(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011975
(24)【登録日】2016年9月30日
    
      
        (45)【発行日】2016年10月25日
      
    (54)【発明の名称】電磁ノイズの伝搬路を追跡および可視化する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01R  29/08        20060101AFI20161011BHJP        
【FI】
   G01R29/08 D
【請求項の数】8
【全頁数】10
      (21)【出願番号】特願2013-102423(P2013-102423)
(22)【出願日】2013年5月14日
    
      (65)【公開番号】特開2014-222215(P2014-222215A)
(43)【公開日】2014年11月27日
    【審査請求日】2015年10月20日
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
          (73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
          (74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人  谷・阿部特許事務所
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】秋山  佳春
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】鈴木  康直
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】本間  尚文
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】林  優一
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】青木  孝文
              
            
        
      
    
      【審査官】
        續山  浩二
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2000−002752(JP,A)      
        
        【文献】
          国際公開第2013/051204(WO,A1)    
        
        【文献】
          特開2008−042668(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2005−121595(JP,A)      
        
        【文献】
          米国特許第05025402(US,A)      
        
        【文献】
          特開2004−132805(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2006−208060(JP,A)      
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R    29/08        
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  回路基板上または機器に接続されたケーブル等の伝送路上を伝搬する、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播を解析する方法であって、
  電磁ノイズ発生源から発生する電磁ノイズの波形をあらかじめ予測するステップと、
  伝送路上の任意の複数の点における電磁ノイズの波形を観測するステップと、
  予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形との相関を時間単位で計算するステップと、
  予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形とが高い相関を示した時間単位から、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播時間および周波数伝達特性を同定して、電磁ノイズの伝搬を時間的に追跡するステップと
  を含むことを特徴とする、電磁ノイズ伝搬の解析方法。
【請求項2】
  前記電磁ノイズをあらかじめ予測するステップは、電磁ノイズの発生源の暗号化・符号化処理等の時系列上で直交した動作からあらかじめ予測することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
  前記電磁ノイズをあらかじめ予測するステップは、電磁ノイズの発生源の信号処理動作等からあらかじめ計算により予測することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
  前記電磁ノイズをあらかじめ予測するステップは、電磁ノイズ発生源近傍であらかじめ実測により取得することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
  電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播を解析する装置であって、
  1または複数の電磁ノイズ発生源と、
  前記1または複数の電磁ノイズ発生源に接続された1または複数の伝送路と、
  前記1または複数の伝送路の各々において複数設けられた観測点であって、電磁ノイズの波形が観測される、観測点とを備え、
  電磁ノイズ発生源から発生する電磁ノイズの波形をあらかじめ予測し、
  予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形との相関係数を時間単位で計算し、
  予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形とが高い相関を示した時間単位から、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播時間および周波数伝達特性を同定して、電磁ノイズの伝搬を時間的に追跡する
  ことにより電磁ノイズの伝播を解析することを特徴とする装置。
【請求項6】
  前記電磁ノイズをあらかじめ予測することは、電磁ノイズの発生源の暗号化・符号化処理等の時系列上で直交した動作からあらかじめ予測することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
  前記電磁ノイズをあらかじめ予測することは、電磁ノイズの発生源の信号処理動作等からあらかじめ計算により予測することを特徴とする請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
  前記電磁ノイズをあらかじめ予測することは、電磁ノイズ発生源近傍であらかじめ実測により取得することを特徴とする請求項5または6に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、環境電磁工学の分野のうち、特に機器の回路基板上やケーブル上を伝搬する電磁ノイズの伝搬路を追跡し可視化する技術に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  IC等の信号処理回路や電源回路は、動作時に電磁ノイズを放出する。このような放出された電磁ノイズは、信号処理回路や電源回路内に配置された他の電気機器等の機器や、機器内部の他のモジュール、機器内部で取り扱われる通信信号などへ妨害を与えることがある。したがって、周辺に設置された機器への妨害の抑制あるいは当該機器が意図した性能を発揮できるようにするためには、これら信号処理等の回路から放出された電磁ノイズの抑制が必要となる。
【0003】
  回路から放出された電磁ノイズの抑制を効率的かつ効果的に行う上で、機器内部で生じる電磁ノイズおよび機器外部から到来する電磁ノイズの伝搬路を把握することは有用である。しかし、機器の回路基板上あるいはケーブル上を伝搬する電磁ノイズは、配線パターンやケーブルに沿って伝搬する他、隣接する配線パターンやケーブルに容量的および電磁的な結合を通じて伝搬するなど、その伝搬の様子を直観的に把握することは極めて困難である。
【0004】
  電磁ノイズの伝搬の様子をシミュレーションにより把握するためには、配線パターンやケーブルの一次定数(単位長さあたりの抵抗,静電容量,コンダクタンスおよびインダクタンス)を幾何学モデルなどを用いて算出し、かつ配線パターンやケーブル間の容量的および電磁的結合の特性を計算する必要がある。このような電磁ノイズの伝播を把握するために、機器の設計情報(機器を構成する基板上の配線パターンや回路素子の配置などを示した情報)を用いて、時間領域差分(FDTD)法などの計算機シミュレーション技術による電磁ノイズ伝搬の可視化を行う手法が提案されている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
 
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Younan, N.H.; Taylor, C.D.; Zunoubi, M.R.; , "FDTD analysis of noise radiation and propagation," Electromagnetic Compatibility, IEEE Transactions on , vol.42, no.2, pp.225-229, May 2000, doi: 10.1109/15.852416
【非特許文献2】Xiaoning Ye; Drewniak, J.L.; , "FDTD modeling incorporating a two-port network for I/O line EMI filtering design," Electromagnetic Compatibility, IEEE Transactions on , vol.44, no.1, pp.175-181, Feb 2002, doi: 10.1109/15.990724
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  しかし、電磁ノイズの伝搬路の電気的特性(伝送路の一次定数や結合特性など)を精度良く解析するためには、回路基板の材質や構造、配線パターンの太さや形状、各種素子の配置、ケーブル芯線の材質や構造(撚りの有無、カッド構造かどうかなど)、あるいは絶縁材の材質や厚さなど、極めて細部の情報までシミュレーションモデルに反映させる必要がある。このような解析を行う場合、大型計算機(例えばベクトル並列型スーパーコンピュータ)級の計算能力が要求されるなど、個々の機器の電磁ノイズ対策に適用することは現実的に困難である。また、設計情報から大まかな情報を抽出し、伝搬を予測する試みが行われているが、基板上における現実的な電磁ノイズ伝搬との乖離が大きくなる。したがって、得られた計算結果が参考として用いられているものの、最終的な電磁ノイズ特性の把握は、測定によって行うことが必要となる。
【0007】
  一方、電磁ノイズの測定に関してみると、信号処理回路等の回路基板上では様々な電磁ノイズ発生源(ICや電源回路等)が動作をしており、各電磁ノイズ発生源はそれぞれ個々に電磁ノイズを放出する。そのため、各電磁ノイズ発生源から発生する電磁ノイズの強度によっては、観測したい回路基板上の電磁ノイズが各電磁ノイズ発生源から発生する他の電磁ノイズに埋もれてしまい、実測による電磁ノイズの伝搬路の解析もしばしば困難となる。
【0008】
  また、現在の電磁ノイズ対策は回路基板上あるいはケーブル上の電磁ノイズの強度分布を取得し、強い電磁ノイズが観測された部分あるいは電磁ノイズの出入り口に、キャパシタやインダクタ等の素子で構成されたフィルタ回路、金属遮蔽体、磁性体等で構成された吸収体を適用して、対処療法的な対策が行われているものの、根本的な解決となっていない。
 
【課題を解決するための手段】
【0009】
  上記の問題に対して,本発明は、IC等の信号処理回路や電源回路から発生した電磁ノイズが,機器を構成する回路基板上や機器に接続されたケーブル上を伝搬する様子を時間的に追跡し可視化することを可能とする。
【0010】
  本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、回路基板上または機器に接続されたケーブル等の伝送路上を伝搬する、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播を解析する方法であって、電磁ノイズ発生源から発生する電磁ノイズの波形をあらかじめ予測するステップと、伝送路上の任意の複数の点における電磁ノイズの波形を観測するステップと、予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形との相関を時間単位で計算するステップと、予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形とが高い相関を示した時間単位から、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播時間および周波数伝達特性を同定して、電磁ノイズの伝搬を時間的に追跡するステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
  また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記電磁ノイズをあらかじめ予測するステップは、電磁ノイズの発生源の暗号化・符号化処理等の時系列上で直交した動作からあらかじめ予測することを特徴とする。
【0012】
  また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法において、前記電磁ノイズをあらかじめ予測するステップは、電磁ノイズの発生源の信号処理動作等からあらかじめ計算により予測することを特徴とする。
【0013】
  また、請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法において、前記電磁ノイズをあらかじめ予測するステップは、電磁ノイズ発生源近傍であらかじめ実測により取得することを特徴とする。
【0014】
  請求項5に記載の発明は、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播を解析する装置であって、1または複数の電磁ノイズ発生源と、前記1または複数の電磁ノイズ発生源に接続された1または複数の伝送路と、前記1または複数の伝送路の各々において複数設けられた観測点であって、電磁ノイズの波形が観測される、観測点とを備え、電磁ノイズ発生源から発生する電磁ノイズの波形をあらかじめ予測し、予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形との相関係数を時間単位で計算し、予測した前記電磁ノイズの波形と、観測した前記複数の点における電磁ノイズの波形とが高い相関を示した時間単位から、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズ伝播時間および周波数伝達特性を同定して、電磁ノイズの伝搬を時間的に追跡することによる電磁ノイズの伝播を解析する装置であることを特徴とする。
【0015】
  また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の装置において、前記電磁ノイズをあらかじめ予測することは、電磁ノイズの発生源の暗号化・符号化処理等の時系列上で直交した動作からあらかじめ予測することを特徴とする。
【0016】
  また、請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の装置において、前記電磁ノイズをあらかじめ予測することは、電磁ノイズの発生源の信号処理動作等からあらかじめ計算により予測することを特徴とする。
【0017】
  また、請求項8に記載の発明は、請求項5または6に記載の装置において、前記電磁ノイズをあらかじめ予測することは、電磁ノイズ発生源近傍であらかじめ実測により取得することを特徴とする。
 
【発明の効果】
【0018】
  本発明では、観測対象のIC等の信号処理回路や電源回路から発生するノイズをある種の信号とみなし、入力に応じた特徴的な分散を有する電磁ノイズを発生させ、あらかじめ計算もしくは実測しておいた予測値(電磁ノイズ波形)と複数の観測点で測定された電磁ノイズ波形との相関を計算することで、観測対象となる電磁ノイズが他の電磁ノイズに埋もれた場合でも、観測対象となる電磁ノイズの時間的な追跡が可能となる。
【0019】
  また、本発明では、回路基板上やケーブル上の電磁ノイズ伝搬の様子を時間的に追跡することにより、電磁ノイズの伝搬路を可視化することができる。その結果、電磁ノイズ伝搬の起こりやすい配線パターンや素子配置、ケーブル配線などが定量的に明らかとなり、根本的に電磁ノイズ伝搬が起こりにくい機器設計指標を与えることができる。
【0020】
  さらに、本発明は,回路基板上の電磁ノイズ発生源から発せられる電磁ノイズの追跡に加えて、機器外部から侵入する電磁ノイズの伝搬についても時間的な追跡および可視化が可能である。これにより、機器のイミュニティ(電磁波耐性)対策を効率的かつ効果的に講じることが可能となる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の電磁ノイズの伝播経路を可視化する方法を可能にする装置(回路基板)を簡略化した図である。
 
【
図2】本発明にかかる電磁ノイズ伝搬の時系列解析方法の1の実施形態を表すフロー図である。
 
【
図3】本発明の効果を検証するための実験装置の概要を示す図である。
 
【
図4】励振した電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズの時間波形を示す図表である。
 
【
図5】励振した電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズの周波数スペクトルを示す図表である。
 
【
図6】実験基板上のノイズ発生源から10mmの点において観測された電磁ノイズ波形を示す図表である。
 
【
図7】各観測点における電磁ノイズの測定値と予測値の相関係数を計算した結果を示す図表である。
 
【
図8】処理開始からの時刻675〜685nsにおける
図7の相関係数の結果を拡大した結果を示す図である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0022】
  以下、本発明の1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の電磁ノイズの伝播経路を可視化する方法を可能にする装置(回路基板)を簡略化した図である。本発明の電磁ノイズの伝播経路を可視化する装置は、IC101または電源回路等の電磁ノイズを発生する装置が設けられた回路基板100において、回路基板100の伝送路102に複数の電磁ノイズを観測する観測点103を設けている。ここで、伝送路102はケーブルであってもよい。
 
【0023】
  本発明は、IC101等の信号処理回路や電源回路等の装置から発生する電磁ノイズをある種の信号と見なし、発生した電磁ノイズの波形を、あらかじめ計算により予測し、もしくは電磁ノイズ発生源近傍で実測する。次に、回路基板100上の伝送路102等に設けられた複数の観測点102で観測された電磁ノイズ波形と、あらかじめ予測・実測したIC101等から発生する電磁ノイズ波形との相関を計算する。この計算した相関により、電磁ノイズの伝搬を時間的に追跡することが可能となり、電磁ノイズの伝播の様子を可視化することができる。さらに、回路基板100上の伝送路102等の各観測点103において時間的な電磁ノイズ伝搬の様子を表示することにより、回路基板100上を伝搬する電磁ノイズの伝搬経路を可視化することができる。その結果、電磁ノイズ伝搬の起こりやすい配線パターンや素子配置などを定量的に表すことができ、根本的に電磁ノイズ伝搬が起こりにくい機器設計指標を与えることができる。
 
【0024】
  次に、電磁ノイズの伝播経路を可視化する方法における電磁ノイズ伝搬の時系列解析方法を詳細に説明する。
図2は、本発明にかかる電磁ノイズ伝搬の時系列解析方法の1実施形態を表すフロー図である。
 
【0025】
  図2の電磁ノイズ伝搬の時系列解析方法では、ステップ201で開始し、電磁ノイズ源となるIC101等または電源回路等の装置において、タイミングと入力が制御可能な特定の回路処理を動作させ、電磁ノイズを発生させる(ステップ202)。ここで、動作させる回路処理は、一般的な信号処理の他に、例えば、暗号化・符号化処理等、時系列上である時点でしか観測されない直交した処理等のさまざまな回路処理を用いることができる。
 
【0026】
  次に、上記回路処理時において、IC101等から発生する入力に依存した電磁ノイズの予測値を、実測もしくは計算により導出する(ステップ203)。一般的な信号処理動作のほか、電磁ノイズの発生源の暗号化・符号化処理等の時系列上で直交した動作からも予め実測もしくは計算により導出することができる。導出については、観測したい電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズを正確に予測できる方法を用いる。例えば、予測値を計算により導出する場合、回路内部でスイッチングするビット数等から見積もることも考えられる。
 
【0027】
  また一方で、回路基板上の電磁ノイズの伝搬を観測したいいくつかの観測点103において、その各観測点103における電磁ノイズの時間波形を測定する(ステップ204)。ここで、電磁ノイズの測定は入力ごとに行い、各時間波形のタイミングは一定とする。
 
【0028】
  その上で、全ての時間単位(インデックス)において、ステップ204において測定した、各観測点103における時間波形の測定値と、ステップ203において測定または計算したIC101等の装置から発生する電磁ノイズの予測値の相関を計算する(ステップ205)。
 
【0029】
  その後、高い相関を示した時間インデックスから、IC101等の装置を発生源とする電磁ノイズの伝搬時間および周波数伝達特性を同定する(ステップ206)。回路処理に伴う電磁ノイズが観測点に到達した時間インデックスでのみ、測定値と予測値の間で高い相関が得られるため、電磁ノイズ伝搬時間は、高い相関を示した時間インデックスから直接得られる。また、同時間インデックス付近における信号の周波数成分から周波数伝搬特性が得られる。このとき、電磁ノイズで支配的となるICのクロック周波数とその高調波を伝搬追跡の対象とする。
 
【0030】
  ステップ207で得られる電磁ノイズ伝搬特性は、クロック周波数とその高調波である。広帯域な電磁ノイズ伝搬特性を得る場合、クロック周波数を網羅的に切り替え、ステップ202〜207を適宜繰り返す(ステップ208)。広帯域な電磁ノイズ伝搬特性が得られたら、電磁ノイズ伝搬の時系列解析を終了する(ステップ209)。
 
【0031】
  さらに、本発明の電磁ノイズ伝搬の時系列解析方法において、各観測点103における電磁ノイズの測定値と予測値の相関を、相関係数と時間インデックスの図表にして表すことにより、電磁ノイズ伝播の時間的な追跡が可能となる。また、各観測点103の相関係数を1の図表において記載することにより、電磁ノイズの伝搬の様子を可視化することが可能となる。また、回路基板上やケーブル上において時間的な電磁ノイズ伝搬の様子を表示することにより、回路基板上の電磁ノイズの伝搬路を可視化することが可能となる。
 
【0032】
  [実験による本発明の効果の検証]
  本発明の効果を実験により検証する。
図3は、本発明の効果を検証するための実験装置の概要を示す図である。
図3の実験装置は、
図1に記載の装置(回路)を実現した実験装置であり、マイクロストリップラインを配した実験基板の基板端に、信号処理回路を構成するFPGAボードによる電磁ノイズの発生源を配置し、電磁ノイズ発生源にマイクロストリップラインを接続する。マイクロストリップラインには、電磁ノイズ発生源から10mm、50mm、100mm、150mm、190mmと計5箇所の電磁ノイズ観測点を設ける。
 
【0033】
  基板端の電磁ノイズ発生源から、特定の回路処理時に生じる電磁ノイズを励振した。
図4は励振した電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズの時間波形を示す図表であり、
図5は、励振した電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズの周波数スペクトルを示す図表である。
図5から、クロック周波数24MHzとその高調波成分が支配的であることが確認できる。
 
【0034】
  次に、励振した電磁ノイズの時間波形および周波数スペクトルから、電磁ノイズ発生源から発生する電磁ノイズの予測値を計算により導出した。
 
【0035】
  さらに、励振した電磁ノイズの時間波形を、実験基板上のマイクロストリップラインに設けられた5つの観測点においてディジタルオシロスコープにより計測した。ここで、実験基板上のノイズ発生源から10mmの点において観測された電磁ノイズ波形を
図6に示す。本実験においては、意図する回路処理が開始された時刻を0とした。
 
【0036】
  さらに、実験基板上の5つの各観測点において、入力データを変更しながら波形を観測し、計5000波形を測定した。
 
【0037】
  その後、各観測点における電磁ノイズの測定値と、あらかじめ計算した電磁ノイズの予測値の相関係数を、各時間インデックス(サンプリングされた時間軸上の点)ごとに計算した。
図7は、各観測点における電磁ノイズの測定値と予測値の相関係数を計算した結果を示す図表である。また、
図8は、処理開始(時刻0)からの時刻675〜685nsにおける
図7の相関係数の結果を拡大した結果を示す図である。
図8の実験結果の図表からわかるとおり、電磁ノイズ発生源からの距離に比例して相関係数の値の上昇する時刻が遅くなっており、電磁ノイズの伝搬を基板上の各観測点で追跡できることが確認でき、電磁ノイズ発生源からの電磁ノイズの伝播を可視化することができる。相関が得られた(相関係数が上昇した)時刻に観測された電磁ノイズ波形近傍の周波数成分から周波数伝達特性は得られる。
 
【0038】
  観測対象となる電磁ノイズが他の電磁ノイズに埋もれた場合でも時間的な追跡が可能となる。
 
【0039】
  本発明においては、回路基板上やケーブル上の複数の観測点における電磁ノイズ伝搬の様子を時間的に追跡することにより、電磁ノイズの伝搬路を可視化することができる。その結果、電磁ノイズ伝搬の起こりやすい配線パターンや素子配置、ケーブル配線などが定量的に明らかとなり、根本的に電磁ノイズ伝搬が起こりにくい機器設計指標を与えることができる。
 
【0040】
  また、本発明は、回路基板上の電磁ノイズ発生源から発せられる電磁ノイズの追跡に加えて、機器外部から侵入する電磁ノイズの伝搬についても時間的な追跡および可視化を可能とすることができる。これにより、機器のイミュニティ(電磁波耐性)対策を効率的かつ効果的に講じることが可能となる。
 
 
【符号の説明】
【0041】
100  回路基板
101  IC
102  伝送路
103  観測点