(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
細線状に形成された磁性体であって複数の磁区が細線方向に区切られて生成する磁性細線を、互いに離間して基板上に複数並設し、前記磁性細線の下面が下に凸または上に凸のいずれかに形成されて細線方向に区切る変形部を当該磁性細線の1箇所以上に有する磁性細線搭載基板を製造する製造方法であって、
前記基板上に樹脂膜を設け、ナノインプリント法により、前記樹脂膜の表面に凹溝または突畝のいずれかを1本以上形成するマスク形成工程と、
前記樹脂膜をマスクとしてエッチングすることにより、前記基板の表面を加工して、前記樹脂膜の前記凹溝または突畝の直下を凹状または凸状のいずれかに形成する基板エッチング工程と、
前記基板上に磁性材料を成膜して前記複数の磁性細線を形成し、前記基板の前記凹状または凸状に形成された表面の直上に前記磁性細線の前記変形部が設けられる磁性細線形成工程と、を行い、
前記マスク形成工程で形成された前記樹脂膜は、前記凹溝または突畝が、前記磁性細線形成工程で形成される前記磁性細線の隣り合う2以上にわたって細線幅方向に延設されていることを特徴とする磁性細線搭載基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る磁性細線搭載基板の製造方法にて製造される磁性細線搭載基板は、磁気ディスク等の磁気記録媒体や、空間光変調器における2次元配列された画素(画素アレイ)部分を構成するものである。以下、本発明に係る磁性細線搭載基板の製造方法を実現するための形態について図面を参照して説明する。
【0024】
[磁性細線搭載基板の実施形態]
はじめに、本発明に係る磁性細線搭載基板の製造方法にて製造される磁性細線搭載基板(以下、適宜、本発明の実施形態に係る磁性細線搭載基板と称する)について説明する。本発明の一実施形態に係る磁性細線搭載基板は、画素を2次元配列してなる空間光変調器である。
図1に示すように、空間光変調器(磁性細線搭載基板)10は、基板2、および基板2上のX方向に延設されたストライプ状の8本の磁性細線1、磁性細線1,1間を絶縁する絶縁層6、ならびに、磁性細線1の一端と他端に接続した正電極31と負電極32を備える。このような構成の空間光変調器10は、それぞれの磁性細線1に、正電極31および負電極32を一対の電極の端子として走査電流源8(
図2参照)が接続され、磁性細線1の書込領域1wにデータ書込用の磁気ヘッド(主磁極をデータ書込部50として
図2に示す)を対向させて動作させる。なお、
図2においては、空間光変調器10は基板2等を省略して磁性細線1のみを3本示し、さらに磁性細線1の一部を破断線により省略して示す。
【0025】
図1に示すように、磁性細線1は、細線方向に所定の単位長さLbで区切られた領域を1画素として、配列された8個の画素を細線方向に連続して備え、この画素毎に2方向のいずれかの磁化、ここでは上向きまたは下向きの磁化を示す(
図2参照)。すなわち
図2に示すように、磁性細線1は、磁区が細線方向に分割されて生成している。また、磁性細線1において、すべての(本実施形態では8個の)画素が設けられた領域を画素領域1pxと称する。そして、空間光変調器10は、磁性細線1を8本備えるので、8列×8行の64個のマトリクス状に配列された画素(画素アレイ)を備えていることになる。本明細書において、空間光変調器10(画素アレイ)は行方向(X方向)を磁性細線1の細線方向としているが、行と列とを入れ替えた構成にしてもよい。なお、一般的な空間光変調器の画素アレイは、例えばフルハイビジョンでは水平(X)方向1920×垂直(Y)方向1080の約207万画素であるが、本明細書では簡略化して説明するために8列×8行で構成する。
【0026】
ここで、空間光変調器10における画素は、
図1において破線枠で示すように、磁性細線1,1間の空隙(絶縁層6)を含めた領域であるが、適宜、磁性細線1の単位長さLbで区切られた領域を指す。また、一般的に画素とは1個で色調および階調を表示可能な最小単位であり、例えばフルカラー(RGB3色×256階調)表示をするために1画素で24ビットの多数の情報を有するが、本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報として明/暗の2値(1ビット)を提示する手段を指す。
【0027】
(空間光変調器の光変調動作)
図1および
図2に示す空間光変調器の光変調動作を、
図3を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、従来の磁気光学式の空間光変調器を用いたものや、スピン注入磁化反転素子を光変調素子としたものと同様の構成とすればよい。本実施形態に係る空間光変調器10は反射型であり、光変調する磁性細線1が垂直磁気異方性材料からなり磁化方向が上向きまたは下向きを示し、また、基板2が光を透過するので、表示装置は以下の構成とすることが好ましい。空間光変調器10(画素アレイ)の直下には、空間光変調器10に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を空間光変調器10(磁性細線1)に入射する前に1つの偏光成分の光(1つの向きの偏光、以下、適宜偏光という)にする偏光子PFiと、この下方から空間光変調器10に入射する偏光(入射偏光)を透過させ、かつ空間光変調器10(磁性細線1)で反射して出射した光を側方へ反射するハーフミラーHMと、が配置される。そして、空間光変調器10の下方の前記ハーフミラーHMの側方には、ハーフミラーHMで反射して到達した光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。
【0028】
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を空間光変調器10の画素アレイの全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光にするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を空間光変調器10の手前(下)の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光(偏光)にする。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
【0029】
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、空間光変調器10へ膜面に垂直に(入射角0°で)入射するように照射する。レーザー光は偏光子PFiを透過して偏光(入射偏光)となり、ハーフミラーHMを透過して空間光変調器10の下方からすべての画素すなわち磁性細線1に向けて入射する。入射偏光は、基板2を透過して磁性細線1で反射して、空間光変調器10から出射偏光として出射する。入射角0°であることから、出射偏光は入射偏光と同一の光路となる。そこで、偏光子PFiと空間光変調器10との間に空間光変調器10に対して45°傾斜させたハーフミラーHMを配置して、出射偏光を側方へ反射させることで、出射偏光だけを偏光子PFoに到達させる。偏光子PFoはすべての出射偏光のうちの特定の偏光を遮光し、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。なお、入射偏光を傾斜させて空間光変調器10に入射し(入射角>0°)、出射偏光と光路が重複しないようにして、ハーフミラーHMを配置しない構成としてもよい。ただし、入射方向が磁化方向に平行に近いほど磁気光学効果が高いので、入射角は30°程度以内とすることが好ましい。
【0030】
光は、磁性細線1で反射したときまたは透過したときに、その偏光の向きが、磁気光学効果により、当該磁性細線1の光が入射した領域における磁化方向に対応して一方向およびその反対方向に同じ角度で回転する(旋光する)。
図3においては、光は磁性細線1で反射したときのカー効果により角度θkで旋光し、上向きの磁化方向を示す領域で反射した光は+θk、下向きの磁化方向を示す領域で反射した光は−θk旋光する。偏光子PFoは、入射偏光に対して−θk旋光した光を遮光するものとする。そのため、下向きの磁化方向の領域(磁区)で反射した出射偏光は、偏光子PFoで遮光され、一方、上向きの磁化方向の磁区で反射した出射偏光は、偏光子PFoを透過して検出部PDに照射される。したがって、1本の磁性細線1から出射した光は、当該磁性細線1に生成した磁区毎に明暗(白黒)に切り分けられたパターンとなって検出部PDへ表示される。したがって、1本の磁性細線1において、その細線方向に区切られた画素毎に上向きまたは下向きのいずれか所望の磁化方向として、磁区を生成させることで、画素毎に明/暗(白/黒)を切り分けられた画像を表示することができる。
【0031】
光変調動作を行う磁性体(光変調素子)が画素毎に分離されて備えられた空間光変調器等においては、すべての光変調素子が異なる組合せの一対の電極に接続される等、個別に明/暗の書換えが可能である上、それぞれの光変調素子は位置が固定されているので、画素アレイ内の個々の画素の位置がずれるようなことがない。これに対して、本実施形態に係る空間光変調器10においては、
図1に示すように、1本の磁性細線1がX(行)方向に連続した複数の画素に共有され、Y(列)方向にのみ1画素ずつ分離されている。したがって、同じ行の画素同士では個別の書換えをすることができない。
【0032】
このような空間光変調器10は、
図2に示すように、磁性細線1の書込領域1wにおいて、例えばデータ書込部50(磁気ヘッド)で磁界を印加されることにより、明/暗を示すための所望の磁化方向の磁区とされた(書込みをされた)後、この磁区を、磁壁移動により書込領域1wから磁性細線1における所定の位置(画素)まで移動させる。磁性細線1は、両端に接続された一対の電極31,32(
図1参照)を介して、一端から他端へ細線方向に電流を供給されることで、電流の流れと逆方向に、すなわち細線方向に磁壁が移動する。そして、磁性細線1において、生成した磁区のそれぞれはその大きさ(体積)が保持されているので、磁壁の移動に伴ってすべての磁区が等距離移動する、いわゆるシフト移動を行う。磁壁の移動速度は電流密度に依存するので、一定の大きさの電流を磁性細線1に供給することで、供給時間により、磁区を所望の距離だけ移動させることができる。そして、電流の供給を停止すると磁壁移動も停止するので、走査電流源8でパルス電流を磁性細線1に供給することで、単位長さLb刻みで断続的に磁区をシフト移動させることができる。しかし、実用的には1本の磁性細線に1000個以上の画素が連続して設けられる空間光変調器においては、電流の制御のみでは、磁区の1回(1パルス)のシフト移動(磁壁移動)における誤差が蓄積されて出力エラーに及ぶ虞がある。以下、行方向に連続して複数の画素を備えた磁性細線において、正確な磁区のシフト移動が可能な磁性細線1を備えた空間光変調器10について、詳細に説明する。
【0033】
(磁性細線)
磁性細線1は、磁性体を厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成してなる。
図1に示すように、空間光変調器10において、磁性細線1,1,…は、平面視で絶縁層6を挟んで互いに平行に、基板2上に形成されている。前記した通り、磁性細線1は画素となる領域を含み、所定数(8個)の画素が細線方向に連続して設けられた画素領域1pxが光変調を行う部分である。画素領域1pxは磁性細線1における光の入射領域であり、画素領域1pxに入射した光が磁性細線1を透過または反射して出射すると、画素毎に当該画素における磁化方向に対応して異なる2つの角度のいずれかで旋光した光に変調される。また、磁性細線1は、画素領域1pxの外(
図1では画素領域1pxの左側)の細線方向に区切られた領域に、書込領域1wが設けられている。書込領域1wは、データ書込部50により、磁性細線1に設けられた画素の1つと同じ磁化方向に変化させる領域である。磁性細線1は、ある画素の上向きまたは下向きの磁化方向と同じ磁化方向の磁区を書込領域1wに生成させ、この磁区が細線方向に移動されて画素領域1pxの前記画素に到達することで当該画素が所望の磁化方向となる。空間光変調器10において、このような動作(画素の駆動)は、
図2に示すようにそれぞれの磁性細線1について並行して実行される。
【0034】
磁性細線1は、垂直磁気異方性の磁気光学材料で形成される。このような材料として、公知の強磁性材料を適用でき、具体的には、Co等の遷移金属とPd,Pt,Cuとを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、またTb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィおよびエッチングまたはリフトオフにより、以下の細線形状に成形されて磁性細線1となる。本実施形態においては、磁性細線1は垂直磁気異方性材料であるので、
図2および
図3に示すように上向きまたは下向きのいずれかの磁化方向を示す。
【0035】
また、磁性細線1は、上面に保護膜4(
図5、
図6参照)を積層されていることが好ましい。さらに、磁性細線1は、基板2との密着性を得るために、金属薄膜からなる下地膜の上に形成されてもよい(図示省略)。このような下地膜は、Ta,Ru,Cu,Al,Au,Ag,Cr等の非磁性金属材料で、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。下地膜は、厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると入出射する光が吸収されて効率が低下する。
【0036】
磁性細線1は、厚さ(膜厚)70nm以下、幅300nm以下であれば、形成時(製造時)に、細線方向に磁区が分割され易いので、好ましい。また、前記した磁区の移動は磁性細線1に電流を細線方向に供給することでなされ、その移動速度は断面積あたりの電流密度に比例して速くなるため、磁性細線1の厚さおよび幅(断面積)が小さいほど、小さい電流で磁区を高速で移動させることができる(後記参照)。なお、後記の他の実施形態も含めて、磁性細線の厚さとは、後記する凹部1cのような変形箇所以外の、上下面が平坦な部分における厚さを指す。また、磁性細線は、厚さや幅が前記範囲よりも大きい場合、幅方向等にも磁区が分割されて複数生成する場合があるが、予め外部磁界を印加しておくことで、細線方向のみに磁区が分割された状態にすることができる。ただし、磁性細線1が薄いと入射した光が透過し易いため、反射型の空間光変調器10においては、磁性細線1は材料にもよるが厚さ30nm程度以上とすることが好ましい。あるいは、磁性細線1上に、光を透過するように厚さ300nm程度以下のSiO
2等の絶縁層を介して、Al,Ta,Ag等の非磁性金属からなる反射層を設けてもよい(図示せず)。この場合は、磁性細線1を透過した光がさらに絶縁層を透過して反射層で反射して、再び絶縁層および磁性細線1を透過して出射する。したがって、旋光角を大きくするために磁性細線1は光を透過させる範囲で厚いことが好ましい。一方、後記するように、磁性細線1を書込領域1wにおいてスピン注入磁化反転させるためには、厚さ5〜30nmとすることが好ましい。また、入射光(
図3に示すレーザー光)の波長にもよるが、磁性細線1,1のピッチ(画素ピッチ)は200nm程度以上とすることが好ましく、磁性細線1の幅は100nm程度以上とすることが好ましい。
【0037】
磁性細線1における1画素の細線方向(X方向)長さ(単位長さLb)は、磁性細線1,1のピッチと同様に入射光の波長によって設定され、200nm程度以上とすることが好ましい。一方、単位長さLbが長くなると磁区を移動させる距離が長くなって画素アレイの画像の表示に要する時間(応答時間)が長くなる。また、画素に到達する磁区は書込領域1wにて生成することから、単位長さLbは後記の書込領域1wの細線方向長さ以下となる。以上より、磁性細線1の細線方向長さは、画素の個数(本実施形態では8個)分すなわち画素領域1pxと、書込領域1wと、さらに両端の電極31,32の接続のための領域と、を少なくとも要する。
【0038】
図2および
図3に示すように、磁性細線1は、画素領域1pxにおいて、局所的に薄くなるように凹部1c,1c,…が上面に形成されている。このような局所的に断面積(細線方向に垂直な断面)が小さい箇所には磁壁が生成され易いため、磁性細線1は凹部1cを形成した箇所で区切るように磁区が生成した状態になり易い。また、磁性細線1への電流の供給を停止した時に磁壁が凹部1cに係止(トラップ)され易いため、パルス電流における停止時(ベース期間)に近傍に到達していた磁壁が凹部1cまで移動してから静止する。このように、磁性細線1の画素を区切る境界に凹部1cが形成されていることにより、書込領域1wで生成した磁区を各画素に正確に到達させ易くなる。
【0039】
磁性細線においては、断面積や形状が局所的に変化した箇所に磁壁が係止し易いので、溝状の凹部1cに限られず、例えば平面視で幅狭となるように側面を凹ませた括れが形成されていたりジグザグに屈曲させた形状にすることで、特定の箇所に磁壁を係止させることもできる。しかし、これらの形状は磁性細線の平面視における形状を変化させたものであり、画素(磁性細線1)が微細化されるにしたがい、露光によるレジストマスクへのパターン転写が困難になる。また、磁性細線の形状が複雑なため、ナノインプリント法で樹脂マスク(樹脂膜)を形成する場合に、金型の離型時に樹脂の一部が剥落する等の不具合を生じ易い。本発明においては、細線幅方向に延設された溝状の凹部1cとし、後記するように、磁性細線1の細線状とする加工とは別に、凹部1cのみをナノインプリント法を用いて加工を容易にする。また、磁性細線1は、基板2を透過した光を下面で反射するため、磁性細線1の下面を平坦にすることで、画素の境界近傍で光が拡散反射して出射光が減衰することがない。
【0040】
ここで、一般的に、磁壁の厚み(細線方向長さ)は、磁性細線の幅および厚さ、ならびに磁区の長さすなわち単位長さLbにもよるが、磁区に対して極めて短く(狭く)、5〜100nm程度である。このような磁壁を係止させるために、磁性細線1において変形している領域の細線方向長さ、ここでは凹部1cの溝幅(凹部1cの開口部における細線方向長さ)は、磁壁の厚み以上とし、10倍以下とすることが好ましい。また、凹部1cの溝幅が広過ぎると、磁壁の係止位置の誤差範囲が大きくなる。具体的には、凹部1cの細線方向長さは、10〜500nm程度の範囲で、100nm以下が好ましく、磁性細線1の幅の1/10〜2倍程度、かつ単位長さLbの1/2以下が好ましい。
【0041】
磁性細線1において、凹部1cのように変形させた箇所は、磁壁を好適に係止させるためには、その変化量を2%以上とすることが好ましい。具体的には、磁性細線1の厚さが50nmであれば、凹部1cの深さは1nm以上(最薄部の厚さが49nm以下)とすることが好ましい。一方、変化量が大き過ぎると、係止させた磁壁を再び移動させるために高い電流密度を要し、さらに本実施形態のように、凹部1cとして断面積が減少している場合、断面積が小さくなると、磁性細線1にパルス電流を供給する際の抵抗が増大するため、変化量を40%以下(断面積が凹部1c外の60%以上)にすることが好ましい。すなわち磁性細線1の厚さが50nmであれば、凹部1cの深さは20nm以下にすることが好ましい。また、凹部1cは、傾斜が緩やか過ぎると磁壁を係止する効果が小さく動作の安定性を欠き、反対に急峻過ぎると係止させた磁壁を再び移動させるために高い電流密度を要するため、磁壁移動が好適に行われるように設計する。凹部1cの形状は、磁壁を係止する効果を同等にするために、空間光変調器10においてすべてが略一致するように、高い寸法精度で形成されることが好ましい。細線方向に沿った断面(
図1のA−A線断面)視における凹部1cの形状は特に規定しないが、V字型、U字型、逆台形型等の、開口部が広がるように側面が傾斜した形状が、ナノインプリント法により形成し易いので好ましい。なお、磁壁の移動速度は細線方向に垂直な断面における電流密度に比例するが、凹部1cによる断面の狭い領域は磁性細線1全体に比して僅かであり、一定の電流を供給されているときの磁性細線1における磁壁の移動速度は一定であるとみなすことができる。
【0042】
空間光変調器10において、磁性細線1は、画素領域1pxの端部も含めたすべての画素同士の境界に凹部1cが形成され、すなわち画素数8+1の9箇所に形成されている。しかしこれに限られず、凹部1cは、2以上の画素毎に形成されたり、画素領域1pxの端部のみ等に形成されてもよい。また、画素領域1pxの外の、書込領域1wとの間にも凹部を形成して、例えば書込領域1wでの磁区の生成に伴って生成した磁壁が、単位長さLbの距離をシフト移動して到達する位置に安定して係止するようにしてもよい。ただし、いずれの場合も、空間光変調器10に備えられた8本の磁性細線1のすべてについて、凹部1cを細線方向における同じ位置に揃える。すなわち、
図1に示すように、空間光変調器10の全体において、Y方向(細線幅方向)に沿った直線上に各磁性細線1の凹部1cが設けられる。空間光変調器10は、このように磁性細線1に位置を揃えて凹部1cを設けることで、後記の製造方法にて説明するように製造し易くなる。
【0043】
書込領域1wは、磁性細線1をこの領域に限定して当該磁性細線1に設けた各画素と同じ磁化方向に変化させるために設定された細線方向に区切られた領域である。したがって、少なくともこの領域においては、磁性細線1を、上向きまたは下向きの所望の磁化方向に変化させる(適宜、書込をする、という)ことを可能にするため、書込方式に対応した構造とする。書込領域1wの細線方向長さは、単位長さLb以上であればよく、書込方式や加工精度等に対応したものとする。また、磁性細線1において、書込領域1wは、画素領域1pxの外であって磁区(および磁壁)の移動方向に対して後側に設けられ、したがって、
図1に示すように負電極32が接続された近傍に設けられることが好ましい。書込領域1wへの書込みは、前記した通り、例えば、磁気ヘッド(データ書込部50)を磁性細線1の書込領域1wに対向させて磁界印加することによりできる。あるいは、磁性細線1の書込領域1w部分に中間層を挟んで保磁力の大きい磁性膜を積層したスピン注入磁化反転素子としてもよい(図示省略)。この場合は、磁性細線1の書込領域1w(スピン注入磁化反転素子)に、走査電流源8(
図2参照)とは別の電源を接続して、上向きまたは下向きに電流を供給する。
【0044】
(保護膜)
保護膜4は、空間光変調器10において、その製造時におけるダメージから磁性細線1を保護するために、磁性細線1上に設けられている(
図5、
図6参照)。製造時におけるダメージとは、例えばレジスト形成時の現像液の含浸や、後記するようにナノインプリント法により設けられた樹脂膜の剥離等、また、特に磁性細線1が酸化し易いRE−TM合金で形成される場合には酸化防止が挙げられる。保護膜4は、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層構造とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護膜4の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、製造工程において磁性細線1を保護する効果がそれ以上には向上しない。したがって、保護膜4の厚さは1〜10nmとすることが好ましい。なお、この保護膜4の厚さは、空間光変調器10(完成後)におけるものである。保護膜4は、後記するように、空間光変調器10の製造時すなわち当該保護膜4を形成する材料の成膜時には、後続の工程の処理による減肉分を加味して厚さを設定したり、2回以上の成膜により形成してもよい。
【0045】
(基板)
基板2は、磁性細線1を形成するための空間光変調器10の土台であり、広義の基板である。また、本実施形態に係る空間光変調器10は基板2側から光を入出射するので、基板2は光を透過させる材料からなる。このような基板2として、公知の透明基板材料が適用でき、具体的には、SiO
2(酸化ケイ素、ガラス)、MgO(酸化マグネシウム)、サファイア、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)、SiC(シリコンカーバイド)、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を適用することができる。あるいは、空間光変調器10が上方から光を入射する構成である場合(図示省略)は、基板2は光を透過しなくてよいので、表面に熱酸化膜を形成されたSi(シリコン)基板等を適用することができる。また、基板2が、Si基板で表面に十分な厚さの酸化膜が形成されていない場合は、表面に絶縁膜を形成した上に磁性細線1を形成すればよい。すなわち基板2は、少なくとも表面(表層)が絶縁性であればよい。
【0046】
(絶縁層)
絶縁層6は、磁性細線1,1間、正電極31,31間および負電極32,32間に配され、さらに基板2と磁性細線1との間や磁性細線1の上に配されてもよい。絶縁層6は、例えばSiO
2,Si
3N
4,Al
2O
3等の公知の絶縁材料からなり、また空間光変調器10の全体で同じ材料を適用しなくてもよい。
【0047】
(電極)
正電極31および負電極32は、一対の電極として磁性細線1にその細線方向の一方向に電流を供給するための端子であり、
図1に示すように磁性細線1の両端に接続される。本実施形態では
図3に一部(正電極31)を示すように、電極31,32は共に磁性細線1の上面に接続されているが、磁性細線1における接続面はこれに限られず、例えば下面に接続されてもよい。また、
図1に示すように、本実施形態では、磁性細線1のそれぞれに電極31,32が一対ずつ接続されているが、例えば8本すべての磁性細線1を並列に接続するように、
図1におけるY方向に延設した電極31,32としてもよい(図示せず)。電極31,32は、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料からなり、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に成形される。また、電極31,32の厚さ、幅および細線方向長さは、磁性細線1,1のピッチ(画素ピッチ)、材料や供給する電圧・電流等に基づいて設定される。
【0048】
[第1実施形態に係る磁性細線搭載基板の製造方法]
本発明に係る磁性細線搭載基板の製造方法を、
図1〜3に示す空間光変調器の製造にて、
図4〜7を参照して説明する。磁性細線搭載基板(空間光変調器)10は、基板2上に磁性細線1を形成する磁性細線形成工程(磁性膜成膜工程S10、磁性細線加工工程S20、
図4参照、以下同)と、磁性細線1の上面に凹部1cを形成するマスク形成工程S31および磁性細線表面エッチング工程S32(表面加工工程S30)と、磁性細線1の両端部上面に接続する電極31,32を形成する電極形成工程S40を行って製造される。
【0049】
(磁性細線形成工程)
磁性細線1は、公知の方法で形成することができる。以下、一例を挙げて説明する。
図5(a)に示すように、基板2上に、磁性細線1を形成する材料(磁性膜)、保護膜4を形成する材料(図中、各層と同じ符号で示す。以下同。)を連続して成膜する(磁性膜成膜工程S10。以下、符号のみを示す。)。なお、下地膜を設ける場合は最初に成膜し、磁性細線1等を引き続いて成膜する。次に、
図5(b)、(c)に示すように、フォトリソグラフィ(レジスト塗布、露光、現像、ベーク)により、保護膜4上に、磁性細線1の領域を覆うレジストマスクを形成する(S21)。エッチングで、
図5(d)に示すように、保護膜4から磁性細線1までを除去して基板2を露出させる(S22)。次に、
図5(e)に示すように絶縁膜(絶縁層6)を保護膜4の上面の高さまで成膜して(S23)、レジストを絶縁膜ごと除去する(リフトオフ)(S24)。これにより、
図5(f)および
図7(a)に示すように、基板2上に8本の磁性細線1が形成され、磁性細線1,1間が絶縁層6で埋められ、磁性細線1(保護膜4)と絶縁層6の各上面が面一になる。なお、
図7においては、保護膜4を省略し、また絶縁層6の内部を透明で表す。
【0050】
(マスク形成工程)
図7(b)に示すように、磁性細線1および絶縁層6の上に、磁性細線1の細線方向と直交してY方向に延設された9本の溝部(凹溝)9cを有する樹脂膜9を、ナノインプリント法により形成する(S31)。まず、
図6(a)に示すように、磁性細線1および絶縁層6の上(上面全体)に、樹脂塗料を塗布して樹脂塗膜を形成する。樹脂の種類は、後記するように、硬化方法に応じた材料を選択する。次に、
図6(b)に示すように、樹脂塗膜に金型(モールド)MLを押し付けて、金型MLの底面(転写面)形状を樹脂塗膜表面に転写し、そのまま樹脂塗膜を硬化させて樹脂膜9を形成し、
図6(c)に示すように、金型MLを樹脂膜9から離型する(
図7(b)参照)。
【0051】
(磁性細線表面エッチング工程)
次に、樹脂膜9の上から、RIE法等のドライエッチングにより、異方性エッチングを行う(S32)。これにより、
図6(d)に示すように、樹脂膜9は全体が均一に減肉するので、溝部9cの部分から除去されて、その直下における保護膜4、さらに磁性細線1がエッチングされて薄肉化する。したがって、樹脂膜9の溝部9cの形状は、磁性細線1に形成する凹部1cの形状、および樹脂膜9と磁性細線1とのエッチングレートの違いに応じて設計される。具体的には、例えば樹脂膜9よりも磁性細線1のエッチングレートが遅い場合には、樹脂膜9の溝部9cを凹部1cよりも深く形成する。
【0052】
次に、
図6(e)に示すように、保護膜4上に残存する樹脂膜9を、O
2プラズマアッシングや酸性の剥離液等により除去する(S34)。あるいは、ドライエッチング(S32)に引き続いてガス種をO
2に切り換える等して、樹脂膜9を完全に除去してもよい。これにより、磁性細線1の上面に、細線方向と直交した、すなわち細線幅方向に延設された溝状の凹部1cが9つ形成される(
図7(c)参照)。なお、凹部1cにおいては保護膜4が除去されて磁性細線1が表面に露出した状態になるため、残存した樹脂膜9を除去する(S34)前に、絶縁膜を積層したり、
図6(f)に示すように保護膜4を追加して成膜することが好ましい。
【0053】
(電極形成工程)
正電極31および負電極32は、公知の方法で形成することができる。一例として、まず、磁性細線1および絶縁層6の上(全面)に、絶縁膜を積層し、磁性細線1の両端部上にフォトリソグラフィおよびエッチングで絶縁膜を除去して、磁性細線1(保護膜4)を露出させ、金属電極材料を成膜して、電極31,32とする。以上の手順により、磁性細線搭載基板(空間光変調器)10が完成する。なお、
図7(c)に示す空間光変調器10、ならびに
図10(c)および
図13に示す後記の第2実施形態における空間光変調器10Aは、電極31,32を省略する。
【0054】
ここで、マスク形成工程S31にて用いたナノインプリント法について、詳細に説明する。
樹脂の硬化は、加熱による熱式、または紫外線照射によるUV硬化式で行うことができ、それぞれの方式において一般的に用いられている樹脂を適用すればよい。熱式においては、ポリカーボネイト、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、またはエポキシ、シリコーン、ポリイミド等の熱硬化性樹脂が挙げられる。加熱により磁性細線1に影響を与えないように、熱可塑性樹脂においてはガラス転移点が、熱硬化性樹脂においては硬化温度が、十分に低い材料を選択する。具体的には、加熱温度が200℃以下の樹脂が好ましい。UV硬化式においては、ウレタン系、エポキシ系等の樹脂が挙げられる。熱式の方が樹脂の選択肢が多く、一方、UV硬化式の方が、熱による樹脂の体積変化がないので寸法精度のより高い加工に適している。
【0055】
金型MLは、本実施形態においては、樹脂膜9に
図7(b)に示すような9本の溝部9cを形成するために、この溝部9cの形状に対応した、Y方向(
図6における手前−奥方向)に延設された畝状の突起を、転写面(底面)に形成されている。金型MLは、転写時等に変形しないように十分な強度を有して微細加工の容易な材料を適用し、また熱式であれば耐熱性を有する金属等、UV硬化式であれば光(紫外線)を透過する石英等が適用される。金型MLは、電子線による直接描画等、公知の方法で加工される。
【0056】
ナノインプリント法によれば、金型の形状次第で、微細なだけでなく、段差が2以上ある等の複雑な形状に加工することができ、例えば凹部1c付きの磁性細線1を一体に形成し得る。しかし本発明に係る製造方法は、磁性細線1の細線形状への加工は別に行い(磁性細線加工工程S20)、ナノインプリント法は、磁性細線1の厚さ等に対して比較的浅い溝である凹部1cのみの形成に適用する。これにより、樹脂膜9には、凹部1cに対応した比較的小さい(浅い)1種類の形状の溝(溝部9c)のみが形成されればよい。さらに空間光変調器10は、8本すべての磁性細線1において凹部1cが細線幅方向(Y方向)に一直線上に設けられている(
図1参照)ので、樹脂膜9の、すべての磁性細線1にわたってY方向に延設した溝(
図7(b)の溝部9c)の1本で、8本すべての磁性細線1に、凹部1cを1つずつ形成することができる。すなわち、樹脂膜9は全体で、1本の磁性細線1に形成する凹部1cと同数の9本の溝が形成されればよい。樹脂膜9は、このような凹凸差が小さく簡素な形状なので、金型MLの転写面すなわち金型MLと樹脂膜9との接触面積が小さくてすみ、金型MLから忠実に転写されて溝部9cが高い寸法精度でかつ容易に形成される。
【0057】
このように、樹脂膜9には磁性細線1に凹部1cを形成するための溝部9cのみを形成することで、溝部9cが高い寸法精度で容易に形成され、これにより、微細な凹部1cを磁性細線1に形成することができる。さらに、
図6および
図7に示すように、最深部(底部)を狭くした断面視V字型の溝部9cとすることで、溝部9cよりも溝幅(細線方向長さ)の狭い凹部1cを形成することができる。なお、磁性細線加工工程S20においては、レジストマスクを用いたが、ナノインプリント法を適用してもよく、すなわち、凹部1c形成用の金型MLとは別に、磁性細線1の形状(凹部1cを除く)に合わせた金型を用いる。
【0058】
(変形例)
前記第1実施形態においては、磁性細線1は、基板2全面に成膜した磁性膜を加工して形成したが、これに限られない。例えば、はじめに基板2全面に絶縁膜を成膜し、その上に、磁性細線1の領域を空けたレジストマスクを形成して、絶縁膜をエッチングする。そして、磁性膜を成膜してレジストマスクを除去することにより、
図5(f)および
図7(a)に示す状態になる。また、基板2上に絶縁膜を成膜せずに前記のレジストマスクを形成し、基板2の表層をエッチングして、磁性細線1,1間の絶縁層6とすることもできる。
【0059】
また、前記第1実施形態においては、磁性膜を細線状に加工した磁性細線1に、凹部1cを形成したが、凹部1cの形成後に磁性膜を細線状に加工してもよい。すなわち、基板2上に磁性膜および保護膜4の材料を成膜し(S10)、その上に、第1実施形態と同様に、
図6(a)〜(c)に示すように樹脂膜9を形成し(S31)、
図6(d)に示すようにエッチングを行って(S32)、残存する樹脂膜9を除去する(S34)。これにより、磁性膜表面全体に、磁性細線1の細線方向と直交してY方向に延設された9本の溝が形成される(図示省略)。この磁性膜を、
図5(a)〜(f)に示すように細線状に加工すると、磁性細線1が形成され、磁性膜表面の溝が凹部1cとなる。すなわち、第1実施形態の磁性細線加工工程S20と、表面加工工程S30(マスク形成工程S31、磁性膜表面エッチング工程S32)との順序を入れ替えたものであり、これらの工程のそれぞれは第1実施形態と同様である。なお、本変形例においては、磁性膜を細線状に加工する前に、凹部1cにおいて保護膜4が除去されて磁性膜が表面に露出した状態になるため、
図6(f)に示すように保護膜4を追加して成膜することが好ましい。
【0060】
以上のように、第1実施形態およびその変形例に係る磁性細線搭載基板の製造方法によれば、上面に微細な凹部が形成された磁性細線を簡易な方法で基板上に形成することができる。また、得られた磁性細線搭載基板は、磁性細線に形成された凹部の位置および形状の寸法精度が高く均一であるので、空間光変調器として、生成した磁区を所望の画素まで正確にシフト移動させることができて動作が安定し、さらに、磁性細線の下面が平坦であるので、基板を透過させて光を入射することで、画素の境界近傍での拡散反射により出射光が減衰することがない。
【0061】
[第2実施形態に係る磁性細線搭載基板の製造方法]
図1〜3に示す空間光変調器は、前記の第1実施形態に係る磁性細線搭載基板の製造方法以外でも製造することもできる。以下、本発明の第2実施形態に係る磁性細線搭載基板の製造方法について、
図8〜10を参照して説明する。第1実施形態およびその変形例(
図4〜7参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。第2実施形態において、磁性細線搭載基板(空間光変調器)10A(
図10(c)参照)は、基板2Aの表面に溝部2cを形成するマスク形成工程S31および基板エッチング工程S32A(表面加工工程S30A)(
図8参照、以下同)と、基板2A上に磁性細線1Aを形成する磁性細線形成工程(磁性膜成膜工程S10、磁性細線加工工程S20)と、磁性細線1Aの両端部上面に接続する電極31,32を形成する電極形成工程S40を行って製造される。
【0062】
(マスク形成工程)
はじめに、
図10(a)に示すように、基板2Aの上に、Y方向に延設された9本の溝部9cを有する樹脂膜9を形成する。すなわち樹脂膜9は、
図7(b)に示す第1実施形態と同様の形状であり、第1実施形態と同様にナノインプリント法にて形成される。まず、第1実施形態と同様に、
図9(a)〜(c)に示すように樹脂膜9を形成する(S31)。なお、本実施形態においては、この時点で磁性膜(磁性細線1A)が形成されていないため、樹脂膜9の硬化条件は、基板2Aのみの耐熱性等を考慮したものであればよい。次に、樹脂膜9の上から異方性エッチングを行う(S32A)。これにより、
図9(d)に示すように、樹脂膜9が溝部9cの部分から除去されて、その直下における基板2Aがエッチングされて、表面に溝部2cが形成される。そして、残存する樹脂膜9を第1実施形態と同様に除去する(S34)と、
図9(e)および
図10(b)に示すように、表面にY方向に延設された9本の溝2cが形成された基板2Aとなる。
【0063】
(磁性細線形成工程)
基板2A上に、磁性細線1Aを形成する材料(磁性膜)、保護膜4を形成する材料を連続して成膜する(S10)。磁性膜は膜厚が均一であるので、
図9(f)に示すように、下地である基板2Aの表面形状に沿って、溝部2c上に波型の磁性細線1Aの変形部1fが形成される。次に、第1実施形態と同様に、
図5(b)〜(f)に示すように、磁性膜を細線状に加工して、溝部2cに直交してX方向に延設された磁性細線1Aとする(S21,S22,S23,S24)。これにより、
図10(c)に示すように、変形部1fが形成された8本の磁性細線1Aが基板2A上に形成され、磁性細線1A,1A間が絶縁層6(図示省略)で埋められる。
【0064】
本実施形態に係る製造方法で製造される磁性細線搭載基板10Aは、磁性細線1Aの形状が、凹部1cにより局所的に断面積が小さくなる磁性細線1とは異なるが、このように局所的に変形した変形部1fにおいても、磁壁が係止され易く、凹部1cと同様の効果が得られる。変形部1fの変化量や細線方向長さは、凹部1cと同様である。なお、変形部1fの変化量は、上面または下面のいずれかが磁性細線1Aの厚さの2%以上であればよく、一方、上下面の両面において40%以下とすることが好ましい。変形部1fにおける磁性細線1Aの上下面の各変化量は同等または上面の方が小さい傾向があり、また、下面の形状は基板2Aの表面の溝部2cの形状と一致するので、溝部2cの変化量(深さ)を、磁性細線1Aの厚さの2%以上40%以下とすればよい。
【0065】
ここで、磁性膜のエッチング(S22)においては、基板2Aの溝部2c内の磁性膜まで完全に除去して、磁性細線1A,1A間が短絡しないようにする。あるいは、磁性膜を成膜する(S10)前に、磁性細線1Aを形成する領域を空けたレジストマスクを基板2A上に形成して、その上に磁性膜を成膜して、リフトオフにより磁性細線1Aを形成してもよい(図示省略)。また、基板2Aのエッチング(S32A)において、基板2Aを溝部2c部分のみ除去したが、樹脂膜9を完全に除去して、さらに基板2Aの溝部2c以外の領域もエッチングしてもよい。基板2Aは、溝部2c以外の領域が平坦であればよい。また、基板2A表面に、溝2cではなく畝を形成してもよい。この場合は、樹脂膜9も溝に代えて畝状の突起を有する形状に形成すればよく、これにより、磁性細線1Aは変形部1fの凹凸が上下逆の形状になる(図示省略)。
【0066】
(変形例)
前記第2実施形態においては、樹脂膜9の上から全面をエッチングして、基板2Aの表面に8本の磁性細線1Aにわたって延設された9本の溝部2cを形成したが、これに限られない。以下、本発明の第2実施形態の変形例に係る磁性細線搭載基板の製造方法について、
図11〜13を参照して説明する。なお、
図12(a)〜(d)において、左側が
図1のA−A線矢視断面図に、右側が
図1のB−B線矢視断面図に、それぞれ相当する。第1、第2実施形態(
図4〜10参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0067】
はじめに、第2実施形態と同様に、
図10(a)に示すように9本の溝部9cを形成された樹脂膜9を基板2A上に形成する(S31、
図11参照、以下同)。次に、
図12(a)に示すように、樹脂膜9上に、磁性細線1Aの領域を空けたレジストマスクを形成し(S21A)、異方性エッチングを行って樹脂膜9を除去する(S32B)。これにより、樹脂膜9はレジストマスクのない領域のみが除去されて基板2Aが露出し、さらに基板2Aの露出した領域における表面に溝部2cが形成される(
図12(b)参照)。なお、樹脂膜9のエッチング(S32B)では、レジストマスクも同程度のエッチングレートでエッチングされるため、レジストマスクは樹脂膜9のエッチング量(厚さ)よりも十分に厚く形成して、エッチング後において樹脂膜9(絶縁層6A)上に残存するようにする。
【0068】
そして、
図12(c)に示すように磁性膜を成膜して(S10A)、レジストマスクを除去する(S24A)ことにより、樹脂膜9が除去された領域に埋め込まれるように、磁性細線1Aが形成される(
図12(d)、
図13参照)。
【0069】
本変形例に係る製造方法では、樹脂膜9の上にレジストマスクが形成され、さらに、製造された磁性細線搭載基板10Aは、樹脂膜9が磁性細線1A,1A間の絶縁層6Aとなる。したがって、樹脂膜9は、レジストマスク形成におけるレジストの溶媒や現像液等に対する耐性を有し、さらに耐熱性に優れた熱硬化性樹脂を適用することが好ましい。また、樹脂膜9の最薄部すなわち溝部9cにおける厚さは磁性細線1Aの厚さ以上とすることが好ましい。また、前記第2実施形態と同様に、基板2A表面に、溝ではなく畝を形成してもよい。
【0070】
また、樹脂膜9および基板2Aの溝部2cだけをエッチングする(S32B)のではなく、引き続き、基板2Aを、磁性細線1Aの厚さ以上の深さにエッチングしてもよい。これにより、基板2Aに、磁性細線1Aの形状の穴(凹み)が形成され、穴の底面に溝部2cが形成されたものとなる。そして、磁性膜を成膜して(S10A)、レジストマスクの除去(S24A)に加え、樹脂膜9も除去する。あるいは、レジストマスクの除去(S24A)後に磁性膜を成膜して(S10A)、樹脂膜9を除去してもよい。これにより、基板2Aの穴に埋め込まれるように磁性細線1Aが形成され、基板2Aの表層が磁性細線1A,1A間の絶縁層6となる(図示省略)。この場合は、基板2Aのエッチング後の段階で、非エッチング領域すなわち磁性細線1Aが形成されない領域に樹脂膜9が残存していればよく、レジストマスクがすべて除去されていてもよい。残存する樹脂膜9の除去により、磁性細線1Aのリフトオフが可能なためである。また、このように製造された磁性細線搭載基板10Aは、樹脂膜9が残存していないので、樹脂膜9はレジストのベーク温度等に対する耐熱性があればよい。
【0071】
以上のように、第2実施形態およびその変形例に係る磁性細線搭載基板の製造方法によれば、磁性細線や磁性膜ではなく基板上に樹脂膜を形成するので、磁性細線への影響を考慮せずに樹脂膜の材料等を選択することができ、第1実施形態と同様に磁壁を係止する効果を有する微細な変形部が形成された磁性細線を簡易な方法で基板上に形成することができる。また、得られた磁性細線搭載基板は、磁性細線に形成された変形部が、第1実施形態と同様に位置および形状の寸法精度が高く均一であるので、空間光変調器として、生成した磁区を所望の画素まで正確にシフト移動させることができて動作が安定し、さらに、変形部が磁性細線を直接にエッチングして形成されていないので、磁性細線へのダメージが少ない。また、磁性細線搭載基板は、磁性細線の上下面が共に変形しているが、磁性細線に対して十分に小さく形成することができるので、出射光に影響しないように画素の境界近傍での拡散反射を少なくすることができる。
【0072】
[第3実施形態に係る磁性細線搭載基板の製造方法]
図1〜3に示す空間光変調器(磁性細線搭載基板)10,10Aは、磁性細線1,1Aの形状を変形させて磁壁を係止させる構成としたが、磁気特性の局所的な変化によっても磁壁を係止する効果がある。磁性体は、イオンを注入されると飽和磁化が低くなることから、ナノインプリントにより形成した樹脂膜をマスクとすることで、微小な領域に精度よくイオンを注入することができる。以下、本発明の第3実施形態に係る磁性細線搭載基板の製造方法について、
図14,15を参照して説明する。第1、第2実施形態およびその変形例(
図4〜13参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0073】
第3実施形態において、磁性細線搭載基板(空間光変調器10)は、基板2上に磁性膜を成膜する磁性膜成膜工程S10(
図14参照、以下同)と、磁性膜に部分的に他の領域よりも飽和磁化の高い領域を形成するマスク形成工程S31およびイオン注入工程S33(高飽和磁化領域形成工程S30C)と、磁性膜を細線状に加工して磁性細線1Bを形成する磁性細線加工工程S20と、磁性細線1Bの両端部上面に接続する電極31,32を形成する電極形成工程S40を行って製造される。
【0074】
(磁性膜成膜工程、高飽和磁化領域形成工程)
はじめに、磁性細線1Bを形成する材料(磁性膜)、保護膜4を形成する材料を連続して成膜する(S10)。次に、
図15(a)に示すように、Y方向(
図15における手前−奥方向)に延設された畝状の突起(突畝、畝部9b)を9本有する樹脂膜9Aを、保護膜4上に形成する(S31)。すなわち、樹脂膜9Aは、第1、第2実施形態における樹脂膜9と凹凸が逆である。そして、
図15(b)に示すように樹脂膜9Aの上からイオンを照射し(S33)、
図15(c)に示すように樹脂膜9Aを除去する(S34)。
【0075】
(磁性細線加工工程)
磁性膜を、
図5(a)〜(f)に示すように細線状に加工して、樹脂膜9Aの畝部9bに直交してX方向に延設された磁性細線1Bとする。すなわち、第1実施形態の磁性細線加工工程S20と同様である。これにより、基板2の表面に上下面が平坦な磁性細線1Bが形成され、外観が
図7(a)に示す状態となる。
【0076】
樹脂膜9Aの上からイオンを照射することで、磁性膜の、樹脂膜9Aの薄肉部の直下の領域にはイオンが深く、多く注入され、一方、樹脂膜9Aの膜厚の厚い畝部9bの直下の領域には、イオンが樹脂膜9Aに遮られて注入されない、または少ない。磁性膜(磁性細線1B)に注入されたイオンの数が多いほど飽和磁化の低下量が大きいので、イオンを注入しないまたは少ない樹脂膜9Aの畝部9bの直下の領域の飽和磁化が相対的に高くなって、磁性細線1Bの高Ms領域(飽和磁化変異領域)1s(
図15(c)参照)となる。詳しくは、磁性細線1Bは、樹脂膜9Aの畝部9b直下の近傍で、飽和磁化が低〜高〜低という勾配を形成する。したがって、磁性細線1Bにおいて、飽和磁化が一様である他の領域に対して、飽和磁化が漸増する領域も含めて高Ms領域1sとする。高Ms領域1sの細線方向長さは、凹部1cや変形部1fと同様である。高Ms領域1sの飽和磁化は特に限定しないが、磁壁が好適に係止されるようにするために、最も高い部分で、高Ms領域1s外の領域に対して1.2〜10倍程度とすることが好ましい。イオンの照射は、例えば半導体装置の製造に適用されるイオン注入装置を使用することができる。また、イオン種や注入する条件によっても飽和磁化の変化(低下)量は変化する。イオン種としては、Ga,N,O,Ar,Kr,Xe等が挙げられる。
【0077】
(変形例)
前記第3実施形態においては、磁性膜にイオンを照射した(S33)後に細線状に加工したが、第1実施形態(
図4参照)と同様に、細線状に加工した磁性細線1B上に樹脂膜9Aを形成してイオンを照射してもよい。また、イオン照射(S33)前に、樹脂膜9Aを異方性エッチングして、薄肉部を除去して、樹脂膜9Aの畝部9bのみを残して磁性膜(保護膜4)を露出させから、イオンを照射してもよい。また、磁性細線1Bは、磁壁を係止させる箇所を相対的に飽和磁化の高い領域(高Ms領域1s)としたが、反対に飽和磁化の低い領域としても同様の効果が得られる。この場合は、溝部9cを有する樹脂膜9(
図7(b)参照)を形成して、磁性細線1B(磁性膜)の溝部9cの直下にイオンを多く注入すればよい。
【0078】
以上のように、第3実施形態およびその変形例に係る磁性細線搭載基板の製造方法によれば、第1、第2実施形態と同様に磁壁を係止する効果を有する微細な飽和磁化変異領域が形成された磁性細線を簡易な方法で基板上に形成することができる。また、得られた磁性細線搭載基板は、磁性細線に形成された飽和磁化変異領域が、第1、第2実施形態と同様に位置および形状(細線方向長さ)の寸法精度が高く均一で、かつ飽和磁化の高さも均一であるので、空間光変調器として、生成した磁区を所望の画素まで正確にシフト移動させることができて動作が安定する。さらに、磁性細線搭載基板は、磁壁を係止させるための部分(飽和磁化変異領域)が磁性細線をエッチングせずに形成されているので、磁性細線へのダメージが少なく、また、磁性細線の上下面が平坦であるので、上下いずれを光の入出射側としても、画素の境界近傍での拡散反射により出射光が減衰することがない。
【0079】
[磁性細線搭載基板の別の実施形態]
本発明に係る磁性細線搭載基板の製造方法にて製造される別の磁性細線搭載基板は、磁気記録媒体で、ここでは、円盤形状のいわゆる磁気ディスクである。
図16に示すように、磁気記録媒体10Bは、円盤形状の基板2B上に、基板2Bと同心円の円弧形状の磁性細線1Dをデータの記録(格納)領域として備える。なお、
図16(b)は、磁気記録媒体10Bの最外周における4本の磁性細線1Dの電極31,32近傍を示す。この磁性細線1Dには、2値のデータすなわち「0」または「1」のデータを当該磁性細線1Dの細線方向すなわち円周方向に連続して上向きまたは下向きの磁化として記録される。この磁性細線1Dの、1つのデータを記録された領域を1つのデータ領域と称し、その細線方向長さを単位長さ(ビット長Lb)とする。すなわち磁性細線1Dは、磁気記録媒体10Bのいわゆるトラックである。そして、磁性細線1Dにおいて、1つのデータ領域で、あるいは同値(「0」または「1」のいずれか)のデータを連続して記録された場合は当該連続したデータ領域で、それぞれ1つの磁区が生成する。
【0080】
磁気記録媒体(磁性細線搭載基板)10Bおよび磁性細線1Dは、その平面視形状以外は、前記実施形態の空間光変調器10および磁性細線1(
図1〜3参照)と同じ構成とすることができる。ただし、空間光変調器10の磁性細線1は、その大半の領域が書き込まれたデータに基づき光変調する、言い換えれば同時に読み出す画素領域1pxであるのに対し、磁気記録媒体10Bの磁性細線1Dは、その1本あたりで通常1データ(1ビット)ずつ読み出す(再生する)。したがって、磁性細線1Dは、磁性細線1の画素領域1pxに相当する読出領域1rは、1ビット分の長さLb(空間光変調器10における単位長さLb(
図1〜3参照)に相当する)に設けられる。そして、磁性細線1Dは、空間光変調器の画素を構成する磁性細線1等と同様に、その一端から他端へ細線方向に電流を供給されることで、当該磁性細線1Dにおいてすべての磁区すなわち磁性細線1Dに記録された一連のデータが順次移動する。したがって、外部、例えば磁気記録媒体10Bの記録再生装置(図示省略)に備えた電流源(
図2の走査電流源8に相当する)からパルス電流を磁性細線1Dに供給することで、磁気記録媒体10Bを回転駆動することなく、磁性細線1Dに格納されているすべてのデータが磁壁と共に断続的に移動して、磁性細線1Dにおける固定された位置に設けられた読出領域1rに順番に到達する。同様に、磁性細線1Dの書込領域1wで書き込まれたデータも順次移動して、当該磁性細線1Dに順番に格納される。
【0081】
磁気記録媒体10Bの書込方式は、公知の磁気記録媒体と同様に、記録再生装置に備えた磁気ヘッド(
図2のデータ書込部50に相当する)で、磁性細線1Dの書込領域1wに磁界を印加することにより書き込んでもよいし、空間光変調器10にて説明したように、書込領域1wをスピン注入磁化反転素子構造として、データの移動とは別に電流を供給してもよい。一方、読出方式も、公知の磁気記録媒体と同様に、GMR素子やTMR素子のような磁気抵抗効果素子からなる磁気ヘッドを磁性細線1Dの読出領域1rに対向させてその磁化を検出することができる。あるいは磁気記録媒体10Bを光磁気ディスクとして、空間光変調器10と同様に、磁性細線1Dの読出領域1rにレーザー光等を照射して、その反射光の偏光から磁化を検出してもよい。したがって、磁気記録媒体10Bの記録再生装置は、公知の磁気ディスク用のものと同様に、記録用の磁気ヘッド、再生用の磁気ヘッドまたはレーザー光源等を備えるが、磁気記録媒体10Bを回転駆動させないのでスピンドルモータ等は不要であり、その代わりに、前記したように、データの移動用のパルス電流を供給する電流源を備える。
【0082】
磁気記録媒体10Bは、外形にもよるが例えばφ120mmであれば、1本の磁性細線1D(1トラック)に格納されるデータ数が、一般的な空間光変調器の1行の画素数よりもはるかに多いため、1データ分のシフト移動において僅かな誤差があっても、移動ずれが蓄積されて大きくなる。したがって、磁性細線1Dは、空間光変調器10の磁性細線1等と同様に、磁壁を係止する凹部1c(または変形部1f、高Ms領域1s)が形成されている。磁性細線1Dは、平面視において磁気記録媒体10B(基板2B)の外形と同心円の円弧形状であるので、磁気記録媒体10Bの外形の径方向が細線幅方向になり、凹部1cはこの方向に延設された溝状に形成される。そして、磁気記録媒体10Bは、隣り合う2以上の磁性細線1Dのそれぞれの凹部1cの位置が径方向に沿った線状に並んでいる。
【0083】
ここで、磁性細線1Dのそれぞれは、磁気記録媒体10Bの外周側と内周側とで長さが異なる。したがって、すべての磁性細線1Dにおいて凹部1cを径方向に沿った同じ直線上に設けると、磁性細線1Dの1本あたりに格納可能なデータ数(ビット数)が同じとなり、外周側の磁性細線1Dほどビット長が長くなる。このような構成とした磁気記録媒体10Bは、磁壁移動の角速度を揃えるために、外周側の磁性細線1Dに高密度の電流を供給して磁壁移動の周速度を高速にする必要がある上、記録密度が低下する。したがって、磁気記録媒体10Bは、現行のHDDの磁気ディスク等と同様に、外周の磁性細線1Dのセクタ数を多くするZBR(Zone Bit Recording)方式を採用して、
図16(a)に示すように、外周側から内周側へ複数(
図16では5つ)のゾーンに区分けすることが好ましい。なお、
図16(a)において、径方向に沿った直線で放射状に区切られた領域はセクタを表し、外周側から内周側への各ゾーンによって、セクタ数が16〜9の異なる数に設定されている。
【0084】
磁気記録媒体10Bにおいて、1セクタにおけるビット(バイト)数は統一されているので、同一ゾーンの磁性細線1Dは、細線長さ(周の長さ)が完全に一致しないものの、
図16(b)に示すように、径に沿った共通の直線上に凹部1cを設けることができる。このような磁気記録媒体10Bにおいて、同一ゾーンの磁性細線1Dのそれぞれは、凹部1c,1c間距離すなわちビット長が互いに僅かに異なるものの、同じ大きさの電流を供給されて磁区がシフト移動した際に、凹部1cで磁壁を係止させることができる。また、
図17に示すように、磁気記録媒体10Bは、ゾーンの切替え部分を挟んで、隣り合う磁性細線1D,1Dのそれぞれの凹部1cの位置が、細線方向(周方向)にずれて設けられる。なお、
図17は、磁気記録媒体10Bのゾーンの切替え部分を拡大して示し、内周側の2本の磁性細線1Dと外周側の2本の磁性細線1Dとでゾーンが異なる。磁気記録媒体10Bは、このような構成とすることで、記録密度を確保しつつ、再生エラー等の誤動作がなく、また簡素な構造とすることができる。
【0085】
また、
図16(a)に示すように、磁気記録媒体10Bにおいて、すべての磁性細線1Dの読出領域1r、書込領域1w、および電極31,32の接続位置すなわち両端は、それぞれ1本の線に沿って設けることが好ましい。これにより、磁気記録媒体10Bの記録再生装置において、磁気ヘッド等を磁気記録媒体10Bの径方向のみに移動可能とすればよいので構造が複雑化しない。また、2以上の所定本数の隣り合う磁性細線1Dで、読出領域1rの位置が直線状に揃っていることで、これらの磁性細線1Dを同時再生(並列再生)することが可能となる(例えば、特許文献2参照)。
【0086】
磁気記録媒体10Bは、前記した通り、平面視形状以外は前記実施形態の空間光変調器10と同様の構造であるので、磁性細線1D、基板2B等の各要素は、空間光変調器10の磁性細線1、基板2等と材料や寸法を同じとすることができ、説明は省略する。なお、磁性細線1Dについては、磁気記録媒体10Bが磁気抵抗効果素子にて磁化を検出するのであれば、磁性細線1Dは、空間光変調器の磁性細線1において説明した磁気光学材料に限られず、強磁性材料を適用することができ、また、磁性細線1D,1Dのピッチ(トラックピッチ)およびビット長は磁気抵抗効果素子により検出可能なサイズに基づいて設計される。
【0087】
磁気記録媒体10Bは、空間光変調器10(10A)と同様に、第1〜第3実施形態およびその変形例に係る製造方法(
図4〜15参照)で製造することができるので、説明は省略する。ここで、マスク形成工程S31(
図4、
図8、
図11、
図14参照)において、樹脂膜9の溝部9c(または、樹脂膜9Aの畝部9b)は、磁性細線1Dの細線幅方向である磁気記録媒体10B(基板2B)の径に沿って放射状に設けられ、また、ゾーン(
図16(a)参照)毎に分割して設けられる。したがって、
図17に示す磁気記録媒体10Bに対応して、ゾーンの切替え部分で樹脂膜9の溝部9cが途切れるように設けられる。なお、
図17に示す磁気記録媒体10Bは、第1実施形態で製造された磁性細線搭載基板10(
図7(c)参照)に相当する。
【0088】
このように、円盤形状の磁気記録媒体10Bの製造においては、磁性細線1が直線状に形成された空間光変調器10(
図1参照)と異なり、樹脂膜9の溝部9cがすべての磁性細線1Dにわたっては延設されないが、同じゾーンにおける隣り合う2本以上の磁性細線1Dで同じ溝部9cにより凹部1cを形成することができる。したがって、空間光変調器10の製造と同様に、樹脂膜9が、凹凸差が小さく十分に簡素な形状なので、金型MLから忠実に転写されて溝部9cが高い寸法精度でかつ容易に形成され、このような樹脂膜9により、微細な凹部1cを磁性細線1Dに形成することができる。そして、得られた磁気記録媒体10Bは、磁性細線1Dをトラックとして、磁区として書込みをしたデータを正確にシフト移動させることができる。
【0089】
以上、本発明に係る磁性細線搭載基板の製造方法を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。