特許第6011215号(P6011215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6011215半導体基板パッシベーション膜形成用組成物、パッシベーション膜付半導体基板及びその製造方法、並びに太陽電池素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011215
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】半導体基板パッシベーション膜形成用組成物、パッシベーション膜付半導体基板及びその製造方法、並びに太陽電池素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-218466(P2012-218466)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-72449(P2014-72449A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠人
(72)【発明者】
【氏名】野尻 剛
(72)【発明者】
【氏名】倉田 靖
(72)【発明者】
【氏名】織田 明博
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】早坂 剛
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4767110(JP,B2)
【文献】 特開平06−125103(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053436(WO,A1)
【文献】 特開2010−092627(JP,A)
【文献】 特開2011−161327(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/002361(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/046432(WO,A1)
【文献】 特開2009−263448(JP,A)
【文献】 特開2002−363490(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0005506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物と、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種と、を含む半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【化1】


〔式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。nは0〜3の整数を表す。X及びXはそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。〕
【請求項2】
前記一般式(I)において、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である請求項1に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)において、nが1〜3の整数であり、Rがそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である請求項1又は請求項2に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項4】
前記フッ素系界面活性剤を含有し、該フッ素系界面活性剤が、オリゴマー型フッ素系界面活性剤及び活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項5】
前記シリコーン系界面活性剤を含有し、該シリコーン系界面活性剤が、側鎖型シリコーンオイル、片末端型シリコーンオイル及び両末端型シリコーンオイルから選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項6】
前記シリコーン系界面活性剤を含有し、該シリコーン系界面活性剤が、シランカップリング剤である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項7】
さらに樹脂を含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項8】
さらに下記一般式(II)で表される化合物を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【化2】

【請求項9】
前記フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の総含有率が、0.01質量%〜10質量%である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【請求項10】
半導体基板と、前記半導体基板上の全面又は一部に設けられた請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物層と、を有するパッシベーション膜付半導体基板。
【請求項11】
半導体基板上の全面又は一部に、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、
前記組成物層を焼成処理して、パッシベーション膜を形成する工程と、
を有するパッシベーション膜付半導体基板の製造方法。
【請求項12】
p型層及びn型層がpn接合されてなる半導体基板と、
前記半導体基板上の全面又は一部に設けられた請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物層と、
前記半導体基板の前記p型層又はn型層の上に配置された電極と、
を有する太陽電池素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物、パッシベーション膜付半導体基板及びその製造方法、並びに太陽電池素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン太陽電池素子の製造工程について説明する。
まず、光閉じ込め効果を促して高効率化を図るよう、テクスチャー構造を形成したp型シリコン基板を準備し、続いてオキシ塩化リン(POCl)、窒素、酸素の混合ガス雰囲気において800℃〜900℃で数十分の処理を行って一様にn型拡散層を形成する。
この従来の方法では、混合ガスを用いてリンの拡散を行うため、表面のみならず、側面、裏面にもn型拡散層が形成される。そのため、側面のn型拡散層を除去するためのサイドエッチングを行う。また、裏面に形成されたn型拡散層はp型拡散層へ変換する必要があり、裏面全体にアルミニウム粉末及びバインダーアルミニウムペーストを塗布し、これを焼成してアルミニウム電極を形成することで、n型拡散層をp型拡散層にするのと同時に、オーミックコンタクトを得ている。
【0003】
ここで、アルミニウムペーストから形成されるアルミニウム電極は導電率が低く、シート抵抗を下げるために、通常裏面全面に形成したアルミニウム電極は焼成後において10μm〜20μmほどの厚みを有していなければならない。しかし、基板であるシリコンとアルミニウムとでは熱膨張率が大きく異なることから、焼成および冷却の過程で、シリコン基板中に大きな内部応力を発生させ、結晶粒界のダメージ、結晶欠陥増長及び反りの原因となる。
【0004】
この問題を解決するために、アルミニウムペーストの塗布量を減らし、アルミニウム電極層を薄くする方法がある。しかしながら、アルミニウムペーストの塗布量を減らすと、p型シリコン半導体基板の表面から内部に拡散するアルミニウムの量が不十分となる。その結果、所望のBSF(Back Surface Field)効果(p型拡散層の存在により生成キャリアの収集効率が向上する効果)を達成することができないため、太陽電池の特性が低下するという問題が生じる。
【0005】
上記に関連して、アルミニウムペーストをシリコン基板表面の一部に付与して部分的にp型拡散層とアルミニウム電極とを形成するポイントコンタクトの手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような受光面とは反対側(以下、「裏面側」ともいう)にポイントコンタクト構造を有する太陽電池の場合、アルミニウム電極以外の部分の表面において、少数キャリアの再結合速度を抑制するために、裏面側用の半導体基板パッシベーション膜(以下、単に「パッシベーション膜」ともいう)が用いられる。このようなパッシベーション膜としてはSiO膜等が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような酸化膜を形成することによるパッシベーション効果としては、シリコン基板の裏面表層部シリコン原子の未結合手を終端させ、再結合の原因となる表面準位密度を低減させる効果がある。
【0006】
また、少数キャリアの再結合を抑制する別の方法として、パッシベーション膜内の固定電荷が発生する電界によって少数キャリア密度を低減する方法がある。このようなパッシベーション効果は一般に電界効果と呼ばれ、負の固定電荷をもつ材料として酸化アルミニウム(Al)膜などが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
このようなパッシベーション膜は、一般的にはALD(Atomic Layer Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の方法で形成される(例えば、非特許文献1参照)。また半導体基板上に酸化アルミニウム膜を形成する簡便な手法として、ゾルゲル法による手法が提案されている(例えば、非特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3107287号公報
【特許文献2】特開2004−6565号公報
【特許文献3】特許第4767110号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Applied Physics、104(2008), 113703-1〜113703-7
【非特許文献2】Thin Solid Films, 517(2009), 088102-1〜088102-4
【非特許文献3】Chinese Physics Letters, 26(2009)、088102
【非特許文献4】Nippon Seramikkusu Kyokai Gakujitsu Ronbunshi, 97(1989)369-399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に記載の手法は、蒸着などの複雑な製造工程を含むため、生産性を向上させることが困難な場合があった。また非特許文献2〜4に記載の方法において用いられるパッシベーション膜形成用組成物では、経時的にゲル化等の不具合が発生してしまい保存安定性が充分とは言い難かった。
さらに、非特許文献2及び3に記載の方法において用いられるパッシベーション膜形成用組成物では、半導体基板との濡れ性が悪いため、ゾルゲル法で酸化アルミニウム膜を形成する工程で、印刷ムラや塗膜の厚さのばらつきが発生しやすく、均一な厚さの塗膜及び均一な厚さのパッシベーション膜を形成することが困難であった。印刷ムラとは、スクリーン版がシリコン基板から離れる際に、半導体基板との濡れが不十分な為にできる、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が周囲よりも極端に薄くなる現象である。
【0010】
本発明は、以上の従来の問題点に鑑みなされたものであり、簡便な手法で所望の形状の半導体基板パッシベーション膜を形成することができ保存安定性に優れ、印刷ムラを抑制し、良好な塗膜均一性を発現する半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は該半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いたパッシベーション膜付半導体基板及び太陽電池素子を提供することを課題とする。さらに本発明は、該半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いた、パッシベーション膜付半導体基板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物と、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種と、を含む半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0012】
【化1】
【0013】
式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。nは0〜3の整数を表す。X及びXはそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0014】
<2> 前記一般式(I)において、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である前記<1>に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0015】
<3> 前記一般式(I)において、nが1〜3の整数であり、Rがそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である前記<1>又は<2>に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0016】
<4> 前記フッ素系界面活性剤を含有し、該フッ素系界面活性剤が、オリゴマー型フッ素系界面活性剤及び活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種である前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0017】
<5> 前記シリコーン系界面活性剤を含有し、該シリコーン系界面活性剤が、側鎖型シリコーンオイル、片末端型シリコーンオイル及び両末端型シリコーンオイルから選択される少なくとも1種である前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0018】
<6> 前記シリコーン系界面活性剤を含有し、該シリコーン系界面活性剤が、シランカップリング剤である前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0019】
<7> さらに樹脂を含む前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0020】
<8> さらに下記一般式(II)で表される化合物を含む前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0021】
【化2】
【0022】
<9> 前記フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の総含有率が、0.01質量%〜10質量%である前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物。
【0023】
<10> 半導体基板と、前記半導体基板上の全面又は一部に設けられた前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物層と、を有するパッシベーション膜付半導体基板。
【0024】
<11> 半導体基板上の全面又は一部に、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、
前記組成物層を焼成処理して、パッシベーション膜を形成する工程と、
を有するパッシベーション膜付半導体基板の製造方法。
【0025】
<12> p型層及びn型層がpn接合されてなる半導体基板と、
前記半導体基板上の全面又は一部に設けられた前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物層と、
前記半導体基板の前記p型層又はn型層の上に配置された電極と、
を有する太陽電池素子。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡便な手法で所望の形状の半導体基板パッシベーション膜を形成することができ保存安定性に優れ、印刷ムラを抑制し、良好な塗膜均一性を発現する半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を提供することができる。また、本発明は該半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いたパッシベーション膜付半導体基板及び太陽電池素子を提供することができる。さらに本発明は、該半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いたパッシベーション膜付半導体基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態にかかる半導体基板パッシベーション膜を有する太陽電池素子の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態にかかる半導体基板パッシベーション膜を有する太陽電池素子の製造方法の他の一例を模式的に示す断面図である。
図3】本実施形態にかかる半導体基板パッシベーション膜を有する裏面電極型太陽電池素子の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0029】
<半導体基板パッシベーション膜形成用組成物>
本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、下記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物の少なくとも1種と、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種と、を含む。前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、必要に応じてその他の成分を更に含んでいてもよい。
【0030】
【化3】

【0031】
式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8個のアルキル基を表す。nは0〜3の整数を表す。X及びXはそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。ここでR〜R、X及びXのいずれかが複数存在する場合、複数存在する同一の記号で表される基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0032】
本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を、半導体基板に付与して所望の形状の組成物層を形成し、これを焼成処理することで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション膜を所望の形状に形成することができる。本発明の手法は、蒸着装置等を必要としない簡便で生産性の高い方法である。さらにマスク処理等の煩雑な工程を要することなく、所望の形状にパッシベーション膜を形成できる。また前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は特定の有機アルミニウム化合物を含むことで、ゲル化等の不具合の発生が抑制されて経時的な保存安定性に優れる。
【0033】
本明細書において、半導体基板のパッシベーション効果は、半導体基板パッシベーション膜を付与した半導体基板内の少数キャリアの実効ライフタイムを、日本セミラボ社製WT−2000PVN等の装置を用いて、反射マイクロ波導電減衰法によって測定することで評価することができる。
【0034】
ここで、実効ライフタイムτは、半導体基板内部のバルクライフタイムτと、半導体基板表面の表面ライフタイムτとによって下記式(A)のように表される。半導体基板表面の表面準位密度が小さい場合にはτが長くなる結果、実効ライフタイムτが長くなる。また、半導体基板内部のダングリングボンド等の欠陥が少なくなっても、バルクライフタイムτが長くなって実効ライフタイムτが長くなる。すなわち、実効ライフタイムτの測定によってパッシベーション膜/半導体基板の界面特性、及び、ダングリングボンドなどの半導体基板の内部特性を評価することができる。
1/τ=1/τ+1/τ (A)
尚、実効ライフタイムが長いほど少数キャリアの再結合速度が遅いことを示す。また実効ライフタイムが長い半導体基板を用いて太陽電池素子を構成することで、変換効率が向上する。
【0035】
(有機アルミニウム化合物)
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、前記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物(以下「特定有機アルミニウム化合物」と称する場合がある)の少なくとも1種を含む。特定有機アルミニウム化合物は、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレートなどと呼ばれる化合物を包含し、アルミニウムアルコキシド構造に加えてアルミニウムキレート構造を有していることが好ましい。また、Nippon Seramikkusu Kyokai Gakujitsu Ronbunshi, 97(1989)369-399にも記載されているように、前記有機アルミニウム化合物は焼成処理により酸化アルミニウム(Al)となる。
【0036】
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物を含有することで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション膜を形成できる理由について、発明者らは以下のように考えている。しかしながら、本発明は下記理由に何ら限定されない。
特定有機アルミニウム化合物を含有する本発明の半導体パッシベーション膜形成組成物を焼成処理することにより形成される酸化アルミニウムは、アモルファス状態となりやすく、4配位酸化アルミニウム層が半導体基板との界面付近に生じて大きな負の固定電荷をもつことができると考えられる。この大きな負の固定電荷が半導体基板の界面近辺で電界を発生することで少数キャリアの濃度を低下させることができ、結果的に界面でのキャリア再結合速度が抑制されるものと考えられる。したがって、特定有機アルミニウム化合物を含有する本発明の半導体パッシベーション膜形成用組成物は、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション膜を形成することができると考えられる。
【0037】
ここで、半導体基板表面上で負の固定電荷の原因種である4配位酸化アルミニウム層の状態は半導体基板の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM、Scanning Transmission electron Microscope)による電子エネルギー損失分光法(EELS、Electron Energy Loss Spectroscopy)の分析で結合様式を調べることができる。4配位酸化アルミニウムは二酸化珪素(SiO)の中心が珪素からアルミニウムに同形置換した構造と考えられ、ゼオライトや粘土のように二酸化珪素と酸化アルミニウムの界面で負の電荷源として形成されることが知られている。
【0038】
なお、形成された酸化アルミニウムの状態はX線回折スペクトル(XRD、X-ray diffraction)を測定することにより確認できる。例えば、XRDが特定の反射パターンを示さないことでアモルファス構造であることが確認できる。また、酸化アルミニウムがもつ負の固定電荷は、CV法(Capacitance Voltage measurement)で評価することが可能である。ただし、本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物から形成された酸化アルミニウムの焼成層について、CV法から得られるその表面準位密度は、ALDやCVD法で形成される酸化アルミニウム層の場合と比べ、大きな値となる場合がある。しかし本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物から形成されたパッシベーション膜は、電界効果が大きく少数キャリアの濃度が低下して表面ライフタイムτが長くなる。そのため、表面準位密度は相対的に問題にはならない。
【0039】
一般式(I)において、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表し、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。Rで表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。Rで表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基等を挙げることができる。中でもRで表されるアルキル基は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0040】
一般式(I)において、nは0〜3の整数を表わす。nは保存安定性の観点から、1〜3の整数であることが好ましく、1又は3であることがより好ましい。またX及びXはそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。保存安定性の観点から、X及びXの少なくとも一方は酸素原子であることが好ましい。
【0041】
一般式(I)におけるR、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。R、R及びRで表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R、R及びRで表されるアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0042】
中でも保存安定性とパッシベーション効果の観点から、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
またRは、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、水素原子又は炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0043】
一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物は、キレート化による反応性の抑制の観点から、nが1〜3であり、Rがそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である化合物であることが好ましい。
【0044】
また、一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物は、保存安定性及びパッシベーション効果の観点から、nが0であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である化合物;及び、nが1〜3であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、X及びXの少なくとも一方が酸素原子であり、R及びRがそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rが水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、nが0であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4の無置換のアルキル基である化合物;及び、nが1〜3であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4の無置換のアルキル基であり、X及びXの少なくとも一方が酸素原子であり、前記酸素原子に結合するR又はRが炭素数1〜4のアルキル基であり、X又はXがメチレン基の場合、前記メチレン基に結合するR又はRが水素原子であり、Rが水素原子である化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の場合である。
【0045】
一般式(I)で表され、nが0の有機アルミニウム化合物であるアルミニウムトリアルコキシドとして具体的には、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリsec−ブトキシアルミニウム、モノsec−ブトキシ−ジイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシアルミニウム、トリn−ブトキシアルミニウム等を挙げることができる。
【0046】
また一般式(I)で表され、nが1〜3である有機アルミニウム化合物として具体的には、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等を挙げることができる。
【0047】
一般式(I)で表され、nが1〜3である有機アルミニウム化合物は、調製したものを用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、川研ファインケミカル株式会社の商品名、ALCH、ALCH-TR、ALCH−TR、アルミキレートD、アルキミレートA等が挙げられる。
【0048】
一般式(I)で表され、nが1〜3である有機アルミニウム化合物は、前記アルミニウムトリアルコキシドと、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合することで調製することができる。
前記アルミニウムトリアルコキシドと、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合すると、アルミニウムトリアルコキシドのアルコキシド基の少なくとも一部が前記特定構造の化合物と置換して、アルミニウムキレート構造を形成する。このとき必要に応じて、溶媒が存在してもよく、また加熱処理や触媒の添加を行ってもよい。アルミニウムアルコキシド構造の少なくとも一部がアルミニウムキレート構造に置換されることで、有機アルミニウム化合物の加水分解や重合反応に対する安定性が向上し、これを含む半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の保存安定性がより向上する。
【0049】
前記2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物としては、保存安定性の観点から、β―ジケトン化合物、β―ケトエステル化合物、及びマロン酸ジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物として具体的には、アセチルアセトン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2,3−ペンタンジオン、3−エチル−2,4−ペンタンジオン、3−ブチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン等のβ―ジケトン化合物;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸tert−ブチル、アセト酢酸ペンチル、アセト酢酸イソペンチル、アセト酢酸ヘキシル、アセト酢酸n−オクチル、アセト酢酸ヘプチル、アセト酢酸3−ペンチル、2−アセチルヘプタン酸エチル、2−ブチルアセト酢酸エチル、4,4−ジメチル−3−オキソ吉草酸エチル、4−メチル−3−オキソ吉草酸エチル、2−エチルアセト酢酸エチル、ヘキシルアセト酢酸エチル、4−メチル−3−オキソ吉草酸メチル、アセト酢酸イソプロピル、3−オキソヘキサン酸エチル、3−オキソ吉草酸エチル、3−オキソ吉草酸メチル、3−オキソヘキサン酸メチル、2−メチルアセト酢酸エチル、3−オキソヘプタン酸エチル、3−オキソヘプタン酸メチル、4,4−ジメチル−3−オキソ吉草酸メチル等のβ―ケトエステル化合物;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジ−tert−ブチル、マロン酸ジヘキシル、マロン酸tert−ブチルエチル、メチルマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、イソプロピルマロン酸ジエチル、ブチルマロン酸ジエチル、sec−ブチルマロン酸ジエチル、イソブチルマロン酸ジエチル、1−メチルブチルマロン酸ジエチル等のマロン酸ジエステルなどを挙げることができる。
【0050】
前記特定有機アルミニウム化合物がアルミニウムキレート構造を有する場合、アルミニウムキレート構造の数は1〜3であれば特に制限されない。中でも、保存安定性の観点から、1又は3であることが好ましく、溶解度の観点から、1であることがより好ましい。アルミニウムキレート構造の数は、例えば前記アルミニウムトリアルコキシドと、アルミニウムとキレートを形成し得る化合物とを混合する比率を適宜調整することで制御することができる。また市販のアルミニウムキレート化合物から所望の構造を有する化合物を適宜選択してもよい。
【0051】
一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物のうち、焼成時の反応性と組成物としての保存安定性の観点から、具体的にはnが1〜3である有機アルミニウム化合物を用いることが好ましく、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)を用いることがより好ましく、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを用いることがさらに好ましい。
【0052】
前記特定有機アルミニウム化合物におけるアルミニウムキレート構造の存在は、通常用いられる分析方法で確認することができる。例えば、赤外分光スペクトル、核磁気共鳴スペクトル、融点等を用いて確認することができる。
【0053】
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物に含まれる前記特定有機アルミニウム化合物の含有量は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中に1質量%〜70質量%とすることが好ましく、3質量%〜60質量%であることがより好ましく、5質量%〜50質量%であることがさら好ましく、10質量%〜30質量%であることが特に好ましい。
【0054】
特定有機アルミニウム化合物は、液状であっても固体であってもよく、特に制限はない。パッシベーション効果と保存安定性の観点から、常温での安定性や、溶解性又は分散性が良好な常温での安定性や、溶解性又は分散性が良好な化合物であることで、形成されるパッシベーション膜の均一性がより向上し、所望のパッシベーション効果を安定的に得ることができる。
【0055】
(フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤)
本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、印刷ムラを抑制し、塗膜均一性を向上するために、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の少なくとも1種を含む。半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、フッ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を含有してもパッシベーション効果を低下させないことが見出された。
【0056】
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の半導体基板上での印刷ムラの発生及び塗膜均一性が低下する原因は、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の表面エネルギーが半導体基板の表面エネルギーより大きいことにある。本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物では、表面エネルギー低下能が高いフッ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤が配合されることで表面エネルギーが調整され、上記問題が改善されているものと考えられる。
【0057】
フッ素系界面活性剤としては特に制限はないが、表面エネルギー低下効果をより発現するパーフルオロアルキル基を含有しているものが好ましく、オリゴマー型フッ素系界面活性剤又は活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤がさらに好ましい。
オリゴマー型フッ素界面活性剤はオリゴマーの側鎖にパーフルオロアルキル基を含有する基をもつもので、具体的にはDIC製のメガファックF−430、F−477、F−552、F−553、F−554、F−555、F−556、F−557、F−558、F−559、F−561、F−562、R−40、R−41、TF−1540、TF−1760等を挙げることができる。
【0058】
活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤はオリゴマー内にパーフルオロアルキル基と反応性二重結合含有基をもつというもので、具体的に、DIC製のメガファックRS−72−K、RS−75、RS−76−E、RS−76−NS等を挙げることができる。
【0059】
シリコーン系界面活性剤としては、シリコーン鎖を含有する化合物又はシランカップリング剤が好ましい。
シリコーン鎖を有する化合物のシリコーン鎖は、フッ素系界面活性剤のパーフルオロアルキル基ほどには表面エネルギー低下効果はないものの、一定の粘度を有することから半導体基板パッシベーション膜形成用組成物と半導体基板の印刷ムラ及び塗膜均一性を改善できる。シリコーン系界面活性剤としては、側鎖型シリコーンオイル、片末端型シリコーンオイル又は両末端型シリコーンオイルが好ましい。
【0060】
側鎖型シリコーンオイルは、主鎖であるシリコーン鎖に特定の官能基を側鎖に有する変性シリコーンオイルであり、具体的に、信越化学工業製のアミノ変性KF−868、KF−865、KF−864、KF−859、KF−393、KF−860、KF−880、KF−8004、KF−8002、KF−8005、KF−867、KF−869、KF−861、KF−877;エポキシ変性KF−101、KF−102、KF−1001、KF−1002;メルカプト変性KF−2001、KF−2004;ポリエーテル変性KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017;フロロアルキル変性FL−5、FL−100−100cs、FL−100−450cs、FL−100−1000cs、FL−100−10000cs;長鎖アルキル変性KF−412、KF−413、KF−414、KF−145、KF−4003、KF−4701、KF−4917、KF−7235B;高級脂肪酸エステル変性KF−910;高級脂肪酸含有変性KF−3935;フェニル変性KF−50−100cs、KF−50−300cs、KF−50−1000cs、KF−50−3000cs、KF−53、KF−54等を挙げることができる。
【0061】
片末端型シリコーンオイルは、主鎖であるシリコーン鎖の一方の末端に特定の官能基を有する変性シリコーンオイルであり、具体的に、信越化学工業製のエポキシ変性X−22−173DX;カルビノール変性X−22−170BX、X−22−170DX;ジオール変性X−22−176DX、X−22−176GX−A;メタクリル変性X−22−174ASX、X−22−174DX、X−22−2426、X−22−2475;カルボキシル変性X−22−3710等を挙げることができる。
【0062】
両末端型シリコーンオイルは、主鎖であるシリコーン鎖の両方の末端に特定の官能基を有する変性シリコーンオイルであり、具体的に、信越化学工業製のアミノ変性PAM−E、KF−8010、X−22−161A、X−22−161B、KF−8012、KF−8008、X−22−1660B−3、X−22−9409;エポキシ変性X−22−163、KF−105、X−22−163A、X−22−163B、X−22−163C;脂環式エポキシ変性X−22−169AS、X−22−169B;カルビノール変性X−22−160AS、KF−6001、KF−6002、KF−6003;メタクリル変性X−22−164、X−22−164AS、X−22−164A、X−22−164B、X−22−164C、X−22−164E;ポリエーテル変性X−22−4952、X−22−4272、X−22−6266、KF−6004;メルカプト変性X−22−167B;カルボキシル変性X−22−162C;フェノール変性X−22−1821;シラノール変性X−21−5841、KF−9701;ポリエーテルメトキシ変性KF−889等を挙げることができる。
【0063】
シランカップリング剤は、半導体基板と直接反応して表面を改質し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の印刷ムラ及び塗膜均一性を改善できる。
シランカップリング剤として具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0064】
フッ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤のうち、半導体基板との濡れ性改善の観点から、フッ素系界面活性剤を用いることが好ましく、活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤を用いることがより好ましく、DIC製のメガファックRS−72−K、RS−75、RS−76−E、RS−76−NSを用いることがさらに好ましい。
【0065】
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中におけるフッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の総含有率は、0.01質量%〜10質量%であることが好ましく、0.02質量%〜8質量%であることがより好ましく、0.05質量%〜7質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
(樹脂)
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、さらに樹脂を含んでもよい。樹脂を含むことで、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が半導体基板上に付与されて形成される組成物層の形状安定性がより向上し、パッシベーション膜を前記組成物層が形成された領域に、所望の形状で選択的に形成することができる。
【0067】
前記樹脂の種類は特に制限されない。中でも半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を半導体基板上に付与する際に、良好なパターン形成ができる範囲に粘度調整が可能な樹脂であることが好ましい。前記樹脂として具体的には、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド類、ポリビニルアミド類、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド類、ポリスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、セルロース、セルロースエーテル類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン及びゼラチン誘導体、澱粉及び澱粉誘導体、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸ナトリウム誘導体、キサンタン及びキサンタン誘導体、グア及びグア誘導体、スクレログルカン及びスクレログルカン誘導体、トラガカント及びトラガカント誘導体、デキストリン及びデキストリン誘導体、(メタ)アクリル酸樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(例えば、アルキル(メタ)アクリレート樹脂、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート樹脂等)、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、シロキサン樹脂及びこれらの共重合体などを挙げることができる。これらの樹脂は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0068】
これらの樹脂のなかでも、保存安定性とパターン形成性の観点から、酸性及び塩基性の官能基を有さない中性樹脂を用いることが好ましく、含有量が少量の場合においても容易に粘度及びチキソ性を調節できる観点から、セルロース誘導体を用いることがより好ましい。
またこれら樹脂の分子量は特に制限されず、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物としての所望の粘度を鑑みて適宜調整することが好ましい。前記樹脂の重量平均分子量は、保存安定性とパターン形成性の観点から、1,000〜10,000,000であることが好ましく、3,000〜5,000,000であることがより好ましい。なお、樹脂の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定される分子量分布から標準ポリスチレンの検量線を使用して換算して求められる。
【0069】
これら樹脂は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が樹脂を含有する場合、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中の樹脂の含有率は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中の樹脂の含有率は、0.1質量%〜30質量%であることが好ましい。パターン形成をより容易にするようなチキソ性を発現させる観点から、前記含有率は0.2質量%〜25質量%であることがより好ましく、0.25質量%〜20質量%であることがさらに好ましく、0.25質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0070】
また樹脂を含有する場合の前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物における前記特定有機アルミニウム化合物と前記樹脂の含有比率は、必要に応じて適宜選択することができる。中でも、パターン形成性と保存安定性の観点から、特定有機アルミニウム化合物に対する樹脂の含有比率(樹脂/特定有機アルミニウム化合物)は、0.001〜1000であることが好ましく、0.01〜100であることがより好ましく、0.1〜1であることがさらに好ましい。
【0071】
(高沸点材料)
また、本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、樹脂に替わる材料として、又は樹脂と併用して、加熱時に容易に気化して脱脂する必要のない高沸点の材料(高沸点材料)を用いてもよい。特に、前記高沸点材料としては、印刷塗布後に印刷形状が維持できる高粘度の材料が好ましく、これらを満たす材料として、例えば下記一般式(II)で表わされるイソボルニルシクロヘキサノールが挙げられる。
【0072】
【化4】
【0073】
この一般式(II)で表わされるイソボルニルシクロヘキサノールは「テルソルブ MTPH」(日本テルペン化学社製、商品名)として商業的に入手可能である。イソボルニルシクロヘキサノールは沸点が308℃〜318℃と高く、また、加熱時は樹脂バインダーのように焼成による脱脂ではなく、気化することによって消失させることができる。このため、半導体基板上に塗布した後の乾燥工程で、組成物中の溶剤とイソボルニルシクロヘキサノールの大部分を取り除くことができる。
【0074】
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が高沸点材料を含有する場合、高沸点材料の含有率は、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の総質量中に3質量%〜95質量%であることが好ましく、5質量%〜90質量%であることがより好ましく、7質量%〜80質量%であることが特に好ましい。
【0075】
(溶媒)
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよい。半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が溶媒を含有することで、粘度の調整がより容易になり、付与性がより向上すると共により均一な焼成層を形成することができる。前記溶媒としては特に制限されず、必要に応じて適宜選択することができる。中でも前記特定有機アルミニウム化合物、及び前記樹脂を溶解して均一な溶液を与えることができる溶媒が好ましく、有機溶剤の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0076】
溶媒として具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−i−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジ−i−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチル−n−プロピルエーテル、ジ−i−プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、テトラプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−(2−ブトキシエトキシ)エチル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸ジエチレングリコールメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、エチレングリコールメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のエステル系溶剤;アセトニトリル、N−メチルピロリジノン、N−エチルピロリジノン、N−プロピルピロリジノン、N−ブチルピロリジノン、N−ヘキシルピロリジノン、N−シクロヘキシルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル系溶剤;α−テルピネン、α−テルピネオール、ミルセン、アロオシメン、リモネン、ジペンテン、α−ピネン、β−ピネン、ターピネオール、カルボン、オシメン、フェランドレン等のテルペン系溶剤;水などが挙げられる。これらは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0077】
中でも前記溶媒は、半導体基板への付与性及びパターン形成性の観点から、テルペン系溶剤、エステル系溶剤、及びアルコール系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、テルペン系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0078】
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物に溶媒を用いる場合の溶媒の含有量は、付与性、パターン形成性、保存安定性を考慮し決定される。例えば溶媒の含有量は、組成物の付与性とパターン形成性の観点から、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中に1質量%〜95質量%であることが好ましく、2質量%〜90質量%であることがより好ましい。
【0079】
(その他添加剤)
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、酸性化合物又は塩基性化合物を含有してもよい。酸性化合物又は塩基性化合物を含有する場合、保存安定性の観点から、酸性化合物又は塩基性化合物の含有率が、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中にそれぞれ1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
前記酸性化合物としては、ブレンステッド酸及びルイス酸を挙げることができ、具体的には塩酸、硝酸等の無機酸;酢酸等の有機酸;などを挙げることができる。また塩基性化合物としては、ブレンステッド塩基及びルイス塩基を挙げることができ、具体的にはアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の無機塩基、トリアルキルアミン、ピリジン等の有機塩基などを挙げることができる。
【0080】
(物性値)
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の粘度は特に制限されず、半導体基板への付与方法等に応じて適宜選択するこができる。例えば、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の粘度は0.01Pa・s〜10000Pa・sとすることができる。中でもパターン形成性の観点から、0.1Pa・s〜1000Pa・sであることが好ましい。なお、前記粘度は回転式せん断粘度計を用いて、25℃、せん断速度1.0s−1で測定される。
【0081】
また前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物のせん断粘度は特に制限されず、チキソ性を有していることが好ましい。中でもパターン形成性の観点から、せん断速度1.0s−1におけるせん断粘度ηをせん断速度10s−1におけるせん断粘度ηで除して算出されるチキソ比(η/η)が1.05〜100であることが好ましく、1.1〜50であることがより好ましい。
なお、せん断粘度は、コーンプレート(直径50mm、コーン角1°)を装着した回転式のせん断粘度計を用いて、温度25℃で測定される。
一方、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物が樹脂の代わりに高沸点材料を含む場合、パターン形成性の観点から、せん断速度1.0s−1におけるせん断粘度ηをせん断速度1000s−1におけるせん断粘度ηで除して算出されるチキソ比(η/η)が1.05〜100であることが好ましく、1.1〜50であることがより好ましい。
【0082】
なお、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中に含まれる成分、及び各成分の含有量はTG/DTA等の熱分析、NMR、IR等のスペクトル分析、HPLC、GPC等のクロマトグラフ分析などを用いて確認することができる。
【0083】
(半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の製造方法)
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の製造方法には特に制限はない。例えば、有機アルミニウム化合物とフッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種と必要に応じて溶媒とを、通常用いられる混合方法で混合することで製造することができる。またフッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種を溶媒に溶解した後、これと有機アルミニウム化合物とを混合することで製造してもよい。
さらに前記特定有機アルミニウム化合物は、アルミニウムアルコキシドと、アルミニウムとキレートを形成可能な化合物とを混合して調製してもよい。その際、適宜溶媒を用いても、加熱処理を行ってもよい。このようにして調製した特定有機アルミニウム化合物と、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種又はフッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種を含む溶液とを混合して半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を製造してもよい。
【0084】
(用途)
本発明の半導体基板にパッシベーション膜は、半導体基板にパッシベーション膜を形成するために用いられることが好適な、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物である。また、本発明の半導体基板にパッシベーション膜は、半導体基板が太陽電池用の半導体基板である場合に、より好適に用いることができる。
【0085】
<パッシベーション膜付半導体基板>
本発明のパッシベーション膜付半導体基板は、半導体基板と、前記半導体基板上の全面又は一部に設けられた前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物層と、を有する。前記パッシベーション膜付半導体基板は、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物からなる層であるパッシベーション膜を有することで優れたパッシベーション効果を示す。
【0086】
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与する半導体基板としては特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。前記半導体基板としては、シリコン、ゲルマニウム等にp型不純物又はn型不純物をドープしたものであれば特に制限されない。中でもシリコン基板であることが好ましい。また、前記半導体基板は、p型半導体基板であっても、n型半導体基板であってもよい。中でもパッシベーション効果の観点から、パッシベーション膜が形成される面がp型層である半導体基板であることが好ましい。前記半導体基板上のp型層は、p型半導体基板に由来するp型層であっても、p型拡散層又はp型拡散層として、n型半導体基板又はp型半導体基板上に形成されたものであってもよい。
また前記半導体基板の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば50μm〜1000μmとすることができ、75μm〜750μmであることが好ましい。
【0087】
前記半導体基板上に形成されたパッシベーション膜の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、2nm〜1μmであることが好ましく、3nm〜0.9μmであることが好ましく、4nm〜0.8μmであることが更に好ましい。
【0088】
前記パッシベーション膜付半導体基板は、太陽電池素子、発光ダイオード素子等に適用することができる。例えば、太陽電池素子に適用することで変換効率に優れた太陽電池素子を得ることができる。
【0089】
<パッシベーション膜付半導体基板の製造方法>
本発明のパッシベーション膜付半導体基板の製造方法は、半導体基板上の全面又は一部に、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層を焼成処理してパッシベーション膜を形成する工程とを有する。前記製造方法は必要に応じてその他の工程を更に含んでいてもよい。
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いることで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション膜を所望の形状に、簡便な方法で形成することができる。
【0090】
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与する半導体基板としては、前述のパッシベーション膜付半導体基板で説明したものを用いることができる。
【0091】
前記パッシベーション膜付半導体基板の製造方法は、前記組成物層を形成する工程の前に、半導体基板上にアルカリ水溶液を付与する工程をさらに有することが好ましい。すなわち、半導体基板上に前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与する前に、半導体基板の表面をアルカリ水溶液で洗浄することが好ましい。アルカリ水溶液で洗浄することで、半導体基板表面に存在する有機物、パーティクル等を除去することができ、パッシベーション効果がより向上する。
【0092】
アルカリ水溶液による洗浄の方法としては、一般的に知られているRCA洗浄などを例示することができる。例えばアンモニア水−過酸化水素水の混合溶液に半導体基板を浸し、60℃〜80℃で処理することで、有機物及びパーティクルを除去、洗浄することできる。洗浄時間は、10秒〜10分間であることが好ましく、30秒〜5分間であることがさらに好ましい。
【0093】
半導体基板上に、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する方法には特に制限はない。例えば、公知の塗布方法等を用いて、半導体基板上に前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与する方法を挙げることができる。
具体的には、浸漬法、印刷法、スピンコート法、刷毛塗り、スプレー法、ドクターブレード法、ロールコー法、インクジェット法等を挙げることができる。これらの中でもパターン形成性の観点から、各種の印刷法、インクジェット法等が好ましい。
【0094】
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の付与量は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、形成されるパッシベーション膜の膜厚が、後述する所望の膜厚となるように適宜調整することができる。
【0095】
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物によって形成された組成物層を焼成処理して、前記組成物層に由来する焼成物層を形成することで、半導体基板上に半導体基板パッシベーション膜を形成することができる。
組成物層の焼成条件は、組成物層に含まれる有機アルミニウム化合物をその焼成物である酸化アルミニウム(Al)に変換可能であれば特に制限されない。中でも特定の結晶構造を持たないアモルファス状のAl層を形成可能な焼成条件であることが好ましい。半導体基板パッシベーション膜がアモルファス状のAl層で構成されることで、半導体基板パッシベーション膜により効果的に負電荷を持たせることができ、より優れたパッシベーション効果を得ることができる。具体的に、焼成温度は400℃〜900℃が好ましく、450℃〜800℃がより好ましい。また焼成時間は焼成温度等に応じて適宜選択できる。例えば、0.1時間〜10時間とすることができ、0.2時間〜5時間であることが好ましい。
【0096】
前記パッシベーション膜付半導体基板の製造方法によって製造されるパッシベーション膜の膜厚は特に制限されず、目的に応じて適宜選択できる。例えば、2nm〜1μmであることが好ましく、3nm〜0.9μmであることが好ましく、4nm〜0.8μmであることが更に好ましい。
尚、形成されたパッシベーション膜の膜厚は、触針式段差・表面形状測定装置(例えば、Ambios社製)を用いて常法により、3点の厚みを測定し、その算術平均値として算出される。
【0097】
前記パッシベーション膜付半導体基板の製造方法は、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与した後、焼成処理によってパッシベーション膜を形成する工程の前に、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物からなる組成物層を乾燥処理する工程をさらに有していてもよい。組成物層を乾燥処理する工程を有することで、より均一なパッシベーション効果を有するパッシベーション膜を形成することができる。
【0098】
組成物層を乾燥処理する工程は、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物に含まれることがある溶媒の少なくとも一部を除去することができれば、特に制限されない。乾燥処理は例えば30℃〜250℃で1分間〜60分間の加熱処理とすることができ、40℃〜220℃で3分間〜40分間の加熱処理であることが好ましい。また乾燥処理は、常圧下で行なっても減圧下で行なってもよい。
【0099】
<太陽電池素子>
本発明の太陽電池素子は、p型層及びn型層がpn接合されてなる半導体基板と、前記半導体基板上の全面又は一部に設けられた前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物の焼成物層である半導体基板パッシベーション膜と、前記半導体基板の前記p型層及びn型層の少なくとも一方の層上にそれぞれ配置された電極とを有する。前記太陽電池素子は、必要に応じてその他の構成要素を更に有していてもよい。
前記太陽電池素子は、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物から形成されたパッシベーション膜を有することで、変換効率に優れる。
【0100】
前記パッシベーション膜が設けられる半導体基板の面は、p型層であっても、n型層であってもよい。中でも変換効率の観点からp型層であることが好ましい。前記半導体基板上のp型層は、p型半導体基板に由来するp型層であっても、p型拡散層又はp型拡散層として、n型半導体基板又はp型半導体基板上に形成されたものであってもよい。
【0101】
前記半導体基板の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば50μm〜1000μmとすることができ、75μm〜750μmであることが好ましい
また前記半導体基板上に形成されたパッシベーション膜の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、2nm〜1μmであることが好ましく、3nm〜0.9μmであることがより好ましく、4nm〜0.8μmであることが更に好ましい。
前記太陽電池素子の形状や大きさに制限はない。例えば、一辺が125mm〜156mmの正方形であることが好ましい。
【0102】
<太陽電池素子の製造方法>
本発明の太陽電池素子の製造方法は、p型層及びn型層が接合されてなるpn接合を有し、p型層及びn型層の少なくとも一方の層上に電極を有する半導体基板の、前記電極を有する面の一方又は両方の面上に、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層を焼成処理してパッシベーション膜を形成する工程とを有する。前記太陽電池素子の製造方法は、必要に応じてその他の工程を更に有していてもよい。
【0103】
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いることで、優れたパッシベーション効果を有する半導体基板パッシベーション膜を備え、変換効率に優れる太陽電池素子を簡便な方法で製造することができる。さらに電極が形成された半導体基板上に、所望の形状となるように半導体基板パッシベーション膜を形成することができ、太陽電池素子の生産性に優れる。
【0104】
p型層及びn型層の少なくとも一方の層上に電極が配置されたpn接合を有する半導体基板は、通常用いられる方法で製造することができる。例えば半導体基板の所望の領域に、銀ペースト、アルミニウムペースト等の電極形成用ペーストを付与し、必要に応じて焼成処理することで製造することができる。
【0105】
前記半導体基板パッシベーション膜が設けられる半導体基板の面は、p型層であっても、n型層であってもよい。中でも変換効率の観点からp型層であることが好ましい。
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して半導体基板パッシベーション膜を形成する方法の詳細は、既述のパッシベーション膜付半導体基板の製造方法と同様であり、好ましい態様も同様である。
前記半導体基板上に形成される半導体基板パッシベーション膜の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。2nm〜1μmであることが好ましく、3nm〜0.9μmであることが好ましく、4nm〜0.8μmであることが更に好ましい。
【0106】
次に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態にかかる半導体基板パッシベーション膜を有する太陽電池素子の製造方法の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものである。但し、この工程図は本発明をなんら制限するものではない。
【0107】
図1(a)に示すように、p型半導体基板1には、表面近傍にn型拡散層2が形成され、最表面に反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜などが挙げられる。反射防止膜3とp型半導体基板1との間に酸化ケイ素などの表面保護膜(図示せず)が更に存在していてもよい。また本発明にかかる半導体基板パッシベーション膜を表面保護膜として使用してもよい。
【0108】
次いで図1(b)に示すように、裏面の一部の領域にアルミニウム電極ペーストなどの裏面電極5を形成する材料を塗布した後に熱処理して、裏面電極5を形成すると共にp型半導体基板1中にアルミニウム原子を拡散させてp型拡散層4を形成する。
【0109】
次いで図1(c)に示すように、受光面側に電極形成用ペーストを塗布した後に熱処理して表面電極7を形成する。電極形成用ペーストとしてファイヤースルー性を有するガラス粉末を含むものを用いることで、図1(c)に示すように反射防止膜3を貫通して、n型拡散層2の上に、表面電極7を形成してオーミックコンタクトを得ることができる。
【0110】
なお、図1では、(b)(c)を別個の工程として図示しているが、(b)(c)の工程を合わせて、1つの工程としてもよい。具体的には、上記(b)において、裏面の一部の領域にアルミニウム電極ペーストなどの裏面電極5を形成する材料を塗布した後、裏面電極5を形成するための熱処理を行う前に、受光面側に電極形成用ペーストを塗布し、そして、この段階で熱処理を行ってもよい。この方法の場合には、1回の熱処理により裏面と受光面の電極が形成され、工程が簡略化される。
【0111】
最後に図1(d)に示すように、裏面電極5が形成された領域以外の裏面のp型層上に、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する。付与は例えばスクリーン印刷等の塗布法により行うことができる。p型層上に形成された組成物層を焼成処理して半導体基板パッシベーション膜6を形成する。裏面のp型層上に、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物から形成された半導体基板パッシベーション膜6を形成することで、発電効率に優れた太陽電池素子を製造することができる。
【0112】
図1に示す製造工程を含む製造方法で製造される太陽電池素子では、アルミニウム等から形成される裏面電極をポイントコンタクト構造とすることができ、基板の反りなどを低減することができる。更に前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いることで、電極形成された領域以外のp型層上にのみ優れた生産性で半導体基板パッシベーション膜を形成することができる。
【0113】
また図1(d)では裏面部分にのみ半導体基板パッシベーション膜を形成する方法を示したが、半導体基板1の裏面側に加えて、側面にも半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与し、これを焼成処理することで半導体基板1の側面(エッジ)に半導体基板パッシベーション膜をさらに形成してもよい(図示せず)。これにより、発電効率により優れた太陽電池素子を製造することができる。
さらにまた、裏面部分に半導体基板パッシベーション膜を形成せず、側面のみに本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を塗布、乾燥して半導体基板パッシベーション膜を形成してもよい。本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、側面のような結晶欠陥が多い場所に使用すると、その効果が特に大きい。
【0114】
図1では電極形成後に半導体基板パッシベーション膜を形成する態様について説明したが、パッシベーション膜形成後に、更にアルミニウムなどの電極を蒸着などによって所望の領域に形成してもよい。
【0115】
図2は、本実施形態にかかる半導体基板パッシベーション膜を有する太陽電池素子の製造方法の別の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものである。具体的には、図2はアルミニウム電極ペースト又は熱拡散処理によりp型拡散層を形成可能なp型拡散層形成用組成物を用いてp型拡散層を形成後、アルミニウム電極ペーストの熱処理物又はp型拡散層形成用組成物の熱処理物を除去する工程を含む工程図を断面図として説明するものである。ここでp型拡散層形成用組成物としては例えば、アクセプタ元素含有物質とガラス成分とを含む組成物を挙げることができる。
【0116】
図2(a)に示すように、p型半導体基板1には、表面近傍にn型拡散層2が形成され、表面に反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜などが挙げられる。
【0117】
次いで図2(b)に示すように、裏面の一部の領域にp型拡散層形成用組成物を塗布した後に熱処理して、p型拡散層4を形成する。p型拡散層4上にはp型拡散層形成用組成物の熱処理物8が形成されている。
ここでp型拡散層形成用組成物に代えて、アルミニウム電極ペーストを用いてもよい。アルミニウム電極ペーストを用いた場合には、p型拡散層4上にはアルミニウム電極8が形成される。
【0118】
次いで図2(c)に示すように、p型拡散層4上に形成されたp型拡散層形成用組成物の熱処理物8又はアルミニウム電極8をエッチングなどの手法により除去する。
【0119】
次いで図2(d)に示すように、受光面(表面)及び裏面の一部の領域に選択的に電極形成用ペーストを塗布した後に熱処理して、受光面(表面)に表面電極7を、裏面に裏面電極5をそれぞれ形成する。受光面側に塗布する電極形成用ペーストとしてファイヤースルー性を有するガラス粉末を含むものを用いることで、図2(c)に示すように反射防止膜3を貫通して、n型拡散層2の上に、表面電極7が形成されてオーミックコンタクトを得ることができる。
また裏面電極が形成される領域にはすでにp型拡散層4が形成されているため、裏面電極5を形成する電極形成用ペーストには、アルミニウム電極ペーストに限定されず、銀電極ペースト等のより低抵抗な電極を形成可能な電極用ペーストを用いることもできる。これにより、さらに発電効率を高めることも可能になる。
【0120】
最後に図2(e)に示すように、裏面電極5が形成された領域以外の裏面のp型層上に、半導体パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する。付与は例えばスクリーン印刷等の塗布法により行うことができる。p型層上に形成された組成物層を焼成処理して半導体基板パッシベーション膜6を形成する。裏面のp型層上に、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物から形成された半導体基板パッシベーション膜6を形成することで、発電効率に優れた太陽電池素子を製造することができる。
【0121】
また図2(e)では裏面部分にのみ半導体基板パッシベーション膜を形成する方法を示したが、p型半導体基板1の裏面側に加えて、側面にも半導体基板パッシベーション膜形成用材料を塗布、乾燥することでp型半導体基板1の側面(エッジ)に半導体基板パッシベーション膜をさらに形成してもよい(図示せず)。これにより、発電効率がさらに優れた太陽電池素子を製造することができる。
さらにまた、裏面部分に半導体基板パッシベーション膜を形成せず、側面のみに本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与し、これを焼成処理して半導体基板パッシベーション膜を形成してもよい。本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、側面のような結晶欠陥が多い場所に使用すると、その効果が特に大きい。
【0122】
図2では電極形成後にパッシベーション膜を形成する態様について説明したが、パッシベーション膜形成後に、更にアルミなどの電極を蒸着などによって所望の領域に形成してもよい。
【0123】
上述した実施形態では、受光面にn型拡散層が形成されたp型半導体基板を用いた場合について説明を行ったが、受光面にp型拡散層が形成されたn型半導体基板を用いた場合にも同様にして、太陽電池素子を製造することができる。尚、その場合は裏面側にn型拡散層を形成することとなる。
【0124】
さらに半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は、図3に示すような裏面側のみに電極が配置された裏面電極型太陽電池素子の受光面側又は裏面側の半導体基板パッシベーション膜6を形成することにも使用できる。
図3に概略断面図を示すように、p型半導体基板1の受光面側には、表面近傍にn型拡散層2が形成され、その表面に半導体基板パッシベーション膜6及び反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜などが知られている。また半導体基板パッシベーション膜6は、本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与し、これを焼成処理して形成される。
【0125】
p型半導体基板1の裏面側には、p型拡散層4及びn型拡散層2上にそれぞれ裏面電極5が設けられ、さらに裏面の電極が形成されていない領域には半導体基板パッシベーション膜6が設けられている。
型拡散層4は、上述のようにp型拡散層形成用組成物又はアルミニウム電極ペーストを所望の領域に塗布した後に熱処理することで形成することができる。またn型拡散層2は、例えば熱拡散処理によりn型拡散層を形成可能なn型拡散層形成用組成物を所望の領域に塗布した後に熱処理することで形成することができる。
ここでn型拡散層形成用組成物としては例えば、ドナー元素含有物質とガラス成分とを含む組成物を挙げることができる。
【0126】
型拡散層4及びn型拡散層2上にそれぞれ設けられる裏面電極5は、銀電極ペースト等の通常用いられる電極形成用ペーストを用いて形成することができる。また、p型拡散層4上に設けられる裏面電極5は、アルミニウム電極ペーストを用いてp型拡散層4と共に形成されるアルミニウム電極であってもよい。
【0127】
裏面に設けられる半導体基板パッシベーション膜6は、半導体パッシベーション膜形成用組成物を裏面電極5が設けられていない領域に付与し、これを焼成処理することで形成することができる。また半導体基板パッシベーション膜6は半導体基板1の裏面のみならず、さらに側面にも形成してよい(図示せず)。
【0128】
図3に示すような裏面電極型太陽電池素子においては、受光面側に電極がないため発電効率に優れる。さらに裏面の電極が形成されていない領域に半導体基板パッシベーション膜が形成されているため、さらに変換効率に優れる。
【0129】
上記では半導体基板としてp型半導体基板を用いた例を示したが、n型半導体基板を用いた場合も、上記に準じて変換効率に優れる太陽電池素子を製造することができる。
【0130】
<太陽電池>
太陽電池は、前記太陽電池素子の少なくとも1つを含み、太陽電池素子の電極上に配線材料が配置されて構成される。太陽電池はさらに必要に応じて、配線材料を介して複数の太陽電池素子が連結され、さらに封止材で封止されて構成されていてもよい。
前記配線材料及び封止材としては特に制限されず、当業界で通常用いられているものから適宜選択することができる。
前記太陽電池の大きさに制限はない。0.5m〜3mであることが好ましい。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0132】
<実施例1>
(半導体基板パッシベーション膜形成用組成物1の調製)
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、商品名:ALCH)を40.3g、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学社製、商品名:テルソルブMTPH)を256.7g、テルピネオール(日本テルペン化学社製)を24.2g混合して、ベース組成物を調製した。なお、ベース組成物中の有機アルミニウム化合物の含有量は12.6質量%、イソボルニルシクロヘキサノールの含有量は79.9質量%、テルピネオールの含有量は7.5質量%である。このベース組成物15.123gと活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤メガファックRS−72−K(DIC社製)を0.153g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物1を調整した。
【0133】
(パッシベーション膜の形成)
半導体基板として、表面がミラー形状の単結晶型p型シリコン基板(SUMCO製、50mm角、厚さ:625μm)を用いた。シリコン基板をRCA洗浄液(関東化学製Frontier Cleaner−A01)を用いて70℃にて5分間、浸漬洗浄し、前処理を行った。
【0134】
(印刷ムラの評価)
その後、上記で得られた半導体基板パッシベーション膜形成用組成物1を前処理したシリコン基板上に、スクリーン印刷法を用いて全面に付与した。この際、シリコン基板10枚連続で印刷を行い、うち10枚全てに印刷ムラがないことを目視で確認した。結果を表1に示した。前記印刷ムラとは、スクリーン版がシリコン基板から離れる際に、半導体基板との濡れが不十分な為にできる、前記が周囲よりも極端に薄くなる現象を指す。
なお、表1中の印刷性の項目において、印刷中に目視によって印刷ムラが生じなかったものが10枚中9枚以上のものをA、8枚以下かつ6枚以上のものをB、5枚以下のものをCと表記する。
【0135】
(保存安定性の評価)
上記で調整した半導体基板パッシベーション膜形成用組成物1のせん断粘度を、調製直後(12時間以内)及び25℃で30日間保存した後にそれぞれ測定した。せん断粘度の測定は、AntonPaar社製MCR301に、コーンプレート(直径50mm、コーン角1°)を装着し、温度25℃で、せん断速度1.0s−1で行った。
25℃で30日間保存した後のせん断粘度の変化率を下式(B)により算出し、下記評価基準に従って保存安定性について評価した。
せん断粘度の変化率(%)=(η30−η)/(η)×100 (B)
η:調製直後(12時間以内)のせん断粘度
η30:5℃で30日間保存した後のせん断粘度
【0136】
[評価基準]
A:せん断粘度の変化率が10%未満であった。
B:せん断粘度の変化率が10%以上20%未満であった。
C:せん断粘度の変化率が20%以上であった。
評価がA及びBであれば、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物として良好である。
【0137】
(塗膜均一性の評価)
また、印刷後の塗膜が均一であるものが10枚中9枚であったことを同様に目視で確認した。結果を表1に示した。塗膜が均一である状態とは、前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物がシリコン基板上の印刷部全体に存在している様を指す。
なお、表1中の塗膜均一性の項目において、印刷後に目視によって塗布膜が均一であったものが10枚中9枚以上のものをA、8枚以下かつ6枚以上のものをB、5枚以下のものをCと表記する。
【0138】
印刷後、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物1を付与したシリコン基板を150℃で5分間乾燥処理した。次いで700℃で10分間焼成処理した後、室温で放冷して評価用基板を作製した。
得られたパッシベーション膜の膜厚は、1.54μmであった。パッシベーション膜の膜厚は、触針式段差・表面形状測定装置(Ambios社製)を用いて3点の厚みを測定し、その算術平均値として算出した。
【0139】
(実効ライフタイムの測定)
上記で得られた評価用基板の実効ライフタイム(μs)を、ライフタイム測定装置(日本セミラボ製WT−2000PVN)を用いて、室温で反射マイクロ波光電導減衰法により測定した。得られた評価用基板の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与した領域の実効ライフタイムは、310μsであった。
【0140】
<実施例2>
上記ベース組成物14.975gと活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤メガファックRS−75(DIC社製)を0.155g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物2を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物2を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0141】
<実施例3>
上記ベース組成物15.021gと活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤メガファックRS−76−E(DIC社製)を0.147g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物3を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物3を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0142】
<実施例4>
上記ベース組成物15.223gと変性シリコーンオイルKBM3063(信越化学製)を0.160g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物4を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物4を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0143】
<実施例5>
上記ベース組成物14.849gとシランカップリング剤KBM403(信越化学製)を0.164g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物5を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物5を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0144】
<実施例6>
上記ベース組成物14.928gとシランカップリング剤KBM503(信越化学製)を0.161g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物6を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物6を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0145】
<実施例7>
上記ベース組成物14.763gと活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤メガファックRS−72−K(DIC社製)を0.076g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物7を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物7を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0146】
<実施例8>
上記ベース組成物14.545gと活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤メガファックRS−72−K(DIC社製)を0.729g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物8を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物8を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0147】
<実施例9>
上記ベース組成物14.277gと活性エネルギー線硬化型フッ素系界面活性剤メガファックRS−72−K(DIC社製)を1.428g混合し、半導体基板パッシベーション膜形成用組成物9を調整した。
半導体基板パッシベーション膜形成用組成物9を用いたこと以外は実施例1と同様にパッシベーション膜を形成し、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0148】
<比較例1>
半導体基板として、表面がミラー形状の単結晶型p型シリコン基板(SUMCO製、50mm角、厚さ:625μm)を用いた。シリコン基板をRCA洗浄液(関東化学製Frontier Cleaner−A01)を用いて70℃にて5分間、浸漬洗浄し、前処理を行った。
その後、上記ベース組成物を前処理したシリコン基板上に、スクリーン印刷法を用いて全面に付与し、150℃で5分間乾燥処理した。次いで700℃で10分間焼成処理した後、室温で放冷して評価用基板を作製した。
ベース組成物を用いたこと以外は実施例1と同様に評価を行なった。結果を表1に示す。
【0149】
<比較例2>
半導体基板として、表面がミラー形状の単結晶型p型シリコン基板(SUMCO製、50mm角、厚さ:625μm)を用いた。シリコン基板をRCA洗浄液(関東化学製Frontier Cleaner−A01)を用いて70℃にて5分間、浸漬洗浄し、前処理を行った。
その後、上記ベース組成物を前処理したシリコン基板上に、スクリーン印刷法を用いて全面に付与し、210℃で5分間乾燥処理した。次いで700℃で10分間焼成処理した後、室温で放冷して評価用基板を作製した。
ベース組成物を用いたこと、乾燥温度を210℃にしたこと以外は実施例1と同様にし、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0150】
【表1】





【0151】
以上から、本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いることで優れたパッシベーション効果を有する半導体基板パッシベーション膜を形成できることが分かる。また本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は保存安定性に優れることが分かる。さらに本発明の半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を用いることで、簡便な工程で所望の形状に半導体基板パッシベーション膜を形成できることがわかる。
【符号の説明】
【0152】
1 p型半導体基板
2 n型拡散層
3 反射防止膜
4 p型拡散層
5 裏面電極
6 パッシベーション膜
7 表面電極
8 p型拡散層形成組成物の熱処理物又はアルミニウム電極
図1
図2
図3