特許第6010547号(P6010547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010547
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/225 20060101AFI20161006BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20161006BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20161006BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   G01N23/225 312
   G01N23/223
   H01J37/28 Z
   H01J37/22 502H
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-548254(P2013-548254)
(86)(22)【出願日】2012年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2012081437
(87)【国際公開番号】WO2013084905
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-270690(P2011-270690)
(32)【優先日】2011年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 聡史
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−164442(JP,A)
【文献】 特開2011−38939(JP,A)
【文献】 特許第3654551(JP,B2)
【文献】 特開2009−250867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00−23/227
H01J37/00−37/36
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームで試料を走査し、走査によって試料から発生するX線を検出し、検出結果に基づいて、試料に含まれる元素の分布を生成するX線分析装置において、
試料上のビームで走査した領域から発生したX線の検出結果から、前記試料に含まれる元素に応じて設定されているエネルギー又は波長の範囲にエネルギー又は波長が含まれるX線の強度分布を取得することにより、前記元素の分布を生成する元素分布生成手段と、
前記範囲にエネルギー又は波長が含まれないX線の強度分布を取得する手段と、
該手段が取得した前記強度分布中で特定の強度以上になっている部分に対応する前記試料上の領域から発生したX線のスペクトルを生成する手段と、
該手段が生成した前記スペクトルに含まれるピークに基づいて、前記試料に含まれる元素を同定する元素同定手段と、
該元素同定手段が同定した元素に対応するX線のエネルギー又は波長の範囲を設定する設定手段とを備え、
前記元素分布生成手段は、
前記設定手段が設定した前記範囲に応じて、前記元素同定手段が同定した元素の分布を生成する手段を有すること
を特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記元素分布生成手段が元素の分布を生成する都度、前記分布を表した画像を表示する手段を更に備えること
を特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビームで試料を走査し、試料から発生するX線を検出し、試料中の元素分布を生成するX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析は、電子線又はX線等のビームを試料へ照射し、試料から発生する特性X線又は蛍光X線を検出し、特性X線又は蛍光X線のスペクトルから試料に含有される元素の定性分析又は定量分析を行う分析手法である。またビームで試料を走査しながら特性X線又は蛍光X線を検出することにより、試料に含有される元素の分布を得ることができる。電子線を用いるX線分析装置は、電子顕微鏡に組み込まれていることもある。特許文献1には、X線分析により元素分布を生成する技術の例が開示されている。
【0003】
従来、元素分布を生成する際には、特定の元素に対応する特性X線又は蛍光X線のエネルギー範囲であるROI(region of interest)を設定し、ROIにエネルギーが含まれる特性X線又は蛍光X線の強度分布を求めることにより、各元素の分布を取得している。また、試料上で偏在している微量元素の分布を得るためには、試料の電子顕微鏡像又は光学顕微鏡像等の元素分布画像以外の画像を元に、微量元素が偏在している領域の位置決めを行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3654551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法では、ROIを予め設定してから元素分布を生成するので、ROIを設定していない元素については元素分布を取得することはできない。特性X線又は蛍光X線のスペクトルを確認してから手作業でROIを設定することもできるものの、スペクトルから微量元素の信号を発見することは困難であるので、微量元素の元素分布を取得することは困難である。また、元素分布画像以外の画像を元に位置決めをする方法においては、元素分布画像以外の画像を生成し、画像に応じて位置決めを行い、スペクトルを作成し、スペクトルを確認し、微量元素が発見されるまで作業を繰り返す必要があり、手間と時間がかかるという問題がある。更に、元素分布画像以外の画像と元素分布画像とでは得られる情報の内容が異なるので、元素分布画像以外の画像を元に微量元素が偏在している領域を定めることができるとは限らない。従って、従来の方法では、試料に含まれる元素を網羅した元素分布を迅速に生成することは困難である。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ROIの設定とROI以外での強度が強い特性X線又は蛍光X線に基づいた元素の同定とを繰り返すことにより、試料に含まれる元素を可及的に網羅した元素分布を迅速に生成することができるX線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るX線分析装置は、ビームで試料を走査し、走査によって試料から発生するX線を検出し、検出結果に基づいて、試料に含まれる元素の分布を生成するX線分析装置において、試料上のビームで走査した領域から発生したX線の検出結果から、前記試料に含まれる元素に応じて設定されているエネルギー又は波長の範囲にエネルギー又は波長が含まれるX線の強度分布を取得することにより、前記元素の分布を生成する元素分布生成手段と、前記範囲にエネルギー又は波長が含まれないX線の強度分布を取得する手段と、該手段が取得した前記強度分布中で特定の強度以上になっている部分に対応する前記試料上の領域から発生したX線のスペクトルを生成する手段と、該手段が生成した前記スペクトルに含まれるピークに基づいて、前記試料に含まれる元素を同定する元素同定手段と、該元素同定手段が同定した元素に対応するX線のエネルギー又は波長の範囲を設定する設定手段とを備え、前記元素分布生成手段は、前記設定手段が設定した前記範囲に応じて、前記元素同定手段が同定した元素の分布を生成する手段を有することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、X線分析装置は、設定してあるエネルギー又は波長の範囲を利用して元素分布を生成し、既に設定してある範囲にエネルギー又は波長が含まれないX線の強度が高い試料上の領域から得られるX線のスペクトルを生成し、生成したスペクトルから、新たな元素を同定する。また、X線分析装置は、同定した元素に対応するエネルギー又は波長の範囲を設定し、設定した範囲を利用して元素分布を生成する。このように、X線分析装置は、X線のスペクトルの生成、元素の同定、エネルギー又は波長の範囲の設定、並びに元素分布の生成を繰り返す。
【0009】
本発明に係るX線分析装置は、前記元素分布生成手段が元素の分布を生成する都度、前記分布を表した画像を表示する手段を更に備えることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、X線分析装置は、元素分布を生成する都度、元素分布を表した元素分布画像を表示し、使用者は、試料に含まれる各元素の分布を確認する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、試料で発生するX線の検出結果から微量元素の分布を生成することができるので、元素分布の生成に必要な手間及び時間が削減され、試料に含まれる元素を可及的に網羅した元素分布を迅速に生成することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】X線分析装置の構成を示すブロック図である。
図2】制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図3】特性X線のスペクトルの例を示す特性図である。
図4】ROIの例を示す特性図である。
図5】X線分析装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図6A】元素分布画像の例を示す模式図である。
図6B】元素分布画像の例を示す模式図である。
図6C】元素分布画像の例を示す模式図である。
図7】ROIにエネルギーが含まれていない特性X線の強度分布の例を示す模式図である。
図8】ステップS9で生成される特性X線のスペクトルの例を示す特性図である。
図9】新たな元素分布画像の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、X線分析装置の構成を示すブロック図である。X線分析装置は、試料Sに電子線(ビーム)を照射する電子銃11と、電子レンズ系12と、試料Sが載置される試料台14を備えている。電子レンズ系12は、電子線の方向を変更させる走査コイルを含んでおり、本発明における走査手段に対応する。電子銃11及び電子レンズ系12は、X線分析装置全体を制御する制御装置3に接続されている。なお、図1中には、平面状の試料Sを図示しているが、X線分析装置は、球面状等のその他の形状の試料を測定することも可能である。
【0014】
電子レンズ系12と試料台14との間には、X線検出器13が配置されている。X線検出器13は、電子線を通すための孔を設けた形状に形成されている。また、X線検出器13は、X線検出素子としてSDD(Silicon Drift Detector)を用いて構成されている。例えば、X線検出器13は、孔を形成した基板に複数のSDDが実装され、孔を囲んで複数のSDDが配置された構成となっている。図1中には、X線検出器13の断面を示している。X線検出器13は、孔を電子線が通る位置に配置され、X線の入射面が電子線の軸に直交して配置されている。また、X線検出器13には、ペルチェ素子等の図示しない冷却機構が付属している。試料Sが試料台14に載置された状態では、試料Sの電子線が照射される面の前面にX線検出器13が配置されている。制御装置3からの制御信号に従って、電子銃11が電子線を放出し、電子レンズ系12が電子線の方向を定め、電子線はX線検出器13の孔を通って試料台14上の試料Sへ照射される。試料S上で、電子線を照射された部分では、特性X線が発生し、発生した特性X線はX線検出器13で検出される。図1には、電子線を実線矢印で示し、特性X線を破線矢印で示している。X線検出器13は、検出した特性X線のエネルギーに比例した信号を出力する。X線分析装置の構成の内、少なくとも電子銃11、電子レンズ系12、X線検出器13及び試料台14は、図示しない真空箱の中に納められている。真空箱は、電子線及びX線を遮蔽する材料で構成されており、X線分析装置の動作中には真空箱の内部は真空に保たれている。
【0015】
X線検出器13には、出力した信号を処理する信号処理部2が接続されている。信号処理部2は、X線検出器13が出力した信号を受け付け、各値の信号をカウントし、X線検出器13が検出した特性X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち特性X線のスペクトルを取得する処理を行う。信号処理部2は、制御装置3に接続されている。電子レンズ系12が電子線の方向を順次変更することにより、電子線は試料S上を走査しながら試料Sに照射される。電子線が試料Sを走査することにより、試料Sの走査領域内の夫々の部分に電子線が順次照射される。電子線が試料Sを走査することに伴い、試料S上の夫々の部分で発生した特性X線がX線検出器13で順次検出される。信号処理部2は、順次信号処理を行うことにより、試料S上の夫々の部分で発生した特性X線のスペクトルを順次生成する。信号処理部2は、生成した特性X線のスペクトルのデータを制御装置3へ順次出力する。
【0016】
図2は、制御装置3の内部構成を示すブロック図である。制御装置3は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成されている。制御装置3は、演算を行うCPU(Central Processing Unit)31と、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶するRAM(Random Access Memory)32と、光ディスク等の記録媒体4から情報を読み取るドライブ部33と、ハードディスク等の不揮発性の記憶部34とを備えている。また制御装置3は、使用者の操作を受け付けるキーボード又はマウス等の操作部35と、液晶ディスプレイ等の表示部36と、インタフェース部37とを備えている。インタフェース部37には、電子銃11、電子レンズ系12、及び信号処理部2が接続されている。CPU31は、記録媒体4に記録されたコンピュータプログラム41をドライブ部33に読み取らせ、読み取ったコンピュータプログラム41を記憶部34に記憶させる。コンピュータプログラム41は必要に応じて記憶部34からRAM32へロードされ、CPU31は、ロードされたコンピュータプログラム41に従って、X線分析装置に必要な処理を実行する。なお、コンピュータプログラム41は、制御装置3の外部からダウンロードされてもよい。制御装置3は、信号処理部2から出力された特性X線のスペクトルのデータをインタフェース部37で受け付け、記憶部34に記憶する。また、制御装置3は、インタフェース部37に接続された電子レンズ系12の動作を制御する。
【0017】
試料Sに含まれる元素は、試料Sから得られる特性X線のスペクトルから同定される。図3は、特性X線のスペクトルの例を示す特性図である。図中の横軸はエネルギーであり、縦軸は各エネルギーの特性X線のカウント数である。図3中に示すスペクトルには、A、B及びCで示したピークが含まれる。種々の元素に起因するピークのエネルギーは予め知られており、各元素に起因するピークのエネルギーとスペクトルに含まれるピークのエネルギーとを比較することにより、スペクトルに含まれるピークに対応する元素が同定される。同定された元素は、試料Sに含まれている。Aで示したピークは元素Aに起因するピークであり、Bで示したピークは元素Bに起因するピークであり、Cで示したピークは元素Cに起因するピークであるとする。
【0018】
元素が同定された後は、ROIの設定が可能となる。図4は、ROIの例を示す特性図である。特性X線のエネルギーの内、元素Aのピークの強度がバックグラウンド信号の強度以上になっているエネルギーの範囲が元素AのROIとして設定されている。元素BのROI及び元素CのROIも同様に設定されている。なお、各ピークの半値幅をROIのエネルギー幅として設定する等、その他の方法で、ROIとして設定するエネルギーの範囲を定められてもよい。
【0019】
図5は、X線分析装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。使用者は、予め得られた特性X線のスペクトルから試料Sに含まれる元素を同定しておき、操作部35を操作して、同定した元素に対応したROIを予め設定しておく。予め設定されたROIを示すデータは、記憶部34に記憶されている。但し、ROIが予め設定されていない状態でも、X線分析装置は、以下の処理を実行することができる。使用者の操作により操作部35で受け付けた指示等のトリガに応じて、CPU31がインタフェース部37から電子銃11及び電子レンズ系12へ制御信号を送信することにより、X線分析装置は処理を開始する。電子銃11が電子線を放出し、電子レンズ系12が制御装置3からの制御に従って電子線の方向を調整することにより、電子線で試料Sを走査し、X線検出器13は特性X線を検出する(S1)。電子レンズ系12は、試料S上の定められた広さの領域を二次元的に走査する。X線検出器13は、検出した特性X線のエネルギーに応じた信号を信号処理部2へ出力する。信号処理部2は、走査の進展に応じて、試料S上の夫々の部分で発生した特性X線のスペクトルを順次生成する。また、CPU31は、既に設定されているROIを示すデータを記憶部34から読み出し、インタフェース部37から信号処理部2へ出力し、信号処理部2は、ROIを示すデータを受け付ける。
【0020】
信号処理部2は、生成した特性X線のスペクトルから、受け付けたデータが示すROIにエネルギーが含まれている特性X線のカウント数を取得し、取得したカウント数と特性X線が発生した試料S上の各部分とを対応させることによって、ROIを設定してある元素の分布を生成する(S2)。信号処理部2は、複数の元素のROIが設定されている場合には、夫々のROIにエネルギーが含まれている特性X線のカウント数を用いて、夫々の元素について元素分布を生成する。信号処理部2は、生成した元素分布のデータを制御装置3へ出力する。制御装置3は、元素分布のデータをインタフェース部37で受け付け、CPU31は、元素分布のデータを記憶部34に記憶させる。なお、ROIが全く設定されていない場合は、ステップS2の処理はスキップされる。信号処理部2は、次に、特性X線のスペクトルから、既に設定されているROIにエネルギーが含まれていない特性X線のカウント数を取得し、取得したカウント数と特性X線が発生した試料S上の各部分とを対応させることによって、既に設定されているROIにエネルギーが含まれていない特性X線の強度分布を生成する(S3)。
【0021】
CPU31は、次に、ステップS2で生成した元素分布を表した元素分布画像を表示部36に表示させる(S4)。元素分布画像は、試料S上の夫々の部分に含有される各元素の量が表現された画像である。図6A図6B及び図6Cは、元素分布画像の例を示す模式図である。図6Aは元素Aの分布を示し、図6Bは元素Bの分布を示し、図6Cは元素Cの分布を示している。図中のハッチングの部分は、試料S上で各元素に起因する特性X線の強度が高い部分、即ち試料S上で各元素の含有量が高い領域を示している。ステップS4では、図6A図6B又は図6Cに示す如き元素分布画像が表示部36に表示される。なお、図6A図6B及び図6Cには、複数の元素分布画像を個別に示しているが、X線分析装置は、複数の元素の分布を一つの画像で表した元素分布画像を表示する形態であってもよい。なお、ROIが全く設定されていない場合は、CPU31は、元素分布画像を表示部36に表示させない。
【0022】
CPU31は、次に、使用者の操作により操作部35で終了の指示を受け付けたか、予め定められた数の元素の分布が得られたか、又は予め定められた所定の時間が経過した等の所定の条件に応じて、処理を続行するか否かを判定する(S5)。処理を続行しない場合は(S5:NO)、CPU31は処理を終了する。処理を続行する場合は(S5:YES)、CPU31は、予め定められた数の元素の分布が得られたか等の所定の条件に応じて、既に同定されている元素に加えて新たな元素の検出を行うか否かを判定する(S6)。新たな元素の検出を行わないと判定された場合は(S6:NO)、CPU31は、処理をステップS1へ戻し、走査を繰り返す。
【0023】
新たな元素の検出を行うと判定された場合は(S6:YES)、信号処理部2は、次に、ステップS3で生成した強度分布中で特性X線の強度が特定の強度よりも高い部分に対応する試料S上の領域を特定する(S7)。特定の強度としては、予め定められている値を用いてもよく、強度分布に含まれている特性X線の強度を平均した値を用いてもよい。図7は、ROIにエネルギーが含まれていない特性X線の強度分布の例を示す模式図である。図中のハッチングの部分は、特性X線の強度が高い部分を示しており、ステップS7で特定された領域に対応する。図7に示した例では、図6Aに示した元素A、図6Bに示した元素B及び図6Cに示した元素Cの含有量が高い領域に対応する部分で特性X線の強度が低くなっている。ステップS7で特定された領域では、既に同定されている元素には起因しない特性X線の強度が高いので、既に同定されている元素とは異なる元素が含有されている可能性がある。
【0024】
CPU31は、次に、電子銃11及び電子レンズ系12を動作させて電子線で試料Sを走査させ、X線検出器13は特性X線を検出する(S8)。信号処理部2は、X線検出器13が検出した特性X線のスペクトルを順次生成し、ステップS7で特定した領域内の各部分から発生した特性X線のスペクトルを積算することにより、走査が終了した段階で、特定した試料S上の領域から発生した特性X線のスペクトルを生成する(S9)。なお、複数の特性X線のスペクトルを平均することによってスペクトルを生成してもよい。信号処理部2は、スペクトルのデータを制御装置3へ出力する。制御装置3は、元素分布のデータをインタフェース部37で受け付け、CPU31は、スペクトルのデータを記憶部34に記憶させる。生成した特性X線のスペクトルは、ステップS7で特定した試料S上の領域に含まれる元素の含有量に応じたスペクトルである。
【0025】
図8は、ステップS9で生成される特性X線のスペクトルの例を示す特性図である。既に同定されている元素の含有量が高い領域からの特性X線は含まれていないので、元素A、元素B及び元素Cに起因するピークの強度は小さい。また、スペクトルは、既に同定されている元素とは異なる元素が含有されている可能性がある領域からの特性X線のスペクトルであるので、既に同定されている元素とは異なる元素が試料Sに含まれている場合は、その元素に起因するピークがスペクトルに含まれる。既に同定されている元素とは異なる元素に起因するピークは、相対的に大きなピークとなって表れる。図8では、元素A、元素B及び元素Cの何れとも無関係なピークをDで示している。Dで示したピークは元素Dに起因するピークであるとする。
【0026】
CPU31は、次に、生成した特性X線のスペクトルに含まれるピークに基づいて、試料Sに含まれる新たな元素を同定する処理を行う(S10)。記憶部34は、種々の元素に対応する特性X線のエネルギーを記録したデータを予め記憶している。ステップS10では、CPU31は、特性X線のスペクトルに含まれるピークを検出し、検出したピークのエネルギーを特定する。CPU31は、特定したエネルギーと種々の元素に対応する特性X線のエネルギーとを比較することによって、元素を同定する。例えば、図8中にDで示したピークが起因する元素Dが同定される。
【0027】
CPU31は、次に、新たに同定した元素に対応する特性X線のエネルギー範囲である新たなROIを設定する(S11)。具体的には、CPU31は、元素を同定するために用いたスペクトル中のピークが含まれるエネルギー範囲をROIに設定する。なお、各ピークの半値幅をROIのエネルギー幅として設定する等、その他の方法で、ROIとして設定するエネルギーの範囲を定めてもよい。ステップS11では、例えば元素DのROIが設定される。
【0028】
CPU31は、次に、処理をステップS1へ戻す。このとき、CPU31は、ステップS11で設定したROIを示すデータを、インタフェース部37から信号処理部2へ出力し、信号処理部2は、ROIを示すデータを受け付ける。その後、ステップS2で、新たに設定されたROIに基づいて、新たに同定された元素の試料S上での元素分布が生成され、ステップS4で、新たな元素分布画像が表示部36に表示される。図9は、新たな元素分布画像の例を示す模式図である。図9には、元素A、元素B及び元素Cの何れとも異なる元素Dの分布を示し、図中のハッチングの部分は、試料S上で元素Dの含有量が高い領域を示している。元素A、元素B及び元素Cよりも含有量が低く、より狭い領域に偏在している元素Dの分布が得られている。
【0029】
ステップS1〜S11の処理が繰り返されることにより、試料Sに含まれる元素が順次同定され、同定された元素の元素分布画像が表示部36に順次表示される。使用者は、表示された元素分布画像を確認することができる。使用者は、適度な数の元素が同定され、元素分布画像が表示された段階で、操作部35を操作して、X線分析装置の処理を終了させることができる。また、特性X線のスペクトルの生成と元素分布の生成とをハードウェアである信号処理部2で実行しているので、元素分布画像の迅速な表示が容易となる。
【0030】
以上詳述したように、本発明のX線分析装置では、ROIを利用して試料Sの元素分布を生成し、既に設定してあるROIにエネルギーが含まれていない特性X線の強度が高い試料S上の領域を特定し、特定した領域から得られる特性X線のスペクトルを生成し、生成したスペクトルから、ROIを設定していない元素を同定する。特定した領域では、既にROIが設定されている元素には起因しない特性X線の強度が高いので、新たな元素が含有されている可能性がある。特性X線を取得する領域が、新たな元素が含有されている可能性のある領域に限定されるので、特性X線を取得する領域中で新たな元素が含有されている領域の割合が相対的に大きくなる。このため、特性X線のスペクトルでは、新たな元素に起因するピークが相対的に大きくなる。即ち、試料S全体から得られた特性X線のスペクトルではバックグラウンド又は他のピークに埋もれていた微量元素のピークが、検出可能なピークとなる。このため、微量元素の同定が容易になる。また、X線分析装置は、同定した元素に対応するROIを設定して元素分布を生成する。同定した微量元素が偏在していたとしても、微量元素の分布を生成することができる。更に、X線分析装置は、領域の特定、特性X線のスペクトルの生成、元素の同定、ROIの設定、試料の走査、及び元素分布の生成を繰り返す。ROIの設定漏れが無くなり、微量元素を含む試料S中の元素を可及的に網羅することが可能となる。特性X線の検出結果から微量元素の分布を生成することができるので、元素分布画像以外の画像を元に微量元素の分布を生成するために必要であった手間及び時間が不必要となる。従って、本発明では、試料Sに含まれる元素を可及的に網羅した元素分布を容易にしかも迅速に生成することが可能となる。
【0031】
なお、X線分析装置が実行する処理の内、ステップS9では、CPU31は、既に設定されているROIを除外したエネルギー範囲で特性X線のスペクトルを生成してもよい。この場合のスペクトルには、既に設定されているROIに対応する特性X線のカウント数が含まれておらず、既に同定されている元素に起因するピークが含まれない。このため、既に同定されている元素とは異なる元素が試料Sに含まれている場合は、その元素に起因するピークがより明確にスペクトル中に現れる。
【0032】
また、本実施の形態においては、ステップS1〜S11の処理で試料Sの走査を繰り返す形態を示したが、X線分析装置は、試料Sを走査する回数をより少なくした形態であってもよい。例えば、X線分析装置は、ステップS1で試料Sの走査を行ったときのデータを記憶部34に記憶し、記憶したデータに基づいてステップS2以降の処理を実行する形態であってもよい。この形態では、X線分析装置は、ステップS8での走査を実行することなく、記憶部34に記憶したデータに基づいて、スペクトルの生成、元素の同定及び元素分布の生成等の処理を実行する。この形態においても、X線分析装置は、試料Sに含まれる元素を可及的に網羅した元素分布を容易にしかも迅速に生成することができる。
【0033】
また、本実施の形態においては、X線分析装置が元素分布画像を表示する形態を示したが、X線分析装置は、元素分布画像を表示しない形態であってもよい。例えば、X線分析装置は、元素分布画像を表示せずに、同定した元素の名前又は同定した元素の数等、処理の進捗状況を示す情報を表示部36に表示する形態であってもよい。
【0034】
また、本実施の形態においては、X線検出器13を電子線の軸に交差する位置に配置した形態を示したが、X線分析装置は、X線検出器13を他の位置に配置した形態であってもよい。例えば、X線分析装置は、電子レンズ系12の脇にX線検出器13を配置した形態であってもよい。また、本実施の形態においては、特性X線をエネルギー別に分離して検出するエネルギー分散型の形態を示したが、X線分析装置は、特性X線を波長別に分離して検出する波長分散型の形態であってもよい。この形態では、X線分析装置は、特性X線の波長とカウント数とが対応づけられたスペクトルを生成し、また、ROIとして特定の元素に対応する特性X線の波長範囲を設定する処理を行う。また、本実施の形態においては、X線検出器13はSDDを用いた半導体検出器であるとしたが、X線検出器13は、SDD以外の半導体検出器であってもよく、半導体検出器以外の検出器であってもよい。
【0035】
また、信号処理部2は、本実施の形態で説明した制御装置3の処理の一部を実行する形態であってもよく、また、制御装置3は、本実施の形態で説明した信号処理部2の処理の一部を実行する形態であってもよい。また、X線分析装置は、信号処理部2と制御装置3とが一体になった形態であってもよい。また、本実施の形態に係るX線分析装置は、SEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)に組み込まれた形態であってもよい。この形態では、X線分析装置には、SEM又はTEM用に、反射電子、二次電子又は透過電子等の電子を検出する検出器と、検出器からの信号を処理する信号処理部とが備えられる。また、この形態では、X線分析装置は、ステップS7でROIにエネルギーが含まれない特性X線の強度が高い部分に対応する試料S上の領域を特定する際に、反射電子、二次電子又は透過電子の強度のコントラストに基づいて領域を特定する処理を行ってもよい。
【0036】
また、本実施の形態においては、電子線を用いて試料Sを走査する形態を示したが、X線分析装置は、その他のビームを用いて試料Sを走査する形態であってもよい。例えば、X線分析装置は、X線のビームを用いて試料Sを走査する形態であってもよい。この形態では、X線分析装置は、電子銃11の代わりにX線源を備え、電子レンズ系12を備えておらず、試料台14を水平方向に移動させる手段を備える。X線分析装置は、X線のビームを試料Sへ照射しながら、試料台14を動かしてX線照射位置を移動させることにより、X線のビームで試料Sを走査する。X線検出器13は、試料Sから発生する蛍光X線を検出する。また、X線分析装置は、荷電粒子のビームを用いて試料Sを走査する形態であってもよい。これら形態においても、X線分析装置は、試料Sに含まれる元素を可及的に網羅した元素分布を生成することができる。
【符号の説明】
【0037】
11 電子銃
12 電子レンズ系
13 X線検出器
14 試料台
2 信号処理部
3 制御装置
31 CPU
34 記憶部
36 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9