特許第6011852号(P6011852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011852
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】ポリマー材料の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/18 20060101AFI20161006BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C08J7/18
   C08J7/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-210853(P2012-210853)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-65784(P2014-65784A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】中村 挙子
(72)【発明者】
【氏名】大花 継頼
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307110(JP,A)
【文献】 特開平05−078419(JP,A)
【文献】 特開平08−245440(JP,A)
【文献】 特開平08−268934(JP,A)
【文献】 特開2005−319398(JP,A)
【文献】 特開2005−200272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/04
C08J 7/00− 7/02
C08J 7/12− 7/18
C07B31/00− 63/04
C07C 1/00−409/44
C08C19/00− 19/44
C08F 6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるペルフルオロアゾアルカンの存在下で、ポリマー材料表面に200nm以下の波長を有する紫外光を30分以下の時間、10〜50mW/cm2の範囲の光量で照射することにより、ポリマー材料の表面にペルフルオロアルキル基を化学結合させることを特徴とするポリマー材料の表面処理方法。
FN=NRF (1)
(式中、RFはペルフルオロアルキル基を示す。)
【請求項2】
ペルフルオロアルキル基の炭素数が5〜8であることを特徴とする請求項1に記載のポリマー材料の表面処理方法。
【請求項3】
ペルフルオロアゾアルカンを添加したペルフルオロアルカン溶媒中で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリマー材料の表面処理方法。
【請求項4】
ペルフルオロアゾアルカン1mgに対してペルフルオロアルカン溶媒を0.1ml〜5ml使用することを特徴とする請求項に記載のポリマー材料の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料の表面処理方法に関し、特に、ポリマー材料の表面上にフッ素官能基を導入することにより表面を改質する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマー材料表面に、撥水性、撥油性、防汚性、離型性、潤滑性、耐薬品性、抗血栓性等を付与するために、フッ素又はフッ素官能基を導入することにより表面を改質することが知られており、例えば、樹脂基材の表面に原子状フッ素ビームを照射することにより樹脂基板表面を改質させる方法(特許文献1)、基材表面上のカルボキシル基とフッ素系アルコールをエステル化反応させることにより、優れた剥離性、金型離型性等の成形加工性を付与する方法(特許文献2)、含フッ素化合物のプラズマ処理により表面改質を行う方法(特許文献3)、或いはフッ素ガスに曝露させる方法(特許文献4)等がある。
【0003】
しかしながら、これらの方法においては大型装置が必要である、或いは、有毒であって、その取り扱いが困難であるフッ素ガスを使用する必要がある等の問題がある。このような特殊材料ガスを使用する場合、特別な反応容器が必要となり、操作も煩雑となる。また、エステル化反応による方法は、基材表面上の反応性官能基がカルボキシル基に限定されるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−016686号公報
【特許文献2】特開2007−217498号公報
【特許文献3】特開2006−272265号公報
【特許文献4】特開2003−257490号公報
【特許文献5】特開2011−052276号公報
【特許文献6】特許第3837567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のポリマー表面改質方法における現状を鑑みてなされたものであって、従来この種の方法に用いられてきたフッ素等の有毒ガスを使用することなく、プラズマ処理のための大型装置を使用することなく、またフッ素官能基含有前駆体を合成するための煩雑な操作を施すことなく、安全、かつ簡便にポリマー材料表面上にフッ素官能基を導入する方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、種類によっては耐熱性、耐光性に劣るポリマー材料表面上に、基材を加熱することなく、光照射による基材劣化を起こすことなく、ポリマー材料表面上にフッ素官能基を導入する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等は、ダイヤモンド、ダイヤモンド様薄膜(DLC膜)、或いはカーボンナノチューブなどのカーボン系材料の表面改質法として、フッ素官能基化に関するアゾアルカンの光反応を利用した手法を開発している(上記特許文献5、6)。しかしながら、当該手法は、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性等に優れたカーボン系材料に適用するために開発された手法であり、加熱や光照射に敏感なポリマー材料の表面改質に基材の劣化なく適用できるかどうかは全く不明であった。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリマー材料に、ペルフルオロアゾアルカンの存在下に紫外光を照射すると、光照射による基材劣化を起こすことなく、ポリマー材料表面上にペルフルオロアルキル基を化学的に結合させることができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]下記一般式(1)で表されるペルフルオロアゾアルカンの存在下で、ポリマー材料表面に紫外光を照射することにより、ポリマー材料の表面にペルフルオロアルキル基を化学結合させることを特徴とするポリマー材料の表面処理方法。
FN=NRF (1)
(式中、RFはペルフルオロアルキル基を示す。)
[2]ペルフルオロアルキル基の炭素数が5〜8であることを特徴とする[1]に記載のポリマー材料の表面処理方法。
[3]波長180〜300nmの紫外光を照射することを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリマー材料の表面処理方法。
[4]光量を0.1〜50mW/cm2の範囲で照射することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のポリマー材料の表面処理方法。
[5]ペルフルオロアゾアルカンを添加したペルフルオロアルカン溶媒中で行うことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のポリマー材料の表面処理方法。
[6]ペルフルオロアゾアルカン1mgに対してペルフルオロアルカン溶媒を0.1ml〜5ml使用することを特徴とする[5]に記載のポリマー材料の表面処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ペルフルオロアゾアルカンに紫外光照射をするだけの簡便な反応操作により、ポリマー材料表面上にフッ素官能基を導入することができるという優れた効果を有する。また、従来用いられてきた有毒ガスを使用することがなく、安全に、煩雑さを伴うことなく、ポリマー材料の表面に、前記ペルフルオロアルキル基を結合させることができるという著しい効果がある。また、種類によっては耐熱性、耐薬品性、耐光性に劣るポリマー材料において、室温下での反応および無溶媒での反応も可能であることから、適切な反応手法を用いることにより広範囲でのポリマー材料への適用が可能となり、また光照射による基材劣化を起こすことなく、ポリマー材料表面上にフッ素官能基を導入する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ペルフルオロアゾオクタン溶液にシート状又は板状のポリマー材料を浸漬させた後、キセノンエキシマランプを照射して得られる、表面処理を施されたポリマー材料のXPSスペクトルである。
図2】ペルフルオロアゾオクタン溶液に板状のポリメチルメタクリレートを浸漬させた後、キセノンエキシマランプを照射して得られる、表面処理を施されたポリメチルメタクリレートの紫外可視スペクトルである。
図3】ペルフルオロアゾオクタン溶液にシート状ポリ塩化ビニルを浸漬させた後、キセノンエキシマランプを照射して得られる、表面処理を施されたポリ塩化ビニルの紫外可視スペクトルである。
図4】粉末状又は粒状のポリマー材料存在下、ペルフルオロアゾオクタン溶液にキセノンエキシマランプを照射して得られる、表面処理を施されたポリマー材料のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法で用いられるポリマー材料は、各種汎用性ポリマーおよび機能性ポリマーを使用することができる。ポリマー材料の形状としての制限はなく、板状、膜状、粉末状、ペレット状等広く使用することができる。
【0012】
本発明において、前記ポリマー材料表面にフッ素官能基を化学結合させるために用いるペルフルオロアゾアルカンは、下記一般式(1)で表される化合物である。
FN=NRF (1)
(式中、RFは、ペルフルオロアルキル基を示す)。
前記ペルフルオロアゾアルカンのペルフルオロアルキル基の炭素数は、1〜12、好ましくは、1〜8、より好ましくは、5〜8である。具体的には、ペルフルオロアゾオクタン、ペルフルオロアゾヘプタン、ペルフルオロアゾヘキサン、ペルフルオロアゾペンタン等を用いることができる。
本発明方法の反応においては、これらのペルフルオロアルカンの鎖長による反応性の差はない。上記のペルフルオロアゾアルカンは例示であり、他のペルフルオロアゾアルカンを使用することもできる。
【0013】
本発明の方法に際しては、前記ペルフルオロアゾアルカンを溶媒に溶解させた溶液を用いる手法、ペルフルオロアゾアルカンを気体として反応容器に導入する手法、ペルフルオロアゾアルカン溶液に浸漬させた後に反応を行う手法などドライプロセスおよびウェットプロセスの双方を利用することができる。
【0014】
本発明の方法において、前記ペルフルオロアゾアルカンを溶媒中に溶解させた溶液を用いる場合、推奨される溶媒は、ペルフルオロアゾアルカンを溶解するが、ポリマー材料を溶解しない溶媒である、ペルフルオロアルカンである。このペルフオロアルカンの具体例としては、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタンなどをあげることができる。原料物質であるペルフルオロアゾアルカンは通常の有機溶媒に溶けにくいので、これらの溶媒を使用するのが望ましい。
溶媒量は、ペルフルオロアゾアルカンの使用量に応じて決定する。ペルフルオロアゾアルカンを溶媒中に保存することができる量であれば差し支えないが、十分に溶媒中に混和することができ、かつ反応に際して光照射を十分に行うことができる量を必要とする。
このようなことを考慮して、ペルフルオロアゾアルカン1mgに対して、0.1ml以上、5ml以下のペルフルオロアルカンを使用することが望ましい。
【0015】
本発明の表面処理方法に際しては、前記一般式(1)で表されるペルフルオロアゾアルカンの脱窒素反応によるペルフルオロアルキルラジカルの発生が必要であることから、前記ペルフルオロアゾアルカン存在下で、ポリマー材料に光照射を行う。波長は180nm〜300nmとするのが好適である。
【0016】
光源としては公知のものが用いることができる。その例を挙げると、低圧水銀灯、高圧水銀灯、ArFまたはXeClエキシマレーザー、エキシマランプ等である。このように、本発明は、広範囲の波長の光を利用できる。
反応の高効率化のためには、200nm以下の波長を有する紫外光照射下に反応を行うことが好ましい。
【0017】
照射される光量の好ましい範囲は、0.1〜50mW/cm2の範囲である。また、照射時間は、10分〜3時間程度とするのが望ましい。これらの条件は、前記範囲外の条件を使用することも可能である。前記は好ましい範囲であり、必ずしもこれに特に制限されるものではない。
【0018】
本発明の表面処理反応は、室温下で容易に進行する。これは、本発明の大きな特徴の一つでもある。しかし、加熱を否定するものではない。必要に応じて加熱することも可能である。
【0019】
このようにして得られるフッ素官能基化ポリマー材料を分析機器により、表面に前記ペルフルオロアルキル基が化学結合しているかどうかを確認する。各種の分析機器を用いることができるが、XPSなどによりフッ素の存在を確認することができ、水に対する接触角測定によってフッ素官能基導入による撥水性を確認することができる。
また、本発明の方法によれば、フッ素官能基はポリマー材料表面上にのみ化学結合しており、基材であるポリマー材料のバルク特性には影響を与えないことから、透明性を有するポリマー材料に本発明の手法を適用した場合には、ポリマー材料基材の透明度を保持することが可能である。
【0020】
本発明では、ポリマー材料にペルフルオロアルキル基を化学結合させることができる結果、フッ素原子を含んだ官能基をその表面に結合させることができるので、撥水性、撥油性、潤滑性、耐薬品性、抗血栓性を付与することができる。その際に熱的、化学的に安定であり、極限環境に耐える特性を付与することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
以下の、大きさが20mm×20mmのシート状又は板状のポリマー材料を、ペルフルオロアゾオクタン(30mg)のペルフルオロヘキサン溶液(10ml)に浸漬させた後に溶媒を除去し、各ポリマー材料を、キセノンエキシマランプ(ウシオ電機製 SUS06 光化学実験用エキシマ光照射ユニット)を用いて室温で15分間照射した。紫外光照射の波長は172nmである。
・ポリエチレン:アズワン(株) 1mm厚
・ポリプロピレン:(株)サンプラテック 1mm厚
・ポリメチルメタクリレート:三菱レイヨン(株) アクリライト 2mm厚
・ポリ塩化ビニル:アズワン(株) 0.8mm厚
・ABS樹脂:(株)サンプラテック 1mm厚
その後、ポリマー材料をペルフルオロヘキサンで超音波洗浄し、減圧下で乾燥を行った。
【0023】
反応後のポリマー材料のXPS測定を、アルバック・ファイ製ESCA 5800 X線光電子分光分析装置を用いて行ったところ、図1に示すとおり、フッ素に由来するピークが観測され、表面上にフッ素官能基が導入されたことが確認された。
また、表面処理を施されたポリマー材料の水に対する接触角を、エルマ製 G-1-1000 接触角測定器を用いて測定した。
結果を、以下の表1に示す。なお、表内の値は、反応前後のポリマー材料の5箇所に水滴を滴下した後に接触角を測定し、その平均を取ったものである。
表1から明らかなように、水に対する接触角が104〜113°を示し、高い撥水性が付与されたことが分かる。
【0024】
【表1】
【0025】
さらに、透明性ポリマー材料(ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル)について紫外可視分光光度計を用いて透過度を測定したところ、図2、3に示すとおり、フッ素官能基化ポリマー材料の透過度は反応処理前と比較してほとんど変化がなく、フッ素官能基導入の基材への影響は少ないことが確認された。
【0026】
(実施例2)
合成石英製の反応容器に、以下の粉末状又は粒状のポリマー材料およびペルフルオロアゾオクタン(15mg)のペルフルオロヘキサン溶液(4ml)を入れ、キセノンエキシマランプを室温で30分間照射した。紫外光照射の波長は172nmである。
・ポリエチレン:アルドリッチ製 332119 粉末状
・ポリエチレンテレフタレート:アルドリッチ製 429252 粒状
その後、ポリマー材料をペルフルオロヘキサンで超音波洗浄し、減圧下で乾燥を行った。
反応後のポリマー材料のXPS測定を行ったところ、図4に示すとおり、フッ素に由来するピークが観測され、表面上にフッ素官能基が導入されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の方法によれば、ポリマー材料の表面にペルフルオロアルキル基を化学結合させることにより、撥水性、撥油性、潤滑性、耐薬品性、抗血栓性を付与することができるので、本発明の方法により表面処理されたポリマー材料は、電池用セパレーター部材、撥水性および撥油性部材、無電解めっき技術、摺動部品、磁気記録媒体、インプリント用モールド、医療用材料等に適用することが可能となる。
図1
図2
図3
図4