(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、
導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物を含む被処理体を準備する工程と、
(2)前記被処理体を、一酸化炭素ガスおよびアルミニウム源から供給されるアルミニウム蒸気の存在下に、前記アルミニウム源に接触しない状態で配置し、還元性雰囲気下で、前記被処理体を1080℃〜1450℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0024】
ここで、本願において、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al
2O
3(以下「C12A7」ともいう)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称を意味する。C12A7の同等の同型化合物としては、12SrO・7Al
2O
3がある。
【0025】
また、本願において、「導電性マイエナイト化合物」とは、ケージ中に含まれる「フリー酸素イオン」の一部もしくは全てが電子で置換された、電子密度が1.0×10
18cm
−3以上のマイエナイト化合物を意味する。また、電子密度が3.0×10
20cm
−3以上のマイエナイト化合物を、特に、「高電子密度の導電性マイエナイト化合物」と称する。なお、全てのフリー酸素イオンが電子で置換されたときの電子密度は、2.3×10
21cm
−3である。
【0026】
従って、「マイエナイト化合物」には、「導電性マイエナイト化合物」、「高電子密度の導電性マイエナイト化合物」、および「非導電性マイエナイト化合物」が含まれる。
【0027】
本発明では、製造される「導電性マイエナイト化合物」の電子密度は、3.0×10
20cm
−3以上であり、蓋付きカーボン容器を用いた従来方法1に比べて、有意に大きな電子密度を有する「高電子密度の導電性マイエナイト化合物」を得ることができる。本発明において製造される導電性マイエナイト化合物の電子密度は、5.0×10
20cm
−3以上であることが好ましく、7.0×10
20cm
−3以上であることがより好ましく、1.0×10
21cm
−3以上であることがさらに好ましい。
【0028】
なお、一般に、導電性マイエナイト化合物の電子密度は、マイエナイト化合物の電子密度により、2つの方法で測定される。電子密度は、1.0×10
18cm
−3〜3.0×10
20cm
−3未満の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルの2.8eV(波長443nm)の吸光度(クベルカムンク変換値)から算出される。この方法は、電子密度とクベルカムンク変換値が比例関係になることを利用している。以下、検量線の作成方法について説明する。
【0029】
電子密度の異なる試料を4点作成しておき、それぞれの試料の電子密度を、電子スピン共鳴(ESR)のシグナル強度から求めておく。ESRで測定できる電子密度は、1.0×10
14cm
−3〜1.0×10
19cm
−3程度である。クベルカムンク値とESRで求めた電子密度をそれぞれ対数でプロットすると比例関係となり、これを検量線とした。すなわち、この方法では、電子密度が1.0×10
19cm
−3〜3.0×10
20cm
−3では検量線を外挿した値である。
【0030】
電子密度が3.0×10
20cm
−3〜2.3×10
21cm
−3の場合、電子密度は、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルのピークの波長(エネルギー)から換算される。関係式は下記の式を用いた:
n=(−(E
sp−2.83)/0.199)
0.782 (1)式
ここで、nは電子密度(cm
−3)、E
spはクベルカムンク変換した吸収スペクトルのピークのエネルギー(eV)を示す。
【0031】
本発明において、導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される1以上の原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびテリビウム(Tb)からなる群から選択される1以上の原子で置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0032】
本発明において、導電性マイエナイト化合物は、ケージ内のフリー酸素イオンの少なくとも一部がH
−、H
2−、H
2−、O
−、O
2−、OH
−、F
−、Cl
−、およびS
2−などの陰イオンや、窒素(N)の陰イオンによって置換されていても良い。
【0033】
本発明における導電性マイエナイト化合物におけるカルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合は、CaO:Al
2O
3に換算したモル比で、10:9〜13:6の範囲が好ましく、11:8〜12.5:6.5の範囲がより好ましく、11.5:7.5〜12.3:6.7の範囲がより好ましく、11.8:7.2〜12.2:6.8の範囲がさらに好ましく、約12:7が特に好ましい。カルシウム(Ca)の一部が他の原子に置換されている場合は、カルシウムと他の原子のモル数をカルシウムのモル数とみなす。アルミニウム(Al)の一部が他の原子に置換されている場合は、アルミニウムと他の原子のモル数をアルミニウムのモル数とみなす。
【0034】
本発明では、導電性マイエナイト化合物を製造する際に、マイエナイト化合物を含む被処理体を、1080℃〜1450℃の温度範囲内で、一酸化炭素ガスおよびアルミニウムの蒸気中に、アルミニウム源に接触しない状態で配置するという特徴を有する。
【0035】
前述のように、従来方法2では、マイエナイト化合物の被処理体および金属アルミニウムが加熱されると、被処理体の表面には、液体のアルミニウム金属が形成される。このような状態で被処理体の温度を室温まで降温すると、得られる導電性マイエナイト化合物の表面に、金属アルミニウムの固着物が固着されてしまう。このような固着物は、導電性マイエナイト化合物と強固に密着しており、固着物を剥離したり、除去したりすることは容易ではない。従って、このような現象が生じると、導電性マイエナイト化合物を回収する際に追加の処理工程が必要となり、生産性が低下するという問題が生じる。
【0036】
これに対して、本発明による製造方法では、熱処理の際に、被処理体は、金属アルミニウムと非接触の状態で加熱される。
【0037】
このため、本発明による製造方法では、生成した高電子密度の導電性マイエナイト化合物の表面に、金属アルミニウムのような固着物が固着することが有意に回避される。従って、本発明の製造方法では、熱処理後に生成した高電子密度の導電性マイエナイト化合物を容易に回収できる。
【0038】
このように、本発明による製造方法では、生産性を低下させることなく、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を製造することが可能となる。
【0039】
(本発明の一実施例による高電子密度の導電性マイエナイト化合物の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明の一実施例による高電子密度の導電性マイエナイト化合物の製造方法について、詳しく説明する。
【0040】
図1には、本発明の一実施例による高電子密度の導電性マイエナイト化合物の製造方法を示す。
【0041】
図1に示すように、本発明の一実施例による高電子密度の導電性マイエナイト化合物の製造方法は、
(1)マイエナイト化合物を含む被処理体を準備する工程(工程S110)と、
(2)前記被処理体を、一酸化炭素ガスおよびアルミニウム源から供給されるアルミニウム蒸気の存在下に、前記アルミニウム源に接触しない状態で配置し、還元性雰囲気下で、前記被処理体を1080℃〜1450℃の範囲の温度に保持する工程(工程S120)と、
を有する。
【0042】
以下、それぞれの工程について説明する。
【0043】
(工程S110)
まず、マイエナイト化合物を含む被処理体が準備される。
【0044】
被処理体は、例えば、
(i)マイエナイト化合物の粉末の成形体、または
(ii)マイエナイト化合物の焼結体、
であっても良い。
【0045】
以下、(i)および(ii)の各形態の被処理体の調製方法について説明する。
【0046】
(i)マイエナイト化合物の粉末の成形体の調製方法
(マイエナイト化合物の粉末の調製)
マイエナイト化合物の粉末の成形体を調製する場合、最初に、原料粉末が調合される。
【0047】
原料粉末は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合が、CaO:Al
2O
3に換算したモル比で、10:9〜13:6の範囲となるように調合される。CaO:Al
2O
3(モル比)は、11:8〜12.5:6.5の範囲が好ましく、11.5:7.5〜12.3:6.7の範囲がより好ましく、11.8:7.2〜12.2:6.8の範囲がさらに好ましく、約12:7であることが特に好ましい。
【0048】
なお、原料粉末に使用される化合物は、前記割合が維持される限り、特に限られない。
【0049】
原料粉末は、カルシウムアルミネートを含むか、または、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、およびカルシウムアルミネートからなる群から選定された少なくとも2つを含むことが好ましい。原料粉末は、例えば、以下の混合粉末であっても良い:カルシウム化合物とアルミニウム化合物とを含む混合粉末、カルシウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末、アルミニウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物と、カルシウムアルミネートとを含む混合粉末、カルシウムアルミネートのみを含む混合粉末。
【0050】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、およびハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましい。
【0051】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウム(アルミナ)は、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナなどあるが、α−酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。
【0052】
カルシウムアルミネートとしては、CaO・Al
2O
3、3CaO・Al
2O
3、5CaO・3Al
2O
3、CaO・2Al
2O
3、CaO・6Al
2O
3等が好ましい。C12A7を、カルシウム化合物またはアルミニウム化合物と混合して用いても良い。
【0053】
原料粉末は、さらにフッ素(F)成分を含んでも良い。フッ素(F)成分としては、例えば、フッ化カルシウム(CaF
2)等が挙げられる。原料粉末にフッ素(F)成分を添加した場合、最終的に(工程S120の後に)、ケージ内にフッ素イオンが導入された高電子密度の導電性マイエナイト化合物等を製造できる。
【0054】
フッ素(F)成分を含む原料粉末は、これに限られるものではないが、例えば、前述のようなカルシウム化合物とアルミニウム化合物の混合粉末に、フッ化カルシウムを添加して調製しても良い。
【0055】
原料粉末中のフッ素(F)の含有量は、特に限られない。フッ素(F)の含有量は、例えば、最終的に得られる導電性マイエナイト化合物の化学式を
(12−x)CaO・7Al
2O
3・xCaF
2 (2)式
で表した際に、xの範囲が0〜0.60の範囲となるように選定されても良い。
【0056】
次に、前述のように調合された原料粉末が高温に保持され、マイエナイト化合物が合成される。
【0057】
合成は、不活性ガス雰囲気下や真空下で行っても良いが、大気下で行うことが好ましい。合成温度は、特に限られないが、例えば、1150℃〜1460℃の範囲であり、1200℃〜1415℃の範囲が好ましく、1250℃〜1400℃の範囲がより好ましく、1300℃〜1350℃の範囲がさらに好ましい。1150℃〜1460℃の温度範囲で合成した場合、C12A7の結晶構造を多く含むマイエナイト化合物が得られ易くなる。合成温度が低すぎると、C12A7結晶構造が少なくなるおそれがある。一方、合成温度が高すぎると、マイエナイト化合物の融点を超えるため、C12A7の結晶構造が少なくなるおそれがある。
【0058】
合成温度は、フッ素を含有しないマイエナイト化合物では、1230℃〜1415℃がより好ましく、1250℃〜1380℃がさらに好ましく、1280℃〜1350℃が特に好ましい。合成温度は、フッ素を含有するマイエナイト化合物では、1180℃〜1420℃がより好ましく、1200℃〜1400℃がさらに好ましく、1230℃〜1380℃が特に好ましい。フッ素を含有するマイエナイト化合物は、化合物の融点が高くなるため、合成温度範囲が広くなり、製造しやすい。
【0059】
高温の保持時間は、特に限られず、これは、合成量および保持温度等によっても変動する。保持時間は、例えば、1時間〜12時間である。保持時間は、例えば、2時間〜10時間であることが好ましく、4時間〜8時間であることがより好ましい。原料粉末を1時間以上、高温で保持することにより、固相反応が十分に進行し、均質なマイエナイト化合物を得ることができる。
【0060】
合成により得られるマイエナイト化合物は、一部または全てが焼結した塊状である。塊状のマイエナイト化合物は、スタンプミル等で、例えば、5mm程度の大きさまで粉砕処理される。さらに、自動乳鉢や乾式ボールミルで、平均粒径が10μm〜100μm程度まで粉砕処理が行われる。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折散乱法で測定して得た値を意味するものとする。以下、粉末の平均粒径は、同様の方法で測定した値を意味するものとする。
【0061】
さらに微細で均一な粉末を得たい場合は、例えば、C
nH
2n+1OH(nは3以上の整数)で表されるアルコール(例えば、イソプロピルアルコールを溶媒として用い、湿式ボールミル、または循環式ビーズミルなどを用いることにより、粉末の平均粒径を0.5μm〜50μmまで微細化できる。
【0062】
以上の工程により、マイエナイト化合物の粉末が調製される。
【0063】
なお、粉末として調整されるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であっても良い。導電性マイエナイト化合物は非導電性の化合物より粉砕性に優れるからである。
【0064】
導電性マイエナイト化合物の合成方法は、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。例えば、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器中に入れて、1600℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2005/000741号)、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2006/129674号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末から作られる、カルシウムアルミネートなどの粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2010/041558号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末を混合した粉末を、蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(特開2010−132467号公報)などがある。
【0065】
導電性マイエナイト化合物の粉砕方法は、上記マイエナイト化合物の粉砕方法と同様である。
【0066】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物の粉末が調整される。なお、非導電性マイエナイト化合物と導電性マイエナイト化合物の混合粉末を用いても良い。
【0067】
(マイエナイト化合物粉末の成形体の調製)
次に、前述の方法で調製したマイエナイト化合物粉末を含む成形体が準備される。成形体は、粉末または粉末を含む混練物からなる成形材料の加圧成形により、調製しても良い。
【0068】
成形材料をプレス成形、シート成形、押出成形、または射出成形することにより、成形体を得ることができる。成形体の形状は、特に限られない。
【0069】
(ii)マイエナイト化合物の焼結体の調製方法
マイエナイト化合物の焼結体を調製する場合も、前述の「(i)マイエナイト化合物の粉末の成形体の調製方法」において説明した方法の一部を利用できる。
【0070】
例えば、前述の(マイエナイト化合物の粉末の調製)の欄に示した方法では、原料粉末が高温に保持され、マイエナイト化合物が合成される。この合成後に得られる塊状のマイエナイト化合物を、そのまま被処理体用の焼結体として使用しても良い。
【0071】
あるいは、「(i)マイエナイト化合物の粉末の成形体の調製方法」の(マイエナイト化合物粉末の成形体の調製)の欄で示した成形体を熱処理することにより得られた焼結体を、被処理体として使用しても良い。
【0072】
後者の場合、熱処理条件は、成形体が焼結される条件であれば特に限られない。熱処理は、例えば、大気中、300℃〜1450℃の温度範囲で実施されても良い。300℃以上であると有機成分が揮発し粉末の接点が増えるため焼結処理が進行しやすく、1450℃以下であると焼結体の形状を保持しやすい。熱処理の最高温度は、おおよそ1000℃〜1420℃の範囲であり、好ましくは1050℃〜1415℃、より好ましくは1100℃〜1380℃、さらに好ましくは1250℃〜1350℃である。
【0073】
熱処理の最高温度における保持時間は、おおよそ1時間〜50時間の範囲であり、好ましくは、2時間〜40時間、さらに好ましくは3時間〜30時間である。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は、48時間以内が好ましい。アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素などの不活性ガス、酸素ガス、またはこれらの混在した雰囲気中や、真空中で実施しても良い。
【0074】
この他にも、各種方法で、マイエナイト化合物の焼結体を調製しても良い。なお、焼結体に含まれるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であっても、非導電性マイエナイト化合物であっても良い。また、焼結体に含まれるマイエナイト化合物は、フッ素を含むマイエナイト化合物であっても良く、フッ素を含まないマイエナイト化合物であっても良い。
【0075】
なお、前述の(i)および(ii)の被処理体の調製方法の説明は、単なる一例であって、その他の方法で、被処理体を調製しても良いことは、当業者には明らかであろう。
【0076】
(工程S120)
次に、前述の工程S110で得られたマイエナイト化合物を含む被処理体が熱処理される。
【0077】
前述のように、この熱処理の際には、被処理体は、一酸化炭素ガスおよびアルミニウム源から供給されるアルミニウム蒸気の存在下に、アルミニウム源に接触しない状態で配置される。
【0078】
被処理体の熱処理は、還元性雰囲気下で実施される。ここで「還元性雰囲気」とは、環境中の酸素分圧が10
−3Pa以下の雰囲気の総称を意味し、該環境は、不活性ガス雰囲気、または減圧環境(例えば圧力が100Pa以下の真空環境)であっても良い。酸素分圧は、10
−5Pa以下が好ましく、10
−10Pa以下がより好ましく、10
−15Pa以下がさらに好ましい。
【0079】
アルミニウム蒸気源は、特に限られないが、例えばアルミニウム粉末の層であっても良いし、顆粒状であっても良いし、塊であっても良い。なお、前述のように、被処理体は、アルミニウム蒸気源と直接接触しないようにして、アルミニウム蒸気の存在下に配置されることに留意する必要がある。
【0080】
一酸化炭素ガスは、被処理体の晒される環境に外部から供給しても良いが、例えばカーボン含有容器を使用して、被処理体をこのカーボン含有容器内に配置しても良い。この場合、被処理体の熱処理の際に、カーボン含有容器から、一酸化炭素ガスが供給される。あるいは、その他のCO源となる部材を使用しても良い。
【0081】
一酸化炭素ガスおよびアルミニウム蒸気を供給するため、例えば、蓋付きカーボン製容器内に被処理体とアルミニウム層とを配置した状態で、熱処理が実施されても良い。なお、アルミニウム蒸気源とカーボン製容器とは、直接接触させないことが好ましい。これは、両者を接触させた状態のまま高温に保持すると、両者が接触部で反応してしまい、反応環境に、十分な量のアルミニウム蒸気および一酸化炭素ガスを供給することが難しくなるためである。アルミニウム蒸気源とカーボン製容器とは、アルミナ等のセパレータにより分離されていることが好ましい。
【0082】
被処理体の熱処理の際に、反応環境を還元性雰囲気に調整する方法は、特に限られない。
【0083】
例えば、カーボン含有容器を、圧力が100Pa以下の真空雰囲気に配置しても良い。この場合、圧力はより好ましくは60Pa以下であり、さらに好ましくは40Pa以下であり、特に好ましくは20Pa以下である。
【0084】
あるいは、カーボン含有容器に、酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガス雰囲気(ただし窒素ガスを除く)を供給しても良い。この場合、供給する不活性ガス雰囲気の酸素分圧は、好ましくは100Pa以下であり、より好ましくは10Pa以下であり、さらに好ましくは1Pa以下であり、特に好ましくは0.1Pa以下である。
【0085】
不活性ガス雰囲気は、アルゴンガス雰囲気等であっても良い。ただし、本発明において、不活性ガスとして、窒素ガスを使用することは好ましくない。窒素ガスは、本発明において反応環境中に存在するアルミニウム蒸気と反応して、窒化アルミニウムを生成する。このため、窒化アルミニウムが生成すると、マイエナイト化合物を還元するのに必要な、アルミニウム蒸気が供給され難くなるからである。
【0086】
熱処理温度は、1080〜1450℃の範囲である。熱処理温度が1080℃よりも低い場合、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。また、熱処理温度が1450℃よりも高い場合、マイエナイト化合物の融点を超えるため結晶構造が分解してしまい、電子密度が低くなる。所望の形状の導電性マイエナイト化合物が得られやすいことから、1380℃以下で熱処理することが好ましく、形状の安定性から、1350℃以下で熱処理することがより好ましい。
【0087】
熱処理温度は、フッ素成分を含まない被処理体では、1230℃〜1415℃が好ましく、1250℃〜1380℃がより好ましく、1280℃〜1350℃がさらに好ましい。所望の形状の導電性マイエナイト化合物が得られやすいことから、1380℃以下で熱処理することが好ましく、形状の安定性から、1350℃以下で熱処理することがより好ましい。熱処理温度は、フッ素成分を含む被処理体では、1180℃〜1420℃が好ましく、1200℃〜1400℃がより好ましく、1230℃〜1380℃がさらに好ましい。被処理体がフッ素成分を含むと、熱処理温度が広くなり、製造が制御しやすい。
【0088】
被処理体の高温保持時間は、30分〜50時間の範囲であることが好ましく、1時間〜40時間がより好ましく、2時間〜30時間がさらに好ましく、2時間〜25時間が特に好ましい。被処理体の保持時間が30分未満の場合、十分に高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物を得ることができなくなるおそれがある上、焼結も不十分であり、得られた焼結体が壊れやすくなるおそれがある。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、マイエナイト化合物の保所望の形状が保持しやすいことから、保持時間は50時間以内であることが好ましい。また、無駄なエネルギーを使用しない観点から、40時間以内であることがより好ましい。
【0089】
以上の工程により、3.0×10
20cm
−3以上の高電子密度の導電性マイエナイト化合物を製造することができる。なお、(工程S110)において、フッ素成分を含む被処理体を使用した場合、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物が製造される。この場合、フッ素は、ケージ内に導入されていても良いし、ケージの骨格に導入されていても良い。
【0090】
図2には、被処理体を熱処理する際に使用される装置の一構成図を模式的に示す。
【0091】
装置100は、全体が耐熱性密閉容器で構成されており、排気口170が排気系と接続されている。
【0092】
装置100は、耐熱性密閉容器内に、上部が開放されているカーボン容器120と、該カーボン容器120の上部に配置されるカーボン蓋130と、カーボン容器120内に配置された仕切り板140とを有する。カーボン容器120の底部には、アルミニウム蒸気源として、耐熱皿(例えばアルミナ製皿)145内に収容された金属アルミニウム粉末の層150が配置されている。
【0093】
仕切り板140の上部には、被処理体160が配置される。仕切り板140は、層150からのアルミニウム蒸気が被処理体160に到達することが妨害されないような構成を有する。また、仕切り板140は、高温処理の際に、アルミニウム蒸気や被処理体160と反応しない材料で構成される必要がある。例えば、仕切り板140は、多数の貫通孔を有するアルミナ板で構成される。
【0094】
カーボン容器120およびカーボン蓋130は、被処理体160の高温処理の際に、一酸化炭素ガスの供給源となる。すなわち、被処理体160の高温保持中には、カーボン容器120およびカーボン蓋130側から一酸化炭素ガスが生じる。
【0095】
この一酸化炭素ガスは、マイエナイト化合物の表面に酸化アルミニウム層を生成することを阻害し、アルミニウム炭化物などを形成する。マイエナイト化合物の表面には、具体的には、炭化アルミニウム(例えばAl
4C
3)、炭化酸化アルミニウム(例えばAl
4O
4C)等のアルミニウム炭化物のほか、アルミニウム酸化物(例えばAl
2O
3)、カルシウムアルミネート(例えばCaAl
12O
19)、及びこれらの複合物が形成される。
【0096】
一方、マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンは、アルミニウム蒸気により、以下の反応で還元される:
3O
2− + 2Al → 6e
− + Al
2O
3 (3)式
従って、装置100を使用して、被処理体160を高温に保持することにより、マイエナイト化合物が焼結され、さらに、この焼結マイエナイト化合物のケージ中に電子を導入できる。
【0097】
なお、
図2の装置構成は、一例であって、この他の装置を使用して、被処理体を高温処理しても良いことは、当業者には明らかであろう。
【0098】
(本発明の一実施例による高電子密度の導電性マイエナイト化合物からなる成膜用ターゲット)
前述のような本発明の一実施例による製造方法を用いた場合、例えば、気相蒸着法で成膜を行う際に用いられるターゲット(例えば、スパッタリングターゲット)を製造できる。このターゲットは、高電子密度の導電性マイエナイト化合物で構成される。
【0099】
前述のように、特許文献2に記載の方法では、熱処理の際に、被処理体は、アルミニウム粒子が溶融して生じたアルミニウム溶融物中に浸漬された状態となる。従って、熱処理後の被処理体の表面には、アルミニウムの固着物が強固に密着するという問題が生じる。
【0100】
また、このような固着物は、熱処理に用いられる容器とも固着しているため、被処理体を破損せずに採取することは困難である。特に、被処理体が大きな寸法を有する場合、被処理体を破損せずに採取することは極めて難しい。
【0101】
このような問題のため、これまで、高電子密度の導電性マイエナイト化合物からなる大型製品、例えば最小寸法が5mm以上のターゲットは、製造することは難しかった。
【0102】
しかしながら、本発明の一実施例では、電子密度が3×10
20cm
−3以上の導電性マイエナイト化合物を含み、最小寸法が5mm以上の成膜用ターゲットを容易に製造できる。円板の平型ターゲットにおいては、直径が、好ましくは50mm以上、より好ましくは75mm以上、さらに好ましくは100mm以上、特に好ましくは200mm以上のものを有するものを製造できる。長方形の平型ターゲットにおいては、長径が、好ましくは50mm以上、より好ましくは75mm以上、さらに好ましくは100mm以上、特に好ましくは200mm以上のものを有するものを製造できる。回転型ターゲットにおいては、円筒の高さが、好ましくは50mm以上、より好ましくは75mm以上、さらに好ましくは100mm以上、特に好ましくは200mm以上のものを製造できる。
【0103】
成膜用ターゲットの電子密度や相対密度は高い方が良く、電子密度は、5.0×10
20cm
−3以上が好ましく、1.0×10
21cm
−3以上がより好ましく、1.3×10
21cm
−3以上がさらに好ましく、1.5×10
21cm
−3以上が特に好ましい。相対密度は、90%以上が好ましく、93%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0104】
本発明の成膜用ターゲットを用いて、酸素分圧が0.1Pa未満の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に製膜を行うと、電子を含む非晶質の薄膜を形成することができる。電子密度が2×10
18cm
−3以上2.3×10
21cm
−3以下の範囲で電子を含む非晶質の薄膜が得られる。非晶質の薄膜は、カルシウム、アルミニウム、および酸素を含む非晶質固体物質で構成されて良い。すなわち、本発明の成膜用ターゲットを用いて、酸素分圧が0.1Pa未満の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に製膜を行うと、カルシウムおよびアルミニウムを含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を形成できる。
【0105】
得られる非晶質の薄膜は、4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示す。得られる非晶質の薄膜の電子密度は、1×10
19cm
−3以上であっても良く、1×10
20cm
−3以上であっても良い。得られる非晶質の薄膜の仕事関数は、2.8〜3.2eVであって良い。得られる非晶質の薄膜において、4.6eVの光子エネルギー位置における光吸収係数に対する、3.3eVの位置における光吸収係数の比は、0.35以下であって良い。得られる非晶質の薄膜において、F
+センターの濃度は5×10
18cm
−3未満であって良い。
本発明の成膜用ターゲットを用いて、有機EL素子の電子注入層の薄膜を形成できる。
【実施例】
【0106】
次に、本発明の実施例について説明する。例1〜16は実施例であり、例51〜55は比較例である。
【0107】
(例1)
以下の方法で、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。
【0108】
(マイエナイト化合物の合成)
まず、酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al
2O
3)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO
3、関東化学社製、特級)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、約362gの白色塊体を得た。
【0109】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、さらに、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粒子A1を得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、得られた白色粒子A1の粒度を測定したところ、平均粒径は、20μmであった。
【0110】
次に、白色粒子A1を300gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール800mlとを、7リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度72rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。
【0111】
処理後、得られたスラリーを用いて吸引ろ過を行い、粉砕溶媒を除去した。また、残りの物質を80℃のオーブンに入れ、10時間乾燥させた。これにより、白色粉末B1を得た。X線回折分析の結果、得られた白色粉末B1は、C12A7構造であることが確認された。また、前述のレーザ回折散乱法により得られた白色粉末B1の平均粒径は、1.5μmであることがわかった。
【0112】
(マイエナイト化合物の成形体の作製)
前述の方法で得られた白色粉末B1(7g)を、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。この金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理し、縦約38mm×横約19mm×高さ約6mmの寸法の成形体C1を得た。
【0113】
(非導電性マイエナイト化合物の焼結体の作製)
前記の方法で得られた成形体C1を焼結させるため、成形体C1をアルミナ板上に配置し、大気下で1100℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、これを1100℃で2時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これにより、焼結体D1が得られた。
【0114】
焼結体D1の開気孔率は、31%であった。このようにして得られた焼結体D1を、長さ19mm×幅8mm×厚さ5mmの直方体状に加工し、これを被処理体として使用した。
【0115】
(導電性マイエナイト化合物の製造)
次に、
図3に示す装置を使用して焼結体D1を高温で熱処理し、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。
【0116】
図3には、焼結体D1の熱処理に使用した装置を示す。
図3に示すように、この装置300は、アルミナ製の蓋315付きのアルミナ容器310と、カーボン製の蓋335付きの第1のカーボン容器330と、カーボン製の蓋355付きの第2のカーボン容器350と、を備える。また、アルミナ容器310の底部には、3gの金属アルミニウム粉末(純正化学社製、200mesh)が敷き詰められて構成されたアルミニウム層320が配置されている。アルミニウム層320は、装置300が高温になった際に、アルミニウム蒸気を発生するアルミニウム蒸気ソースとなる。
【0117】
アルミナ容器310は、外径40mm×内径38mm×高さ40mmの略円筒状の形状を有する。また、第1のカーボン容器330は、外径60mm×内径50mm×高さ60mmの略円筒状の形状を有し、第2のカーボン容器350は、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの略円筒状の形状を有する。
【0118】
この装置300は、以下のように使用した。
【0119】
まず、被処理体である焼結体D1を、アルミナ容器310内に配置した。この際には、アルミニウム層320の上に、2つの同一形状のアルミナブロック325を配置し、さらにこのアルミナブロック325の上に、厚さが1mmのアルミナ板328を配置した。このアルミナ板328の上に、焼結体D1を配置した後、アルミナ容器310上に蓋315を被せた。この状態では、焼結体D1は、アルミニウム層320とは直接接触しない。
【0120】
次に、この装置300を、雰囲気調整可能な電気炉内に設置した。また、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプを用いて、炉内を真空引きした。その後、室温における炉内の圧力が20Pa以下になってから、装置300の加熱を開始し、300℃/時間の昇温速度で1300℃まで加熱した。装置300を1300℃で6時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却させた。
【0121】
この熱処理後に、表面が黒色の黒色物質E1が得られた。黒色物質E1は、装置300から容易に回収することができた。なお、黒色物質E1の相対密度は、97.9%であった。
【0122】
(評価)
次に、黒色物質E1から電子密度測定用サンプルを採取した。サンプルは、アルミナ製自動乳鉢を用いて黒色物質E1の粗粉砕を行い、得られた粗粉のうち、黒色物質E1の中央部分に相当する部分から採取した。
【0123】
得られたサンプルは、黒に近い焦げ茶色を呈していた。X線回折分析の結果、このサンプルは、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求められた電子密度は、1.6×10
21cm
−3であった。
【0124】
このことから、黒色物質E1は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0125】
(例2)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1250℃とした。
【0126】
これにより、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0127】
(例3)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理の保持時間を2時間とした。
【0128】
これにより、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0129】
(例4)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理の保持時間を12時間とした。
【0130】
これにより、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0131】
(例5)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1380℃とした。
【0132】
これにより、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0133】
(例6)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程におけるアルミニウム蒸気源として、例1で使用した金属アルミニウム層320を再度使用した。なお、アルミニウム層320を構成する金属アルミニウム粉末は、前回の熱処理により溶融固化しているため、この例6では、アルミニウム層320は、塊状になっている。
【0134】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0135】
また、この結果から、アルミニウム層320は、再利用することが可能であることがわかった。ちなみに、その後の実験から、装置300において、アルミニウム層320を10回繰り返し使用しても、ほぼ同様の高電子密度の導電性マイエナイト化合物が得られることが確認されている。
【0136】
(例7)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、室温における電気炉内の圧力は、50Paとした。
【0137】
これにより、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0138】
(例8)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、被処理体として、長さ55mm×幅55mm×厚さ5mmの板状の成形体を使用した。また、例1の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、使用するカーボン容器、アルミナ製容器のサイズを変更した。この成形体は、以下のようにして作製した。
【0139】
あらかじめマイエナイト化合物の粉末とビヒクルを、重量比で10:1.5の割合で自動乳鉢で混合させた造粒粉を作製した。このときビヒクルとは、ポリビニルブチラール(BM−S、積水化学社製)を有機溶剤に固形分で10重量%溶かした液体である。有機溶剤は、トルエンとイソプロピルアルコールとブタノールを重量比で、6:3:1の割合で混合したものである。ポリビニルブチラールは成形体の保型性を高める、バインダーの役割を果たす。
【0140】
前記造粒粉22gを、長さ60mm×幅60mm×高さ50mmの金型に敷き詰めて、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。得られた成形体の溶剤分を揮発させるため、80℃のオーブンで1時間乾燥させた。さらに等方静水圧プレス(CIP)を180MPaのプレス圧で1分間保持して、長さ55mm×幅55mm×厚さ5mmの板状の成形体を得た。これを被処理体として使用した。
【0141】
これにより、表面が黒色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0142】
例2〜8において、例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、例2〜8における黒色物質の相対密度、電子密度を表1に示す。以上のことから、例2〜8における黒色物質は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0143】
(例9)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、粉末B1の代わりに、フッ素成分を含む混合粉末を使用して成形体を調製し、最終的に、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物を製造した。
【0144】
(成形体の調製方法)
まず、例1の(マイエナイト化合物の合成)の欄に記載した方法で得られた粉末B1の38.72gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末0.73gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.55gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F9を得た。
【0145】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F9のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、化学式
(12−x)CaO・7Al
2O
3・xCaF
2 (4)式
で表され、特にx=0.32となる。
【0146】
次に、この混合粉末F9の7gを、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。また、金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理した。これにより、縦約38mm×横約19mm×高さ約6mmの寸法の成形体C9が形成された。次に、成形体C9を市販のカッターで、長さ19mm×幅8mm×厚さ6mmの直方体形状に切断し、これを被処理体として使用した。
【0147】
これにより、表面が薄白色の黒色物質E9が得られた。黒色物質E9は、容易に回収することができた。黒色物質E9の相対密度は、97.0%であった。
【0148】
例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質E9は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質E9の電子密度は、1.2×10
21cm
−3であった。
【0149】
次に、黒色物質E9の格子定数を測定した結果、黒色物質E9の格子定数は、例1における黒色物質E1の値よりも小さかった。マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。
【0150】
次に、黒色物質E9を破断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F9の混合比に近いことがわかった。
【0151】
このように、黒色物質E9は、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0152】
(例10)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理温度を1100℃とした。
【0153】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0154】
(例11)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理温度を1380℃とした。
【0155】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0156】
(例12)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の38.11gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末1.07gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.82gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F12を得た。
【0157】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F12のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(4)で表され、特にx=0.48となる。この混合粉末F12を例9における混合粉末F9の代わりに用いたほかは例9と同様にして、被処理体を得て使用した。なお、この被処理体の熱処理温度は、1420℃とした。
【0158】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0159】
(例13)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の39.78gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末0.12gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.09gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F13を得た。
【0160】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F13のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(4)で表され、特にx=0.06となる。この混合粉末F13を例9における混合粉末F9の代わりに用いたほかは例9と同様にして、被処理体を得て使用した。
【0161】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0162】
(例14)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、被処理体として、長さ55mm×幅55mm×厚さ5mmの板状の成形体を使用した。また、例9の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、使用するカーボン容器、アルミナ製容器のサイズを変更した。この成形体は、以下のようにして作製した。
【0163】
あらかじめ例9における混合粉末F9とビヒクルを、重量比で10:1.5の割合で自動乳鉢で混合させた造粒粉を作製した。このときビヒクルとは、ポリビニルブチラール(BM−S、積水化学社製)を有機溶剤に固形分で10重量%溶かした液体である。有機溶剤は、トルエンとイソプロピルアルコールとブタノールを重量比で、6:3:1の割合で混合したものである。ポリビニルブチラールは成形体の保型性を高める、バインダーの役割を果たす。
【0164】
前記造粒粉22gを、長さ60mm×幅60mm×高さ50mmの金型に敷き詰めて、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。得られた成形体の溶剤分を揮発させるため、80℃のオーブンで1時間乾燥させた。さらに等方静水圧プレス(CIP)を180MPaのプレス圧で1分間保持して、長さ55mm×幅55mm×厚さ5mmの板状の成形体を得た。これを被処理体として使用した。
【0165】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0166】
(例15)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程で得られた成形体C9に対して、次の工程を追加で実施した。
【0167】
(非導電性マイエナイト化合物の焼結体の作製)
前記の方法で得られた成形体C9を焼結させるため、成形体C9をアルミナ板上に配置し、大気下で1200℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、これを1200℃で2時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これにより、焼結体D15が得られた。
【0168】
焼結体D15の開気孔率は、31%であった。このようにして得られた焼結体D15を、長さ19mm×幅8mm×厚さ5mmの直方体状に加工し、これを被処理体として使用した。
【0169】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0170】
(例16)
前述の実施例15と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(非導電性マイエナイト化合物の焼結体の作製)の工程において、成形体C9を焼結させる温度を1380℃とした。
【0171】
これにより、表面が薄白色の黒色物質が得られた。黒色物質は、容易に回収することができた。
【0172】
例10〜16において、例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質の格子定数を測定した結果、黒色物質の格子定数は、例1における黒色物質D1の値より小さかった。マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。また、黒色物質を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、原料として用いた混合粉末の混合比に近いことがわかった。また、例10〜16における黒色物質の相対密度、電子密度を表1に示す。以上のことから、例10〜16における黒色物質は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0173】
(例51)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1460℃とした。
【0174】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質E51が得られた。黒色物質E51は、著しく変形していた。また、黒色物質E51は、発泡しており、相対密度を測定することは困難であった。
【0175】
さらに、例1と同様の方法により、この黒色物質E51を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、黒色物質E51は、C12A7構造のみを有することがわかった。しかしながら、黒色物質E51の電子密度は、4.4×10
19cm
−3であった。
【0176】
このことから、黒色物質E51は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物でないことが確認された。
【0177】
(例52)
前述の例9と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1050℃とした。
【0178】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質E52が得られた。
【0179】
さらに、例1と同様の方法により、この黒色物質E52を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、黒色物質E52は、C12A7構造のみを有することがわかった。しかしながら、黒色物質E52の電子密度は、2.1×10
19cm
−3であった。
【0180】
このことから、黒色物質E52は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物でないことが確認された。
【0181】
(例53)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、被処理体の熱処理は、COガスの存在しない環境下で実施した。
【0182】
より具体的には、例1の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において使用される装置300において、第1のカーボン容器330、第2のカーボン容器350、およびカーボン製の蓋335、355は、全てアルミナ製のものに交換した。さらに、熱処理時の真空度は、50Paとした。
【0183】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が灰色の黒色物質E53が得られた。
【0184】
例1と同様の方法により、この黒色物質E53を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、黒色物質E53は、C12A7の単相構造を有さないことがわかった。
【0185】
このことから、黒色物質E53は、高純度の導電性マイエナイト化合物でないことが確認された。
【0186】
(例54)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、被処理体である焼結体D1の熱処理は、金属アルミニウム層320が存在しない環境下で実施した。
【0187】
また、焼結体D1の熱処理の際には、炉内を真空引きし、100Paまで減圧した後、酸素濃度が1体積ppm以下の窒素ガスを大気圧になるまで炉内へ流入させた。
【0188】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄黒い黒色物質E54が得られた。
【0189】
例1と同様の方法により、この黒色物質E54を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、黒色物質E54は、C12A7構造のみを有することがわかった。しかしながら、黒色物質E54の電子密度は、4.8×10
19cm
−3であった。
【0190】
このことから、黒色物質E54は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物でないことが確認された。
【0191】
(例55)
前述の例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程で使用される装置300において、アルミナブロック325およびアルミナ板328は使用せず、マイエナイト化合物の焼結体D1を、直接アルミニウム層320の上に設置した。
【0192】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)工程後に、黒色物質E55が得られた。しかしながら、黒色物質E55は、アルミニウム層320中に半分沈んでおり、サンプルを回収するのに、多大な労力が必要であった。従って、この方法は、工業的な生産には適さない製造方法であると考えられる。
【0193】
以下の表1には、例1〜16、および例51〜55における被処理体の仕様、熱処理条件、および評価結果等を、まとめて示した。
【0194】
【表1】
なお、表1において、「被処理体」の欄における(i)および(ii)の記号は、それぞれ、被処理体が、マイエナイト化合物の粉末の成形体、およびマイエナイト化合物の焼結体であることを意味する。
【0195】
また、「F添加量(x値)」の欄における数値は、被処理体に含まれるフッ素(F)量を表す。この値は、被処理体から、最終的に以下の(4)式
(12−x)CaO・7Al
2O
3・xCaF
2 (4)式
で表されるマイエナイト化合物が製造されたと仮定した場合の、xの値を意味する。