(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分子中に2つ以上のハロゲン原子を有するハロゲン化合物の存在下でビニルエステルを重合させてポリビニルエステルを得た後、該ポリビニルエステルをけん化する請求項1に記載の懸濁重合用分散剤の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)は水溶性の合成高分子として知られている。PVAは他の合成高分子と比べて強度特性および造膜性が特に優れている。そのため、PVAは、フィルムおよび繊維の原料、紙加工および繊維加工用の添加剤、接着剤、乳化重合および懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー等として用いられている。このように、PVAは、種々の用途において重用されている。
【0003】
PVAは塩化ビニルの懸濁重合用の分散剤として一般的に用いられている。懸濁重合では、水性媒体中に分散させたビニル化合物を油溶性の触媒を用いて重合させることにより、粒子状のビニル重合体が得られる。その際、得られる重合体の品質向上を目的として、分散剤が水性媒体に添加される。ビニル化合物を懸濁重合して得られるビニル重合体の品質を支配する因子には、重合率、水とビニル化合物(単量体)との比、重合温度、油溶性触媒の種類および量、重合容器の型式、重合容器における内容物の攪拌速度、ならびに分散剤の種類などがある。なかでも分散剤の種類が、ビニル重合体の品質に大きな影響を与える。
【0004】
ビニル化合物の懸濁重合に用いられる分散剤には、(1)重合時に粗大粒子の形成量が少なく、かつ粒径分布がシャープであるビニル重合体が得られること、ならびに(2)粒子のポロシティーが高く、可塑剤の吸収性が高いビニル重合体が得られることが求められる。従来、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、および部分けん化PVAが、単独でまたは組み合わされて、分散剤として使用されている。しかし、これらの分散剤では、上記(1)および(2)の実現が困難であった。
【0005】
非特許文献1(高分子刊行会1984年発行「ポバール」369〜373ページおよび411〜415ページ)には、塩化ビニルの懸濁重合に用いる分散剤として、重合度が2000、けん化度が80モル%のPVAならびに重合度が700〜800、けん化度が70モル%のPVAが開示されている。しかし、これらの分散剤では、上記(1)、(2)を十分に実現できなかった。
【0006】
特許文献1(特公平5−88251号公報)には、平均重合度が500以上、重量平均重合度Pwと数平均重合度Pnとの比(Pw/Pn)が3.0 以下であり、カルボニル基とこれに隣接するビニレン基とを含む構造[−CO−(CH=CH−)
2]を有し、0.1%水溶液の波長280nmおよび320nmでの吸光度が各々0.3以上および0.15以上であり、かつ波長280nmでの吸光度(a)に対する波長320nmでの吸光度(b)の比(b)/(a)が0.30以上のPVAからなる分散剤が開示されている。
【0007】
特許文献2(特開平5−105702号公報)には、けん化度が75〜85モル%、0.1重量%水溶液の波長280nmにおける吸光度が0.1以上、カルボキシル基の含有量が0.01〜0.15モル%、かつ0.1重量%水溶液の曇点が50℃以上のPVAからなる分散剤が開示されている。
【0008】
特許文献3(特開平8−208724号公報)には、分子内に上記構造[−CO−(CH=CH−)
2]を有し、1重量%水溶液の波長280nmにおける吸光度が2.5以上、平均重合度が500以上、けん化度が60〜90モル%、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)が2.5以下、けん化度に関するブロックキャラクターが0.45以下、かつメタノール可溶分が10重量%以下のPVAからなる懸濁重合用分散剤が開示されている。
【0009】
特許文献4(特開2007−063369号公報)には、マレイン酸誘導体とビニルエステル単量体を共重合させた後にけん化してカルボキシル基含有PVAを得た後、洗浄、乾燥を行って、当該カルボキシル基を起点とするエチレン性二重結合を、主鎖にランダムに導入することによって得られるPVAからなる懸濁重合用分散剤が開示されている。
【0010】
特許文献5(国際公開第2008/96727号)には、一酸化炭素とビニルエステル単量体を共重合させた後にけん化した後、洗浄、乾燥を行って得られる、分子主鎖にエノン構造を導入したPVAからなる懸濁重合用分散剤が開示されている。
【0011】
しかし、特許文献1〜5に開示の分散剤では、上記(1)、(2)を十分に実現できない場合があった。また強い紫外光吸収を持つPVAは、加熱により容易に着色する為、成形後のビニル重合体の色相に悪影響を与える場合があった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のビニル化合物の懸濁重合用分散剤は、けん化度が65モル%〜90モル%であり、かつ下記式(1)〜(3)を満たすPVAからなるものである。
0.4≦(Mw
UV/Mw
RI)≦0.95 (1)
3≦(Mw
UV/Mn
UV)≦12 (2)
0.1≦A
220≦0.8 (3)
【0021】
Mw
UV:GPC測定における、吸光光度検出器(測定波長220nm)によって求められる、前記PVAの重量平均分子量
Mw
RI:GPC測定における、示差屈折率検出器によって求められる、前記PVAの重量平均分子量
Mn
UV:GPC測定における、吸光光度検出器(測定波長220nm)によって求められる、前記PVAの数平均分子量
A
220:前記PVAの0.1質量%水溶液の吸光度(光路長10mm、測定波長220nm)
【0022】
但し、前記GPC測定において、移動相としてヘキサフルオロイソプロパノール(以下、ヘキサフルオロイソプロパノールをHFIPと略記することがある。)を用いる。Mw
UV、Mw
RIおよびMn
UVはポリメタクリル酸メチル(以下、「PMMA」と略記することがある)換算の分子量である。なお、前記PVAにおける波長220nmの紫外光の吸収は[−CO−(CH=CH−)
1]の構造に由来するものである。
【0023】
本発明のGPC測定では、示差屈折率検出器および吸光光度検出器を有し、これらの検出器による測定を同時に行うことのできるGPC装置が用いられる。吸光光度検出器としては、波長220nmにおける吸光度を測定できるものである必要がある。測定に供されたPVAは、GPCカラムによって各分子量成分に分離される。各分子量成分の濃度は示差屈折率検出器にて測定され、各分子量成分の吸光度(測定波長220nm)は吸光光度検出器にて測定される。本発明のGPC測定においては、標品となる分子量の異なる単分散のPMMAを数種類測定し、GPC溶出容量と標品のPMMAの分子量から検量線を作成する。得られた検量線を用いて、PVAの溶出容量から当該PVAのPMMA換算の分子量を求める。本発明においては、示差屈折率検出器による測定には当該検出器を用いて作成した検量線を使用し、吸光光度検出器による測定には当該検出器を用いて作成した検量線を使用する。こうして、示差屈折率検出器により、各分子量成分の濃度が測定され、吸光光度検出器により、各分子量成分の吸光度(測定波長220nm)が測定される。
【0024】
吸光光度検出器としては、特定波長の紫外光の吸収を測定する検出器でも、特定範囲の波長の紫外光の吸収を分光測定する検出器でもよい。
【0025】
上記GPC測定においてサンプル溶解に用いる溶媒および移動相として、HFIPが用いられる。HFIPは、PVAおよびPMMAを溶解可能である。また、試料のGPCカラム充填剤への吸着を抑制するために、HFIPに対してトリフルオロ酢酸ナトリウムなどの塩を添加しても良い。塩の濃度は、前記PVAを正常に分離できる範囲であれば特に制限はないが、通常、1〜100ミリモル/リットル、好ましくは5〜50ミリモル/リットルである。
【0026】
上記GPC測定における試料(PVA)濃度は、通常1.00mg/mlとし、注入量は100μlとする。
【0027】
前記PVAの重量平均分子量Mw
UV、および数平均分子量Mn
UVは、GPC溶出容量から換算された当該PVAの分子量に対して、吸光光度検出器(測定波長220nm)で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから求められる。前記PVAの重量平均分子量Mw
RIは、GPC溶出容量から換算された当該PVAの分子量に対して、示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから求められる。本発明において、Mw
UV、Mw
RIおよびMn
UVは、PMMA換算の値である。
【0028】
前記PVAは、下記式(1)を満たす必要がある。
0.4≦(Mw
UV/Mw
RI)≦0.95 (1)
上記式(1)に示されるとおりMw
RIがMw
UVよりも大きいのは、特に低分子量成分が波長220nmの紫外光を吸収することに起因すると考えられる。Mw
RIは前記PVA全体の重量平均分子量に相当し、Mw
Uvは、前記PVA中に含まれる、波長220nmの紫外線を吸収する構造(分子鎖中の二重結合)を有する成分の重量平均分子量に相当する。したがって、(Mw
UV/Mw
RI)が0.95以下であることは、二重結合が、PVA中の低分子量成分に対して選択的に導入されていることを表している。通常、分散剤としてPVAを用いて懸濁重合を行った場合、当該PVA中の低分子量成分の安定性が乏しいため、粗大粒子の形成量が多くなることがある。それに対して、上記のように、前記PVA中の低分子量成分の分子鎖中に二重結合が導入されることにより、安定性が向上する。したがって、(Mw
UV/Mw
RI)が0.95以下である場合は高い重合安定性が発現する。上記式(1)を満たすPVAは、例えば、PVAの製造時における、けん化後に行う乾燥方法として、後述する方法を採用することによって得ることができる。
【0029】
一方、(Mw
UV/Mw
RI)が0.4未満の場合は、二重結合の導入量が多すぎて、重合中に粗大粒子が発生したり、得られるビニル重合体の色相に悪影響が及んだりする場合がある。また、前記PVAが上記式(1)を満たさない場合には、得られる分散剤を使用して重合を行った場合に、多量の粗大粒子が形成され、得られるビニル重合体の粒径分布が広くなり品質が低下する場合がある。前記PVAが下記式(1’)を満たすことが好ましく、下記式(1’’)を満たすことがより好ましく、下記式(1’’’)を満たすことが特に好ましい。
0.43≦(Mw
UV/Mw
RI)≦0.90 (1’)
0.46≦(Mw
UV/Mw
RI)≦0.85 (1’’)
0.50≦(Mw
UV/Mw
RI)≦0.80 (1’’’)
【0030】
前記PVAは、下記式(2)を満たす必要がある。
3≦(Mw
UV/Mn
UV)≦12 (2)
(Mw
UV/Mn
UV)が3未満の場合には、得られる分散剤を用いて懸濁重合を行った場合に、粗大粒子の形成量が多くなる場合がある。一方、(Mw
UV/Mn
UV)が12を超える場合も多量の粗大粒子が形成され、得られるビニル重合体の粒径分布が広くなり品質が低下する場合がある。前記PVAが下記式(2’)を満たすことが好ましく、下記式(2’’)を満たすことがより好ましく、下記式(2’’’)を満たすことが特に好ましい。
3.2≦(Mw
UV/Mn
UV)≦11.0 (2’)
3.4≦(Mw
UV/Mn
UV)≦10.0 (2’’)
3.5≦(Mw
UV/Mn
UV)≦9.0 (2’’’)
【0031】
前記吸光度A
220の測定には、光路長が10mmのセルを用いる。測定波長は220nmとする。前記PVAを蒸留水に溶解して0.1質量%水溶液を調製し、測定に供する。
【0032】
前記PVAは、下記式(3)を満たす必要がある。
0.1≦A
220≦0.8 (3)
前記PVAの0.1質量%水溶液の吸光度A
220が0.1未満の場合には、得られる分散剤を用いて懸濁重合を行った場合に、粗大粒子の形成量が多くなる場合がある。一方、0.80を超える場合は、得られるビニル重合体粒子のポロシティーが低く、可塑剤吸収性が十分でない場合や、得られるビニル重合体の色相に悪影響を及ぼす場合がある。
【0033】
前記PVAのけん化度は65〜90モル%であり、68%〜85%がより好ましく、68〜80モル%が特に好ましい。けん化度が65モル%未満では、PVAが水に不溶となる場合がある。一方、けん化度が90モル%を超えると、得られる分散剤を用いて懸濁重合を行った場合に、多量の粗大粒子が形成される場合がある。また得られるビニル重合体粒子のポロシティーが低く、可塑剤吸収性が十分でない場合がある。
【0034】
上記けん化度は、JIS−K6726に記載されているけん化度の測定方法により測定される。このとき、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位以外の単位については、仮に含まれているとしても少量であるので無視する。
【0035】
前記PVAの粘度平均重合度は200〜3000が好ましく、400〜2000がより好ましく、500〜1000が特に好ましい。粘度平均重合度が200未満では、工業的生産が難しくなるおそれがある。また、得られる分散剤を使用してビニル化合物の懸濁重合を行った場合に、重合安定性が低下する場合がある。一方、粘度平均重合度が3000を超えると、得られる分散剤を使用して重合を行った場合に、得られるビニル重合体粒子のポロシティーが低く、可塑剤吸収性が十分でない場合がある。
【0036】
上記粘度平均重合度は、JIS−K6726に準じて測定される。具体的には、PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:リットル/g)から、以下の式により算出できる。
重合度=([η]×10000/8.29)
(1/0.62)
【0037】
前記PVAの製造方法は
、ビニルエステルを重合した後に、けん化する方法
である。前記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0038】
上述したPVAの分子量分布を調整し易い観点から、アルデヒド、または分子中に2つ以上のハロゲン原子を有するハロゲン化合物の存在下でビニルエステルを重合させてポリビニルエステルを得た後、該ポリビニルエステルをけん化することにより前記PVAを
得る。前記アルデヒドやハロゲン化合物は、連鎖移動剤として作用することにより低分子量のポリビニルエステルを生成させるとともに、その後のけん化、乾燥の過程で波長220nmの紫外光を吸収する化学構造を生成させると考えられる。したがって、これらの添加量を変えることにより、上述したPVAの分子量分布を調整できる。
【0039】
ビニルエステルの重合に用いる前記アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン等のモノアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド等のジアルデヒドが挙げられるが、なかでもアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドが好適に用いられる。
【0040】
上記製造方法において、添加する前記アルデヒドの量はビニルエステルとアルデヒドの合計モル数に対して1.0〜8モル%
であり、1.2〜7モル%が
好ましく、1.5〜6モル%が
より好ましい。アルデヒドの量が1.0モル%未満の場合には、式(1)のMw
UV/Mw
RIが0.95を上回ったり、式(2)のMw
UV/Mn
UVが3を下回ったり、式(3)のA
220が0.1を下回る場合がある。また8モル%を超える場合には、式(1)のMw
UV/Mw
RIが0.4を下回ったり、式(3)のA
220が0.8を上回る場合がある。
【0041】
ビニルエステルの重合に用いる分子中に2つ以上のハロゲン原子を有するハロゲン化合物としては、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、テトラブロモメタン、ジヨードメタン、トリヨードメタン、テトラヨードメタン、ブロモクロロメタン等のハロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ペンタブロモエタン、ヘキサブロモエタン等のハロエタンが挙げられるが、なかでもトリクロロメタン、テトラクロロメタン、トリブロモメタン、テトラブロモメタンが好適に用いられる。
【0042】
上記製造方法において、添加する前記ハロゲン化合物の量はビニルエステルとハロゲン化合物の合計モル数に対して0.05〜0.7モル%
であり、0.07〜0.6モル%が
好ましく、0.1〜0.5モル%が
より好ましい。ハロゲン化合物の量が0.05モル%未満の場合には、式(1)のMw
UV/Mw
RIが0.95を上回ったり、式(2)のMw
UV/Mn
UVが3を下回ったり、式(3)のA
220が0.1を下回る場合がある。また0.7モル%を超える場合には、式(1)のMw
UV/Mw
RIが0.4を下回ったり、式(3)のA
220が0.8を上回る場合がある。
【0043】
ビニルエステルの重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など任意の重合方法を採用することができる。また重合は、無溶媒またはアルコール系溶媒の存在下で行うことができる。その中でも、無溶媒の塊状重合法およびアルコール系溶媒を用いた溶液重合法が好適に採用される。アルコール系溶媒は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどを単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0044】
重合の方式は特に限定されず、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよいが、特定の分子量分布範囲のPVAを得る為には、回分重合が好ましく、また連続重合であれば2つ以上の反応器を連続的に接続して重合を行うことが好ましい。
【0045】
重合の際のビニルエステルの重合率は特に限定されないが、上記分子量分布を有するPVAを得易い観点から、50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が特に好ましい。重合率が50%未満の場合には式(2)のMw
UV/Mn
UVが3を下回る場合がある。
【0046】
ビニルエステルを重合する際の温度(重合温度)は特に限定されない。重合温度は、0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。当該温度が0℃より低い場合、十分な重合速度が得られないことがある。当該温度が200℃より高い場合、使用するビニルエステルの分解が懸念される。
【0047】
ビニルエステルの重合温度の制御方法は特に限定されない。当該制御方法としては、例えば、重合速度の制御により、重合により生成する熱と、重合容器表面からの放熱とのバランスをとる方法が挙げられる。また、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法も挙げられる。安全性の面からは、後者の方法が好ましい。
【0048】
ビニルエステルを重合する際に使用される重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の開始剤(例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤など)から選択すればよい。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネートなどのパーエステル化合物; アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。これらの開始剤に、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを組み合わせて開始剤としてもよい。レドックス系開始剤としては、例えば、上記過酸化物と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた開始剤が挙げられる。重合を高温で行った場合に、ビニルエステルの分解が起こる事がある。その場合、分解の防止を目的として、酒石酸のような酸化防止剤を、ビニルエステルに対して1〜100ppm程度、重合系に添加することはなんら差し支えない。
【0049】
ビニルエステルの重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で、他の単量体を共重合してもよい。当該他の単量体としては例えば、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類;(メタ)アクリル酸およびその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体などの(メタ)アクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類; 酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。このような他の単量体の共重合量は、通常5モル%以下である。
【0050】
得られたポリビニルエステルのけん化方法は特に限定されず公知のけん化方法を採用できる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性触媒やp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いた、加アルコール分解反応または加水分解反応が挙げられる。この反応に使用しうる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル;アセトンメチルエチルケトンなどのケトン:ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、メタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒を用いてけん化することが簡便であり好ましい。
【0051】
塩基性触媒の使用量は、得られたポリビニルエステル中のビニルエステル単位を基準にしたモル比で0.002〜0.2であることが好ましく、0.004〜0.1であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加しても良い。
【0052】
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間は、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
【0053】
けん化反応時に添加したアルカリ金属からなるアルカリ性物質は、通常、けん化反応の進行により生じる酢酸メチルなどのエステルあるいはけん化後に添加された酢酸などの有機酸などにより中和され、酢酸ナトリウムなどの有機酸のアルカリ金属塩となる。本発明のPVA中の有機酸のアルカリ金属塩の含有量は特に限定されないが、通常2.5質量%以下である。このようなPVAを得るために、得られたPVAを洗浄液で洗浄しても良い。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、混合液として用いてもよい。これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水が好ましい。
【0054】
こうして得られたPVAから残留する洗浄液を除去し、乾燥させる。洗浄液の除去及び乾燥の方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができるが、分子量分布を調整し易い観点から、乾燥機内の酸素濃度を10%未満、粉体の温度を90〜120℃に制御した状態で、2〜6時間乾燥
する。粉体の温度が90℃を下回る場合には式(2)のMw
UV/Mn
UVが3を下回ったり、式(3)のA
220が0.1を下回る場合がある。また120℃を超える場合には、式(1)のMw
UV/Mw
RIが0.95を上回ったり、式(2)のMw
UV/Mn
UVが12を上回ったり、式(3)のA
220が0.8を上回る場合がある。乾燥時間が2時間未満の場合には式(2)のMw
UV/Mn
UVが3を下回ったり、式(3)のA
220が0.1を下回る場合がある。また6時間を超える場合には、式(1)のMw
UV/Mw
RIが0.95を上回ったり、式(2)のMw
UV/Mn
UVが12を上回ったり、式(3)のA
220が0.8を上回る場合がある。
【0055】
こうして得られる前記PVAはビニル化合物の懸濁重合用分散剤として有用である。本発明の分散剤には、必要に応じて、懸濁重合に通常使用される防腐剤、防黴剤、ブロッキング防止剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。このような添加剤の含有量は通常、1.0質量%以下である。
【0056】
本発明の分散剤の存在下でビニル化合物を懸濁重合するビニル重合体の製造方法が本発明の好適な実施態様である。原料の単量体として用いられるビニル化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル単量体;(メタ)アクリル酸これらのエステルおよび塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステルおよび無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらのうち、塩化ビニルを単独で、または塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合することが好適である。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0057】
前記懸濁重合に使用する媒体として水性媒体が好ましい。当該水性媒体としては、水、または水及び有機溶剤を含有するものが挙げられる。前記水性媒体中の水の量は、90質量%以上が好ましい。
【0058】
前記懸濁重合における、前記分散剤の使用量は特に制限はないが、通常ビニル化合物100質量部に対して1質量部以下であり、0.01〜0.5質量部が好ましい。
【0059】
ビニル化合物を懸濁重合する際の水性媒体(A)とビニル化合物(B)の質量比A/Bは通常0.9〜2.0である。生産性がより向上する観点からは、A/Bが0.9〜1.2が好ましい。従来、ビニル化合物の割合を高めると重合が不安定化する問題があった。それに対して、本発明の分散剤を用いた場合には、ビニル化合物の割合が高い場合であっても、優れた重合安定性を示し、粗大粒子の形成量が少ない。しかも、ポロシティーがより高く、より可塑剤吸収性が高いビニル重合体が得られる。
【0060】
ビニル化合物の懸濁重合には、従来から塩化ビニル単量体等の重合に使用されている、油溶性または水溶性の重合開始剤を用いることができる。油溶性の重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。水溶性の重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの油溶性あるいは水溶性の重合開始剤は単独で、または2種類以上を組合せて用いることができる。
【0061】
ビニル化合物の懸濁重合に際し、必要に応じて、その他の各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、例えば、アルデヒド、ハロゲン化炭化水素、メルカプタンなどの重合調節剤、フェノール化合物、イオウ化合物、N−オキサイド化合物などの重合禁止剤などが挙げられる。また、pH調整剤、架橋剤なども任意に加えることができる。
【0062】
ビニル化合物の懸濁重合に際し、重合温度には特に制限はなく、20℃程度の低い温度はもとより、90℃を超える高い温度に調整することもできる。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることも好ましい実施態様の一つである。
【0063】
前記懸濁重合において、本発明の分散剤を単独で使用しても良いが、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル;ポリビニルアルコール、ゼラチンなどの水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウムなどの水溶性乳化剤等と共に使用することもできる。
【0064】
前記懸濁重合において、本発明の分散剤と、水溶性または水分散性の分散助剤とを併用することができる。当該分散助剤としては、けん化度が65モル%未満で重合度50〜750の部分けん化PVA 、好ましくはけん化度が30〜60モル%で重合度180〜650の部分けん化PVAが用いられる。また、分散助剤は、カルボン酸やスルホン酸のようなイオン性基などを導入することにより、自己乳化性が付与されたものであってもよい。分散助剤を併用する場合の分散剤と分散助剤の添加量の質量比(分散剤/分散助剤)は、特に限定されないが、20/80〜95/5が好ましく、30/70〜90/10がより好ましい。分散剤と分散助剤は、重合の初期に一括して仕込んでもよいし、あるいは重合の途中で分割して仕込んでもよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例および比較例において「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0066】
実施例1
[PVAの製造]
酢酸ビニル2850g、メタノール150g、アセトアルデヒド75gを反応器に仕込み、窒素ガスのバブリングにより反応器内を窒素置換した。別途、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル5.7gをメタノールに溶解して開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで上記の開始剤溶液を反応器に添加して重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持した。重合開始から7時間後に容器を冷却して重合を停止した。この時点の重合率は90%であった。続いて30℃減圧下、メタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度50%)を得た。
【0067】
このポリ酢酸ビニルのメタノール溶液から一部を採取し、アルカリモル比(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対するアルカリ化合物のモル比)が0.5となるように濃度10%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加し、60℃で5時間放置してけん化を進行させた。けん化終了後、メタノールによるソックスレー抽出を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたPVAを得た。該PVAの重合度をJIS K6726に準じて測定したところ600であった。
【0068】
上述した濃度50%のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニルが30%、水が1%、酢酸メチルが30%およびアルカリモル比が0.010となるように、水、メタノール、酢酸メチルおよび濃度10%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加して、ポリ酢酸ビニルのけん化を行った。アルカリ添加後約3分でゲル化したものを粉砕機にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、遠心脱液を実施した。このPVAを、窒素を吹き込むことにより酸素濃度が10%未満に制御された熱風乾燥機(設定温度100℃)内で、4時間乾燥させた。こうして乾燥されたPVAのけん化度をJIS K6726に準じて測定したところ70モル%であった。
【0069】
[GPC測定]
(測定装置)
VISCOTECH製「GPCmax」を用いてGPC測定を行った。示差屈折率検出器としてVISCOTECH製「TDA305」を用いた。紫外可視吸光光度検出器としてVISCOTECH製「UV Detector2600」を用いた。GPCカラムには昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」を用いた。また、解析ソフトには、装置付属のOmniSEC(Version 4.7.0.406)を用いた。
【0070】
(測定条件)
PVAを、トリフルオロ酢酸ナトリウム20ミリモル/リットルを含有するHFIPに溶解し、1.00mg/ml溶液を調製した。当該溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、測定に用いた。移動相は、PVAの溶解に用いたトリフルオロ酢酸ナトリウムを含有するHFIPと同様のものを用い、1.0ml/分の流速とした。サンプル注入量は100μlとし、GPCカラム温度40℃にて測定した。
【0071】
(検量線の作成)
標品として、Agilent Technologies製のPMMA(ピークトップ分子量:1944000,790000,467400,271400,144000,79250,35300,13300,7100,1960,1020,690)を測定し、上記解析ソフトにおいて、示差屈折率検出器および紫外可視吸光光度検出器のそれぞれについて、検量線を作成した。得られた検量線を用いて溶出量をPMMA分子量に換算した。
【0072】
この装置条件の下で、上記で得られたPVAの測定を行った。GPC溶出容量から換算された前記PVAの分子量に対して、吸光光度検出器(測定波長220nm)で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから重量平均分子量Mw
UV、および数平均分子量Mn
UVを求めた。GPC溶出容量から換算された前記PVAの分子量に対して、示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから重量平均分子量Mw
RIを求めた。これらの値から求めた(Mw
UV/Mw
RI)は0.55であり、(Mw
UV/Mn
UV)は8.6であった。
【0073】
[吸光度測定]
島津製作所社製の吸光光度計「UV2100」を用いて吸光度測定を行った。得られたPVAを水に溶解して0.1質量%水溶液を調製した。そして、当該水溶液をセル(光路長さ10mm)に入れ、波長220nmにおける吸光度を測定した。吸光度は0.30であった。
【0074】
[塩化ビニルの懸濁重合]
上記で得られたPVAを、塩化ビニルに対して1000ppmに相当する量となるように脱イオン水に溶解させ、分散安定剤水溶液1150gを調製した。当該分散安定剤水溶液を、容量5Lのオートクレーブに仕込んだ。次いでオートクレーブにジイソプロピルパーオキシジカーボネートの70%トルエン溶液1.5gを仕込んだ。オートクレーブ内の圧力が0.0067MPaになるまで脱気して酸素を除いた。その後、塩化ビニル1000gを仕込み、オートクレーブ内の内容物を57℃に昇温して、撹拌下に重合を開始した。重合に使用する水(A)と塩化ビニル(B)の質量比A/Bはおよそ1.1であった。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は0.83MPaであった。重合を開始してから7時間が経過し、オートクレーブ内の圧力が0.44MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニルを除去した。その後、重合スラリーを取り出し、65℃にて一晩乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。
【0075】
(塩化ビニル重合体の評価)
塩化ビニル重合体について、平均粒子径、粗大粒子量、可塑剤吸収性、および当該塩化ビニル重合体を成形して得られたシートの着色性を以下の方法にしたがって測定した。評価結果を表2に示す。
【0076】
(1)平均粒子径
タイラーメッシュ基準の金網を使用して、乾式篩分析により粒度分布を測定し、塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径を求めた。
【0077】
(2)粗大粒子量
得られた塩化ビニル重合体粒子における、JIS標準篩い42メッシュオンの含有量(質量%)を測定した。数字が小さいほど粗大粒子が少なくて重合安定性に優れていることを示している。
【0078】
(3)可塑剤吸収性(CPA)
ASTM−D3367−75に記載された方法より、23℃における得られた塩化ビニル重合体粒子のジオクチルフタレート吸収量を測定した。
【0079】
(4)着色性
上記で得られた塩化ビニル重合体粒子を100g、ジブチル錫ビス(マレイン酸モノアラルキルエステル)塩を3g、ピグメントブルー29を0.01g磁性ビーカーに加え混合し、塩化ビニル樹脂組成物を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物をテストロールにより170℃で5分間混練し、厚さ0.4mmのシートを作製した。上記のシートを45×30mmの複数のシート片にカットした。得られたシート片を12〜14枚重ね合わせ、195℃で5分間プレスして厚さ5mmの試験片を作製し、カラーメーター(スガ試験機株式会社製の「SM−T−H」)を用いてイエロー・インデックス(YI)を測定した。
【0080】
実施例2〜9
表1に示すように酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、連鎖移動剤の種類および仕込み量、けん化後の洗浄、乾燥条件を変更した以外は実施例1と同様にしてPVAを得た。なおけん化後にPVAの洗浄を行った場合は、酢酸メチル/メタノール=7/3(質量比)の洗浄液に乾燥前のPVAチップを30分間室温で浸漬した。洗浄液はけん化に用いたポリ酢酸ビニルの質量の5倍質量を用いた。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。
【0081】
表1および表2に示すように、上述した条件を満足する本発明の分散安定剤を用いて塩化ビニルの懸濁重合を行った場合には、粗大粒子の形成が少なく高い重合安定性を示し、平均粒子径が小さい重合体粒子が得られた。また、得られた塩化ビニル重合体粒子は優れた可塑剤吸収性を示した。さらに、得られた塩化ビニル重合体粒子から作製したシートの着色性を評価したところ、着色が抑制されていることもわかった。
【0082】
比較例1、2
表1に示すように酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、重合条件を変えたこと、連鎖移動剤を使用しなかったこと、けん化後の洗浄条件を変更したこと以外は実施例1と同様にしてPVAを得た。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。塩化ビニル単量体の懸濁重合は非常に不安定であり、重合途中に粒子が凝集してブロックが生成した。
【0083】
比較例3、4
けん化後の洗浄条件、乾燥条件を表1に示すとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてPVAを得た。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。けん化反応後の洗浄条件を変更し、さらに乾燥の条件を厳しくしたことにより、二重結合の生成量が多くなったと考えられる。得られた塩化ビニル重合体粒子の可塑剤吸収性が低く、また色相が悪化した。
【0084】
比較例5、6
表1に示すように酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、連鎖移動剤の仕込み量、重合条件、けん化後の洗浄条件を変えたこと以外は実施例1と同様にしてPVAを得た。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。比較例5および6はPVA合成の際に使用する連鎖移動剤(アセトアルデヒド)が少ない場合と、多い場合の例である。いずれの場合も得られた塩化ビニル重合体中の粗大粒子の量が多かった。また連鎖移動剤の量が多い場合(比較例6)には塩化ビニル重合体を用いて製造したシートの色相が悪化した。
【0085】
比較例7
得られたPVAの乾燥条件を表1に示すとおりに変更したこと以外は実施例8と同様にしてPVAを得た。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。けん化反応後の乾燥の条件を厳しくした結果、二重結合の生成量が多くなったと考えられる。得られた塩化ビニル重合体粒子の可塑剤吸収性が低く、また色相が悪化した。
【0086】
比較例8、9
表1に示すように酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、連鎖移動剤の仕込み量、重合条件を変えたこと以外は実施例8と同様にしてPVAを得た。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。比較例8および9はPVA合成の際に使用する連鎖移動剤(テトラクロロメタン)が少ない場合と、多い場合の例である。連鎖移動剤の量が少ない場合(比較例8)には得られた塩化ビニル重合体中の粗大粒子の量が多かった。また連鎖移動剤の量が多い場合(比較例9)には塩化ビニル重合体を用いて製造したシートの色相が悪化した。
【0087】
比較例10
(PVAの製造)
酢酸ビニル1800g、メタノール1200g、無水マレイン酸5gを反応器に仕込み、窒素ガスのバブリングにより反応器内を窒素置換した。別途、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2.0gをメタノールに溶解して開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで上記の開始剤溶液を反応器に添加して重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持した。重合開始から4時間かけて無水マレイン酸の20%メタノール溶液を添加した。重合率が60%になったところで容器を冷却して重合を停止した。続いて30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニル単量体の除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度50%)を得た。得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を用いて実施例1と同様にして重合度測定を行った。得られたポリ酢酸ビニルを用い、表1に示す条件で洗浄、乾燥したこと以外は実施例1と同様にしてPVAの作製および評価を行った。さらに、得られたPVAを用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。
【0088】
比較例11
表1に示すように酢酸ビニル、メタノールおよび無水マレイン酸の仕込み量、後添加する無水マレイン酸の量および時間を変えた以外は比較例10と同様にしてPVAを得た。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVA(分散剤)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。
【0089】
比較例10および11は特許文献4に記載されるように、酢酸ビニルと無水マレイン酸を共重合して得られる、分子鎖中にエノン構造が導入されたPVAの評価結果を示している。いずれの場合も得られた塩化ビニル重合体中の粗大粒子の量が多かった。また塩化ビニル重合体を用いて製造したシートの色相が悪化した。
【0090】
比較例12
比較例3と同様に酢酸ビニルの重合、けん化、得られたPVAの洗浄、遠心脱液を行った。このPVAを窒素の吹き込まずに、酸素濃度の制御なしで空気下で熱風乾燥機(設定温度150℃)内で、4時間乾燥させた。得られたPVAを実施例1と同様にして評価した。そして、得られたPVAを分散として用いたこと以外は、実施例1と同様に塩化ビニルの懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。得られたPVAの乾燥を酸素濃度を調整せずに空気下で行ったことにより、二重結合の生成量がさらに多くなったと考えられる。得られた塩化ビニル重合体粒子の可塑剤吸収性が低く、また色相が大きく悪化した。
【0091】
上記実施例で示されているとおり、本発明の分散剤を用いた場合には、塩化ビニルの懸濁重合は非常に安定であった。また、粗大粒子量が少なく、可塑剤吸収性が高い塩化ビニル重合体粒子が得られた。更に得られた塩化ビニル重合体を用いて製造された成形物の着色が抑制された。このように、本発明の分散剤は非常に有用である。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】