(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下地層は、下記式(2)で表される化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(B)成分と、前記元素Mと元素Mに結合する加水分解性基を有する化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(C1)成分および/または前記元素Mの塩および前記元素Mとキレート結合可能なキレート化剤とからなる(C2)成分からなる(C)成分とを含む、もしくは、前記(B)成分と前記(C)成分の部分加水分解共縮合物(ただし、前記(B)成分および/または前記(C)成分を含んでもよい)を含む下地層形成用組成物を用いて形成された下地層である請求項1に記載の撥水膜付き基体。
Si(X2)4 …(2)
(ただし、式(2)中、X2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアネート基を示す。)
前記下地層形成用組成物は、さらに、下記式(3)で表わされる化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(D)成分を含む、もしくは、前記(B)成分、前記(C)成分および前記(D)成分から選ばれる少なくとも2種による部分加水分解共縮合物(ただし、前記(B)成分、前記(C)成分および前記(D)成分をそれぞれ単体で含んでもよい)を含む、請求項2に記載の撥水膜付き基体。
X33Si−(CH2)m−SiX33 …(3)
(ただし、式(3)中、X3はそれぞれ独立して加水分解性基または水酸基を示し、mは1〜8の整数である。)
前記下地層形成用組成物における、前記(C)成分由来の元素Mの含有量が、前記式(B)成分由来のケイ素と、前記(C)成分由来の元素Mと、前記(D)成分由来のケイ素の合計量100モル%に対して、3〜50モル%である請求項2または3に記載の撥水膜付き基体。
前記元素MがAlであり、前記(C)成分がAlのアセチルアセトナートおよび/またはその部分加水分解縮合物、および/またはAl塩とアセチルアセトンの混合物とからなる請求項2〜6のいずれか1項に記載の撥水膜付き基体。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
本明細書における式(1)で表される化合物を、化合物(1)という。式(1a)で表される基を、基(1a)という。他の化合物、基も同様である。本明細書における「(B)成分由来成分」は、(B)成分と他の加水分解性成分の部分加水分解共縮合物における(B)成分に由来する単位を総称する用語として用いる。また、本明細書において全固形分とは、各層形成用組成物が含有する成分のうち、最終的に層構成成分となる成分をいい、有機溶剤等の層形成過程における加熱等により揮発する揮発性成分以外の全成分を示す。
【0017】
[撥水膜付き基体]
本発明の撥水膜付き基体は、基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に撥水膜とを有する撥水膜付き基体であって、前記撥水膜は基体側から順に以下の構成の下地層および撥水層を有する。
【0018】
下地層;酸化ケイ素を主体とし、ケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素Mの酸化物を含む層。
撥水層;下記式(1)で表される化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(A)成分を含む撥水層形成用組成物を用いて形成される層。
R
3−(SiR
22O)
k−SiR
22−Y
1−Si(R
1)
3−n(X
1)
n …(1)
(ただし、式(1)中、R
3は炭素原子数10以下のアルキル基または−Y
1−Si(R
1)
3−n(X
1)
n基を、R
2はそれぞれ独立して炭素原子数3以下のアルキル基を、Y
1はそれぞれ独立して炭素原子数2〜4のアルキレン基を、R
1はそれぞれ独立して1価の炭化水素基であり、X
1はそれぞれ独立して加水分解性基を示す。kは10〜200の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【0019】
本発明の撥水膜付き基体の撥水膜は、上記構成の下地層上に上記式(1)に示される末端に加水分解性シリル基を有する直鎖状のシリコーン化合物を用いて形成される撥水層を有する構成である。撥水層を構成する化合物(1)由来の成分は全体として電気的には中性であるが、部分的に、具体的には式(1)の(SiR
22O)で示される繰り返し単位中の酸素原子は負に帯電している。本発明においては下地層がケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素Mの酸化物を含むことで、元素Mは正に帯電し、上記負に帯電している撥水層中の化合物(1)由来の酸素原子を電気的に引き寄せ易い。それに伴い化合物(1)由来成分の全体が、言い換えれば撥水層全体が、安定に下地層上を隙間がほとんど形成されないようにして覆う状態が得られると考えられる。本発明においてはこのような機構により、撥水層全体が下地層を安定にかつほぼ隙間なく覆うことが可能となり、撥水層が本来的に有する静的撥水性および動的撥水性の双方に優れ、特に微小な水滴が滑落する速度が速い、すなわち小水滴滑落性に優れる撥水膜付き基体が得られると考えられる。
以下、本発明の撥水膜付き基体の構成要素を説明する。
【0020】
(基体)
本発明の撥水膜付き基体に用いる基体は、一般に撥水性の付与が求められている材質からなる基体であれば特に限定されず、金属、プラスチック、ガラス、セラミック、またはその組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体が好ましく使用される。ガラスまたはプラスチック等の透明な基体が好ましく、特にガラスが好ましい。
【0021】
ガラスとしては、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。また、プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂やポリフェニレンカーボネートなどの芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられ、これらのうちでもポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0022】
基体の形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。基体の厚さは撥水膜付き基体の用途により適宜選択できるが、一般的には1〜10mmであることが好ましい。
【0023】
基体がソーダライムガラスである場合は、Naイオンの溶出を防止する膜を設けることが耐久性の点で好ましい。基体がフロート法で製造されたガラスである場合は、表面錫量の少ないトップ面に撥水膜を設けることが耐久性の点で好ましい。
【0024】
本発明の撥水膜付き基体において、撥水膜は上記基体の少なくとも一部の表面に形成される。基体表面の撥水膜が形成される領域は特に限定されず、用途に応じて必要とされる領域に形成すればよい。基体が板状である場合、通常、基体の両方の主面またはいずれか一方の主面の全面に形成される。
【0025】
(撥水膜)
撥水膜付き基体が有する撥水膜は、基体側から順に下地層および撥水層を有する。撥水膜は、下地層と撥水層の間にさらに中間層等を有してもよいが、下地層と撥水層のみで構成される撥水膜が好ましい。
【0026】
<下地層>
本発明の撥水膜付き基体における下地層は、酸化ケイ素を主体とし、ケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素Mの酸化物を含む。下地層が酸化ケイ素を主体とするとは、下地層の構成成分のケイ素原子と元素Mの合計モル量の100モル%に対してケイ素原子を50モル%以上100モル%以下で含有することをいう。
【0027】
このような、下地層としては、シロキサン結合した酸化ケイ素マトリックスの酸化ケイ素が部分的に元素Mの酸化物に置き換えられた構造が好ましい。なお、元素Mが酸化物を形成する際にケイ素原子と同じ価数で酸化物を形成する元素である場合には、シロキサン結合した酸化ケイ素マトリックスのケイ素原子が部分的に元素Mに置き換えられた構造が好ましい。元素Mとしては、ケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素であれば特に制限されない。
【0028】
ここで、ケイ素原子の電気陰性度は1.74であり、ケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素Mとして、具体的には、Al(1.47)、Zr(1.22)、Hf(1.23)、Ti(1.32)、Y(1.11)、Ce(1.06)等が挙げられる。なお、元素記号の後ろの括弧内の数字は電気陰性度である。これらのうちでも、元素Mとしては撥水層形成用組成物の塗工性の観点からAl、Zrが好ましく、さらに撥水膜の耐湿性等の耐久性を考慮するとAlが特に好ましい。このような元素Mは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
下地層における、ケイ素原子と元素Mとの合計量に対する元素Mの含有割合は、ケイ素原子と元素Mとのモル量の合計に対する元素Mのモル%で、3〜50モル%が好ましく、5〜35モル%がより好ましい。下地層におけるケイ素原子と元素Mとの合計量に対する元素Mの含有割合を上記範囲とすることで、得られる撥水膜付き基体を、十分な耐湿性等の耐久性を有するとともに静的撥水性および動的撥水性、特に小水滴滑落性を十分に有するものとすることができる。
【0030】
本発明の撥水膜付き基体における下地層としては、以下の(B)成分と(C)成分とを含む、もしくは、(B)成分と(C)成分の部分加水分解共縮合物(ただし、(B)成分および/または(C)成分を含んでもよい)を含む下地層形成用組成物を用いて形成された層が好ましい。
【0031】
(B)成分;下記式(2)で表される化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる。
Si(X
2)
4 …(2)
(ただし、式(2)中、X
2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアネート基を示す。)
(C)成分;上記元素Mと元素Mに結合する加水分解性基を有する化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(C1)成分および/または上記元素Mの塩および上記元素Mとキレート結合可能なキレート化剤とからなる(C2)成分からなる。
【0032】
(B)成分は、上記式(2)で表される化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる、下地層が含有する酸化ケイ素の原料成分である。上記式(2)中、X
2は、塩素原子、炭素原子数1〜4のアルコキシ基またはイソシアネート基であることが好ましく、さらに4個のX
2が同一であることが好ましい。
【0033】
このような上記式(2)で示される化合物として、具体的には、Si(NCO)
4、Si(OCH
3)
4、Si(OC
2H
5)
4等が好ましく用いられる。本発明において、化合物(2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
下地層形成用組成物に含まれる(B)成分は、化合物(2)の部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(2)のような加水分解性ケイ素化合物の部分加水分解縮合物とは、溶媒中で酸触媒やアルカリ触媒などの触媒と水の存在下に該化合物が有する加水分解性基の全部または一部が加水分解し、次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)をいう。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等を使用できる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を使用できる。なお、これら触媒の水溶液を使用することにより、加水分解に必要な水を反応系に存在させることも可能である。
【0035】
部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度である必要がある。(B)成分としては、上記のとおり化合物(2)であっても、化合物(2)の部分加水分解縮合物であってもよく、化合物(2)とその部分加水分解縮合物との混合物、例えば、未反応の化合物(2)が含まれる化合物(2)の部分加水分解縮合物であってもよい。
【0036】
上記式(2)で示される化合物やその部分加水分解縮合物としては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。
【0037】
(C)成分は、下地層が含有するケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素Mの酸化物の原料成分である。(C)成分としては、元素Mと元素Mに結合する加水分解性基を有する化合物(以下、加水分解性化合物(Z)という)および/またはその部分加水分解縮合物からなる(C1)成分、上記元素Mの塩および上記元素Mとキレート結合可能なキレート化剤とからなる(C2)成分の少なくとも一方からなる。
【0038】
上記(C1)成分において、加水分解性化合物(Z)が有する元素Mに結合する加水分解性基とは、該基の加水分解によりM−OHを形成し得る基である。加水分解性基として具体的には、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子、β−ジケトナート基等が挙げられる。加水分解性化合物(Z)の安定性と加水分解のし易さとのバランスの点から、加水分解性基としては、アルコキシ基、β−ジケトナート基等が好ましく、β−ジケトナート基が特に好ましい。β−ジケトナート基として、具体的には、(−O−C(CH
3)=CH−C(=O)−CH
3)基、(−O−C(CH
3)=CH−C(=O)−O−CH
2−CH
3)基等が挙げられる。
【0039】
加水分解性化合物(Z)が有する元素Mに結合する加水分解性基の数は、元素Mの価数による。上に例を挙げた本発明において好ましく用いられる元素Mは、いずれも3価または4価の元素である。これらの元素Mに結合する加水分解性基は、1〜3個または1〜4個であり、それぞれ3個または4個の加水分解性基を有することが好ましい。加水分解性化合物(Z)が複数の加水分解性基を有する場合、それらは同じ基でも異なる基でもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0040】
また、上記好ましい加水分解性基を有する加水分解性化合物(Z)としては、元素Mのβ−ジケトナートが挙げられる。元素Mと反応してβ−ジケトナートを形成するβ−ジケトンとしては、アセチルアセトン、エチルアセトアセテート等が挙げられ、アセチルアセトンが好ましい。加水分解性化合物(Z)としては、上に例示した元素Mのβ−ジケトナートが好ましい。このような元素Mのβ−ジケトナートとして、具体的には、アルミニウム(III)アセチルアセトナート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ハフニウム(IV)アセチルアセトナート)、チタン(IV)アセチルアセトナート)等が挙げられる。これらのうちでもAlのβ−ジケトナートが好ましく、Alのアセチルアセトナート、例えば、アルミニウム(III)アセチルアセトナートが特に好ましい。
【0041】
(C1)成分としては加水分解性化合物(Z)であっても、加水分解性化合物(Z)の部分加水分解縮合物であってもよく、加水分解性化合物(Z)とその部分加水分解縮合物との混合物、例えば、未反応の加水分解性化合物(Z)が含まれる加水分解性化合物(Z)の部分加水分解縮合物であってもよい。加水分解性化合物(Z)の部分加水分解縮合物とは、溶媒中で酸触媒やアルカリ触媒などの触媒と水の存在下に該化合物が有する加水分解性基の全部または一部が加水分解し、次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)をいい、常法により製造できる。部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度に適宜調整される。加水分解性化合物(Z)やその部分加水分解縮合物としては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。
【0042】
(C2)成分は、元素Mの塩および元素Mとキレート結合可能なキレート化剤とからなる。元素Mの塩としては、カルボン酸塩、無機塩、アルコキシド等が挙げられる。
カルボン酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等が、無機塩としては、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物等が、アルコキシドとしては、炭素原子数1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシドが挙げられる。これらのなかでも、塩酸塩、硝酸塩、炭素原子数1〜4のアルコキシド等が好ましい。元素Mとキレート結合可能なキレート化剤としては、β−ジケトン等が挙げられる。β−ジケトンとしては、アセチルアセトン、エチルアセトアセテート等が挙げられ、アセチルアセトンが好ましい。これらのなかでも(C2)としては、Alの硝酸塩とアセチルアセトンの組み合わせが好ましい。
【0043】
なお、(C2)成分として下地層形成用組成物に用いられる、元素Mの塩とキレート化剤は、下地層形成用組成物中で元素Mのキレート化合物を形成していると考えられる。(C2)成分における、元素Mの塩とキレート化剤の配合割合は、元素Mの塩が十分にキレート化合物となる割合であれば制限されない。下地層形成用組成物が(C)成分として元素Mの塩とキレート化剤とからなる(C2)成分を含むとは、下地層形成用組成物の作製時に、元素Mの塩とキレート化剤とを別々に下地層形成用組成物に配合して、下地層形成用組成物中で元素Mのキレート化合物を形成させる場合と、予め元素Mの塩とキレート化剤を混合して元素Mのキレート化合物を形成した状態で下地層形成用組成物に配合する場合の両方を包含するものである。
【0044】
(C)成分は上記(C1)成分のみからなっても、(C2)成分のみからなってもよく、(C1)成分と(C2)成分からなってもよい。いずれの場合も、元素Mは1種であっても、2種以上であってもよい。
【0045】
下地層形成用組成物における、上記(B)成分と(C)成分の含有割合は、下地層形成用組成物中における、ケイ素原子と元素Mとの合計量に対する元素Mの含有割合が、ケイ素原子と元素Mとのモル量の合計に対する元素Mのモル%で、3〜50モル%となるような割合が好ましく、5〜35モル%がより好ましい。
【0046】
また、下地層形成用組成物が(B)成分と(C1)成分を含む場合、これらの部分加水分解共縮合物を使用することが好ましく、化合物(2)と加水分解性化合物(Z)の部分加水分解共縮合物を使用することがより好ましい。部分加水分解共縮合物を用いることにより、下地層を両化合物に由来する単位が均一に分布した層として形成できると考えられる。なお、下地層形成用組成物が、化合物(2)と加水分解性化合物(Z)の部分加水分解共縮合物を含む場合、これとは別に(B)成分および/または(C1)成分を含んでもよい。また、さらに必要に応じて(C2)成分を含んでもよい。
【0047】
下地層形成用組成物は、下地層が含有する酸化ケイ素の原料成分として、上記(B)成分に加えて、下記式(3)で表わされる化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(D)成分を含むことが好ましい。
X
33Si−(CH
2)
m−SiX
33 …(3)
(ただし、式(3)中、X
3はそれぞれ独立して加水分解性基または水酸基を示し、mは1〜8の整数である。)
【0048】
式(3)においてX
3は加水分解性基または水酸基である。加水分解性基とは、Si−X
3基の加水分解によって、Si−OHを形成し得る基である。
X
3で示される加水分解性基としては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられる。化合物(3)の安定性と加水分解のし易さとのバランスの点から、X
3としては、アルコキシ基およびイソシアネート基が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数1〜4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。化合物(3)におけるX
3としては、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。これらは、製造上の目的、用途等に応じて適宜選択され用いられる。化合物(3)中に複数個存在するX
3は同じ基でも異なる基でもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0049】
式(3)において、mは加水分解性シリル基またはシラノール基に挟まれた、2価の炭化水素基の炭素原子数を示す。mは1〜8の整数であり、1〜3の整数が好ましい。2価の炭化水素基の炭素原子数が上記範囲にあることで、下地層は適度に疎水性を有し撥水膜の耐湿性を向上させることが可能となる。なお、mが9以上になると動的撥水性が悪化する点で問題である。
【0050】
化合物(3)として、具体的には、(CH
3O)
3SiCH
2CH
2Si(OCH
3)
3、(OCN)
3SiCH
2CH
2Si(NCO)
3、Cl
3SiCH
2CH
2SiCl
3、(CH
3O)
3SiCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
3等が挙げられる。本発明において、化合物(3)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
下地層形成用組成物に含まれる(D)成分は、化合物(3)の部分加水分解縮合物であってもよく、化合物(3)とその部分加水分解縮合物との混合物、例えば、未反応の化合物(3)が含まれる該化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(3)の部分加水分解縮合物とは、上記化合物(2)の部分加水分解縮合物と同様に得られる化合物(3)のオリゴマー(多量体)をいう。部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度に適宜調整される。
【0052】
なお、化合物(2)との組み合わせにおいて、化合物(3)は加水分解性基が化合物(2)の加水分解性基と同じ基または原子であることが好ましい。上記式(3)で示される化合物やその部分加水分解縮合物としては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。
【0053】
この場合、下地層形成用組成物は、酸化ケイ素の原料成分として(B)成分と(D)成分をそれぞれ単独で含有してもよく、これらの部分加水分解共縮合物を含有してもよい。下地層形成用組成物が、(B)成分と(D)成分の部分加水分解共縮合物を含む場合、これとは別に(B)成分および/または(D)成分を含んでもよい。
【0054】
下地層形成用組成物は、上記のようにして(B)成分由来成分(化合物(2)由来成分と同意である)に加えて(D)成分由来成分(化合物(3)由来成分と同意である)を含むことで、得られる撥水膜の耐湿性等の耐久性が向上する点で好ましい。下地層形成用組成物における、(B)成分由来成分と(D)成分由来成分との含有割合は、[(B)成分由来成分:(D)成分由来成分]で示される質量比として、0.1:0.9〜0.9:0.1の範囲にあることが好ましく、0.9:0.1〜0.4:0.6の範囲にあることがより好ましい。下地層形成用組成物が化合物(B)成分由来成分と(D)成分由来成分とをこのような質量比で含有することにより、得られる撥水膜における耐湿性の向上と微小な水滴に対する滑落性の向上のいずれもが可能となる。
【0055】
なお、下地層形成用組成物における(B)成分由来成分と(D)成分由来成分との含有割合は、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を用いた場合、それらを製造する際に用いた化合物(2)および化合物(3)の量から算出できる。
【0056】
下地層形成用組成物が、(B)成分、(C1)成分、(D)成分を含む場合、これらの部分加水分解共縮合物を使用することが好ましく、化合物(2)と加水分解性化合物(Z)と化合物(3)の部分加水分解共縮合物を使用することがより好ましい。部分加水分解共縮合物は、化合物(2)と加水分解性化合物(Z)と化合物(3)から選ばれる2者の部分加水分解共縮合物を組み合わせて、(B)成分、(C1)成分、(D)成分が含まれるようにしてもよいが、3者の部分加水分解共縮合物を用いることが特に好ましい。部分加水分解共縮合物を用いることにより、下地層をこれらの化合物に由来する単位が均一に分布した層として形成できると考えられる。なお、下地層形成用組成物が、化合物(2)と加水分解性化合物(Z)と化合物(3)の部分加水分解共縮合物を含む場合、これとは別に(B)成分、(C1)成分、(D)成分を含んでもよい。また、さらに必要に応じて(C2)成分を含んでもよい。
【0057】
なお、下地層形成用組成物が、(B)成分、(C2)成分、(D)成分を含む場合は、上記同様の観点から(B)成分と(D)成分についてはこれらの部分加水分解共縮合物を使用することが好ましく、化合物(2)と化合物(3)の部分加水分解共縮合物(C2)成分を使用することがより好ましい。この場合、下地層形成用組成物はこれとは別に(B)成分、(D)成分を含んでもよい。
【0058】
下地層形成用組成物が、上記(B)成分と(C)成分に加えて(D)成分を含む場合の各成分の含有割合は、(B)成分と(D)成分の割合を上記のとおりとして、さらに、下地層形成用組成物中における、ケイ素原子と元素Mとの合計量に対する元素Mの含有割合が、ケイ素原子と元素Mとのモル量の合計に対する元素Mのモル%で、3〜50モル%となるような割合が好ましく、5〜35モル%がより好ましい。
【0059】
下地層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて、金属酸化物の超微粒子、染料または顔料等の着色用材料、防汚性材料、各種樹脂等の任意成分として機能性添加剤を含んでもよい。ただし、下地層形成用組成物への機能性添加剤の添加はその量によっては、得られる撥水膜の性能の低下を招くおそれがある。よって、下地層形成用組成物は、(D)成分由来成分を含まない場合は、全固形成分が実質的に(B)成分由来成分と(C)成分由来成分のみからなることが好ましく、(D)成分由来成分を含む場合は、全固形成分が実質的に(B)成分由来成分と(C)成分由来成分と(D)成分由来成分のみからなることが好ましい。なお、本明細書において、全固形分が実質的に、ある成分のみからなるとは、全固形分中の該成分の含有割合が90質量%以上であることをいう。
【0060】
下地層形成用組成物は、通常、層構成成分となる固形分の他に、経済性、作業性、得られる下地層の厚さ制御のしやすさ等を考慮して、有機溶剤を含む。有機溶剤は、下地層形成用組成物が含有する固形分を溶解するものであれば特に制限されない。有機溶剤としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、酢酸エステル類等が好ましい。有機溶剤は1種に限定されず、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の溶剤を混合して使用してもよい。
【0061】
下地層形成用組成物は、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含有する場合、これらを製造するために使用した溶媒を含んでもよい。また、このような溶媒と下地層形成用組成物が含有する有機溶媒は同じものであってもよい。下地層形成用組成物は、さらに、部分加水分解縮合や部分加水分解共縮合で用いた触媒などの成分を含んでいてもよい。下地層形成用組成物の全固形分が実質的に(B)成分由来成分と(C)成分由来成分のみからなる場合に、(B)成分と(C)成分の部分加水分解共縮合物を用いる際には、下地層形成用組成物は、(B)成分と(C)成分の部分加水分解共縮合物の製造で得られた部分加水分解共縮合物の溶液そのものであることが好ましい。下地層形成用組成物の全固形分が実質的に(B)成分由来成分と(C)成分由来成分と(D)成分由来成分のみからなる場合においても同様である。
【0062】
下地層形成用組成物における有機溶剤の割合は、全固形分100質量部に対して、400〜100,000質量部が好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲であれば、下地層に処理ムラが発生するおそれもなく、経済性、作業性、処理層の厚さ制御のしやすさ等においても問題がない。下地層形成用組成物における有機溶剤の量は、さらに、全固形分100質量部に対して、900〜3,500質量部がより好ましく、1,100〜2,000質量部が特に好ましい。
【0063】
さらに、下地層形成用組成物においては、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含まないものであっても、(B)成分と(C)成分、さらに必要に応じて加えられる(D)成分の加水分解縮合反応や加水分解共縮合反応を促進させるために、上記で部分加水分解縮合の反応において使用したのと同様の酸触媒等の触媒を配合しておくことも好ましい。部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含む場合であっても、それらの製造に使用した触媒が組成物中に残存していない場合は、触媒を配合することが好ましい。触媒としては、酸触媒が好ましい。触媒の量としては、全固形分100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましい。なお、下地層形成用組成物において、触媒の量は固形分量に含めない。
【0064】
下地層形成用組成物は、上記含有成分が加水分解縮合反応や加水分解共縮合反応するための水を含んでいてもよい。下地層形成用組成物における水の含有量は、全固形分100質量部に対して、1〜50質量部が好ましい。なお、下地層形成用組成物は水を含有しなくとも、以下の下地層を形成する過程において雰囲気中の水分を利用して含有成分の加水分解縮合反応や加水分解共縮合反応を行わせることができる。
【0065】
ここで、下地層形成用組成物が、(B)〜(D)成分として、化合物(2)、加水分解性化合物(Z)、化合物(3)の加水分解性基が塩素原子である化合物やこれらの部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物等を含有する場合、これらは反応性が高いことから貯蔵安定性を考慮すると上記触媒および水を実質的に含有しないことが好ましい。実質的に含有しないとは、下地層形成用組成物の全量に対して含有量が0.3質量%以下であることをいう。
【0066】
下地層形成用組成物を用いて下地層を形成する方法としては、オルガノシラン化合物系の表面処理剤における公知の方法を用いることが可能である。例えば、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の方法で下地層形成用組成物を基体の表面に塗布し、大気中または窒素雰囲気中において、必要に応じて乾燥した後、硬化させることで、下地層を形成できる。硬化の条件は、用いる組成物の種類、濃度等により適宜制御されるが、好ましい条件として、温度:20〜50℃、湿度:50〜90%RHの条件が挙げられる。硬化のための時間は、用いる組成物の種類、濃度、硬化条件等によるが、概ね1〜72時間が好ましい。下地層の厚さは撥水膜に耐湿性、密着性、基体からのアルカリ等のバリア性を付与できる厚さであれば特に限定されない。経済性を考慮すると、50nm以下の厚さが好ましく、その下限は単分子層の厚さである。
【0067】
(撥水層)
撥水層は、下記式(1)で表される化合物および/またはその部分加水分解縮合物からなる(A)成分を含む撥水層形成用組成物を用いて、上記基体上の下地層の表面に形成される。
R
3−(SiR
22O)
k−SiR
22−Y
1−Si(R
1)
3−n(X
1)
n …(1)
(ただし、式(1)中、R
3は炭素原子数10以下のアルキル基または−Y
1−Si(R
1)
3−n(X
1)
n基を、R
2はそれぞれ独立して炭素原子数3以下のアルキル基を、Y
1はそれぞれ独立して炭素原子数2〜4のアルキレン基を、R
1はそれぞれ独立して1価の炭化水素基であり、X
1はそれぞれ独立して加水分解性基を示す。kは10〜200の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【0068】
化合物(1)は、片末端または両末端に、アルキレン基を介して加水分解性シリル基が結合した、直鎖状のポリオルガノシロキサンである。R
3が炭素原子数10以下のアルキル基である場合、化合物(1)は、片末端に加水分解性シリル基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンであり、両末端に加水分解性シリル基を有する場合に比べて、微小な水滴に対する滑落性の点で優れている。本発明においては、小水滴滑落性の観点から化合物(1)が片末端に加水分解性シリル基を有する化合物であることが特に好ましい。この場合、R
3は炭素原子数1〜5のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1〜5の直鎖状アルキル基がより好ましい。
【0069】
式(1)において、SiR
22Oの繰り返し単位、およびそれに連結する−SiR
22−におけるR
2はそれぞれ独立して炭素原子数3以下のアルキル基であり、炭素原子数3以下の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。R
2はそれぞれ異なってもよいが、同一であるのが好ましい。SiR
22Oの繰り返し数であるkは、10〜200の整数であり、10〜150が好ましく、15〜120がより好ましい。kの数が上記範囲にあれば、得られる撥水膜において静的撥水性および動的撥水性の両立が可能となる。なお、化合物(1)は、SiR
22Oの繰り返し単位の数が異なる混合物として用いられることが多い。化合物(1)がこのような混合物の場合、各繰り返し単位の数は平均値で示される。平均値で示す場合、繰り返し単位の数は必ずしも整数で示されるわけではないが、好ましい数値の範囲は上記同様である。
【0070】
化合物(1)が末端に有する加水分解性シリル基(−Si(R
1)
3−n(X
1)
n)のX
1は加水分解性基を示す。R
3が、−Y
1−Si(R
1)
3−n(X
1)
n基を示す場合、化合物(1)は両末端に加水分解性シリル基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンとなり、片末端に加水分解性シリル基を有する化合物に比べて耐湿性、耐薬品性に優れる点で好ましい。化合物(1)において、両末端の加水分解性シリル基は同一であっても異なってもよい。
【0071】
X
1としては、上記X
3と同様の基または原子が挙げられる。化合物(1)の安定性と加水分解のし易さとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基およびハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数3以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。化合物(1)におけるX
1としては、塩素原子、メトキシ基、エトキシ基がさらに好ましく、塩素原子、メトキシ基が特に好ましく、塩素原子が最も好ましい。これらは、製造上の目的、用途等に応じて適宜選択され用いられる。化合物(1)中にX
1が複数個存在する場合には、X
1が同じ基でも異なる基でもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0072】
nは、化合物(1)が有する加水分解性シリル基中の加水分解性基(X
1)の個数を示し、その数は1〜3の整数である。nが1以上であれば、得られる撥水層と下地層との密着性が良好となる。nは、得られる撥水層と下地層との密着性の点から、2または3が好ましく、3が特に好ましい。
【0073】
R
1はそれぞれ独立して1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基等が挙げられる。R
1は1価の飽和炭化水素基が好ましい。1価の飽和炭化水素基の炭素原子数は1〜6が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。R
1としては、合成が簡便であることから、炭素原子数が1〜6のアルキル基が好ましく、原料の入手や取り扱いが容易である点から、炭素原子数が1〜3のアルキル基がより好ましく、炭素原子数が1〜2のアルキル基が特に好ましい。化合物(1)が有する加水分解性シリル基中のR
1の個数は3−n個である。加水分解性シリル基中にR
1が複数個存在する場合には、R
1が同じ基でも異なる基でもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0074】
式(1)において、(SiR
22O)
k−SiR
22−と加水分解性シリル基を連結する基であるY
1は、それぞれ独立して炭素原子数2〜4のアルキレン基を示す。Y
1としては炭素原子数2または3のアルキレン基が好ましい。Y
1が炭素原子数2のアルキレン基の場合、本明細書では式(1)の分子式において−C
2H
4−と示すが、これは−CH
2CH
2−と−CH(CH
3)−のような混合物であってもよい。これらは、製法上分離が困難な混合物であって、混合物として用いても本発明の効果に影響を与えないものである。同様にY
1が炭素原子数3のアルキレン基の場合、式(1)の分子式において−C
3H
6−と示すが、これは−CH
2CH
2CH
2−と−CH(CH
3)CH
2−の混合物、あるいは−CH
2CH
2CH
2−と−CH
2CH(CH
3)−の混合物であってもよい。
【0075】
このように、Y
1は分岐状のアルキレン基と直鎖状のアルキレン基の混合物であってもよいが、全部が直鎖状のアルキレン基であることが最も好ましい。Y
1における分岐状のアルキレン基と直鎖状のアルキレン基の割合は全体を100としたときの直鎖状のアルキレン基の割合として50〜100が好ましく、75〜100がより好ましい。
【0076】
化合物(1)として好ましくは、式(1)におけるR
2がメチル基であり、R
3が炭素原子数5以下の直鎖状のアルキル基であり、X
1が塩素原子であり、kが10〜150の整数であり、nが3である化合物である。
【0077】
化合物(1)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。なお、各化合物中kは10〜150の整数である。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3
CH
3(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(OCH
3)
3
CH
3(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(OC
2H
5)
3
C
4H
9(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3
C
4H
9(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(OCH
3)
3
C
4H
9(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(OC
2H
5)
3
Cl
3SiC
2H
4(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3
(CH
3O)
3SiC
2H
4(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(OCH
3)
3
(C
2H
5O)
3SiC
2H
4(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(OC
2H
5)
3
本発明において、化合物(1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記のとおりこられのなかでも片方の末端のみに加水分解性シリル基を有する化合物(1)が好ましい。また、加水分解性基は塩素原子、メトキシ基がより好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0078】
化合物(1)は、公知の方法で製造可能である。
例えば、式(1)において、R
3が炭素原子数10以下のアルキル基であり、片末端にY
1として−C
2H
4−を介して加水分解性シリル基(−Si(R
1)
3−n(X
1)
n)を有する直鎖状のポリジメチルシロキサン(R
3(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(R
1)
3−n(X
1)
n)は、以下のようにして製造できる。
一方の末端にR
3を他方の末端に水素原子をそれぞれ有するポリジメチルシロキサン(R
3(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2H)に、ヒドロシリル化触媒の存在下、CH
2=CHSi(R
1)
3−n(X
1)
nを反応させる。
この反応で得られる化合物(1)は、Y
1が−CH
2CH
2−の化合物と、−CH(CH
3)−の化合物の混合物となる。また、上記反応において、CH
2=CH−をCH
2=CH−CH
2−とすることで、上記においてY
1が−C
3H
6−の化合物(1)が得られる。
【0079】
式(1)が、両末端にY
1として−C
2H
4−を介して加水分解性シリル基(−Si(R
1)
3−n(X
1)
n)を有する直鎖状のポリジメチルシロキサンである場合、両末端に水素原子をそれぞれ有するポリジメチルシロキサン(H(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2H)に、ヒドロシリル化触媒の存在下、CH
2=CHSi(R
1)
3−n(X
1)
nを反応させることで、(X
1)
n(R
1)
3−nSiC
2H
4(Si(CH
3)
2O)
kSi(CH
3)
2C
2H
4Si(R
1)
3−n(X
1)
nが得られる。この場合についても、化合物(1)はY
1が−CH
2CH
2−の化合物と、−CH(CH
3)−の化合物の混合物である。
【0080】
なお、上記ヒドロシリル化反応に用いる原料として、末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、HSi(R
1)
3−n(X
1)
nを用いても、同様に化合物(1)が得られる。
【0081】
上記の方法では、いずれもY
1は分岐状のアルキレン基と直鎖状のアルキレン基の混合物として得られる。X
1が塩素原子の場合については、これらの合成方法のうちでも、末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンとHSi(R
1)
3−n(X
1)
nを用いる合成方法が、Y
1が直鎖状のアルキレン基、例えば、Y
1がC
2H
4の場合には−CH
2CH
2−となる化合物の割合がより高くなることから、より好ましい。
【0082】
撥水層形成用組成物中に含まれる(A)成分は、化合物(1)の部分加水分解縮合物であってもよい。ただし、部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度である必要がある。(A)成分としては、化合物(1)であっても、化合物(1)の部分加水分解縮合物であってもよく、化合物(1)とその部分加水分解縮合物との混合物、例えば、未反応の化合物(1)が含まれる化合物(1)の部分加水分解縮合物であってもよい。
【0083】
撥水層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて、金属酸化物の超微粒子、染料または顔料等の着色用材料、防汚性材料、各種樹脂等の任意成分として機能性添加剤を含んでもよい。ただし、撥水層形成用組成物への機能性添加剤の添加はその量によっては、得られる撥水膜の性能の低下を招くおそれがある。よって、撥水層形成用組成物は、全固形成分が実質的に(A)成分のみからなることが好ましい。
【0084】
撥水層形成用組成物は、通常、層構成成分となる固形分の他に、経済性、作業性、得られる下地層の厚さ制御のしやすさ等を考慮して、有機溶剤を含む。有機溶剤は、撥水層形成用組成物が含有する固形分を溶解するものであれば特に制限されない。有機溶剤としては、下地層形成用組成物と同様の化合物が挙げられる。有機溶剤は1種に限定されず、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の溶剤を混合して使用してもよい。
【0085】
撥水層形成用組成物が部分加水分解縮合物を含有する場合、これを製造するために使用した溶媒を含んでもよい。また、このような溶媒と撥水層形成用組成物が含有する有機溶媒は同じものであってもよい。撥水層形成用組成物は、さらに、部分加水分解縮合で用いた触媒などの成分を含んでいてもよい。撥水層形成用組成物の全固形分が実質的に(A)成分のみからなる場合に、化合物(1)の部分加水分解縮合物を用いる際には、撥水層形成用組成物は、化合物(1)の部分加水分解縮合物の製造で得られた部分加水分解縮合物の溶液そのものであることが好ましい。撥水層形成用組成物における有機溶剤の割合は、下地層形成用組成物における有機溶剤の割合と同様とできる。
【0086】
さらに、撥水層形成用組成物においては、部分加水分解縮合物を含まないものであっても、(A)成分の加水分解縮合反応を促進させるために、上記で部分加水分解縮合の反応において使用したのと同様の酸触媒等の触媒を配合しておくことも好ましい。部分加水分解縮合物を含む場合であっても、それらの製造に使用した触媒が組成物中に残存していない場合は、触媒を配合することが好ましい。触媒としては、酸触媒が好ましい。触媒の量としては、(A)成分(化合物(1)由来成分)の100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましい。
【0087】
撥水層形成用組成物は、上記含有成分が加水分解縮合反応するための水を含んでいてもよい。撥水層形成用組成物における水の含有量は、(A)成分(化合物(1)由来成分)の100質量部に対して、1〜50質量部が好ましい。なお、撥水層形成用組成物は水を含有しなくとも、以下の撥水層を形成する過程において雰囲気中の水分を利用して含有成分の加水分解縮合反応を行わせることができる。
【0088】
ここで、撥水層形成用組成物が、(A)成分として、化合物(1)の加水分解性基が塩素原子である化合物(1)や部分加水分解縮合物等を含有する場合、これらは反応性が高いことから貯蔵安定性を考慮すると上記触媒および水を実質的に含有しないことが好ましい。実質的に含有しないとは、撥水層形成用組成物の全量に対して含有量が0.3質量%以下であることをいう。
【0089】
撥水層形成用組成物を用いて撥水層を形成する方法としては、オルガノシラン化合物系の表面処理剤における公知の方法を用いることが可能である。例えば、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の方法で撥水層形成用組成物を基体上の下地層表面に塗布し、大気中または窒素雰囲気中において、必要に応じて乾燥した後、硬化させることで、撥水層を形成できる。硬化の条件は、用いる組成物の種類、濃度等により適宜制御されるが、好ましい条件として、温度:20〜50℃、湿度:50〜90%RHの条件が挙げられる。硬化のための時間は、用いる組成物の種類、濃度、硬化条件等によるが、概ね1〜72時間が好ましい。撥水層の厚さは撥水膜に静的撥水性および動的撥水性の双方に優れる性能を付与できる厚さであれば特に限定されない。経済性を考慮すると、50nm以下の厚さが好ましく、その下限は単分子層の厚さである。
【0090】
なお、上記に説明した下地層形成用組成物の硬化は、撥水層形成用組成物の硬化と同時に行ってもよい。具体的には、下地層形成用組成物を基体表面の所定領域に塗布し、必要に応じて乾燥した後、この表面に撥水層形成用組成物を塗布し、必要に応じて乾燥した後、上記同様にして硬化処理を施すことで、下地層と撥水層を同時に硬化させて撥水膜を形成してもよい。
【0091】
このようにして得られる本発明の撥水膜付き基体の撥水膜は、耐湿性等の耐久性を備えるとともに、静的および動的の両撥水性に優れる撥水膜であり、特に高いレベルの動的撥水性、具体的には、水転落角が小さく、小水滴の滑落速度が速い性質を有するものである。
【0092】
[輸送機器用物品]
本発明の撥水膜付き基体は、これを具備する輸送機器用物品としての用途に好適に用いられる。輸送機器用物品とは、電車、自動車、船舶、航空機等におけるボディー、窓ガラス(フロントガラス、サイドガラス、リアガラス)、ミラー、バンパー等が好ましく挙げられる。
【0093】
本発明の撥水膜付き基体またはこの基体を具備する輸送機器用物品は、その撥水膜表面が静的撥水性および動的撥水性の双方に優れるため、表面への水滴の付着が少なく、付着した水滴がすみやかに除去される。加えて輸送機器の運行に伴う風圧との相互作用により、付着した水滴は表面を急速に移動し、水滴として溜ることはない。この性質は水滴が微小な場合にも十分に発現する。このため、水分が誘発する悪影響を排除できる。また、上記撥水膜は、耐湿性等の耐久性にも優れるため、例えば、輸送機器用物品としての屋外での使用を含む各種使用条件下での長期使用においてもこの撥水性を維持することができる。
【0094】
本発明の撥水膜付き基体またはこの基体を具備する輸送機器用物品は、特に、各種窓ガラス等の透視野部での用途において、水滴の飛散により視野の確保が非常に容易となり、車輌等の運行において安全性が向上できる。また、水滴が氷結するような環境下でも撥水膜表面には着氷しにくく、着氷したとしても付着力が小さいため自然落下し易い。さらに、水滴の付着がほとんどないため、清浄の作業回数を少なくでき、しかも清浄作業を容易に行うことができる。
【実施例】
【0095】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例1〜12および例17〜24が実施例であり、例13〜16および例25〜30が比較例である。
【0096】
撥水層形成用組成物に配合する化合物(1)として、下記化合物(11)〜化合物(14)を以下の合成例1〜4により合成して使用した。
(化合物11);CH
3(Si(CH
3)
2O)
60Si(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3
(化合物12);CH
3(Si(CH
3)
2O)
39Si(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3
(化合物13);CH
3(Si(CH
3)
2O)
120Si(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3
(化合物14);CH
3(Si(CH
3)
2O)
58Si(CH
3)
2C
2H
4Si(OCH
3)
3
【0097】
[合成例1]化合物(11)の合成例
(ビニルポリジメチルシロキサン(1−B)の製造)
撹拌機、滴下ロートを備えた反応器(内容積100mL、ガラス製)にトリメチルシラノール(0.50g)を投入し、氷浴中で攪拌した。これにn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5mol/L)の3.7mLを滴下した。1時間攪拌後、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(24.66g)をTHF(25g)に溶解した溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴を外して5時間攪拌し、これにクロロジメチルビニルシラン(1.00g)を滴下して、さらに12時間攪拌した。
【0098】
得られた反応粗液に10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて2層に分離させ、有機層を蒸留水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、下式(1−B)で表わされる化合物(1−B)の25.2gを得た。収率は98%であった。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
60Si(CH
3)
2CH=CH
2 …(1−B)
得られた化合物(1−B)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。なお、各測定値は、測定値に続く()内に示す基に由来する測定値を意味するが、この基に[]で囲まれた部分がある場合は、測定値は[]で囲まれた部分に由来する測定値を意味するものである。以下、実施例で示すNMRの測定結果については、全て同様である。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):5.6〜6.1(3H、m、H−Si)、0.0〜0.3(369H、m、CH
3−Si)。
【0099】
(化合物(11)の製造)
攪拌機、ジムロートを備えた反応器(内容積50mL)に、化合物(1−B)(20.0g)、トリクロロシラン(1.17g)、およびPt触媒(Ptの1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体の2質量%キシレン溶液)(0.015g)を投入して、室温にて24時間攪拌した。
得られた反応粗液から揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、片末端がそれぞれ基(1a)および基(1b)である化合物の混合物であって、各化合物の比が[基(1a)の化合物:基(1b)の化合物]として94:6である、下式(11)で表わされる化合物(11)の20.2gを得た。収率は98%であった。
−Si(CH
3)
2CH
2CH
2SiCl
3 …(1a)
−Si(CH
3)
2CH(CH
3)SiCl
3 …(1b)
CH
3(Si(CH
3)
2O)
60Si(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3 …(11)
【0100】
得られた化合物(11)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):1.05(1.88H、m、SiCH
2[CH
2]SiCl
3)、0.98(0.18H、d、SiCH([CH
3])SiCl
3)、0.55(1.88H、m、Si[CH
2]CH
2SiCl
3)、0.0〜0.3(369H、m、CH
3−SiおよびSi[CH](CH
3)SiCl
3)。
【0101】
[合成例2]化合物(12)の合成例
(ハイドロジェンポリジメチルシロキサン(1−A)の製造)
撹拌機、滴下ロートを備えた反応器(内容積100mL、ガラス製)にトリメチルシラノール(0.75g)およびTHF(3.0g)を投入し、氷浴中で攪拌した。これにn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5mol/L)の5.5mLを滴下した。1時間攪拌後、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(24.20g)をTHF(20g)に溶解した溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴を外して12時間攪拌し、これにジメチルクロロシラン(1.20g)を滴下して、さらに12時間攪拌した。
【0102】
得られた反応粗液に10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて2層に分離させ、有機層を蒸留水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、下式(1−A)で表わされる化合物(1−A)の25.0gを得た。収率は99%であった。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
39Si(CH
3)
2H …(1−A)
【0103】
得られた化合物(1−A)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):4.88(1H、m、H−Si)、0.0〜0.3(243H、m、CH
3−Si)。
【0104】
(化合物(12)の製造)
攪拌機、ジムロートを備えた反応器(内容積50mL)に、化合物(1−A)(15.0g)、ビニルトリクロロシラン(1.64g)、およびPt触媒(Ptの1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体の2質量%キシレン溶液)(0.010g)を投入して、室温にて24時間攪拌した。
【0105】
得られた反応粗液から揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、片末端がそれぞれ基(1a)および基(1b)である化合物の混合物であって、各化合物の比が[基(1a)の化合物:基(1b)の化合物]として52:48である、下式(12)で表わされる化合物(12)の16.5gを得た。収率は100%であった。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
39Si(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3 …(12)
【0106】
得られた化合物(12)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):1.06(1.04H、m、SiCH
2[CH
2]SiCl
3)、0.98(1.44H、d、SiCH([CH
3])SiCl
3)、0.55(1.04H、m、Si[CH
2]CH
2SiCl
3)、0.0〜0.3(243.5H、m、CH
3−SiおよびSi[CH](CH
3)SiCl
3)。
【0107】
[合成例3]化合物(13)の合成例
(ビニルポリジメチルシロキサン(2−B)の製造)
撹拌機、滴下ロートを備えた反応器(内容積100mL、ガラス製)にトリメチルシラノール(0.25g)を投入し、氷浴中で攪拌した。これにn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5mol/L)の1.8mLを滴下した。1時間攪拌後、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(24.66g)をTHF(25g)に溶解した溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴を外して5時間攪拌し、これにクロロジメチルビニルシラン(0.50g)を滴下して、さらに12時間攪拌した。
得られた反応粗液に10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて2層に分離させ、有機層を蒸留水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、下式(2−B)で表わされる化合物(2−B)の24.8gを得た。収率は99%であった。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
120Si(CH
3)
2CH=CH
2 …(2−B)
【0108】
得られた化合物(2−B)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):5.6〜6.1(3H、m、H−Si)、0.0〜0.3(729H、m、CH
3−Si)。
【0109】
(化合物(13)の製造)
攪拌機、ジムロートを備えた反応器(内容積50mL)に、化合物(2−B)(20.0g)、トリクロロシラン(0.60g)、およびPt触媒(Ptの1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体の2質量%キシレン溶液)(0.009g)を投入して、室温にて24時間攪拌した。
得られた反応粗液から揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、片末端がそれぞれ基(1a)および基(1b)である化合物の混合物であって、各化合物の比が[基(1a)の化合物:基(1b)の化合物]として93:7である、下式(13)で表わされる化合物(13)の20.1gを得た。収率は99%であった。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
120Si(CH
3)
2C
2H
4SiCl
3 …(13)
【0110】
得られた化合物(13)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):1.05(1.86H、m、SiCH
2[CH
2]SiCl
3)、0.98(0.21H、d、SiCH([CH
3])SiCl
3)、0.55(1.86H、m、Si[CH
2]CH
2SiCl
3)、0.0〜0.3(729H、m、CH
3−SiおよびSi[CH](CH
3)SiCl
3)。
【0111】
[合成例4]化合物(14)の合成例
(ハイドロジェンポリジメチルシロキサン(2−A)の製造)
撹拌機、滴下ロートを備えた反応器(内容積200mL、ガラス製)にトリメチルシラノール(1.00g)およびTHF(5.0g)を投入し、氷浴中で攪拌した。これにn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5mol/L)の7.0mLを滴下した。1時間攪拌後、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(49.39g)をTHF(45g)に溶解した溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴を外して12時間攪拌し、これにジメチルクロロシラン(1.15g)を滴下して、さらに12時間攪拌した。
【0112】
得られた反応粗液に10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて2層に分離させ、有機層を蒸留水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、下式(2−A)で表わされる化合物(2−A)の50.6gを得た。収率は99%であった。
CH
3(Si(CH
3)
2O)
58Si(CH
3)
2H …(2−A)
【0113】
得られた化合物(2−A)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):4.88(1H、m、H−Si)、0.0〜0.3(357H、m、CH
3−Si)。
【0114】
(化合物(14)の製造)
攪拌機、ジムロートを備えた反応器(内容積50mL)に、化合物(2−A)(20.0g)、ビニルトリメトキシシラン(1.33g)、およびPt触媒(Ptの1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体の2質量%キシレン溶液)(0.086g)を投入して、油浴にて60℃に加熱して6時間攪拌した。
【0115】
得られた反応粗液から揮発成分を50℃/10mmHgの条件下に除去し、片末端がそれぞれ下式(6a)および下式(6b)で表わされる化合物の混合物であって、各化合物の比が[基(6a)の化合物:基(6b)の化合物]として80:20である、下式(14)で表わされる化合物(14)の20.4gを得た。収率は99%であった。
−Si(CH
3)
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
3 …(6a)
−Si(CH
3)
2CH(CH
3)Si(OCH
3)
3 …(6b)
CH
3(Si(CH
3)
2O)
58Si(CH
3)
2C
2H
4Si(OCH
3)
3 …(14)
【0116】
得られた化合物(14)の
1H−NMR(300.4MHz、基準:C
6D
6(=7.00ppm))の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:C
6D
6)δ(ppm):3.35(9H、s、OCH
3)、1.17(0.6H、d、SiCH([CH
3])Si(OCH
3)
3)、0.63(3.2H、m、Si[CH
2CH
2]Si(OCH
3)
3)、0.0〜0.3(357H、m、CH
3−SiおよびSi[CH](CH
3)Si(OCH
3)
3)。
【0117】
[撥水層形成用組成物の調製]
(撥水層形成用組成物1〜3)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器で、上記で得られた化合物(11)が10質量%、酢酸ブチル(純正化学社製)が90質量%となる割合で両者を混合し、25℃にて5分間撹拌して、撥水層形成用組成物1を得た。化合物(11)を化合物(12)、化合物(13)に変えた以外は同様にして、撥水層形成用組成物2、撥水層形成用組成物3を得た。
【0118】
(撥水層形成用組成物4)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器で、上記で得られた化合物(14)が10質量%、イソプロピルアルコール(純正化学社製)が16.7質量%、酢酸ブチルが68.3質量%となる割合で混合し、25℃にて1分間撹拌した後、10質量%硝酸水溶液を5質量%添加し25℃にて3時間撹拌して、撥水層形成用組成物4を得た。なお、各成分の含有量(質量%)は撥水層形成用組成物4の全量に対する質量%である。
【0119】
[下地層形成用組成物の調製]
下地層形成用組成物の調製において以下の化合物を準備した。
(B)成分
テトラメトキシシラン;Si(OCH
3)
4(関東化学社製)、以下「TMOS」と示す。化合物(2)に相当する。
(D)成分
ビストリメトキシシリルエタン;(CH
3O)
3SiCH
2CH
2Si(OCH
3)
3(関東化学社製)、以下「BTME」と示す。化合物(3)に相当する。
(C)成分
(C1)成分および(C2)成分として以下の表1に示す元素Mの加水分解性化合物(Z)または、元素Mの塩とキレート化剤の組み合わせを準備した。なお、表1中、ホウ酸が含むBは、電気陰性度がケイ素原子の1.74よりも大きい元素であり、本発明の範囲外の元素である。ホウ酸とアセチルアセトンの組み合わせを比較のために用いた。
【表1】
【0120】
(下地層形成用組成物1〜14)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器で、表2に示す質量(g)の各原料を添加し、25℃にて3分間撹拌した後、0.463質量%硝酸水溶液を0.42g滴下し、25℃にて3時間撹拌することで下地層形成用組成物1〜14を得た。
【0121】
(下地層形成用組成物15〜20)
上記下地層形成用組成物1〜14と同様にして、本発明に係る下地層を形成するのに適さない下地層形成用組成物15〜20(比較例用)を得た。
なお、表2において、(C)成分の化合物は表1に示す化合物略号で示す。(C)成分の含有量1は、仕込み質量(g)を示し、含有量2は、(B)成分および(D)成分由来のケイ素原子と(C)成分由来の元素Mの合計モル量100モル%に対する(C)成分由来の元素Mのモル%を示す。また、(C)成分として、Zr−1、Ti−1等の溶液を用いた場合の含有量1は、溶液としての仕込み量(g)を示す。
【0122】
【表2】
【0123】
[例1〜30;撥水膜付き基体の製造]
基体として、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(水接触角5度、300mm×300mm×厚さ3mm)を用い、該ガラス基板の表面に、表3および表4に示すとおり上記で得られた下地層形成用液状組成物1〜20のいずれかの0.5gをスキージコート法によって塗布し、25℃で1分間乾燥し下地層(未硬化)を形成した。次いで、形成した下地層(未硬化)の表面に、表3および表4に示すとおり上記で得られた撥水層形成用組成物1〜4のいずれかの0.5gをスキージコート法によって塗布し、50℃、60%RHに設定された恒温恒湿槽で48時間保持して撥水層を形成すると同時に下地層の硬化を行った後、撥水層の表面を2−プロパノールを染み込ませた紙ウェスで拭き上げることで、基体側から順に下地層/撥水層からなる撥水膜を有する撥水膜付き基体を得た。
【0124】
なお、表3には、下地層形成用組成物が(D)成分を含まない場合の製造例を示し、表4には、下地層形成用組成物が(D)成分を含む場合の製造例を示した。
【0125】
[評価]
上記の例1〜30で得られた撥水膜付き基体の評価を、以下のように行った。結果を表3、表4に示す。なお、各測定の前には、エタノールを含ませた紙ウェスで膜表面の汚れの除去を行った。
【0126】
<初期撥水性>
撥水性は、静的撥水性については以下の方法で測定した水接触角(CA)で、動的撥水性(滑水性)については以下の方法で測定した水転落角(SA)で評価した。まず、以下の耐湿性試験を行う前に初期値を測定した。また、耐湿性試験を行う前に、得られた撥水膜付き基体の撥水膜表面における小水滴の滑落性を評価した。小水滴の滑落性は、特に輸送機器用物品の用途において有することが好ましいとされる物性である。
【0127】
(水接触角(CA))
撥水膜付き基体の撥水膜表面に置いた、直径1mmの水滴の接触角をDM−701(協和界面科学社製)を用いて測定した。撥水膜表面における異なる5ヶ所で測定を行い、その平均値を算出した。
【0128】
(水転落角(SA))
水平に保持した撥水膜付き基体の撥水膜表面に50μLの水滴を滴下した後、基体を徐々に傾け、水滴が転落しはじめた時の撥水膜付き基体と水平面との角度(転落角)をSA−11(協和界面科学社製)を用いて測定した。撥水膜表面における異なる5ヶ所で測定を行い、その平均値を算出した。転落角が小さいほど動的撥水性(滑水性)に優れる。
【0129】
(小水滴滑落性)
水平から70度に傾けた撥水膜付き基体の撥水膜上に6μLの水滴を置き、50mm移動する際の時間をはかり滑落速度(mm/秒)を算出して小水滴滑落性の評価とした。なお、評価「滑落せず」は、全く移動しなかったことを示す。
【0130】
<耐湿性試験>
例1〜6、例17、18で得られた撥水膜付き基体を、50℃、95%RHの環境下500時間暴露する耐湿性試験を行った後、上記同様の方法により水接触角(CA)、水転落角(SA)を測定した。
上記で測定した初期撥水性と耐湿性試験後の撥水性の結果を表3(例1〜16)、表4(例17〜30)に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
表3、表4からわかるように、加水分解性ケイ素化合物と共にケイ素原子よりも電気陰性度が低い元素Mを含有する化合物を含有する下地層形成用組成物を用いて形成された下地層を有する実施例の撥水膜付き基体は、それらのいずれかのみを含有する下地層形成用組成物を用いて形成された下地層を有する比較例の撥水膜付き基体に比べて、接触角と転落角は同等であるが、微小な水滴の滑落速度が格段に速い。また、加水分解性ケイ素化合物としてビスシランを配合することで、耐湿性が大きく改善されることがわかる。