(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリ塩化ビニル樹脂(A)と、可塑剤(B)と、非鉛安定剤(C)と、を含有し、ゲル化促進剤としてポリメチルメタアクリレートを含有しないポリ塩化ビニル樹脂組成物であって、
前記非鉛安定剤(C)は、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)を含み、
前記ポリ塩化ビニル樹脂組成物100質量%に対して、
前記可塑剤(B)を19質量%以上24質量%以下、
前記非鉛安定剤(C)を4質量%以上含有し、
前記ハイドロタルサイト(c2)の前記亜鉛金属石鹸(c1)に対する質量比(c2/c1)が3.5以上10以下であるポリ塩化ビニル樹脂組成物から構成される絶縁層を導体の外周上に有することを特徴とするコネクタ圧接接続用絶縁電線。
前記非鉛安定剤(C)は、β−ジケトン類化合物、酸化防止剤、多価アルコール、金属水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、これらの合計が前記非鉛安定剤(C)の50%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ圧接接続用絶縁電線。
充填剤、着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤(D)をさらに含有し、前記添加剤(D)を10質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコネクタ圧接接続用絶縁電線。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線は、導体と、導体を被覆する絶縁被覆(絶縁層)とを備えており、例えば電気機器などの機器内配線として用いられる。機器内配線は、複数本の絶縁電線がコネクタに接続されて構成されている。絶縁電線のコネクタへの接続は、絶縁電線をコネクタに挿入し、コネクタの端子に接続することにより行われる。
【0003】
絶縁電線のコネクタへの接続としては、例えば、圧着接続や圧接接続がある。圧着接続は、絶縁電線の導体端末を露出し、露出した導体と端子とを1つずつ接続する方法である。圧接接続は、絶縁電線を刃状の端子の間に圧入して押し込み、端子により絶縁層を突き破りつつ、導体と端子とを接続する方法である。圧接接続によれば、圧着接続のように導体端末を露出させる必要がなく、また複数の絶縁電線を一括して同時に接続することができる。
【0004】
ところで、近年、電気機器の小型化に対応して機器内配線も小型化しており、機器内配線に用いられる絶縁電線は、細径化され、また狭ピッチ(例えば1.0mm〜1.5mm)でコネクタに接続される傾向にある。この傾向により、絶縁電線のコネクタへの接続は、複数本を一括して同時に接続できる圧接接続が採用されるようになっている。
【0005】
圧接接続される絶縁電線においては、端子間に圧入されて押し込まれることにより大きな圧力がかかる。このため、その絶縁層には圧力により変形しないように所定の機械的特性が要求される。絶縁層の機械的特性が低いと、絶縁層が変形し、絶縁電線がコネクタに保持されにくくなることにより、コネクタから抜けて導通不良となるおそれがある。
【0006】
このような絶縁層を構成する樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂がある。ポリ塩化ビニル樹脂は、極性ポリマであり、分子間力が強いため硬質な成形物となるが、可塑剤が添加されることにより柔軟な成形物となる。すなわち、ポリ塩化ビニル樹脂は、可塑剤が比較的多く添加されると軟質ポリ塩化ビニル樹脂となり、柔軟性を示す一方、可塑剤が比較的少なく添加されると半硬質ポリ塩化ビニル樹脂となり、所定の機械的特性を示す。
【0007】
絶縁層に高い機械的特性が要求される場合、絶縁層には、可塑剤の含有量が少ない半硬質ポリ塩化ビニル樹脂が用いられる。半硬質ポリ塩化ビニル樹脂から絶縁層を構成する場合、ポリ塩化ビニル樹脂に少量の可塑剤を添加し、混練により可塑剤を分散させて樹脂組成物とした後、この樹脂組成物を加熱により溶融し、溶融した樹脂組成物を導体上に押し出して形成する。樹脂組成物を溶融させる加熱の際にポリ塩化ビニル樹脂が劣化し、機械的特性などが低下しないように、熱安定剤として、脂肪酸亜鉛などの金属石鹸やハイドロタルサイトなどの非鉛安定剤を添加する(例えば特許文献1を参照)。
【0008】
ただし、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂を用いて絶縁電線を製造する場合、絶縁電線の生産速度が遅く、生産性が低いといった問題がある。絶縁電線の生産速度は、導体上に樹脂を押し出す速度(押出速度)が大きいほど高くなるが、例えば、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂を肉厚0.15mm以下で押し出す際の押出速度は350m/minが上限となっており、押出速度を増加させて生産性を向上させることが困難となっている。これは、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂が比較的少量の可塑剤を含有しており、溶融した状態での粘度が高く、成形加工性(押出成形性)が低いためである。押出成形性の低い半硬質ポリ塩化ビニル樹脂を、例えば押出速度400m/minで押し出すと、形成される絶縁層は表面外観がサメ肌状に荒れるおそれがある。この現象は、いわゆるメルトフラクチャーであり、絶縁電線のコネクタへの圧接接続を妨げ、加工効率を低下させるだけでなく、印刷用インクの塗布性を低下させる要因となる。
【0009】
半硬質ポリ塩化ビニル樹脂の押出成形性を改善し、絶縁電線の生産性を向上させるため、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂を加熱する加熱温度を高くして粘度を調整することが考えられるが、加熱温度が高くなるとポリ塩化ビニル樹脂そのものが劣化して、本来得られる特性を得られないおそれがある。また、添加する可塑剤の含有量を増やし、粘度を低く調整することが考えられるが、ポリ塩化ビニル樹脂が軟質化して、得られる絶縁層の機械的特性が低下するおそれがある。
【0010】
このように、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂を用いて絶縁電線を製造する場合、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂の粘度が高く、押出成形性が低いため、押出速度が制限され、絶縁電線の生産性を向上させることが困難となっている。
【0011】
この点、特許文献2〜4では、押出成形性を改善することを目的として、ポリ塩化ビニル樹脂にポリメチルメタアクリレート(以下、PMMAともいう)を添加することが提案されている。特許文献2〜4によれば、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の押出成形性を改善して、絶縁電線の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〈本発明者が得た知見〉
本発明の一実施形態の説明に先立ち、本発明者が得た知見について説明をする。
【0023】
上述したように、半硬質ポリ塩化ビニル樹脂にゲル化促進剤としてのポリメチルメタアクリレート(以下、PMMAともいう)を添加しただけでは、押出成形性が不十分であり、押出速度をさらに高速化すると、絶縁層の押出外観が悪化することとなっていた。半硬質ポリ塩化ビニル樹脂において、押出成形性が低いことは、可塑剤などが均一に分散されず、加熱溶融された際の粘度が不均一であること(粘度のムラ)に起因している。そして、押出速度を高速化する場合、粘度のムラの影響が大きくなり、押出外観が悪化するものと考えられる。この点、本発明者は、混練条件(スクリューやシリンダの構造など)を適宜変更し、可塑剤などを均一に分散させることで、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の押出成形性、そして絶縁層の押出外観を改善することを試みたが、押出速度を高速化した場合では実現することができなかった。
【0024】
混練条件を変更しただけでは押出成形性を改善できないことから、本発明者は、混練以外に、可塑剤の吸収効率や、ゲル化促進剤などを用いる際の分散効率に要因があるものと考え、鋭意検討を行った。その結果、これらの要因には、ポリ塩化ビニル樹脂におけるポロシティの変化があるものと考えた。
【0025】
ここで、ポロシティとは、ポリ塩化ビニル樹脂における空隙率を示す。ポリ塩化ビニル樹脂は、所定のポロシティ(空隙率)で空隙を有しており、充分な空隙を有していると、可塑剤の吸収を助け、均一分散を可能とさせる。分散させる際には、ポリ塩化ビニル樹脂に可塑剤などを添加し、高速混合機を用いて空隙に吸収させた後、所定のシェア(せん断力)により混練することで、ポリ塩化ビニル粒子を崩壊させる。
【0026】
ところが、ポリ塩化ビニル樹脂においては、所定のせん断力で混練される際に、空隙が均一に分布していないことが多く、局所的に崩壊してポロシティが変化することがある。このことは、可塑剤の分散性の不均一を招くことがある。結果、得られるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、溶融した状態での粘度が不均一となり、押出成形性が低下する。具体的には、ポリ塩化ビニル樹脂を混練すると、空隙が局所的に崩壊する部分がゲル分となる一方、崩壊しない部分が未ゲル分となる。未ゲル分は、ゲル分と比較して、可塑剤の吸収度が低く、溶融しても粘度が高い傾向にあるため、ポリ塩化ビニル樹脂の溶融した際の粘度を不均一とする要因となる。
【0027】
特に、少量の可塑剤を分散させて半硬質ポリ塩化ビニル樹脂とする場合、混練しにくい(混練性が低い)ため、せん断力を強くする傾向にあり、空隙の局所的な崩壊が促進され、押出成形性がより低下することとなる。
【0028】
また、ゲル化促進剤としてPMMAなどを分散させる場合、PMMA自体がポリ塩化ビニル樹脂の粒子崩壊に作用するものの、溶融粘度を上昇させるため、例えば、ニーダによる粗練と、ミキシングロールにより発熱を抑制しながら行う本練との2段階の混練が必要となり非効率であった。また、PMMAの添加は、ポリ塩化ビニル樹脂の溶融張力を上昇させるため、メルトフラクチャーによる外観悪化を招き、電線の高速押出に適さなかった。
【0029】
このように、少量の可塑剤やゲル化促進剤を添加して半硬質ポリ塩化ビニル樹脂とする場合、混練の際に空隙が局所的に崩壊することにより未ゲル分が形成され、可塑剤などの分散性が不均一となることや、得られるポリ塩化ビニル樹脂組成物の押出成形性(成形速度、外観)が低下することとなっていた。
【0030】
また、未ゲル分は、押出成形性を低下させて生産速度の高速化を妨げるだけでなく、形成される絶縁層の押出外観を悪化させる。また、未ゲル分は、ゲル分と比較して可塑剤や熱安定剤などを吸収しにくく、熱劣化速度が早いため、ポリ塩化ビニル樹脂中に未ゲル分があると、未ゲル部分からの熱劣化によって塩素が脱離し、脱離した塩素によって樹脂全体的に劣化が促進されることになる。
【0031】
そこで、本発明者は、混練しにくい半硬質ポリ塩化ビニル樹脂において、混練を低減して空隙の局所的な崩壊(ポロシティの変化)を抑制しつつも、可塑剤などを分散させる方法について、鋭意検討を行った。検討の結果、混練を最小限に抑制した上で可塑剤を分散させるには、ポリ塩化ビニル樹脂における耐熱性及び内外滑性の制御が有効であることを見出した。つまり、耐熱性及び内外滑性は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の混練性に影響しており、これらを制御することで混練性を向上させて可塑剤などの分散性を改善することができる。この制御として、耐熱性及び内外滑性を付与する亜鉛金属石鹸と、耐熱性を補完するハイドロタルサイトとの質量比を調整することにより、可塑剤などの分散性を均一として押出成形性を向上できることを見出した。本発明は、以上の知見に基づきなされたものである。
【0032】
〈本発明の一実施形態〉
以下に、本発明の一実施形態について説明をする。
【0033】
(1)ポリ塩化ビニル樹脂組成物
本実施形態に
使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂(A)と、可塑剤(B)と、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)を含む非鉛安定剤(C)と、を含有し、ゲル化促進剤としてポリメチルメタアクリレートを含有しない。そして、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100質量%に対して、可塑剤(B)を19質量%以上24質量%以下、非鉛安定剤(C)を4質量%以上含有し、ハイドロタルサイト(c2)の亜鉛金属石鹸(c1)に対する質量比(c2/c1)が3.5以上10以下となっている。
【0034】
(ポリ塩化ビニル樹脂(A))
ポリ塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルのホモポリマー、つまりポリ塩化ビニルの他、塩化ビニルと他の共重合可能なモノマーとの共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。ポリ塩化ビニル樹脂としては、平均重合度1000〜3000の範囲内にあるものが好ましい。平均重合度1000未満であると、機械的特性や耐熱性などが低下することがあり、平均重合度が3000を超えると、成形加工時の溶融樹脂温度を高くしないと押出成形性が低下することがある。
【0035】
(可塑剤(B))
可塑剤(B)は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物に柔軟性を付与し、加工をしやすくするための添加剤である。可塑剤(B)としては、特に限定されず、公知のものが用いられるが、トリメリット酸エステル類が好ましい。具体的には、トリメリット酸n−オクチル、トリメリット酸トリ−2−エチルへキシル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシルなどが挙げられる。この中でも、耐寒性を付与する観点から、アルキル鎖長が直鎖型のトリメリット酸n−オクチルがより好ましい。コストを抑えるため、トリメリット酸n−オクチルの一部を側鎖型のトリメリット酸エステルに置き換えても良い。
【0036】
可塑剤(B)の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100質量%に対して、19質量%以上24質量%以下とする。含有量が24質量%を超えると、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の機械的特性が低く、形成される絶縁層は圧力により変形しやすくなる。一方、含有量が19質量%未満となると、機械的特性が高く、形成される絶縁層は圧接接続することが困難となるばかりか、耐寒性に尤度がなくなることがある。
【0037】
(非鉛安定剤(C))
非鉛安定剤(C)は、熱安定剤であり、加熱して混練する際にポリ塩化ビニル樹脂組成物が塩化水素を脱離させて劣化することを抑制する。非鉛安定剤(C)の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100質量%に対して、4質量%以上とする。含有量が4質量%未満となると、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の混練時または押出時における熱安定性を保持することが困難となり、形成される絶縁層はヤケが発生し、外観不良を引き起こす。また、非鉛安定剤(C)の含有量の上限値は特に限定されないが、20質量%以下であることが好ましい。20質量%以下とすることにより、形成される絶縁層の発泡や着色を抑制することができる。
【0038】
本実施形態においては、上述したように、混練を最低限に抑制した上で可塑剤(B)を均一に分散できるように、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の耐熱性及び内外滑性を制御する。この制御のため、非鉛安定剤(C)は、耐熱性及び内外滑性を付与する亜鉛金属石鹸(c1)及び、耐熱性を補完するハイドロタルサイト(c2)と、を含む。以下、それぞれについて説明をする。
【0039】
亜鉛金属石鹸(c1)は、主安定剤であり、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)と亜鉛とからなる。亜鉛金属石鹸(c1)は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物との相溶性が高く、分散性が良い。また、ポリ塩化ビニル樹脂組成物に内外滑性を付与するとともに、所定の耐熱性を付与する。亜鉛金属石鹸(c1)としては、特に限定されないが、炭素数が12〜24の脂肪酸と亜鉛とからなるものが好ましく、例えば、ステアリン酸亜鉛やラウリン酸亜鉛が挙げられる。このような亜鉛金属石鹸(c1)によれば、亜鉛含有量が7質量%以上15質量%以下であり、所定の含有量で添加された場合であっても、樹脂組成物中の亜鉛含有量を過度に増加させることがない。すなわち、樹脂組成物中の亜鉛含有量の増加による耐熱性の低下を抑制することができる。なお、亜鉛金属石鹸は、2種類以上を併用しても良い。
【0040】
ハイドロタルサイト(c2)は、安定助剤であり、塩化水素捕捉作用により劣化を抑制し、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の耐熱性を向上させる。ハイドロタルサイト(c2)は、亜鉛金属石鹸(c1)に組み合わされることで、亜鉛金属石鹸(c1)により得られる耐熱性を補完する。ハイドロタルサイト(c2)としては、特に限定されないが、蛍光X線分析によるマグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)との強度比(Mg/Al)が1〜1.2の間でコントロールされているものが好ましい。マグネシウム分が多くなると着色しやすく、Al分が多くなると脱水開始点が早くなり、発泡をまねくためである。
【0041】
非鉛安定剤(C)において、ハイドロタルサイト(c2)の亜鉛金属石鹸(c1)に対する質量比(c2/c1)は3.5以上10以下とする。好ましくは3.5以上7.5以下とする。(c2/c1)が3.5未満となると、亜鉛金属石鹸(c1)の含有量が相対的に増加して、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の外滑性が過剰となり、ポリ塩化ビニル樹脂組成物が均一にゲル化しにくくなる。つまり、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、粘度が不均一となり、押出成形性が低下し、形成される絶縁層などの押出外観が不良となる。一方、(c2/c1)が10を超えると、ポリ塩化ビニル樹脂組成物を押し出す際に発泡が生じるおそれがあり、押し出す際に温度調整が必要となる。
このように、本実施形態
に使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物は、質量比(c2/c1)が所定の範囲内であり、耐熱性及び内外滑性が調整されている。このため、可塑剤(B)や非鉛安定剤(C)が均一に分散し、溶融した際の粘度の不均一(粘度のムラ)が抑制されており、押出成形性に優れることになる。そして、形成される絶縁層は押出外観が良好となる。
【0042】
なお、非鉛安定剤(C)は、上記亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)以外に、β−ジケトン類化合物、酸化防止剤、多価アルコール、金属水和物からなる群(化合物(c3))より選ばれる少なくとも1種をさらに含んでも良い。化合物(c3)は、亜鉛金属石鹸(c1)やハイドロタルサイト(c2)と組み合わされることで、熱安定性をさらに補完し、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の押出成形性をさらに向上できる。特に、β―ジケトン類化合物は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物との相溶性が高く、また、亜鉛金属石鹸(c1)の安定性を向上させることができるため、添加するのが望ましい。化合物(c3)の含有量の合計は、非鉛安定剤(C)の50%以下であることが好ましい。すなわち、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)の合計は、非鉛安定剤(C)の50%以上であることが好ましい。
【0043】
β−ジケトン類化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジベンゾイルメタン(DBM)やステアリルベンゾイルメタン(SBM)が挙げられる。β−ジケトン類化合物の含有量は、形成される絶縁層の光増感性を考慮して、0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、ラジカル捕捉作用を有するフェノール系などの一次酸化防止剤、過酸化物分解作用を有する硫黄系などの二次酸化防止剤があり、これらを単独で用いてもよく、これらを併用してもよい。好ましくは、何れか複数を併用することが好ましい。酸化防止剤の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物にブルーミングが生じないように、0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0045】
フェノール系の一次酸化防止剤には、モノフェノール系、ビスフェノール系、及びポリフェノール系のそれぞれに分類される一次酸化防止剤がある。モノフェノール系の一次酸化防止剤は、例えば、2,2’−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、又はモノ(α−メチルベンジル)などが挙げられる。また、ビスフェノール系の一次酸化防止剤は、例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、p−クレゾールとジシクロペンタジエンとのブチル化反応生成物、又はジ(α−メチルベンジル)などが挙げられる。更に、ポリフェノール系の一次酸化防止剤は、例えば、2,5’−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5’−ジ−t−アミルハイドロキノン、トリ(α−メチルベンジル)などが挙げられる。
【0046】
硫黄系の二次酸化防止剤には、ベンゾイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系、及び有機チオ酸系のそれぞれに分類される二次酸化防止剤がある。ベンゾイミダゾール系の二次酸化防止剤は、例えば、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、又は2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩などが挙げられる。また、ジチオカルバミン酸塩系の二次酸化防止剤は、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、又はジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどが挙げられる。更に、チオウレア系の二次酸化防止剤は、例えば、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、又はトリブチルチオ尿素などが挙げられる。更に、有機チオ酸系の二次酸化防止剤は、チオジプロピオン酸ジラウリルなどが挙げられる。
【0047】
多価アルコールとしては、特に限定されず、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリン、ポリグリセリンなどが挙げられる。また、これら多価アルコールの水酸基の一部をエステル化、エーテル化したものも挙げられる。多価アルコールの含有量は、絶縁層などの形成時においてブリードアウトが生じないように、0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0048】
金属水和物としては、特に限定されず、例えば、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。絶縁層の着色を抑制する観点からは、水酸化アルミニウムが好ましい。また、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の加工時における塩化水素捕捉作用の観点からは、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムが好ましい。これらは1種類ではなく、2種類以上を併用してもよい。なお、金属水和物の含有量は特に限定されず、適宜変更することが可能である。
【0049】
(添加剤(D))
本実施形態
に使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物は、可塑剤(B)や非鉛安定剤(C)以外に、充填剤、着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤(D)を含有しても良い。添加剤(D)の含有量は、10質量%以下とすることが好ましい。添加剤(D)の含有量が10質量%を超えると、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の押出成形時の粘度が増加するため、形成される絶縁層などの押出外観が不良となることがある。
【0050】
充填剤としては、絶縁層中のポリ塩化ビニル樹脂組成物の含有量を低減し、コストを抑制するようなものであれば特に限定されない。例えば、炭酸カルシウムやケイ酸(ケイ酸化合物)などが挙げられる。炭酸カルシウムは、重質または軽質の何れを用いることもできる。重質炭酸カルシウムの場合、絶縁層の外観を良好とするため、平均粒径を10μm以下とすることが好ましい。ケイ酸(ケイ酸化合物)は、合成法で作製されたものであれば特に限定されず、高温でカオリナイト焼結したケイ酸アルミニウム(焼成クレー)を用いても良い。
【0051】
着色剤としては、特に限定されず、例えば、顆粒状の加工顔料やカラーマスターバッチなどが挙げられる。
【0052】
(2)ポリ塩化ビニル樹脂組成物の製造方法
上記実施形態
に使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物の製造方法について説明をする。
【0053】
まず、ポリ塩化ビニル樹脂(A)に対して、可塑剤(B)及び非鉛安定剤(C)を所定の含有量となるように添加する。このとき、非鉛安定剤(C)として、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)を用いるが、これらの質量比(c2/c1)が3.5以上10以下、好ましくは3.5以上7.5以下となるように、それぞれの添加量を決定する。
【0054】
次に、上記混合物を混練して、ポリ塩化ビニル樹脂組成物を製造する。混練の際には、インターナルミキサーやニーダを用いて、粗練を行う。粗練の混練条件としては、チャンバー温度110℃以上140℃以下、例えばロータ(スクリュー)であれば30rpm以下、インターナルミキサーであれば60rpm以下とすることができる。本実施形態においては、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)の質量比を所定の数値範囲として、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の耐熱性及び内外滑性を制御している。これにより、粗練及び本練の2段階で混練を行うことなく、可塑剤(B)を分散することができる。また、混練を最小限として、空隙の局所的な崩壊を抑制できるため、可塑剤(B)などの分散を均一なものとすることができる。つまり、本実施形態においては、可塑剤(B)などを均一に分散することが可能であり、押出成形性に優れるポリ塩化ビニル樹脂組成物を得ることができる。しかも、従来必要とされた本練を省略し、製造工程を簡略化することができる。
【0055】
なお、可塑剤(B)及び非鉛安定剤(C)は同時に添加してもよいが、非鉛安定剤(C)を添加し、混合した後に可塑剤(B)を添加して混練してもよい。また、添加剤(D)は、可塑剤(B)と同時に添加してもよく、可塑剤(B)の添加前に予め添加してもよい。
【0056】
また、混練時間としては、特に限定されない。本実施形態のポリ塩化ビニル樹脂組成物によれば、可塑剤の吸収が均一なので、つまり可塑剤を均一に分散させることができるので、混練時間による影響が少ない。混練時間としては、例えば600秒ほどが目安であるが、120〜180秒早くてもよく、また240〜300秒ほど遅くてもよい。
【0057】
(3)
コネクタ圧接接続用絶縁電線
次に、本発明の一実施形態にかかる
コネクタ圧接接続用絶縁電線について説明する。本実施形態の
コネクタ圧接接続用絶縁電線は、上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物から構成される絶縁層を有する。具体的には、
コネクタ圧接接続用絶縁電線1は、
図1に示すように、導体11と、導体11の外周上に形成され、上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁層12と、を有する。
【0058】
導体11は、材質については特に限定されず、例えば、銅または銅合金などの金属材料から形成される。また、その導体径については特に限定されず、用途に応じて最適なものを適宜選択することができる
。導体径は細径であることが好ましく、例えば0.2mm以上0.6mm以下とすることが好ましい。
【0059】
絶縁層12は、導体11の外周を被覆しており、上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物からなっている。絶縁層12は、加熱により溶融したポリ塩化ビニル樹脂組成物を導体11の外周に押出して形成される。絶縁層12を形成する際に所定の押出速度で導体11を送り出すが、本実施形態では、押出成形性に優れるポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いているため、例えば肉厚0.15mmで押出す際の押出速度の上限値を500m/minとすることができる。
【0060】
絶縁層12の厚さは特に限定されず、用途に応じて最適な厚さが選択される。コネクタに圧接接続される場合、絶縁電線1の外径が細径であることが好ましいため、絶縁層12の厚さは、0.2mm以下が好ましく、0.1mm以上0.2mm以下がより好ましい。絶縁層12は、高い機械的特性を示すポリ塩化ビニル樹脂組成物からなっているため、厚さが薄い場合であっても、圧接接続の圧力により変形しない程度の機械的特性を示す。
【0061】
〈本発明の実施形態に係る効果〉
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0062】
本実施形態に
使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物によれば、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、可塑剤(B)を19質量%以上24質量%以下、非鉛安定剤(C)を4質量%以上含有している。また、非鉛安定剤(C)としての亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)を質量比(c2/c1)で3.5以上10以下含有している。これにより、可塑剤(B)などが均一に分散しているため、溶融した状態での粘度が均一であり、押出成形性に優れる。しかも、ゲル化促進剤などの低分子ポリマを含有していないため耐寒性に優れるばかりか、可塑剤(B)の含有量が比較的少ないため機械的特性に優れる。
【0063】
また、本実施形態に
使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物によれば、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、非鉛安定剤(C)を4質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。これにより、発泡や着色などによる押出外観の悪化を抑制し、押出外観を良好とすることができる。
【0064】
また、本実施形態に
使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物によれば、非鉛安定剤(C)は、β−ジケトン類化合物、酸化防止剤、多価アルコール、金属水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、これらの合計が非鉛安定剤(C)の50%以下であることが好ましい。これにより、押出成形性をさらに向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態に
使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物によれば、充填剤、着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤(D)をさらに含有し、前記添加剤(D)を10質量%以下含有することが好ましい。充填剤によれば、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の割合を低減することができるため、コストを低減することができる。また、着色剤によれば、絶縁層などの外観を適宜変更することができる。
【0066】
また、本実施形態に
使用するポリ塩化ビニル樹脂組成物によれば、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)を所定の質量比で添加しており、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の耐熱性及び内外滑性を調整しているため、粗練のみにより可塑剤(B)などを均一に分散させることができる。つまり、従来必要とされた本練を省略することが可能であり、製造工程を簡略化することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、
コネクタ圧接接続用絶縁電線は、上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物から構成される絶縁層を有する。これにより、機械的特性及び耐寒性に優れ、かつ押出外観が良好な
コネクタ圧接接続用絶縁電線を得ることができる。また、絶縁層は、機械的特性に優れるポリ塩化ビニル樹脂組成物から形成されるため、厚さを0.2mm以下としても、圧接接続の圧力により変形が生じにくい。つまり、本実施形態の絶縁電線は、コネクタからの抜けが抑制されており、導通不良が生じにくい。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の実施例について説明をする。本実施例では、ポリ塩化ビニル樹脂組成物を調整し、それを用いて絶縁電線を製造した。そして、得られた絶縁電線の耐寒性、押出外観、及び絶縁電線の圧接性を測定することにより、ポリ塩化ビニル樹脂組成物を評価した。これらの実施例は、本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0069】
以下の実施例及び比較例において用いた材料は次のとおりである。
【0070】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)として、次のものを用いた。
ポリ塩化ビニル樹脂:信越化学製「TK−1300」(平均重合度1300)
【0071】
可塑剤(B)として、次のものを用いた。
トリメット酸トリn−オクチル:花王製「N−08」
トリメット酸トリ−2−エチルヘキシル:花王製「T−08」
【0072】
非鉛安定剤(C)である亜鉛金属石鹸(c1)として、次のものを用いた。
ラウリン酸亜鉛:日東化成製「ZS−3」(亜鉛含有量14%)
ステアリン酸亜鉛:日東化成製「Zn−St」(亜鉛含有量10.7%)
【0073】
非鉛安定剤(C)であるハイドロタルサイト(c2)として、次のものを用いた。
ハイドロタルサイト:堺化学「HT−1」
【0074】
非鉛安定剤(C)であるβ−ジケトン類化合物として、次のものを用いた。
ジベンゾイルメタン(DBM):東京化成製
【0075】
非鉛安定剤(C)である酸化防止剤として、次のものを用いた。
フェノール系酸化防止剤:BASF製「1010」
【0076】
非鉛安定剤(C)である多価アルコールとして、次のものを用いた。
ジペンタエリスリトール:広栄化学工業製
【0077】
非鉛安定剤(C)である金属水和物として、次のものを用いた。
水酸化カルシウム:吉澤石灰工業製「カルミューメソックス」
【0078】
添加剤(D)として、次のものを用いた。
炭酸カルシウム:備北粉化工業製「ソフトン2200」
シリカ:日本アエロジル製「R972」
カラーマスターバッチ:大日精化製「MSシリーズ」
【0079】
(2)ポリ塩化ビニル樹脂組成物の調整
上記材料を用いて、実施例1〜5のポリ塩化ビニル樹脂組成物を調整した。調整条件を以下の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1〜5では、表1に示す調整条件によりポリ塩化ビニル樹脂組成物を調整した。具体的には、ポリ塩化ビニル樹脂に対して、可塑剤以外の材料を添加して、200L高速混合機(カワタ製)により60℃で混合することで、樹脂混合物とした。その後、樹脂混合物に可塑剤を添加し、ポリ塩化ビニル樹脂組成物として、樹脂温度を100℃まで上昇させてドライアップさせた。ドライアップさせたポリ塩化ビニル樹脂組成物を3Lニーダ(モリヤマ製)により600秒ほど粗練し、冷却機及び空冷造粒機(モリヤマ製)によりペレット成形物を得た。なお、混練条件としては、チャンバー温度130℃、ニーダのスクリュー回転数30rpm、樹脂排出温度170℃とした。
【0082】
また、上記材料を用いて、比較例1〜6のポリ塩化ビニル樹脂組成物を調整した。調整条件を以下の表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
比較例1及び比較例2では、ゲル化促進剤としてのポリメチルメタアクリレート(三菱レーヨン製、P−710)を添加した以外は、実施例1と同様に調整した。
【0085】
比較例3では、比較例1の混練条件を変更して、粗練に本練を追加した以外は、比較例1と同様に調整した。具体的には、粗練で得られた比較例1のポリ塩化ビニル樹脂組成物を、ミキシングロール(西村工機製8インチロール)により300秒ほど本練し、冷却機及び空冷造粒機(モリヤマ製)によりペレット成形物を得た。
【0086】
比較例4では、可塑剤(B)の含有量を24質量%よりも大きくした以外は、実施例1と同様に調整した。
【0087】
比較例5では、ハイドロタルサイト(c2)の亜鉛金属石鹸(c1)に対する質量比(c2/c1)を3.5未満となるように、亜鉛金属石鹸(c1)及びハイドロタルサイト(c2)の含有量を変更した以外は、実施例1と同様に調整した。
【0088】
比較例6では、非鉛安定剤(C)の含有量を4質量%未満とした以外は、実施例1と同様に調整した。
【0089】
(3)絶縁電線の製造
次に、上記で得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いて、絶縁電線を製造した。具体的には、導体としての錫メッキ導体(外径0.48mm、構成7/0.16のサイズ26AWG)を所定の線速で送り出しつつ、その外周に、絶縁層の厚さが0.15mmとなるように、50mmEXT押出機(大宮精機製)により上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物を押し出して、外径が0.78mmの絶縁電線を製造した。なお、本実施例では、導体の送り出す線速を400m/minとして、押出速度を400m/minとした。
【0090】
(4)評価方法
次に、上記で得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物、及びそれを用いた絶縁電線について、以下の方法により評価した。それぞれの評価方法について以下に説明をする。
【0091】
(耐寒性)
ポリ塩化ビニル樹脂組成物をミキシングロ−ルにてシート化し、0.5mmの厚さにプレスしたシートを準備して、そのシートの脆化温度を測定した。脆化温度の判定基準としては、UL規格(758)に尤度をもって合格する−15℃以下のものを「○」とした。
【0092】
(押出成形性)
押出成形性の評価として、樹脂組成物の押出速度の上限値を測定した。
【0093】
(押出外観)
得られた絶縁電線について、印刷インクの塗布性に問題がなく、手触り外観が良好で、1時間以上連続でのスパーク抜けやコブ不良が生じないものを「○」とした。なお、ヤケなどに起因する外観不良も押出外観の指標とした。
【0094】
(圧接性)
得られた絶縁電線を、CZコネクタ(1.5mmピッチ)に圧接接続をして、破れ、変形の発生がなく、引き抜き試験に何れも合格するものを「○」、何れか一方が不合格となるものを「×」とした。
【0095】
(5)評価結果
実施例1〜5、比較例1〜6の評価結果について、以下の表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
実施例1〜5では、何れも脆化温度が−15℃よりも低く、耐寒性に優れることが確認された。また、押出速度の上限値は、実施例1が500m/min、実施例2が400m/min、実施例3が400m/min、実施例4が400m/min、実施例5が400m/minであった。このため、押出速度を400m/minとして高速化した場合であっても、形成される絶縁層の押出外観が良好であり、押出成形性に優れていることが確認された。また、製造される絶縁電線は、絶縁層の機械的特性が高いため、破れや変形の発生がなく、圧接性に優れることが確認された。
【0098】
比較例1及び比較例2では、ゲル化促進剤としてPMMAを含有しているため、脆化温度が−15℃よりも高く、耐寒性に劣ることが確認された。また、形成される絶縁層の押出外観が不良であることが確認された。比較例1及び比較例2では、PMMAを含有して押出成形性が改善されているものの、押出速度の上限値は、比較例1が150m/min、比較例2が150m/minであり、押出成形性が不十分であることが確認された。このため、押出速度を400m/minに高速化した場合に、形成される絶縁層の押出外観が悪化することが確認された。なお、所定の機械的特性を有するため、圧接性は良好であることが確認された。
【0099】
比較例3では、比較例1のポリ塩化ビニル樹脂組成物に本練を加えることにより、耐寒性は改善されたものの、押出外観までは改善することはできなかった。比較例3では、押出速度の上限値が250m/minであることが確認された。
【0100】
比較例4では、可塑剤の含有量が多かったため、得られる絶縁層の機械的特性が劣っており、圧接性が不良であることが確認された。比較例4では、押出速度の上限値が400m/minであることが確認された。
【0101】
比較例5では、ハイドロタルサイト(c2)の亜鉛金属石鹸(c1)に対する質量比(c2/c1)を3.5未満としており、亜鉛金属石鹸(c1)の含有量が多かった。これにより、比較例5では、亜鉛金属石鹸(c1)により外滑性が過剰となり、ポリ塩化ビニル樹脂組成物が均一にゲル化しないため、押出成形性が低下し、形成される絶縁層の押出外観が不良となったものと考えられる。比較例5では、押出速度の上限値が100m/minであることが確認された。
【0102】
比較例6では、非鉛安定剤(C)の含有量が少なかったため、押出成形性が低下し、形成される絶縁層の押出外観が不良となったものと考えられる。比較例6では、押出速度の上限値が200m/minであることが確認された。
【0103】
このように、本発明によれば、可塑剤(B)及び非鉛安定剤(C)を所定の含有量とするとともに、亜鉛金属石鹸(c1)とハイドロタルサイト(c2)との質量比を所定の数値範囲とす
るポリ塩化ビニル樹脂組成
物から形成される絶縁層は、押出外観が良好であり、機械的特性及び耐寒性に優れる。そして、この絶縁層を有する絶縁電線は、圧接接続された場合であっても、変形しにくいため、抜けによる導通不良が生じにくい。