【実施例】
【0034】
原料として、それぞれ純度99.9重量%以上のBi、Zn、Al、Cu、Sn、Sb、およびPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく、均一になるように留意しながら、切断および粉砕などにより3mm以下の大きさに細かくした。次に、これら原料から所定量を秤量して、高周波溶解炉用のグラファイト製坩堝に入れた。
【0035】
上記各原料の入った坩堝を高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに坩堝を取り出し、坩堝内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型は、はんだ母合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。
【0036】
このようにして、様々な混合比率を有する試料1A〜23Aのはんだ母合金を作製した。これら試料1A〜23Aのはんだ母合金に対して、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成を分析した。その分析結果を下記表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
<シート形状への加工>
圧延機を用いて上記試料1A〜23Aのはんだ母合金をシート状に加工した。具体的に説明すると、各はんだ母合金(厚さ5mmの板状インゴット)を、熱間圧延機を用いて厚さ約300μmまで粗圧延した。その際、インゴットの送り速度を調整し、クラック等が発生しないように注意しながら圧延していった。粗圧延した試料をアルコールで洗浄した後、冷間圧延機を用いて厚さ0.70mmまで圧延した。その後、スリッター加工により25mmの幅に裁断し、さらに自動洗浄器を通して洗浄し、真空炉で常温真空乾燥した。このようにして得たはんだに対して濡れ性評価やシェア強度試験などを行うため、基板とSiCチップを下記の方法で準備した。
【0039】
<基板の作製>
基板の材料として、厚さ10mm、純度99.99質量%の複数のCu板を準備した。これらCu板を50〜90℃で温間圧延を行い、厚さ2mmにした。次に、5%酢酸水溶液を用いて1〜10分間洗浄し、さらに水洗して十分に酸を洗い流した。そして、真空オーブンによる常温真空乾燥か、常温窒素雰囲気中での乾燥か、あるいは150℃大気中での加熱乾燥により乾燥した。得られた複数のCu板に対して、中心線平均粗さが0.1〜3μmのロールを用いて冷間圧延を行い、厚さ0.60mmまで薄くした。
【0040】
次に、冷間圧延を行ったこれら複数のCu板に対して様々に条件を変えてメタライズを施し、Ni、Ag、Au、またはCuからなる最上層を形成した。このようにして、最上層のはんだ接合面の中心線平均粗さが1.0〜8.0μm程度であって当該接合面が厚さ0.2〜50nm程度の酸化物層で覆われた複数の基板を準備した。なお、通常、電子部品の構成要素である基板は常温で圧延することが多く、酸洗浄を行う場合も5%酢酸水溶液を使うとは限らないが、本実施例では酸化物層や表面粗さ等を調整するために故意にこのような条件で製造した。
【0041】
<SiCチップの表面粗さの調整>
基板にはんだ接合される電子デバイスとして、大きさ2×2mm、はんだ接合部がNiで構成される複数のSiCチップを準備した。これらSiCチップを研磨紙(粗さ:#240、#1000、#8000)による研磨、そしてバフ研磨(砥粒の粒度:0.1μm)によってNi面の表面粗さを調整後、真空蒸着機でNi、Ag、Au、またはCuを蒸着させて最上層を形成した。真空度は3×10
−4〜5×10
−2Pa、蒸着速度は15〜100Å/秒とした。このようにして、最上層のはんだ接合面の中心線平均粗さが1.0〜8.0μm程度、当該接合面が酸化物層が厚さ0.2〜50nm程度の酸化物層で覆われた複数のSiCチップを準備した。
【0042】
以上のようにして作製した複数の基板および複数のSiCチップの各々に対して、酸化物層の厚さと表面粗さを測定した。酸化物層の厚さは界放射型オージェ電子分光装置(ULVAC−PHI製、型式:SAM−4300)を用いて測定し、表面粗さは表面粗さ測定装置(東京精密株式会社製、型式:サーフコム470A)を用いて測定した。そして、これら複数の基板と複数のSiC基板とを表2に示すように組み合わせて試料24B〜59Bとした。
【0043】
なお、酸化物層の厚さについては次のように定義した。すなわち、はんだ表面から深さ方向(はんだ表面に対して垂直)に1000nm入った部分の酸素量を0%にすると共に、はんだ表面から深さ1000nmの間の最高酸素濃度を100%にして、酸素濃度が10%まで低下したはんだ表面からの進入深さを酸化物層の厚みと定義した(
図1参照)。
【0044】
【表2】
【0045】
上記のごとくシート状に加工した試料1A〜23Aのはんだ合金と、試料24B〜59Bの基板とSiCチップとを用いてはんだ接合体を作製し、濡れ性(接合性)、シェア強度、およびヒートサイクル試験による信頼性を評価した。先ず第1の評価として、表2に示す試料のうち、試料28Bの基板とSiCチップとからなる組み合わせを23セット用意し、それぞれ表1に示すシート状に加工した試料1A〜試料23Aのはんだ合金を使ってはんだ接合した。これにより24個のはんだ接合体の試料を作製した。このとき、試料1Aのはんだ合金を用いて接合したはんだ接合体を試料1とし、以下順に試料2A〜23Aのはんだ合金を用いて接合したはんだ接合体をそれぞれ試料2〜23とした。そして、これら試料1〜23のはんだ接合体の各々に対して下記に示す濡れ性等の評価を行った。
【0046】
次に第2の評価として、表1に示す試料2Aを使って、表2に示す試料24B〜試料59Bの基板とSiCチップとを接合して36個のはんだ接合体の試料を作製した。このとき、試料24Bの基板とSiCチップからなるはんだ接合体を試料24とし、以下順に試料25B〜59Bの基板とSiCチップからなるはんだ接合体をそれぞれ試料25〜59とした。そして、これら試料24〜59のはんだ接合体の各々に対して上記第1の評価と同様に下記に示す濡れ性等の評価を行った。
【0047】
<濡れ性(接合性)の評価>
まず、濡れ性試験機のヒーター部に二重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を410℃にして加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、各試料の基板をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。次に、各試料のはんだ合金を基板の上に載せ、25秒加熱し、さらにはんだの上に各試料のSiCチップを載せ、10秒加熱した。
【0048】
加熱が完了した後、はんだ接合された基板とSiCチップとからなる接合体をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出した。このようにして得た各接合体のはんだ合金と基板およびSiCチップの接合部分を目視で確認し、接合できなかった場合を「×」、接合できたが濡れ広がりが悪い場合(はんだがはSiCチップ四辺端部からはみ出していない状態)を「△」、接合でき且つ濡れ広がりが良い場合(はんだが薄く濡れ広がりSiCチップ四辺端部からはみ出している状態)を「○」と評価した。
【0049】
<シェア強度評価>
はんだ接合の接合強度を評価するために、シェア強度測定器(Xyztec社製、Condor EZ ボンドテスタ)を用いてシェア強度の測定を行った。なお、この試験は、上記した濡れ性の評価において、はんだ合金によって基板とSiCチップが接合できた試料(濡れ性の評価が○の試料および△の試料)を各3個ずつ用いて行い、平均値をその試料のシェア強度とした。
【0050】
具体的なシェア強度の測定方法は以下のとおりである。すなわち、シェア強度測定器のワークホルダ(試料を固定する部分)にSiCチップ面を上にして各試料の接合体を固定し、はんだにせん断応力を加えるためシェアツールをSiCチップの側面に当てた。そして、自動測定によりシェアツールを接合体のSiCチップの側面から荷重をかけていき、はんだ、またはSiCチップが破壊するまで荷重をかけ、シェア強度を測定した。
【0051】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記した濡れ性の評価において、はんだ合金によってCu基板とSiCチップが接合できた試料(濡れ性の評価が○の試料および△の試料)を各2個ずつ用いて行った。すなわち、はんだ合金で接合された基板とSiCチップとからなる各試料の接合体2個に対して、−40℃の冷却と+150℃の加熱を1サイクルとするヒートサイクル試験を実施した。各試料のヒートサイクル試験において、2個の接合体のうち1個は途中確認のため300サイクルまで、残りの1個は500サイクルまでヒートサイクル試験を繰り返した。
【0052】
このようにして、ヒートサイクル試験が行われた各接合体を樹脂に埋め込んだ後、断面研磨を行ってSEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。はんだと基板やSiCチップの接合面に剥れが生じたり、はんだ母相接合面にクラックが入った場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」と評価した。これらの評価結果を下記表3−1(第1の評価)及び表3−2(第2の評価)に示す。
【0053】
【表3-1】
【0054】
【表3-2】
【0055】
上記の表3−1および3−2の結果から分かるように、本発明の要件を満たす試料1〜17および試料24〜43の接合体は、全ての評価項目において良好な特性を示している。すなわち、濡れ性、シェア強度、および信頼性のいずれにおいても良好な評価結果が得られた。濡れ性が良好であった理由は、基板やSiCチップの酸化膜層そして表面粗さのみならず、はんだの組成が本発明の要件を満たしていたためである考えられる。このように酸化物に邪魔されることなく、良好な濡れ性を示しているため接合強度、つまりシェア強度も高く、その結果、高い信頼性が得られたと考えられる。
【0056】
一方、本発明の要件を満たしていない試料18〜23および試料44〜59の接合体は、はんだ組成が好ましくないことや、基板やSiCチップの酸化物層の厚さや表面粗さがが適正でないことに起因して好ましくない結果となった。具体的には、これらの試料では、濡れ性評価においては全ての試料において良好な濡れ性は得られていない。シェア強度試験に至った試料でも、試料1〜17や試料24〜43の接合体よりもシェア強度が低く、ヒートサイクル試験では500回までに全ての試料(接合できなかった試料18、20〜22、48〜51、56〜59を除く)で不良が発生した。