特許第6011238号(P6011238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6011238-アミン液の再生方法および装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011238
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】アミン液の再生方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20161006BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20161006BHJP
   B01D 61/48 20060101ALI20161006BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20161006BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20161006BHJP
   B01D 61/52 20060101ALI20161006BHJP
   C07C 215/10 20060101ALI20161006BHJP
   C07C 213/10 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C02F1/46 103
   B01D61/54 510
   B01D61/48
   B01D61/44 500
   B01D61/46
   B01D61/52
   C07C215/10
   C07C213/10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-230857(P2012-230857)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-79724(P2014-79724A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】織田 信博
(72)【発明者】
【氏名】小布施 洋
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−135707(JP,A)
【文献】 特開2008−212871(JP,A)
【文献】 特開平11−010161(JP,A)
【文献】 特開2010−037573(JP,A)
【文献】 特開昭63−267747(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/061811(WO,A1)
【文献】 特開2001−340863(JP,A)
【文献】 特開2007−063617(JP,A)
【文献】 特開2009−241024(JP,A)
【文献】 特開2012−130879(JP,A)
【文献】 特開2012−149018(JP,A)
【文献】 特開昭63−036893(JP,A)
【文献】 特開昭56−097506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44− 1/48
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室が形成され、該アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室が形成された電気透析装置を用い、
該アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、
アミン精製室から精製アミン液を取出し、
該酸濃縮室から酸濃縮液を取出すアミン液の再生方法において、
該アミン精製室にアニオン交換体が充填されており、
該陰極と陽極との間に間欠的に通電するアミン液の再生方法であって、
該アニオン交換体がアニオン交換樹脂であり、
前記アミン精製室内のアニオン交換樹脂のイオン交換容量の当量以内の電気量が流れるように、該陰極と陽極との間に通電する間隔を制御することを特徴とするアミン液の再生方法。
【請求項2】
請求項1において、アミン液の通液開始当初における前記アミン精製室内のイオン交換体が炭酸イオン形又は重炭酸イオン形が多い間は通電を停止し、熱安定性酸イオンで炭酸イオン又は重炭酸イオンがアミン精製室から押し出されて熱安定性アニオン交換体が多くなってから前記通電を行うことを特徴とするアミン液の再生方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記酸濃縮室に酸捕捉液を導入することを特徴とするアミン液の再生方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記アミン精製室内のアニオン交換樹脂のイオン交換容量の1.2倍以上の熱安定性酸イオン負荷量となるように陰極と陽極との間に通電しない間隔を制御することを特徴とするアミン液の再生方法。
【請求項5】
陰極及び陽極と、
該陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜と、
該バイポーラ膜およびアニオン交換膜間に形成された、アニオン交換体が充填されたアミン精製室と、
該アミン精製室へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路と、
アミン精製室から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路と、
該アニオン交換膜の陽極側に形成された酸濃縮室と、
該酸濃縮室から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路と、
該陰極と陽極との間に間欠的に通電を行う通電制御機構と
を有するアミン液の再生装置であって、
該アニオン交換体はアニオン交換樹脂であり、
該通電制御機構は、前記アミン精製室内のアニオン交換樹脂のイオン交換容量の当量以内の電気量が流れるように、該陰極と陽極との間に通電する間隔を制御することを特徴とするアミン液の再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸成分を吸収したアミン液の再生方法および装置に係り、特に炭酸ガス、硫化水素などの気散性の酸成分と共にSO、NO等の熱安定性(非気散性)酸成分を吸収したアミン液から電気透析により熱安定性酸成分を効率的に除去し、アミン液を再生する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製その他のプロセスでは、炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を含む酸性ガスが発生する。このような酸性ガスを吸収塔においてアルカーノアミン等のアミン液(リーンアミン)と接触させることにより酸成分を吸収除去し、精製ガスを次工程へ送る。酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)はアミン再生塔へ送られ、加熱により熱分解性のアミン塩を分解し、ストリッピングにより気散性の酸成分を放出させてアミンを1次再生する。再生されたアミン液(リーンアミン)は酸成分吸収塔へ戻される。
【0003】
ボイラの煙道ガス等の石炭、石油、燃料ガスなどを燃焼させた燃焼ガスのような炭酸ガス、SOx、NOxおよび他の酸成分を含む酸性ガスから炭酸ガスを除去する系でも、上記と同様のアミン液による吸収で処理することが試みられている。
【0004】
これらの酸性ガスは、主として、炭酸ガス、硫化水素のような気散性酸成分であるが、この他にSOx、NOx、硫化カルボニル、シアン化水素、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性酸成分が微量含まれる。これらのすべての酸成分が、吸収塔においてアミン液に吸収されアミン塩となる。この内、硫化水素、炭酸ガスなどの気散性酸成分が吸収されて形成される熱分解性アミン塩は、アミン再生塔で熱分解され、ストリッピングで炭酸ガス、硫化水素ガスなどとして排出され、アミンが1次再生される。ところがSOx、NOx、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性酸成分と結合したアミン塩は、熱安定性アミン塩(Heat Stable Amines Salt:以下、HSASと略記する場合がある)と称され、アミン再生塔での加熱では分解せず、アミン液に蓄積する。このようなHSASが蓄積するとアミン液の吸収効率が低下する。また、アミン液中のHSAS濃度が2〜3重量%になると装置の腐食や発泡の原因となることから、アミン液からHSASを除去することが望まれている。
【0005】
アミン液からHSASを除去するために、イオン交換膜を用いた電気透析によりアミン液からHSASを除去する方法が試みられている。一般的な電気透析法では、陰極、陽極間に配置されたカチオン交換膜とアニオン交換膜間の被処理液室に被処理アミン液を導入して、陰極、陽極間に通電することにより、解離したイオンをカチオン交換膜およびアニオン交換膜を透過させ分離する。ところがアミン塩を含むアミン液を電気透析して解離したイオンを透過させると、被処理アミン液中には解離しないアミンが残ることになる。この解離しないアミンは導電率が低いため通電できなくなり、電気透析ができなくなる。
【0006】
このような問題点を解決する方法として、特許文献1(特公平6−43378号)には、アミン液中にアルカリ金属水酸化物を添加して電気透析することにより、導電率を下げることなくアミン液からHSASを除去する方法が提案されている。この方法では、HSASから熱安定性陰イオンを解離させる。そして、遊離塩基の形のアミンおよびアミン以外のカチオンと結びついた熱安定性塩、具体的には硫化ナトリウム塩を生成させるために、アルカリ金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウムをアミン液に添加する。次に、この塩を含むアミン液をカチオン交換膜とアニオン交換膜間に導入し、電気透析処理する。アルカリ金属の添加で非解離となったアミンは、カチオン交換膜およびアニオン交換膜を透過せず、解離した他のイオンが透析により除去されるため、精製アミンが得られる。
【0007】
しかしながら、この特許文献1の方法では、アミン液にアルカリ金属水酸化物を添加するため、硫化ナトリウムなど、アミン塩ではない塩類が増加し、腐食や塩分の析出などの問題を引き起こす懸念がある。また、電気透析処理においてアミンもイオン交換膜を透過するので、アミンの損失量が多い。
【0008】
これを改善する方法として、特許文献2(特開2012−130879号公報)には、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室を形成し、アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液を取出し、酸濃縮室から酸濃縮液を取出すアミン液の再生方法及び装置が記載されている。
【0009】
この特許文献2のアミン液の再生方法および装置では、被処理アミン液導入路からアミン精製室へ被処理アミン液を導入し、制御機構によりアミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液を取り出す。
【0010】
アミン精製室内の被処理アミン液中の解離したアニオンである酸成分は、電気透析により陽極側に引かれるため、アニオン交換膜を通して酸濃縮室に移行する。被処理アミン液中の解離したカチオンであるアミンは、陰極側に引かれるが、バイポーラ膜により阻止されるためアミン精製室内に留まる。このためアミンは陰極室に移行することなく、アミン精製室内に留まるので、アミンの損失は少ない。
【0011】
解離したアニオンである酸成分が酸濃縮室に移行する場合、移行する各酸成分の量は、アミン液中の解離した各酸成分の割合に比例する。一般に強酸性の酸ほど解離度が高いので、強酸性の熱安定性酸成分の多くが解離して酸濃縮室に移行する。弱酸性の熱安定性酸成分の多くも酸濃縮室に移行する。しかしながら、解離度の低い弱酸性の熱分解性酸成分は、解離して酸濃縮室に移行する量は少ない。このため、強酸性の熱安定性酸成分の移行が終わっても、弱酸性の熱分解性酸成分が残留するような条件で電気透析を行うと、強酸性および弱酸性の熱安定性酸成分を選択的に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平6−43378号公報
【特許文献2】特開2012−130879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献2のアミン液の再生方法では、電気透析装置の陰極と陽極との間に常時通電するようにしており、消費電力が多い。
【0014】
本発明は、アミンの損失を少なくし、熱安定性酸イオンを効率よく除去してアミン液を高度に精製し、再生することができ、しかも消費電力が少ないアミン液の再生方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のアミン液の再生方法は、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室が形成され、該アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室が形成された電気透析装置を用い、該アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室から精製アミン液を取出し、該酸濃縮室から酸濃縮液を取出すアミン液の再生方法において、該アミン精製室にアニオン交換体が充填されており、該陰極と陽極との間に間欠的に通電するアミン液の再生方法であって、該アニオン交換体がアニオン交換樹脂であり、前記アミン精製室内のアニオン交換樹脂のイオン交換容量の当量以内の電気量が流れるように、該陰極と陽極との間に通電する間隔を制御することを特徴とするものである。
【0016】
本発明方法では、アミン液の通液開始当初における前記アミン精製室内のイオン交換体が炭酸イオン形又は重炭酸イオン形が多い間は通電を停止し、熱安定性酸イオンで炭酸イオン又は重炭酸イオンがアミン精製室から押し出されて熱安定性アニオン交換体が多くなってから通電を行うことが好ましい。
【0017】
前記酸濃縮室に酸捕捉液を導入することが好ましい。
【0018】
処理室内アニオン樹脂のイオン交換容量の1.2倍以上、好ましくは1.3〜3.0倍の熱安定性酸イオン負荷量となるように、陰極と陽極との間に通電しない通電停止期間の長さを制御することが好ましい。
【0020】
本発明のアミン液の再生装置は、陰極及び陽極と、該陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜と、該バイポーラ膜およびアニオン交換膜間に形成された、アニオン交換体が充填されたアミン精製室と、該アミン精製室へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路と、アミン精製室から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路と、該アニオン交換膜の陽極側に形成された酸濃縮室と、該酸濃縮室から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路と、該陰極と陽極との間に間欠的に通電を行う通電制御機構とを有するアミン液の再生装置であって、該アニオン交換体はアニオン交換樹脂であり、該通電制御機構は、前記アミン精製室内のアニオン交換樹脂のイオン交換容量の当量以内の電気量が流れるように、該陰極と陽極との間に通電する間隔を制御する
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法及び装置は、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間に、アニオン交換体が充填されたアミン精製室を形成し、アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、通電停止期間はアニオン交換体によってアニオンを吸着し、通電期間にあっては電気透析作用によってアニオンを酸濃縮室へ移動させ、アミン精製室から精製アミン液を取出すようにしたものである。
【0022】
通電停止期間にアニオン交換体に吸着されて捕捉されたアニオンは、電気透析装置の陽極と陰極間に通電する通電期間に解離(脱着)して濃縮室に移動する。アニオンが脱着されて再生されたアニオン交換体は、その後の非通電期間に再度アニオンを吸着する。
【0023】
このように電気透析装置に通電しないときでもアニオン交換体がアニオンを吸着するので、電気透析装置からは通電時及び非通電時のいずれの状態でもアニオンが除去された再生アミン液が得られる。電気透析装置を連続通電ではなく間欠通電とするので、電気透析装置の消費電力が減少する。
【0024】
本発明では、アルカリなど不純物となる物質を添加することなく、アミンの損失を少なくして、熱安定性酸イオンを効率よく除去することができる。
【0025】
本発明の一態様では、電気再生式イオン除去装置内のイオン交換体が炭酸イオン、あるいは重炭酸イオン破過するまでは通電せず、破過後に通電する。一般に、炭酸イオンや重炭酸イオンは、リーンアミン液中に高濃度で存在するだけでなく、イオン交換体との選択性が小さいため、熱安定性酸に比べて早く破過する。そのため、電気再生式イオン除去装置内のイオン交換体が炭酸イオン形、あるいは重炭酸イオン形が多い間は電気再生(陽極、陰極間に通電)せず、熱安定性酸イオンで炭酸イオン、重炭酸イオンが押し出されて熱安定性酸形が多くなってから電気再生(通電)を行うことにより、熱安定性酸イオン除去時の電流効率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態のアミン液の再生方法および装置を示すフロー図である。
図2】アミン液の1次再生装置を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0028】
図1は電気透析装置10を用いたアミン液の再生を説明するものである。この電気透析装置10は、陰極1および陽極2間に配置されたバイポーラ膜3およびアニオン交換膜4と、バイポーラ膜3およびアニオン交換膜4間に形成されたアミン精製室5と、アミン精製室5に充填されたアニオン交換樹脂などのアニオン交換体7と、アミン精製室5へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路51と、アミン精製室5から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路52と、アニオン交換膜4と陽極2との間に形成された酸濃縮室6とを備えている。
【0029】
電気透析装置10は、さらに、酸濃縮室6内の液を循環させる循環路13と、該循環路13に接続されており、酸濃縮室6へ酸捕捉液を供給する酸捕捉液導入路14と、酸濃縮室6から酸濃縮液を取出すように循環路13から分岐した酸濃縮液取出路15とを備えている。陰極1とバイポーラ膜3との間に陰極室8が設けられている。陰極室8には0.1〜4Nのアルカリ金属水酸化物等のアルカリ溶液が陰極液として充填されている。この陰極液をポンプ16により、循環路17を介して循環させることにより、液の攪拌とガスの除去を行う。水素等のガスは取出管18を介して取り出される。
【0030】
陰極室8及び酸濃縮室6にそれぞれメッシュスペーサなどの通水スペーサ(図示略)又はアニオン交換体等が充填されている。
【0031】
アニオン交換膜4としては、アニオン交換容量0.2〜2meq/g、好ましくは0.4〜2meq/g、膜厚10〜2000μm、好ましくは20〜300μmのものが好適である。
【0032】
バイポーラ膜3は、特公昭32−3962号、特公昭34−3961号等に記載されているように、カチオン交換膜3Cとアニオン交換膜3Aとが積層された複合膜であり、中間にカチオン交換基とアニオン交換基を有する樹脂部などが介在するものもある。カチオン交換膜3Cはカチオンを選択的に透過させ、アニオンの透過を阻止するので、バイポーラ膜は外部からのカチオンとアニオンの通過を阻止するが、内部で水の電解によって発生する水素イオンや水酸イオンなどは、それぞれの極性に応じて透過する。バイポーラ膜3としては、アニオン交換容量0.1〜1.5meq/g、好ましくは0.3〜1meq/g、カチオン交換容量0.4〜2meq/g、好ましくは0.8〜1.5meq/g、膜厚40〜3000μm、好ましくは100〜1000μmのものが好適である。
【0033】
各透過膜3,4の大きさは、処理目的、装置の規模等によって任意に決められるが、一般的には100〜2000mm角、好ましくは300〜1000mm角、膜間隔は一般的には0.3mm〜30mm、好ましくは0.5mm〜5mmである。
【0034】
陰極1と陽極2との間の通電のON、OFFの切り替え手段としては、取出路52に設けたイオンセンサと、該イオンセンサが検出する炭酸イオン、重炭酸イオン濃度が所定値以下のときに通電ONとし、所定値未満のときに通電OFFとするものが例示される。ただし、被処理アミン液の酸成分の組成、濃度が安定しているときには、タイマーによって通電のON、OFFを切り替えるようにしてもよい。
また、アミンの炭酸塩や重炭酸塩の電気伝導率は、熱安定性酸との塩に比べて低いため、電気伝導率の増加によって、通電をOFFとすることもできる。
【0035】
このように構成された電気透析装置10により、アミン液の再生を行う方法について次に説明する。
【0036】
電気透析装置10の運転開始当初は、電気透析装置10に通電せず(即ち、陰極1、陽極2間に電圧を印加せず)、被処理アミン液導入路51からリーンアミン液を電気透析装置10のアミン精製室5へ導き、リーンアミン液中のアニオン成分をアニオン交換体7に吸着させ、アミン精製室5から精製アミン液を取り出す。
【0037】
電気透析装置10内のイオン交換体7が炭酸イオン形、あるいは重炭酸イオン形が多い間は陰極1と陽極2との間に通電を行わず、アニオン交換体7の電気再生をしない。
【0038】
アミン精製室5への通液を継続すると、イオン選択性のため、アニオン交換樹脂7の炭酸・重炭酸形の割合が少なくなり、熱安定性酸イオン形が増加する。熱安定性酸イオンにより炭酸イオン、重炭酸イオンがイオン交換体から押し出されて熱安定性酸形のイオン交換体が多くなってから陰極1と陽極2との間に通電する。
【0039】
陰極1と陽極2との間に電圧を印加すると、アミン精製室5内の被処理アミン液中の解離したアニオン、すなわち酸成分(X)は、電気透析により陽極2側に引かれるため、アニオン交換膜4を透過して酸濃縮室6に移行する。
【0040】
酸濃縮室6に移行する各酸成分(X)の量は、アミン液中の解離した各酸成分の割合に比例する。一般に強酸性ほど解離度が高いので、SOx、NOxのような強酸性の熱安定性酸成分の多くが解離して透過する。蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の弱酸性の熱安定性酸成分はこれに続く。熱安定性酸イオン形のアニオン交換体が増加した段階で陰極1、陽極2間に通電すると、主として熱安定性酸イオンが酸濃縮室6へ移動するため、熱安定性イオンが効率よくアミン液から除去される。
【0041】
被処理アミン液中の解離したカチオン、すなわちアミン(RN)は陰極1側に引かれるが、バイポーラ膜3により阻止されるためアミン精製室5内に留まる。このためアミンは移行することなく、アミン精製室5内に留まった状態で精製されるので、アミンの損失は少ない。
【0042】
酸濃縮室6に酸捕捉液導入路14から酸捕捉液を導入することにより、酸濃縮室6内の酸成分が捕捉され、酸濃縮液が生成する。この酸濃縮液は酸濃縮液取出路15から取出される。酸捕捉液としては、透過する酸を捕捉して濃縮できるものであればよい。酸捕捉液として水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物のようなアルカリ液を用いることにより、酸成分を中和することができ、これにより装置の腐食、損傷等を防止し、排液処理を容易にすることができる。酸濃縮室6内の酸捕捉液をポンプ12により循環路13を通して循環させることにより、液の攪拌とガスの除去を行うことができる。酸濃縮室6のpHは10以上であることが好ましい。
【0043】
バイポーラ膜3内では、水の電解により水素イオン(H)と水酸イオン(OH)が生成する。水素イオン(H)は陰極室8に移行して水素ガス(H)が発生する。この水素ガスは流路18から取り出される。水酸イオン(OH)はアミン精製室5へ移行する。酸濃縮室(陽極室)6では水の電解により、水素イオン(H)と酸素ガス(O)が発生する。この酸素ガスは、酸濃縮液と共に取出路15から取り出される。
【0044】
上記の通り、電気透析装置10に対して被処理アミン液を連続的に供給しながら、陰極1と陽極2との間の電圧印加を間欠的に行う。
【0045】
このように間欠通電を行う場合、通電しない期間の長さが処理室内アニオン樹脂のイオン交換容量以上、好ましくは1.2倍以上、特に好ましくは1.3〜3.0倍の熱安定性酸イオン負荷量となるように制御することが好ましい。具体的には、
通電しない間隔(min)>アニオン樹脂交換容量(meq/L)×充填樹脂量(L)/(熱安定性イオン濃度(meq/L)×流量(L/min)×1.2
となるように制御することが好ましい。
【0046】
通電時の電流密度は0.5〜20A/dm、特に2〜10A/dmとするのが好ましい。
【0047】
上記の実施の形態では、バイポーラ膜3およびアニオン交換膜4、ならびにこれらにより形成されるアミン精製室5および酸濃縮室6は、陰極1および陽極2間に図示のように1組だけ設けられているが、複数組を直列または並列に設けてもよい。
【0048】
[被処理アミン液]
上記電気透析装置10による再生の対象となる被処理アミン液は、炭酸ガス、硫化水素、SOx、NOx、その他の酸成分を含むアミン液である。このようなアミン液としては、前記石油精製その他のプロセスで発生する炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を含む酸性ガス、あるいはボイラの煙道ガス等の石炭、石油、燃料ガスなどを燃焼させた燃焼ガスのような炭酸ガス、SOx、NOxおよび他の酸成分を含む酸性ガスを、吸収塔においてアルカーノアミン等のアミン液(リーンアミン)と接触させ、これにより酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)を、アミン再生塔で加熱により熱分解性のアミン塩を分解、ストリッピングにより気散性の酸成分を放出させてアミンを1次再生したアミン液(リーンアミン)があげられる。
【0049】
被処理アミン液の主成分であるアミンは、酸性ガスの吸収に用いられるアルカノールアミンが一般的であるが、その他のアミンを含んでいてもよい。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)およびメチルジエタノールアミン(M
DEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)等が一般に用いられるが、他のアミン例えばヒンダードアミンのようなアミンであってもよい。これらのアミン液は通常15〜55重量%の水溶液とされている。
【0050】
被処理アミン液は、好ましくは、このようなアミン液に酸性ガスを吸収させたリッチアミン液を熱分解、ストリッピングにより1次再生したアミン液(リーンアミン)である。
【0051】
[1次再生装置の構成例]
電気透析装置10の負荷を小さくするために、1次再生処理によりリッチアミン液中の熱分解性アミン塩をなるべく多く熱分解し、気散させておくのが好ましい。このアミン液の1次再生処理装置の構成の一例を図2に示す。
【0052】
吸収塔21と再生塔22は流路41,42により、ポンプ31,32および熱交換器23、冷却器24を介して連絡している。吸収塔21および再生塔22は内部に充填層25、26を備え、気−液接触により吸収および1次再生を行うように構成されている。吸収塔21には流路43、44が連絡している。流路43は石油精製プロセスやボイラ等からプロセスガスや煙道ガス等の酸成分を含む酸性ガスを、脱塵、脱硝、脱硫装置等の前処理装置を経由して吸収塔21に導入するように構成されている。流路44からの処理ガスはプロセスや煙突等に導かれる。
【0053】
吸収塔21は、流路43から入る酸成分を含む酸性ガスを充填層25において、流路41から入るリーンアミン液と接触させ、これにより酸成分を吸収除去して処理ガスを流路44から系外へ排出し、生成するリッチアミン液を流路42から再生塔22へ送るように構成されている。
【0054】
再生塔22の塔底から流路45を介してリーンアミン液の一部をリボイラ27へ送って加熱することにより、蒸気を発生させ、この蒸気を充填層26に導入することによりリッチアミン液を熱分解して蒸気ストリッピングする。炭酸ガスや硫化水素等気散性酸成分のアミン塩のような熱分解性のアミン塩は、分解して気散性酸成分を放出し、リーンアミン液が生成する。生成したリーンアミン液は、再生塔22の塔底から流路41を経て吸収塔21に循環する。再生塔22内の蒸気は、塔頂から抜き出され、コンデンサ28で凝縮し、凝縮水は流路46から再生塔22へ還流し、気散したガスは流路47から排出される。
【0055】
このように構成された1次再生装置において、流路43から酸性ガスを吸収塔21へ導入し、充填層25において流路41からのリーンアミン液と接触させ、これにより炭酸ガス、硫化水素、SOx、NOxおよび他の酸成分を吸収除去して処理ガスを流路44から系外へ排出し、生成するリッチアミン液を流路42から再生塔22へ送る。吸収塔21では、熱分解性のアミン塩を形成する炭酸ガス、硫化水素その他の気散性のガスだけでなく、HSASを形成するSOx、NOx、ギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、無機酸等の非気散性のガスも吸収され、熱分解性のアミン塩および熱安定性アミン塩を形成する。
【0056】
再生塔22においてリッチアミン液を蒸気ストリッピングし、炭酸ガスおよび硫化水素のアミン塩のような熱分解性のアミン塩を分解して気散性の酸成分を放出し、アミンを1次再生してリーンアミン液を生成し、リーンアミン液を流路41から、熱交換器23で熱交換し、冷却器24でさらに冷却して吸収塔21に循環する。熱分解により分解し分離した炭酸ガス、硫化水素その他の気散性の酸性ガスは流路47から系外へ排出される。
【0057】
このようにしてアミン液中の炭酸ガス、硫化水素等の気散性ガスの多くが除去されるが、一部の気散性ガスはアミン液中に残留する。またSOx、NOx、ギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性の酸成分のアミン塩のようなHSASは分解されず、アミン液中に蓄積する。そこで、この1次再生処理されたアミン液を流路41から流路51,52によって上記図1の電気透析装置10に送って2次再生処理する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例、比較例について説明する。各例における%は特に指示しない限り重量%である。各成分の分析法は以下の通りである。
〔アミン濃度〕:OH形強塩基性アニオン交換樹脂に通液し、フリーのアミン形にした後、0.1N−HCl溶液で滴定する。
〔熱再生性酸濃度〕:H形強酸性カチオン樹脂に通液してフリーの酸にし、曝気しないで、PP指示薬を用い0.1N−NaOH溶液で中和滴定する。
〔HSAS濃度〕:H形強酸性カチオン樹脂に通液してフリーの酸にし、曝気して熱分解性酸を放散させた後、MB指示薬を用い0.1N−NaOH溶液で中和滴定する。
【0059】
被処理アミン液としては、メチルジエタノールアミンに水、炭酸ガス、硫酸、硝酸を添加して、アミン濃度38wt%、熱再生性酸濃度3.5wt%、HSAS濃度1.6wt%となるよう調製したものを用いた。
【0060】
[実施例1]
図1に示す電気透析装置10において、陰極1にステンレス鋼、陽極2に白金メッキしたチタンを用いた。バイポーラ膜3にはアストム社製ネオセプタBP−1E(商品名)を、アニオン交換膜4には同社のネオセプタAHA(商品名)を用いた。各室には厚さ3mmとなるようにアニオン交換樹脂(ダウケミカル社製ダウエックス550A)を入れて流路を確保した。各電極およびイオン交換膜の有効面積は100cm(5cm×20cm)とした。
【0061】
この電気透析装置10のアミン精製室5に対し、上記被処理アミン液を10mL/minで通液した。電流は6A定電流、通電は15分ON、15分OFFで行った。通電停止・通液期間(15分間)中、HSAS(NO+SO)は16%が除去された。通電・通液期間中にあってはHSASは32%除去された。また、通電・通液期間中、酸濃縮液は、上記の除去されたHSAS分だけHSAS濃度が増加した。
【0062】
このように、15分間通電、15分間通電停止を繰り返すことにより、被処理アミン液中のHSASが平均24%にて除去された。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、電気透析装置10に連続通電したこと以外は同様にして被処理アミン液を処理した。その結果、被処理アミン液中の26%のHSASが除去された。
【0064】
[実施例2]
各室の厚さが2mmになるようアニオン交換樹脂(ダウケミカル社製ダウエックス550A)を入れて流路を確保したこと以外は実施例1と同じ装置を用いた。
【0065】
この電気透析セルに被処理アミン液を10mL/min通液した。電流は6A定電流、通電は10分ON、10分OFFで行った。通電停止・通液期間(10分間)中、HSAS(NO+SO)は14%が除去された。通電・通液期間中にあってはHSASは30%除去された。また、通電・通液期間中、酸濃縮液は、上記の除去されたHSAS分だけHSAS濃度が増加した。
【0066】
このように、10分間通電、10分間通電停止を繰り返すことにより、被処理アミン液中のHSASが平均22%にて除去された。
【0067】
[比較例2]
電気透析装置10に連続通電したこと以外は実施例2と同様にして被処理アミン液の処理を行った。その結果、被処理アミン液中の26%のHSASが除去された。
【0068】
実施例1,2及び比較例1,2のHSAS除去率と300mL当りの電気量を表1に示す。実施例1,2と比較例1,2との対比より、実施例1,2のように間欠通電した場合の方がアミン液300mL当りの電気量は少なくなっている。
【0069】
【表1】
【0070】
以上の実施例及び比較例より明らかな通り、電気透析装置10への通電を間欠通電とすることにより、被処理アミン液と接触し熱再生性酸の移動を抑制し、電流効率が向上する。また、電力コストが安価となる。なお、通電の制御内容も簡単であり、そのための制御システムも安価である。
【符号の説明】
【0071】
1 陰極
2 陽極
3 バイポーラ膜
3C カチオン交換膜
3A アニオン交換膜
4 アニオン交換膜
5 アミン精製室
6 酸濃縮室
7 アニオン交換体
8 陰極室
10 電気透析装置
21 吸収塔
22 再生塔
23 熱交換器
24 冷却器
25,26 充填層
27 リボイラ
28 コンデンサ
図1
図2