(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1半導体層と、発光層と、第2半導体層とがこの順で積層され、前記第1半導体層と接続する第1電極と、前記第2半導体層と接続する第2電極と、を備えた発光構造部を有する発光素子であって、
前記第2半導体層の一部又は前記第2半導体層の上面に、前記発光層から出射した光の方向を特定するための構造物を有する出射方向特定部を備え、
前記第1電極は、前記構造物の直下であって、前記第1半導体層の下面の一部と接触するように設けられ、
前記第2半導体層のキャリア移動度が前記第1半導体層のキャリア移動度よりも大きく、かつ前記発光層において前記第1半導体層を移動するキャリアと、前記第2半導体層を移動するキャリアとが再結合して発光する際に、当該再結合に要する時間である再結合時間が、当該再結合によって消滅したキャリアの補充に要する時間である緩和時間より短く、
前記構造物が、柱頭の出射面から光を出射するN本(Nは3以上の整数)の柱状部からなり、
前記N本の柱状部は、平面視で前記発光層から放射される光が干渉可能な範囲内に環状に配置され、前記N本の柱状部の内、少なくとも1本の柱の高さが他の柱の高さと異なり、前記柱状部の高さの差が、前記柱状部の内部における前記発光層が出射する光の波長の半分以下であることを特徴とする発光素子。
第1半導体層と、発光層と、第2半導体層とがこの順で積層され、前記第1半導体層と接続する第1電極と、前記第2半導体層と接続する第2電極と、を備えた発光構造部を有する発光素子であって、
前記第2半導体層の一部又は前記第2半導体層の上面に、前記発光層から出射した光の方向を特定するための構造物を有する出射方向特定部を備え、
前記第1電極は、前記構造物の直下であって、前記第1半導体層の下面の一部と接触するように設けられ、
前記第2半導体層のキャリア移動度が前記第1半導体層のキャリア移動度よりも大きく、かつ前記発光層において前記第1半導体層を移動するキャリアと、前記第2半導体層を移動するキャリアとが再結合して発光する際に、当該再結合に要する時間である再結合時間が、当該再結合によって消滅したキャリアの補充に要する時間である緩和時間より短く、
前記構造物が、上面から柱状に凹んだN本(Nは3以上の整数)の柱状凹部からなり、
前記N本の柱状凹部は、平面視で前記発光層から放射される光が干渉可能な範囲内に環状に設けられ、前記N本の柱状凹部の内、少なくとも1本の柱状凹部の深さが他の柱状凹部の深さと異なり、前記柱状凹部の深さの差が、前記柱状凹部の内部における前記発光層が出射する光の波長の半分以下であることを特徴とする発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の発光素子を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面に示される部材等のサイズや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0031】
<第1実施形態>
[発光素子の構造の概要]
まず、第1実施形態に係る発光素子1の構造について、
図1及び
図2を参照して説明する。本実施形態に係る発光素子1は、指向性の高い光を発光する素子であって、特定の方向に光線を射出する光線指向型の発光素子である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る発光素子1は、光を発する発光構造部2と、発光構造部2から放射された光を特定の方向に出射させる出射方向特定部3と、を積層して構成されている。
【0032】
発光構造部2は、p型半導体層(第1半導体層)21と、発光層22と、n型半導体層(第2半導体層)23と、がこの順で積層され、p型半導体層21と電気的に接続するp側電極(第1電極)24と、n型半導体層23と電気的に接続するn側電極(第2電極)25とを備えて構成されている。発光構造部2は、陽極であるp側電極24と陰極であるn側電極25の間に所定のレベルの電圧パルスを印加することで、p型半導体層21に正孔が注入され、n型半導体層23に電子が注入され、発光層22で正孔と電子とが再結合して発光するLED素子である。p側電極24は、p型半導体層21の下面側の一部である中央部と接触するように設けられ、p型半導体層21との接触面が円形状となるように設けられている。また、n側電極25は、n型半導体層23の側面の一部と接触するように設けられている。
【0033】
本実施形態においては、n型半導体層23におけるキャリアである電子の移動度(キャリア移動度)は、p型半導体層21におけるキャリアである正孔の移動度(キャリア移動度)よりも大きく、また発光層22におけるキャリアの再結合時間が、キャリアの拡散時間に比べて短い半導体材料を用いて構成されている。このため、発光層22において、p側電極24とp型半導体層21との接触面の直上であって、当該接触面と略同じ平面形状の発光領域22aでキャリアの再結合が頻繁に生じて光を発光する。
なお、キャリア移動度と再結合時間と発光領域との関係の詳細については後記する。
【0034】
p型半導体層(第1半導体層)21は、p側電極24から注入されるキャリアである正孔を輸送する輸送層であり、下面の中央部に平面視で円形状に接触するp側電極24が設けられている。
n型半導体層(第2半導体層)23は、n側電極25から注入されるキャリアである電子を輸送する輸送層であり、側面の一部に接触するn側電極25が設けられている。また、n型半導体層23の上面には、出射方向特定部3が設けられており、発光層22の発光領域22aで発光した光を出射方向特定部3に導光する。n型半導体層23におけるキャリア移動度は、p型半導体層21におけるキャリア移動度よりも大きくなるように半導体材料が選択されている。
p型半導体層21及びn型半導体層23は、それぞれ単層構成とすることができるが、多層構造とすることもできる。
【0035】
発光層22は、p型半導体層21とn型半導体層23との界面に設けられ、p型半導体層21を介して輸送されるキャリアである正孔と、n型半導体層23を介して輸送されるキャリアである電子とが再結合して発光する層である。発光層22は、p型半導体層21及びn型半導体層23におけるキャリア移動度と再結合時間との関係により、p側電極24とp型半導体層21との接触面の直上領域及びその近傍である発光領域22aが発光し、他の領域は発光しないように構成されている。
【0036】
p型半導体層21、発光層22及びn型半導体層23からなる半導体層としては、GaN系やGaAs系などの化合物半導体、シリコン系の半導体などを用いることができる。また、発光領域22aをp側電極24とp型半導体層21との接触面の直上領域に一致させるためには、p型半導体層21及びn型半導体層23におけるキャリア移動の差が大きいほど好ましく、かつキャリアの再結合時間がキャリア移動度で定められるキャリアの拡散時間に比べて十分に小さいことが好ましい。このような半導体材料として、GaN系の化合物半導体を好適に用いることができる。
また、発光層22は、多層構成の量子井戸層を形成するようにしてもよい。
【0037】
なお、本実施形態において、発光構造部2は、p型半導体層21が下層となるように構成したが、n型半導体層23におけるキャリア移動度よりも大きなキャリア移動度を有するp型半導体層21を用いる場合は、n型半導体層23が下層となるように構成することができる。
【0038】
発光領域22aは、発光層22の、p側電極24とp型半導体層21との接触面の直上領域及びその近傍に位置する領域である。前記したように、発光領域22aは、p型半導体層21及びn型半導体層23におけるキャリア移動度と再結合時間との関係により、発光層22において選択的に発光する領域である。
【0039】
p側電極(第1電極)24は、構造物3aの直下であって、p型半導体層21の下面に設けられ、p型半導体層21にキャリアを注入するための正電極である。p側電極24は、円柱形状をしており、その円形の上面がp型半導体層21の下面の一部と接触するように設けられている。p側電極24は、金属又はITO(インジウム・スズ酸化物)などの導電性化合物で構成される。また、p側電極24は、複数種類の導電材料を積層した多層構造としてもよい。
なお、p側電極24の形状は円柱状に限定されず、角柱状、針状、球状、半球状など、任意の形状とすることができる。また、p型半導体層21との接触面の形状は、円形状に限定されず、楕円形や多角形とすることもでき、接触面の形状及び大きさは、構造物3aの構造に応じて定めることができる。
また、p側電極24は、p型半導体層21を支持するための絶縁材料によって、p型半導体層21との接触面及び電源又は信号を入力するための配線との接続部以外を囲まれるようにしてもよい。
【0040】
n側電極(第2電極)25は、n型半導体層23の側面の一部に設けられ、n型半導体層23にキャリアを注入するための負電極である。n側電極25は、n型半導体層23の一部と接触するように設けられればよく、側面の一部に限定されず、側面の上部を囲むように設けたり、平面視で構造物3aが設けられた領域を除く上面の外縁部に設けたりしてもよい。何れにしても、n型半導体層23の上面に構造物3aを設ける上で、障害とならない箇所に設けることが好ましい。n側電極25は、前記したp側電極と同様に、金属や導電性化合物を用いて構成することができる。
【0041】
出射方向特定部3は、発光構造部2の上面側に設けられ、発光構造部2の発光層22が発光する光を、光の干渉作用を利用して発光素子1から出射する光の方向を特定する構造物3aを有している。本実施形態では、出射方向特定部3は、底部30の上面30aに構造物3aを有している。
底部30の上面30aは、構造物3aが設けられた領域以外は平坦面であり、所定領域を取り囲むように、3つ以上の柱(柱状部)を有し、少なくとも一つの柱状部の底部30の上面30aからの高さ(以下、単に「柱状部の高さ」という)が、他の柱状部の高さと異なり、これらすべての柱状部の上面から光を射出する。そして、これらの柱状部の上面から出射する光同士の干渉を利用して、特定の方向に強度を有するようにするものである。
【0042】
構造物3aは、発光構造部2の発光層22が発光する光を、光の干渉作用を利用して発光素子1から出射する光の方向を特定するものである。本実施形態においては、構造物3aは、横断面が円形状の3つの柱状部31,32,33から構成されている。なお、本実施形態においては、柱状部33が柱状部31,32よりも低いものとして説明する。
【0043】
底部30は、出射方向特定部3の土台となる部分であり、発光構造部2の上面に接している。底部30の上面30aは、構造物3aが設けられた領域を除いて平坦面であり、構造物3aとして、3つの柱状部31,32,33が設けられている。
柱状部31,32,33は、底部30を介して、発光構造部2から入射される光を伝搬させ、それぞれの上面31a,32a,33aから出射する導光部材である。柱状部31,32,33は、底部30の上面において、柱状部33の底部30の上面からの高さは、柱状部31,32の底部30の上面からの高さより低くなるように形成されている。柱状部31,32,33の上面31a,32a,33aから出射された光は干渉し合い、柱状部31,32,33の配置に応じた方向(底部30の上面30aに平行な平面内の方位、及びその平面に対する仰角)に強度を有する光線が出射方向特定部3から出射される。
なお、出射方向特定部3により光の出射方向を特定する原理の詳細については、後記する。
【0044】
出射方向特定部3は、入射される光に対して透光性を有する材料で構成することができる。例えば、SiO
2やAl
2O
3などの誘電体材料を用いることができる。また、n型半導体層23と同様の半導体材料を用いて構成することもできる。
また、本実施形態における出射方向特定部3は、底部30を介して柱状部31,32,33を設けるように構成したが、これに限定されるものではない。例えば、底部30を設けずに、構造物3aである柱状部31,32,33を、直接に発光構造部2の上面に設けるようにしてもよい。また、発光構造部2の上面に出射方向特定部3を設けるのではなく、発光構造部2の上部であるn型半導体層23の一部(例えば、n型バッファ層)を加工して、柱状部31,32,33を形成するようにしてもよい。
また、柱状部31,32,33は、円柱形状に限定されるものではなく、多角柱であってもよい。また、柱状部の数は、3本以上であればよく、例えば、6本とすることもできる。
【0045】
[キャリア移動度と再結合時間と発光領域との関係]
次に、
図3から
図5を参照して、p型半導体層21及びn型半導体層23におけるキャリア移動度とキャリアの再結合時間と発光領域22aとの関係について説明する。なお、ここでは、p型半導体層21におけるキャリアを正孔とし、n型半導体層23におけるキャリアを電子とし、電子の移動度は、正孔の移動度よりも大きいものとして説明する。
図3の左側に示すように、p側電極24とn側電極25との間に電圧を印加すると、発光構造部2において、模式的に電気力線(破線)で示したように電界が形成される。
p型半導体層21におけるキャリアである正孔及びn型半導体層23におけるキャリアである電子は、この電界を打ち消すように移動する。その結果、
図3の右側に模式的に示したように、キャリア濃度分布が形成される。
なお、
図3の右側に示したキャリア濃度分布の図は、左側に示した発光構造部2における二点鎖線に沿った横断面を斜め上方から観察した様子を示したものであり、濃く示した領域ほどキャリア濃度が高いことを示している。
また、
図3においては、p型半導体層21とn型半導体層23との接合部である発光層22の近傍を拡大して示しており、アスペクトなどは、
図1及び
図2に示した発光構造部2と正確に対応しているものではない。後記する
図4、
図5についても同様である。
【0046】
図3に示したキャリア濃度分布のように分布した電子と正孔とは、ある確率に基づいて再結合し、光を発して消滅する。このため、再結合に伴って電界(すなわち、電荷分布)は変動する。そして、電子と正孔とは、電荷が失われた領域における濃度勾配を解消するように移動する。このとき、再結合に要する時間(以下、再結合時間という)が、電子と正孔とが濃度勾配を解消するべく移動に要する時間(以下、緩和時間という)に比べて十分に速い(短い)場合は、電界は、
図3に示した定常的な状態には戻らない。これは、再結合時間が、キャリアの輸送層であるp型半導体層21及びn型半導体層23における緩和時間よりも短い場合は、電子と正孔とは、対になる条件が揃った時点で直ぐに再結合して消滅するためである。
なお、再結合時間が緩和時間に比べて十分に短いかどうかについては、キャリアが電極のサイズと同程度の領域に広がるのに要する時間である拡散時間を用いた評価の説明において後述する。
【0047】
図4を参照して、n型半導体層23におけるキャリア移動度がp型半導体層21におけるキャリア移動度よりも大きく、再結合時間が緩和時間に比べて十分に小さい場合の発光領域22aについて説明する。
再結合が起こらないことを仮定した初期状態では、
図4(a)に示すように、キャリア濃度分布は、電界分布に依存した分布となる。このとき、発光層22において再結合が発生する頻度は、電界の勾配が大きな領域L、すなわち、p型半導体層21内の正孔濃度の高い領域の点P1とn型半導体層23内の対応する点Q1間、ないしn型半導体層23内の電子濃度の高い領域の点Q2とp型半導体層21内の対応する点P2間で高くなる。
【0048】
再結合が発生してキャリアが消滅すると、一時的にp型半導体層21及びn型半導体層23において、発光層22の近傍のキャリア濃度が低下する。ここで、移動度の大きい(移動の速い)キャリアである電子は、移動度の小さい(移動の遅い)キャリアである正孔が発光層22に到達するまでの間に、濃度勾配を緩和するべく対応する半導体層内に偏在する。すなわち、
図4(b)に示すように、電子の高濃度領域の点Q2のみならず、電子の低濃度領域の点Q1においても、電子が速やかに補充される。
【0049】
一方、キャリア移動度の小さな正孔は、
図4(b)に示すように、正孔濃度の高濃度領域の点P1に対しては比較的速く補充されるが、正孔の低濃度領域の点P2に対しては補充に時間がかかる。従って、再結合の発生が連続すると、正孔の低濃度領域においては、キャリア(正孔)不足の状態となる。このため、再結合の発生する頻度は、正孔の高濃度領域L1で高く、正孔の低濃度領域L2では低くなる。
従って、
図4(c)に示すように、電界強度が高いために高い正孔濃度が維持される発光層22のp側電極24の直上近傍の発光領域22aで、選択的に再結合が発生する。
この傾向はp型半導体層21とn型半導体層23とにおけるキャリア移動度の差が大きいほど顕著となるので、その差を充分に大きくとれば、n側電極25の配置に関わらず、p側電極24の形状とサイズとに応じた局在発光が得られるようになる。すなわち、発光層22のp側電極24の直上領域を、局所的に光を発する発光領域22aとすることができる。
【0050】
次に、
図5を参照して、再結合時間が緩和時間に比べて十分には短くない場合、又はp型半導体層21及びn型半導体層23におけるキャリア移動度の差が十分には大きくない場合の発光領域22aついて説明する。
再結合時間が長い場合に起こる現象と、キャリアの移動度の差が小さい場合に起こる現象とは見かけ上は同様であり、右側の図に示すように、p型半導体層21のキャリア(正孔)の高濃度領域と、n型半導体層23のキャリア(電子)の高濃度領域とを結んだ領域に広がった領域Lで発光が得られる。すなわち、発光構造部2においては、左側の図に示すように、p側電極24の直上領域に対して、n側電極25寄りの領域が発光領域22aとなる。
【0051】
再結合時間が長い場合には、キャリア濃度は常に
図3に示したような分布を取ることが可能である。このため、双方の高濃度領域が等しく発光領域の拡大に影響する。
一方、キャリア移動度の差が小さい場合には、電界分布が
図3に示した分布に近いものとなる。このため、キャリアの移動は電気力線に沿ったものとなり、発光は電気力線の密なる部分に広がって得られる。
【0052】
これらの条件では発光領域22aは、電極に印加される電圧により形成される電界の強度に依存するため、発光が局在化される効果が低下する。すなわち、これらの条件では、発光領域22aの場所は、p側電極24及びn側電極25の両方の電極の配置に依存することとなる。
従って、このような場合においては、n側電極25がn型半導体層23の表面を均一に覆うように配置したり、n側電極25がn型半導体層23の表面の少なくともp側電極24の上方領域を取り囲むように、p側電極24の上方領域以外を覆うように配置したりすることで、n型半導体層23におけるキャリア濃度分布が一様ないし略一様にすることができる。そして、これによって、p側電極24の形状及び配置に応じた局所的な発光を得ることが可能である。特に、n側電極25を、p側電極24が配置された領域の中心軸に対して、対称になるように配置することが好ましい。これによって、n型半導体層23における電子の濃度分布が、p側電極24が配置された領域の中心軸に対して対象となるため、発光領域22aとp側電極24が配置された領域の中心軸とが一致する。すなわち、p側電極が配置された領域の直上領域を発光領域22aとすることができる。
【0053】
[発光領域の設定の具体例]
次に、本実施形態に構成とその効果について適宜
図1及び
図2を参照して、具体的な数値を用いて説明する。
ここでは、発光素子1において、p型及びn型のGaN系の化合物半導体をp型半導体層21及びn型半導体層23として用いた場合について説明する。
【0054】
まず、緩和時間であるキャリアの拡散時間を、拡散方程式の一般解を用いて見積もる。
ここで、拡散方程式について簡単に説明する。
粒子の密度をn、その拡散係数をDとしたときに、拡散方程式は式(1)のように表される。
∂n/∂t = D∇
2n …式(1)
ここで、tは時刻を示す。
この拡散方程式の解は、時刻t=0、位置rにおける粒子の密度をn=Nδ(r)とすると、式(2)のようになる。
n(r,t) = N/(4πDt)
3/2exp[−r
2/2Dt] …式(2)
【0055】
このとき、位置rの分散<r
2>の時間微分は、式(3)のように表される。
d<r
2>/dt=1/N・∫∫∫r
2n(r)dV=6D …式(3)
ここで、∫∫∫dVは、粒子nが存在しうる3次元空間の全領域についての積分を示す。
式(3)より、拡散過程では、
<r
2>=6Dt …式(4)
となる。
【0056】
また、拡散係数とキャリア移動度とは、式(5)に示すアインシュタインの関係式の関係がある。
D = (kT/q)・μ …式(5)
ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、μはキャリアである粒子の移動度を示す。
【0057】
ここで、GaNのn型半導体におけるキャリア(電子)の移動度は1200[cm
2/Vs]、p型半導体におけるキャリア(正孔)の移動度は10[cm
2/Vs]以下とされている(参考文献1参照)。
式(5)より、室温(T=300[K])において、GaN系半導体における電子の移動度として1200[cm
2/Vs]を代入すると、電子の拡散係数Deは、3.1×10
−3[m
2/s]となる。また、GaN系半導体における正孔の移動度として10[cm
2/Vs]を代入すると、正孔の拡散係数Dhは、2.6×10
−5[m
2/s]となる。
(参考文献1):「GaNパワーデバイス」、引田正洋ほか、Panasonic Technical Journal, Vol.55, No.2 (2009)
【0058】
従って、電極の直径を100[μm]としたとき、電極の直径の10%である10[μm]の範囲にキャリアが拡散する時間は、前記した拡散係数を用いて、式(4)により見積もることができる。n型半導体層23におけるキャリアの拡散時間である電子の拡散時間は、約5[ns]となり、p型半導体層21におけるキャリアの拡散時間である正孔の拡散時間は、約600[ns]となる。すなわち、キャリアの拡散時間に顕著な差がある場合に相当する。
【0059】
一方、GaN系半導体における再結合寿命は、300[K]において、100〜300[ps]程度であるから(例えば、参考文献2参照)、何れのキャリアの拡散時間よりも再結合時間が十分に短い場合に相当する。前記したように、p型半導体層(第1輸送層)21とn型半導体層(第2輸送層)23とにおけるキャリア移動度が2桁以上の差があることから、p側電極24のサイズが、所望の発光領域22aのサイズに相当すれば、n側電極25は、如何なる形状であってもよく、n型半導体層23の如何なる場所と接触するように配置してもよい。
(参考文献2):S. F. Chichibu et al., Appl. Phys. Lett. 86, 021914 (2005)
【0060】
なお、p型半導体とn型半導体におけるキャリア移動度の差が大きい他の半導体としては、例えば、Si系半導体(電子移動度=1500[cm
2/Vs]、正孔移動度=600[cm
2/Vs])、GaAs系半導体(電子移動度=8500[cm
2/Vs]、正孔移動度=400[cm
2/Vs])を挙げることができる(参考文献1参照)。
【0061】
次に、
図6を参照して、所望の発光領域22aの直径(用途によっては画素サイズ)を100μmとした場合の、p側電極24の許容し得る最大の直径の求め方について説明する。なお、平面視における発光領域22aの形状及びp側電極24の形状は円として説明するが、四角や楕円など、他の形状であっても同様にして求めることができる。
【0062】
図6に示すように、平面視におけるp側電極24の直径をLe、発光領域22aの直径をLp、発光構造部2の上面から出射する出射光の直径をLsとする。
前記したように、半導体としてGaNを用いた場合は、キャリア移動度と再結合時間との関係から、p側電極24の直径Leと、発光領域22aの直径Lpとは、略同じとなる(Lp≒Le)。発光領域22aから放射された光は、n型半導体層23を伝搬する際に広がりを生じるが、n型半導体層23から外部に放射される際に、n型半導体層23の屈折率(誘電率)と外部の屈折率とで決まる臨界角θcによる制限を受けるため、外部に取り出される光の直径も制限される。すなわち、臨界角θcよりも大きな入射角でn型半導体層23と外部との界面に入射する光は、界面で全反射するため外部には取り出されない。この臨界角θcとなるときの発光領域22aの直上領域からの広がりをwとする。また、n型半導体層23の厚さをdとする。
このとき、これらのパラメータの間には、式(6)の関係がある。
Ls=Lp+2w
=Lp+2d・tanθc …式(6)
【0063】
ここで、例えば、d=5μm、θc=19°とすると、外部に取り出される光の直径Lsは、Le+3.4μmとなる。従って、外部に取り出される光の直径Lsを100μmとするために、p側電極24の直径が93μmとすることが求められる。
【0064】
次に、
図7及び
図8を参照して、出射方向特定部3の構造物3aを構成する3つの柱状部31,32,33及び発光領域22aの形状と配置とについて説明する。
【0065】
(柱状部の間隔)
柱状部31,32,33は、発光素子1の発光領域22aから放出される光の波長λ
0程度以上の径を有する。ここで、波長λ
0は、自由空間における放射光の波長を示す。
図7及び
図8では柱状部31,32,33の平面視での形状を円形で示した。各柱状部31,32,33の太さは等しいものとした(半径をφとする)。柱状部31,32,33は、
図7に示すように、発光素子1の光の出射面において、所定の原点Mの周囲に均等な角度α(この例では、α=120度)の方位に、互いに間隔pだけ離間して配置されている。また、柱状部31,32,33の間隔pは、隣り合った柱状部31,32,33から出射される光が干渉可能な程度に設定されている。すなわち、柱状部31,32,33は、出射光の可干渉長以下であることが好ましい。なお、光の可干渉長は、光源である発光構造部2(
図1参照)が放射する光の発光スペクトルの中心波長と半値幅とに依存する。光源がLEDの場合は、例えば真空中において10〜数十μm程度の長さとなる。
【0066】
(複数の柱状部の配置の原点M)
図7に示した例では、所定の原点Mとは、素子上面において3つの柱状部31,32,33により環状に取り囲まれた所定領域の中央に位置する点である。また、この原点は、柱状部33の中心O
3と、柱状部32の中心O
2と、柱状部31の中心O
1とから等距離にある点であり、中心O
1,O
2,O
3を頂点とする正三角形の重心のことである。ここで、3つの柱状部31,32,33は、円環状かつ均等に配置されることが好ましい。なお、柱状部31,32,33により取り囲まれた所定領域の形状やサイズは、柱状部31,32,33の直径とバランスを取りながら所望のものとして適宜設計できる。例えば柱状部31,32,33の直径が、発光波長λ
0の数波長程度分であれば、所定領域のサイズは、数分の1波長〜数波長程度とすることができる。
【0067】
また、原点Mと柱状部31,32,33の中心O
1,O
2,O
3とをそれぞれ結んだ線上にある、原点Mから柱状部31,32,33までの距離ρは、自由空間における放射光の波長λ
0以下、例えば、1/4〜1波長程度であることが好ましい。特に距離ρを、柱状部31,32,33の直径2φの1/4程度となるように設定すると、柱状部31,32,33の出射面である上面31a,32a,33a(
図9参照)から出射する光を互いに干渉させて良好に成形し、十分な強度の光線を出射することができるため好ましい。
【0068】
図9に示すように、柱状部31,32,33の内で、2つの柱状部31,32の、基準面である底部30の上面30aからの高さを、それぞれ基準となる高さHとする。そして、柱状部33の高さと他の柱状部31,32の高さとの差をδとするすると、柱状部33の高さは(H−δ)となる。本実施形態においては、光の干渉によって指向性の良好な光線に成形するためには、高さの差δは、柱状部31,32,33中における放射光の波長λ
1以下とすることが好ましく、波長λ
1の半分以下とすることがより好ましいことが、実験の結果として得られている。
【0069】
ここで、波長λ
1は、自由空間において波長λ
0の光が、柱状部31,32,33を光導波路として伝搬するときの波長である。一般に、半導体や誘電体などの誘電率は空気中(又は真空中)の誘電率よりも高いため、半導体や誘電体中を伝搬する際の光の速度は、空気中を伝搬する速度に比べて遅くなる。具体的には、空気中(又は真空中)の光の速度をc、柱状部31,32,33を構成する半導体や誘電体などの材料の屈折率をnとすると、柱状部31,32,33中を伝搬する光の速度は、c/nで与えられる。
【0070】
従って、波長λ
1は、波長λ
0の値を柱状部31,32,33の内部の屈折率nで除することにより求めることができる。例えば、発光構造部2(
図1参照)をGaN系の半導体で構成して波長λ
0が405nmの青色光を放射し、柱状部31,32,33を、屈折率n=2.6のGaNで構成する場合、柱状部31,32,33を伝搬する光の波長λ
1は、約156nmである。
また、以下の説明において、柱状部31,32,33によって出射方向を特定するに際して、機能の違いから、柱状部31,32を導波柱、柱状部33を制御柱と呼ぶことがある。
【0071】
(発光領域と柱状部との相互関係)
次に、
図8を参照(適宜
図1及び
図2参照)して、発光領域22aの寸法と、柱状部31,32,33の寸法との相互関係について説明する。
なお、以下の説明では、簡便のため、n型半導体層23及び出射方向特定部3は、同じ屈折率の材料で構成されているものとして説明する。異なる屈折率の材料で構成されている場合は、発光領域22aの寸法として、直径Lpに代えて、前記した式(6)で算出されるLsを用いるものとする。
【0072】
発光素子1は、前記したように、発光領域22aで発光した光が、n型半導体層23を介して柱状部31,32,33に入射し、柱状部31,32,33の内部を伝搬して、出射面である上面31a,32a,33aから出射した光の干渉によって光線を成形するものである。よって、柱状部31,32,33の上面31a,32a,33aから出射した光の干渉によって成形される光線の強度は、発光領域22aで発光した光が、柱状部31,32,33の内部に取り入れられる量によって変化する。そして、発光領域22aで発光した光が、柱状部31,32,33の内部に取り入れられる量が一定量より少ないと、柱状部31,32,33の上面31a,32a,33aから十分な強度の光が出射されず、これらの光の干渉によって明瞭な光線を成形することが困難となる。
【0073】
一方、柱状部31,32,33の上面31a,32a,33aから出射した光線の方向制御の任意性を向上させるためには、発光領域22aで発光し、柱状部31,32,33の入射せずに素子表面(底部30の露出した上面30a)から漏れ出た光と、柱状部31,32,33に入射して上面31a,32a,33aから出射した光とが、余分な干渉を引き起こすことを抑制することが必要である。
【0074】
これらを両立するためには、発光領域22aと、柱状部31,32,33との間に、以下に説明する関係が成立するように、発光領域22aの寸法と柱状部31,32,33の寸法とを規定することが望ましい。
【0075】
図8に示すように、まず、3つの柱状部31,32,33のすべてを囲むように、柱状部31,32,33の外縁の一部に接するように描いた平面図形を想定する。ここでは、平面図形として、
図8において二点差線で示したように、柱状部31,32,33のすべてを囲む円形状の図形を想定する。この円の中心は、柱状部31,32,33の中心O
1,O
2,O
3を頂点とする正三角形の重心である原点Mと一致する(
図7参照)。ここで、柱状部31,32,33をすべて囲む最小の円の半径r
SOは、原点Mから柱状部31,32,33までの距離ρに、柱状部31,32,33の直径2φを加えたものとなる。
【0076】
従って、
図8に示すように、柱状部31,32,33をすべて囲む最小の円(二点差線で描画)の面積SOと、発光領域22a(破線で描画)の面積SLと、柱状部31,32,33の各面積SPとは、それぞれ式(7)〜式(9)により求めることができる。
SL = πΨ
2 …式(7)
SO = π(2φ+ρ)
2 …式(8)
SP = πφ
2 …式(9)
【0077】
ここで、式(7)におけるΨは、発光領域22aの半径である。
このとき、発光領域22aの面積SLと、柱状部31,32,33をすべて囲む最小の円の面積SOとの間に、式(10)の関係が成立することが望ましい。
SL ≦ SO …式(10)
【0078】
また、発光領域22aの面積SLと、柱状部31,32,33の各面積SPの総和である面積3SPとの間に、式(11)の関係が成立することが望ましい。
3SP ≦ SL …式(11)
【0079】
なお、式(11)において、面積SPに乗ずる数は、柱状部の設置数に応じて変わるものである。
よって、これらをまとめると、光線の明瞭性の向上と、光線の方向制御の任意性の向上とを両立させるためには、式(12)に示す関係が成立することが望ましい。
N×SP ≦ SL ≦ SO …式(12)
但し、Nは柱状部の設置数を示し、3以上の整数である。
【0080】
前記した式(12)に示したように、発光領域22aの面積SLを、柱状部31,32,33をすべて囲む最小の円の面積SO以下とすることで、発光領域22aで発光した光が、柱状部31,32,33以外の素子表面(底部30の露出した上面30a)から漏れ出して、柱状部31,32,33の上面31a,32a,33a(
図1参照)から出射した光と余分な干渉を引き起こすのを抑制することができるので、光線の方向制御の任意性を向上させることができる。
なお、平面視において、発光領域22aの面積SLは、前記したようにp側電極24の面積、より正確にはp側電極24の上面とp型半導体層21の下面とが接触する面積と同じであるとみなすことができる。
【0081】
また、式(12)に示したように、発光領域22aの面積SLを、柱状部31,32,33の各面積SPの総和である面積3SP以上とすることで、発光領域22aで発光した光のほとんどを柱状部31,32,33の内部に入射させることができる。このため、柱状部31,32,33の内部を伝搬して上面31a,32a,33aから出射される光の強度を高くすることができる。これによって、これらの光の干渉によって成形される光線の明瞭性を向上することができる。
【0082】
[発光素子の柱状部から出射される光の干渉の原理]
次に、発光素子1から出射される光線の方向を特定する原理である、発光素子1の柱状部31,32,33から出射される光の干渉の原理について
図9を参照しつつ、適宜数式を用いて説明する。なお、柱状部31及び柱状部32は高さが同じであるので、
図9及び数式を用いた説明では、簡便のため、高さの異なる2つの柱状部32と柱状部33とから出射される光の干渉を例に説明する。
【0083】
図9に示した発光素子1において、底部30の露出した上面30aを基準の位置(高度h
0)とする。また、柱状部33の光の出射面である上面33aの位置を高度h
1、柱状部32の光の出射面である上面32aの位置を高度h
2とし、柱状部32と柱状部33との水平方向の間隔をpとする。また、柱状部32,33の中心軸から等距離の水平位置において、底部30の露出した平坦な上面30aに垂直な軸方向(一点差線で描画)の所定地点Cの高度をh
3とする。このとき、柱状部32の高さH=h
2−h
0であり、柱状部33の高さ(H−δ)=h
1−h
0である。これより、柱状部32と柱状部33との高さの差δ=h
2−h
1である。
【0084】
図9に示すように、発光素子1において発光領域22aから放射された光は、高い柱状部32と低い柱状部33とに分岐してそれぞれの柱状部32,33の上面32a,33aから射出される。ここで、高い柱状部32を通る場合に、1つの光路(以下、光路Aという)として、柱状部32中の点A1と、柱状部32の上面32aの中心点A2とを経由して地点Cに達する光路を想定する。また、低い柱状部33を通る場合に、1つの光路(以下、光路Bという)として、柱状部33の上面33aの中心点B1と、点B1からδだけ高い位置B2とを経由して地点Cに達する光路を想定する。
【0085】
光路Aを通る光と光路Bを通る光とは、高度h
1までは屈折率が同じ媒質(出射方向特定部3)を同じ距離だけ進むので同位相のままである。このときの位相を初期位相θ
0とすると、光路Aでは点A1において位相はθ
0であり、光路Bでは点B1において位相はθ
0である。
【0086】
これら光路Aを通る光と光路Bを通る光とは、高度h
1から高度h
2まで異なる媒質を進む。このとき、光路Aでは媒質は柱状部32(例えば、半導体や誘電体)であり、光路Bでは媒質は空気である。一般に、半導体や誘電体の誘電率は空気中(又は真空中)より高いため、半導体や誘電体中を伝搬する際の光の速度は、空気中を伝搬する速度に比べて遅くなる。具体的には、大気中(又は真空中)の光の速度をc、半導体や誘電体の屈折率をnとすると、半導体や誘電体中の速度は、c/nで与えられる(例えばGaNであれば例えばn=2.6)。このため、半導体や誘電体からなる発光素子1中で発生した光を2つに分岐して、一方をそのまま大気中(又は真空中)に射出し、かつ、他方を半導体や誘電体中を伝搬させてから射出した場合、それら2つの光が射出された後に出会うと、光路が異なるため、光の位相は異なるようになる。従って、
図9に示した発光素子1からの光の自由空間中の波長をλ
0とし、光路Aでは高度h
1から高度h
2までの区間の半導体や誘電体中で位相がαだけ進むとすると、光路Aでは点A2において位相は式(13)で表される。
【0088】
また、光路Bでは高度h
1から高度h
2までの自由空間中で位相がβだけ進むとすると、光路Bでは点B2において位相は式(14)で表される。
【0090】
さらに高度h
2から高度h
3まで自由空間なので、光路Aを通る光と光路Bを通る光とは同じ媒質(自由空間)を進む。また、このとき、光路Aの点A2から点Cまでの距離と、光路Bの点B2から点Cまでの距離とは同じである。従って、光路Aを通る光の点A2における位相と、光路Bを通る光の点B2における位相との差は、点Cにおいても保存されることとなる。この位相差τは式(15)で表される。すなわち、柱状部32と柱状部33の高さの差δによって光路Aと光路Bとの位相差τを制御することができる。式(15)を変形すると、高さの差δは、式(16)で表される。
【0092】
そして、柱状部32を通る光は、柱状部33を通る光に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成される。すなわち、柱状部32,33から放出される光の波面は互いに干渉し、これら2つの柱状部32,33の相対的な位置(3次元空間の位置)によって決定される方位(方向)に、光が射出されることになる。
【0093】
続いて、3次元空間の位置r
1にある波源としての柱状部32と、3次元空間の位置r
2にある波源としての柱状部33から射出された光の干渉について説明する。
位置r
1にある波源と、位置r
2にある波源とからそれぞれ射出された光によって、3次元空間の位置rに時刻tにおいて合成される光の強度I(r)は、次の式(17)で与えられる。
【0095】
式(17)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、発光領域22aから射出された光が、2つの波源からそれぞれ射出された後に重畳されて、波面を変えて波の進行方向を変えることが可能となる。式(17)では、式(18)のγの実部を利用する。式(18)のE
*は、Eの複素共役であることを示す。γは、式(18)で示すように、0から1までの値をとり、2つの波源から射出された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(19)〜式(21)のように場合分けすることができる。
【0097】
式(19)の場合を完全コヒーレント、式(20)の場合をインコヒーレント、式(21)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。ここでは、発光素子1として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。したがって、
図9に示した発光素子1においては、光の強度において、前記した式(17)の第3項の寄与が大きいため、光の進行方向を大きく曲げられる。
なお、柱状部32,33間の水平方向の間隔pが微小であるときには、光の進行方向が曲げられる大きさは、柱状部32と柱状部33との高さの差δが支配的な要因となる。
【0098】
図9では、簡単のため、高さの異なる2つの柱状部から出射される光の干渉による光線の方向について説明した。波源としての柱状部が3つある場合についても、前記した式(17)を拡張することが可能である。例えば、第1の柱状部31と第2の柱状部32との組み合わせを2つの波源として前記した式(17)を適用し、第2の柱状部32と第3の柱状部33との組み合わせを2つの波源として前記した式(17)を適用し、第3の柱状部33と第1の柱状部31との組み合わせを2つの波源として前記した式(17)を適用し、これら3つの組み合わせを加算することで、波源としての柱状部が3つある場合についての関係式を求めることができる。
【0099】
[発光素子の製造方法]
次に、本実施形態に係る発光素子の製造方法について説明する。
ここでは、複数の発光素子を2次元配列した表示パネルの形態で製造する方法について、
図10から
図13を参照(適宜
図1及び
図2参照)して説明する。また、この例では、発光構造部2として、GaN系の化合物半導体を用いてLED構造を形成する場合について説明する。
【0100】
(基板準備工程)
まず、基板準備工程において、
図10に示すように、p側電極24を、発光素子1の配列間隔で配置した基板11を作製する。p側電極24は柱状の電極である。また、基板11は、発光素子1を2次元に配列(
図10に示した例では、3×3に配列)して支持する支持基板であり、ガラス、セラミックス、樹脂などの絶縁材料を用いることができる。基板11には、スルーホール(不図示)が設けられ、各スルーホールに柱状のp側電極24を挿入して配置される。また、基板11の裏面側には、
図10(a)において、縦方向に延伸する配線用電極12が、ストライプ状に配置され、各配線用電極12は、その延伸方向に配列する一列のp側電極24を電気的に接続されている。配線用電極12は、基板11にp側電極24を配置した後に、基板11の裏面側に配線用電極間にマスクを設け、メッキ法、蒸着法、スパッタリング法、CVD(化学気相成長)法などの公知の手法により金属などの導電材料を用いて形成することができる。
また、
図10(b)に示すように、基板11の上面側に、発光構造部2のp型半導体層21と接触する部位であるp側電極24の先端部が露出するように、樹脂などの絶縁材料を塗布などにより絶縁層13を形成する。
【0101】
なお、スルーホールに柱状のp側電極24を挿入する代わりに、スルーホールに低融点金属や導電性樹脂などの導電性材料をスルーホールからはみ出すように充填し、スルーホールからはみ出した導電性材料を、金型を用いて半球状や円錐状などに成形して作製することもできる(例えば、参考文献3参照)。
また、ストライプ状の配線用電極12を設けずに、柱状のp側電極24を、基板11の裏面側から突出させ、PGA(Pin Grid Array)型の表示パネルとするようにしてもよい。
(参考文献3):特開2002−252456号公報
【0102】
(発光構造部準備工程)
また、前記したp側電極24を配列した基板11の作製と並行して、発光構造部準備工程において、
図11(a)に示すように、発光構造部2を準備する。
発光構造部2は、サファイア、AlN、GaAs、SiC、Si等からなる基板50上に、例えば、MBE(分子線エピタキシー)法、MOCVD(有機金属化学気相成長)法などの成膜方法により、剥離層51、n型半導体層23、発光層22及びp型半導体層21を順次に積層して形成することができる。
【0103】
なお、剥離層51は、後記する貼り合せ工程で、基板11と発光構造部2とを貼り合せた後に、後記する剥離工程で半導体層である発光構造部2を成長させるために用いた基板50を剥離するための層である。例えば、レーザリフトオフ法により基板50を剥離する場合には、例えば、n型半導体層23を形成する際の下地層を剥離層51とすることができる(例えば、参考文献4参照)。この剥離層51は、後記する剥離工程において、レーザ照射により分解され、基板50を発光構造部2から剥離することができる。
(参考文献4):特許第4653804号公報
【0104】
また、ケミカルリフトオフ法により基板50を剥離する場合には、剥離層51として、基板50上に、例えば、Crなどの金属層の窒化物の層を形成することができる(例えば、参考文献5参照)。この金属窒化物からなる剥離層51は、後記する剥離工程において、液剤を用いた化学エッチングにより除去され、基板50を発光構造部2から剥離することができる。ケミカルリフトオフ法は、レーザリフトオフ法に比べ、多数のウェハを同時に処理することができるために生産性が高く、また、剥離の際に半導体層に対するストレスが少なくクラックの発生が抑制されるために歩留まりが高い。
なお、金属窒化物からなる剥離層51は、基板50上にMOCVD法により形成することができる。また、他の方法として、基板50上にスパッタリング法や蒸着法などにより金属膜を成膜した後、この金属膜をアンモニア含有ガス雰囲気で1040℃以上の温度として窒化させて金属窒化物膜を形成することもできる。
(参考文献5):特開2009−54888号公報
【0105】
(貼り合せ工程)
次に、貼り合せ工程において、
図11(b)に示すように、発光構造部準備工程で作製した発光構造部2を、p型半導体層21とp側電極24の先端部とが接触するように貼り合せる。貼り合せ工程では、例えば、基板11と基板50との間に圧力をかけながら300℃程度に加熱することでp側電極24及び絶縁層13を備えた基板11と発光構造部2とを融着させる。
【0106】
(剥離工程)
次に、剥離工程において、
図11(c)に示すように、基板50を、発光構造部2から剥離する。
前記したレーザリフトオフ法により剥離する場合は、剥離層51であるGaNの下地層に、例えば、近紫外光のエキシマレーザのナノ秒パルス照射をしてGaNを分解し、基板50を発光構造部2から剥離することができる。
また、前記したケミカルリフトオフ法により剥離する場合は、剥離層51である金属窒化物層を、液剤を用いて化学エッチングすることで除去し、基板50を発光構造部2から剥離することができる。例えば、金属窒化物がCrNの場合は、エッチング用の液剤として、過塩素酸と硝酸二セリウムアンモニウムの混合液を用いることができる。
【0107】
なお、貼り合せ工程及び剥離工程を行うことにより、発光構造部2は、基板50から基板11に転写され、基板11に近い下層側から順に、p型半導体層21、発光層22及びn型半導体層23が積層された構成となっている。
【0108】
(出射方向特定部形成層形成工程)
次に、出射方向特定部形成層形成工程において、
図12(a)に示すように、発光構造部2の最上層であるn型半導体層23上に、出射方向特定部3(
図1参照)を形成するための層である、出射方向特定部形成層34を形成する。出射方向特定部形成層34は、n型半導体層23と同様のGaN系化合物を用いて形成してもよいし、SiO
2やAl
2O
3などの誘電体を用いて形成してもよい。
例えば、SiO
2のように、GaN系の半導体材料からなるn型半導体層23よりも屈折率の小さい材料を用いて出射方向特定部形成層34を形成する場合は、柱状部31,32,33の高さの精度を緩和することができる。
出射方向特定部形成層34は、CVD法、スパッタリング法などにより前記した材料を用いて形成することができる。
なお、発光構造部準備工程で形成したn型半導体層23の一部(
図12(a)において上部)を出射方向特定部形成層34として用いる場合は、出射方向特定部形成層形成工程は省略することができる。
【0109】
(構造物形成工程)
次に、出射方向特定部形成工程において、
図12(b)に示すように、出射方向特定部形成層34を加工して、柱状部31,32,33からなる構造物3aを形成する。出射方向特定部形成層34の加工は、柱状部31,32,33を形成する領域をマスクし、他の領域をRIE(反応性イオンエッチング)などのドライエッチングや、薬液を用いたウェットエッチングを用いることができる。このとき、柱状部31,32を形成する領域に形成するマスクと、柱状部33に形成するマスクとの厚さを異なるようにし、一方のマスクがエッチングにより速く除去されるようにし、出射方向特定部形成層34の一部がエッチングされるようにすることで、柱状部31,32と、柱状部33との高さを異なるように形成することができる。
また、柱状部31,32,33を形成する領域のエッチングと異なる工程で、高く形成する柱状部にマスクを形成し、マスクを形成しない柱状部の上部をエッチングすることで、柱状部31,32と、柱状部33との高さを異なるように形成することもできる。
【0110】
(分離溝形成工程)
次に、分離溝形成工程において、
図12(c)に示すように、出射方向特定部3及び発光構造部2に、配線用電極12が延伸する方向(列方向)と直行する方向(行方向)に延伸する分離溝52を形成し、発光素子1を分離する。分離溝52は、分離溝52を形成する領域以外をマスクし、エッチングすることで形成することができる。
【0111】
なお、分離溝52の形成後に、分離溝52の内部や発光素子1の表面にSiO
2等の絶縁性の保護膜を形成してもよい。
【0112】
(n側電極形成工程)
次に、n側電極形成工程において、
図13(a)及び
図13(b)に示すように、分離溝52で分離された発光素子1の1行の配列ごとに、n型半導体層23の側面の一部に接触するn側電極25を形成する。
n側電極25は、n側電極25を形成する領域以外をマスクし、金属や導電性化合物などの導電性材料を用いて、スパッタリング法や蒸着法などにより形成することができる。
【0113】
前記したように、p型半導体層21におけるキャリア移動度に比べ、n型半導体層23におけるキャリア移動度が十分に大きく、かつ再結合時間がキャリアの拡散時間に比べて十分に短い場合には、n側電極25をn型半導体層23の一部に設けることで、実質的にn型半導体層23に均一にキャリアを拡散させることができる。
本例では、
図13(b)に示すように、行方向(横方向)の1行に配列された複数の発光素子1ごとに、n型半導体層23の右側面の一部にn側電極25を設けている。これにより、電圧を印加する(すなわち、信号を入力する)1つのn側電極25選択することで、表示パネル10における行を選択することができる。また、電圧を印加する1つの配線用電極12を選択することで、表示パネル10における列を選択することができる。すなわち、n側電極25及び配線用電極12をそれぞれ1つずつ選択することにより、発光を制御する1つの発光素子1を選択することができる。
【0114】
なお、n型半導体層23の一部を出射方向特定部形成層34として用いる場合は、n側電極25は、出射方向特定部3の一部と接触するように設けてもよい。
【0115】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る発光素子1は、表面に3個以上の柱状部を形成することで光の干渉効果により光線を成形できる。また、発光素子1は、出射方向特定部3における柱状部31,32,33の配置と、制御柱である柱状部33と導波柱である柱状部31,32との高さの差を適切に選んで形成することで、表示パネル面に対して垂直な方向を含む任意方向へ放射する光線を成形することが可能となる。また、発光素子1は、表面に柱状部31,32,33を形成するだけで光線の方向を制御できるため、その構造が簡単である。
【0116】
<第1実施形態の変形例>
次に、第1実施形態の変形例について、
図14を参照して説明する。
図14に示す第1実施形態の変形例に係る発光素子1Aは、
図2に示した第1実施形態に係る発光素子1において、n側電極25に代えてn側電極25Aを備えて構成するものである。第1実施形態に係る発光素子1と同様の構成については、同じ符号を付して説明は適宜省略する。
【0117】
本変形例に係る発光素子1Aは、
図14に示すように、出射方向特定部3の底部30の上面30aであって、平面視で構造物3aが設けられた領域(
図14では、柱状部31,32,33を含む外接円の内部領域)を除く領域に、構造物3aを囲むようにn側電極25Aを設けるものである。
【0118】
本変形例は、p型半導体層21におけるキャリア移動度に比べ、n型半導体層23におけるキャリア移動度が十分に大きくないか、再結合時間がキャリアの拡散時間に比べて十分には短くない場合に適するように、n側電極25Aを配置したものである。
前記したように発光領域22aを囲むようにn側電極25Aを設けることにより、p側電極24の形状により、発光領域22aの形状を定めることができる。すなわち、p側電極24の直上領域の近傍を、発光領域22aとすることができる。
【0119】
なお、本例のように、n側電極25Aを、出射方向特定部3に接触するように設ける場合には、出射方向特定部3は、n型半導体層23の上部を加工して形成するか、ITOなどの透光性を有する導電材料を用いて形成する。これによって、n側電極25Aとn型半導体層23とを電気的に導通させることができる。特に、出射方向特定部3を、導電材料を用いて構成した場合は、出射方向特定部3の全体がn側電極25Aの拡張電極として機能するため、n型半導体層23に、より均一に電流を拡散させることができる。
【0120】
また、n型半導体層23と出射方向特定部3との間に、n型半導体層23の上面全体を覆うように、ITOなどの透光性を有する導電材料を用いて均一な厚さの電極層を形成し、この電極層と接触するようにn側電極25Aを設けるようにしてもよい。このように構成することで、透光性の電極層を介して、n側電極25Aから供給される電流をn型半導体層23に均一に拡散させることができる。更に、透光性の電極層の膜厚を均一にすることで、出射方向特定部3の柱状部31,32,33に入射される光に位相差を生じさせることがないため、出射方向特定部3の材料選択や構造の自由度を制約することがない。
【0121】
また、n型半導体層23と出射方向特定部3との間に設ける電極層として、p側電極24の直上領域に透光性の導電材料を用い、その他の領域に直上領域と同じ厚さで透光性の導電材料よりも導電性の良好な金属などの導電材料を用いて形成するようにしてもよい。これによって、透光性の導電材料のみで電極層を形成する場合よりも、電流を良好に供給できるため、より強い光を発光させることができる。
【0122】
本変形例に係る発光素子1Aは、n側電極25Aの配置が異なる以外は、第1実施形態に係る発光素子1と同様に動作するため、動作についての説明は省略する。
また、本変形例に係る発光素子1Aは、第1実施形態に係る発光素子1の製造方法において、n側電極25を形成する際のマスクを設ける位置を、n側電極25Aを設ける位置に対応して変更することで、同様にして形成することができるため、詳細な説明は省略する。
【0123】
<第2実施形態>
次に、
図15及び
図16を参照して、第2実施形態に係る発光素子について説明する。
図15及び
図16に示すように、第2実施形態に係る発光素子1Bは、
図1及び
図2に示した第1実施形態に係る発光素子1において、出射方向特定部3に代えて、出射方向特定部3Bを備えるものである。第1実施形態に係る発光素子1と同様の構成については、同じ符号を付して説明は適宜省略する。
【0124】
図15及び
図16に示すように、発光素子1Bは、構造物3Baとして、平坦な上面40aにおいて所定領域を取り囲むように、3つ以上の孔(柱状凹部)を有し、少なくとも1つの孔の深さが他と異なり、これらすべての孔から光を射出する点に特徴がある。以下では、一例として発光素子1Bが3つの孔41,42,43を有し、孔43が孔41,42よりも浅いものとして説明する。
【0125】
本実施形態に係る発光素子1Bは、出射方向特定部3Bとして、3つの柱状の凹部である孔(柱状凹部)41,42,43を構造物3Baとして有するものである。孔41,42,43は、第1実施形態における出射方向特定部3の柱状部31,32,33に代わる構造物である。前記したように、出射方向特定部3Bの上面40aに対して、孔43の底面43aの深さが、孔41,42の底面41a,42aの深さよりも浅く形成されている。
なお、本実施形態では、孔41,42,43の形状は、横断面が円形の円柱状としたが、これに限定されず、横断面が多角形、楕円などの他の形状の柱状とすることもできる。
【0126】
発光構造部2の発光領域22aから放射された光は、孔41,42,43に入射し、孔41,42,43の底面41a,42a,43aから出射し、これらの出射光は干渉し合い、孔41,42,43の配置に応じた方向に強度を有する光線が出射方向特定部3Bから出射される。出射方向特定部3Bは、各孔41,42,43の深さを異なるようにし、その深さの差により、各孔41,42,43の底面41a,42a,43aから出射する光に位相差を生じさせるものである。
なお、出射方向特定部3Bにより光の出射方向を特定する原理は、第1実施形態における出射方向特定部3と同様であるから、説明は省略する。また、発光構造部2の動作も、第1実施形態における発光構造部2と同様であるから、説明は省略する。
【0127】
また、平面視における発光領域22aと、孔41,42,43の配置との好ましい関係は、第1実施形態に係る発光素子1における発光領域22aと、柱状部31,32,33と同様である。すなわち、発光領域22aの面積をSL、孔41,42,43の面積をSP、孔41,42,43を含む外接円の面積をSOとすると、光線の明瞭性の向上と、光線の方向制御の任意性の向上を両立させるために、前記した式(12)の関係が成立することが望ましい。
但し、式(12)において、Nは孔の設置数を示すものとし、3以上の整数である。
【0128】
また、本実施形態に係る発光素子1Bは、第1実施形態に係る発光素子1の製造方法において、構造物形成工程において、柱状部31,32,33を形成するマスクを設ける代わりに、孔41,42,43を形成する領域以外をマスクを設け、エッチングにより孔41,42,43を形成することで作製することができる。この工程については、第1実施形態と同様であるから、説明は省略する。
【0129】
<第2実施形態の変形例>
次に、第2実施形態の変形例について、
図17を参照して説明する。
図17に示す第2実施形態の変形例に係る発光素子1Cは、
図16に示した第2実施形態に係る発光素子1Bにおいて、n側電極25に代えてn側電極25Cを備えて構成するものである。第2実施形態に係る発光素子1Bと同様の構成については、同じ符号を付して説明は適宜省略する。
【0130】
本変形例における発光素子1Cは、
図14に示した第1実施形態の変形例に係る発光素子1Aのn側電極25Aと同様に、出射方向特定部3Aの上面40aであって、平面視で構造物3Baが設けられた領域(
図17では、平面視で孔41,42,43を含む外接円の内部領域)を除く領域に、構造物3Baを囲むようにn側電極25Cを設けるものである。
【0131】
本変形例は、p型半導体層21におけるキャリア移動度に比べ、n型半導体層23におけるキャリア移動度が十分に大きくないか、再結合時間がキャリアの拡散時間に比べて十分には短くない場合に適するように、n側電極25Cを配置したものである。
前記したように発光領域22aを囲むようにn側電極25Cを設けることにより、p側電極24の形状により、発光領域22aの形状を定めることができる。すなわち、p側電極24の直上領域の近傍を、発光領域22aとすることができる。
【0132】
なお、本例のように、n側電極25Cを、出射方向特定部3Bに接触するように設ける場合には、出射方向特定部3は、n型半導体層23の上部を加工して形成するか、ITOなどの透光性を有する導電材料を用いて形成する。これによって、n側電極25Cとn型半導体層23とを電気的に導通させることができる。
【0133】
また、n型半導体層23と出射方向特定部3Bとの間に、n型半導体層23の上面全体を覆うように、ITOなどの透光性を有する導電材料を用いて均一な厚さの電極層を形成し、この電極層と接触するようにn側電極25Cを設けるようにしてもよい。このように構成することで、透光性の電極層を介して、n側電極25Cから供給される電流をn型半導体層23に均一に拡散させることができる。更に、透光性の電極層の膜厚を均一にすることで、出射方向特定部3Bの柱状凹部41,42,43に入射される光の位相差を変化させることがないため、出射方向特定部3Bの材料選択や構造の自由度を制限することがない。
【0134】
また、n型半導体層23と出射方向特定部3Bとの間に設ける電極層として、p側電極24の直上領域に透光性の導電材料を用い、その他の領域に直上領域と同じ厚さで透光性の導電材料よりも導電性の良好な金属などの導電材料を用いて形成するようにしてもよい。これによって、透光性の導電材料のみで電極層を形成する場合よりも、電流を良好に供給できるため、より強い光を発光させることができる。
【0135】
本変形例に係る発光素子1Cは、n側電極25Cの配置が異なる以外は、第2実施形態に係る発光素子1Bと同様に動作するため、動作についての説明は省略する。
また、本変形例に係る発光素子1Cは、第2実施形態に係る発光素子1Bの製造方法において、n側電極25を形成する際のマスクを設ける位置を、n側電極25Cを設ける位置に対応して変更することで、同様にして形成することができるため、詳細な説明は省略する。
【0136】
<第3実施形態>
[IP立体ディスプレイの概念]
次に、
図18及び
図19を参照して、第3実施形態として、本発明の発光素子を用いたIP立体ディスプレイ(立体画像表示装置)について説明する。
図18(a)及び
図18(b)に示すように、本実施形態に係るIP立体ディスプレイは、第1実施形態に係る発光素子1を基板11上に多数並べることにより、IP方式のディスプレイであるIP立体ディスプレイ100を構成するものである。図示は省略するが、IP立体ディスプレイ100に対応したIP立体撮影装置がレンズ板を介して
図18(b)に示す円柱や立方体等の被写体を予め撮影した要素画像群を取得しておくことが、立体を表示(再生)するためには簡便であるが、多視点映像もしくは3次元モデルのレンダリング処理などによって作成し、IP立体ディスプレイ100における発光素子1の配列に合わせてデータを構成したものを用いても構わない。
【0137】
従来のIP方式のディスプレイでは、例えば液晶パネルに要素画像群を表示して、簡便には、撮影時と同様の要素レンズアレイの各要素レンズを介して各要素画像を投影し、それらを集積した像を、被写体に対応した立体再生像として観察することができる。
本発明によるIP立体ディスプレイ100の場合は、密集して配置された複数の発光素子1が1単位の要素画素群として要素画像を形成し、従来のIP立体ディスプレイの個々の要素レンズに相当する領域に、それぞれ対応する要素画素群(1つの単位構造)が並置される構造となる。
【0138】
ここで、要素画像とは、微小な光学レンズの集合体である要素レンズアレイを用いた従来のIP方式のディスプレイにおいて、1つの要素レンズに対応して投影される画像のことである。従来のIP方式のディスプレイにおいて1つの要素画像を構成する要素画素群の各画素から発せられる光線は、各画素位置と要素レンズの中心とを結ぶ方向に出射される。このため、1組の要素画素群を構成する各画素から発せられる光線は、それぞれ異なる方向に出射される。
【0139】
本発明では、従来のIP方式のディスプレイにおける要素レンズに代えて、画素として用いる発光素子1ごとに出射方向を設定するものである。そのために、
図18(a)に示したIP立体ディスプレイ100は、発光素子1ごとに、それぞれが定められた方向に光線を出射するように構造物3aが設置される。
なお、前記したように、発光素子1を基板11上に多数並べることでIP立体ディスプレイ100を提供することが可能であるが、その際に発光素子1自体を基板11に対して傾斜させて配置することで、出射方向をより広範囲に設定することができる。
【0140】
図18(b)は、ある観察点において、IP立体ディスプレイ100からこの観察点の方向に出射される光線の様子の一例を示したものである。観察点では、各要素画素群の内でこの観察点の方向に出射される光線(太い矢印線)が集積され、例えば、円柱や立方体のような画像を観察することができる。
【0141】
なお、IP立体ディスプレイ100の発光素子1間、すなわち、画素間においては、互いに可干渉長以上の距離を持って配置されるため、異なる画素から出射された光の間で干渉波が生成されることはない。そのため、例えば、3つの画素から射出される光が合成される光の強度は、3つの画素から射出されたそれぞれの光の強度の単なる加算となる。つまり、画素間において合成される光の強度は、3つの画素を3つの波源とみなしたときに、前記した式(17)の第1項と第2項に相当する演算で求められることとなる。
【0142】
このような微細構造を有する発光素子1を多数個並べた表示パネルは、従来技術においてレンズ板と発光面とを接合させた装置と同じ働きを有するようになる。このようにして作成したIP立体ディスプレイ100においては、立体表示の解像度は、発光素子1の精細度にのみ依存し、光学系の解像度不足による映像ボケが生じない。また、発光素子1を用いたIP表示における視域角の最大値は、素子表面と垂直な方向に対する放射光の成す角(制御角)の最大値にのみ依存し、解像度と視域角とを独立に改善することが可能である。
【0143】
[IP立体ディスプレイの構成]
次に、
図19を参照して、本実施形態に係るIP立体ディスプレイ100の構成について詳細に説明する。
図19に示すように、本実施形態に係るIP立体ディスプレイ100は、表示パネル(表示素子)10と、駆動部60とを備えて構成されている。IP立体ディスプレイ100は、外部の表示制御部70を介して入力される画像信号を、表示パネル10にIP方式の立体画像として表示する立体画像表示装置である。
【0144】
表示パネル(表示素子)10は、複数の発光素子1を画素として2次元に配列して設けられており、IP方式の立体画像を表示する表示素子である。表示パネル10は、行方向(横方向)に配列する発光素子1ごとにn側電極25を備え、列方向(縦方向)に配列する発光素子1ごとに、p側電極24と接続する配線用電極12とを備えている。すなわち、n側電極25は、当該n側電極25が接続された1行に属する発光素子1のn側の共通電極であり、配線用電極12は、当該配線用電極12がp側電極24と接続された1列に属するp側電極24の共通電極である。
【0145】
各n側電極25には、行選択部61から走査信号である行選択信号が入力される。また、各配線用電極12には、列選択部62から、列位置に対応する画像信号が列選択信号として入力される。表示パネル10において、行選択信号が入力されたn側電極25と、列選択信号が入力された配線用電極12に接続された発光素子1が選択され、その発光時間(発光/非発光)が制御される。
【0146】
駆動部(画素選択手段)60は、行選択部61と列選択部62とを備え、外部の表示制御部70を介して入力される画像信号に基づいて、表示パネル10に画素として配置された発光素子1を順次選択し、その発光時間を制御するものである。
行選択部61は、表示制御部70から画像信号の行に同期した走査信号を入力し、その行に対応するn側電極(行電極)25に出力する。選択されたことを示す所定の電位(例えば0V)の行選択信号が入力された行が、発光時間を制御される対象となる。
列選択部62は、表示制御部70から画像信号を入力し、各列に対応する画像信号に分割して、各列に対応する配線用電極12に分割した画像信号を列選択信号として並行して出力する。選択されたことを示す所定レベルの電位(例えば5V)の列選択信号が入力されている期間、発光素子1が発光する。従って、行選択信号が入力されている期間であって、所定のレベルの列選択信号が入力されている期間に発光素子1が発光し、それ以外の期間に発光素子1は非発光となる。列選択信号において所定レベルとなる期間を、画像信号中の対応する画素データに応じて増減することで、発光素子1の画素として表示する輝度を変調することができる。
【0147】
表示制御部70は、画像信号を入力し、入力した画像信号を、列選択部62に出力すると共に、この画像信号に同期した走査信号を行選択信号として行選択部61に出力するものである。
【0148】
なお、本実施形態における表示パネル10は、第1実施形態に係る発光素子1の製造方法として説明した表示パネル10の製造法により作製することができる。
【0149】
[IP立体ディスプレイの動作]
次に、引き続き
図19を参照して、本実施形態係るIP立体ディスプレイ100の動作について説明する。
IP立体ディスプレイ100は、表示制御部70から、画像信号と共に画像信号の行に同期した走査信号を入力する。IP立体ディスプレイ100は、行選択部61によって、n側電極25を順次に選択して、表示制御部70から入力した走査信号を行選択信号として出力する。これと並行して、IP立体ディスプレイ100は、列選択部62によって、表示制御部70から入力される1行の画像信号を、列に対応するデータ信号に分割し、分割したデータ信号を、それぞれ対応する列の配線用電極12に出力する。
IP立体ディスプレイ100の表示パネル10において、行選択部61によって選択された行に属する各発光素子1は、列選択部62から入力されるデータ信号に応じて発光時間が制御される。
【0150】
IP立体ディスプレイ100は、表示制御部70から次の行についての走査信号を入力すると、行選択部61によって次の行を選択する行選択信号を、対応するn側電極25に出力する。これと並行して、IP立体ディスプレイ100は、列選択部62によって、表示制御部70から入力される次の行の画像信号を、列に対応するデータ信号に分割し、分割したデータ信号を、それぞれ対応する列の配線用電極12に出力する。これによって、次の行に属する発光素子1の発光時間が制御される。
以下、IP立体ディスプレイ100は、順次に選択する行を変えて、選択した行に属する発光素子1の発光時間を制御する。これを繰り返すことによって、IP立体ディスプレイ100は、表示制御部70介して入力される画像信号を、立体画像として表示パネル10に表示することができる。
【0151】
なお、本実施形態では、第1実施形態に係る発光素子1を画素として用いたが、第1実施形態の変形例に係る発光素子1A、第2実施形態に係る発光素子1B又は第2実施形態の変形例に係る発光素子1Cを画素として用いることもできる。
【0152】
[発光素子の利用可能性]
本発明の発光素子1,1A,1B,1Cは、光線の成形と方向制御を必要とするデバイス一般に応用することが可能である。例えば、プロジェクター用光源、空間光インターコネクションに用いる接続器、拡散板を必要としない照明用光源などに好適である。