(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011700
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】Cu合金スパッタリングターゲット、この製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20161006BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20161006BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20161006BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C9/06
C22C1/02 503B
H01L21/285 S
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-185176(P2015-185176)
(22)【出願日】2015年9月18日
(62)【分割の表示】特願2011-284012(P2011-284012)の分割
【原出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-29216(P2016-29216A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰也
(72)【発明者】
【氏名】山岸 浩一
(72)【発明者】
【氏名】横林 貞之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏幸
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−083954(JP,A)
【文献】
特開平11−117061(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/013636(WO,A1)
【文献】
特許第4271684(JP,B2)
【文献】
特開2000−169957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/285
C22C 1/02−1/03
C22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線材料及び配線材料の保護膜として用いられるCu合金スパッタリングターゲットであって、
質量比にてニッケルの含有量が20.0〜40.0質量%であり、バナジウムの含有量が1.0〜10.0質量%であって、残部が銅と不可避的不純物であることを特徴とするCu合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
さらにCr、Ti、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を、前記バナジウムと合計で1.0〜10.0質量%含有する請求項1に記載のCu合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
ニッケルと、バナジウムと、銅とを溶解し、鋳造して、
質量比にてニッケルを20.0〜40.0質量%含み、バナジウムが1.0〜10.0質量%添加され、残部が銅と不可避的不純物であるCu合金スパッタリングターゲットを製造することを特徴とするCu合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
さらにCr、Ti、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素が、前記バナジウムと合計で1.0〜10.0質量%添加される請求項3に記載のCu合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品でも特に配線材料に使用されるCu合金スパッタリングターゲット、この製造方
法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイや有機ELといった表示デバイスの入力手段としてタッチパネルは、表示デバイスとともに組み込まれて用いられており、ATMや券売機などの金融機関や交通機関などの産業用機器の表示ディスプレイに先行して普及している。また、近年では、スマートフォンやタブレット型のパーソナルコンピュータなどのさまざまなデジタル機器においてもタッチパネルが採用されており、その市場規模は急速に拡大している。更にパーソナルコンピュータのモニターなどの大型サイズでも使用され始めているため、今後、更に拡大が見込まれた市場として注目されている。
【0003】
これら表示デバイスやタッチパネルなどの部材の中で、配線基板は、ガラスやフィルムなどが用いられ、その上には透明電極膜としてITO(酸化インジウムスズ)が成膜されている。更にその上に配線電極膜としてAlを主としたAl合金が主に用いられている。配線パターンの形成は、ガラス等の基板上にITOを成膜し、更にAl合金を成膜した後、フォトマスクを通してレジスト処理をして、ウェットエッチングにてパターン形成している。これら透明電極膜や配線電極膜の成膜には、高精度で且つ薄膜形成が可能なスパッタ法が用いられている。
【0004】
一方で、デバイスの高精細化、高速度化に伴い、配線材料の配線幅が縮小されているが、配線材料に使用されるAl及びAl合金においては配線に流れる電流密度が大きくなることにより金属原子・空孔が移動する現象(エレクトロマイグレーション)、また、配線にかかる引張応力を緩和させようと金属原子・空孔が移動する現象(ストレスマイグレーション)が生じる。これらエレクトロマイグレーション、ストレスマイグレーションによるボイドの発生により抵抗値の増加、更にはボイドの発生により断線する問題があり信頼性が問題となっている。このため、Alに変わるような配線材料が望まれている。
【0005】
そこで、その代替として低抵抗であり、高融点であるCuが注目されている。しかしながら、CuはAlと比べて耐酸化性に乏しいため加熱工程において酸化が進行し、抵抗値が増大する問題があり、実用するに当たっては酸化を防ぐために保護膜(バリア膜)が必要となっている。
【0006】
保護膜には、耐酸化性が必須のほか、耐食性を有することが必要となる。配線のパターン形成工程時には、Cu用のエッチング溶液を用いてパターンを形成するが、エッチング溶液に対して保護膜の耐食性が乏しいとそのエッチング溶液で保護膜が腐食されて変色してしまうことから特性を損なう問題がある。そのため、配線材料並びに配線材料の保護膜には、耐食性が耐酸化性と合わせて要求される。
【0007】
これらに関して、特許文献1では、Cu配線に耐酸化性を向上させるためにCuにCuよりも電気陰性度が大きい元素を添加し、また、密着性を向上させるためにCuにSiよりも電気陰性度が低い元素を添加したスパッタリングターゲットが提案されている。しかし、特許文献1では、耐酸化性においては特性を十分に満足するが、耐食性に関しては十分ではないためパターン形成工程時のウェットエッチング処理時に配線材料が容易に変色し、その特性を大きく損なうことが予想される。
【0008】
また、特許文献2では、Cu配線電極の耐食性を向上させるためCuと非固溶元素を添加したスパッタリングターゲットが提案されている。しかしながら、非固溶元素を添加させるために製法は焼結によるものであり、焼結体は鋳造品と比べて機械的強度が低いため塑性加工が困難であることから、量産で生産する上では適切ではない。
【0009】
更には特許文献3では、配線材料に耐候性、耐食性を向上させるためにCuにAg、Tiを添加したスパッタリングターゲットが提案されている。しかしながら、Agは、高価であることから製造コストが圧迫されるため適切な手段とはいえない。また、大気中などの耐候性については期待されるが、酸やアルカリに対する耐食性には疑問があり、配線のパターン形成工程においてはウェットエッチング処理時に腐食するおそれがあり、適切ではない。
【0010】
更には特許文献4では、Cu電極の電気的特性の劣化を抑制させるためにCu電極の保護膜用NiCu合金スパッタリングターゲットが提案されている。また、特許文献5では、ハンダ材のSnの拡散防止としてバリア層を形成させるためにNiにCu及び、V、Crなどを添加したNi合金スパッタリングターゲットが提案されている。しかしながら、Niは、耐食性に優れた材料であることから、パターン形成加工時のウェットエッチング処理時にはCuの保護膜であるCuNi合金が残渣として残り、電極としての特性を損なうことから適切ではない。
【0011】
更には特許文献6、7では、配線との密着性を向上させるために密着層としてNiCu合金、また、窒化NiCu合金を形成させて密着性を向上させる方法が提案されている。しかしながら、特許文献6、7では、基板との密着性に効果があるものの、抵抗値を増大させることから、電極としての特性を損なうことから適切ではない。
【0012】
更に特許文献8では、導電膜、及びその保護膜について抗酸化性、粘着性を向上させるためにCuにNi、Zn及び貴金属やCr、Tiなどを添加したスパッタリングターゲットが提案されている。しかしながら、Znを20質量%程度含有させた場合、抵抗値が増大することから、電極としての特性を損なうため適切ではない。更にZnは、酸やアルカリに対しての耐食性が非常に弱いので、配線のパターン形成工程においてはウェットエッチング処理時に腐食するおそれがあり、適切ではない。また、製造する上では、Cu−Niは固溶するため均一なものが得られる。しかしながら、Znが数十%以上も添加されると多種で多量の脆弱な金属間化合物が形成され、脆化の影響でターゲットを製造する上で塑性加工が困難となる。且つ、Znは、沸点が900℃程度と他の元素の融点よりも低い温度で気化してしまう。そのため、溶解する温度域においてZnが容易に気化することから目的量の組成コントロールは困難となってしまう。そのため、量産で生産する上では適切ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−47760号公報
【特許文献2】特開平11−50242号公報
【特許文献3】特許第4494610号公報
【特許文献4】特開2011−52304号公報
【特許文献5】特許第4271684号公報
【特許文献6】特開2009−188324号公報
【特許文献7】特開2011−61113号公報
【特許文献8】特開2006−241587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、電子部品でも特に配線材料及び配線材料の保護膜として用いられ、Cu等と比べて耐酸化性及び耐食性に優れた金属薄膜を形成することができるCu合金スパッタリングターゲット、この製造方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成する本発明に係るCu合金スパッタリングターゲットは、配線材料及び配線材料の保護膜として用いられるCu合金スパッタリングターゲットであって、質量比にてニッケルの含有量が20.0〜40.0質量%であり、バナジウムの含有量が1.0〜10.0質量%であって、残部が銅と不可避的不純物であることを特徴とする。
【0016】
上述した目的を達成する本発明に係るCu合金スパッタリングターゲットの製造方法は、ニッケルと、バナジウムと、銅とを溶解し、鋳造して、質量比にてニッケルを20.0〜40.0質量%含み、バナジウムが1.0〜10.0質量%添加され、残部が銅と不可避的不純物であるCu合金スパッタリングターゲットを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、質量比にてニッケルを20.0〜40.0質量%含み、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素が添加され、残部が銅と不可避的不純物であるCu合金スパッタリングターゲットとすることによって、電子部品でも特に配線材料及び配線材料の保護膜として用いられ、耐酸化性及び耐食性を有する金属薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を適用したCu合金スパッタリングターゲット、及びこのCu合金スパッタリングターゲットの製造方法、このCu合金スパッタリングターゲットを用いて形成した金属薄膜について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0020】
Cu合金スパッタリングターゲットは、電子部品でも特に配線材料及び配線材料の保護膜の形成に用いられる。このCu合金スパッタリングターゲットは、質量比にてニッケル(Ni)を20.0〜40.0質量%含み、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素が合計で1.0〜10.0質量%添加され、残部が銅(Cu)と不可避的不純物で構成されるものである。
【0021】
Cuは、例えば、硫酸銅溶液等の電解液中で電気分解により陰極に海綿状又は樹枝状の形状のCuを析出させて製造されるものを使用できる。なお、Cuは、これらの方法以外で製造されたものを使用してもよい。
【0022】
Niは、耐酸化性に優れた金属であり、500℃程度の加熱では殆ど酸化しない特徴を有しているため、Cuに添加することで耐酸化性を付与する効果を有する。また、Niは、酸やアルカリに対する耐食性を有しており、Cuに添加することで耐食性を付与する効果を有する。これら耐酸化性及び耐食性をCuに付与するためには、CuにNiを20.0質量%以上添加することが好ましい。Niの添加量が20.0質量%よりも少ない場合には、Cuに耐酸化性及び耐食性を十分に付与することができない。また、Cu−Ni合金は、固溶するため、どの組成範囲においても均一に混ざり合い、安定なものができるほか、塑性加工が容易であるためターゲットを製造する上で扱いが容易である。
【0023】
一方で、Niを40.0質量%以上添加した場合、抵抗値が増大するため電子部品用でも特に配線材料においては望ましくない。また、配線材料の保護膜として使用する場合においては、配線のパターン形成工程時のエッチング処理時に残渣として残ってしまうことから望ましくない。以上のことから、Niの添加量は、質量比で20.0〜40.0質量%とする。
【0024】
Cu合金スパッタリングターゲットでは、金属薄膜に耐酸化性及び耐食性を付与するためにNiを添加するが、上述したようにNiの添加量ついては抵抗値の増大や残渣等の点で40質量%までしか添加することができない。このため、Cu合金スパッタリングターゲットでは、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を1.0〜10.0質量%の範囲で添加することで、耐酸化性及び耐食性を有する金属薄膜を形成することができるようにする。各元素の添加により付与される効果を以下に示す。
【0025】
Crは、耐食性に非常に優れた金属であり、Cu―Ni合金に添加することにより更なる耐食性を付与する効果を有する。
【0026】
Tiは、耐食性に優れており、また耐酸化性にも優れた金属であるため、Cu−Ni合金に添加することにより更なる耐食性、耐酸化性を付与する効果を有する。また、Tiは、酸素との親和力が強いため合わせて基板との密着性を付与する効果を有する。
【0027】
Vは、耐酸化性に優れており、Cu―Ni合金に添加することにより更なる耐酸化性を付与する効果を有する。
【0028】
Alは、耐食性に優れており、Cu―Ni合金に添加することにより更なる耐食性を付与する効果を有する。
【0029】
Taは、白金族に続いて耐食性に優れており、Cu―Ni合金に添加することにより更なる耐食性を付与する効果を有する。また、Taは、酸素との親和力が強いため、耐食性と合わせて基板との密着性も付与する効果を有する。
【0030】
Coは、耐酸化性に優れており、また、特にNiとの合金により高い耐性を有することから、Cu―Ni合金に添加することにより更なる耐酸化性を付与する効果を有する。
【0031】
Zrは、耐食性に優れており、また耐酸化性にも優れた金属であるため、Cu−Ni合金に添加することにより更なる耐食性、耐酸化性を付与する効果を有する。また、Zrは、酸素との親和力が強いため、耐食性、耐酸化性と合わせて基板との密着性を付与する効果を有する。
【0032】
Nbは、耐食性に優れており、また耐酸化性にも優れた金属であるため、Cu−Ni合金に添加することにより更なる耐食性、耐酸化性を付与する効果を有する。
【0033】
Moは、耐食性に優れており、Cu―Ni合金に添加することにより更なる耐食性を付与する効果を有する。
【0034】
これらの元素は、1種又は2種以上添加しても良い。2種以上添加することにより、耐食性及び耐酸化性の効果を付与することができる。Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moの添加量は、1種又は2種以上の合計が質量比で1.0〜10.0質量%であることが好ましい。Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を添加して耐酸化性や耐食性の効果を付与するためには、1.0質量%以上添加する必要がある。一方で、10.0質量%以上添加すると、抵抗値が増大するため電子部品用でも特に配線材料においては好ましくない。また、10.0質量%以上添加すると、多種で多量の金属間化合物が形成されることから加工性が著しく悪化するため量産で製造する上では好ましくない。したがって、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を添加する場合には、抵抗値を上げることなく、耐酸化性や耐食性の効果を付与し、量産できるようにするため、添加量を1.0〜10.0質量%とする。
【0035】
以上のようなCu合金スパッタリングターゲットは、次のようにして製造することができる。製造方法は、先ず、CuやNiの他に、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を、ターゲットにおけるNiの含有量が20.0〜40.0質量%、Cr等の元素の含有量が1.0〜10.0質量%となるように配合する。次に、配合した原料を溶解・鋳造法で合金化させる。合金化する際の温度は、1300〜1600℃程度とすることが好ましい。また、使用する坩堝は、特に指定は無いが黒鉛坩堝は好ましくない。黒鉛坩堝を用いた場合には、1300℃位で添加元素であるNiに浸炭するため、得られる鋳塊の品位が低下するおそれがある。溶解・鋳造法により得られる鋳塊品は、均一な組成分布であり、また塑性加工が容易となる。
【0036】
次に、得られた鋳塊を用いてスパッタリングターゲットを製造する。ターゲットに加工する加工方法は何でも良く、熱間鍛造、冷間鍛造でも良く、また、ワイヤーカットでの切り出しでの加工でもよく、板材に形成する。得られた板材は、スパッタリングの冶具であるバッキングプレートにロウ材を用いて貼付けることで、Cu合金スパッタリングターゲットを得ることができる。なお、Cu合金スパッタリングターゲットとは、平面研削やボンディング等のターゲット仕上げ工程前のターゲット材の状態も含むものである。
【0037】
以上のようにして作製したCu合金スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に設置し、スパッタリング装置の系内を5.0×10
−4Pa以下の真空度まで真空引きした後、例えばArを導入し、任意の条件の電力を投入して、基板上にスパッタリングターゲットの薄膜を形成することで、電子部品、例えば配線材料又は配線材料の保護膜をCuを含む金属薄膜で形成することができる。この金属薄膜は、Cu及びNiを含有し、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素が添加されているため、Cuのみ、又はCu及びNiのみを含有する合金よりも耐酸化性及び耐食性が高いものである。
【0038】
配線をスパッタリングで形成する際にCu等の配線材料上に形成する保護膜として上述した金属薄膜を成膜した場合には、配線部分をフォトマスクでマスクし、ウェットエッチング処理する際に配線材料が金属薄膜によって保護されるため、配線材料の腐食を防止でき、保護膜の残渣が生じることもない。また、配線材料上に金属薄膜を形成した場合には、耐酸化性を有する保護膜によって配線のパターン形成工程における加熱により配線材料が酸化することを防止でき、配線の抵抗値が大きくなることを防止できる。
【0039】
また、配線自体に金属薄膜を用いた場合には、耐酸化性及び耐食性を有する配線が形成されるため、パターン形成工程における加熱により酸化せず、抵抗値が大きくなることを防止でき、またウェットエッチング溶液による腐食も防止できる。
【0040】
更に、基板と配線との密着性を向上させるため、基板と配線との間の密着層を金属薄膜で形成した場合には、抵抗値を増大させず、電極としての特性を損なわずに、基板と配線との密着性を向上させることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、Cu−Ni合金を製造するために、出発原料としてターゲット中のCuが68.0質量%、Niが30.0質量%、Crが2.0質量%となるように秤量し、溶解炉として高周波誘導真空溶解炉(富士電波工業株式会社製)用い、アルミナ坩堝に原料を投入してAr雰囲気で1450℃まで加熱し、鉄製の鋳型に鋳造した。
【0043】
次に、得られた鋳塊について表面の異物をグラインダー等で除去した後、熱間圧延にて900℃まで加熱し、鋳塊を80%まで圧下させて板状に加工した。そして、得られた板材をワイヤーカットにて直径φ75mmに切り出し、切り出した板材を平面研削にて厚さ6mmに加工した。その後、ロウ材にInを用いてバッキングプレートに貼付け、スパッタリングターゲットを作製した。
【0044】
得られたスパッタリングターゲットを用いて、金属薄膜をスパッタリングにより成膜した。スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、20mm×20mmのガラス基板をスパッタリングターゲットと対向させた位置に取り付け、装置内を3.0×10
−4Paまで真空引きした後、ガス圧を4.0×10
−1Paに保ち、投入電力200Wにて膜厚が500Åとなるようにスパッタリングにより金属薄膜を形成した。以上のようにして作製した金属薄膜の電気抵抗、耐酸化性、耐食性の特性の評価を行った。各評価方法を以下に示す。
【0045】
電気抵抗の評価方法としては、JIS K7194に準拠した四端子法にて25℃における体積抵抗率を測定して評価を行った。体積抵抗率が20μΩ・cm未満の場合には、良好とし、20μΩ・cm以上、40μΩ・cm未満の場合には、普通とし、40μΩ・cm以上の場合には、不良とした。評価が良好又は普通であれば、電気抵抗が小さく好ましいものとする。
【0046】
耐酸化性の評価方法としては、加熱前の金属薄膜についての体積抵抗率をJIS K7194に準拠した四端子法にて測定し、その後、恒温層内に150℃×1hrの条件で加熱処理を行い、処理後の体積抵抗率を測定し、処理前と処理後の抵抗変化率(%)で評価を行った。処理前と処理後の抵抗変化率が0.1%以下の場合は、抵抗の変化率が非常に小さいものとして◎で示し、0.1〜5.0%の場合は、抵抗の変化が少しあるものの電極特性を有するものとして○で示し、5.0%以上の場合は、抵抗の変化が大きく電極特性を損ねているものとして×とした。評価が◎又は○であれば、耐酸化性を有するものとして好ましいものとする。
【0047】
耐食性の評価方法としては、金属薄膜を成膜したガラス基板を塩化ナトリウム5%水溶液中に24時間浸し、薄膜表面の腐食状態を目視にて評価した。評価方法としては、相対評価とし、比較材にはCuを用い、腐食前とほぼ変わらず、変化が見られない場合には◎、Cuよりも腐食が見られなければ○、Cuと同等、またはCuよりも腐食がある場合には×とした。評価が◎又は○であれば、耐食性を有するものとして好ましいものとする。実施例1の結果を表1に示す。
【0048】
(実施例2〜15、比較例1、比較例2)
実施例2〜15、比較例1、比較例2では、表1に示す組成となるように出発原料の配合を変更した以外は実施例1と同様にしてスパッタリングターゲットを作製し、Cu−Ni合金薄膜を作製した。得られたCu−Ni合金薄膜について、電気抵抗、耐酸化性、耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す結果から、Cuの他に、Niを20.0〜40.0質量%含有し、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を合計で1.0〜10.0質量%含有している実施例1〜15では、電気抵抗が良好又は普通であり、抵抗の変化が殆どなく耐酸化性を有し、また腐食がなく又はCuよりも腐食が抑えられ耐食性を有している。
【0051】
一方、Niの含有量が20.0質量%よりも少ない比較例1では、耐酸化性が悪くなった。Niの含有量が40.0質量%よりも多い比較例2では、電気抵抗が悪くなり、導電性が不良となった。
【0052】
また、Crの含有量が1.0質量%よりも少ない比較例3では、腐食がみられ、耐食性が十分ではなかった。Crの含有量が10.0質量%よりも多い比較例4では、電気抵抗が高く、導電性が不良となった。
【0053】
以上の実施例及び比較例から、配線用スパッタリングターゲットにおいてCuの他に、Niを20.0〜40.0質量%含有し、Cr、Ti、V、Al、Ta、Co、Zr、Nb、Moのいずれか1種又はこれらの2種以上の元素を合計で1.0〜10.0質量%含有することで、電気抵抗が増大せずに耐酸化性や耐食性を得ることができることがわかる。