【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
光チオール発生剤の製造(1):
下記(1)〜(3)の操作を用いて、式(X−1)に示す光チオール発生剤を製造した。
【0095】
(1)中間体(1)の製造:
100mlナスフラスコに2−(トリフェニルホスホラニリデン)プロピオン酸エチル21.0g(58×10
−3mol)を溶媒である脱水ベンゼン200mlに入れ、常温で溶解させた。溶解させた後、サリチルアルデヒド10.0g(82×10
−3mol)を加え、常温で6時間攪拌して溶解させた。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムで希釈した。飽和食塩水で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させた。溶媒留去後、酢酸エチルとn−ヘキサンを酢酸エチル/ヘキサン=1/4の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、減圧乾燥後、下記式(H−1)に示した中間体(1)の白色固体を収量11.0g、収率94%で得た。
【0096】
【化21】
【0097】
(2)中間体(2)の製造:
500mlナスフラスコに(1)で得られた中間体(1)11.0g(53×10
−3mol)を入れ、エタノール150mlを加えて溶解させた。溶解後、水60ml、水酸化カリウム(KOH)14.0g(250×10
−3mol)を加え、5時間還流加熱した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムで希釈し、5質量%の塩酸水溶液でpHが3〜5になるまで洗浄した。溶媒留去、減圧乾燥後、下記式(H−2)に示した中間体(2)の白色固体を収量10.0g、収率98%で得た。
【0098】
【化22】
【0099】
(3)光チオール発生剤(1)の製造:
100mlナスフラスコに(2)で得られた中間体(2)0.48g(2.7×10
−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)20mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)0.60g(3.17×10
−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−1)の多官能チオールである2−エチルヘキシルチオグリコレート0.60g(2.9×10
−3mol)を入れて常温で3時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=40/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−1)で表される光チオール発生剤の黄色粘性液体を収量0.69g、全収率64%で得た。
【0100】
【化23】
【0101】
[実施例2]
光チオール発生剤の製造(2):
500mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)4.1g(23×10
−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)100mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)4.5g(23×10
−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−2)の多官能チオールである1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン1.9g(11×10
−3mol)を入れて常温で4時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=40/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−2)で表される光チオール発生剤の黄色粘性液体を収量2.0g、全収率32%で得た。
【0102】
【化24】
【0103】
[実施例3]
光チオール発生剤の製造(3):
300mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)2.0g(11×10
−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)50mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)2.2g(11×10
−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−3)の多官能チオールである3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール1.0g(5.5×10
−3mol)を入れて常温で4時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=13/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−3)で表される光チオール発生剤の白色固体を収量0.55g、全収率18%で得た。
【0104】
【化25】
【0105】
[実施例4]
光チオール発生剤の製造(4):
500mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)4.0g(22×10
−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)100mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)4.5g(23×10
−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−4)の多官能チオールであるトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート3.9g(7.4×10
−3mol)を入れて室温で7時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=20/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−4)で表される光チオール発生剤の白色固体を収量2.5g、全収率31%で得た。
【0106】
【化26】
【0107】
[実施例5]
光チオール発生剤の製造(5):
300mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)2.9g(16×10
−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)50mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)2.8g(17×10
−3mol)及び下記式(T−5)の多官能チオールであるペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)1.9g(3.8×10
−3mol)を入れて常温で24時間攪拌した後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=10/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−5)で表される光チオール発生剤の白色固体を収量0.56g、全収率12%で得た。
【0108】
【化27】
【0109】
[試験例1]
有機溶剤に対する溶解性の確認:
実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤の有機溶剤に対する溶解性を確認した。結果を
図1に示す。溶解性は、光チオール発生剤0.01gに対して溶解する溶媒量を確認した。
図1中、溶解量の結果を、溶媒量が1ml未満の場合「++」、1ml以上5ml未満の場合「+」、5ml以上10ml未満の場合「−」、10ml以上の場合「−−」として示した。
【0110】
図1は、実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤の有機溶剤に対する溶解性を示した図である。
図1に示すように、得られた全ての光チオール発生剤は、テトラヒドロフラン(THF)にも良好な溶解性を示した。また、実施例3の光チオール発生剤は、シクロヘキサンやMEKにも溶解性を示し、実施例2、実施例4及び実施例5の光チオール発生剤は良好な溶解性を示す有機溶剤が他にもいくつかあることが確認できた。
【0111】
[試験例2]
光分解挙動の確認(UVスペクトル測定):
実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤について、溶媒としてメタノールを用いて、下記の測定法を用いて光分解挙動の確認を行った。
【0112】
(測定方法)
2.0×10
−5mol/lとした実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤のメタノール溶液に波長が254nm、313nm及び365nmの光を照射し、紫外可視分光光度計(MultiSpec−1500/(株)島津製作所製)を用いてUVスペクトルの経時変化を確認した。
【0113】
UVスペクトルの経時変化を確認したところ、実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤は、光照射の露光量に伴って吸収が変化して、光分解挙動が確認できた。なお、実施例2では277nm及び318nm、実施例3では272nm及び317nm、実施例4及び実施例5では277nm及び322nmにピークが確認できるが、実施例2における318nm、実施例3における317nm、実施例4及び実施例5における322nm付近のピークは、環化反応を起こすときに発生するピークであり、実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤は露光により光環化反応が行われていることが確認できた。
【0114】
なお、
図2ないし
図4は、実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤における、波長254nm光、313nm光及び365nm光での光分解挙動を比較した図である(
図2は254nm光、
図3は313nm光、
図4は365nm光の結果である。)。
【0115】
光分解挙動の確認(光環化物の特定):
前記の光分解挙動に際して生成される光環化物を特定した。50mlバイアルに実施例2の光チオール発生剤を0.10g、テトラヒドロフラン(THF)を30ml入れ、波長が365nmの光を照射し、露光後の光環化物をカラムクロマトグラフィーにより単離して、白色固体を収量0.060g、収率92%で得た。単離した化合物
1H−NMRスペクトル及びその帰属結果より、実施例2の光チオール発生剤は光の照射により環化反応を起こし、その環化物は3−メチルクマリンであることが確認できた。
【0116】
[試験例3]
高分子固体中の光分解挙動の確認:
ポリテトラヒドロフラン(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)0.10gに対して、実施例2で得られた光チオール発生剤0.04g(PTMG100質量部に対して40質量部)(8.2×10
−5mol)を含有させることにより感光性樹脂組成物とした。かかる感光性樹脂組成物を、テトラヒドロフラン(THF)1.0gに溶解させて試料溶液とし、この試料溶液を1000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、
1.0μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を、露光量を0〜20480mJ/cm2として照射し、反応をFT−IRで反応追跡した。実施例3及び実施例4の光チオール発生剤についても同様な操作を行い、反応をFT−IRで追跡した。なお、実施例3の光チオール発生剤は0.041g(PTMG100質量部に対して41質量部)、実施例4の光チオール発生剤は0.082g(PTMG100質量部に対して82質量部)とした。
【0117】
なお、追跡したのは、実施例2ないし実施例4の光チオール発生剤の分解によるカルボニル基(C=O)とヒドロキシ基(−OH)のピークの減少、また、生成すると予想される環化物(クマリン)のカルボニル基(C=O)とチオールのメルカプト基(−SH)のピークの増加である。
【0118】
IRスペクトルを追跡した結果、波長365nm光により実施例2ないし実施例4が分解し、前記した予想される環化物とチオールが発生していることが確認できた。また、発生した光環化物のカルボニル基のピークが露光量を多くすることで減少した。これは、365nm光によってクマリン環が二量化したためであると考えられる。なお、実施例2ないし実施例4の光チオール発生剤はどれも約1000mJ/cm
2で分解が完了した。
【0119】
[実施例6]
感光性樹脂組成物の製造(1):
式(No.4−12)に表されるエポキシ系化合物であるポリグリシジルメタクリレート(PGMA,M
W=11000g/mol、M
W/M
n=1.8)0.10gに対して、実施例2で得られた光チオール発生剤を0.01g(実施例6−1)、0.02g(実施例6−2)、0.03g(実施例6−3)、0.04g(実施例6−4)(順に、PGMA100質量部に対して10.0、20.0、30.0、40.0質量部)(PGMAのモノマーユニットに対して3.0、6.0、9.0、12.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0120】
[実施例7]
感光性樹脂組成物の製造(2):
式(No.4−12)に表されるエポキシ系化合物であるポリグリシジルメタクリレート(PGMA,M
W=11000g/mol、M
W/M
n=1.8)0.10gに対して、実施例3で得られた光チオール発生剤を0.01g(実施例7−1)、0.02g(実施例7−2)、0.03g(実施例7−3)、0.04g(実施例7−4)(順に、PGMA100質量部に対して10.0、20.0、30.0、40.0質量部)(PGMAのモノマーユニットに対して3.0、6.0、9.0、12.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0121】
[試験例4]
光不溶化挙動の確認(1)(加熱時間依存性):
実施例6−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として30分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。なお、照度は10mW/cm
2とした(以下、試験例5〜試験例9について同じ。)。そして、同様な操作を、ポストベイクの時間を45分間、及び60分間に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を
図5(A)に示す。
【0122】
[試験例5]
光不溶化挙動の確認(2)(添加量依存性):
実施例6−1で得られた感光性樹脂組成物(PGMAのモノマーユニットに対して3.0mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、実施例6−2(同様に6.0mol%のもの)、実施例6−3(同様に9.0mol%のもの)、実施例6−4(同様に12.0mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を
図5(B)に示す。
【0123】
[試験例6]
光不溶化挙動の確認(3)(加熱温度依存性):
実施例6−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ約0.5
μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を90℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、ポストベイクの温度100℃及び110℃に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を
図5(C)に示す。
【0124】
[試験例7]
光不溶化挙動の確認(4)(加熱時間依存性):
実施例7−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として30分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、ポストベイクの時間を45分間、及び60分間に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を
図6(A)に示す。
図6(A)に示すように、露光量が0〜100mJ/cm
2の範囲では、露光量を大きくし、加熱時間を増加させるにつれてポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の不溶化効率が向上することが確認できた。
【0125】
[試験例8]
光不溶化挙動の確認(5)(添加量依存性):
実施例7−2で得られた感光性樹脂組成物(PGMAのモノマーユニットに対して3.0mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、実施例7−3(同様に9.0mol%のもの)、実施例7−4(同様に12.0mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を
図6(B)に示す。
図6(B)に示すように、露光量が0〜100mJ/cm
2の範囲では、露光量を大きくし、光チオール発生剤の添加量を増加させるにつれてポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の不溶化効率が向上することが確認できた。
【0126】
[試験例9]
光不溶化挙動の確認(6)(加熱温度依存性):
実施例7−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ約0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を90℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、ポストベイクの温度100℃及び110℃に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を
図6(C)に示す。
図6(C)に示すように、露光量が0〜100mJ/cm
2の範囲では、露光量を大きくし、加熱温度を増加させるにつれてポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の不溶化効率が向上することが確認できた。
【0127】
[実施例8]
感光性樹脂組成物の製造(3):
エポキシ系化合物であるソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622:ナガセケムテック(株)製)0.10gに対して、実施例2で得られた光チオール発生剤を0.096g(実施例8−1)、0.24g(実施例8−2)、0.36g(実施例8−3)(順に、EX−622の100質量部に対して96、240、360質量部)(EX−622に対して150、200、300mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0128】
[実施例9]
感光性樹脂組成物の製造(4):
エポキシ系化合物であるソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622:ナガセケムテック(株)製)0.10gに対して、実施例4で得られた光チオール発生剤を0.37g(実施例9−1)、0.50g(実施例9−2)、0.74g(実施例9−3)(順に、EX−622の100質量部に対して370、500、740質量部)(PGMAのモノマーユニットに対して150、200、300mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0129】
[試験例10]
硬化試験(添加量依存性)(1):
実施例8−1で得られた感光性樹脂組成物(エポキシ系化合物のモノマーユニットに対して150mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液フッ化カルシウム(CaF
2)上にバーコートして製膜し、80℃で30秒分間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。この塗膜に365nmの単色光を、露光量を0(ブランク)、10、100、500、1000及び10000mJ/cm
2として、120℃で60分間加熱後の塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行い、比較・評価した。そして、同様な操作を、実施例8−2(同様に200mol%のもの)、実施例8−3(同様に300mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施した。結果を
図7に示す。
【0130】
図7は、試験例10における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。0〜100mJ/cm
2の範囲では、露光量を大きくし、添加量を多くするに従って硬化が進行することが確認できた。
【0131】
[試験例11]
硬化試験(添加量依存性)(2):
実施例9−1で得られた感光性樹脂組成物(エポキシ系化合物のモノマーユニットに対して150mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液フッ化カルシウム(CaF
2)上にバーコートして製膜し、80℃で30秒間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。この塗膜に365nmの単色光を、露光量を0(ブランク)、10、100、500、1000及び10000mJ/cm
2として、120℃で60分間加熱後の塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行い、比較・評価した。そして、同様な操作を、実施例9−2(同様に200mol%のもの)、実施例9−3(同様に300mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施した。結果を
図8に示す。
【0132】
図8は、試験例11における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。0〜100mJ/cm
2の範囲では、露光量を大きくし、添加量を多くするに従って硬化が進行することが確認できた。
【0133】
図9は、試験例10と試験例11の結果より、実施例8(実施例8−3)と実施例9(実施例9−3)の感光性樹脂組成物の露光量と残膜率の関係を比較した図である(加熱温度は100℃、加熱時間は60分とした。)。
図9に示すように、全体的に実施例8(実施例8−3)の方が実施例9(実施例9−3)より高残膜率であった。なお、露光量が100mJ/cm
2を超えると残膜率が減少する傾向が見られた。
【0134】
また、
図10は、光照射により得られた硬化膜について、添加量と透過率との関係を示した図である(露光量は100mJ/cm
2とした。)。
図10に示すように、得られた硬化膜はいずれの添加量でも高い透過率を示し、透明性に優れた硬化膜が得られたことが確認できた。
【0135】
なお、実施例6〜実施例9の感光性樹脂組成物に関し、[試験例1]〜[試験例11]で得られた膜については、炭酸ガス発生による凸凹も見られなかった。
【0136】
[実施例10]
感光性樹脂組成物の製造(5):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)(PETA)0.04gに対して、実施例4で得られた光チオール発生剤を0.15g(PETA100質量部に対して375質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。なお、少量のテトラヒドロフラン(THF)と光チオール発生剤あらかじめ混合した上でPETAに含有させた後、THFは減圧乾燥により留去した。
【0137】
[参考例1]
感光性樹脂組成物の製造(6):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)0.04gに対して、チオール化合物(多官能チオール)である下記式(T−6)で表されるトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)を0.08g(PETA100質量部に対して200質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより感光性樹脂組成物を得た。
【0138】
【化28】
【0139】
[参考例2]
感光性樹脂組成物の製造(7):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)(PETA)0.04gに対して、多官能チオールである下記式(T−7)で表される1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(NR−1)を0.085g(PETA100質量部に対して213質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより感光性樹脂組成物を得た。
【0140】
【化29】
【0141】
[試験例12]
保存安定性の確認:
実施例10及び参考例1、参考例2の感光性樹脂組成物をそれぞれ1.0mlミクロチューブに入れ、「製造直後」、「製造1時間後」、「製造1月後」の状態を観察して、保存安定性を比較・評価した。評価基準は、製造直後のものはチューブを横にした直後の状態、製造1時間後、製造1月後のものはチューブを横にして5分後の状態を観察し、粘性が増加しているかを目視で観察した。外観写真を
図11に示す。
【0142】
図11は試験例12におけるミクロチューブの外観写真((A)は製造直後、(B)は製造1時間後、(C)は製造1月後))を示した図である。
図11に示すように、参考例1の感光性樹脂組成物は製造後1時間、参考例2の感光性樹脂組成物は製造1月後で粘性が増加(チューブを横にしても試料が流れない)していることが確認できた。一方、実施例10の感光性樹脂組成物は、製造1月後でも粘性が増加せず、保存安定性に優れる材料であることが確認できた。
【0143】
[実施例11]
感光性樹脂組成物の製造(8):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)(PETA)0.1gに対して、実施例4で得られた光チオール発生剤を0.38g(PETA100質量部に対して380質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0144】
[参考例3]
感光性樹脂組成物の製造(9):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)(PETA)0.1gに対して、多官能チオールである前記式(T−7)で表される1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(NR−1)を0.22g(PETA100質量部に対して220質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより感光性樹脂組成物を得た。
【0145】
なお、前記した実施例11及び参考例3の感光性樹脂組成物は、ラジカル系光重合開始剤ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフォンオキサイド(イルガキュア819:長瀬産業(株)製)を、感光性樹脂組成物を100質量部に対して1.0質量部添加したものもあわせて製造した。
【0146】
[試験例13]
硬化試験(加熱温度依存性):
実施例11及び参考例3で得られた感光性樹脂組成物を0.5gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて試料溶液とした。この試料溶液をガラス基板上にバーコートして製膜し、80℃で1分間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。この塗膜に、254nm(光重合開始剤を添加していないもの)及び365nm(光重合開始剤を添加したもの)の単色光を、露光量を0.01、0.1、0.5、1、2、5、10J/cm
2(光重合開始剤を添加していないもの)及び0.01、0.1、0.5、1、5、10、15、20、30J/cm
2(光重合開始剤を添加したもの)として、室温での塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行い、比較・評価した。結果を
図12(光重合開始剤を添加していないもの)、
図13(光重合開始剤を添加したもの)に示す。
【0147】
図12及び
図13は、試験例13における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図であり、露光量を大きくし、加熱温度を高くするに従って硬化が進行することが確認できた。また、実施例11の感光性樹脂組成物は、感度が良好であり、露光量が大きい範囲(光重合開始剤を添加しない場合で15J/cm
2以上、添加したもので10J/cm
2では多官能チオールを添加した参考例3とほぼ同等の硬度を示し、最高では3H(光重合開始剤を添加しないもの)及びH(添加したもの)の硬度が得られた。
【0148】
[試験例14]
UV硬化膜の作製(酸素阻害の確認):
実施例11、参考例3(それぞれ光重合開始剤を添加したもの)の感光性樹脂組成物、及びPETA単体(実施例11等と同様、100質量部に対してラジカル系光重合開始剤を1質量部添加)を、それぞれテトラヒドロフラン(THF)0.05gに溶解させて試料溶液とし、この試料溶液をガラス基板上にバーコートして製膜し、80℃で1分間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。かかる塗膜を空気中または窒素雰囲気下で365nmの単色光を、露光量15J/cm
2として、室温での塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行って、比較・評価した。結果を
図14に示す。
【0149】
図14は、試験例14における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。PETA単体は、空気中ではほとんど硬化せず、酸素阻害の影響が確認された。一方、実施例11の感光性樹脂組成物は、酸素阻害の影響が低いと考えられる多官能チオールを含む参考例3の感光性樹脂組成物と同様、空気中の硬度は窒素雰囲気下の硬度と相違なく、酸素阻害の影響は認められなかった。
【0150】
また、光照射後の塗膜について、反応をFT−IRで反応追跡し、C=Cのピーク(810cm
−1)面積の変化を確認した。C=Cのピーク面積の変化は、光照射前のピーク面積を測定し、光照射前を1とした場合の光照射後のピーク面積を計算して、変化率を確認した。結果を
図15に示す。
【0151】
図15は、露光量とC=Cのピーク(810cm
−1)面積の変化率の関係を示した図((A)は実施例11、(B)は参考例3、(C)はPETA単体)である。
図15(A)に示すように、本発明の光チオール発生剤を含有する実施例11の感光性樹脂組成物は、酸素阻害の影響が低いと考えられる多官能チオールを含む参考例3の感光性樹脂組成物(
図15(B))と同様、空気中と窒素雰囲気中の変化率は大差なく、また、照射後のC=Cの2重結合は照射前の0.3〜0.4程度となり、反応が効率よくなされていることが確認された。一方、
図15(C)に示すように、PETA単体については、照射後のC=Cの2重結合は、空気中にあっては照射前の0.8程度であり、窒素雰囲気下のそれが0.4程度であるのに比較して大きい。これは、空気中では酸素の存在により重合阻害(酸素阻害)されてしまい反応が効率よく進行していないためと考えられる。
【0152】
なお、実施例10、実施例11の感光性樹脂組成物について、[試験例12]〜[試験例14]で得られた膜については、炭酸ガス発生による凸凹も見られなかった。