【実施例】
【0059】
[第1実施例]
原料粉末として次の(1)〜(5)の粉末を用意した。
(1)多孔質鉄粉末A:比表面積:200m
2/kg、140メッシュ篩上:19.2%、140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上:54.7%、および325メッシュ篩下:26.1%の粒度分布
(2)多孔質鉄粉末B:比表面積:100m
2/kg、90メッシュ篩上:2.8%、90メッシュ篩下かつ145メッシュ篩上:24.3%、および140メッシュ篩下:72.9%の粒度分布、90メッシュ篩上の粉末の内部の50μm以上の気孔を有する粉末の該粉末に対する割合:85%、90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の内部の40〜60μm未満の気孔を有する粉末の該粉末に対する割合:65%
(3)電解銅粉末:145メッシュ篩下で350メッシュ篩
上の粉末が80〜90質量%
(4)箔状銅粉末:100メッシュ篩下で350メッシュ篩上の粉末が35〜55質量%
(5)錫粉末:325メッシュ篩下
【0060】
上記の多孔質鉄粉末Aと多孔質鉄粉末Bを表1に示すように割合を変えて添加した鉄粉末を調整し、この鉄粉末に上記の電解銅粉末5質量%、箔状銅粉末6質量%、および錫粉末1質量%を添加し、これらの粉末の合計100質量部に対し成形潤滑剤であるステアリン酸亜鉛粉末0.5質量部を添加して混合し原料粉末を用意した。
【0061】
得られた原料粉末を用いて成形体密度6.6Mg/m
3の成形体試料を作製し、得られた成形体試料を分解アンモニアガス雰囲気中、790℃に加熱して焼結を行い、外径10.30mm、内径7.31mmおよび高さ6.63mmの円筒形焼結体試料を作製した後、得られた円筒形焼結体試料を同一の再圧金型を用い同一の圧力で再圧縮して外径10.22mm、内径7.32mmおよび高さ6.50mmに加工して、試料番号01〜06の焼結体試料を作製した。
【0062】
これらの焼結体試料について、軸方向に切断し、光学顕微鏡により内周面を観察するとともに、画像分析ソフトウエア(イノテック株式会社製 Quick Grain Standard Video)を用いて、気孔の面積、気孔の総数、および各気孔の円相当径およびその分布を調査するとともに、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0063】
さらにこれらの焼結体試料について、潤滑油として商品名アンデロール465(アンデロールジャパン製)を真空含浸して焼結含油軸受試料とし、電動機のモータシャフトの軸受として装着して該電動機を常温(25℃)で運転したときの摩擦係数を測定した。この摩擦係数測定結果についても、表1に併せて示す。なお、電動機は、シャフトが直径7.29mmで、滑り速度が101m/分、PV値が110MPa・m/分である。なお、評価に当たっては、摩擦係数が0.15未満となる試料を合格として判定を行った。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の試料番号01〜06の結果より、多孔質鉄粉末Aと多孔質鉄粉末Bの割合を変更することにより、気孔の状態を制御できることがわかる。微細な気孔を形成する多孔質鉄粉末Aの割合が80%に満たない試料番号01の試料では、気孔総数が800個/mm
2を下回るため含油能力が乏しい。また、試料番号01の試料では、軸受内周面の気孔の面積率が50%を超えるとともに、中程度の大き
さの気孔を形成する多孔質鉄粉末Bの量が過多となるため、円相当径で100μmを超える気孔が0.5%を超え、円相当径で80μmを超え100μm以下の気孔が1%を超え、円相当径で60μmを超え80μm以下の気孔が1.5%を超え、さらに円相当径で40μmを超え60μm以下の気孔が3%を超えており、通気度が高いことを示している。このため、通気度が過度に高く潤滑油が漏洩する結果、金属接触が生じて摩擦係数が0.17となっている。
【0066】
一方、多孔質鉄粉末Aの割合が80%の試料番号02の試料では、気孔総数が800個/mm
2に増加して含油能力が充分となり、また、気孔の面積率が50%に低下するとともに、円相当径で100μmを超える気孔が0.5%、円相当径で80μmを超え100μm以下の気孔が1%、円相当径で60μmを超え80μm以下の気孔が1.5%、さらに円相当径で40μmを超え60μm以下の気孔が3%にそれぞれ減少しており、通気度が充分に低下して潤滑油の漏洩が防止されるため、軸と軸受内周面との間の金属接触が抑制されて摩擦係数が0.13となっている。また、多孔質鉄粉末Aの割合が80%を超えて増加すると、気孔総数は増加して含油能力が増加するとともに、気孔の面積率および40μmを超える気孔の気孔の数がそれぞれ減少して通気度が低下する。この結果、多孔質鉄粉末Aの割合が85〜90%の試料では、含油能力と通気度のバランスが最適となり摩擦係数が最低で0.11まで低下している。
【0067】
しかしながら、40μmを超える気孔の数が減少して通気度が減少すると潤滑油の漏洩は防止されるが、逆に潤滑油の供給能力は低下する。このため、多孔質鉄粉末Aの割合が90%より増加すると、通気度が過度に低下して、潤滑油の供給能力が低下して摩擦係数は増加する。そして、多孔質鉄粉末Aの割合が95%を超える試料番号06の試料では、気孔の面積率が20%を下回るとともに、円相当径で60μmを超え80μm以下の気孔が0.5%を下回り、同時に円相当径で40μmを超え60μm以下の気孔の数が0.8%を下回り、潤滑油の供給能力が不十分となって摩擦係数は0.15まで増加している。
【0068】
以上のことから、多孔質鉄粉末Aに多孔質鉄粉末Bを添加することで気孔の状態を制御できることが確認された。また、気孔の面積率が20〜50%、気孔総数が800個/mm
2以上、かつ円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5%以下、円相当径で80〜100μmとなる気孔の数が気孔総数の1%以下、および円相当径で60〜80μmとなる気孔の数が気孔総数の0.5〜1.5%の範囲、円相当径で40μmを超え60μm以下の気孔の数が0.8〜3%の範囲で摩擦係数を低減できることが確認された。さらに、このような気孔状態とするためには、多孔質鉄粉末Aの割合を80〜95%の範囲とすればよいことが確認された。
【0069】
[第2実施例]
第1実施例で用意した多孔質鉄粉末Aを140メッシュの篩および325メッシュの篩でふるって140メッシュ篩上の粉末、140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末、および325メッシュ篩下の粉末の3種類に分級し、これらの分級した粉末を表2に示す割合に混合して粒度分布の異なる多孔質粉末Aを作製した。なお、表2以降の表において「−#nnn」はnnnメッシュ篩下、「+#mmm」はmmmメッシュ篩上の粉末という意味である。これらの多孔質鉄粉末Aに、第1実施例で用意した多孔質鉄粉末Bを8.8質量%(多孔質鉄粉末の量が鉄粉末の90%となる量)、電解銅粉末を5質量%、箔状銅粉末を6質量%および錫粉末1質量%を添加した原料粉末を用いて、第1実施例と同様にして、成形、焼結を行い、試料番号07〜10の焼結体試料を作製した。
【0070】
これらの焼結体試料についても、第1実施例と同様にして気孔の面積率、気孔総数、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表2に併せて示す。また、これらの焼結体試料について第1実施例と同様にして低温環境下での摩擦係数を測定した。この結果についても表2に併せて示す。なお、表2には、第1実施例の試料番号04の試料の値を併記した。
【0071】
【表2】
【0072】
表2の試料番号04、07〜10の試料により、多孔質鉄粉末Aの粒度分布を変更することによって気孔の状態を制御できることがわかる。試料番号07の試料は、140メッシュ篩上の粉末および140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末がそれぞれ14%および45%に満たず、325メッシュ篩下の粉末の量が多いために粒子間気孔が小さくなり、60μmを超え80μm以下の気孔および40μmを超え60μm以下の気孔の数が乏しく通気度が低いために潤滑油の供給能力が乏しく、摩擦係数が0.15となっている。
【0073】
一方、140メッシュ篩上の粉末が14%であり、140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末の量が45%の試料番号08では、適度の粒子間気孔が形成され、60μmを超え80μm以下の気孔の数が0.6%になるとともに40μmを超え60μm以下の気孔の数が0.8%となり、通気度が増加して潤滑油の供給能力が向上したために摩擦係数が0.13に低下している。また、140メッシュ篩上の粉末および140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末の量が増加するに従い、粒子間気孔が多く形成され、40μmを超える気孔の数が増加している。このため、140メッシュ篩上の粉末が14%より多く、かつ140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末の量が45%より多い試料番号04の試料では、通気度が適度に増加して潤滑油の供給能力が増加するため摩擦係数が0.11までさらに低下している。
【0074】
しかしながら、40μmを超える気孔の数が増加すると、これらの気孔から潤滑油が漏洩し易くなるため、140メッシュ篩上の粉末が29%であり、140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末が64%である試料番号09の試料では、摩擦係数が逆に増加している。そして、140メッシュ篩上の粉末が29%を超えるとともに、140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末が64%を超える試料番号10の試料では、円相当径で100μmを超える気孔が0.5%、円相当径で80〜100μmとなる気孔が1%、円相当径で60〜80μmとなる気孔が1.5%、および円相当径で40〜60μmとなる気孔が3%をそれぞれ超え、潤滑油の漏洩が著しくなって摩擦係数が0.15まで増加している。
【0075】
以上のことから、多孔質鉄粉末Aの粒度分布は、140メッシュ篩上の粉末が14〜29%、140メッシュ篩下かつ325メッシュ篩上の粉末が45〜64%とし、残部を325メッシュ篩下の粉末とすべきことが確認された。
【0076】
[第3実施例]
第1実施例で用意した多孔質鉄粉末Bを90メッシュの篩および140メッシュの篩でふるって90メッシュ篩上の粉末、90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末、および140メッシュ篩下の粉末の3種類に分級し、これらの分級した粉末を表3に示す割合に混合して粒度分布の異なる多孔質粉末Bを作製した。第1実施例で用いた多孔質鉄粉末Aに、これらの多孔質鉄粉末Bを8.8質量%(多孔質鉄粉末Aの量が鉄粉末の90%となる量)と、第1実施例で用いた電解銅粉末を5質量%、箔状銅粉末を6質量%および錫粉末1質量%を添加した原料粉末を用いて、第1実施例と同様にして、成形、焼結を行い、試料番号11〜14の焼結体試料を作製した。
【0077】
これらの焼結体試料についても、第1実施例と同様にして気孔の面積率、気孔総数、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表3に併せて示す。また、これらの焼結体試料について第1実施例と同様にして低温環境下での摩擦係数を測定した。この結果についても表3に併せて示す。なお、表3には、第1実施例の試料番号04の試料の値を併記した。
【0078】
【表3】
【0079】
表3の試料番号04、11〜16の試料により、多孔質鉄粉末Bの粒度分布を変更することによって気孔の状態を制御できることがわかる。試料番号11の試料では、90メッシュ篩上の粉末が0.5%に満たず、かつ90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末が20%に満たず、140メッシュ篩下の粉末の量が多いために粒子間気孔が小さくなるとともに、多孔質鉄粉末B内部の中空により形成される気孔も小さいものが多くなる。このため、60μmを超え80μm以下の気孔の数および40μmを超え60μm以下の気孔の数が乏しく通気度が低いため、潤滑油の供給能力が乏しく摩擦係数が0.16となっている。
【0080】
一方、90メッシュ篩上の粉末の量が0.5%、および90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の量が20%の試料番号12では、適度の粒子間気孔が形成されるとともに、多孔質鉄粉末B内部の中空により形成される気孔もある程度の大きさのものが増加して、40μmを超える気孔の数が充分となり、通気度が適度に増加して潤滑油の供給能力が向上したために摩擦係数が0.13に低下している。また、90メッシュ篩上の粉末および90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の量が増加するに従い、粒子間気孔が大きく形成されるとともに、多孔質鉄粉末B内部の気孔により形成される中程度の気孔の数が増加するため、40μm以上の気孔の数が増加している。このため、試料番号04の試料では、90メッシュ篩上の粉末および90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の量の増加に伴い摩擦係数がさらに低下している。
【0081】
しかしながら、90メッシュ篩上の粉末あるいは90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の量が過剰となると、多孔質鉄粉末B内部の中空により形成される中程度の大きさの気孔の数が過多となって、潤滑油の漏洩が生じ易くなる。このため、90メッシュ篩上の粉末の量が5%を超えるとともに、90メッシュ篩下かつ145メッシュ篩上の粉末の量が35%を超える試料番号14の試料では、円相当径で100μmを超える気孔が0.5%、円相当径で80〜100μmとなる気孔が1%、円相当径で60〜80μmとなる気孔が1.5%、および円相当径で40〜60μmとなる気孔が3%をそれぞれ超え、潤滑油の漏洩が著しくなって摩擦係数が0.16まで増加している。
【0082】
以上のことから、多孔質鉄粉末Bの粒度分布は、90メッシュ篩上の粉末が0.5〜5%、90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末が20〜35%、残部が140メッシュ篩下の粉末とすべきことが確認された。
【0083】
[第4実施例]
アトマイズ鉄粉末(中実、つまり内部に気孔を有さない)を用意し、このアトマイズ粉末を90メッシュの篩でふるって90メッシュ篩上の粉末を用意した。この分級したアトマイズ鉄粉末を、第3実施例において分級した多孔質鉄粉末Bに、表4に示す割合で添加して90メッシュ篩上の粉末の一部を中実のアトマイズ鉄粉末で置換した多孔質鉄粉末Bを作製し、第1実施例で用いた多孔質鉄粉末Aに、これらの多孔質鉄粉末Bを8.8質量%(多孔質鉄粉末Aの量が鉄粉末の90%となる量)と、第1実施例で用いた電解銅粉末を5質量%、箔状銅粉末を6質量%および錫粉末1質量%を添加した原料粉末を用いて、第1実施例と同様にして、成形、焼結を行い、試料番号15〜17の焼結体試料を作製した。
【0084】
これらの焼結体試料についても、第1実施例と同様にして気孔の面積率、気孔総数、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表5に示す。また、これらの焼結体試料について第1実施例と同様にして摩擦係数を測定した。この結果についても表5に併せて示す。なお、表4および表5には、第1実施例の試料番号04の試料の値を併記した。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
表4および表5より、多孔質鉄粉末Bの90メッシュ篩上の粉末の内部に有する50μm以上の中空状気孔の数の影響がわかる。試料番号04の試料は、90メッシュ篩上の粉末の85%が内部に50μm以上の気孔を有する粉末である。ここで、多孔質鉄粉末Bの90メッシュ篩上の粉末の一部を、中実のアトマイズ鉄粉末に置き換えて、90メッシュ篩上の粉末において内部に50μm以上の気孔を有するの粉末の割合を減少させると、内部に50μm以上の気孔を有する粉末の割合が減少するに従い、80μmを超え100μm以下の気孔の数および60μmを超え80μm以下の気孔の数が減少して通気度が低下し、摩擦係数が増加している。ここで、90メッシュ篩上の粉末の内部に50μm以上の気孔を有する粉末の割合が80%までは、摩擦係数が0.15未満であるが、90メッシュ篩上の粉末の内部に50μm以上の気孔を有する粉末の割合が80%未満となると、摩擦係数が0.15を超えている。
【0088】
以上のことから、多孔質鉄粉末Bの90メッシュ篩上の粉末の内部に50μm以上の気孔を有する粉末の割合は、該粉末に対して80%以上とすべきことが確認された。
【0089】
[第5実施例]
アトマイズ鉄粉末(中実、つまり内部に気孔を有さない)を用意し、このアトマイズ粉末を90メッシュの篩と140メッシュの篩でふるって90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末を用意した。この分級したアトマイズ鉄粉末を、第3実施例において分級した多孔質鉄粉末Bに、表6に示す割合で添加して90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の一部を中実のアトマイズ鉄粉末で置換した多孔質鉄粉末Bを作製し、第1実施例で用いた多孔質鉄粉末Aに、これらの多孔質鉄粉末Bを8.8質量%(多孔質鉄粉末Aの量が鉄粉末の90%となる量)と、第1実施例で用いた電解銅粉末を5質量%、箔状銅粉末を6質量%および錫粉末1質量%を添加した原料粉末を用いて、第1実施例と同様にして、成形、焼結を行い、試料番号18〜20の焼結体試料を作製した。
【0090】
これらの焼結体試料についても、第1実施例と同様にして気孔の面積率、気孔総数、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表7に示す。また、これらの焼結体試料について第1実施例と同様にして摩擦係数を測定した。この結果についても表7に併せて示す。なお、表6および表7には、第1実施例の試料番号04の試料の値を併記した。
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
表6および表7より、多孔質鉄粉末Bの90メッシュ篩上の粉末の内部に有する40〜60μmの中空状気孔の数の影響がわかる。試料番号04の試料は、90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の粉末の65%が内部に40〜60μmの気孔を有する粉末である。ここで、多孔質鉄粉末Bの90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末の粉末の一部を、中実のアトマイズ鉄粉末に置き換えて、90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末において内部に40〜60μmの気孔を有する粉末の割合を減少させると、その粉末の割合が減少するに従って通気度が低下し、摩擦係数が増加している。ここで、90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末において内部に40〜60μmの気孔を有する粉末の割合が60%までは、摩擦係数が0.15未満であるが、内部に40〜60μmの気孔を有する粉末の割合が60%未満となると、摩擦係数が0.15を超えている。
【0094】
以上のことから、多孔質鉄粉末Bの90メッシュ篩下かつ140メッシュ篩上の粉末において内部に40〜60μmの気孔を有する粉末の割合は60%以上とすべきことが確認された。
【0095】
[第6実施例]
第1実施例で用意した多孔質鉄粉末A、多孔質鉄粉末B、電解銅粉末、箔状銅粉末、および錫粉末を用いて、電解銅粉末の添加割合を表5に示す割合に変更し、銅粉末の添加量が異なる原料粉末を作製した。なお、多孔質鉄粉末Aと多孔質鉄粉末Bの割合は、多孔質鉄粉末Aの量が鉄粉末の70%となる量に調整して添加した。これらの原料粉末を用い、焼結後に第1実施例の焼結体寸法となるよう寸法が異なるコアロッドを用いて成形を行い、第1実施例と同様にして焼結して第1実施例と同様の寸法の円筒形焼結体を作製した。そして第1実施例と同様にしてそれら焼結体を再圧縮、すなわち再圧縮代は第1実施例と同じ条件として再圧縮を行い、試料番号21〜28の焼結体試料を作製した。これらの焼結体試料についても、第1実施例と同様にして気孔の面積率、気孔総数、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表9に示す。また、これらの焼結体試料について第1実施例と同様にして摩擦係数を測定した。この結果についても表9に併せて示す。なお、表8および表9には、第1実施例の試料番号04の試料の値を併記した。
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
表9より、全体組成におけるCu量が10質量%に満たない試料番号21の焼結含油軸受試料では、なじみ性を改善する銅合金相が乏しく、このため摩擦係数が0.15と高い値となっている。
【0099】
一方、全体組成におけるCu量が10質量%の試料番号22の焼結含油軸受試料では、銅合金相の量が充分となり摩擦係数が0.13まで低下している。また、全体組成におけるCu量が増加するに従い銅合金相の量が増加するため、Cu量が30質量%までは焼結含油軸受のなじみ性が増加して、摩擦係数がさらに低下している。一方、Cu量が増加するに従い鉄相が減少するため、気孔総数は減少しており、Cu量が30質量%を超える試料では摩擦係数が増加している。しかしながら、全体組成におけるCu量が59質量%までは気孔総数が800個/mm
2以上となっており、気孔総数は充分な数となっており、摩擦係数も0.13となっている。
【0100】
しかしながら、全体組成におけるCu量が59質量%を超える試料番号28の焼結含油軸受試料では、Cuが過多となって気孔総数が800個/mm
2を下回っているため、含油能力が乏しく、かつ円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔および60μmを超え80μm以下となる気孔の割合が過多となっているため、通気度が増加して油圧の漏洩が生じ、油膜が失われて金属接触が発生した結果、摩擦係数が0.17と増加している。以上のことから、Cu量は10〜59質量%の範囲とすべきことが確認された。