(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011854
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】湾曲反射面を有する固体セルを用いた超音波マイクロマニピュレーション方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B81B 1/00 20060101AFI20161006BHJP
B01J 19/10 20060101ALI20161006BHJP
G01N 37/00 20060101ALN20161006BHJP
【FI】
B81B1/00
B01J19/10
!G01N37/00 101
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-242864(P2012-242864)
(22)【出願日】2012年11月2日
(65)【公開番号】特開2014-91195(P2014-91195A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】小塚 晃透
(72)【発明者】
【氏名】安井 久一
(72)【発明者】
【氏名】江口 穫正
【審査官】
矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−040647(JP,A)
【文献】
特開平11−352048(JP,A)
【文献】
特開平07−047259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
B01J 19/10
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面部又は内部に、少なくとも一対の壁部と底部により構成され、微小物体が分散された液体媒体のための入口と出口を有するマイクロ流路を備え、前記マイクロ流路は直線流路と途中で二股に分岐した分岐流路よりなり、前記直線流路と前記分岐流路の分岐点に設けられた溜まり場を有し、一方の壁部の側面に前記直線流路に平行となるように超音波振動子が取り付けられた固体セルを用い、前記マイクロ流路に、微小物体が分散した液体媒質を流し、前記超音波振動子からの超音波を前記マイクロ流路の下部を進行波として伝搬させ、前記マイクロ流路の前記超音波振動子の側面に対向する湾曲した壁部で超音波を反射させて反射波とし、前記固体セル部分から前記マイクロ流路に伝搬させ、前記微小物体に音響放射圧を作用させることにより、前記媒体中の微小物体の流れの方向を制御することを特徴とする超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
【請求項2】
前記固体セルとして、前記超音波振動子を取り付ける面が平面で、対向する端面部が湾曲して放物面の曲率を持つものを用いることを特徴とする請求項1に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
【請求項3】
前記固体セルとして、前記マイクロ流路の分岐点に設ける溜まり場の形状が断面半円形の柱状又は球状であり、その中心が前記湾曲状の端面部の焦点位置に設定されているものを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
【請求項4】
前記超音波振動子に一定の周波数を印加することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
【請求項5】
固定セルから構成される超音波非接触マイクロマニピュレーション装置であって、
前記固定セルが、上面部又は内部に、少なくとも一対の壁部と底部とにより構成され、微小物体が分散された液体媒体のための入口と出口を有するマイクロ流路を備え、前記マイクロ流路は直線流路と途中で二股に分岐した分岐流路よりなり、前記直線流路と前記分岐流路の分岐点に、前記微小物体の操作のための溜まり場が設けられ、一方の壁部の側面に前記直線流路と平行となるように超音波振動子が設けられ、これと対向する壁部の端面部が湾曲状に形成されてなることを特徴とする超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
【請求項6】
前記超音波振動子を取り付ける面が平面で、対向する壁部の端面部が湾曲して放物面の曲率を持つことを特徴とする請求項5に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
【請求項7】
前記マイクロ流路の分岐点に設ける溜まり場の形状が断面半円形の柱状又は球状であり、その中心が前記湾曲状の端面部の焦点位置にあることを特徴とする請求項5又は6に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
【請求項8】
前記超音波振動子に一定の周波数を印加することを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲反射面を有する固体セルを用いた超音波マイクロマニピュレーション方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスレンズの研磨工程において、酸化セリウム粒子が研磨剤として用いられている。酸化セリウム粒子は、ガラスレンズを研磨する過程で粒子自身が微細化して、研磨能力が低下する。一定時間使用された研磨剤は研磨能力が劣り、またガラスの削りくずも含まれ、これはレンズを傷つける原因となるため、一括して廃棄されている。しかし、その中にはまだ研磨能力を持つ大きめの粒子も含まれているため、これらの粒子を回収して再利用することが望まれている。
【0003】
ところで、従来より、微小物体をハンドリングするためのマイクロマニピュレーション方法が、バイオテクノロジー、マイクロマシン、材料開発等の分野において強く求められており、種々の方法が提案されている。これらの方法で利用されるハンドリング技術としては、例えば、従来のピンセットなどの物体をハンドリングする機構をスケールダウンしたもの、静電気を用いたもの、レーザ光の放射圧を用いたもの等が挙げられる。
【0004】
しかし、微小物体が分散している領域では固体の摩擦、液体の粘性が大きく作用し、また、従来のスケールでは無視できた微小なほこり等も前記領域では大きな障害物となるため非接触で力を作用させる必要があり、従来の機構をスケールダウンしたものでは正確にハンドリングすることができない。
【0005】
静電気を用いた微小物体のハンドリングは動作距離が短く、しかも電極における電気分解等の問題がある。また、対象とする物体及び雰囲気は導電性に関して制限される。
【0006】
レーザ光による微小物体のハンドリングは、対象物が光学的に光を透過し、屈折する必要がある。また、作用する力は微弱であるため、対象とする物体はきわめて微小なものに限られる。さらに、高価な設備を必要とし、人体に対する安全性等にも配慮する必要があるなど、さまざまな問題点がある。
【0007】
これらのハンドリング技術に対し、超音波を用いたものは、音波を伝搬する媒質中であれば使用でき、対象とする物体は音響的に媒質と異なる音響インピーダンスを持ち、音波を反射又は吸収するものであれば音響放射圧による力が作用する。力の作用範囲は、定在波音場を生成することにより、波長のオーダの微小領域のみに力を作用させることが可能である。また、超音波の発生装置はレーザ等に比べ安価である。更に人体に対する安全性に関しては、液体及び固体媒質と人体の間に空気層が存在すれば超音波は遮断されるため、超音波の漏洩に関して配慮することは容易である。
【0008】
そこで、本発明の発明者らは、凹面型超音波振動子を用いてその焦点位置に反射板を設置して生じる定在波音場中で、周波数を変化させることにより音圧の節に捕捉した微小物体を音軸上で一次元的に移動させる方法を提案した(特許文献1)。また、複数の音波を重畳させることで2次元、3次元に広がる音場を生成して、音圧の節に捕捉した微小物体を2次元、3次元空間中で操作する方法を提案した(特許文献2、特許文献3)。
【0009】
さらに、本発明の発明者らは、配管内での超音波を用いて液体中の懸濁物を凝集、操作する手法を提案した(特許文献4)。この手法は、超音波振動子と反射板を一定距離だけ離間させて鉛直方向に浸漬し、両者の間に上から微細粒子を懸濁液として投入し、微細粒子が懸濁した液体媒体を上から下へ流し、超音波振動子に印加する周波数を連続して同一速度で変化させ、瞬時に初期値に戻した後、再度連続して変化させることを繰り返し行う周波数スイープを行うようにしたものである。これにより、濃縮された流体成分を反射板側から取り出し、希釈された流体成分を超音波振動子側から取り出すようにしたものである。
【0010】
さらに、微細流路中での懸濁微粒子の操作のために、マイクロ流路中において定在波音場を形成して、周波数をスイープさせることによる微粒子操作の手法を提案した(特許文献5)。しかし、この手法は周波数をスイープさせるため、高速での粒子操作が難しく、また、高濃度の懸濁液の場合、超音波が液中で減衰するため壁面からの反射波が弱く、安定した強力な定在波音場を作ることは、粒子濃度が薄く、緩やかな速度での操作の場合に限られる。
【0011】
一方、特許文献6には、微粒子を含む流体を直方体の容器に導入して流し、流体の流れと直交するように一対の超音波振動子を配置し、これらから微小に異なる周波数の超音波を照射し、容器中での定在波音場の節あるいは腹を一方の超音波振動子側に移動させ、一対の出口の一方からは微粒子成分を含む流体成分を取り出し、もう一方の出口からは微粒子成分を含まない流体成分を取り出す技術が開示されている。
【0012】
しかしながら、この技術でも、超音波振動子の出力には限界があり、強力な力を発揮することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2700058号掲載公報(特開平9−193055公報)
【特許文献2】特許第2913031号掲載公報
【特許文献3】特許第2990273号掲載公報
【特許文献4】特開平11−197491号公報
【特許文献5】特開2012−40647号公報
【特許文献6】特許第4505624号掲載公報(特開2004−24959号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
大量に流れる懸濁液から微粒子を高速で処理するためには、超音波による力を強くする必要があり、そのためには超音波振動子に印加する電圧を上げて投入電力を増加することが有効である。しかし、超音波の出力には限界があり、定格以上の電力を投入すると発熱して壊れてしまう。
【0015】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑み、超音波振動子の出力を上げることなく、流路中で微小物体に作用する力を増強させ、その移動を行うことで、微小物体が分散した液体媒体中の微小物体の流れの方向を簡便な構造で制御することが可能な超音波非接触マイクロマニピュレーション方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手法ないし装置から構成される。
(1)上面部又は内部に、少なくとも一対の壁部と底部により構成され、微小物体が分散された液体媒体のための入口と出口を有するマイクロ流路を備え、前記マイクロ流路は直線流路と途中で二股に分岐した分岐流路よりなり、前記直線流路と前記分岐流路の分岐点に設けられた溜まり場を有し、一方の壁部の側面に前記直線流路に平行となるように超音波振動子が取り付けられた固体セルを用い、前記マイクロ流路に、微小物体が分散した液体媒質を流し、前記超音波振動子からの超音波を前記マイクロ流路の下部を進行波として伝搬させ、前記マイクロ流路の前記超音波振動子の側面に対向する湾曲した壁部で超音波を反射させて反射波とし、前記固体セル部分から前記マイクロ流路に伝搬させ、前記微小物体に音響放射圧を作用させることにより、前記媒体中の微小物体の流れの方向を制御することを特徴とする超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
(2)前記固体セルとして、前記超音波振動子を取り付ける面が平面で、対向する端面部が湾曲して放物面の曲率を持つものを用いることを特徴とする上記(1)に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
(3)前記固体セルとして、前記マイクロ流路の分岐点に設ける溜まり場の形状が断面半円形の柱状又は球状であり、その中心が前記湾曲状の端面部の焦点位置に設定されているものを用いることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
(4)
前記超音波振動子に一定の周波数を印加することを特徴とする上記(1)から
(3)のいずれかに記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション方法。
(5)
固定セルから構成される超音波非接触マイクロマニピュレーション装置であって、前記固定セルが、上面部又は内部に、少なくとも一対の壁部と底部とにより構成され、微小物体が分散された液体媒体のための入口と出口を有するマイクロ流路を備え、前記マイクロ流路は直線流路と途中で二股に分岐した分岐流路よりなり、前記直線流路と前記分岐流路の分岐点に、前記微小物体の操作のための溜まり場が設けられ、一方の壁部の側面に前記直線流路と平行となるように超音波振動子が設けられ、これと対向する壁部の端面部が湾曲状に形成されてなることを特徴とする超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
(6)
前記超音波振動子を取り付ける面が平面で、対向する壁部の端面部が湾曲して放物面の曲率を持つことを特徴とする上記
(5)に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
(7)
前記マイクロ流路の分岐点に設ける溜まり場の形状が断面半円形の柱状又は球状であり、その中心が前記湾曲状の端面部の焦点位置にあることを特徴とする上記
(5)又は(6)に記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
(8)
前記超音波振動子に一定の周波数を印加することを特徴とする上記
(5)から(7)のいずれかに記載の超音波非接触マイクロマニピュレーション装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記技術的手法ないし装置を採用したので、超音波の出力は従来のままで、超音波を集束させることでその焦点付近に強力な音圧を発生させることができ、流路中で微小物体が分散した液体媒体中の微小物体の流れの方向を簡便な構造で制御することが可能な超音波非接触マイクロマニピュレーション方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明の実施形態で用いる固体セルの構造を示す説明図である。
【
図3】固体セル中の超音波の伝搬を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施例1で示す超音波照射時の流路の分岐部分における粒子挙動を示す写真である。
【
図5】本発明の実施例2で示す超音波照射時の流路の分岐部分における粒子挙動を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
先ず、本発明に関連する技術、原理について説明する。
【0020】
超音波音場中に媒質と異なる物体が存在すると、物体には音波の伝搬する方向に力が作用する。この力は音響放射圧と呼ばれ古くから知られているが、作用する力が弱いためこれまで実用に供されることは少なかった。しかし、現代の産業において、微小物体を対象とする分野(マイクロマシン、バイオテクノロジー、微粉体操作、等)では有効であると考えられる。
【0021】
音響放射圧による力は小さいが、強力な力を発揮するための手法が2つある。一つの手法は、広い面積から放射された超音波を一点に集束させることで、その焦点において強力な力を作用させることが可能である。超音波を集束させるためには、音源に湾曲させた超音波振動子を用いることで、その焦点に超音波を集束させることが可能であるが、固体中を伝搬させる超音波を集束させるためには、超音波振動子を湾曲させ、かつ超音波振動子と接触する固体面も同形状とする必要があり、高精度な形状加工が求められる。超音波振動子及び超音波振動子が接触する固体表面は平面であることが、装置の簡易化のためには望ましく、一旦このような平面から放射された超音波を湾曲した面で反射させることで、集束させることが効果的と考えられる。
【0022】
強力な超音波の力を作用させるためのもう一つの手法は、定在波音場を形成することである。異なる方向から同一周波数の音波が干渉して形成される定在波音場中では、同位相の音波が重なることで音圧が激しく変動する音圧の腹と、逆位相の超音波が重なることで音圧がキャンセルされて零となる音圧の節が存在する。定在波音場中では、音圧の傾き(単位距離当たりの音圧の変化)が大きいほど物体に作用する音響放射力は大きく、波長に比べて十分に小さな固体物体は、音圧の腹から節に向かう強力な力を受ける。
【0023】
定在波音場に関して更に詳しく説明すると、
図1に示すように、例えば水中において、超音波振動子と反射板を平行に配置すると、超音波振動子から放射された超音波の進行波と反射板で反射した反射波が干渉することで定在波音場が形成される。この定在波音場は超音波振動子と反射板の間に限られ、定在波音場中では、4分の1波長間隔で音圧の腹と節が交互に存在し、音場中を浮遊する微小物体は、音圧の腹から節に向かう力を受け、半波長間隔に存在する音圧の節に捕捉される。
図1(b)は、水中での実験における粒子捕捉の写真である(振動子と反射板の間隔:30mm、超音波の周波数:1.75MHz、超音波の波長:0.857mm)。
【0024】
なお、このように一次元上で反対方向の音波が干渉して生成される定在波音場中では、音圧の節と腹は音波の伝搬方向に4分の1波長間隔で交互に存在する。そして、二次元平面上、さらに三次元空間中で様々な方向からの音波が干渉する場合、音圧の分布は複雑な幾何学模様となる。
【0025】
本発明者らは、特許文献5にて、二股に分岐するマイクロ流路中を流れる懸濁液中の固体微粒子を、マイクロ流路の外部に配置した超音波振動子により発生した超音波の周波数を制御することにより、固体粒子の出口流路を制御する手法を提案した。この手法は流路断面が1mm角のマイクロ流路では有効であるが、大量の処理を行うために流路断面を拡大する場合には多くの課題がある。それは、流路断面の拡大に伴い超音波の出力を大きくする必要があるが、そのためには超音波振動子に加える電圧を上げることになる。その場合、超音波振動子からの発熱が増加し、冷却システム等を用意しなければならない。言い換えると、超音波の出力には限界があるのである。
【0026】
そこで、本発明者らは、超音波の出力は現状維持のままで、流路の分岐点のみに必要な強力超音波を作用させることを検討した。その結果、超音波セルの振動子取り付け面と反対側の端面を湾曲させることで、端面で反射した超音波を集束させ、流路の分岐点に強力な超音波を作用させることができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0027】
次に、本発明の実施形態について述べる。
【0028】
本発明による超音波非接触マイクロマニピュレーション方法で用いるキーデバイスは、基本的に、上面部又は内部に、少なくとも一対の壁部と底部により構成され、入口1個と出口2個を持つT字型流路(直線流路と途中で二股に分岐した分岐流路)を有する固体セルである。固体セルの直線流路と平行な一側面は、超音波振動子を取り付けるために平面であり、超音波振動子から発生した超音波は、固体セル内を平面波として直進する。流路部分においては、固体セルの上部を伝搬する超音波は流路内の液体媒質中に放射されるが、固体セルの下部を伝搬する超音波は流路の下の固体セル中をそのまま伝搬し、超音波振動子を取り付けた面の対面まで伝搬する。この超音波振動子取り付け面の対面は放物面であり、直進してきた超音波は放物面で反射して焦点に向けて集束する。また前記の流路の分岐点は断面半円形(
図2の上図の水平面内の断面)であり、焦点に向けて伝搬する音波と垂直な界面となるため、超音波は直進する。そして、焦点位置は流路における溜まり場の振動子側壁面である。集束超音波の音響放射圧により、分岐点付近の微小物体は直線流路中で超音波振動子側に向かう強力な力が作用する。
【0029】
また、懸濁粒子の粒子濃度が低い場合は、焦点に向けて集束する超音波と焦点位置の流路壁面で反射した焦点から離れる方向に伝搬する拡散する超音波が干渉することにより、同心半円状の定在波音場が形成される。音波はさらに様々な箇所で反射するため、付近の微小物体は幾何学模様に形成される音圧の節に向かう力を受け、音圧の節に凝集する。この場合は、周波数をスイープさせることにより、焦点を基点として、近づけたり離したりする方向に移動させることが可能である。本発明の方法は、このような装置において、流路の入口より微小物体が分散した液体媒質を流し、超音波振動子から超音波を出射させ、その超音波の一部を、放物面状をなす壁部で反射させ、特定位置の焦点に集束させ、媒体中の微小物体の流れの方向を制御することにより、対象となる微小物体に強力な超音波を作用させることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の方法が適用される装置例を
図2に模式的に示す。
【0031】
本発明では、固体セル1の上面部又は内部に流路2が形成されたものを用いる。本例では、流路2は固体セル1の上面部に形成され、一対の壁部3A、3Bと底部4により構成される。各壁部3A、3Bと底部4は平面であってよい。使用時には、透明の薄膜フィルム9が上面を覆い、流路2、溜まり場7は閉塞されることになる。流路端の入口5と出口6A及び出口6Bは、固体セル1の底面まで貫通穴が開けられており、底面にホース(図示せず)を連結して液体の入出力が可能である。
【0032】
流路2の断面寸法は後述の例では壁部3A、3Bの高さ及び底部4の幅が2mmであるが、この数値に限定される訳ではない。
【0033】
流路2は途中で分岐して直線流路部2Aと分岐流路部2Bの二股に分岐するが、分岐流路部2Bの直線流路部2Aに対する角度は、本例では、90度の場合を例示している。しかし、直線流路と分岐流路の成す角度は、これに限定されない。直線流路部2Aには、微小物体が分散された液体媒体を導入するための入口5と排出するための出口6Aが設けられる。分岐流路部2Bにも出口6Bが設けられる。流路2は断面矩形とすることができる。
【0034】
直線流路部2Aと分岐流路部2Bの分岐部には、微小物体操作のための溜まり場7が形成される。本例の場合、この溜まり場7は半円形の柱状である。また、溜まり場7のスペースも流路制御に適する大きさに設定することが望ましい。
【0035】
固体セル1は、超音波の伝搬に適した材料を使用することができ、典型的にはガラスを用いることができるが、これに限定されない。また、固体セル1の形状は本例では正方形の一辺を円弧状に加工した板状体であるが、所期の効果が得られれば適宜形状を変更して構わない。
【0036】
固体セル1の側壁には超音波振動子8が取り付けられる。この超音波振動子8は流路2の直線流路2Aと平行になるように、かつ、流路2の分岐部が内側位置にくるように(本例では中央位置となっている)取り付けられる。超音波振動子8は、本例では全厚み方向において取り付けられているが、その寸法は適宜調整可能である。
【0037】
本発明の固体セル中の超音波の伝搬を
図3に模式的に示す。
【0038】
平面の超音波振動子8から発生した超音波は、固体セル内を平面波として直進する。流路部分においては、固体セルの上部を伝搬する超音波は流路内に放射されるが、本発明では微弱なため無視する。固体セルの下部を伝搬する超音波は流路の下の固体セル中をそのまま伝搬し、超音波振動子を取り付けた面の対面まで伝搬する(
図3(a))。この超音波振動子取り付け面の対面は放物面であり、直進してきた超音波は放物面で反射して焦点に向けて集束する(
図3(b))。なお、図では分かりにくいが、厚さ方向にも端面は放物面に湾曲させてあり、
図3(a)で流路の下部を伝搬してきた超音波は、少し上方に向けて反射する。流路の分岐点の溜まり場は断面形状は半円形であるが、深さ方向にもわずかに湾曲している球の一部であり、焦点に向けて伝搬する音波と垂直な境界面となるため、超音波は屈折することなく直進する。そして、流路の振動子側壁面にある焦点に向けて集束する。この集束超音波の音響放射圧により、分岐点付近の微小物体は直線流路中で超音波振動子側に向かう強力な力が作用する(
図3(c))。
【0039】
ところで、懸濁粒子の濃度が高い場合は超音波は急激に減衰して消えてしまうが、懸濁粒子の粒子濃度が低い場合は、超音波は焦点位置の流路壁面で反射して、反射波が焦点から離れる方向に放射される(
図3(d))。そして、焦点に向けて集束する進行波と焦点から離れる方向に拡散する反射波が干渉することにより、同心半円状の定在波音場が形成される。音波はさらに様々な箇所で反射するため、付近の微小物体は幾何学模様に形成される音圧の節に向かう力を受け、音圧の節に凝集する。この場合は、周波数をスイープさせることにより、焦点を基点として、近づいたり離れたりする方向に移動させることが可能である。
【0040】
このような装置において、流路の入口より微小物体が分散した液体媒質を流し、超音波振動子からの超音波により、粒子濃度が濃い場合には、粒子は集束超音波の進行波により押されて下方の流路より濃縮された粒子を取り出すことができ、また、粒子濃度が薄い場合には、周波数のスイープを行うことで、媒体中の微小物体の流れの方向を制御することが可能である。
【実施例】
【0041】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
本例では、50mm×50mm×5mmの大きさのパイレックス(商標登録)ガラスの中央に、断面2mm×2mmのT字型流路(分岐角度90度)を作成した。そして、流路の分岐点に直径10mm(深さは流路と同じ2mm)の半円形の溜まり場を作成した。その流路中に微粒子の懸濁液を投入し、ガラス板の左端より超音波を伝搬させ、流路下部のガラス板中を超音波は伝搬して右端の湾曲面に到達し、湾曲面で反射した超音波は固体セル中央の焦点に向けて集束して、直径10mmの半円形の溜まり場に入射する。半円の中心が焦点となるように設定されているため、ガラスと液体媒質の界面である半円に音波は垂直に入射する。そして、超音波は集束することにより、強力な力で懸濁液中の粒子をその焦点に向けて押すことになる。溜まり場に充填されている懸濁液中の固体粒子の濃度が濃い場合は、超音波は懸濁液中の粒子により急激に減衰するため、進行波により粒子を押す現象のみが現れる。
【0042】
図4は、4.5MHz、消費電力1Wで超音波振動子を駆動し、流路中に平均径10μmのガラス粒子の懸濁液を投入した際の溜まり場における粒子の凝集写真を示す。粒子は一瞬定在波音場によると考えられる幾何学模様に凝集するが、すぐに超音波の進行波により焦点に向けて押されていることが分かる。粒子の挙動を動画撮影したところ、固体セルの右端が湾曲していない平面(固体セル全体の形状が直方体)の場合の同条件に比べて、明らかに高速化が実現されたことが観察された。ポンプで流路中の液体媒質を流すと、液体媒質は、2つの出口に分かれて流れ出るが、固体粒子は左に押されるため、下部の出口(出口6A)から排出される。これにより、懸濁液中の粒子濃度を濃縮することができる。
[実施例2]
また、装置構成は実施例1と同様にし、懸濁液中の粒子の濃度を薄くしたところ、実施例1のように粒子が左側に押されるのではなく、溜まり場で幾何学模様を形成する様子が観察された(
図5)。これは、超音波が溜まり場の半円の中心にある流路壁の平面で反射し、定在波音場が形成されたためと考えられる。この状態で周波数をスイープさせると、粒子が移動することになる。固体粒子の排出先を、出口6A、または出口6Bに選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
ガラスレンズの研磨工程において、酸化セリウム粒子が研磨剤として用いられている。酸化セリウム粒子は、ガラスレンズを研磨する過程で粒子自身が微細化して、研磨能力が低下する。一定時間使用された研磨剤は研磨能力が劣り、またガラスの削りくずも含まれ、これはレンズを傷つける原因となるため、一括して廃棄されている。しかし、その中にはまだ研磨能力を持つ大きめの粒子も含まれているため、これらの粒子を回収して再利用することが望まれている。このような分野において、本発明の技術は再利用可能な大きさの粒子のみを分別する非接触マイクロマニピュレーション方法及び装置として利用することが可能である。
また、前記したように、微小物体をハンドリングするためのマイクロマニピュレーション方法が、バイオテクノロジー、マイクロマシン、材料開発等の分野において強く求められていたが、本発明は、それらの分野にも応用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 固体セル
2(2A、2B) 流路(直線流路、分岐流路)
3(3A、3B) 壁部
4 底部
5 入口
6(6A、6B) 出口
7 溜まり場
8 超音波震動子
9 薄膜フィルム