【実施例】
【0049】
種々の表面組成のSAMを作製し、種々の動物細胞及び培地を組み合わせ、動物細胞の接着・増殖に作用するSAMの表面組成の影響について検証した。
(SAMの作製)
まず、以下のようにして金蒸着基板上にSAMを作製した。
【0050】
1−dodecanethiol(以下、CH
3−SHと記す)は和光純薬株式会社製を用いた。11−mercapto−1−undecanol(以下、OH−SHと記す),11−mercapto−1−undecanoic acid(以下、COOH−SHと記す),11−amino−1−undecanethiol(以下、NH
2−SHと記す)はシグマアルドリッチ株式会社製を用いた。
【0051】
金蒸着基板をPiranha Solution(濃硫酸:30%過酸化水素水=7:3)を用いて表面を洗浄した。窒素ガスで脱酸素化したエタノールに、アルカンチオール(CH
3−SH、OH−SH,COOH−SH,NH
2−SH)を表1に示すように様々な組み合わせ・割合で、合計1mmol/Lになるように溶解し、アルカンチオール溶液を調製した。
【表1】
【0052】
調製したアルカンチオール溶液に、金蒸着基板を24時間浸漬して、種々のSAM(以下、それぞれSAM(A1)〜SAM(A28)と記す)を金蒸着基板上に作製した。作製したSAMは、実験に用いるまで2−プロパノール中に保存しておいた。
【0053】
(SAMの表面組成解析)
作製したSAM(A1)〜(A20)の表面元素組成をX−ray photoelectoron spectroscopy(XPS AXIS−HS,Kratos,Manchester,UK)を用いて求めた。測定は10
−7Pa以下の圧力下で行った。Al−Kapha単色X線は、加速電圧が15kV,フィラメント電流が10mAの条件で試料表面に照射し、光電子脱離角度が90度の条件における炭素と酸素の元素組成比を測定した。
【0054】
図2(A)にアルカンチオール溶液中のNH
2−SHとOH−SHとの配合割合に対する作製したSAM表面の官能基の割合、
図2(B)にアルカンチオール溶液中のOH−SHとCOOH−SHとの配合割合に対する作製したSAM表面の官能基の割合、
図2(C)にアルカンチオール溶液中のCOOH−SHとCH
3−SHとの配合割合に対する作製したSAM表面の官能基の割合、
図2(D)にアルカンチオール溶液中のCH
3−SHとNH
2−SHとの配合割合に対する作製したSAM表面の官能基の割合をそれぞれ示す。
【0055】
図2(A)を見ると、アルカンチオール溶液中の水酸基に対するアミノ基の割合が高くなるにつれ、水酸基に対するアミノ基の割合が高い表面最外層を有するSAMが得られている。
図2(B)、
図2(C)、
図2(D)を見ると、他の官能基を末端に有するアルカンチオール溶液を混合した場合においても同じ傾向である。このように、配合するアルカンチオールの混合比に応じて、SAM表面の官能基の組成を調節することが可能であることがわかる。
【0056】
以上のようにして作製したSAMを用い、以下の実験にて動物細胞の培養を行った。
【0057】
また、一部の実験では、表2に示す混合比のアルカンチオール溶液を調製し、上記同様に各種SAMを作製して(以下、SAM(B1)〜(B13)と記す)実験に用いた。
【0058】
【表2】
【0059】
(使用培養液)
無血清培養液としてSTK1(商品名)及びSTK2(商品名)(いずれもDSファーマバイオメディカル社製)を用いた。なお、STK1及びSTK2には、ヒト血清アルブミン、トランスフェリン、数種類の成長因子の蛋白質が含有されているが、未知物質は一切含有されていない無血清培養液である。
【0060】
また、一部の実験では、参考例として、10%牛胎児血清(Fetal Bovine Serum)(以下、FBSと記す)(Hyclone,Logan UT,USA)1%Antibiotic−Antimycotic(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を含有するDulbecco’S modified Eagle’s medium(DMEM)(Sigma,St.Louis,MO,USA)(以下、血清培養液A、或いは、DMEM+10%FBSと記す)を使用した。
【0061】
また、一部の実験では、組織培養用培養皿(ポリスチレンのプラズマ処理あり)の24well microplate(24 Well Cell Culture Microplate 直径16mm、Corning Life Sciences社製)(以下、通常培養皿或いはControlと記す)を使用した。
【0062】
(実験1〜6)
SAM表面の官能基の組み合わせが、ヒト骨髄間葉系幹細胞(h−BM MSC)の接着・増殖に及ぼす影響について検証した。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells)を適宜MSCと称する。
【0063】
(使用細胞)
ヒト骨髄間葉系幹細胞(2株:R−44,R−81)は五十嵐らの方法(Igarashi A et al. Tissue Eng,2007)で腸骨から分離した。血清培養液Aにて、3日毎に培養液交換しながら、37℃で5%CO
2条件下にて培養した。そして、実験には4−7代目の細胞を使用した。細胞がほぼコンフルエントになるまで増殖した後、トリプシンとEDTAと5分間インキュベートすることにより細胞を分散した。
そして10%FBS含有培養液にて酵素反応を停止して、細胞を無血清のDMEMで3回洗浄した。その後、無血清培養液(STK1又はSTK2)あるいは血清培養液Aに細胞を分散させ、SAM上に播種した。
【0064】
(SAM上での細胞培養)
保存しておいたSAM基板(直径約15mm)をPBS(リン酸緩衝生理的食塩水)で3回洗浄後、24Well Suspension Culture Plate(浮遊培養用培養皿、プラズマ処置なし、直径約16mm、Greiner bio−one社)に設置した。
【0065】
予め培養しておいたヒト骨髄間葉系幹細胞を回収後、2000cells/cm
2の密度で1培養系あたり0.5mLの細胞懸濁液を播種した。
【0066】
実験に用いたヒト骨髄間葉系幹細胞(h−BM MSC)、培養液及びSAMの組み合わせを表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
(評価手法)
細胞を培養後、細胞の状態/形態を位相顕微鏡下で観察して、接着/進展細胞(Adherent cells,A)と浮遊細胞あるいは弱く接着した球形の細胞(Floating cells,F)に区分した。
【0069】
細胞増殖の評価は、WSTアッセイによるMTT試験(色素:WST−8(2−(2−methoxy−4−nitrophenyl)−3−(4−nitrophenyl)−5−(2,4−disulfophenyl)−2H−tetrazolium)、測定吸光度:450nm)にて測定した。
【0070】
細胞数は、WST-8を用いたCell Counting Kit−8(Wako)、あるいはコールターカウンター(コールター社)にて測定した。
【0071】
一部の実験では、DNAをPicoGreenDsDNA Quantitaion kit (Molocular Probe社)にて測定した。
【0072】
(結果)
実験1,2,3の4日間培養後のMTT試験結果をそれぞれ
図3(A)、(B)、(C)に、4日間培養後の写真をそれぞれ
図4、
図5、
図6に示している。
【0073】
ヒト骨髄間葉系幹細胞(R44、R81株)は、ドナーの違い、植継ぎ回数(4から7回)に関わらず、SAM(A5)〜(A11)に高レベルで接着し、SAM(A12)〜(A13)にも低レベルで接着したが、他の組成のSAM(A1)〜(A4)、(A14)〜(A28)にはほとんど接着しなかった。
【0074】
そして、これらの細胞は、ドナー、継代数に関わらず、SAM(A6)〜(A8)(OH=100からOH:COOH=60:40までの配合)でよく増殖し、SAM(A9)、SAM(A16)でも増殖したが、他のSAM組成では増殖しなかった。なお、細胞増殖はSAM(A7)(OH:COOH=80:20)あるいはSAM(A8)(OH:COOH=60:40)で最大であった。
【0075】
次に、ヒト骨髄間葉系幹細胞が接着したSAM組成(OH:COOH)の官能基の割合をより細かくして作製したSAM(B1)〜(B13)を用いて行った実験4の細胞数測定結果を
図7に示すとともに、培養した細胞の写真を
図8に示す。なお本実験では、コールターカウンターにて細胞数を直接測定した。
【0076】
SAM(B5)〜SAM(B11)(OH:COOH=65:35〜30:70)で、Controlに比べて細胞が増殖していることがわかる。そして、SAM(B5)(OH:COOH=65:35)でヒト骨髄間葉系幹細胞の増殖が最大となった。
【0077】
(血清存在下でのSAMの影響)
図9(A)、(B)は、血清培養液Aを用いて行った実験5,6の4日間培養後のMTT試験結果であり、また、
図10は実験5の4日間培養後の写真であるが、ヒト骨髄間葉系幹細胞(R44株)はすべてのSAM組成(A1)〜(A28)に接着した。血清中の接着因子の存在により、細胞がSAM組成の影響を受けにくく、全てのSAMに接着したものと考えられる。なお、SAM組成によって増殖の程度は異なっており、SAM(A1)から(A5),SAM(A10)〜(A12),SAM(A17)〜(A24)上で顕著に増殖している。
【0078】
注目すべきことに、無血清培養液中での増殖を促進したSAM(A6)〜(A9)は、血清培養液A中での増殖を抑制している。なんらかの血清蛋白質がSAM(A6)〜(A8)に接着して、増殖を妨害したものと考えられる。
【0079】
また無血清培養液中での接着および増殖を抑制した多くのSAM組成が、血清培養液A中での増殖を促進した。血清中の接着因子や増殖促進因子がこれらのSAM組成に結合したと考えられる。つまり、血清存在下と無血清では、細胞の接着/増殖に及ぼすSAM組成の影響が本質的に異なることが判明した。
【0080】
なお、一部の実験(実験1、5)では、DNA定量でも増殖を評価した。
図11、
図12に実験1、実験5の4日間培養後のDNA定量結果をそれぞれ示す。MTT試験結果とDNA定量結果は一致した。
【0081】
また、実験1の通常培養皿及びSAM(A8)と、実験5の通常培養皿及びSAM(A5)の4日間培養後のMTT試験結果を
図13(A)に、DNA定量結果を
図13(B)にそれぞれ示しているが、無血清培養液中では、SAM(A8)上で、通常培養皿に比較して細胞数とDNAが培養4日目で2〜3倍に増加していることがわかる。
【0082】
以上の実験結果から、表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜0:100、好ましくは、80:20〜20:80、より好ましくは70:30〜60:40のSAMと、無血清培養液(STK2)とを組み合わせることで、無血清培養液中でも、ヒト骨髄間葉系幹細胞の接着・増殖を促進させられることがわかる。
【0083】
(実験11〜13)
ラット初代間葉系幹細胞(rat−primary MSC)の接着・増殖に及ぼすSAM表面の官能基配合の影響について検証した。
【0084】
骨髄液には造血系細胞、血管系細胞、間質細胞、間葉系幹細胞などが存在する。すなわち不均質な細胞集団である。骨髄間葉系幹細胞は、骨髄中の培養皿に接着・進展する線維芽細胞様細胞として分離される。しかし通常培養皿では、均質な骨髄間葉系幹細胞を得ることが困難である。そこで、本実験では、ラット骨髄液を直接各種のSAM培養皿に播種して、間葉系幹細胞(線維芽細胞様細胞)の接着と増殖に及ぼすSAM組成の影響を検討した。
【0085】
5匹の生後5週目の雄性Wistarラットの左右の大腿骨と脛骨から分離した骨髄液を無血清のalpha MEMにて稀釈して計25ml(骨髄稀釈液)とした。
【0086】
そして各種SAM基板を装着した培養皿に、骨髄稀釈液を0.06mL/16mm wellで播種し、さらにSTK1、血清培養液A、又は、10%牛胎児血清(FBS)を含有するαMEM(以下、αMEM+10%FBSと記す)を追加して培養液の総量を0.5ml/wellとした。
【0087】
培養液は3日後より3日毎に交換して7〜8日間培養した。
【0088】
なお、2代目以降のラット骨髄間葉系幹細胞を得るためには、3mlの骨髄稀釈液を100mm組織培養用培養皿(Corning社)に播種して、8日間培養して、その後サブコンフルエントになった培養系からトリプシンとEDTAにて分散した細胞を、2000/cm
2の細胞密度で、各種のSAM基板に播種した。
【0089】
細胞の形態観察と細胞数の評価方法は実験1〜6と同様である。また、用いた細胞、培養液、SAMの組み合わせを表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
(結果)
実験11では7日間培養、及び、8日間培養を行いそれぞれについて評価を行った。以下では、実験11の7日間培養について実験11−1、8日間培養について実験11−2と記す。実験11−1の7日間培養後のMTT試験結果を
図14(A)に、実験11−2の8日間培養後のMTT試験結果を
図14(B)に、実験12の8日間培養後のMTT試験結果を
図14(C)に、実験13の7日間培養後のMTT試験結果を
図14(D)に示す。また、実験11−1の7日間培養後の写真を
図15に、実験11−2の8日間培養後の写真を
図16に、実験12の8日間培養後の写真を
図17に、実験13の7日間培養後のMTT試験結果を
図18に示す。
【0092】
無血清培養液STK1存在下で、ラット骨髄の線維芽細胞様細胞(間葉系幹細胞を含む)は、異なるグループとして、SAM(A4),(A6),(A11),(A12),(A17)〜(A20),(A23)〜(A25)上で増殖した。しかも培養7〜8日目では、通常培養皿に比較して7〜11倍もの細胞数が得られた。SAM接着性の違いを利用して、骨髄の線維芽細胞様細胞(間葉系幹細胞)の分画が可能である。
【0093】
なお、血清培養液A或いはαMEM+10%FBS存在下でも、いくつかのSAMで、通常培養皿以上の増殖の亢進が観察された。血清存在下と無血清条件下では、ラット骨髄線維芽細胞様細胞(間葉系幹細胞)の増殖のパターンは異なっていることがわかる。
【0094】
以上の実験結果から、表面のアミノ基:水酸基が40:60、カルボキシル基:メチル基が100:0〜80:20、アミノ基:メチル基が20:80〜80:20、アミノ基:カルボキシル基が40:60〜20:80、或いは、水酸基:メチル基が100:0〜80:20のSAMと、無血清培養液(STK1)とを組み合わせることで、無血清培養液中でも、初代のラット骨髄間葉系幹細胞の接着・増殖を促進させられることがわかる。
【0095】
(実験21〜23)
各種組織由来の間葉系幹細胞の接着と増殖に及ぼすSAM表面の官能基配合の影響について検証した。
【0096】
ヒト滑膜由来間葉系幹細胞(ヒトの変形性関節症由来の間葉系幹細胞、滑膜線維芽細胞とも呼ばれる(2株)(h−synovial MSC(S6−P2)、h−synovial MSC))は、Cell Applications Inc.から入手した。
【0097】
ヒト歯髄間葉系幹細胞(1株)(h−Dental pulp MSC)は、抜歯した智歯の歯髄組織細片より遊走、成長する細胞集団として分離した(Odontblast Differentiation of Human Dental Pulp Cells in Explant Cultures. M.−L.Couble et al.,Calcif Tissue Int.2000)。
【0098】
これらの細胞は血清培養液Aにて、3日毎に培養液交換しながら、37℃で5%CO
2条件下にて培養した。植継ぎのためには、サブコンフルエントになった培養系をトリプシンとEDTAと5分間インキュベートした。そして10%FBS含有培養液にて酵素反応を停止して、その後遠心して細胞を無血清のDMEMで3回洗浄した。そしてSTK2あるいはSTK1で懸濁した細胞をSAM培養皿に実験21、23では2000/cm
2、実験22では500/cm
2の細胞密度で播種して、4−14日間培養した。
【0099】
細胞の形態観察と細胞数の評価方法は実験1〜6と同様である。また、用いた細胞、培養液、SAMの組み合わせを表5に示す。
【0100】
【表5】
【0101】
(結果)
実験21のMTT試験結果を
図19(A)に、実験22のMTT試験結果を
図19(B)にそれぞれ示すとともに、実験21の4日間培養後の写真を
図20に、実験22の14日間培養後の写真を
図21にそれぞれ示す。
【0102】
ヒト滑膜由来間葉系幹細胞(2代目)は、ドナーの違い、無血清培養液(STK2あるいはSTK1)の種類の違いに関わらず、SAM(A6)〜(A9)によく接着し、SAM(A10),(A11)にも接着したが、他の組成のSAMには接着しなかった。
【0103】
そして、これらの細胞は、SAM(A6)〜(A8)、(OH=100からOH:COOH=60:40の配合比)でよく増殖し、SAM(A9)でも増殖したが、他の組成では増殖しなかった。
【0104】
なお最大の細胞増殖はSAM(A7)(OH:COOH=80:20)あるいはSAM(A8)(OH:COOH=60:40)で観察された。そして、
図19(B)に示すように、通常培養皿よりも7倍の細胞数が得られた。この結果は、ヒト骨髄間葉系幹細胞の増殖を促進するSAM組成とほぼ一致した。
【0105】
したがって、表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜40:60、好ましくは、80:20〜60:40のSAMと、無血清培養液(STK2あるいはSTK1)とを組み合わせることで、無血清培養液中でも、ヒト滑膜由来間葉系幹細胞の接着・増殖を促進させられることがわかる。
【0106】
また、実験23の4日間培養後のMTT試験結果を
図22に、写真を
図23に示す。ヒト歯髄由来間葉系幹細胞(5代目)の増殖を促進するSAM組成も、ヒト骨髄およびヒト滑膜由来間葉系幹細胞とほとんど共通していた。したがって、表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜60:40のSAMと、無血清培養液(STK2)とを組み合わせることで、無血清培地中でも、ヒト歯髄由来間葉系幹細胞の接着・増殖を促進させられることがわかる。
【0107】
(実験31〜33)
ヒト線維芽細胞(Fibroblast)およびラット骨芽細胞(rat−Osteoblast)の接着と増殖に及ぼす培養皿表面の官能基配合の影響について検証した。
【0108】
ヒト皮膚線維芽細胞はクラボー社(大阪)から購入して、上記のように血清培養液Aにて維持した。
【0109】
ラット頭蓋骨由来骨芽細胞は、吉子らの方法(A subset of osteoblasts expressing high endogenous levels of PPARgamma switches fate to adipocytes in the rat calvaria cell culture model. Yoshiko Y,Oizumi K,Hasegawa T,Minamizaki T,Tanne K,Maeda N,Aubin JE. PLoS One. 2010 5(7):e11782.)で分離した。
【0110】
すなわち胎生21日の雄性Wistarラット頭蓋冠を経時的にコラゲナーゼで消化し、細胞を5分画し、最初の分画(線維芽細胞分画)を除く4分画を別々に10%FBS含有alpha MEMにて培養した。翌日、これらの分画をプールし、アスコルビン酸(50μg/ml)を添加した同培養液で培養した。これらの細胞はほぼコンフルエントまで増殖した後で、上記のようにトリプシンとEDTAにて植継いだ。
【0111】
細胞の形態観察と細胞数の評価方法は実験1〜6と同様である。また、用いた細胞、培養液、SAMの組み合わせを表6に示す。なお、これらの細胞は培養皿に2000/cm
2の細胞密度で播種して培養した。
【0112】
【表6】
【0113】
(結果)
実験31のMTT試験結果を
図24(A)に、実験32のMTT試験結果を
図24(B)にそれぞれ示すとともに、実験31の4日間培養後の写真を
図25に示す。
【0114】
図24(A)を見ると、無血清培養液(STK2)存在下で、ヒト線維芽細胞は、SAM(A6)〜(A9)とSAM(A25)〜SAM(A28)によく接着した。そして、SAM(A6)〜SAM(A7)、(OH=100からOH:COOH=80:20)およびSAM(A25)〜SAM(A26)(OH:CH
3=80:20からOH:CH
3=60:40)で最もよく増殖した。
【0115】
これらのSAM組成上では、4日以内に、通常培養皿より2倍以上の細胞数が得られた。なお、SAM(A8)とSAM(A27)〜(A28)でも中レベルに増殖したが、他の組成では増殖しなかった。無血清培養液で、ヒト線維芽細胞が増殖するSAM組成は、ヒト間葉系幹細胞が増殖するSAM組成は部分的に重複していたが、パターンは異なっていた。
【0116】
以上のことから、表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜40:60、或いは、水酸基:メチル基の割合が80:20〜20:80、好ましくは、水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜80:20、或いは、水酸基:メチル基の割合が80:20〜60:40のSAMと、無血清培養液(STK2)とを組み合わせることで、無血清培養液中でも、ヒト線維芽細胞の接着・増殖を促進させ得ることがわかる。
【0117】
なお、血清培養液Aにて培養すると、ヒト線維芽細胞は、SAM(A6),(A14)〜(A16)、(A25)、(A26)以外の配合では接着増殖した。とくにSAM(A1)〜(A5),(A8),(A17),(A20)〜(A24)ではよく接着して通常培養皿以上に増殖した。また血清培養液Aを使用すると、各種SAM上でのヒト線維芽細胞の増殖パターンはヒト骨髄間葉系幹細胞とラット骨髄間葉系幹細胞と類似していた。つまり血清存在下では、細胞の種類や動物種を区別することができなかった。
【0118】
また、ラット骨芽細胞を用いた実験33の4日間培養後のMTT試験結果を
図26に、写真を
図27に示す。ラット骨芽細胞は、無血清培養液(STK2)存在下で、SAM(A6)〜(A12)とSAM(A25)〜(A28)に接着よくした。そして、すべてのSAM組成で通常培養皿以上の細胞増殖が観察された。特にSAM(A6)〜(A7)、SAM(A10)〜(A11)およびSAM(A25)〜(A28)(OH:CH
3=80:20からOH:CH
3=20:80)で最もよく増殖した。無血清培養液で、骨芽細胞が増殖するSAM組成は、間葉系幹細胞あるいは線維芽細胞のパターンとは異なっていた。
【0119】
以上の結果から、表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜0:100、カルボキシル基:メチル基の割合が80:20、或いは、水酸基:メチル基の割合が80:20〜20:80のSAMと、無血清培養液(STK2)とを組み合わせることで、無血清培養液中でも、ラット骨芽細胞の接着・増殖を促進させ得ることがわかる。
【0120】
(実験41〜42)
ラット骨髄間葉系幹細胞(rat−BM MSC)の接着と増殖に及ぼす培養皿表面の官能基配合の影響について検証した。
【0121】
ラット骨髄間葉系幹細胞は、実験11〜13と同様の手法で分離、培養して用いた。
【0122】
細胞の形態観察と細胞数の評価方法は実験1〜6と同様である。また、用いた細胞、培養液、SAMの組み合わせを表7に示す。
【0123】
【表7】
【0124】
(結果)
実験41及び実験42の4日間培養後のMTT試験結果を
図28(A)、(B)に、実験41及び実験42の4日間培養後のDNA定量結果を
図29(A)、(B)に、実験41及び実験42の4日間培養後の写真を
図30、
図31にそれぞれ示す。
【0125】
MTT試験結果とDNA定量結果とはほぼ同じ傾向であることがわかり、無血清培養液(STK2)存在下では、SAM(A6)〜(A11)でラット骨髄間葉系幹細胞の顕著な増殖が見られる。表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜0:100、カルボキシル基:メチル基の割合が100:0〜80:20のSAMと、無血清培養液(STK2)とを組み合わせることで、無血清培地中でも、ラット骨髄間葉系幹細胞の接着・増殖を促進させ得ることがわかる。なお、
図28中の2h−4daysは播種2時間後および4日後での細胞接着の状態を接着が多いもの(A)、非接着細胞が多いもの(F)を示している。つまりSAMによっては初期接着を促進したものの長期的な接着あるいは増殖を維持しなかったもの、初期接着のみならず増殖を促進したものなどが存在した。SAMは接着のみならず増殖にも影響することが示された。
【0126】
(実験51、52)
ヒト初代間葉系幹細胞(h−primary MSC)の接着と増殖に及ぼす培養皿表面の官能基配合の影響について検証した。
【0127】
ヒト初代骨髄間葉系幹細胞は、広島大学倫理委員会の許可のもとで、腸骨の骨髄液から得た(Kubo H, Shimizu M, Taya Y et al., Gene to Cells 2009,14:407−424)。
【0128】
ヒト骨髄の単核球画分(R82株)をSTK1培地で稀釈して、各16mm培養皿に有核細胞7万個/cm
2の細胞密度になるように0.5mLの細胞浮遊液を播種して、播種3日後に0.25mLのSTK1を追加した。そして3日毎に0.5mLのSTK1にて培地交換した。そして播種から14日目に細胞の写真撮影をしてから、培養液にWST−8試薬を追加し、MTT assayを行った。また、ヒト骨髄液(R83株)をそのまま用いた以外は上記と同様にして播種し、MTT assayを行った。
【0129】
細胞の形態観察と細胞数の評価方法は実験1〜6と同様である。また、用いた細胞、培養液、SAMの組み合わせを表8に示す。
【0130】
【表8】
【0131】
(結果)
実験51のMTT試験結果を
図32に、培養後の写真を
図33にそれぞれ示す。無血清培養液(STK1)存在下では、SAM(A6)〜(A11)でヒト初代間葉系幹細胞の顕著な増殖が見られる。表面の水酸基:カルボキシル基の割合が100:0〜40:60のSAMと、無血清培養液(STK1)とを組み合わせることで、無血清培養液中でも、ヒト初代間葉系幹細胞の接着・増殖を促進させ得ることがわかる。
【0132】
また、実験52のMTT試験結果を
図34に示す。骨髄液を培養した場合、コントロールではほとんど増殖が見られなかったが、SAM(A6)〜(A9)では、顕著に増殖した。
【0133】
また、実験1〜4におけるヒト骨髄間葉系幹細胞の結果、実験21、22におけるヒト滑膜由来間葉系幹細胞の結果、実験23におけるヒト歯髄間葉系幹細胞の結果を見ると、いずれも同様の傾向を示しており、SAM(A6)〜(A8)で細胞の増殖が見られる。このことから、SAM組成が水酸基:カルボキシル基が100:0〜60:40の割合であれば、他の組織、例えば、脂肪由来、臍帯由来、胎盤由来、羊膜由来、骨膜由来など、ヒト間葉系幹細胞の接着、増殖にも適用可能である。
【0134】
(実験61〜67)
続いて、ヒト骨髄間葉系幹細胞(h−BM MSC)の培養皿表面への接着、伸展性等について検証した。
【0135】
予め培養しておいたヒト骨髄間葉系幹細胞をSTK2に分散させ、16mm培養皿に4000cells/wellの密度で播種し培養した。また、参考例として、共焦点ガラスシャーレとDMEM+10%FBS或いはSTK2との組み合わせで上記同様に培養した。用いた培養液と培養皿との組み合わせを表9に示す。
【0136】
【表9】
【0137】
培養を開始して3時間後及び24時間後に、それぞれについて、一次抗体及び二次抗体を添加して染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV−1000D、株式会社オリンパス製)にて観察し、ヒト骨髄間葉系幹細胞の培養皿への接着や伸展等を評価した。用いた一次抗体は、Actin Cytoskeleton / Focal Adhesion Staining Kit(Merck MILLIPORE社製)、二次抗体は、GOAT ANTI-MOUSE IgG (H&L) FLUORESCEIN CONJUGATED(タカラバイオ株式会社製)である。
【0138】
図35〜
図38に、SAM(A1)、(A6)、(A8)、(A11)の写真を示す。また、それぞれの観察の結果、糸状突起、葉状突起、接着斑及びストレスファイバーの有無、並びに、細胞の大きさ及び形状の評価を表10に示す。評価は以下の指標にて行った。
d:脱着或いは浮遊細胞
S:小細胞
L:大細胞
R:丸まって伸展していない形状
F:扁平し伸展した形状
−:存在していない
±:存否の判断不能
+:存在している
++:多く存在している
【0139】
【表10】
【0140】
共焦点用ガラスシャーレに関し、血清を含有するFBS培地(実験66)では、接着因子を有するので、糸状突起等の存在が見られ、細胞が伸展し大きくなっているが、無血清培地であるSTK2(実験67)では、細胞がガラスシャーレに接着せず、糸状突起等の存在がなく細胞の伸展等も見られなかった。
【0141】
一方、実験62、63のSAM(A6)、(A8)では、接着因子を有さない無血清培地であるSTK2であっても、糸状突起等が多く存在し、細胞が伸展し大きくなっている。細胞とSAM(A6)、(A8)との相互作用が活発であり、細胞がSAM表面に良好に接着するとともに伸展も促進され、これにより細胞の増殖も促進され得ることがわかる。
【0142】
(実験71)
続いて、SAM(A8)を用い、ヒト骨髄間葉系幹細胞(h−BM MSC)の軟骨細胞、脂肪細胞および骨細胞への分化について検証した
【0143】
予め培養しておいたヒト骨髄間葉系幹細胞を回収後、16mm培養皿に4000cells/wellの密度で播種し培養した。なお、培養液としてSTK2を用いた。
【0144】
ヒト骨髄間葉系幹細胞がコンフルエントに達するまで増殖した後、軟骨細胞、脂肪細胞、骨細胞へ分化させるべく培養液をそれぞれSTK2、脂肪分化誘導培地、STK3に交換して培養した。脂肪分化誘導培地として、1% Antibiotic-Antimycotic,10% FBS,2mM L-glutamine,10
-6MDex,0.2mMindomethacin(Wako Pure Chemical Industries, Ltd),0.01mg/ml insulin(WakoPureChemical Industries, Ltd),0.5mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(Wako PureChemicalIndustries, Ltd)を添加したDMEMを用いた。また、それぞれについて、参考例としてSAM(A8)の代わりに通常培養皿(Control)を用いて上記同様に細胞を培養した。なお、いずれの実験においても、3検体ずつ行った。
【0145】
(軟骨細胞への分化の検証)
培地をSTK2に交換後、顕微鏡で経時的に観察し、培養皿への細胞の接着状態を観察した。また、トルイジンブルー染色(Toluidine blue staining)を行い、軟骨細胞に分化しているか否かを検証した。
【0146】
図39に、通常培養皿で培養した細胞を染色した写真、
図40に、SAM(A8)で培養した細胞を染色した写真をそれぞれ示す。また、表11に接着状態及びトルイジンブルー染色で染色された細胞の量について示す。
【0147】
【表11】
【0148】
通常培養皿では、培地交換して6日後に細胞が培養皿から脱離した。一方、SAM(A8)では、細胞が培養皿に接着した状態を保っていた。このため、トルイジンブルー染色は、SAM(A8)では培地交換して29日目、一方の通常培養皿では培地交換して6日後に細胞が培養皿から脱離したため、6日後に行ったものである。トルイジンブルー染色の結果、SAM(A8)では、多くの細胞が染色されており、軟骨細胞に分化していることがわかる。
【0149】
更に、軟骨が形成された際に産生されるグリコサミノグリカン(glyocosaminoglucan:GAG)の産生量を測定し、軟骨細胞への分化が促進されているかについて検証した。その結果を
図41に示す。なお、SAM(A8)及び通常培養皿ともに、培地交換して28日目に、培養皿あたりのGAG産生量を測定した。
【0150】
通常培養皿では、GAGは約60ng/cultureであったが、SAM(A8)では、約160ng/cultureであり、通常培養皿に比べて3倍近くGAGが産生されていた。
【0151】
これらの結果から、SAM(A8)でヒト骨髄間葉系幹細胞を培養すると、軟骨細胞への分化が促進されることがわかった。
【0152】
(脂肪細胞への分化の検証)
脂肪分化誘導培地に交換した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察し、培養皿への細胞の接着状態を観察するとともに、オイルレッドO(Oil red O staining)染色により、軟骨細胞に分化しているか否かを検証した。
図42に、通常培養皿にて培養した細胞を染色した写真、
図43に、SAM(A8)にて培養した細胞を染色した写真をそれぞれ示す。また、表12に染色された細胞の量を目視で観察した結果を示す。
【0153】
【表12】
【0154】
SAM(A8)にて培養した場合、通常培養皿にて培養した場合に比べ、多くの細胞が染色されていることがわかる。
【0155】
また、脂肪細胞にて発現するGPDH(Glycerol 3−phosphate dehydrogenase)量を測定した。その結果を
図44に示す。通常培養皿に比べ、SAM(A8)ではGPDH量が多いことがわかる。これらの結果から、ヒト骨髄間葉系幹細胞が脂肪細胞に分化していることが分かった。
【0156】
(骨細胞への分化の検証)
STK3に交換した後、骨細胞に発現するALP(Alkaline Phosphatase)活性を測定した。なお、本実験では、通常培養皿とSTK3とを組み合わせた参考例のほか、他の参考例として、通常培養皿とDMEM+10%FBSとの組み合わせ(Negative Control)についても行った。
【0157】
ALP活性測定の結果を
図45に示す。通常培養皿に比べ、SAM(A8)ではALP活性が高いことがわかる。この結果から、ヒト骨髄間葉系幹細胞が骨細胞に分化していることが分かった。
【0158】
なお、細胞分化は、幹細胞が培養器等に接着、増殖するとともに、適切な分化誘導培地を用いれば生じ得る。それゆえ、実験1〜4にて、ヒト骨髄間葉系幹細胞の接着及び増殖が良好であったSAM(A6)〜SAM(A10)、即ち、水酸基:カルボキシル基を100:0〜20:80の割合で表面に有する培養器についても、実験71同様、ヒト骨髄間葉系幹細胞を分化させ得る。すなわち、軟骨分化誘導培地を用いてヒト骨髄間葉系幹細胞を培養すれば軟骨細胞へと分化させ得る。また、骨形成誘導培地を用いればヒト骨髄間葉系幹細胞を骨細胞へと分化させ得る。また、脂肪分化誘導培地を用いればヒト骨髄間葉系幹細胞を脂肪細胞へと分化させ得る。ここで、軟骨分化誘導培地及び骨形成誘導培地については、無血清の培地であっても細胞分化させ得る。無血清の軟骨分化誘導培地及び骨形成誘導培地はそれぞれ制限されるものではなく、一例として上述したSTK2及びSTK3がそれぞれ挙げられる。そして、本発明に係る培養器と分化誘導培地を用いて細胞分化させると、通常の培養皿を用いた場合に比べて、多くの細胞が分化しており、本発明に係る培養器を用いた培養方法は細胞の増殖だけでなく、細胞分化に対しても優れていることがわかる。
【0159】
なお、本発明は、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0160】
本出願は、2011年4月5日に出願された日本国特許出願2011−084119号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2011−084119号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。