(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反応性官能基Aは、前記第1の基板の表面に結合させたシランカップリング剤が有しており、前記反応性官能基Bは、前記第2の基板の表面に結合させたシランカップリング剤が有している、請求項1に記載の有機EL装置。
前記反応性官能基Aを有する化合物が、前記反応性官能基Aを有するシランカップリング剤であり、前記反応性官能基Bを有する化合物が、前記反応性官能基Bを有するシランカップリング剤である、請求項6又は7に記載の有機EL装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<有機EL装置>
本発明の有機EL装置は、有機EL素子が、第1の基板と、第2の基板と、封止部と、によって封止された有機EL装置であって、前記封止部が、前記第1の基板の前記第2の基板と対向する表面上の反応性官能基Aと、前記第2の基板の前記第1の基板と対向する表面上の反応性官能基Bとが結合してなることを特徴とする。
【0014】
図1は、本発明の有機EL装置の一態様の構成例を示す側断面図である。
図1に示す有機EL装置50は、有機EL素子51、第1の基板52、第2の基板53、及び封止部54を備えている。第1の基板52の表面上の反応性官能基Aと、第2の基板53の表面上の反応性官能基Bとを結合させることにより、両基板を接合し、有機EL素子51を内部に封止する封止構造を形成している。
【0015】
一般的に、封止部からの水分やガスの透過量は、封止厚みが薄いほど低く抑えられる。本発明の有機EL装置は、第1の基板表面上の反応性官能基Aと、第2の基板表面上の反応性官能基Bとを直接結合させて封止部を形成させるため、接着剤を用いて形成された従来の封止部よりも、封止厚みを非常に薄くすることができる。すなわち、封止厚みがより薄い本発明の有機EL装置は、接着剤を用いて封止部を形成する従来の有機EL装置よりも、水分やガスの透過量が非常に低く、高い封止性能が発揮される。
以下、各構成について、説明する。
【0016】
[封止部]
本発明の有機EL装置の封止部は、第1の基板上の反応性官能基Aと、第2の基板上の反応性官能基Bとを直接反応させて結合を形成してなる。当該結合は、共有結合であることが好ましい。反応性官能基A及び反応性官能基Bとしては、加熱処理や紫外線等の光照射処理によって、他の官能基と共有結合を形成可能な反応性官能基であればよく、具体的には、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリル基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、カルボキシ基、及びアルデヒド基等が挙げられる。
【0017】
反応性官能基A及び反応性官能基Bの組み合わせとしては、互いに結合を形成可能な反応性官能基の組み合わせであれば特に限定されるものではなく、第1の基板及び第2の基板として用いる基板の種類、結合を形成させるための処理方法や条件等を考慮して適宜決定することができる。本発明においては、反応性の高さから、反応性官能基A及び反応性官能基Bの組み合わせとしては、アミノ基とエポキシ基の組み合わせが好ましい。反応性官能基Aがアミノ基、反応性官能基Bがエポキシ基であってもよく、反応性官能基Aがエポキシ基、反応性官能基Bがアミノ基であってもよい。
【0018】
第1の基板及び第2の基板の表面上に反応性官能基A及びBを備える方法は、特に限定されるものではない。例えば、反応性官能基A等を有する化合物を、基板表面に結合させることによって、反応性官能基A等を表面上に備える基板が得られる。中でも、塗布法、浸漬法、蒸着法等の基板表面上に薄膜を形成させる際に通常用いられる方法によって、第1の基板の基板表面のうち少なくとも封止部を形成させる領域に、反応性官能基Aを有する化合物からなる薄膜を形成させることが好ましい。同様の方法により、第2の基板の基板表面に反応性官能基Bを備えることができる。
【0019】
反応性官能基Aを結合させた基板表面をより均質にすることができるため、基板表面に結合させる反応性官能基Aを有する化合物としては、反応性官能基Aの他に、基板表面に結合する部位を有していることが好ましく、略直鎖状であって、一方の端に反応性官能基Aがあり、他方の端に基板表面に結合する部位を有している化合物であることがより好ましい。また、基板表面に結合させる反応性官能基Aを有する化合物は、2種類以上であってもよいが、1種類であることが好ましい。同様に、基板表面に結合させる反応性官能基Bを有する化合物としては、反応性官能基Bの他に、基板表面に結合する部位を有していることが好ましく、略直鎖状であって、一方の端に反応性官能基Bがあり、他方の端に基板表面に結合する部位を有している化合物であることがより好ましい。また、基板表面に結合させる反応性官能基Bを有する化合物は、2種類以上であってもよいが、1種類であることが好ましい。
【0020】
本発明の有機EL装置における封止部は、単分子膜であることが好ましい。封止部が単分子膜である場合、有機EL装置中の全ての封止部において、理論的には同等の封止性能を有することになり、高い封止性能を安定的に発揮させることができる。例えば、略直鎖状であって、一方の端に反応性官能基Aがあり、他方の端に基板表面に結合する部位を有している化合物からなる薄膜(単分子膜)を第1の基板表面に形成し、略直鎖状であって、一方の端に反応性官能基Bがあり、他方の端に基板表面に結合する部位を有している化合物からなる薄膜(単分子膜)を第2の基板表面に形成し、第1の基板表面上の反応性官能基Aと第2の基板表面上の反応性官能基Bとを直接結合させることにより、単分子膜からなる封止部を形成させることができる。
【0021】
反応性官能基A又はBを有する化合物としては、一端に反応性官能基A又はBを有し、他端にシロキサン結合(Si−O)を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。当該シランカップリング剤の一例としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基を反応性官能基として有するもの;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基を反応性官能基として有するもの;p−スチリルトリメトキシシランなどのスチリル基を反応性官能基として有するもの;3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリル基を反応性官能基として有するもの;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリル基を反応性官能基として有するもの;N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル-N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を反応性官能基として有するもの;3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのウレイド基を反応性官能基として有するもの;3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を反応性官能基として有するもの;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド基を反応性官能基として有するもの;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を反応性官能基として有するもの;カルボキシ基を反応性官能基として有するもの、アルデヒド基を反応性官能基として有するものが挙げられる。
【0022】
反応性官能基Aを有する化合物と反応性官能基Bを有する化合物の組み合わせとしては、
一端にアミノ基を有し、他端にシロキサン結合を有するシランカップリング剤と、一端にエポキシ基を有し、他端にシロキサン結合を有するシランカップリング剤との組み合わせが好ましい。中でも、第1の基板の表面及び第2の基板の表面においてシランカップリング剤の集積密度が高くなるため、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの組み合わせがより好ましい。
【0023】
封止部の厚さ(封止厚み)は、1nm〜1000nmの範囲内に設定されていることが好ましく、1nm〜100nmの範囲内に設定されていることがより好ましく、1nm〜10nmの範囲内に設定されていることがさらに好ましい。封止厚みが上記範囲の下限値以上であれば、反応性官能基Aを有する化合物や反応性官能基Bを有する化合物を用いることにより、容易に封止部を作成することができる。封止厚みが上記の範囲の上限値以下であれば、当該封止部が、一般的に有機EL素子に要求されるガスバリア性を確保することが容易になる。
【0024】
また、封止厚みは、封止部からの水蒸気透過量が、基板からの水蒸気透過量と同程度又はそれ以下となるように、調整することもできる。
図2(a)は、有機EL素子51、第1の基板52、第2の基板53、及び封止部54を備える有機EL装置50を模式的に示した透過斜視図であり、
図2(b)はその側断面図である。
図2(a)中、「x」は有機EL装置50の横方向の長さであり、「y」は縦方向の長さを示す。すなわち、封止部54の全長(L)は[2×(x+y)]であり、有機EL装置50の基板52、53の面積(S)は[x・y]である。封止部54からの水蒸気透過量が、基板52、53からの水蒸気透過量以下となるために必要な封止厚み(Z)は、有機EL装置50の封止部54の全長(L)、基板面積(S)、封止部54の幅(w)(μm)、封止部54(100μm厚)の水蒸気透過度(a)、及び基板52、53の水蒸気透過度(b)により、下記式(p1)により規定される。
【0026】
[基板]
本発明の有機EL装置に用いられる第1の基板及び第2の基板としては、一般的に有機EL素子を封止する封止構造に用いられる基板の中から適宜選択して用いることができるが、ガスバリア性能を有する基板であることが好ましく、可撓性を有し、かつガスバリア性能を有する基板であることがより好ましい。なお、基板の形状としては、特に限定されず、適宜選択して用いることができる。
【0027】
本発明の有機EL装置においては、第1の基板及び第2の基板の少なくとも一方がガスバリア性能を有する基板であることが好ましく、第1の基板及び第2の基板の両方がガスバリア性能を有する基板であることがより好ましい。第1の基板及び第2の基板に要求されるガスバリア性としては、特に限定されるものではないが、一般には酸素透過率が10
−3cc/m
2/day以下であり、水蒸気透過率が10
−6g/m
2/day以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の有機EL装置においては、第1の基板及び第2の基板の少なくとも一方が可撓性を有する基板であることが好ましく、第1の基板及び第2の基板の両方が可撓性を有する基板であることも好ましい。第1の基板及び第2の基板の少なくとも一方が可撓性を有することにより、封止厚みを、封止する有機EL素子の厚みよりも薄くすることができる。
【0029】
可撓性を有し、かつガスバリア性能を有する基板としては、例えば、可撓性を有するフィルム(基材)に少なくとも1のガスバリア層が形成された積層フィルム(ガスバリア性フィルム)が挙げられる。一般的に樹脂製フィルムはガスバリア性が悪いことから、樹脂製フィルム上にガスバリア層が形成された積層フィルムが好適に用いられる。このような積層フィルムを基板として用いる場合、第1の基板と第2の基板が、ガスバリア層が形成された側の表面同士が対向するように、有機EL素子を挟み込んで封止部で接合させてもよく、第1の基板と第2の基板が、ガスバリア層が形成されていない側の表面同士が対向するように接合させてもよく、ガスバリア層が形成された側の表面と、ガスバリア層が形成されていない側の表面とが対向するように2枚の基板を接合してもよい。
【0030】
可撓性を有するフィルムとしては、フィルム化することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリミクロイキシレンジメチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィンを挙げることができる。これらの樹脂の中で、耐熱性及び線膨張率が高く、製造コストが低いという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートがより好ましい。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を積層又は混合することで組み合わせて使用してもよい。また、光透過性が重要視されない場合には、可撓性を有するフィルムとして、例えば上記樹脂にフィラーや添加剤を加えた複合材料を用いることも可能である。
【0031】
可撓性を有するフィルムの膜厚は、5μm〜1000μmの範囲内に設定されていることが好ましく、20μm〜500μmの範囲内に設定されていることがより好ましく、50μm〜300μmの範囲内に設定されていることがさらに好ましい。上記範囲より膜厚が厚い場合は、充分な可撓性を有さない可能性が高く、上記範囲より薄い場合は、フィルムを構成する材料にもよるが、強度面で問題が生じる可能性がある。
【0032】
可撓性を有するフィルムに形成されるガスバリア層は、ガスバリア性を有するものであれば特に限定されるものではなく、単層であっても複数層が積層されたものであってもよい。ガスバリア層の形成方法は、湿式法によるものであってもよいが、一般的にはプラズマCVD法やスパッタ法などの真空成膜法により形成されたガスバリア層が好適に用いられる。ガスバリア層を構成する材料として、好ましいものとしては、SiO
X、SiO
XN
Y、SiN
X、SiO
XC
Y(ここで、X、Yは、0〜2の整数である。)を挙げることができる。また、ガスバリア層のピンホールを埋めるために、有機層とのハイブリッドにしても良い。
【0033】
ガスバリア層の膜厚は、5nm〜3000nmの範囲内に設定されていることが好ましく、10nm〜2000nmの範囲内に設定されていることがより好ましく、100nm〜1000nmの範囲内に設定されていることがさらに好ましい。ガスバリア層の膜厚が上記の範囲の下限値以上であれば、一般的に有機EL素子に要求されるガスバリア性を確保することが容易になる。ガスバリア層の膜厚が上記範囲の上限値以下であれば、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する効果が高くなる。
【0034】
[積層フィルムC]
前記ガスバリア性フィルムは、公知のいずれのガスバリア性フィルムを用いてもよいが、本発明の有機EL装置に用いられる第1の基板及び第2の基板としては、以下に示す積層フィルムCを用いることが特に好ましい。積層フィルムCは、屈曲させても高いガスバリア性を維持可能である。このため、第1の基板と第2の基板の少なくとも一方を、好ましくは両方を積層フィルムCにすることにより、高いガスバリア性を維持しつつ、両基板を封止部において封止厚みを非常に狭くした状態で接合させることができる。つまり、積層フィルムCを基板とすることにより、非常に封止性能の高い有機EL装置を製造することができる。
【0035】
すなわち、積層フィルムCは、基材と前記基材の少なくとも片方の面に形成された少なくとも1層の薄膜層とを備え、前記薄膜層のうちの少なくとも1層が珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有し、前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離と、前記距離に位置する点の前記薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する珪素原子数の比率(珪素の原子数比)、酸素原子数の比率(酸素の原子数比)、炭素原子数の比率(炭素の原子数比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii):
(i)珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、前記薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において下記式(1)で表される条件を満たすこと、
(酸素の原子数比)>(珪素の原子数比)>(炭素の原子数比)・・・(1)
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること、
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であること、
を全て満たし、前記炭素分布曲線から求められる前記炭素の原子数比の平均値が、11at%以上21at%以下であり、前記薄膜層の平均密度が2.0g/cm
3以上である。
【0036】
また、積層フィルムCにおいては、薄膜層Hが水素原子を含有していても構わない。
【0037】
以下、図を参照しながら、積層フィルムCについて説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0038】
図3は、積層フィルムCの一例についての模式図である。積層フィルムCは、基材Fの表面に、ガスバリア性を担保する薄膜層Hが積層してなるものである。薄膜層Hは、薄膜層Hのうちの少なくとも1層が珪素、酸素及び水素を含んでおり、後述する成膜ガスの完全酸化反応によって生じるSiO
2を多く含む第1層Ha、不完全酸化反応によって生じるSiO
xC
yを多く含む第2層Hbを含み、第1層Haと第2層Hbとが交互に積層された3層構造となっている。
【0039】
ただし、図は膜組成に分布があることを模式的に示したものであり、実際には第1層Haと第2層Hbとの間は明確に界面が生じているものではなく、組成が連続的に変化している。薄膜層Hは、上記3層構造を1単位として、複数単位積層していることとしてもよい。
図3に示す積層フィルムの製造方法については後に詳述する。
【0040】
(基材)
積層フィルムCが備える基材Fは、可撓性を有し高分子材料を形成材料とするフィルムである。
基材Fの形成材料は、積層フィルムCが光透過性を有する場合、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性が高く、線膨張率が小さいという観点から、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエステル系樹脂であるPET又はPENがより好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、積層フィルムの光透過性が重要視されない場合には、基材Fとして、例えば上記樹脂にフィラーや添加剤を加えた複合材料と用いることも可能である。
【0041】
基材Fの厚みは、積層フィルムを製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても基材の搬送が容易であることから、5μm〜500μmであることが好ましい。さらに、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)を用いて積層フィルムCで採用する薄膜層Hを形成する場合には、基材Fを通して放電を行うことから、基材Fの厚みは50μm〜200μmであることがより好ましく、50μm〜100μmであることが特に好ましい。
【0042】
なお、基材Fは、形成する薄膜層との密着力を高めるために、表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0043】
(薄膜層)
積層フィルムCが備える薄膜層Hは、基材Fの少なくとも片面に形成される層であり、少なくとも1層が珪素、酸素及び炭素を含有している。また、薄膜層Hは、窒素、アルミニウムを更に含有していてもよい。なお、薄膜層Hは、基材Fの両面に形成されることとしてもよい。
【0044】
(薄膜層の密度)
積層フィルムCが備える薄膜層Hは、平均密度が2.0g/cm
3以上の高い密度となっている。なお、本明細書において薄膜層Hの「平均密度」は、後述する「(5)薄膜層の平均密度、水素原子数の比率の測定」に記載された方法により求められる密度を指す。
【0045】
薄膜層Hが2.0g/cm
3以上の密度を有していることにより、積層フィルムCは、高いガスバリア性を示す。薄膜層Hが珪素、酸素、炭素及び水素からなる場合には、薄膜層の平均密度は2.22g/cm
3未満である。
【0046】
(薄膜層内の珪素、炭素、酸素の分布)
また、積層フィルムCが備える薄膜層Hは、薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離と、該距離に位置する点の珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する珪素原子数の比率(珪素の原子数比)、酸素原子数の比率(酸素の原子数比)及び炭素原子数の比率(炭素の原子数比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、上述した条件(i)〜(iii)の全てを満たす。
【0047】
以下、まず各元素の分布曲線について説明し、次いで条件(i)〜(iii)について説明する。
【0048】
珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線、及び後述する酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定を行うことにより作成することができる。
【0049】
XPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、縦軸が元素の原子数比(単位:at%)、横軸がエッチング時間として求められる。このようなXPSデプスプロファイル測定に際しては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar
+)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、エッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO
2熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0050】
ただし、第2層に多く含まれるSiO
xC
yは、SiO
2熱酸化膜よりも速くエッチングされるため、SiO
2熱酸化膜のエッチング速度である0.05mm/secはエッチング条件の目安として用いる。すなわち、エッチング速度である0.05mm/secと、基材Fまでのエッチング時間との積は、厳密には薄膜層Hの表面から基材Fまでの距離を表さない。
【0051】
そこで、薄膜層Hの膜厚を別途測定して求め、求めた膜厚と、薄膜層Hの表面から基材Fまでのエッチング時間とから、エッチング時間に「薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離」を対応させる。
【0052】
これにより、縦軸を各元素の原子数比(単位:at%)とし、横軸を薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離(単位:nm)とする各元素の分布曲線を作成することができる。
【0053】
まず、薄膜層Hの膜厚は、FIB(Focused Ion Beam)加工して作製した薄膜層の切片の断面をTEM観察することにより求める。
【0054】
次いで、求めた膜厚と、薄膜層Hの表面から基材Fまでのエッチング時間と、から、エッチング時間に「薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離」を対応させる。
【0055】
XPSデプスプロファイル測定においては、SiO
2やSiO
xC
yを形成材料とする薄膜層Hから、高分子材料を形成材料とする基材Fにエッチング領域が移る際に、測定される炭素原子数比が急激に増加する。そこで、本発明においては、XPSデプスプロファイルの上記「炭素原子数比が急激に増加する」領域において、傾きが最大となる時間を、XPSデプスプロファイル測定における薄膜層Hと基材Fとの境界に対応するエッチング時間とする。
【0056】
XPSデプスプロファイル測定が、エッチング時間に対して離散的に行われる場合には、隣接する2点の測定時間における炭素原子数比の測定値の差が最大となる時間を抽出し、当該2点の中点を、薄膜層Hと基材Fとの境界に対応するエッチング時間とする。
【0057】
また、XPSデプスプロファイル測定が、膜厚方向に対して連続的に行われる場合には、上記「炭素原子数比が急激に増加する」領域において、エッチング時間に対する炭素原子数比のグラフの時間微分値が最大となる点を、薄膜層Hと基材Fとの境界に対応するエッチング時間とする。
【0058】
すなわち、薄膜層の切片の断面をTEM観察から求めた薄膜層の膜厚を、上記XPSデプスプロファイルにおける「薄膜層Hと基材Fとの境界に対応するエッチング時間」に対応させることで、縦軸を各元素の原子数比、横軸を薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離とする、各元素の分布曲線を作成することができる。
【0059】
薄膜層Hが備える条件(i)は、薄膜層Hが、珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、該層の膜厚の90%以上の領域において下記式(1)を満たしていることである。
(酸素の原子数比)>(珪素の原子数比)>(炭素の原子数比)・・・(1)
【0060】
薄膜層Hは、上記式(1)を、薄膜層Hの膜厚の95%以上の領域において満たすことが好ましく、薄膜層Hの膜厚の100%の領域において満たすことが特に好ましい。
【0061】
薄膜層Hにおける珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、(i)の条件を満たす場合には、得られる積層フィルムのガスバリア性が十分なものとなる。
【0062】
薄膜層Hが備える条件(ii)は、薄膜層Hは、炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することである。
【0063】
薄膜層Hにおいては、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られる積層フィルムを屈曲させた場合にガスバリア性が低下し不十分となる。
【0064】
また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0065】
なお、本明細書において「極値」とは、各元素の分布曲線において、薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離に対する元素の原子数比の極大値又は極小値のことをいう。
【0066】
また、本明細書において「極大値」とは、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に元素の原子数比の値が増加から減少に変わる点であって、且つその点の元素の原子数比の値よりも、該点から薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子数比の値が3at%以上減少する点のことをいう。
【0067】
さらに、本明細書において「極小値」とは、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に元素の原子数比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子数比の値よりも、該点から薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子数比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
【0068】
薄膜層Hが備える条件(iii)は、薄膜層Hは、炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることである。
【0069】
薄膜層Hにおいては、炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が5at%未満では、得られる積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
【0070】
(薄膜層の炭素の原子数比)
また、積層フィルムCが備える薄膜層Hは、炭素分布曲線から求められる炭素の原子数比の平均値が、11at%以上21at%以下である。
【0071】
ここで本明細書における「炭素分布曲線から求められる炭素の原子数比の平均値」は、下記の2点間の領域に含まれる、炭素の原子数比を平均した値を採用した。
【0072】
まず、積層フィルムCにおいては、薄膜層Hが、膜厚方向にSiO
2を多く含む第1層Ha、SiO
xC
yを多く含む第2層Hb、第1層Haという層構造を形成している。そのため、炭素分布曲線では膜表面近傍および基材F近傍に、第1層Haに対応する炭素原子数比の極小値を有することが予想される。
【0073】
そのため、炭素分布曲線がこのような極小値を有する場合には、上記の平均値は、炭素分布曲線において最も薄膜層の表面側(原点側)にある極小値から、炭素分布曲線において「炭素原子数比が急激に増加する」領域に移る前の極小値までの領域に含まれる、炭素の原子数比を平均した値を採用した。
【0074】
また、積層フィルムCの比較対象となる他の構成の積層フィルムでは、表面側および基材側のいずれか一方または両方に、上述のような極小値を有さないこともある。そのため、炭素分布曲線がこのような極小値を有さない場合には、薄膜層Hの表面側および基材側で、以下のようにして平均値を算出する基準点を求める。
【0075】
表面側では、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に炭素原子数比の値が減少している領域において、ある点(第1点)と、当該点から薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた点(第2点)との炭素原子数比の値の差の絶対値が5at%以下となるときの、第2点を基準点とした。
【0076】
また、基材側では、薄膜層と基材との境界を含む領域である「炭素原子数比が急激に増加する」領域の近傍であって、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に炭素原子数比の値が増加している領域において、ある点(第1点)と、当該点から薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた点(第2点)との炭素原子数比の値の差の絶対値が5at%以下となるときの、第1点を基準点とした。
【0077】
炭素の原子数比の「平均」は、炭素分布曲線の作成におけるXPSデプスプロファイル測定が、膜厚方向に対して離散的に行われる場合には、各測定値を算術平均することで求める。また、XPSデプスプロファイル測定が、膜厚方向に対して連続的に行われる場合には、平均を求める領域における炭素分布曲線の積分値を求め、当該領域の長さを一辺とし積分値に相当する面積を有する矩形の他の一辺を算出することで求める。
【0078】
薄膜層Hにおける炭素の原子数比の平均値が、11at%以上21at%以下であると、積層フィルムを屈曲させた後にも、高いガスバリア性を維持することが可能となる。この平均値は、11at%以上20at%以下が好ましく、11at%以上19.5at%以下がより好ましい。
【0079】
なお、積層フィルムが透明性を有している場合、積層フィルムの基材の屈折率と、薄膜層の屈折率と、の差が大きいと、基材と薄膜層との界面で反射、散乱が生じ、透明性が低下するおそれがある。この場合、薄膜層の炭素の原子数比を上記数値範囲内で調製し、基材と薄膜層との屈折率差を小さくすることにより、積層フィルムの透明性を改善することが可能である。
【0080】
例えば、基材としてPENを用いている場合、炭素の原子数比の平均値が11at%以上21at%以下であると、炭素の原子数比の平均値が21at%よりも大きい場合と比べて積層フィルムの光線透過率が高く、良好な透明性を有するものとなる。
【0081】
更に、積層フィルムCにおいては、炭素酸素分布曲線から求められる炭素及び酸素の原子数比の平均値が、63.7at%以上70.0at%以下であることが好ましい。
【0082】
本明細書において、「炭素及び酸素の原子数比の平均値」は、上述した「炭素の原子数比の平均値」と同様に、炭素分布曲線において最も薄膜層の表面側(原点側)にある極小値から、炭素分布曲線において基材の領域に移る前の極小値までの領域に含まれる、炭素及び酸素の原子数比を算術平均した値を採用した。
【0083】
また、積層フィルムCにおいては、珪素分布曲線において、珪素の原子数比が29at%以上38at%以下の値を示す位置が、薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域を占めることが好ましい。珪素の原子数比がこの範囲に含まれていると、得られる積層フィルムのガスバリア性が向上する傾向にある。また、珪素分布曲線において、珪素の原子数比が30at%以上36at%以下の値を示す位置が、薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域を占めることがより好ましい。
【0084】
このとき、薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離と、該距離に位置する点の珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する酸素原子及び炭素原子の合計数の比率(酸素及び炭素の原子数比)との関係をそれぞれ示す酸素炭素分布曲線において、酸素及び炭素の原子数比が62at%以上71at%以下の値を示す位置が、薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域を占めることが好ましい。
【0085】
また、積層フィルムCにおいては、炭素分布曲線が複数の極値を有し、極値の最大値と極値の最小値との差の絶対値が、15%at以上であることが好ましい。
【0086】
また、積層フィルムCにおいては、酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。酸素分布曲線が極値を有さない場合には、得られる積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
【0087】
また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0088】
また、積層フィルムCにおいては、薄膜層Hの酸素分布曲線における酸素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が下限未満では、得られる積層フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
【0089】
積層フィルムCにおいては、薄膜層Hの珪素分布曲線における珪素の原子数比について、最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られる積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0090】
また、積層フィルムCにおいては、酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子数比について、最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られる積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0091】
また、積層フィルムCにおいては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層Hを形成するという観点から、薄膜層Hが膜面方向(薄膜層Hの表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、薄膜層Hが膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層Hの膜面の任意の2箇所の測定箇所について酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0092】
さらに、積層フィルムCにおいては、炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子数比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、薄膜層Hの膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子数比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦ 0.5 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0093】
(
29Si−固体NMRピーク面積)
また、積層フィルムCが備える薄膜層Hは、少なくとも1層が珪素、酸素及び水素を含んでおり、薄膜層Hの
29Si−固体NMR測定において求められる、Q
4のピーク面積に対する、Q
1,Q
2,Q
3のピーク面積を合計した値の比が、下記条件式(I)を満たすことが好ましい。
(Q
1,Q
2,Q
3のピーク面積を合計した値)/(Q
4のピーク面積)<10 …(I)
【0094】
ここで、Q
1,Q
2,Q
3,Q
4は、薄膜層Hを構成する珪素原子を、該珪素原子に結合する酸素の性質により区別して示すものである。すなわち、Q
1,Q
2,Q
3,Q
4の各記号は、Si−O−Si結合を形成する酸素原子を、水酸基に対して「中性」酸素原子としたとき、珪素原子に結合する酸素原子が以下のようなものであることを示す。
Q
1:1つの中性酸素原子、及び3つの水酸基と結合した珪素原子
Q
2:2つの中性酸素原子、及び2つの水酸基と結合した珪素原子
Q
3:3つの中性酸素原子、及び1つの水酸基と結合した珪素原子
Q
4:4つの中性酸素原子と結合した珪素原子
【0095】
ここで、「薄膜層Hの
29Si−固体NMR」を測定する場合には、測定に用いる試験片に、基材Fが含まれていてもよい。
【0096】
固体NMRのピーク面積は、例えば、以下のように算出することができる。
まず、
29Si−固体NMR測定により得られたスペクトルをスムージング処理する。具体的には、
29Si−固体NMR測定により得られたスペクトルをフーリエ変換し、100Hz以上の高周波を取り除いた後、逆フーリエ変換することでスムージング処理を行う(ローパスフィルタ処理)。
29Si−固体NMR測定により得られたスペクトルには、ピークの信号より高い周波数のノイズが含まれているが、上記ローパスフィルタ処理によるスムージングで、これらのノイズを取り除く。
以下の説明においては、スムージング後のスペクトルを「測定スペクトル」と称する。
【0097】
次に、測定スペクトルを、Q
1,Q
2,Q
3,Q
4の各ピークに分離する。すなわち、Q
1,Q
2,Q
3,Q
4のピークが、それぞれ固有の化学シフトを中心とするガウス分布(正規分布)曲線を示すこととして仮定し、Q
1,Q
2,Q
3,Q
4を合計したモデルスペクトルが、測定スペクトルのスムージング後のものと一致するように、各ピークの高さ及び半値幅等のパラメータを最適化する。
【0098】
パラメータの最適化には、反復法を用いることにより行う。すなわち、反復法を用いて、モデルスペクトルと測定スペクトルとの偏差の2乗の合計が極小値に収束するようなパラメータを算出する。
【0099】
次に、このようにして求めるQ
1,Q
2,Q
3,Q
4のピークをそれぞれ積分することで、各ピーク面積を算出する。このようにして求めたピーク面積を用いて、上記式(I)左辺(Q
1,Q
2,Q
3のピーク面積を合計した値)/(Q
4のピーク面積)を求め、ガスバリア性の評価指標として用いる。
【0100】
積層フィルムCは、固体NMR測定により定量した薄膜層Hを構成する珪素原子のうち、半数以上がQ
4の珪素原子であると好ましい。
【0101】
Q
4の珪素原子は、珪素原子の周囲が4つの中性酸素原子に囲まれ、さらに4つの中性酸素原子は珪素原子と結合して網目構造を形成している。対して、Q
1,Q
2,Q
3の珪素原子は、1以上の水酸基と結合しているため、隣り合う珪素原子との間には共有結合が形成されない微細な空隙が存在することとなる。したがって、Q
4の珪素原子が多いほど、薄膜層Hが緻密な層となり、高いガスバリア性を実現する積層フィルムとすることができる。
【0102】
積層フィルムCにおいては、上記式(I)に示すように(Q
1,Q
2,Q
3のピーク面積を合計した値)/(Q
4のピーク面積)が10未満であると、高いガスバリア性を示すため好ましい。(Q
1,Q
2,Q
3のピーク面積を合計した値)/(Q
4のピーク面積)の値は、より好ましくは8以下であり、さらに好ましくは6以下である。
【0103】
なお、基材Fとしてシリコーン樹脂やガラスを含む材料を用いた場合には、固体NMR測定における基材中の珪素の影響を避けるために、基材Fから薄膜層Hを分離して、薄膜層H中に含まれる珪素のみの固体NMRを測定するとよい。
薄膜層Hと基材Fとを分離する方法としては、例えば、薄膜層Hを金属製のスパチュラなどで掻き落とし、固体NMR測定における試料管に採取する方法が挙げられる。また、基材のみを溶解する溶媒を用いて基材Fを除去し、残渣として残る薄膜層Hを採取しても構わない。
【0104】
積層フィルムCにおいて、薄膜層Hの膜厚は、5nm以上3000nm以下の範囲であることが好ましく、10nm以上2000nm以下の範囲であることより好ましく、100nm以上1000nm以下の範囲であることが特に好ましい。薄膜層Hの膜厚が5nm以上であることで、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が一層向上する。また、3000nm以下であることで、屈曲させた場合のガスバリア性の低下を抑制する一層高い効果が得られる。
【0105】
また、積層フィルムCは、(a)珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有し、(b)平均密度が2g/cm
3以上であり、(c)上記条件(i)〜(iii)を全て満たし、(d)炭素分布曲線から求められる炭素の原子数比の平均値が、11at%以上21at%以下である薄膜層Hを少なくとも1層備えるが、条件(a)〜(d)を全て満たす薄膜層を2層以上備えていてもよい。さらに、このような薄膜層Hを2層以上備える場合には、複数の薄膜層Hの材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このような薄膜層Hを2層以上備える場合には、このような薄膜層Hは基材Fの一方の表面上に形成されていてもよく、基材Fの両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような複数の薄膜層Hとしては、ガスバリア性を必ずしも有しない薄膜層Hを含んでいてもよい。
【0106】
また、積層フィルムCが、薄膜層Hを2層以上積層させた層を有する場合には、薄膜層Hの膜厚の合計値(薄膜層Hを積層したバリア膜の膜厚)は、100nmより大きく、3000nm以下であることが好ましい。薄膜層Hの膜厚の合計値が100nm以上であることにより、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が一層向上する。また、薄膜層Hの膜厚の合計値が3000nm以下であることで、屈曲させた場合のガスバリア性の低下を抑制する一層高い効果が得られる。そして、薄膜層Hの1層あたりの膜厚は50nmより大きいことが好ましい。
【0107】
(その他の構成)
積層フィルムCは、基材F及び薄膜層Hを備えるものであるが、必要に応じて、更にプライマーコート層、ヒートシール性樹脂層、接着剤層等を備えていてもよい。このようなプライマーコート層は、積層フィルムとの接着性を向上させることが可能な公知のプライマーコート剤を用いて形成することができる。また、このようなヒートシール性樹脂層は、適宜公知のヒートシール性樹脂を用いて形成することができる。さらに、このような接着剤層は、適宜公知の接着剤を用いて形成することができ、このような接着剤層により複数の積層フィルム同士を接着させてもよい。
積層フィルムCは、以上のような構成となっている。
【0108】
(積層フィルムの製造方法)
次いで、上述の条件(a)〜(d)を全て満たす薄膜層を有する積層フィルムの製造方法について説明する。
【0109】
図4は、積層フィルムCの製造装置の一例を示す図であり、プラズマ化学気相成長法により薄膜層を形成する装置の模式図である。なお、
図4においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0110】
図に示す製造装置10は、送り出しロール11、巻き取りロール12、搬送ロール13〜16、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18、ガス供給管19、プラズマ発生用電源20、電極21、電極22、第1成膜ロール17の内部に設置された磁場形成装置23、及び第2成膜ロール18の内部に設置された磁場形成装置24を備えている。
【0111】
製造装置10の構成要素のうち、少なくとも第1成膜ロール17、第2成膜ロール18、ガス供給管19、磁場形成装置23、磁場形成装置24は、積層フィルムを製造するときに、図示略の真空チャンバー内に配置される。この真空チャンバーは、図示略の真空ポンプに接続される。真空チャンバーの内部の圧力は、真空ポンプの動作により調整される。
【0112】
この装置を用いると、プラズマ発生用電源20を制御することにより、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間の空間に、ガス供給管19から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いて連続的な成膜プロセスでプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0113】
送り出しロール11には、成膜前の基材Fが巻き取られた状態で設置され、基材Fを長尺方向に巻き出しながら送り出しする。また、基材Fの端部側には巻取りロール12が設けられ、成膜が行われた後の基材Fを牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
【0114】
第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18は、平行に延在して対向配置されている。両ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながら基材Fを搬送する。第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18は、直径が同じものを用いることが好ましく、例えば、5cm以上100cm以下のものを用いることが好ましい。
【0115】
また、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源20に接続されている。プラズマ発生用電源20から交流電圧を印加すると、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間の空間SPに電場が形成される。プラズマ発生用電源20は、印加電力を100W〜10kWとすることができ、且つ交流の周波数を50Hz〜500kHzとすることが可能なものであると好ましい。
【0116】
磁場形成装置23及び磁場形成装置24は、空間SPに磁場を形成する部材であり、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の内部に格納されている。磁場形成装置23及び磁場形成装置24は、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18と共には回転しないように(すなわち、真空チャンバーに対する相対的な姿勢が変化しないように)固定されている。
【0117】
磁場形成装置23及び磁場形成装置24は、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の延在方向と同方向に延在する中心磁石23a,24aと、中心磁石23a,24aの周囲を囲みながら、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石23b,24bと、を有している。磁場形成装置23では、中心磁石23aと外部磁石23bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置24においても同様に、中心磁石24aと外部磁石24bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0118】
この磁力線と、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。成膜ガスの放電プラズマを生じさせる。すなわち、詳しくは後述するように、空間SPは、プラズマCVD成膜を行う成膜空間として用いられ、基材Fにおいて第1成膜ロール17、第2成膜ロール18に接しない面(成膜面)には、成膜ガスがプラズマ状態を経由して堆積した薄膜層が形成される。
【0119】
空間SPの近傍には、空間SPにプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスGを供給するガス供給管19が設けられている。ガス供給管19は、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間SPに成膜ガスGを供給する。図では、ガス供給管19から空間SPに向けて成膜ガスGを供給する様子を矢印で示している。
【0120】
原料ガスは、形成するバリア膜の材質に応じて適宜選択して使用することができる。原料ガスとしては、例えば珪素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性や得られるバリア膜のガスバリア性等の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、原料ガスとして、上述の有機ケイ素化合物の他にモノシランを含有させ、形成するバリア膜の珪素源として使用することとしてもよい。
【0121】
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
【0122】
成膜ガスには、原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを含むこととしてもよい。さらに、成膜ガスとしては、放電プラズマを発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0123】
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、空間SPの圧力が0.1Pa〜50Paであることが好ましい。気相反応を抑制する目的により、プラズマCVDを低圧プラズマCVD法とする場合、通常0.1Pa〜10Paである。また、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1kW〜10kWであることが好ましい。
【0124】
基材Fの搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1m/min〜100m/minであることが好ましく、0.5m/min〜20m/minであることがより好ましい。ライン速度が下限未満では、基材Fに熱に起因する皺の発生しやすくなる傾向にあり、他方、ライン速度が上限を超えると、形成されるバリア膜の膜厚が薄くなる傾向にある。
【0125】
以上のような製造装置10においては、以下のようにして基材Fに対し成膜が行われる。
【0126】
まず、成膜前に、基材Fから発生するアウトガスが十分に少なくなるように事前の処理を行うとよい。基材Fからのアウトガスの発生量は、基材Fを製造装置に装着し、装置内(チャンバー内)を減圧したときの圧力を用いて判断することができる。例えば、製造装置のチャンバー内の圧力が、1×10
−3Pa以下であれば、基材Fからのアウトガスの発生量が十分に少なくなっているものと判断することができる。
【0127】
基材Fからのアウトガスの発生量を少なくする方法としては、真空乾燥、加熱乾燥、及びこれらの組み合わせによる乾燥、ならびに自然乾燥による乾燥方法が挙げられる。いずれの乾燥方法であっても、ロール状に巻き取った基材Fの内部の乾燥を促進するために、乾燥中にロールの巻き替え(巻出し及び巻き取り)を繰り返し行い、基材F全体を乾燥環境下に曝すことが好ましい。
【0128】
真空乾燥は、耐圧性の真空容器に基材Fを入れ、真空ポンプのような減圧機を用いて真空容器内を排気して真空にすることにより行う。真空乾燥時の真空容器内の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましく、10Pa以下がさらに好ましい。真空容器内の排気は、減圧機を連続的に運転することで連続的に行うこととしてもよく、内圧が一定以上にならないように管理しながら、減圧機を断続的に運転することで断続的に行うこととしてもよい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0129】
加熱乾燥は、基材Fを50℃以上の環境下に曝すことにより行う。加熱温度は、50℃以上200℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がさらに好ましい。200℃を超える温度では、基材Fが変形するおそれがある。また、基材Fからオリゴマー成分が溶出し表面に析出することにより、欠陥が生じるおそれがある。乾燥時間は、加熱温度や用いる加熱手段により適宜選択することができる。
【0130】
加熱手段としては、常圧下で基材Fを50℃以上200℃以下に加熱できるものであれば、特に限られない。通常知られる装置の中では、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置や、加熱ドラムが好ましく用いられる。
【0131】
ここで、赤外線加熱装置とは、赤外線発生手段から赤外線を放射することにより対象物を加熱する装置である。
【0132】
マイクロ波加熱装置とは、マイクロ波発生手段からマイクロ波を照射することにより対象物を加熱する装置である。
【0133】
加熱ドラムとは、ドラム表面を加熱し、対象物をドラム表面に接触させることにより、接触部分から熱伝導により加熱する装置である。
【0134】
自然乾燥は、基材Fを低湿度の雰囲気中に配置し、乾燥ガス(乾燥空気、乾燥窒素)を通風させることで低湿度の雰囲気を維持することにより行う。自然乾燥を行う際には、基材Fを配置する低湿度環境にシリカゲルなどの乾燥剤を一緒に配置することが好ましい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0135】
これらの乾燥は、基材Fを製造装置に装着する前に別途行ってもよく、基材Fを製造装置に装着した後に、製造装置内で行ってもよい。
基材Fを製造装置に装着した後に乾燥させる方法としては、送り出しロールから基材Fを送り出し搬送しながら、チャンバー内を減圧することが挙げられる。また、通過させるロールがヒーターを備えるものとし、ロールを加熱することで該ロールを上述の加熱ドラムとして用いて加熱することとしてもよい。
【0136】
基材Fからのアウトガスを少なくする別の方法として、予め基材Fの表面に無機膜を成膜しておくことが挙げられる。無機膜の成膜方法としては、真空蒸着(加熱蒸着)、電子ビーム(Electron Beam、EB)蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどの物理的成膜方法が挙げられる。また、熱CVD、プラズマCVD、大気圧CVDなどの化学的堆積法により無機膜を成膜することとしてもよい。さらに、表面に無機膜を成膜した基材Fを、上述の乾燥方法による乾燥処理を施すことにより、さらにアウトガスの影響を少なくしてもよい。
【0137】
次いで、不図示の真空チャンバー内を減圧環境とし、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18に印加して空間SPに電界を生じさせる。
【0138】
この際、磁場形成装置23及び磁場形成装置24では上述した無終端のトンネル状の磁場を形成しているため、成膜ガスを導入することにより、該磁場と空間SPに放出される電子とによって、該トンネルに沿ったドーナツ状の成膜ガスの放電プラズマが形成される。この放電プラズマは、数Pa近傍の低圧力で発生可能であるため、真空チャンバー内の温度を室温近傍とすることが可能になる。
【0139】
一方、磁場形成装置23及び磁場形成装置24が形成する磁場に高密度で捉えられている電子の温度は高いので、当該電子と成膜ガスとの衝突により生じる放電プラズマが生じる。すなわち、空間SPに形成される磁場と電場により電子が空間SPに閉じ込められることにより、空間SPに高密度の放電プラズマが形成される。より詳しくは、無終端のトンネル状の磁場と重なる空間においては、高密度の(高強度の)放電プラズマが形成され、無終端のトンネル状の磁場とは重ならない空間においては低密度の(低強度の)放電プラズマが形成される。これら放電プラズマの強度は、連続的に変化するものである。
【0140】
放電プラズマが生じると、ラジカルやイオンを多く生成してプラズマ反応が進行し、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスとの反応が生じる。例えば、原料ガスである有機ケイ素化合物と、反応ガスである酸素とが反応し、有機ケイ素化合物の酸化反応が生じる。ここで、高強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが多いため反応が進行しやすく、主として有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じさせることができる。一方、低強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが少ないため反応が進行しにくく、主として有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じさせることができる。
【0141】
なお、本明細書において「有機ケイ素化合物の完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物と酸素との反応が進行し、有機ケイ素化合物が二酸化ケイ素(SiO
2)と水と二酸化炭素にまで酸化分解されることを指す。
【0142】
例えば、成膜ガスが、原料ガスであるヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:(CH
3)
6Si
2O)と、反応ガスである酸素(O
2)と、を含有する場合、「完全酸化反応」であれば下記反応式(1)に記載のような反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。
[化1]
(CH
3)
6Si
2O+12O
2→6CO
2+9H
2O+2SiO
2 …(1)
【0143】
また、本明細書において「有機ケイ素化合物の不完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物が完全酸化反応をせず、SiO
2ではなく構造中に炭素を含むSiO
xC
y(0<x<2,0<y<2)が生じる反応となることを指す。
【0144】
上述のように製造装置10では、放電プラズマが第1成膜ロール17、第2成膜ロール18の表面にドーナツ状に形成されるため、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18の表面を搬送される基材Fは、高強度の放電プラズマが形成されている空間と、低強度の放電プラズマが形成されている空間と、を交互に通過することとなる。そのため、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18の表面を通過する基材Fの表面には、完全酸化反応によって生じるSiO
2を多く含む層(
図3の第1層Ha)に、不完全酸化反応によって生じるSiO
xC
yを多く含む層(
図3の第2層Hb)が挟持されて形成される。
【0145】
これらに加えて、高温の2次電子が磁場の作用で基材Fに流れ込むのが防止され、よって、基材Fの温度を低く抑えたままで高い電力の投入が可能となり、高速成膜が達成される。膜の堆積は、主に基材Fの成膜面のみに起こり、成膜ロールは基材Fに覆われて汚れにくいために、長時間の安定成膜ができる。
【0146】
次に、薄膜層中の炭素の原子数比の平均値を制御する方法を説明する。
上述の装置を用いて形成される薄膜層について、薄膜層に含まれる炭素の原子数比の平均値を11at%以上21at%以下とするためには、例えば、以下のようにして定めた範囲で原料ガスと反応ガスとを混合した成膜ガスを用いて成膜する。
【0147】
図5は、原料ガスの量に対する、薄膜層に含まれる炭素の原子数比の平均値を示したグラフである。図のグラフでは、横軸に原料ガスの量(sccm:Standard Cubic Centimeter per Minute)、縦軸に炭素の原子数比の平均値(単位at%)を示しており、原料ガスとしてHMDSOを用い、反応ガスとして酸素を用いた場合の関係を示している。
【0148】
図5には、酸素の量を250sccmに固定した場合の、HMDSOの量に対する炭素の原子数比の平均値の関係を示すグラフ(符号O1で示す)と、酸素の量を500sccmに固定した場合の、HMDSOの量に対する炭素の原子数比の平均値の関係を示すグラフ(符号O2で示す)と、を示している。
図5のグラフは、各酸素量において、HMDSOの量を変えた3点について炭素の原子数比の平均値を測定してプロットした後、各点をスプライン曲線で曲線回帰させたものである。
【0149】
なお、酸素及びHMDSOの量以外の成膜条件は、以下の通りである。
(成膜条件)
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.5m/min
【0150】
図5(a)のグラフからは、定性的に以下のことが言える。
まず、酸素の流量が一定である場合、HMDSOの流量を増やすと、薄膜層中の炭素の原子数比の平均値は増加する。これは、酸素量に対して相対的にHMDSOの量が増えるため、HMDSOが不完全酸化をする反応条件となる結果、薄膜層中に含有される炭素量が増加するものとして説明できる。
【0151】
また、HMDSOの流量が一定である場合、酸素の流量を増やすと、薄膜層中の炭素の原子数比の平均値は減少する。これは、酸素量に対して相対的にHMDSOの量が減少するため、HMDSOが完全酸化をする反応条件に近づく結果、薄膜層中に含有される炭素量が減少するものとして説明できる。
【0152】
また、HMDSOと酸素との比が同じであっても、成膜ガスの全体量が多いと、薄膜層中の炭素の原子数比の平均値は増加する。これは、成膜ガス全体の流量が多いと、HMDSOが放電プラズマから得るエネルギーが相対的に低減するため、HMDSOが不完全酸化をする反応条件となる結果、薄膜層中に含有される炭素量が増加するものとして説明できる。
【0153】
図5(b)は、
図5(a)で示したグラフの一部拡大図であり、縦軸を11at%以上21at%以下としたグラフである。
図5(b)におけるグラフO1と下の横軸との接点X1の座標から、酸素の流量250sccmの条件下において、炭素の原子数比の平均値が11at%である場合のHMDSOの流量が、約33sccmであることが分かる。また、グラフO1と上の横軸との接点X2から、酸素の流量250sccmの条件下において、炭素の原子数比の平均値が21at%である場合のHMDSOの流量が、約55sccmであることが分かる。すなわち、酸素の流量250sccmの条件下においては、HMDSOの流量が、約33sccm〜約55sccmであれば、炭素の原子数比の平均値が11at%以上21at%以下とすることができることが分かる。
【0154】
同様に、グラフO2と上下の横軸との接点X3,X4の座標から、酸素の流量500sccmの条件下において、炭素の原子数比の平均値が11at%以上21at%以下とするためのHMDSOの流量の上限値と下限値とを読み取ることができ、それぞれ約51sccm、約95sccmであることが分かる。
【0155】
図6は、
図5の符号X1〜X4の点から求められたHMDSOの流量と酸素の流量との関係について、横軸にHMDSOの流量、縦軸に酸素の流量を示したグラフに変換した図である。
図6において、符号X1,X2,X4,X3,X1の順に線分で接続したときの線分に囲まれた領域ARは、炭素の原子数比の平均値が11at%以上21at%以下となるHMDSOの流量と酸素の流量とを示している。すなわち、
図6にプロットしたとき、領域AR内に含まれるような量にHMDSO及び酸素の流量を制御して成膜することにより、得られる薄膜層の炭素の原子数比の平均値を11at%以上21at%以下とすることができる。
【0156】
なお、上述した説明では、酸素流量250sccm及び500sccmを条件として例示したが、もちろん酸素流量が250sccmより少ない場合や、500sccmより多い場合のHMDSOの流量と酸素の流量との関係も、同様の操作を行うことにより求めることができる。
【0157】
このようにしてHMDSO及び酸素の量を制御して反応条件を定め、炭素の原子数比の平均値を11at%以上21at%以下である薄膜層を形成することが可能となる。
【0158】
なお、上述の説明では、各酸素流量に対してHMDSOの量を変えた3点についてプロットしてグラフ化したが、酸素流量に対してHMDSOの量を変えた水準が2点であっても、当該2点の炭素の原子数比の平均値がそれぞれ11at%未満であり、また21at%より大きい場合には、当該2点の結果から
図5に相当するグラフを作成してもよい。もちろん、4点以上の結果から
図5に相当するグラフを作成してもよい。
【0159】
その他、例えば成膜ガスの量を固定した上で、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18に印加する印加電圧を変化させたときの、当該電圧の変化に対する炭素の原子数比の平均値の関係を求め、上述の説明と同様に、所望の炭素の原子数比の平均値となる印加電圧を求めることとしてもよい。
【0160】
このようにして成膜条件を規定し、放電プラズマを用いたプラズマCVD法により、基材の表面に薄膜層の形成を行って、積層フィルムCを製造することができる。
【0161】
また、積層フィルムCにおいては、形成される薄膜層の平均密度が2.0g/cm
3以上である。
【0162】
薄膜層においては、不完全酸化反応によって生じるSiO
xC
yを多く含む層が、SiO
2(密度:2.22g/cm
3)の網目構造から、酸素原子を炭素原子で置換した構造を有していると考えられる。SiO
xC
yを多く含む層においては、多くの炭素原子でSiO
2の酸素原子を置換した構造であると(すなわち、薄膜層の炭素の原子数比の平均値が大きくなると)、Si−Oのsp3結合の結合長(約1.63Å)とSi−Cのsp3結合の結合長(約1.86Å)の違いから分子容積が大きくなるために薄膜層の平均密度が減少する。しかし、薄膜層の炭素の原子数比の平均値が11at%以上21at%以下である場合には、薄膜層の平均密度が2.0g/cm
3以上となる。
【0163】
[有機EL素子]
本発明の有機EL装置に用いられる有機EL素子は、少なくとも陽極、陰極、及び発光層を備える。
【0164】
陽極は、例えば、インジウム錫酸化物やインジウム亜鉛酸化物、スズ酸化物等の透光性を有する導電材料で形成される。陽極として、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。陽極の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法が挙げられる。
【0165】
本発明の有機EL装置を自発光型の表示部として利用する場合には、例えば陽極が画素電極として形成される。この画素電極は、画素又はサブ画素ごとに設けられる。画素電極は、画素電極への電力供給の有無をスイッチングするスイッチング素子と電気的に接続される。スイッチング素子は、層間絶縁膜や各種配線等を含んだ素子層に形成される。素子層は、例えば陽極と第1の基板(又は第2の基板)との間に配置される。素子層は、ガスバリア性フィルムを基板として形成されていてもよい。素子層に形成された各種配線は、スイッチング素子のオンオフの制御や画像信号の供給等を行うドライバーと電気的に接続される。
【0166】
陰極は、発光層に電子(キャリア)を供給する。陰極は、陽極よりも仕事関数が小さい(例えば5eV未満)材質で形成されている。陰極の形成材料としては、例えばカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が挙げられる。
【0167】
発光層は、蛍光と燐光の少なくとも一方を発光する発光材料を含んでいる。発光層に、例えば、発光効率の向上や発光波長を変化させる目的で、ドーパントが付加されていてもよい。発光層の形成材料は、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。発光層に含まれる発光材料としては、例えば以下のものを挙げることができる。
【0168】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーが挙げられる。
【0169】
金属錯体系の発光材料としては、中心金属として、Ir、Pt、Al、Zn、Beなどの金属、又はTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子として、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体を挙げることができる。具体的には、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体を挙げることができる。
【0170】
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、及びポリビニルカルバゾール誘導体、並びに上記色素系の発光材料や金属錯体系の発光材料を高分子化したものが挙げられる。
【0171】
青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体を挙げることができる。緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体を挙げることができる。赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体を挙げることが出来る。
【0172】
白色に発光する材料としては、上述した青色、緑色、赤色に発光する材料を混合して用いてもよい。上述した青色、緑色、赤色にそれぞれ発光する複数種類の材料の各成分を1分子内に有する材料を白色に発光する材料として用いることができる。例えば、白色に発光する材料として、各色の材料の成分をモノマーとして重合したポリマーを用いてもよい。また、互いに異なる発光色で発光する複数の層を積層することにより、白色光を発光する素子を実現してもよい。
【0173】
ドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンを挙げることができる。
【0174】
なお、発光層と陽極との間に、正孔注入層が配置されることもある。正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体が挙げられる。
【0175】
また、正孔注入層と発光層の間に、正孔輸送層が配置されることもある。正孔注入層及び正孔輸送層に代えて、正孔注入輸送層が配置されることもある。発光層と陰極との間に、電子注入層が配置されることもある。この電子注入層と発光層との間に、電子輸送層が配置されることもある。陽極と陰極との間に、電子が陽極側から負極側に移動することを防止する中間層、あるいは正孔が負極側から正極側に移動することを防止する中間層が配置されることもある。
【0176】
有機EL素子は、陽極、陰極、及び発光層を備える。発光層は、陽極と陰極との間に配置されている。第1の基板は、陽極に対して発光層の反対側に配置されている。第2の基板は、陰極に対して発光層の反対側に配置されている。
【0177】
有機EL装置において、陽極と陰極との間に電力が供給されると、発光層にキャリア(電子及び正孔)が供給され、発光層に光が生じる。有機EL装置に対する電力の供給源は、有機EL装置と同じ装置に搭載されていてもよいし、この装置の外部に設けられていてもよい。発光層から発せられた光は、有機EL装置を含んだ装置の用途等に応じて、画像の表示や形成、照明等に利用される。
【0178】
本発明の有機EL装置は、光を利用する各種の電子機器に適用可能である。本発明の有機EL装置は、例えば携帯機器等の表示部の一部でもよく、例えばプリンター等の画像形成装置の一部でもよい。本発明の有機EL装置は、例えば液晶表示パネル等の光源(バックライト)でもよく、例えば照明機器の光源でもよい。
【0179】
<有機EL装置の製造方法>
本発明の有機EL装置の製造方法は、有機EL素子が、第1の基板と第2の基板と封止部とによって封止された有機EL装置の製造方法であって、前記封止部を、前記第1の基板の前記第2の基板と対向する表面上の反応性官能基Aと、前記第2の基板の前記第1の基板と対向する表面上の反応性官能基Bとを結合させることにより形成することを特徴とする。
【0180】
第1の基板の表面上の反応性官能基Aと、第2の基板の基板表面上の反応性官能基Bとを直接反応させて結合を形成させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、反応性官能基Aと反応性官能基Bとを近接させた状態で、加熱処理や紫外線等の光照射処理等の反応性官能基の種類に応じた処理を行うことにより、反応性官能基Aと反応性官能基Bとを結合させることができる。
【0181】
本発明の有機EL装置の製造方法としては、下記工程(1)〜(3)を有することが好ましい。
(1)前記第1の基板の表面上の少なくとも前記封止部となる領域に、反応性官能基Aを有する化合物を結合させる工程と、
(2)前記第2の基板の表面上の少なくとも前記封止部となる領域に、反応性官能基Bを有する化合物を結合させる工程と、
(3)前記工程(1)及び(2)の後、前記第1の基板の表面上の前記反応性官能基Aを有する化合物を結合させた領域と、前記第2の基板の表面上の前記反応性官能基Bを有する化合物を結合させた領域とを接触させた状態で昇温し、当該反応性官能基Aと当該反応性官能基Bとを結合させることにより、封止部を形成する工程。
【0182】
工程(1)として、第1の基板の表面上の少なくとも前記封止部となる領域に、反応性官能基Aを有する化合物を結合させる。反応性官能基Aを有する化合物は、第1の基板の表面上の封止部となる領域以外の領域にも結合させてもよく、第1の基板の表面全面に結合させてもよい。反応性官能基Aを有する化合物を結合させることにより、第1の基板の表面上の封止部となる領域に、当該化合物の薄膜を形成させる。
【0183】
反応性官能基Aを有する化合物を結合させる前に、前処理として第1の基板の表面を洗浄することが好ましい。洗浄は、超音波洗浄が好ましく、超音波洗浄後に紫外光を照射することがより好ましい。
【0184】
超音波洗浄を行う際の発信周波数は、特に限定されず、20〜500kHzの範囲内で選択すればよい。超音波洗浄は、異種溶媒を用いて複数回行うことがより好ましい。超音波洗浄に用いる溶媒は、特に限定されないが、例えば、トルエンなどの有機溶媒、酸性水溶液、塩基水溶液、純水が挙げられる。
【0185】
照射する紫外光の波長は、特に限定されないが、例えば300nm以下であればよく、200nm以下が好ましい。紫外光の光源は、特に限定されないが、例えば水銀ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー及びエキシマランプが挙げられる。
【0186】
第1の基板の表面に反応性官能基Aを有する化合物を結合させる方法は、特に限定されないが、塗布法、浸漬法、蒸着法が挙げられる。基板の表面における反応性官能基Aを有する化合物の密度が高くなることから、蒸着法が好ましい。蒸着法で用いる溶媒は、特に限定されないが、有機溶媒が好ましく、特にトルエンが好ましい。
【0187】
工程(2)として、第2の基板の表面上の少なくとも前記封止部となる領域に、反応性官能基Bを有する化合物を結合させる。反応性官能基Bを有する化合物は、第2の基板の表面上の封止部となる領域以外の領域にも結合させてもよく、第2の基板の表面全面に結合させてもよい。反応性官能基Bを有する化合物を結合させることにより、第2の基板の表面上の封止部となる領域に、当該化合物の薄膜を形成させる。
【0188】
第2の基板の前処理としての洗浄処理は、第1の基板と同様にして行うことができる。また、第2の基板の表面に反応性官能基Bを有する化合物を結合させる方法は、反応性官能基Bを有する化合物を用いることを除いて、第1の基板と同様にして行うことができる。
【0189】
工程(3)の前に工程(1)と工程(2)が行われればよく、工程(1)と工程(2)は、どちらを先に行ってもよい。反応性官能基Aを有する化合物を結合させた第1の基板に、陽極、発光層、陰極を順次積層し、有機EL素子を形成する。その後、反応性官能基Bを有する化合物を結合させた表面が、第1の基板の反応性官能基Aを有する化合物を結合させた表面(すなわち、有機EL素子を形成した表面)に対向するように、第2の基板を積層する。
【0190】
最後に工程(3)として、前記第1の基板の表面上の前記反応性官能基Aを有する化合物を結合させた領域と、前記第2の基板の表面上の前記反応性官能基Bを有する化合物を結合させた領域とを接触させた状態で昇温し、当該反応性官能基Aと当該反応性官能基Bとを結合させることにより、封止部を形成する。両基板表面を接触させた状態で昇温することにより、反応性官能基Aと反応性官能基Bとを反応させて結合を形成させることができる。
【0191】
昇温温度は、基板が熱溶着しない温度であればよく、好ましくは200℃以下、より好ましくは100℃以下である。昇温の装置は、特に限定されず、例えば、ヒーター、加熱炉が挙げられる。また、前記第1の基板の表面上の前記反応性官能基Aを有する化合物を結合させた領域と、前記第2の基板の表面上の前記反応性官能基Bを有する化合物を結合させた領域とを圧着させた状態で昇温させてもよい。