(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011774
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】コーティング組成物及びアルミナ薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20161006BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20161006BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20161006BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20161006BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/12
C09D163/00
C09D133/00
C09D1/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-87721(P2012-87721)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216760(P2013-216760A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21〜23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】永井 直文
(72)【発明者】
【氏名】水上 富士夫
【審査官】
富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−255303(JP,A)
【文献】
特開2010−285315(JP,A)
【文献】
特開2001−247791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00−10/00;101/00−201/10
C01F1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性ガスバリア膜に用いるコーティング組成物において、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルであって、短径1〜10nm、長径100〜10000nmおよびアスペクト比(長径/短径)30〜5000で規定される繊維状または針状のアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子を含むものと、該アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子100質量部に対して5〜2000質量部のアルコキシシラン化合物とを含有することを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記アルミナ水和物粒子が、無定形、ベーマイトおよび擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の固形分含量と前記アルコキシシラン化合物の固形分含量との合計が0.15〜15質量%の範囲内にある、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記アルコキシシラン化合物が下記一般式(1)で示される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物:
R1n(R3)mSi(OR2)4−m−n(1)
上式中、R1はエポキシ含有基またはアクリル基を表し、R2およびR3は炭素数1〜4のアルキル基を表し、n=0〜2の範囲内であり、m=0〜3の範囲内であり、n+m=0〜3の範囲内である。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング組成物を基板(但し、多孔質材料を除く。)表面に適用して硬化させることを特徴とする耐熱性ガスバリア膜に用いるアルミナ薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記硬化に際して乾燥処理又は熱処理を施す、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜性、緻密性、ガスバリア性、熱安定性、電気絶縁性、防汚性、帯電防止性、等に優れたアルミナ薄膜を製造するためのコーティング組成物及びそのようなアルミナ薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ、シリカに代表されるセラミックスは、基板表面を改質し、或いは基板表面に機能性を付与する目的で幅広く実用化されている。コーティング膜を機能別に分類すると「化学的・機械的保護機能」、「光学機能」、「電磁気機能」、「触媒機能」、等に分けられる。そしてこのようなコーティング効果を最大限発揮させるためには、コーティング膜を構成するナノ粒子の形状や、コーティング膜の組成、膜の表面や内部の構造、等が極めて重要である。
【0003】
例えば、絶縁性やガスバリア性の効果を発揮するには、コーティング膜内の細孔が十分小さく、クラックの発生が無い緻密な構造が必要である。さらには、熱処理に際してセラミックス層と基板との高い密着性が求められる。具体的には、ステンレス基板上に金属酸化物をコーティングしたものが、太陽電池、フラットパネルディスプレイ(FPD)に従来から使用されているガラス基板に置き換わる材料として注目されている。また、電子機器の小型化や配線の多層・緻密化による回路内の熱問題に対処するため、グラファイトのような高熱伝導率基板に金属酸化物による耐熱性絶縁膜を付設することも検討されている。このような金属酸化物薄膜の製造方法として、PVD法やCVD法等の気相プロセス、及びゾルゲル法、電気泳動法等の液相プロセスが用いられている。
【0004】
特許文献1に、蒸着法によるセラミックス膜の作製方法が記載されている。蒸着法では、高精度な膜が得られる一方、真空下で製膜を行うため特殊な装置を必要とする上、バッチ式であるため生産性は低い。また、基板が複雑な形状であった場合、成膜が困難であることや、メンテナンス費用及び初期設備投資費が高い等、生産性及び経済性の面で問題を有している。
【0005】
特許文献2、3、4には、ゾルゲル法によるセラミックス膜の作製方法が記載されている。原料となるセラミックス前駆体には金属アルコキシド化合物や微粒子が使用されており、化合物の構造や微粒子の形状がセラミックス膜物性に大きく影響する。例えば、微粒子の形状が柱状や板状粒子では、膜厚が厚くなると溶媒が揮発する過程でセラミックス膜の収縮によるクラックが発生しやすく、さらには熱処理した際、熱膨張率の差により基板から剥離するなど、膜厚を薄くする必要があり十分な性能を得ることができない。そのため、一回当たりの膜厚を薄くすると共に複数回塗布する必要がある。さらには、板状粒子や柱状粒子は、ガラスやポリビニルアルコール(PVA)のような親水性基板への成膜は容易であるが、ポリプロピレン(PP)やポリカーボネート(PC)のような疎水性基板への塗布は困難であるため、適用可能な基板の種類が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−200786号公報
【特許文献2】特開平10−101377号公報
【特許文献3】特開平10−25431号公報
【特許文献4】特開2005−36208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来技術における気相プロセスは生産性が低く、高価な装置が必要となる。また、従来技術における液相プロセスは、前駆体となる微粒子の精密な設計がされておらず、ゾルゲル法のような安価な方法で、基板との密着性が良好で、クラックやピンホールの発生がなく緻密なセラミックス膜を作製することは困難であった。
そこで本発明は、熱処理後も基板との密着性が高く、緻密でクラックの発生がなく様々な基板に適用可能で、さらには高い保護性能を持ったアルミナ薄膜の製造に適したコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、コーティング膜を形成する主成分となるナノ粒子の形状が成膜性、すなわちピンホールや亀裂の発生に与える影響を詳細に検討した結果、特定のアルミナナノファイバーとアルコキシシラン化合物を含有するコーティング組成物が、基板との密着性が高く、亀裂のないアルミナ薄膜を提供することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルであって、短径1〜10nm、長径100〜10000nmおよびアスペクト比(長径/短径)30〜5000で規定される繊維状または針状のアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子を含むものと、該アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子100質量部に対して5〜2000質量部のアルコキシシラン化合物とを含有することを特徴とするコーティング組成物;
(2)前記アルミナ水和物粒子が、無定形、ベーマイトおよび擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、(1)に記載のコーティング組成物;
(3)前記アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の固形分含量と前記アルコキシシラン化合物の固形分含量との合計が0.15〜15質量%の範囲内にある、(1)または(2)に記載のコーティング組成物;
(4)前記アルコキシシラン化合物が下記一般式(1)で示される、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のコーティング組成物:
R
1n(R
3)
mSi(OR
2)
4−m−n(1)
上式中、R
1はエポキシ含有基またはアクリル基を表し、R
2およびR
3は炭素数1〜4のアルキル基を表し、n=0〜2の範囲内であり、m=0〜3の範囲内であり、n+m=0〜3の範囲内である;
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のコーティング組成物を基板表面に適用して硬化させることを特徴とするアルミナ薄膜の製造方法;
(6)前記硬化に際して乾燥処理又は熱処理を施す、(5)に記載の方法;
(7)前記熱処理の温度が当該有機基の分解温度未満の範囲内である、(6)に記載の方法;
(8)前記熱処理の温度が当該有機基の分解温度以上、1500℃以下の範囲内である、(6)に記載の方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるコーティング組成物は、熱処理後も基板との密着性が高く、緻密でクラックの発生がなく様々な基板に適用可能で、さらには高い保護性能を持ったアルミナ薄膜を提供する。かかるアルミナ薄膜は優れた成膜性、緻密性、熱安定性、電気絶縁性などを併せ持ち、絶縁膜や耐熱性ガスバリア膜、さらには防汚膜、帯電防止膜、等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】調製例1で得られたアルミナゾルAを示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図2】酸素バリア性評価に用いたシステムを示す概略図である。
【
図3】コーティング液A−1から得られたコーティング膜の熱処理後の赤外(IR)吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図4】コーティング液A−1から得られたコーティング膜の示差熱分析スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるコーティング組成物は、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルであって、短径1〜10nm、長径100〜10000nmおよびアスペクト比(長径/短径)30〜5000で規定される繊維状または針状のアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子(以下、「アルミナナノファイバー」とも称する。)を含むものと、該アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子100質量部に対して5〜2000質量部のアルコキシシラン化合物とを含有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明によるコーティング組成物の構成成分であるアルミナナノファイバーは、アルミニウムアルコキシドの加水分解によりアルミナゾルとして得ることができる。本発明によるアルミナゾルは、アルミナナノファイバーを分散させることができる方法で調製されればよく、その一例として、水中でアルミニウムアルコキシドを加水分解し、次いで、解膠して調製する方法(以下、「ゾル調製方法」と称する。)が挙げられる。このゾル調製方法において、加水分解の反応条件及び解膠の処理条件を後述のように調節することにより、短径1〜10nm、長径100〜10000nmおよびアスペクト比(長径/短径)30〜5000で規定されるアルミナナノファイバーのゾルを調製することができる。
【0014】
ゾル調製方法に用いられるアルミニウムアルコキシドには、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、環状アルミニウムオリゴマー、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム等のアルミニウムキレート、等が挙げられる。これらの化合物うち、適度な加水分解性を有し、副生成物の除去が容易であること等から、炭素数2〜5のアルコキシル基を有するものが好ましい。
【0015】
このゾル調製方法において、加水分解に使用する酸としては、硝酸、塩酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸等の一価の酸が好ましいが、無機酸は焼成後もアルミナ中に残存してしまうため、有機酸が特に好ましい。有機酸として、操作性、経済性の面で酢酸が特に好ましい。酸の使用量は、アルミニウムアルコキシドに対して0.2〜2.0モル倍であるのが好ましく、0.3〜1.8モル倍であるのが特に好ましい。酸の使用量が0.2モル未満であると、得られるアルミナナノファイバーのアスペクト比が小さくなる場合がある。一方、酸の使用量が2.0モルを超えると、アルミナナノファイバーゾルの経時安定性が低下し、更に経済性の面で好ましくない。
【0016】
加水分解の条件は、100℃以下で0.1〜3時間が好ましい。加水分解温度が100℃を超えると突沸の恐れがあり、加水分解時間が0.1時間未満であると温度コントロールが困難であり、3時間を超えると工程時間が長くなる。
【0017】
加水分解するアルミニウムアルコキシドの酸水溶液の固形分濃度は2〜15質量%が好ましく、3〜10質量%が特に好ましい。この固形分濃度が2質量%未満であると、得られるアルミナナノファイバーのアスペクト比が所定値より小さくなることがある。一方、固形分濃度が15質量%を超えると、解膠中に反応液の撹拌性が低下することがある。
【0018】
このゾル調製方法においては、このようにしてアルミニウムアルコキシドを加水分解して生成したアルコールを、好ましくは留去した後に、解膠処理を行う。解膠処理は、100℃〜200℃で0.1〜10時間加熱し、更に好ましくは110〜180℃で0.5〜5時間処理する。加熱温度が100℃未満であると反応に長時間必要とし、200℃を超えると高圧の容器等を必要とし、実用上不利になることがある。加熱時間が0.1時間未満であるとアルミナナノファイバーのサイズが小さく、保存安定性が低くなることがあり、10時間を超えると工程時間が長くなる。
【0019】
このようにして調製されたアルミナナノファイバーのゾルが高粘度である場合には、その中に気泡を含んでいることが多いため、脱気処理をしてこれらの気泡を除去するのがよい。気泡を除去する方法としては、例えば、減圧処理、遠心処理等の各種脱気処理方法が挙げられる。
【0020】
本発明によるアルミナナノファイバーは、長径の短径に対する割合、すなわちアスペクト比(長径/短径)が30〜5000の範囲内にあることが好ましく、さらに100〜3000の範囲内にあることが特に好ましい。このアスペクト比が30未満であると、成膜性が低下すると同時にクラックが発生しやすくなるため好ましくない。一方、このアスペクト比が5000を超えると、アルミナナノファイバーの合成に要する時間が長くなるため好ましくない。
【0021】
アルミナの結晶形には無定形、ベーマイト、擬ベーマイト、γ−アルミナ、θ−アルミナおよびα−アルミナなどがあるが、本発明において、アルミナナノファイバーが上記寸法を有し、アルミナ薄膜が十分な強度を発揮するためには、ゾルに含まれるアルミナナノファイバーは少なくともベーマイト結晶形のアルミナナノファイバー及び/又は擬ベーマイト結晶形のアルミナナノファイバーであることが好ましい。すなわち、その結晶形はベーマイト及び/又は擬ベーマイトを主成分とし、他の結晶形を含む混合物であってもよい。本発明において、ゾルに含まれるアルミナナノファイバーはベーマイト結晶形及び/又は擬ベーマイト結晶形であることが特に好ましい。ここで、ベーマイトは組成式:Al
2O
3・nH
2Oで表わされるアルミナ水和物の結晶である。アルミナナノファイバーの結晶形は、例えば、後述するアルミニウムアルコキシドの種類、その加水分解条件又は解膠条件の調節によって調製できる。ここで、アルミナナノファイバーの結晶形はX線回折装置(例えば、商品名「Mac.Sci.MXP−18」、マックサイエンス社製)を用い、次の条件で確認することができる。
<条件>管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:250mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.020°、走査速度:10°/min、発散スリット:0.5°、散乱スリット:0.5°、受光スリット:0.30mm
【0022】
本発明によるコーティング組成物は、上述のアルミナナノファイバー100質量部に対して5〜2000質量部のアルコキシシラン化合物を含有する。アルコキシシラン化合物の含有量が5質量部未満、又は2000質量部を超えると、所期の効果が得られないため好ましくない。アルミナナノファイバー100質量部に対して好ましくは10〜1000質量部、より好ましくは30〜500質量部のアルコキシシラン化合物を含有することが好ましい。このようにアルミナナノファイバーにアルコキシシラン化合物を組み合わせたことにより、アルミナ薄膜のクラック発生が抑制される、細孔径が小さくなる、柔軟性が向上する、基板との密着性が高くなる、膜硬度が向上する、等の効果が顕著に得られる。
【0023】
アルコキシシラン化合物は下記一般式(1)で示されるものであることが好ましい。
R
1n(R
3)
mSi(OR
2)
4−m−n(1)
上式中、R
1はエポキシ含有基またはアクリル基を表し、R
2およびR
3は炭素数1〜4のアルキル基を表し、n=0〜2の範囲内であり、m=0〜3の範囲内であり、n+m=0〜3の範囲内である。アルコキシシラン化合物の具体例として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシジクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の所謂シランカップリング剤の他、テトラエトキシシラン(TEOS)が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、コーティング対象の基板の種類によって適宜選定される。
【0024】
本発明によるコーティング組成物は、アルミナナノファイバーの固形分含量とアルコキシシラン化合物の固形分含量との合計が0.15〜15質量%の範囲内にあることが好ましい。この固形分含量の合計が0.15質量%未満であると、1回当たりの膜厚が薄くなり十分な効果が得られるまでに複数回塗布する必要があるため好ましくない。一方、この固形分含量の合計が15質量%を超えると、製膜時の操作性やコーティング液の安定性が低下しやすいため好ましくない。
【0025】
コーティング対象物の性状その他の要因のためコーティング膜の熱処理温度が100℃以下に限定される場合、触媒として硬化剤をコーティング組成物に添加してコーティング膜の硬化反応を促進してもよい。そのような硬化剤として、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、トリエチレンアミン、ジメチルアミノピリジン、1,4−ジメチルピペラジン、1−メチル−4−(1,1−ジメチルアミノメチル)シクロヘキシルアミン、ジブチル尿素、等のアミン化合物;イミダゾール化合物;ジアミノマレオニトリル;BF
3・アミン錯塩;イミダゾール類金属錯塩;ヘキサメトキシメチロールメラミン、メチル化メラミン、等のメラミン化合物;水溶性変成ポリアミドアミン;アルミニウムキレート化合物;及び過酸化水素、過酸化カリウム、等の過酸化物が挙げられる。具体例として、アミノエチルエタノールアミンをコーティング組成物固形分に対して1〜5質量%添加することにより、100℃以下での硬膜が可能である。
【0026】
本発明によるコーティング組成物を適用する基板としては、種類や形状に制限はなく、SUS、アルミニウム、銅、鉄、チタン、等の金属系基板;Al
2O
3、SiO
2、ZrO、TiO
2、タイル、陶器、等のセラミックス系基板;グラファイト、紙、木片、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル系樹脂、ポリウレタン、等の有機物系基板が挙げられる。
【0027】
本発明によるコーティング組成物を適用する方法としては、ディップ法、スピン法、スプレー法、スクリーン印刷、ラミラーフロー法、電気泳動法など基板の種類に合わせ適宜選定することができる。
【0028】
本発明によるコーティング組成物を基板に適用することにより、有機・無機複合膜を形成することも、無機単独膜を形成することも可能である。基板にコーティング組成物を塗布した後、有機・無機複合膜を形成する場合は、コーティング組成物に含まれるアルコキシシラン化合物の有機基の分解温度未満の温度で乾燥または熱処理すればよい。一方、無機単独膜を形成する場合は、アルコキシシラン化合物の有機基の分解温度以上、1500℃以下で熱処理すればよい。アルコキシシラン化合物の有機基の分解温度は、個別具体的な化合物によって異なるが、コーティング組成物の示差熱熱重量(TG−DTA)を測定し、質量変化が見られなくなる温度として特定することができる。
【0029】
本発明のコーティング膜の赤外(IR)吸収スペクトル(日本分光(株)社製FT−IR4100 TypeA)を測定すると、有機・無機複合膜である場合には、アルコキシシラン化合物中の有機基に由来するピーク(2800〜3000cm−1)がみられ、一方、無機単独膜である場合には、アルコキシシラン化合物中の有機基に由来するピークはみられない。また、本発明のコーティング膜の示差熱熱重量(TG−DTA)(ブルカー・エイエックスエス(株)(BRUKER:TG−DTA2000SA)昇温速度:10℃/min、Air雰囲気)を測定すると、有機・無機複合膜である場合には、アルコキシシラン化合物の有機基の分解に由来する発熱ピーク(200〜500℃)がみられ、一方、無機単独膜である場合には、アルコキシシラン化合物の有機基の分解に由来する発熱ピークは見られない。
【0030】
有機・無機複合膜は、耐熱性、耐薬品性、フレキシビリティーの点で優れる。一方、アルコキシシラン化合物の有機基の分解温度以上の温度で熱処理することにより、フレキシビリティーを保持し、絶縁性、耐熱性、バリア性に優れた完全な無機セラミックス膜(アルミナ薄膜)を形成することができる。
【0031】
本発明によるコーティング膜の厚さは、0.01μm〜100μmが好ましく、用途によって適宜選択することができる。膜厚が0.01μm未満では所期の効果が得られず、一方、膜厚が100μmを超えると、熱処理時に亀裂が発生しやすくなるため好ましくない。
【0032】
本発明によるコーティング膜には、必要に応じて親水性溶剤に可溶あるいは分散可能なポリマーを、コーティング組成物の粘度調整、成膜性および密着性改善を目的として加えることができる。具体例として、ソルビタンポリグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−651A、ナガセ化成工業社製)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名;EX−512,521)、グリセロールポリグリシジルエーテル(商品名;EX−313)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;EX−810,850)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;EX−821,830,832,841,861)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;EX−920)等の水溶性エポキシ樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
調製例1:アルミナナノファイバーゾルの調製
500mlの四ツ口フラスコに、イオン交換水310gと酢酸9.0g(0.15mol)を入れ、その液温を撹拌しながら75℃に上昇させた。その溶液にアルミニウムイソプロポキシド71.4g(0.35mol)を滴下し、発生するイソプロピルアルコールを留去させたのち、反応液をオートクレーブに移し、130℃で4時間反応を行った。反応液を40℃以下に冷却し、反応を終了した。得られたアルミナゾルAは、透過型電子顕微鏡(TEM)(FEI−TECNAI−G20(200kV))で観察した結果、
図1に示したように、平均短径4nm、平均長径が1500nm、平均アスペクト比350のアルミナナノファイバーが分散してなるゾルであった。反応液中の固形分濃度は5質量%であった。
【0034】
調製例2:アルミナナノファイバーゾルの調製
酢酸量を25.3g(0.42mol)とし、アルミニウムイソプロポキシド115g(0.56mol)そしてイソプロピルアルコール留出後のオートクレーブでの反応温度及び反応時間をそれぞれ150℃及び5時間に変更したことを除き、調製例1の手順を繰り返したことにより、平均短径5nm、平均長径が3000nm、平均アスペクト比600のアルミナナノファイバーが分散してなるアルミナゾルBを得た。
【0035】
調製例3:柱状アルミナゾルの調製
500mlの四つ口フラスコにイオン交換水300gを入れ、その液温を攪拌しながら75℃に上昇させた。その水にアルミニウムイソポロポキシド64g(0.34mol)を滴下し、発生するイソプロピルアルコールを留去させながら液温を98℃に上昇させた。反応液をオートクレーブに移し、酢酸2g(0.034mol)加え、攪拌しながら150℃で4時間反応を行った。反応液を40℃以下に冷却し反応を終了した。反応液中の固形分濃度は4.8質量%であった。得られたアルミナゾルCは、TEMで観察した結果、平均短径10nm、平均長径が60nm、平均アスペクト比6の柱状アルミナナノ粒子が分散してなるゾルであった。
【0036】
【表1】
【0037】
調製例1〜3で調製したアルミゾルA、B、Cにイオン交換水および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403:信越シリコーン社製)を添加し、30℃で30分間撹拌することにより表2に示したコーティング液を作製した。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例1:絶縁性試験
表2に示したコーティング液をSUS340上にディップ法にてコーティングし、30℃で1時間乾燥後、300℃、550℃、700℃で2時間焼成処理した。アルミナナノファイバーをコーティングした部分に1cm×1cmのSUS340製電極板を配置し、250Vの電圧を印加した時の抵抗値を絶縁抵抗計(横河電気株式会社製:INSULATION TESTER 2406E)で測定し、結果を表3に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
実施例2:酸素バリア性評価
α−アルミナを主成分とする多孔質管(外径2mm、内径1.5mm、長さ50mm、平均細孔径135nm)の両端を密封し、表2に示したコーティング液15gに5分間浸漬した。その後、多孔質管をゆっくり引き上げ、30℃で2時間乾燥し、次いで150℃で2時間熱処理する操作を2回繰り返した。このアルミナチューブの片端をトールシール(ニコラ株式会社製)で封止し、もう片端をSUSセルにトールシールを使用して固定した。
図2に示したように、作製した分離膜を空気中(水:1.23mol%、酸素:23.9mol%、窒素:73.2mol%)に保持し、チューブ内部を真空に引いた際に気化してくる成分を四重極質量分析計(Hiden HAL 301/F PIC quadrupole mass spectrometer)を使用して分析した。その結果を表4に示した。
【0042】
【表4】
【0043】
実施例3:防汚性評価
表2に示したアルミナゾルをSUS340上にディップ法にてコーティングし、30℃で1時間乾燥後、100℃および250℃で1時間焼成処理した。
図3に、コーティング液A−1から得られたコーティング膜の赤外(IR)吸収スペクトル(日本分光(株)社製FT−IR4100 TypeA)を示す。また示差熱分析(ブルカー・エイエックスエス(株)(BRUKER:TG−DTA2000SA)昇温速度:10℃/min、Air雰囲気)により、240〜450℃付近にアルコキシシラン化合物中の有機側鎖の分解に由来する発熱ピークが観察された(
図4)。100℃の熱処理では有機・無機複合膜が形成され、250℃の熱処理では無機単独膜が形成されたことが確認された。アルミナナノファイバーコーティング膜上に油性マジック(ZEBRA 黒)で1cm
2塗りつぶし24時間放置した。水を染み込ませた脱脂綿で10回程度円を描くように黒塗り部分を拭い、油分の除去度合いを目視で確認した。
【0044】
【表5】
【0045】
実施例4:帯電防止評価
表2に示した7種のアルミナゾルをポリプロピレンシートにバーコーターにより塗膜厚4μmの膜を作製し、50℃で3時間乾燥した。作製したシートにKD−110(春日電機(株))を使用してマイナスイオンのみを30秒照射して帯電させ、照射停止後5秒と1分後の表面電位(デジタル静電電位測定器:KSD−200)を測定し結果を表6に示した。
【0046】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明による金属酸化薄膜は、優れた成膜性、緻密性、熱安定性、電気絶縁性などを併せ持ち、絶縁膜や耐熱性ガスバリア膜、更には防汚膜、帯電防止膜としても利用可能である。