(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
100℃以上250℃以下の融点を有する低融点金属又は低融点合金からなる電極板の少なくとも一方の主面の一辺近傍に、該一辺の長さ以上の長さを有し、上記電極板の融点よりも高い融点を有する金属又は合金からなる保持部材が面接触により取り付けられ、
上記保持部材は、上記電極板を保持する電極板保持部材と、上記電極板と上記電極板保持部材とを電気的に接続し、板状に形成された導電接続部材とを有し、
上記電極板と上記電極板保持部材とが接続された接続部分の側面を2枚の導電接続部材で挟み込み、上記電極板と上記電極板保持部材とが上記導電接続部材を介して電気的に接続されていることを特徴とする陽極。
100℃以上250℃以下の融点を有する低融点金属又は低融点合金を鋳型の中で冷却固化し、固化した低融点金属又は低融点合金を上記鋳型から取出して電極板を得て、得られた上記電極板の少なくとも一方の主面の一辺近傍に、該一辺の長さ以上の長さを有し、上記電極板の融点よりも高い融点を有する金属又は合金からなる保持部材を面接触するように取り付ける陽極の製造方法において、
上記鋳型中の低融点金属又は低融点合金が溶融した状態で、上記一辺近傍に棒を差し込み、差し込んだ該棒部分が貫通孔となるように上記電極板を形成し、
上記保持部材を構成し、上記電極板を保持する電極板保持部材の端部に貫通孔を形成し、
上記電極板及び上記電極板保持部材の貫通孔に対向する位置に貫通孔が形成された板状であって、上記保持部材を構成し、上記電極板と上記電極板保持部材とを電気的に接続する2枚の導電接続部材で上記電極板と上記電極板保持部材とが接続される接続部分の側面を挟み、
上記導電接続部材で上記電極板保持部材と上記電極板を電気的に接続することを特徴とする陽極の製造方法。
【背景技術】
【0002】
電解とは、電気分解の略語であり、陽極と陰極を対にして電解液又は融解塩に浸漬させた状態で両者に直流電流を流し、電極面に化学変化を起こさせて、物質を分解・精製することである。
【0003】
例えば、金属の湿式精錬や金属メッキは、金属を陽極として電圧をかけることで陰極表面に陽極で分解した金属を純度の高い状態で析出させたり、被膜を形成させたりする電解手法の一例である。
【0004】
一方、電解液を適当なpH条件に調整することにより、陽極で分解した金属を電解液中に溶解させて陰極に移動させる際に、陰極に析出させる前に水酸化物として沈殿させることで単離させることもできる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
電解で使用される陽極は、特許文献2に示されているように多くの場合、
図10に示すような陽極100である。陽極100は、上部に突起101を有する一枚の板状に成型され、その突起101を給電部102に引っかける又は吊り下げる等により給電部102と電気的に接続されている。
【0006】
このような陽極100を用いた電解では、陽極100の突起101と給電部102の間で電気抵抗による発熱現象が発生する。陽極100では、この発熱がエネルギーロスに繋がるため極力抑えられている。しかしながら、全く発熱がしないようにすることはできない。
【0007】
また、この発熱現象は、銅等の一般的な金属で形成されている陽極を軟化や溶融するほど温度上昇するものではない。しかしながら、スズ又はインジウム等のように融点の低い金属又は合金を陽極100とした場合には、大きな電圧や電流を流すとその発熱により軟化し変形したり、最も高温となる突起101と給電部102との接点で突起101が溶融して、陽極100自身を支えることができず、電解槽内に脱落してしまう問題が生じる。
【0008】
このような問題に対して、
図10に示すような通常の一体型の形状の陽極100では、突起101と給電部102の接触面積が非常に小さいため、大きな電圧や電流を流した場合の発熱を低く抑えることができない。このため、陽極100の脱落を防ぐことは困難となる。したがって、陽極100では、脱落までの短時間で電解処理を終了させなければならず作業性が悪くなったり、また電圧や電流を低く抑えて電解を行うしか方法がなく、金属の析出効率が悪くなる。
【0009】
その他、特許文献3には、
図11に示すように陽極用に電極板103の上部2カ所に穴104を形成し、導電接続治具105を通して給電用の金属棒106に吊り下げ、金属棒106と給電部107とを電気的に接続する方法が開示されている。また、特許文献4には、
図12に示すように電極板108にリボン状の金属吊り手109を2カ所に取り付けて給電用の金属棒110に吊り下げ、金属棒110と給電部111とを電気的に接続する方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載されている方法では、導電接続治具105と電極板103がそれぞれの穴で点接触しかしていないため、大きな電圧や電流を流した場合の接触部の温度上昇を抑えることができず、スズやインジウム等の低融点金属を陽極用の電極板103に用いた場合は軟化、溶融し脱落してしまう。
【0011】
また、特許文献4に記載された方法は、陰極側の電極として多く用いられている方法であるが、このような構造は陽極でも使用されている。特許文献4に記載されている方法では、
図12に示すように金属吊り手109と電極板108をリベットにより2か所で接合している。この金属吊り手109は金属棒110としっかり接触させるため、加工性の良い薄い金属が使用されており、容易に変形しやすいためリベットの接合においても変形を生じたりして十分面接合がされているとは言い難い。また吊り手109の使用目的から、電極板108を十分保持できれば必要以上に幅の広い金属を使用しないのが一般的である。この特許文献4に記載された方法では、温度上昇に対して特許文献3に記載の方法の様な点接触よりは多少緩和されるものの、スズやインジウム等の低融点金属又は低融点合金の電極板に対しては効果が十分ではなく、大きな電圧や電流を流した場合には軟化を生じ、金属吊り手109と電極板108の接合部近傍に上辺に保持部がない場所などの自重が加わり、自重による変形を生じ始めて脱落してしまう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を適用した陽極及びその製造について図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0020】
<1.陽極>
本発明を適用した
図1及び
図2に示す陽極1は、電解に用いられる陽極であり、電解装置の給電部に引っかけ又は吊り下げる方式のものである。陽極1は、電極板2の両主面の一辺近傍に位置する保持部材取付面2aに電解の際に電極板2を保持する保持部材3が取り付けられている。
【0021】
電極板2は、100℃以上250℃以下の融点を有する低融点金属又は低融点合金からなり、例えば正方形又は長方形の板状に形成されている。低融点金属又は低融点合金としては、スズ、インジウム、又はインジウムとスズの合金(例えばIn−9.6wt%Sn)、インジウムとガリウムの合金(例えばIn−6.3wt%Ga)等を挙げることができる。
【0022】
電極板2の厚みは、電極板2自体の重さによって保持部材3から脱落することを防止することや電解が進むにつれて陽極1の厚みが薄くなること等から適宜決定される。例えば、電極板2の厚みとしては、2mm以上15mm以下とすることが好ましい。2mm以下の厚さでは、薄くて取扱い時に破断させてしまう場合があり、また電解の陽極1としては容易に孔食されてしまうため好ましくない。一方、厚さが15mm以上になると、電極板2の重量が重くなるため脱落しやすく、取扱いが困難になる上、電解が進行して陽極1が薄くなると電極間距離が広くなり電圧上昇が顕著になるため好ましくない。
【0023】
電極板2を形成する低融点金属又は低融点合金は、純度が高いほど、また温度が高くなるほど柔らかくなる特徴がある。このため、低融点金属又は低融点合金を板状に成型した電極板2は、電解装置に取り付けた際に上方に位置する保持部材取付面2aに接触面積の大きな保持部材3が取り付けられ、その保持部材3により電解液中で吊された状態が維持される。
【0024】
保持部材3は、電極板2の保持部材取付面2aに取り付けられ、電解の際に電解液中で電極板2を保持し、かつ電極板2と電解装置に設けられた給電部とを電気的に接続する。
【0025】
保持部材3は、電極板2の融点よりも高い融点を有し、電気伝導度が高い金属又は合金からなる。電極板2の融点よりも高い融点を有する金属又は合金を用いることで仮に電極板2との接触部分で抵抗が高くなり温度が上昇しても保持部材3が電極板2よりも先に溶融して電極板2が脱落することを防止できる。保持部材3を形成する金属又は合金としては、銀、銅、金、又はこれらの合金等を挙げることができ、その中でもコスト的に安価な銅を用いることが好ましい。
【0026】
また、保持部材3は、融点が高く電気伝導度の高い金属又は合金を心材とし、電解液による腐食が生じないイオン化傾向の低い金属により被覆したものを使用することが好ましい。被覆用の金属としては、心材を腐食等による不導体被膜形成から防ぐために白金等の貴金属やチタン等が挙げられ、その中でもコスト的に安価なチタンを用いることが好ましい。電解液による耐食性の要求が高くない場合には、電気導電性が高く、耐摩耗性のある金属を選定するのがより好ましい。
【0027】
心材の被覆は、溶接加工やメッキ、クラッド等の一般的な方法で行うことができる。腐食のおそれがある箇所のみに部分的に被覆することでも問題ない。もし電解液による腐食等の心配が全くない場合には、被覆していない心材のみを保持部材3としてもよい。
【0028】
保持部材3の形状としては、電極板2の少なくとも一方の主面の一辺近傍、即ち保持部材取付面2aと面接触するように取り付けられ、電極板2を保持し、電極板2と給電部とを電気的に接続できるものであれば形状は特に限定されない。
【0029】
保持部材3としては、例えば、
図1及び
図2に示すようなものを挙げることができる。
図1に示す保持部材3は、電極板2と導電接続部材6を介して電気的に接続され、電極板2と給電部とを電気的に接続し、電極板2を電解液中で保持し、電極板保持部材4と、電極板2と電極板保持部材4とを電気的に接続する導電接続部材6と、導電接続部材6を電極板2及び電極板保持部材4に取り付けるボルト5とを有する。
【0030】
電極板保持部材4は、下方側の端部が電極板2と導電接続部材6を介して接続され、電極板2を給電部に引っかけるか又は吊すために、上方側の端部は水平方向に腕を張出した構造となっている。この張り出した部分は、給電部と電気的に接続される給電接続部4aとなる。給電接続部4aは、横方向の棒状でもよく板状に形成されていてもよい。給電接続部4aの形状としては、好ましくは給電部との接触面積を十分に確保できる構造であって、陽極と陰極を交互に設置した際に(
図8参照)、陽極と陰極の電極間距離が広くなりすぎないものがよい。
【0031】
導電接続部材6は、板状に形成された電極板2の保持部材取付面2a全面に少なくとも接するように電極板2の保持部材取付面2aの長さ以上の長さ及びボルト5で電極板2と電極板保持部材4との接続部分を一体に接続することができる十分な幅を有する板状に形成されている。導電接続部材6には、導電性の良い金属を用いることが好ましい。この導電接続部材6が電極板2に面接触により接続されていることによって、電極板2と導電接続部材6との接続部分において電気抵抗により温度上昇しても熱が拡散され電極板2の溶融を防止でき、大きな電圧や電流を流した場合であっても電極板2の溶融を防止できる。また、仮に電気抵抗により温度が上昇して多少軟化が生じても電極板2の保持部材取付面2a全体と導電接続部材6が接続されているため、電極板2の脱落を防止できる。
【0032】
電極板2と保持部材3の接続方法は、
図1及び
図2に示すように、電極板2に電極板保持部材4を突き合せた状態で、電極板2と電極板保持部材4の接続部分を側面、即ち電極板2の両主面側から2枚の導電接続部材6で挟み込み、電極板2と2枚の導電接続部材6、及び電極板保持部材4と2枚の導電接続部材6のそれぞれにボルト5を貫通させ、ボルト5と図示しないナットとを締結する。この際、2枚の導電接続部材6の内の1枚の貫通孔9をボルト5に対応したネジ穴とし、ナットを用いずに電極板2と電極板保持部材4とを導電接続部材6とボルト5を用いて締結してもよい。これにより、電極板2と、電極板保持部材4及び2枚の導電接続部材6を有する保持部材3とが一体となり、ボルト5と導電接続部材6とによって電極板2と電極板保持部材4とを電気的に接続する。電極板2、電極板保持部材4及び導電接続部材6には、
図2に示すように、予めボルト5を通す貫通孔7、8、9を形成しておく。このような接続方法で接続する場合には、
図1に示すように、電極板2及び電極板保持部材4のそれぞれに4つずつボルト5を取り付けた例を示したが、このことに限定されず、複数のボルト5、好ましくは3つ以上のボルト5で接続することが好ましく、特に好ましくは保持部材3に電極板2をしっかりと固定しかつ作業の煩雑さを避けるため3つ又は4つとすることが特に好ましい。ボルト5の間隔は、左右対称に十分広がり等間隔で有ればよい。
【0033】
また、電極板2は、
図3に示すように、ボルト5を通す貫通孔7を溝部7aとしたものであってもよい。溝部7aは、電極板2の電極板保持部材4と相対する外周部に設けられ、電極板保持部材4に相対する上端部側が開口し、ボルト5の直径以上の幅で切り込んで溝状に形成されている。溝部7aの形状は、
図3に示したU字形状の溝部に限定されるわけでは無く、例えば三角形状や四角形状の溝にしても良く、電極板2の溝部7aにボルト5を貫通させて電極板保持部材4に取り付けることができればいずれの形状であってもよい。
【0034】
図3に示す電極板2を用いた場合であっても、
図1に示す場合と同様に電極板2と
保持部材3とを接続することができる。突き合わせた電極板2と電極板保持部材4の両主面を2枚の導電接続部材6で挟み込み、電極板2の溝部7aと2枚の導電接続部材6、及び電極板保持部材4と2枚の導電接続部材6のそれぞれにボルト5を貫通させ、ボルト5と図示しないナットとを締結する。2枚の導電接続部材6で電極板2を挟み込むことによって、溝状に形成した溝部7aであっても電極板保持部材4から電極板2が落下せずに取り付けることができる。
【0035】
図3に示す電極板2では、ボルト5が貫通する部分を貫通孔とせず、溝状の溝部7aとすることにより、電極板2を電極板保持部材4から容易に取り付け、取り外しができる。例えば、連続操業時に電極板2を交換する際、ボルト5を外して電極板2及び電極板保持部材4から2枚の導電接続部材6を完全に分離させることなく、ボルト5を緩めるだけで使用済みの電極板2を保持部材3から容易に外すことができる。そして、電極板2を取り外した保持部材3の状態のまま、新規の電極板2を導電接続部材6との間にボルト5が溝部7aに嵌るように差し込み、ボルト5を締めることで容易に電極板2を固定することができる。このように、溝部7aが形成された電極板2は、取り付け、取り外しが容易であるため、作業効率を向上させることができる。
【0036】
図1に示す保持部材3では、電極板2と電極板保持部材4とを2枚の導電接続部材6で挟み込み、ボルト5及び導電接続部材6で接続状態を維持することで電極板2を電解液中で保持する。また、保持部材3は、電極板2と電極板保持部材4とを導電接続部材6を介して電気的に接続し、電極板2と給電接続部4aが引っかかっている給電部とを電気的に接続する。
【0037】
保持部材3としては、
図1に示すものに限定されず、より簡便な方法として、例えばバネ等を用いた挟み込み力を利用してワンタッチで着脱する方法を採用してもよい。ただし、この場合は、
図1に示す保持部材3より電極板2を挟み込む際に電極板2としっかり面接触できるような設計の工夫が必要であったり、可動部が多くなるため、電解液からの腐食対策がより重要となりメンテナンス等が煩雑になる。このため、長期間使用する場合は、より構造が簡単な
図1に示すボルト5を使った保持部材3が好ましい。なお、保持部材3としては、電極板2を保持でき、電極板2と給電部とを電気的に接続できるものであれば、電極板2の一方の主面の保持部材取付面2aにのみ取付けるものであってもよい。
【0038】
以上のような構成からなる陽極1は、電極板2が低融点金属又は低融点合金で形成されていても電極板2と保持部材3、例えば、
図1中の導電接続部材6とが面接触しているため、接続部分で抵抗加熱が生じても熱が拡散し温度上昇が抑制されて電極板2の溶融を防止でき、また仮に抵抗加熱により多少軟化が生じても電極板2の保持部材取付面2a全体を保持部材3で保持することにより電極板2の脱落を防止でき、長時間の電解をすることができる。陽極1では、電極板2と保持部材3とが面接触しているため、電極板2に対して大きな電圧や電流を流した場合であっても電極板2が脱落することなく、長時間の電解をすることができる。また、陽極1は、電極板2の厚みを厚くしても、例えば8mm以上の厚みであっても保持部材3から落下せずに保持されるため、長時間の電解をすることができる。
【0039】
<2.陽極の製造方法>
陽極1の製造方法については、先ず電極板2の製造方法について説明する。電極板2は、電極板2の形状に合わせた鋳型を用いて鋳造により製造する。
【0040】
具体的に、
図1及び
図2に示す陽極1に用いられる電極板2は、
図4及び
図5に示すような、例えば十分な厚みのグラファイトカーボン製の板に電極板2の大きさに相当する凹部10aを形成した鋳型10を用いて形成する。グラファイトカーボン製の鋳型10を用いることで、加熱する際に熱が凹部10aに入れた金属に伝わりやすいため金属を溶かしやすく、また冷却後に鋳型10から固まった金属を取り出しやすくなる。
【0041】
鋳型10には、グラファイトカーボンの他に、耐熱性の点からポリテトラフルオロエチレンや高融点金属のものを使用することができる。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンの場合は、熱伝導率が悪いため金属を溶融させるまでに時間がかかってしまい好ましくない。高融点金属の場合は、溶融した低融点金属又は低融点合金との濡れ性が高くなり、冷却固化して取り出す際に型から剥がしづらくなってしまうため好ましくない。したがって、熱伝導率が良くかつ熱膨張による変形が少なく剥離性のよい材質としてグラファイトカーボンが好ましい。鋳型10の寸法は、電極板2の厚みや広さの寸法により決定される。鋳型10の凹部10aには、冷却固化した電極板2をより取り出しやすくするために、内壁が底面から開口に向って広がるように角度を設けても良い。
【0042】
上述の鋳型10を用いて鋳造の際には、形成される電極板2の保持部材3を取り付ける保持部材取付面2aに保持部材3を取り付けるためのボルト5を通す貫通孔7を形成する。例えば、貫通孔7の形成方法としては、
図4及び
図5に示すように、低融点金属又は低融点合金が鋳型10内で溶融している間に、鋳型10の開口側からボルト5と同じ直径を有する棒11を差し込むことで、差し込んだ棒11部分が貫通孔7となるようにする。溶融した低融点金属又は低融点合金中で棒11を固定するため、鋳型10の幅とほぼ同じ大きさで板状に形成され、棒11を通すための通し孔12を形成した固定板13を用いる。
【0043】
固定板13は、鋳型10に対して平行でかつ鋳型10上で浮いたりすることなく鋳型10の開口部に被さるようにする。また、固定板13は、鋳造を繰り返す度に鋳型10上に適切に被さるように位置精度がしっかり保たれる構造とする。このため、固定板13には、
図5に示すように、L字状となるように一方の短辺の底面に、鋳型10の厚さと同じ高さを有し、固定板13の短辺と同じ長さを有する精度維持部材14が取り付けられている。
【0044】
この精度維持部材14は、固定板13を鋳型10に被せた際に鋳型10の外側の面に沿ってスライドするように嵌め合わされる。精度維持部材14は、鋳型10の高さと同じ高さに形成されているため固定板13の高さの精度を維持でき、また長さが固定板13の長さと同じに形成されているため、端部14aを鋳型10の角部10bに合わせることで棒11を通す通し孔12の位置の精度を維持することができる。精度維持部材14は、高い位置精度が維持できれば上述の構造に限定されるものではない。
【0045】
貫通孔7を形成する棒11は、耐熱性がありかつ低融点金属又は低融点合金を凝固させた後であっても取り外しやすいように、金属との濡れ性が悪いものを用いることが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレンからなる棒11を用いることが好ましい。
【0046】
棒11の大きさは、鋳造する電極板2を貫通させるのに十分な長さとボルト5の直径に相当する直径を有する必要がある。棒11の数や棒11を差し込む間隔は、ボルト5の数及び位置に合わせる。
【0047】
このような鋳型10等を用いて電極板2を製造する場合には、低融点金属又は低融点合金を鋳型10内で融点以上まで加熱し、低融点金属又は低融点合金が十分に溶融して鋳型10内に広がった状態で棒11を通し孔12に通した状態の固定板13を棒11が貫通孔7を形成する部分と対向するように鋳型10に被せて、溶融した金属中に棒11を差し込む。そして、棒11を差し込んだ状態で静置して金属を冷却固化させる。そして、棒11を通し孔12から抜き取り、固化した金属を鋳型10から外して貫通孔7が形成された電極板2を得る。この電極板2の製造方法では、棒11を差し込むまでの間、低融点金属又は低融点合金の溶融状態を維持するため、鋳型10を加熱することが好ましい。
【0048】
そして、電極板保持部材4の導電接続部材6と接続される端部に貫通孔8を形成し、導電接続部材6の電極板2の貫通孔7及び電極板保持部材4の貫通孔8と対向する位置にボルト5を通す貫通孔9を形成する。貫通孔8、9の形成方法は、例えば一般的なドリルによる切削加工が挙げられる。
【0049】
次に、以上のようにして得られた電極板2の保持部材取付面2aに保持部材3を取り付けて陽極1を製造する。電極板2と、電極板保持部材4とを突き合わせ、突き合わせた部分を両側から2枚の導電接続部材6で挟み込み、電極板2、電極板保持部材4及び導電接続部材6の貫通孔7、8、9にボルト5を貫通させて、ボルト5とナットを締結することで、電極板2と保持部材3とが一体となり、陽極1が得られる。
【0050】
上述の陽極1の製造方法は、保持部材3が
図1に示すようなものである場合を説明したが、保持部材3の構造によってそれぞれに適した取り付け方法で行うようにする。
【0051】
上述では、貫通孔7を有する電極板2を使用した陽極1の製造方法を説明したが、次に、溝部7aを有する電極板2を使用した陽極1の製造方法について説明する。
【0052】
溝部7aを有する電極板2は、
図6に示す鋳型15を用いて製造することができる。鋳型15は、十分な厚みのグラファイトカーボン製の板に電極板2の大きさに相当する凹部15aが形成され、溝部7aに相当する位置に内壁から突出した凸部15bが形成されている。鋳型15の凹部15aには、冷却固化した電極板2をより取り出しやすくするために、内壁が底面から開口に向って広がるように角度を設けても良い。
【0053】
電極板2を製造する際には、低融点金属又は低融点合金を鋳型15内で融点以上まで加熱し、低融点金属又は低融点合金を十分に溶融して鋳型15内に広げた後、金属を冷却固化させる。そして、固化した金属を鋳型15から外して溝部7aが形成された電極板2を得る。
【0054】
この電極板2の製造方法では、上述のように貫通孔7を形成する必要がないため、鋳型15内で電極材料の低融点金属又は低融点合金を溶融保持する必要がないことから、別の容器で低融点金属又は低融点合金を溶融した後、鋳型15の凹部15aに流し込んで電極板2を得ても良い。
【0055】
溝部7aが形成された電極板2は、鋳型15に溝部7aを形成する
凸部15bが形成されているため、鋳型15内で低融点金属又は低融点合金を溶融させ、冷却固化させる、又は溶融した低融点金属又は低融点合金を流し込み、金属を冷却固化させるだけで製造することができる。これにより、溝部7aが形成された電極板2は、貫通孔7が形成された電極板2よりも容易に且つ効率的に製造することができる。
【0056】
溝部7aを形成した電極板2を用いる場合は、先に電極
板保持部材4及び導電接続部材6の貫通孔8、9にボルト5を貫通させて、ボルト5とナットを緩めに締結しておき、その後、電極板2の溝部7aにボルト5が嵌るように差し込んだ後にボルト5とナットをしっかりと締め付けて、電極板2と保持部材3とを一体化した陽極1を得ても良い。
【0057】
以上の陽極1の製造方法では、電極板2に100℃以上250℃以下の低融点を有する低融点金属又は低融点合金を用いることで容易に溶融でき、溶融した低融点金属又は低融点合金を鋳型で成型することで電極板2が得られ、得られた電極板2の保持部材取付面2aに保持部材3、例えば
図1中の導電接続部材6を面接触させて取り付けるだけで、電極板2と保持部材3との間の接続部分で抵抗による温度上昇が抑制され、電極板2が溶融することなく、また抵抗加熱により多少軟化が生じても脱落が防止された陽極1を効率良く製造することができる。また、この陽極1の製造方法では、大きな電圧や電流を流した場合であっても保持部材3を面接触させて取り付けることにより電気抵抗による温度上昇が抑制され、電極板2が溶融せず、脱落が防止された陽極1を効率良く製造することができる。
【0058】
また、陽極1の製造方法では、
図1に示す陽極1を
図2に示す構成で製造する場合、
図4及び
図5に示すように、電極板2のボルト5を通す貫通孔7を形成する際に、固定板13で位置決めされた棒11を溶融した低融点金属又は低融点合金に差し込むだけで貫通孔7が形成された電極板2を容易に製造することができる。これにより、
図1に示す陽極1を
図2に示す構成で製造する場合には、貫通孔7を有する電極板2を用いることで、この電極板2に導電接続部材6をボルト5で接続するだけで陽極を作製できるため、陽極1を効率よく製造することができる。
【0059】
図3に示す構成の陽極1を製造する場合には、
図6に示すような鋳型15に溶融した低融点金属又は低融点合金を流し込むだけで、溝部7aが形成された電極板2を得ることができるため、より容易に電極板2を製造することができる。また、
図3に示す構成で陽極1を製造する場合には、導電接続部材6を電極板保持部材4から完全に分離させることなく、ボルト5を緩めた状態で電極板2を2枚の導電接続部材6の間にボルト5が溝部7aに入り込むように差し込み、その後ボルト5でしっかり締結することにより電極板2と電極板保持部材4とを接続することができる。溝部7aが形成された電極板2を用いた場合には、特に使用済みの電極板2を新規の電極板2に交換する際に容易に交換できるため、陽極1の製造をより効率よく行うことができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
実施例1では、
図2に示す貫通孔が形成された電極板を用いた陽極と同じ構成で
図1に示す陽極を作製した。
【0062】
厚み4mm、縦横27cm四方のサイズのインジウム電極板を、鋳型(
図5参照)を用いて溶解鋳造にて作製した。
【0063】
鋳型は、厚み30mm、縦横30cm四方のカーボングラファイトに、深さ15mmで縦横27cmの凹部を付けて製作した。固定板は、縦65mm、横35cm、高さ35mmのカーボングラファイトの塊から縦60mm、横30mm、高さ30mmの板状となるように削り取って作製した。固定板に取り付ける精度維持部材の寸法d(
図4参照)は、カーボングラファイトの厚みと同じ30mmとし、長さは固定板の横30mmと同じにした。固定板には、直径5mmの通し孔を4つ等間隔に空けた。ここで、通し孔の位置は、電極板の上辺から15mmの距離の線上に6.8cm間隔となるように配置した。また、ボルトの通し孔を形成するための棒は、直径5mm長さ3cmのテフロン製のものを4本準備した。
【0064】
以上のようにして作製した鋳型等を使用して次のようにしてインジウム電極板を鋳造した。アズワン社製の大型ホットプレート(HP−A2234M、30cm×30cm)に作製した鋳型を載せ、その上に2000gのインジウム金属を載せた。この状態でホットプレートを約300℃まで加熱し保持した。インジウム金属が完全に溶解したところで、固定板に取り付けた精度維持部材の端部を鋳型の一方の隅に合わせて載せて4つの通し孔にテフロン製の棒を奥まで差し込んでから冷却を行った。インジウム金属が室温まで冷めたのちにテフロン製の棒を抜き、固定板を外してから鋳型をひっくり返した。固化したインジウム金属は鋳型から速やかに剥離し取り出すことができた。得られたインジウム電極板の厚みは、約4mmであった。
【0065】
次に、インジウム電極板を次のようにして製作された保持部材に取り付けた。保持部材としては、
図1に示す保持部材と同じ形状の銅材であり、上辺の長さが40cmで下辺を27cmにしぼった形状に成型した電極板保持部材と導電接続部材を準備し、表面をチタンで被膜した。電極板保持部材の下辺から上方に15mmの距離の線上に中心同士が6.8cm間隔となるように5mmのボルトを通す通し孔を4つあけた。このような保持部材とインジウム電極板の通し孔にボルトを通し、ボルトとナットを用いて4か所でつなぎ合わせた。インジウム電極板と保持部材が一体となった陽極の上から下までの長さは40cmであった。
【0066】
以上のようにして作製した陽極を用いて電解を行った。電解装置20には、
図7に示す装置を用いた。電解液21は、1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液100Lを準備し、これに硝酸を加えてpHを4.0として作製した。これを液分散板22を設けた電解槽23に入れて電解液21を25℃に保持した。さらに極中心間距離が2.0cmとなるように陽極24を4枚、陰極25を5枚、
図8に示すように配置し、陽極24と陰極25を導線26の2芯VVケーブル(JIS C 3342許容電流200A、公称断面積100mm
2)を用いて繋ぎ、整流器と結線した。
【0067】
電解装置20には、電解槽23に隣接して設けた調整槽27にpH4.0の1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液が入っている。調整槽27は、循環ポンプ28によって電解槽23と接続され、電解液21を循環させる。調整槽27は、電解液21を攪拌する攪拌棒29、pHを測定するpH電極30、電解液21の温度を制御及び維持するための温調ヒーター31及び冷却器32を備える。
【0068】
このような構成の電解装置20において電流密度が15A/dm
2となるよう電流を維持し電解を行った。
【0069】
電解中、インジウム電極板と導電接続部材との接点温度は50℃から80℃の間を推移し、温度上昇によるインジウム電極板の変形は見られなかった。実施例1では、電解により電解液には水酸化インジウムを連続して6時間発生させることができ、得られたスラリーを固液分離することができた。
【0070】
<実施例2>
実施例2では、
図3に示す溝部が形成された電極板を用いた陽極と同じ構成で
図1に示す陽極を作製した。
【0071】
厚み8mm、縦349mm、横260mmのサイズのインジウム電極板を、鋳型(
図6参照)を用いて溶解鋳造にて作製した。
【0072】
鋳型は、厚み30mm、縦400mm、横300mmのカーボングラファイトの内側に、深さ15mmで底部が縦349mm、横260mmの凹部を付けて製作した。より詳細には、深さ8mmの位置で縦355mm、横266mmとなるように鋳型内壁に傾斜を付けた。また、鋳型には、一方の短辺から突出する凸部が形成されている。その凸部は、鋳型の凹部の底位置で幅14mm、長さ17mm、深さ8mmの位置では幅8mm、長さ14mmとなる様な角度を持った形状である。凸部は、3つ等間隔で設けた。その凸部は、鋳型短辺に接続していないもう片方の端部を円弧状にしてU字形状に形成した。
【0073】
そして、アズワン社製大型ホットプレート(HP−A2234M、30cm×30cm)に2Lステンレス鍋を乗せその上に5000gのインジウム金属を入れた。この状態でホットプレートを約300℃まで加熱し保持し、インジウム金属を完全に溶解した。この溶融インジウムを前述の鋳型に流し入れた。その後15分間の室温静置による冷却で固化させた後、鋳型をひっくり返した。固化したインジウム金属は鋳型から速やかに剥離し取り出すことができた。電極板の一辺には3つの溝部が問題なく形成されており、厚み8mm、縦349mm、横260mmのサイズのインジウム電極板が得られた。
【0074】
保持部材への取り付けは、取り付けボルトが4つから3つに減った以外は実施例1と同じ方法で行った。電解も実施例1と同様の方法にて行った。
【0075】
実施例2においては、電解により水酸化インジウムを12時間発生させることができ、得られたスラリーを固液分離することができた。
【0076】
<実施例3>
実施例3では、実施例2においてU字状に形成した溝部を三角形のV字状にした電極板を用いた陽極を作製した。それ以外の条件は実施例2と同様に行った。
【0077】
実施例3においても、電解により水酸化インジウムを12時間発生させることができ、得られたスラリーを固液分離することができた。
【0078】
<比較例>
比較例は、
図9に示すような、幅27cm、長さ40cm、厚み4mmの陽極40の上方に横方向にそれぞれ6.5cm左右に張り出した部分40aを有し、その張り出した部分40aを含む全長幅が40cmとなる形状のインジウム金属からなる陽極40を成型した。この陽極40の張り出し部分40aを給電部41に引っかけて実施例1と同じ条件で電解を行った。
【0079】
電解の開始直後から、陽極40の突起40aと給電部41との接点付近の温度が徐々に上昇し始め、30分後に150℃に達する直前でインジウムが軟化溶融し陽極40が落下してしまい、この時点で電解を終了せざるを得なかった。
【0080】
以上の実施例及び比較例から、インジウムのような溶融温度が低いものであって、実施例1〜3のように電極板と保持部材が面接触している場合には電極板の溶融防止でき、長時間電解が可能であることがわかる。
【0081】
一方、比較例のように、電極板と給電部とが狭い面積で接している場合にはインジウムのような融点が低いものは溶融し、電解時間が短くなり、十分に金属を析出させることができないことがわかる。