(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ケーシングにはアウタロータおよびインナロータの収容凹部を閉塞するカバーが固定される。このカバーをケーシングに固定する手段としては、カバーの外周縁部にケーシング側の肉を被せるように塑性変形させるかしめが用いられる。このようなかしめ固定部は、カバーの外周縁部の全周にわたってではなく、等間隔をおいてスポット的に設ける場合があり、その場合には、ケーシング側の爪状のかしめ片をカバーの外周縁部に被せて圧着させている。ところで、運転中のポンプにおいては、ケーシング内の吐出側容積室は作動油が常に高圧状態となっており、このためケーシングにかしめ固定されているカバーの吐出側容積室側の領域が高い内圧を受ける。その結果、かしめ固定部すなわちかしめ片の強度不足が起こってカバーがケーシングから剥離するおそれがあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、カバーをケーシングにかしめ固定するにあたり、高い内圧を受ける吐出側容積室側の領域のかしめ固定部の固定強度を十分なものとしてカバーの剥離を確実に抑えることができる内接歯車ポンプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内接歯車ポンプの製造方法は、ロータ収容凹部および該ロータ収容凹部の開口周囲にカバー収容凹部を有するケーシングと、前記ロータ収容凹部に回転自在に収容される内歯を有するアウタロータと、このアウタロータ内に回転自在に収容され、前記内歯に内接する外歯を有するインナロータと、このインナロータの軸心に同軸的に固定される駆動シャフトと、この駆動シャフトが貫通し、かつ、前記カバー収容
凹部に配設されて前記ロータ収容凹部を閉塞し、外周縁部が前記ケーシングにかしめ固定される円板状のカバーとを備え、前記カバーで閉塞される前記ロータ収容凹部内に、前記内歯と前記外歯の噛み合い作用によって、流体が吸入される吸入側容積室と、吸入した流体を吐出させる吐出側容積室とが形成される内接歯車ポンプにおいて、前記カバーを前記ケーシングにかしめ固定するにあたり、
複数の押圧部が前記カバーの前記外周縁部に対応して等間隔をおいて環状に配設された押し型を、前記ケーシングに対し相対回転させて前記押圧部の位相を調整してから、該押圧部によりカバーのケーシングに対するかしめ固定部をスポット的に複数箇所
形成し、前記吐出側容積室側の領域における全てのかしめ固定部による固定力を、2900N以上に設定することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、高い内圧を受けるカバーの吐出側容積室側の領域における全てのかしめ固定部による固定力を2900N以上に設定することにより、固定強度は十分なものとなり、カバーの剥離を確実に抑えることができる。
【0009】
本発明では、上記固定力を得る一例として、前記吐出側容積室側の領域における前記かしめ固定部の、前記吸入側容積室と前記吐出側容積室とを分ける境界線からの総距離を、前記固定力を満足する距離に設定することを具体的手段としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カバーをケーシングにかしめ固定するにあたり、高い内圧を受ける吐出側容積室側の領域のかしめ固定部の固定強度を十分なものとしてカバーの剥離を確実に抑えることができる内接歯車ポンプの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1(a),(b)は、それぞれ本実施形態に係るトロコイド型の内接歯車ポンプ(以下、ポンプ)1を示す平面図および断面図である。このポンプ1は、円板状のケーシング10およびカバー20を備え、さらに、ケーシング10内に収容されるアウタロータ30およびインナロータ40、インナロータ40に固定される駆動シャフト50とを備えている。
図2は、アウタロータ30およびインナロータ40の平面図である。
【0014】
ケーシング10は、
図1(b)に示すように背面(同図で下面)側に円筒状の凸部11が突出形成されており、凸部11とは反対側の表面側には、円形状のロータ収容凹部12が形成されている。このロータ収容凹部12の開口周囲には、表面に向かって環状のカバー収容凹部13およびかしめ段部19が階段状に形成されている。凸部11、ロータ収容凹部12、カバー収容凹部13およびかしめ段部19は、ケーシング10の中心と同心状に形成されている。
【0015】
図1(b)に示すO1はケーシング10の中心であり、凸部11、ロータ収容凹部12、カバー収容凹部13およびかしめ段部19は、このケーシング10の中心O1と同心状に形成されている。
図1(a)に示すように、ロータ収容凹部12の底部には、背面側からロータ収容凹部12に連通する吸入口14および吐出口15が形成されている。カバー収容凹部13にはカバー20が嵌め込まれてかしめ固定され、ロータ収容凹部12はカバー20で閉塞される。ケーシング10のロータ収容凹部12の周囲には、複数(この場合3つ)の取付孔16が形成されている。これら取付孔16は、当該ポンプ1を所定の機器に取り付けるためのボルトを通す孔である。
【0016】
図1(a)に示すように、ケーシング10の外周面の所定箇所には、軸方向に延びる位置決め溝17が形成されている。また、ロータ収容凹部12の周壁12aの所定箇所には、半円弧状の切欠き18が形成されている。ケーシング10は、例えばアルミ合金をダイカスト法によって成形するなどの方法で製造される。
【0017】
ロータ収容凹部12には環状のアウタロータ30が摺動回転自在に収容され、このアウタロータ30内に、インナロータ40が内接する状態で回転自在に収容される。
図2に示すように、アウタロータ30の内周面には複数の内歯31が形成されており、インナロータ40の外周面にはアウタロータ30の内歯31に噛み合う外歯41が形成されている。インナロータ40の外歯41の数は、アウタロータ30の内歯31よりも1つ少なく、
図2および
図1(b)に示すように、インナロータ40の中心O2はアウタロータ30の中心O1に対し偏心している。
【0018】
図2に示すように、各ロータ30,40の内歯31と外歯41は仕切点Pで互いに接触し、仕切点P間およびカバー20とロータ収容凹部12の底部との間に囲まれて形成される空間が、吸入側あるいは吐出側の容積室Rとなる。インナロータ40の中心には、駆動シャフト50の断面略D字状に形成された先端駆動部51が嵌合して固定される駆動シャフト嵌合孔42が形成されている。この駆動シャフト嵌合孔42の周囲には、環状のボス43が突出形成されている。アウタロータ30およびインナロータ40は、例えば粉末冶金法による焼結等の製法で製造される。
【0019】
図1(a)に示すように、カバー20には、インナロータ40のボス43に嵌合して駆動シャフト50が貫通する円形状の駆動シャフト貫通孔21が形成されている。この駆動シャフト貫通孔21はカバー20の中心に対し偏心している。カバー20の外周縁の所定箇所には、ケーシング10の切欠き18に嵌合する突起22が形成されている。カバー20は、例えば板金の打ち抜きによって製造される。
【0020】
カバー20は、突起22を切欠き18に嵌合させ、かつ、駆動シャフト貫通孔21をインナロータ40のボス43に嵌合させてカバー収容凹部13に嵌め込まれる。
図5(a)に示すように、カバー収容凹部13の深さはカバー20の厚さよりも深く、すなわちカバー20がカバー収容凹部13に収容された状態で、カバー収容凹部13の周壁13aの高さはカバー20の表面高さよりも高い。
【0021】
図1に示すように、ロータ収容凹部12内のインナロータ40は、カバー収容凹部13に嵌め込まれたカバー20の駆動シャフト貫通孔21と同心状(
図1(a)のO2が中心)になることが可能であり、駆動シャフト50は、カバー20と同心状になったインナロータ40の駆動シャフト嵌合孔42に嵌合されて固定される。すなわち、駆動シャフトの軸心はO2に一致し、かつ、アウタロータ30の回転中心(ケーシングの中心O1と同じ)に対し偏心しており、駆動シャフト50は、インナロータ40のボス43を介してカバー20に回転自在に支持された状態となる。ケーシング10に形成された吸入口14と吐出口15は、アウタロータ30の回転中心O1と駆動シャフト50の軸心O2とを結ぶ線Lを対称線として対称位置に形成されている。
【0022】
上記本実施形態のポンプ1は、モータ等の駆動源によって駆動シャフト50が回転駆動され、インナロータ40が回転させられる。インナロータ40が回転すると、外歯41が内歯31に噛み合いながらアウタロータ30が同一方向に連れ回りする。
図2のインナロータ40上に示す矢印は回転方向であり、この方向にインナロータ40が回転することにより、仕切点P間に形成される容積室Rは、吸入口14側の吸入側容積室R1と、吐出口15側の吐出側容積室R2に分かれる。
【0023】
このポンプ1においては、各ロータ30,40の回転に伴い、作動油等の流体が吸入口14から吸入側容積室R1に吸入され、次いで吸入側容積室R1が吐出側容積室R2に変わって流体が吐出口15から吐出されるポンプ作用が連続的に行われる。
【0024】
さて、上記構成を有する本実施形態のポンプ1は、ロータ収容凹部12にアウタロータ30を収容し、アウタロータ30内にインナロータ40を収容し、カバー収容凹部13にカバー20を嵌め込み、カバー20をケーシング10にかしめ固定し、この後、駆動シャフト50をインナロータ40の駆動シャフト嵌合孔42に嵌合して固定し、組み立てられる。
【0025】
カバー20をケーシング10にかしめ固定する方法が本発明に係るものであり、以下、その例を示す。
図3(a)に示すように、突起22を切欠き18に嵌合させ、駆動シャフト貫通孔21をインナロータ40のボス43に嵌合させて、カバー20をカバー収容凹部13に嵌め込む。
【0026】
次に、
図4に示す押し型60により、ケーシング10のカバー収容凹部13の周壁13aをカバー20の外周縁部に対しスポット的にかしめてカバー20を固定する。押し型60は、下面に複数(この場合、8つ)の爪状の押圧部61が等間隔をおいて環状に配設されたもので、受け型65の上方に昇降可能、かつ、鉛直軸を中心に回転可能に配設されている。
【0027】
受け型65はケーシング10の背面側の凸部11が嵌め込まれる位置決め孔65aを有しており、上側から凸部11を位置決め孔65aに嵌め込んで
図4(a)に示すようにケーシング10を受け型65にセットする。次いで、
図4(b)に示すように押し型60を下降させ、押圧部61をかしめ段部19の内周側に当ててケーシング10のカバー収容凹部13の周壁13aを押圧し、カバー20の外周縁部に複数のかしめ固定部71を設ける(
図5(a)〜(b)参照)。
【0028】
押圧部61はカバー20の外周縁部に対応する位置であって、
図5(a)に示すように、カバー20の外周縁部とカバー収容凹部13の周壁13aにまたがる位置に配設されている。押圧部61が下降すると、
図5(b)に示すようにカバー収容凹部13の周壁13aの肉部が押圧部61によって上から潰され、塑性変形してカバー20側に爪状に突出し、カバー20の外周縁部に被さり圧着させられる。これによってカバー20の外周縁部がケーシング10にかしめ固定され、
図3(b)に示すように、押圧部61の数に応じて8箇所にスポット的にかしめ固定部71が設けられる。
【0029】
本実施形態では、8箇所のかしめ固定部71は、
図1に示すように、ケーシング10内の吸入側容積室R1と吐出側容積室R2とを分ける上記対称線(以下、境界線)Lの両側において均等に配分される位置に設ける。このようにかしめ固定部71を設けるには、押し型60によってかしめる際に、押し型60を回転させて各押圧部61が境界線Lの両側に分かれて均等配置されるように押圧部61の位相を調整してから、押し型60を下降させて各押圧部61によりかしめ固定部71を設ける。この後、押し型60を上方に退避させ、ポンプ1を受け型65から取り外す。
【0030】
ポンプ1はこのようにして作製されるが、このポンプ1においては、カバー20における境界線Lよりも吐出側容積室R2側の領域(
図1で境界線Lの下側)の、ケーシング10に対するカバー20のかしめ固定部71の固定力を、2900N以上に設定している。なお、かしめ固定部71は全て同じ構造で、同じ数が設けられているため、吸入側容積室R1側の領域(
図1で境界線Lの上側)の固定力も2900N以上に設定されていることになる。
【0031】
このようなカバー20の固定力(F)は、ポンプ1が運転されて吐出側容積室R2内が高圧状態になった際の内圧によるカバー20を剥離させる荷重に抗する力に基づいている。すなわち、吐出側容積室R2に発生するカバー20を剥離させる荷重Fpは、内圧P×面積(カバー20の吐出側容積室R2側の領域の面積)Aであり、このFpを超える力として具体的に2900N以上という数値に設定している。
【0032】
カバーの固定力Fを2900N以上にするための条件としては、かしめ固定部71の数や形状、厚さ等が挙げられるが、これらの条件は、押し型60によって寸法が一定のケーシング10およびカバー20に対して設けるかしめ固定部71は概ね同じであることから、カバーの固定力Fは、かしめ固定部71の位置によって差異が生じる。
【0033】
すなわち、8箇所に均等にかしめ固定部71を設ける押し型60では、回転させて押圧部61の位相を変位させることで、かしめ固定部71の位置を変えることができる。本実施形態では
図6(a)に示すように、境界線Lの両側の吸入側容積室R1側と吐出側容積室R2側の各領域に4箇所ずつ分かれた状態でかしめ固定部71を設けている。これに対し、同じ押し型60によりかしめ固定部71の形成位置を変更した比較例を
図6(b)に示す。この比較例では、境界線Lとカバー20の外周縁部の2箇所の交点にかしめ固定部71を配し、吸入側容積室R1側と吐出側容積室R2側の各領域にはかしめ固定部71を3箇所ずつ設けており、実施形態に対し押圧部61の位相を22.5°ずらしたものとなっている。
【0034】
ここで、同じ押し型60で8箇所のかしめ固定部71を形成しているものの、本実施形態と比較例では、かしめ固定部71の位置の違いによってカバー20の固定力に差異がある。すなわち、吐出側容積室R2側において境界線Lからかしめ固定部71までの距離の合計Laは、本実施形態においては
図6(a)に示すように、La=(La1×2)+(La2×2)であるのに対し、比較例ではLb=(Lb1×1)+(La2×2)であり、実際の距離から、La>Lbである。
【0035】
吐出側容積室R2の内圧によってカバー20の吐出側容積室R2側の領域はカバー収容凹部13から抜けて剥離する方向に荷重を受けるが、その荷重は、吸入側容積室R1内が負圧になることと相まって境界線Lを支点(回転軸)としてカバー20の吐出側容積室R2側を回転させて剥離させようとする。したがって境界線Lからかしめ固定部71までの距離はモーメントに係わり、したがってその距離は長ければ長いほどモーメント力が大きくなってカバー20を押さえつける固定力が強くなる。そこで、境界線Lからかしめ固定部71までの距離の合計を比較すると、本実施形態の方が比較例よりも長いため、本実施形態のかしめ固定部71の位置が有効であり、場合によっては、比較例はカバー20の固定力Fが2900Nを下回り、カバー20の剥離が生じる可能性もある。