特許第6011804号(P6011804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6011804-シリカゾルの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011804
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】シリカゾルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   C01B33/141
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-74826(P2013-74826)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198649(P2014-198649A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉武 桂子
(72)【発明者】
【氏名】境田 広明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 愛
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−258319(JP,A)
【文献】 特開2003−277025(JP,A)
【文献】 特開昭58−079866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解触媒としてアンモニア又は沸点が100℃以下のアルキルアミンを用い、前記加水分解触媒の初期濃度を反応媒体1リットル当たり0.02〜1.0モルとし、前記反応媒体を80モル%以上の水濃度に保ちながら、前記加水分解触媒が珪素の総添加量に対してモル比(加水分解触媒/珪素)で0.15以上となる珪素アルコキシドを前記反応媒体に、前記反応媒体1リットル当たり毎時0.05〜1.5モルの速度で添加し、60℃以上、かつ前記反応媒体の沸点未満の温度で、前記珪素アルコキシドを加水分解させることを特徴とするシリカゾルの製造方法。
【請求項2】
前記珪素アルコキシドが、テトラメチルシリケート(TMOS)であることを特徴とする請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項3】
前記反応媒体の水濃度が80モル%未満となる前に、前記珪素アルコキシドの添加を中断し、前記珪素アルコキシドの加水分解によって生じるアルコールを前記反応媒体から除去すると共に、前記反応媒体の前記加水分解触媒の濃度を調整した後、前記珪素アルコキシドの添加を再開する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項4】
前記珪素アルコキシドを添加する前に、核となるシリカ粒子を前記反応媒体に予め添加しておくことを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のシリカゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素アルコキシドの加水分解による金属不純物を含まない高純度球状シリカゾルの製造方法の改良に関する。特に本発明は、窒素吸着法による平均粒子径が5〜100nmの球状であり、内部細孔の少ない耐吸湿性に優れたシリカのゾルを製造するのに好適である。
【背景技術】
【0002】
水ガラスを原料として中和又はイオン交換によりシリカゾルを得る方法は、古くより知られている。また、四塩化珪素の熱分解法によりシリカ微粉末が得られることも知られている。高純度のシリカゾルの製法として、塩基性触媒を含有するアルコール−水溶液中で珪素アルコキシドを加水分解させる方法も知られている。例えば、数モル/リットルのアンモニア及び数モル/リットル〜15モル/リットルの水を含むアルコール溶液に、0.28モル/リットルのテトラエチルシリケートを添加して加水分解することにより、50〜900nmのシリカ粒子が得られることも報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を得る方法として、アンモニア等のアルカリ性触媒をアルコキシシランに対し0.5〜10のモル比に、そして水を5〜20モル/リットルの濃度に含有するアルコール溶液中で、アルコキシシランを30℃以上の温度で加水分解する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、無孔性シリカの製法として、珪素アルコキシドを加水分解して得たシリカ粒子を表面処理後650℃以上の高温で焼成した後に解砕する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、平均粒子径が3〜100nmの粒子径を有するコロイダルシリカの製造方法として、反応媒体を、その1リットル当たり0.002〜0.1モルのアルカリ濃度と30モル以上の水濃度に保ちながら、この反応媒体に上記アルカリ1モルに対してSi原子として7〜80モルとなる量のアルキルシリケートを加え、45℃〜この反応媒体の沸点以下の温度でこのアルキルシリケートを加水分解させると共に、この加水分解によって生じた珪酸の重合を進行させる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-74911号公報
【特許文献2】特開2003−165718号公報
【特許文献3】特開平06−316407号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェース・サイエンス(J. Colloid and Interface Sci.) 第26巻(1968年)第62〜69頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水ガラスを原料として中和又はイオン交換によりシリカゾルを得る方法では、金属や遊離アニオン等の不純物を完全に除去することができない。また、四塩化珪素の熱分解法で得られるシリカ微粉末は凝集粒子であり、水に分散しても単分散のゾルを得ることができない。
【0009】
また、非特許文献1や特許文献1に記載の方法では、シリカ粒子は粒子内部に未加水分解のアルコキシ基が多く残存し、加熱又は加水分解によってアルコールの脱離が起きる。また、加水分解により内部アルコキシを脱離させた後に内部に細孔やシラノール基が残存し、水分、塩基触媒、アルコールなどが吸着して残る。これらはシリカを樹脂のフィラーとして用いた際に樹脂の特性を損ねる可能性がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法では、焼成時に粒子間の焼結が起きるため実際には100nm以下の小粒子では凝集傾向が強く、解砕を行っても1次粒子まで分散させることは困難である。また解砕時に装置やメディアからのコンタミネーションも起きやすく、純度も低下しやすい。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の方法では、球状の小粒子ゾルを得ることができ、塩基性触媒としてアンモニアやアミンを用いれば金属不純物の少ないゾルが得られる。しかし触媒としてアンモニアを用いた場合、微小粒子が多く生成することがあり、粒子成長が抑制される課題があった。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑み、平均粒子径が5〜100nmの球状であり、内部細孔の少ない耐吸湿性に優れた高純度シリカゾルを製造可能なシリカゾルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の態様は、加水分解触媒としてアンモニア又は沸点が100℃以下のアルキルアミンを用い、前記加水分解触媒の初期濃度を反応媒体1リットル当たり0.02〜1.0モルとし、前記反応媒体を80モル%以上の水濃度に保ちながら、加水分解触媒が珪素の総添加量に対してモル比(加水分解触媒/珪素)で0.15以上となる前記珪素アルコキシドを反応媒体に、前記反応媒体1リットル当たり毎時0.05〜1.5モルの速度で添加し、60℃以上、かつ前記反応媒体の沸点未満の温度で、前記珪素アルコキシドを加水分解させることを特徴とする。
【0014】
また、前記珪素アルコキシドが、テトラメチルシリケート(TMOS)であることが好ましい。
【0016】
また、前記反応媒体の水濃度が80モル%未満となる前に、前記珪素アルコキシドの添加を中断し、前記珪素アルコキシドの加水分解によって生じるアルコールを前記反応媒体から除去すると共に、前記反応媒体の前記加水分解触媒の濃度を調整した後、前記珪素アルコキシドの添加を再開する工程を含むことが好ましい。
【0017】
また、前記珪素アルコキシドを添加する前に、核となるシリカ粒子を前記反応媒体に予め添加しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加水分解触媒としてのアンモニア又は沸点が100℃以下のアルキルアミンによって、珪素アルコキシドを加水分解させることができ、さらに、加水分解によって生成する活性珪酸の重合速度を大きくすることができる。また、粒子生成後に加水分解触媒としてのアンモニア又は沸点が100℃以下のアルキルアミンを、蒸留等により容易に除去することができる。よって、平均粒子径が5〜100nmの球状であり、内部細孔の少ない耐吸湿性に優れた高純度シリカのゾルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るシリカゾルの製造方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態のシリカゾルの製造方法は、加水分解触媒としてアンモニア又は沸点が100℃以下のアルキルアミンを用い、加水分解触媒の初期濃度を反応媒体1リットル当たり0.02〜1.0モルとし、反応媒体を80モル%以上の水濃度に保ちながら、加水分解触媒が珪素の総添加量に対してモル比(加水分解触媒/珪素)で0.15以上となる珪素アルコキシドを反応媒体に添加し、60℃以上、かつ反応媒体の沸点未満の温度で、珪素アルコキシドを加水分解させるものである。以下、本発明の実施形態に係るシリカゾルの製造方法について詳述する。
【0021】
まず、本実施形態の反応媒体は80モル%以上の水濃度を有する。ここで使用される水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることができる。また、本明細書において、水濃度は、加水分解触媒を含む反応媒体のうち、加水分解触媒を除いた反応媒体中の水濃度(モル%)である。
【0022】
反応媒体を80モル%以上の水濃度で維持することで、珪素アルコキシドを好適に加水分解させることができ、粒子内に残存する未反応のアルコキシ基を減少させることができる。さらに反応温度を60℃以上とすることで加水分解によって生じた活性珪酸の重合を促進し、内部細孔の少ない粒子を製造できる。一方、珪素アルコキシドの加水分解によってアルコールが生成するため、加水分解反応の進行と共に、反応媒体の水濃度が徐々に減少する。反応媒体の水濃度を80モル%以上で維持するには、生成したアルコールの反応媒体の濃度が高くならないように、例えば珪素アルコキシドの添加速度を制御するか、アルコール濃度が高くなる前に生成したアルコールの一部を蒸留等によって系外に排出することが好ましい。
【0023】
次に、加水分解触媒の初期濃度は、反応媒体1リットル当たり0.02〜1.0モルである。加水分解触媒の初期濃度が上記範囲より小さくなると、珪素アルコキシドの加水分解によって生成する活性珪酸の重合速度が小さくなり、耐吸湿性に優れたシリカゾルを製造できない。一方、加水分解触媒の初期濃度が上記範囲より大きくなると、加水分解反応の速度を制御することが困難となり、やはり、耐吸湿性に優れたシリカ粒子のゾルを製造できない。
【0024】
次に、本実施形態の珪素アルコキシドは、珪酸モノマー又は重合度2〜3の珪酸オリゴマーのアルキルエステルである。アルキル基としては、1〜2の炭素数を有するものが好ましい。好ましい珪素アルコキシドの例としては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、トリエチルメチルシリケート等が挙げられるが、経済性等の観点から、特にテトラメチルシリケート(TMOS)が好ましい。尚、分子内に異なったアルキル基を有する混合エステルや、これらの混合物も用いることができる。従って、例えば珪素アルコキシドとしてテトラメチルシリケートを用いる場合、これに異なったアルキル基を有する混合エステルが含まれていても構わない。これらの珪素アルコキシドは原液として添加しても、水溶性の有機溶媒で希釈して添加しても良い。
【0025】
また、珪素アルコキシドは、本実施形態の方法による反応の終了時点で、全反応媒体中のアルコキシドに由来するSi原子として4モル/リットル以下、好ましくは0.1〜2モル/リットルの濃度となる量が用いられる。上述のように、珪素アルコキシドの加水分解によって反応媒体に生じるアルコールは、蒸留等によって系外に排出させることができる。
【0026】
また、本実施形態で用いられる加水分解触媒は、好ましくはアンモニアである。これによれば、蒸留等による除去が容易であり、加水分解触媒が残留してシリカゾルの純度に悪影響を与えることがない。さらに、加水分解触媒としてアンモニアを用いれば、加水分解によって生成した活性珪酸を速やかに重合させ、より耐吸湿性に優れたシリカ粒子のゾルを製造できるようになる。
【0027】
加水分解触媒はアンモニアに限られず、沸点が100℃以下のアルキルアミンでもよい。沸点が100℃以下のアルキルアミンとしては、将来的に蒸留等によってアルキルアミンを除去する必要があることを踏まえると、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン又はトリアルキルアミンといった低沸点であるアルキルアミンが好ましい。本実施形態の方法に用いることができるアルキルアミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン及びトリプロピルアミン等が挙げられるが、特に、低沸点であるメチルアミン及びエチルアミンがより好ましい。尚、アンモニア溶液の沸点は、アンモニアの濃度によって変わるものの一般に100℃以下である。
【0028】
加水分解触媒は、上述のアンモニア及びアルキルアミンを単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。また、反応媒体の加水分解触媒の濃度は、例えば反応媒体中の加水分解触媒に含まれる窒素原子のモル数によって算出される。
【0029】
ここで、本実施形態では、加水分解触媒が珪素の総添加量に対してモル比(加水分解触媒/珪素)で0.15以上となる珪素アルコキシドを、反応媒体に添加する。これにより、珪素アルコキシドに対して十分量の加水分解触媒を反応媒体中に存在させ、加水分解により生成した活性珪酸を速やかに反応系内の粒子と結合させることができる。
【0030】
図1は、珪素アルコキシドを所定の添加速度及び総添加量で反応媒体に添加したときの、モル比(加水分解触媒/珪素)の推移を示す。尚、縦軸はモル比(加水分解触媒/珪素)を示し、横軸は時間を示す。
【0031】
珪素アルコキシドの添加初期では、反応媒体は加水分解触媒の初期濃度にあり、モル比(加水分解触媒/珪素)が大きく、加水分解触媒が過剰状態にある。珪素アルコキシドは、加水分解触媒によって加水分解が加速され、やがて、反応媒体中にシリカの核が形成される。
【0032】
反応媒体中にシリカの核が形成される具体的なタイミングは、反応媒体の水濃度、加水分解触媒の濃度や種類、添加される珪素アルコキシドの種類等によって変動する。例えば、反応媒体の加水分解触媒の初期濃度が大きくなるにつれ、添加される珪素アルコキシドの加水分解速度が大きくなる一方、加水分解によって生じる活性珪酸の重合速度が大きくなり、核形成のタイミングが早められると推察される。また、反応媒体の加水分解触媒の初期濃度に応じ、形成される核の数も異なってくる。
【0033】
ここで、本明細書において、核は、モル比(加水分解触媒/珪素)が0.15以上である反応媒体中に、はじめて現れるシリカの初期核である。よって、シリカの初期核が現れた後に生成する二次的な核は、本明細書の核に含まれない。
【0034】
図1中、実線Aで示す本実施形態では、反応媒体に珪素アルコキシドを添加するにつれモル比(加水分解触媒/珪素)が小さくなるが、かかるモル比は0.15以上で維持される。
【0035】
実線Aの本実施形態においては、加水分解触媒の初期濃度が反応媒体1リットル当たり0.02〜1.0モルとされるとともに、モル比(加水分解触媒/珪素)が0.15以上で維持されるため、添加される珪素アルコキシドに対して、常に十分量の加水分解触媒が反応媒体中に存在する。このため、添加される珪素アルコキシドは、反応媒体中に形成された核のまわりで重合し、シリカの核成長が起きる。
【0036】
尚、図1では、実線Aに示す本実施形態のモル比(加水分解触媒/珪素)は、高いところから0.15に近づくように推移しているが、これは一例である。本実施形態では、モル比(加水分解触媒/珪素)を0.15以上で維持するため、珪素アルコキシドの添加を適宜中断して、反応媒体中の加水分解触媒の濃度を高めるようにしてもよい。
【0037】
また、本実施形態において、珪素アルコキシドは、連続的に添加又は間欠的に添加することが好ましい。これによれば、反応媒体の水濃度やモル比(加水分解触媒/珪素)の調整が容易となる。具体的に、珪素アルコキシドは、反応媒体の1リットル当たり毎時0.05〜1.5モルの速さで添加することが好ましく、0.09〜1.1モルの速さで添加することがより好ましい。上記範囲内の添加速度であれば、反応媒体の水濃度やモル比(加水分解触媒/珪素)の調整がさらに容易となる。
【0038】
本実施形態では、上述の加水分解触媒の初期濃度を有する反応媒体を、珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)が0.15以上となるよう維持するため、珪素アルコキシドの添加速度が低い場合はもちろん、珪素アルコキシドの添加速度が大きい場合であったとしても、添加される珪素アルコキシドに対し、十分量の加水分解触媒を反応媒体に存在させることができる。これにより、珪素アルコキシドの加水分解によって生成する活性珪酸の重合速度を大きくし、核成長を促進させることがきる。よって、珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)を0.15未満とし、他を同条件とした場合と比較して、平均粒子径が大きな高純度シリカゾルを製造できる。例えば平均粒子径が5〜100nmの球状である高純度シリカゾルを、珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)を0.15未満とした場合より極めて容易に製造できるようになる。
【0039】
ここで、平均粒子径は、製造されたシリカ粒子の一次粒子径である。本明細書において、平均粒子径は、特に断りのない限り窒素吸着法(BET法)によって算出される平均粒子径をいい、後述する実施例に示すように、製造したシリカの乾燥粉末に基づいて測定される。
【0040】
また、本実施形態では、反応媒体中に予め核となるシリカ粒子を添加し、このシリカ粒子を成長させることもできる。これによれば、珪素アルコキシドの添加初期からシリカ粒子を成長させることができるため、反応媒体中に予め核となるシリカ粒子を添加しない場合、すなわち、反応媒体中で核を自然に発生させて核成長させる場合と比較して、平均粒子径の大きなシリカゾルを容易に製造できるようになる。反応媒体中に予め核となるシリカ粒子を添加しない条件下はもちろん、反応媒体中に予め核となるシリカ粒子を添加する条件下であっても、本実施形態では、珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)が0.15未満となる場合と比較して、平均粒子径が大きな高純度シリカゾルを容易に製造できるようになる。
【0041】
また、本実施形態では、反応媒体を80モル%以上の水濃度で維持するため、珪素アルコキシドを好適に加水分解させ、粒子内に残存する未反応のアルコキシ基を減少させることができる。これにより、内部細孔の少なく、耐吸湿性の優れたシリカ粒子のゾルを製造できるようになる。
【0042】
また、本実施形態では、珪素アルコキシドとして、例えばテトラエチルシリケートと比べて反応性が高く反応の調節が難しいテトラメチルシリケートを用いたとしても、同様に、上述の加水分解触媒の初期濃度を有する反応媒体を、珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)が0.15以上となるよう維持するとともに、反応媒体を80モル%以上の水濃度で維持するため、珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)が0.15未満となる場合と比較して、例えば平均粒子径が5〜100nmの球状であり、内部細孔の少ない耐吸湿性に優れた高純度シリカゾルを製造できるようになる。
【0043】
また、本実施形態において、反応媒体に、予め核となるシリカ粒子を添加しておくこともできる。これによれば、自然に核が発生する場合とは異なり、初期の核の数と平均粒子径とを制御して、製造されるシリカゾルの平均粒子径を制御することが容易となる。すなわち、珪素アルコキシドの添加初期から、珪素アルコキシドを予め添加したシリカ粒子の核成長に用いることができるため、求める粒子径や体積まで成長させるのに必要な珪素アルコキシドの積算量を、核の量と平均粒子径とから逆算することが可能になる。
【0044】
予め核となるシリカ粒子の添加量は、製造するシリカゾルの粒子径や添加する珪素アルコキシド量に応じて調節可能である。添加される珪素アルコキシドが核成長に均一に用いられるとすると、予め核となるシリカ粒子の添加量を多く(少なく)すれば、所定の粒子径まで核を成長させるのに必要な珪素アルコキシドの量は多く(少なく)なる。また、予め核となるシリカ粒子の添加量を多く(少なく)すると、所定量の珪素アルコキシドが添加されたときのシリカ粒子の成長量は小さく(大きく)なる。よって、添加する珪素アルコキシド量に対し、予め核となるシリカ粒子量の割合を小さくすれば、平均粒子径が例えば20nm以上である比較的大きいシリカゾルの製造が容易となる。
【0045】
尚、核となるシリカ粒子は、本実施形態によって製造されたシリカを用いてもよいし、それ以外の方法により製造されたシリカ粒子を用いてもよい。核となるシリカ粒子の粒度分布のばらつきは、シリカ粒子の核成長に伴って相対的に小さくなるため、充分な粒子成長が行われれば製造されるシリカゾルの粒度分布に実質的に影響を及ぼさない。
【0046】
核となるシリカ粒子を添加する方法として、反応媒体を60℃以下とし、一部の珪素アルコキシドを添加して、加水分解により微小核を発生させる方法もある。かかる方法では、60℃以上に昇温後、残りの珪素アルコキシドを供給して核成長させる。このような方法によっても、平均粒子径の制御が容易となる。
【0047】
次に、本実施形態のシリカゾルの製造方法の具体例について説明する。本実施形態では、上述の加水分解触媒の初期濃度を有する反応媒体を60℃以上に加熱しておき、反応媒体に攪拌下で珪素アルコキシドを徐々に添加することにより、加水分解反応を進行させる。
【0048】
加水分解反応は、減圧、常圧、加圧のいずれの圧力下でも行うことができるが、反応温度は、特に珪酸の脱水縮合に影響を与える。反応温度が60℃より低いと、活性珪酸の脱水縮合が不十分となり残存シラノール基が増加する。粒子内のシラノール基の残存を減少させるために、反応温度は60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましい。ただし、反応温度は、反応媒体の沸点未満の値である。
【0049】
反応媒体を攪拌することで、反応媒体中での珪素アルコキシドの加水分解が進行すると共に、その結果生成した珪酸が、重合によりシリカ粒子に一様に沈着する。不溶状態で存在していたアルキルシリケートも、攪拌によって反応媒体中に懸濁状態で維持される。その結果、反応媒体との接触による加水分解や反応媒体への溶解が円滑に進行する。
【0050】
珪素アルコキシドの供給は容器上方から液面に滴下してもよいが、その供給口を反応媒体に接触させ、液中に供給してもよい。これによれば、供給口近傍での加水分解によるゲルの発生や粗大粒子の発生を抑制することができる。特に、加水分解速度の速いテトラメチルシリケートについては液中への添加が好ましい。
【0051】
反応の進行とともに、反応媒体の水濃度やモル比(加水分解触媒/珪素)が変化するが、反応の終了まで、80モル%以上の水濃度と、0.15以上のモル比(加水分解触媒/珪素)とが維持される。アルコールを蒸留により除去する際には、珪素アルコキシドの添加を中断し、珪素アルコキシドの加水分解によって生じるアルコールを反応媒体から除去すると共に、反応媒体の加水分解触媒の濃度を調整した後、珪素アルコキシドの添加を再開することが好ましい。これにより、アルコールを除去する際に同時に除去される加水分解触媒を適宜補いながらモル比(加水分解触媒/珪素)を調節し、シリカゾルを好適に製造することができる。
【0052】
粒子生成後の反応液には高濃度の加水分解触媒のため活性な珪酸が含まれており、濃縮後のゾルの安定性や、耐吸湿性に悪影響を与える。このため、活性珪酸の減少のために加水分解触媒の一部を除去もしくは酸で中和した後に70℃以上の加温熟成を行うことができる。
【0053】
アンモニアの除去方法としては蒸留法、イオン交換法、限外ろ過法等が挙げられる。酸による中和は無機酸、有機酸を添加する。加水分解触媒の除去、中和後の好ましいpHは7〜10.8である。酸の添加は多量であると、反応媒体の電解質濃度が高くなり、かえってシリカゾルの安定性を疎外する場合があるため、加水分解触媒を除去する方法がより好ましい。もっとも簡便で好ましい方法は、加熱蒸留により加水分解触媒の除去と熟成を同時に行う方法である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
実施例1のシリカゾルを以下のように作製した。攪拌機及びコンデンサー付き3リットルのステンレス製反応容器に、純水2220gと28質量%のアンモニア水26.9gを仕込み、アンモニアの初期濃度を、反応媒体1リットル当たり0.20モルとした。そして、オイルバスにより容器内液温を80℃に保った。次いで、攪拌下のこの容器内に、253gの市販テトラメチルシリケート(TMOS)を、3時間かけて液中に連続的に供給した。珪素の総添加量に対するアンモニアのモル比(アンモニア/珪素)は0.27であった。
【0056】
この供給の終了後、容器内液温を80℃で1時間保った後、90℃まで上昇させ、この温度で1時間攪拌を続けた。次いで、容器につけたコンデンサーを枝付き管につけ替え、枝付き管の先に冷却管をつけてから反応液の温度を沸点まで上昇させ、容器内の液を蒸発させ、蒸気を器外に排出させることにより、液温が99℃になるまで濃縮した。次いで、容器内の液全量を器外に取り出し、これをロータリーエバポレーターにより100Torrの減圧下に330gまで濃縮したところ、SiO230.4質量%、pH6.7、B型粘度計で25℃において測定した粘度6.9mPa・s、動的散乱法粒子径17.7nmを有するシリカゾル(実施例1)を得た。得られたゾルの透過型電子顕微鏡での観察結果では、球状の均一な粒子が観察された。
【0057】
〔実施例2〕
実施例1と同じ反応容器に、純水2214gと28質量%のアンモニア水25.3gを仕込み、アンモニアの初期濃度を、反応媒体1リットル当たり0.19モルとした。そして、オイルバスにより容器内液温を80℃に保った。次いで、攪拌下のこの容器内に、260.5gの市販テトラエチルシリケート(TEOS)を、3時間かけて液中に連続的に供給した。珪素の総添加量に対するアンモニアのモル比(アンモニア/珪素)は0.33であった。
【0058】
この供給の終了後、容器内液温を80℃で1時間保った後、90℃まで上昇させ、この温度で1時間攪拌を続けた。次いで実施例1と同様に容器内の液を蒸発させ、蒸気を器外に排出させることにより、液温が99℃になるまで濃縮した。次いで、容器内の液全量を器外に取り出し、これをロータリーエバポレーターにより100Torrの減圧下に375gまで濃縮したところ、SiO220.0質量%、pH7.3、B型粘度計で25℃において測定した粘度8.9mPa・s、動的散乱法粒子径18.6nmを有するシリカゾル(実施例2)を得た。
【0059】
〔比較例1〕
仕込みのアンモニアの初期濃度を表1のように変更した他は実施例1と同じ操作で比較例1のシリカゾルを製造した。得られたゾルの透過型電子顕微鏡での観察結果では、微小粒子が発生していた。
【0060】
〔比較例2〕
仕込みのアンモニアの初期濃度を表1のように変更した他は実施例1と同じ操作を行ったが、テトラメチルシリケートの供給の途中でチャージ管の先端が目詰まりして供給が行えなくなったため、テトラメチルシリケートを104g添加した時点で供給を中止した。以後の加温操作は実施例1と同様に行った。得られたゾルの透過型電子顕微鏡での観察結果では、形状が歪な粒子が多く、また微小粒子も多く認められた。
【0061】
〔比較例3〕
仕込みのアンモニアの初期濃度を表1のように変更した他は実施例2と同じ操作で比較例3のシリカゾルを製造した。
【0062】
〔比較例4〕
先行技術文献として掲げた特許文献1に記載の方法で、比較例4のシリカゾルを作製した。すなわち、攪拌機及びコンデンサー付き1リットルの反応容器に水72.6gと、メタノール187.1gと、28質量%のアンモニア水19.3gとを仕込み、攪拌しながら容器内液温を40℃に保った。次いで、攪拌下のこの容器内に、30.4gの市販テトラメチルシリケート(TMOS)を、47.5gのメタノールに溶解した溶液を30分かけて連続的に供給した。珪素の総添加量に対する加水分解触媒のモル比(加水分解触媒/珪素)は、1.59となった。この供給の終了後、さらに40℃で20分間エージングを行った。
【0063】
反応液をロータリーエバポレーターを用い100Torrの減圧下で73gとなるまで濃縮したところ、SiO215.8質量%、pH9.0、動的散乱法粒子径32.9nmを有するシリカゾル(比較例4)を得た。得られたゾルの透過型電子顕微鏡での観察結果では、形状が歪であり、融着した粒子が多く観察された。
【0064】
〔比表面積および平均粒子径〕
実施例1〜2及び比較例1〜4のシリカゾルにつき、以下のように窒素吸着法(BET法)により平均粒子径を測定した。すなわち、シリカゾルを80℃真空乾燥器で乾燥して得られたシリカゲルを乳鉢で粉砕した後、さらに180℃で3時間乾燥してシリカ乾燥粉末を得た。この粉末の窒素吸着法による比表面積(m2/g)を測定し、平均粒子径は以下の式(1)で求めた。尚、測定結果は表1に示す。
【0065】
[式1]
平均粒子径(nm)=2720/比表面積(m2/g) (1)
【0066】
〔個数平均粒子径及び粒度分布〕
実施例1〜2及び比較例1〜4のシリカゾルにつき、以下のように個数平均粒子径及び粒度分布を測定した。すなわち、シリカゾルを水で希釈してカーボンメッシュ上にサンプリングし、透過型電子顕微鏡で粒子画像を撮影した。撮影した画像を画像解析装置により解析し、等価円直径の個数平均粒子径とこの粒子径の標準偏差を求めた。粒度分布の指標として、以下の式(2)よりCv値を求めた。尚、測定結果は表1に示す。
【0067】
[式2]
Cv(%)=標準偏差/平均粒子径 (2)
【0068】
〔吸湿性〕
実施例1〜2及び比較例1〜4のシリカゾルにつき、以下のように吸湿性を測定した。すなわち、比表面積の測定に用いたものと同じ180℃乾燥粉を各0.2g秤量瓶に採取し、重量を測定した。この瓶を蓋を開けた状態で23℃相対湿度50%の雰囲気下に48時間静置した後、蓋をして再び重量を測定した。そして、以下の式(3)より吸湿率を求めた。またBET法比表面積を基に、以下の式(4)より、比表面積あたりの吸湿量を計算した。尚、測定結果は表1に示す。
【0069】
[式3]
吸湿率(%)=増加重量/サンプル採取量×100 (3)
【0070】
[式4]
吸湿量(mg/m2)=増加重量(mg)/(サンプル量(g)×比表面積(m2/g)) (4)
【0071】
【表1】
【0072】
珪素アルコキシドとしてテトラメチルシリケートを用いた実施例1及び比較例1〜2の結果から、比較例1〜2の吸湿量は0.30〜0.35mg/m2、吸湿率は6.0〜8.1%であったのに対し、実施例1では、吸湿量は0.25mg/m2、吸湿率は4.4%であった。尚、上記の比較例1〜2の吸湿量及び吸湿率は、先行技術文献である特許文献1に記載の比較例4よりも優れたものであると言えるが、かかる比較例1〜2に対しても、実施例1では、吸湿量及び吸湿率が少なく、耐吸湿性の向上が確認された。
【0073】
さらに、比較例1〜2の粒度分布(Cv)は22〜31%であったのに対し、実施例1の粒度分布は12%であった。よって、実施例1は、比較例1〜2に対し、耐吸湿性に優れる上、粒度分布のばらつきが少ないことが分かった。
【0074】
また、珪素アルコキシドとしてテトラエチルシリケートを用いた実施例2及び比較例3の結果から、比較例3の吸湿量は0.32mg/m2、吸湿率は5.8%であったのに対し、実施例2では、吸湿量は0.21mg/m2、吸湿率は3.4%であった。すなわち、実施例2では、比較例3に対し、吸湿量及び吸湿率が少なく、耐吸湿性の向上が確認された。
【0075】
次に、以下の方法により、実施例3のシリカゾルを作製した。
〔製造例1(核粒子の合成)〕
実施例1と同じ反応容器に純水2244gと28質量%のアンモア水3.4gを仕込み、オイルバスにより容器内液温を80℃に保った。次いで、攪拌下のこの容器内に、253gの市販テトラメチルシリケートを、1時間かけて液中に連続的に供給した。この供給の終了後、容器内液温を80℃で1時間保った後、90℃まで上昇させ、この温度で1時間攪拌を続けた。次いで、容器内の液を蒸発させ、蒸気を器外に排出させることにより、液温が99℃になるまで濃縮したところ、SiO24.4質量%、BET法平均粒子径9.7nmの球状のシリカゾルが得られた。
【0076】
〔実施例3〕
反応容器に、予め核となるシリカ粒子を添加した以外は、基本的には実施例1と同様の仕込み組成となるよう反応液を準備した。すなわち、製造例1のシリカゾル325gと純水1909gと28質量%のアンモア水26.9gを仕込み、アンモニアの初期濃度を、反応媒体1リットル当たり0.20モルとした。そして、オイルバスにより容器内液温を80℃に保った。次いで、攪拌下のこの容器内に、253gの市販テトラメチルシリケートを、5時間かけて液中に連続的に供給した。珪素の総添加量に対するアンモニアのモル比(アンモニア/珪素)は0.27であった。
【0077】
この供給の終了後、容器内液温を80℃で1時間保った後、90℃まで上昇させ、この温度で1時間攪拌を続けた。次いで、容器内の液を蒸発させ、蒸気を器外に排出させることにより、液温が99℃になるまで濃縮した。次いで、容器内の液全量を器外に取り出し、これをロータリーエバポレーターにより100Torrの減圧下に447gまで濃縮したところ、SiO225.5質量%、pH6.8、B型粘度計で25℃において測定した粘度11.2mPa・s、動的散乱法粒子径19.5.nmを有するシリカゾル(実施例3)を得た。
【0078】
実施例3のシリカゾルは、上記と同様の方法により測定すると、BET法平均粒子径17.0nm、比表面積あたりの吸湿量は0.24mg/m2、吸湿率は3.9%であった。かかる吸湿量及び吸湿率は、珪素アルコキシドとしてテトラメチルシリケートを用いた比較例1〜2や、先行技術文献である特許文献1に記載の比較例4よりも優れたものである。よって、実施例3の結果から、本発明とは異なる方法により得た核粒子(製造例1)を用いたとしても、それを本発明の条件下で粒子成長させることにより製造したシリカゾルは、比較例に比べ、乾燥後の吸湿量及び吸湿率が少なく、耐吸湿性に優れたものとなることが分かった。
図1