【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は特にこれら実施例に限定されるものではない。
なお、本発明で使用されている技術的用語は、別途定義されていない限り、当業者により普通に理解されている意味を持つ。また、本発明で引用した先行文献又は特許出願明細書の記載内容は、本明細書の記載として組み入れるものとする。
【0023】
(実施例で用いた試薬)
精製ノダフジレクチン(nWFA)は、Vector Lab Inc.(Burlingame,CA,USA)より購入した。抗FLAG-tag M2-HRP conjugateは、Sigma-Aldrich社(St.Louis,MO,USA)より購入した。
【0024】
(実施例1)ノダフジレクチン遺伝子のクローニング
(1−1)cDNAライブラリーの調製
ノダフジ種子のtotal RNAは内藤らの方法を用いて抽出した(非特許文献9)。およそ150mgの種子を液体窒素中で破砕し、種子破砕物は抽出バッファー(1M Tris-HCl pH9.0 / 1% SDS)とPCI(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1))に混合し、乳液状になるまで懸濁した。遠心分離後の上清にPCIを加えた後、激しく撹拌し、遠心分離後の上清を回収し、上清に1/10容の3M Na-Acetateと3倍容のethanolを加え、-80℃で冷却し、核酸を沈殿させた。風乾後、H
2Oに溶解し、4M LiClを加え氷上に一晩静置後、遠心分離しtotal RNAを沈殿物として回収した。Poly(A)RNAはNucleoTrap
R mRNA(MACHEREY-NAGEL GmbH & Co. KG,Duren,Germany)を用いて調製し、cDNA合成に供した。遺伝子クローニングに用いたcDNAライブラリーは上記のように調製したノダフジ種子のmRNAからMarathon
R cRNA Amplification Kit(Clontech社,Mountain View,CA,USA)を用いて作製した。
【0025】
(1−2)遺伝子クローニング
ノダフジレクチンをコードする遺伝子はノダフジ種子由来のcDNAからクローニングした。マメ科レクチンであるSoybean Agglutinin(SBA)のアミノ酸配列(Accession:P05046)をQueryとして用いてBlast検索を行い、Genbank DBより3種類のレクチン様タンパク質のアミノ酸配列を得た(Robinia pseudoacacia,Accession:BAA36414,Sophora japonica,Accession:AAB51441,Cladrastis kentukea,Accession:AAC49150)。それら3種類のレクチン様タンパク質の核酸配列(Robinia pseudoacacia,Accession:AB012633,Sophora japonica,Accession:U63011,Cladrastis kentukea,Accession:U21940)をアライメントし、最も保存されている領域に下記の2本のPCR用のプライマーを設計した。
Fwd-1:5’-CTCTTGCTACTCAACAAGGTGAA-3’(配列番号3)
Rev-1:5’-CAACTCTAACCCACTCCGGAAG-3’(配列番号4)
ノダフジ種子由来cDNAを鋳型にKOD-plus-(TOYOBO,Osaka,Japan)でPCR反応(94℃,1分,(94℃,1分-60℃,30秒-68℃,1分を30サイクル),68℃,1分)を行った結果、およそ650bpのDNA断片が増幅された。この断片をpCR-Blunt II-TOPO(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)にサブクローニングし、3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems,CA)で核酸配列を決定したところ、新規の核酸配列であった。
この配列は部分配列であり、オープンリーディングフレームのN-末端および,C-末端を欠いていたためRACE(Rapid Amplification of cDNA End)法で全長配列決定を行った。3’-RACE法では、上記Fwd-1と下記のAdapter Primer-1(Clontech) プライマーを用いてPCR反応を行った(94℃ 1min,60℃ 30sec,68℃ 1min,35cycles)。
Adapter Primer-1:5’-CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC-3’(配列番号5)
次いで、増幅した核酸を鋳型に、上記Fwd-2と下記のAdapter Primer-2(Clontech)のプライマーでNested PCRを行った。
Adapter Primer-2:5’-ACTCACTATAGGGCTCGAGCGGC-3’(配列番号6)
その結果得たおよそ700bpのDNA断片の配列決定した結果、終止コドンを含む遺伝子配列が得られた。
さらに5’側の配列未知の部分に関しても、下記のRev-2及びRev-3を設計して、上記Adapter Primer-1及びAdapter Primer-2を用いた5’-Race法を行い、完全長配列を決定した。
Rev-2:5’-ACTATAGACTGGTTCGCCGTCC-3’(配列番号7)
Rev-3:5’-GGGTGAGTTGTAAATGCCCTGA-3’(配列番号8)
【0026】
(1−3)レクチン遺伝子の配列解析
ノダフジ種子よりクローニングした新規レクチン遺伝子は861bpのORFからなり、286アミノ酸からなるタンパク質をコードしていた(
図1)。この新規アミノ酸配列は、マメ科レクチンに保存されたモチーフ配列を持ち、クエリーに用いたRobinia pseudoacaciaと62.8%、Cladrastis kentukeaと60.9%、Sophora japonicaと60.6%の相同性をそれぞれ有した。また、大豆レクチンSBA(Glycine max:P05046)と58.5%、ピーナッツ豆レクチンPNA(Arachis hypogaea:P02872)とも39.5%の相同性をそれぞれ有していた(
図2)。配列中には1カ所のN-結合型糖鎖付加部位が存在し、C-末端近傍に1カ所のシステイン残基を認めた。決定した全長アミノ酸配列を用いて、シグナル配列予測プログラムSignalP4.0(デンマーク工科大学、http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/ 非特許文献11)を用いて解析したところ、N末端側の疎水性アミノ酸クラスターはシグナル配列であり、30番目のセリンと31番目のリジンの間で切断されることが予測された。
【0027】
(実施例2)リコンビナントレクチン(rWFA)の形質転換大腸菌での発現
(2−1)レクチン遺伝子による大腸菌の形質転換
実施例1でクローニングしたノダフジレクチンを大腸菌で発現させるために、レクチン活性領域であることが予想されるアミノ酸31-286残基を、ペリプラズム発現型のベクターであるpET20b(Merck4Biosciences,Darmstadt,Germany)のpelB leaderの下流にN末端にHis TagとFLAG Tagを付加して組み込んだ。
また、WFAをコードするDNA断片を、下記WFA-HisFL-Fwd及びWFA-Revを用いて増幅し、pET20bのNcoI-XhoI部位に挿入した。
WFA-HisFL-Fwd:5’-ccatggGACATCATCATCATCATCACCTCGACTACAAGGACGACGATGACAAGGGCAAGCTTGCGGCCGCGAATTCAAAAGAAACAACTTCCTTTGTC-3’(配列番号9)
WFA-Rev-1:5’-ctcgagTTAGATGGAACCGCGCAGAA-3’(配列番号10)
作製した発現用プラスミドは大腸菌BL21-CodonPlus(DE3)-RIPL(Agilent
Technologies,CA)に形質転換され、形質転換体はマニュアルに従って最終濃度100mMのisopropyl β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)の添加により発現誘導を行い、25℃で一晩震盪培養を行った。
【0028】
(2−2)大腸菌でのrWFAの発現と精製
ペリプラズム画分の抽出はpET System Manual 11
thEdition(Merck4Biosciences)に従い行った。可溶性タンパク質の抽出はBugBuster(Merck4Biosciences)を用いて行った。発現誘導後、リコンビナントタンパク質は、ペリプラズム画分に発現が確認できた(
図3A,B)。さらに、可溶性画分にも存在し、培地中にも漏れ出してきていることが明らかとなった(
図3B,lane 5,7)ので、取扱いが簡便な培地中よりFLAG Tagにてリコンビナントタンパク質を精製した。精製はDDDDK-tagged Protein PURIFICATION GEL(MBL,Nagoya,Japan)を用いて行い、リコンビナントタンパク質の溶出はDDDDK溶出ペプチドを用いた。最終的に、溶出タンパク質はAmicon Ultra 3K(Merck Millipore,MA)で濃縮した。
【0029】
FLAG tagに対するアフィニティによりリコンビナントレクチンの精製を行った結果、リコンビナントWFA(rWFA)は、還元条件のSDS-PAGEで展開後にCBB染色で1本に染色されるおよそ31KDaのタンパク質として精製できた(
図3C,lane 2)。
【0030】
(実施例3)リコンビナントWFA(rWFA)と天然WFA(nWFA)との配列上の同一性の検証
(3−1)天然由来WFAレクチン(nWFA)のアミノ酸解析
天然由来ノダフジレクチン(Vector Labから購入)のアミノ酸解析をアミノ酸シークエンサーProcise492HT(Applied Biosystems,CA)及び質量分析装置LTQ Orbitrap Velos ETD(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)を用いて行った。およそ2μgのレクチンタンパク質を2-メルカプトエタノール入りのサンプルバッファー中で100℃、5分間処理し、SDS-PAGE展開した。およそ28KDaのバンドは回収され、還元アルキル化の後、Trypsin消化を行いpeptide断片に分解した。濃縮後LTQ Orbitrap Velos ETDを用いてLC/MS解析し、構成するペプチドのアミノ酸配列を同定した。
【0031】
(3−2)rWFAとnWFAの配列比較の結果
実施例1でのノダフジレクチン遺伝子のクローニングで決定されたORFの推定アミノ酸配列が、天然から精製された市販のWFAレクチンと同一かどうかを検証した。(3−1)においてアミノ酸シークエンサーにより、nWFA(Vector
Lab)のN-末端側の31番目のリジン以下の配列が同定された。また、このnWFAを(3−1)のように、トリプシンで消化し、LC/MS法により構成ペプチドのアミノ酸配列を決定した結果、市販レクチンから得られたトリプシン消化ペプチドの93%が新規に決定したレクチン配列(シグナル配列部分を除く)に合致した(
図8)。
また、実施例1で決定されたWFA-ORFアミノ配列のC末端の13アミノ酸は、天然由来レクチンから得られたペプチドには含まれておらず、タンパク質の成熟過程においてプロセシングされる可能性が考えられた。
【0032】
(3−3)SDS-PAGEによる分子量及び2量体形成能の比較
実施例2(2−2)で精製されたリコンビナントWFA(rWFA)は、還元条件のSDS-PAGEで、31KDaの単一バンドとして観察された(
図3C,lane2)
一方、市販の天然WFA(nWFA)はリコンビナントより小さいおよそ28KDaの単一バンドとして確認できた(
図3C,lane1)。2-メルカプトエタノールを除いた非還元条件でSDS-PAGEした結果、nWFAはおよそ60KDaの単一のバンドとして検出され、S-S結合で2量体を形成していることが示唆された(
図3C,lane4)。一方、rWFAは非還元条件では、2量体の分子量と単量体の分子量の両方にバンドが検出できた(
図3C,lane5)。
【0033】
(実施例4)天然由来WFAの還元によるnWFA単量体の作製
(4−1)天然由来WFAがフコースを含む糖鎖を有していることの確認
天然型WFA(nWFA)はフコースを含む糖鎖を持つことが報告されていたので、フコースを認識するAleuria Aurantia Lectin(AAL)レクチンを用いてレクチンブロットを行った。その結果、nWFAはAALに反応する糖鎖を含む糖タンパク質であることが確認できた(
図5)。
【0034】
(4−2)nWFAの還元によるnWFA単量体の作製
天然由来WFAの還元はジチオスレイトール(DTT)を用いて行った。1mg/mL(100mM Tris pH8.5)のnWFA 1mLに10μLの1M DTTを添加し、室温で4時間還元反応を行った。続いて、25μLの1Mヨードアセトアミドを加え、室温、暗所で30分間アルキル化反応を行った。これによりnWFAは還元され、2量体形成に寄与していたシステインはアルキル化され、S-カルボキシアミドメチルシステインとなり、nWFAは単量体となった。反応後の余分な試薬は限外ろ過(Amicon 3K,millipore)にて取り除いた。
【0035】
(実施例5)変異体レクチンC272Aの作製
(5−1)変異体レクチンC272Aの大腸菌による発現
実施例3(3−3)では、nWFAでは非還元状態では28KDaの、還元状態では60KDaの単一バンドであったことから、nWFAは2量体を形成していると考えられるが、rwFAでは、還元状態では31KDaの単一バンドであったが、非還元条件では、2量体の分子量と単量体の分子量の両方にバンドが検出された(
図3C)。
そこで、この2量体形成にシステイン残基が関与しているかどうかを検証するために、rWFAアミノ酸配列中で唯一の272位のシステインをアラニンに置換した変異体(C272A)を作製して大腸菌で発現させた。
変異体レクチンC272Aは、下記C272A-Fwd及びC272A-Revのプライマーを用いてPCRで作製した。
C272A-Fwd:5’-AGCAGTGATGATGCCAACAACTTGCAT-3’(配列番号11)
C272A-Rev:5’-ATGCAAGTTGTTGGCATCATCACTGCT-3’(配列番号12)
FLAG-Tag WFAはそれぞれ以下のN-FLAG及びC-FLAG PCRプライマーを用いて増幅した断片をpET20bのEcoRI-XhoI部位に挿入して作製した。
N-FLAG:
WFA-FLAG-Fwd:
5’-gaattcAGACTACAAGGACGACGATGACAAGAAAGAAACAACTTCCTTTGT-3’(配列番号13)
WFA-Rev-2:5’-ggcctcgagTTAGTTGCAATCATCACTGCTAGGATCT-3’(配列番号14),
C-FLAG:
WFA-Fwd-1:5’-ggaattcaAAAGAAACAACTTCCTTTGT-3’(配列番号15)
WFA-FLAG-Rev:
5’-ctcgagTTACTTGTCATCGTCGTCCTTGTAGTCGTTGGCATCATCACTGCTAGGATCT-3’
(配列番号16)
【0036】
(5−2)SDS-PAGEによる2量体形成能の検討
FLAG tagで精製したC272Aは還元条件、非還元条件ともにSDS-PAGEで単量体の大きさ28KDaにバンドが確認された(
図3C,lane3 and 6)。システインの変異体が2量体を形成しなかったことから、システインを介したS-S結合が2量体の形成に必須であることが明らかとなった。
【0037】
(実施例6)リコンビナントレクチン(rWFA)の糖鎖結合活性の解析
(6−1)糖鎖結合活性の測定
リコンビナントレクチンの糖鎖結合活性は産総研が開発した複合糖質マイクロアレイを用いて解析した(非特許文献10)。リコンビナントレクチンはリジン残基をCy3(GE Healthcare,Buckinghamshire,UK)でラベルし、マイクロアレイに供した。Cy3シグナルはGlycostation Reader 1200(GPバイオサイエンス、Yokohama,Japan)を用いて測定した。
【0038】
(6−2)rWFAの糖鎖認識活性
大腸菌で作製したrWFAが糖鎖認識活性を有するかどうかを、糖鎖・糖タンパク質アレイを用いて解析した。Cy3でラベルしたnWFAとrWFAは糖タンパク質アレイに供された。その結果、nWFAとrWFAは非常に類似した糖鎖認識特異性を示した(
図4)。両方ともに最も強いシグナルを示したのはAsialo-BSM(bovine submaxillary mucin)であった。また、予想されていたようにGalNAc末端の糖鎖(A-di,βGalNAc,di-GalNAcβ,LDN,GA2,Tn,Forssman)にも結合性を示した。さらに、asialo-AGPやasialo-TF、asialo-TG,asialo-FETなどにも結合性を示した。これらの結果から、大腸菌で発現したrWFAは天然のものと同じ糖鎖認識活性を有することが明らかとなった。
【0039】
(6−3)C末端13アミノ酸の欠失、及び272位のCys残基による糖鎖認識活性への影響
続いて、C末端の13アミノ酸の影響を調べるため、13アミノ酸を除いたrWFAを作製し、糖鎖認識活性を調べた(
図5)。13アミノ酸を除いてN末端にFLAG-tagを加えたもの(rWFA N-FLAG)、同じ設計でCys 272をAlaに改変したもの(C272A N-FLAG)、改変型でFLAG tagの位置をC末端に変更したもの(C272A C-FLAG)の3種類を大腸菌で発現させた(
図5A)。
精製したリコンビナントレクチンをSDS-PAGEで展開した結果、C末端の13アミノ酸を欠失したrWFA N-FLAGはそのほとんどが2量体を形成することができずに、2ME-の非還元条件でも単量体の分子量に泳動された(
図5B,lane6)。
また、予想通り改変型のC272A N-FLAGは単量体であり、C末端にtagを移したC272A C-FLAGも単量体での発現が確認された(
図5B,lane7 and 8)。
精製したこれら3種類の単量体リコンビナントレクチンをCy3でラベル化し、糖鎖結合活性を糖鎖タンパク質アレイで検証した。その結果、3種類ともにnWFAで見られた糖鎖認識活性の多くが消失し、LDN(GalNAcβ1,4GlcNAc)とasialo-BSMへの結合活性のみが残存した。ここで、LDNの結合活性に比較するとasialo-BSMへの結合活性は無視できる程度であるため、当該結合活性は、「LDN特異的結合活性」と表現できる。さらに、C末端の13アミノ酸が付帯した改変型C272A WFA(
図3C,lane3 and 6)も、同様のLDNとAsialo-BSMへの結合活性、すなわち「LDN特異的結合活性」を持っていた(data is not shown)。
【0040】
(6−4)C末端13アミノ酸の存在による2量体形成能及び糖鎖結合特異性への影響
プロセッシングされることが予想されるC末端13アミノ酸を削除し、N末端あるいはC末端にFLAG tagを付加したrWFAの発現を行った結果、13アミノ酸を除いたものは2量体をほとんど形成できなかった。2量体はCBB染色では検出できず、抗FLAG抗体のウエスタンブロットでかろうじて検出できた。C272Aは実施例5(
図3)で確認した際と同様に2量体は形成できなかった。これらの精製したrWFAを用いて、糖鎖結合特異性を検討した(
図6)。
【0041】
(6−5)単量体リコンビナントがLDN及びasialo-BSMのみを認識する原因の解明
LDNとasialo-BSMのみを認識したrWFAは単量体のレクチンだったため、nWFAとrWFAの糖鎖結合活性の違いが、単量体化によるものなのか、リコンビナント化によるものなのかを検証するために、実施例4で作製された還元後システイン残基がアルキル化されたnWFA単量体について、糖鎖認識活性を検討した(
図7A)。
糖タンパク質アレイで解析した結果、還元したWFA(nWFA-RCA)はnWFAともrWFAとも異なる糖鎖認識を示した。nWFA-RCAはLac,Lec,LN,Asialo-FET,Asialo-AGP,Asialo-TF,Asialo-TG,Tn,Asialo-GP,BSM,αGalに対する結合は消失あるいは大きく減少したのに対し、A-di,bGalNAc,di-GalNAcβ,LDN,GA2,Forssman,Asialo-BSMなど非還元末端がGalNAcである糖鎖に対する結合はほとんど変化が見られなかった(
図7B)。
これらの結果からnWFAは単量体ではGalNAc末端の糖鎖に、より特異的に結合できることが示された。すなわち、天然のWFAでは、2量体化されたことで、GalNAc末端の糖鎖に加えて、Gal末端の糖鎖にも結合できるようになることが示された。
【0042】
(実施例7)ヒト培養細胞でのC272A改変レクチンの作製
大腸菌以外のホストでの改変レクチンの作製を検討するため、ヒト培養細胞(HEK293T株)に、実施例(5−1)に記載されたC272A変異を有するWFAをコードする核酸を導入した。具体的には、C272A改変rWFAをコードする遺伝子をpFLAG-CMV3発現ベクター(Sigma社)に組込み、HEK293T細胞に遺伝子導入した。
遺伝子導入後、10%ウシ血清を含むDMEM培地で48時間培養した培養上清より、抗FLAG抗体カラム(Sigma社)を用いて精製した結果、改変レクチンは、およそ35KDa付近の単一バンドとして検出できたが、糖鎖による分子量の増加が観察された(
図12A)。これをCy3で標識し、糖タンパク質アレイに供した結果、大腸菌で作製した改変レクチンと同様の結合特異性(LDNとasialo-BSM)が確認された(
図12B)。
【0043】
(実施例8)ヒト培養細胞でのC272A,N146Q改変レクチンの作製
この実施例では、C272A改変rWFAに対して、唯一の糖鎖結合部位である146番目のアスパラギンをグルタミンに置換し(N146Q)、真核細胞であっても糖鎖を付与できないC272A改変レクチンのC272A,N146Q改変rWFAをコードする遺伝子を作製した。
当該C272A,N146Q改変rWFAをコードする遺伝子を、実施例7で用いたpFLAG-CMV3発現ベクター(Sigma社)に組込み、ヒト培養細胞(HEK293T株)に遺伝子導入した。
上記形質転換細胞を実施例7と同様に培養し発現誘導を行い、培養上清を回収後、同様の精製方法を適用して、精製C272A,N146Q改変レクチンを得た。
培養上清より精製した改変レクチンは、およそ33KDaの単一バンドとして検出できた(
図13A左)。これをCy3で標識し、糖タンパク質アレイに供した結果、大腸菌で作製した改変レクチンと同様の結合特異性(LDNとasialo-BSM)が確認された(
図13B上)。
糖鎖付加が起こらない大腸菌で発現させたC272A改変rWFAがLDN結合活性を有していたことから、糖鎖付加が糖鎖認識能には影響を与えないことは十分に予測されていたが、この結果によりその点が明確になった。
【0044】
(実施例9)酵母でのC272A,N146Q改変レクチンの作製
酵母(メタノール資化性酵母Ogataea minuta TK10-1-2株)に、実施例8に記載されたC272A,N146Q改変rWFAをコードする遺伝子をHisおよびFLAGタグを有するpOMEA1-10H3F発現ベクターに組込み、O.minutaTK10-1-2株を形質転換した。
上記形質転換酵母を200mlのYPD培地(2%Peptone、1%Yeast Extract、2%グルコース)にて、30℃で2日間培養を行った。遠心分離により培養上清を除いた後、菌体に200 mlのBMMY培地(2%Peptone、1%Yeast Extract、1.34%Yeast Nitrogen Base w/o amino acids、1%MeOH、100mMリン酸カリウムバッファー(pH6.0))を加えて再懸濁し、30℃でさらに2日間培養することでEndo-Omの発現誘導を行った。培養上清を回収後、TBSバッファー(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン1.24g、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩6.27g、塩化ナトリウム8.77g/L)にて透析を行なった。透析後の粗レクチン液をHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に供し、50mMのイミダゾールを含むTBSバッファーで洗浄した後、500mMイミダゾールを含むTBSバッファーでグラジエント溶出をすることによりタンパク質を溶出した。カラムから溶出されたEndo-Omを含む画分をAmicon Ultra(10,000 MWCO,Millipore社)で限外ろ過濃縮し、さらにTBSバッファーで置換し、精製C272A,N146Q改変レクチンとした。
酵母培養上清より精製した改変レクチンは、およそ34Kda付近の単一バンドとして検出できた(
図12A右)。それをCy3で標識し、糖タンパク質アレイに供した結果、大腸菌および培養細胞で作製した改変レクチンと同様の結合特異性(LDNとasialo-BSM)が確認された(
図12B下)。
【0045】
[配列フリーテキスト]
配列番号1 :wisteria floribunda lectin(g)
配列番号2 :wisteria floribunda lectin(a)
配列番号3 :Fwd-1
配列番号4 :Rev-1
配列番号5 :Adapter Primer-1
配列番号6 :Adapter Primer-2
配列番号7 :Rev-2
配列番号8 :Rev-3
配列番号9 :WFA-HisFL-Fwd
配列番号10:WFA-Rev-1
配列番号11:C272A-Fwd
配列番号12:C272A-Rev
配列番号13:WFA-FLAG-Fwd(N-FLAG)
配列番号14:WFA-Rev-2(N-FLAG)
配列番号15:WFA-Fwd-1(C-FLAG)
配列番号16:WFA-FLAG-Rev(C-FLAG)