特許第6011836号(P6011836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人高知大学の特許一覧 ▶ 株式会社ソフィの特許一覧 ▶ 株式会社高南メディカルの特許一覧

<>
  • 特許6011836-低栄養状態改善組成物 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011836
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】低栄養状態改善組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/716 20060101AFI20161006BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20161006BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20161006BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   A61K31/716
   A23L7/10 E
   A23L33/21
   A61P3/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-3371(P2011-3371)
(22)【出願日】2011年1月11日
(65)【公開番号】特開2012-144469(P2012-144469A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2014年1月6日
【審判番号】不服2015-12927(P2015-12927/J1)
【審判請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594063474
【氏名又は名称】株式会社ソフィ
(73)【特許権者】
【識別番号】511009617
【氏名又は名称】株式会社高南メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】吾妻 健
(72)【発明者】
【氏名】野村 晴香
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 修美
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕倫
(72)【発明者】
【氏名】宮原 五彦
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 山本 吾一
【審判官】 穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−28307号公報
【文献】 特開2006−64828号公報
【文献】 特開2005−307150号公報
【文献】 特開2004−329077号公報
【文献】 特開平6−14727号公報
【文献】 J.Biochem.,1981年,Vol.90,pp.1093−1100
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 - 33/44
A61K 35/00 - 36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−1,3−1,6−グルカンと米飯を含むことを特徴とする低栄養状態改善組成物。
【請求項2】
米飯の原料である米に対してβ−1,3−1,6−グルカンを0.05mg/g以上、2mg/g以下含む請求項1に記載の低栄養状態改善組成物。
【請求項3】
米飯の原料である米に対してβ−1,3−1,6−グルカンを0.1mg/g以上、1mg/g以下含む請求項1に記載の低栄養状態改善組成物。
【請求項4】
β−1,3−1,6−グルカンがアウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans由来のものである請求項1〜3のいずれかに記載の低栄養状態改善組成物。
【請求項5】
β−1,3−1,6−グルカンの分子量が10,000以上、500,000以下である請求項1〜4のいずれかに記載の低栄養状態改善組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に長期入院中の高齢患者などの低栄養状態を改善するための組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我国では、人口の高齢化に伴い、高齢者の生活の質(Quality Of Life,QOL)をいかに維持するかが問題となっている。例えば食に関しては、高齢になると、食欲の低下、硬い食物を好まなくなるなど咀嚼力の低下や歯の損失による偏食、唾液分泌量や消化器官能力の低下、味覚の低下による糖分や塩分の摂取過多などにより栄養状態が悪化し、快適な日常生活が送ることができなくなってQOLが低下する傾向にある。特に、疾患や怪我により入院生活に入ると、運動不足が食欲の低下などに拍車をかけて栄養状態がさらに悪化し、症状が改善するどころかかえって悪化したり寝たきり状態となるなど、負のスパイラルに陥ることがある。
【0003】
厚生労働省の研究では、血清アルブミン値と体重減少率を指標にして高齢の入院患者や在宅療養者の栄養状態を調べたところ、じつに約3〜4割に低栄養状態が確認されたとのデータもある。
【0004】
高齢入院患者の低栄養状態を改善するには、例えば、栄養補助食品や濃厚流動食の使用が考えられる。しかし、特に認知症患者などは、馴染みのある食品以外の摂取を拒む傾向がある。そこで、これらをチューブなどにより無理やり摂取させると、そのこと自体がまさに患者のQOLを損なうことになる。
【0005】
低栄養状態を改善するための組成物として、例えば、特許文献1にはタンパク質と油脂を含む飲食物が開示されている。しかし、タンパク質と油脂とを含む飲食物では、従来の飲食物と変わりが無い。
【0006】
また、特許文献2には、ブラックペッパーの精油を有効成分として含み、経鼻的に投与する食欲不振改善剤が開示されている。しかし、特定の精油の経鼻投与のみで食欲不振が十分に改善されるとは、実際の現場を考慮すれば甚だ疑問であるし、特に認知症患者が経鼻投与を容易に受け入れるとは考え難い。
【0007】
高齢者などへの提供が志向されている食品が、特許文献3〜4に開示されている。しかし、これら食品は、ただ単にカロリーや柔らかさ、タンパク質含量などが規定されているに過ぎず、従来の食品に対する特徴が明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2002/094039号パンフレット
【特許文献2】特開2007−84515号公報
【特許文献3】特開2010−273670号公報
【特許文献4】特開2008−29208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、人口高齢化に伴って特に高齢入院患者の低栄養状態が問題となっており、かかる状態を改善するための技術も検討されてはいるが、実際の現場において十分に有効なものは未だ開発されていない。
【0010】
そこで本発明は、特に長期入院中の高齢患者などの低栄養状態を現実的かつ有効に改善できる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、我国の主食である米飯にβ−グルカンを加えた組成物であれば、高齢者にも違和感無く受け入れられ、且つ通常の米飯に比べて栄養状態を顕著に改善できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明に係る低栄養状態改善組成物は、β−1,3−1,6−グルカンと米飯を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の低栄養状態改善組成物においては、米飯の原料である米に対するβ−1,3−1,6−グルカンの割合を0.05mg/g以上、2mg/g以下、さらには0.1mg/g以上、1mg/g以下とすることが好ましい。当該割合が0.05mg/g以上であれば、米飯に対するβ−1,3−1,6−グルカンの割合が十分であるため、一食毎にβ−1,3−1,6−グルカンの作用効果をより確実に発揮せしめることが可能になる。かかる観点から、当該割合としては0.1mg/g以上がより好ましい。一方、当該割合が2mg/g以下であれば、β−1,3−1,6−グルカン水溶液の粘度が過剰に高まらないため、米の炊飯時における対流をより確実に維持でき、味の低下を抑制することができる。当該割合が1mg/g以下であれば、かかる効果をより確実なものとすることができる上に、米飯が御粥ではなく通常の御飯である場合にも、米本来の味を維持することが可能になる。
【0014】
本発明の低栄養状態改善組成物において、β−1,3−1,6−グルカンとしてはAureobasidium pullulans由来のもの、また、分子量が10,000以上、500,000以下であるものが好適である。当該β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合の低栄養状態改善効果は、後述する実験結果により確認されている。また、当該分子量が500,000以下であれば、β−1,3−1,6−グルカン水溶液の粘度もそれほど過剰に高くなることはなく、組成物の製造がより容易となる。
【発明の効果】
【0015】
近年、人口の高齢化に伴って、特に高齢の長期入院患者の低栄養状態が問題となっている。かかる低栄養状態を改善すべく、栄養補助食品などを与えようとしても、認知症患者などでは慣れ親しんだ食品以外のものを一切摂取しないことが往々にしてある。そこで、流動食や栄養剤をチューブや点滴で投与すれば、その行為自体が患者のQOLを損なうことになる。
【0016】
本発明に係る低栄養状態改善組成物は、通常の米飯と外観が変わらず、また、風味もほぼ同じであり、必要であればβ−1,3−1,6−グルカン特有の風味は容易にマスキング可能であることから、通常の米飯と同様に摂取せしめることができる。米飯は我国の常食であり、高齢者も長年慣れ親しんでいる食品であるため、本発明に係る低栄養状態改善組成物であれば抵抗なく受け入れる。また、通常の米飯を恒常的に摂取している場合に比べて、本発明に係る低栄養状態改善組成物を摂取すれば、低栄養状態を有意に改善することが可能である。
【0017】
従って本発明組成物は、低栄養状態を改善するためのものとして現場の切実な要求に応えることができるものであり、高齢化社会にも対応できるものとして、非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、従来の御粥を摂取し続けた場合の高齢長期入院患者の血清アルブミン値と、それに代わって御粥状の本発明組成物を摂取し続けた場合の血清アルブミン値とを比較するためのグラフである。図中、「*」は危険率p<0.05で有意差がある場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る低栄養状態改善組成物は、β−1,3−1,6−グルカンと米飯を含むことを特徴とし、従来の米飯の代わりの食品として用いることができ、また、後述する実験結果のとおり低栄養状態を有意に改善することができるので、低栄養改善剤として用いることができる。
【0020】
β−1,3−1,6−グルカンは、D−グルコースがβ−1,3結合で結合した主鎖の第6位に、D−グルコースがβ−1,6結合で置換した多糖類である。かかる多糖類は、ヒト体内では分解や代謝はされないはずであるが、後述する実験結果のとおり、β−1,3−1,6−グルカンを添加すれば、米飯単独では解決できなかった低栄養状態を改善できた。その理由は必ずしも明らかではないが、β−1,3−1,6−グルカンが他の食品の消化吸収を促進することが考えられる。
【0021】
β−1,3−1,6−グルカンとしては、例えばその分子量や側鎖における置換率により、様々なものがある。
【0022】
分子量としては、10,000以上、500,000以下のものが好適である。上述したようにβ−1,3−1,6−グルカンはヒト体内では分解や代謝はされないので、食物繊維様の効果が期待できる。かかる効果をより確実に発揮するためには、当該分子量は10,000以上が好ましい。一方、当該分子量が大き過ぎると、その水溶液の粘度が過剰に高くなり製剤化が難しくなるおそれがあり得、また、組成物の硬度が過剰に高まって食べ難くなるおそれがあり得るため、当該分子量としては500,000以下が好ましい。当該分子量としては、20,000以上がより好ましく、50,000以上がより好ましく、100,000以上がさらに好ましく、200,000以上が特に好ましく、また、350,000以下がより好ましく、320,000以下がさらに好ましい。なお、β−1,3−1,6−グルカンの分子量は、ゲル濾過法などにより測定することができる。ゲル濾過法による分子量の測定は、多孔質担体を充填したカラムから分子量が既知の標準高分子溶液を溶出させ、各標準高分子の溶出体積と分子量から検量線を作成した後、測定すべき試料溶液を同様のカラムから溶出させ、検量線から試料溶液に含まれる高分子の分子量を求めることにより行われる。
【0023】
β−1,3−1,6−グルカンの構造としては、主鎖を構成するD−グルコースの6位に、1分子のD−グルコースのみがβ−1,6結合により結合しているものが好ましい。さらに、その分岐しているD−グルコースが、置換基として極性基を有して電荷を持ち、β−1,3−1,6−グルカン全体として水溶性を有することが好ましい。β−1,3−1,6−グルカンの側鎖分岐率、即ち、主鎖グルコースを構成するD−グルコースのモル数に対する、主鎖グルコースの6位にβ−1,6結合により結合しているD−グルコースのモル数の割合としては、60%以上、100%以下が好ましい。当該側鎖分岐率が高いほどβ−1,3−1,6−グルカンの水中での立体構造が安定し、水溶性が高まることから、当該側鎖分岐としては60%以上が好ましい。当該割合としては70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましい。一方、当該側鎖置換率が100%であるβ−1,3−1,6−グルカンは容易に入手し難い場合があり得るので、当該側鎖置換率としては98%以下がより好ましく、95%以下がさらに好ましい。
【0024】
β−1,3−1,6−グルカンは菌体を構成する構造多糖であるので、通常、単離精製が非常に難しいといえる。しかし、真菌類であるAureobasidium pullulansの中には菌体外へβ−1,3−1,6−グルカンを放出するものがあり、そのような真菌を用いれば単離精製が容易である。また、Aureobasidium pullulansに属するFO−68株(受託番号:FERM P−19327)が産生するβ−1,3−1,6−グルカンは、上記の好適な分子量や側鎖分岐率を示すものとして、非常に有用である。
【0025】
なお、FO−68株は、下記の通り寄託機関に寄託されている。
(i) 寄託機関の名称およびあて名
名称: 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名: 日本国茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6
(ii) 受託日: 平成15年4月23日
(iii) 受託番号: FERM P−19327
【0026】
β−1,3−1,6−グルカンは、市販のものを用いてもよいし、Aureobasidium pullulansの培養液から単離精製してもよい。Aureobasidium pullulansの培養液から単離精製するには、特開2004−329077号公報を参考にすればよい。
【0027】
本発明における米飯とは、米を炊飯した食物をいい、通常の米飯の他、御粥も含まれる。本発明で用いられる米の種類は特に制限されず、白米、玄米、発芽玄米、無洗米などを用いることができる。また、通常の御飯と御粥とは水の量が異なるのみであり、本発明の米飯には、通常の御飯、軟飯、全粥、七分粥、五分粥、三分粥、一分粥などが含まれ、炊飯した米である限り、特にその呼び名などは制限されない。
【0028】
本発明に係る低栄養状態改善組成物は、米の炊飯において、水の代わりにβ−1,3−1,6−グルカンの水溶液を用いることにより作製することができる。
【0029】
β−1,3−1,6−グルカンの水溶液を調製する際には、β−1,3−1,6−グルカンを水へ一気に加えると、水に馴染まず固まりが生じて均一溶液にし難くなる場合があるので、水をよく攪拌しながら少量ずつβ−1,3−1,6−グルカンを加えることが好ましい。このように、先ず高濃度のβ−1,3−1,6−グルカン水溶液を調整してから、当該水溶液をよく攪拌しながら少量ずつ水を加えていってもよい。また、当該水溶液の濃度が高すぎるとその粘度も高くなり過ぎるため、当該水溶液の濃度は0.2質量%以下とすることが好ましい。一方、当該濃度が低過ぎると米に対するβ−1,3−1,6−グルカンの量が十分にならないおそれがあり得るため、当該濃度としては0.02質量%以上が好ましい。
【0030】
通常、米の炊飯に用いられる水の量は、使用されるβ−1,3−1,6−グルカン水溶液の量よりも多いので、研いだ米にβ−1,3−1,6−グルカン水溶液を加えた後、最終的な組成物が通常の御飯状であるか、御粥状であるかなどにより、必要量の水を加えればよい。
【0031】
米飯の原料である米に対するβ−1,3−1,6−グルカンの割合は、最終的に所望される組成物の状態により調節すればよい。例えば、当該割合の下限はβ−1,3−1,6−グルカンの効果が発揮できる範囲で適宜設定すればよく、0.05mg/g以上が好ましく、0.1mg/g以上がより好ましい。一方、当該割合の上限に関しては、最終的な組成物が通常の御飯状である場合、米に対するβ−1,3−1,6−グルカンの割合が多過ぎると、炊飯時におけるβ−1,3−1,6−グルカン水溶液の粘度が高くなって対流が起こり難くなり、焦げなどの原因になり得るため、当該割合は1mg/g以下とすることが好ましい。しかし、最終的な組成物が御粥である場合には、使用できる水の量が増え、かかる問題はより起こり難くなるため、当該割合の上限を2mg/gまで高めてもよい。
【0032】
なお、本発明組成物が御粥状である場合には、水分量が多いため、通常の御粥を調製した後、必要量のβ−1,3−1,6−グルカンを添加してもよい。
【0033】
本発明組成物におけるβ−1,3−1,6−グルカンの割合は、摂取者が1回当たりに摂取する組成物の量と、β−1,3−1,6−グルカンの量に応じて決定すればよい。なお、1回当たりのβ−1,3−1,6−グルカンの量は、摂取者の性別、年齢、状態、患者であれば疾患の重篤度などに応じて適宜決定すればよいが、例えば、15mg以上、70mg以下とすることができる。1回当たりの摂取量が15mg以上であれば、本発明の効果を十分に発揮せしめることが可能になる。一方、摂取量が多過ぎると、β−1,3−1,6−グルカン独特の風味が米飯の風味を損ない、特に高齢者が本発明組成物に対して拒否反応を示すことがあり得るため、1回当たりの摂取量としては70mg以下が好ましい。
【0034】
また、本発明組成物の1日当たりの摂取回数は特に制限されないが、摂取者の米飯に代えて摂取させればよい。例えば、摂取者のそれまでの食習慣が、朝はパン食、昼と夜が米食であった場合、本発明組成物を昼と夜の2回提供すればよい。但し、本発明組成物は、摂取後すぐに効果が得られるものではなく、恒常的な摂取により効果を示すので、1日当たりの摂食回数としては1回以上、3回以下が好ましく、2回または3回がより好ましく、3回がさらに好ましい。
【0035】
本発明組成物は、数回摂取するのみで効果が得られるものではなく、ある程度の期間、恒常的に摂取することが好ましい。摂取期間としては、7日間以上が好ましく、14日間以上がより好ましく、28日間以上が特に好ましい。一方、β−1,3−1,6−グルカンには害は認められていないので当該摂取期間の上限は特に制限されず、長ければ長いほど良いが、β−1,3−1,6−グルカンが組成物の味を損なうこともあり、特に高齢者などの摂取者が摂取を拒む場合には、本発明組成物の1日当たりの提供回数を減らしたり、また、提供を間欠的にしてもよい。
【0036】
本発明組成物におけるβ−1,3−1,6−グルカンの割合が多いと、β−1,3−1,6−グルカン特有の風味が顕在化することがあるが、かかる風味は容易にマスキングすることができる。例えば、米の炊飯時において、β−1,3−1,6−グルカンに加え、ミネラル類、トレハロース、シクロデキストリンを添加したり、また、生姜などの香辛料や香り米などを用いることもできる。さらに、炊飯後の本発明組成物に、摺り胡麻、海苔、梅干など、香りや味の強いものを添加してもよい。
【0037】
本発明に係る低栄養状態改善組成物は、従来の米飯に代えて恒常的に摂取させることにより、低栄養状態を有意に改善できる。また、本発明組成物は、従来の米飯の代わりに用いることができるため、特に高齢者にも受け入れられ易い。よって、本発明に係る低栄養組成物は、低栄養状態にある高齢の長期入院患者であって、従来の栄養補助食品や濃厚流動食による対策を取り難く、その処遇に現場が非常に困っていた患者に対して、特に有用である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0039】
実施例1 本発明に係る低栄養状態改善組成物の調製
市販の0.4質量%β−グルカン水溶液(ソフィ社製,分子量:約100,000〜500,000,側鎖分岐率:約90%,Aureobasidium pullulans由来)を攪拌しつつ、水道水を常温で少量ずつ加えていき、0.08質量%のβ−グルカン水溶液を調製した。
【0040】
米を通常とおり研いだ後、全ての米が浸かる程度に水道水を加え、常温で約15分間静置した。次いで、軽く水切りし、米100gに対して約100mLの割合で上記β−グルカン水溶液を加え、さらに御粥用に水道水を追加した上で炊飯することにより、β−グルカン入りの御粥を調製した。なお、当該御粥では、約260g中にβ−グルカンが40mg含まれていた。なお、当該組成物において、原料である米に対するβ−1,3−1,6−グルカンの割合は、0.8mg/gである。
【0041】
試験例1
長期にわたり入院している高齢者患者であって、少なくとも直前2回の6ヵ月毎の定期健診を受けており、且つ御粥を常食としている7名の患者に、定期健診の6週間前から通常の御粥に代えて上記実施例1に従って調製したβ−グルカン入り御粥を毎食約260gずつ摂取させた。なお、被験者の年齢や症状などは、表1のとおりである。
【0042】
【表1】
【0043】
定期健診の血液検査による血清アルブミン値を、直前2回の値とともに図1に示す。図中の「*」は、T検定により危険率p<0.05で有意差がある場合を示す。また、「−2回目検査」は、本発明組成物の摂取後の検査から前々回の定期健診における血液検査の結果を示し、「−1回目検査」は、本発明組成物の摂取後の検査の前の定期健診における血液検査の結果を示す。
【0044】
図1の結果のとおり、本発明組成物の摂取開始前から御粥は提供されていたが、栄養状態の指標である血清アルブミン値は比較的低かった。それに対し、通常の御粥に代えて本発明組成物を6週間摂取させたところ、アルブミン値は有意に向上し、栄養状態の改善が認められた。また、本発明組成物は、高齢患者に違和感無く受け入れられた。
【0045】
また、厚生労働省により平成21年3月に作成された「栄養改善マニュアル(改訂版)」によると、低栄養状態のリスクの判断では、血清アルブミン値3.0g/dL未満が高リスク、3.0〜3.5g/dLが中リスク、3.6g/dL以上を低リスクが分類に分類されている。今回の検査結果を当該リスク判断に当てはめると、本発明に係る低栄養状態改善組成物(β−グルカン入り御粥)の摂取前における血液検査で、栄養状態が中リスクに分類されていた5名中3名が、本発明に係る低栄養状態改善組成物の摂取により低リスクに移行し、また、高リスクに分類されていた2名中1名が中リスクに移行し、栄養状態の改善が認められた。
【0046】
以上の結果のとおり、本発明に係る低栄養状態改善組成物は、高齢患者にも通常の米飯と同様に摂取させることができるものである上に、低栄養状態を有意に改善できることが実証された。
図1