラス表面に潜傷がある場合、フッ酸等を用いたエッチング処理では、潜傷が拡大し、ピットによる外観不良が発生することが分かる。一方、本発明の製造方法によれば、ガラス表面の潜傷を拡大させることなく、面強度が向上した化学強化ガラスを製造できることが分かる。したがって、本発明の製造方法は、研磨傷を有するガラスに対しても適用可能である。
【0118】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2013年7月19日出願の日本特許出願(特願2013−151116)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。