特許第6011960号(P6011960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6011960光チオール発生剤及び当該光チオール発生剤を含有する感光性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011960
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】光チオール発生剤及び当該光チオール発生剤を含有する感光性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20161011BHJP
   C08G 59/66 20060101ALI20161011BHJP
   C08G 75/08 20060101ALI20161011BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20161011BHJP
   C07C 327/10 20060101ALI20161011BHJP
   G03F 7/028 20060101ALI20161011BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20161011BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20161011BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C09K3/00 T
   C08G59/66
   C08G75/08
   C08G75/045
   C07C327/10
   G03F7/028
   G03F7/027 501
   G03F7/038 503
   G03F7/004 503Z
【請求項の数】4
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-110621(P2012-110621)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-237750(P2013-237750A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−052214(JP,A)
【文献】 特表2009−518535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08G 75/00−75/32
C07C 301/00−381/14
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(X)で表されることを特徴とする光チオール発生剤。
【化1】
(式(X)中、Rは、炭素原子数1〜12個の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3〜12個の分岐状のアルキル基、あるいは環状構造をとる炭素原子数5〜20個の脂環式炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。さらにRには、−CHCOO−を含んでもよい。また、Rは炭素数1〜12のアルキル基、R、R、R、R及びRは水素原子、をそれぞれ示す。
【請求項2】
下記式(X−a)で表されることを特徴とする光チオール発生剤。
【化2】
(式(X−a)中、l、mは0〜8の整数、nは〜6の整数、Yは4価の炭素、芳香環、トリアジン環、アルキル結合、あるいは下記式(A)で表される結合であり、は水素原子、炭素原子数1〜12個の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3〜12個の分岐状のアルキル基、あるいは環状構造をとる炭素原子数5〜20個の脂環式炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、Rは炭素数1〜12のアルキル基、R、R、R、R及びRは水素原子、をそれぞれ示す。エステル結合、アルキル結合、あるいはヘテロ原子である酸素または硫黄を示す。
【化3】
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の光チオール発生剤と、チオール反応性化合物とを含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記チオール反応性化合物がエポキシ系化合物、エピスルフィド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物及びマレイミド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の感光性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光チオール発生剤及び当該光チオール発生剤を含有する感光性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、光等の活性エネルギー線によってチオールを発生する光チオール発生剤及び当該光チオール発生剤を含有する感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄原子を含む樹脂組成物は高い屈折率を示し、また、優れた透明性を有することが知られている。−SHで表されるチオール基は、エポキシ基等の種々の官能基との高い反応性を有しているため、硬化性樹脂組成物の硬化官能基として使用することができる官能基であり、かかるチオール基を含んだ種々のチオール化合物が提供されている(例えば、特許文献1または特許文献2を参照。)。
【0003】
しかし、チオール基は高い反応性を有するので、チオール化合物とエポキシ系化合物を混合すると硬化反応が進行しすぎてしまって粘度が高くなりすぎてしまうことになっていた。加えて、チオール基を含有する化合物は、チオール基同士が反応することによってジスルフィド結合を形成することが知られているが、チオール基の反応性が高いため、反応の制御が困難となってしまい、保存安定性(貯蔵安定性)を有する硬化型樹脂組成物とすることは困難であった。
【0004】
また、ラジカル重合を利用したUV硬化材料は、実用されているUV硬化材料の大半を占めるが、空気中の酸素により重合が停止する重合阻害(酸素阻害)を顕著に受けることが問題になっていた。この問題を解決する手法として、チオール−エン反応の利用が提案されている。
【0005】
チオールとオレフィンとに光照射することで起こるチオール−エン反応(エン−チオール反応とも呼ばれる。)は、光重合開始剤を用いなくとも反応が可能であり、酸素阻害を受けにくい、硬化収縮がわずかである等、非常に有用な反応である。一方、アクリルモノマーやメタクリルモノマーとチオール化合物を混合すると、徐々に重合が進行して粘度が高くなってしまうため、ここでも保存安定性が問題となっており、アクリルモノマー等とチオール化合物を反応させる場合にあっては、使用する直前に両者を混合して使用せざるを得ないのが現状であった。
【0006】
そのため、光照射によりチオールを発生する光チオール発生剤(PTG)の開発が必要とされており、光の照射によってチオールを発生する光チオール発生剤含有する感光性樹脂組成物が、フォトレジスト材料や光硬化材料等として適用されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−154774号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/086461号パンフレット
【特許文献3】特開2007−241144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来提供されている光チオール発生剤にあっては、光の作用でチオールを発生する反応が迅速に行われない等の問題があるため実用性に乏しく、改善が求められていた。加えて、従来の光チオール発生剤は、チオールを発生する際に分解物として炭酸ガス(CO)の発生を伴っていたが、かかる炭酸ガスは、感光性樹脂組成物を製膜した場合にあっては気泡となり、硬化膜に凸凹を生じさせる原因となっていた。ここで、感光性樹脂組成物を製膜した場合において、硬化膜中に気泡が残ると硬化膜の強度を低下させることになり、また、接着剤として用いる場合には接着強度を低下させる、封止材やコーティング材に用いる場合には水やチオール化合物等空気中の不純物に対するバリア性が低下する等の問題が生じるため、好ましくなかった。
【0009】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、反応効率が良好で実用性も高いとともに、光硬化材料として使用しても保存安定性に優れ、チオール発生時に炭酸ガスの発生もない光チオール発生剤及び当該光チオール発生剤を含有する感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の第1発明に係る光チオール発生剤は、下記式(X)で表されることを特徴とする。
【0011】
【化1】
(式(X)中、Rは、炭素原子数1〜12個の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3〜12個の分岐状のアルキル基、あるいは環状構造をとる炭素原子数5〜20個の脂環式炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。さらにRには、−CHCOO−を含んでもよい。また、Rは炭素数1〜12のアルキル基、R、R、R、R及びRは水素原子、をそれぞれ示す。
【0012】
本発明の第2発明に係る光チオール発生剤は、下記式(X−a)で表されることを特徴とする。
【0013】
【化2】
(式(X−a)中、l、mは0〜8の整数、nは〜6の整数、Yは4価の炭素、芳香環、トリアジン環、アルキル結合、あるいは下記式(A)で表される結合であり、は水素原子、炭素原子数1〜12個の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3〜12個の分岐状のアルキル基、あるいは環状構造をとる炭素原子数5〜20個の脂環式炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、Rは炭素数1〜12のアルキル基、R、R、R、R及びRは水素原子、をそれぞれ示す。エステル結合、アルキル結合、あるいはヘテロ原子である酸素または硫黄を示す。
【0014】
【化3】
【0015】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、前記した本発明の光チオール発生剤と、チオール反応性化合物とを含有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、前記した本発明において、前記チオール反応性化合物がエポキシ系化合物、エピスルフィド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物及びマレイミド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光チオール発生剤は、光の照射により光環化反応を起こしてチオールが発生するため、光の照射により反応の進行を制御できるので、チオール反応性化合物と組み合わせて光硬化材料として使用してもポットライフが長く保存安定性に優れ、反応効率が良好で実用性も高いとともに、チオールの発生時に炭酸ガスの発生もないカルボン酸化合物となる。
【0018】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、本発明の光チオール発生剤とチオール反応性化合物とを含有するので、光チオール発生剤から発生するチオールとエポキシ系化合物等のチオール反応性化合物との反応により硬化が十分になされることになる。加えて、添加される光チオール発生剤がチオールの発生時に炭酸ガスの発生を伴わないため、硬化膜に炭酸ガスの気泡による凸凹を生じさせることもなく、製品特性及び製品価値の高い硬化膜を提供することができる。そして、光の照射により反応の進行を制御できるので、光硬化材料として使用してもポットライフが長く保存安定性に優れる感光性樹脂組成物となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】光チオール発生剤の有機溶剤に対する溶解性を示した図である。
図2】実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤における、波長254nm光での光分解挙動を比較した図である。
図3】実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤における、波長313nm光での光分解挙動を比較した図である。
図4】実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤における、波長365nm光での光分解挙動を比較した図である。
図5】実施例6で得られた感光性樹脂組成物の感度評価結果(露光量と残膜率との関係)を示した図である。
図6】実施例7で得られた感光性樹脂組成物の感度評価結果(露光量と残膜率との関係)を示した図である。
図7】試験例10における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。
図8】試験例11における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。
図9】実施例8と実施例9の感光性樹脂組成物の露光量と残膜率の関係を比較した図である
図10】光照射により得られた硬化膜について、添加量と透過率との関係を示した図である。
図11】試験例12におけるミクロチューブの外観写真を示した図である。
図12】試験例13における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図(光重合開始剤を添加していないもの)である。
図13】試験例13における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図(光重合開始剤を添加したもの)である。
図14】試験例14における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。
図15】露光量とC=Cのピーク(810cm−1)面積の変化率の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明に係る光チオール発生剤は、下記式(X)で表される化合物である。
【0021】
【化3】
【0022】
なお、式(X)中、Rは有機基であり、直鎖構造、枝分かれ構造、あるいは環状構造でもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。さらにRにはシリル基、アクリル基、メタクリル基などの重合性基を含んでいてもよく、モノマーであってもそれらが重合した重合体でもよい。
【0023】
有機基としては、特に制限はなく、従来公知の有機基を使用することができるが、例えば、炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは炭素数1〜12のアルキル基)、炭素数2〜12のアルケニル基、アルキニル基、炭素数6〜12の芳香族基等を挙げることができる。かかる有機基は、下記R〜R及び後記する式(X−a)のYを構成する有機基(並びに式(X−a)のR〜R)も共通である。
【0024】
また、有機基は、直鎖構造、枝分かれ構造、あるいは環状構造でもよい。直鎖構造としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル等が挙げられる。直鎖構造の炭素数としては1〜12が好ましく、炭素数1〜6が特に好ましい。
【0025】
枝分かれ構造としては、例えば、炭素原子数3〜12個の分岐状のアルキル基等が挙げられ、具体的には、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、i−アミル基、t−アミル基、3−オクチル、t−オクチル等が好ましい。これらの中でも、i−プロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基等がさらに好ましく、i−プロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が特に好ましい。
【0026】
環状構造としては、例えば、炭素原子数5〜20個の脂環式炭化水素基が挙げられ、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、トリシクロペンテニル基、及びトリシクロペンタニル基等並びにこれらを有する基が好ましい。これらの中でも、ジシクロペンテニル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基、トリシクロペンテニル基、トリシクロペンタニル基等がより好ましく、ジシクロペンテニル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロペンテニル基等がさらに好ましく、ジシクロペンテニル基、トリシクロペンテニル基が特に好ましい
【0027】
は、ハロゲン、水酸基、スルフィド基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、ホルミル基、アシル基、シアノ基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、アリール基、アリル基、または有機基である。
【0028】
は水素原子、ハロゲン、水酸基、スルフィド基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、ホルミル基、アシル基、シアノ基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、アリール基、アリル基、または有機基であり、同一であっても異なっていてもよい。さらにR及びRには、シリル基、アクリル基、メタクリル基などの重合性基を含んでいてもよく、モノマーであってもそれらが重合した重合体でもよい。
【0029】
、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、水酸基、スルフィド基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、ホルミル基、アシル基、シアノ基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、アリール基、アリル基、アンモニオ基、または有機基であり、同一であっても異なっていてもよい。さらに、R、R、R及びRには、シリル基、アクリル基、メタクリル基などの重合性の基を含んでいてもよく、モノマーであってもそれらが重合した重合体でもよい。またR、R、R及びRは、それら2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。
【0030】
なお、式(X)にあっては、Rを炭素数1〜12のアルキル基、R、R、R、R及びRを水素原子とするようにしてもよい。
【0031】
また、本発明の光チオール発生剤は、下記(X−a)のようにしてもよい。
【0032】
【化4】
【0033】
なお、式(X−a)中、l、mは0〜8の整数、nは1〜6の整数、Yは4価の炭素、芳香環、トリアジン環、または有機基である。lは1〜3が好ましく、mは1〜3が好ましい。
【0034】
Yの有機基は直鎖構造、枝分かれ構造、あるいは環状構造でもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。さらにYにはシリル基、アクリル基、メタクリル基などの重合性基を含んでいてもよく、モノマーであってもそれらが重合した重合体でもよい。R、R、R、R、R、R及びRは前記した式(X)と共通する。
【0035】
本発明の光チオール発生剤は、式(X)及び式(X−a)の構造において、S基に隣接するカルボニル基のα位のR基が水素原子とならず、前記した基となる。かかる基の存在により、光照射によりチオールを発生することになる。一方、かかるR基が存在しないと(水素原子になると)、光照射しなくても、環化反応が進行し、チオールを生成することとなり、熱的に不安定であり、硬化材料と組み合わせて使用した場合の保存安定性に劣ることになる)。
【0036】
は、官能基であるエステル基、アミド基、アミノ基、カルボニル基、アルキル基、またはヘテロ原子である酸素、硫黄等とすればよい。
【0037】
式(X−a)において、下記(X−a’)に示すY基と結合する部分は、Y基の価数(他の基と結合可能な数)によりその数nが決定される。例えば、Yが4価の炭素の場合はn=4、芳香環の場合はn=1〜6、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン等のトリアジン環の場合はn=3、有機基であるアルキレンの場合はn=2、有機基である下記式(A)の化合物の場合はn=6、のようにnが決定される。Y基と結合する部分は、Yに複数が結合される場合には、構造が共通するようにしてもよい。また、前記した式(X)と同様、Rを炭素数1〜12のアルキル基、R、R、R、R及びRを水素原子とするようにしてもよい。
【0038】
【化5】
【0039】
【化6】
【0040】
本発明の光チオール発生剤は、下記スキームに示すように、光の照射によってカルボン酸誘導体が光環化反応し、チオール(−SH)を発生する。本発明に係る光チオール発生剤は、かかるスキーム1に示すように、光の照射によりカルボン酸誘導体の光環化反応によりチオールを発生するため、光の照射により反応の進行を制御できるので、チオール反応性化合物と組み合わせて光硬化材料として使用してもポットライフが長く保存安定性に優れるチオール化合物となる。なお下記スキーム1では、光チオール発生剤の構造を簡略化して示している。
【0041】
(スキーム1)
【化7】
【0042】
本発明の光チオール発生剤は、チオールを発生する際に分解物として炭酸ガス(CO)を発生することもない。かかる炭酸ガスは、感光性樹脂組成物を製膜した場合にあっては気泡となって、硬化膜に凸凹が生じたり、硬化膜の強度を低下させる等硬化膜の性能に悪影響を及ぼし、製品価値を低下させることになっていたが、本発明に係る光チオール発生剤をエポキシ系化合物等のチオール反応性化合物に適用した場合には、反応効率が良好であるとともに、チオール発生時に炭酸ガスの発生もなく、製品特性及び製品価値が優れた硬化膜を提供することができる。なお、反応により副生成物としてクマリン(クマリン系化合物)を生成するが、かかるクマリンはラジカル重合性であり、かつマイケル付加反応も受けやすいので、チオール/エポキシ化合物系やチオール−エン系の組成物に取り込まれることになる。
【0043】
式(X)で表される光チオール発生剤を製造するには、例えば、下記の合成スキームに従い製造することができる。例として式(X)のスキームを示しているが、合成は基本的に多官能チオールとカルボン酸との反応であり、チオールの多官能性だけが異なるだけであるので、チオールの他官能性以外のステップはすべて共通である。
【0044】
(合成スキーム)
【化8】
【0045】
以下、式(X)に対応する本発明の光チオール発生剤を式(X−1)に、式(X−a)に対応する本発明の光チオール発生剤を式(X−2)、式(X−3)、式(X−4)、式(X−5)及び式(X−6)にそれぞれ示す。
【0046】
【化9】
【0047】
【化10】
【0048】
【化11】
【0049】
【化12】
【0050】
【化13】
【0051】
【化14】
【0052】
本発明の光チオール発生剤、及び当該光チオール発生剤を含有した感光性樹脂組成物における照射光の波長及び露光量の範囲としては、光チオール発生剤の種類や量、及び感光性樹脂組成物を構成するチオール反応性化合物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、波長として190〜400nm、露光量として100〜30000mJ/cm(好ましくは100〜10000mJ/cm)の範囲内から選択して適用すればよく、後記する増感剤を用いることによりさらに長波長域を使用することも可能である。照射光の照射時間は、数秒でも可能な場合もあるが、概ね10秒以上とすればよく、1.5〜60分とすることが好ましい。
【0053】
次に、本発明の感光性樹脂組成物を説明する。本発明の感光性樹脂組成物は、光の照射によって光環化反応を起こし、チオールを発生する前記した光チオール発生剤と、チオール反応性化合物を必須成分として含有する。
【0054】
本発明の感光性樹脂組成物を構成するチオール反応性化合物は、光チオール発生剤により発生したチオールの作用により反応して、架橋等により硬化する化合物であれば特に制限はないが、例えば、エポキシ系化合物、エピスルフィド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、マレイミド系化合物等を使用することができる。また、炭素−炭素三重結合を備えた基(C≡C基)を有する樹脂ないし化合物を用いてもよい。かかるチオール反応性化合物は、その1種類を単独で用いるようにしてもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。また、感光性樹脂組成物に含有される光チオール発生剤も、その1種類を単独で用いるようにしてもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0055】
なお、前記したチオール反応性化合物のうち、エポキシ系化合物やエピスルフィド系化合物等は、チオールとイオン反応により硬化する。また、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、マレイミド系化合物等は、チオールとラジカル反応(チオール−エン反応)により硬化する。
【0056】
エポキシ系化合物やエピスルフィド系化合物等と光チオール発生剤との反応スキームを以下に示す。発生するチオールとエポキシ系化合物等が反応し3次元架橋体(Cross−linked networks)を生成することになる。下記スキーム中、R、Rは任意の有機基であり、nも1以上の任意の整数である。
【0057】
(反応スキーム)
【化15】
【0058】
また、一般的なチオール−エン反応は、下記の開始反応、生長反応、停止反応、酸素との反応により形成されるが、発生するチイルラジカルが、チオール反応性化合物と反応し3次元体(Cross−linked networks)を生成することになる。ここで、I・は光開始剤(Initiator)が分解して生じたラジカル活性種、Mはモノマーまたはその重合体をそれぞれ示す。また、Rは任意の有機基である。
【0059】
(開始反応、生長反応)
【化16】
【0060】
(停止反応)
【化17】
【0061】
(酸素(O)との反応)
【化18】
【0062】
以下、本発明に係る感光性樹脂組成物に使用可能なチオール反応性化合物の一例を挙げる。なお、これらのチオール反応性化合物は常法により合成されてもよく、また、市販品を用いてもよい。
【0063】
エポキシ系化合物としては、分子内に1個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく、従来公知のものを使用できる。分子内に1個以上のエポキシ基を有する高分子としては、例えば、エポキシ樹脂が挙げられ、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから誘導されるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンから誘導されるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂や4官能型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂等があり、これらのエポキシ樹脂はハロゲン化されていてもよく、水素添加されていてもよい。市販されているエポキシ樹脂製品としては、例えばジャパンエポキシレジン株式会社製のJERコート828、1001、801N、806、807、152、604、630、871、YX8000、YX8034、YX4000、DIC株式会社製のエピクロン830、EXA835LV、HP4032D、HP820、株式会社ADEKA製のEP4100シリーズ、EP4000シリーズ、EPUシリーズ、ダイセル化学株式会社製のセロキサイドシリーズ(2021、2021P、2083、2085、3000等)、エポリードシリーズ、EHPEシリーズ、東都化成社製のYDシリーズ、YDFシリーズ、YDCNシリーズ、YDBシリーズ、ナガセケムテックス社製のデナコールシリーズ、共栄社化学社製のエポライトシリーズ等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらのエポキシ樹脂は、2種以上を併用してもよい。これらの中で、他の各種のエポキシ化合物と比較すると分子量の異なるグレードが広く入手可能で、接着性や反応性等を任意に設定できる点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0064】
分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物または分子内に2個以上のエポキシ基を有する高分子(エポキシ樹脂)を用いる場合は、エポキシ基との反応性を有する官能基を分子内に2つ以上有する化合物を併用してもよい。ここでエポキシ基との反応性を有する官能基とは、例えば、カルボキシル基、フェノール性水酸基、メルカプト基、1級又は2級の芳香族アミノ基等が挙げられる。これらの官能基は、3次元硬化性を考慮して、一分子中に2つ以上有することが特に好ましい。
【0065】
また、重量平均分子量3,000〜100,000のポリマー側鎖に上記官能基を導入したものを用いることが好ましい。3,000未満では膜強度の低下及び硬化膜表面にタック性が生じ、不純物等が付着しやすくなる場合があり、また、100,000より大きいと粘度が増大する場合があり好ましくない。
【0066】
その他、使用可能なエポキシ系化合物としては、例えば、ジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フエニルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、脂肪族ジグリシジルエーテル、多官能グリシジルエーテル、3級脂肪酸モノグリシジルエーテル、スピログリコールジグリシジルエーテル、グリシジルプロポキシトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのエポキシ系化合物はハロゲン化されていてもよく、水素添加されていてもよく、また、これらのエポキシ系化合物は誘導体も含む。そして、これらのエポキシ系化合物は、その1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
また、ポリグリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体、ベンジルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体、n−ブチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体及びスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体のエポキシ基含有重合体等を使用するようにしてもよい。これらのエポキシ系化合物は、その1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
エピスルフィド系化合物としては、分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物を使用することが好ましく、例えば、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルプロパン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルブタン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3−チアペンタン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルヘキサン、3,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3,6−ジチアオクタン、1,2,3−トリス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、2,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、2,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−1−(2,3ーエピチオプロピルチオ)ブタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,1,1−トリス[{2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル}チオメチル]−2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,1,2,2−テトラキス[{2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル}チオメチル]エタン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の鎖状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物、及び、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス[{2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル}チオメチル]−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン等の環状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物、及び、1,2−ビス(2、3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス{4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル}メタン、2,2−ビス{4−(2、3−エピチオプロピルチオ)フェニル}プロパン、ビス{4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル}スルフィド、ビス{4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル}スルフォン、4,4’−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族2,3−エピチオプロピルチオ化合物等が挙げられる。これらのエピスルフィド系化合物は、その1種を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
マレイミド系化合物は、分子構造中にマレイミド構造を有する化合物であり、マレイミド構造を1分子中に2つ以上有するもの(例えば、ビスマレイミド化合物)を使用することが好ましい。マレイミド構造を1分子中に2つ以上有する(ビスマレイミド化合物)としては、例えば、1−メチル−2,4−ビスマレイミドベンゼン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、N,N’−m−トルイレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ビフェニレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−〔3,3’−ジメチル−ビフェニレン〕ビスマレイミド、N,N’−4,4’−〔3,3’−ジメチルジフェニルメタン〕ビスマレイミド、N,N’−4,4’−〔3,3’−ジエチルジフェニルメタン〕ビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルプロパンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−3,3’−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルスルホンビスマレイミド、2,2−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−t−ブチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−s−ブチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、1,1−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕デカン、1,1−ビス〔2−メチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)−5−t−ブチルフェニル〕−2−メチルプロパン、4,4’−シクロヘキシリデン−ビス〔1−(4−マレイミドフェノキシ)−2−(1,1−ジメチルエチル)ベンゼン〕、4,4’−メチレン−ビス〔1−(4−マレイミドフェノキシ)−2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)ベンゼン〕、4,4’−メチレン−ビス〔1−(4−マレイミドフェノキシ)−2,6−ジ−s−ブチルベンゼン〕、4,4’−シクロヘキシリデン−ビス〔1−(4−マレイミドフェノキシ)−2−シクロヘキシルベンゼン〕、4,4’−メチレンビス〔1−(マレイミドフェノキシ)−2−ノニルベンゼン〕、4,4’−(1−メチルエチリデン)−ビス〔1−(マレイミドフェノキシ)−2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)ベンゼン〕、4,4’−(2−エチルヘキシリデン)−ビス〔1−(マレイミドフェノキシ)−ベンゼン〕、4,4’−(1−メチルヘプチリデン)−ビス〔1−(マレイミドフェノキシ)−ベンゼン〕、4,4’−シクロヘキシリデン−ビス〔1−(マレイミドフェノキシ)−3−メチルベンゼン〕、2,2−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−メチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−メチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3,5−ジメチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3,5−ジメチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−エチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−エチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、ビス〔3−メチル−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3,5−ジメチル−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−エチル−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕メタン、3,8−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン、4,8−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン、3,9−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン、4,9−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン、1,8−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕メンタン、1,8−ビス〔3−メチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕メンタン、1,8−ビス〔3,5−ジメチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕メンタンなどを挙げることができる。これらのマレイミド系化合物は、その1種を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらのマレイミド系化合物の中で、有害物質の生成を一層抑制する観点からは、分子内にハロゲン原子を有しない化合物を使用することが好ましい。また、マレイミド系化合物は、単独で使用してもよいが、他のチオール反応性化合物と併用して使用することが好ましい。
【0070】
アクリル系化合物やメタクリル系化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アクリル変成アルキッド、メタクリル変性アルキッド、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレート、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルメタクリレート等を挙げることができる。これらのアクリル系化合物やメタクリル系化合物は、その1種を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
なお、チオール反応性化合物としてアクリル系化合物やメタクリル系化合物等を採用した場合にあっては、選択した材料によっては、光照射により得られる硬化膜が透明となるので、透明性を必要する用途にも適用することができる。
【0072】
以下、チオール反応性化合物の具体例を挙げる。
【0073】
【化19】
【0074】
【化20】
【0075】
本発明の感光性樹脂組成物における光チオール発生剤の含有量は、チオール反応性化合物100質量部に対して1〜1000質量部とすることが好ましい。光チオール発生剤の含有量が1質量部より少ないと、チオール反応性化合物を迅速に反応させることができなくなる場合がある一方、光チオール発生剤の含有量が1000質量部を超えると、光チオール発生剤の存在がチオール反応性化合物の溶媒に対する溶解性に悪影響を与える場合があり、また、過剰量の光チオール発生剤の存在はコスト高に繋がることになる。光チオール発生剤の含有量は、チオール反応性化合物100質量部に対して5〜300質量部とすることがなお好ましく、10〜100質量部とすることがさらに好ましい。
【0076】
本発明の感光性樹脂組成物は、チオール反応性化合物としてエポキシ系化合物を使用する場合、前記したNo.4−1〜No.4−12等の重合反応性を示すエポキシ系化合物(重合性エポキシ系化合物)とすることが好ましい。このような感光性樹脂組成物は、光または熱の作用により、重合し、重合体を与えることとなる。中でも、光により重合反応を開始する光重合性エポキシ系化合物を含む感光性樹脂組成物とすることが好ましい。
【0077】
本発明に係る感光性樹脂組成物を用いてパターンを形成するには、例えば、当該樹脂組成物を有機溶媒に溶解して塗布液を調製し、調製された塗布液を基板等の適当な固体表面に塗布し、乾燥して塗膜を形成するようにする。そして、形成された塗膜に対して、パターン露光を行ってチオールを発生させた後、所定の条件で加熱処理を行って、感光性樹脂組成物に含有されるチオール反応性化合物の重合反応を促すようにする。
【0078】
本発明の感光性樹脂組成物には、必要により、光重合開始剤を含有させることが好ましい。本発明の感光性樹脂組成物に重合開始剤を含有させることにより、重合がスムースに効率よく開始され、反応効率が向上する。光重合開始剤の添加は、ラジカル反応で硬化する、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、マレイミド系化合物をチオール反応性化合物として使用する場合に好ましい。
【0079】
使用できる光重合開始剤としては、特に制限はないが、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフォンオキサイド等のラジカル系光重合開始剤等や、特開2009−58582号公報に記載される光重合開始剤等を使用することができる。光重合開始剤の添加量は、使用する光チオール発生剤やチオール反応性化合物等により適宜決定すればよいが、感光性樹脂組成物全体に対して0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0080】
本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の光チオール発生剤を含有するため、室温でも重合反応は進行するが、重合反応を効率よく進行させるべく、加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理は、イオン反応で硬化する、エポキシ系化合物やエピスルフィド系化合物をチオール反応性化合物として使用する場合に好ましい。
【0081】
加熱処理の条件は、露光エネルギー、使用する光チオール発生剤から発生するチオールの種類、チオール反応性化合物の種類によって適宜決定すればよいが、加熱温度は50℃〜150℃の範囲内とすることが好ましく、60℃〜130℃の範囲内とすることが特に好ましい。また、加熱時間は10秒〜60分とすることが好ましく、60秒〜30分とすることが特に好ましい。これを露光部と未露光部とで溶解度に差を生じる溶媒中に浸漬して現像を行ってパターンを得ることができる。
【0082】
本発明の感光性樹脂組成物には、必要により、光等の活性エネルギー線によって塩基を発生する塩基発生剤(光塩基発生剤)や、塩基の作用で増殖的に塩基を発生する塩基増殖剤を含有させることが好ましい。本発明の感光性樹脂組成物に塩基発生剤や塩基増殖剤を含有させることにより、当該樹脂組成物の感度をさらに向上させることができる。特に、光が樹脂膜深部に到達しない場合(感光層が厚い場合や多量の染料や顔料を含む場合等。)には、表面層で光化学的に発生した塩基の作用、及び塩基増殖剤による塩基増殖反応が開始されることにより、熱化学的に、かつ連鎖的に塩基が生成するので、膜深部の塩基触媒反応を起こすことが期待できる。塩基発生剤や塩基増殖剤の添加は、イオン反応で硬化する、エポキシ系化合物やエピスルフィド系化合物をチオール反応性化合物として使用する場合に好ましい。
【0083】
使用できる塩基発生剤としては、特に制限はなく、所定のカルボン酸と第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等のアミン、ピリジル基を含有する化合物、ヒドラジン化合物、アミド化合物、水酸化四級アンモニウム塩、メルカプト化合物、スルフィド化合物、ホスフィン化合物等の塩基からなるカルボン酸化合物等を使用することができ、例えば、特開2011−236416号公報等に記載される塩基発生剤等を使用することができる。塩基発生剤の添加量は、使用する光チオール発生剤やチオール反応性化合物等により適宜決定すればよいが、感光性樹脂組成物全体に対して0.1〜20質量%の範囲であることが好ましく、1〜10質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0084】
また、使用できる塩基増殖剤としては、特に制限はないが、例えば、特開2000−330270号公報、特開2002−128750号公報や、K.Arimitsu、M.Miyamoto and K.Ichimura,Angew.Chem.Int.Ed.,39,3425(2000)、等に開示される塩基増殖剤が挙げられる。塩基増殖剤の添加量は、使用する光チオール発生剤やチオール反応性化合物等により適宜決定すればよいが、感光性樹脂組成物全体に対して1〜40質量%の範囲であることが好ましく、5〜20質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0085】
本発明の感光性樹脂組成物は、感光波長領域を拡大し、感度を高めるべく、増感剤を添加することができる。使用できる増感剤としては、特に限定はないが、例えば、ベンゾフェノン、p,p’−テトラメチルジアミノベンゾフェノン、p,p’−テトラエチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、アントロン、9−エトキシアントラセン、アントラセン、ピレン、ペリレン、フェノチアジン、ベンジル、アクリジンオレンジ、ベンゾフラビン、セトフラビン−T、9,10−ジフェニルアントラセン、9−フルオレノン、アセトフェノン、フェナントレン、2−ニトロフルオレン、5−ニトロアセナフテン、ベンゾキノン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、N−アセチル−p−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン、ピクラミド、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアンスロン、ジベンザルアセトン、1,2−ナフトキノン、3,3’−カルボニル−ビス(5,7−ジメトキシカルボニルクマリン)またはコロネン等が挙げられる。これらの増感剤は、1種類を単独で用いるようにしてもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0086】
本発明の感光性樹脂組成物において、増感剤の添加量は、使用する光チオール発生剤やチオール反応性化合物、及び必要とされる感度等により適宜決定すればよいが、感光性樹脂組成物全体に対して1〜30質量%の範囲であることが好ましい。増感剤が1質量%より少ないと、感度が十分に高められないことがある一方、増感剤が30質量%を超えると、感度を高めるのに過剰となることがある。増感剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体に対して5〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0087】
本発明の感光性樹脂組成物を所定の基材に塗布等する場合にあっては、必要により、溶媒を適宜含有するようにしてもよい。感光性樹脂組成物に溶媒を含有させることにより、塗布能力を高めることができ、作業性が良好となる。溶媒としては、特に限定はないが、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、トリメチルベンゼン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素化合物;シクロヘキサン、シクロヘキセン、ジペンテン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、イソノナン、n−デカン、イソデカン、テトラヒドロナフタレン、スクワラン等の飽和または不飽和炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソアミル、ステアリン酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で用いるようにしてもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0088】
本発明の感光性樹脂組成物において、溶媒の含有量は、例えば、所定の基材上に感光性樹脂組成物を塗布し、感光性樹脂組成物による層を形成する際に、均一に塗工されるように適宜選択すればよい。
【0089】
なお、本発明の感光性樹脂組成物には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、添加剤を適宜添加するようにしてもよい。使用することができる添加剤としては、例えば、充填剤、顔料、染料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散剤、分散助剤、表面改質剤、可塑剤、可塑促進剤、タレ防止剤、硬化促進剤、充填剤等が挙げられ、これらの1種類を単独で用いるようにしてもよく、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0090】
以上説明した本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の光チオール発生剤とチオール反応性化合物を含有することにより、硬化速度及び反応効率に優れたものとなり、硬化が速やかに実施され、硬化が十分になされる感光性樹脂組成物となる。また、含有される光チオール発生剤が、光環化反応によりチオールを発生するため、分解物として炭酸ガス(CO)の発生を伴うこともなく、凸凹のない、製品特性及び製品価値に優れた硬化膜を簡便に提供することができる。かかる効果を奏する本発明の感光性樹脂組成物は、例えば、高感度の光硬化材料やレジスト材料(パターン形成材料)等に好適に用いることができる。
【0091】
また、本発明の感光性樹脂組成物は、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)も極めて少ないUV硬化系樹脂となり、環境適応性にも優れるものとなる。そして、光の照射により反応の進行を制御できるので、光硬化材料として使用してもポットライフが長く保存安定性に優れる感光性樹脂組成物となる。
【0092】
光硬化材料として適用された成形体は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の特性が有効とされる分野の部材等として、例えば、塗料または印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材または建築材料の構成部材として広く用いられ、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材または建築部材等が提供される。また、形成されたパターン等は、耐熱性や絶縁性を備え、例えば、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、半導体装置、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、その他の光学部材または電子部材として有利に使用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
光チオール発生剤の製造(1):
下記(1)〜(3)の操作を用いて、式(X−1)に示す光チオール発生剤を製造した。
【0095】
(1)中間体(1)の製造:
100mlナスフラスコに2−(トリフェニルホスホラニリデン)プロピオン酸エチル21.0g(58×10−3mol)を溶媒である脱水ベンゼン200mlに入れ、常温で溶解させた。溶解させた後、サリチルアルデヒド10.0g(82×10−3mol)を加え、常温で6時間攪拌して溶解させた。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムで希釈した。飽和食塩水で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させた。溶媒留去後、酢酸エチルとn−ヘキサンを酢酸エチル/ヘキサン=1/4の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、減圧乾燥後、下記式(H−1)に示した中間体(1)の白色固体を収量11.0g、収率94%で得た。
【0096】
【化21】
【0097】
(2)中間体(2)の製造:
500mlナスフラスコに(1)で得られた中間体(1)11.0g(53×10−3mol)を入れ、エタノール150mlを加えて溶解させた。溶解後、水60ml、水酸化カリウム(KOH)14.0g(250×10−3mol)を加え、5時間還流加熱した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムで希釈し、5質量%の塩酸水溶液でpHが3〜5になるまで洗浄した。溶媒留去、減圧乾燥後、下記式(H−2)に示した中間体(2)の白色固体を収量10.0g、収率98%で得た。
【0098】
【化22】
【0099】
(3)光チオール発生剤(1)の製造:
100mlナスフラスコに(2)で得られた中間体(2)0.48g(2.7×10−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)20mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)0.60g(3.17×10−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−1)の多官能チオールである2−エチルヘキシルチオグリコレート0.60g(2.9×10−3mol)を入れて常温で3時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=40/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−1)で表される光チオール発生剤の黄色粘性液体を収量0.69g、全収率64%で得た。
【0100】
【化23】
【0101】
[実施例2]
光チオール発生剤の製造(2):
500mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)4.1g(23×10−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)100mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)4.5g(23×10−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−2)の多官能チオールである1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン1.9g(11×10−3mol)を入れて常温で4時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=40/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−2)で表される光チオール発生剤の黄色粘性液体を収量2.0g、全収率32%で得た。
【0102】
【化24】
【0103】
[実施例3]
光チオール発生剤の製造(3):
300mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)2.0g(11×10−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)50mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)2.2g(11×10−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−3)の多官能チオールである3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール1.0g(5.5×10−3mol)を入れて常温で4時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=13/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−3)で表される光チオール発生剤の白色固体を収量0.55g、全収率18%で得た。
【0104】
【化25】
【0105】
[実施例4]
光チオール発生剤の製造(4):
500mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)4.0g(22×10−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)100mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)4.5g(23×10−3mol)を加え攪拌した後、下記式(T−4)の多官能チオールであるトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート3.9g(7.4×10−3mol)を入れて室温で7時間攪拌した。反応終了後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=20/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−4)で表される光チオール発生剤の白色固体を収量2.5g、全収率31%で得た。
【0106】
【化26】
【0107】
[実施例5]
光チオール発生剤の製造(5):
300mlナスフラスコに実施例1(2)で得られた中間体(2)2.9g(16×10−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)50mlを入れ常温で溶解させた。溶解後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)2.8g(17×10−3mol)及び下記式(T−5)の多官能チオールであるペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)1.9g(3.8×10−3mol)を入れて常温で24時間攪拌した後、溶媒留去しクロロホルムとアセトンをクロロホルム/アセトン=10/1の展開溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分離し、前記式(X−5)で表される光チオール発生剤の白色固体を収量0.56g、全収率12%で得た。
【0108】
【化27】
【0109】
[試験例1]
有機溶剤に対する溶解性の確認:
実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤の有機溶剤に対する溶解性を確認した。結果を図1に示す。溶解性は、光チオール発生剤0.01gに対して溶解する溶媒量を確認した。図1中、溶解量の結果を、溶媒量が1ml未満の場合「++」、1ml以上5ml未満の場合「+」、5ml以上10ml未満の場合「−」、10ml以上の場合「−−」として示した。
【0110】
図1は、実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤の有機溶剤に対する溶解性を示した図である。図1に示すように、得られた全ての光チオール発生剤は、テトラヒドロフラン(THF)にも良好な溶解性を示した。また、実施例3の光チオール発生剤は、シクロヘキサンやMEKにも溶解性を示し、実施例2、実施例4及び実施例5の光チオール発生剤は良好な溶解性を示す有機溶剤が他にもいくつかあることが確認できた。
【0111】
[試験例2]
光分解挙動の確認(UVスペクトル測定):
実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤について、溶媒としてメタノールを用いて、下記の測定法を用いて光分解挙動の確認を行った。
【0112】
(測定方法)
2.0×10−5mol/lとした実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤のメタノール溶液に波長が254nm、313nm及び365nmの光を照射し、紫外可視分光光度計(MultiSpec−1500/(株)島津製作所製)を用いてUVスペクトルの経時変化を確認した。
【0113】
UVスペクトルの経時変化を確認したところ、実施例2ないし実施例5で得られた光チオール発生剤は、光照射の露光量に伴って吸収が変化して、光分解挙動が確認できた。なお、実施例2では277nm及び318nm、実施例3では272nm及び317nm、実施例4及び実施例5では277nm及び322nmにピークが確認できるが、実施例2における318nm、実施例3における317nm、実施例4及び実施例5における322nm付近のピークは、環化反応を起こすときに発生するピークであり、実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤は露光により光環化反応が行われていることが確認できた。
【0114】
なお、図2ないし図4は、実施例2ないし実施例5の光チオール発生剤における、波長254nm光、313nm光及び365nm光での光分解挙動を比較した図である(図2は254nm光、図3は313nm光、図4は365nm光の結果である。)。
【0115】
光分解挙動の確認(光環化物の特定):
前記の光分解挙動に際して生成される光環化物を特定した。50mlバイアルに実施例2の光チオール発生剤を0.10g、テトラヒドロフラン(THF)を30ml入れ、波長が365nmの光を照射し、露光後の光環化物をカラムクロマトグラフィーにより単離して、白色固体を収量0.060g、収率92%で得た。単離した化合物H−NMRスペクトル及びその帰属結果より、実施例2の光チオール発生剤は光の照射により環化反応を起こし、その環化物は3−メチルクマリンであることが確認できた。
【0116】
[試験例3]
高分子固体中の光分解挙動の確認:
ポリテトラヒドロフラン(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)0.10gに対して、実施例2で得られた光チオール発生剤0.04g(PTMG100質量部に対して40質量部)(8.2×10−5mol)を含有させることにより感光性樹脂組成物とした。かかる感光性樹脂組成物を、テトラヒドロフラン(THF)1.0gに溶解させて試料溶液とし、この試料溶液を1000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、
1.0μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を、露光量を0〜20480mJ/cm2として照射し、反応をFT−IRで反応追跡した。実施例3及び実施例4の光チオール発生剤についても同様な操作を行い、反応をFT−IRで追跡した。なお、実施例3の光チオール発生剤は0.041g(PTMG100質量部に対して41質量部)、実施例4の光チオール発生剤は0.082g(PTMG100質量部に対して82質量部)とした。
【0117】
なお、追跡したのは、実施例2ないし実施例4の光チオール発生剤の分解によるカルボニル基(C=O)とヒドロキシ基(−OH)のピークの減少、また、生成すると予想される環化物(クマリン)のカルボニル基(C=O)とチオールのメルカプト基(−SH)のピークの増加である。
【0118】
IRスペクトルを追跡した結果、波長365nm光により実施例2ないし実施例4が分解し、前記した予想される環化物とチオールが発生していることが確認できた。また、発生した光環化物のカルボニル基のピークが露光量を多くすることで減少した。これは、365nm光によってクマリン環が二量化したためであると考えられる。なお、実施例2ないし実施例4の光チオール発生剤はどれも約1000mJ/cmで分解が完了した。
【0119】
[実施例6]
感光性樹脂組成物の製造(1):
式(No.4−12)に表されるエポキシ系化合物であるポリグリシジルメタクリレート(PGMA,M=11000g/mol、M/M=1.8)0.10gに対して、実施例2で得られた光チオール発生剤を0.01g(実施例6−1)、0.02g(実施例6−2)、0.03g(実施例6−3)、0.04g(実施例6−4)(順に、PGMA100質量部に対して10.0、20.0、30.0、40.0質量部)(PGMAのモノマーユニットに対して3.0、6.0、9.0、12.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0120】
[実施例7]
感光性樹脂組成物の製造(2):
式(No.4−12)に表されるエポキシ系化合物であるポリグリシジルメタクリレート(PGMA,M=11000g/mol、M/M=1.8)0.10gに対して、実施例3で得られた光チオール発生剤を0.01g(実施例7−1)、0.02g(実施例7−2)、0.03g(実施例7−3)、0.04g(実施例7−4)(順に、PGMA100質量部に対して10.0、20.0、30.0、40.0質量部)(PGMAのモノマーユニットに対して3.0、6.0、9.0、12.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0121】
[試験例4]
光不溶化挙動の確認(1)(加熱時間依存性):
実施例6−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として30分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。なお、照度は10mW/cmとした(以下、試験例5〜試験例9について同じ。)。そして、同様な操作を、ポストベイクの時間を45分間、及び60分間に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を図5(A)に示す。
【0122】
[試験例5]
光不溶化挙動の確認(2)(添加量依存性):
実施例6−1で得られた感光性樹脂組成物(PGMAのモノマーユニットに対して3.0mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、実施例6−2(同様に6.0mol%のもの)、実施例6−3(同様に9.0mol%のもの)、実施例6−4(同様に12.0mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を図5(B)に示す。
【0123】
[試験例6]
光不溶化挙動の確認(3)(加熱温度依存性):
実施例6−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ約0.5
μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を90℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、ポストベイクの温度100℃及び110℃に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を図5(C)に示す。
【0124】
[試験例7]
光不溶化挙動の確認(4)(加熱時間依存性):
実施例7−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として30分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、ポストベイクの時間を45分間、及び60分間に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を図6(A)に示す。図6(A)に示すように、露光量が0〜100mJ/cmの範囲では、露光量を大きくし、加熱時間を増加させるにつれてポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の不溶化効率が向上することが確認できた。
【0125】
[試験例8]
光不溶化挙動の確認(5)(添加量依存性):
実施例7−2で得られた感光性樹脂組成物(PGMAのモノマーユニットに対して3.0mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を100℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、実施例7−3(同様に9.0mol%のもの)、実施例7−4(同様に12.0mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を図6(B)に示す。図6(B)に示すように、露光量が0〜100mJ/cmの範囲では、露光量を大きくし、光チオール発生剤の添加量を増加させるにつれてポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の不溶化効率が向上することが確認できた。
【0126】
[試験例9]
光不溶化挙動の確認(6)(加熱温度依存性):
実施例7−3で得られた感光性樹脂組成物を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液を3000rpmで30秒間シリコンウェハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて80℃で30秒間プリベイクすることにより、厚さ約0.5μmの膜を作製した。この膜に365nmの単色光を照射し、ポストベイクの温度を90℃として60分間実施し、テトラヒドロフラン(THF)で30秒間現像し、残っている膜の厚さを測定した。そして、同様な操作を、ポストベイクの温度100℃及び110℃に変化させて実施し、それぞれについて露光量と残膜率との関係(感度曲線)を作成した。得られた感度曲線を図6(C)に示す。図6(C)に示すように、露光量が0〜100mJ/cmの範囲では、露光量を大きくし、加熱温度を増加させるにつれてポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の不溶化効率が向上することが確認できた。
【0127】
[実施例8]
感光性樹脂組成物の製造(3):
エポキシ系化合物であるソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622:ナガセケムテック(株)製)0.10gに対して、実施例2で得られた光チオール発生剤を0.096g(実施例8−1)、0.24g(実施例8−2)、0.36g(実施例8−3)(順に、EX−622の100質量部に対して96、240、360質量部)(EX−622に対して150、200、300mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0128】
[実施例9]
感光性樹脂組成物の製造(4):
エポキシ系化合物であるソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622:ナガセケムテック(株)製)0.10gに対して、実施例4で得られた光チオール発生剤を0.37g(実施例9−1)、0.50g(実施例9−2)、0.74g(実施例9−3)(順に、EX−622の100質量部に対して370、500、740質量部)(PGMAのモノマーユニットに対して150、200、300mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0129】
[試験例10]
硬化試験(添加量依存性)(1):
実施例8−1で得られた感光性樹脂組成物(エポキシ系化合物のモノマーユニットに対して150mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液フッ化カルシウム(CaF)上にバーコートして製膜し、80℃で30秒分間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。この塗膜に365nmの単色光を、露光量を0(ブランク)、10、100、500、1000及び10000mJ/cmとして、120℃で60分間加熱後の塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行い、比較・評価した。そして、同様な操作を、実施例8−2(同様に200mol%のもの)、実施例8−3(同様に300mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施した。結果を図7に示す。
【0130】
図7は、試験例10における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。0〜100mJ/cmの範囲では、露光量を大きくし、添加量を多くするに従って硬化が進行することが確認できた。
【0131】
[試験例11]
硬化試験(添加量依存性)(2):
実施例9−1で得られた感光性樹脂組成物(エポキシ系化合物のモノマーユニットに対して150mol%のもの)を1.0gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この試料溶液フッ化カルシウム(CaF)上にバーコートして製膜し、80℃で30秒間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。この塗膜に365nmの単色光を、露光量を0(ブランク)、10、100、500、1000及び10000mJ/cmとして、120℃で60分間加熱後の塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行い、比較・評価した。そして、同様な操作を、実施例9−2(同様に200mol%のもの)、実施例9−3(同様に300mol%のもの)で得られた感光性樹脂組成物に対して実施した。結果を図8に示す。
【0132】
図8は、試験例11における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。0〜100mJ/cmの範囲では、露光量を大きくし、添加量を多くするに従って硬化が進行することが確認できた。
【0133】
図9は、試験例10と試験例11の結果より、実施例8(実施例8−3)と実施例9(実施例9−3)の感光性樹脂組成物の露光量と残膜率の関係を比較した図である(加熱温度は100℃、加熱時間は60分とした。)。図9に示すように、全体的に実施例8(実施例8−3)の方が実施例9(実施例9−3)より高残膜率であった。なお、露光量が100mJ/cmを超えると残膜率が減少する傾向が見られた。
【0134】
また、図10は、光照射により得られた硬化膜について、添加量と透過率との関係を示した図である(露光量は100mJ/cmとした。)。図10に示すように、得られた硬化膜はいずれの添加量でも高い透過率を示し、透明性に優れた硬化膜が得られたことが確認できた。
【0135】
なお、実施例6〜実施例9の感光性樹脂組成物に関し、[試験例1]〜[試験例11]で得られた膜については、炭酸ガス発生による凸凹も見られなかった。
【0136】
[実施例10]
感光性樹脂組成物の製造(5):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)(PETA)0.04gに対して、実施例4で得られた光チオール発生剤を0.15g(PETA100質量部に対して375質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。なお、少量のテトラヒドロフラン(THF)と光チオール発生剤あらかじめ混合した上でPETAに含有させた後、THFは減圧乾燥により留去した。
【0137】
[参考例1]
感光性樹脂組成物の製造(6):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)0.04gに対して、チオール化合物(多官能チオール)である下記式(T−6)で表されるトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)を0.08g(PETA100質量部に対して200質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより感光性樹脂組成物を得た。
【0138】
【化28】
【0139】
[参考例2]
感光性樹脂組成物の製造(7):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)(PETA)0.04gに対して、多官能チオールである下記式(T−7)で表される1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(NR−1)を0.085g(PETA100質量部に対して213質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより感光性樹脂組成物を得た。
【0140】
【化29】
【0141】
[試験例12]
保存安定性の確認:
実施例10及び参考例1、参考例2の感光性樹脂組成物をそれぞれ1.0mlミクロチューブに入れ、「製造直後」、「製造1時間後」、「製造1月後」の状態を観察して、保存安定性を比較・評価した。評価基準は、製造直後のものはチューブを横にした直後の状態、製造1時間後、製造1月後のものはチューブを横にして5分後の状態を観察し、粘性が増加しているかを目視で観察した。外観写真を図11に示す。
【0142】
図11は試験例12におけるミクロチューブの外観写真((A)は製造直後、(B)は製造1時間後、(C)は製造1月後))を示した図である。図11に示すように、参考例1の感光性樹脂組成物は製造後1時間、参考例2の感光性樹脂組成物は製造1月後で粘性が増加(チューブを横にしても試料が流れない)していることが確認できた。一方、実施例10の感光性樹脂組成物は、製造1月後でも粘性が増加せず、保存安定性に優れる材料であることが確認できた。
【0143】
[実施例11]
感光性樹脂組成物の製造(8):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)(PETA)0.1gに対して、実施例4で得られた光チオール発生剤を0.38g(PETA100質量部に対して380質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより本発明の感光性樹脂組成物を得た。
【0144】
[参考例3]
感光性樹脂組成物の製造(9):
アクリル系化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)(PETA)0.1gに対して、多官能チオールである前記式(T−7)で表される1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(NR−1)を0.22g(PETA100質量部に対して220質量部)(PETAに対して133.0mol%)含有させることにより感光性樹脂組成物を得た。
【0145】
なお、前記した実施例11及び参考例3の感光性樹脂組成物は、ラジカル系光重合開始剤ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフォンオキサイド(イルガキュア819:長瀬産業(株)製)を、感光性樹脂組成物を100質量部に対して1.0質量部添加したものもあわせて製造した。
【0146】
[試験例13]
硬化試験(加熱温度依存性):
実施例11及び参考例3で得られた感光性樹脂組成物を0.5gのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて試料溶液とした。この試料溶液をガラス基板上にバーコートして製膜し、80℃で1分間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。この塗膜に、254nm(光重合開始剤を添加していないもの)及び365nm(光重合開始剤を添加したもの)の単色光を、露光量を0.01、0.1、0.5、1、2、5、10J/cm(光重合開始剤を添加していないもの)及び0.01、0.1、0.5、1、5、10、15、20、30J/cm(光重合開始剤を添加したもの)として、室温での塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行い、比較・評価した。結果を図12(光重合開始剤を添加していないもの)、図13(光重合開始剤を添加したもの)に示す。
【0147】
図12及び図13は、試験例13における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図であり、露光量を大きくし、加熱温度を高くするに従って硬化が進行することが確認できた。また、実施例11の感光性樹脂組成物は、感度が良好であり、露光量が大きい範囲(光重合開始剤を添加しない場合で15J/cm以上、添加したもので10J/cmでは多官能チオールを添加した参考例3とほぼ同等の硬度を示し、最高では3H(光重合開始剤を添加しないもの)及びH(添加したもの)の硬度が得られた。
【0148】
[試験例14]
UV硬化膜の作製(酸素阻害の確認):
実施例11、参考例3(それぞれ光重合開始剤を添加したもの)の感光性樹脂組成物、及びPETA単体(実施例11等と同様、100質量部に対してラジカル系光重合開始剤を1質量部添加)を、それぞれテトラヒドロフラン(THF)0.05gに溶解させて試料溶液とし、この試料溶液をガラス基板上にバーコートして製膜し、80℃で1分間加熱してプリベイクし、厚さ15μmの塗膜を調製した。かかる塗膜を空気中または窒素雰囲気下で365nmの単色光を、露光量15J/cmとして、室温での塗膜の硬度をJIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度測定を行って、比較・評価した。結果を図14に示す。
【0149】
図14は、試験例14における露光量と鉛筆硬度との関係を示した図である。PETA単体は、空気中ではほとんど硬化せず、酸素阻害の影響が確認された。一方、実施例11の感光性樹脂組成物は、酸素阻害の影響が低いと考えられる多官能チオールを含む参考例3の感光性樹脂組成物と同様、空気中の硬度は窒素雰囲気下の硬度と相違なく、酸素阻害の影響は認められなかった。
【0150】
また、光照射後の塗膜について、反応をFT−IRで反応追跡し、C=Cのピーク(810cm−1)面積の変化を確認した。C=Cのピーク面積の変化は、光照射前のピーク面積を測定し、光照射前を1とした場合の光照射後のピーク面積を計算して、変化率を確認した。結果を図15に示す。
【0151】
図15は、露光量とC=Cのピーク(810cm−1)面積の変化率の関係を示した図((A)は実施例11、(B)は参考例3、(C)はPETA単体)である。図15(A)に示すように、本発明の光チオール発生剤を含有する実施例11の感光性樹脂組成物は、酸素阻害の影響が低いと考えられる多官能チオールを含む参考例3の感光性樹脂組成物(図15(B))と同様、空気中と窒素雰囲気中の変化率は大差なく、また、照射後のC=Cの2重結合は照射前の0.3〜0.4程度となり、反応が効率よくなされていることが確認された。一方、図15(C)に示すように、PETA単体については、照射後のC=Cの2重結合は、空気中にあっては照射前の0.8程度であり、窒素雰囲気下のそれが0.4程度であるのに比較して大きい。これは、空気中では酸素の存在により重合阻害(酸素阻害)されてしまい反応が効率よく進行していないためと考えられる。
【0152】
なお、実施例10、実施例11の感光性樹脂組成物について、[試験例12]〜[試験例14]で得られた膜については、炭酸ガス発生による凸凹も見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、高感度の光硬化材料やレジスト材料(パターン形成材料)等を提供する感光
性樹脂材料として有利に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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