特許第6011050号(P6011050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011050
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】太陽電池用封止材
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20161006BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20161006BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   H01L31/04 560
   C09K3/10 Z
   B32B27/32 E
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-135593(P2012-135593)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-3055(P2014-3055A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】登山 稔
(72)【発明者】
【氏名】福田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 真
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/029464(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/055531(WO,A1)
【文献】 特開2012−094845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−50/15
B32B 27/32
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解ピーク温度が115〜120℃のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(a1)と同結晶融解ピーク温度が50〜80℃のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)を含み、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解熱量が50〜85J/gのエチレン系樹脂組成物(c1)からなる芯層と、
同結晶融解ピーク温度が121〜127℃のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(a2)と同結晶融解ピーク温度が50〜79℃のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)を含み、同結晶融解熱量が50〜85J/gのエチレン系樹脂組成物(c2)からなり、芯層の片面または両面に積層される表面層と、から構成され、
前記表面層が芯層の片面に積層されているとき、表面層と芯層の層厚さの比が1:3〜1:20であり、前記表面層が芯層の両面に積層されているとき、表面層と芯層の層厚さの比が1:3〜1:20の範囲にあり、且つ、両表面層の層厚さの比が1:3〜3:1であることを特徴とする太陽電池用封止材。
【請求項2】
エチレン系樹脂組成物(c2)が、重合性官能基を有するアルコシキシランと、前記メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(a2)及び前記エチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)から選ばれる1種以上とを共重合させて得られるシラン変性樹脂を含み、実質的にラジカル発生剤を含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の太陽電池用封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止材に関する。さらに詳しくは、太陽電池モジュールの形成や太陽電池素子のリサイクルが容易で、耐熱性やシートのフラット性に優れた太陽電池用封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が高まる中、自然のエネルギーを利用した水力発電や風力発電、太陽光発電等のクリーンなエネルギーの活用が脚光を浴びている。特に太陽光発電は、国や自治体により太陽光発電システム導入促進事業が進められてきたこともあり、その普及が著しく進んでいる。
【0003】
太陽電池モジュールは一般的に、ガラス等の透明基材よりなる透明保護材とPVFやPET等の非透湿性プラスチックフィルムよりなる保護材(バックシート)の間にシリコンなどの太陽電池素子を設置し、太陽電池素子とその両面に配置された保護材との間隙を透明な熱可塑性プラスチックからなる封止材で充填、密封した構造からなっている。
【0004】
太陽電池モジュールに使用されている封止材は、太陽電池素子の衝撃からの保護やモジュールの発熱への対応、太陽光の効率的な活用、長期屋外使用等の使用環境に対し、柔軟性や耐熱性、透明性、耐久性等の特性が主に要求される。太陽電池モジュールは様々な環境で使用されており、その使用環境により必要となる特性が異なってくる場合がある。例えば一般の使用環境では、太陽電池モジュールの使用時のパネル温度は70〜80℃まで上がり、更には、人工衛星など宇宙用の太陽電池モジュールでは、使用時のパネル温度が−100℃〜120℃の範囲となると言われている。耐熱性や耐久性については使用環境に応じた特性の付与が必要となる。
【0005】
現在、太陽電池モジュール用の封止材は、透明性、柔軟性の観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体が主に使用されている(特許文献1)。しかしながら、耐熱性を補うために有機過酸化物により架橋処理を施したタイプの封止材が使用されている。これらの架橋タイプの封止材は、太陽電池モジュールを製造する際に、太陽電池素子を封止するラミネート工程において架橋させることが必要である。そのため、有機過酸化物を含有した封止材用原料の製造およびその原料から封止用シートを製造する際には有機過酸化物が分解しない温度で作製する必要があり、これらの製造工程では低温成形のため製造速度を上げることが出来なかった。さらに、太陽電池素子を封止するラミネート工程では、15分から60分程度の架橋時間が必要であり、太陽電池モジュールの製造には多くの時間と工数が必要であった。
【0006】
更に、上記の如くエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた太陽電池用封止材は、架橋処理がなされているため、太陽電池モジュールの再利用を考慮した場合、封止材の除去が困難で太陽電池素子のリサイクルが困難となっている。今後、太陽電池市場は莫大な市場の成長が期待されている中、環境循環型のクリーンなエネルギーの開発が求められており、太陽電池モジュールに使用される各部材について、その再利用に関する技術開発が望まれている。
【0007】
これらの課題に対し、架橋を必要としない太陽電池用封止材として、例えば特許文献2には、アルコキシシランを共重合成分として含有し、融点が80℃から120℃の変性エチレン系樹脂からなる接着性シートが、特許文献3には特定のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体と特定のエチレン−α−オレフィンブロック共重合体を含有する樹脂組
成物からなる太陽電池用封止材が、特許文献4には特定の非晶性−α−オレフィン重合体と結晶性−α−オレフィン重合体を含有する樹脂組成物、具体的には、プロピレンを主成分とする重合体からなる樹脂組成物からなる太陽電池用封止材が開示されている。
【0008】
これらの材料によりエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた太陽電池用封止材が有する課題の改善は可能と考えるが、特許文献2および3ではその使用環境を考慮した場合、耐熱性については十分に満足できるものではなかった。
【0009】
特許文献4では、耐熱性を含め、上記課題の改善は可能と考えるがプロピレンを主成分とする重合体からなる樹脂組成物であり、プロピレンを主成分とする重合体は脆化温度が高く、低温特性が不十分であり、且つ第3級炭素を有していることから耐光性等の耐久性に劣るなどの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−63178号公報
【特許文献2】特開2002−235048号公報
【特許文献3】特開2011−040735号公報
【特許文献4】特開2006−210905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは耐熱性の優れるポリエチレンまたはエチレンを主成分とする共重合体をベースとした非架橋タイプの封止材の開発に取り組んできた。本発明者らの検討によれば、このような耐熱性に優れるエチレン系の太陽電池用封止材は、シート状に製造され紙管等に巻き取られた時に巻癖が発生しやすく、太陽電池モジュール製造のラミネート工程において歩留まりの低下が発生するという問題点が分かってきた。
本発明はこのような状況下なされたものであり、有機過酸化物のようなラジカル発生剤の使用による架橋の必要が無く、太陽電池モジュールの形成や太陽電池素子のリサイクルを容易に実施出来、耐熱性およびシートのフラット性に優れた太陽電池用封止材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定範囲の融点を有するポリエチレン系重合体と特定範囲の融点を有するエチレン−オレフィンランダム共重合体を含み、特定の熱特性を有するエチレン系樹脂組成物からなる多層シートが太陽電池用封止材に必要とされる耐熱性およびシートのフラット性などの特性を同時に満足することを見出し本発明に至った。
【0013】
すなわち本発明は下記のとおりである。
[1] 示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解ピーク温度が115〜120℃のポリエチレン系重合体(a1)と同結晶融解ピーク温度が50〜80℃のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)を含み、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解熱量が50〜85J/gのエチレン系樹脂組成物(c1)からなる芯層と、
同結晶融解ピーク温度が121〜127℃のポリエチレン系重合体(a2)と同結晶融解ピーク温度が50〜79℃のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)を含み、同結晶融解熱量が50〜85J/gのエチレン系樹脂組成物(c2)からなり、芯層の片面または両面に積層される表面層と、から構成されることを特徴とする太陽電池用封止材。
【0014】
[2] 前記表面層が芯層の片面に積層されているとき、表面層と芯層の層厚さの比が1:3〜1:20であり、前記表面層が芯層の両面に積層されているとき、表面層と芯層の層厚さの比が1:3〜1:20の範囲にあり、且つ、両表面層の層厚さの比が1:3〜3:1であることを特徴とする、[1]に記載の太陽電池用封止材。
【0015】
[3] エチレン系樹脂組成物(c2)が、重合性官能基を有するアルコキシシランと、前記ポリエチレン系重合体(a2)及び前記エチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)から選ばれる1種以上とを共重合させて得られるシラン変性樹脂を含み、実質的にラジカル発生剤を含有しないことを特徴とする、[1]または[2]に記載の太陽電池用封止材。
【発明の効果】
【0016】
本発明の太陽電池用封止材は、耐熱性および太陽電池モジュールの形成時の作業性に優れた太陽電池用封止材を提供でき、且つ架橋工程も必要ないことから太陽電池モジュールの生産性を格段に向上させることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明の太陽電池用封止材は、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解ピーク温度(以下、単に「結晶融解ピーク温度という」)が115〜120℃のポリエチレン系重合体(a1)と結晶融解ピーク温度が50〜80℃のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)を含み、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解熱量(以下、単に「結晶融解熱量という」)が50〜85J/gのエチレン系樹脂組成物(c1)からなる芯層と、結晶融解ピーク温度が121〜127℃のポリエチレン系重合体(a2)と結晶融解ピーク温度が50〜79℃のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)を含み、結晶融解熱量が50〜85J/gのエチレン系樹脂組成物(c2)からなり、芯層の片面若しくは両面に積層されてなる表面層と、から構成される。
【0018】
<ポリエチレン系重合体(a1,2)>
本発明に用いられるポリエチレン系重合体(a1,2)は、結晶融解ピーク温度がそれぞれ(a1)で115〜120℃、(a2)で121〜127℃を満足すれば特に限定されないが、例えば低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられる。これらのポリエチレンは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
特に、本発明においては、上記ポリエチレン系重合体(a1,2)として、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が比較的低く、分子量分布が小さいことから、温度変化によるポリエチレンの結晶化が進みにくいからである。
このようなポリエチレン系重合体は、例えば触媒として上記のようにメタロセン系触媒を用いてエチレンモノマーを単独重合させることによって、またはエチレンモノマーと炭素数3〜20のオレフィンとを共重合させることによって得ることができる。ここでエチレンと共重合するオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル−ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1等が例示される。本発明においては、工業的な入手し易さや諸特性などの観点からエチレンと共重合するオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−へキセン、1−オクテンが好適に用いられる。エチレンと共重合するオレフィンは1種のみを単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもかまわない。
なお、ポリエチレン系重合体の前記結晶融解ピーク温度は、製造時の条件を例えば共重
合モノマーの含有量や種類を変えることにより調整することが可能であり、具体的には、これを高くする場合には、共重合モノマーの含有量を少なくすることで可能である。
【0019】
本発明に用いられるポリエチレン系重合体(a1,2)のメルトインデックス(MI)は、特に制限されないが、シートの製膜性や太陽電池素子を封止する時の流動性を確保するなどの点から、MI(JIS K7210、温度:190℃、荷重:21.18N)が、0.5〜50g/10分が好ましく、より好ましくは1〜30g/10分である。
このポリエチレン系重合体のメルトインデックスを調整する方法としては、ポリマーの重合度や分子量分布を調整することが挙げられ、メルトインデックスを高くするためには、例えばポリマーの重合度を低くし、低分子量化することが挙げられる。
【0020】
本発明に用いられるポリエチレン系重合体(a1,2)は、結晶融解ピーク温度がそれぞれ(a1)で115〜120℃、(a2)で121〜127℃であることが好ましく、より好ましくは、結晶融解ピーク温度がそれぞれ(a1)で117〜120℃、(a2)で121〜125℃である。該範囲内であれば、太陽電池用封止材の耐熱性とシートのフラット性が維持される為好ましい。結晶融解ピーク温度は、加熱速度を10℃/分とする他は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7122に準じて測定することができる。この際、融点ピークが2つ以上存在する場合は高い温度の方を融点とする。
【0021】
<エチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)>
本発明に用いられるエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)は、結晶融解ピーク温度が(b1)で50〜80℃、(b2)で50〜79℃の条件を満足すれば特に限定されないが、通常、エチレンと炭素数3〜20のオレフィンとのランダム共重合体が好適に用いられる。ここでエチレンと共重合するオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル−ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1等が例示される。本発明においては、工業的な入手し易さや諸特性などの観点からエチレンと共重合するオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−へキセン、1−オクテンが好適に用いられる。エチレンと共重合するオレフィンは1種のみを単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもかまわない。
なお、エチレン−オレフィンランダム系共重合体の前記結晶融解ピーク温度は、製造時の条件を例えば共重合モノマーの含有量や種類を変えることにより調整することが可能であり、具体的には、これを高くする場合には、共重合モノマーの含有量を少なくすることで可能である。
【0022】
エチレンと共重合するオレフィンの含有量としては、特に限定されないが、エチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)中の全単量体単位に対して、3〜30モル%が好ましい。より好ましくは5〜25モル%である。該範囲内であれば、共重合成分により結晶性が低減されることにより柔軟性が向上し、また、原料ペレットのブロッキングなどの不具合も起こり難く好ましい。
【0023】
本発明に用いられるエチレン−オレフィンランダム系共重合体(b1,2)のメルトインデックス(MI)は、特に制限されないが、シートの製膜性や太陽電池素子を封止する時の流動性などの点から、MI(JIS K7210、温度:190℃、荷重:21.18N)が0.5〜50g/10分が好ましく、より好ましくは1〜30g/10分である。
このエチレン−オレフィンランダム系共重合体のメルトインデックスを調整する方法としては、ポリマーの重合度や分子量分布を調整することが挙げられ、メルトインデックスを高くするためには、例えばポリマーの重合度を低くすることが挙げられる。
【0024】
また、本発明に用いられるエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)は1種単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明に用いられるエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)の製造方法は、特に限定されず、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法で製造できる。例えば、チーグラー・ナッタ型触媒等のマルチサイト触媒やメタロセン系触媒等のシングルサイト触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等で製造できる。本発明において、エチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)の製造方法は、太陽電池用封止材用の原料ペレットやシートの製造し易さやブロッキング防止などの観点から低分子量成分が少なく分子量分布の狭い原料が重合できるシングルサイト触媒を用いた重合方法が好適に用いられる。
【0026】
本発明に用いられるエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)は、結晶融解ピーク温度が(b1)で50〜80℃、(b2)で50〜79℃を満足することが好ましく、より好ましくは(b1,2)何れも55〜75℃ある。該範囲内であれば、シートのフラット性が優れる太陽電池封止材が得られる為好ましい。
【0027】
<エチレン系樹脂組成物(c1,2)>
本発明の太陽電池用封止材を構成するエチレン系樹脂組成物(c1,2)は、上述したポリエチレン系重合体(a1,2)とエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)を含有してなり、当該組成物の結晶融解熱量が50〜85J/gであることが好ましく、より好ましくは60〜80J/gである。エチレン系樹脂組成物(c1,2)の結晶融解熱量が該範囲内であれば、耐熱性およびシートのフラット性のバランスに優れた太陽電池用封止材が得られやすく好ましい。
【0028】
また、本発明に用いられるポリエチレン系重合体(a1,2)およびエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)のメルトインデックス(MI)の比は樹脂間の相溶性の観点から1:20〜20:1が好ましく、より好ましくは1:10〜10:1である。
【0029】
次に、本発明の太陽電池用封止材を構成する芯層に用いられるエチレン系樹脂組成物(c1)中におけるポリエチレン系重合体(a1)とエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)の含有量比は、それぞれ、40〜80/60〜20重量%が好ましい。より好ましくは50〜70/50〜30重量%である。含有量比が該範囲内であれば、耐熱性およびシートのフラット性のバランスに優れた太陽電池用封止材が得られやすく好ましい。
【0030】
また、本発明の太陽電池用封止材を構成する表面層に用いられるエチレン系樹脂組成物(c2)中におけるポリエチレン系重合体(a2)とエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)の含有量比は、それぞれ、3〜60/97〜40重量%が好ましい。より好ましくは5〜50/95〜50重量%である。含有量比が該範囲内であれば、耐熱性およびシートのフラット性のバランスに優れた太陽電池用封止材が得られやすく好ましい。
【0031】
本発明のエチレン系樹脂組成物(c1,2)を構成するポリエチレン系重合体(a1,2)とエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1,2)に用いられるオレフィンの種類はその相溶性の観点から同種類のものが好ましい。
【0032】
また、本発明の太陽電池用封止材を構成するエチレン系樹脂組成物(c2)には、ガラス等の透明基材への接着性向上の観点から、シラン変性樹脂を混合することが出来る。上記シラン変性樹脂の作製には、上記ポリエチレン系重合体(a2)やエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)と重合性官能基を有するアルコキシシランが用いられ、そのような重合性官能基を有するアルコキシシランとしては、エチレン性不飽和シラン化合物
が挙げられる。エチレン性不飽和シラン化合物としては、上記ポリエチレン系重合体(a2)やエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)とグラフト重合するものであれば特に限定されるものではなく、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、および、ビニルトリカルボキシシランからなる群から選択される少なくとも1 種類のものを用いることができる。中でも、ビニルトリメトキシシランやビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0033】
本発明に用いられるエチレン系樹脂組成物(c2)にシラン変性樹脂を含有させる場合には、エチレン系樹脂組成物(c2)中のエチレン性不飽和シラン化合物の含有量が、0.1〜5重量%となるようにシラン変性樹脂を作製又は添加することが好ましく、より好ましくは0.5〜3重量%となるようにシラン変性樹脂を作製又は添加する。エチレン性不飽和シラン化合物の含有量が該範囲内であれば、透明基板等との接着性に優れ、コスト的にも有利である。
【0034】
また、上記シラン変性樹脂のメルトインデックス(MI)は、特に制限されないが、シートの製膜性や太陽電池素子を封止する時の流動性などの点から、MI(JIS K7210、温度:190℃、荷重:21.18N)が0.5〜50g/10分であることが好ましく、より好ましくは1〜30g/10分である。
【0035】
また、本発明に用いられるシラン変性樹脂は、重合性官能基を有するアルコキシシランであるエチレン性不飽和シラン化合物とポリエチレン系重合体(a2)やエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)とラジカル発生剤とを混合し、押出機中で加熱溶融混練する方法等公知の方法により得ることができる。上記ラジカル発生剤としては、例えばジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−パーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、または、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
なお、上記のラジカル発生剤を用いる場合、シラン変性樹脂の合成時にラジカル発生剤は分解し、シラン変性樹脂にラジカル発生剤は実質的に含まれなくなる。
【0036】
上記ラジカル発生剤の添加量は、重合性官能基を有するアルコキシシランであるエチレン性不飽和シラン化合物とポリエチレン系重合体(a2)やエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)とのグラフト反応の点から、ポリエチレン系重合体(a2)及びエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)の合計量に対し0.01〜0.5重量%添加
することが好ましい。より好ましくは0.03〜0.2重量%である。
【0037】
さらに、上記シラン変性樹脂の融点は、121〜127℃であることが好ましい。より好ましくは121〜125℃である。シラン変性樹脂の融点が該範囲内の場合、太陽電池用封止材の耐熱性に優れるからである。
シラン変性樹脂の融点は、これを得るために用いるエチレン系重合体(a2)やエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)や重合性官能基を有するアルコキシシランの種類や量を調整することで、調整することができる。
【0038】
本発明のエチレン系樹脂組成物(c1,2)よりなる封止材には、ラジカル発生剤を実質的に含ませないことが、太陽電池モジュールを作製する際に架橋工程を含ませる必要がなくなり、また、封止材のリサイクル性の向上にも寄与するため好ましい。
なお、本発明でいう実質的に含有しないとは、エチレン系樹脂組成物において、ラジカル発生剤の含有量が0.001重量%未満である場合をいう。
【0039】
また、本発明の太陽電池用封止材を構成するエチレン系樹脂組成物(c1,2)には、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、造核剤、顔料、難燃剤、変色防止剤等の種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤を添加することで、後述する特性を得ることができるからである。
【0040】
(酸化防止剤)
本発明に用いられる酸化防止剤は、太陽電池用封止材の酸化劣化を防止するために使用される。具体的には、例えば、フェノール系酸化防止剤として、モノフェノール類(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノールおよびステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど)、ビスフェノール類(2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)および3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなど)、並びに高分子型フェノール類(1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオンおよびトコフェノールなど)、硫黄系酸化防止剤(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネートおよびジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートなど)、リン系酸化防止剤として、ホスファイト類(ジフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)ホスファイトおよびビス[2−t−ブチル−6−メチル−4−{2−(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイトなど)並びにオキサホスファフェナントレンオキサイド類(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファ
フェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよび10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなど)が挙げられる。
【0041】
前記酸化防止剤はそれぞれ単独で使用できるが、フェノール系/硫黄系またはフェノール系/リン系と組み合わせて使用することが特に好ましい。市販のフェノール系の酸化防止剤としては、BASF・ジャパン(株)製IRGANOX 1010(商品名)やリン系酸化防止剤としては、BASF・ジャパン(株)製IRGAFOS 168(商品名)をそれぞれ単独で利用することができ、また、これらを混合して用いることもできる。
【0042】
本発明に用いられる酸化防止剤の含有量としては、エチレン系樹脂組成物(c1,2)全量に対し、0.01〜0.5重量% の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.3重量% の範囲内である。
【0043】
(光安定剤)
本発明に用いられる光安定剤は、紫外線により太陽電池用封止材中に生成したラジカルを捕捉し、光酸化を防止するために使用される。具体的には、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル}イミノ}]、N,N′−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−tert−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などのヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
【0044】
本発明に用いられる光安定剤の含有量としては、エチレン系樹脂組成物(c1,2)全量に対し、0.05〜1.0重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.8重量%の範囲内である。
【0045】
(紫外線吸収剤)
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、太陽光中の有害な紫外線を吸収して、無害な熱エネルギーに変換し太陽電池用封止材の耐光性を向上させるために使用される。具体的には、フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレートおよびp−オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンおよび2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび2−{(2’−ヒドロキシ−3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾ
トリアゾール等のベンゾトリアゾール類、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類、二酸化チタンや酸化亜鉛等の金属酸化物類などが挙げられる。
【0046】
本発明に用いられる紫外線吸収剤の含有量は、エチレン系樹脂組成物(c1,2)全量に対し、0.05〜1.0重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.6重量% の範囲内である。
【0047】
(造核剤)
本発明に用いられる造核剤は、太陽電池モジュール用充填材シートの透明性を上げるために使用される。具体的には、1、3、2、4−ジ(メリルベンジリデン)ソルビトー
ル、1、3−クロルベンジリデン−2、4−メチルベンジリデンソルビトール、1、3、2、4−ジベンジリデンソルビトール、1、3、2、4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1、3、2、4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1、3:2、4−ビス−O−ジメチルベンジリデン−D−ソルビトール等のソルビトール系核剤やビス(2、4、8、10−テトラ−tert−ブチル−6−ヒドロキシ−12H−ジベンゾ[d,f][1、3、2]ジオキサフォスシン−6−オキシド)水酸化アルミニウム塩等リンエステル金属塩系核剤やベーマイト、ゼオライト、タルク、二酸化チタン、マイカ、ハイドロタルサイト等の無機系核剤、リケマスターCN−001(商品名、理研ビニル(株))、リケマスターCN−002(商品名、理研ビニル(株))などが挙げられ、これらの造核剤は、単独または混合物として使用することができる。
【0048】
本発明に用いられる造核剤の含有量は、エチレン系樹脂組成物(c1,2)全量に対し、0.01〜5.0重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.05〜3.0重量%の範囲内である。
なお、上記の造核剤のうち、リケマスターCN−001(商品名、理研ビニル(株))、リケマスターCN−002(商品名、理研ビニル(株))については、エチレン系樹脂組成物(c1,2)全量に対し、0.5〜5.0重量%添加することが好ましい。
【0049】
<太陽電池用封止材>
本発明の太陽電池用封止材は、上述したエチレン系樹脂組成物(c1,2)をそれぞれ芯層及び表面層として積層してなる。
一般に、太陽電池モジュールは発電時の発熱や太陽光の輻射熱などで、その使用環境により表面温度は120℃に達する場合があり、その耐熱性温度は120℃以上であれば、本発明の太陽電池用封止材の耐熱性を確保することが出来、発熱による封止材の流動や変形を防止できるため好ましい。本発明においては、厚み3mmの白板ガラス(サイズ;縦100mm、横100mm)の間に厚みが0.4mmのシート状太陽電池用封止材を挟み、真空ラミネーターを用いて150℃、10分の条件で積層加熱圧着した試料を作製し、該試料を120℃の恒温槽内で60度に傾斜して設置し100時間経過後の状態を観察し、ガラスが初期の基準位置からずれなかったものを○、ガラスが初期の基準位置からずれたり、封止材が溶融したものを×として耐熱性の優劣を評価した。
【0050】
さらに、太陽電池モジュール製造時の積層工程において、太陽電池モジュールを構成する受光面側保護材と封止材、太陽電池素子、封止材、非受光面側保護材は、この順番で積層されラミネート工程に送られる。ここで各種部材が変形していた場合、各部材間にズレが発生し太陽電池素子の封止が不完全となり歩留まりが低下する場合があることから、シートのフラット性は高いことが好ましい。本発明においては、太陽電池用封止材のシート成形時に直径6インチの紙管に巻き取った厚み0.4mmのシート状太陽電池用封止材を、23℃、50%RH下で2日間状態調節後に100mm角の大きさに切り出し、切り出した試料を定盤上にて端辺を固定したときの他辺の浮き上り量を測定した。具体的には、
浮き上り量が、10mm未満であることが好ましく、より好ましくは5mm未満である。
【0051】
また、太陽電池用封止材は、太陽電池素子を受光面側保護材と非受光面側保護材との間に密封することを役割とし、各保護材との接着性が高いことが好ましい。本発明においては、厚み3mmの白板ガラス(サイズ;縦100mm、横100mm)および東レフィルム加工(株)PET製バックシート(商品名:LTW−01S)と厚みが0.4mmの封止材の間に両者の接着長さが40mmとなるようにテフロンシートを挟み、真空ラミネーターを用いて150℃、10分の条件で積層加熱圧着して試料を作製した。得られた積層サンプルを用い、25℃雰囲気下における180°剥離試験において封止材と受光面側保護材および非受光面側保護材との剥離強度を測定した。具体的には、剥離強度が、1N/15mm幅以上であることが好ましく、より好ましくは3N/15mm幅以上、さらに好ましくは10N/15mm幅以上である。
【0052】
なお、上記の剥離強度は以下に示す剥離試験条件により測定した。
試験機:島津製作所株式会社製の引張試験機オートグラフAGS−X
測定角度:180°剥離
剥離速度:100mm/分
【0053】
また、太陽電池用封止材は、長期間にわたり密着性を保持していることが好ましく、上述した試料を温度85℃、相対湿度85%の高温高湿状態下で1000時間放置した後の25℃雰囲気下における180°剥離試験において測定された白板ガラスおよびPET製バックシートとの剥離強度が、1N/15mm幅以上であることが好ましく、より好ましくは3N/15mm幅以上、さらに好ましくは10N/15mm幅以上である。なお、測定方法は上述した方法と同様の方法が用いられる。
【0054】
本発明の太陽電池用封止材の厚みは、50〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に100〜1000μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であればセルに破損が生じにくく、モジュール形成時の積層工程やモジュール設置時などに作業性が良好となり、コスト的にも有利である。
【0055】
本発明の太陽電池用封止材の表面層の厚みは、10〜100μmの範囲内であることが好ましく、特に20〜80μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、均一な表面層の厚みが得られ、受光面側保護材と非受光面側保護材との接着性にバラツキが生じにくく、コスト的にも有利である。
【0056】
本発明の太陽電池用封止材を構成する表面層と芯層の厚みの比は、前記表面層が芯層の片面に積層されているとき、1:3〜1:20の範囲にあることが好ましく、1:5〜1:10の範囲にあることがより好ましい。一方、前記表面層が芯層の両面に積層されているとき、表面層、芯層の層厚さの比が1:3〜1:20の範囲にあり、且つ、両表面層の層厚さの比が1:3〜3:1であることが好ましく、特に好ましくは表面層、芯層の層厚さの比が1:5〜1:10の範囲であり、且つ、両表面層の層厚さの比が1:2〜2:1である。封止材を構成する各層間の厚みの比が上記範囲の場合は、シートのフラット性に優れた太陽電池用封止材が得られるため好ましい。
【0057】
[太陽電池用封止材の製造方法]
次に、本発明の太陽電池用封止材の製造方法について説明する。本発明の太陽電池用封止材の成形方法は、シート状の多層成形物を得ることが出来れば特に制限は無く、例えばTダイ押出キャスト法やインフレーション法等の公知の方法を用いることができる。通常、ハンドリング性や生産性等の面からTダイ押出キャスト法が好適に用いられる。成形温度は、用いるエチレン系樹脂組成物(c1,2)の流動特性や製膜性等によって適宜調整
されるが、概ね130〜230℃、好ましくは、150〜200℃である。シート成形に用いられるエチレン系樹脂組成物(c1,2)は酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を予め樹脂とともにドライブレンドしてからシート成形装置に装備された押出機内に供給してもよく、予め全ての材料を溶融混合してペレットを作製してから供給してもよく、予め添加剤を樹脂中に濃縮したマスターバッチを作製しその他の原料と一緒に供給してもよい。また、上記シート成形装置等で得られたシート状の太陽電池用封止材の表裏面には、シート間のブロッキング防止や太陽電池素子のラミネート工程でのエアー抜きの向上や太陽電池セルの破損防止などのためにエンボス加工を行うことが出来る。
なお、本発明の太陽電池用封止材は、芯層の片面に表面層が積層されている態様も挙げられ、この場合には、リサイクル性を向上させる観点から、太陽電池素子は芯層に接している態様が好ましい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
(1)結晶融解ピーク温度(Tm)(℃)
エス・アイ・アイナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計、商品名「EXSTAR
DSC7020」を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で−40℃から200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから結晶融解ピーク温度(Tm)(℃)を求めた。
【0059】
(2)結晶融解熱量(ΔHm)
エス・アイ・アイナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計、商品名「EXSTAR
DSC7020」を用いて、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で−40℃から200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから結晶融解熱量(ΔHm)(J/g)を求めた。
【0060】
(3)耐熱性
厚み3mmの白板ガラス(サイズ;縦100mm、横100mm)2枚の間に厚みが0.4mmのシート状太陽電池封止材を挟み、ニッシン・トーア(株)製の真空ラミネーター「PVL0505S」を用いて、150℃、10分の条件で積層加熱圧着した試料を作製し、該試料を120℃の恒温槽内で60度に傾斜して設置し100時間経過後の状態を観察し、下記の基準で評価した。
(○)ガラスが初期の基準位置からずれなかったもの
(×)ガラスが初期の基準位置からずれたり、シートが溶融したもの
【0061】
(4)シートのフラット性
シート状太陽電池用封止材の製膜時に、厚み0.4mmの封止シートを直径6インチの紙管に巻取り、23℃、50%RH条件下で2日間状態調節後に巻き出したシートから100mm角の試料を採取し、定盤上にて試料の端辺を固定したときの対辺の最大浮き上り量を測定した。具体的には、浮き上り量が、10mm未満であることが好ましく、より好ましくは5mm未満である。その結果を表記した。
(◎)浮き上り量が5mm未満
(○)浮き上り量が5mm以上、10mm未満
(×)浮き上り量が10mm以上
【0062】
(実施例1〜4)
ポリエチレン系重合体(a1)として、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(宇部
丸善ポリエチレン(株)製、商品名:ユメリット0520F、MI:2、Tm:117℃)(以下、a1−1と略する)とエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)として、メタロセン系プラストマー(日本ポリエチレン(株)製、商品名:カーネルKJ640T、MI:30、Tm:65℃)(以下、b1−1と略する)を表1に示す割合で混合した芯層用エチレン系樹脂組成物(c1)およびポリエチレン系重合体(a2)として、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン(株)製、商品名:ユメリット3540FC、MI:4、Tm:122℃)(以下、a2−1と略する)とエチレン−オレフィンランダム共重合体(b2)として、メタロセン系プラストマー(日本ポリエチレン(株)製、商品名:カーネルKJ640T、MI:30、Tm:65℃)(以下、b2−1と略する)を表1に示す割合で混合した表面層用エチレン系樹脂組成物(c2)をTダイを備えた20mmφ単軸の3種3層多層押出機を用いて、表1に示す層構成にて設定温度200℃で溶融混練し、20℃のキャストロールにて製膜し直径6インチの紙管に巻き取ることにより厚みが0.4mmのシート状太陽電池用封止材を得た。得られたシートを用いて評価した結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
実施例1において、全層を(a2−1)単独に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて評価した結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
実施例1において、全層を(a1−1)単独に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
実施例1において、表面層を構成するエチレン系樹脂組成物(c2)を(a2−1)単独系に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0066】
(比較例4)
実施例2において、表面層を構成するエチレン系樹脂組成物(c2)を(b2−1)単独系に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0067】
(比較例5)
実施例2において、芯層を構成するエチレン系樹脂組成物(c1)を(a1−1)単独系に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0068】
(比較例6)
実施例2において、芯層を構成するエチレン系樹脂組成物(c1)を(b1−1)単独系に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0069】
(比較例7)
実施例1において、芯層を構成するエチレン系樹脂組成物(c1)および表面層を構成するエチレン系樹脂組成物(c2)のエチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)および(b2)を、メタロセン系プラストマー(日本ポリエチレン(株)製、商品名:カーネルKS560T、MI:16、Tm:86℃)(b1−2)およびメタロセン系プラス
トマー(日本ポリエチレン(株)製、商品名:カーネルKS560T、MI:16、Tm:86℃)(以下、b2−2と略す。)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0070】
(比較例8)
実施例1において、芯層を構成するエチレン系樹脂組成物(c1)のポリエチレン系重合体(a1)を、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン(株)製、商品名:ユメリット3540FC、MI:4、Tm:122℃)(a1−2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0071】
(比較例9)
実施例1において、芯層を構成するエチレン系樹脂組成物(c1)を(b1−1)単独系に、表面層を構成するエチレン系樹脂組成物(c2)を(b2−2)単独系に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0072】
(参考例)
実施例1において、芯層および表面層を構成するエチレン系樹脂組成物(c1)および(c2)のポリエチレン系重合体(a1)および(a2)を超低密度エチレン−オレフィンブロック共重合体(ダウケミカル(株)製、商品名:インフューズD9100、MI:1、Tm:119℃)(a1−3)および(a2−2)に、エチレン−オレフィンランダム共重合体(b1)および(b2)を、超低密度エチレン−オレフィンランダム共重合体(ダウケミカル(株)製、商品名:エンゲージE8200、MI:5、Tm:65℃)(b1−3)および(b2−3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.4mmのシートを得た。得られたシートを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の太陽電池用封止材は、非架橋タイプで且つ耐熱性およびシートのフラット性などに優れた太陽電池用封止材である。特に本発明の太陽電池用封止材は、従来よりも高温(120℃)での耐熱性に優れているばかりではなく、従来では耐熱性との両立が難しかったフラット性にも優れている。
本発明の太陽電池用封止材は、太陽電池モジュール製造時にラジカル発生剤の使用も必要としないので、太陽電池モジュール製造工程のうち積層、ラミネート工程における生産性を著しく高めることが出来るだけでなく、非架橋タイプのためセルのリサイクル性にも
優れ、太陽電池モジュールの製造コストを大幅に低減させることが可能である。
特に、前記特許文献1に記載の発明のように、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を封止材として用いる場合には、上記積層、ラミネート工程において、有機過酸化物のようなラジカル発生剤を分解させてEVAを架橋させるための操作が、本発明では不要である。
本発明の太陽電池用封止材は、耐熱性に優れるため、太陽電池モジュールの使用時に温度上昇しても、封止材が流動したり変形したりするトラブルの回避が可能であり、太陽電池の外観を損なうことも無い。
本発明の太陽電池用封止材を用いることにより、安価で且つ優れた性能を有する太陽電池モジュールが提供される。