特許第6011874号(P6011874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011874
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】めっき液に含まれる抑制剤の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   G01N27/416 341B
   G01N27/416 341M
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-138143(P2013-138143)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-10991(P2015-10991A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】安藤 真規
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−105968(JP,A)
【文献】 特開2001−152398(JP,A)
【文献】 特開2005−226085(JP,A)
【文献】 特開2005−290413(JP,A)
【文献】 特開2003−183883(JP,A)
【文献】 特開2003−129298(JP,A)
【文献】 特開2002−195983(JP,A)
【文献】 特表2002−506531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0241948(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抑制剤を含むめっき液に作用電極、対電極および参照電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に一定の電流が流れるように電圧を印加し、前記めっき液に含まれる金属が前記作用電極に析出する際の作用電極の電位をクロノポテンシオメトリーによって経時的に測定し、当該作用電極の電位が安定した時の電位値を測定し、測定された前記電位値の大小に基づき抑制剤を評価することを特徴とするめっき液に含まれる抑制剤の評価方法。
【請求項2】
前回の評価において前記作用電極に析出した金属を除去することを特徴とする請求項1に記載のめっき液に含まれる抑制剤の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液の添加剤として用いられる抑制剤の性能を評価する方法に関する。特に、電気化学手法を用いて該抑制剤の性能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料表面の特性を改善する、あるいは、新たな機能を付与するために行われる表面処理として、電気化学反応を利用するめっきが知られている。めっきは、被めっき物を陰極として、めっきされる金属のイオンを含む溶液(以降、めっき液ともいう)に電圧を印加して、金属を被めっき物上に還元析出させるプロセスである。
【0003】
めっきにより得られる表面皮膜に求められる特性としては、たとえば、光沢性が例示される。このような光沢性は、めっき表面皮膜が平滑である場合に得られ、表面皮膜が平滑でなく凹凸が生じている場合には、光が乱反射し、曇りが生じてしまう。ところが、表面皮膜には凹凸が形成されやすいことが知られている。
【0004】
そこで、表面皮膜の凹凸を平滑にするために、めっき液に添加剤が添加される。このような添加剤の一つとして、抑制剤が知られている。抑制剤は、電流密度の高い部分に電気的に吸着しやすいという性質を有しており、めっき表面皮膜の凹凸を平滑にし、光沢性を向上する働きを持つ。
【0005】
抑制剤が凹凸を平滑にするメカニズムとしては、以下のようなメカニズムが考えられている。すなわち、めっき表面皮膜において、電流密度が高い箇所があると、その箇所に金属イオンが集中して電析し凸部が形成されるが、この凸部は電流密度が高いため、抑制剤が凸部に電気的に吸着することにより、凸部の電析を抑制すると考えられている。その結果、相対的に凹部におけるめっき成長が進み、めっき表面皮膜は平滑になると考えられている。
【0006】
抑制剤としては、めっき液中で正電荷を持ちやすい含窒素有機化合物が適していると言われているのみであり、抑制剤の選定や適正量の把握には、実際にめっきを行い、めっき表面の光沢性を確認する手法が用いられる。
【0007】
従来、めっき表面の光沢性はハルセル試験を用いて評価されている(特許文献1を参照)。ハルセル試験は台形の形状をしたハルセル試験槽を用い、電源、電流計、電圧計を接続した条件の下で行われる。図3に示すように、ハルセル試験機100は陽極部120に対して、めっきされる陰極部110が斜めに配置されている。このため、めっきを行うと電極間距離が近い部分110aにおいて単位面積当たりの電流値(電流密度)が高くなり、電極間距離が長くなると電流密度が徐々に小さくなる。したがって、ハルセル試験では、広い範囲の電流密度変化に対して、表面皮膜の観察が可能である。
【0008】
めっきされる陰極部110には、抑制剤の性能を分かりやすく評価するために、あらかじめ金属表面に傷をつけてあり、ハルセル試験後のめっき皮膜を観察する。なお、電流密度が高すぎると電析反応の他に、水素ガスが発生するため、正常なめっき皮膜を形成できない。したがって、抑制剤の電析抑制力を評価するには比較的低電流密度の領域でのめっき皮膜を観察する。
【0009】
具体的には、抑制剤の評価は、ハルセル試験において、めっきにより陰極部110に形成された金属の表面皮膜の外観を目視により観察し、表面が平滑である光沢領域と、光沢が失われている曇り領域と、の境界を決定する。そして、その境界が低電流密度側にあるめっき液に含まれる抑制剤の方が、電析を抑制する能力、すなわち、表面皮膜の凹凸を平滑にする能力が高いと判断される。
【0010】
この境界を数値化する場合、該境界における電流密度を、図4に示す専用の目盛りを用いて目視で読み取る。この専用の目盛りは、予め、試験する電圧条件下でめっきした際、金属表面の各位置での電流密度を測定しておき、そのように測定した電流密度をもとに目盛りを付けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−72167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ハルセル試験により決定する光沢領域と曇り領域との境界は目視により判断されるため、主観的評価であり、測定者によるばらつきが大きいという問題があった。また、めっき液の攪拌状態の不均一さ等に由来する金属板の外観ムラが発生すると、目視による判断がさらに困難となるという問題もあった。
【0013】
また、ハルセル試験により得られる境界を図4に示す目盛りを用いて数値化しても、境界の判断が曖昧であるため、数値自体にばらつきが生じ、同程度の性能を有する抑制剤の優劣を判断することも困難であった。
【0014】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされ、ハルセル試験とは全く異なり、めっき液に含まれる抑制剤を客観的に評価でき、しかも微少な性能差も区別できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、電気化学的手法を用いて、電析時の電位値を測定し、該電位値の大小を評価することにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の態様は、抑制剤を含むめっき液に作用電極、対電極および参照電極を接触させ、作用電極と対電極との間に電圧を印加し、めっき液に含まれる金属が作用電極に析出する際の電位値を測定し、測定された電位値の大小に基づき抑制剤を評価するめっき液に含まれる抑制剤の評価方法である。
【0017】
上記の態様において、好ましくは、作用電極と対電極との間に定電流が流れるように電圧を印加する。より好ましくは、クロノポテンシオメトリーにより電位値を測定する。
【0018】
上記の態様において、好ましくは、前回の評価において作用電極に析出した金属を除去する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ハルセル試験とは全く異なり、めっき液に含まれる抑制剤を客観的に評価でき、しかも微少な性能差も区別できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、クロノポテンシオメトリーによる電析電位値の測定に用いる電気化学測定装置の概略図である。
図2図2は、ハルセル試験により得られた銅めっき板の外観図であり、図2(a)は、めっき液Aを用いた場合のめっき板であり、図2(b)は、めっき液Bを用いた場合のめっき板である。
図3図3は、ハルセル試験機の概略図である。
図4図4は、ハルセル試験により得られためっき板の位置とその位置における電流密度との関連性を計るための専用の目盛りである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.電気化学測定装置の構成等
2.めっき液に含まれる抑制剤の評価方法
3.本実施形態の効果
4.変形例
【0022】
(1.電気化学測定装置の構成等)
本実施形態に係るめっき液に含まれる抑制剤の評価方法では、クロノポテンシオメトリーにより行う。クロノポテンシオメトリーは、電極間に一定の電流を流した際に電極電位の時間的変化を測定する方法である。
【0023】
具体的には、図1に示す電気化学測定装置1を用いて行う。したがって、電気化学測定装置1は、定電流を流すことができるガルバノスタットから構成されているが、モード設定によりガルバノスタットの機能を発揮する装置であってもよい。
【0024】
電気化学測定装置1は、作用電極2と、対電極3と、参照電極4と、これらに印加される電圧等を制御するための制御部10と、を有している。以下、電気化学測定装置1の各構成要素について説明する。
【0025】
(作用電極2)
作用電極2は、めっき反応等の電気化学反応を生じさせるために用いられる電極である。本実施形態では、作用電極2がめっき液50に接触し、電流が流れることにより、めっき液50に含まれる金属イオンが還元されて作用電極2に析出(電析)する。すなわち、作用電極2はめっきされる。作用電極2としては、特に制限されないが、本実施形態では、一般的に用いられ、めっき液50に対する耐性が高い白金電極を用いる。図1では、作用電極2の先端部に白金板21が配置されており、白金板21に金属が析出する。
【0026】
(対電極3)
対電極3は、作用電極2とともに用いられ、めっき液50に接触することにより、作用電極2に電流を流して電気化学反応を生じさせるために用いられる電極である。対電極3としては、特に制限されないが、本実施形態では、一般的に用いられ、めっき液50に対する耐性が高い棒状の白金電極を用いる。
【0027】
(参照電極4)
参照電極4は、作用電極2の電位を測定する際の電位の基準となる電極である。本実施形態では、Ag/AgCl電極を用いる。Ag/AgCl電極は、表面が塩化銀(AgCl)で覆われた銀(Ag)を、飽和塩化カリウム(KCl)水溶液に浸して構成されている。
【0028】
(制御部10)
制御部10は、図示しない電源から供給される電圧を作用電極2および対電極3に印加し、これらの電極間の電流値が一定となるように制御する。また、作用電極2、対電極3および参照電極4における電位値に関する信号も取り込むことができ、参照電極4の電位に対する作用電極2の電位値の時間的変化を、図示しない表示部等に表示することができる。
【0029】
(2.めっき液に含まれる抑制剤の評価方法)
まず、所定の抑制剤をめっき液に添加して、めっき液を調製する。めっき液としては、特に制限されず、電解めっき用めっき液であってもよいし、無電解めっき用めっき液であってもよい。具体的には、硫酸銅めっき液等が例示される。
【0030】
また、めっき液50に含まれる抑制剤は、めっき表面皮膜に形成された凸部に電気的に吸着して、表面皮膜を平滑にできるような物質であれば特に制限されない。本実施形態では、抑制剤は窒素を含む有機化合物である。
【0031】
続いて、図1に示すように、調製されためっき液50に各電極が接触するように電気化学測定装置1を設置する。その後、作用電極2と対電極3との間に定電流が流れるように電圧を印加する。
【0032】
そうすると、作用電極2が陰極(カソード)、対電極3が陽極(アノード)となり、対電極3から作用電極2に一定の電流が流れる。すなわち、作用電極2の白金板21における電流密度が一定となる。そして、めっき反応により、めっき液50中に含まれる金属の陽イオンが白金板21上に還元析出し、白金板21(陰極)上に該金属からなるめっき表面皮膜が形成される。
【0033】
このとき、めっき表面皮膜では、局所的に電流密度の高い部分が生じ、該部分に金属イオンが集中してめっき成長が進むため、相対的にめっき成長が進みやすい部分(凸部)と、めっき成長が進みにくい部分(凹部)と、が形成される。しかしながら、めっき液50には抑制剤が含まれているため、この抑制剤が、電流密度の高い凸部に電気的に吸着し、凸部での電位を若干低下させ凸部における電析を抑制すると考えられる。その結果、凸部における電流密度も低下すると考えられる。これに伴い、凹部における電流密度が凸部における電流密度に比べて相対的に高くなるため、凹部におけるめっき成長が、凸部におけるめっき成長よりも進行し、表面皮膜の凹凸は平滑になる。このような現象を繰り返しながら、白金板21上のめっき表面皮膜は成長する。
【0034】
したがって、抑制剤が電析を抑制することで、電析時における作用電極2全体としての電位値(電析電位値)は、抑制剤が含まれない場合に作用電極2が示す電析電位値よりも低い電位値を示すと考えられる。
【0035】
また、ある電流密度において、凸部への吸着量が少ない場合、凸部における電位の低下が少ないため、電析電位値は大きくなる傾向にある。一方、凸部への吸着量が多い場合、凸部における電位の低下が大きくなるため、電析電位値は小さくなる傾向にある。
【0036】
ここで、抑制剤は、凸部に吸着することにより表面皮膜を平滑にしていることを考慮すると、凸部への吸着量が多い抑制剤、すなわち、作用電極2が示す電析電位値が低い抑制剤ほど能力が高いということができる。すなわち、抑制剤がめっき表面皮膜の凹凸を平滑にする効果は、電析電位値の大小により決まると考えられる。
【0037】
したがって、作用電極2における電析電位値の大小により、抑制剤の性能を評価することができる。この電析電位値は、参照電極4に対する電位値として得られる。
【0038】
換言すれば、抑制剤は電気的に凸部に吸着するため、電流密度が低いと吸着しにくい傾向にある。そのため、電析電位値が低い抑制剤は、電析電位値が高い抑制剤に比較して、電流密度を低くしても、凸部に吸着し、表面皮膜の凹凸を平滑にしやすいと考えられる。
【0039】
また、本実施形態では、電気化学測定装置1の制御部10により、作用電極2と対電極3との間に定電流が流れるように電圧を制御できる。そのため、実際のめっきプロセスの操業時における電流密度に対応する所望の定電流を流すことができる。したがって、実際のめっきプロセスの操業時の電流密度に対応して、抑制剤の評価を行うことができ、抑制剤の性能を正確に評価することができる。
【0040】
さらに、定電流値を適宜設定できるため、実際のめっきプロセスの電流密度よりも過剰に高い電流密度、たとえば、水素ガスが発生するような電流密度ではなく、適切な電流密度を選択して、電析電位値を測定することができる。
【0041】
なお、電析の初期段階では、白金板21が該金属にめっきされるため、作用電極2が示す電極電位は、白金に該金属がめっきされる場合の電析電位を示しており、該金属上に該金属がめっき成長する際の電析電位値を示しているわけではない。しかしながら、電析を継続すると、該金属上に該金属がめっき成長するようになるため、該金属のめっき成長時の電析電位を示すようになる。
【0042】
したがって、該金属のめっき成長時の電析電位値を測定できるように、電析時の電位を経時的に測定することが好ましい。すなわち、クロノポテンシオメトリーにより、電位の時間的な変化を測定することが好ましい。電析時の電位を経時的に測定することで、抑制剤の性能が反映された電位値を正確に測定することができる。
【0043】
以上より、作用電極2と対電極3との間に定電流が流れるように電圧を印可し、クロノポテンシオメトリーを用いて測定される電析電位値は、抑制剤の性能を反映した値となっている。したがって、この電位値の大小に基づいて、抑制剤の性能を正確に評価することができる。すなわち、抑制剤の性能を客観的に評価することが可能となる。
【0044】
また、抑制剤は単独で用いられる場合だけでなく、複数の抑制剤の組み合わせで用いられる場合がある。複数の抑制剤の組み合わせで用いる場合、抑制剤同士の相性にも影響され、組み合わせによる効果は、個々の抑制剤の効果の足し合わせとなることはほとんどない。このような場合であっても、抑制剤の組み合わせを含むめっき液について、上記の測定を行うと、該組み合わせが示す1つの電析電位値が得られるため、この値を比較することで、抑制剤の組み合わせの優劣を評価することができる。
【0045】
なお、上記の方法においては、作用電極2には金属が析出する。したがって、電析電位値の測定を繰り返す場合には、前回の測定において作用電極2に析出した金属を除去することが好ましい。測定値の再現性を向上させるためである。
【0046】
金属を除去する方法としては特に制限されないが、たとえば、金属が析出した作用電極を、該金属を溶解できる液に接触させる方法、測定時とは逆の電流を印加して析出した金属を酸化溶解する方法等が例示される。たとえば、析出する金属が銅である場合、作用電極を塩化鉄(III)水溶液に浸漬することで析出した銅を溶解させることができる。
【0047】
また、作用電極2に有機物が付着している場合には、たとえば、バフ研磨により除去し、その後、作用電極2を水洗すればよい。
【0048】
(3.本実施形態の効果)
上記の実施形態では、クロノポテンシオメトリーにより電析時の電位値を測定し、その大小に基づいて、抑制剤の性能を評価することができる。すなわち、電析電位値が小さい値を示す抑制剤が、めっき表面皮膜の凹凸を平滑にする能力が高いと判断することができる。電析電位値は測定値であり、ハルセル試験のように目視による主観的な値ではなく、ばらつきも少ない。したがって、抑制剤の性能を正確に評価することができる。
【0049】
特に、ハルセル試験では優劣をつけにくい程度の性能差を示す抑制剤の評価であっても、電析電位値の大小により良否を正確かつ簡便に判定することができる。
【0050】
また、作用電極2と対電極3との間に定電流を流して測定するため、作用電極2での電流密度を一定とした状態で、電析電位値を測定することができる。このようにすることにより、抑制剤の評価を、実際のめっきプロセスでの操業と同様の条件において行うことができる。さらに、作用電極2と対電極3との間の電圧を制御して定電流の値を変化させることができるため、電流密度が過剰に高い状態で測定を始めたとしても、電析電位値を適切に測定できるような電流密度に速やかに変更することができる。
【0051】
また、作用電極2における電析の初期には、作用電極2がめっきされるため、所望の電析電位値が測定できない場合がある。このような場合、クロノポテンシオメトリーにより電析電位値を測定することで、電析電位値の時間的変化が得られるため、所望のめっき反応時の電析電位値を測定することができる。
【0052】
(4.変形例)
上記の実施形態では、クロノポテンシオメトリーにより電析電位値を直接的に測定しているが、他の電気化学的手法により直接的あるいは間接的に測定してもよい。たとえば、ボルタンメトリー、クロノアンペロメトリー等による測定が例示される。ただし、このような手法では、一定の電流密度で測定できないため、場合によっては、過剰に高い電流密度で電析が行われ、たとえば水素ガス等のガスが発生する可能性がある。したがって、上記の手法を用いる場合には、電流密度が過剰に高くならないようにする必要がある。
【0053】
上記の実施形態では、電析を抑制する抑制剤の評価を行ったが、抑制剤と逆の機能を有する促進剤の評価を行ってもよい。促進剤は、めっき表面皮膜の凹凸の凹部のめっき成長を促進することができる。したがって、促進剤は、電析電位値が高いものを優れていると評価すればよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0056】
(実施例1)
まず、金属の電解液である基本液と、抑制剤を含む有機添加剤と、を混合することにより、抑制剤の種類が異なるめっき液を2種類準備した。
【0057】
基本液は、硫酸銅めっき液とした。その組成は、銅イオン濃度:35g/L、硫酸濃度:120g/L、塩素濃度:50mg/Lとなるように調合した。また、浴温を30℃とした。この基本液に市販の有機添加剤を加えて、それぞれめっき液Aおよびめっき液Bとした。
めっき液A:基本液+有機添加剤A
めっき液B:基本液+有機添加剤B
【0058】
有機添加剤は、ノニオン系界面活性剤、含硫黄化合物および抑制剤である含窒素化合物を含み、これらを所定量混合して得られるものとした。有機添加剤Aと有機添加剤Bとの違いは、抑制剤の種類が異なるだけであり、抑制剤の効果を評価するために、ノニオン系界面活性剤および含硫黄化合物の種類および添加量は同じとした。
【0059】
上記で得られためっき液Aおよびめっき液Bについてクロノポテンシオメトリーにより電析電位値を測定した。電気化学測定装置は以下の装置を用いた。
(1)電気化学測定装置:北斗電工社製HZ−5000
(2)電極:三電極系
作用電極:白金電極(断面積0.7065dm−2
対電極:白金棒
参照電極:Ag/AgCl電極
【0060】
調合しためっき液Aおよびめっき液Bを、それぞれ、ガラス容器に50mLずつ入れ、スターラーと攪拌子とを用いてめっき液を攪拌した。作用電極の断面積に基づき、4mA/dm−2の電流密度となるように電流値を設定し、電圧を印加した。このとき、クロノポテンシオメトリーにより、作用電極の電極電位を経時的に測定した。電圧印加後、めっき反応により作用電極の白金板に銅が析出した。作用電極の電極電位が安定したときの電析電位を測定値とした。めっき液Aおよびめっき液Bに対してそれぞれ5回測定を行った。めっき液Aについての結果を表1に、めっき液Bについての結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1および2より、めっき液Aおよびめっき液Bの測定値から計算した相対標準偏差はそれぞれ1.8%および4.0%であり良好な精度であることが確認できた。上述したように、電析電位が低いほうが、電析抑制力の優れた抑制剤であると判断できる。したがって、電析電位が−0.243V(vs.Ag/AgCl)であっためっき液Aに含まれる抑制剤が、めっき液Bに含まれる抑制剤よりも電析を抑制する性能が優れていると判定できた。
【0064】
(比較例1)
比較として実施例1で調合しためっき液Aおよびめっき液Bを用いて、ハルセル試験により光沢性評価を行い、抑制剤の性能を評価した。ハルセル試験機としては、山本鍍金試験機製ハルセル試験機を用いた。
【0065】
調合しためっき液Aおよびめっき液Bを、それぞれ、ハルセル試験槽に267mL添加し、総電流3Aで2時間通電した。図2にハルセル試験により得られた陰極(銅めっき板)の外観を示す。得られた銅めっき板を見ると、どちらのめっき液を用いた場合でも、高電流密度側110aおよび低電流密度側110bに曇り領域が見られた。めっき液Aについての試験では、図2(a)に示すように、曇り領域が狭く、めっき液Bについての試験では、図2(b)に示すように、曇り領域が広いことが確認できた。
【0066】
上述したように、ハルセル試験により抑制剤の性能を評価する際には、正常な金属電析反応が起きる低電流密度側110bの曇り領域で判断する。比較例1では、めっき液Aおよびめっき液Bを試験して得られる銅めっき板を比較した。その結果、図2(a)および(b)から明らかなように、曇り領域が狭く、より低電流密度側まで光沢が得られるめっき液Aに含まれる抑制剤の性能が優れていると判定した。
【0067】
なお、実施例1および比較例1において用いためっき液Aおよびめっき液Bは、含まれる抑制剤の性能がかなり異なるため、比較例1に係る方法でもどちらの抑制剤が優れているかを判断できた。しかしながら、抑制剤の性能が同程度のものを評価する際には、比較例1に係る方法では、抑制剤の優劣を決定することは困難である。
【0068】
ハルセル試験での結果を数値化するためには、図4に示す専用の目盛りを銅めっき板の両端に合わせて、低電流密度側の光沢領域と曇り領域との境界と判断される位置の電流密度値を読み、その値を測定値とした。
【0069】
しかしながら、図2(a)および(b)に示すように光沢領域と曇り領域との境界が曖昧であるため、たとえば、図2(a)では、0.10A/dm−2と判定したが、人によっては0.05〜0.20A/dm−2と判定する場合がある。また、図2(b)では1.0A/dm−2と判定したが、人によっては0.5〜1.5A/dm−2と判定する場合があり、判定がばらつく可能性が高い。したがって、ハルセル試験では、電流密度の微小な差や変化に対しては、優劣の判定は難しくなる。
【符号の説明】
【0070】
1…電気化学測定装置
2…作用電極
21…白金板
3…対電極
4…参照電極
10…制御部
50…めっき液
図4
図1
図2
図3